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B2:人格障害

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B2:人格障害
B2:人格障害
人格障害(以下 PD と記述)は精神遅滞と共に DSM 多軸評定のⅡ軸を形成しています。このことは、統合失調症な
どとは異なる視点から捉えられているということであり、PD を理解するうえで参考になります。
DSM-Ⅳには、PD は3群10項目も記載されていて、似たような名称や内容が並んでいるので、覚えるのが嫌になりま
すが、最もポピュラーかつ重要なものは境界性 PD であり、それ以外は、他の PD との鑑別の観点からの特徴理解で十分
だと考えます。
そこで、境界性 PD については、その成因に関する知見や、障害として概念形成される経過を含めて B11 に詳しくま
とめ、その他の人格障害は、グルーピングの意味を軸として、その特徴と違いについて B12 で述べるに留めます。
なお、初期の出題に「境界例」の名称が出てきますが、歴史的な観点からみる境界例と DSM の境界性 PD は微妙に
異なり、一般的には、境界例は境界性 PD と失調型 PD(統合失調型 PD)とを併せたものと言われています。しかし、中
心はあくまでも境界性 PD であり、境界性 PD のみを視野に入れて記述しています。
「境界例」という言葉は、紛らわしい用語であり、恐らく、これからは出題されないのではないかと思います。
B21:境界性人格障害
スコア
23
年
3
4
6
10
13
13
17
比率
0.23
No
39
70
2
29
16
64
13
ランク
C
小問
all
all
A
all
C
ア
all
H23 年度版(Ver.1.0):スコア=大問 5 点、小問 1 点の合計/比率=スコア/(試験期間(20 年)*5 点=100)→ランク:0.8 以上 A,0.3 未満 C
【参考資料】
・心理臨床大辞典:p731~736
・講座臨床心理学4 異常心理学Ⅱ:p49~68
・DSM-Ⅳ-TR:p237~238
【参考書籍】
①境界性人格障害のすべて
②境界性人格障害=BPD
Kreisman,J.J&Straus,H(白川貴子 訳) VOICE
Mason,P.T&Kreger,R(荒井秀樹ら 訳)
星和書店
この障害の問題は、H18 以降の開示問題がありませんが、重要な内容であり、出題されると考えた方が良いと思
います。
1.境界性人格障害とは
境界性人格障害(BPD)とは、激しい怒りや極端な態度の急変、自傷行為などが特徴の人格障害(PD)で、医療現
場における対応困難な一群の患者に対する理解から概念形成が始まったものですが、近年著しく増加する傾向にあ
り、特に学校現場で、手に余る母親や被虐待児の問題が深刻になってきています。
医療等の現場では、本音としてはなるべく関わりたくないとよく言われ、初心者が安易に関わらないようにと言われま
すが、学校では知識のない先生が不可避的に対応を迫られています。
2.症状の概要
DSM-Ⅳでは、成人期早期までに始まる
3-39c
、対人関係、自己像、感情の不安定、および、著しい衝動性を特長と
する PD と記述され、以下の項目の 5 つ以上に該当すると定義されています。このうち、外から見て症状として目立つ
のは、態度の急変(理想化とこき下ろし)29-10AC,17-13B、怒りの爆発、自傷行為の繰り返し、衝動的な行為です。
また、DSM の記述にはありませんが、対人関係に過敏で他者の弱みを鋭く察知し突いてくることや、仕事上は非常
に優れていて行動的というような状況依存性の達成能力があることもよく言われます。
【DSM-Ⅳに記述されている症状】
・見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力。
・理想化とこき下ろしの両極端で揺れ動く不安定で激しい対人関係。
・同一性(アイデンティティ)障害(不安定な自己像または自己感)
・自己を傷つける可能性
17-13C
のある、衝動的で 2 つ以上の領域にわたる行為(浪費、性行為、物質乱用、無謀
運転、むちゃ食いなど)
・自殺の行動やそぶり、脅し、自傷行為の繰り返し。
・気分反応性の感情不安定性(持続する強い不快気分、いらだち、不安)
・慢性的な空虚感 17-13D、B22:9-29A。
・不適切で激しい怒りや、怒りの制御困難。
・一過性、ストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状。
3.境界例の概念形成
境界例とは、簡単に言えば、精神病(調合失調症)と神経症の境界にある症例という意味で、神経症の精神分析を
し て い る う ち に 統 合 失調 症の よ う な 症 状 が で て き てし ま う 一 過 性 の 退 行
3-39b
を示す患者群の存在に対して
Knight,R(1951)が境界状態と命名したのが最初と言われています。
その後、Hoch,P,H/Polatin,P(ホッホとポラティン)は、感情障害(激しい感情、怒り)汎不安(あらゆる出来事に対する不
安)、汎神経症(多種多様な症状の混在)、はっきりしない説明、多様な性倒錯傾向、などといった偽神経症型統合失
調症の臨床像を提示し、一時期には Erikson,E.H のアイデンティティ拡散から境界例が理解された時期もありましたが、現
在は後述する対象関係論的な理解が主流であり、その重要概念が、以下に示す Kernberg,O.F の境界性人格構造
(BPO)3-39b です。
ま た、Grinker,R.R. の境 界 症候 群 ( 境界 例を4 つの 亜 型に分 類) や 、 Deutch,H( ト ゙イチュ) の「 かの よ うな 性格:
