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第5章 - 電子政府の総合窓口e

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第5章 - 電子政府の総合窓口e
第5章
施策編その2
∼「業種別生産性向上に向けた処方箋」∼
サービス産業は業種毎に特性が異なり多様であるため、きめ細かな施策を行
っていく必要がある。このため本章では、サービス産業の問題点及び処方箋に
ついて、業種毎の整理を行っている。
5.1.
5.2.
5.3.
5.4.
5.5.
5.6.
5.7.
5.8.
5.9.
5.10.
5.11.
5.12.
小売業
情報サービス業
研究開発サービス業
認証サービス業
プラントエンジニアリング業
プラントメンテナンス業
総合商社
対個人サービス業
業務プロセスアウトソーシング業
環境装置のサービサイジング
自動車販売業
参考:金融業の状況について
76
5.1.
小売業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野における小売業の位置づけ
我が国の流通産業(卸・小売業)は、粗付加価値額が約 70.3 兆円と GDP
の約 14%程度を占めており、製造業に次ぐ、サービス産業の中では最も規模
の大きい産業である。また、我が国の家計消費支出は約 350 兆円であるが、
小売業販売額が約 135 兆円であることから見ても、消費市場に占める小売業
の存在が非常に大きいことが分かる。なお、我が国の特徴として、小売業販
売額に占める中小小売業の割合が約7割と高い点が挙げられる。
一方、流通産業の労働市場における位置づけについては、就業者数が約
1100 万人であり、全産業就業者数の約 17%を占めている。近年就業者数は
減少傾向にあるものの、製造業とほぼ同規模の労働市場を有しており、特に、
パート労働者の主要な受け皿となっている。
このように、小売業は産業規模、雇用規模が大きく、我が国の産業構造や
労働市場の中で非常に重要な位置を占めている。
② 小売業の生産性を向上させる必要性
我が国小売業の従業員一人当たりの付加価値額は、製造業や他の非製造業
に比べて著しく低い状態が続いており、また、欧米諸国と比較しても、生産
性は低い。今後、労働コストは上昇が予想されるところであり、相応のスピ
ード感をもって労働生産性の向上を実現することが喫緊の課題である。
(2) 業界の現状
① 市場環境
我が国が人口減少局面に入ったことにより、今後、国内市場の量的縮小が
予想される。また、高齢化や女性の社会進出といった社会構造の変化が、小
売業に施設配置や商品・サービス面で戦略の見直しを迫っている。個人消費
も質的に変化しており、モノ消費からサービス消費へのシフト、消費者の情
報収集能力の向上、ライフスタイルを反映した購買行動等が見られる。
業態を越えた競争の激化を受け、縮小する市場での生き残りを目的として、
経営基盤強化に向けた水平又は垂直の経営統合、業務提携の動きが進展して
いる。
② 産業構造
国内小売販売額が減少傾向にあるなか、百貨店、総合スーパーといった総
合小売や中小小売の業績は停滞傾向にある。これまで店舗数の増加に伴い著
しい成長を遂げてきたコンビニエンスストアについても、市場の飽和感が見
られる。他方、家電、衣料、住居用品等分野における専門量販店や、物品販
売のみならずサービス業のテナントも有するショッピングセンターが成長し
ている。
経済のグローバル化に伴い、海外においては欧米系のグローバルリテイラ
ーが国境を越えた活動を展開している。日本市場に適応して高い集客力を誇
る外資系小売事業者も存在する。他方、我が国小売事業者のアジア等海外進
77
出は、欧米の事業者に比べて進んでいない。
現在、リアル店舗を持つ小売業が全体として伸び悩む一方で、ネット通販
市場は消費者の支持を得て大きな伸びを見せており、参入する事業者も多く
様々なイノベーションによって、従来の流通業よりも効率的なサプライチェ
ーン及びオペレーションが実現しているところである。これに対抗し、既存
のリアル流通事業者も新たなチャネルとしてネットを活用する動きがある。
③ 雇用環境
団塊世代の大量退職、少子高齢化の進展など労働力人口の減少はもとより、
各種サービス業をはじめとする新たな成長産業が雇用の受け皿となり、労働
集約型産業の小売業にとっては一層の人手不足感が顕在化しつつある。小売
業はこれまで、積極的な店舗展開と単純作業の増加を、家計補助を目的に労
働意欲を持つ主婦層や柔軟な働き方を望む層を中心とした、比較的コストの
低いパート労働者の活用によってカバーするビジネスモデルを構築してきた。
今後、労働力の減少による人材確保競争の激化、景気回復に伴う賃上げ圧力
の増大、処遇格差の縮小を目的とする各種労働関連法の改正等を原因に労働
コストの増加が予想され、これまでのビジネスモデルは大きな転換が求めら
れると考えられる。
(3) 生産性の現状
① 小売業における生産性計測指標
小売業における生産性の計測には、従業員一人あたりの付加価値額が用い
られている。店舗面積あたりの販売額も、販売効率の指標として用いられる
ことがある。さらに、中小小売業の生産性計測にあたっては、商店当たりの
販売額や従業員当たり販売額も参考指標と考えられる。
② 小売業における生産性の現状
我が国の小売業の従業員1人当たりの付加価値額を見た場合、製造業や他
の非製造業に比べて著しく低い状態が続いており、また、日米比較において
も、小売業の生産性は低い。先進主要諸国と比べても、商店当たり販売額及
び従業員あたり販売額は低いといえる。特に、店舗面積は年々増加している
が、他方、小売業の販売額総体は平成9年以降減少傾向にあり、売場面積あ
たりの販売額は平成3年以降一貫して減少傾向にある。
78
従業者あたり販売額
商店あたり販売額
万ドル
万ドル
350
300
250
200
150
100
50
0
30
309
24.3
25
171
129
20.8
20
142
15
15.0
13.6
12.8
10
80
5
日本(2004)
アメリカ(2002)
イギリス(2005)
フランス(2004)
0
ドイツ(2004)
日本(2004)
出展:各国商業統計(PPP(OECDデータ)により換算)
アメリカ(2002)
イギリス(2005)
フランス(2004)
ドイツ(2004)
出典:各国商業統計(PPP(OECDデータ)により換算)
(4) ユーザーからの評価
ユーザー(消費者)が、商品・サービスを購入する場合や飲食する場合に最
も頻繁に利用する店舗業態については、品揃えについて優位性のある大型店が
何れの年齢階層においても最多となっているが、中小店もコンビニ等と同程度
の支持がある。29 歳以下の若年層についてはコンビニエンスストアの利用割
合が多いのが特徴的となっている。
79
年齢階層別の最も利用する場所・業態
近所の中小店
近所の大型店
近所の量販専門店
近所のコンビニエンスストア
通信販売・インターネット
29歳以下
7.3
30∼49歳
近所以外の中小店
近所以外の大型店
近所以外の量販専門店
近所以外のコンビニエンスストア
その他
37.3
1.1
14.2
6.7
10.7
22.3
1.6
52.8
1.7
9.6
5.7
6.0
6.6
8.6
0.9
0.4
1.8 4.3
0.3
1.5
50∼59歳
61.1
0.2
11.6
9.3
6.6
1.3 4.6
2.3
1.5
2.9 1.1
60歳以上
10.5
1.7
全体
10.9
1.2
64.6
51.0
0%
20%
7.3
7.1
9.5
6.4
40%
11.5
1.5
60%
2.7
0.4
3.1 4.0
80%
1.7
0.8
100%
出典:中小企業白書 2007 年版
また、消費者の購買行動の変化については、過去5年間と比して今後は「安
全」「安心」といった要素が重視される傾向がある。さらに、有償サービスへ
の期待として、宅配や配食等の付加サービスへの期待が挙げられる。
有償サービスの期待
購買行動の変化
過去5年間の変化
0
10
20
30
通販・ネット
での購買
今後5年間の変化
40
0
50
(%) 70
60
∼20歳代 30∼40歳代 50∼60歳代 60歳以上 全体
10
15
20
25
30
5
35
30.0
30.0
商品の宅配
61.8
32.0
49.8
31.2
価格の重視
買い物代行
24.7
6.1
19.2
自動車での
買い物の増加
近所での買い物の増加
20.9
子育て支援
サービス
14.6
20.0
12.3
一人暮らし高齢者
の見回りサービス
18.9
商品の安全性の重視
9.2
1.5
1.1
5.9
6.1
配食サービス
20.3
16.5
16.1
9.4
6.1
16.0
10.3
6.9
21.7
出典:中小企業白書 2007 年版
安心、安全な買い物
7.8
7.4
8.2
7.2
7.5
12.3
9.0
14.6
資料:(株)三菱総合研究所「消費者実態アンケート調査」(2006年12月)
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
我が国小売業の生産性が低い水準にある背景としては、少子高齢化等に伴い
市場規模が縮小する中で依然として店舗数が多い点、中小小売業の割合が高い
点、手間のかかる生鮮食品の取扱いが多い点、IT の活用が不十分で手作業(電
話や FAX)で行われる業務が多い点、規制や非合理的な商慣行が残っており、
事業者の新陳代謝が進んでいない点、高いコストのかかるサービスを低価格で
提供している点などが指摘されている。
また、中小小売業については、少子高齢化や消費支出のモノからサービスへ
のシフト等に起因する市場規模の縮小に加え、都市の郊外化等に伴うロードサ
イド店や郊外型大型店の増加など厳しい競争環境にあり、こうした環境変化に
対応できない店舗が撤退することにより、商業集積としての商店街に多くの空
き店舗が発生し、中小小売業の特性である商業集積効果を減少させるという悪
循環が発生している。また、限られた経営資源の中で日々の事業活動に追われ、
80
(%)
35.5
40
経営の効率化が進んでいない事業者も数多く存在する。
(2) 外部要因
まちづくり三法の改正や少子高齢化の進展により大型店の郊外出店が困難
になっている。このため、小商圏対応型店舗フォーマットの開発等商圏の再構
築を行うとともに、面的集積を促進し、中心市街地における集積効果の向上に
取り組む必要がある。
また、労働力人口の減少に対応するため、人材の多様化、とくに女性や高齢
者等の活用を進めるとともに、ワーク・ライフ・バランスに配慮しつつ労働の
柔軟性をより確保する必要がある。
消費市場の成熟化と消費者の消費行動の変化に伴い、単にモノを売るだけで
なく、販売活動を通じてライフスタイルの提案を行っていくことが求められる。
顧客の嗜好やニーズを的確にとらえるため、購買履歴や行動情報等の顧客情報
を活用した高度なマーケティングを行うことが模索されているが、実現にあた
っては、こうした情報を適切に保護しつつ活用するためのルールが未整備であ
り、事業者に十分に活用されているとは言い難い状況にある。
(3) 業界要因
業態間競争の激化により販売効率(面積当たりの売上高)が低下している。
国内での同質的な価格競争は限界に来ており、海外やネット等の新市場を開拓
する必要がある。
海外市場への展開にあたっては、雇用や店舗立地、財の流通、物流等に関す
る各種制度やマーケットに関する情報の不足や、制度障壁の存在が解決すべき
課題である。高度なサービスを提供できる人材の不足も課題である。
ネット・リアルの融合が課題であるところ、まずは電子流通の健全な発展に
向け、安全・安心で迅速かつ効率的な流通を実現するための各種課題の特定及
びその解決の必要がある。
さらに、海外と比較すると我が国小売業はオーバーストア状態であり、商店
あたりの販売額及び従業者あたりの販売額が低いなど、効率的な経営がなされ
ていない。これを解決するためには、グローバル水準の効率的な流通インフラ
の導入によって店舗運営業務を効率化するとともに、非効率な商慣行や規制等
の是正を進め、流通構造(サプライチェーン)を最適化することが必要である。
人口(1000人)あたり商店数
店数
人
70
12
10
9.7
人口(1000人)あたりの従業者数
61
60
51
52
50
8
40
5.4
6
3.4
4
3.7
3.3
31
26
30
20
2
10
出典:各国商業統計
0
日本(2004)
アメリカ(2002) イギリス(2005) フランス(2004)
ドイツ(2004)
0
日本(2004)
アメリカ(2002)
イギリス(2005) フランス(2004)
ドイツ(2004)
出典:各国商業統計
81
(4) 個別企業要因
生産性・収益性向上のためには、個々の企業が高効率化と高付加価値化を進
める必要がある。効率的な IT システムや標準化された通信規格等を積極的に
導入し、システムのメリットを享受するとともに、事業再編等により規模の経
済を追求していくことが効率化に資する。
また、中小小売業者においては、限られた経営資源の中で日々の事業活動に
追われ、経営の効率化が進んでいない事業者も数多く存在する。大企業以上に、
消費者ニーズの把握や多様化する消費形態への対応、さらには、物流や事務作
業の効率化によるコスト削減等、本来、事業活動に不可欠な分野の取組が十分
なされていないのが現状である。
効率化の一方で、高度な消費行動を取る消費者に訴求し、同質的価格競争か
ら脱却するためにも、より付加価値の高い事業を行う必要がある。このために
は、従業員教育等を充実し、現場の販売力を強化するとともに、顧客満足を追
求していく必要がある。また、新たなチャネルやツールを利用し、個々の顧客
ニーズに合った商品やライフスタイルの提案を行っていく必要がある。
さらに、小売業の社会的機能を強化し、よりよいまちづくり、生活づくりに
貢献できる企業となることが、地元の生活者の支持を得て発展するための課題
である。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
小売業の生産性向上においては、個別企業の努力として、サービスの質を維
持する一方で顧客満足に直結しない業務を減らすなど効率化を進めるととも
に、業界全体での標準化や商慣行改善の取組などに積極的に協力していくべき
である。また、政府としては、小売事業者が安全・安心で効率的なネットワー
クを実現できる環境を整えることが課題である。
また、特に中小小売業の生産性を向上させるために取るべく方向性としては、
集積性の促進、環境変化への対応力の強化、効率化の推進、サービスの高付加
価値化を目指して、①中小小売業の特徴である集積メリットを最大限に高める
こと、②個店の経営力向上を促進すること、という2つの観点から捉えるべき
であり、両者の相乗効果により更なる生産性の向上が促進されるものと考えら
れる。
(2) 政策として取り組むべき方向性
① 高効率化を可能とする基盤整備
電子タグの低価格化、国際標準化が進行しているが、導入に必要となる運用
ルールの策定及び規格の国際標準化プロセスにおける国際提案が必要である。
事業再編等を通じた効率化については、改正産業活力再生特別措置法の活用
を進めるため、小売事業分野の指針を策定したところ。今後とも、事業再編等
を通じた生産性・経営効率向上の取組をより一層支援していく。
② 高付加価値化への対応
効率化によるサービスの質の低下を防ぐため、平成 19 年より、顧客満足度指
82
数(CSI)の導入を検討している。
また、人材育成を支援するため、サービス産業生産性協議会と連携し、パー
ト労働者の基幹人材化に向けた能力評価制度(試験・検定)構築を支援してい
る。
顧客の購買行動等に関する情報を活用し、個々の顧客のニーズや嗜好に合わ
せた提案を行っていくため、顧客情報の適切な保護と活用のありかたについて
検討を行う必要がある。
また、企業ポイントは顧客囲い込みのための有効なマーケティングツールで
あるとともに、消費者の支持を得て発展している。ポイントを通じて顧客の購
買行動等に関し情報を取得することも可能であり、今後とも各企業が有効に活
用することが望ましい。企業ポイントの健全な発展のため、消費者の適切な保
護や企業財務の適正性確保の取組が必要である。
③ グローバル展開の支援
小売業もグローバルに商品を調達する時代であり、国際物流上の貿易手続き
等の円滑化、物流効率化のための空港・港湾の利便性向上といった取組が必要
である。
また、小売業の海外市場への参入を進めるため、貿易・投資及び事業継続に
関する制度障壁の除去、参入にあたっての情報提供窓口の整備、海外市場参入
及び事業継続に係る信用リスクの低減、及び競争力の源泉である人材育成の支
援体制整備等を進める必要がある。
④ ネット・リアル融合の支援
ネットとリアルの融合によって、リアル流通業は時間や空間の制約にとらわ
れないマーケティングが可能となり、顧客の利便性を増すことが可能。また、
電子流通業は、物流や情報流における標準化等、効率化に向けたリアル流通事
業者による取組の成果を積極的に活用することで、一層の効率化をはかること
が可能。
電子流通業健全な発展を支援するため、電子流通における安全・安心の確保、
簡便な決済手段の整備、物流・情報流の標準化等の環境整備を進める必要があ
る。
⑤ 財の流通効率化のための規制等改革
不透明な物流センターフィーやリベート、返品制度といった、非効率を生ん
でいる商慣行の見直しを行うことで、サプライチェーンの効率化を図ることが
必要である。さらに、財ごとに存在する流通関連規制や制度の改革によって効
率的な流通を実現することも重要である。
⑥ 面的集積効果の向上(コンパクトで賑わいあふれる街づくり)
中小小売業について、人口減少による市場縮小の中でその生産性を高めてい
くには、中小小売業の特性である面的集積の効果を最大限活用すべく、コンパ
クトで賑わいあふれる街づくりを通して中心市街地における中小小売業の生産
性向上を目指すことが重要である。
このため、街なか居住の増加による商圏人口の拡大等、中小小売業の経営環
83
境を促進するための中心市街地の活性化について関係省庁とも連携し積極的に
推進するとともに、中心市街地活性化法に基づく中心市街地活性化基本計画の
認定を受けた地域等において行われる中小小売業の生産性向上に繋がる商業活
性化事業に対して積極的な支援を行っていく。
⑦ 中小企業の個別企業支援
中小小売業の生産性を高めるには、その特性である面的集積効果を高めると
ともに、個店の経営力の向上・魅力の向上を図ることが重要である。
このため、中小小売業を含む中小企業の抱える課題等に対し、事業者の視点
に立ってワンストップで支援を行う地域密着拠点の整備等により、個別企業の
経営力向上・生産性向上に向けた取組を支援していく。
地域力連携拠点の支援の流れ
システムの導入
→ ITコーディネータ等
経営診断による状
況把握
拠点に相談
・課題が見えない
企業財務データの活
用等により
・何か新しいことをしたい
・経営指標分析
・事業継続が不安
・同業種・規模で
比較
経営戦略の
立案
・経営力向上
・創業・新事業
・事業転換
新たな販路開拓
→ 流通業OB
→ マーケティング専門家等
事業転換・廃業
→ 弁護士・税理士
→ コンサルタント 等
・廃業・再挑戦
ビジネスマッチング
・将来見通しの提示
→ 金融関係者
→ 技術指導員 等
データ活用
¾ パートナー機関 (金融機関、農協等)
¾ 業界団体
等
活 用
コーディネーター候補:中小企業診断士、税理士、企業OB、優秀な経営指導員 等
データ入力
¾ 商工会・会議所
¾ 自治体
派 遣
地 域 力 連 携 拠 点
(コーディネーター)
○コーディネーターによる掘り起こし
○他機関との連携による案件発掘
フォローアップ
悩む中小企業
経営支援情報
システム 等
専門人材
(企業OB、コンサルタント、
中小企業診断士 等 )
国等の支援施策
・政府系金融機関、信用保証、補助金
・JETRO等による海外進出支援 等
(3) 業界として取り組むべき方向性
① 流通インフラの標準化
企業ごとに異なる様式にもとづく受発注情報のやり取りから、企業横断的に
標準化された様式にもとづくシステムの導入と浸透を、対象の商材や業態を拡
大しつつ、より一層進めていくことが必要。
また、電子タグ等の新技術を積極的に活用することによって、サプライチェ
ーンの効率化を図るべきである。
② 規模の経済の獲得
バイイングパワーの獲得のみならず物流や情報の共同化による競争力向上の
ため、規模の経済の獲得が必要である。物流や情報の共同化に対し、ネットワ
ーク化は非常に有効な手段でもあるところ、様々な形態によるネットワーク化
を今後とも拡大していくべきである。
③ 非効率な商慣行の是正
不透明な物流センターフィー、リスクとコストの分担を歪ませるリベートや
返品制度といった商慣行が存在し、これがサプライチェーンの非効率を温存す
る要因となっている。製配販の各事業者が協力して非効率な商慣行を特定し、
84
是正すべきである。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
① 高効率化
高度 IT システムや標準化された通信規格、電子タグ等、新たなツールを積極
的に導入し、IT による効率化をはかるべきである。また、ネットワーク化や他
企業との業務提携・経営統合によって事業再編を行い、規模の経済を獲得して
効率化することも検討されるべきである。さらに、リアル店舗を持つ事業者に
おいても、既存のリアル店舗での強みを活かしつつ、ネット流通をうまく取り
込むことが望ましい。
関係事業者とも協力しつつ、情報の共有や業務の共同化、あるいは得意分野
への集中等によって効率化を進める必要がある。
② 高付加価値化
顧客情報は適切な保護のもとで有効に活用することで、個々の顧客にはきめ
細かなサービスが提供され、店側にとっては売れ筋を揃え費用対効果の高い PR
によって売上を向上するという win−win の関係が生まれる。このため、電子
マネーやポイント、クレジットカード等によって取得した顧客の購買履歴等の
情報を、ただ蓄積するだけでなく分析して今後の事業運営に活用していくこと
が必要である。その際、プライバシーに触れる部分をきちんと切り分け、厳重
な保護のもと活用することが重要である。
また、営業時間の短縮やワーク・ライフ・バランスの推進等により従業員満
足を高めることで、従業員の意欲を高め、結果的に顧客満足度の高いサービス
提供を行うことが可能である。
③ 海外、ネット等新市場の開拓
少子高齢化及び消費市場の成熟化を受け、国内の店舗での売上は伸び悩みが
続いており、海外市場へも積極的に進出する姿勢が必要。また、旺盛な購買意
欲を持つ外国人観光客の利便をはかり購買を促進するインバウンドの国際化も
必要である。
パソコン、インターネットといった IT インフラの家庭への普及に伴い、イン
ターネットを通じた商品・サービスの販売は今後も一層の拡大が見込まれると
ころ。これを新たな収益機会ととらえ、リアル店舗を持つ流通事業者がネット
通販に参入したり、電子流通事業者の効率化ノウハウを積極的に取り入れたり
といった取組が必要である。
④ 社会的機能の強化
小売業は地域及び生活者の暮らしに密着して事業を行っている。また、製造
事業者や卸売事業者にとっては、消費者への接点としても機能している。
製品や商品の安全・安心維持への協力、温暖化防止やリサイクルといった環
境対策、まちづくりへの貢献に積極的に取組むとともに、公正で透明な取引の
実現を通して、消費者及び関係事業者の共栄をはかるべきである。コンプライ
アンス及び CSR の強化により安全・安心の価値を提供することで、生活者や関
係事業者の支持を得つつ事業を行うことが必要である。
85
⑤ 中小小売業における取組
中小小売業においては、限られた経営資源の中で日々の事業活動に追われ、
経営の効率化が進んでいない事業者も数多く存在する。このため、IT 化による
業務効率化や高付加価値化、サプライチェーンの効率化等を、上述の支援策な
どを必要に応じて活用しつつ積極的に取り組むことが期待される。また、大型
店では対応が難しい、「地域ならでは」「その店ならでは」の商品・サービス
をもつことが中小小売店には重要であり、近隣住民の多様な消費ニーズに対す
る対応力の強化を図ることも重要である。
86
5.2.
情報サービス業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野における情報サービス業の位置づけ
情報システムは、金融、通信、運輸等の各産業分野の基盤を担っている。ま
た、自動車、携帯電話等の内部に組み込まれ、製品の機能を実現するソフトウ
ェア(組込みソフトウェア)は、個々の製品の機能を実現するのに不可欠な存
在となっている。
このように、情報サービス業は、情報システムやソフトウェアの提供を通じ
て我が国の経済社会を支える重要な産業である。
② 情報サービス業の生産性を向上させる必要性
下記(2)に示すように、情報サービス産業は我が国経済の中で重要な地位
を占めていることから、我が国の中長期的発展を実現する上で情報サービス産
業における生産性の向上は重要である。また、昨今、情報サービス業の提供す
るソフトウェアは、あらゆる企業活動・製品において競争力の源泉となってお
り、情報サービス業における生産性の向上が他産業にもたらす波及効果も大き
い。
(2) 業界の現状
① 市場環境
平成 18 年度の売上高は 16.7 兆円で、国内総生産の約3%を占めている。
鉄鋼業(16.9 兆円)、電子部品・デバイス製造業(19.6 兆円)など我が国
を代表する産業と比較しても遜色の無い市場規模となっている。
② 産業構造
大手企業を頂点として、中堅中小の多数の下請企業が階層構造をなすピラミ
ッド型の産業構造を形成している。事業所数ベースで全事業所の約4分の1を
占める従業員 10 人未満の小規模事業者がこのような多重下請構造の末端を担
っている。情報サービス業を営むのに大型の施設や設備は不要であり、少人数
で比較的簡単に新しく事業を始められることから、参入障壁は他産業と比較し
て低い。
③ 雇用環境
平成 18 年度の従業者数は 82 万人であり、鉄鋼業(21.9 万人)、電子部品・
デバイス製造業(50 万人)、輸送機械製造業(99 万人)など我が国を代表す
る産業を上回る又は同等の規模となっている。しかしながら、情報システム・
ソフトウェアの大規模化、複雑化の進展とあらゆる活動で IT が活用される環
境の出現による情報処理に係る人材需要の急拡大に対し、それに見合うだけの
人材を育成できておらず、極めて深刻な人材不足が発生している。
他方、情報システムの開発業務をコストの低いアジア地域等へ委託する、い
わゆるオフショアリング開発が急増しており、国内の人手不足も相まって、今
後も引き続き増加することが見込まれている。
87
情報サービス業の売上高及び従業者数の推移
IT 人 材 の 有 効 求 人 倍 率
4
万人
90
80
60
2005
(出所) 特定サービス産業実態調査
0.57
1.47
1.73
0.51
0.62
2001
2002
0.92
0.80
2003
3.44
1.02
0.99
2004
2005
2006
2007
(1-10月)
雇用判断(従業者数の充足感)
60
不足(A)
過剰(B)
DI(A-B)
40
38.4
42.3
41.3
32.3
22.0
20
14.5
11.1
※1998(平10)、2001(平13)、2006(平18)は、調査対象事業所数
の見直し/拡大があった
※2000(平12)以降の就業者数には「出向・派遣者(受入)」を含む
3.69
0
9.7
7.0
5.9
20
07
.9
20
07
.6
20
06
.1
20
06
.6
20
03
.6
20
05
.1
0
20
05
.6
2003
2001
1999
1997
0
1995
10
0
1993
2
1991
20
1989
30
4
1987
6
1985
40
1983
50
8
1981
10
1.86
1
20
04
.1
12
2
70
売上高(兆円)
従業者数(万人)
︵
注︶
調査対象事業所数の拡大
14
3.22
2.47
20
04
.6
16
情報処理技術者
全職種
3
20
03
.1
兆円
18
-20
(3) 生産性の現状
① 情報サービス業における生産性計測指標
我が国の情報サービス業の生産性を国際的に比較することが可能な指標と
しては、2007 年に欧州委員会が作成した「EU KLEMS Database 2007」が挙
げられる。
② 情報サービス業における生産性の現状
上記の EU KLEMS Database 2007 によれば、2000 年から 2004 年までの
生産性1向上度は、米国の 47%及び欧州連合の7%を大きく下回るマイナス
6%となっている。
日 本 、米 国 、EUの 情 報 サ ー ビ ス業 の 生 産 性 の 推 移
160
150
2000年 比
+ 45%
米国
EU
日本
140
130
141.3
126.5
120
110
100
90
108.3
104.4
103.5
115.8
105.5
100.8
101.9
104.3
96.6
2000
2001
2002
2000年 比
+ 7%
111.3
106.7
101
102.7
2000年 比
▲ 6%
2003
2004
(注 )1995年 の 生 産 性 を 100とし た 場 合 の 各 年 度 の 生 産 性 の 数 値
出 典 :欧 州 委 員 会 E U K LE M S D atabase2007
(4) ユーザーからの評価
情報サービス業は、ユーザ企業の経営戦略やコア競争力の実現、あるいは、
行政・教育・医療・娯楽など社会の様々なニーズを解決する機能を提供する
主体として、多様かつ高度な役割を果たすことが期待されている。また、経
済社会のあらゆる局面で情報システム・ソフトウェアはその基盤として活用
1 1995 年の労働時間あたりの付加価値額を 100 とした場合の 2002 年と 2004 年の差分。
88
されていることから、その信頼性の維持と向上の取組は不可欠の要請となっ
てきている。
このような情報サービス業への期待がある中で、開発した情報システムに
対するユーザの満足度は、約5割のユーザが「計画通りに利用しており、満
足」としている一方、「計画通りに利用しているが不満足」、「計画通りに
利用していない」と回答しているユーザが3割近く存在していることには、
留意が必要2である。
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
我が国の情報サービス業が生産性を向上させていくために克服すべき課題と
しては、グローバル化の進展等の外部要因、ソフトウェアの大規模化や実践的教
育の不足等の業界要因、ソフトウェア製品及びソフトウェア部品の再利用が進ま
ないといった個別企業要因が挙げられる。
(2) 外部要因
① グローバル化への対応
インド、中国等の新興市場の拡大や、東南アジア、南米などの国々が情報
サービス市場に新規参入し、従来、国内ユーザ企業を対象に事業を展開して
きた情報サービス業においても、競争圧力が高まっている。その競争圧力は、
ソフトウェアの開発技術や手法、人材といった投入資源に対しても大きく影
響している。さらに、これらの投入資源等に関する国際標準化の流れの中で、
世界規模での最適な研究、開発、供給体制が確立されつつある。このような
状況において、我が国情報サービス業も、海外市場を視野に入れた世界規模
での最適な研究、開発、供給体制を確立することが課題となっている。
② ソフトウェアの大規模化
ソフトウェアの複雑化・大規模化が急激に進展している。例えば、金融機
関の決済システムのプログラム行数は、80 年代の 10 倍、DVD レコーダや自
動車の制御ソフトのプログラム行数は 2002 年の5∼10 倍に増加している。
ソフトウェアが複雑化・大規模化する一方、納期や価格の圧縮を求める顧客
の要求は増大しており、情報サービス・ソフトウェア産業では、技術者の長
時間労働の常態化等の厳しい勤務環境や、実践的教育の不足による IT 人材の
不足といった問題が顕在化している。
このような状況を打開するため、高度な技術者の育成、開発手法の高度化
による生産性向上を実現するための取組を加速することが不可欠となってい
る。
2
ただし、あいまいな仕様に基づく発注等ユーザ側の問題も指摘されているところであり、これらの問題が起こる
原因全てを情報サービス業に帰結させることは適当でない。
89
ソフトウェアのステップ(行)数の拡大状況
プログラム行数
DVDレコーダ
プログラム行数
プログラム行数
Windows
100万行
5,000万行
6,400万行
5倍以上
3倍以上
10倍以上
20万行
500万行
1500万行
現在
2002年当時
プログラム行数
プログラム行数
カーナビ
携帯電話
300万行
∼500万行
5∼10倍
500万行
5倍以上
3∼5倍
100万行
100万行
100万行
現在
2000年当時
郵貯システム改修
(見通し)
80年代半ば当時
(第三次オンライン計画)
Vista
95
プログラム行数
自動車
500万行
∼1000万行
金融機関システム
現在
2000年当時
現在
2001年当時
③ IT 投資の質・量両面の不足
我が国のユーザ企業の IT 投資の状況を見ると、全資本に対する IT 資本の
ウェイトは、米国の6割程度であり、特に中小企業の IT 投資額の伸びは低い
水準で推移している。
また、既に IT を導入している企業でも、部門間・企業間の連携など高度に
IT を活用している企業は米国の約半分であるなど、IT を経営に高度に活用し
ている企業は少ない状況にある。
IT による生産性の向上を実現するためには、中小企業をはじめとする IT
投資を増加させるとともに、企業内の部門間や企業間を連携させるシステム
への投資など IT 投資の質を向上させていくことが必要である。
資 本 金 別 「1社 当 た り の 」 IT 投 資 額 の 推 移
﹁
5,000
情
報
の
シ
導
ス
入
テ
ム
大企業は、
増加傾向
3,000
中小企業は、
ほぼ横ばい
2,000
情
部
報
門
シ
内
ス
で
テ
活
ム
用
を
﹂
4,000
企
情
業
部
報
内
門
シ
で
を
ス
最
超
テ
適
え
ム
に
て
を
活
用
取
企引
業先
を ・ 情
超顧報
え客シ
て等ス
関テ
最係ム
適者を
にも
活含
用め
﹂
IT利 活 用 高 度 化 に よ
り 生 産 性 ( T FP成 長 率 )
は 3% ∼ 5% 上 乗 せ 。
﹁
IT利 活 用 ス テ ー ジ 別 企 業 分 布
(単 位 :百 万 円 )
6,000
第四段階
企 業 ・産 業 横 断 的 最 適 化 群
第三段階
組織全体最適化企業群
第二段階
部門内最適化企業群
第一段階
情報システムの導入
第 4段階
5%
3%
1,000
第3段 階
第 2段 階
第 1段階
全 要 素 生 産 性 (T FP) の 成 長 率
0
2 00 0年
2001 年
∼ 1億 円
10-100億 円
2002 年
2003年
1-6億 円
100億 円 ∼
日 本
米 国
2 00 4年
6-10億 円
1 5 .1 %
0 .0 %
5 8 .8 %
4 6 .2 %
2 1 .6 %
4 4 .9 %
4 .5 %
9 .0 %
全体
出 典 :経 済 産 業 省 「情 報 処 理 実 態 調 査 」
④ イノベーション促進のために見直しの余地がある制度
イノベーションを促進するためには、知財・会計・税務・政府調達など情
報システム・ソフトウェアの開発に係る制度の課題をソフトウェアの特質に
注目しながら検討することが必要である。知財については、ソフトウェアの
90
権利保護を前提としながらも、
パテントトロール3等による濫用的な権利行使
の排除や、他社への利用許諾・クロスライセンス等の協調的な知的財産の活
用の促進が重要である。会計・税務については、ソフトウェアの研究開発コ
ストの会計・税務上の取扱が不明確であることから、すぐれたパッケージソ
フトウェア等の開発に対するインセンティブが阻害されているとの指摘が
ある。
また、イノベーション促進のためには適切な競争環境の整備が不可欠であ
るが、特定のベンダ・商用製品にロックインされる傾向が強く、政府調達が
それを助長しているとの指摘がある。こうした傾向を排除するために、オー
プンな標準4に基づく調達を政府で推進するなど、適切な競争環境の確保をし
ていく必要がある。
以上より、情報サービス産業のイノベーションを促進するためには、これ
ら制度の見直しや、運用を明確化していくことが重要である。
(3) 業界要因
① 実践的な教育の不足、不明確な技術者のキャリアパス等
大学においては、IT の連続的な技術革新と実社会における応用範囲の拡大
に対し、これを支える高等教育機関における体系的なカリキュラムに欠けると
ともに、企業におけるプロジェクトを経験した教員の欠如による実践的教育の
不足などの問題が指摘されている。産業界においても、若い人材に対して、情
報処理に携わっていくことを目指すような産業としての魅力や、将来に向けた
具体的なキャリアパスを十分に示すことができていない。また、初等中等教育
では、IT の社会における有用性や魅力を十分に伝えることができていないこ
とが、若者の IT への関心の低下につながっているとの声もある。
② 不透明な産業構造・市場取引
情報システムの構築・運用は経営・業務そのものを含めた共同開発・共同
作業としての性格を強く帯びることになり、パートナーシップの認識を両者
が持つことが必要になる。そして、その合意内容に従って、情報システム構
築・運用で応分の役割と責任を担うべきである。
しかしながら、現在の取引慣行では、ユーザ・ベンダ間の役割・責任分担が
不明確であり、また、取引される情報システムの品質が不透明(ユーザとベン
ダの認識に乖離がある場合が多い)であるため、情報システムの価値を決める
諸要因(機能・信頼性等)の水準について両者が認識した上で明確な仕様を定
めた上での取引がなされていない状況にある。
このことが、開発着手後の仕様変更による開発の手戻りの多発や、開発した
情報システムがユーザの業務に十分に活用できないなど満足度や信頼性の低
3 パテントトロールについての明確な定義は存在しないが、例えば自らは研究開発や製品の製造販売等を行わな
いにもかかわらず特許権を保有し、その特許権を行使して他者から高額な和解金やライセンス料を得ることを目
的とする個人や団体等を指す説がある。他方、パテントトロールの定義付けは難しく、個別の事例ごとに判断す
べきとの意見も多い。本稿では、特許権の濫用的な行使に関する問題をパテントトロールと呼んだ。
4
「情報システムに係る政府調達の基本指針」(平成 19 年3月)において、「オープンな標準」を、①「原則
として、開かれた参画プロセスの下で合意され、具体的仕様が実装可能なレベルで公開されていること、②誰も
が採用可能であること、③技術標準が実現された製品が市場に複数あること、のすべてを満たしている技術標準」
と定義している。
91
い情報システムが構築されてしまう要因となっている。
価格についても、開発に要した人数と月数の積に応じて報酬が支払われる
「人月単価」方式によって形成されるため、開発効率を高めるインセンティブ
が働かない状況にある。
また、情報システムの構築においては、下請けが広く活用されているが、
こうしたベンダ間の関係は、①単なる IT 技術者の人材派遣的な関係、②プロ
ジェクトマネジメント・信用補完等の付加価値を加えた関係が渾然一体とな
って形成されている。このことが、多重下請け構造、長時間労働など技術者
の悪待遇等の一因、革新的な技術の開発や優れた技術者育成に対するインセ
ンティブの阻害などの要因となっている。
このような状況を改善するため、産業構造・市場取引を可視化させていくと
ともに、「人月単価」方式からの脱却を図っていくことが必要である。
③ 相次ぐ情報システムの障害
近年、鉄道、金融など社会基盤を支える情報システムの障害が相次いで発生
している。また、組込み製品(ソフトウェアで制御し、機能を実現する製品)
の出荷後に発生した品質問題の原因はソフトウェアの不具合が全体の4割以
上を占めている。IT が社会の至るところで活用されるようになった結果、情
報システム・ソフトウェアの不具合による影響は社会全体に対して深刻な影響
をあたえるため、情報システム・ソフトウェアの信頼性を向上させていくこと
が重要な課題となっている。
2007年度に発生した主な情報システムの障害
障害事例
発生日
首都圏16鉄道の自動改札機
システム障害
10/12
組込み製品の出荷後に発生した
品質問題の原因
原因
運用・保守の不具合
3.7%
プログラムの不具合
その他
5.0%
製品企画・仕様の不具合
17.9%
ゆうちょ銀行、民営・分社化後の
システム障害
10/1
システム変更漏れ
SkypeのIP電話サービス障害
8/16
Windows Updateが
引き金だが、原因不明
社会保険庁の年金システム障害
6/10
制御ミドルウェアの不具合
システム障害
