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P13~25 - あいち小児保健医療総合センター
第2章 母子健康診査の基礎 第1節 母性保健 1. 妊産婦の健康診査 (1) 健康診査の目標 区 分 成人期(非妊娠期) 妊 娠 期 産 褥 期 少なくとも年1回 妊娠初期∼妊娠23週: 4週間に1回 妊娠24週∼妊娠35週: 2週間に1回 妊娠36週∼分 : 1週間に1回 産褥の初期: 入院期間中は毎日1回 産褥の後期:4週前後に1回 結婚生活及び将来の妊娠・分 が可能な健康状態 心身の発達 栄養状態体格(低身長・肥満) 月経(BBT) 乳房発育 妊娠を維持し、自然分 を遂行 できる健康状態 既応歴(心疾患・腎疾患・糖尿 病・結核・性感染症・ウイルス 性疾患の感染等) 胎児発育、乳房発育、妊娠に伴う 疾病の有無 (既往妊娠・分 歴に注意) 妊娠、分 に起因する障害の影 響、産褥期感染、貧血、妊娠高血 圧症候群の遺残ないし産褥期高 血圧子宮復古、乳汁分泌精神状 態 必 要 な 検 査 血圧、検尿(蛋白・糖) 血液型、貧血 梅毒、HIV抗体検査、風疹抗体 価、B型肝炎(HBs) 血圧、検尿(蛋白・糖) 計測(体重、身長、腹囲、子宮底高 、骨盤) 血液型、貧血、梅毒、HIV抗体 検査、風疹抗体価、B型肝炎 (HBs)等 血圧、検尿(蛋白・糖など) 体重(肥満)の計測、貧血 保 健 知 識 行 動 新婚・婚前学級などの受講状況 定期健診状況(結核など) 家族計画 たばこ、アルコール 口腔衛生 母親教室などの受講状況 妊婦健診受診状況 日常生活の状況(栄養、運動など) たばこ、アルコール 口腔衛生 妊娠の届出と母子健康手帳の交付 退院(入院)時保健指導の有無 育児状況 家族計画 たばこ、アルコール 口腔衛生 家 庭 ・ 生 活 環 境 配偶者又は婚約者の有無と健康 状態家族構成と健康状態 就業状況・経済的状況 食生活の状況 配偶者の有無と健康状態 家族構成と健康状態 就業状況・経済的状況 家族構成と健康状態 就業予定・経済的状況 そ の 他 年齢(高年・若年) 血族結婚、遺伝要因、薬剤使用、 X線被曝など 年齢(高年・若年) 血族結婚、遺伝要因、薬剤使用、 X線被曝など 育児上の問題 健 診 回 数 健 康 状 態 13 (2) 標準的な妊婦健康診査 平成 21 年 2 月 27 日 雇児母発 0227001 号 厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知 一部改正 平成 23 年 3 月 9 日 雇児母発 1309 第 1 号 期 間 妊娠初期∼23週 妊娠24週∼35週 健診回数(1回 目が8週の場合) 1・2・3・4 5・6・7・8・9・10 11・12・13・14 受診間隔 4週間に1回 2週間に1回 1週間に1回 毎回共通する 基本的な項目 医学的検査 妊娠36週∼分 まで ○健康状態の把握 妊娠月週数に応じた問診、診察等 ○検査計測 身長(1回目のみ) 子宮底長、腹囲、血圧、浮腫、尿化学検査(糖・蛋白)、体重 ○保健指導 妊娠中の食事や生活上の注意事項等、具体的な指導 精神的な健康の保持に留意し、妊娠、出産、育児に対する不安や悩みの解消を図る。 ○血液検査 初期に1回 血液型(ABO血液型・Rh 血液型・不規則抗体)、 血算、血糖、B型肝炎抗 原、C型肝炎抗体、HIV抗 体、梅毒血清反応、風疹 ウイルス抗体 ○血液検査 期間内に1回 血算、血糖 ○子宮頸がん検診(細胞診) ○B群溶血性レンサ球菌 (GBS) 期間内に1回 初期に1回 ○超音波検査 期間内に1回 ○血液検査 期間内に1回 血算 ○超音波検査 期間内に1回 ○血液検査 HTLV−1 30週頃までに1回 ○性器クラミジア 30週頃までに1回 ○超音波検査 期間内に1回 (平成23年4月現在) 14 2. 