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平成23年度研究開発実施報告書(PDF:3527KB)

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平成23年度研究開発実施報告書(PDF:3527KB)
戦略的創造研究推進事業
(社会技術研究開発)
平成23年度研究開発実施報告書
研究開発プログラム
「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
研究開発プロジェクト
「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接
連携で実現する」
田中 優
(一般社団法人天然住宅 共同代表)
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
― 目次 ―
1.研究開発プロジェクト名
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2.研究開発実施の要約
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・ 研究開発目標
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・ 実施項目・内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
・ 主な結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
A. 森を守る仕組み ― 森と街の直接連携のために
・・・・4
B.「森と街」を直結した家づくり ― 国産木材多用住宅の性能評価 ・6
C. 「森と街」を直結した家づくりビジネスの実現に向けた仕組みづくり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
D. 2050年LCCO2カーボンニュートラル達成への排出削減シナリオの策定
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
RTの実施
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
その他(311以降の課題とその対策について)
・・・・・・・・9
3.研究開発実施の具体的内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(1)研究開発目標
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
■ 研究開発目標①:省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性
能評価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
■ 研究開発目標②:国産材の中間マージンを排し、林産地と住宅建設を直接つな
ぐ一気通貫ビジネスモデルの実証
・・・・・・・・11
■ 研究開発目標③:国産木材多用住宅事業を支援する直接金融システムの開発
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
■ 研究開発目標④:①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であ
ることの実証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
■ 研究開発目標⑤:2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(2)実施方法・実施内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
■① 省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
■② 林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルの検証
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
■③ 長寿命住宅を支える金融システムについての調査(ミニRTの活用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
■④ ①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
■⑤ 2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証 ・・・・17
■⑥ ラウンドテーブルの実施
・・・・・・・・・・・・・・・・17
(3)研究開発結果・成果
・・・・・・・・・・・・・・・・19
■① 省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
・・・・・・・・・・・・・・・・19
1
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
■対象住宅の居住環境の実測および結果の分析結果について
・・・・・・・・・・・・・・・・23
■Y邸における実測成果
・・・・・・・・・・・・・・・・25
■T邸における実測成果
・・・・・・・・・・・・・・・・29
■実測結果のまとめと今後の予定
・・・・・・・・33
■検証する内容
・・・・・・・・・・・・・・・・35
■② 林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルの検証
・・・・・・・・・・・・・・・・36
■③ 長寿命住宅を支える金融システムについての調査(ミニRTの活用)
・・・・・・・・・・・・・・・・37
■④ ①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
・・・・・・・・・・・・・・・・38
■⑤ 2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証 ・・・・42
■⑥ラウンドテーブルの実施
・・・・・・・・・・・・・・・・64
■その他(311以降の課題とその対策について)
・・・・・・・・64
(4)会議等の活動
・・・・・・・・・・・・・・・・66
4.研究開発成果の活用・展開に向けた状況
・・・・・・・・68
5.研究開発実施体制
・・・・・・・・・・・・・・・・68
(1)埼玉大学グループ
・・・・・・・・・・・・・・・・68
(2)名古屋大学グループ
・・・・・・・・・・・・・・・・68
(3)天然住宅グループ
・・・・・・・・・・・・・・・・69
6.研究開発実施者
・・・・・・・・・・・・・・・・70
7.研究開発成果の発表・発信状況、アウトリーチ活動など ・・・・・・・・75
7-1.ワークショップ等
・・・・・・・・・・・・・・・・74
7-2.社会に向けた情報発信状況、アウトリーチ活動など
・・・・75
7-3.論文発表
・・・・・・・・・・・・・・・75
7-4.口頭発表
・・・・・・・・・・・・・・・・76
7-5.新聞報道・投稿、受賞等
・・・・・・・・・・・・・・・・76
研究開発成果に基づく政策提言
・・・・・・・・・・・・・・・・77
■本プロジェクトの研究開発成果に基づく提案
・・・・77
■提案の背景
・・・・・・・・・・・・・・・・77
■提案内容
・・・・・・・・・・・・・・・・78
別紙
2
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
1.研究開発プロジェクト名
快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する
2.研究開発実施の要約
・ 研究開発目標
森を守る仕組みとしての,森と街を直結した家づくりビジネスの実現。
■研究概要
わが国の二酸化炭素排出量削減のためには、100年単位で持続できる住宅建設と、削
減の実証的研究が必要である。持続可能な森林利用や、日本人一人ひとりの最大支出で
ある住宅ローン負担の軽減のためにも,木材を利用した住宅の建設と、その長期健全性
の実証が必要である。しかし,現在わが国では,外材を用いた短命な家づくりが主流と
なっており、それに合わせた短期的な金融システムしか存在していない。そのため100
年単位の森林の計画的利用ができず、荒廃した森は二酸化炭素の貯留もできなくなって
しまっている。
この状況と戦い,減価する速度が低く,生活コストが低い住まいづくりによって,二
酸化炭素排出量の少ない住宅建設を実現し、全国各地に森から住宅に至る、一貫した生
産システムを構築し、それと同様のモデルを各地に作り上げていくことが当プロジェク
トの使命である。また,それは疲弊する日本の地方経済や雇用状況を改善することにも
つながるはずである。育林の手法や木材の生産方法の違いによる木材の性質、建て方の
違いによる室内温湿度などの違いを調査し、その性能に見合った金融などの社会システ
ムを構築する。もって森林管理者から木材加工者、居住者が共同で作る住宅の概念と必
要な基礎理論を確立する。
以上は,1990年代に行われた新しい地域・生活再生型住宅産業の試みを進化させ,林
業・金融・認証を含み,かつ伝統構法やCO2削減,エネルギー自給の視点を加味し,地
域特性を生かしつつ全国に普及するモデルを作る新たな歴史的挑戦である。
・ 実施項目・内容
当プロジェクトでは本年度,以下のような研究開発・調査を行った。
A. 森を守る仕組み ― 森と街の直接連携のために
・ 持続的な林業・林産業を広げていくためのマニュアル作りに必要となる基
礎的な調査研究
B.「森と街」を直結した家づくり ― 国産木材多用住宅の性能評価
・ 省エネ、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
・ 木材の物性調査、及び、化学成分の利活用に関する調査
C. 「森と街」を直結した家づくりビジネスの実現に向けた仕組みづくり
― 国産木材多用住宅の普及に必要となる仕組み
・ 日本における中古住宅市場創設の可能性についての調査研究
・ 林産業の資金繰りに資する仕組みの開発、及び、その実践
・ 国産材の中間マージンを排し、林産地と住宅建設を直接つなぐためのエコ
ツーリズム、及び、その実践
D. 2050年LCCO2カーボンニュートラル達成への排出削減シナリオの策定
― CO2削減シナリオ(埼玉大学グループ)
3
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
・ 2050年住宅のカーボンニュートラル実現のためのシナリオ検討およびエ
ネルギー消費量と温室効果ガス排出実態データベース整備とそのライフ
サイクル評価手法の検討
上記Aについては「第40回名古屋国際木工機械展・ウッドエコテック2011」にて、本
プロジェクトのブースを出展。Cについては金融機関の融資担当を交えてミニRTを実施。
またDについては建築学会公開WGを実施した。
また、上記A~Dを横断的に検討し、社会に広げていくためにラウンド・テーブル(以
下、RT)を実施した。
・ 主な結果
本プロジェクトは,森を守る仕組みとしての「森と街」を直結した家づくりビジネス
の実現を通して,2050年LCCO2カーボンニュートラル達成への排出削減シナリオを策
定することを目的としていることから,本年度は,上記A~Dについて, 下記のように
研究開発を実施した。
A. 森を守る仕組み ― 森と街の直接連携のために
A.1 持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
本年度は、林業・林産業の経営効率を高めるための方法に関するマニュアル作成のための
基礎的な調査研究を行った。
林業に関しては四国のNPO法人 土佐の森・救援隊(事務局長:中嶋健造)が行ってい
る自伐林業を中心に調査を行った。そこで当該林業経営では、補助金に頼らずに林業だけ
で十分な所得を得られる可能性があることがわかった(しかし、汎用性のあるモデルにな
るか否かについては今後詳細に分析する予定である)。また、林産業としては、地域材を
活用して手刻みにより木造住宅を手掛けている工務店・建築設計事務所を対象に、木造軸
組構法における木組み手法の現状調査を行った。この調査結果、地域材を活用して木造住
宅を手掛けている工務店・建築設計事務所における構法の実態を把握することができ、ま
た、天然住宅の基本モデルの生産性の高さが確認できた(3、(3)研究開発結果・成果、
■④、1)木造軸組構法における木組み手法の現状調査)。さらに栗駒木材エコラの森を
モデルとした、持続可能な林業施業計画のための調査および提案を行った。エコラの森を
対象に、森林林齢の現況や法正林になるための適切な林業施業方法などを調査した。その
上で、2110年までの林業施業計画から木材供給量を算出し、そこから全国の人工林でこの
林業施業計画を実施した場合の木材需給バランスを考察した(3、(3)研究開発結果・
成果、■④、2)2050年カーボンニュートラルに向けた林業施業計画と木材需給バランスの
提案)。今後は以上の調査を基に、持続的な林業・林産業の経営モデルをさらに精緻化し、
本プロジェクトの一気通貫モデルに投入するとともに、そのマニュアルを作成する予定で
ある。
とはいえ、天然住宅モデル以外の技術モデルの照会・内容の相違点の検討が必要であるこ
とから、「第40回名古屋国際木工機械展・ウッドエコテック2011」にて議論をするととも
に、社会的に広げるための方策を考察した(詳細は、「快適な天然素材住宅の生活と脱温
暖化を「森と街」の直接連携で実現する」シンポジウム『森林・林業の再生に向けた都市
の木質化をめざして』資料参照)。
4
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
A.2 国産材の中間マージンを排した、林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジ
ネスモデルの検証
本プロジェクトでは、これまで、一気通貫型システムのLCA分析を行う為に林業・林産
業におけるエネルギー消費量・コストについての詳細な分析(栗駒木材が製材している材
の製材1m3あたりのコスト試算と育林から製材までに排出されるCO2排出量を算出等)を
行ってきた。また,日本では国内の木材供給者の質的な競争力強化は必要であるものの、
供給サイドの改善だけでは現在存在する木材市場の需給ギャップを埋めることは難しく、
マッチを作り出すことは容易ではないことから国内に存在する木材の需要と供給をうまく
マッチに導くような仲介者の存在が必要である点を指摘し、ここに一気通貫のビジネスモ
デルの必要性を見出すことができることを示した(本プロジェクト『平成22年度報告書』、
及び、前田拓生[2011]「日本における木材の需給ギャップについての考察」『高崎経済大学
論集』第54巻第1号 1参照)。
しかし、本プロジェクトの一気通貫モデルが機能したとしても、住宅建築によって排出
される二酸化炭素を考慮しても森林の二酸化炭素吸収量(つまり、森林の二酸化炭素純吸
収量)が最大化される解経路が存在しない、または、存在するための条件が厳しすぎると
いう場合には、そもそも当該システムの構築は意義をなさないことになる。そこで木材流
通に関わる川上(人工林)から川下(都市部)に至る流域圏全体の一元的な管理システム を
考え、そのシステムが機能した時に、住宅建築によって排出される二酸化炭素を考慮して
も森林の二酸化炭素吸収量(つまり、森林の二酸化炭素純吸収量)が最大化される解経路
について動学的分析するとともに、当該モデルにおいて解経路が存在するのであれば、そ
の解経路が存在するための条件を考察した(前田拓生[2012]「林業から住宅建築までを一元
的に管理するシステムと環境保全」高崎経済大学論集第54巻第4号 2参照)。その結果、一
気通貫モデルの仲介者(当該モデルをプロデュースする者―本プロジェクトでは「天然住
宅」にあたる)は、木材流通による搾取主体を省くことが目的の存在ではなく、川上(人
工林地域)の森林管理状況を踏まえつつ、川下(都市部)に森林管理の重要性を認識させ、
森林資源を使用する対価として、住宅に使用されている木材量に応じて住宅購入者から森
林管理のために一定程度負担してもらうようなシステム(例えば、地場産木材多用住宅を
認証するとともに、住宅購入者が負担した拠出金が如何に森林の保全に役立っているかを
「見える化」する等)を構築するという役割を果たすことができれば、流域圏の自然環境
を保全しつつ、住宅建築を考慮した森林の二酸化炭素純吸収量を最大化させるという最適
な管理システムの動学的な解経路は存在することがわかった(3、(3)研究開発結果・
成果、■② 林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルの検証)。
以上のように林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルにより、流域圏の
自然環境を保全しつつ、住宅建築を考慮した森林の二酸化炭素純吸収量を最大化させるこ
とができる。とはいえ、現状の分析では仲介者を含むステークホルダー全体についての相
互関係等についての分析自体は行っていないことから、今後はステークホルダー全体につ
いての分析を進めていく予定である。
1
2
http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/ronsyuu/ronsyuukeisai/54_1/maeda.pdf
http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/ronsyuu/ronsyuukeisai/54_4/maeda.pdf
5
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
B.「森と街」を直結した家づくり ― 国産木材多用住宅の性能評価
B.1国産木材多用住宅の素材(木材)に関する性能評価
本年度は、独自に開発した超低温乾燥機により乾燥させた木材を使用して曲げ試験及び破
壊実験を実施した。この実験データを解析した結果、乾燥方法の違いによる木材強度の点
では有意な違いは認められないものの、粘り度(荷重-たわみ曲線の比例限度以降のたわ
み)においては低温乾燥材と高温乾燥材に有意な差が認められた。この結果は、木材の粘
り度を利用して住宅建材を接合する「木組み」等を行う場合に有利に働くと考えられる。
木組みは、金具等によって接合した場合に比べて、(木材と金属の温度変化に対する違い
から生じる)結露等による腐食等の影響が少ないことが考えられることから、住宅強度を
向上させる可能性が高まる。したがって、住宅強度を考えた場合、木組みで行うことが多
い伝統構法を選択することが合理的であり、しかもこの場合、粘り度の高い低温で乾燥さ
せた木材の使用が、高温乾燥材よりも適していると考えられる(3、(3)研究開発結果・
成果、■①、1)乾燥国産スギ材の化学成分評価)。
そこで今後は、高温・低温乾燥材で伝統的接合部の強度試験を実施し、住宅の構造上重要
な性能評価を行う。加えて、100~200年の古材の性能についても考察する予定である。な
お、本年度までのスギ材強度評価に関する研究は「短期荷重(数秒から数分の荷重期間)
での挙動について」であった。すなわち、地震や台風などの短期の事象に対する抵抗性能
であると考えることができる。その一方で、居住空間としての性能を考えた場合、数年あ
るいは数十年の長期間での挙動についても評価を行わなければならないだろう。したがっ
て今後は、長期間の荷重を負荷した際の木材の力学性能について検討する。
他方、一般に「木材腐朽菌は含水率20~25%以下であれば繁殖しない」と言われている
が、居住中の構造材の含水率はこれまで測定されたことがなかった。単なる情緒的な国産
材利用論から脱却し、長寿命の木材住宅の性能を立証していくには、居住時の含水率測定
は極めて重要である。本研究では居住中の構造材の含水率の他、省エネ性能確認のため、
昨年度から継続している、省エネ自然素材住宅EV(東京都文京区)2戸を対象に、木造住
宅部分とRC住宅部分の実測を行い、居住環境について詳しく分析を行う。同様に戸建住宅
Y邸(東京都目黒区)およびT邸(埼玉県所沢市)についても居住環境について実測、分析
を行う。これらの実測結果を踏まえて住宅の居住環境シミュレーションを行い、居住環境
が最良もしくはエネルギー消費量が最小となるような設計仕様を検討する(3、(3)研
究開発結果・成果、■①、3)居住環境の実測および結果の分析)。
これまでの実測により、壁体内の湿度、木材の含水率などが把握でき、良好な状態が保て
ていることが明らかになっているが、今後、これらの実測の継続に加え、表面温度の詳細
な実測と分析を通じ、室内における木材多用が居住者に与える影響についても考察を加え
る。なお、K木材に設置されている、本プロジェクトが開発した木質ペレットを熱源とした
木材乾燥炉の性能評価についても行い、林業、林産業から排出される端材や間伐材等の自
然エネルギーを用いて省CO2かつ効率的な木材乾燥が可能か検証を行う。乾燥炉建屋の温熱
環境および乾燥木材の含水率等を実測し、同時に木質ペレットの消費量を把握することで、
現状の把握と最適な運転スケジュールの策定を行い、改良を行う(3、(3)研究開発結
果・成果、■⑤、1)住宅建設・解体までを含めた一気通貫型木材流通システムのLCA分
析)。
6
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
B.2
木材の化学成分の利活用に関する調査
本年度は、予備検討として乾燥方法による化学成分(セルロース、ヘミセルロース、リグ
ニン)の含有量変化について調査した。その結果、乾燥温度が高くなるとヘミセルロース
およびセルロースの一部が分解し、強度低下を招く恐れがあることが判明した。
この結果を踏まえ、今後は大型低温乾燥機を用い、低温乾燥の優位性を再確認する。また、
乾燥方法により、抽出成分の質および量が変化することが予想される。低温から高温まで
乾燥方法を変化させた木材の抽出成分を、有機溶媒および水蒸気蒸留により抽出* 3し、その
量および成分を解析する。
加えて、本年度、乾燥に向けて一旦スギ柱材が浸け込まれた水(以下、浸漬後水)および
対照として浸け込み前の水(以下、浸漬前水)について、その中に溶け出したスギ材由来
化学成分、特にリグナンに着目した予備的な化学分析(ガスクロマトグラフィ質量分析装
置による)を行った。その結果、浸漬後水中にジヒドロデヒドロジコニフェリルアルコー
ル、ラリシレジノール、ピノレジノールといった3種類のリグナン(配糖体)が検出された
(浸漬前水中には検出されず)。
しかしながら、この検討は小スケール(200 mlの水試料)にて行われたため、まだ定量
性が十分とは言えない段階にあるため、今後は以下の実験項目を計画する(3、(3)研
究開発結果・成果、■①、2)木材の化学成分の利活用に関する分析)。
・ 本年度と同一の水試料を用いて、再度、同スケールでのリグナン分析を行う(:再
現性の確認)。
・ 本年度と同一の水試料を用いて、スケールを上げた一連の実験を行う(:定量性の
改善)。浸け込むまでの履歴や浸け込みの条件を変化させ、これら履歴・条件とリ
グナン収量との関連を調査する。
C. 「森と街」を直結した家づくりビジネスの実現に向けた仕組みづくり
― 国産木材多用住宅の普及に必要となる仕組み
C.1 長寿命住宅に資する住宅金融についての研究開発
本年度は、昨年度に引き続き海外の中古住宅流通市場動向(特に米国市場)を調査し、日
本における中古住宅市場の問題点を整理するとともに、不動産関係の研究者や金融機関等
のステークホルダーを交えてミニ・ラウンドテーブルを開催した。その結果、住宅金融支
援機構におけるフラット35の住宅評価基準に準拠していると「金融的な手当て」という意
味で有効に機能する可能性が高いことがわかった。とはいえ、フラット35の住宅評価基準
は、あくまでも「現時点」の基準であり、将来においては何ら担保されないことから、天
然住宅認証では「次世代基準」に準拠できるように項目を検討している。なお今後は次世
代基準にも準拠した、実践的なシステムとして耐え得る認証制度を、実際に創設し、創設
した結果生じる問題について対処していく予定である。
C.2
持続可能な林業・林産業に資する金融的支援システムの実践
本プロジェクトではこれまで、独自の住宅認証および住宅のメンテナンス体制に係る仕組
*3 水蒸気蒸留法とは、木材に水蒸気を当て、その水蒸気とともに芳香性の物質を抽出する方法であり、
木材のにおい成分を調査するのに有効な手段である。
7
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
みを構築するとともに、非営利の市民金融、「NPOバンク(天然住宅バンク:理事長、
田中優)」を活用し、つなぎ融資 4や省エネ・自然エネルギーに対する融資だけでなく、中
古住宅の買取や、将来的には非営利の仕組みを利用した住宅ローンの仕組みまで射程に入
れた、トータル的なシステム構築に向け研究を続けてきた。
他方で、林業・林産業に関しても、労働生産性の問題の他、金融的な問題も存在している
ため、この点に関しても市民金融として支援する仕組みを研究した。その結果、復興支援
のための融資の他、天然住宅バンクでは「ペレットはがき商品券」というものを作り、ペ
レット製造側(林産業者)に前受で資金が入る仕組みを構築し、実施した。現状(平成24
年3月末現在)、233枚(売上総額:352,700円)であるものの、ペレット消費者(住宅購入
者)にとっても在庫を保管するスペースがいらないし、また、購入の際も宅急便等で送ら
れてくる便利さがあることから、利用者からは好評であり、今後の発展が見込まれる。
また天然住宅バンクでは、天然住宅と共同で森と街を直接つなぐために「皮むき間伐ツア
ー」を企画し、住宅購入予定者を含む一般の人々(街の人々)に実際に皮むき間伐をして
もらうなど、「住宅版のエコツーリズム」を実践している。このツアーによって、その後、
4組が天然住宅を実際に建築している。
今後も非営利の市民金融(または、それを母体とする派生的な活動)の可能性を研究開発
していく予定である。
D. 2050年LCCO2カーボンニュートラル達成への排出削減シナリオの策定
本年度は、2030年のCO2排出削減シナリオ分析について試算を行い、また、平行して日本
建築学会地球環境委員会内において2050年までにLCCO2でカーボンニュートラルを実現す
るための住宅開発シナリオ検討WGを設置し関連研究者を交えた討論を行っており、また、
住宅のCO2排出削減について既往のロードマップ(例、環境省の膨大な資料)を参考に建築
学会独自設定案を構築する作業を行っており、さらにそれを参考に当PJの木造住宅に限っ
たCO2排出削減シナリオ設定作業を進めた。
今後は、これまでの研究に引き続き、一気通貫型住宅生産システムにより建設された、国
産木材多用型住宅(以下、木材多用型住宅)のLCA評価・検証を行う。その際、比較対象
を一般的な木造住宅、高気密・高断熱住宅、RC住宅など多用な住宅を設定し、木材多用型
住宅のLCAに関する比較検討を行う。また、生活時におけるバイオマスエネルギー利用な
ども考慮する。
なお、これまでに収集した住宅のLCA分析、林業・林産業のLCA分析の結果を元に、「林
家」「林産事業者」「工務店・設計事務所」「住宅購買者」等の相互関係をエネルギー消
費量、CO2排出量の観点からモデル化し、社会システムとして捉えた場合の改善対策(社会
技術)の効果を定量化する。このモデルの挙動を現す変数として住宅の快適性や木材使用
量など、実測結果およびアンケート調査から得られた各変数を投入して感度分析を行い、
どのような社会技術が一気通貫型住宅生産システムにおいて影響度が大きいかを把握する
(3、(3)研究開発結果・成果、■⑤、2)住宅エネルギー消費量とCO2排出現況DB作
4
住宅融資の決定を銀行等から受けていても、当該住宅が完成するまで(一部しか)融資が実行されない
ことがある。この場合、住宅購入者が、当該銀行等からの融資とは別に住宅建築当初から完成までの間、
短期間とはいえ、資金を準備しないといけない。この期間の融資を一般に「つなぎ融資」という。
8
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
成(推計結果)及び 3)住宅2050カーボンニュートラル達成シナリオ)。
RTの実施
上記A~Dを横断的に検討し、社会に広げていくためにラウンド・テーブル(以下、RT)
を実施した。