5/27
ネットワークスイッチ故障
/サーバ設定ミス
NTTのひかり電話サービス障害
5/23
サーバのハードディスク交換時
のデータ設定コマンドの入力ミス
JR東日本・東海・西日本の予約
サイト障害
5/22
サーバの通信障害
totoの販売システム障害
5/12
アクセス集中によるシステム
処理能力不足
PASMOシステム障害
3/18
プログラムの不具合
全日本空輸(ANA)の国内線
製造上の不具合
12.7%
「ソフトウェアの不
具合」が4割以上
ハードウェアの不具合
16.9%
ソフトウェアの不具合
43.8%
(出展)2007年版組込みソフトウェア産業実態調査
(出典)日経ITpro特集「相次ぐシステム障害
の真因を追う」
(4) 個別企業要因
ソフトウェア製品及びソフトウェア部品の再利用
我が国におけるソフトウェア開発は、伝統的に、顧客の委託を受けて開発す
る受託開発が中心であり、過去に開発したソフトウェア製品及びその一部をな
すソフトウェア部品を再利用する機会の少ないことが、効率的なソフトウェア
開発を阻害する要因となっている。
その背景には、汎用的な製品よりも、個々の多様なニーズに応えるように作
り込まれた製品・部品を好む我が国ユーザ企業の傾向が大きく影響している。
また、ソフトウェアを受託開発する際に、開発したソフトウェアに係る著作
権等を発注者に帰属させる契約を結ぶことが多く、これがソフトウェア部品の
再利用を阻害している。
しかし、近年、我が国ユーザ企業の中にも、ソフトウェア投資の効率性の観
92
点から、個別に作り込まれた製品・部品を汎用的な製品・部品に置き換えると
ころも増えている。今後もこのような動きが加速していくことが見込まれる中、
情報サービス業においては、過去に開発したソフトウェア製品及びソフトウェ
ア部品をいかに効率的に再利用していけるかが課題となっている。
ソフトウェアの作り込み比率の日米比較
作り込み
物流管理
ソフトウェア
(SCM)
日本
米国
40.0%
7.5%
41.3%
49.2%
10.8%
51.2%
顧客管理 日本
ソフトウェア
(CRM)
米国
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
31.1%
22.1%
混成
パッケージソフトを
そのまま使用
58.8%
30.9%
10.1%
47.1%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
(出所)ガートナー社調べ
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
前項までに述べた課題を解決し、情報サービス業の生産性を向上させていく
ため、これまで科学的・工学的手法に基づくソフトウェア開発(ソフトウェア・
エンジニアリング)の促進のための拠点の整備や、産業構造・市場取引を可視
化していくための各種ツールの整備・普及、高度 IT 人材の育成をはじめとす
る各種情報サービスのサプライヤ向けの施策を展開するとともに、情報サービ
ス産業の構造にも大きな影響を与えているユーザに対しても、中小ユーザ企業
の質の高い IT 投資の促進支援策などにも取り組んでいるところである。
今後もこれらの施策を継続して実施していくとともに、必要に応じて弾力的
に見直し、拡充を図りながら最適な施策を講じていく。
(2) 政策として取り組むべき方向性
① 科学的・工学的手法に基づくソフトウェア開発(ソフトウェア・エンジニア
リング)の促進
品質や信頼性の高いソフトウェアの開発力強化に取り組むとともに、開発の
成果を先進的なソフトウェア開発プロジェクトにおいて実践・検証するため、
産学官が連携する拠点として平成 16 年に独立行政法人情報処理推進機構
(IPA)にソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)を設置し、ソ
フトウェア開発の生産性・信頼性を向上させる手法(ソフトウェア・エンジニ
アリング手法)の開発をはじめ、手法の導入促進、国際標準の獲得などを実施
している。今後もこれらの取組を継続していくとともに、成果の普及を図って
いく。
なお、近年、情報システム障害が相次いで発生している状況を踏まえ、情報
システムが障害を発生しにくい手法等の確立に力点を置いた活動も展開する。
93
SECの成果事例:東京証券取引所の次期システム構築に対する支援
○東京証券取引所におけるシステム障害
東京証券取引所では、平成17年11月から平成18年1月にかけて、
誤発注を取り消せない事によるシステムトラブルや、大量の取引に対応できな
いことによるシステムの停止などが相次いだ。
①SECは東証のトラブルを契機とする情報システムの信頼性に関する政府のガイド
ラインの策定を支援。
②東京証券取引所では以下のSECの成果を活用し、平成21年までに次期システ
ムを構築。
◆「ソフトウェアライフサイクルプロセス2007」 (平成19年10月 5,500部発刊)
<発注者と受注者の意思疎通のためのチェックリスト>
◆プロジェクトの進捗状況の見える化ツール (試験的に活用するため34企業に配布)
② 我が国が強みを有するソフトウェアの国際競争力強化
自動車、ロボット、産業機械など我が国が国際的に強みを有するものづくり
製品を制御し、機能を実現するソフトウェアである組込みソフトウェアについ
て、プラットフォーム化を進めるなど開発を効率化していく。あわせて、ユー
ザ・ベンダ間の協業を促進するための環境整備を行う。また、製品がグローバ
ルに展開している分野を中心に、標準プラットフォームの国際標準化を戦略的
に進めていく。
③ 産業構造・市場取引の可視化・高度化
産業構造・市場取引を可視化・透明化するツールとして、「情報システムの
信頼性向上に関するガイドライン」、「情報システムの信頼性向上に関する評
価指標」、「情報システム・モデル取引・契約書」、「IT 投資価値評価ガイド
ライン」(平成 19 年 12 月)等の各種ガイドライン・指標等を整備してきた。
引き続きこれらのガイドライン・指標等の普及に努めていくとともに、平成 20
年4月に公表した、中小ユーザ企業等の IT 取引の実態を考慮した「情報シス
テム・モデル取引・契約書<追補版>」を普及していく。
今後は、「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」及び「情報シ
ステムの信頼性向上に関する評価指標」の見直していくとともに、民間協議会
「情報サービス・ソフトウェア取引高度化協議会(仮称)」を立ち上げ、IT と
法務両方の知識を兼ね備えた専門家を IT 取引へ介在させていく仕組み等を含
めたモデル取引・契約の普及・実効性担保に向けた環境の整備を進めるととも
に、「人月単価」からの脱却のためのパフォーマンスベースのユーザ・ベンダ
間取引に関するガイドラインを策定する。
④ 情報システムの信頼性の向上
IPA/ソフトウェア・エンジニアリング・センターを中核して関係機関とも
連携を図りながら、情報システムが障害を発生しにくい手法等の確立に力点を
置いた活動を展開していく。
また、「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」及び「情報シス
テムの信頼性向上に関する評価指標」の見直し、ユーザ・ベンダ間の合意を真
に担保する契約・取引の在り方の見直し、IT と法務両方の知識を兼ね備えた専
94
門家を IT 取引へ介在させていく仕組み等について検討を進め、ユーザ・ベン
ダが共同して信頼性の高い情報システムを構築していく環境を実現する。
⑤ 高度 IT 人材の育成
IT 人材育成については、これまで、情報処理技術者試験5の実施や、高度 IT
人材の評価や育成に資する人材スキル標準6等の人材育成に係るツールの整備、
産学連携による実践的教育の推進などに取り組んできたところであるが、昨今、
IT の経営への浸透、IT 開発サービスの構造変化、グローバル化など情報サー
ビス業を取り巻く環境の変化を踏まえ、高度 IT 人材の育成のための総合的な取
組をさらに拡充・強化することが求められるに至っている。
このため具体的取組として、客観的な人材育成メカニズムの構築の一つとし
て、IT スキル標準などの人材スキル標準との整合化を図った情報処理技術者試
験を、平成 21 年春より実施することとしている。
また、教育機関に対しては、実践的な IT 教育のためのカリキュラム標準を策
定するとともに、それらの教育機関での活用や産学連携の取組みを推進してい
くため、産学人材育成パートナーシップ情報処理分科会7が設置された。ここで
は産学で求められる高度 IT 人材像を共有するとともに、人材育成カリキュラム
の整備に取り組んでいるほか、実際に情報システムを開発した経験が無い教員
に対して実践的な開発プロセスや技術を獲得するための機会や、専門教育を受
けずに IT 技術者として活躍している者に対してソフトウェア・エンジニアリン
グに基づく教育を実施するための施策等についての検討を進めている。
さらに、国際的な人材育成メカニズムの構築に資するため、我が国情報処理
技術者試験とアジア 11 カ国・地域の IT 技術者試験との相互認証を締結し、合
格者が我が国に入国する際の査証発給の要件緩和措置を講じている。
また、独創的なアイデアを有する開発者を発掘・育成している。
今後は、これらの取組を継続していくとともに、企業の壁を越えて人材育成
等に取り組む IT 技術者のコミュニティー活動の支援や、将来を担う人材に対す
るキャリア開発計画の提示、アジア諸国の IT 人材と我が国 IT 人材のスキルの
標準化に向けた取組、突出した人材が活躍できる環境整備等を行っていく。
⑥ IT 投資の拡大・質の向上
ⅰ)中小企業の IT 投資の拡大
中小企業の IT 投資が進まないのは、IT 投資の負担が大きいことに加え、IT
に対する知識の不足や、社内に IT に関する専門人材を確保することが困難で
あるため、IT の活用方法や効果について理解されていないことなどが大きな
要因である。これらを解決するために、以下の取組を推進している。
5情報処理の促進に関する法律(昭和 45 年法律第 90 号)に基づき IT 技術者の有する知識・技能を確認するたに
実施される国家試験。年間約 60 万人が応募。
6 IT 技術者に求められるスキルを体系化した指標。IT スキル標準(ITSS/2002 年∼)、組込みスキル標準(ETSS
/2005 年)、情報システムユーザースキル標準(UISS/2006 年∼)の3指標が整備されている。
7 グローバル競争が激しさを増す中、我が国における人材育成について、産業界と教育会が協力して横断的課題
や分野別課題について、産学双方向の対話の場として「産学人材育成パートナーシップ」が創設され、8つの分
科会の一つに情報処理分科会が設置されている。http://www.ipa.go.jp/jinzai/sangaku/index.html
95
ア.IT 活用のベストプラクティスの収集・普及
IT を活用して優れた経営(IT 経営)を実践し、他の中小企業が IT を活
用した経営に取り組む際の参考となるような中小企業を経済産業大臣等が
表彰する制度である「中小企業 IT 経営力大賞」を平成 19 年度に創設した。
同年度は、経済産業大臣賞3件をはじめとする約 150 の IT 経営の成功事例
を収集・公表した。2010 年までに 1000 件のベストプラクティスを収集・
公表すべく、来年度以降も継続的に実施していくこととしている。
中小企業IT経営力大賞のイメージ
表彰式の様子
大賞
大賞
経済産業大臣賞
優秀・特別賞
優秀・特別賞
中小企業庁長官賞等
地域表彰等
地域表彰等
経済産業局長賞等
イ.各地域における支援体制の整備
平成 16 年度から全国9地域において、IT コーディネータや中小企業診断
士、税理士等の専門人材、銀行等の金融機関及び商工会議所等の中小企業支
援機関が連携し、地域の中小企業の IT 活用を支援していくためのネットワ
ークである「IT 経営応援隊」を設置し、中小企業経営者に対する IT 利活用
に関する研修やセミナー、相談会等を実施している。平成 20 年度は、中小
企業の規模、業種、IT 導入レベルに応じた研修をきめ細かく全国で展開す
るとともに、開催箇所も倍増し、200 回程度実施する予定である。
今後は、中小企業の IT 導入を一層進めるため、各地域の中小 IT ベンダと
連携を強化するなど、地域のユーザのニーズにきめ細かく対応できるように
するため、地域における IT ベンダの IT 供給力の向上を図る取組を展開して
いく。
ウ.SaaS(Software as a Service)の普及に向けた基盤の整備
SaaS8は、従来の情報システムと異なり、ユーザが自前で情報システムを
構築・運用する必要が無いことから、IT システムの導入に係る資金的余裕
がない企業や、IT に関する専門人材がいない企業でも IT を活用することを
可能とするサービスである。
この SaaS を普及し、今まで IT の活用が遅れていた中小企業の IT 活用を
底上げしていくために、本年度から財務会計、給与計算等の業務から電子申
請までを行える情報処理サービスを提供する基盤となるシステムを開発す
る。また、昨年度 SaaS 利用者が安心して SaaS を利用するために策定した、
利用者と提供者間で合意すべきサービス内容やその具体的設定例等につい
て規定した「SaaS 向け SLA ガイドライン」の普及を図っていく。
8 Software as a Service。サプライヤがインターネット経由で、ソフトウェアを提供するサービス。
96
従来の情報システムとSaaSシステムの違い
従来システム
A社
A社
社内システム
ASP/SaaSサービスベンダー
ASP/SaaSサービスベンダー
運用・保守は
サービスベンダー
社内システム
アプリケーションソフト
顧客
管理
ASP/SaaS
B社
B社
人事
管理
財務
管理
アプリケーションソフト
人事
管理
A社ユーザ
財務
管理
顧客
管理
B社ユーザ
人事
管理
財務
管理
アプリケーションソフト
品揃え
Internet
情報処理サービス
そのものを購入
各社個別にシステム構築
A社ユーザ
B社ユーザ
ⅱ)企業内・企業間の最適化に向けた IT 経営の実践促進
IT による生産性の向上を加速化するため、経営者らによる「IT 経営協議会」
を設置し、IT 経営実践に向けて必要な環境整備・制度整備等の提言を行う。
具体的には、IT 経営に悩む企業のカイゼン活動に基づく IT 経営実践のガイド
ラインの策定・改訂を行う他、業種横断的なデータ連携に向けた標準作り、ユ
ーザー企業における人材育成、情報システムの信頼性確保に向けた制度設計、
IT 環境経営のあり方、情報の利活用を支える情報セキュリティの実現方策な
どに取り組む。これらにより、IT 経営の抜本的な普及を図り、世界トップク
ラスの IT 経営を実現する。
⑦ オープンなソフトウェアの普及促進
過去に開発したソフトウェアの再利用など効率的な開発を促進したり、オー
プンな協業によりイノベーションを促進するためには、オープンソース・ソフ
トウェア(OSS)9をはじめとするオープンな標準10に基づいたソフトウェアを
普及していくことが有効な手法であり、これまで、民間を巻き込んだ OSS の
普及体制の整備や、政府 IT 調達の標準・技術参照モデル(TRM: Technical
Reference Model)の考え方について、検討を進めてきた。
引き続き OSS・オープンな標準に基づくソフトウェアの普及促進に向けた
取組を継続し、特にオープンな標準及び TRM は、政府調達における活用を加
速するための体制の整備を進めていく。
⑧ イノベーションを促進する制度の見直し、運用の明確化
ソフトウェアのイノベーションを促進させるためには、知的財産の活用・流
通の促進を図るための取り組みであるパテントプールや、パテントコモンズの
利活用促進等の海外で活用されている制度の在り方について検討を進める必
要がある。
また、政府調達におけるソフトウェア開発の成果を活用していくために、
「ソ
フトウェアに係る日本版バイ・ドール制度に係る運用ガイドライン」(平成
19 年8月)の活用を促進する。
9 ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを公開し、誰でもそのソフトウェアの改良や再配布が可能なソフ
トウェア。
97
なお、情報システム・ソフトウェアの開発の際には派遣や請負が多用されて
いることを踏まえ、派遣・請負契約の運用基準の解釈について明確化すること
について、関係府省における検討が期待される。
(3) 業界として取り組むべき方向性
情報サービス業界においては、以下の事項について積極的に取り組むことが
期待される。
・ 多重下請構造などによって起因する労働条件の悪化、企業の低収益など
の変革による産業としての魅力の向上。
・ 開発の成果や開発者の能力に関係ない人月ベースの価格設定が革新的な
技術の開発や、優れた技術者育成へのインセンティブを阻害しているこ
とを直視し、ユーザも含めて成果物そのものを的確に評価する仕組みの
構築。また、優れた成果物を産み出す技術者の見える化された実力をも
とに客観的に評価・処遇できる環境の整備。
・ IT を活用して実現できることが、厳しい就労環境に勝る社会的意義や充
実感があること、安心してやりがいのある仕事に取り組めることを学生
に熱意を持って提示していくこと。
・ ジョイントベンチャー方式や LLP などの柔軟な労働形態の活用。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
情報サービス業の各企業においては、以下の事項について積極的に取り組ん
でいくことが期待される。
・ ソフトウェア・エンジニアリングの積極的な活用による高効率・高信頼
な情報システム・ソフトウェアの開発。
・ グローバルに優秀な IT 人材を活用するための体制の整備。グローバルに
活躍できる人材の育成。
・ 中小ベンダにおいては、多層下請構造の下での低価格のみに頼るマーケ
ティングを脱却し、ユーザのニーズを直接把握し、技術力、提案力の向
上によりベストソリューションを提供していくようなマーケティング戦
略への移行による自立化に向けた取組の促進。
・ ソフトウェアの標準化・共同化を促進するため、ユーザの業務や製品仕
様の標準化に向けた働きかけ・提案。
・ 長期的視野に立ってトップレベルの人材を正当に評価し、優秀な人材が
その能力を存分に発揮できるようにするための人事処遇。
・ 開発の成果や開発者の能力に関係ない人月ベースの価格設定が革新的な
技術の開発や、優れた技術者育成へのインセンティブを阻害しているこ
とを直視し、ユーザも含めて成果物そのものを的確に評価する仕組みの
構築。また、優れた成果物を産み出す技術者の見える化された実力をも
とに客観的に評価・処遇できる環境の整備。
・ ソフトウェアの受託開発時において著作権の権利の帰属が適正になされ
た契約を促進していくため、「情報システム・モデル取引・契約書」の
積極的な活用11。
11 「情報システム・モデル取引・契約書」においては、契約時における望ましい権利帰属のあり方を明確したと
98
・ IT を活用して実現できることが、厳しい就労環境に勝る社会的意義や充
実感があること、安心してやりがいのある仕事に取り組めることを学生
に熱意を持って提示していくこと。
・ IT スキル標準や情報処理技術者試験制度等の人材の能力の見える化ツー
ル、資格制度の活用など、客観的な手法を利用した人材育成と企業活動
の高度化を結びつける仕組みの確立。
・ 企業や産業界の壁を越えた専門家として、エンジニア自らがコミュニテ
ィーを形成し、社会貢献にとどまらず、日本の技術の競争力の源泉につ
ながるような活動を推進するとともに、社外での取組が社会的にも評価
を受けられるような文化の形成。こうした活動を先導する人材の育成。
また、情報システム・ソフトウェアのユーザ企業においては、以下の事項に
ついて積極的に取り組んでいくことが期待される。
・ 情報システム・ソフトウェアの各種機能を最適に使いこなすため、こ
れらの多様な機能の発注を適切にコーディネートするため IT 投資価値
評価ガイドラインや IT 経営力指標等の積極的な活用、発注をコーディ
ネートできる人材の育成。
・ 経営戦略を踏まえた最適な IT 投資を実現できる社内体制の整備。
ころ。
99
5.3.
研究開発サービス業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① 研究開発サービス業の位置づけ
研究開発サービス業とは、製造業等の各産業分野における研究開発を代行
又は支援するために、研究開発を行ったり、研究開発を支援するために必要
な調査・分析、施設・機器の調達などを行うことを指す。したがって、研究
開発サービス産業は、研究・開発の受託、設計や試作の請負、検査・分析、
技術調査などを主として行う事業者によって構成されている。
研究開発サービス事業者の例
<検査・分析サービス系>
試験・検査・計測の受託(非破壊検査、環境計測など)
分析・解析の受託(化学分析、DNA解析など)
【検査分析サービス】
発注者(クライアント)の
依頼に基づきに、定量的
又は定性的なデータ等を
取得・提供するサービス。
<試作サービス系>
試作の受託
試加工の受託
<開発・設計サービス系>
製品(素材、機器等)の開発受託
機器設計・工業デザイン等の受託
工法開発
【試作サービス】
<研究受託サービス系>
基礎研究の受託(新機能材料の探索研究など)
応用研究の受託(用途に応じた機能付与研究など)
<資材・機器・設備の提供サービス系>
試薬、実験生物・機器等の販売サービス
設備等の保守、リース
<技術調査サービス系>
研究・特許等のコンサルティングサービス
技術系研修・出版サービス
【研究受託サービス】
発注者(クライアント)の
依頼等を受けて、研究を
行ったり、研究成果を提供
するサービス。
発注者(クライアント)の依頼に基づ
き、検証等のための試験片・サンプル、
模型の作成、試験的な加工などを行う
サービス。
(発注者が本来内部で行う試行錯誤的
な研究開発プロセスの一部を外部で
代行する活動として位置付けられる)
② 研究開発サービス業の生産性を向上させる必要性
グローバル競争の激化、イノベーションの加速化等を背景に、我が国民間
の研究開発投資は全体として、拡大基調であるが、収益性は必ずしも向上し
ているとは言い難い状況である。このような状況を踏まえ、民間企業は自社
内での研究開発をコアに限定するなど「選択と集中」を図っているが、その
ためには、アウトソーシング先として生産性の高い良質の研究開発サービス
事業者の存在が前提である。したがって、我が国の産業全体のイノベーショ
ンを支えるインフラとなる研究開発サービス業の生産性の向上は、喫緊の課
題である。
100
図2
2 0 ,0 0 0
我が国製造業の研究開発投資と付加価値額の推移
10億 円
10億 円
1 8 ,0 0 0
1 6 ,0 0 0
1 4 0 ,0 0 0
1 2 0 ,0 0 0
付 加 価 値 額 :右 目 盛 り
1 4 ,0 0 0
1 0 0 ,0 0 0
低下
1 2 ,0 0 0
8 0 ,0 0 0
1 0 ,0 0 0
6 0 ,0 0 0
8 ,0 0 0
増加
6 ,0 0 0
4 0 ,0 0 0
4 ,0 0 0
研 究 開 発 費 :左 目 盛 り
2 0 ,0 0 0
2 ,0 0 0
0
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
年
出典:総務省統計局「科学技術研究調査報告」
経済産業省「工業統計表」
(2) 業界の現状
① 市場環境
研究開発サービス業について、国際的には国連統計局による国際標準産業
分類の分類 73 の研究開発業、米国北米標準産業分類の分類 5417 の科学的
研究開発サービス等の分類が存在するものの、我が国の産業分類には研究開
発サービス業の分類は存在しない。
しかし、平成 19 年総務省科学技術研究調査報告では、国内において民間
事業者に拠出した研究費は約 1.5 兆円であり、その多くを研究開発サービス
業の事業者が担っていると考えられることから、一定程度の市場規模がある
ことが見込まれる。(我が国における研究開発サービス業のうち、「検査分
析業」については、平成 15 年の経済産業省特定サービス産業実態調査にお
いて市場規模 2,112 億円、就業者数は約 1.7 万人という統計が別途存在する)。
図3:企業等における外部支出研究費の推移
1990年度
億
円
1995年度
構成比
億
円
2000年度
構成比
億
円
構成比
2006年度
億
円
構成比
社外支出研究費
7,739
7.7%
9,054
8.8%
13,572
11.1%
19,008
12.5%
社内使用研究費
92,672
92.3%
93,959
91.2%
108,602
88.9%
133,274
87.5%
100,411
100.0%
103,013
100.0%
122,174
100.0%
152,282
100.0%
合計
出典:総務省統計局「科学技術研究調査報告」
② 産業構造
従来、研究開発サービス業には、検査・分析サービスを提供する事業者が
多く見られたが、最近では、研究開発の受託、設計や試作の請負、技術調査
サービスを主として行う事業者も多く見られるようになり、業態は多岐にわ
たっている。
また、大手企業の検査分析部門や技術調査部門が別会社化された比較的大
手の事業者と中堅中小規模の独立系の事業者が存在する構造となっている。
こうした背景から、大手企業から別会社化した事業者については、親子関係
などのある特定者間での取引が占める比率が高いのが現状である。
一方、経営資源が限られる中堅中小規模の独立系事業者については、定型
的で請負作業的なサービスの提供が中心となっており、サービスの内容につ
いて他社と差別化できていない事業者が多いのが現状である。
101
③ 雇用環境
研究開発サービス業に関する統計はないため、従事者数のデータは存在し
ないが、平成 19 年総務省科学技術研究調査報告に基づく民間における研究
者数、民間事業者に拠出した研究費及び民間研究費の総額から推計した場合、
外部に委託される民間研究に従事する研究者数は、約 5.4 万人程度と推定す
ることができる。
(3) 生産性の現状
我が国の研究開発サービス業に関する各種統計が整備されていないこと
から、現状では定量的な生産性指標を設定できる段階にはなく、生産性を把
握・分析するまでに至っていない。このため、生産性把握のための指標策定
が課題となっている。
(4) ユーザーからの評価
世界的なイノベーションの加速化や競争の激化を背景に、ユーザー企業に
おいては、研究開発についても「選択と集中」の強化が求められている。自
社内で行う研究開発を絞り込むとともに、新たな技術獲得やスピード確保の
観点から、研究開発の一部もしくは全部を外部委託するニーズが高まってい
る。
現状では、研究開発のコアな部分は自社内で行い、それ以外の部分(長期
的テーマやリスクの高い研究テーマなど)を外部に委託している場合が多い。
一部のユーザー企業においては、自社内では考えが及ばないものについて、
オープンイノベーションの考え方に基づいて外部の知見・能力を積極的に活
用しながら研究開発を行う動きも見られる。
こうしたユーザー企業からは、アウトソーシング先となる研究開発サービ
ス事業者に対し、顧客ニーズに応える高付加価値サービスを提供できる能力
の確保とともに、安心してサービスを利用できるための品質保証、秘密管理
に関するルールの遵守等の確立が求められている。
図4
研究開発において外部資源を活用する目的
出典:安部忠彦「企業の研究開発における社外資源活用の
実態と課題」富士通総研経済研究所2003年5月
102
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
研究開発サービス業は、従来から、製品性能などの検査、物質の成分分析
などの分野において、顧客の製品・サービスの維持・向上に重要な役割を果
たしてきたが、今後、我が国の経済社会全体のイノベーションインフラとし
ての役割が一層増大すると考えられることから、その要請に応じるためには、
研究開発サービス業の質と量の確保が重要な課題である。
(2) 外部要因
外部要因としては、まず、事業者が研究開発サービスを行う際に関係する
各種規制・制度を巡る課題が挙げられる。例えば、研究請負契約を結んだ上
で近接して研究開発を行う場合、受発注者間の研究者同士の意思疎通が労働
関係規制に抵触する場合があり得ることや、国内の試験所認定基準が国際規
格と整合していないことが事業者にとって海外市場展開の障害となりうる
ことから、関係する規制・基準の運用又は見直しについて検討することが課
題である。
次に、研究開発サービス業に関する各種データが整備されていないため、
実態把握を目的として研究開発サービス業に関する統計の整備を行い、その
生産性向上に向けて取組むべき方策を検討する際の基礎材料とすることが
求められている。
【労働関係の規制】
【試験所認定基準】
○請負契約とする場合、請負業務に従事する技
術者は業務遂行上の指示管理を自ら行わなけれ
ばならず(昭和61年4月17日労働省告示第37号)、
実態上、委託側と受託側との共同作業が困難で
あるため、試行錯誤が特徴である研究開発にとっ
て効果的な意思疎通が阻害される。
○派遣契約とする場合、研究開発業務において
同一業務に同一の派遣者を3年を超えて受け入
れており、その業務に新たに労働者を雇入れよう
とする場合には、派遣先は派遣労働者に雇用の
申し入れ義務を負う(労働者派遣法第40条の5) 。
国内法規において、試験所認定基準の国
際整合規格であるJIS Q17025に統一
されていないため国際相互承認に障害。
出典:産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会
第2回サービス合同小委員会報告資料(2008年1月)
を編集
(3) 業界要因
業界要因としては、まず、当該産業を1つのまとまった産業として認識す
ることが浸透していないことから、業界全体の能力を高めるための各種団体
活動が充実していないこと、社会的な認知度がさほど高くないためサービス
の潜在的ニーズを充分獲得しえていない可能性があること、優秀な人材の確
保が困難であること等が挙げられる。
次に、顧客のために高付加価値サービスを提供しても適切なインセンティ
ブが得られない場合、その取り組みは促進されないことから、高付加価値サ
ービス提供のインセンティブが得られる事業環境整備が課題である。そのた
めには、例えば、知的貢献度を踏まえた受託研究開発の成果に関する知財の
帰属のあり方など、研究開発サービス事業者の知的貢献度、能力に応じた対
価を得られる取引慣行が一般化することが必要である。
さらに、特定者間でのサービス取引が中心の場合、競争が制限されるため
生産性の向上は促進されないが、今後、業界全体として生産性を高めるため
には、潜在的な新規顧客が良質なサービス事業者を判別できる環境を整備す
103
るなどサービス取引のオープン化・メッシュ化、新規の顧客開拓の拡大を図
ることで生産性を高める必要がある。
【成果帰属に関する取引ルール 】
【認知度向上の必要性 】
1.検査・分析業の認知度・立場の向上のための
2.研究産業協会の知名度
取組の必要性
(研究産業協会を知っているか?)
(4)その他 0.5%
(3)必要とは思わ
(1) はい
26.0%
ない。0.5%
(1)必要である。
(2)現時点では
63.8%
必要性が判らない。
35.3%
(2) いいえ
出典:産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会
第2回サービス合同小委員会報告資料(2008年1月)
研究開発の受託契約において、全ての知財
権・ノウハウ等を発注者側に帰属させるケース
が殆ど。
今後は、受注側の創造性がより求められる
ケースの増大が想定されることから、こうした
取引慣行についても見直しや、研究開発サー
ビス業自身として自社ノウハウの適正な管理
方法について検討していく必要がある。
出典:産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会
第2回サービス合同小委員会報告資料(2008年1月)
(4) 個別企業要因
個別企業については、①提案力の強化によるサービスの高付加価値化及び
②資源投入の効率化が求められている。
① 付加価値の向上
個別企業においては、提供するサービスの付加価値向上のため、自前研究
の推進による独自技術力の強化などにより、受け身型から提案型のビジネス
モデルに拡大することが求められている。
また、サービスの高付加価値化のためには優秀な人材の確保が重要である
が、人材確保は困難であるのが実態であり、研究開発サービス業を担う高度
科学技術人材を社内に確保及び育成することが課題である。
② 資源投入の効率化
従来、研究開発サービス業では、顧客に対する事業活動の中で得られた各
種知識やデータ等について知識マネジメントが不十分であり、サービス提供
の効率化が進んでいなかった。今後は、企業内における知識のストック化の
推進及びその有効活用によって生産性を向上することが求められている。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
研究開発サービス業の生産性向上は、研究開発サービス業にとっての課題
であるだけでなく、これを利用する顧客産業の競争力の維持・向上にとって
も重要な課題として認識されている。
研究開発サービス業の生産性向上のためには、投入した研究開発コストに
対して、より質の高い研究成果をあげることが必要であり、今後、個々の事
業者が高品質化、高効率化に向けた様々な取組を推進することにより、業界
全体の生産性の水準を上げていく必要がある。
(2) 政策として取り組むべき方向性
① 統計の整備
今後、研究開発サービス業の生産性向上のための取組むべき方策を検討す
る際の基礎とするためにも、産業実態についての適切な把握が必要であり、
104
研究開発サービス業に関する統計整備に向けた検討を進めることが求めら
れている。
② 各種規制・基準についての点検
研究開発サービス業の国内外におけるビジネス展開、生産性向上の障壁と
なりうる労働関係や国際標準等に係る各種規制・基準について、その運用状
況を点検、今後の対応の在り方について検討することが求められている。
③ 研究開発サービスの見える化・取引のオープン化の推進
研究開発をより生産性の高い事業者にシフトさせるオープンイノベーシ
ョン戦略は、我が国全体の研究開発の生産性向上に寄与すると考えられる。
しかし、研究開発サービスの品質等に関する情報が第三者にも客観的に利用
可能な状態となってはいないため、現状では研究開発サービスのオープンな
取引、取引のメッシュ化はさほど進んでいるとは言えない状況である。した
がって、オープン取引環境を実現する観点から、研究開発サービスの品質等
の見える化のためのモデル指標の整備、オープン取引のためのプラットフォ
ームのモデル整備に向けて取り組んでいく必要がある。
(参考)オープンイノベーションを支援する仲介役(米国ナインシグマ社の日本活動の例)
日経ビジネス
2007.10.8号
ナインシグマ
紹介
期限
現在技術提案を応募中の案件テーマ名
3/7
3/7
3/7
3/7
3/11
次世代リチウムイオン二次電池用電極 低湿度でもプロトン伝導率が低下しない炭化水素系電解質膜
MBDによる自動車用ECU開発パートナー募集 非破壊でステンレス鋼チューブの厚みを測る技術
常温常圧下での機能性膜形成技術 金属リチウム二次電池におけるデンドライト生成を制御する技術
3/11
3/14
3/14
3/14
3/17
3/17
3/17
3/17
3/19
3/21
3/21
3/21
3/21
3/21
3/24
3/24
3/24
3/28
3/28
3/28
3/29
ドライフルーツ用の食用保護フィルム オープンセル構造の発泡体募集 押出し形成よる結合層が出ないPMMAポリオレフィン接着
無機微粒子へのセラミックスコーティング技術
SUSあるいは銅の平板上に金属酸化物を堆積させる技術
ペースト化を目的とした、スズ合金微粉末の酸化防止
または酸化膜除去技術 微小空間における放電制御技術の共同パートナー募集 水溶性材料のカプセル化技術 スチール板の限度線図作成方法 不燃性かつ不透明なポリエステル(メチルメタクリレート)化合物
食品向けの斬新なファイバーテクノロジー 透明導電性溶媒およびその成膜技術 普遍的に帯電しないポリメチルメタクリル樹脂 自動車のメンテナンス予知システム 明るい色で導電性の熱可塑性材料 石油貯蔵タンクのモニタリング技術 真鍮ターミナルへのアルミケーブルの接続改善技術 植物根の表面の成分吸着技術 澱粉を主成分とする次世代の増粘剤 高容量で耐久性のある不織布のフィルター媒体 オープンイノベーションを支援する基本プログラムスキーム
④ サービス生産性指標の整備
我が国の研究開発サービス業の生産性が欧米に比して低いというデータ
も存在するが、その利用データの範囲等に差異があることも踏まえ、国際的
にも比較可能な研究開発サービス業の生産性指標の整備に向けて取り組ん
でいく必要がある。
⑤ サービス・イノベーションへの挑戦に対する支援
研究開発サービス業はその科学的・工学的知見、ノウハウを活かして、小
売りや運輸等他のサービス業の生産性向上に寄与することが期待できる。
105
したがって、小売りや運輸等他のサービス業との連携・融合によるサービ
ス・イノベーションのための研究開発について支援の充実を図る。
サービスイノベーション
•米国経済の8割を占めるサービス産業は、情報技術や最先端技術を活用し、生産性の著しい向上や新規ビジネスモ
デルの生成などに寄与。
•サービス分野のイノベーションや経済活動への高い貢献度は注目されており、米国競争法に盛り込まれるとともに、
次期大統領候補(クリントン)の公約の一つにも加えられている。
サービスイノベーションに取り組む企業が増加
バンクオブアメリカ(金融):他行にないユニークなサービスを提供し、
業績を上げることを目標とし、「イノベーション&デベロップメント
チーム」を設置。同チームは、銀行業務を効率よく実施できるような
新しいサービスやサービス実施方法について研究を実施。
ネットフリックス(オンラインDVDレンタル):オンラインでDVDをレン
タルするという全く新しいビジネスモデルを提示。ビデオオンライン
視聴サービスを加えたり、また、「お勧めDVD」機能を向上させる技
術開発に成功した社外プログラマーに対する賞金コンテスト実施中。
グーグル(インターネット):サーチエンジン機能にとどまらず、メー
ル、ブログ、マップ、文書、オンラインビデオ放送など、包括的な
サービスを利用者に提供し、サービスの「価値」を高めることに成功。
アラマーク(飲食サービス):2006年にイノベーション・センター
(ARAMARK Innovation Center)を設立。消費者リサーチ、ブラン
ド戦略、料理、販売促進などの幅広い分野の研究者120名を擁す
るサービスイノベーション調査研究所として機能。
出典:各社ウェブサイト等の各種資料
政策立案者からの注目も急上昇
2007年8月に成立した「米国競争法」では、
全米科学アカデミー(National Academy of
Science)に対し、サービスサイエンスに関
する調査を委託し、結果を議会に報告させ
ることを規定。
•ヒラリー・クリントン上院議員は、公約の一
つとして、「サービスサイエンスイニシアティ
ブ(Service Science Initiative)」の立ち上
げを発表。
•このイニシアティブでは、
サービス産業に関する研
究開発を連邦機関が支援
し、コンピュータサイエンス、
経営学、組織学など複数
の学問に跨る学際的研究
活動の活性化が目指され
る計画。
サービスイノベーション(米国NSFからの支援)
連邦政府ではNSFが中心となってサービス
エンタプライズ工学(Service Enterprise
Engineering: SEE)を支援
現在進行中のプロジェクトの
分野別内訳(62件)
‡サービスセクター横断的モデルを探求
サービス・セクターにおいて業種を問わず、サービス経営
を数学的にモデル化し、そのモデルをもとに予測し、効果
的なシステムを創る。業種をまたがり、サービス全体の基
底となり得る体系的概念・構造(underlying structure)の
構築を目指す。物理学のニュートン力学や量子(物理)学
のようにサービス学の普遍的モデルを目指す。
‡応募者の半分はMBA、残り半分は工学部
ビジネススクールでも定量的分析研究を行っているケース
も多々あり(例:コロンビア大学MBAプログラムなど)、応
募者は工学部、MBAの半々である。
プロジェクト申請も多く、年間70件ほどのプロポーザルが送ら
れてくる中、7件程度にグラントを実際に付与。競争率は10倍。
注:数字は2008年2月27日時点。
出典:NSF, “Service Enterprise Engineering.”