妊産婦の保健指導 (1)保健指導のポイント 妊娠前(中)期 妊 娠 後 期 産褥期(出産1か月前後) ・診察、検査結果に基づいた妊娠 経過とその指導 ・診察、検査結果に基づいた妊娠 経過とその指導 ・診察、検査結果に基づいた産褥 状態とその指導 ・母子健康手帳への記入 ・母子健康手帳への記入 ・母子健康手帳への記入 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・母性健康管理指導事項連絡カー ドの記入及び活用 ・妊娠経過にあわせての一般保健 指導 定期健診の必要性 栄養・食生活の注意 タバコと酒の害 葉酸の摂取 日常生活 性生活の注意 ・妊娠経過にあわせての一般保健 指導 ・産後の経過にあわせての一般保 健指導 食生活、日常生活、性生活 ・母親教室、パパママ教室等受講 勧奨 ・夫や家族など周囲の理解と協力 ・妊産婦体操、呼吸法の指導 ・公費負担制度の活用 ・出産準備の確認(出産医療機関、 里帰り分 、出産準備品) ・出産開始の徴候の指導、不安の 解消 ・母乳育児のすすめ ・育児担当者の確認と乳幼児健診 の紹介 ・公費負担制度の活用 15 ・母乳分泌促進のための指導(止 むを得ず人工栄養の場合は調乳 法、授乳法の指導) ・育児についての保健指導 ・家族計画指導(具体的には成書 を参考にする) (2)ハイリスク妊娠 (松山栄吉:「母子保健選書 母性編(第5巻)より」 ア) 概念 ハイリスク妊娠の定義は現在確定しているわけではないが、 その代表的な概念を述べてみると次のようになる。 「ハイリスク妊娠とは、母体、胎児、又はその両者が、分 前、分 中、 あるいは分 後28日以内に異常を生じ、又は それに伴う障害の発生する可能性のきわめて高い妊娠をいう」 (MaternityCare,1977年発行) 「母児のいずれか又は両者に重大な予後が予測される妊娠」 (日本産科婦人科学会用語問題委員会案) イ) ハイリスク妊娠の内容 <統計的因子> 1. 社会経済的低階層 2.未婚の母 3. 16歳未満の若年妊婦(社会的・心理的問題に関しては、19歳以下の 妊婦も同様) 4. 35歳以上の高年初妊婦 5. 40歳以上の高年妊婦 6. 身長短小 7. 肥満 8. 栄養失調 <既往妊娠の異常> 1. 頻産婦 2. 妊娠中期以後の不正出血 3. 早産 4. 帝王切開 5. 高位鉗子 6. 遷延分 7. 脳性麻 痺、精神発達遅延、分 損傷、 中枢神経障害、先天異常などを伴う新生児の出生 8. 不妊症、反復流産、子宮内胎児死亡、死産、新生児死亡など 9. 過期産 <既往歴> 1. 高血圧、腎疾患 2. 糖尿病 3. 心臓血管障害 4. 低酸素症又は炭酸過剰を伴う呼吸器疾患 5. 甲状腺疾患、 その他の内分泌疾患 6. 特発性血小板減少性紫斑病 7.腫瘍性疾患 8. 遺伝性疾患 9. 膠原病 10.てんかん <その他の産科学的、医学的因子> 1. 妊娠高血圧症候群 2. 尿路感染症 3. 貧血 4. Rh血液型不適合妊娠、ABO血液型不適合妊娠 5. 喫煙の習慣、 アルコール中毒 6. 薬物の常用ないし中毒 7. 多胎妊娠 8. 感染症(風疹、梅毒、結核、HIV 感染症など) 9. 手術ないし麻酔の合併 10.胎盤異常ないし子宮出血 11. 胎位異常、羊水過少、羊水過多 12.胎児発育異常、胎児奇形 13. 子宮奇形 14. 妊娠中の母体外傷 ウ) 妊娠管理面におけるハイリスク妊娠の取り扱い ハイリスク妊娠の各因子をチェックし、総合的に検討して、母体及び胎児に重大な健康問題が予測される場合は その管理が可能な施設へ紹介する。妊婦の状態によっては移送方法も考慮する必要がある。 (3)妊娠中によく発見される疾病とその指導方針 ◆妊娠高血圧症候群 ア) 名称 従来 妊娠中毒症 と称した病態は、妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension;PIH)との名称に 改められた。(日本産科婦人科学会2005年4月) イ) 定義 妊娠20週以降、分 後12週まで高血圧が見られる場合、 または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、 かつ これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいう。 16 ウ) 病型分類 妊娠高血圧腎症 (preeclampsia) 妊娠高血圧 (gestational hypertension) 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿をともなうもので分 後12週までに正常に復する場合をいう。 妊娠20週以降に初めて高血圧が発生し、分 場合をいう。 