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再掲論文 - Nomura Research Institute

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再掲論文 - Nomura Research Institute
再掲論文
目 次
■座談会で話題となった論文および過去の注目論文のなかから、1998年までのものの一部を年代順に収録
しました。
大型コンピュータのオペレーティング・システムの現状と問題点(1985/06[特集]) 山口真彰
24
オペレーティング・システムの改善のポイントをユーザーの視点からメーカーへ提言した。
大規模システム開発のカギを握る「方式設計」
(1)(1989/08[特集])
稲月 修
28
現在にも生きる、大規模システム開発における「方式設計」の重要性を提言した。
米国の証券会社に見る垂直統合とシステム部門(1994/02[トピックス]
)
畠山紳一郎
32
米国の先進事例の紹介を通じて当時の証券会社のBPOにひとつの方向性を提示した。
フリーソフトウェアのビジネス利用(1994/03[トピックス]
)
真下竜実
34
オープンソースの夜明け前、NRIのその後のオープンソースへの取り組みにつながる。
日本市場におけるWindows NT普及の可能性(1994/06 特別号[環境]
)
楠 真
36
企業システムへのCSS導入を促したWindows NTを、初期段階にかかわらず大規模に導入し
た先進事例を紹介した。
新たなワークスタイルの実現(1995/05[視点])
淀川高喜
38
経営はITをどうとらえるべきか、ホワイトカラーの生産性をいかに向上させるか、早期に
問題を提起した。
クライアント・サーバーシステム構築のノウハウ集(1995/07[特集])
三田雄仁
40
清野龍介
44
使われはじめたばかりのCSSに関するノウハウを現場から情報発信した。
家庭生活のインフラとなるパソコン(1996/01[環境])
PCの普及が企業と家庭をどう変えるかを展望し、いまや社会のインフラとなったインター
ネットの発展を予測した。
三つの方向に進化するイントラネット(1996/10[視点])
村上輝康
48
イントラネットが今日のように当たり前の時代になることを予想しつつ、企業の情報共有
と情報活用のあり方を提言した。
「オーイおじさん」と「情報リテラシー」
(1997/10[視点])
室井雅博
50
「情報リテラシー」の重要性を唱えつつ、「何のためのITか」を考えさせる一編である。
CSSプロジェクトのマネージャー心得集(1998/08[視点]
)
栗之丸孝義
52
NRIが当初から言い続けてきたプロジェクトマネジメントの重要性はCSSに対しても変わら
ないことを示した。
大規模システムとプレハブ型システム開発(1998/10[視点])
藤沼彰久
54
CSS開発の要点を大規模システムと比較して実践的に述べた、NRIのCSS開発の原点を感じ
させる一編である。
情報社会の命綱(1998/12[視点])
鈴木 純
56
セキュリティシステムの重要性をインターネット時代の初期において提言した。
■1999年以降の論文は、野村総合研究所のホームページ(http://www.nri.co.jp)から閲覧できます。
2008年12月号
23
再掲論文
『マンスリー・レポート』1985/06[特集]
大型コンピュータのオペレーティング・
システムの現状と問題点
汎用オペレーティング・システムが出現して20年、仮想記憶方式のハードウエアと
これを活用するオペレーティング・システムが実用化されてから10年が経過した。
オペレーティング・システムの現状について、ユーザの立場から眺めてみた。
1.オペレーティング・システムの出現
つづいて、多重仮想記憶方式のオペレーテ
ィング・システムが出現した。
コンピュータの揺らん期、業務処理プログ
このオペレーティング・システムのもとで
ラムを作るユーザは、ハードウエアの仕様書
は、同時に実行できるプログラムの数(ジョ
をもとに、入出力処理など、プログラムを動
ブの多重度)が、理論上無限となり、コンピ
かすために、多くの準備作業が必要であった。
ュータの業務の消化量が、飛躍的に増大した。
この負荷は、本来の業務プログラムを作成す
その後、実記憶装置の容量拡大への対応や
るより、はるかに大きなものであった。
この部分を肩代りして、ユーザの負担を、
高速大容量の磁気ディスク装置などの新しい
周辺装置への対応の改善を経て、1980年代に