出典:Hillary for President公式ウェブサイト
⑥ 研究開発サービス業の発展に向けた横断的課題への対応
研究開発サービス業は萌芽的産業であるため、取引慣行の確立、人材育成
の在り方など研究開発サービスを巡る横断的な諸課題の解決に向けて産学
官が連携して取り組んでいく必要がある。
(3) 業界として取り組むべき方向性
① 認知度の向上・信頼性の確保
また、特定者間の取引だけでなく、新規の顧客開拓を図るためには、業界
全体の認知度の向上とサービスの品質の見える化による信頼の確保が必要
である。このため、業界全体による取り組みとして、例えば、セミナーの開
催などにより事業者間での情報交換、技術経営力の強化を図ることや、対外
的な社会的認知度を向上するための業界としての組織整備が必要である。ま
た、業界全体でのサービスの品質に関する評価指標の検討、それらを活用し
た優良事業者の認定スキームの検討等、提供するサービスの内容等が外部に
積極的に情報発信される仕組みについての検討が必要である。
② 知的貢献度の高いサービスに関する取引慣行の整備
付加価値が高い提案型の研究開発サービスを実現するためには、業界全体
として研究開発サービス事業者の知的貢献度や能力に応じた対価を得られ
る取引が促進される事業環境整備に取り組む必要がある。サービス事業者の
知的貢献度を踏まえた受託研究開発の成果に関する知的財産の帰属のあり
方や適切な対価の獲得、顧客の秘密情報の管理等に関する取引ルールの整備
を進めることが必要である。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
① 提案力強化によるサービスの高付加価値化の推進
個別企業においても、従来の受け身型のビジネスモデルから、付加価値の
高い提案型のビジネスモデルへの展開を推進することが求められている。
そのため、各事業者は、自社研究を推進することによる独自の革新的な技
術力の獲得、機械技術やバイオ技術等の異なる専門技術を保有する事業者と
106
の連携による高付加価値サービスの提供、科学的・工学的知識を活用したサ
ービス・イノベーション領域の新規顧客開拓等により、提供するサービスの
高付加価値化を図ることが必要である。
【異分野との連携】
【高度科学技術人材の育成】
半導体プロセス・MEMS製造装置A社
機械加工とバイオ等異なる研究開発サー
ビス事業者間で連携することで、より総合
的なソリューションの提供を実現。
技術人材派遣A社
全国に研修センターを設置し、地域ごとの
ニーズ、社員の専門性に対応した多様な研修
プログラムを提供。
【一般サービス産業の顧客化】
【知的ストック化と活用】
技術をサービス業へ適用したA研究所
蓄積したRFIDタグ技術を用いることで、
大規模店舗内での顧客動線の詳細分析を
可能とし、小売店舗の生産性向上に貢献す
るプロジェクトを提案。
半導体試作サービスA社
LSI試作を請負うだけでなく、自社で高度
なライブラリ整備を行うことで、次回、試作す
る回路の動作再現性の向上、更なる顧客獲
得を図っている。
出典:産業構造審議会新成長政策部会・サービス政策部会
第2回サービス合同小委員会報告資料(2008年1月)
② 高度科学技術人材の確保・育成
提供するサービスの高付加価値化のためには、優秀な人材の確保が不可欠
である。したがって、個別企業において、高付加価値なサービスを提案する
ビジネスモデルを強化することを通じ、優秀な人材の能力や専門性が活かせ
る魅力ある職場を構築することで、高度科学技術人材を獲得することが求め
られる。また、企業内でのキャリアアップの推進のため、研究開発サービス
業に従事する人材に対する社内育成・研修機会の充実を図ることが必要であ
る。
③ サービス提供の高度化・効率化の推進
個別企業は、過去の受託研究や自前研究から得られたノウハウ等について
データベースを構築する等により企業内に知的ストックを蓄積し、これらを
次なるサービスの提供に有効活用し、サービス提供の効率化を図る必要があ
る。
また、受託内容を全て自社に行うだけでなく、大学、公設試験研究機関、
同業他社等と連携することにより、効率化を図ることの検討も必要である。
107
5.4.
認証サービス業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野における認証サービス業の位置づけ
製品やサービス、プロセス等がある仕様(規格等)に適合していることを第
三者が審査し、証明することを一般に「認証」という。認証には様々な種類が
あり、それぞれに課題があるが、本プログラムは、その中でも広く普及してい
るマネジメントシステム規格(MS 規格)への適合性の認証(MS 認証)を対
象とする。代表的な MS 規格として、品質マネジメントシステム(ISO9001)
や環境マネジメントシステム(ISO14001)があり、これらの規格については
認証実績が豊富で、産業としての規模もある。課題もある程度明確であること
から、本プログラムでは、特にこれらの規格の認証について扱うこととするが、
他の MS 規格に対しても本プログラムは有効であると考える。
MS 認証サービスは、供給される製品やサービスそのものに関する保証を与
えるものではないが、供給側の事業体制の MS 規格適合性を保証することによ
って、需要側に購買にあたっての判断材料を提供することができる。また、需
要側が判断材料として認証を評価する動きが広がると、供給側にとっては能力
証明手段の一つとして機能することになる。MS 認証サービスは、企業間取引
の円滑化だけでなく、消費者の購買活動における安全・安心の確保や企業の社
会的責任の遂行、行政施策の効率的推進等、有効に活用できる場面は多い。こ
れまでも社会財として企業や消費者に一定程度貢献してきたところであるが、
そのポテンシャルはまだ大きい。
MS 認証サービスが通常のサービス業と異なる点として、サービス(認証)
を活用する者が(少なくとも直接には)対価を負担せず、認証を取得する者が
負担することが挙げられる。認証を取得する者も、認証を受けることによって
利害関係者からの評価が高まる点で、サービスの受益者であることには間違い
ないが、その評価をする認証活用者とサービスの供給者である認証機関の間の
直接の関係が希薄になりがちな点は、後述の通り、MS 認証サービス業の課題
である。
また、MS 認証サービスのルールの多くが、国際規格として定められている
点も大きな特徴である。国際規格に基づいていることにより、MS 認証の結果
は国際的に活用されており、国際間取引の促進に貢献していると評価できる。
しかしながら他方で、個々の業務手順等が国際規格に定められているために、
社会ニーズの変化等に対して柔軟に対応しづらいという面もある。
【MS 認証サービスの概要】
MS 認証サービスは、「認定機関」から認定された「認証機関」が、企業等の品質管
理や環境管理などの仕組みが国際規格(ISO9001(品質)、ISO14001(環境)等)
に適合しているかどうか審査し認証する事業であり、国際的にも広く活用されてい
る。
認定機関
認定機関
(JAB)
(JAB)
組織
組織
(企業等)
(企業等)
認証機関
認証機関
認定
認証機関の監督
認証
108
認証
の
活用
行政
行政
取引先企業
取引先企業
消費者
消費者
等
等
② 認証サービス業の生産性を向上させる必要性
安全・安心の確保や責任ある企業の事業活動に対する国民の意識等の高まり
の中、MS 認証サービスがその付加価値を充実させ、国民のニーズに応えてい
くことは、単に一つの産業が成長するという点のみならず、公の利益にも適う
ものである。同時に、認証サービスが発展し、有効なマネジメントシステムが
運用されている事業者の価値の「見える化」を促進することは、グローバル化
が進展する中で厳しい競争に直面している我が国企業の正当な評価を実現し、
競争環境の整備に資するものである。
(2) 業界の現状
① 市場環境
我が国の ISO9001 の認証サービスは、平成 5 年頃に本格的に事業がスター
トして以降、認証件数を順調に伸ばしてきたが、平成 17 年頃から特に建設業
を中心として伸びが減速しはじめ、平成 19 年には認証件数が減少に転じるに
至った。平成 19 年末の認証件数は約 4.2 万件である。また、ISO14001 の認
証サービスも、平成 8 年にスタートして以降、順調に認証件数が増加してきた
が、平成 17 年からは伸びが鈍化しており、平成 19 年末の認証件数は約 2 万件
となっている 。
MS 認証サービス業の市場規模に関する公式の統計は存在しないが、認証機
関の売上高は ISO9001 と ISO14001 の認証について約 500 億円と推定される。
これ以外の規格 の認証や認証取得と関連したコンサルティングサービスなど
も含めると、MS 認証サービス業の市場規模は、おおよそ 1,000 億円と見込ま
れる。認証一件当たりの収入は低下傾向が継続している模様で、認証件数が伸
びない中で、MS 認証サービス業界は厳しい競争環境にあると言える。
大企業による認証取得は既に一巡し、今後は中小企業への普及拡大が期待さ
れているが、中小企業の間には認証料金の高さや認証取得に要する手間を問題
とする声も多い。このような声に応え、ISO14001 に基づく認証よりも低い費
用と短い審査工程で認証が取得できる、いわゆる「簡易版認証制度」 が着実
に認証件数を伸ばしており、その種類も増えている。いわゆる簡易版認証制度
の内容は多様であるが、ISO14001 の規格の一部を活用するものや簡易な審査
を行うもの、あるいはコンサルティングなどの付加サービスを行うものなどが
ある。その機能、役割は ISO14001 の認証サービスと根本的に異なるとの意見
があるが、ISO14001 の認証取得件数の伸びの鈍化は、このような「簡易版認
証制度」の伸びとも関係していると思われる。
国内市場が伸び悩む一方で、世界全体では MS 認証件数は引き続き伸びてい
る。特に東アジアでの伸びは著しく、例えば平成 18 年末の中国の認証件数は
ISO9001 で 16.2 万件(世界第一位)、ISO14001 で 1.9 万件(世界第二位)
である。アセアンにおいても認証件数は増加傾向で、例えばマレーシアでは平
成 14 年末には 1,100 件程度であった ISO9001 の認証件数が平成 18 年末には
6,800 件程度まで増加している。タイ、シンガポール、フィリピン、インドネ
シア、ベトナムにおいても同様に平成 14 年から平成 18 年の間に認証件数は 2
倍∼3 倍の伸びとなっている。
109
20000
45000
40000
15000
35000
10000
25000
増減
期末件数
30000
20000
5000
15000
10000
0
5000
ISO9001年間増分
ISO14001年間増分
2007-Q3
2006-Q4
2005-Q4
2004-Q4
2003-Q4
2002-Q4
2001-Q4
2000-Q4
1999-Q4
1998-Q4
1997-Q4
1996-Q4
1995-Q4
-5000
1994-Q4
0
ISO9001
ISO14001
ISO9001 及び ISO14001 認証件数の推移
(JAB 適合組織統計データより作成)
年度
2001
2002
2003
2004
2005
2006
ISO 認証サービスの市場規模の推移
ISO9001
ISO14001
推定売上額
認証件数
推定売上額
認証件数
億円
件
億円
件
259
16,665
86
4,609
296
23,882
94
7,291
329
31,457
106
10,028
322
36,671
128
12,869
305
41,411
146
16,170
299
42,621
147
17,833
(これ以外に、JAB 認定以外の認証サービスや ISO コンサルタントサービス
があり、合計すると、1,000 億円程度の規模と推定される。)
ISO9001
(件)
(件)
8000
1600
7000
1400
6000
1200
5000
1000
4000
800
3000
600
2000
400
ISO14001
200
1000
0
0
2002
2003
タイ
フィリピン
2004
2005
シンガポール
インドネシア
2006
(年)
マレーシア
ベトナム
2002
2003
タイ
フィリピン
2004
2005
シンガポール
インドネシア
2006
(年)
マレーシア
ベトナム
アセアン各国の認証件数の推移
(ISO Survey2006 より作成)
110
② 産業構造
MS 認証サービス業は、認証を取得しようとする組織を審査し、認証を与え
る「認証機関」と、「認証機関」の適正性 を審査し、認定を与える「認定機
関」、審査員の評価や登録を行う「審査員評価登録機関」等から構成される。
また、広い意味では、コンサルティングサービスを行う「コンサルタント」等
も含まれる。
我が国では、平成4年に日本工業標準調査会(JISC)がとりまとめた「我
が国の品質システム審査登録制度のあり方」に基づいて基本的な制度設計がな
され、翌年に財団法人日本適合性認定協会(JAB)を「認定機関」とする MS
認証サービスがスタートした。
JAB に認定されている認証機関の数は、平成 16 年ごろまでは増加が続いた
が、その後は横ばいで推移しており、平成 20 年2月現在、ISO9001 に関して
52 機関、ISO14001 に関して 44 機関となっている。最近では、JAB の認定を
受けず、外国の認定機関から認定を受ける等して活動する認証機関の活動も目
立つようになっている。
認証機関の規模は様々で、ISO9001 の認証については、認証件数が 500 件
以上の大手認証機関が 20 機関ある一方、500 件以下の小規模の認証機関が 32
機関存在する。但し、大手認証機関によるシェアは約 9 割であり、小規模認証
機関の認証件数は少ない。小規模の認証機関には、このところ事業を廃止する
機関や、大手認証機関との統合を選択する機関も出始めている 。
60
50
機関数
40
30
20
10
19
19
94
年
度
95 末
年
19 度
96 末
年
19 度
97 末
年
19 度
98 末
年
19 度
99 末
年
20 度
00 末
年
20 度
01 末
年
20 度
02 末
年
20 度
03 末
年
20 度
04 末
年
20 度
05 末
年
20 度
06 末
年
度
末
20
08
.3.
1
0
QMS
EMS
JAB 認定を受けた認証機関数の推移
(JAB 公開情報より作成)
③ 雇用環境
認証の現場を支える審査員は、認証機関の社員(企業からの出向者を含む)
と契約審査員に大別できる。契約審査員は審査員評価登録機関に登録されてい
るのが一般的で、同機関による評価(審査員資格)を参考にしつつ、認証機関
は自ら審査員の力量を判断している。審査員の力量は MS 認証サービスの基盤
であり、この力量判断の参考を与える審査員評価登録機関の機能や個々の認証
111
機関の審査員の力量を管理する仕組みは極めて重要である。
(3) 生産性の現状
MS 認証サービス業の生産性の評価する場合、MS 認証サービスの付加価値の
源泉である信頼性が重要な要素となる。
我が国の MS 認証サービス業は、その歴史が浅いこともあり、認証への信頼感
をはじめとする付加価値を広く社会に提供できる状況には至っていない。(詳細
は(4)参照)
(4) ユーザーからの評価
MS 認証サービス業は、認証取得組織が製品やサービスの品質確保や事業活動
における環境配慮等の面において、需要側をはじめとする関係者を満足させる能
力があることを、関連する国際規格への適合性を確認することで証明する事業で
ある。認証取得によって利害関係者からの評価が高まることを期待する認証取得
組織がサービスの顧客であることは間違いないが、同時に、認証取得組織の利害
関係者(取引先等)が実際に認証を活用する本来の顧客として存在する点が大き
な特徴である。認証取得者の MS 認証サービスに対する評価は、MS 認証がこの
本来の顧客にどのように評価されるかに大きく依存する。すなわち、社会的に
MS 認証が高く評価されるならば、対価を支払う認証取得組織の MS 認証に対す
る評価も高くなる。
本来の顧客の立場からは、MS 認証取得組織に対し、認証に見合ったパフォー
マンスを期待するのが当然である。しかしながら現実には、認証取得組織に必ず
しもパフォーマンスが伴っていないとの批判が聞かれ、例えば、認定機関の国際
的集まりである国際認定フォーラム(IAF)では MS 認証の信頼性を向上させる
ための方策が議論されている。平成 18 年度に経済産業省が認証取得組織の経営
者や従業員を対象に行った調査では、回答者の過半数がそれなりのパフォーマン
スが伴っていると自己評価している一方で、4割以上が MS 規格のパフォーマン
ス向上への有効性について「あまり有効に機能していない」又は「有効に機能し
ていない」と考えている。これは、無視できない割合の組織において、認証に見
合ったパフォーマンスが伴っていない可能性を示唆している。
本来の顧客である一般消費者からは、そもそも MS 認証の基礎である MS 規格
について十分な理解が得られていない 。また、MS 認証の取得の有無が消費行
動に影響を与えると回答した消費者は3割弱であり、MS 規格について一定の知
識がある消費者であっても、認証を積極的に活用しているわけではない。
企業間取引において、取引先に認証取得を要請するケースが増えている。この
ような認証の活用が増え、認証取得組織の評価が高まることは、MS 認証サービ
ス業にとって好ましい傾向ではあるが、グリーン調達などにおいていわゆる簡易
版認証制度と同じ扱いとされているケースも少なくないなど、MS 認証サービス
の内容が未だ正確に理解されていない面もある。
このように、本来の顧客による MS 認証サービスへの理解は進んでおらず、評
価も十分に高いとは言えない。加えて、最近の認証取得組織の不祥事の頻発が、
認証サービスへの期待感を低下させ、この傾向に拍車をかける懸念がある。
他方、MS 認証の審査を通じて組織に「気づき」を与え、組織を良くすること
で、認証取得組織に付加価値を提供しようとする努力は、これまでの認証件数の
伸びを支えた原動力の一つであり、一定の評価を得てきた。しかしながら、コン
112
サルティングサービスとの役割分担を考えると、この点のみを追求して今後の業
の発展を目指すのは容易ではなく、以上で指摘した本来の顧客からの評価、すな
わち社会からの信頼の確保を重視した戦略が必要となっていると言える。
MS 規格はパフォーマンスの向上に対して有効に機能してきましたか?
有効に機能してきた
あまり有効に機能していない
300人∼ 4%
100人∼299人
6%
1人∼99人
7%
0%
やや有効に機能してきた
有効に機能していない
55%
34%
51%
36%
46%
10%
20%
7%
7%
36%
30%
40%
50%
60%
11%
70%
80%
90%
100%
パフォーマンスが向上した理由(複数回答)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
自社のオリジナルな仕組みを基礎に、
マネジメントシステム規格を
参照しながらシステムを構築したため
180
200
158 (42.8%)
164 (44.4%)
規格要求事項を満たすように、
既存の仕組みを徹底して見直したため
143 (38.8%)
既存の帳票類などを活用しながら、
文書化の要求に対応したため
126 (34.2%)
内部監査や是正処置などCHECK,ACTの
仕組みがうまく機能しているため
54
経営層の関与度合いが高かったため
(14.6%)
136 (36.9%)
文書化に伴い、権限や手順が明確になったため
33 (8.9%)
(マネジメントシステムに関係する)
共通言語として使用できたため
パフォーマンスが向上しなかった理由(複数回答)
0
20
40
60
80
100
80
要求事項が製造業向きである等、
仕組みの適用が難しかったため
120
140
160
120
117
運用に係るコスト、負荷が高く、
現場の主体的な参加が望めなかったため
(41.7%)
(40.6%)
153
運用が形式化しており、
惰性で審査登録をしているため
99
(53.1%)
(34.4%)
114
文書化の要求が多すぎるため
200
(27.8%)
審査登録を行うこと自体が目的であったため、
パフォーマンスの向上まで意識しなかったため
適切な変更管理がなされず、
実態と文書に乖離があるため
180
(39.6%)
MS 規格と我が国の産業競争力強化に関する調査
(2007 年 2 月 経済産業省/三菱総合研究所)
113
ISO9001 や ISO14001 などの規格を知っていますか?以下の項目から
最も近いものを1つお答え下さい。(単一選択)(N=601)
知らなかっ
た。初めて名
前を見た,
18%
規格を読ん
だことはない
が、内容をよ
く理解してい
る, 4%
規格を読ん
だことがあ
り、内容をよ
く理解してい
る, 8%
名前は聞い
たことがある,
36%
どのような規
格か、内容を
ある程度知っ
ている, 21%
何に対する
規格かは
知っている,
13%
ISO9001 を認証取得している場合の消費者行動への影響
大きく影響する
やや影響する
影響する
影響しない
わからない
株式の購入時
就職先(自分または子どもの)の選択時
個人情報・機微情報等を必要とする商品・製品の購
入、サービスの利用時
食品・衣類等安全性を重視する商品・製品の購入、
サービスの利用時
高額な商品・製品の購入、サービスの利用時
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100
%
ISO14001 を認証取得している場合の消費者行動への影響
大きく影響する
影響する
(N=やや影響
491) する 影響しない わからない
株式の購入時
就職先(自分または子どもの)の選択時
個人情報・機微情報等を必要とする商品・製品の購
入、サービスの利用時
食品・衣類等安全性を重視する商品・製品の購入、
サービスの利用時
高額な商品・製品の購入、サービスの利用時
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100
%
MS 規格と我が国の産業競争力強化に関する調査
(2007 年 2 月 経済産業省/三菱総合研究所)
114
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
我が国の MS 認証サービス業は、国内市場の伸び悩みという問題に直面してお
り、これまで順調に拡大してきた MS 認証サービス業界は大きな転機を迎えてい
ると言える。認証取得の動機として、取引先からの要請が重要な要素となってい
る実態等も踏まえれば、市場の伸び悩みの要因として、前節で指摘した本来の顧
客からの評価が不十分である点を重視すべきである。MS 認証サービス業がスタ
ートして以来これまで、認証取得組織を重視したビジネスモデルで業界は順調に
成長してきたが、このモデルが限界を迎えつつある中、今後は本来の顧客も重視
する本来の制度設計を再確認し、認証への信頼性を確保することを最大の課題と
捉えた取組が必要である。
(2) 外部要因
認証の価値について社会の共通認識がなく、例えば、認証取得組織は未取得組
織と比べて何が違うのかについて、明確な理解がなされていない。このため、認
証を取引先(供給者)に求める傾向はあっても、積極的な活用はされず、認証に
対する社会の評価が高まっていない。結果として、形式的に認証を取得する組織
が一定割合生まれ、またこのような需要に応えようとする認証機関も出現してお
り、このことが MS 認証サービスの信頼性向上の阻害要因となっている
(3) 業界要因
① 認証の価値に関する共通認識の欠如
審査登録機関協議会(日本で活動している MS 認証機関の集まり)において
MS 認証制度の在り方について各種の検討が行われてはきているものの、認証
に対する信頼性確保のための実際の取り組みについて、認証機関間の足並みは
必ずしも揃っておらず、このことが社会への説明や広報を困難にしている。こ
れでは認証に対する本来的顧客からの評価は高まらず、結果として認証市場は
活性化が難しくなっている。
② 認証の質を維持するための仕組みの不足
個々の認証機関による審査員の力量評価能力や研修等の実施能力が、小規模
認証機関も含め全ての認証機関で確保されるような仕組みが、認定機能の強化
による対応を含め必要である。
また、基本的には組織が自律的にマネジメントシステムを構築していくこと
を前提とした審査・認証が行われており、組織側の偽装等に対しては、認証機
関に強制的な調査権がなく、また限られた審査工数の中でのサンプリング審査
が主体となっていることから、審査の中で見つけ出すことが容易でないことも
指摘されている。
さらに、現状の MS 認証サービスが本来の顧客に提供しているものは、事実
上、組織の認証取得の有無に関する情報だけであり、顧客が求める信頼の判断
材料となるような付加的な情報を提供することが望まれている。
③ 認証市場の停滞
大企業による認証取得が一巡し、今後は中小企業への一層の普及が期待され
るところである。しかしながら、認証の価値について社会の共通認識がないこ
115
とに加え、大企業と同様の審査手法が中小企業にも一律に適用され、中小企業
の特質に応じた審査が必ずしも十分に提供されていないため、リソースの限ら
れた中小企業には負担が大きく、中小企業への更なる普及は進みにくい状況に
あり、これが国内認証市場が伸び悩みを迎えた大きな要因の一つともなってい
る。
また、成長する東アジア市場において、日本の認証機関のプレゼンスは極め
て限定的である。
(4) 個別企業要因
小規模認証機関等、認証機関の中には審査員の質の向上が困難なところがある。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
MS 認証サービスは信頼性が付加価値の源泉であることから、認証に対する信
頼性の向上を通じて生産性向上を図るべきである。
そのため、まずは認証の価値を明確化し、業界としてのコンセンサスを形成す
ると共に社会に対して積極的な情報発信を行う必要がある。その上で、認証の質
を維持するための仕組みづくりにも取り組むべきである。更には、認証市場の拡
大を図るための方策についても検討すべきである。
(2) 政策として取り組むべき方向性
① 「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」
の制定
日本工業標準調査会における審議を踏まえ、認定機関及び認証機関が MS 認
証制度の制度設計及び運用において留意すべき事項を、経済産業省のガイドラ
インとしてとりまとめ、本年夏頃までに公表する予定。
② 認証サービス WG における詳細検討
本委員会における検討のために設置した認証サービス WG を今年度も引き
続き開催し、下記(3)に記した取組のうち詳細検討が必要な部分について検討を
行い、具体的方策等の提示を目指す。
(3) 業界として取り組むべき方向性
① 認証の価値の明確化
認定機関は、認証機関と協力して、認証サービスに期待できること(効用)
と期待できないこと(限界)を明らかにし、まずは認定機関及び各認証機関の
間でコンセンサスを形成し、その上で本来の顧客である社会に分かりやすいメ
ッセージとして発信する。なお、上記のコンセンサスは、コンサルタント等
MS 認証サービスに携わる他の主体との間でも共有する必要がある。
② 認証の質を維持するための仕組みづくり
認定機関は、①の認証の効用の実現を認証サービス業界全体として担保する
ため、認定機関、認証機関、認証取得組織の緊張感を確保する仕組みを強化す
る。
各認証機関は、審査員の審査技術や認証システムの質を維持・向上させるた
116
め、認証機関間の連携促進などの取組を進める。また、認証に関連する組織の
情報のうち、本来の顧客にとって有用なものを分かりやすい形で開示し、認証
の透明性を高めることで、本来の顧客からの信頼を確保する。なお、このよう
な情報の開示によって、認証の価値の向上や認証機関間の健全な競争の促進と
いった効果も期待できる。
③ 認証市場の拡大
中小企業への普及を図る観点から、認証機関は、信頼性を確保しつつ、審査
工数や認証料金を低減する方策を検討する。なお、中小企業による認証取得に
おいてはコンサルタントの役割が大きく、コンサルタントによる適切な指導、
費用請求が求められる。
また、環境マネジメント分野については、認定機関及び認証機関が、MS 認
証サービスに係わる他の主体とも連携し、ISO14001 認証といわゆる「簡易版
認証制度」との違いを明確にし、ISO14001 認証の価値を社会に対して適切に
説明していくことが重要である。
認証機関においては、さらに中長期的課題として、東アジアの認証需要への
対応を検討する。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
① 認証機関の事業統合・業務提携による効率化
審査員の質の維持・向上、業務の効率化による認証コストの低減のため、特
に小規模認証機関については、他の機関との業務提携や経営統合などの効率化
策の検討が必要である。
117
5.5.