後12週までに正常に復する 加重型妊娠高血圧腎症 (superimposed preeclampsia) ⑴高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し妊娠20週以降蛋白尿 をともなう場合、⑵高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存 在し、妊娠20週以降、いずれか、または両症状が増悪する場合、⑶蛋白 尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20 週以降に高血圧が発症する場合をいう。 子癇(eclampsia) 妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次痙攣が否定さ れるもの。痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇・分 子癇・産褥 子癇とする。 エ) 症候による亜分類 軽 症 重 症 <血圧>:次のいずれかに該当する場合 収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満の場合 拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満の場合 <蛋白尿>:原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、300mg/日以上で 2g/日未満の場合 <血圧>:次のいずれかに該当する場合 収縮期血圧 160mmHg以上の場合 拡張期血圧 110mmHg以上の場合 <蛋白尿>:蛋白尿が2g/日以上の場合。 なお随時尿を用いた試験紙法による尿 蛋白の半定量は24時間蓄尿検体を用いた定量法との相関性が悪いため、尿中 蛋白の上昇度の判定は24時間尿を用いた定量によることを原則とする。随時尿 を用いた試験紙法による成績しか得られない場合は、複数回の新鮮尿検体で、 連続して3+以上(300mg/dl)の陽性と判定されるときに蛋白尿重症とみなす。 オ) 発症時期による病型分類 早発型 妊娠32週未満に発症するもの 遅発型 妊娠32週以降に発症するもの 17 ◆妊娠貧血 表 母性各期の鉄必要量 妊娠中には生理的に循環血液量が増加 (800∼1500㎖)するが、血球成分の増加に比 1日あたり平均鉄必要量(㎎) し、血漿量の増加が相対的に大かつ速であ るため水血症を呈する。 この状態は妊娠4か 0.6 乳幼児期 月頃から出現し、妊娠7∼9か月頃が最大と 1.2 成長期 なる。従ってWHOは貧 血の基 準をHb値で 1.2 成人女子 +0.8 妊娠前半期 11 g /dl未満、 Ht値33%未満としているが、 +3.0 後半期 水血症状態の経過から後半期の基準をHb +2.4 授乳期 値10.0∼10.5 g /dl程度にする学者もある。 いずれにしても妊 娠 経 過にそった血 液 性 状 の変化を考慮に入れた指導が必要である。 妊娠貧血の殆んどが鉄欠乏性貧血といわれ、妊娠、産褥期の鉄需要(上表)から考えて、妊娠前から、或い は遅くとも妊娠前半期までには、貧血の程度を把握し、十分に栄養指導し、予防していく必要がある。 ただし貧血の中には頻度は少ないが再生不良性貧血や白血病があるので、 その程度が強くまた栄養摂取 や鉄剤投与に反応しない貧血は精検を要す。 ◆糖尿と糖尿病 ・尿糖が陽性になった場合、腎臓の血糖排泄閾値低下による単純な腎性糖尿か真性糖尿かを区別する必 要があるので、妊娠中に空腹時尿糖が2回以上続く場合は、糖負荷テストを行う。(真性糖尿頻度 妊娠の 0.05∼0.5%) ・糖尿病の場合には、妊娠高血圧症候群、羊水過多症などの合併が多く、児については巨大児、奇形児の 発生、周産期死亡の発生頻度が高い上、生後数時間で低血糖を来たし無呼吸発作を起し易いので専門 医の管理が必要である。 【参考】 妊娠糖尿 妊娠後半期に糖尿をみることがある。 これを妊娠糖尿という。 これは腎糸球体濾過率(GFR)が増し、尿細管 でのブドウ糖の再吸収能が低下するためと考えられている。 妊娠糖尿病 妊娠してはじめて耐糖能異常に気づくことがある。妊娠に伴う母体の変化によって高まったインスリン抵抗性 に見合うだけの内因性のインスリン分泌が得られないことによる。治療は、糖尿病合併妊娠に準ずる。 分 後、耐糖能が戻っても、将来糖尿病を発症する可能性が高い。 ◆その他の合併症 ・結核症、気管支喘息、心臓疾患、甲状腺機能亢進症など重大合併症がある場合は各々の専門医の管理 下におき、 その指導内容を把握して援助をする。 ・悪阻の強い場合は、 その症状の客観的判断と、情緒安定への指導が必要。 