as-if-personality」(一見正常に見えて、実は表面的な適応を繰り返しているだけで、他者との情緒関係を発展させら
れない人格)も境界例の理解には重要です。
境界性人格構造(BPO)は、口愛的攻撃性に対する特有の防衛体制(Klein,M の妄想・分裂ポジション)の敷かれた人
格構造とされます。口愛的攻撃性とは、乳児期の自分の欲求(口でおっぱいを吸う事)を十分に満足させてくれない
母親(乳房)に対するサデ゙ィズム的で自虐的な攻撃性であり、自分を満足させてくれる母親(乳房)との間で激しい葛藤
が生じます(次ページ図参照)。そして、自分と母親の関係の破壊を感じることを防ぐために投影同一視による防衛が
使用されると考えます。
・・と、このように説明しましたが、私自身、何度書き直しても、自分自身でわかったような、わからないような感じがつ
きまといます・・・。
Kernberg,O.F によれば、境界性人格構造(BPO)は、以下の3つの特異的な構造的特徴と3つの非特異的(場合によ
る)特徴を持つとされています。
【特異的な構造的特徴】
①自我統合の障害:自他の区別はできているが、良い対象と悪い対象の統合が不十分。
②特異な防衛機制:原始的防衛機制(対象関係論で記述した投影性同一視)。
③現実検討能力の維持 3-39b,10-29B。
【非特異的な構造的特徴】
①自我の脆弱性:不安耐性、衝動コントロール、発達した昇華経路の欠如。
②超自我の統合不全:超自我と理想自我が別々に存在する。
*超自我はサディスティック、理想自我は非現実的な理想を生む。
③本能葛藤をめぐる特徴:口愛的攻撃性。
4.境界性 PD の成因(概説)
対象関係論による理解について、困難を承知で、もう少し具体的な説明を補足してみます。
A52 の対象関係論の記述で既に述べたように、人は、幼児期(特に 18~30 ヶ月)に、母親に対して、自分にとって満
足な面(良い母親)と不満足な面(悪い母親)を統合した、両面性を持った全体としての母親像を獲得します(対象恒
常性:下図)。しかし、統合には良い母親の側面が悪い母親の側面に優っていることが重要であり、この時期に、母親
がこどもを虐待(特に性的虐待、ネグレクト)すると、こどもはその獲得に失敗し、良い母親と悪い母親は分離したままに
なってしまいます。この状態では、「今、自分が失敗しても、次は何とかなる」とか、「失敗して怒られても、その人は、本
当は自分のことを大事に思ってくれている」といったような、自分や他人に対して基本的な信頼感を持てなくなり(見捨
てられることを激しく恐れ)17-13A、このことが、BPD となる基本的な原因と考えられています。
実際に、境界性 PD のクライエントの被虐待体験の比率は非常に高いことが知られています。
良い母親・・・・・・・・養育、愛情、関心を与える。
<理想化された対象>
愛情
母親
こども
破壊衝動
こどもは、母
親の事情を考慮
できない。
自分が悪いと
思ってしまう。
悪い母親・・・・・・・・養育、愛情、関心を与えない。
<迫害的な対象>
*忙しい。
*気分が悪い。
良い母親との関係が安
*他の事に関心が向いて
定していて、愛情が破壊衝
いる。
動を上回っていると、次第
に統合。
統合できないと、
分裂したまま。
なお、遺伝的な側面の影響は少ないとされているものの、約 25%については生育上の虐待などの問題が見られず、
先天的な自我の脆弱性の関与も否定できません。また、近年の増加傾向には、社会の脱構造化(価値観の多様化、
役割の曖昧さなど)との関係が疑われています。
ところで、蛇足ですが、先の B12 の気分障害の原因でも、幼児期のストレスによる海馬の萎縮が問題の一員でした。物
心がつくまでのこどもの記憶を大抵の人は持っていませんが、その頃の経験は、しっかり人のこころに(あるいは脳にと
いった方がいいでしょうか?)刻まれています。
5.治療的対処の指針
試験問題には境界性 PD に対する対応の出題もあるので、その指針を簡単にまとめます。
境界性 PD を治療することは熟練した精神科医やカウンセラーでも難しく、安易に関わらない方がよいといわれますが、
統合失調症などと異なり当初はそうであることが解り難く、そのため、気づかずに関わってしまう危険性をはらんでいま
すので、それを前提として、具体的な対処の指針をまとめます。内容を簡単に言ってしまうと、ようするに、境界性 PD
に対して、揺さぶられないどっしりとした姿勢 3-39a が求められるということです。
①治療を強要しない:自分から問題に気付き、直そうと思うまで待つ。
②その人の攻撃(非難の言動など)を、個人的に受け取らない:
本当は、攻撃はその人自身の問題を反映していますが、個人的に受け取ってしまい傷ついてしまいます。
③自分自身の行動を自覚する:
境界性 PD の人は、魅力的であったり誉めてくれるので、関わりたい気持ちが生じて、気がつかないうちにそ
の人の困った行動を許可してしまっている可能性があります。また、こういう関わりにより、自分の問題が引きず
り出されてしまうことがあります。
④「引き金」に気付く:
境界性 PD の人を豹変させる「引き金」や自分が BPD の人から苦痛を受ける「引き金」に気付いていると、深
みにはまり込まずに済みやすくなります。
⑤境界を守る:
過度の進入を防ぐため、境界(接触する時間や場所を決める物理的境界と Yes/No を的確にはっきりいえる
という感情的境界)を設け、それを明らかにし、維持する事が大切です。
⑥境界性 PD の人と争わないコミュニケーション技術を身に付ける:
パラフレーズ(「あなた」ではなく、「わたし」を用いて話をする)、再帰的傾聴(その人が「どのように感じている」と
自分が思っているかを伝える方法。)などがあります。
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