プラントエンジニアリング業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野におけるプラントエンジニアリング業の位置づけ
プラントエンジニアリング業は、国内外のメーカー等から石油精製、化学、
製鉄、発電等のプラント(製造設備)の企画、設計、調達、施工、施工管理
を一括して請負い、これらのサービスを提供する産業である。プラントエン
ジニアリング業は、我が国製造業の競争力を強化し、産業インフラ、生活イ
ンフラの整備に貢献するとともに、海外各国のプラントの建設を通じて世界
のエネルギーの安定供給、環境・資源エネルギー制約に対応した国際貢献、
現地国の産業の高度化などに寄与している。
プラントエンジニアリング産業の成り立ち
従来の状況
今日の状況
エンジニアリング業の業務の流れ
一部
外注
購入
外注
個別機械、建物の設計に加え、運営
やメンテナンス面での作業効率や
作業員の動線を考慮した効率的な
計
材料
機器
等
調
建
設
業
建
配置・配管レイアウト等を提案。
機器・資材や作業員等の調達に加
え、大型・重量物の輸送方法の検討
や、顧客の資金調達等も実施。
達
建設業に外注したプラント建設に
加え、性能を保証するためのシステ
ム統合試験や試運転等も実施。
設
石油精製、
化学、製鉄、
発電等
エンジニアリング業︵サービス業︶
施工
管理
画
の選定やプラント条件の提案。
一括して外注
調達・
検収
境負荷等を配慮した製造プロセス
設
設計
約、プラントのエネルギー効率・環
海外・
他社製造業
一部
外注
製品の市場性、原材料の調達上の制
製造業 設備部門
製造業 設備部門︵
工務部︶
石油精製、
化学、
鉄鋼、
発電等
企
企画
企画
(内製)
設計
(内製)
調達・
検収
施工
管理
性能
保証
購入
外注
材料
機器
等
建
設
業
② プラントエンジニアリング業の生産性を向上させる必要性
プラントエンジニアリング業は、必要な要素技術(モノ)と経営手法(サ
ービス)を総合的に駆使し、顧客の企業価値及び社会資本価値の向上に貢献
している。具体的には、国内外において次のような重要な役割を果たしてい
る。そのため、我が国プラントエンジニアリング産業の生産性向上は当該産
業の生産性向上のみならず、我が国経済全体の生産性向上を底上げする役割
を担うものであることから、プラントエンジニアリング業の生産性向上の方
向性を検討する意義は大きい。
イ 海外の産業・社会インフラ構築に協力
プラントを建設する途上国の産業・社会インフラ構築に協力することによ
って、当該国の経済発展に貢献するとともに、我が国による国際貢献として
も寄与している。
ロ 我が国の産業競争力の強化に貢献
国内外における我が国の石油精製、化学、製鉄、発電等の産業界に技術的・
経済的に競争力のあるプラントを提供し、顧客ニーズに最適、最速に臨機応
変に対応したシステムで応えていくことにより、これらの産業の競争力強化
118
や輸出拡大に貢献している。また、既存プラントの更新や既存コンビナート
全体におけるエネルギー効率向上など老朽化施設の機能更新を通じて、我が
国製造業等の維持、競争力強化に貢献している。
ハ 環境・資源エネルギー制約に対応した生産プロセスやエネルギープロセ
スの提供
エネルギーサプライチェーンに係わる信頼性の高い設備の建設を行い、産
油国、産ガス国のプロジェクト遂行を通じてエネルギーの安定供給を担保し
ている。そのプロセスで、エネルギー効率化の改善、新エネルギー技術の開
発などの具体的な付加価値創出を行っている。こうした環境・資源エネルギ
ー制約に対応した新たな生産プロセスやエネルギー供給プロセスを、我が国
産業に提供することにより、国際競争力強化に貢献している。
(2) 業界の現状
① 市場環境
財団法人エンジニアリング振興協会の調べによると、2006 年度の我が国プ
ラントエンジニアリング企業全体の受注高は約 12 兆円で、2002 年度の約 10
兆円から増加傾向にある。その要因は、国内での電力プラント等の需要が堅調
であること、また、海外では、世界的に大規模なプラント新設ラッシュを受け
て好調であることによる。
売上高の構成割合で見ると、業界全体では売上高の約 75%が国内であるが、
専業エンジニアリング企業では売上高の約6∼7割が海外である。
また、我が国の海外プラントエンジニアリング成約実績は、1960 年代から
拡大傾向にあるが、円高やアジア通貨危機等により大きく左右される等、需要
変動が大きい。
我が国の海外プラント・エンジニアリング成約実績の推移
(億ドル)
2001 米国同時多発テロ
300
257.7
1997 アジア通貨危機
197.4
1985 プラザ合意
200
1979∼80 第二次石油危機
174.6
1991 湾岸戦争
193.7
188.8
192.4
172.0
153.7
139.7
1977 円高不況
1973 第一次石油危機
100
80.4 124.4
1971 ニクソンショック
0
'50
'55
'60
'65
’70
'75
'80
'85
'90
(出典)『海外プラント・エンジニアリング成約実績』のデータをもとに作成。
119
'95
'00
'05
(年度)
(兆円)
20
我が国企業のエンジニアリング業務受注高の推移
16.6
16.1
15
13.7
15.9
15.1
14.514.3
14.0
13.6
12.5
12.4
11.711.512.1
11.7
10.7
10.2
12.2
10 8.9 8.8 8.6 8.9 8.9 9.1
9.6
海外
国内
5
0
1981
1986
1991
1996
2001
2005(年度)
(出典)(財)エンジニアリング振興協会『エンジニアリング産業の実態と動向』
② 産業構造
企業数は約 130 社で、比較的中堅から大規模企業で構成されている。これら
の企業では、製造業である親会社から専業エンジニアリング企業として独立し、
親会社からの発注のみならず、独自のエンジニアリング・ノウハウを外販し、
国内よりもむしろ海外展開を積極的に図る企業が多くなってきている。
一方で、石油精製プラント、石油化学プラント等を手掛ける専業中堅のエン
ジニアリング企業では、親会社からの発注による国内事業が中心となっている
ことも多い。また、総合建設や造船重機においては、社内にエンジニアリング
部門を有し「エンジニアリング・サービス」を外販している会社も多い。
③ 雇用環境
我が国のエンジニアリング事業に従事する国内従業者数は、2006 年時点、
約 11 万人であり、ここ数年は減少傾向にある。他方、最近、海外に幅広く展
開している専業エンジニアリング企業は、アジア地域等に大規模な拠点を配置
し、現地雇用者を多く採用している。
また、我が国プラントエンジニアリング企業が海外で手掛けるプラント建設
プロジェクトは、大規模なものになると現地下請先による期間雇用等を通じて、
数千人から数万人の建設労働者を動員することもあることが特徴である。
120
我が国エンジニアリング業の受注高及び従業者数の推移
(百万円)
14,000,000
技術系
従業者数
受注高
12,000,000
(人)
250,000
200,000
10,000,000
150,000
8,000,000
6,000,000
100,000
4,000,000
50,000
2,000,000
0
0
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
(出典)経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
(3) 生産性の現状
① プラントエンジニアリング業における生産性計測指標
プラントエンジニアリング業界として生産性計測指標を一律に定めている
ものではなく、参考指標としては従業者1人当たり受注高、ROA、ROE など
が挙げられる。
② プラントエンジニアリング業における生産性の現状
我が国エンジニアリング企業の「従業者1人あたりの受注高」の推移をみる
と、全体としては過去数年上昇傾向にあるが、企業別にみると、受注高が大型
案件の有無等により、年によって上下することから、中期的傾向としての上昇
傾向はあるものの、受注高の変動により「従業者1人あたりの受注高」も変動
しやすい状況が読み取れる。
我が国のエンジニアリング企業の ROA、ROE を見ると、欧米企業とも比肩
している中で、韓国企業とも差があまりない状況である。
我が国プラントエンジニアリング企業一人当たり受注額の推移(百万円)
100.0
84.9
80.0
78.3
61.3
69.9
60.0
58.1
40.0
20.0
0.0
2002年度
2003年度
2004年度
2005年度
2006年度
1人あたり受注額
(出典)経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
121
我が国プラントエンジニアリング企業主要3社の最近の1人あたり受注高の推移
A社一人あたり受注高の推移(百万円)
10,000 億円
8,000
6,000
4,000
2,000
0
500
400
300
200
100
0
従業員一人あたりの受注高
受注高
500
400
300
200
100
0
20
0
20 1
0
20 2
0
20 3
0
20 4
0
20 5
0
20 6
07
10,000 億円
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2002 2003 2004 2005 2006
B社一人あたり受注高の推移(百万円)
受注高
従業員一人あたりの受注高
C社一人あたり受注高の推移(百万円)
4,000 億円
200
3,000
150
2,000
100
1,000
50
0
0
2001200220032004200520062007
従業員一人あたりの受注高
受注高
(出典)プラントエンジニアリング企業各社の財務データを元に作成
内外のエンジニアリング企業のROA(%)
8
7
6
5
4
3
2
1
0
6.9
6.6
5.6
5.4
5.3
5.4
4.3
)
(韓
)
重工
産業
(韓
独)
e n(
i p( 仏
ch n
yss
Th
大林
ee r
J ac
ob s
En
g in
Te
de (
独
L in
i ng
(米
米)
up(
G ro
h aw
)
)
)
or (
米
eS
Th
2.5
現代
2.5
2.0
F lu
C社
国内
B社
国内
国内
A社
2.2
(出典)プラントエンジニアリング企業各社の財務データ2006年度を元に作成
122
内外のエンジニアリング企業のROE(%)
30.4
35
30
22.6
25
20
15
10
15.2
12.8
10.7
15.9
13.9
9.9
8.4
10.0
4.1
現
代
重
産
工(
業(
韓)
韓)
)
独
e n(
大林
ys s
Th
ch n
ip (
仏)
独)
gin
ee
Te
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G ro
w
Ja
co
bs
En
ha
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Th
ri n
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米
L in )
de (
米)
or (
米
)
社
F lu
国
内C
社
内B
国
国内
A社
5
0
(出典)プラントエンジニアリング企業各社の財務データ2006年度を元に作成
(4) ユーザーからの評価
我が国のプラントエンジニアリング会社の主要顧客は、国内では石油精製会社、
石油化学会社等、海外では国営石油・ガス会社、国際石油メジャー等石油・ガス
の開発、精製、化学製品関連企業が主である。
国内顧客においては、自社国内工場建設にあたり、外国企業に発注することは
極めてまれ(自社工場の外国人労働者の活用を認めない等の事例あり。)である
ことから、国内プラントエンジニアリング会社は、建設工事の請負先として貴重
な存在である。
海外顧客からの日本企業のみならず一般的なコントラクターに対する評価と
しては、その選定要因として「キーパーソンの質」、「プロジェクトマネジメン
ト能力」を重視する企業が多い。また、顧客が好む契約形態も多様化、第三国エ
ンジニアの活用も賛成する意見が多い一方で、品質低下に不満を有する企業も多
い。
ダウンストリーム顧客によるプラントエンジニアリング企業の選定要因
1989
E&Cコントラクター選定要因
1995 1997 2001 2003
キーパーソンの質
2005
プロジェクト・マネジメント
能力
0
工事能力
2
詳細設計能力
ランキング
4
価格競争力
6
同種ジョブ実績
8
プロジェクト管理システ
ム
10
迅速性・柔軟性
12
(出典)海外調査会社による調査(2005)
123
ダウンストリーム顧客の動向
ダウンストリーム顧客の動向
好ましい契約形態
サービスの価値(品質/価格)
3%
好ましい契約形態
31%
22%
30%
3%コスト償還契約
折衷
22% 型契約
31%
EPC定額契約
折衷
型契約
コスト償還契約
5% ビスの価値(品質/価格)
サー
65%
5%
満足
品質
低下
に不
満
30%
満足
65%
品質低下に不満
44% 額契約
EPC定
44%
第三国エンジニアの直接雇用
大型案件分割発注の検討
11%
第三国エンジニアの直接雇用56%
反対
33%
11%
賛成
9%
反対
56%
9%
82%討
大型案件分割発注の検
9% 賛成
9%
82%
反対
反対
賛成
賛成
33%
(出典)海外調査会社による調査(2005)
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
我が国のプラントエンジニアリング企業が持続的な成長を実現していく上で、
その中心的な事業分野であるプラントの建設プロジェクト(いわゆるEPC (E:
Engineering, P: Procurement, C: Construction))において、顧客に対し付加価
値を与え、他者と差別化を図っていくための取り組みや市場を確保・拡大してい
く上での積極的な海外展開等が必要である。
さらにプラントエンジニアリング企業の中心的な事業分野に固執することな
く、自らの強みであるエンジニアリングノウハウを活用した事業の多角化への積
極的な取組みが重要である。
これらを進めていくにあたって、産学官が連携し生産性向上に向けた取り組み
を行っていくことが課題となっている。
(2) 外部要因
現在、環境・資源エネルギー制約の高まりから、エネルギー多消費産業中心に
環境配慮型の工業化プロセスの導入のニーズが高まっており、プラントエンジニ
アリング企業としては新たな事業拡大を図る好機となっている。
また、近年の石油・金属価格の高騰により、資材調達コストや現地での建設コ
ストが拡大しており、従来、我が国企業が得意としていた定額請負契約等では受
注が困難な状況にあり、顧客との信頼関係を基礎とした契約形態の工夫等による
新たな取組が必要となっている。
(3) 業界要因
我が国のプラントエンジニアリング業にとって、従来からの中心的なEPCによ
るプラント建設では、コストの増加が懸念されているところ、自らの強みである
エンジニアリングノウハウを活用した事業の多角化が課題となっている。
また、近年、プラント建設プロジェクト自体の大型化が進展しており、プロジ
ェクト遂行上のリスクが拡大しつつあり、その管理が大きな課題となっている。
さらに我が国では、プラントエンジニアリング業の産業としての認知度が低い
124
ため、新規採用を含めた人材の確保にあたり、プラントエンジニアリング業の社
会的プレゼンスを向上させることが必要である。
(4) 個別企業要因
① 付加価値の向上
個別企業レベルの課題としては、如何に自社の有する技術力等を顧客に評価
してもらうかが最大の課題であり、プラント建設プロジェクト実施上のプロジ
ェクトマネジメント力、様々な顧客に付加価値を付与する種々の提案力等の醸
成が重要である。
プラントエンジニアリング企業としての付加価値を拡大させる上で、プラン
ト建設を中心にしつつも新技術を活用した新事業投資、コンサルティング、設
計・企画、O&M(オペレーション&メンテナンス)事業の上下・横展開によ
る新たな事業分野の開拓が課題である。
② 効率性の向上
プラント建設は莫大な資機材、要員をスケジュールどおりに調達し、完成さ
せることが最大の付加価値であることから、IT を活用した業務の効率化は必
須である。また、プロジェクト遂行を支える技術力は、人材によるところが大
きく、プロジェクトマネジャーはじめ、熟練工人材の確保・育成が極めて重要
である。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
プラントエンジニアリング業における課題を踏まえ、以下の 8 つの生産性向上
の方策が挙げられる。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
人材育成・確保、
グローバル展開と技術移転・人材育成等の地域貢献に関する要求への対応、
官民協力によるトップセールスの推進、
海外プロジェクトへの金融・保険機能の補完、
事業対象の上下展開・既存事業からの多様な展開、
マネジメント効率向上のための IT の活用、
競争力のあるプロセス開発のための新技術開発、
プラントエンジニアリング業界固有の課題に対応した基盤整備
こうした方策は、以下のとおりそれぞれ行政、業界、個別企業として取組み、
今後、生産性の向上に向けて推進していくことが期待される。
125
エンジニアリング業界を取巻く事業環境と課題
阻害要因・問題点
課題
取組の方向性
○環境、資源・エネルギー制約の拡大
○資機材価格の短期高騰への対応
○世界的に旺盛なプロジェクト需要への対応
人材育成・確保対策
外部要因
業界要因
個
別
企
業
要
因
付
加
価
値
の
向
上
効
率
性
の
向
上
○人材の育成・確保
○プロジェクトの大型化によるプロジェクトリ
スクの拡大
○EPCという単一ビジネスモデルからの事業
多角化
○海外に比べ国内の人材流動性が低い
マーケティング
○付加価値拡大競争への対応
○海外での顧客やサブコンとのパートナリン
グの必要性の高まり
○新興国市場への展開
プロダクト
○新技術を活用した新事業展開
○事業の上下・横展開による新たな事業分
野の開拓
業務プロセス
○IT活用による設計・調達・建設の効率化
○契約形態によるリスク回避
組織・人材
○高度なプロジェクトマネジメント人材の育成
○海外の熟練技術者の確保・育成
グローバル展開・
技術移転・人材育成等の
地域貢献に関する要求への対応
官民協力による
トップセールスの推進
海外プロジェクトへの
金融・保険機能の補完
事業対象の上下展開及び横展開
マネジメント効率の向上のIT活用
競争力のあるプロセス開発のための
新技術開発
業界固有の課題に対応した
基盤整備
(2) 政策として取り組むべき方向性
欧米や中国はトップ外交によるプラント商談成立に注力している中、我が国に
おいても近年、総理・大臣のビジネスミッションが拡大しており、今後とも官民
連携によるトップセールスの拡大を推進する。さらには、世界的に経済連携はマ
ルチとバイの2本立てで進められているところ、特に EPA、租税条約、投資協
定等での第3国と劣後しない対応が必要となるため、二国間経済連携等における
競争環境の整備が求められる。また、プロジェクトリスクの拡大に対応するため、
他国に劣後しない ECA(Export Credit Agency: 輸出金融機関)機能の確保、
PPP(Public Private Partnership:官民協調)プロジェクト等の円滑なリスク
補完を推進する。
プロジェクトマネジメント(PM)に係る人材育成については、製造中核人材
育成事業など業界全体における取組を支援する。また、産学連携パートナーシッ
プにおける議論を通じて大学活用のあり方を検討する。
また、プラントエンジニアリング業は、日本標準産業分類において、サービス
業「その他の技術サービス業」に本年 4 月より内容例示された。今後産業分類に
おける位置付けの明確化を進めるとともに、サービス統計の整備が必要である。
(3) 業界として取り組むべき方向性
(財)エンジニアリング振興協会は、2006 年から最近の事業環境変化の現状認識
と今後の将来展望について、官民協力の下で経済産業省と議論を実施し、新たな
126
理念を設定し、以下の 5 つのミッション及び 10 のアクションプランに取り組み
はじめたところであり、今後の活動が期待される。
(財)エンジニアリング振興協会による取組み
新たな理念
産学官の密接な協力により技術立国日本のエンジニアリング産
業の社会的プレゼンスを高めるとともに、会員の英知と技術を集
合して持続可能な社会の発展に貢献する。
① 我が国エンジ産業の社会的プレゼンス向上と競争力強化の推進
イ 情報発信
ロ 基盤形成事業の重点化
② 異業種団体の強みを活かした協力事業の推進
ハ 異業種交流の充実
ニ 海外ネットワークの構築
ホ 外部資金活用を業界横断的プロジェクト形成目的にシフト
③ 気候変動問題への対策を含む持続可能な社会発展への貢献
へ 社会発展のための貢献活動の強化
④ エンジニアリングを基礎とする産学官協力・交流の推進
ト エンジニアリング学会機能の研究
チ 官との連携強化
⑤ 透明性の高い健全な財団運営と事務局体制の見直し
リ 開かれた財団運営、収益事業の拡大、コスト削減
ヌ 効率的な委員会と事務局体制
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
他社と差別化しうる事業提案力、プロジェクト推進力の醸成するために、個別
企業の取組みとしては、自社の技術力を基づき、事業を提案する力の強化、それ
を評価してもらえる顧客との継続的パートナーシップの形成、コーポレート・ブ
ランド力を確立することが重要である。
また、顧客に信頼されるマネジメント能力を強化するために、人材育成・確保、
IT 活用強化、新技術開発、リスクマネジメント、契約法務の強化などにより、
マネジメント力を強化し、効率的にプロジェクトを遂行することが重要である。
さらに、企業として持続可能な成長を確保するために、事業の上流・下流展開、
横展開を図り、事業領域を拡大することが求められる。また、新興市場の開拓を
進め、プラント建設国からの技術移転、人材育成等の地域貢献に関する要求(ロ
ーカリゼーション)に対応することが必要である。
127
5.6.
プラントメンテナンス業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野におけるプラントメンテナンス業の位置づけ
プラントメンテナンス業は、主として、石油精製、化学、製鉄、発電等のプ
ラントの性能を維持・改善することを目的に、プラントを構成する設備・装
置・機器の設備管理、保全、整備、改善などの業務を請負っている(図1)。
これらのサービスを提供することで、製造現場における安全・安定操業の実
現に寄与しており、我が国製造業の生産性の維持向上に重要な役割を担って
いる。プラントメンテナンス業は、サービス業としての側面を持ちながら、
製造業とも深く関係し、その生産性向上に深く寄与する、まさにサービス業
と製造業のつなぎ役的な存在となっている。
(図1)プラントメンテナンス業の位置付け
操業・製造
設備投資
製造業 設備・整備部門
一括して外注
外注
プラントエンジニアリング業
企画
設計
調達
施工
性能
(内製) (内製) 検収
管理
保証
材料、機器等
卸売業、製造業
維持・改善
製造業
プラントメンテナンス業
設備管理
保全
整備
施工
建設業
改善
② プラントメンテナンス業の生産性を向上させる必要性
プラントメンテナンス業は、プラントを構成する設備・装置・機器の設備
管理、保全、整備、改善など適切な保全による製造現場における安全・安定
操業の維持に寄与しており、我が国製造業のプラントの生産性向上に重要な
役割を担っている。
また、我が国プラントメンテナンス業は、定期修理の季節集中に伴い、メ
ンテナンス需要も非常に大きく変動するという問題を抱えていることや業務
の品質の可視化が現状ではさほど進んでいないこと、また、海外展開を通じ
た需要の顕在化を図っていくことが可能と考えられること、等により、今後
の取組次第では、生産性向上の余地が大きい。さらに、その波及効果は製造
業全体に及ぶことになることから、プラントメンテナンス業の生産性向上は、
経済全体にとって相乗的に影響するものである。このように、サービス産業
の一角を占めるプラントメンテナンス業は、生産性向上の余地が大きいこと、
また、その生産性向上の効果が、我が国製造業全体に波及し、相乗効果を持
って経済の中長期的な発展に寄与することが期待される。
(2) 業界の現状
① 市場環境
日本メンテナンス工業会の調べ(工業会会員を主体とした各企業へのアン
ケート結果)によると、2006 年度の売上高は約 8,600 億円で、2003 年度の
128
約 6,200 億円から増加傾向にある。この背景としては、我が国素材型産業製
造設備は欧米と比較しても老朽化が進んでいることから、この数年間の堅調
な景気動向とも相まって、製造業を中心として設備の修繕や更新が積極的に
行われていることにある。そうした中、更新投資を含むメンテナンス需要は、
足下においては増加傾向にあるものの、中長期的に見れば、他産業の動向や
国の施策等に影響される面も多く、現在のような増加傾向が当然のように継
続するわけではないと見込まれる。
また、ユーザーの海外展開により、海外でのメンテナンス需要が増加して
いるが、その対応は、現地法人の設置等により取組を進めている企業もあれ
ば、海外における体制がまだ整っていない企業もあり、各企業によってバラ
ツキが見られる。
② 産業構造
一部の大規模から中堅企業を頂点に地域の中小企業が階層構造をなすいわ
ゆるピラミッド型の産業構造となっている(図2)。
なお、プラントメンテナンス業の形態としては、プラントのユーザーから
派生した「ユーザー系」、ユーザーに設備を納入するメーカーから派生した「メ
ーカー系」、どちらにも属さない「独立系企業」が存在しており、売上高のシェ
アは、それぞれ約1/3ずつの構成になっている(図3)。ただし、プラント
メンテナンスのみ業としている企業は少なく、1企業に占めるプラントメン
テナンスの平均的な売上高比率は、約5割程度である。ただし最近は、その
比率が以前よりも増加傾向にある。
(図2)業界の構造
メンテナンス売上高
19 125億円∼
23 30∼125億円
26 ∼30億円
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
多くの地場企業
*数字は工業会アンケート対象の企業数
(図3)業態別メンテナンス売上高シェア(2006 年)
独立系
33%
メンテナンス
売上高
8,574億円
ユーザー
系
40%
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
メーカー
系
27%
129
③ 雇用環境
我が国のプラントメンテナンス業に従事する国内従業者数は、日本メンテ
ナンス工業会が 2007 年 3 月末時点を調査し回答のあった 68 社ベースで、約
2 万人であり、ここ数年は、メンテナンス需要の増加に伴い、従業者数も増
加傾向にある(図4)。
しかしながら、定期修理が主に春秋に集中するため、年間を通じてメンテナ
ンス需要が増減すること、長期的にはメンテナンス需要は現在のような増加
傾向が当然のように継続するわけではないと見込まれることから、正規雇用
は増やさず、外部への発注等で対応している。
(図4)直接雇用者平均年齢と雇用者数の推移
45
25,000
44
22,500
43
20,000
17,500
42
42.2
41
40
人
直接雇用者平均年齢(左軸)と雇用者数推移(右軸)
15,000
41.3
40.8
40.5
39
1997
2000
2003
2006
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
(3) 生産性の現状
① プラントメンテナンス業における生産性計測指標
外注比率が高く、従業者1人あたり付加価値額((売上高−外注費)/従業
者数)で計測される。
② プラントメンテナンス業における生産性の現状
「日本メンテナンス工業会の加盟企業アンケート」によると、従業者1人
あたり付加価値額は 2001 年には 1,316 万円、2006 年には 1,435 万円と増加
している。
(4) ユーザーからの評価
規制緩和により高圧ガス保安法適用の設備などで、定期点検修理周期が各年
から2年毎、4年毎などと延びる中、定期点検修理時に必要な外注技術・技能
者が確保できるかが懸念されている。さらに今後団塊世代の退職を迎えること
より、技術・技能の継承に不安がある。
一方メンテナンスに係る技術や技能を伴う作業(サービス)を客観的に評価
できる指標がないため契約に反映することが困難な状況である。ユーザーとし
ても上記指標が統一化されていないため、人工単価に基づき契約することとな
り、支払った対価の適正性を評価することも困難な状況にある。
130
2. 生産性向上に向けての課題
(1) 総論
今後、プラントメンテナンス業界が持続的に成長していくためには、メンテ
ナンス業務の季節集中の平準化、人材育成・確保、メンテナンス業務の品質の
可視化、高付加価値サービスの提供、海外展開に向けた検討があげられる
(図5)。
図5
課題の全体像
課
課題
題
阻
阻害
害要
要因・問
因・問題
題点
点
定 修 時 期の 分 散、年 間稼 動の安 定 化
定 修 時 期の 集 中化
地 方 中 小零 細 企業との協 業 の必 要
外
外部
部要
要因
因
プ ラ ン トメン テナ ンス業 の明 確 化
プ ラ ン トメ ンテナ ンス業 の位 置 付け が
不明確
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る化の 推 進
人 工 契 約に よる契 約 金額の 低迷
下 請 け 体質 の 存在
業
業界
界要
要因
因
メン テナ ン ス基 盤 技術の 探索 (診断 、
高 寿 命 化技 術 、自 動 化技 術な ど )
プ ラ ント稼 働 中 の作 業 の必 要 性
マーケティン
マーケティン
グ
グ
個
個
別
別
企
企
業
業
要
要
因
因
国 内 市 場の 縮 小
国 内 外 パ ー トナ ー リング の 必要
海 外 案 件対 応が不 十 分
グ ロー バル 市 場環 境 の把 握
サ ー ビス の質が 不 明
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る化の 推 進
サ ー ビス 高 付加 価 値化が 不十 分
新 規 技 術開 発 の必 要
高 付 加 価値 サ ービ スの 提 案
プロダクト
プロダクト
プロセス
プロセス
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る 化の 推 進
メン テナ ン ス プ ロ セスが不 明
プ ロ ジ ェク トマ ネジ メン ト人 材の 不 足
組
組織
織
現 場 監 督者 、熟練 技 術者の 確保
若 年 技 術・技能 者 の不 足
外 国 人 技術 ・技 能 者の 採 用
(2) 外部要因
我が国製造業のプラントについては、その定期修理の時期が主に製品の不需
要期などに合わせて春秋に集中することに伴い、メンテナンス需要も非常に大
きく変動する(図6)
。そのため、定期修理の際に必要となる雇用については、
その多くを地域の中小企業への外注で対応している。この結果として、定期修
理の時期はそもそも外注先の確保が困難である上、外注先への系統だった研修
等を実施することもできず、効果的な人材育成が困難な状況となっている。こ
のため、季節集中が生じるメンテナンス業務の平準化に向けた取組が課題とな
っている。
また、プラントメンテナンス業は「日本標準産業分類」において「その他の
技術サービス業」に内容例示されたが、今後、事業所の定義方法、事業所数の
把握などを推進する必要がある。
131
(図6)定期修理変動事例イメージ(石油精製、化学設備)
100
75
50
25
0
2004
2005
2006
2007
(出所)日本メンテナンス工業会調べ
(3) 業界要因
現在、メンテナンスに係る技術や技能を伴う作業(サービス)の質を客観的
に判断できる指標が存在しないことから、技術料等を契約に反映することがで
きていない状況となっている。同様に、ユーザーとしてもメンテナンス業務の
品質を客観的に判断できる指標が存在しないため、支払うべき対価の適正性を
評価できず、結果的に単純な人工単価に基づく契約となっている。このため、
メンテナンス業務の品質の可視化に向けた取組が課題となっている。
また、設備の老朽化が進む中、設備稼動中に実施できる診断などについてニ
ーズが高い。高度技術の開発と開発資金の確保が課題である。
(4) 個別企業要因
① マーケット
メンテナンス業務は、人の技術、技能に頼る業界であるが、国内労働人口
の減少で人材の確保が困難になることが予想される。このため、企業間の共
同化、ネットワーク化が課題である。
一方、ユーザーのグローバル化は今後一層推進されることが予想される。
そのため、海外におけるメンテナンス需要が顕在化することが推測される。
しかし、現状では業界における海外展開に向けた取組にはバラツキが見られ、
各社の状況は千差万別となっている。今後、人材確保など国内の調整に止ま
らず、グローバルな連携を視野に入れた取組が課題となっている。
② プロダクト
業界要因にあげたように、サービスの質を明示化し、技術評価等を含めた
総合評価方式等の契約等を推進することが課題である。
国内のメンテナンス需要は、現在のような増加傾向が継続するわけではな
いことから、技術力、プロジェクトマネジメント力を活かして、①アウトソ
ーシングの拡大、②高寿命化メンテナンスや診断と一体化したサービスなど
提案力の強化、等により、ユーザーの満足度向上に資する高付加価値化を図
ることが課題である。
③ プロセス
メンテナンス業務は機械系、電気系、計測系などの複合的な業務で構成さ
れており、業務プロセスが明確になっていない。メンテナンス業務の標準化
132
が課題である。
④ 組織
日本メンテナンス工業会による、これまでのアンケート結果によれば、従
業者の平均年齢は上昇傾向にあり、2006 年の従業者平均年齢は約 42.2 歳で
ある。これは 2000 年と比較すると 1.7 歳増加している。更に、今後団塊の
世代の退職の本格化が想定される中、技術・技能の円滑な継承のための人材
育成を進めていくとともに、プラントメンテナンス業の認知度を向上などに
よる若手人材の確保に向けた取組が課題となっている。
また、外国人技術者の活用を検討することも課題となっている。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
プラントメンテナンス業における生産性向上の方策は、プラントメンテナン
ス業務の季節変動の平準化に向けた企業間の共同化・ネットワーク化、品質の
可視化に向けたプラントメンテナンス業務の標準化(含む資格制度の創設及び
契約標準の普及)、基盤技術の共同開発、グローバル展開と相互連携などが取
組の方向性として示される。
(2) 政策として取組むべき方向性
① プラントメンテナンス業務の季節変動の平準化の促進
我が国製造業のプラントについては、その定期修理の時期が主に製品の不
需要期などに合わせて春秋に集中することに伴い、メンテナンス需要も非常
に大きく変動する。そのため、定期修理の際に必要となる雇用については、
その多くを地域の中小企業に外注せざるを得ず、定期修理の時期はそもそも
雇用の確保が困難であり、また、専門人材の育成の観点からも弊害となって
いる。これらのことから、ユーザー等との協議会の設置し、認識の共有を図
ることなどにより、季節変動の状況などを調査しつつ、プラントが集積する
地域ごとに企業間の共同化・ネットワーク化に向けて検討を行うことが重要
である。
(3) 業界として取組むべき方向性
① 品質の可視化に向けたプラントメンテナンス業務の標準化(含む資格制度
の創設及び契約標準の普及)
メンテナンス業務の品質の向上を図るためには、プラントメンテナンスに
係る技術・技能の内容を客観的な指標で示し、ユーザーとも認識を共有する
ことが重要である。その上で、専門人材を育成し、専門人材の育成に応じた
契約方法を定める必要がある。このため、プラントメンテナンス業の定義に
沿ったメンテナンス業務の標準化、メンテナンス資格制度の創設、メンテナ
ンス人材育成プログラム、技術・技能を加味した契約仕様の検討と普及を行
うことが重要である。
② 基盤技術の共同開発
今後、メンテナンス業がさらに成長していくためには、高付加価値サービ
スを提供し、ライフサイクルコストの低減又は最適化、メンテナンス業務の
133
効率化を進める必要がある。このため、業界共同で取り組むべきメンテナン
ス基盤技術の調査や診断手法などの開発の行うことが重要である。
③ グローバル展開と相互連携
ユーザーのグローバル化は今後一層推進されることが予想される。それに
応じてメンテナンスに対するニーズも顕在化するものと考えられる。現状で
は、海外に進出している企業は少ないものの、長期的には国内のメンテナン
ス需要は、現在のような増加傾向が当然のように継続するわけではないと見
込まれており、海外展開について検討を進めていく必要がある。
また、プラントの安全・安定操業の実現には、タイムリーなメンテナンス
が求められるが、一方で、今後は労働人口が減少することから、海外技術・
技能者との効果的な相互乗り入れの在り方について検討することが重要で
ある。
(4) 個別企業として取組むべき方向性
① 企業間の共同化、ネットワーク化の推進
稼働の季節集中など非効率な部分もあるため、中小地場企業への外注も多
く稼働率向上を目的に企業間の共同化、ネットワーク化を図る。
② 高付加価値化の推進
今後、国内のメンテナンス需要は現在のような増加傾向が当然のように継
続することが必ずしも見込めないことから、技術力、プロジェクトマネジメ
ント力を活かして、①アウトソーシングの拡大、②高寿命化メンテナンスや
診断と一体化したサービスなど提案力の強化、等により、ユーザーの満足度
向上に資する高付加価値化を図る。
③ 人材の確保・育成
団塊の世代の退職に備えて、技術技能の継承や若手人材の確保を推進する。
④ グローバル化の検討
海外展開について国内外のユーザーニーズ把握を行い、方向性を検討する。
134
5.7.