すこしでも軽減しようという目的で、オペレ
入り、仮想メモリが、理論上無限に近い2ギ
ーティング・システムが生まれた。
ガバイト(20億文字)まで拡張可能な、画期
2.オペレーティング・システムの進歩
オペレーティング・システムは、コンピュ
的な機能をもつ多重仮想記憶方式のオペレー
ティング・システムが出現し、今日に至って
いる。
ータを効率よく動かすためのプログラムの集
りである制御プログラムと、言語翻訳プログ
ラム(コンパイラ)などの処理プログラムか
ら構成される。
このオペレーティング・システムは、1970
年代に入って、急速な進歩をとげた。
すなわち、仮想記憶方式のオペレーティン
グ・システムの出現である。この結果、プロ
術の発展には、一貫した考え方があった。
その第一は、蓄積されたユーザ・プログラ
ムの新旧のオペレーティング・システム間で
の互換性の保持であり、第二は、その時代が
要求する新たなニーズに容易に対応できる柔
軟性の確保であろう。
グラマは、実記憶装置の物理的な制限から解
この点に関して、最新の多重拡張仮想記憶
放され、メモリの大きさを気にせず、プログ
方式のオペレーティング・システムを眺めて
ラムを作成することが出来る様になり、プロ
みると、従来のオペレーティング・システム
グラムの生産性は著しく向上した。
24
この間、オペレーティング・システムの技
(24ビット・アドレッシング)下のプログラ
2008年12月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2008 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
[著者・執筆時所属]
野村コンピュータシステム
開発管理部
山口真彰(やまぐちまさあき)
[著者現職]
野村総合研究所
システムマネジメント事業本部
業務管理室
シニアスタッフ
ムの、新オペレーティング・システム(31ビ
リケーションへの対応の容易性があげられよ
ット・アドレッシング)下への容易な移行性
う。図 1 に、仮想記憶方式のオペレーティン
と、2ギガバイトの大容量の仮想メモリを活
グ・システムの変遷とアドレッシング上限値
用することによる、画像処理等の様々なアプ
の推移について示す。
図1.オペレーティング・システムの方式の変遷とアドレッシング上限値の推移
オペレーティング・システムの方式の変遷
1960
年代
アドレッシング上限値の推移
16MB
仮想記憶アドレッシング
上限値
実記憶アドレッシング
上限値
単一仮想記憶方式
大型機の実記憶容量の推移
1970
年代
多重仮想記憶方式
64MB
2GB
1970年代末実記憶アドレッシング拡張
1980
年代
多重拡張仮想記憶方式
3.当社における、オペレーティング・シ
ステム採用の経過
当社においても、ユーザ・ニーズへの早期
ィング・システムの導入を進めている最中で
あり、順調に行けば、来年前半には、対象と
なるほとんどのコンピュータへの導入が終了
の対応と、最新技術によるコンピュータの有
する。(すでに、IBM機への導入が完了し、
効活用の目的で、最新のオペレーティング・
日立機への導入作業を実施中である。)
システムを、極力早期に導入する様、努めて
きた。
表 1 に、当社における現在までの、オペレ
ーティング・システムの採用経過について示
目下、多重拡張仮想記憶方式のオペレーテ
す。
表1.当社における仮想記憶方式のオペレーティング・システム採用の経過
採 用 年
O S 名 称
採 用 機 種
アーキテクチャー
1
1977年
VOS2
(日 立) M-170
単一仮想記憶方式
2
1981年
VOS3
(日 立) M-200H
多重仮想記憶方式
3
1983年
VOS3/SP2 (注1)
(日 立) M-280H
同上(実記憶上限拡大)
4
1985年
MVX/XA
( I B M ) 3081K
多重拡張仮想記憶方式
5
1985年
VOS3/ES1 (注2)
(日 立) M-280H
同上
(注1)1984年ほぼ同機能のVos3/SP21に切替
(注2)1985年 7 月より順次、採用の予定
2008年12月号
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25
再掲論文
4.オペレーティング・システムの今後に
ついて
この場合、我々ユーザにとって、非常に懸
念されることが一つある。
IBMは、かつて、当時の主流機種であった
本年初め、IBMより、3090(シェラ)、日
3033用のオペレーティング・システム
(MVS)