しかし、現状、本プロジェクトは研究開発段階であるため、全体間よりもパーツ毎にこ
だわった発表になってしまい、「一気通貫」について、うまく伝えきれなかった。今後はこ
の点を反省し、本プロジェクトの成果(主に「一気通貫ビジネスモデル」)をわかりやすく
説明した冊子を作成し、関心のある関係者だけでなく、いろいろなイベント、フォーラム、
会合等を利用して、本プロジェクト・メンバーが各地に出かけて行ってミニRTを開催する
とともに、一気通貫ビジネスモデルに関係する省庁や関係団体にも、当該冊子を持って説明
に行き、支援や協力体制を引き出す。加えて、建築学会等のWSを有効に活用して、同じ問
題意識を持っている研究者へもアピールする。そして他方で、関心はあるがまだ踏み切れて
いない工務店や林業者などに対して、定期的に養成のための講座を開く。これによって次世
代の一気通貫モデルの担い手を養成する。
このような活動を通じて仲間になった業者、関係省庁、研究者などが一同に会し、本プ
ロジェクトの考えている一気通貫モデルを広げるための大RTを行う予定である。
その他(311以降の課題とその対策について)
福島第一原子力発電所の事故によって放射性物質が広範囲に拡散した。しかも、林業・林
産業が盛んな東北地域の山林に放射性物質が多く飛来したことから、(風評被害も加わり)
地域産資源を活用する産業に及ぼす悪影響は甚大である。
本プロジェクトではこれまで、超低温乾燥処理された地域産スギ材の品質(含水率、強度
性能(ヤング率))を現場で安価に検査するシステムを開発してきた。今後、これらの検
査技術を現場に移転するとともに、その第一の対策として消費者への明確な情報提供が必
要であることから、出荷される製材の全てについて測定日と放射線量を明記するシステム
を検討する。加えて、長寿命住宅の信頼性を確保する(中古住宅市場,部材のリユースシ
ステムを作ることに対して信用を得る)ために、これらの情報を材料の1本1本に付与(埋
め込み)し,データの永久管理システムを立ち上げる予定である。なお本データは、天然
住宅および今後その理念に賛同し、同様の取り組みを実施する他企業間で相互利用できる
ものにしていくつもりである。
9
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
3.研究開発実施の具体的内容
(1)研究開発目標
地球温暖化・気候変動対策においては、国産材による木質多用住宅の市場規模を大幅に
拡大させつつ、昭和30年代の7年間約5000万m3程度(現政権目標シェア50%)の出荷量を
再現し、それにともなって発生するバイオマスの経済的な利用を推進する必要がある。そ
のためには、これまでのサプライサイドからのモデルではなく、デマンドサイドからのビ
ジネスモデルの構築が必要であり、さらにそれを保証する金融の仕組みを確立していく必
要がある。資産としての住宅の価値を大幅に高めるような長期優良低炭素住宅の技術的実
現が必要である。そこで本研究開発では、以下の①~⑤を行う。
②
③
④
⑤
⑥
省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
国産材の中間マージンを排し、
林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモ
デルの実証
国産木材多用住宅事業を支援する直接金融システムの開発
以上に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証
■ 研究開発目標①:省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
①については、合板・集成材・接着剤・金物を多用した「高気密・高断熱住宅」の研究
がなされているが、高気密住宅は室内空気汚染の弊害もあり、単純に推奨されるべきもの
ではない。
今求められているのは国産材と自然素材を使用した「天然住宅」の性能評価である。
木材乾燥の主流は100~120℃の高温乾燥で、多くは内部割れによる強度低下が問題視さ
れている。本PJでは木材本来の良い特性を活かす、自然乾燥の一つのカテゴリーとしての
超低温乾燥炉を開発し、クリープや曲げ試験など一般的性能を確認するとともに、100~200
年の古材の性能と比較したり、高温・低温乾燥材で伝統的継手を作り、破壊試験で確認す
るなど、既存にない実用的な性能評価を試みる。また、木材腐朽菌は含水率20~25%以下
であれば繁殖しないと言われているが、居住中の構造材の含水率はこれまで測定されたこ
とがなかった。単なる情緒的な国産材利用論から脱却し、長寿命の木材住宅の認証を立証
していくには、居住時の含水率測定は極めて重要である。本研究では居住中の構造材の含
水率の他、省エネ性能確認のため、壁内、室内外の温湿度の2年間の測定を行う。
上記において超低温乾燥炉については、天然住宅が埼玉大学グループとともに独自に開
発・建造し、当該乾燥機で超低温にて木材を乾燥させる(当該木材を以下「低温乾燥材」
という)。
ここで名古屋大学グループでは、国産木材の普及阻害要因の一つである「国産木材の物
性が不明で使いにくい」という問題に対して、特に、本プロジェクトで低炭素化・部材の
長寿命化の観点から開発を目指している「低温乾燥材」について、下記の項目に取り組む。
イ)
その物性を明確にすること
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ロ)
ハ)
仕上がり材の含水率を測定し、乾燥法開発へのフィードバックとすること
力学物性、化学物性の両観点から、低温乾燥法の優位性を確認すること
上記イ)~ハ)に加えて、
ニ)
乾燥前および乾燥中に木材から放出された水分の中から、木材由来の化学成分を抽
出し、未利用バイオマスとしての新たな利用法を探ること
さらに、埼玉大学グループ(特に早稲田大学)では、天然住宅及びアンビエックスで設
計、建築した省エネ自然素材の集合住宅K(東京都文京区)2戸とY邸(東京都目黒区)と戸
建住宅1戸(東京都内を検討中)を対象に、木造住宅部分とRC住宅部分の詳細な実測を行
い、居住環境について詳しく分析を行う。
■ 研究開発目標②:国産材の中間マージンを排し、林産地と住宅建設を直接つなぐ一気
通貫ビジネスモデルの実証
②については、外材の生産方法にトレーサビリティーがないために、海外での森林破壊
や生物種の減少などを招いている。林業生産によって得られた利益は林産地に還元され、
各地域でのカーボンニュートラルに資するべきである。
一方で現在考えられている林業再生モデルは、合理化を基底に中間マージンを排した林
業モデルが考えられているが、カーボンニュートラルの前提となる地域の持続性、森林・
林産地への還元を軽視し、林業だけを短期的に自立させる考え方であり、育林コストを入
れた場合には成立し得ない。林業を事業として独立させておくのではなく、住宅関連の木
質利用事業体が林業をも取り込んで一体化し、全体として利益を出すものでなければなら
ないと考えている。これこそが、天然住宅での「一気通貫」の思想である。
上記に対して天然住宅グループでは下記の項目に取り組む。
イ) 栗駒山産材の生産費用を実地調査するとともに、経済学的なモデルを構築するとと
もに、その分析を行い、日本の林産業における問題点の解明に努める。
ロ) 製材に関する労務管理について実地調査を行い、生産性向上に必要となるデータを
収集し、合理化に向けてのマニュアルを作成する。
■ 研究開発目標③:国産木材多用住宅事業を支援する直接金融システムの開発
③については、現在の短期投資を中心とする経済システムでは、長期的な利益に対応さ
せることは困難である。投資は極めて短期の収益を求めるものとなり、サブプライム問題
に始まった世界的な不況が現在まで継続されているように、カジノ経済化してしまってい
る。一方で森林の植生が回復するのにスギで約50年かかり、しかも建材利用の場合の歩留
まりは最大でも50%と見積もられている。つまりスギを利用した場合でも、その植生を回復
して持続可能な利用とするためには100年間の資源利用がなされないと不可能になってし
まう。この短期投資と資源の長期利用との間には大きなギャップが存在する。
既存の金融機関ではこのようなギャップに対応することは困難であることから、本木質
多用住宅事業を支援する直接金融システムの開発を目論むこととした。そもそも金融手法
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は、支出と果実の間に時間的ギャップが存在するときに有効な手法である。もし100年使用
が可能な住宅に対して100年のローンを実現したとすれば、そのローン額は現状の賃貸住宅
の支払額よりずっと少なくなる。しかもその場合の所有権はローン負担者に移行する。
また、廃棄しなければならない時期までの十分な残存期間があり、その住宅が健康に対
する優位性などで交換価値を失わない場合、住宅は中古住宅となっても十分な交換価値を
有する。本研究ではこうした長寿命で交換価値が減価しない住宅をめざしている。そのた
めには単に建築者だけでなく、居住者への住まい方の情報提供や、契約・査定(住宅認証)
が必要となる。これを実現すれば、現在の既存住宅がわずか20年で資産としての価値を失
うのと比べ、中古住宅として売却した場合に経済的な価値を得られる可能性がある。
そこで非営利の市民金融、「NPOバンク」を適用したい。NPOバンクとは、主に環
境や福祉などの市民事業に融資する非営利金融機関の総称である。既存の金融機関が相手
にしないNPOや社会的事業者に融資している。出資者は無配当の組合員で、融資対象も
組合員に限られる。金利は単利・固定の2%程度で、市民が自分たちの生活する環境や社
会に参加する新しい手段として活用されている。本研究では建築時の不足分に対する融資、
省エネ・自然エネルギーに対する融資だけでなく、中古住宅の買取や、将来的には非営利
の仕組みを利用した住宅ローンの仕組みまで射程に入れて開発を進めたい。ただし資金提
供者集め、また林業や市民活動に対する理解等、拡大するためには乗り越えなければなら
ないハードルは多い。人々に趣旨を理解してもらう努力が欠かせない。
上記に対して天然住宅グループ及び埼玉大学グループでは下記の項目に取り組む
イ) 国産材を使った長寿命住宅が社会に広がっていくために必要となる認証制度、及び、
中古住宅流通市場を具体的に創設させる。
ロ) そのために必要となる海外事例の調査を行い、わが国に取り入れるための方策を研
究するとともに、具体的な設計を行う。
■ 研究開発目標④:①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であること
の実証
④については、「森林酪農」のような方法で下草刈りを回避する仕組みを、現在、アミ
タ株式会社と共同で開発中である。これまでに、岩手や島根等でも山地酪農は実施されて
いるが、いずれも酪農側の目的で行われており、林業の視点に欠けたものとなっている。
さらに、人工林が多く占める現在の山を、混交林にしていくことにより、いずれは下草
刈りが不要になるとともに、保水能力の向上、地崩れの減少、景観の改善を図ることが可
能となる。
あまり手をかけない放置に近い林を作ることが喫緊の課題である。広葉樹との混交割合
をうまく制御し、上がり框、カウンター、洗面台、キッチン、扉等、室内の大部分に広葉
樹を配合する。へりつきだと、「等外」としてはねられるが、強度上全く問題がないこと
は証明されており、くん煙乾燥すれば十分に防虫も可能である。山と建築現場を結びつけ、
歩留まりをあげていきたいと目論んでいる。
しかし現状では、建築業・林業とも最も保守的業種の集合体であり、改革・改善に対す
る意欲は高くない。それを天然住宅の「一気通貫」により、建築と林業が合体して創意工
夫し、新規ビジネスを生み出すことで改革の障壁を取り除いていきたい。
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■ 研究開発目標⑤:2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証
⑤については、本研究により天然住宅のLCA、温熱環境調査を行い、それによって従
前の住宅性能との比較を行うとともに2050年時点でのカーボンニュートラル実現の提案を
行う。従前との比較のため、2007年度(間に合えば2008年度)の住宅エネルギー消費量と
CO2排出量をエネルギー種類別、エネルギー用途別、世帯属性別、世帯人員別、戸建て・集
合別、都道府県別に推計する。2050年までの排出動向影響要素について整理し、定量的に
扱う主要要素を選定、その各種対策の可能性について検討する。それぞれの影響要素につ
いてシナリオ設定して2050年の排出量を推計する。基礎要素として県別人口と地域別の世
帯規模構成、世帯属性構成、建て方別・住宅床面積規模構成の動向を5年毎の国勢調査をも
とに検討する。照明電力、家電機器使用時間に影響する生活時間についてはNHK生活時間
調査などを用いて検討する。家電機器の保有状況については消費実態調査などを用いて検
討する。住宅の熱性能、断熱水準については建て方別、地域別に設定する。都市ガスの普
及状況については市区町村別普及率から普及地域とそれ以外の地域に分けてエネルギー種
類構成の想定を行う。暖冷房、厨房、給湯の手法とエネルギー種類、機器効率(COP)、
照明の手法構成と効率については各種技術ロードマップなども参考に総合して独自の技術
動向を想定する。
これらを総合してシナリオ設定し最大限に削減した場合の2050年の排出量を求める。建
設時、改修時、廃棄時のLCAについては別途、既往のLCA事例と産業連関表原単位から建
て方別、構法別、事例想定別に基礎条件を設定して評価し、運用時排出と合成してLCAを
行う。
上記に関して埼玉大学グループ(特に埼玉大学)では、住宅のエネルギー消費量と住宅
からの温室効果ガス排出量を詳細に推計し、同時に育林から製材、住宅の建設、運用、改
修、廃棄の全過程を一気通貫に評価するLCCO2評価手法を新たに開発する。また別途開発
中の生活者1人当ライフサイクル評価手法HLCE( human life cycle emission)を応用した
総合評価についても手法と応用可能性を検討する。
また、天然住宅グループの各チームの研究開発により得られたデータを、埼玉大学グル
ープに集約し、LCCO2評価で2050年カーボンニュートラルを達成できる住宅と生活を実現
させるシナリオ構築のための検討を行う。
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(2)実施方法・実施内容
上記の研究目標を踏まえ,本年度,本プロジェクトでは以下の項目を実施した。
■① 省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
1)乾燥国産スギ材の性能評価(長期)による建築材料としての可能性の検討
前年度までのスギ材の性能評価(短期)に関する研究は、短期荷重(数秒から数分の荷
重期間)での挙動についてであった。すなわち、地震や台風などの短期の事象に対する抵
抗性能であると考えることができる。その一方で、居住空間としての性能を考えた場合、
数年あるいは数十年の長期間での挙動についても同時に評価を行わなければならないだろ
う。ここでは、各種木材乾燥法(高温乾燥、中温乾燥、低温乾燥、および燻煙乾燥)によ
り、木材の長期荷重性能に違いがあるかどうか、引いては、低温乾燥材に優位性があるか
どうか、調べることを目的としている。
【実施内容】
実験は寒冷地である宮城県栗原市で実施することにした。専用の実験棟を建設した。ま
た、長期間の負荷を行う架台を製作(土台工事も含む)した。実験棟内の様子、および架
台の設置状況を図3.2.1に示す。(図中には既に試験体はセットしてある。)
図3.2.1 実験棟内の様子
各種木材乾燥法で得られた実大梁材の3等分点4点曲げ法によるクリープ試験(一定の
荷重を長期間負荷する試験)を開始した。試験体寸法は120mm(幅)×210mm(梁せい)
×4000mm(長さ)とした。各乾燥法ごとに3体(合計12体)用意したが、乾燥法ごとに材
質の偏りがないように配慮した。すなわち、縦振動法による動的ヤング率(材料の変形し
にくさを表す指標)を予め計測し、材質のバラツキが均等になるようにした。荷重レベル
は曲げ強さの15%程度とした。曲げたわみ、水分の吸脱着による寸法変化量、および含水
率等の計測を続けている(平成24年3月下旬に計測開始)。
なお、本実験に関しては得られたデータを来年度以降に解析・評価することになる(し
たがって、本実験に関しての研究開発結果・成果は来年度以降に報告を行う)。
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2)乾燥国産スギ材の化学成分評価
乾燥方法により、セルロース等の含量がどのように変化するのかを調査した。なお、試
験体は平成22年度に曲げ試験を行ったサンプル(高温乾燥、中温乾燥、低温乾燥、くん煙
乾燥:各3サンプル)を用いた。
【実験方法】
セルロース、ヘミセルロース、リグニンの定量方法は常法に従った 5。
3)木材の化学成分の利活用に関する分析
【実験操作】
スギ材浸漬前の水「:前」および浸漬後の水「:後」それぞれ200 mlについて、酢酸エ
チル抽出(50 ml × 3回)を行い、本抽出液を濃縮乾固して①酢酸エチル抽出物(浸漬前:1.0
mg, 浸漬後:1.4 mg)を得た。また、水層部を濃縮乾固して水抽出物(同前:24.3 mg、同後:
25.5 mg)を得た。
次いで、水抽出物の一部(前および後それぞれ1 mg)を1 mlの酢酸緩衝液(pH 7.5)に懸濁さ
せ、これにβ-グルコシダーゼ溶液(0.5 U/µl活性濃度) 20µlを加え、酵素加水分解(10U、36℃、
21時間)を行った。分解反応液について酢酸エチル抽出(3 ml × 4回)を行い、本抽出液を濃縮
乾固して酵素分解物(浸漬前:0.2 mg、浸漬後:0.3 mg)を得た。この画分についてガスクロ
マトグラフィ質量分析を行い、リグナンが検出されるかどうかに注目した。
4)居住環境の実測および結果の分析
一昨年度、昨年度に引き続き対象住宅の居住環境の実測および結果の分析を行った。さ
らに、Y邸とは仕様が異なる板倉造の戸建住宅T邸(埼玉県所沢市)を実測対象住宅に追加
した。T邸の実測計画の立案および実測機器の選定を新たに行い、T邸新築工事と並行して
これらの取り付けを行った。T邸は2011年9月に竣工し、実測については12月より開始した。
さらに、各々の住宅の実測結果を踏まえて住宅の居住環境シミュレーションをコンピュー
タ上で行い、居住環境の向上やエネルギー使用量の改善の観点から最適な木材の使用量や
使用方法などについて検討を行った。
5)超低温乾燥炉のシステムの実測
今年度は栗駒木材の超低温乾燥炉のシステムを大幅に変更した。この乾燥方式は従前と
異なり主として床暖房による輻射熱により木材乾燥を行っており、さらなる省エネルギー
が期待されるため、やはり実測調査により乾燥システムとエネルギー消費量の検証を行う。
実測計画の立案及び実測機器の移動・設置が完了し、来年度より乾燥炉の運転と実測デー
タの取得および分析を行う予定である。
■② 林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルの検証
本プロジェクトでは、これまで、一気通貫型システムの必要性について考察を行ってき
たが、この一気通貫型システムが機能したとしても、住宅建築によって排出される二酸化
炭素を考慮しても森林の二酸化炭素吸収量(つまり、森林の二酸化炭素純吸収量)が最大
5
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化される解経路が存在しない、または、存在するための条件が厳しすぎるという場合には、
そもそも当該システムの構築は意義をなさないことになる。
そこで本年度、木材流通に関わる川上(人工林)から川下(都市部)に至る流域圏全体
の一元的な管理システムを考え、そのシステムが機能した時に、住宅建築によって排出さ
れる二酸化炭素を考慮しても森林の二酸化炭素吸収量(つまり、森林の二酸化炭素純吸収
量)が最大化される解経路について動学的分析するとともに、当該モデルにおいて解経路
が存在するのであれば、その解経路が存在するための条件を考察した(詳細は前田[2012]
「林業から住宅建築までを一元的に管理するシステムと環境保全」『高崎経済大学論集』
第54巻第4号参照)
■③ 長寿命住宅を支える金融システムについての調査(ミニRTの活用)
長寿命の住宅が社会的インフラとして存在するためには中古住宅市場が機能することが
欠かせない 6。そこで本年度は、昨年度に引き続き、海外の中古住宅流通市場動向(特に米
国市場)を調査し、日本における中古住宅市場の問題点を整理した(前田拓生[2011]「日本
の既存住宅市場における問題点とその活性化に資する制度・インフラについての考察」『高
崎経済大学論集』第54巻第2号参照)。その結果、中古住宅市場が機能するのは、①建築三
法により基準通りに住宅を建てられていること、②住宅地の住人がお互いに住宅の価値を
引き下げるような行為をしないようなシステム(例えば、地域的なつながりを利用したと
相互監視システム等を活用など)が存在していること、③不動産鑑定評価により基準に従
って住宅の価値付けがなされていることに加え、住宅は年収の何倍にもなる多額な商品で
あることから、当然、金融的なバックアップが必要であることがわかった。とはいえ、金
融システムはその国独自に発展してきたものであり、一朝一夕には変わらない。
そこで本プロジェクトでは、不動産関係の研究者・実務家の他、金融機関を交えてミニ
RTを開催した。
■④ ①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
1)持続可能な林業施業計画のための調査および提案
持続可能な林業に関しては、四国のNPO法人 土佐の森・救援隊(事務局長:中嶋健造)
が行っている自伐林業を中心に調査を行った。そこで当該林業経営では、補助金に頼らず
に林業だけで十分な所得を得られる可能性があることがわかった(現状、可能性が高いこ
とがわかっただけであり、精緻な分析開発については来年度以降に行う)。また、林産業
としては、地域材を活用して手刻みにより木造住宅を手掛けている工務店・建築設計事務
所を対象に、木造軸組構法における木組み手法の現状調査を行った。
栗駒木材エコラの森をモデルとした、持続可能な林業施業計画のための調査および提案
を行った。エコラの森を対象に、森林林齢の現況や法正林になるための適切な林業施業方
法などを調査した。その上で、2110年までの林業施業計画から木材供給量を算出し、そこ
から全国の人工林でこの林業施業計画を実施した場合の木材需給バランスを考察した。
2)持続可能な林業・林産業に資する金融的支援システムの実践
6
中古住宅市場が機能しなければ、機能的に長寿命であっても、その保有者が処分したくても売却ができ
ないため、確実に資金化が可能な「更地」状態にして土地のみを売却することを望むことからスクラップ
アンドビルドされてしまい、経済的にも、環境的にも大きな問題となる
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本年度、本プロジェクトでは市民金融として林業・林産業を具体的に支援するため、復
興支援のための融資の他、天然住宅バンクでは「ペレットはがき商品券」により、ペレッ
ト製造側(林産業者)に前受で資金が入る仕組みを構築し、実施した。また天然住宅バン
クでは、天然住宅と共同で森と街を直接つなぐために「皮むき間伐ツアー」を企画し、住
宅購入予定者を含む一般の人々(街の人々)に実際に皮むき間伐をしてもらうなど、「住
宅版のエコツーリズム」を実践し、成果を出している。
■⑤ 2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証
1)林業・林産業におけるエネルギー消費量・コストについての調査
昨年度、一気通貫型木材流通システムのLCA分析を行う為に、林業・林産業におけるエ
ネルギー消費量・コストについての詳細な調査を行なった。今年度は本グループにおいて
栗駒木材が所有する森林と栗駒木材の製材所を対象に林業・林産業にかかるコストやエネ
ルギー消費量を基に、住宅生産から解体までを含めた一気通貫型住宅生産システムのLCA
分析を実施した。本グループの天然住宅にヒアリング調査を行い、木材多用型住宅の住宅
生産から解体までに排出されるCO2排出量を算出した。
2)住宅エネルギー消費量とCO2排出現況データベース(DB)作成(推計作業概要)
今年度は次の推計を行った。
a)
b)
c)
d)
e)
f)
2008年度・都道府県別・エネルギー種類別エネルギー消費量、CO2排出量
2008年度・市町村別・エネルギー種類別エネルギー消費量、CO2排出量
2005・2009年度平均・都道府県政令市別・世帯累計別および世帯人員規模別・エ
ネルギー用途別・世帯平均エネルギー消費量、CO2排出量(家計調査base)の改訂
再推計
2005・2009年度平均・都道府県別・住宅種類別・世帯平均エネルギー消費量、CO2
排出量(消費実態調査base)
2008年度・市町村別・世帯類型別・エネルギー種類別・エネルギー消費量、CO2
排出量
1980年度-2010年度の全国・エネルギー種類別・エネルギー用途別・住宅エネルギ
ー消費量、CO2排出量(経年動向分析)
推計結果は「2)住宅エネルギー消費量とCO2排出現況DB作成」に後述。
■⑥ラウンドテーブルの実施
上記①~⑤を横断的に検討し、社会に広げていくためにラウンド・テーブル(以下、RT)
を実施した。
しかし、現状、本プロジェクトは研究開発段階であるため、全体間よりもパーツ毎にこ
だわった発表になってしまい、「一気通貫」について、うまく伝えきれなかった。今後は
この点を反省し、本プロジェクトの成果(主に「一気通貫ビジネスモデル」)をわかりや
すく説明した冊子を作成し、関心のある関係者だけでなく、いろいろなイベント、フォー
ラム、会合等を利用して、本プロジェクト・メンバーが各地に出かけて行ってミニRTを
開催するとともに、一気通貫ビジネスモデルに関係する省庁や関係団体にも、当該冊子を
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持って説明に行き、支援や協力体制を引き出す。加えて、建築学会等のWSを有効に活用
して、同じ問題意識を持っている研究者へもアピールする。そして他方で、関心はあるが
まだ踏み切れていない工務店や林業者などに対して、定期的に養成のための講座を開く。
これによって次世代の一気通貫モデルの担い手を養成する。
このような活動を通じて仲間になった業者、関係省庁、研究者などが一同に会し、本プ
ロジェクトの考えている一気通貫モデルを広げるための大RTを行う予定である。
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(3)研究開発結果・成果
(2)のような実施方法、実施内の結果、下記の通り、①~⑤の成果を得た。
■① 省エネルギー、長寿命の新しい天然素材住宅の開発とその性能評価
1)乾燥国産スギ材の化学成分評価
乾燥方法により、セルロース 7、ヘミセルロース 8、リグニン 9含量がどのように変化する
のかを調査した。なお、試験体はH22年度に曲げ試験を行ったサンプル(高温乾燥、中温乾
燥、低温乾燥、くん煙乾燥:各3サンプル)を用いた。
【実験方法】
セルロース、ヘミセルロース、リグニンの定量方法は常法に従った10。
【結果】
各成分の定量結果を以下に示す。
表3.3.1. 各試料におけるホロセルロース、α-セルロース、ヘミセルロース、リグニンの
含量(%)
低温
中温
高温
くん煙
ホロセルロース
81.6
84.4
76.3
82.6
α-セルロース
51.9
53.3
46.5
52.8
7
ヘミセルロース
29.7
32.8
29.8
29.8
クラーソンリグニン
33.5
32.6
33.1
33.1
セルロースはグルコースがβ-1,4 結合した直鎖状多糖である。木材を鉄筋コンクリートに例えると鉄筋
に相当する。
8 ヘミセルロースは熱水やシュウ酸アンモニウムなどによって抽出されず、アルカリ水溶液によって溶出
する多糖の総称である。木材を鉄筋コンクリートに例えると、鉄筋とセメントをつなげる役割の針金に相
当する。
9 リグニンはフェニルプロパン単位のモノマーがランダムに重合した不定形のポリマーである。木材を鉄
筋コンクリートに例えると、セメントに相当する。
10 Browning, BL (1967) Methods of wood chemistry. Interscience, New York
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図3.3.1.各試料における多糖類の含量の違い