総合商社
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野における総合商社の位置づけ
従来、商社の物流機能は様々な産業分野の中核を担ってきており、特に国
内サービス分野においては欠かせない存在感を示してきた。また、我が国の
サービス産業分野は生産性が低く、その向上が急務とされている中で、総合
商社による小売や金融、情報サービス、医療・介護等のサービス分野への事
業展開が見られるようになってきた。総合商社がこれら分野へ進出し、経営
ノウハウや顧客ネットワーク等の総合力、および資金力を活かすことで、サ
ービス産業の生産性向上に寄与することが期待されている。
ここで論ずる課題と処方箋の対象となる「総合商社」とは、日本標準産業
分類細分類 4911「各種商品卸売業」に分類される事業を営む事業者のうち、
資源・エネルギーから食料品、医療や情報産業など複数の多様な事業領域へ
網羅的に事業参画し、資本金も 500 億円を超える商社である。
【各種商品卸売業トップ15社の資本金(2007年3月末日時点) 】
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
日立
ク
テ
イ
ハ
長瀬産業
蝶理
住金物産
J F E商 事
岩谷産業
兼松
三菱商事
稲畑産業
三井物産
丸紅
豊田通商
双日
住友商事
伊藤忠商事
0
資本金
(百万円)
D
H
② 総合商社の生産性を向上させる必要性
前述の通り、近年総合商社が積極的に事業展開している小売や金融、医
療・介護等のサービス分野における生産性は、総合商社や製造業等の他業種
や諸外国と比較して低い水準にある。総合商社は、産業バリューチェーン全
体へ関与することによる原材料調達や物流コスト削減、顧客ニーズの的確な
情報収集など事業効率の優位性を活用することで、高い生産性を維持しなが
ら対面業界(総合商社の顧客が属する業界)に事業参画することができるこ
とを踏まえれば、総合商社の生産性向上による持続的成長のためには、事業
の選択と集中の促進やバリューチェーン全体への事業展開が必要となる。
他方、既存のサービス産業界は生産性の向上が急務とされているものの、
総合商社が同分野へ進出し、調達、物流、情報収集、顧客ネットワークなど
の知識・能力を活用した新たな事業形態の導入や市場・収益規模の拡大、物
流・事業スピードの加速化など、産業全体の事業効率の向上にも影響を与え
ると考えられる。
このような背景から、総合商社によるサービス産業分野への事業参画は、
収益源の多様化など総合商社自身の生産性向上につながる上、サービス産業
など対面業界の生産性向上まで波及することが期待されるため、総合商社の
135
生産性向上における課題や求められる方向性を検討する意義は大きい。
(2) 業界の現状
① 市場環境
総合商社の連結総売上は平成 15 年まで縮小傾向にあったが、平成 18 年度
末までに約 80 兆円(大手7社1合計、連結売上高)まで回復しており、第三
次産業全体の年間売上高 946 兆円と比べても約1割の規模となっている。
120,000
100,000
第三次産業の業種別売上高割合(2007年度)
【総合商社7社の連結売上高の推移】
サービス業,
19.5%
96,408
総合商社
8.3%
(184.6兆円)
(78.7兆円)
82,517
80,000
74,054 72,305
74,178
78,967
68,098 66,201
67,731
64,333
電気業,
1.8%
60,000
(16.7兆円)
40,000
(67.6兆円)
運輸業,
7.1%
946.1
兆円
卸売・小売
業, 61.8%
(584.5兆円)
情報通信
業, 6.2%
20,000
(58.9兆円)
不動産業,
3.6%
0
(単位:十億円)
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(33.8兆円)
06
※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の単純合計数値。数値は有価証券報告書よ
り引用。
※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出
※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。
出所)総合商社の数値は有価証券報告書から引用。非製造業全体の数値は法人企業統計から引用。
※法人企業統計には、金融・保険業は含まれていない。
※総合商社本体は卸売業に分類されるが、連結対象事業会社については各業種別に分類されているた
め、グラフ上は卸売とその他にまたがる様に表示した。
また、企業別に国内他産業と比較すると、売上高上位 20 社に総合商社7
社が位置付けられており、事業規模の大きさは顕著である。
国内企業連結決算売上高上位20社(2007年度)
単位:兆円
30.0
25.0
単位:兆円
23.9
20.5
20.0
15.3
15.0
11.5 11.0 10.7
10.5 10.4 10.2
10.0
9.5 9.1
8.2
5.0
双日
富士通
東京電力
セ ブ ン & ア イ ・ホ ー ル デ ィ
ング ス
三 菱 U F J フ ィナ ンシ ャ
ル ・グ ル ー プ
豊田通商
新日本石油
ソ ニー
東芝
丸紅
松下電器産業
日立製作所
住友商事
日産自動車
ホ ンダ
日本電信電話
三井物産
伊藤忠商事
ト ヨタ自 動 車
三菱商事
0.0
7.1 6.6 6.2
6.0 5.3 5.2 5.2
5.1
収益の観点では、過剰債務による過大な金利負担の結果収益が圧迫されて
いたが、ネット負債比率が平成9年の 7.1 倍から平成 18 年には 1.6 倍まで
低下するなど、各社の財務体質改善努力により業績が回復した。当期純利益
は過去 10 年間で 46 倍(1兆 3,300 億円増)の増益を達成しており、近年の
総合商社業界は好調である。
1
大手7社:伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事の7社(五十音順)。
136
(単位:倍)
8.0
【総合商社7社の売上高と当期純利益の推移】(単位:十億円)
1,600
<総合商社7社のネット債務資本比率(DER)の推移>
7.1
7.0
1,361
1,400
7.0
1,200
6.3
6.0
973
1,000
5.6
5.1
5.0
5.0
800
600
4.0
3.6
400
3.0
2.9
200
2.0
1.9
1.6
1.0
276
244
75
29
0
142
2
-108
-236
-200
-400
0.0
97
98
99
00
01
02
03
04
05
97
06
98
99
00
01
02
03
04
05
06
※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の単純合計数
※総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)の平均
値。数値は有価証券報告書より引用。
数値。数値は有価証券報告書より引用。
※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出
※双日は、'02年度までニチメンと日商岩井の数値を合算して算出。
※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。
※豊田通商は、'05年度までトーメンの数値を加算。
しかしながら、近年の総合商社の連結当期純利益において資源関連分野が
占める比率は 50%を超える水準で高止まりしており、急速な業績回復が資
源・エネルギー分野など特定事業分野の業績向上に支えられていることが解
る。
【総合商社5社の当期純利益における資源関連分野の比率】
1,400
70.0
1,200
60.0
1,000
50.0
非資源
800
40.0
資源
比率(右軸)
600
30.0
400
20.0
200
10.0
0
(単位:十億円)
0.0
02
03
04
05
06
(%)
※総合商社5社の合計数値。(有価証券報告書より引用)
※資源には、エネルギー、金属を採用。
総合商社は、今後も生産性向上による持続的な成長を堅持していくために
は、財務の健全性維持に留意しながら効果的に投資拡大を促進し、高収益事
業分野への継続的な投資活動に加え、これまで事業の傾注度合いが低かった
サービス産業など非資源分野への積極的な新規事業拡大による「収益源の多
様化」と「収益の安定化」を達成することが課題である。
② 産業構造
総合商社の産業構造の特徴として、親会社は戦略企画機能に特化しながら
実際の事業は事業会社を設立して行い、事業からの撤退と共に当該子会社を
清算するという事業形態が挙げられる。その結果、総合商社の連結子会社数
は他に類を見ない規模にまで増加し、事業整理と効率化の観点から、事業会
社の選択と集中が総合商社共通の課題である。
近年、不採算事業からの撤退やグループ内外企業間における重複事業統合
などのリストラ等、総合商社各社の収益改善努力により事業会社の選択と集
中が進み、事業会社の整理・再編は一定の成果を見せているが、連結対象子
137
会社の数は過去5年間においてほぼ横ばいとなっており、平成 19 年9月現
在でも未だ 4,000 社を超えている状況である。
【総合商社連結対象子会社数の推移】
(会社数は有価証券報告書より引用)
5,000
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
三菱商事
三井物産
丸紅
豊田通商
双日
住友商事
伊藤忠
2004/3
2005/3
2006/3
2007/3
2007/9
③ 雇用環境
総合商社の平成 19 年度の従業者数は、連結対象子会社を含めると約 27
万人であり近年増加傾向にあるが、親会社単体でみると約3万人であり、減
少傾向となっている。これは、親会社から連結対象子会社へ業務と人材を「外
だし」した結果と推察される。
特に、事業の中心が従来の「物流の仲介業務」から連結対象子会社を通じ
た「事業投資型」に移行していることに伴い、従業員に求められる素養・能
力も新しい事業形態に即したものに変化している。仲介業務では取扱商品に
対する目利き力や特定の産業分野に特化した知識・能力が求められていたが、
近年の事業投資型業務には、事業会社の経営・運営能力に加えて、原材料調
達から製造・加工、商品企画や顧客へのサービス提供まで、サービスの川上
から川中・川下までの所謂「バリューチェーン」全体にわたる高い専門性が
求められるようになってきており、従来必要とされていた能力では十分に対
応できていないのが現状である。
今後求められる人材像
かつて求められた人材像
¾「仲介業」に適応した人材育成
−目利き力の重視した人材育成(マネジメント力の欠如)
−純血主義(現地採用人材の活用が不十分)
−特定分野に特化した育成プロセス
¾国内外の事業会社を経営できるマネジメント力
¾日々変化する事業モデルに対応する柔軟性
¾事業に関する専門知識
また、海外展開の進展に伴い、現地の法規制や雇用制度等、現地事業会社
運営に必要な知識を有する現地人役職員の確保・育成が急務となっており、
今後予測される更なる海外展開に対応するためにも、海外で雇用する外国人
従業者数は引き続き増加することが見込まれる。
国内に置いても、従業者数は新卒採用を中心とした人材の内製化が主流で
あったが、近年の「必要とされる人材像の変化」により、中途採用や再雇用
等による「人材の多様化」の動きが見られる。
(3) 生産性の現状
① 総合商社における生産性計測指標
総合商社では、経営判断における生産性を測る指標として、総資産利益率
(ROA)や株主資本利益率(ROE)、リスクリターン(事業のリスクが現
実のものとなった場合に生じ得る最大損失可能額)が主な指標として用いら
138
れており、労働生産性(従業員一人当たり付加価値額)は指標として採用し
ていない。これは、総合商社の事業が「事業投資型」に移行する過程で、投
下する資本や資産に対してどれだけの利益率を確保しているのかという観
点から事業判断をするようになったためで、投資家からのニーズを反映した
結果でもある。
特に総合商社は、リストラを通じて資産の健全化を進めてきており、今後
は保有資産の流動性の確保と、収益効率の高度化が重要となる。事業投資の
資金調達については、デットファイナンスとエクイティファイナンスの間で
流動的であるため、エクイティを基軸とした指標より、事業の資産を基軸と
した ROA が重要な指標となる。
また、川中から川上・川下へ、国内需要から海外需要へなど、総合商社が
事業領域を拡大する中で生じるリスクの規模と種類が多様化したため、全社
レベルでのリスクの可視化と最適化のために ROA や ROE といった一般的
な経営管理指標に加えて、約 10 年前からリスク・リターンの考え方が、主
流となっている。
生産性を捉える対象範囲については、総合商社単体を対象とした指標は採
用していない。総合商社の生産性は、事業会社を含む「連結ベース」で捉え
られており、ビジネスユニットや事業部門など、所謂セグメントよりも小さ
な単位で各事業分野毎に事業判断をしている。
【総合商社の経営判断指標対象のイメージ】
総合商社グループ
<親会社>
食料品
物流・金融
<子会社>
数百社
金 属
機 械
化学品
生活産業
・・・・・・・・・・・・
<孫会社>
② 総合商社における生産性の現状
総合商社という業態は、他国にはない我が国独自の業態であり、欧米諸国
の企業と生産性の高低を比較することは難しい。
ROE や ROA 等の一般的な指標に基づいて国内企業と比較してみると、
ROE では 14.6%、ROA では 3.0%となっており、特に ROE は他のサービス
業界と比べて最も高い水準にある。
139
【サービス業における業種別ROE(2005)】
16.0
14.7
【サービス業における業種別ROA(2007)】
14.6
8.0
14.0
12.0
9.7
8.7
8.0
5.4
4.8
5.0
7.9
7.8
7.5
%
%
6.0
10.5
10.0
6.5
6.0
4.0
4.2
3.2
3.0
4.3
4.0
2.8
3.3
2.3
そ の他 サ ー ビ ス業
総合商社
教 育 ・学 習 支 援 業
医 療 ・福 祉
広 告 ・そ の 他 事 業 所 サ ー ビ
ス業
リ ー ス業
物品賃貸業
生 活 関 連 サ ー ビ ス業
娯楽業
宿泊業
不動産業
飲食店
小売業
運 輸 業 ︵集 約 ︶
出所)対象の企業は2006年8月1日現在全国証券取引所(ヘラクレスを含む)に上場し
ており、1994年4月期から連続して連結データを取得可能な、銀行、証券、保険を除く
1345社。4月から翌年3月末までに終了する決算期を同一年度として個別企業の連結
データを年度換算した後、集計している。今期は2005/4期から2006/3期。
※総合商社のみ2007年度の数値を使用。
卸売業
情報通信業
サ ー ビ ス
・バ ス
総 合 商 社
ガ ス
電 力
倉 庫
通 信
空 運
陸 運
鉄 道
小 売 業
不 動 産
0.0
1.2 1.0
0.6
1.0
0.5
2.9 3.0
2.8
2.6
2.0
2.0
0.0
7.5
6.5
7.0
出所)法人企業統計
※総合商社7社の合計数値。数値は有価証券報告書から引用。
(4) ユーザーからの評価
① 個別企業の視点
ユーザーが総合商社に求めている機能としては、主に「物流」「情報収集
能力」「調達ロジスティクス能力」「ビジネスネットワーク」「経営ノウハ
ウ」「人材供給」等が挙げられる。特に海外事業参入に際しては、総合商社
の「事業経営ができる人材」と「事業における専門性」が期待されている。
具体例:海外における自動車小売りへの展開
ロシアにおける自動車小売企業に対して、ロシア語が堪能かつ経営の経験が豊富
な人材を社長として派遣することにより、経営経験やマーケティング能力および川
下(消費者)からのニーズを着実につかみ、事業戦略に反映した結果、販売台数が
前年度比2倍に増加し、自動車のブランド構築も達成するという成果がみられた。
参入前
参入後
販売台数の伸び悩み
消費者ニーズの不十分な把握
販売台数の倍増
ブランド構築
人材派遣
経営能力・専門性
消費者ニーズの把握
販売車種の多角化
総合商社
② 業界全体の視点
業界全体で考えた場合には、総合商社がサービス産業等に参入することで、
飽和した市場を再編することが期待されている。総合商社の優位性を活用し
た新たな事業形態の導入や市場・収益規模の拡大、物流・事業スピードの加
速化などにより、ユーザーが属する対面業界においても競争が誘発され、事
業モデルの革新に向けた気運が醸成されることで産業全体の事業効率が向
上する「触媒効果」が期待される。
具体的には中小事業者等の適切な淘汰と新たな業種・業態への転換を促進
し、業界全体の生産性を高めることや、新たなバリューチェーンを創造し、
効率化と全体の付加価値向上を支援することなどが考えられる。
140
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
総合商社が生産性向上による持続的な成長を堅持するためには、財務の健全
性維持に留意しながら効果的に投資拡大を促進し、高収益事業分野への継続的
な投資活動に加え、これまで事業の傾注度合いが低かったサービス産業など非
資源分野への積極的な新規事業拡大による「収益源の多様化」と「収益源の安
定化」を達成することが課題である。
(2) 外部要因
総合商社が海外事業展開を検討する際に、諸外国の外資規制や我が国とは異
なる現地国内法規制が参入障壁となる場合が少なくない。総合商社の海外事業
展開を効率的に推進するためには、諸外国との規制緩和交渉や法制度整備支援
などによる「事業環境整備」が肝要である。
国内においても、所謂個人情報保護法などの消費者保護に関する規制や各種
業法、企業の法令遵守に対する要請などは、過度な規制による市場の自由な競
争や生産性向上の阻害、事業コストの増加につながる可能性が指摘されている。
企業の効率的な事業運営のため、国内法規制についても生産性向上の観点が採
用されることが望まれる。
(3) 業界・個別企業要因
総合商社は、従来の物流仲介業務に加えて、原材料調達から小売やサービス
など、産業バリューチェーンの川上から川下まで全体に関与することで、「個
別最適経営」から「全体最適経営」へ移行することが可能となる。特にサービ
ス産業分野は、総合商社の参入が比較的少なく、当該分野への積極的な事業展
開が望まれる。
また、総合商社各社が関連事業会社の統廃合を進めてきたことは既述のとお
りだが、依然として 4,000 社を超える事業会社が存在しており、事業効率には
未だ改善の余地がある。各社の努力に加え、総合商社業界全体および業界外企
業も含めて、事業の効率化を図ることが課題である。
さらに、日々変化し常に新しいビジネスモデルに対応することが求められる
総合商社においては、従来の人材能力のみでは十分に対応できないことから、
人材育成の見直しと即戦力の確保が課題となる。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
総合商社の生産性向上に関する基本的な方向性としては、以下が挙げられる。
① 効率的な事業投資拡大
総合商社は、過去に投資した不採算事業からの撤退に伴う資産圧縮やリス
トラによる損益改善を進めてきたが、依然として成長分野以外の資産を抱え
ており、財務の健全性を保ちながら効果的に投資を拡大し、収益を拡大して
いく必要がある。
② 非資源分野での業績拡大
近年の総合商社の業績回復は、資源分野の価格高騰など、特定事業分野に
141
依存している面が大きく、収益源の多様化と収益の安定化を図るため、非資
源分野への事業展開と業績の拡大が必要である。
【総合商社の生産性向上に関する基本的方向性】
【要因】
【課題】
【対策】
■ グローバル展開
●持続的成長の確保
→収益源の多様化
●CSRとコスト管理
→国内諸規制への対
応
■ 国内サービス産業(対
面産業)への参入
戦略的な経済協力政策を推進し、総合
商社の海外における事業展開を支援。
■ 法制度整備支援
政府間の規制緩和交渉の推進
個別サービス分野における事業環境整備
のあり方を検討。
政府としての取組み
●バリューチェーンの
川上部分への展開
→海外での原材料調
達等
■ 規制緩和
■ 事業再編
●ビジネスモデルの変
化への対応
→求められる人材像
の変化
■ 人材の確保・育成
産活法に基づく事業分野別指針の策
定により、事業の統廃合を促進する。
個別企業の取り組みのベストプラクティ
スを業界内で共有。
業界・個別企業の取組み
●収益体質の改善
→不採算事業からの
撤退
→事業の選択と集中
(2) 政策として取り組むべき方向性
① グローバル展開支援
総合商社の海外事業展開を促進するため、円借款の活用や官民パートナー
シップの強化等、戦略的経済協力政策を推進し、総合商社の事業環境整備を
通じて、グローバル展開を支援する。
1.円借款を効果的に活用したインフラ整備の推進
・円借款を活用し、我が国企業のニーズを踏まえた産業・物流インフラの整備を
重点的に支援。
→ 現地大使館やODAタスクフォース等を通じ、アジア諸国との対話の枠組を強化
→ 「国際物流競争力パートナーシップ」行動計画(2006年12月)の実施
・中でも、タイド円借款(STEP:本邦技術活用条件)により、日本の優れた技
術・ノウハウを普及。
2.ODAと民間資金との連携/官民パートナーシップ(PPP)の強化
・途上国における膨大なインフラ需要に対応し、民間資金を活用したインフラ
整備を推進。
・ODAとの連携も念頭に置きつつ、公的信用機能の活用や政策対話・セミナー
等を通じて支援。
② 法制度整備支援
総合商社が海外での事業を検討する際の参入障壁を軽減するため、我が国
および企業が有する制度や技術を普及し、事業環境の改善を図る。
142
1.ODAを活用した法制度整備・執行強化への支援
我が国経済界のニーズを踏まえた重点分野について、経済連携協定(EPA)や二国間投資促進
枠組等を通じて制度インフラの整備・執行強化を働きかけるとともに、各省連携の下で技術協力を
活用した支援を重点的に行っていく。
課題抽出
・知財・投資等に係るEPAに基づく対話枠組との連携
(「知的財産」「ビジネス環境整備」に係る小委員会)
・投資環境整備のための官民対話「行動計画」
(インドネシア、ベトナム)
知財・投資に係る経済法制度のニーズへの対応に
加え、基本法分野についても連携して支援・協力
途上国への働きかけ
2.我が国の優れた制度・技術のアジア展開(「アジア標準」化)
我が国の産業発展の基盤を果たした制度や技術をアジアに体系的に展開すべく、技術協力を重
点化する。一部の国で制度構築に成功したモデル(中小企業診断士、公害防止管理者制度、情
報処理技術者制度)を各国に展開していくとともに、物流分野、リサイクル分野等新たに「アジア標
準」化に取り組むべき分野を選定して重点的に取り組む。
③ 事業再編支援
総合商社の課題である、グループ内外における重複事業の解消と不採算事
業からの撤退、および新規事業分野への参入を促進するため、産業活力再生
特別措置法に基づく事業分野別指針の策定により側面支援する。
総合商社の産活法活用事例
今後の産活法活用ニーズ
事業分野別指針の策定
<双日>
○経営統合に伴う持株会社設立(2003年)
○増資(2003年)・合併(2004年)
→登録免許税の減免
○増資(2004年)
→登録免許税の減免
○子会社の本社への吸収合併(2006年)
→登録免許税の減免
<豊田通商(旧トーメン)>
○増資(2003年)
→登録免許税の減免
<丸紅>
○事業革新設備投資(2002年)
→日本政策投資銀行の融資
○増資(2003年)
→登録免許税の減免
→日本政策投資銀行の融資
<三菱商事>
○鉄鋼部門分社化(2003年)
→登録免許税の減免
→日本政策投資銀行の融資
不採算事業からの撤退
重複業務の事業統廃合
商社参入による業界再編
(3) 業界・個別企業として取り組むべき方向性
① 産業バリューチェーン全体への事業展開
総合商社は、サービス産業バリューチェーン全体へ包括的に関与し、多面
的な事業経験に基づく総合力を最大限に活かしながら事業モデルを確立し
ていく必要がある。
具体的には、従来の物流の仲介業務に加え原材料調達(川上)から小売流
通・サービス事業(川下)まで関与することで、原材料調達における購買ス
ケールメリットや物流システムの共有によるコストの低減が可能となり、さ
らに小売やサービス顧客ニーズの的確なフィードバックと、それに対する価
格や生産量の調整、在庫管理などの対応の柔軟性を確保することで、バリュ
ーチェーンの「部分最適」から「全体最適」の経営に移行することが可能と
なる。
143
総合商社の参入によるバリューチェーンの拡大イメージ
スケールメリット
川上
川下
従来の総合商社
川上への進出
<グローバル展開>
<法制度整備支援>
原料調達
資源
エネルギー
穀物
肥料
川下からのフィードバック
川中
輸送
川下への進出
卸流通
小売流通
サービス事業
医療
金融
情報サービス
バリューチェーン拡大
の触媒機能
•市場、収益規模の拡大
•効率的ビジネスモデルの導入
•物流、事業展開スピードの加速
また、総合商社の持つ物流、情報収集、コンサルティングなどの知識、事
業経営人材派遣やビジネスパートナーの紹介などのネットワークや事業投
融資などの金融機能等、既存のサービス産業界には不足している総合商社の
優位性を活用し、対面業界のバリューチェーンの創造・変革や効率化、市場
の拡大を図りつつ、適切な事業運営とコスト管理によって、サービス産業界
から安定的に収益を回収することが可能となる。
さらに、総合商社の優位性を活用した新たな事業形態の導入や市場・収益
規模の拡大、物流・事業スピードの加速化などにより、対面業界においても
競争が誘発され、産業全体の事業効率改善が期待される。
② 事業の選択と集中の推進
総合商社は関連事業会社間の業務重複などの課題を踏まえて積極的な整
理統合を進めてきたが、依然として連結対象子会社は 4,000 社を超えており、
不採算事業からの撤退や事業統廃合など、更なる事業効率の改善余地が残っ
ている。特に連結対象企業の子会社など、多重組織構造の下層に属するよう
な小規模事業会社には企業統制管理が行き届きにくいため、事業管理体制を
再徹底すると共に、組織の最適化を進める必要がある。
今後も「全体最適」の観点から事業の収益性を再評価したうえで、グルー
プ内関連企業の整理を推進すると共に、他業界を含めたグループ外企業との
重複業務についても統廃合を促進するなど、事業効率の更なる向上と競争力
の強化が必要である。
【総合商社グループ外企業との事業統廃合イメージ】
総合商社グループA
総合商社グループB
<親会社>
<親会社>
情報
食料品
食料品
<子会社>
金 属
<子会社>
・・・・
・・・・
144
③ グローバル経営人材の確保
既述のとおり、総合商社のビジネスモデルは、従来の物流仲介業務から事
業投資に移行してきており、事業会社の経営、収益性の再評価による事業投
資先の判断や新規事業分野の開拓など、業務環境は大きく変化している。
これらの変化に伴い、総合商社ビジネスに求められる人材像は、従来の仲
介業に適応した人材から①新規分野の開拓ができる、②川上から川下までバ
リューチェーン一連の専門知識を持つ、③事業経営できるマネジメント力を
持つ人材に変化してきている。
今後、新たな事業モデルに求められる人材を確保するため、総合商社各社
は人材育成制度の見直し等を積極的に実施し、事業会社の経営などを通じた
役職員の経営能力と専門知識の向上を図る必要がある。また、より高い専門
性が求められる海外事業展開等に適正に対応するため、海外現地人材の採用
と主要ポストへの登用を促進するとともに、中途採用、再雇用など業務経験
が豊富な人材の活用を通じて、人材の多様化を促進する必要がある。
④ 国内のサービス分野における新規事業開拓
持続的な成長を可能にするため、総合商社は資源・エネルギーなど特定の
高収益分野に偏ることなく、限られた経営資源を有効活用しながら、これま
で事業参画が手薄であった新しい分野での事業開拓・参入を検討する必要が
ある。
特に、総合商社は医療・介護、金融、環境などを含めた「サービス産業分
野」への事業参画が遅れており、当該分野に対する新規事業参画が期待され
る。総合商社が有する高い物流機能と情報通信技術の導入により、物流シス
テムの高速化に加え、サービス品質評価や電子商取引、電子タグ基盤の整備
等による事業の効率化など、全産業領域との接点や世界的事業ネットワーク、
ビジネスにおける企画・提案や物品・サービスを包括的に管理できる強みを
活かした、新しいビジネスモデルを構築・導入することで収益源の多様化を
図りながら生産性の向上を達成することができる。
⑤ 新しい分野での海外事業展開
海外におけるビジネス機会は、資源分野だけでなく、小売や医療など非資
源分野においても拡大している。特に海外での原材料調達等、総合商社の優
位性が発揮できる分野において、既存物流網の活用などによる費用対効果向
上や、調達スケールメリットの効果が見込まれる。
145
5.8.
対個人サービス業
1. 現状認識
(1) 対個人サービス市場の特徴
個人のライフスタイルや価値観の変化、女性の社会進出、少子高齢化などの社
会環境の変化の中で、自己実現、健康増進等生活の質向上の観点から、今後の発
展が期待される「自己投資型サービス」(学習塾、語学教室、エステティック、
フィットネス、結婚相手紹介サービス)、ワークライフバランス、少子化対策の
観点から重要性を増している「生活支援型サービス」(家事支援サービス、育児
支援サービス)を検討対象とした。
また、保育園の公設民営やフィットネス企業による公営体育館の運営など、公
的サービス分野にも新たなビジネスチャンスが醸成されつつある。
これらの産業は、既存の産業分類の外縁に新たに生まれたものや、医療・福祉・
教育など公的サービスを連携・補完するものとして成長途上にある産業が多いの
が特徴である。このため、統計も未整備な業種が少なくない。
(2) 業界の現状
① 市場環境・市場規模
市場規模としては、総計すると約 1.8 兆円を超えると思われる。
○ 自己投資型サービス産業(市場規模 約 1,7 兆円)
・エステティック
約 3,980 億円
2005 年度1
・フィットネス
約 3,858 億円
2005 年度2
・結婚相手紹介サービス 約 550 億円
2005 年度3
・学習塾
約 9,550 億円
2006 年度4
・結婚相手紹介サービス 約 550 億円
2005 年度5
○ 生活支援型サービス産業(市場規模 約 1,000 億円)
・ 家事支援サービス(ハウスクリーニング等)
約 867 億円
2005 年度6
・ 子育て支援サービス(認可外保育、公設民営等)
約 194 億円以上 2005 年度7
直近(2003 年から 2005 年)の成長率を鑑みると、市場成長率が0%を超え
る産業は、結婚相手紹介サービス、エステティック、フィットネスであり、ま
た、0%を下回る産業は、語学教室、学習塾である。0%を下回る成熟期にあ
るような産業でも、M&A や独自のビジネスモデルイノベーションにより大きく
成長している企業もある。
子育て支援サービスや家事支援サービスは、日本標準産業分類でも未分化8で
1 矢野経済研究所「エステティックサロンマーケティング総覧 2007 年版」から引用。
2 経済産業省「特定サービス産業実態調査」から引用。
3 富士グローバルネットワーク「2007 年版サービス産業要覧」から引用。
4 矢野経済研究所「教育産業白書 2007 年版」から引用。
5 富士グローバルネットワーク「2007 年版サービス産業要覧」から引用。
6 富士グローバルネットワーク「2007 年版サービス産業要覧」から引用。
7経済産業省「育児支援関連サービス産業研究会」報告書から引用。
146
あり、明確な統計が存在しない。
9
図1
図2
市場成長率と市場規模
市場成長率
12,000
20%
15%
結婚相手紹介サービス
エステティック
フィットネス
学習塾
語学教室
10,000
10%
8,000
5%
市
場
規
模
0%
2001-2003
年度
2003-2005
成熟期
-5%
6,000
4,000
結婚相手紹介サービス
エステティック
フィットネス
学習塾・予備校
英会話教室・語学学校
-10%
-15%
-20%
成長期
2,000
-10.00%
-5.00%
0
0.00%
5.00%
10.00%
市場成長率(2003-2005年度)
15.00%
20.00%
図3
○BtoCサービスの対象業種
大分類
第1次 第2次
A
農業
B
林業
C
漁業
第3次
D
鉱業
E
建設業
F
製造業
G
H
I
J
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業
卸売・小売業
卸売
小売業
金融・保険業
不動産業
飲食店、宿泊業
医療、福祉
教育、学習支援業
複合サービス事業
サービス業(他に分類されないもの)
公務(他に分類されないもの)
分類不能の産業
K
L
M
N
O
P
Q
R
S
白色
病院
介護
保健所
社会福祉
(日本標準産業分類平成14年3月改訂)
社会保険
保育所
・社会福祉法人
・民間事業者
・公設民営
・認可外
学校教育
学習支援
学習塾・外国語会話教授法
フィットネス
洗濯・理容・美容・浴場業
・その他の洗濯・理容・美容・浴場業
・エステティック業
広告業
娯楽業
宗教
廃棄物
処理業
その他の
事業
サービス
自動車
整備業
その他の生活関連サービス業
機械等
修理業
・旅行業
・家事サービス(ハウスクリーニングなど、
家事支援サービス)
・冠婚葬祭業
・他に分類されないその他の生活関連サービ
スなど
・結婚相談業、結婚式場紹介業
・・・第3次産業の中で、対個人向けサービス
の比率が高いサービス業が含まれる業種。
物品
賃貸業
政治・経済・
文化団体
・・・今回検討の対象とするサービス業種。
8 日本標準産業分類での明示
1.分類新設を検討するための基準
①新設しようとする産業のその属する直近上位分類項目における事業所数、従業者数、生産額等のいずれかの構成比が安定的に
10%以上になっていること。
②細分類における「その他項目」が、その属する小分類項目に占める事業所数、従業者数、生産額等のいずれかの構成比が安定
的に 50%以上になっている場合は、一部の産業の分割・特掲を検討すること。
2.分類廃止を検討するための基準
①直近上位分類に占める事業所数、従業者数、生産額等のいずれかの構成比が継続的に1%を下回ること。
②①に該当しないものであっても、構成比が著しく低下しており、今後もその傾向が続くと見込まれること。
上記の基準を原則としつつ、産業構造の変化、統計上の必要性、国際分類との比較可能性、事業所数、従業者数、生産額等を
総合的に勘案した上で、日本標準産業分類の改定が行われる(総務省)。
9 図1、2は、矢野経済研究所「ブライダル産業白書」(結婚相手紹介サービス)、矢野経済研究所「エステティックサロン
マーケティング総鑑」(エステティック)、「特定サービス産業動態統計調査」(フィットネス)、矢野経済研究所「教育
産業白書」(学習塾・予備校、英会話教室、語学学校)から作成。
147
(3) 対個人サービスの生産性の現状
① 高い中小企業10比率と低い生産性
第3次産業全体では、企業数は 76.9%が、従業者数でも 69.5%が中小企業で占
められている。さらに、日本標準産業分類で、「 Q サービス業(他に分類され
ないもの)11」に含まれる中小企業は、企業数は 99.8%、従業者数は 77.5%を占
めている。今回対象となるような産業も、対消費者向け(対個人)サービスであり、
同様に中小企業比率が高いと考えることができる。
また、対消費者向け(対個人)サービスの割合が高い業種の方が、対事業所向
けサービスの割合が高い業種よりも、労働生産性(円/人・時間)が低い企業の割
合が高い。サービス産業の中でも、労働集約的であり、労働生産性が低い業種が
多いことがわかる。
図412
サービス業(他に分類されないもの)
中小企業比率
(会社の常雇数+個人従業者総数)
サービス業(他に分類されないもの)
中小企業比率(企業ベース)
1,875社,
0.2%
4,451,660人,
77.5%
中小企業
大企業
763,773社,
99.8%
1,289,735人,
22.5%
図513
対事業所向けサー
ビスの割合が高い
業種
[労働生産性(円/人・時)]
5,000以上
10.3
情報通信業
5,000未満
7.8
4,000未満
19.4
3,000未満
25.9
2,000未満
1,000未満
21.8
14.7
6.2
卸売業
11.9
8.1
サービス業
(事業所向け)
6.6
5.4
23.3
13.2
31.3
23.7
19.3
30.1
20.9
対消費者向けサー
ビスの割合が高い
業種
小売業 1.61.2 4.6
サービス業
1.4
1.1 3.3
(消費者向け)
飲食店、
0.3
0.9
1.2
宿泊業
11.7
9.0
12.8
31.5
49.3
33.4
51.9
32.0
52.8
0%
100%
中小企業庁「2008年版中小企業白書」より作成
(注) 1.サービス業(消費者向け)とは、産業分類(中分類)で、洗濯・理容・美容・浴場業およびその他の生活関連サービス業、娯楽業と
した。
2.サービス業(事業所向け)とは、サービス業(他に分類されないもの)のうち、1で定義したサービス業(消費者向け)および産業
分類(中分類)で、学術・開発研究機関および政治・経済・文化団体、宗教、外国公務を除くものとした。
3.労働生産性=付加価値額(円)÷労働投入量(人・時間)[詳細は付注2-2-3注記を参照]
4.総計には、建設業および製造業を含む。
10常用雇用者 100 人以下、又は資本金 5000 万円以下の会社及び従業員総数 100 人以下の個人事業者。
11「Q サービス業(他に分類されないもの)」に含まれる業種は、「専門サービス業(他に分類されないもの)」、「洗濯・
理容・美容・浴場業」、「そのほかの生活関連サービス業」、「娯楽業」、「廃棄物処理業」、「自動車整備業」、「機械
等修理業」、「物品賃貸業」、「広告業」、「そのほかの事業サービス業」。従って、語学教室や学習塾などは含まれない。
12 中小企業庁「2007 年版中小企業白書」より作成。数値は、2004 年のものである。
13 中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。
148
② 相対的に高い複数事業所を有する事業者の生産性
チェーン展開を含め、複数事業所を有する事業者は、1店舗しか所有していな
い事業所より、10∼40%程度生産性が高い14。管理業務の効率化効果、ノウハウ
の企業内での共有を通じた効果が数字に反映されていると考えられる。優良なサ
ービス企業の各地への他店舗展開、チェーン化等が生産性向上に寄与する可能性
を示唆している。
図615
複数事業所の生産性効果(複数事業所ダミーの係数)
0.785
0.8
0.7
0.6
0.5
0.468
0.438
0.416
0.400
0.4
0.3
0.2
0.154
0.119
0.1
0.060
製造業
小売業
エ ス テ テ ィ ック
カ ル チ ャー セ ン
ター
ゴ ル フ練 習 場
フ ィ ット ネ ス ク ラ
ブ
テ ニ ス場
映画館
0.0
(4) 対個人サービスへの顧客の不満
対消費者(対個人)向けサービスに対する不満は、品質のバラツキ、期待した
品質とのギャップなどサービスの質に関するものや、クレーム対応に関するもの
が多い。サービスを提供される前に十分に説明を受けていないと、顧客の期待に
反し、リピート率の低下や苦情につながったりする。国民生活センターと消費者
相談センターに寄せられた苦情・相談件数は、エステティックや、語学教室など
が多くなっている。
図716
図817 国民生活センターと消費者相談セン
不満を感じることがある
70
59.8
不満を感じることはない
45.5
43.1
25.9
ク レー ム対 応 を
き ち ん と し てく
れな い
サー ビ スの質 が
期 待する水準 に
達 し て いな い
0
価 格 が高 い
67.3
サー ビ ス品 質 に
ば ら つき があ る
32.7
ターに寄せられた苦情・相談件数
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
エステティック
語学教室
結婚相手紹介サービス
学習塾・予備校
ハウスクリーニング
14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度
14生産関数の計測:lnVA=β0+ β1lnL+ β2lnK+β3 本業比率+β4 複数事業所ダミー+β5 大都市立地ダミー+ β6 地域
内事業所数。複数事業所ダミーの変数を、「支社、支店、営業所などを持っている本社、本店」及び「支社」の場合には‘1’、
それ以外の場合には‘0’としている。ゆえに、例えば、複数事業所ダミーの係数が 0.4 の時は、変数が 0 の時よりも、1 の
時の方が lnVA に 0.4 影響を与えるため、40%生産性が高いということができる。
15経済産業研究所サービス産業生産性研究会報告資料(森川)より加工。
16 ㈱野村総合研究所「生活・余暇に関連するサービスに関するアンケート」より作成。
17 Pionet 公表資料より作成。平成 19 年度は、2月6日時点。
149
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 外部要因
①自己投資型サービス(学習塾、語学教室、エステティック、フィットネス、
結婚相手紹介サービス)の市場トレンド
自己啓発、スポーツ活動費などの自己投資型サービスへの支出を増やそうと
する世帯は、短期的な景気の波の影響を受けずに安定して存在している。
また、自分や家族の健康に不安に感じる者の比率は増加傾向にある。2008