立より、M-680Hが相ついで発表された。両
を搭載した新シリーズ(308X)を発表した。
機種とも、最新の半導体製造技術や、実用技
しかし約 1 年後、308Xシリーズ用に、全く
術を駆使し、ハードウェアとしては、現行機
新しい多重拡張仮想記憶方式のオペレーティ
(3081KやM-280H)に比べ、倍近い演算速度
を実現している。
しかし、両機種とも、オペレーティング・
ング・システム(MVS/XA)を追加した。
このオペレーティング・システムは前述の
通り、仮想記憶限界を、16メガバイトから、
システムを中心とするアーキテクチャーに関
一挙に2ギガバイトに拡張した画期的なもの
するかぎり、特に目あたらしいものは見あた
であったが、3033には使用できなかったため、
らない。つまり、現状の多重拡張仮想記憶方
3033のユーザは、このオペレーティング・シ
式の延長上にある。
ステムを使用するために、やむをえず、
多重拡張仮想記憶方式のオペレーティン
308Xシリーズに切り替えざるをえなかった。
グ・システムが出現してから、すでに4年程
当社でも、日立社の多重拡張仮想記憶方式
経過し、コンピュータをとりまく環境は大き
のオペレーティング・システム(VOS3/ES1)
く変わろうとしている。
を採用するために、M-200Hを、上位機種M-
回線のディジタル化などによりますます高
度になるネットワーク技術や、画像処理を中
280Hに切り替えなければならない事態が発
生している。
心とするアプリケーションの多様化など、オ
ペレーティング・システムに対して、様々な
今回発表されたIBM3090や日立M-680Hに、
新しくかつ複雑な要求が、ますます増大して
近い将来搭載されることが予想される新方式
くることだろう。
のオペレーティング・システムに関して、現
用機種(IMB308Xや日立M-280H)が、以前
今回発表された新機種のオペレーティン
26
の3033やM-200Hのような憂き目にあわぬ様、
グ・システムには、新しさは見あたらなかっ
すなわち、308XやM-280Hが、新方式のオペ
たが、両機ともに、近い将来、まちがいなく、
レーティング・システムの搭載が出来ないが
新方式のオペレーティング・システムが、搭
ために、使いものにならなくなることになら
載されるであろう。
ぬ様、メーカに対して、切に、要望したい。
2008年12月号
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「新しいオペレーティング・システムを使い
また、従来、オペレーティング・システム
たいなら、コンピュータも新しいものを買い
の切り替え作業は、システムの生成作業(ジ
なさい」というのでは、あまりにも、ユーザ
ェネレーション)に要する割合が、極めて大
無視のメーカの横暴と言えるのではないだろ
きかった。
うか。
5.おわりに
ここ数年の間に、幾度か、オペレーティン
グ・システムの切り替え作業に携さわる機会
を得た者として、感想を述べてみたい。
しかし最近は、コンピュータの高速化によ
る生成時間の短縮や、生成ツールの整備など
による作業量の軽減により、生成作業自体は、
かなり楽になっている。
かわって、切り替えに伴う安全性の検証作
業の割合が、著しく増加してきた。
オペレーティング・システムの切り替え作
業は、非常に骨のおれる仕事である。
通常、オペレーティング・システムの切り
替え作業は、次の様な過程で行われる。
(1)新しいオペレーティング・システム採用
による効果の見極め。
(2)切り替えに伴う業務プログラムへの影響
の調査。
(3)オペレーティング・システムの生成(ジ
ェネレーション)
。
かつて、システムは、コンピュータ単体で
成り立っていたが、最近は、複数のコンピュ
ータが、複雑に結合して、システムを構成し
ている。
一つのコンピュータのオペレーティング・
システムの切り替えが、他のコンピュータに
何らかの悪影響をおよぼし、システム全体の
障害につながる様なケースも、無いとは言え
ない。
オペレーティング・システム切り替えに伴
(4)切り替えに伴う安全性の検証。
う安全性の検証のための、確実な方式の確立
(5)新オペレーティング・システムへの切り
と、この方式の実現のための容易な手段の追
替え。
(6)切り替え後のチューニングと効果の検
求は、私達ユーザとメーカの共通の重要な課
題の一つであろう。
証。
以上であるが、これら一連の作業を実施す
るにあたり、我々ユーザとメーカSEあわせ
て数名からなるチームで、ひと声、半年程度
の仕事になってしまう。
(M. Y.)