体重増加が進行する場合 は専門医に紹介する。 ・静脈瘤は長時間の起立、歩行を避け、就寝時、下肢をあげるなどの指導をする。 ・痔は、便通の調整、入浴、局所の清潔、坐薬などの使用により悪化を防ぐ。 ・帯下は、妊娠中に生理的にも増加するが、 自覚症の強い場合は膣炎を疑い、検査、治療をうける。 18 (4) 妊娠時に行う検査とその考え方 ◆血液型 ア) 検査の必要性 ①妊娠・分 に伴う不慮の事故に備える。 ②血液型不適合妊娠の予測。 イ) 血液型不適合妊娠と新生児溶血性疾患の発生についての指導 ①Rh式血液型の場合 Rh陰性の場合は専門医で管理 ②ABO式血液型の場合 O型妊婦の場合は新生児期の重症黄疸についての早期発見の必要性を指導 ウ) 血液型の遺伝についての指導 ①Rh式血液型の頻度とその遺伝様式 ②ABO式血液型 〃 ◆梅毒血清反応 ア) 検査の必要性 ①梅毒の早期発見と早期治療 ②先天性梅毒児の発生予防 イ) 検査のすすめ方 図 妊婦梅毒のスクリーニング法 判 定 (−) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ STS 妊娠34週に再検 (−) BFP (−) →FTA・ABS (+) −TPHA STS定量 (+) 新しい感染 (+) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・比較的古い感染 (注)STS:serologic test for syphilis 非特異的反応である。 感染機会後早期に陽性となる。 治療効果判定に有用。 TPHA:treponema pallidum hemagglutination 特異的反応である。 感染機会後、陽性化まで時間がかかる。 治療しても陰転化しにくい。 FTA・ABS:fluorescent treponemal antibody-absorption 特異性が高い。 感染機会後比較的早く陽性化する。 BFP:biological false positive 19 ウ) 判断のめやす 表 梅毒感染の機会があった場合の検査結果と判断のめやす ◆風疹抗体価検査 ア) 検査の必要性 〇先天性風疹症候群の発生予防 検査時の注意事項 ①罹患、予防接種の既往は参考になるが、 その有無に かかわらず抗体価を測定する必要がある。 ②妊娠前に測定することが望ましい。 ( 検査は1回でよい) ③妊娠中の測定は妊娠前期で2週間隔で2回検査する。 20 イ) 抗体価判断のめやす a 表 風疹HI抗体価と判断のめやす (旧厚生省研究班による) やむをえず1回の 採血による場合 2回以上の採血による場合 感染の機会が あった場合 風疹を疑う症状 のあった場合 その他の場合 採 血 時 期 判 定 採血時期 第1回 感染機会後2週間以内 第2回 第1回の採血後2週間以降 第1回抗体価よりも第2回(以 降)の抗体価が4倍以上上昇し た場合は初感染(発症又は不顕 性)又は再感染による抗体の再 上昇(追加免疫効果)と考えら れる。再感染の場合には妊婦 でも胎児に対する影響はない と考える。 感染機会の あった後4週 間以上を経た 時期 1回の採血による場合に準じ て判断する。(b表参照) 成人女性につ いては妊娠前 の検査が望ま しい 第1回 発症後4日(第4病日)以内 第2回 第7病日以降 正確な判断のためには上記条 件による検査が望ましいが、 上記の条件にあわない場合も 抗体価の確認のため1週間以 上の間隔をおいた2回以上の 検査が望ましい 判定 風疹を疑う症 状のあった時 から2週間以 上経た時期 b 表 参 照 b 表 風疹HI抗体と判断のめやす 8倍未満 8∼128倍 256倍以上 一般的な注意事項 妊婦についての注意事項 風疹に対する免疫がない。 今後風疹に罹患するおそれがあるの女性におい ては妊娠前にワクチン接種を受けておくことが望ま しい。 なるべく風疹患者と接触しないようにつとめること。特 に妊娠第5月までは注意を要する。 風疹に対する免疫がある。 1年以上前に感染して得た免疫である可能性が 高い。 ただし8倍という抗体価を必ずしも確実に免 疫があるといえないこともありうるので、 若い女性の 場合はワクチン接種を受でけておくのもよい。 1年以上前に、多くは小児期に感染して得た免疫で ある可能性が高いが、 抗体価の確認のため、 流行期では妊娠初期1∼2か月おきに採血 して検査を行い、 感染の有無を確かめること が望ましい。 