年4月から施行される特定健診制度に伴い、健康ブームがさらに過熱しており、
メタボ(メタボリックシンドローム)対策、アンチエイジングなどへの関心が
高まっている。
図918
図1019
現在直面している不安や悩みの推移
サービス支出DI(増やすー減らす)の推移
60%
(一般世帯、季節調整値)
自己啓発
50%
自分の健康
40%
30%
スポーツ活動費
配偶者・子供の健康
親の健康
20%
学業、進学、就職
10%
子供の教育、進学、就
職
0%
1997年調査 2000年調査 2003年調査 2006年調査
②育児支援サービス(家事支援サービス、育児支援サービス)の市場トレンド
次頁の図 11 のとおり、保育所は、全国で約3万カ所(認可保育所 22,720 カ
所、認可外保育所が 7,178 カ所)設置されており、約 220 万の園児がサービス
を受けている。しかしながら、そのサービスの供給体制は、十分とは言い難く、
大都市部を中心に、待機児童という形で保育サービスの供給不足が恒常化して
いる。このような状況の中、次頁図 12 に示すとおり、民間保育所を中心とす
る育児関連サービス市場は、大きく拡大していると推察される。
18 内閣府消費動向調査(全国月次、平成 16 年4月調査より)
19 野村総合研究所「1万人アンケート」より作成。
150
図11
保育所の現状20
認可保育所:22,720カ所(平成18年10月1日現在)
認可外保育所7,178カ所(平成18年3月31日現在)
園児数 約18万人
病院内保育
2,126カ所
事業所内保育施設
1,263カ所
上記以外の認可外保育施設
(ベビーホテルなど)
3,789カ所
園児数 約200万人
公営(自治体)
11,510カ所
民営(社会福祉法人・社団・財団等)
10,617カ所
民営(学校法人・宗教法人・NPO・営利法人等) 593カ所
※自治体の認証制度に基づく自治体の補助を受けている場合もある。
図1221
育児支援関連サービス産業の市場規模
億円
250
194
200
162
150
104
100
57
66
71
2000年
2001年
79
50
0
1999年
2002年
2003年
2004年
2005年
市場規模(億円)
さらに、今後、女性の社会進出が一層進展し、共働き世帯が増加していくと
見込まれている中(次頁の図 13、13)、認可・認可外に限らず、営利法人等
様々な主体が積極的に参入し、保育サービスの供給不足を解消していくことが
期待されている。
特に、認可外保育施設については、認可保育施設が対応できない夜間保育や
「保育に欠ける・欠けない」22に関係なく預かる一時保育など、多様化する保
育ニーズに積極的に対応することが可能である。また、次世代育成支援対策推
進法に基づき、今後事業所内保育施設が増加していくと期待されており、事業
所内保育施設の主な担い手として、民間事業者の期待が高まっている。現状と
しては、病院内保育施設や事業所内保育施設を含めた認可外保育施設は 7,178
ヵ所あり、対応園児数を見ると認可保育施設の約 200 万人の約 10%の約 18 万
人しか需要は顕在化していないが、多様化するニーズを背景に、今後ますます
重要性が増すと考えられる。
20 厚生労働省社会福祉施設等調査、厚生労働省HP(http://www-bm.mhlw.go.jp/topics/2007/09/tp0907-1.html)、厚生労働
省認可外保育施設の手引きより作成。
21 平成 19 年3月育児支援関連サービス研究会「育児支援関連サービス研究会報告書」より引用。図 10 は、日経流通新聞「サ
ービス業総合調査」ランキングに掲載された企業の売上の合算額であり、正確な市場規模の数字ではないことに注意。
22 「保育に欠ける状態」とは、児童の保護者のいずれもが①∼⑥のいずれかに該当すること。(①.昼間労働することを常態
としていること。②.妊娠中であるか又は出産後間がないこと。③.疾病にかかり、若しくは負傷し、又は精神若しくは身体
に障害を有していること。④.同居の親族を常時介護していること。⑤.震災、風水害、火災その他の災害の復旧に当たつて
いること。6.①∼⑤に類する状態にあること。)(児童福祉法施行令第 27 条)
151
図1323
図1424
就業者数に占める女性の割合の年次
推移(S48~H18)
共働き世帯数の年次推移(S55~H18)
1200
男性雇用者と無業の妻からなる世帯
雇用者の共働き世帯
42%
1100
41%
1000
40%
39%
900
38%
800
37%
700
36%
平成18年
平成16年
平成14年
平成12年
平成8年
平成10年
平成6年
平成4年
平成2年
昭和63年
昭和61年
昭和59年
平成18年
平成17年
平成16年
平成15年
平成14年
平成13年
平成12年
平成9年
平成11年
平成8年
平成10年
平成7年
平成6年
平成5年
平成4年
平成3年
平成2年
平成元年
昭和63年
昭和62年
昭和61年
昭和60年
昭和59年
昭和58年
昭和57年
昭和56年
昭和55年
昭和54年
昭和53年
昭和52年
昭和51年
昭和50年
昭和49年
昭和48年
昭和57年
昭和55年
600
35%
(単位)
また、認可保育施設においても、平成 12 年に株式会社等の営利法人の参入
が認められているが、全設置数は 22,720 ヵ所のうち、営利法人が含まれる民
間区分の設置数は 593 ヵ所であり、2.6%程度にとどまっている。
認可・認可外保育所への民間参入がまだまだ少ない原因として以下のような
ことが考えられる。
(a) 社会福祉法人会計の適用(認可保育所)
民間企業が認可保育所を運営する時、認可保育所は社会福祉法人会計が適用
されるため、一般的な企業会計が用いられず、①会計上、収支計算書・損益計
算書において保育所事業に係る区分を他事業と別に設ける必要があること、②
社会福祉法人会計基準に定める資金収支計算書等を作成しなければいけない
こと、③複数事業所を持つときにかかる共通コスト(システム開発費、複数事
業所を管理するために本社で発生する人件費等など保育所の現場では発生し
ない保育所に関連する費用)が自治体の判断によっては経費として算定されな
いこと、④生産性を向上させて生じた剰余金が他の事業所などに使えず、剰余
が発生した事業所の将来発生する修繕費や人件費等にしか活用できないこと、
⑤減価償却費は、基本的に「定額法」で計上しなければならず、経営の柔軟性
が損なわれることなど、民間企業が参入しにくい構造を生んでいる。
(b) 指定管理者制度の公募時の条件(認可保育所)
各自治体が保育所において指定管理者制度を用いる時の公募でも、「社会福
祉法人のみ」というような限定が公募条件にある場合が多く、入札さえできな
いことも多い。
(c) 人員等にかかる基準(認可保育所、認可外保育所)
認可保育所の保育従事者は、児童福祉施設最低基準により、保育士の有資格
者のみで満たすことになっている。また、各自治体の要項などで補助金受給を
決めている認証保育所での人員基準は、自治体によって異なるが、おおむね6
23 総務省労働力調査より作成。
24 男女共同参画白書平成 19 年度版より作成。
152
割程度の保育士が必要とされている。認可保育所、認証保育所で、音大や芸大、
体育大卒等の地域の専門的な知識を有する人材の活用が十分にできず、保育サ
ービスの多様化に応えて切れていない。
(d) サービスの質の見える化(認可保育所、認可外保育所)
(社)全国保育養成協議会や、各都道府県が設置した第三者評価機関による
保育サービスの評価が推進されている。しかし、評価された事業所は事業所の
太宗を占めるに至らず、評価基準も統一されていない。
(e) 事業所内保育における課題(認可外保育所)
事業所内保育は多くが民間企業によって運営されている。その事業所内保育
所の保育人員の余剰部分で、保育を必要としている周辺地域の方々を受け入れ
る事例が見られるようになってきた。しかし、設置している事業所だけの児童
を対象にしていないという理由から、本来事業所内保育所に対して出される自
治体からの補助金が支給されない場合があり、事業所内保育設置のインセンテ
ィブが低下することにもなる。
また、事業所内保育所を設置するにあたって、規模によるが、一事業所あた
りの開設費が約 5,000 万円とも言われている。運営費とともに、設置する事業
者にとっては大きな負担となる。待機児童を減らし、より働きやすい環境を整
えるためにも、税制等の支援のあり方を検討するべきである。
153
③ 公共施設の管理などの公的サービス市場の拡大
官が主体で整備・運用されてきた業務において、より質の高い公共サービス
の提供、国や地方公共団体の事業コストの削減をめざし、民に解放する法律が
複数整備されてきた。民間資金を活用して、公共施設の整備や運営を促進する
ための「PFI(Private Finance Initiative)導入」25や、公の施設の管理運営
において、委託先を出資法人などに限定していた管理委託制度を、民間事業者
を含む指定管理者による管理の代行へ変更した「指定管理者制度の導入」26(公
共サービスについて、官民が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面
で最も優れたものがサービス提供を担うことになる「市場化テスト(官民競争
入札)制度の導入」27など、大きく公的サービスが民間事業者の参入を可能に
する制度の影響が広がりを見せている。新しいサービス産業の市場として、民
間企業が認識して参入できるように、制度の枠にとらわれずよりよいサービス
提供のあり方を検討していく必要がある。
上記の制度改正の中で、地方自治体で影響力が大きかったのは、指定管理者
制度の導入である。管理委託している「公の施設」(直営以外)については、
法律施行日から3年以内(2006 年9月まで)に、原則として指定管理者制度
に移行とされている。今後も、この制度に従い、多くの公的な施設の管理・運
営のあり方が変化すると予想される。
法律の施行後、2007 年1月末までに全国で指定管理者が指定されている
61,565 施設があるが、内訳を見ると、外郭団体、公共的団体(社会福祉協議
会、農協、自治体等)で約8割を占められている。指定管理者制度により新た
な市場が創出されたが、民間企業の参入は、全体の 11%、6,762 施設にとどま
っているのが現状である。
<対個人サービス分野での参入事例>
○スポーツ施設 ← フィットネス事業者
○公立保育所 ← 子育て支援サービス事業者
図1528 指定管理者に指定されている法人等
20000
18000
16000
14000
その他
公共的団体(組合等)
財団法人・社団法人
NPO法人
株式会社・有限会社
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
レクリエーション・
スポーツ施設
産業振興
施設
基盤施設
文化施設
社会福祉
施設
25 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI 法:Private Finance Initiative=民間資金活用事
業)(平成 11 年施行)
26 地方自治法の一部を改正する法律(平成 15 年施行)
27 「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(公共サービス改革法)(平成 18 年施行)
28 総務省「公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果」(2007 年1月)を加工。
154
(2) 業界要因
① 消費者からの信頼獲得
サービスの特徴である無形性(目に見えない)のため、サービス選択のため
に必要な情報が消費者に十分行き渡りにくい。また、品質への期待と現実との
ミスマッチが生じやすく、その結果、消費者トラブルが発生しやすい。業界全
体として消費者トラブルが多い業界においては、サービスや業界全体に対する
信頼性が低下し、業界イメージの低迷による悪循環等が発生している。従って、
消費者からの信頼獲得が、市場の発展、企業の成長にとって最も重要な要素で
ある。サービスの品質の見える化を進めることなどにより消費者の安心感を高
めることが、潜在需要の顕在化につながる。
【事例:結婚相手紹介サービス】
晩婚化やライフスタイルの多様化により、独身者数は増えており、結婚相手紹介サ
ービスの潜在需要(利用意向または、興味のある未婚者)は約 700 万人と推定される。
このように、結婚したいニーズは十分に存在するのに対し、実際の利用者は約 60 万
人にとどまっている。
他方で、国民生活センターの PIO-NET に登録された結婚相手紹介サービスに対す
る苦情・相談内容は、平成 18 年度 2806 件となっており、その内訳は、「契約・解
約」に関するものが最も多く、ついで「販売方法」、「価格・料金」の順となってい
る。
このような状況の中で、更なる市場の発展のためには、サービスの品質の見える化、
消費者取引の透明化による潜在需要の顕在化をいかに個々の事業者だけでなく、業界
全体として取り組むかが、市場成長のカギとなる。
図1629
図1730
独身者数(25∼44歳)の推移
(万人)
1600
その他
1400
苦情・相談内容と件数
1200
90%
3000
80%
2500
70%
2000
販売方法
1000
500
ビ
ス
法規・基準
利用意向のある未婚者
約280万人
品質・性能・役務
品質
合計
推定顕在化人数
約60万人
価格・料金
︶
1 9年 度
1 8年 度
1 7年 度
1 6年 度
1 5年 度
1 4年 度
0
800
600
252
267
302
356
549
613
755
788
女性
男性
430
400
225
200
391
455
514
577 651
310
70
75
80
85
90
0
95
国勢調査より作成
2000 2005 年
利用意向、興味のある未婚者
約700万人
ー
20%
10%
未婚者(25歳∼44歳)
約1400万人
表示・広告
1500
30%
契約・解約
結
婚
相
手
紹
介
サ
50%
40%
相
談
の
合
計
件
数
1000
︵
60%
0%
接客・対応
3500
100%
29 Pionet 公表資料より作成。平成 19 年度は、2月6日時点。
30 ZWEI の IR 資料より作成。
155
潜在需要の顕在化
②品質の付加価値への反映
個々の事業者が提供するサービスの品質を向上させても、それを価格に反映
できない場合、付加価値の向上にはつながらない。約3割の事業者が、品質を
価格に反映できていない現状がある。
品質を価格に反映していくためには、他社と提供するサービスの差別化を図
り、サービスの品質を消費者に十分説明し、明示していくことが重要である。
現状として、品質を価格へ反映させるために、顧客への説明、サービス品質の
可視化する工夫などに取り組んでいる事業者が多い。
図1831
図1932
サービス品質を価格に反映できているか
%
3.2
27.1
16.8
4.0
3.7
24.1
21.1
24.6
16.1
全く反映されて
いない
60
50.4
あまり反映
されていない
19.9
19.0
どちらとも
言えない
46.2
小売業
31 中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。
32 中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。
156
業 界 の慣 行 や
慣 例 の改 正
不動
産業
0
広 告 等 によ る
認 知 度 の向 上
6.5
十分に反映
されている
品 質 の可 視 化 の
た め の工 夫
6.0
17.6
15.1
13.9
ほぼ反映
されている
顧 客 への 説 明
の強 化
7.4
6.8
%
サービス業
飲食店
(他には分類 宿泊業
されないもの)
49.0
18.9
貴 社 の実 績 の
増大
51.7
21.1
契約内容 の
明 確 化 ・詳 細 化
45.6
1.2
企業が行っているサービス品質を可視化する工夫
(3) 個別企業要因
① 人材確保・育成の難しさ
サービス産業の品質や効率性の向上、企業の成長・拡大には、優秀な人材の
獲得と育成が不可欠であり、経営者の約半数近くが人材を経営資源として重視
している。しかし、消費者向けサービス(対個人サービス)においては、正規
社員の離職率が高く、3年で3割以上辞める企業が約3割も存在し、人材確
保・育成がサービスの供給拡大の制約要因となっていることが多い。
図2033
経営者が重視する経営資源
50 [%]
47.2
26.7
20.9
20.2
20.1
14.8
11.3
0
従業員(人材)
情報
伝統・おもてなしの心
資金
企業イメージ
地域性
設備
ビ
図2134
正規社員が3年間で辞める割合
消費者
向け ス
サービス
6.7
6.0
12.3
事業所
向け ス 4.1 2.6 7.5
サービス
0%
10%
30∼50%未満
50∼70%未満
70%以上
33.2
30%
10%未満
41.8
27.4
20%
10∼30%未満
58.4
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
33 中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。(注) 1.重視する経営資源としてそれぞれの項目について、「特に重要」
と回答した企業の割合を集計した。 2.複数回答のため合計は 100 とならない。
34 中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。
(注) 離職率とは、2004 年(平成 14 年)4 月 1 日時点での在籍者のうち、3 年後(2007 年 3 月 31 日)までに、離職した者の割
合とした。
157
② 業務プロセスの改善・サービスイノベーション
消費者からの信頼を高め、生産性を向上させる上で、業務プロセスを見直し、
安定した品質のサービスを効率的に提供することが重要である。各企業は、業
務プロセスの改善として、手順・工程の明確化や、各工程への適切な人員配置
などに取り組んでいる。
また、成熟した業種・業態でも、消費者視点に立ったビジネスモデルのイノ
ベーションにより、新たな需要の獲得が可能である。たとえば、理容業の QB
ネットでは、消費者のニーズを追求し、徹底したマニュアル化を進め、洗髪、
顔剃を省略した「10 分 1000 円のヘアーカット」を発案した。1996 年の起業
後、昨年までに 300 店舗を全国で展開し、香港、シンガポール、マレーシアな
ど海外にも進出している。
図2035
業務プロセスの改善で
企業が行っていること
60
[%]
54.4
47.2
23.4
各工程における適切な
コスト算出
25.6
共通業務の集約化
業務プロセス別の投入
人員・時間の見直し
各工程における適切な
人員配置
業務の手順や工程を
具体的に明らかにする
0
26.7
ITの導入
30.8
図21
事例:QBネット
「10分1,000円のヘアーカット」
イノベーション
徹底した
マニュアル化
理容業
35中小企業庁「2008 年版中小企業白書」より作成。(注) 1.重視する経営資源としてそれぞれの項目について、「特に重要」と
回答した企業の割合を集計した。 2.複数回答のため合計は 100 とならない。
158
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 品質の見える化の促進
サービスの品質の「見える化」などを図ることにより、消費者に対する信頼性
の確保と、サービスの品質に基づく競争を促していくことが必要である。
① 消費者に対する信頼性の確保
(ア) 品質認証制度の整備(サービス産業生産性協議会)
・エステティックでは民間の第三者機関がサロン認証の申請受付を平成
20 年1月より開始。
・結婚相手紹介サービスでも認証ガイドラインを策定中。
(イ) ADR(裁判外紛争解決)の整備に向けての検討(サービス産業生産性協
議会)
・信頼性向上に資する紛争解決のあり方の検討。
・具体的な ADR 機関の設計を検討。
(ウ) コンプライアンスの周知・徹底
・業界に対し、適正な消費者取引を促進するため、特定商取引法の説明
会を開催する等して、その重要性の周知徹底を行う。
(エ) 消費者に対するリスクを低減する手法の普及促進
・消費者に対するリスクの低減を図るために、契約期間の短期化、契約
金額の少額化、企業・業界による前受金保全の仕組の導入等の措置をと
ることが有効。業界団体においては、これらの可能性を検討し、業界団
体に属さないアウトサイダー企業を含め、業界による取組を促進するこ
とが重要。
【事例】エステサロンの認証制度(認証基準の策定)
対個人サービスにおける消費者とのトラブルは、契約・解約のルールや販売方法に
関するものが多い。このためエステティック業界では、消費者との間で適正な契約・
取引を行っていることや、安全なエステティックサービスを提供する上で、必要な知
識と技能等を有した者がエステティックサービスを行っていることを基準とする認
証制度を構築することになった。この認証制度は、第3者機関である NPO 法人日本
エステティック機構が認証を希望するエステティックサロン事業者に対し、認証基準
に基づき認証審査を行い、その基準に適合していることの証明を行う。2008 年1月
から申請の受付を開始し、2009 年1月には認証マークの付与を行う予定である。
H20 8/1~10月末
認証判定会
を設置
※キック・オフ宣言とは、認証が実際付与されるまで、認証基準を
クリアするために取り組んでいることを消費者へアピールする宣言。
159
認証マークの付与
認証の可否決定
H20 7/1~8/31
現地審査
書類審査
キック・
オフ宣言
︵※︶
H20 1/7~2/29
申請書類の受理
審査申請
図22
H21 1/1~3年間
②高品質なサービスが適正に評価される仕組みの構築
(ア) CSI(顧客満足度指数)の開発・導入(サービス産業生産性協議会)
・プロトタイプモデルを構築済。現在、試験的な調査を3業種で開始。
(百貨店、総合スーパー、フィットネス)
・来年度は延べ 10 業種程度で試験調査を実施。平成 21 年度より本格導
入。
(イ) より高品質なサービスの評価について検討(サービス産業生産性協議会)
・サービスの品質レベルを可視化する際に参考となりうる様々なアプロ
ーチ方法の整理・公表(既に、国内外の格付け制度及び医療業界におけ
る品質評価の取組を調査し公表)。
・サービス品質の向上がどのように生産性向上へ結びついているかにつ
いての因果関係の調査・分析。
【事例】CSI(顧客満足度指数)
米国、韓国等で実施されている CSI は、顧客満足度について、異なる事業者間や異
なるサービス分野の間での比較が可能な横断的ベンチマーキングである。CSI により、
顧客の満足の要因と顧客がそれを元にどのように行動するのかがわかり、企業は、顧
客視点での経営改善に活用可能となる。さらに、我が国独自のモデルでは、「サービ
スの利用のしやすさ」や「利用後の問題解決」など、企業にとってどうすれば顧客の
満足度を高められるのか、「カイゼン」を示唆できる項目を増設。平成 19 年度は開
発中のプロトタイプモデルについて、3業種(百貨店、総合スーパー、フィットネス)
を対象とした試行調査を実施し、モデルの妥当性と企業での活用可能性が確認できた。
図23
各社のCSI
平均51.1
平均50.0
平均48.4
百貨店
平均48.7
総合スーパー
160
フ ィ ッ ト ネ ス
(2) 科学的・工学的アプローチの拡大
① 業務の標準化・マニュアル化、高付加価値化・業態のイノベーション
(ア) 科学的・工学的アプローチの拡大
・サービス提供プロセス、顧客情報、顧客行動力に関するデータを科学
的・工学的に収集分析し、ビジネスモデル化する方法論の開発。
・研究開発・適用実証事業を通じて、その成果の普及・啓発。
・サービス工学における研究拠点を(独)産業技術総合研究所に整備。
・産学連携の強化・推進。
(イ) 製造管理ノウハウ活用によるプロセス改善を推進(サービス産業生産性
協議会)
・サービスプロセス改善のための実証事業の活用。
・平成 20 年度から中小企業基盤整備機構や中小企業庁の実施する専門
家派遣事業等との連携関係。
(ウ) ベストプラクティスの普及・啓発(サービス産業生産性協議会)
・「ハイ・サービス日本 300 選」への選定。
【事例】作業標準化による保育サービスの品質の向上(平成 19 年度実証事業)
平成 19 年度の実証事業で、株式会社ポピンズコーポレーションは、各保育所の保
育サービスの質のバラツキをなくすため、標準作業書、動画マニュアルを作成した。
その結果、お客様満足度(保護者の不満足率が 2.3%から 0.7%に低下)が向上し、ス
タッフ満足度(トレーニング方法への満足度が、5段階評価で 0.2∼0.5 ポイント改善)
も向上し、人材育成コスト(時間・期間の削減)の低減を実現した。
図26
図27
標準作業例:作業プロセスを分析し、
工程を標準化
動画マニュアル例:保育士自身による自己学習
ができる環境を構築
161
(3) スタッフ人材及び経営人材における人材育成
<スタッフ人材>
人材の流動性が高いことを踏まえ、共通として必要になるスキルやノウハウ
の教育については、業界全体及び業種横断的な対応が必要である。また、資格
や検定などの評価システムの整備することで、人材のモチベーション向上やキ
ャリアパスの可視化、評価・処遇への反映を進めることが求められる。
(ア) 業界・業種共通の人材育成基盤構築事業
・スキル標準+能力評価制度の整備。
(イ) サービス産業における資格・検定制度
・業界における資格の整理・充実の推進。
・社内評価制度の整備。
<経営人材>
産業界においては、実践的な技能や知識のみならず、幅広く体系的な経営
能力を持った経営人材が不可欠であることから、大学等教育機関においても、
固有の専門知識や技術の教育に加えて、経営ノウハウなどの知識についても
バランス良く教育されることが重要である。
(ウ) 経営人材育成(サービス産業生産性協議会)
・生産性向上に不可欠である経営人材の育成について、産業界がどのよう
な課題を抱えているか明らかにするとともに、産業界ニーズに応える人材
育成を大学等でどのように進めていくべきかを調査。
・産学連携で教育機関における教育内容を充実。
<人材育成全体>
(エ)ベストプラクティスの普及・啓発(サービス産業生産性協議会)
・ベストプラクティスを「ハイ・サービス日本 300 選」で選定。
162
(4) チェーン化等による生産性向上
複数営業所のチェーン化は、管理業務の効率化やノウハウの営業所間での共有
等を通じることで、生産性向上に有効であり、また、フランチャイズ等は、一般
的に、創業・起業の有効な手段として活用可能である。事業者が必要に応じてチ
ェーン化に関する情報を得られるよう、適切に情報提供等を実施する。
【チェーン化等の例】
(ア) ボランタリーチェーン
・ボランタリーチェーンを活用して、効率的な仕入れや情報化などの課題
解決を図った事例などを周知。
(イ) フランチャイズチェーン
・本部の情報開示ルールや加盟店が契約時に留意すべき点について周知。
(ウ) 企業合併等
・産業活力特別措置法の活用の普及・啓発。
163
(5) グローバル化による新たな市場の創出
対個人サービスにおいても、国際展開に関心がある企業は少なくないが、実際
に海外進出している企業は、実例があまりない。サービス産業の事業者が海外展
開を行おうとした時に発生する課題をまず抽出することで、実態を把握すること
が必要である。
また、海外観光客を誘客し、国内における消費を増大させることによる国内サ
ービス産業の需要拡大による市場創出も重要である。現在、外国人観光客数を
2010 年までに 1,000 万人誘客するために様々な取組を実施している中、外国人
観光客数を伸ばすための取組に加え、外国人観光客一人当たりの消費額を伸ばす
ための取組も強化していくことが必要である。具体的には、外国富裕層にターゲ
ットを絞った誘客のための PR の充実、外国人富裕層のニーズにあった観光体験
を可能とする国内受け入れ体制の整備を進めていく必要がある。
(ア) サービス産業のグローバル展開に関する検討・分析
<日本から海外へ>
・海外に進出している日本のサービス産業の成功要因や制約要因を把握・分
析。また、アジア市場に着目し、アジア主要都市のサービス産業への消費
トレンドを調査。
<海外から日本へ>
・外国富裕層の多様なニーズにきめ細かく対応することができる国内受け入
れ体制の在り方の検討を実施。
(イ)ベストプラクティスの普及・啓発(サービス産業生産性協議会)
・「ハイ・サービス日本 300 選」への選定。
【事例】<日本から海外へ>
○ エステA社
・台湾に 15 店舗。現地化に成功。従業員は現地採用、現地で育成。
○ 語学教室B社
・海外は現在 53 校。アジア、欧米、豪州に進出して 20 年目。簡単にはマネがで
きないビジネスモデル、ネットワークを構築。
【事例】<海外から日本へ>
○ 北海道ニセコ地域
・海外からのスキー客が増加、豪州や香港の事業者が不動産開発業等に参入。アウ
トドアスポーツ、不動産業、旅行代理店、飲食業等 44 社の外国資本の事業者が展
開中(平成 20 年 1 月現在)。
○ 九州地方
・地理的に近い九州でゴルフのプレーを好む韓国人観光客が増加。これに伴い、韓
国資本が流入し、更に観光客を呼び込む好循環が創出されている。
164
(6) 育児支援サービス市場の一層の拡大
育児支援サービスについては、待機児童という形でサービスの供給不足が恒常
化している。また、多様な育児支援サービスを期待する需要も高まってきている。
供給不足解消のためにも、多様な需要に応えるためにも、民間企業がより参入し、
育児支援サービス市場の拡大することが重要である。このため、民間企業と民間
企業以外の法人間の競争条件のイコール・フッティング(制度運営の適正化)、
制度の柔軟化などの環境整備が必要である。
(ア) 制度の柔軟化(認可保育所、認可外保育所)
・ 認可保育所では全員、認証保育所ではおおむね6割程度の保育士が必要。
音大や芸大、体育大学卒等の専門知識を持つなど、地域の多様な人材が
活用可能なように、人員に関する規定の緩和を検討するべき。
(イ) 会計基準の適用の見直し(認可保育所)
・一般的な企業会計とは別に、民間企業は社会福祉法人会計に基づく計算
書も作成しなければ認可保育所の運営が認められず、その作成により負
担増加。また、民間企業が剰余金を他の保育所に使えず、減価償却費の
計上方法が柔軟でないため、本来の民間活力がいかせない等の課題があ
り、会計基準の適用の見直しを行うべき。
(ウ) 民間企業と民間企業以外の法人間の競争条件のイコール・フッティング
(制度運営の適正化)(認可保育所)
・各自治体で指定管理者制度を活用する際、より民間企業が参入しやすく
なるような公募のあり方を検討。
(エ) サービスの質の見える化(認可保育所、認可外保育所)
・個人の選択につながる、保育所の情報公開の推進。
・統一的な指標による保育所の第三者評価の活用の促進を検討。
(オ) 制度関連の検討(認可外保育所)
・子育て支援税制(事業所内施設等の割増償却)のあり方を検討。
(カ) コミュニティビジネスの活用
・コミュニティビジネス協議会(仮称)との連携により、病児保育等の顧
客ニーズに合わせた先進的なビジネスモデルの普及促進。
(カ) 慢性的な保育士不足の解消(認可保育所、認可外保育所)
・現場から長期間離れている保育士の再教育・再活用の支援。
【参考】規制改革会議における第二次答申での課題(平成 19 年 12 月 25 日)
○「認定こども園」の普及・促進(幼保一元化)
○保育制度改革 ①保育所の直接契約・直接補助方式の導入、②保育所の入
所基準に係る見直し、③様々な保育サービスの拡充
165
(7) 指定管理者制度等の活用による公的サービス市場の拡大
指定管理者制度の導入にあたり、様々な問題が自治体と民間企業の間に生じて
いる。民間企業から見た課題は、創意工夫の自由度の少なさや、リスクをシェア・
負担するルールの不明確さ、費用面を含め、サービスを向上させるためのインセ
ンティブ不足などがあげられる。「小規模細切れ、単年度、外郭団体主体」が主
体の制度を「大規模複合、長期、民間企業主体」に転換する制度の柔軟化が重要
である。従って、民間企業が魅力のある新たな市場として参入できるように、課
題の解決につながる契約のひな形・ガイドラインの提示などの環境整備を検討す
る。
(ア) 適正な市場環境整備のあり方の検討
・契約ひな形・ガイドライン(リスク・シェア等)の作成及び周知。
・自治体担当者、民間事業者の情報共有、情報交換の場の創設を支援。
(イ) ベストプラクティスの発掘、普及・啓発
・民間事業者の参入により、サービスの質も向上し、利益も創出された事
例(包括アウトソーシング等)を発掘し、普及・啓発する仕組みを検討。
図2836
自治体からのアウトソーシングの課題
0%
ー
サ
ビ
ス
10%
契約書にないサービス改善 1 8.2%
(n=49)
要求頻繁にある
20%
リスク分担について明確な定
2 6.1%
めがなく、調整事項が多い(n=49)
評
価
・
意
見
調
整
(n=49)
9 4.1%
10 2.1%
20.8%
16.7%
23.4%
32.7%
42.9%
14.6%
14.3%
38.3%
32.7%
29.2%
43.8%
12.2%
2.0%
18.4%
38.8%
34.7%
100%
16.3%
31.3%
34.7%
90%
14.3%
44.9%
27.7%
14.3%
80%
39.6%
37.5%
6.3%
70.0% 12.2%
自治体側の体制が不十分で
ある、まかせきりになりがちで
(n=49)
ある
8 6.1%
外注、人材派遣活用に関す
(n=49)
る制限が厳しい
70%
34.7%
34.7%
5 8.3%
委託費用が年々下がってい
(n=48)
る
契約期間が短い
60%
38.8%
31.3%
4 2.0%
4.1%
1件あたりのアウトソーシング
(n=49)
費用が低い
50%
30.6%
8.2%
費用面のインセンティブが十 6 4.3% 6.4%
分でない(経費削減した場合
(n=47)
のボーナスなど)
業
務
体
制
40%
26.5%
16.3%
サービス改善、効率化しよう
にも、仕様や条例等で決めら 3 2.1%6.3%
れ、創意工夫の自由度があ
(n=48)
まりない
費
用
構
造
30%
14.3%
10.4%
利用者、住民の対応が大変
(n=48)
である
11 2.1%
自治体のチェックが厳しい、
(n=48)
調整がた
ん ある
全くあてはまらない
あまりあてはまらない
16.7%
54.2%
25.0%
どちらともいえない
あてはまる
2.1%
おおいにあてはまる
36 野村総合研究所「自治体アウトソーシングに関する民間企業アンケート調査」2007 年 11 月実施を加工。
166
5.9.
業務プロセスアウトソーシング業
1. 現状認識
(1) 業界の現状
業務プロセスアウトソーシング(BPO)とは、企業活動において非コア業務である
人事・経理・総務などの業務(ビジネス・プロセス)を外部へアウトソーシングす
ることを指している。
近年、競争力の拡大を図ることを目的として、BPO が欧米企業を中心として積
極的に利用されるようになってきており、それに伴い、グローバルレベルで BPO
サービスのマーケットが拡大している。
一方、我が国において、BPO を利用して競争力向上を図ろうとする動きは未だ
乏しい。また、BPO 提供企業に着目すると、外国企業がグローバルプレイヤーの
大半を占めており、日本企業が高い競争力を持ち得ていない状況が推察されている。
(2) 業界の現状
① 世界の BPO 市場
IT アウトソーシングを含む、世界のオフショアアウトソーシング市場は、2006
年の 24.9 兆円から、2010 年には 45 兆円に拡大すると見込まれている。また、
オフショアアウトソーシング地域としては、インドが世界トップのシェアを占め
(11.5%)、2010 年まで世界トップを維持すると見込まれている。
グローバルBPO市場規模の推移
世界のオフショア・アウトソーシング市場の推移
年平均成長率 8.8%
1500
5,000
今後高い成長
が見込まれる
4,500
年平均成長率
15.9%
2,970
3,000
2,490
2,000
1,000
567
524
1000
インド
市場規模:341億ドル
世界シェア:11.5%)
→2007年時点でシェアトップ。
2010年まではシェアトップ
を維持すると予測
中国
市場規模:131億ドル
世界シェア4.4%
485
447
億ドル
(億ドル)
4,000
財務・会計
413
500
125
184
138
153
168
284
246
264
229
10
12
8
9
254
279
303
334
人事
305
13
370
0
0
2006
2007
2008
2009
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
2010
(注)ITO、BPO、コールセンターサービス等を含む
(出所)米国XMG調査(2007年10月)
http://www.xmg-global.com/press_releases/pr071027.html
② 我が国の BPO 市場
我が国の BPO 市場は、世界の BPO 市場の成長スピードには及ばないものの、
2006 年には 8,246 億円だったものが、年平均 5.0%で成長を続け、2011 年には
約 1 兆 650 億円規模になると見込まれている。なお、IT アウトソーシング(ITO)
に付随して提供される国内 BPO 市場も、2006 年から 2011 年にかけて年平均
28.1%という高い成長が見込まれている。
167
CRM(顧客管
理・対応)
調達
その他
国内ビジネスアウトソーシング市場 セグメント別規模予測
年平均成長率5.0%
(出所)IDC Japan 国内ビジネスアウトソーシング市場調査(2007年10月)
プレスリリース
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20071029Apr.html
ITアウトソーシングサービス市場規模予測
運用管理
SI
ASP
BPO
市場全体
2005年度
(実績)
2006年度
(見込み)
2007年度
(予測)
2008年度
(予測)
2009年度
(予測)
9,848
7,425
736
65 4
18,663
10,520
7,938
802
784
20,044
11,324
8,401
870
99 2
21,587
12,143
8,713
946
1 ,2 7 4
23,076
12,975
8,921
1,033
1 ,6 9 4
24,623
(単位:億円)
2010年度 年平均
(予測)
成長率
13,816
9,012
1,135
2 ,2 6 0
26,223
7.0%
4.0%
9.0%
2 8 .1 %
7.0%
(出所)矢野経済研究所 ITアウトソーシングサービス市場に関する調査 (2007年1月)
http://www.yano.co.jp/press/pdf/224.pdf
(注)上記では、BPOサービスとは、「ITに関連する業務に加えて、間接業務全般のビジネ
スプロセスを提供するサービス」と定義されている。
168
③ 海外進出の状況
世 界 の ア ウ ト ソ ー シ ン グ サ ー ビ ス 提 供 企 業 の ラ ン キ ン グ 「 The Global
Outsourcing 100(IAOP)」の 2007 年の結果において、日本の企業は 1 社もラン
クインしていない。
選ばれた 100 社の 7 割弱を米国企業が占め、次いでインド企業がトップ 100
社のうち 15 社ランクインした。また、同じくトップ 100 社の中に、中国企業は
6 社ランクインした。
The Global Outsourcing ランキング100社の本社所在地
(2006、2007)
米国
インド
イギリス
中国
カナダ
シンガポール
ロシア
フランス
チェコ
オーストリア
日本
2006年
68
13
5
4
3
2
2
2
1
0
0
2007年
67
15
3
6
2
2
1
3
0
1
0
増減
-1
+2
-2
+2
-1
0
-1
+1
-1
+1
−
(出所)IAOPホームページ
http://www.outsourcingprofessional.org/content/23/152/1197/
(注)・IAOP:The International Association of Outsourcing Professionals
・対象となる企業は、ITOとBPOを含むアウトソーシングサービスプロバイダー。
The 2007 Global Outsourcing 100
Rank
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
Company
IBM
Capgemini
Hewlett-Packard
Sodexho Alliance
Accenture
Wipro Technologies
Infosys
Genpact
Tech Mahindra
Cambridge
Mastek
CGI Group
Xchanging
EDS
HCL Technologies
ARAMARK
ACS
Teletech
Colliers International
Cognizant
Unisys
EMCOR
ClientLogic
LASON
Neusoft
Country
U.S.
France
U.S.
France
U.S.
India
India
India
India
U.S.
India
Canada
U.K.
U.S.
India
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
U.S.