高温乾燥によりホロセルロース量およびα-セルロース量が減少した。このことより、
高温処理によって多糖類の分解が起きることが明らかとなった。高温乾燥を行っても、
ヘミセルロースの量は減少しなかった。
セルロースよりもヘミセルロースのほうが分解しやすいことを考慮すると、高温乾燥
により、①ヘミセルロースの一部が分解する。②α-セルロースの一部も分解し、その
分解生成物がヘミセルロース画分としてカウントされ、結果的にヘミセルロース量は
他の乾燥品と同等になったと考えられる。
リグニン量は乾燥によって変化しなかった。
以上のことより、乾燥温度が高いと多糖の分解が起き、強度にも影響を及ぼす可能性が示
唆された。
20
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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【コラム(補足説明)】
図3.3.2.木材細胞壁の模式図
2)木材の化学成分の利活用に関する分析木材の化学成分の利活用に関する分析
【実験操作】
スギ材浸漬前の水「:前」および浸漬後の水「:後」それぞれ200 mlについて、酢酸エ
チル抽出(50 ml × 3回)を行い、本抽出液を濃縮乾固して①酢酸エチル抽出物(浸漬前:1.0
mg, 浸漬後:1.4 mg)を得た。また、水層部を濃縮乾固して水抽出物(同前:24.3 mg、同後:
25.5 mg)を得た。
次いで、水抽出物の一部(前および後それぞれ1 mg)を1 mlの酢酸緩衝液(pH 7.5)に懸濁させ、
これにβ-グルコシダーゼ溶液(0.5 U/µl活性濃度) 20 µlを加え、酵素加水分解(10U、36℃、
21時間)を行った。分解反応液について酢酸エチル抽出(3 ml × 4回)を行い、本抽出液を濃縮
乾固して酵素分解物(浸漬前:0.2 mg、浸漬後:0.3 mg)を得た。この画分についてガスクロ
マトグラフィ質量分析を行い、リグナンが検出されるかどうかに注目した。
21
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化合物2
=LR
化合物1
=DDDC
化合物3
=PIN
図3.3.3 浸漬後水酵素加水分解物
図3.3.4 浸漬前水酵素加水分解物
7.5
(x1,000)
73
1.50
(x1,000)
73
5.0
486
103
1.25
486
1.00
0.75
2.5
103
0.0
207
0.50
281
207
221 267
100
200
456
355
300
400
179
576
504 546
500
600
0.25
133
0.00
100
図3.3.5 DDDC標準化合物
2.5
209
1.0
103
277
179
5.0
100
400
500
600
200
300
455
385 430
506
400
500
図3.3.7 LR標準化合物
(x1,000)
73
179
0.5
576
343
223
103
486
324
247
0.5
0.0
300
図3.3.6 化合物1
1.5
223
2.0
1.0
200
576
598
546
456
(x1,000)
73
(x1,000)
73
1.5
325
221
281
235 282 324
486
343 399 455
131
584
600
0.0
576
561
500
250
図3.3.8 化合物2
(x1,000)
73
223
223
2.5
4.0
2.0
3.0
502
1.0
0.0
209
1.5
209
2.0
1.0
96 131 179
149
100
200
282
341
415
300
400
487
459
500
0.5
563
600
0.0
図3.3.9 PIN標準化合物
502
179
81 131
252
151
100
357
200
300
487
429 471
400
500
図3.3.10 化合物3
22
583
600
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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【結果】
我々のこれまでの研究によれば、スギ材中のリグナンは配糖体(グルコース=ブドウ糖と
の結合体)として存在する。通常、ガスクロマトグラフィ質量分析により配糖体を検出する
ことは極めて困難である。そこで、本実験では前処理として酵素分解により配糖体からグ
ルコースを切り離すことを試みた。グルコースが除かれたリグナンそのものはガスクロマ
トグラフィ質量分析可能である。
酵素加水分解物のガスクロマトグラムを図3.3.3(浸漬後)および図3.3.4(浸漬前)に
示す。標準化合物との保持時間およびマス解裂様式(図3.3.5~3.3.10)の比較の結果、浸漬
後試料においてジヒドロデヒドロジコニフェリルアルコール(DDDC)、ラリシレジノール
(LR)、ピノレジノール(PIN)といった3種類のリグナン(リグナンとは化学構造規則に基づい
た総称のことである)が検出された。対照となる浸漬前試料の分析ではリグナンは検出され
ず(図3.3.4)、したがって上で検出されたリグナンは浸け込み水に溶け出したスギ材由来の
化合物である。
【今後の検討事項】