不顕性感染による抗体上昇のはじまりであ る可能性も考えられるので 8∼32倍程度の比較的低い抗体価の場 合は再感染により抗体価の上昇をみる場 合がある 1∼2週以後に再度抗体価を検査することが望ましい。 風疹に対する免疫がある。 最近の2年以内に初感染をうけたか、再感染に よって抗体価の再上昇をみた可能性がある。 最近発疹やリンパ節腫脹を伴う熱性疾患にか かっていれば、 それが風疹であった可能性が強い 最近、発疹やリンパ節の腫脹を伴う熱性疾患にか かっていれば、 それが風疹であった可能性が強い。 ただし風疹様症状が認められない場合は、感染時 期が妊娠前か妊娠後であるか性疾患にかの判定を 行うことは困難である。 そのため周囲の流行状況、 患 者との接触の有無などを参考として判断する程度の ことしかできない。 症状がなくても512倍以上の抗体価が認められた場 合はごく最近(3か月以内程度) に初感染があった可 能性が高いが、 再検査が望ましい。 21 ◆B型肝炎 ア) 検査の必要性 ①B型肝炎の早期発見 ②B型肝炎の垂直感染予防の対策 イ) B型肝炎母子感染防止対策フローチャート ※なお、 HBs抗原陽性の妊婦及び乳児については専門医による定期的な健康管理が必要である。 22 表 血中HBV関連抗原抗体の意義 図 感染形式 23 ◆HIV感染症 (Human immunodeficiency virus) ア) 概念 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によっておこる。感染から発症まで数か月から10数年の長い潜伏期がある。 なかには、 キャリアのまま発症しない例も少数みられる。 イ) 歴史 1981年アメリカで、世界で初めてのエイズが報告された。 もともとアフリカの風土病といわれているが、 その後 急速にアメリカ、欧州、南米に広がり、現在は、サハラ以南アフリカ、 アジア地域にて患者が激増している。 ウ) 病態 a 無症候性キャリア(Asymptomatic carrier:AC) まれに、感染後2∼8週間のちに、発熱・頭痛・全身 怠感などの感冒様症状がみられる。通常は、特に 症状もなくHIV感染に気づかないことが多い。 この期間は、宿主により個体差が大きく、数か月から10数年以 上に及ぶ。 本人に自覚症状はないが、 HIVを保有し、性的接触等により他の人に感染させる可能性がある。 b AIDS関連症候群(AIDS related complex:ARC) ACの後、 『 体の調子がすっきりしない』 というような表現で示される自覚症状を認めるようになる。免疫力の 低下により発熱、下痢、 リンパ節腫脹、口腔カンジダ等の症状が出現する。 この後、速やかにAIDSへ進行し ていく例と、 そのままの状況で数年以上推移する例もある。 c AIDS(Acquired immunodeficiency syndrome) 免疫細胞数が激減し、免疫不全状態となり、健常な人であれば容易に増殖を抑えることができるウイルス・ 細菌・真菌等が宿主の体内で増殖する日和見感染症や、悪性リンパ腫、 カポジ肉腫、神経障害などを発症 する。 エ) 診断 HIV抗体検査のスクリーニング法として、酵素抗体法(ELISA)、 ゼラチン粒子凝集法(PA)があり、陽性例に は、確認検査としてWestern Blot法又は蛍光抗体法(IFA)を行う。感染後、抗体が陽性になるまでに6∼8週 間を要するので、感染機会の時期の確認が重要である。最近では、抗原検査、 PCR法、 ウイルス培養などの病 原検査も行われる。上記によりHIV感染が認められ、かつ特徴的症状 (Indicator diseases、23疾患)のうち1 つ以上が明らかに認められる時はAIDSと診断する。 また、 HIV感染者が妊娠すると、約30%の確率で母子感染がおこる。経路としては、子宮内感染、産道感 染、母乳感染があげられる。 ◆HTLV-1(Human T-lymphotropic Virus Type I)感染症 ア) 病態 ヒトTリンパ向性ウイルス1型(Human T-lymphotropic Virus Type : I HTLV-1) は、 成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL) の原因ウイルスである。HTLV-1とATLの関連については、 HTLV-1キャリア (HTLV-1の 症状はないが、 ウイルスを体の中に持っている状態) が40歳以上になると、 1年間に1000人に1人の割合でATLが発 症すると推測され、 HTLV-1キャリアのATLの生涯発症率は3-5%といわれている。 