China
Strength
Size&Growth
Customer Testimonials
Executive Leadership
No.of Locations/Centers
Balanced Performance
Balanced Performance
Customer Testimonials
Executive Leadership
Employee Management
Executive Leadership
Methodology/Innovation
No.of Locations/Centers
Size&Growth
Methodology/Innovation
Methodology/Innovation
No.of Locations/Centers
No.of Locations/Centers
Balanced Performance
Global Presence
Size&Growth
Balanced Performance
No.of Locations/Centers
No.of Locations/Centers
Balanced Performance
Employee Management
(出所)IAOPホームページ
http://www.outsourcingprofessional.org/content/23/152/1197/
169
(3) ユーザーからの評価
我が国の東証一部上場企業のうち、46%(経営企画部門からの回答)が BPO
を活用しており、54%が未活用である。その中で、総務部門では約 60%、経理
部門では約 20%が BPO を活用している。
総務・経理・人事業務の
アウトソーシング実施の有無
0
20
40
60
80
54.0
46.0
経営企画部門
100 %
N=315
40.1
59.9
総務部門
N=329
82.1
17.9
経理部門
N=615
49.5
50.5
人事部門
N=196
している
していない
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業
1,729社の経営企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
総務部門では「オフィスサービス業務」、経理部門では「支払い業務」や「決
算関連業務」、人事部門では「給与・賞与計算業務」や「福利厚生業務」を特
に積極的にアウトソースしている傾向が見られる。
総務・経理・人事部門におけるアウトソーシングの実施状況
(各々の部門でアウトソーシングを利用している企業のみ対象)
総務部 門(N=197)
0
20
23.9
オフィスサービス業務
人 事 部 門( N=99)
40
60
19.8
80
26.4
14.2
100 %
0
給与・賞与計算
13.2
ファシリティ管理
22.3
13.7
17.3
16.8
40
9.1
23.2
60
100 %
80
33.3
5.1
27.3
2.0
2.5
18.3
20
社会保険処理
9.1
13.1
27.3
人事管理 5.1
12.1
37.4
1.0
3.0
11.7
6.1
66.7
18.2
1.0
経 理 部 門 ( N=110)
0
20
採用
40
60
80
100
8.1
研修 4.0
資産管理
12.7
8.2
22.7
5.5
36.4
債権債務管理
10.9
11.8
10.0
10.0
30.9
22.7
4.5
7.3
30.9
35.5
14.1
49.5
12.1
53.5
17.2
19.2
54.5
14.1
2.0
福利厚生
8.1
14.1
31.3
8.1
31.3
7.1
単純作業(入力、書類整理、等)
社員や顧客などからの問い合わせ対応
14.5
対外折衝(振込手続や支払、各種交渉、等)
予算・利益管理 5.5 5.5
64.5
企画や計画・指針等の策定
19.1
委託していない
3.6
23.6
9.1
10.9
1.8
決算関連業務
9.1
8.1
14.5
退職者に関する業務 5.1 5.1
支払い業務
11.1
4.0
無回答
9.1
17.3
6.4
30.0
13.6
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
① BPO 活用ユーザーからの評価
BPO 活用ユーザーは、アウトソーシング開始時に「コスト削減(約 30%)」や「経
170
営資源のコア業務への集中(約 23%)」を期待した企業が多く、実際に得られた効
果についても同様の回答割合が多い。
一方、「業務プロセスの改善」「業務継続性の確保」「専門的知識・スキルの
活用」「作業精度の向上」などの効果が出たとする回答が、期待よりも若干高く
なっており、付加価値面において期待以上の効果が上がっていることが示唆され
る。
開始にあたり期待した効果
0
10
20
0.0
情報把握や意思決定の迅速化
0.5
11.9
0.0
法令等改正への対応
0.3
1.0
財務体質の改善
9.5
3.2
1.6
1.0
その他
1.3
4.6
経営企画部門
(N=126)
3部門計
(N=394)
1.6
5.6
無回答
1.0
20.1
4.6
28.0
4.0
0.8
11.2
11.7
6.4
作業精度の向上
3.0
1.6
13.7
0.8
専門的知識・スキ ルの活用
10.9
自社社員の人材育成
9.6
0.0
0.5
業務の継続性の確保
0.8
コスト削減
3.2
作業精度の向上
0.8
法令等改正への対応
29.2
専門的知識・スキ ルの活用
21.6
0.0
34.1
%
40
10.2
セキ ュリティリスクの軽減
0.8
コスト削減
30
17.6
組織のスリム化
10.2
セキュリテ ィリスクの軽減
20
8.0
業務プ ロセスの改善
7.9
組織のスリム化
10
経営資源のコア業務への集中
25.1
6.3
業務プ ロセスの改善
財務体質の改善
0
20.6
経営資源のコア業務への集中
情報把 握や意思決定の迅速化
実際に得られた効果
%
40
30
4.8
業務の継続性の確保
3.2
自社社員の人材育成
2.4
0.8
その他
1.5
7.4
2.4
無回答
6.4
5.1
経営企画部門
(N=126)
3部門計
(N=394)
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場
日系企業1,729社の経営企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
また、コストメリットについて、2∼3 割以上の削減効果を感じられたとする
意見が 40%以上に上ると同時に、今後も BPO を活用したいという意向は、経営
企画部門・現場部門を通し、約 47%に上った。
業務アウトソーシングにより削減したと思うコストの割合
0
20
経営企画部門
N=128
40
39.1
60
80
33.6
21.1
1.6
3.1
1.6
3部門計
N=406
100 %
43.8
31.0
19.0
1.0
0.7
4.4
5割以上コストが削減した
あまりコストは変わらなかった
分からない
2割∼3割程度コストが削減した
逆にコストが増加した
無回答
今後の業務アウトソーシングに関する考え
0
経営企画部門
N=128
20
40
60
34.4
51.6
100 %
80
7.8
3.9
3部門計
N=406
42.9
44.6
6.9
4.9
利用を拡大したい
現在の利用状況を維持したい
利用を縮小したい
分からない
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経
営企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
171
BPO により最も期待される効果は「コスト削減(約 32%)」であるものの、アウ
トソーシング先企業の選定理由として「価格が安い(約 5%)」という回答の割合
は少ない。
また、アウトソーシング先の選定理由は「自社の関連会社である(約 51%)」が
圧倒的に高い。それ以外の選定理由は、「業務遂行体制の充実(約 11%)」「自社
の業務プロセスや IT システムへの柔軟な対応が可能である(約 8%)」などが挙げ
られている。
開 始 に あ た り 期 待 し た 効 果 【再掲】
0
10
20
25.1
7.9
0.0
0.5
業務遂 行体制 がしっかりして いる
11.9
組織のスリム化
10.2
セキ ュリティリスクの軽減
0.0
法令等改正への対応
0.8
ス タッフのスキ ルが高 い
1.0
社員教 育体制 が充実 している
0.3
担当者 が信頼 できる
34.1
コスト削減
29.2
納 期が速 い
3.2
価 格が安 い
0.5
9.5
専門的知識・スキ ルの活用
作業精度の向上
提 供サー ビ スの範 囲が広 い
独自 のノ ウハウや システ ム を保 有して
いる
自 社の 業務プ ロ セスやITシステ ム に
合わ せた柔 軟な対応 が可能 である
セキ ュリテ ィ対策 が充実 している
6.3
業務プロセスの改善
財務体質の改善
アウトソーシング先の企業を選定した理由
0
10
20
30
40
%
40
20.6
経営資源のコ ア業務への集中
情報把握や意思決定の迅速化
30
知名 度が高 い
10.9
3.2
受託 実績が 豊富で ある
3.0
業務の継続性の確保
1.6
経営 が安定 している
自社社員の人材育成
1.6
1.0
その他
1.3
資 格・ 認 証を取得 している
企業理 念や業 務アウトソー シン グに
対 す る 考 え方等が 自社と一致 している
自社の 近くにある
無回答
4.6
1.6
5.6
4.6
経営企画部門
(N=126)
3部門計
(N=394)
2.4
2.0
3.2
5.0
6.4
9.7
1.6
1.2
11.2
11.2
3.2
3.2
0.0
0.2
0.0
1.5
0.8
0.2
4.0
6.2
0.0
0.5
3.2
5.0
0.8
0.7
0.0
0.0
0.0
0.7
0.0
0.5
50
60 %
経営 企画部 門
(N = 1 2 5 )
3部 門計
(N = 4 0 1 )
59.2
自社 の関連 会社で ある
その他
無回答
1.6
4.5
2.4
4.2
43.1
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
アウトソーシング先が行った業務を評価するために定期的にどのような項目
を測定しているかについては、約半数が「測定していない」と回答している。
アウトソーシング先が行った業務を評価
するため定期的に測定している項目
0
20
短縮された処理時間
自社社員の満足度
その他
7.8
11.8
無回答
80
100 %
経営企画部門
(N=128)
3部門計
(N=406)
8.6
9.9
12.5
15.3
3.9
4.7
45.3
56.2
特に測定していない
分からない
60
31.3
24.6
コスト削減率
ミス発生率
40
6.3
3.9
1.2
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
172
② BPO 未経験ユーザーからの評価
BPO 未経験ユーザーがアウトソーシングを利用しない理由としては、「社内
で対応できており必要性を感じない(約 33%)」「社内の人材が育たなくなる(約
21%)」など、そもそも利用意向がないという回答が多い。ただし、「コストメリ
ットを感じない(約 11%)」「個人情報や機密情報の流出に不安がある(約 10%)」
など、利用の際しての不安を挙げる意見も存在する。
アウトソーシングしない理由(BPO未経験の企業)
0
10
適切 な 委託 先 事 業者 が
見 つから ない
20
30
%
40
0.7
0.6
適 切 な委 託 先事 業 者 がそも そも
ど こ にいる のか 分 か ら ない
0.7
1.1
業務 の 専 門性 が 高 く、自 社で
しか 処 理 できな い
4.4
9.5
9.6
11.8
コ ストメリットを感 じない
8.1
4.4
サ ー ビ ス の 品質 に不安 が ある
0.7
1.2
自 社ノ ウハウの 流出 に不安 が ある
個 人 情 報や 機 密情 報 の
流出 に不安 が ある
7.4
従 来当 該 業 務に従 事して いた
社 員 の 扱いに困 る
11.8
2.2
0.5
23.5
18.8
社 内 の人 材 が 育たなくなる
社 内で 対 応で きており、
必 要 性 を感 じない
33.8
32.6
2.2
0.8
なん となく
経 営 企 画部 門
(N=136)
3部門計
(N=642)
2.2
3.3
その 他
4.4
3.6
無回 答
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
BPO 活用ユーザーの約 90%に維持・拡大の意向がある一方、今後利用したい
と考えている BPO 未経験ユーザーは約 20%に留まる。
また、BPO 未経験ユーザーの部門別の意向を見ると、経営企画部門は現場部
門と比べて「使用したい」意向が高く(経営企画部門:23.0%、現場部門 14.2%)、
「利用したいとは思わない」
意向が低い(経営企画部門:37.4%、
現場部門 49.3%)。
このことから、未経験企業における BPO 推進に当たっては、特に現場部門の理
解が必要ではないかと推測される。
今後の業務アウトソーシングに対する考え方
(現在利用していない企業)
0
20
経 営 企画 部 門
N=170
40
24.7
60
100 %
80
32.9
41.2
1.2
3部 門 計
N=734
15.0
48.0
35.3
1.8
無回 答
分 か らな い
利用 し たい と は思 わ ない
利 用 した い
今後の業務アウトソーシングに対する考え方
(現在利用している企業)【再掲】
0
経 営 企 画部 門
N=128
20
40
60
5 1. 6
100 %
80
3 4 .4
7 .8
3.9
3 部門 計
N=406
42.9
44.6
6. 9
4.9
利 用 を 拡大 し たい
現 在 の 利用 状 況を 維 持 した い
利 用 を 縮小 し たい
分 か ら ない
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
173
BPO を一度も活用したことのない未経験ユーザーは、BPO 提供企業に解決し
てもらいたい問題点として、「価格が高い(54.9%)」「自社の業務プロセスや
IT システムなどに対する柔軟性が乏しい(44.0%)」「企業に関する提供情報が
少ない(39.6%)」「セキュリティ対策が十分ではない(35.2%)」などを挙げ
ている。
しかしながら、現在 BPO を活用しているユーザーでは上記のいずれについて
もあまり問題点と考えておらず、むしろ「提案力が弱い(39.2%)」という問題
が指摘されている。このため、「セキュリティ」「価格」「柔軟性」などについ
ては、一度 BPO を利用してみれば、あまり大きな問題ではないことが実感でき
るものと推察される。
BPOベンダーに解決してもらいたい問題点(現場3部門)
0
10
20
30
40
50
60
2 4 .9
価格 が 高い
提 供 される サ ー ビ スの 種 類が 少 ない、
専門 領 域が 狭 い
5 4 .9
1 6 .3
1 8 .7
( 入 力等 の 単純 作 業に留 ま る など ) 望ん でも 高付 加
価 値型 の サー ビ スが 提供 され ない
2 0 .2
2 4 .2
1 0 .1
1 3 .2
グロ ー バル 対 応力 が 弱い
サ ー ビ ス の品 質 が悪 い
( 遅 延、ミス 等 が発 生 す る 、など )
1 5 .5
1 7 .6
自社 の 業務 プ ロ セス や ITシ ス テ ム な ど に
対す る 柔軟 性 が乏 しい
1 2 .3
( 量 ま たは質 の 観点 か ら )
人 材 の確 保 が不 十分 で ある
1 2 .1
提 案力 が 弱い
4 4 .0
2 1 .7
3 9 .2
1 3 .2
4 .7
セキ ュリテ ィ対 策 が十 分 では ない
企 業に関す る 提供 情 報が 少 ない
( 企 業 が探 しにくい、信 頼 しにくい)
3 5 .2
8 .9
3 9 .6
1 0 .1
適 切 な企 業が 存 在しない( 限ら れて いる )
2 0 .9
BPO 活 用 ユ ー ザ ー ( N= 4 0 6 )
BPO 未 経験 ユ ー ザー ( N= 9 1 )
1 .2
1 .1
その 他
特に問題 は ない
1 5 .8
2 .2
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
③ 満足度クロス集計
満足度についてクロス集計を行ったところ、アウトソーシングしている業務割
合が大きいユーザー企業ほど、BPO サービスに対して「満足している」傾向が
高くなっている。
アウトソーシングしている業務割合×満足度(現場3部門)
0
20
40
60
26.6
3部 門
80
54.4
100
%
13.1
3.9
N=406
0
20
3割
N=57
4割
N=20
5割
N=24
6割
N=13
7割
N=20
60
80
50.0
28.8
1割
N=170
2割
N=81
40
14.8
100 %
14.7
72.8
4.1
2.4
8.6
1.2
2.5
22.8
61.4
12.3
3.5
30.0
50.0
37.5
4.24.2
54.2
46.2
23.1
40.0
5.0
15.0
40.0
満足している
まあ満足している
不満である
無回答
7.7
23.1
15.0
5.0
やや不満である
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
174
また、利用しているベンダー企業との資本関係の違いによる満足度を比較した
場合、「満足している」という回答にほとんど差違はない。しかしながら、「不
満である」という回答を見ると、連結対象会社や資本関係のあるベンダー企業よ
りも、資本関係のないベンダー企業のほうが「不満である」とする回答が少ない
傾向にある。
資本関係×満足度(現場3部門)
0
20
40
60
80
100
%
2 .0
26.6
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
54.4
13.1 3.9
3部門
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
N=406
0
連結対象会社
N=216
連結対象会社ではないが、
資本提携(出資)関係のある会社
N=28
資本提携(出資)関係のない会社
N=156
20
40
60
80
53 .7
2 5.9
100 %
14.8
1 .4
4.2
28.6
17.9
46.4
26 .9
7.1
9.6
57. 7
3.2
2.6
満足している
まあ満足している
不満である
無回答
やや不満である
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
BPO を活用しているユーザー企業が、BPO 提供企業側に解決してもらいたい
最大の問題点は、「提案力が弱い」ことである。また、満足度が高いユーザー企
業ほど、「サービスの品質が悪い」「価格が高い」「人材の確保が不十分である」
などの点については、問題視していないといえる。
(%)
提供企業側で解決してもらいたい問題点と、満足度の関係(現場3部門)
15.5
10.1
15.8
12 .3
8.9
1 0.1
4.7
企 業 に関 す る 提 供 情 報
が少 な い
適 切 な 企 業 が存 在 し な
い ︵限 ら れ て い る ︶
そ の他
14.8
21.7
32.1
43.8
26.9
42.5
54.7
37.5
5.6
4.5
1.9
6.3
6.5
9.5
13.2
6.3
7.4
11.3
7.5
18.8
0.9
0.9
1.9
6.3
特 に問 題 は な い
セ キ ュリ テ ィ対 策 が 十
分 で はな い
14.8
10.0
13.2
25.0
提 案 力 が弱 い
5.6
14.0
32.1
56.3
1.2
人 材 の確 保 が不 十 分 で
ある
9.3
11.8
9.4
0.0
自 社 の業 務 プ ロセ ス や
8.3
22.6
35.8
25.0
す る 柔 軟 性 が乏 し い
14.8
15.4
18.9
31.3
I T シ ス テ ム な ど に対
サ ー ビ ス の品 質 が悪 い
︵遅 延 、 ミ ス 等 ︶
20.4
21.7
37.7
50.0
グ ロー バ ル対 応 力 が 弱
い
不満である
※グラフ部分は再掲
21.7
20 .2
1 6.3
高 付 加 価値 型 の サー ビ
ス が提 供 さ れ な い
やや不満である
N=108
N=221
N=53
N=16
24.9
提 供 さ れ る サー ビ スの
種 類 が 少 な い 、専 門 領
域 が狭 い
まあ満足している
3 9.2
価 格 が高 い
満足している
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
30.6
12.7
0.0
6.3
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
175
④ 委託先との関係クロス集計
連結対象や資本関係のある BPO 提供企業に委託している場合、「コスト削減」
をはじめ、「経営資源のコア業務への集中」「組織のスリム化」といった、 “合
理化・効率化”といった観点での効果を感じている。
一方、資本関係のない BPO 提供企業に委託している場合、「コスト削減」や
「経営資源のコア業務への集中」といった“合理化・効率化の効果” に加えて、
「専門的知識・スキルの活用」や「業務プロセスの改善」、「業務の継続性の確
保」といった“高付加価値型の効果”も感じていると言える。
委託先との関係×実際に得られた効果(現場3部門)
全体 経営資 業務プ
(N値) 源のコ ロセス
ア業務 の改善
への集
中
連結対象会社
情報把 組織の セキュ 法令等 コスト 財務体 専門的 作業精 業務の 自社社
握や意 スリム リティ 改正へ 削減
質の改 知識・ 度の向 継続性 員の人
思決定 化
リスク の対応
善
スキル 上
の確保 材育成
の迅速
の軽減
の活用
化
その他 無回答
211
29.4
7.6
0.5
17.5
0.0
1.4
21.8
0.9
8.5
1.4
5.7
0.5
0.0
4.7
連結対象会社ではない
が、資本提携(出資)関
係のある会社
26
15.4
7.7
0.0
11.5
0.0
3.8
23.1
3.8
11.5
7.7
3.8
0.0
3.8
7.7
資本提携(出資)関係の
ない会社
151
12.6
13.9
1.3
7.9
2.0
0.0
17.2
0.0
16.6
9.3
10.6
1.3
2.6
4.6
(注)10%以上の回答について網掛けをしている。
(出所)間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査(平成20年2月に、東証一部上場日系企業1,729社の経営
企画部門、人事部門、経理部門、総務部門(計6,916部署)に対して実施)
⑤ ユーザーからの評価(まとめ)
BPO の未経験ユーザー企業は、「コストメリット」等の“合理化・効率化の
効果” のみならず、「セキュリティ」や「BPO 提供企業の柔軟な対応」等の基
礎的なサービス水準にも不安を有していることから、活用に踏み切れていない。
ただし、実際に BPO を活用しているユーザー企業は、これらの課題をあまり問
題視しておらず、また、活用度合いが大きくなればなるほど、満足度も高くなっ
ている。
BPO を活用しているユーザー企業は、アウトソーシング開始時に期待してい
た“合理化・効率化の効果” を実際に得ていると共に、“高付加価値型の効果”
については期待以上の効果を獲得している。また、満足度が高いユーザー企業ほ
ど、 「サービスの品質が悪い」「価格が高い」「人材の確保が不十分である」
などの課題について問題視していない。
資本関係のない BPO 提供企業を利用したユーザー企業のほうが、不満度合い
が低く、“合理化・効率化の効果”に加えて“高付加価値型の効果”も実感出来
ている。ただし、アウトソーシング先企業の選定にあたって、ユーザー企業の多
くは、資本関係のある関連会社にアウトソーシングしているのが実態である。
176
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
平成 20 年 2 月より「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会」を開催し、
生産性の向上に向けた課題について検討を行っているところである(平成 20 年
5 月とりまとめ予定)。
(2) 外部要因
社会保険関連、税関連など、我が国における一部の法制度の複雑性が、業務プ
ロセスアウトソーシング(BPO)提供企業に対して、生産性の向上や規模の経済の
追求を困難にしている可能性があるのではないか。例えば、
① 社会保険、税関連における、自治体毎に存在する提出様式の差違などが、
BPO 提供企業にとって、生産性の向上や規模の経済の追求を困難としてい
るのではないか。
② 行政手続きの電子化が遅れているため、役所への申請・報告に際し書類を
紙で作成しなければならず、ハンドリングコストの上昇・入力ミスを誘発。
結果、生産性の向上や規模の経済を追求する際の阻害要因となっているので
はないか。
③ 間接部門の一部の業務については「社会保険労務士」「税理士」などに「業
務独占」が認められているが、この制度が、BPO 提供企業が生産性の向上
や事業規模を拡大する上での阻害要因とならないよう、両者で連携を図って
いく必要があるのではないか。
などということが課題になっていると推測される。
また、企業グループ内の BPO 提供企業が、グループ外の企業に対しても BPO
サービスを提供することを促すことにより、グループの枠を越えた競争環境を整
備することが必要と推測される。
このように、必要な制度面での環境を整備することにより、BPO 提供企業の
生産性や競争力を高めていくことが重要と言える。
(3) 業界要因
ユーザー企業は、①BPO 提供企業の専門性の活用、②活用に伴うコスト削減
という2つの効果を追求することにより、自らの生産性を高めることが可能とな
る。しかし、ユーザー企業はコスト削減を追求しがちなため、BPO 提供企業が
専門性の高さを通して競争することが阻害されているのではないかと考えられ
る。
また、業務の発注後に、仕様が度々変更になる、途中段階の仕様変更の場合に
おいても別料金の請求が認められない、仕様の変更の場合にもかかわらず納期が
長くならないなど、ユーザー企業と BPO 提供企業の関係において、BPO 提供企
業に対する負荷が必要以上に大きくなっている可能性があるのではないかとも
考えられる。
このため、BPO 提供企業の専門性の活用という観点に、これまで以上に着目
することを通じて、BPO 提供企業が提供するサービスの付加価値向上を図り、
BPO 企業同士の競争・協調が促進されるよう環境を整えることが重要と言える。
177
(4) 個別企業要因
日本企業では、「あ・うんの呼吸」や「ハイタッチのコミュニケーション」が
重視され、業務は個人個人に任せられていることが多いため、BPO 活用が進み
にくい。このため、業務プロセスの可視化・マニュアル化や標準化を行うことで、
BPO 活用による生産性の向上の促進が可能となるのではないかと考えられる。
また、ユーザー企業は、BPO 提供企業を選択する際、自社の関連会社である
ことを最重視しており、BPO 導入後も、アウトソーシングの効果を測定・モニ
タリングしていない企業が多い。つまり、ユーザー企業は、BPO サービスの質
に基づく企業選択・モニタリングを通じた生産性向上を促していく必要があるの
ではないかと考えられる。
このため、業務プロセスの可視化・マニュアル化や標準化を通じ、BPO 活用
が促進されやすい環境整備のあり方について検討することが重要。合わせて、ユ
ーザー企業と BPO 提供企業の戦略的連携を通じ、BPO を活用した生産性向上策
について検討することが重要と言える。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
BPO 提供企業のサービスの質の向上、ユーザー企業におけるバックオフィス
業務の可視化、並びに BPO 提供企業およびユーザー企業の戦略的連携などを通
じ、ユーザー企業及び BPO 提供企業双方の生産性向上に取り組むことが重要で
ある。具体的な方向性は以下のとおり。
(2) 政策として取り組むべき方向性(案)
① 制度面での環境整備(「2.生産性向上に向けた課題」のうち「(2)外部要因」
参照)
業務の標準化の阻害要因となっている複雑な法制度に関する検討を通じ、
BPO 提供企業が規模の経済を追求することが可能となるような環境整備を
行うことが必要である。
② 産業活力再生特別措置法・分野別指針の整備
グループ企業内の BPO 提供会社が、グループの枠を越えて競争すること
を促すため、事業再構築を伴う企業再編の際に、不動産取得税の減免等とい
った恩典が受けられるよう、産業活力再生特別措置法の事業分野別指針の策
定を検討することが重要である。
③ BPO 提供企業とユーザー企業が戦略的連携を行っている事例(ベストプラ
クティス)の収集・普及
戦略的連携のベストプラクティスを収集し、ユーザー企業が BPO を活用
する際の先進事例として普及することが重要である。また、ユーザー企業と
BPO 提供企業が契約を結ぶ際に、予めサービスレベルを規定し、そのサー
ビスレベルを維持・管理していく契約形態のあり方(サービスレベルアグリ
ーメント(SLA))のあり方について検討することが必要である。
178
(3) 業界として取り組むべき方向性(案)
① 人事・経理・総務部門など、バックオフィス業務に関するスキル標準の検
討
多くの企業で共通する業務内容について、業務プロセスの標準化・マニュ
アル化を進めることにより、規模の経済の追求が可能とすることが重要であ
る。また、その業務標準に基づくスキル標準や、スキル標準を活用した人材
育成を行うことが期待される。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性(案)
① BPO サービス活用により得られる付加価値メリットの可視化
BPO 提供企業は、コスト削減効果のみならず、付加価値面におけるメリ
ットについての情報発信を強化することが必要である。また、ユーザー企業
も、自らのニーズについて情報発信をすることが期待される。
179
5.10. 環境装置のサービサイジング
1. 現状認識
サービサイジングとは、モノの機能に着目し、その機能をサービス化して提供す
る新しいビジネスモデルであり、ユーザーに対して付加価値の高いビジネスが提供
できる。また、発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)を促進し、環境負荷
低減効果に資するものとして注目されている。
経済産業省ではこのサービサイジング・ビジネスを推進しており、これまでにも
様々な検討を重ねてきている。平成 19 年 7 月にまとめられた経済産業省の産業構
造審議会産業技術分科会における報告書「イノベーション創出の鍵とエコイノベー
ションの推進」においても、余剰生産の回避や確実な回収リサイクルと新しい技術
革新の成果の利用に資するため「モノの販売」から「機能の提供」を目指すサービ
サイジング産業を創出することが指摘されており、サステナブルな生活の実現の一
項目としてサービサイジングが位置づけられている。
製造業の従来のビジネスモデルは製品という「モノ」の開発・販売により収益を
上げるものであり、モノの購入需要が縮小した場合にはビジネスの規模が縮小する。
また、最先端の技術を集めた機器を開発しても最終的に価格競争になり、収益が上
がらないといった事態が多くの分野において生じている。このことからビジネスモ
デルを変革しサービサイジングを展開することにより、利用者にとって新たな価値
(機能保証、時間的価値、金銭的価値等)を付与し、自社及びサービスの利用者に
メリットを生じさせることが可能である。
上記を踏まえ、本検討においては、水、廃棄物、大気等を処理する環境装置につ
いて、装置の製造・使用・回収・廃棄のライフサイクル全体を対象とした新しいビ
ジネスモデルを推進するため、課題を抽出し、政策課題、業界課題、個別企業課題
それぞれについて取り組むべき方策を検討した。
(1) 業界の特徴
① サービス分野における環境装置のサービサイジングの位置づけ
環境装置は受注生産が中心であり、また、市場における公共需要の割合が大
きく、需要はあるものの近年の公共投資の削減により市場規模の減少が起きて
いる。そこで、民需対応や海外展開などの市場規模拡大の方向性のほか、サー
ビス化したり、サービス部門を強化するなどの方策も検討が始められている。
サービサイジング型の新たな事業展開は公共事業等においてイニシャルコ
ストの平準化等のメリットがあり、こうした状況を打破するためのひとつの有
力な方策と考えられる。
② 環境装置業の生産性を向上させる必要性
従来の製造・販売中心のビジネスモデルでは、研究開発、マーケティング、
販売促進、販売に重点が置かれてきたが、サービス強化のビジネスモデルに展
開するためには、バリューチェーンにおけるユーザーへのサービスプロセスを
強化することが求められる。売り切りのビジネスモデルと比較してサービスに
対する顧客ニーズは多様であり、ビジネスの機会拡大が見込まれる。また、顧
客との継続的な関係を構築し、長期的な事業としていくことが可能となる。サ
ービサイジングによって、生産性の構成要素である付加価値の向上につながる
と考えられる。
180
(2) 業界の現状
① 市場環境
環境装置は、官公需向けの受注生産型の事業形態が伝統的であり、その市場
規模は公共投資削減や市町村合併による整備計画の先送り等の影響を受けて
減少傾向にある。
環境装置の生産額は、平成3年度以降順調に拡大を続け、平成4年度には1
兆円を超えた後も高水準で推移し、平成 13 年度には、ダイオキシン法規制対
応に伴う需要により、地方公共団体向け都市ごみ処理装置を中心に大幅に増加
し、過去最高の約1兆 6,900 億円に達した。
しかし、その後環境装置の需要の中核をなす官公需要が、公共投資削減、市
町村合併による整備計画の先送り等により減少を続け、平成 15 年度及び 16
年度は約1兆円、平成 17 年度は、平成3年度以来の1兆円を割り、大きく低
迷することとなった。平成 18 年度では大気汚染防止装置、水質汚濁防止装置、
ごみ処理装置、騒音・振動防止装置全ての分野において前年度を下回り、約
8,200 億円となっている。
今後は、ここ数年低迷していた地方自治体向け都市ごみ処理装置の需要が回
復する兆しもあるが、中長期的には官公需要は大幅な拡大は見込まれない。一
方、温暖化防止対策の本格化による事業系廃棄物処理装置、汚泥処理装置等の
伸張が見込まれるとともに、バイオマス利活用に関する市場拡大が期待され、
民間需要については引き続き、設備投資ニーズが期待される。
環境装置の輸出額は、近年、国内需要の5∼10%で推移しており、平成 17、
18 年度の生産実績は拡大傾向にある。海外では特に中国への輸出が多く、今
後、アジアを中心とした地域では、急激な経済成長と人口増加に伴って環境負
荷が増大し、環境に対する意識の高まりや規制対応による需要の拡大が期待さ
れる。ただし、アジア諸国については、必ずしもハイテクでなく、現地のニー
ズに則したものが求められ、日本の環境基準等とは異なることや、海外展開の
際にリスクが大きいことなどに留意が必要である。
② 産業構造
環境装置は、主として大気汚染防止装置、水質汚濁防止装置、ごみ処理装置、
騒音・振動防止装置の 4 つに分類できる。
資本金 100 億円以上の大企業の数が相対的に多く、特に大企業においては官
公需要比率が高い傾向にある。また、生産額に占める大企業の占める割合も大
きい。
機械の分類別の生産実績で見ると、ごみ処理装置のうち「都市ごみ処理装置」
が約 1,985 億円、水質汚濁防止装置のうち「下水汚水処理装置」が 1,516 億円
と大きい割合を占めている。
③ 雇用環境
環境装置業の従業員数は約 25 万人であり、そのうち環境関係の従業員数は
約 14,800 人である。また、研究員の数は 761 人であり、分野別では水質汚濁
が 429 人と最も多くなっている。
(3) 生産性の現状
① 環境装置のサービサイジングにおける生産性
181
環境装置のサービサイジングは新しい概念であり、現状ではビジネスモデル
の考案等の導入部分が検討課題となっている。そのため、環境装置のサービサ
イジングの生産性を計測する指標の検討には至っていないが、環境装置のサー
ビサイジングにおける生産性計測指標は他産業と同じく従業者1人当たり付
加価値額(付加価値額/従業者数)等と考えられる。
(4) ユーザーからの評価
サービサイジングは、新規設備投資意欲があるが資産保有のリスク、バラン
スシートへの影響を懸念する顧客にとっては適した仕組みであり、実際にサー
ビスを導入した顧客からも評価を得ている。顧客は自社の保有する資産を減ら
すことができるという点でメリットを享受できるほか、初期投資を削減できる
ため導入がしやすいという利点がある。また、機器のレンタルやリースに付随
してメンテナンスサービスを包括的に契約、提供することにより、一括してメ
ンテナンスも委託できることや、予防的メンテナンスが行われ機器の長寿命化
が可能であることも評価されるところである。
装置の廃棄処理が提供者側の責任において実施されるため、廃棄物処理関係
の手続を行う必要がないとの意見も見られる。
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
① 提供事業者側の課題
環境装置においてサービサイジングの導入を更に進め生産性を向上させる
にあたって、事業を提供する側の課題としては、新たなビジネスモデルを創出
していくことが挙げられる。従来の売り切り型のビジネスモデルから、サービ
スを含めた包括的な製品・サービスの提供を進めていくためには、ビジネスモ
デルの創出を行うこと、また、そのための人材を確保育成していくことが課題
である。
更に、サービサイジング・ビジネスの仕組みの導入に当たっては、事業者に
とってのリスクが大きく、企業単独では仕組みの導入が困難であることも大き
な課題となっている。
また、データ・情報の不足により市場の全体像や具体的なビジネスモデル像
が見えにくいことも課題である。
② ユーザー側の課題
ユーザー側の課題としては、サービサイジングという概念が普及していない
ためにユーザー側に受け入れる態勢や仕組みがないことが挙げられる。また、
サービサイジングの導入によって発生するメリットが定量的に示しにくいた
め導入が進みにくい現状がある。
(2) 外部要因
① サービサイジングの認知
環境装置のサービサイジングにおいては、その概念が社会一般に認知されて
いないために、ユーザー企業の理解が進まない、ユーザー側の受け入れ態勢が
整っていない等の問題があり、導入が進まない事情がある。また、特に官公需
要に対応する際には、自治体等が装置を保有せずにサービスへの対価を支払う
182
ような会計上の仕組み等が普及しておらず、購入契約からサービス契約に変更
する際の制度面の制約が大きい。このため、サービスを提供する事業者側が良
質なサービスを提供する態勢にあっても、サービサイジングの普及、導入が進
まないという問題が生じている。
② 環境負荷低減効果の測定手法や基準が不明確
環境装置そのものの効果に加えて、サービサイジングによるメリットを事業
者側がユーザーに提示する際に、環境負荷低減効果を量的に示す必要がある。
現状では環境負荷低減効果の測定手法や評価基準が明確に定まっていないた
め、ユーザーに対してサービサイジング導入のメリットを伝えにくい状況にあ
る。事業者が環境負荷低減効果を測定して提示することへの支援策として、環
境負荷低減効果を測定する際の標準的な手法の検討や、環境負荷低減効果を評
価する基準を設定するための検討が課題である。
③ サービサイジングに関するデータ不足
サービサイジングは新しい事業分野ということもあり、現状では市場の輪郭
を把握できるだけのデータが整備されていない。そのため、今後の施策を検討
するための材料が十分に揃っているとは言いがたい状況である。市場の全体像
を捉え、施策を検討するためにどのようなデータが必要か、また、どのように
取得することが望ましいかについて検討することが今後の課題である。
また、従来はモノの売り切りビジネスを行ってきた事業者が、サービサイジ
ングへとビジネスモデルを転換する際に、協力会社や顧客企業との間でどのよ
うな形態の契約を締結するべきかが分かりにくく、サービサイジングの普及に
おける阻害要因の一つになっている。
(3) 業界要因
① 新たなビジネスモデルの創出
環境装置は官公需要の縮小を受け市場全体が縮小傾向にある。そのような状
況の中、従来の売り切りのビジネスモデルから継続的なサービスを含めたビジ
ネスモデルへの変換を行うことが需要の拡大の一手段として注目されている。
しかしながら、サービサイジング分野においては、データや情報が不足してい
るなどの問題があり、ビジネスモデルの創出に向けた取組が求められる。
② 事業企画等の人材不足
従来のビジネスモデルから、サービサイジングのビジネスモデルへの転換に
当たっては、特に事業を企画する分野の人材が必要であり、現状のビジネスモ
デルを進めるために必要な人材と異なる種類の人材が求められる場合も多い。
そのような人材は現状では十分とは言えず、新たなビジネスモデルを創出し、
仕組みを作り、それを実行できるような人材に対するニーズが高まっている。
③ 異業種連携の推進
サービスを含めたライフサイクル全体でのビジネスを企業単体や一つの業
界で提供することは難しく、サービサイジングの更なる推進のためには、企業
間連携・異業種連携が必要である。現状ではサービサイジングのビジネスモデ
ルを創出することを念頭に置いた異業種連携の機会は多くなく、異業種間の対
183
話・検討の場が求められている。
(4) 個別企業要因
① サービサイジングによる高付加価値化
環境装置の生産販売は縮小傾向にある。このため、環境装置の製造販売のみ
でなく、装置のライフサイクル全体を視野に入れ、競争力向上のための付加価
値の高い包括的なサービス提供に取り組むことが課題である。
② 求められる人材要件の明確化
サービサイジングへビジネスモデルを転換するに当たっては、従来のビジネ
スモデルで必要であった人材とは異なる種類の人材が求められる。人材要件に
ついては、現状ではあまり体系だって示されていないが、具体的にどのような
人材が必要であり、どのような能力が求められるかについて明らかにすること
が課題である。
③ 資金面等での連携、契約形態の検討
環境装置のサービス化に際しては、環境装置業界の企業がレンタルやリース
の資金回収等の与信リスクを負うことになるため、企業にとってはリスクが大
きく単独での対応が困難である。そのためサービサイジングのビジネス形態に
踏み出すことができない場合があるので、ビジネスに伴うリスク軽減を図るこ
とが課題である。
④ 環境負荷低減効果(=メリット)の定量化
事業者側がサービサイジングの仕組みを提供しようとする際には、ユーザー
側に導入のメリットを定量的に示すことが求められる。量的に提示することで
ユーザに対してメリットを分かりやすく説明でき、導入しやすくなると考えら
れる。それぞれの企業がサービサイジングによる環境負荷低減効果がどのくら
いあるのかを定量的に評価することが課題である。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
ビジネスモデルの創出やリスク回避をしながらビジネススキームを構築す
ることは、サービサイジングの推進において非常に重要な課題であるが、これ
については業界及び個別企業が、高付加価値なビジネスモデルの検討、ビジネ