昨年度と同一の水試料を用いて、再度、同スケールでリグナン分析を行う(:再現性の
確認)。

昨年度と同一の水試料を用いて、スケールを上げた一連の実験を行う(:定量性の改
善)。

浸け込むまでの履歴や浸け込みの条件を変化させ、これら履歴・条件とリグナン収量
との関連を調査する。
3)居住環境の実測および結果の分析
2010年度、2011年度に引き続き天然住宅仕様で建設した住宅の居住環境の実測および結
果の分析を行った。さらに、これまで実測していたY邸とは仕様が異なる板倉造の戸建住宅
T邸(埼玉県所沢市)を実測対象住宅に追加した。T邸の実測計画の立案および実測機器の
選定を新たに行い、T邸新築工事と並行してこれらの取り付けを行った。T邸は2011年9月
に竣工し、実測については12月より開始している。さらに、各々の住宅の実測結果を踏ま
えて住宅の居住環境シミュレーションをコンピュータ上で行い、居住環境の向上やエネル
ギー使用量の改善の観点から最適な木材の使用量や使用方法などについて検討を行った。
■対象住宅の居住環境の実測および結果の分析結果について
昨年度に引き続き、対象住宅の居住環境の実測および実測結果の分析を行った。各住宅
概要および実測項目は表3.3.2の通りである。
23
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表 3.3.2
住宅名
Y邸
対象
-
所在地
東京都目黒区
夫婦、祖母、
子供2人
家族構成
各住宅の概要および実測項目
T邸
集合住宅K
205号室
502号室
東京都文京区
事務所利用
夫婦、子供2人
埼玉県所沢市
夫婦、子供
3人
写真
構造
ペレット
ストーブ
延床面積
木造(筋交)
木造
RC造
木造(板倉)
×
○
×
×
99.37m2
74.85m2
79.44m2
119.14m2
階数
2階+ロフト
2階(2F、3F)
1階(5F)
2階
エネルギー消費量
室内の快適性
実測項目
(通年を通した)
壁内温湿度
木材含水率
エネルギー消費量
室内の快適性
室内の快適性
室内の快適性
窓周辺環境
窓周辺環境
窓周辺環境
壁内温湿度
木材含水率
屋外環境
現状
壁内温湿度
木材含水率
屋外環境
•無人状態
•機器の設置が完了
•機器設置は完了
•データ収集の自動化予定
•データ収録が不安定
24
•多機能分電盤が未設置
•データ集録が不安定
屋外環境
•機器の設置が完了
•データ収集の自動化予定
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■Y邸における実測成果
2010年12月より実測が開始している目黒区Y邸について成果を報告する。表3.3.3にY
邸の概要と実測項目を、図3.3.13に各実測機器の設置位置を示す。1階の洋室と主寝室、
2階のリビングに温湿度計とグローブ温度計を設置した。室内温湿度とグローブ温度の
測定間隔は10分とした。また壁の断熱性能と温度・湿度分布と、木材の含水率の変化、
熱流量の変化を把握する為に、壁内に温湿度計と熱流センサ、木材含水率計を洋室の壁
内に設置した。さらに多機能分電盤を設置し、分岐毎の電力消費量と水消費量、ガス消
費量の把握を行った。これらの測定間隔は10~30分とした。
表 3.3.3
Y 邸概要と実測項目
所在地
東京都目黒区
延床面積
家族構成
99m2
夫婦、子供2人、祖母1人 計5人
実測期間
2010/12/29~
実測箇所
洋室、主寝室、リビング
実測項目
温湿度(各室)
グローブ温度(各室)
壁内温湿度(洋室壁内)
壁面熱流量 (洋室壁内)
屋外気象 (バルコニー)
間柱表面の木材含水率(洋室1壁内)
電力消費量(住居全体、電気分岐毎28ch)
ガス消費量(住居全体、1パルス/0.1m3)
水消費量(分岐毎、1パルス/10L)
測定間隔
温湿度 10分
グローブ温度 10分
壁内温湿度 10分
壁内温湿度 30分
壁面熱流量 10分
屋外気象 10分
間柱表面の木材含水率 10分
電力消費量 10分(データ集録は1時間)
ガス消費量 10分(データ集録は1時間)
水消費量 10分(データ集録は1時間)
25
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リ ビング
図
Y邸2 F平面
凡例
測定項目
温湿度
グローブ温度
洋室
主寝室
壁内温湿度
木材含水率
熱流量
屋外気象
図
Y邸1F平面
図3.3.13 Y邸実測機器設置箇所
26
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図3.3.14に夏期の実測結果である2011年7月17日における温熱環境実測の結果を示
す。天気は晴れで外気温度は26.0~34.0℃を推移している。
室温は各居室共に25℃以上を保ち続けており、湿度変化も外気程大きくは無かった。
また多機能分電盤からのデータから洋室は冷房による室内空調管理を行っていること
から、洋室の室温は9:00以降常に26℃の安定し推移している。それ以外の居室では冷房
を使用していなかった事が把握出来ており、日射の影響を受けやすいリビング以外は概
ね安定している。
洋室・室温
リビング・室温
主寝室・室温
外気温
洋室・相対湿度
リビング・相対湿度
主寝室・相対湿度
外気・相対湿度
40
90
80
35
70
30
室温(℃)
50
40
25
30
20
20
10
15
0
0:00
2:00
4:00
6:00
8:00
10:00
図3.3.14
12:00
14:00
16:00
7月17日の温湿度変化
27
18:00
20:00
22:00
相対湿度(RH%)
60
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これは、洋室以外では空調制御を行っておらず、窓開放による自然換気が行われてい
たことから、室温変動が、外気温変動と似た変動を示したということが考えられる。
また外壁の断熱性能や壁内の温度分布を明らかにするため壁内温湿度変動を明らか
にした。図3.3.15に2011年7月17日における壁内温度分布を図示する。点線部分は実測
ではなく推定となる部分である。
図3.3.15
7月17日 12:00
28
壁内温湿度変化
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■T邸における実測成果
2011年9月より実測が開始している埼玉県所沢市T邸について成果を報告する。表
3.3.4にT邸の概要と実測項目を、図3.3.16に各実測機器の設置位置を示す。1階の洋室
と主寝室、2階のリビングに温湿度計とグローブ温度計を設置した。室内温湿度とグロ
ーブ温度の測定間隔は10分とした。また壁の断熱性能と温度・湿度分布と、木材の含水
率の変化、熱流量の変化を把握する為に、壁内に温湿度計と熱流センサ、木材含水率計
を洋室の壁内に設置した。これらの測定間隔は10~30分とした。また今後屋外気象計
測装置を設置予定である。
表 3.3.4
所在地
T 邸概要と実測項目
東京都目黒区
家族構成
119m2
夫婦、子供1人、 計3人
実測期間
2011/9/13~
実測箇所
洋室、主寝室、リビング、ホール
実測項目
温湿度(各室)
グローブ温度(各室)
壁内温湿度(洋室壁内)
壁面熱流量 (洋室壁内)
間柱表面の木材含水率(洋室1壁内)
測定間隔
温湿度 10分
グローブ温度 10分
壁内温湿度 10分
壁内温湿度 30分
壁面熱流量 10分
間柱表面の木材含水率 10分
延床面積
29
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凡例
測定項目
温湿度
ホール
洋室2
グローブ温度
洋室1
壁内温湿度
木材含水率
バルコ ニー
図
T邸2 F平面
熱流量
表面温度
屋外気象
キッ チン
治療院
リ ビング
N
図 T邸1F平面
0
5m
図3.3.16
T邸実測機器設置箇所
30
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図3.3.17に12月18日~1月14日の温熱環境実測の結果を示す。
室温は各居室共に14℃以上を維持しており、湿度変化も外気程大きくは変化していない。
またリビングにおいて室温が他居室よりも高い室温を示しているが、これは住民へのヒア
リングからリビングでは床暖房と電気ヒータを用いていることが判明しており、これらが
原因と推測される。
外気温
主寝室
ホール
洋室
リビング
キッチン
25
20
気温 (℃)
15
10
5
0
-5
12/18
12/20
12/22
12/24
12/26
12/28
図 3.3.17
12/30
1/1
1/3
1/5
1/7
12/18~1/14 気温変化図
31
1/9
1/11
1/13
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通気層 (室温)
断熱材外 (室温)
断熱材中 (室温)
通気層内 (室温)
PB (室温)
通気層 (湿度)
断熱材外 (湿度)
断熱材中 (湿度)
通気層内 (湿度)
PB (湿度)
20
60
15
50
10
40
5
30
0
20
0:00
4:00
8:00
12:00
16:00
20:00
0:00
-5
10
-10
0
図3.3.18
1月12日 1階壁内温湿度変化図
32
相対湿度 RH (%)
気温 (℃)
また、外壁の断熱性能を明らかにする為に、壁内の温度分布を示す。1月中で最も低
い外気温を示した2012年1月12日の結果を図3.3.18に示す。気温変動は外側から内側に
なるにつれ壁内温度が上昇していった。このことより外壁によって断熱できていること
がわかった。
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■実測結果のまとめと今後の予定
昨年から継続して行っている一気通貫型システムにて建設された東京都目黒区のY
邸と、今年度から行った埼玉県所沢市T邸における温熱環境とエネルギー消費量の実測
を行った。これらの結果、Y邸では自然換気により室内の環境が安定して推移している
ことがわかり、T邸では外気が低い日でもエアコンを使用せずに室内を14℃以上に保っ
ていた。またY邸とT邸ともに各居室の温湿度に大きな差は見られなかった。また壁内
にセンサを設置して温度の分布状況を明らかにし、実測住宅の高い断熱性能を明らかに
した。
現状ではグローブ温度と日射量との関係性について考察がなされていない。また年間
を通じての温熱環境性能と、エネルギー消費量の削減効果についても今後考察予定であ
る。また今後同様の実測を集合住宅EVについても行う予定である。また木材多用型住
宅の比較として一般木造住宅の実測が必要である。以上の調査を継続し一気通貫型シス
テムで建設された木造住宅の住宅性能を明らかにし、LCA分析や普及効果の検討に寄与
できるデータとして整理、一般木造住宅との比較を行う予定である。
4)超低温乾燥炉のシステムの実測
今年度は栗駒木材の超低温乾燥炉のシステムを大幅に変更した。この乾燥方式は従前と
異なり主として床暖房による輻射熱により木材乾燥を行っており、さらなる省エネルギー
が期待されるため、やはり実測調査により乾燥システムとエネルギー消費量の検証を行う。
実測計画の立案及び実測機器の移動・設置が完了し、来年度より乾燥炉の運転と実測デー
タの取得および分析を行う予定である。
■ 栗駒木材 超低温乾燥炉性能実測
昨年度に引き続き、栗駒木材の超低温乾燥炉の実測による性能調査を行う。今年度
は乾燥炉の乾燥システムの変更を行い、建屋の改変が3月に完了した。また、これに伴
い、実測ポイント等についても、移動および追加を行った。3月末より新たに計測を開
始し、今後結果分析と更なる改良を行う予定である。
■乾燥システムの変更点と概要
乾燥炉の床面に温水管を配管し、これからの輻射熱によって炉内の木材が加温する
こととした。この水分は乾燥炉建屋全体の空隙(隙間)からの自然換気により炉外に排
出される。同時に、壁面、天井面における透湿によっても水分が外気に排出される。
追加した主な機材を表 3.3.5 追加した主な機材に、新たなセンサの配置図を図
3.3.20 に示す。また、乾燥炉断面図を図 3.3.20 に示す。
33
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表 3.3.5
追加した主な機材
計測項目
設置機器名称
設置個数
設置個所
炉内気温・湿度
温湿度センサ
2
乾燥炉内、通気層
屋外風速
風向風速計
1
屋外
温水流量
温水流量計
1
ボイラ温水配管
乾燥炉全体使用電力
電力計
1
乾燥炉分電盤
図 3.3.19 乾燥炉にセンサー類設置位置
34
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図 3.3.20
乾燥炉断面図
■検証する内容
① 木材の乾燥状況
給気された外気が炉内で木材から水分を奪い、乾燥炉内で上手く木材が乾燥されて
いるか検証する。外気と炉内空気の温度・湿度、および外気の風速・風向を実測する
ことで、透湿量と換気量およびそれによる水分除去量を計算し、時間当たりどれくら
いの水分を木材から奪ったか把握する。
② 運転スケジュールの確立
①の結果とボイラの運転状況(温度設定、運転時間)や木材の投入量・配置方法を照
らし合わせ、最適な運転時間や温度設定、木材投入量を把握する。
③ ペレットボイラの性能とのマッチング
ペレットボイラの温水往還温度と燃料消費量を実測する事でペレットボイラの運転
効率などの性能を明らかにする。
④ 乾燥炉のさらなる改良
実測結果と数値計算をもとに最も乾燥時間が短い、もしくはエネルギー効率の良い
建屋の性能を把握し、それに合わせて乾燥炉建屋の改良を行う。
35
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■② 林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルの検証
本年度、木材流通に関わる川上(人工林)から川下(都市部)に至る流域圏全体の一元
的な管理システムを考え、そのシステムが機能した時に、住宅建築によって排出される二
酸化炭素を考慮しても森林の二酸化炭素吸収量(つまり、森林の二酸化炭素純吸収量)が
最大化される解経路について動学的分析するとともに、当該モデルにおいて解経路が存在
するのであれば、その解経路が存在するための条件を考察した(条件等詳細については、
前田拓生[2011]「日本における木材の需給ギャップについての考察」『高崎経済大学論集』
第54巻第1号を参照)。
図3.3.21 森林の二酸化炭素純吸収量モデルの位相図
その結果、一気通貫モデルの仲介者(当該モデルをプロデュースする者…本プロジェク
トでは「天然住宅」にあたる)は、木材流通による搾取主体を省くことが目的の存在では
なく、川上(人工林地域)の森林管理状況を踏まえつつ、川下(都市部)に森林管理の重
要性を認識させ、森林資源を使用する対価として、住宅に使用されている木材量に応じて
住宅購入者から森林管理のために一定程度負担してもらうようなシステム(例えば、地場
産木材多用住宅を認証するとともに、住宅購入者が負担した拠出金が如何に森林の保全に
役立っているかを「見える化」する等)を構築するという役割を果たすことができれば、
図3.3.21より、流域圏の川上側の森林密度(例えば、W1)が与えられた時、当該地域の仲
介者は点Eに向かう安定的な支線に乗るために適切な木材生産量(例えば、x1)を選ばなけ
ればならない。そうでなければ、モデルは次のいずれかの状況に陥ってしまう。
ここでx1よりも少ない木材生産量を選んでしまった場合(これを「Aのケース」とする)、
森林密度Wは一方的に高くなる一方、木材生産量は逓減し、そのうち(つまり、x=0を跨
・
ぐと)木材生産量は減少し続ける(図3.3.21では当初北東方向に進むものの、x=0を超える
・
と一転し南東に向かって進んでいく)。次にx1よりも多い木材生産量を選んでしまった場合
(これを「Bのケース」とする)、森林密度Wは一方的に低くなる一方、木材生産量は逓増
36
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し、そのうち(つまり、x=0を跨ぐと)木材生産量は増加し続ける(図3.3.21では当初北東
・
方向に進むものの、x=0を超えると一転し北西に向かって進んでいく)。
・
ここで(A)のケースでは、森林保全効果もあり、動態的な意味で森林の成長速度よりも
低い木材生産量を選んだことから、森林の二酸化炭素吸収量が低下し、均衡経路に至らな
い状態に陥る。一方(B)のケースでは、動態的な意味で森林の成長速度よりも高い木材生
産量を選んだことから、森林の自然成長が追い付かず、森林資源を枯渇させてしまう状態
に陥ることを示している。
ところで、流域圏の川上側の森林密度が、均衡点水準であるW*よりも高い状態において
は、木材生産はかなり(つまり、均衡点水準であるx*よりも)高めることが必要になる。
森林密度が非常に高い状態において森林保全を少しでも怠れば、たちまち森林の二酸化炭
素吸収が低下に転じ、均衡経路から外れることになる。他方、住宅建築を増加させ、木材
生産を増やすことで二酸化炭素排出が増加しても、森林の二酸化炭素吸収は高水準であり、
加えて森林密度の低下による森林の二酸化炭素吸収の減少は限定的である。したがって、
流域圏の川上側の森林密度が非常に高い状態である場合、地域プランナーは住宅建築を増
加させ、多くの木材を生産することで森林密度を低下に導き、森林の二酸化炭素吸収が低
下に転じることを防ぐことが必要となる。
なお、社会的割引率ρが大きいほど将来世代の厚生を軽視することになるため、木材生産
を過剰に行うことから森林密度は低下し、反対にρが小さいほど将来世代への配慮が大きく、
森林密度が高い水準になる。
以上のように林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデルにより、流域圏の
自然環境を保全しつつ、住宅建築を考慮した森林の二酸化炭素純吸収量を最大化させるこ
とができる。
とはいえ、現状の分析では仲介者を含むステークホルダー全体についての相互関係等に
ついての分析自体は行っていないことから、今後はステークホルダー全体についての分析
を進めていく予定である。
■③ 長寿命住宅を支える金融システムについての調査(ミニRTの活用)
本年度は、昨年度に引き続き海外の中古住宅流通市場動向(特に米国市場)を調査し、
日本における中古住宅市場の問題点を考察するとともに、不動産関係の研究者や金融機関
等のステークホルダーを交えてミニ・ラウンドテーブルを開催した。
その結果、住宅金融支援機構におけるフラット35の住宅評価基準に準拠していると「金
融的な手当て」という意味で有効に機能する可能性が高いことがわかった。とはいえ、フ
ラット35の住宅評価基準は、あくまでも「現時点」の基準であり、将来においては何ら担
保されないことから、天然住宅認証では「次世代基準」に準拠できるように項目を検討し
ている。
なお今後は次世代基準にも準拠した、実践的なシステムとして耐え得る認証制度を、実
際に創設し、創設した結果生じる問題について対処していく予定である。
37
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
■④ ①~③に基づく持続的な林業(育林を含む)が実現可能であることの実証
1)木造軸組構法における木組み手法の現状調査
林産業としては、地域材を活用して手刻みにより木造住宅を手掛けている工務店・建築
設計事務所を対象に、木造軸組構法における木組み手法の現状調査を行った。
本研究では、地域材を活用して手刻みにより木造住宅を手掛けている工務店・建築設計
事務所を対象として、これまでグレーンゾーン化していた木造軸組における継手・仕口の
部分を調査し図面化する。さらに大工の建て方における生産性を把握し、地域木材を活用
した住宅の構法特性の整理を行うことを目的とした。
実例調査においては宮城県および岩手県に建設された3棟の住宅を対象とし、宮城県内
に建設された東松島復興住宅(JSTプロジェクトで進めている天然住宅の基本モデル)
および栗原市の住宅では使用木材の全てを調査した。盛岡市の住宅においては、建て方調
査の際に一部の継手などを調査した。この調査では、これから建設される建て方前におけ
る構造部材の実測調査を行った。また、作業を行った大工の人数や作業時間、作業の細目
を計測・記録した。これと同時に、墨付けを行った大工にヒアリングを行い、木組みや継
手への考え方を調査した。
なお、木組みの具体的な納まりなどを理解できるよう、調査結果は各伏図に反映させる
形で記録した。
地域による構法の違いや大工の木組み手法の傾向を、より広範囲にとらえるためにアン
ケートを実施した。アンケートの内容は、大工および工務店が木造軸組住宅を設計・施工
する際にどのようなノウハウで建てるのか、特に構造躯体における部材の断面寸法、構造
計画を調査した。
実施においては、宮城県建設職組合連合会および宮城県登米市のT社、実例調査を行った
栗原市のI社の協力を受け、県内24社にアンケートを配布した。先行して配布した13社は
2011年11月25日、続いて配布した10社は12月1日を回答期限としてアンケートを回収した。
以上の結果、地域材を活用して木造住宅を手掛けている工務店・建築設計事務所におけ
る構法の実態を把握することが出来た。また、本プロジェクトの対象である天然住宅の基
本モデルの生産性が高いことが確認できた。
2)2050年カーボンニュートラルに向けた林業施業計画と木材需給バランスの提案
栗駒木材および天然住宅が実施している林業・林産業を一貫して住宅生産までを行なう
一気通貫型住宅生産システム(以下、一気通貫型住宅生産システム)を活用し、2050年に
おけるカーボンニュートラルを実現させるためには、日本林業の持続的な施業計画に基づ
く木材供給バランスを把握することが必要不可欠であった。
そこで、共同研究を行っている栗駒木材株式会社(以下、栗駒木材)の所有するエコラ
の森を対象に、森林林齢の現況や法正林になるための適切な林業施業方法などを調査した。
その上で、2110年までの林業施業計画から木材供給量を算出し、そこから全国の人工林で
この林業施業計画を実施した場合の木材需給バランスを考察した。
なお今後、更なるLCA分析を行い、2050年までのCO2削減シナリオ作成の基礎データと
したい。
今年度実施した調査および分析、評価を以下に示す。
38
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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a) 法正林となる適切な林業施業方法の調査とそれにより得られる材積量の検討
栗駒木材へ2011年12月15日に実施したヒアリング調査より、栗駒木材の所有するエコラ
の森の現況調査、および適切な林業施業方法の調査を行った。エコラの森が齢級2~5年の
樹種が全くないといったいびつな齢級構成となっていることを確認し、このいびつな齢級
構成を均し、法正林とするための適切な林業施業方法をヒアリング調査により具体的に把
握した。
次に、この適切な林業施業を行った際に間伐および主伐で得られる材積量の検討を行っ
た。図3.3.22に2100年までに間伐および主伐で得られる製材量を、図3.3.23に端材として使
用されなかったものをエネルギー利用する場合の利用可能材積量を示す。
5,000
1,500
主伐
間伐
1,000
500
4,500
4,000
3,500
3,000
エネ利用
2,500
製材
2,000
1,500
1,000
500
図3.3.22 間伐・主伐別 製材材積
2110
2105
2100
2095
2090
2085
2080
2075
2070
2065
2060
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2110
2105
2100
2095
2090
2085
2080
2075
2070
2065
2060
2055
2050
2040
2045
2035
2030
2025
2020
2015
2010
(年)
2015
0
0
2010
製材材積(m3 /5年)
2,000
製材材積およびエネルギー利用可能材積(m3 /5年)
2,500
図3.3.23 エネルギー等利用可能材積
毎年決まった量を伐採し、植林することで安定した素材供給ができるよう森林の施業計
画を立てた。結果、主伐によって得られる材積と間伐によって得られる材積が求まった。
2110年、伐採立木材積は主伐によって4,659㎥立木/5年、間伐によって2,211㎥立木/5年、丸太
材積は主伐によって3,558㎥丸太/5年、間伐によって1,102㎥丸太/5年、製材材積は主伐によっ
て1,888㎥製材/5年、間伐によって434 ㎥製材/5年、エネルギー等の利用可能材積は主伐によっ
て1,670㎥/5年、間伐によって667㎥/5年、供給可能であることが試算された。
39
(年)
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b) 日本の森林における法正林化林業施業計画の適応と、それによる木材需給バランスの検
討
さきほどa)で検討したエコラの森のような適切な林業施業が日本の972万haの森林で可
能となった場合の需給バランスについて検討した。
まず、林業施業計画を現在主に行われている50年伐期(50年生で主伐を迎える)、長伐
期施業となる80年伐期、そしてより大径材の生産が可能となる100年伐期に設定し、それぞ
れの伐期による木材生産量を算定する。伐期別の供給可能丸太量の推移を図3.3.24に示す。
ここでは、全供給量の4割が建築用として供給できると定める。得られる丸太の径の大きさ
は長伐期にするほど大きくなるが、供給可能な丸太量は50年伐期が100年伐期より1.56倍と
なる。一方で人口の減少により新築戸建木造住宅数も減少することが予測される。住宅に
おける木材需要が確実に減少する中での最適な需給バランスの提案を行った。また、その
際新設される戸建木造住宅を、一般的な木造住宅と木材を多用した木造住宅に分類し、建
設可能な住戸数を算定した。
(百万㎥/5年)
350
50年伐期
300
250
80年伐期
200
150
100年伐期
100
50
図3.3.24 伐期別 供給可能丸太量
40
( 年)
2110
2105
2100
2095
2090
2085
2080
2075
2070
2065
2060
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
0
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算出の結果、一般木造住宅では100年伐期の2010年~2035年を除いて全ての伐期で供給
量が需要量を上回った。一方、木材多用型住宅は2110年以降はどの伐期でも供給量が上回
った。一例として80年伐期で一般木造住宅を建設した際の需給結果と、80年伐期で木材多
用型住宅を建設した際の需給結果を図3.3.25と図3.3.26に示す。図3.3.25より、新設戸建住
宅の減少により、100年後には供給量が需要量をはるかに上回る結果となった。これは現在
の住宅着工戸数と1戸当たり木材使用量から求められる木材の住宅需要量と木材供給量が
拮抗しているが、今後の住宅戸数の需要減少により供給力過多な状態へと変化していく。
一方、木材多用住宅に一気に転換するシナリオでは、当初供給が需要に追いつかないが、
供給力過多となるのは2065年頃まで延長される。従って、木材の供給力の観点から見ても、
木材多用型住宅の普及と森林整備を組み合わせ、需要と供給のバランスを取りながら社会
システムを改善するシナリオがより現実的と考えられる。
(万㎥立木/5年)
30,000
(万㎥立木/5年)
30,000
住宅需要量
20,000
20,000