その他、 HTLV-I関連脊髄障害 (HTLV-1-associated myelopathy:HAM)、HTLV-1関連関節障害(HTLV-1 associated arthropathy: HAAP) 、 HTLV-1関連気管支・肺障害(HTLV-1 associated bronchopneumonopathy:HAB) 、 HTLV-I関連 ぶどう膜炎 (HTLV-I associated uveitis:HAU)を引き起こすことがある。 HTLV-1キャリアの分布には地域性があり、 日本国内では九州、 沖縄などに多く認められる。感染経路としては、 母 乳、胎盤、産道を介して垂直感染する経路と性交、輸血、臓器移植などの水平感染する経路がある。輸血に関して は、 1986年以降、 献血者の抗HTLV-1抗体検査が実施されており、 感染の可能性はほぼ無い。 また、 ATLが発症す 24 るまでには潜伏期間が50-60年あり、成人期以降の水平感染では、ATLが発症する可能性は極めて低い。 そのた め、 ATLの発症を減少させるには、 垂直感染の主な経路である母乳を介しての感染を防ぐことが大切である。 イ) 感染の確認 2010年10月に厚生労働省より、HTLV-1抗体検査を妊婦健康診査の標準的な検査項目に追加するととも に、公費負担の対象とできるように補助単価の上限額を改定する旨の通知が出された。HTLV-1キャリアスク リーニング検査は妊娠初期から妊娠30週頃までにCLEIA法またはPA法にて行うが、いずれの方法にも非特 異反応による偽陽性が存在するため、陽性と診断された場合は必ずWestern blot法で確認する必要があ る。 ウ) 母子感染の予防 長期母乳栄養で15-20%の母子感染が生じる。母子感染を低減する方法として以下の3つが推奨されてい る。 a.人工栄養(母子感染率を約1/6、3%に減少させる) b.3か月までの短期母乳栄養(3か月以内の母乳栄養で1.9%、3-6か月の母乳哺育で約10%、6か月以上の母 乳哺育で約20%の母子感染が生じるとの報告がある) c.凍結母乳栄養(症例数が少ないが、母子感染率を3%に減少させるという報告がある) なお、妊婦が母乳感染のリスクを承知した上で母乳哺育を継続するという選択肢もある。 エ) 出生児への対応 3歳以降にHTLV-1母子感染の有無を確認する。 ◆性器クラミジア感染症 ア) 病態 性器クラミジア感染症はクラミジアトラコマチスが性行為により感染したもので, 本邦の性感染症の中で最も患者数 が多い。女性では子宮頸管炎や骨盤内感染症を、 男性では尿道炎や精巣上体炎を発症する。女性性器への初感 染部位は子宮頸管であり、 感染後1∼3週間で子宮頸管炎を発症する。時に帯下の増量を訴えるが、 約50∼70%は 無症状保菌者といわれており、 受診機会がないと感染源となり蔓延する可能性がある。 妊婦のクラミジア感染症は, 子宮頸管からの感染が拡大すると絨毛膜羊膜炎を誘発し、 子宮収縮を来すことにより 流早産や前期破水の原因となることもある。 また、 産道感染により新生児結膜炎、 咽頭炎、 肺炎などを発症させる。 イ) 診断 新生児クラミジア感染症を予防するためには、妊娠中にクラミジア子宮頸管炎のスクリーニング検査を行い、 陽性者に対して分 前に治療をしておくことが必要である。実施時期に関しては一致した見解はないが、結果 の判定に要する日数と治療期間を考慮し妊娠30週頃までに評価することが望ましいとされている。子宮頸管 へのクラミジア感染の診断は血清抗体検査のみでは不十分であり、子宮頸管の分泌物や擦過検体中のクラミ ジアトラコマチスの検出によりなされることが望ましい。検査方法には、分離同定法、核酸増幅法、核酸検出法、 EIA法があるが、核酸増幅法が高感度である。 一方、流産防止を目的とした妊娠初期のクラミジアスクリーニングの有用性については、否定的な研究結果 が報告されている。 ウ) 治療 日本性感染症学会「性感染症診断・治療・ガイドライン2006」には、妊婦に対する性器クラミジア感染症治療 薬として、 アジスロマイシンとクラリスロマイシンが投与可能と記載されている。治癒の判定には、治療3-4週間 後に核酸増幅法などにより病原体の陰転化を確認する。加えて、 クラミジア陽性妊婦のパートナーにも検査・治 療を勧めることが望ましい。 25