スモデルを創出する人材育成・確保、異業種との資金面での連携、リース会計
基準を含めた契約形態の検討等を通じ、取り組んでいくことが求められる。
サービサイジング導入のメリットを分かりやすく提示するという課題につ
いては、政策としてその定量化の手法や認定基準等について検討していくほか、
個別企業が環境負荷低減効果を定量的に示すことが必要である。
ユーザー側に起因する課題に対しては、政策としてサービサイジングの認知
拡大を図り、セミナーや環境展示会等におけるサービサイジングの広報活動を
行うことでユーザー側の受け入れ態勢整備を促進することが求められる。また、
市場環境を把握するためのデータ整備を行う必要がある。
(2) 政策として取り組むべき方向性
184
① サービサイジングの認知拡大
サービサイジングの認知拡大は今後のサービサイジングの推進にあたり非
常に重要な課題である。これについては政策によるサービサイジングの普及、
拡大が求められており、セミナーや展示会を活用した認知度向上といった施策
を充実・強化することが期待される。
② 環境負荷低減効果を測定、認定する手法または基準の検討
サービサイジングによるメリットを分かりやすく示すため、環境負荷低減効
果を測定・認定する手法や基準を検討することが課題である。サービサイジン
グによる環境負荷低減効果の「見える化」と「動機付け」のための施策を実施
していくことが望ましい。
③ サービサイジングに関するデータ整備
市場の全体像を掴み今後の施策につなげるため、サービサイジングに関する
会計面・税制面の取扱いを含めたデータ整備等について、その具体的な方策を
検討することが求められる。
(3) 業界として取り組むべき方向性
① 新たなビジネスモデルの創出
環境装置のサービサイジングの検討に資する内外の事例をさらに収集・分析
し、ビジネスモデル・ビジネススキームの策定と定量的な評価を行うことが期
待される。
②ビジネスモデルの企画に必要な人材育成・確保
ビジネスモデルの企画に必要な、特に事業企画分野の人材について、個別企
業から人材要件を収集した上で、人材育成・確保を進めることが望ましい。
③ 異業種連携の推進
ライフサイクル全体を通したビジネスの提供のため、また、自社のリスク軽
減のためには、異業種との連携が有用である。業界では、資金・技術面におけ
る異業種連携等に関する具体的な方策について検討を進めることが求められ
る。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
① サービサイジングによる高付加価値化
環境装置の使用時及び回収・リサイクルも事業範囲に取り込んだサービサイ
ジング型の事業に転換し、メンテナンス、リサイクル等の包括的なサービス提
供を通じて顧客のニーズに適格に応える、より付加価値の高いビジネスを提供
することが期待される。
② 求められる人材要件の明確化
サービサイジング型のビジネスモデルに転換するにあたり、顧客にとって受
け入れやすい条件やこうした事業を進めるにあたってサービス化しやすい製
品分野を見極めること等が重要である。このため、どのような人材が必要か、
どのような能力が必要かについて明確にすることが求められる。
185
③ 資金面等での連携、契約形態の検討
サービサイジングにあたっては、与信リスク等を企業が負わなければならず
リスクが大きいことが問題である。個別企業は、このようなリスク軽減のため
リース業や金融機能との連携を進めることが必要である。また、会計基準制度
の変更に伴うリースの取り扱い会計基準を踏まえた契約形態を整理して対応
する必要がある。
④ 環境負荷低減効果(=メリット)の定量化
サービサイジングの更なる導入のためには、環境負荷低減効果を定量的に示
すことが求められる。個別企業は温室効果ガスの排出量や慣用装置導入前の大
気、水質、廃棄物等による環境影響負荷をライフサイクルアセスメント手法等
により評価することが望ましい。
186
5.11. 自動車販売業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野における自動車販売業の位置づけ
自動車は、経済社会の基盤となる輸送手段を提供するのみならず、生活文化
を形作る重要な要素ともなっている消費財である。自動車販売業は、国内にお
ける自動車(新車)の販売を通じて戦後のモータリゼーションを主導し、我が
国の自動車産業の発展の基盤を築き上げる役割を果たすとともに、小売サービ
ス全体の中でも、今なお枢要な位置を占めている。
② 自動車販売業の生産性を向上させる必要性
自動車販売業の市場規模は約 15.6 兆円(2006 年)であり、小売業全体の販
売額の約 11.6%を占め、また雇用者数も 50 万人を超えている。
このように、自動車販売業は市場規模や雇用者数等の面において、サービス
産業の中においてのみならず、我が国の経済全体に占める存在感も大きいこと
から、その生産性向上は非常に重要な課題である。
図1:自動車販売業の売上規模推移
(10億円)
20,000
14.0%
自動車小売業
18,000
小売業に占める割合
12.0%
16,000
10.0%
14,000
12,000
8.0%
10,000
6.0%
8,000
6,000
4.0%
4,000
2.0%
2,000
0
19
80
19
81
19
82
19
83
19
84
19
85
19
86
19
87
19
88
19
89
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
0.0%
(出典)商業動態統計調査より作成
(2) 業界の現状
① 市場環境
上述したとおり、自動車販売業の市場規模は小売業全体の中でも大きいもの
であるが、昨今の経済成長の鈍化、自動車の普及の進展、少子高齢化の進展等
の経済社会情勢の変化に伴った国内市場の成熟化や、自動車の平均使用年数の
長期化等により、足下の自動車の国内販売は伸び悩んでおり、特に、軽自動車
以外の乗用車(登録乗用車)の販売台数の落ち込みは大きく、また、軽自動車
も 2007 年から減少に転じている。商用車についても、排ガス規制の強化によ
187
る代替需要などにより一時的に販売が上向く時期はあっても、運送事業者の経
営環境の悪化もあり、販売の趨勢は減少傾向にある。
ストックベースで見た保有台数は、乗用車については当面は伸び続けている
ものの、商用車については既に減少に転じており、いずれにしても、現下の市
場環境の下では、今後の国内新車販売が飛躍的に拡大することは期待できない
状況にある。
図2:車種別の平均使用年数の推移(乗用車)
12.00 (年)
乗用車計
11.00
乗用車(普通)
平均11.66年
乗用車(小型)
10.00
9.00
8.00
7.00
20
06
20
04
20
02
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
82
19
80
19
78
19
76
6.00
(出典)商業動態統計調査より作成
図4:商用車の販売台数の推移
図3:乗用車の販売台数の推移
25,000
2,500,000
5,000,000
トラック計
4,500,000
4,492,006
普通トラック
小型トラック
バス
2,217,257
4,400,257
4,000,000
20,000
2,000,000
3,574,906
15,763
3,500,000
15,617
15,000
1,500,000
3,000,000
1,370,964
2,953,193
2,500,000
10,000
1,000,000
2,000,000
1,447,064
937,705
1,500,000
917,100
500,000
1,000,000
293,021
500,000
登録乗用車
軽乗用車
150,871
乗用車計
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
76,035
209,283 171,998
0
0
0
1997 1998 1999
2007
2000 2001
2002 2003 2004
2005 2006 2007
図5:車種別の自動車保有台数の推移(乗用車・貨物車)
(万台)
7,000
5,709
6,000
5,000
4,861
4,990
5,116
5,454
5,354
5,244
5,521
5,752
5,599
4,000
3,000
2,000
1,978
1,921
1,876
1,836
1,800
1,762
1,722
1,693
1,688
1,665
1,000
(出典)「自動車統計データブック(第25集)、自販連」より作成
0
1997
1998
1999
2000
2001
乗用車計
2002
2003
2004
2005
2006
貨物車計
(出典)「自動車統計データブック(第25集)、自販連」より作成
188
5,000
② 産業構造
自動車販売業は、自動車メーカーの系列販売という商慣行が確立しており、
自動車メーカーが単独又は複数の自動車販売チャネルを設立し、それぞれのブ
ランドを有したチャネルが、それぞれ特定の車種の販売を担当している。これ
は異なる自動車メーカーの販売チャネルではもちろんのこと、同一自動車メー
カーの販売チャネルにおいても競争を推進する仕組みであって、このような販
売体制は、従来は販売促進に大きく寄与してきたと言われている。また、自動
車販売会社には、地場資本によるものと、自動車メーカーが直営しているもの
がある。
③ 雇用環境
自動車販売の現場においては、商品知識や購入相談にのれる販売員や国家試
験の整備資格を持った整備技術者の確保が必要となる。しかしながら、労働人
口の減少等に伴い、販売や整備に携わる従業員の確保・育成が困難になるおそ
れがある。趨勢としても、自動車販売業における従業者数は、1999 年の約 55.3
万人から 2004 年の約 51.7 万人となり(商業統計)、ここ数年では減少傾向に
ある。また、定着という面でも、自動車販売業における新車営業スタッフの採
用 3 年後の定着率は 7 割前後に留まっている。
図6:新車営業スタッフ採用3年後の定着率の推移
85 (%)
乗用車店計
81.1
80.2
77.2
77.1
80
75
乗用車店
73.2
70
輸入車店
80.5
74.5
73.7
軽四併売店
72.8
76.6
76.2
73.8
71.8
77.7
74.4
71.3
70.2
74.0
71.7
70.8
65
'02
'03
'04
'05
'06
(出典)「自動車ディーラー経営状況調査結果」より作成
(3) 自動車販売業における生産性の現状
生産性の「水準」については単純な各国比較が困難であるものの、欧米と比
べて、我が国の自動車販売業の生産性の上昇は停滞する傾向にあるとの指摘が
ある。また、欧米と比較して新車販売の利益率は高いと言われているが、厳し
い市場環境を踏まえれば、今後は減少していくおそれが高い。実際に、「売上
高総利益率」は 2001 年の約 16.3%から 2006 年には約 15.3%となっており、
ここ数年間は低下傾向にある。また、
「営業スタッフ 1 人当り新車直販台数(年
間)」は乗用車店合計では 2002 年の約 42.3 台から 2006 年には約 38.7 台と
こちらも若干の低下傾向が見られる。
189
図8:自動車販売業の労働生産性の
成長率(1995-2004 年)
図7:売上高総利益率の推移
16.5
8.0%
16.3
6.0%
16.1
15.9
4.0%
15.7
2.0%
15.5
0.0%
15.3
15.1
2000
2001
2002
2003
2004
2005
日
米
英
-2.0%
2006
(出典)EU KLEMS Database, March 2007
(出典)「自動車ディーラー経営状況調査結果」より作成
(4) ユーザー(消費者)からの評価
自動車を購入する消費者の関心は、携帯電話やインターネットなどに向く傾
向がみられ、自動車への関心が相対的に薄れつつある。所得水準別に見た場合、
1995 年と 2005 年の自動車関係支出額の増加率については、所得水準Ⅴの層
(年収 871 万円以上)以外の層では「自動車購入費」がいずれも減少している
ほか、所得水準Ⅰの層(年収 356 万円未満)及び所得水準Ⅱの層(年収 356
万円以上 486 万円未満)においては「自動車等維持費」も減少しており、自動
車に対する支出は低下傾向にある。こうした点から見れば、総体として、自動
車販売業は消費者の嗜好の変化等に十分な対応が図れていないとも考えられ
る。
図9:世帯主の年収階級別に見た自動車関係支出額の増加率
(1995年と2005年の比較)
Ⅰ:356万円未満 Ⅱ:356万円以上486万円未満
Ⅳ:639万円以上871万円未満 Ⅴ:871万円以上
Ⅲ:486万円以上639万円未満
40.0%
22.0% 26.2%
30.0%
20.0%
10.9%
5.8%
10.0%
0.0%
-10.0%
-14.2%
-20.0%
-30.0%
-20.4%
-24.0%
-31.4%
-40.0%
-50.0%
-60.0%
-46.6%
-55.6%
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
自動車購入費
Ⅳ
Ⅴ
自動車等維持費
(出典)「自動車ディーラービジョン(平成19年度版)、自販連」より作成
190
図10:1世帯当たりの1ヶ月間の支出総額に占める各項目支出の比率
支出比率(平均)
(単位:%)
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2002年
2005年
自動車
(新車)
2002年
2005年
自動車
(中古車)
2002年
2005年
2002年
移動電話
2005年
2002年
2005年
インターネット
デジタル放送
接続料
チューナー内蔵テレビ
(出典)「自動車ディーラービジョン(平成19年度版)、自販連」より作成
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 外部要因
上述したとおり、昨今の経済成長の鈍化、自動車の普及の進展、少子高齢化
の進展等の経済社会情勢の変化に伴った国内市場の成熟化や、自動車の平均使
用年数の長期化等が販売の伸び悩みの原因となっており、生産性向上を阻害す
る外部要因となっている。
これらに加え、自動車には、他の消費財と異なり、複雑かつ多段階の税が課
せられるとともに、登録や販売に関して多種多様な規制・制約が課されている。
こうした税制や規制が消費者の購入意欲を萎縮させたり、事業効率の改善を進
める上での障害となっているのではないかとの指摘もある。
図11:自動車販売に関する諸規制
【自動車諸税】
【自動車リサイクル料金の預託】
自動車リサイクル法
【登録等に関する規制】
道路運送車両法
保管場所(車庫)法
自賠責法 など
【労働者に関する規制】
労働基準法 など
【販売店の設置に関する規制】
都市計画法 など
191
【販売に関する規制】
景品表示法
特定商取引法
消費者契約法
割賦販売法
個人情報保護法 など
(2) 業界要因
① 厳しい収益環境
自動車メーカーの系列販売という長年確立した商慣行の中で、主としてメー
カー主導でのチャネル統合等が進展しているが、新車販売が伸び悩む中で、総
体として自動車販売業者の収益状況は悪化している。
現時点においては、他の流通業態で見られるような新興国等からの輸入拡大
による価格破壊といった現象は生じていないが、自動車に関する消費支出は減
少しており、携帯電話やインターネットなどの他の商品・サービスとの競合が
生じている可能性がある。また、整備等の関連サービス分野についても、大型
自動車用品フランチャイズ店等の競合事業者との競争は激しくなるものと考
えられる。
② 販売台数の平準化
自動車の販売は、3月が決算期であることや新年度を控えて需要が増加する
こと、また、こういった慣習により3月の自動車保有母体が非常に大きく、買
換え需要の面でも多くなること等から、3月が最も多く、その販売台数は最も
低い月の倍以上となっている。このように、月別に大きな偏りがあるため、必
要な設備・人員とも月毎に大幅に振れてしまい、販売店のリソースの極端な不
足や余剰が発生し、経営の効率を損なっているという指摘がある。
図12:2007年度の月別販売台数
(万台)
50
45
40
最大で倍以上の差が発生
35
30
25
20
15
10
5
0
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
(出典)自販連データより作成
(3) 個別企業要因
① バリューチェーンの構築
新車販売が伸び悩む中で、個別企業の創意工夫による生産性向上のための取
組が始められているが、新車販売をコア事業としつつも、新車販売とそれ以外
のサービスを組み合わせた「バリューチェーン」の構築が必要になってくると
考えられる。
既に乗用車店、軽四併売店、輸入車店、大型車店など店舗の種類に関係なく、
新車以外固定費カバー率が 60%以上を占めつつある状況であり、新車販売以
外の要素の重要性が増大している。
192
図13:新車以外固定費カバー率
0
乗用車店
20
48.5
40
60
80
11.5 4.1
12.9
100
120
140
サービス・部品
中古車
クレジット・保険
軽四併売店
輸入車店
大型車店
43
42.4
11.4 5.3 6.1
その他
10.2 3.17.3
7.8 4.5 8.6
97.5
(出典)「自動車ディーラー経営状況調査結果」より作成
② IT を活用した顧客管理の効率化
販売店においては既納客との長期的・継続的な関係を維持していくことが車
検等サービス分野の売上増加、将来的な新車販売などの面で非常に重要である
が、自動車の使用期間の長期化や、新車販売スタッフの定着率の低さから、顧
客管理を継続的・効率的に行うことが必要である。
そのためには、IT を活用した顧客管理の効率化が重要であると同時に、中
古車販売や金融サービス業等との関連事業との連携を強化することも重要で
ある。
③ 魅力ある職場作りと人材育成
月別販売台数の不均一さ、顧客のスケジュールに合わせた営業や納車の必要
性、顧客の車検時期の重複などの要因により、販売員や整備エンジニアの労働
時間の長時間化、また逆に閑散期における非効率な配置などが問題になってい
る。一方で自動車の機能向上に伴い消費者に説明すべき事項が増大した結果、
販売員の負担が増加しているとの指摘もあり、自動車販売業の職場は必ずしも
魅力溢れる職場と言えなくなっている側面がある。
また、今後はさらに高度な整備技術が求められたり、新車販売以外の分野で
の収益の増大が求められたりする中において、優秀な販売員・整備エンジニア
の確保と効率的な育成が最も重要な課題となる。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
自動車販売業の生産性向上に関する大きな方向性としては、以下のように考
えられる。
① 自動車メーカーとの関係の再構築
自動車メーカーによる自動車販売業者の経営・事業運営への関与により、相
互の連携による業務効率化が進んでいるとの側面がある一方、時にこうした関
193
与が過剰となり、日常的な業務遂行の細部を規定したりするほか、自動車販売
業者の主導による地域での出店店舗の集約化等の積極的な事業展開が行われ
難い状況となっている例がある。また、IT 投資等の面で自動車販売業者の独
自性の発揮を阻害しているとの指摘がある。自動車メーカーの経営・事業運営
への関与のあり方について、自動車販売業者との協力のもとでの効率化を一層
進めるとともに、自動車販売業者の経営主体性を高め、独自の創意工夫に基づ
く積極的な事業戦略構築を促すとの観点から、非効率な面については見直して
いく必要がある。
② 付加価値の向上
自動車の持つ魅力を的確に伝達することが自動車販売業の使命であるとの
認識のもとに、環境・エネルギー性能の高い自動車や次世代自動車の商品展開
と普及を推進すべきである。政府においても、環境・エネルギー性能に優れた
次世代自動車が実用化され、本格的に普及段階に入れば、消費者の自動車に対
する新たな需要の喚起につながるのではないかと期待されることから、次世代
自動車の技術開発や普及促進策を講じることによって、民間事業者の取組を支
援すべきである。
また、新たな販売手法の開発や魅力ある店舗作りによる店頭販売の活性化と
いった従前からの取組を更に強化することが重要である。
さらに、新車販売を事業の中核としつつも、自動車の使用年数の長期化や、
保有台数の増加により、定期点検や車検などのストックビジネスの積極展開が
ますます重要になっていく中、消費者のサービス需要を的確に取り込み、積極
的な事業展開を図っていくことが期待される。そのためにも、例えば、適切な
設備投資と人材の確保・育成を進めていくことが重要である。
③ 経営の合理化・効率化
これまでも自動車メーカー主導での販売チャネルの統合等の事業再構築が
進展しているが、今後は、自動車販売業者の主導による販売店舗網の集約・拡
大の可能性についても検討する余地がある。また、整備関連業者との提携によ
る整備サービスの効率的な運営、自動車販売業者の共同での店舗展開の推進な
どを更に進めていくことが重要である。
また、販売員や整備エンジニアの配置や効率的な活用を行うため、適切な人
材配置や時間管理の徹底、バックアップ体制の確保等を進めるとともに、コー
ルセンターの設置や関係資料のデータベース化等のシステム整備による効率
化を進めていく必要がある。
加えて、今後求められる高度な整備技術に対応できる人材を確保し、社内教
育を通じて育成していくことが重要である。
(2) 政策として取組むべき方向性
① 自動車関係諸税の見直し
自動車関係諸税の負担が大きいことが消費者の自動車購入意欲を萎縮する
要因になっているとの指摘がある。平成 20 年度税制改正大綱の記述を踏まえ、
自動車関係諸税の簡素化に向けた具体的な検討を進めていく必要がある。
また、既存の環境・エネルギー性能に優れた自動車への税制優遇措置との関
係などを整理しつつ、新車への買い換えを促進するという側面にも留意し、現
194
行の自動車グリーン化税制等の取組を着実に進めていく必要がある。
② 電子化の推進による登録・納税業務などの更なる効率化
自動車は、その普及に伴う社会的な負荷等にかんがみて他の業態と比しても
多くの規制・制約に服しているが、自動車販売に際しての諸手続については、
ワンストップサービスに向けた取組や、自動車リサイクルの預託システムの構
築などが進められてきた。今後とも、必要に応じて、こうした登録・納税等の
更なる効率化を進める必要がある。
③ 基盤整備支援
(ア) IT を活用した顧客管理の効率化
自動車販売業者が行う顧客管理、販売関係資料のデータベース化等のシス
テム整備による効率化の取組を支援していく必要がある。
(イ) 販売・整備人材の確保及び育成
自動車の機能向上に伴う、的確な商品説明や高度な整備技術等を実施する
ため、優秀な販売員・整備エンジニアの確保とその効率的な育成を進める
自動車販売業者の取組を支援していく必要がある。
④ その他の関連規制
販売に関する規制等についても、必要に応じて、合理化・運用の効率化を図
っていく必要がある。
195
5.12. 参考:金融業の状況について
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
①金融業を取り巻く環境
金融業とは、資金余剰者から資金不足者へ資金を融通することを行う業種で
あり、主に銀行、証券会社、保険会社、アセットマネジメント会社などが該当
するが他、商社、ノンバンク、ファンドと行った企業や主体も、資金供給機能
を有しており、広い意味で金融業に該当すると考えられる。また、資金を融通
する以外にも、企業に対し、財務・金融のアドバイスや、資産運用などの業務
を行うことも広義の金融業に含まれると考えられる。
<我が国の金融市場等のデータ>
東京証券取引所の時価総額
396 兆円(平成 20 年3月末)
銀行の預金残高
542 兆円(平成 20 年3月末)
個人金融資産
1545 兆円(平成 19 年12月末)
② 経済成長と金融業
我が国においては、1990 年代に発生したバブルの崩壊や不良債権問題など
の金融システムの不全が、経済成長に影響を与え、その後、低成長時代に突入
した。
一方、1990 年代以降、先進国の中でも経済成長が顕著な米国及び英国は、
金融産業の付加価値の増加率が高くなっており、金融産業が経済成長を牽引し
ている。このように、米国・英国は、1990 年代以降、金融業を中心とした経
済成長を実現している。
現在、我が国においても、IT 関連産業や自動車産業等のグローバル企業は
高い国際競争力を持っているが、今後、中国等の新興国との熾烈な競争になる
輸出産業に依存し、成長を続けていくことは困難である。よって、我が国は、
産業と金融のバランスのある発展、すなわち、産業と金融の「両立」が必要で
ある。
我が国の金融機関は、ROA や格付けを見ると、欧米金融機関と比して劣後
している状況であり、生産性が高いとは言えない。よって、今後、比較的弱い
金融業の生産性を高め、金融業を発展させていくことが必要である。
ROA(当期純利益ベース)(19/3期)
1.60%
【出典】各社アニュアルレポート
1.45%
1.40%
1.20%
1.14%
1.10%
1.07%
1.00%
0.91%
0.80%
0.66%
0.64%
0.60%
0.40%
0.47%
0.49%
0.44%
0.49%
0.31%
0.20%
196
B
C
ワ
モ
コ
ル
ビ
ガ
ア
ン
ス
タ
ン
レ
ー
H
S
メ
リ
カ
JP
モ
ル
ガ
ン
ィ
シ
テ
オ
ブ
ア
バ
ン
ク
三
菱
U
FJ
み
ず
ほ
C
B
み
ず
ほ
銀
行
三
井
住
友
野
村
證
券
大
和
証
券
0.00%
主要国の銀行の平均格付け推移
(2007/10現在)
オーストラリア
北欧
フランス
英国
米国
日本
AAA
AA+
AA
AAA+
A
ABBB+
BBB
1985
1990
1995
2000
2005
【出典】S&P資料
(2) 業界の現状
前述のとおり、金融業と一口に言っても、銀行・証券会社・保険・ファンド
など、その業種は多岐に渡る。本小委員会においては、金融業の代表的なプレ
イヤーとして、商業銀行・投資銀行・機関投資家の3つを取り上げ、検討を行
った。
① 商業銀行1
商業銀行については、
・我が国企業が有利子負債を削減してきていること(国内資金需要の低迷)
・最近まで不良債権処理が優先され海外業務を縮小してきていたこと
・超低金利政策の中で金利収入が伸び悩んでいること
・貸出などの伝統的ビジネスモデルの限界
等から、国内企業向け貸出で、これまでのような収益を上げるのは困難な状
況である。国内銀行の総資産も、1990 年以降横ばいで推移しており、貸出
金の残高も縮小傾向にある。
1
商 業 銀 行 と は 、受 け 入 れ た 預 金 を 主 た る 資 金 源 と し て 、企 業 等 に 対 し 、融 資 な ど の 商 業
金融を行う銀行をいう。
197
国内銀行総資産推移
(億円)
20
07
20
05
20
03
20
01
19
99
19
97
19
95
19
93
19
91
19
89
19
87
90年以降概ね横ばいで推移
19
85
19
83
10,000,000
9,000,000
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
出所:日本銀行
② 投資銀行2
投資銀行については、欧米の主要金融機関がグローバルに活躍している一
方、我が国金融機関は、国内では上位を占めるが、国際的なプレゼンスは低
い状況である。
例えば、M&A のアドバイザーランキングを見ても、国内では日系の金融
機関が上位を占めるが、日本を除いたアジアでは、日系の金融機関は、10
位以内に入っていない。
日本を除いたアジアにおけるM&Aアドバイザー
ランキング(取引金額ベース)
日本におけるM&Aアドバイザーランキング
(取引金額ベース)
アドバイザー
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Nomura
Citi
GCA Co Ltd
Mizuho Financial Group
Mitsubishi UFJ Financial Group
Daiwa Securities SMBC
Morgan Stanley
Goldman Sachs & Co
Merrill Lynch
KPMG Corporate Finance
取引金額 国籍
(百万米ドル)
29,121
16,019
15,767
15,108
14,518
12,917
11,887
11,198
10,574
9,479
Japan
USA
Japan
Japan
Japan
Japan
USA
USA
USA
NLD
アドバイザー
日本国内では日系
の金融機関が上位
を占めるが、日本
を除いたアジア地
域では、10位以内
に日系の金融機関
は入っていない
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
UBS
Citi
Goldman Sachs & Co
Morgan Stanley
JP Morgan
Credit Suisse
Deutsche Bank AG
Lazard
CIMB Investment Bank Bhd
HSBC Holdings PLC
取引金額 国籍
(百万米ドル)
53,757
43,226
39,859
35,008
34,092
27,449
24,190
22,020
14,828
14,370
Swiss
USA
USA
USA
USA
Swiss
Germany
USA
Malaysia
UK
【出典】THOMSON FINANCIAL、 The Economist Intelligence UnIT Country Finance 2007
③ 機関投資家3
我が国の機関投資家の保有している資産の構成を見ると、米国と比べ、債
2
投資銀行とは、株式、債券などの有価証券の引き受け・仲介を主業務とし、それに付随し企業財務
に関するアドバイス(M&A、資産の証券化など)を行う金融機関である。
3 機関投資家とは、年金基金・生命保険・損害保険など、個人ではなく、企業体で投資を行っている
大口の投資家を指す。
198
券保有の割合が高く、株式や投資信託の割合が低くなっており、我が国は米
国よりもリスク性の高い資産への投資が少ないことがわかる。また、リスク
資産への投資が低い結果、米国と比較し、資産運用の効率も低い状況である。
年金基金・保険の資産構成(2007年)
日本
2.5%
米国
1.2%
1.4%
0%
14.0%
47.2%
31.5%
3.0%
13.8%
20%
貸出
2.5%
40.5%
40%
現預金
30.7%
11.6%
60%
債券
投資信託
80%
株式・出資金
100%
その他
【出典】各国資金循環統計
(%)
日米年金基金の資産運用状況
25.0
23.3
20.7
19.0
20.0
19.2
18.5
16.0
14.1
15.7
13.4
11.1
15.0
10.0
7.5
6.0
5.9
5.0
3.2
1997
1998
1999
-1.4
2000
0.0
2001
2002
2003
2004
2005
2006
-4.1
-6.2
-10.1
日本 国民年金基金連合会
10年間平均
4.8%
-5.0
-9.5
-10.0
-14.4
-15.0
米国 カルパース
10.0%
【出典】各機関HP資料を元に作成(日本は年度、米国は暦年)
199
(3) 生産性の現状
我が国の金融業の生産性を米国と比較したとき、労働生産性では米国とほぼ
同じ水準となっている(米国を 100%としたとき、日本 95.7%)。
一方、金融業は、商業銀行・投資銀行・機関投資家など、プレイヤーが多岐
にわたり、その業務内容も大きく異なるので、金融業全体の生産性が米国と同
等だとしても、個々の業種に注目した場合、生産性が劣っていることも考えら
れる。例えば、前述のとおり、我が国の金融機関の ROA は、欧米の金融機関
と比較し、劣っている。
(4) ユーザーからの評価
金融機関のユーザーである事業会社からは、長期的な関係が必要となる案件
については、外資系の金融機関よりも日本の金融機関を選ぶことが多い、とい
う声も聞こえる。これは、日本の金融機関とは、古くからの信頼関係が構築さ
れており、長期的にきめ細やかなサービスを提供してもらえることによると考
えられる。
一方で、最先端の金融ニーズについては、日系の金融機関は、外資系金融機
関と比較して十分に質の高い商品・サービスを提供できていない、との声もあ
る。
2. 生産性向上に向けた課題
(1) 総論
金融業は多くの業種が存在し、また、既に成熟段階に差し掛かっている業種(例
えば商業銀行)と、現在成長段階にある業種(例えば投資銀行)が存在している
ため、生産性向上に向けた課題・取組も業種ごとに異なってくる。今回は、商業
銀行・投資銀行・機関投資家について整理を行った。
(2) 外部要因
我が国の金融・資本市場は、海外企業に対する魅力に乏しく、海外企業の上場
も限定的である。また、新興市場についても、株価が低迷している。これらの状
況により、我が国金融業の国内におけるビジネスチャンスは限定的となっている。
したがって、市場環境の整備を図り、市場を活性化させることが必要である。
また、グローバルスタンダードに準じた法制度の整備や規制手法の導入を図り、
多様で高度な新金融商品(ハイブリッド証券など)の提供を容易にするような規
制環境の整備、金融規制の透明性の向上も必要である。
200
海外企業上場数 (2006年)
「IMD国際競争力ランキング」金融規制の透明性
1
デンマーク
2
シンガポール
3
ルクセンブルク
ニューヨーク証券取引所
451社
ロンドン証券取引所
343社
シンガポール取引所
247社
14
米国
25社
28
英国
39
日本
東京証券取引所
【出典】IMD World Competitiveness Yearbook 2007
【出典】World Federation Exchange資料を元に作成
(3) 業界要因
(商業銀行)
国内におけるビジネスを拡大し、収益を上げるために、不動産担保・個人補償
を必要とする既存の融資手法だけではなく、新しい金融手法への取組の推進が必
要である。例えば、動産や債権を担保に融資を行う新しい手法である動産・債権
担保融資(ABL ; Asset Based Lending)について、米国ではこれが一般化して
いるのに対し、我が国ではまだまだ発展途中という状況にあり、今後の拡大が期
待されている。
(投資銀行)
近年、事業会社は、グローバル展開、複雑化するリスクへの対応など、新たな
経営課題を抱えるようになっており、その金融ニーズも高度化している。一方、
このような金融ニーズに答える新しい金融サービス・金融商品を提供するために
は、高度な金融スキルを持つ人材が不可欠である。
一方、金融人材の競争力については、例えば、金融学術誌に掲載された論文著
者の所属機関を見ても、米国やその他の国の機関の名前は出ているが、日本の機
関は 1 つも取り上げられていないという状況であり、我が国の金融人材の競争力
は決して高くないと考えられる。今後は、新しい金融サービス・金融商品の開発・
提供のために、高度な金融スキルを持つ人材の育成・活用を促進することが必要
である。
金融学術誌 Journal of Finance掲載記事の
著者が所属する機関 (2006年)
日米ABLの残高比較(2005年ベース)
機関
(単位:日本∼兆円/米国∼10億ドル)
日本
企業の総借入残高
ABL残高
割合
米国
417.5
2113.6
0.2
420.0
0.05%
19.87%
日本
1.日本銀行 資金循環勘定
2.金融庁「地域密着型金融(15∼18年度 第2次アクション
プログラム終了時まで)の進捗状況の概要、動産・債権譲渡
担保融資
米国
1.CFA(Commercial Finance Association)
2.FRB
国名
機関数
米国
62
英国
6
韓国
4
フランス
3
カナダ
3
大学
オランダ
2
香港
2
スペイン
1
スウェーデン
1
ノルウェー
1
オーストラリア
1
米国
2
企業
英国
2
米国
4
政府機関
国際機関
1
合計
95
※日本の機関からは1つも取り上げられていない。
【出典】AMERICAN FINANCE ASSOCIATIONのHP資料をもとに作成
201
(4) 個別企業要因
(商業銀行)
集中的なリスク引受の回避及び安定的な事業基盤の構築のため、国内企業向け
貸出だけではなく、投資信託販売等の手数料ビジネスの拡大や、国際展開の強化
など、収益源の多様化が必要である。
日米欧主要行の海外市場からの収益の比率
日米:主要計数比較
MUFG
2.4倍
名目GDP
(%)
みずほ
2.9倍
個人可処分所得
三井住友
0.9倍
銀行預金
シティ
1.0倍
銀行貸出金
J.P.モルガンチェース
UBS
0.5倍
企業向け貸出残高
CSFB
3.9倍
日本
米国
住宅ローン残高
4.8倍
消費者信用残高
HSBC
ドイツ
BNPパリバ
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
【出典】S&P資料
(投資銀行)
トレーディングの収益強化、海外の経済・産業に係る情報の集積・加工のため
に、海外の投資家や海外企業とのネットワークの構築・強化など、国際展開の強
化が必要である。
(機関投資家)
我が国の年金基金・保険等の機関投資家は、ローリスク・ローリターン指向で
あり、リスクが比較的に大きい創業期や再生期等の企業に対し、適切に資金が供
給できていないのが現状である。また、我が国の機関投資家から我が国の証券市
場への投資が少ないため、我が国の証券市場の厚みが薄くなっているとの指摘も
ある。産業へのリスクマネーの供給という観点からも、また、資産運用効率の向
上という観点からも、機関投資家からのリスクマネー供給を促進することが必要
である。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
金融産業については、銀行法、保険業法、金融商品取引法など、様々な規制の
存在により、自由な取引が阻害されている部分も存在していると考えられる。よ
って、生産性を向上させる一つの方向性として、投資家・消費者の保護を大前提
とした上で、より自由な取引が行える環境の整備を進めることが考えられる。
また、高いリターンを取るためには、それに見合ったリスクを取ることが必要
であり、リスクをきちんと取る仕組み、あるいはリスクの所在を把握できる人材
などを育てることにより、リスクテイクできる環境を整えることが重要である。
合わせて、商業銀行など、成熟した業種については、「ビジネスモデル転換」
202
や「海外市場などの新市場開拓」などの取組が必要である。
同時に、投資銀行など、成長途中の業種については、国際競争力を強化するた
めに「人材の育成」などを進めることが必要である。
(2) 政策として取り組むべき方向性
① 市場の国際化
米国や欧州においては、一般投資家を対象とする厳格な市場に加え、機関投
資家等を対象として開示基準の簡素化等を行った「プロ向け市場」を開設し、
世界中の機関投資家を誘引している。
一方、我が国においても、平成 19 年度 12 月に取りまとめられた「金融・資
本市場競争力強化プラン」に沿って、以下の取組が進められている。
・市場の国際化のために、市場参加者をプロに限定した自由度の高い取引の場
(プロ向け市場)の開設に向けた制度整備
・英文開示の対象範囲の拡大
今後、市場の国際化を更に進めるためには、プロ向け市場のみならず、メイ
ンボードにおいても、大幅な規制緩和を行い、海外企業の上場を促進する必要
がある。このため、メインボードについても、英語及び国際会計基準による上
場申請や開示等を完全に容認することを検討すべきである。
② 新興市場の整備
新興市場については、
・コンプライアンス違反が増加
・機関投資家の参加が限定的
・投資家の信頼感の低下
・株式公開件数の減少
といった問題点が存在しており、株価も低迷している。
このため、ベンチャー企業の信頼を回復した上で、英国 AIM のようなプロ
向け市場の創設等の制度整備を進め、機関投資家の参加を促すことにより、低
迷している新興市場の活性化を図ることが必要である。
③ ファイアーウォール規制の緩和/規制の透明性・予見可能性の向上
銀行・証券業の分離(ファイアーウォール規制)については、欧米において
すでに緩和・撤廃されていることから、我が国においても、垣根を越えたワン
ストップな金融サービスの提供を促進するため、欧米と同等の規制緩和を図る
ことが必要である。
また、我が国の規制の透明性・予見可能性についても、諸外国に劣後してお
り、プリンシプル(尊重すべき重要ないくつかの原則や規範)に基づく規制手
法の導入等を通じ、透明性・予見可能性の向上を図るべきである。
④ EPA、投資協定等を通じた各国規制の緩和・適正化協議推進
我が国の金融業の海外展開を円滑にするために、EPA(ビジネス投資環境整
備小委員会)や二国間投資協定等を通じ、アジアを中心に諸外国における金融
203
規制の緩和・適正化を働きかけることが求められている。
(3) 業界として取り組むべき方向性
① 最先端の金融工学に基づく商品開発/高度金融人材の育成・活用
金融工学を用いた新商品開発の促進や、M&A・プロジェクトファイナンス
に係る高度な金融の活用を図るため、高度金融人材の育成・活用を促進するこ
とが必要である。
そのために、特に日系の金融機関において、硬直的な状況となっている金融
機関のキャリアパス、雇用・報酬体系の複線化を進め、高い専門性を持つ高度
金融人材を適切に処遇できる仕組みを構築することが必要である。
また、大学に蓄積されている金融工学などの研究成果を、高度な金融サービ
ス・新商品開発に活用するため、大学教授と金融機関との人材交流・連携を促
進することも必要である。
② 間接金融手法の転換
不動産担保や個人保証に過度に依存した間接金融手法の転換を図るため、地
域密着型金融(リレーションシップバンキング)や動産・債権担保融資(ABL)
などの新しい金融手法への取組を進めるべきである。
(4) 個別企業として取り組むべき方向性
① 機関投資家からのリスクマネー供給促進
年金基金・保険等の機関投資家について、運用方針の在り方、運用者の雇用・
報酬体系、投資先へのガバナンスの在り方などに関し、リスク資産への投資拡
大、資産運用効率の向上という観点から、検討を進めるべきである。
204
委員名簿
小委員長
吉川
洋
国立大学法人東京大学経済学部教授
沖
幸子
フラオグルッペ株式会社代表取締役社長
加藤
康子
株式会社ザ・バカンス・コーポレーション
代表取締役社長
鈴木
弘治
株式会社高島屋代表取締役社長
野原
佐和子
株式会社イプシマーケティング研究所
代表取締役社長
橋本
和仁
国立大学法人東京大学
工学部・大学院工学研究科教授
花田
光世
慶應義塾大学総合政策学部教授
藤川
佳則
国立大学法人一橋大学
国際企業戦略研究科准教授
堀田
健介
株式会社堀田綜合事務所
代表取締役会長
村上
輝康
株式会社野村総合研究所
シニア・フェロー
矢野
雅英
三菱商事株式会社
常務執行役員生活産業グループ CEO
五十音順、敬称略
205
審議経過
○平成19年12月25日 第1回サービス合同小委員会
横断的分析①、業種別分析①(小売業)
○平成20年 1月29日 第2回サービス合同小委員会
横断的分析②、業種別分析②(情報サービス業、金融業、研究開発サービス
業)
○平成20年 3月 7日 第3回サービス合同小委員会
横断的分析③、業種別分析③(認証サービス業、プラントエンジニアリング
業、プラントメンテナンス業、総合商社)
○平成20年 4月 2日 第4回サービス合同小委員会
骨子案審議、 業種別分析④(対個人サービス業、業務プロセスアウトソー
シング業、環境装置のサービサイジング、自
動車販売業)
○平成20年 4月22日
中間取りまとめ案審議
第5回サービス合同小委員会
206
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