住宅需要量
木材供給量
木材供給量
10,000
10,000
0
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
2055
2060
2065
2070
2075
2080
2085
2090
2095
2100
2105
2110
(年)
図3.3.25 80年伐期×一般木造住宅
(年)
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
2055
2060
2065
2070
2075
2080
2085
2090
2095
2100
2105
2110
0
図3.3.26
41
80年伐期×木材多用型住宅
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2)持続可能な林業・林産業に資する金融的支援システムの実践
本年度、本プロジェクトでは市民金融として林業・林産業を具体的に支援するため、復
興支援のための融資の他、天然住宅バンクでは「ペレットはがき商品券」により、ペレッ
ト製造側(林産業者)に前受で資金が入る仕組みを構築し、実施した。
現状(平成24年3月末現在)、233枚(売上総額:352,700円)であるものの、ペレット消
費者(住宅購入者)にとっても在庫を保管するスペースがいらないし、また、購入の際も
宅急便等で送られてくる便利さがあることから、利用者からは好評であり、今後の発展が
見込まれる。
また天然住宅バンクでは、天然住宅と共同で森と街を直接つなぐために「皮むき間伐ツア
ー」を企画し、住宅購入予定者を含む一般の人々(街の人々)に実際に皮むき間伐をして
もらうなど、「住宅版のエコツーリズム」を実践している。このツアーによって、その後、
4組が天然住宅を実際に建築している。
今後も非営利の市民金融(または、それを母体とする派生的な活動)の可能性を研究開発
していく予定である。
■⑤ 2050年カーボンニュートラル生活実現シナリオの検証
1)住宅建設・解体までを含めた一気通貫型木材流通システムのLCA分析
昨年度、遠藤らの論文(「林業再生のための木材流通システムの再構築に関する研究」
建築学会関東支部:別紙)では、流通の効率化を図る一気通貫型木材流通システムを提案
し、効率化により得た利益を林業・林産業に還元することで、安定した林業施業の可能性
があることを示した。しかし、現状の木材流通システムに比べ、木材流通面のコストと
LCCO2削減の可能性があることは明らかにされているものの、住宅建設を含めたLCCO2
の検討はされていなかった。そこで本年度では、一気通貫型木材流通システムにより建設
された国産材多用の木造住宅及び、現状型システムにより建設された木造住宅のLCCO2比
較検証を行った。これにより、素材生産時から住宅建設・解体までを含めた一気通貫型木
材流通システムのLCCO2評価を行った。今後、比較対象の住宅を増やすなど、更なるLCA
分析を行い2050年までのCO2削減シナリオ作成のための基礎データとしたい。
今年度実施した調査および分析、評価を以下に示す。
a) ヒアリング調査概要と結果
まず、LCCO2算定のために、木材多用型住宅の仕様を設定する。実際に、一気通貫型木
材流通システムにより建設された目黒区Y邸の図面・資材見積書・工事時エネルギー量を
得ることを目的に、天然住宅にヒアリング調査を実施した。表3.3.6にヒアリング調査概要
と項目を示す。それにより得た資料を参考に、単位床面積当りの木材使用量を算出した。
その結果、Y邸の木材使用量は0.33(m3/m2)であり、現状の木造住宅の平均値0.20(m3/m2)
6)と比べても、1.6倍以上であることがわかった。表3.3.6~3.3.8に示す。
42
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表 3.3.6 ヒアリング概要
木材多用型住宅と呼ばれる Y 邸の実態把握
調査目的
Y 邸の木材使用量、仕様把握
調査対象
工務店 S 社
調査対象者
東京都目黒区 Y 邸
調査実施日
平成 23 年 6 月 3 日、7 月 22 日
表 3.3.7 収集情報一覧
建設時
チェック項目
備考
1、住宅概要
図面
平面詳細、断面詳細、矩計、その他図面
2、使用部材、資材
使用部材一覧表
リスト、請求書、発注書
(木材含)
各部材の使用量
単位はどうなってい
(スギ、ヒノキ、合
上記に記載 あり or なし
るか確認
板、等)
(㎥、kg など)
資材搬入元
ない場合、資材請求
資材搬入車リスト
書等
3、建設
施工計画
工程表
建設時使用機器、重
リスト
機
事務所等の電気代も
建設時使用エネル 電気代明細書、ガソリン・軽油使用量リスト、
ギー量
その他使用したエネルギー使用明細
含んだものかどう
か。現場で使用した
量だけのガソリン・
軽油使用量か
廃棄物
再利用材についても
廃棄物マニフェスト
人工、人件費
聞けたら
人件費はどの範囲ま
何らかのリスト、経営状況
で聞くのか
表 3.3.8 木材使用量比較
A社※1
B社※1
平均値
Y邸*
サンプル数
12
1
-
1
平均延床面積(m2)
114.80
111.77
125.86※2
99.37
木材使用量(m3)
17.74
16.82
25.17
32.79
原単位(m3/m2)
0.16
0.20
0.20※3
0.33
※1
A・B 社により生産された住宅。共同研究者(名古屋大学)のヒアリング調査より
※2
日本建築学会標準モデル住宅延床面積参照
※3
財団法人日本住宅・木材技術センター(2002)木造軸組工法住宅の木材使用量
*
ヒアリング調査より得た工事見積書と図面から積み上げ法により木材使用量を算出
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b) 住宅建設・運用・改修・解体におけるLCCO2のシステム境界
住宅建設から運用・改修・解体までのLCCO2評価を行う。その際、木材多用型住宅は耐
用年数を100年、現状型住宅は50年で一度解体し、建て直すものとした。住宅建設から解
体までのシステム境界図を図3.3.27に示す。各過程においてLCCO2評価を行った。
一気通貫型木材流通システムのLCCO2算出結果
住宅建設から、運用・改修・解体までのLCCO2評価を行った。一戸の住宅にかかる1年
間のCO2排出量のグラフを図3.3.28に示す。1年あたりで見ると、224.8(kg-CO2/年・戸)
の差が生じた。住宅を建設してから100年後に解体されるまでで見た場合、木材多用型住
宅は現状型住宅に比べ、CO2排出量を約6%削減できた。住宅過程も含めた一気通貫型木材
流通システム全体におけるLCCO2の各段階内訳を以下に示す。木材製造時は20%削減3)、
住宅建設時は51%削減、運用時は変わらず、改修時は53%増加、解体時は28%減少した。
このことにより、一気通貫型木材流通システムは、現状型のシステムに対して、LCCO2面
で優位であることが明らかになった。
44
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資材製造時CO2排出原単位
運搬
システム境界
現状型住宅50年×2回建設
現状型システム
垂直連携型システム
木材製造
木材多用型住宅100年×1回建設
項目
資材、廃材運搬
資材投入量、廃棄物量
作業員通勤
工事エネルギー量
住宅運用エネルギー量
使用車両・重機製造
図 3.3.27
一戸の住宅にかかる年間のCO2排出量
(kg-CO2/年・戸)
4,000
LCA のシステム境界
6%減
3,364
3,500
3,589
解体時28%減
3,000
改修時53%増
2,500
運用時同値
2,000
1,500
1,000
住宅建設時
51%減
500
0
木材多用型住宅
図 3.3.28
現状型住宅
LCA の結果比較
45
最終処分場
改修
再生工場
中間処理施設
運用
解体
木材以外の
資材製造
建設
工務店
工程
木材製造
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2)住宅エネルギー消費量とCO2排出現況DB作成(推計結果)
住宅エネルギー消費量とCO2排出現況データベース(DB)作成(推計作業概要)につい
て今年度は次の推計を行った。
a)
b)
c)
d)
e)
f)
2008年度・都道府県別・エネルギー種類別エネルギー消費量、CO2排出量(図
3.3.29~図3.3.34)
2008年度・市町村別・エネルギー種類別エネルギー消費量、CO2排出量
2005・2009年度平均・都道府県政令市別・世帯累計別および世帯人員規模別・
エネルギー用途別・世帯平均エネルギー消費量、CO2排出量(家計調査base)の
改訂再推計
2005・2009年度平均・都道府県別・住宅種類別・世帯平均エネルギー消費量、
CO2排出量(消費実態調査base)
2008年度・市町村別・世帯類型別・エネルギー種類別・エネルギー消費量、CO2
排出量
1980年度-2010年度の全国・エネルギー種類別・エネルギー用途別・住宅エネル
ギー消費量、CO2排出量(経年動向分析)
2005,2007年度データ推計において行った現況推計手法とほぼ同じ手法で2008年度推計
を行った。単に住宅のエネルギー消費の実績とCO2排出実態を概括的に知るためだけなら、
独自の推計を行わなくても類似の統計あるいは推計データが得られるが、省エネルギーや
エネルギー転換、再生可能エネルギーの導入等の排出削減効果を定量評価するには地域別
と各影響要因属性別の多次元データを用いた実態解析が基礎として不可欠である。
a)は外岡が継続的に行ってきた住宅エネルギー消費量とCO2排出量の基礎推計 11であり、
その都道府県別2007年度,2008年度現況を推計した 12。2000年度、2005年度推計では建て方
(戸建、集合、長屋を含む)別、エネルギー用途別推計を行ってきたが2007年度以降につい
ては、県別推計においてはそれらの属性別推計は未作業である。表3.3.9~表3.3.11に全国
合計値を示す。
b)はそれを市町村別に地域分解推計したもので基本的には人口比で地域配分しているが、
都市ガス消費量については営業地域区分別の統計データから直接市町村別販売実績が得ら
れる地域もあるため県別値を経由せず営業地域別販売実績から直接市町村別消費量を求め
た。
c)は全く別の手法で家計調査から住宅エネルギー消費量を推計するものである。2009年
度作業において世帯類型別にも推計する手法の開発試行 13を行ったが、これを同じ手法で
2010年度に全国の都道府県別に再推計した 14。そこで用いた基礎統計は家計調査であり、
11
外岡豊,深澤大樹,他(2005)都道府県別・建て方別住宅エネルギー消費量と CO2 排出実態の詳細推計,日
本建築学会環境系論文集,(592),89-96
12 中口毅博,外岡豊,他(2011)業務部門・家庭部門における 2007 年度市区町村別CO2 排出量の推計,第 27
回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(エネルギー・資源学会) p611-614,2011.1 東京
13 田中昭雄,他(2008)世帯属性を考慮した住宅用エネルギー消費原単位の推定と将来予測,日本建築学会環
境系論文集,No.628,823-830
14 田中昭雄,外岡豊(2011a)HLCE ヒューマンライフサイクルエミッション評価のための家庭部門エネルギ
ーの地域性の研究,第 27 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(エネルギー・資源学
会),p367–370,2011.1 東京
46
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表1がエネルギー種別販売実績統計に基づいた推計を行っているのとは異なる。家計調査
は各県の県庁所在都市を中心に全国9千世帯を抽出し毎月調査したもので、地域別・世帯類
型別にクロス集計するとサンプル数不足から不安定な推計結果となるため2005年から2009
年までの多年度データをプールし、さらに少数標本から多次元推計を行っても安定した推
計が得られるベイジアンネットワークモデル推計を用いて地域別・属性別(世帯類型と世
帯人員規模)推計を行った 15。2011年度作業においては県別集計、市町村別集計を再度行
い、2008年度実態値に合計調整を行った(表3.3.12)。
家計調査では世帯属性に関する集計項目があるが住宅の建て方(戸建、集合、長屋)別
の推計はできない。そこで建て方別集計項目が得られるd)の全国消費実態調査を用いた類
似の推計を試みた 16。全国消費実態調査は毎月調査ではなく2人以上世帯は9月~11月、単
身世帯は10、11月だけの調査であるため冬期に集中する灯油や都市ガスの暖房用需要を反
映した推計にはなっていない弱点があるが、それを承知で試算した。2011年度作業では中
核都市と地方都市の違いについても分析した。予想通り北海道、青森県、北陸地域など寒
冷地で家計調査より小さな傾向の推計結果が得られたが東京都など消費実態調査の方が大
きめな傾向の結果となっている地域も見られた。a)b)の推計では販売実績に基づくため総
量は信頼できるが地域別と属性別を反映させた推計は困難であり、c)では世帯属性別推計が
できるが調査対象が県庁所在都市に偏っていること、建て方別推計が不可能なこと等の問
題があり、d)では秋期2、3ヶ月だけの調査であるためエネルギー消費量に関しては信頼性
が劣る問題がある。
それぞれの特徴を活かしながら練り合わせた総合推計の可能性を探っているところであ
るが、表3.3.12に示す市区町村別・世帯類型別・エネルギー種類別・集計が現時点での総合
推計結果である 17。
しかし一方で従来なかった調査資料や新しく公開されたデータが得られるようになった
部分もあり、それらの活用も課題である。経済産業省資源エネルギー庁が公開しているエ
ネルギーバランス表は元来、OECD・IEAの様式に従って全国値に関する政府エネルギー需
給統計を再編したものであったが近年項目が拡充され、エネルギー消費量だけでなくCO2
排出量についても炭素表示の表が付加され、再生可能エネルギーについても項目が用意さ
れるようになった。住宅に関して地域別の推計が付加され10地域別、3地域別のデータも
公表されている。ただし家庭用電灯消費についての電力契約区分の扱いが我々のa)b)推計と
は異なるため推計結果は一致しない。
灯油とLPGの消費実態調査(日本エネルギー経済研究所石油情報センター)が廃止され
ているためそれを補う推計手法を検討しなければならないが、家計調査による中核都市と
その他の地方都市の違いを比較した 18(図3.3.35)。ここで顕著なのは灯油消費の違いであ
り、灯油消費は都市化された地域では少なく、地方都市で多い傾向が見られる。さらに農
山魚村部ではより灯油依存が顕著に見られるはずであるが調査サンプルが少なくこのデー
タでは分析できていない。しかしこの都市化による地域差傾向から灯油依存の地域差傾向
を類推できる可能性もあり、今後の分析により補足推計手法を試行開発できる見通しが得
15
田中昭雄、外岡豊(2011b)HLCE ヒューマンライフサイクルエミッション評価のための家庭部門中核都
市と地方都市の比較,第 30 回エネルギー・資源学会研究発表会,2011.6,東京
16 田中昭雄,外岡豊(2011a)
17 国府田
諭、外岡 豊、中口 毅博(2012)民生業務部門における 2008 年度市区町村別 CO2 排出量の推
計,第 28 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(エネルギー・資源学会),2012.1,東京
18 田中昭雄,外岡豊(2011a)
47
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
られた。
将来シナリオ作成への基礎として長期の経年動向を解析しておく必要があるが、1980年
度から2010年度の経年動向を解析した(図3.3.36~図3.3.39)
住宅のエネルギー消費量は2000年度以前は経年的に増大が続いていたが2000年度以降は横
ばいに転じており、世帯当では世帯規模の縮小傾向が顕著なため減少傾向に転じている。
1980年から2010年の20年の変化で顕著な傾向はまず電力の構成比が伸びていることであ
る。1980年度に電力は32.1%であったが2010年度では48.5%に増大している。LPGと灯油
については経年的に同一の基礎データと推計手法が用いられておらず、2010年度はそれ以
前と違ってエネルギーバランス表値を採用したため灯油、LPGとも低めの値が採用され構
成比が低く目になっている。かならずしも実態を正しく反映しているか正確性が劣るが最
近の傾向としては経年的にLPG、灯油とも消費量が減少傾向にあると想像され実績データ
もその傾向が見られる。構成比で見ると都市ガスの割合は横ばい傾向にあり増大も減少も
ないが全電化により伸びが抑えられているものと考えられる。
CO2排出量の動向にはエネルギー需要中の電力構成比の増大と電源構成による電力平均
CO2排出係数の変化が加味されるが、ほぼ似た傾向が見られた。大震災後の影響が顕著に見
られるはずの2011年度についてはまだ分析できる状況にないが、大幅な節電の一方、火力
依存度が上昇したことを受けてkWh平均CO2排出係数は上昇しており両傾向が相殺されて
排出量がどの程度になっているか注目される。
エネルギー源別構成比はエネルギー需要に比べ電力の割合が大きい。これは2次エネルギ
ー換算した場合、化石燃料より電力の方でCO2排出係数が大きいため電力からのCO2排出が
割合として大きくなるからである。CO2排出がない原子力、水力を含んでいても火力の発電
効率が40%程度であるためそのような値になる。
2010年度について資源エネルギー庁のエネルギーバランス表が公表されているが、エネ
ルギー用途別消費構成については内訳が示されていないため最新の実態調査結果19を用い
てエネルギー用途別分解を行い、用途構成の変化について分析した20(図3.3.40~43)。
表3.3.9 住宅エネルギー消費量とCO2排出量まとめ
エネルギー種類
電力
都市ガス
LPG
灯油
計
消費量
240773
413280
5452
10820
エネルギー
固有単位 消費量(2次)
.
TJ
GWh
835
TJ
411
1000トン
274
1000kl
590
2110
表3.3.10 住宅エネルギー消費量とCO2排出量まとめ
2007年度
CO2排出量
TgCO2
98.1
21.1
16.1
40.4
175.7
2008年度
三菱総研(2011)平成 22 年度エネルギー消費状況調査(民生部門エネルギー消費実態調査)
豊、井田健一、田中 昭雄、国府田諭、日本の住宅におけるエネルギー消費実態と CO2 排出量推
計、第 28 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(エネルギー・資源学会)(2012.1)
東京
19
20外岡
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研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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エネルギー種類 消費量
電力
都市ガス
LPG
灯油
計
254444
9017857
5531
10899
エネルギー
CO2排出量
固有単位 消費量(2次)
TgCO2
PJ
GWh
916
113.0
1000m3
404
20.1
1000t
281
16.6
1000kl
400
27.1
2001
176.8
表3.3.11 2010年度 住宅エネルギー消費量とCO2排出量 暫定推計値
エネルギー 消費量合計
全国計
世帯当
エネルギー種類
電力
都市ガス
LPG
灯油
熱供給
太陽熱他
合計
PJ/y
994
427
222
388
1
18
2049
1人当
床面積当
構成比%
GJ/世帯年 GJ/人年
MJ/m2年
%
21.2
8.58
234.0
8.2
3.33
90.9
4.3
1.73
47.2
8.2
3.32
90.6
0.0
0.00
0.0
0.4
0.15
4.0
42.2
17.12
466.7
50
19
10
19
0
1
100
CO2排出量
全国計
世帯当CO2
1人当CO2
床面積当
構成比
1000tCO2
=GgCO2/y kgCO2/世帯年 kgCO2/人年 kgCO2/m2年%
113,712
2,421
888
26.78
66
21,899
422
171
4.66
12
12,982
250
101
2.76
9
26,575
561
208
6.21
13
138
0
1
0.00
0
0
0
0
0.00
0
175,306
3,654
1,369
40.41
100
図3.3.29 都道府県別・エネルギー種類別・住宅エネルギー(2次)消費量 2008年度
49
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研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
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図3.3.30 都道府県別・エネルギー種類別・住宅CO2排出量 2008年度
図3.3.31
都道府県別・エネルギー種類別・世帯当・住宅エネルギー(2次)消費量
50
2008年度
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図3.3.32 都道府県別・エネルギー種類別・世帯当・住宅CO2排出量 2008年度
図3.3.33
都道府県別・エネルギー種類別・1人当・住宅エネルギー(2次)消費量
51
2008年度
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表3.3.12 世帯類型別市町村別一人当たりCO2排出量(抽出)
2008年度(単位 : t-CO2)
注)地域差の例として北海道から沖縄県まで大都市、中都市、小規模町などJST・PJ等とも関係があ
る自治体を抽出した。
52
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図3.3.36 住宅(2次)エネルギー消費量経年動向 全国計
図3.3.37 世帯当住宅(2次)エネルギー消費量経年動向
53
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図3.3.38 住宅CO2排出量経年動向 全国計
図3.3.39 世帯当住宅CO2排出量経年動向
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図3.3.40 住宅エネルギー・マトリックス 1990年度(厨房用電力に冷蔵庫を含む。)
55
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図3.3.41 住宅エネルギー・マトリックス 2010年度(厨房用電力に冷蔵庫を含まない。)
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図3.3.42 住宅CO2排出量・マトリックス 1990年度(厨房用電力に冷蔵庫を含む。)
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図3.3.43 住宅CO2排出量・マトリックス 2010年度(厨房用電力に冷蔵庫を含まない。)
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3)住宅2050カーボンニュートラル達成シナリオ
住宅2050カーボンニュートラル達成シナリオの作成に際して、平行して日本建築学会地
球環境委員会内において2050年までにLCCO2でカーボンニュートラルを実現するための住
宅開発シナリオ検討WGと同学会内社会ニーズ委員会・温暖化対策アクションプラン特別
調査委員会での関連研究者を交えた討論を踏まえて設定したが、学会での検討とは独立に
独自の判断で設定を行った。
①
住宅エネルギー消費
ⅰ)暖房
ゼロエミッション暖房を実現する手段は様々な手段の重ね合わせで始めて達成可能にな
る。住宅の断熱、遮熱、開口部の気密性能といった室内温熱環境保持機能が第一の基本で
ある。ただし高気密高断熱にはシックハウス問題と常時機械換気の増エネルギー問題があ
り、天然住宅では適気密を目標にしている。この考えを具現化する手法はパッシブソーラ
ーである。温熱環境設計ソフトウエアの開発進化と経験蓄積により賢いパッシブソーラー
住宅の普及を推進するべきである。その上で健康かつ快適に過ごせる範囲内に室内の温度、
湿度、あるいは輻射熱環境を保持するため、最低限の暖房、冷房装置を設置する。
現状はエアコン暖房(ヒートポンプ)、FFストーブ(灯油、都市ガス)、と電気こた
つ、電気カーペットやオイルヒーターなどの電熱系、シェアは少ないがバイオマスペレッ
トなどの木質系、太陽熱温水暖房、他にパッシブソーラーや地中熱ヒートポンプ等の自然
エネルギー系、燃料電池等のコージェネレーション系等がある。電力暖房は部ヒートポン
プでは最近は2次エネルギーでの成績係数が5以上の高性能機器も普及し、効率が良いが電
熱系の暖房は火力発電の場合、1次エネルギー効率が低くなるので省エネルギー上、望まし
い手法ではない。同じ電気エネルギーでも省エネルギー面での性能が極端に異なる。
これを2050年時点で排出ゼロに十分近づけるには太陽熱とバイオマス燃料を主体にした
暖冷房装置を導入し、電力の温室効果ガス排出係数が十分低くなるよう再生可能エネルギ
ー依存の電源構成とする。
これに先立ち、外化の概念による暖房機能分担論を概説しておく。図3.3.44は体芯から周
囲に向かって流れる熱流と熱の流出を防ぐ空気著和機能(防寒手段)の構成である。省エ
ネルギーを推進するには機械的な化石燃料を焚く暖房の分担を最小にするために他の手段
を最大限に発揮させ、その残りだけを暖房に頼るようにすべきである。最近はヒートテッ
クのような高性能な下着も開発され普及しているが、まず衣服の保温機能に頼るべきであ
る。
次にシェルターとしての建築の空気調和(断熱、遮熱、温湿度環境の緩和)機能に依存
するべきである。さらにヒートアイランド防止など周囲環境の改善を先に実施すべきであ
る。
59
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図3.3.44
体内熱平衡機能の外化と防寒手段の構成 *)
*)初出:外岡 豊(1977) 外化の概念による空気調和に関する考察 試論,空気調和・
衛生工学会学術講演会論文集
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ⅱ)冷房
住宅の室内で涼しく過ごすことについて解決策が機械的な冷房なのかは、それ自体を再
考すべき課題である。しかし、ヒートアイランド化や都市内の地域熱環境が暑くなってい
る微少気候下では冷房なしで過ごしにくい外部環境がある。風の通り道を確保する、十分
な緑に囲まれた住宅敷地を確保する、京都の町屋の風を起す庭の散水手法など機械的な冷
房に頼る以前に行うべき諸対策がありそれを優先適用すべきである。機械式の冷房では最
近は高効率ヒートポンプが開発されている。しかしその効率向上には限度があり、省エネ
ルギー以上のCO2排出削減率を実現して排出ゼロに近づくには低炭素電源電力を使う必要
がある。別の手法は太陽熱とバイオマス燃料による暖房給湯ボイラを使った吸収冷凍機で
ある。暖房給湯用と同じ熱源施設で冷房もでき、CO2排出ゼロ(カーボンニュートラル)に
できる。避暑季節移住も望ましい。
ⅲ)給湯
給湯需要は通年あるが水温の変化があるので冬は多く夏は少ない季節変化がある。排出
なしを実現する手段は暖房と共通の太陽熱温水器とバイオマス燃料を組み合わせたボイラ
である。CO2冷媒圧縮冷凍機、いわゆるエコキュートもあるが圧縮技術改善による省エネル
ギー効率向上には限界があり、低炭素電源と組み合わせることでCO2排出削減を追求する。
市街地内で利用する技術であろう。
ⅳ)厨房
2050年時点では都市ガス、LPGは厨房用に使わない代替調理手法が開発されているであ
ろう。煮炊き100℃以下、揚げ物180℃は工業加熱に比べて低温需要であり、化石燃料加熱
はもったいない。非加熱物が炭水化物、たんぱく質なので高温になると炭化し、焦げたも
のを食べるとがんになる原因になるとも言われ必要以上に高温にならないことが求められ
る熱需要である。
現況のガスレンジ、電磁調理器(IHヒーター)は旧来の薪を使った竈(かまど)の延長
上の形態、加熱手法を踏襲しており技術開発の工夫が不十分である。この形態のままでは
効率向上は望みがたい。電子レンジに蒸気を組み合わせた新しい電子レンジが商用化され
ているが低炭素電源電力による電子レンジ+αの新開発調理器に期待したい。調理では非
加熱物の物理的化学的性質に適した加熱を行う制御が重要であり、電気加熱は制御しやす
い利点がある。未開発技術としてヒートポンプ加熱も考えられる。要は100℃前後の高温が
得られるかどうかである。圧力釜という手法があるが調理器内の圧力制御で昇温と制御も
可能である。
全くの将来技術としては化学反応熱加熱、太陽熱集熱蓄熱加温などが考えられる。バイ
オマス燃料厨房機器は制御がしにくいので茶飲用の湯沸かしには利用できても調理には優
位ではないと考える。ただしヒートポンプの低温熱源として太陽熱やバイオマス燃焼で得
た温水を利用することはできる。180℃の揚げ物には電子レンジ系の技術を応用すれば問題
ない。
ⅴ)照明
機器性能以前に震災後の節電要求の中で業務ビル照明に関しては要求照度、色温度の緩
和が進められ、かなりの省エネルギーが実現された。またタスクアンビエント照明(必要
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な空間、時間だけ集中的に照明)を採用することで室内空間全体を通常は暗くしておいて
よいという照明省エネルギー手法も普及し出している。住宅でも基本は同じで例えば廊下
用の数W(ワット)のLED電球も販売されており、大幅な省エネルギーが実現され出している。
最近はLEDが急速に普及し出しているが、多色を重ねて色を調整したり光束を拡散する
フィルター膜など実用上の技術的な工夫も進化しつつある。更なる新技術として有機EL照
明がある。また昼光利用の併用も望ましい。光ファイバーで外光を建物奥深くに取り込む
こともできる。未開発の新技術としては発光反応やそれによる光源貯蔵であろう。関連す
る話題として知的照明システム推進協議会が設立された。主として業務事務所ビルの照明
を抜本的に技術改善しようという団体であるが、住宅にも参考になる情報が提供されると
期待される。
ⅵ)家電機器、情報機器
日本の家庭は各種家電機器の普及率、利用頻度が世界的にも極めて高いのではないかと
思われる。家電機器製造某社の省エネルギー環境住宅展示館に行くと例えばベッドに音響
機器が組み込まれており、小鳥のさえずりで目覚めるように機器を設定して就寝すること
もできるようになっていたが、厨房周りも浴室も家電機器に類する電気機器で何かの機能
をいろいろ選択できて、かえって複雑で生活しにくいのではないかとさえ案じられた。生
活用品の不要な電化を慎むべきであろう。パソコンにオーディオ機器が内蔵されていたり、
不要に多重な機器を保有している場合も多い。また過去になくて最近急増しているのはゲ
ーム機器であろう。住宅内というより外で使うものではあるがスマートフォンの普及も電
力需要増を招いていると思われる。これらの電気機器類全般の使用削減が求められる。将
来の大幅な省エネルギーの可能性は機器の小型化(マイクロマシーン化)であろう。これを低
炭素電源と組み合わせて低排出を実現する。情報機器についてはクラウド化で情報量集約
を行い情報機器電力需要を減らすこともできるだろう。
なくても生活できる家電機器、例えば食洗機、温水便座の利用は必要最低限に留めるべ
きである。健常者に食洗機は不要、温水便座は寒冷地の冬期に限り高齢者を中心に使用す
るもので、それ以外では不要であろう。
② 生活面の削減
ⅰ)季節移住
在宅時間、生活時間、そのエネルギー需要は世帯類型により大きく異なることは実態解
析済みであるが、寒冷地の高齢者を冬期に暖地に季節移住させ、夏は都市部の家族を比較
的涼しい中間山地に移住させることで冷房負荷削減を図る。都市部から中山間地に季節移
住した場合、バイオマス燃料や太陽エネルギーを利用しやすい場所での滞在時間が増える
ことで追加的な削減効果も期待できる。次世代の省エネルギー環境教育効果も期待する。
ⅱ)建設LCA
建設LCAについては工事の直接エネルギー消費より素材生産工程での排出寄与が大き
いため主要部材であるコンクリート、鉄鋼、鉄筋、陶磁器、アルミ等の素材生産における
削減が主要な関心事である。鉄鋼、セメントとも生産技術とくにそのエネルギー利用はか
なり省エネルギーが追求された後の成熟した状況にあるため2050年までの期間に大幅な技
術革新を見込むことが難しいと判断している。そのため、その排出削減は素材利用を通じ
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た間接削減寄与が主要なものとなる。要は排出が多い素材の消費量を減らすことであり、
部材投入量削減、排出原単位が大きな素材から小さな素材への転換、代替、長寿命化、再
利用、が考えられる。
木造住宅ではコンクリートを使用しないですめばセメント消費をなくせるが現在の構法
では建物基礎にコンクリートを使用している。天然住宅では固練りの高強度コンクリート
を用いており長寿命化でLCA排出削減を追求している。建設時のCO2排出は普通のコンク
リートより大きいが寿命が十分長ければLCA的にはずっと有利である。
天然住宅の木造住宅では鉄鋼の使用量は少ない。削減方針としては超高力鋼を使うこと
で重量を減らし耐久性も高いので長寿命を見込めLCA的には有利である。
他の構造、鉄筋コンクリート造、(H鋼)鉄骨造、軽量鉄骨造、ブロック造の資材量に比
べ木造ではLCCO2排出量を小さくできる。
天然住宅の長期シナリオでは柱梁の主要構造部材を超長期使用することでLCCO2を削減
する。住宅の寿命を100年として構造部材を4回再利用するとする。すべての構造部材を再
利用できないとして7割再利用できたとすると部材の平均寿命は210年になる。30年で解体
する場合の7倍の寿命があるので構造部材のLCCO2は7分の1になる。仕上素材は紫外線に
よる劣化、間取の変更などにより構造部材より短寿命で回転するとしても解体材を原料と
して何かに利用することでLCCO2をやや圧縮できる
運用エネルギーについては2050年時点で現況の50%程度の省エネルギーを実現し、原子力
に頼らずとも再生可能エネルギーでかなり供給できるとの前提で低CO2排出が実現される
ものと想定した。それらの想定を総合すると2050年でLCCO2がカーボンニュートラルに近
い水準になると計算される(図3.3.45)。
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図3.3.45
2050年カーボンニュートラル達成CO2排出量
■⑥ラウンドテーブルの実施
上記①~⑤を横断的に検討し、社会に広げていくためにRTを実施した 21。
しかし、現状、本プロジェクトは研究開発段階であるため、全体間よりもパーツ毎にこ
だわった発表になってしまい、「一気通貫」について、うまく伝えきれなかった。今後はこ
の点を反省し、本プロジェクトの成果(主に「一気通貫ビジネスモデル」)をわかりやすく
説明した冊子を作成し、関心のある関係者だけでなく、いろいろなイベント、フォーラム、
会合等を利用して、本プロジェクト・メンバーが各地に出かけて行ってミニRTを開催する
とともに、一気通貫ビジネスモデルに関係する省庁や関係団体にも、当該冊子を持って説明
に行き、支援や協力体制を引き出す。加えて、建築学会等のWSを有効に活用して、同じ問
題意識を持っている研究者へもアピールする。そして他方で、関心はあるがまだ踏み切れて
いない工務店や林業者などに対して、定期的に養成のための講座を開く。これによって次世
代の一気通貫モデルの担い手を養成する。
このような活動を通じて仲間になった業者、関係省庁、研究者などが一同に会し、本プロ
ジェクトの考えている一気通貫モデルを広げるための大RTを行う予定である。
■その他(3,11以降の課題とその対策について)
福島第一原子力発電所の事故によって放射性物質が広範囲に拡散した。しかも、林業・林
産業が盛んな東北地域の山林に放射性物質が多く飛来したことから、(風評被害も加わり)
地域産資源を活用する産業に及ぼす悪影響は甚大である。
本プロジェクトではこれまで、超低温乾燥処理された地域産スギ材の品質(含水率、強度
21
平成 24 年 3 月 4 日に早稲田大学において『森を守れる住まい作りを(RT)
』を行った。このRTは
第 1 部と第 2 部に分け、第 1 部ではフォーラムとして「2012 年初頭「森・街プロジェクト」の大きな変貌
を!」
「森と街をつなぎ、市場に受け入れられる新たな仕組み」
「天然住宅と気候変動対策,天然住宅の木
材,居住環境」
「中古住宅市場は作れるか」を議論し、第 2 部では「全国の仲間とこれからの展開を語る会」
を行った。参加者は第 1 部に 150 名、第 2 部に 80 名。
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社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
性能(ヤング率))を現場で安価に検査するシステムを開発してきた。今後、これらの検
査技術を現場に移転するとともに、その第一の対策として消費者への明確な情報提供が必
要であることから、出荷される製材の全てについて測定日と放射線量を明記するシステム
を検討する。加えて、長寿命住宅の信頼性を確保する(中古住宅市場,部材のリユースシ
ステムを作ることに対して信用を得る)ために、これらの情報を材料の1本1本に付与(埋
め込み)し,データの永久管理システムを立ち上げる予定である。なお本データは、天然
住宅および今後その理念に賛同し、同様の取り組みを実施する他企業間で相互利用できる
ものにしていくつもりである。
65
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
(4)会議等の活動
年月日
名称
場所
概要
H23.5.25
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
H23.6.3
認証会議
H23.6.23
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
H23.7.6
天 然 住 宅 グ ル ー 名古屋大学
プと名古屋大学
グループの合同
会議
H23.7.11
認証会議
H23.7.21
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 2050年までのLCCO2 分析に
ついて
・ ・早稲田大進捗(エコヴィレ
ッジ小石川・栗駒木材)
H23.8.26
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 栗駒ミーティング報告
・ 建築学会全国大会について
・ ・ラウンドテーブルについて
H23.9.12
認証会議
早稲田大学
・ プレミニRTの報告
・ ミニRTの打ち合わせ
・ 金融機関を巻き込むための認
証制度について
H23.9.15
早 稲 田 大 学 グ ル 名古屋大学
ープと名古屋大
学グループの合
同会議
名古屋大学グループで取り組んで
いる森林資源利用シナリオの検討
と、早稲田大学グループで取り組
んでいる林業・林産業の労働生産
性および天然住宅の温熱環境等に
ついて、現状報告と打ち合わせを
行った。
H23.9.28
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 栗駒ミーティングヒアリング
結果
・ 建築学会全国大会について
・ ラウンドテーブルについて
早稲田大学
早稲田大学
66
・ 天然住宅の実測に関する検討
・ 木材の吸放湿性能試験につい
て
H23年度の研究開発実施計画作成
・ 住宅エネルギー消費量とCO2
排出量の現況分析(最新成果)
・ 森林の多様な価値の経済評価
と木材価格の関係
・ ・建築学会大会 パネルディ
スカッションの開催
クリープ試験棟の建設概要の説明
と架台および重り(鉄筋)の設計
および調達方法の検討を行った。
認証項目の検討
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
H23.10.26
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ ラウンドテーブルについて
・ ・天然住宅実測の進捗につい
て
H23.11.24
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 山田容三先生(名古屋大学)
とのミーティング内容の共有
・ ラウンドテーブルについて
・ 高口研・中島研進捗
H23.11.1 ~
5
天 然 住 宅 グ ル ー 名古屋大学お
プ と 名 古 屋 大 学 よび名古屋国
グ ル ー プ の 合 同 際展示場
会議
森・街連携に関する本プロジェク
トの社会展開について検討した.
H23.11.14
認証会議
早稲田大学
・ 住宅融資基準と認証制度につ
いての検討①
・ 化学物質に関する認証基準に
ついての検討①
H23.11.21
~22
天 然 住 宅 グ ル ー メール会議
プと名古屋大学
グループの合同
会議
クリープ架台の設置概要の説明と
鉄筋(重り)の調達方法の検討を
行った。
H23.12.20
認証会議
H23.12.26
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 住宅融資基準と認証制度につ
いての検討②
・ 化学物質に関する認証基準に
ついての検討②
・ 2010年度研究計画について
・ ラウンドテーブルについて
・ 栗駒実測の現状報告
・ 住宅実測の現状報告
H24.1.27
認証会議
早稲田大学
・ 住宅融資基準と認証制度につ
いてのWG報告
・ 化学物質に関する認証基準に
ついてのWG報告
H24.2.21
埼 玉 大 グ ル ー プ 早稲田大学
会議
・ 2011年度研究計画書の作成
について
・ ラウンドテーブルについて
H24.3.2
プ ロ ジ ェ ク ト コ 名古屋大学
アメンバー会議
今年度の研究成果を踏まえ、次年
度の実施計画について検討を行っ
た。
H24.3.7
認証会議
・ 認証制度の全体像についての
検討
・ 来年度以降の研究開発スケジ
ュール検討
早稲田大学
早稲田大学
67
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
H24.3.28
ク リ ー プ 試 験 管 栗駒木材
理・計測関係者打
ち合わせ
クリープ試験開始時の現状把握と
今後の管理および計測体制につい
ての打ち合わせ
4.研究開発成果の活用・展開に向けた状況
2011年3月11日の東日本大震災に伴い,研究開発成果の一部を当PJメンバーも参加する
「仮設じゃない復興住宅プロジェクト」へ活用し,被災地支援を行っている。
「仮設じゃない復興住宅プロジェクト」では,被災して多くを失ってしまった方々に復
興住宅を届け,その建設資金を低金利で融資するとともに,材料になる木材や建築に必要
な人員を被災地の中で調達するスキームを提供する。同時に,被災地の皆様が自らの手で
復興を成し遂げるための側面支援を行っていく。
未だ研究途中ではあるが,現状成果の試行的な活用として,以下の4点を予定している。
・低コストで高寿命の,新しい天然素材住宅の供給
・林産地と住宅建設を直接つなぐ一気通貫ビジネスモデル
・本木質多用住宅事業を支援する,非営利金融システム
・認証制度の応用
5.研究開発実施体制
(1)埼玉大学グループ
① 外岡 豊(埼玉大学,教授)
② 実施項目:
・ 削減シナリオ作成と総括
・ 住宅エネルギー消費量DB整備
・ LCA評価ソフト整備
・ 2050年までの排出削減への実践的経路提示
・ 実験住宅設計実測
・ 超低排出住宅仕様策定
・ 住宅を例にした持続可能社会化への実践総括
(2)名古屋大学グループ
① 福島和彦(名古屋大学,教授)
② 実施項目:
・ 低温乾燥国産スギ材の性能評価(短期・長期)による,建築材料としての可能
性の検討(名古屋大学,宮城県林業技術総合センター,東北職業能力開発大学
校,栗駒木材,天然住宅)
・ 材質の物理的・化学的評価による,材料の耐久面における低温乾燥法の優位性
の検討(名古屋大学)
・ 製材所に安価に導入可能な材料品質(強度・含水率)非破壊評価法の開発(栗
駒木材,宮城県林業技術総合センター,名古屋大学)
・ 森~街連携技術について社会展開のための意見交換セミナー,天然住宅モデル
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社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
・
・
・
・
以外の技術モデルの照会・内容の相違点の検討を行い,他技術を含めた連携の
方法について検討した(名古屋大学)
未利用バイオマスの有効活用のための,バイオマス変換技術移転シナリオの策
定(名古屋大学)
超低温木材乾燥装置の製造による,高性能な木材の普及(栗駒木材,天然住宅)
労働生産性の現状調査による,工場生産ラインの効率化と人材育成の仕組み作
り(栗駒木材,天然住宅,東北職業能力開発大学校)
林産地・都市双方とともに考える林業・林産業復興モデル(天然住宅)
(3)天然住宅グループ
① 相根昭典(天然住宅,代表理事)
② 実施項目:
・ 日本の天然木質住宅に適した住宅認証の作成
・ 天然木質住宅における長期使用を促進するための中古住宅市場の創設
・ 住宅所有者のCO2削減努力を促し得るファイナンス・スキームの創設
・ 事務局(全体会議の開催,成果公表物の作成,Roundtable・公開フォーラムの
開催等)
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社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
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研究開発プロジェクト年次報告書
6.研究開発実施者
研究グループ名:埼玉大学
氏名
○
フリガナ
外岡 豊
役職
(身分)
所属
ト ノ オ 埼 玉 大 学 経 済 教授
カ
担当する実施項目
削減シナリオ作成と総括
ユ 学部
タカ
樫原 徹
カ シ ハ デ ザ イ ン ヌ ー 社長
ラ
ト ブ一級建築士
オル
井田 健一
イ
事務所
ダ 埼 玉 大 学 経 済 研究員
エネルギー消費量DB基礎計算
ケ ン イ 学部
チ
国府田 諭
コ ウ ダ 埼 玉 大 学 経 済 研究員
サトル
田中
昭雄
エネルギー消費量DB基礎計算
学部
タ ナ カ 熊 本 大 学 大 学 特 任 教 省エネ対策技術評価分析
アキオ
院自然科学研 授
究科
小笠原
伸
オ ガ サ 早 稲 田 大 学
ワ
地域連携の組織化
ラ WABOT-HOU
SE
シン
鈴木 進
副所長
研究所
ス ズ キ 特 定 非 営 利 活 代表
ススム
動法人
国産材木造住宅開発
木の
家だいすきの
会
高口洋人
タ カ グ 早 稲 田 大 学 理 准教授
省エネ自然素材住宅の温熱環
チ
境・エネルギー消費量実測、
ロト
ヒ 工学術院創造
理工学部建築
LCA解析
学科
小濱 翔馬
コ ハ マ 早 稲 田 大 学 創 修 士 課 省エネ自然素材住宅の温熱環境
シ ョ ウ 造 理 工 学 研 究 程2年
マ
橋本 亜沙
ハ シ モ 早 稲 田 大 学 創 修 士 課 エネルギー消費量実測、LCA解
ト
サ
倉持 拓也
ア 造 理 工 学 研 究 程2年
析
科
ク ラ モ 早 稲 田 大 学 創 修 士 課 省エネ自然素材住宅の温熱環境
チ
クヤ
遠藤 彩和
科
タ 造 理 工 学 研 究 程1年
科
エ ン ド 早 稲 田 大 学 創 修 士 課 エネルギー消費量実測、LCA解
ウ
サ 造 理 工 学 研 究 程1年
70
析
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
ナ
科
カ ワ ム 早 稲 田 大 学 創 4年
川村 圭
ラ
エネルギー消費量実測
ケ 造理工学部
イ
保井 孝一
ヤ ス イ 早 稲 田 大 学 創 4年
LCA解析
コ ウ イ 造理工学部
チ
中島 裕輔
ナ カ ジ 工 学 院 大 学 工 准教授
マ
ユ 学部建築都市
ウスケ
木藤 宏美
実験住宅の実測
デザイン学科
キ ド ウ 工 学 院 大 学 大 修 士 課 実験住宅の実測
ヒロミ
学 院 工 学 研 究 程2年
科
研究グループ名:名古屋大学グループ
フリガ
ナ
氏名
○
福島 和彦
佐 々木
康
寿
山崎
真理
子
安藤 幸世
今井 貴規
松下 泰幸
檜山 知佐
役職
(身分)
所属
フ ク シ 名古屋大学大学 教授
研究グループの統括,バイオマ
マ
ス変換技術移転に関する統括
カ
院生命農学研究
ズヒコ
科
ササキ
名古屋大学大学 教授
乾燥材の性能評価,耐久性能に
ヤスト
院生命農学研究
関する統括
シ
科
ヤマサ
名古屋大学大学 准教授
乾燥材の強度評価,強度性能と
キ
院生命農学研究
含水率の非破壊検査法の開発,
リコ
科
耐久性能の検討
アンド
名古屋大学大学 助教
乾燥材の強度評価,実大クリー
ウ
院生命農学研究
プ性能評価
マ
コ
ウセイ
科
イマイ
名古屋大学大学 准教授
バイオマス変換技術移転シナ
タカノ
院生命農学研究
リオの策定
リ
科
マツシ
名古屋大学大学 准教授
乾燥材の化学的性質の評価,バ
タ
院生命農学研究
イオマス変換技術移転シナリ
スユキ
科
オの策定
ヒヤマ
名古屋大学大学 非 常 勤
化学分析ならびに合成実験補
チサ
院生命農学研究 技 術 補
助
ヤ
科
下村
子
委公
担当する
研究開発実施項目
佐員
シモム
名古屋大学大学 非 常 勤
名古屋大学チームの事務およ
ラ
院生命農学研究 事 務 職
びデータ整理
イ
71
社会技術研究開発
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
平野 直樹
クコ
科
員
ヒラノ
東北職業能力開 講師
林産地の労働生産性調査,地域
ナオキ
発大学校
連携,実大クリープ性能評価,
乾燥技術の開発
研究グループ名:天然住宅
氏名
○
相根 昭典
フリガナ
役職
(身分)
所属
担当する実施項目
サ ガ ネ 一 般 社 団 法 人 共 同 代 研究グループの統括、認証制度
ア キ ノ 天然住宅
表
リ
田中 優
タ ナ カ 一 般 社 団 法 人 共 同 代 中古住宅市場、認証制度の検証
マサル
中條
天然住宅
表
と作成
加 月 ナ カ ジ 一 般 社 団 法 人 ス タ ッ 認証制度の検証と作成
沙
ョ
ウ 天然住宅
フ
カヅサ
井上
あ い イ ノ ウ 一 般 社 団 法 人 ス タ ッ 中古住宅市場の作成
み
エ
ア 天然住宅
フ
イミ
柳澤 聡子
ヤ ナ ギ 一 般 社 団 法 人 研究員
サ
認証制度の検証と作成、事務局
ワ 天然住宅
サトコ
橋本 早苗
ハ シ モ 一 般 社 団 法 人 ス タ ッ 認証制度の検証と作成
ト
サ 天然住宅
フ
ナエ
奥田 裕之
オ ク ダ NPO ま ち ぽ っ 事務局
中古市場の作成、事務局
ヒ ロ ユ と
キ
前田 拓生
マ エ ダ NPO ま ち ぽ っ 研究員
タクオ
佐々木美貴
作成
サ サ キ N P O ま ち ぽ 研究員
ミキ
馬越 尚子
と
カーボンオフセット金融制度の
っと
中古住宅市場の作成、認証制度
の調査
ウ マ ゴ NPO ま ち ぽ っ 研究員
中古住宅市場の作成、認証制度
エ
の調査
ナ と
オコ
内山 隆
ウ チ ヤ N P O ま ち ぽ 研 究 補 中古住宅市場の作成、認証制度
マ
タ っと
助員
カシ
72
の調査
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研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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西 畑 あ り ニ シ ハ 鴻遼堂
さ
タ
代表
ア
中古住宅市場の作成、認証制度
の調査
リサ
池本 桂子
イ ケ モ NPO 法 人 シ ー 事 務 局 林産地と市場における認証制度
ト
ケ ズ
長
の調査
イコ
井筒 千春
鈴木 千尋
イ ヅ ツ
デ ザ イ 林産地と市場における認証制度
チハル
ナー
の調査
ス ズ キ ズアン課
代表
林産地と市場における認証制度
の調査
チヒロ
73
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
7.研究開発成果の発表・発信状況、アウトリーチ活動など
7-1.ワークショップ等
年月日
名称
場所
参加人
数
概要
H23.
9.6
天然住宅認証に対する不
動産評価専門家による外
部評価(プレミニRT)
早稲田大学
30人
住まい手のための住環境評価と
住宅認証制度の役割-長く住み
続けられる住宅であるために
-、中城康彦先生(明海大学教
授)
H23.
10.24
「森林」「長寿命住宅」
「健康」「CO2削減」を
つなぐ認証制度(ミニ
RT)
シンポジウム「森林・林
業の再生に向けた都市の
木質化をめざして」
工学院大学
60人
名古屋国際
展示場「ポー
トメッセな
ごや」
125人
日本に中古住宅市場を根付かす
ために必要な認証制度を主に金
融機関の立場から検証するため
のミニRT
国産木材と木質バイオマス燃料
を活用した住宅と生活のありか
たを提示し、森と街をつなぐ産
業間地域間連携により林業の活
性化,天然素材住宅普及するた
め、日本の各地域で活躍する林
業、林産業、建築業従事者を講
師として招き、シンポジウムを
開催した。分野横断的な課題に
ついて整理し、各産業、市民の
決意を改めて認識する会とし
た。
H23.
11.3
H23.
11.2~5
「第40回名古屋国際木工
機械展・ウッドエコテッ
ク2011」にて、「JST科
学技術振興機構」のブー
スを出展
名古屋国際
展示場「ポー
トメッセな
ごや」
H24.
3.4
森を守れる住まい作りを
(RT)
早稲田大学
74
150人
本PJの理念、取り組み実績を
紹介すると共に、東日本大震災
の復興住宅に関する模型を展示
した。
http://www.mokkiten.com/exhi
bits/gakken/kagaku
第1部・フォーラム
・ 2012年初頭「森・街プロジ
ェクト」の大きな変貌を!
・ 森と街をつなぎ、市場に受
け入れられる新たな仕組み
・ 天然住宅と気候変動対策,
天然住宅の木材,居住環境
・ 中古住宅市場は作れるか
第2部・全国の仲間とこれからの
展開を語る会
社会技術研究開発
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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7-2.社会に向けた情報発信状況、アウトリーチ活動など
本プロジェクトのHP:森街プロジェクト http://morimachi.net/
・・・2011/1/23より開設
講演:

1月21日目黒区環境保全課 温暖化対策チャレンジ25.「ワンランク上質のエコ
住宅に住まう」

7月23日
愛知
"とよた都市農山村交流ネットワーク・「農山村へのシフト」
千年委員会"
"「3.11東日本大震災 文明の曲がり角~今こそ森林・山村の
再生を語る~」

10月23日
新潟
地方文化文化会議委員会
「森林資源を生かした未来の
エネルギー」

11月8日
埼玉
子どものアレルギーから食と環境を考える NPOみれっと、
NPOもくいえ
「住む人の健康を守り 森とつながる住まい 」

11月27日
愛知
アースネット・なごや
「東北の森を守る復興住宅」

12月5日
仙台
"NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク "
「ワク
ワクする自然エネルギーの話」

12月13日
新潟
" ふるさと魅力創造プロジェクト (Made in 越後)" 「地
域でお金を回そう!-森林エネルギーの地産地消-」

2月14日
長野
長野県上小地方事務所、上小林業振興会
「新たな地域の
可能性~森林・エネルギー・地域経済の活性化を実現する」
書籍等

木っと復興通信『 温故知新の森林回復 』

エコナビ『 天然住宅ものがたり 』第1回~第8回

子どもの未来社『地宝論』
7-3.論文発表(国内誌
4件、国際誌
0件)
前田拓生、「日本における木材の需要ギャップについての考察」、『高崎経済大
学論集』(第54巻第1号、2011年)
前田拓生、「日本の既存住宅市場における問題点とその活性化に資する制度・イ
ンフラにつての考察」、『高崎経済大学論集』(第54巻第2号、2011年)
前田拓生、「住宅リフォーム産業の市場経済における意義と存立条件」、『高崎
経済大学論集』(第54巻第3号、2011年)
前田拓生、「林業から住宅建築までを一元的に管理するシステムと環境保全」、
『高崎経済大学論集』(第54巻第4号、2011年)
7-4.口頭発表(国際学会発表及び主要な国内学会発表)
① 招待講演
(国内会議
2件、国際会議
0件)
 外岡豊 CO2排出量、削減量評価手法のいろいろ JST第一回領域サロン,
2011.10 東京
 外岡 豊 住宅LCAの基礎手法 日本建築学会地球環境委員会,住宅カーボンニュ
ートラル達成シナリオWG,公開勉強会 2011.11 東京
75
社会技術研究開発
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平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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② 口頭講演
(国内会議
9件、国際会議
件)
・ 遠藤彩和 川崎正博 小濱翔馬 橋本亜沙 高口洋人 林業再生のための木材
流通システムの再構築に関する研究(日本建築学会関東支部 於:建築会館
2011/3/4)
・ 倉持拓也 小濱翔馬 高口洋人 東京都の業務施設における木質ペレット利用
に関する研究(日本建築学会関東支部 於:建築会館 2011/3/4)
・ 都築知佳、山崎真理子、佐々木康寿、安藤幸世(名大院農)、大西裕二(宮城県)、
応力波伝播速度を用いた製材ヤング率の含水率補正に関する一考察、2011年
度日本木材学会中部支部大会、静岡市産学交流センター(静岡市)2011年10
月27日
・ 都築知佳、山崎真理子、佐々木康寿、安藤幸世(名大院農)、大西裕二(宮城県)、
地域産スギ材のヤング率分布の計測-応力波法における含水率補正-、日本
材料学会東海支部第6回学術講演会 名城大学名駅サテライト(名古屋市)
2012年3月5日
・ 都築知佳、山崎真理子、佐々木康寿(名大院農)、関原光太郎、高野雅夫(名大
院環)、森林資源ポテンシャルの将来予測データを用いた集成材多用型戸建
住宅の建築シミュレーション、第62回日本木材学会大会、 北海道大学農学部
百年記念会館(札幌市)2012年3月16日
・ 田中 昭雄、外岡 豊 HLCEヒューマンライフサイクルエミッション評価のた
めの家庭部門中核都市と地方都市の比較 第30回エネルギー・資源学会研究発表
会 (2011.6)
東京
・ 国府田 諭、外岡 豊、中口 毅博、民生業務部門における2008年度市区町村別
CO2排出量の推計、第28回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演
論文集(エネルギー・資源学会)(2012.1)
東京
・ 外岡 豊、井田健一、田中 昭雄、国府田諭、日本の住宅におけるエネルギー消
費実態とCO2排出量推計、第28回エネルギーシステム・経済・環境コンファレン
ス講演論文集(エネルギー・資源学会)(2012.1)
東京
・ 田中 昭雄、外岡 豊、東日本大震災前後の家庭用エネルギー消費の地域変化、
第28回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(エネルギー・資源
学会)(2012.1)
東京
③ ポスター発表(国内会議
なし
0件、国際会議
0件)
7-5.新聞報道・投稿、受賞等
① 新聞報道・投稿
・ 朝日新聞 朝刊(2012年1月5日)「環境・地域で向き合う」
・ 東京新聞 朝刊(2012年2月27日)「エコ賃貸住宅・モーラの家」
・ シンポジウム「森林・林業の再生に向けた都市の木質化をめざして」
(2011.11.3
開催)について、「林材新聞」、「木材工業新聞」などの業界紙および業界雑
誌「木材工業」(第67巻3号、2012.3)に紹介記事掲載
76
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別添
研究開発成果に基づく政策提言
■本プロジェクトの研究開発成果に基づく提案
本プロジェクトでは下記の3つの政策を提案する。
1. 間伐・育林等の森林整備に対する補助金はマッチング・ファンド方式で行うべきで
ある。
2. 既存住宅の売買を促進するためにも、(天然住宅認証のような)認証を受けた住宅
の売買の場合、住宅ローンの金利優遇等の手続を容易にすべきである。
3. 五寸角柱など大断面木材を構造材として使用することで建物解体時に簡単に破壊
されず部材の再利用を確実にすることで部材の長寿命化を図り資源利用効率を向上
させる住宅の提案を考えている。このような住宅の普及促進のため住宅ローンの金
利を優遇し、建ぺい率緩和措置などを行うべきである。
■提案の背景
各提案に対する背景は下記の通りである。
1.の背景
現在、間伐・育林等の森林整備に関しては、国等から補助金が支給されることから、
森林組合や林業事業体が委託を受け、森林整備される仕組みとなっている。しかしこの
制度では、本プロジェクトH21年度報告書や本年度(H23年度)等でも指摘 22したように、
森林組合や林業事業体に中間マージンとして搾取されるだけであり、しかも不必要な(ま
たは、過剰な)森林整備が行われることがある一方、真に必要な(林道設置などの)整
備が、一定の要件を満たさない場合、補助金を受けることができないことがある。
また現在、林業・林産業の問題は、木材流通の中間に存在する団体(森林組合や林業
事業体等)がそれぞれ中間マージンを搾取するため、林業者(含む森林保有者)に必要
な収益が回っていないという問題がある。
したがって、林業者(含む森林保有者)が真に必要とする森林整備においては、中間
マージンとして搾取されず、林業者(含む森林保有者)自身にメリットとなるような制
度が求められる。
2.の背景
日本の住宅の寿命が短いのは、本プロジェクトH22年度報告書や前田拓生[2011]23 で
も指摘したように「耐久性が低い」ということよりも、既存住宅流通市場がうまく機能
22 この他、前田拓生[2011]「社会的共通資本としての人工林と社会的企業の必要性」
『高崎経済大学論集』
第 53 巻第 4 号 http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/ronsyuu/ronsyuukeisai/53_4/maeda.pdf でも
林業の中間マージンについての問題を考察している。
23 前掲論文「日本の既存住宅市場における問題点とその活性化に資する制度・インフラについての考察」
『高崎経済大学論集』第 54 巻第 1 号
77
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
していない状態になっている点が大きい。そこで既存住宅流通市場を機能させることが
必要であるが、特に木造住宅においては、住宅機能の劣化を食い止めるためのメンテナ
ンス・システムもなく、また、メンテナンスをしてもその機能向上(または劣化速度の
低下)を認める術もないことから、住宅の需要者が納得するような既存住宅が存在しな
いため、結果的に既存住宅が売買されず、スクラップ・アンド・ビルドされるのが現状
である。また現在、新築・既存に関わらず、住宅の取得に対しては一定の基準を満たせ
ば、住宅ローン等の減税措置の恩恵を受けることが可能である 24。しかし、既存住宅に関
しては、その証明等を取得することが困難であったり、手続き自体が煩雑であったりす
ることから、敢えて既存住宅を選ぶことはせず、新築を好む主体が多くなっているもの
と考えられる。
とはいえ、実際には前田拓生[2012]25 の分析で明らかなように既存住宅流通市場が機
能する経済の方が、機能しない経済より、経済成長が高くなるし、LCCO2的にもスクラ
ップ・アンド・ビルドが恒常化する社会よりも、既存住宅が流通する社会の方が優れて
いる。
そこで、住宅の建築時(というよりも、素材である木材)から「如何に建てられてい
るか」がわかり、また、建てられた後も「如何にメンテナンスされているのか」を知る
ことができる認証(天然住宅認証)を受けている場合、住宅ローンの減税等の手続きが
簡易になれば、同じ地域、同じ規模の住宅であれば、新築よりも既存住宅の方が価格は
安いので、住宅需要者としても既存住宅を選択肢の中に入れるものが増えることが考え
られる。
3.の背景
木造住宅の耐久性を高めるのであれば、構造材を大断面にすべきである。また、構造
材を大断面にすれば、住宅を解体する際にミンチ解体(部材の再利用が不可能な破壊解
体)されにくく、大断面の木材であれば木材資源を多段階に利用(カスケード利用)す
るにも有利である。さらに大断面木材材であれば、価格的にも高く販売でき、林業・林
産業者の所得の向上にもつながろう。
しかし、柱を太くしたり壁厚が増すとその分室内有効空間面積が狭隘になり、それを
防ぐには住宅の建坪を増大させる必要があり、その分初期建築費用が増大する。
一方、構造材を大断面木材材にすることで柱間隔を長く取ることができると、大面積
の無柱空間が可能となることから、設計の自由度が増し、ライフスタイルの変化に合わ
せて間取りの変更も容易になる等の利点もある。
■提案内容
各提案の内容は下記の通りである。
1.の内容
24
国土交通省「住宅・各税制の概要
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr2_000011.html 」、「耐震基準適合
証明書 http://www.mlit.go.jp/common/000041426.pdf 」
25 前田拓生[2012]「住宅リフォーム産業の市場経済における意義と存立条件」
『高崎経済大学論集』第 54
巻第 3 号
78
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
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林業者(含む森林保有者)が真に必要とする森林整備を、中間マージンとして搾取さ
れず、しかも、林業者(含む森林保有者)自身にメリットとなるような制度するために
は、マッチング・ファンド方式 26による補助金制度にすべきである。マッチング・ファン
ド方式であれば、直接林業者(含む森林保有者)自身に資金が回るため、中間マージン
として搾取されず、また、不必要な(または過剰な)森林整備が行われることもない。
したがって、間伐・育林等の森林整備に対する補助金は、マッチング・ファンド方式
で行うように改正すべきである。
2.の内容
長期優良住宅制度等を推進することは大切ではあるが、「長持ちする住宅」だからと
いって既存住宅のまま売買されるとは限らない。「本来は長持ちする住宅」であっても
メンテナンスをしなければ、当初予定されていた耐久性は保持されない。したがって、
既存住宅の大部分の性能が明確でなければ、既存住宅流通市場は機能しないことから、
スクラップ・アンド・ビルドが続くことになる。とはいえ、同じ地域、同じ規模の住宅
であれば、新築よりも既存住宅の方が価格は安いので、当該住宅の機能が明確であれば、
住宅需要者としても既存住宅を選択肢の中に入れるものが増えることが考えられる。
そこで、住宅認証(天然住宅認証)を受けていれば、住宅ローンの減税等の手続きを
簡易にする制度を提案する。住宅認証(天然住宅認証)を受けていれば、当該住宅の性
能が明確になる上に住宅ローンの金利優遇の面でも新築と既存住宅で無差別となること
から、日本でも既存住宅流通市場が機能するようになるものと考えられる。
3.の内容
大断面構造材住宅は有効室内面積当建設単価の上昇が予想されるところからその普及
には何らかの優遇策が必要である。初期投資額の増大に対しては住宅ローン融資の優遇
策が必要である。また狭隘な敷地に許容容積率限度いっぱいの建築面積、延床面積の建
物とすることが多いことから、その普及には容積率・建ぺい率等規制の緩和措置が必要
である。また中古物件の評価に際してもその価値が正答に評価されるよう認証などの措
置が望まれる。
2.及び3.が必要である点についての付加的内容
福島第一原子力発電所の事故によって、林業・林産業が盛んな東北地域の山林に放射
性物質が多く飛来した。そのため、東北地域の木材に関しては放射性物質の(風評被害
を含む)悪影響は避けられない。しかし実際には、人体に直接影響を与えるほどの放射
能汚染を受けた木材は比較的少なく、汚染がひどくない木材であれば、焼却しない限り、
住宅の建材として問題がない。とはいえ、現在のように住宅が30~40年くらいで建て替
えられる状況においては、住宅が建て替えられることによって、当該住宅に使用された
木材は廃棄され、焼却される可能性が否めない。そうなると放射性物質が濃縮されるこ
とから、適切に処理されない限り、環境汚染の問題を引き起こすことになる。
そこで「2.」の提言のように日本でも既存住宅流通市場が機能させるため、住宅認
26
全額を補助金として支給するのはなく、事業者自らが拠出する資金(事業者を支援する団体からの寄付
などの資金を含む)と同額を、国等が補助金として支給する方式。
79
社会技術研究開発
研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」
平成23年度 「快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する」
研究開発プロジェクト年次報告書
証(天然住宅認証)を受けていれば、住宅ローンの減税等の手続きを簡易にする制度を
創設すべきである。また、「3.」の提言のように構造材を大断面にすることで、木材
資源を多段階に利用(カスケード利用)される可能性が高く、焼却による放射性物質の
濃縮問題の可能性が低くなる。さらに1部屋当たりのスペースが広くすることが可能であ
ることから、ライフスタイルの変化に合わせて居住スペースを変えることが容易になり、
今後の少子高齢化社会に適していることから、既存住宅流通市場の促進にもつながろう。
以上
80
(別紙)
林業再生のための木材流通システムの再構築に関する研究
準会員 ○遠藤彩和
4.環境工学-20.都市環境・都市設備
国産木材 木材流通システム
正会員
川崎正博
正会員
高口洋人
*1
準会員 倉持拓也
*2
正会員 小濱翔馬
*1
*2
*3
林業 林産業 経済性評価 LCCO2
1. はじめに
日本は国土の 67%を森林が占める木材資源豊かな国である 1)。
一方、戦後の木材供給不足を補うために行われた、1960 年代の
ム内で格差が生じているのが現状である。H17 年度の林野庁に
よる国産杉製材(グリーン材)1m3 あたりのコスト試算 2)、お
よび林野庁育林費データ調査 3)、素材生産費データ調査 4)を基
木材輸入完全自由化により、価格の安い外国産材(以下、外材)
に利益等を含め試算した本来必要な素材価格を図 2 に示す。国
が輸入され、当時高価格であった国産木材(以下、国産材)の
産杉製材の工務店着価格は 1m3 あたり 69,600[円/m3]であり、そ
価格は、供給が安定するに従い低下し始める。この価格低下の
こから各事業者に必要な流通費・運搬費・加工費・利益分をそ
しわ寄せは主に林業に及び、現在では林業施業コストを販売価
れぞれ差し引くと、最終的な素材価格は製材換算あたり
格で賄えない状況に陥っている。しかし、林業施業において補
20,000[円/m3]となる。立木から製材までの歩留まり率を 39%と
助金が出ていることで、この問題は現在も一般的に認知されて
し、1ha あたりの立木材積を 396[m3/ha]5)とした場合、素材生産
いない。さらに、近年では供給体制の未整備から外材よりも値
業者が採算を取るために必要な杉製材1m3 あたりの価格は製材
段が安いにも関わらず、供給が安定した外材が選択されるとい
換算で 29,000[円/m3]となる。つまり、現在製材 1m3 あたり
う現象も見られる。このような国産材の抱える問題の解決策と
9,000[円/m3]の損失である。さらに、H21 年度の素材価格 6)は製
して、国産材そのものの高付加価値化や製材工程の合理化によ
材換算あたり 18,200[円/m3]と低下しており、林業での損失が一
る生産コストの削減が考えられるが、このような取り組みは一
層拡大していると予測される。
部のブランド材産地を除きほとんど行われていない。
本研究では、細分化された現状の木材流通システム(以下、
林業
現状型システム)に着目する。木材流通を林業から住宅建設ま
で一貫して一つの事業者が行なうことを想定し、林業・林産業
の採算性を確保する新たな木材流通システムを提案する。ここ
ではこの流通システムを「一気通貫型木材流通システム(以下、
一気通貫型システム)
」と呼ぶ。実際に一気通貫型システムに
林産業
プレカット工場
素
材
生
産
業
者
原
木
市
場
製
材
工
場
製卸
品売
市業
場者
小売店
①
②
③
④⑤
⑥
図 1 現状型システム概要
取り組む事業者へのヒアリング調査を通じ、一気通貫型システ
ムの経済性評価および LCCO2 の評価を行い、
一般的な流通シス
[円/m3製材]
テム(現状型システム)と比較することで一気通貫型システム
80,000
各事業着価格
の優位性を検証し、木材流通システムの再構築を図る。
70,000
2.1 現状型システムとその問題点
現状型システムの概要を図 1 に示す。木材流通システムは主
に林業と林産業からなり、林業は立木を育てる育林と立木を伐
採し素材(丸太)を生産する素材生産の、双方を行なう森林組
合等の素材生産業者から成る。林産業とは素材が製材として加
工され、工務店に出荷されるまでを指す。図 1 のように、現状
型システムには少なくとも素材生産業者・製材工場・プレカッ
国産杉製材1m3あたりのコスト試算
2. 現状システムおよび一気通貫型システムの概要
14,600 各事業必要経費・利益分
60,000
50,000
11,400
40,000
69,600
21,100
30,000
55,000
2,500
43,600
20,000
29,000
ト工場の 3 事業者、多い場合は 6 事業者が携わっている。現状
型システムの問題点は細分化された木材流通システムによっ
て多くの流通費が発生し、製材価格に対して素材価格が低く補
助金なしでは素材生産業者の採算が取れないことである。木材
流通をそれぞれ別事業者が行なうため、林業の採算が取れてい
なくても、林産業の採算は取れている、という木材流通システ
9,000
22,500
10,000
20,000
20,000
0
工務店
小売店
卸売業者 製材工場 原木市場 素材生産 必要素材価格
3
図 2 国産杉製材 1m あたりのコスト試算
および必要素材価格
工
務
店
(別紙)
同一事業者
2.2 一気通貫型システムの概要
一気通貫型システムの概要を図 3 に示す。一気通貫型システ
林業
ムでは、現状型システムの問題点を解決するため、林業、林産
業および住宅建設までを同一事業者が一貫して行なう。一気通
林産業
素
材
生
産
育
林
貫型システムによる改善点として、まず 1 点目に林産業工程を
原
木
貯
蔵
製
材
加
工
刻
み
加
工
製
材
乾
燥
住
宅
建
設
一つの製材所が全て行なうことで、流通コストを必要最低限ま
図 3 一気通貫型システム概要
で削減可能である。2 点目には、林業・林産業を同一事業者が
行なうことで双方の採算を同時に確保出来ることである。
表 1 林業ヒアリング調査結果
3. 一気通貫型システムのヒアリング調査
(a) 林業作業別日数・人工・人件費と伐採時立木材積
3.1 ヒアリング調査概要
実際に一気通貫型システムを実践する宮城県 K 社にヒアリ
作業日数
林業
ング調査を行なった。H22 年 7 月のヒアリング調査では、K 社
[日/ha]
各作業
総人件費
作業人工
立木材積
[人・日/ha] [円/各作業]
[m3 立木/ha]
山林部および製材部職員にヒアリングを行い、K 社の行なう林
苗木購入・運搬
1
1
15,000
―
業および林産業の作業内容・工程・人工(にんく)を確認した。
地拵え
6
30
540,000
―
同 8 月には、
前回ヒアリング調査内容に加え、
各作業の人件費、
植林
4
20
270,000
―
および作業にて使用した重機・機器・車両の種類、使用時間、
下刈・ツル切(10 回)
50
100
1,430,000
―
および重機・機器・車両が使用した各エネルギー量、年間生産
枝打ち(3 回)
12
60
810,000
―
製材量、歩留まり率を調査した。林業は苗木購入・運搬から主
除伐
5
2
135,000
―
伐までの見積り値を、林産業は H21 年 10 月から H22 年 9 月ま
間伐①
10
2
135,000
―
での実績値を調査対象とした。減価償却費、固定・流動資本利
間伐②
21
31
465,000
100
子、作業員の労災費等に関しては見積りが難しいため、調査対
主伐
28
94
1,568,000
1,000
(b) 植林(苗木)詳細
象外とした。
3.2 ヒアリング調査結果
林業・林産業のヒアリング調査結果をそれぞれ表 1、表 2 に、
苗木
林業・林産業を通した歩留まり率を表 3 に示す。またヒアリン
購入量
[本/ha]
価格
[円/本]
購入場所
2,500
135
宮城県農林種苗農業共同組合
グより明らかになった、一般的に行われている林業および収穫
表 2 林産業ヒアリング調査結果
増を目標とする林業施業概要を図 4 に、K 社の林産業工程概要
を図 5 に示す。
表 1 での立木材積は収穫増の林業施業の場合のものであり、
がそれぞれ伐採される。この立木材積は、育林作業において下
3,335
年間製材人件費 [円/年]
94,510,000
年間使用エネルギー量
[単位/年]
電気 [kWh]
軽油 [L/年]
67,790
46,850
年間使用エネルギー代 [円/年]
1,477,000
1,143,000
上層樹高と胸高直径の見積りから立木幹材積表 7)より算出した
値である。間伐二回目に 100[m3 立木]が、主伐時に 1,000[m3 立木]
年間生産製材量 [m3 製材/年]
刈を通常より多い計 10 回行なったことにより成長を促進し、
表 3 立木から製材までの歩留まり率
通常ならば間伐 2 回目は育林作業であるが、その際に伐採され
る立木が 100[m3 立木]となり、素材生産として収入を得るのに十
分可能な材積量になっている。また、下刈や間伐 2 回目の作業
立木(幹材積)素材(皮むき後)製材(表面加工後)
歩留まり率 [%]
100
65.0
37.5
により、立木の成長が促進されたことで主伐時の材積も増加す
育林
ることから、立木材積を多く見積ることが可能であった。
林産業では、表 2 に示すように使用エネルギーは電気と軽油
の 2 種類があり、電気使用量は K 社の年間総使用電気量からチ
地
拵
え
植
林
ツ
ル
切
下
刈
2
回
運搬
製
材
工
場
(
K
社
)
へ
運搬
製
材
工
場
(
K
社
)
へ
素材生産
枝
打
ち
3
回
除
伐
2
回
間
伐
①
間
伐
②
主
伐
集
材
・
加
工
ップ・ペレット生産時の電気量を差し引いた値である。製材加
(ケース 1) 一般的に行われている林業施業概要
工後 9 割の製材が燻煙乾燥ののち天日乾燥へ、残り 1 割が直接
育林
天日乾燥され、天日乾燥が施された製材は、表面加工を経て、
刻み加工が行なわれる。また、燻煙乾燥には表面加工の際に出
たプレーナーカスから生産されたペレットを使用している。な
お、表 3 の立木から製材までの歩留まり率はヒアリングデータ
を元に計算し、立木を 100%とした際の値である。立木は幹材
積、素材は皮むき後の材積、製材は表面加工後の材積をそれぞ
地
拵
え
植
林
ツ
ル
切
下
刈
10
回
素材生産
枝
打
ち
3
回
除
伐
間
伐
①
間
伐
②
主
伐
(ケース 2) 収量増を目的とする林業施業概要
図 4 林業施業概要
集
材
・
加
工
(別紙)
れ歩留まり率計算時の材積として設定している。刻み加工の歩
留まりは、各製材で異なることや他の工程に比べ微小であるこ
林
地
製材工場
運
搬
工
務
店
運
搬
製材の流れ
その他生産物の流れ
とから考慮しない。本研究では、立木、素材、製材それぞれに
天日乾燥
製
素 100% 皮 96% 材
材
剥
加
工
よって 1m3 が示す意味が異なる。
その差異を示すため、
立木 1m3
ならば[m3 立木]、製材 1m3 ならば[m3 製材]と記す。
57% 表
刻
面 55% み 55% 製
材
加
加
工
工
6%
51%
51%
燻煙乾燥
4. 一気通貫型システムの経済性評価
4%
敷わら生産
4.1 林業施業コスト・製材生産コスト試算
出荷
ヒアリング調査結果を元に、一気通貫型システムにおける林
2%
39%
チップ生産
ペレット生産
出荷
(敷わら業者へ)
出荷
(製紙工場へ) (ペレットストーブ所有者へ)
図 5 K 社の林産業工程概要
業施業コスト(ケース 1、ケース 2)
・製材生産コスト試算を行
なった。コスト試算結果を図 6 に示す。ケース 1 の林業施業コ
ストは林野庁データ 3) 4)を用いたが、ケース 2 の林業施業コスト
はヒアリング調査より求めたものであり、70 年間という長期の
[円/m3製材]
育林コスト
素材生産コスト
苗木購入
地拵え
植林
下刈
枝打ち
除伐
間伐①
間伐②
主伐
電気代
軽油代
人件費
28,000
試算を行なうため、エネルギー価格の変動を加味することは難
しい。そこで、ケース 2 における林業施業コスト試算では林産
業の調査期間における H20 年 10 月から H21 年 9 月までの各エ
ネルギーの全国平均価格8)を用いて試算を行なった。
図6より、
ケース 1 の場合、林業施業コストは育林費と素材生産費を合計
24,000
20,000
素材生産コスト
人件費
11,200
25,400
16,000
3 製材
した 24,000[円/m
]となり、ケース 2 の場合、林業施業コスト
は 17,000[円/m3 製材]となる。また、製材生産コストは試算の結果
12,000
3 製材
26,200[円/m
]である。ケース 2 の林業施業コストでは、育林
育林コスト
12,800
8,000
費と素材生産費の割合がほぼ 4:3 となった。林業作業別に見
主伐 5,590
下刈 790
4,000
ると、特にコストに占める割合の高い作業として、下刈や主伐
植林 655
枝打ち
659
地拵え 1,510
苗木購入 855
が挙げられる。製材生産コストでは、電気代、軽油代に対し、
0
人件費が全体の 97%を占めていた。
林業施業 11
コスト
22
33
44
ケース1
現在一般的な林業施業
4.2 一気通貫型システムの経済性評価
55
10
10
軽油代
343
間伐②
間伐① 1,720
387
除伐
387
15
15
20
20
30
30
電気代
423
70
70
林業計
[年] 製材生産
合計
コスト
林業施業コスト
ケース2 収量増を目的とした林業施業
3
H21 年度の林野庁データを見ると、国産杉製材(乾燥材)1m
図 6 一気通貫型システム内
林業施業コスト・製材生産コスト
あたりの工務店着価格 9)は 75,900[円/m3 製材]である。現状型シス
テムにおける林業・林産業双方の採算確保のために必要な製材
販売価格を、林野庁データ
2)3)4)
から試算した場合、林業は
表 5 減価償却費、利益・利子等、運送費の設定値
3 製材
28,900[円/m
]、林産業は 57,700[円/m3 製材]で、利益分を含め製
減価償却費
[林業、林産業コスト合計値]×0.1
なわち現状型システムでは 10,700[円/m3 製材]材の赤字となってい
利益・利子等
[減価償却費を含めた林業、林産業コスト合計値]
×0.15
る。一方、一気通貫型システムにおけるコスト試算で算出した
工務店までの運送費
6,350 円/m3 製材
材 1m3 あたり合計 86,600[円/m3 製材]必要であることが分かる。す
外したものであるため、林野庁データ
2) 4)
およびヒアリングから
各値を表 5 のように設定した。これにより、林業施業がケース
1 の場合の一気通貫型システムにおける必要製材販売価格は
3 製材
69,600[円/m
3 製材
]で、ケース 2 の場合は 61,100[円/m
]となる。
すなわち一気通貫型システムによって流通費等を削減したこ
とにより、林業・林産業双方の採算確保が可能となる。
また、林野庁データ 3) 4)およびコスト試算結果から 1ha あたり
の立木材積と育林費・素材生産費の関係式を算出し、1ha あた
3
りの立木材積と製材 1m あたりの林業・林産業における製材生
[円/m3製材]
120,000
国産杉製材価格
75,900円/m3製材
100,000
製材1m3あたり工場着価格
値は減価償却費、利益・利子等および工務店までの運送費を除
一般的な林業(ケース1)
(447m3立木)
80,000
利益・利子等
減価償却費
60,000
育林コスト
40,000
素材生産コスト
20,000
なる。一般的な林業での伐採期における人工杉 1ha あたりの立
木材積 4) 5)は全国平均で 447[m3 立木/ha]であることから、一気通貫
型システムは経済的に採算が取れるという点で有効である。
林
業
施
業
コ
ス
ト
林産業コスト
335m3立木
産コストの関係を明らかにした。結果を図 7 に示す。工務店着
価格 75,900 円の際の 1ha あたりの立木材積は、335[m3 立木/ha]と
収量増林業(ケース2)
(1,100m3立木)
0
運送費
01
100
200
300
400
500
600
700
800
900 1000 1100 [m3立木/ha]
1haあたりの立木材積
図 7 1ha あたりの立木材積と
3
製材 1m あたりのシステム内コスト
(別紙)
[kg-CO2/m3製材]
5. 一気通貫型システムの二酸化炭素排出量の把握
る。林業・林産業のシステム境界を図 8 に示す。林業における
システム境界では、林地での各林業作業および作業員・重機の
運搬はシステム境界内とし、作業員の自宅から事務所までの通
勤や、使用する車両・重機の製造時の CO2 排出量はシステム境
界外とした。同様に、林産業におけるシステム境界では、製材
製造や素材・製材運搬をシステム境界内とし、製材以外の生産
製材1m3換算あたりのCO2排出量
一気通貫型システムおよび現状型システムの LCCO2 を算出す
30
25
20
一気通貫型林業
15
現状型林業
10
5
0
地
拵
え
苗
木
運
搬
用する車両・重機の製造時の CO2 排量、事務所等の建設時 CO2
排出量、はシステム境界外とした。なお、現状型システムは文
一気通貫型林業
35
物製造時の CO2 排出量や林産業に従事する作業員の通勤や、使
献調査
現状型林業
40
植
林
枝
打
ち
下
刈
・蔓
切
除
伐
間
伐
①
間
伐
②
主
伐
図 9 現状型および一気通貫型システム林業 LCCO2 比較
10) 11)
より、一気通貫型システムはヒアリング調査結果よ
り、双方のシステム LCCO2 を算出した。算出結果とその比較を
図 9・図 10 に示す。現状型システムは図 8 に示すシステム境
育林
素材生産
原木市場
製材工場
運搬②
プレカット加工
8.13
界に沿って、林業 LCCO2 を再計算した上で比較を行なった。そ
の結果、現状型システムに比べ、一気通貫型システムでは林業
運搬①
33.7
製材工場(K社)
運搬②
2.73
運搬①
0.461
現状型
システム
における CO2 排出量は増加する。この理由は、一気通貫型シス
テムにおける林業が収量増を目的とする林業施業であること
育林
素材生産
原木市場
1.78
製材工場
17.1
から、重機・車両の使用時間が増加したことで排出量が増加し
たことにある。しかし、林産業において運搬時のエネルギー使
▲10.7kg-CO2/m3製材
一気通貫型
システム
用による CO2 排出量が削減できたことなどにより、全体で 10.7
40.5
13.1
製材工場(K社)
23.7
[kg-CO2/m3 製材]の削減となった。
0
6. まとめ
20
40
製材1m3あたりのCO
本研究により得られた知見を以下に示す。
3 製材
1) 現状型システムでは、H17 年度で 9,000[円/m
]の林業にお
プレカット工場
34.2
60
2排出量
80
100
[kg-CO2/m3製材]
図 10 現状型および一気通貫型システム LCCO2 比較
ける採算割れが発生していた。
2) 一気通貫型システムにでは、1ha あたり 335[m3 立木/ha]以上で
あれば、現状の製材価格を維持した状態での林業・林産業双
方の採算確保が可能である。
3) 一気通貫型システムを行なうことで、現状型システムに比べ
CO2 排出量を 10.7[kg-CO2/年]削減可能である。
システム境界
工
程
地
拵
え
ツ
ル
切
植
林
項
目
下
刈
枝
打
ち
間
伐
①
除
伐
間
伐
②
主
伐
集
材
・
加
工
運搬
各林業作業
林地への苗木・作業員・重機・素材運搬
作業員通勤
使用車両・重機製造
林
産
業
(a) 林業システム境界
工
程
現状型
一気通貫型
運搬
原木市場
運搬①
1.5km
製材工場
運搬
システム境界
24km
プレカット工場
運搬
運搬
製材工場
製材製造
項
目
運搬②
素材・製材運搬
その他生産物製造
事務所建設
従業員通勤
使用車両・重機製造
(b) 林産業システム境界
図 8 林業・林産業システム境界
工
務
店
<謝辞>
本研究は、
(独)科学技術振興機構「地域に根ざした脱温暖化・環境共生
社会」研究開発プロジェクト―快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森
と街」の直接連携で実現する―の一環として行なったものである。ご協力下
さった皆様に感謝の意を表します。
<参考文献>
1)
林野庁: 平成 21 年度森林・林業白書, 2009
2)
林野庁: 今後の木材産業や木材利用のあり方,
http://www.rinya.maff.go.jp ,2006.6
3)
林野庁: 主要樹種別育林費累計統計
(50 年生までにおける育林費:すぎ), http://www.e-stat.go.jp, 2007.12
4)
林野庁: 素材生産費等調査報告書, 2009
5)
林野庁: 森林資源の現況, http://www.rinya.maff.go.jp, 2007.3
6)
林野庁: 木材価格[月別], http://www.maff.go.jp, 2008.4~2009.3
7)
林野庁: 立木幹材積表 東日本編, 1970.3
8)
財団法人日本エネルギー経済研究所 石油情報センター:
一般小売価格, http://oil-info.ieej.or.jp/, 2009.10~2010.9
9)
林野庁: 近年の製材品価格, 2009
10) 東京都産木材による木造住宅の LCA 調査実行委員会: 東京産木材に
よる木造住宅の LCA 調査報告書-多摩産の構造部材による木造軸組工
法上棟までのインベントリ分析-,2004.3
11) 東京都産木材による木造住宅の LCA 調査実行委員会: 東京産木材に
よる木造住宅の LCA 調査報告書-多摩産の構造部材による木造軸組工
法上棟までのインベントリ分析- (改訂版), 2007.9
*1 早稲田大学創造理工学部建築学科4 年
*2 早稲田大学創造理工学研究科建築学専攻 修士課程
*3 早稲田大学理工学術院 准教授・博士(工学)
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