参考資料
日経コンピュータ(84/20)「岐路に立つIBM互換機」
日経コンピュータ(85/4)「IBMシェラ・シリーズ、
その正体を探る」
日立製作所「VOS/ES概説」
2008年12月号
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再掲論文
『マンスリー・レポート』1989/08[特集]
大規模システム開発のカギを握る「方式設計」
(1)
情報システムの大規模化、高度化が進むにつれ、業務処理を支えるシステム基盤の
重要性はますます高まっている。拡張性と信頼性に優れたシステム基盤を構築できる
ことが、システムインテグレーションの観点からも重要である。「方式設計」は、シ
ステム基盤を構築する際の有力な技法であり、システム開発のカギを握っている。こ
れから 3 回にわたり、方式設計とは何か、方式設計の進め方などについて紹介する。
システム基盤のインテグレーションへ
情報システムは、これまでの企業運営を支
こうしたシステム基盤を構築するには、ハ
ードウェア、ネットワーク、データベース、
える手段から、経営戦略を推進する武器へと
運用、開発などの諸分野における技術面の基
転換を迫られている。金融業界での第三次オ
本方針や具体的仕様を定め、トータルシステ
ンラインによる店舗の情報武装化や、流通業
ムとして実現していくというシステムインテ
界でのPOSネットワークによる顧客サービス
グレーションのアプローチが必要となってく
の拡大などは、その典型である。
る。このアプローチの過程で重要なカギを握
このような戦略的情報システムを構築する
場合、従来のシステム開発の延長ではむずか
しい面が出てきた。マン・マシン・インタフ
るのが、方式設計である。
方式設計とその効果
ェースの改善、オンライン処理の拡大、情報
システム基盤を構築する場合、まず適用業
量の増大といった多様なニーズを実現するた
務の内容や投資コストなどをもとにシステム
めには、単なる業務機能の拡充だけではすま
の全体像をざっくりと描き、そのシステム要
ず、ワークステーション、ネットワーク、デ
件を明確にすることから始める。次に、各要
ータベースなど、システム基盤のあり方自体
件を実現するに際して、システム構成やデー
が問題になってくるからだ。
タ処理構造、採用ベンダーなどの基本方針を
情報システムは高度化、大規模化、複雑化
してきており、巨大なマンモスになろうとし
ている。一方、情報システムに何らかの異常
28
ステム基盤が要求されている。
定め、その後、具体的な仕様を明確にして開
発に移る。
システム構築の上流工程で、これらを策定
があると、企業にとって、さらに社会的にも、
するための手法が、方式設計である(図 1 参
相当の悪影響が生じかねない。このため、多
照)。その目的は、システム基盤について、
種多様な業務処理を統合的に支援することが
システム要件を実現するための方法を規定す
できると同時に、拡張性と信頼性に優れたシ
ること。具体的に規定すべき内容には次のよ
2008年12月号
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
開発管理部
[著者現職]
野村総合研究所
常務執行役員
基盤サービス事業本部長
稲月 修(いなつきおさむ)
うなものがある。
現状の
分析・調査
システムの
基本構想
システム化計画
適用業務の設計
●
システム構成
●
各構成要素での機能分担方式
●
各構成要素間の接続仕様
●
トランザクション処理方式
●
データベース方式
●
運用・保守方式
ホストコンピュータなどの技術分野に強
●
障害回復方式
い人だけでなく、業務処理の構造にくわ
●
機密保護方式
しい人も加えるのが望ましい。
●
開発・テスト方式
方式設計を採用することによって、以下の
ような効果が期待できる。
①システム基盤のコンセプト、アーキテク
チャーが統一され、拡張性、信頼性に対
する方針も明確になる。
方式設計
ベースソフトの設計
図1 大規模システムの構築ステップ
②チームの構成は、端末、ネットワーク、
③採用ベンダーが決まったならば、核とな
るベンダー内にも方式設計の担当者をお
き、共同作業をすると効率的である。
次に、作業を進める際のポイント。
①方式設計の範囲や深さは、採用ベンダー
を何社にするか、ベンダー提供製品の何
②システムの構造(機能分担)が明確にな
を選択するかによって大きく異なってく
る。このため各機能を独立に開発するこ
る。このため、これらの選定には慎重な
とができ、全体の開発期間を短縮できる。
評価を要する。
③機能の実現にあたって、ベンダーに要求
②方式設計はシステム基盤の良否を左右す
すべき機能と自社で開発すべき機能がは
るため、進捗状況に応じてレビューし、
っきりし、開発コストも明確になる。
オーソライズしていくことが必要であ
④業務処理をモデル化し、処理をパターン
る。それには、外部のコンサルテーショ
化することで、業務処理が標準化でき、
効率的な開発ができる。
方式設計を行うに際してのポイント
方式設計を行う場合、留意すべきいくつか
のポイントがある。まず、体制面について。
①方式設計はトップダウン型のアプローチ
であるため、数人のチームで行う。
ンを受けることも有効であろう。
③方式設計をもとに端末やホストコンピュ
ータのベースソフトの設計をすることに
なるが、核となる機能については逐次レ
ビューし、全体の整合性をとっていくこ
とも方式設計チームの役割である。
以下では、方式設計の工程別に、その進め
方や留意点について詳述する。
2008年12月号
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再掲論文
システム要件をまとめるには
システム基盤の要件は、大枠レベルと詳細
レベルの 2 段階に分けてまとめる。大枠レベ
件を具体的な数値を設定しながらまとめ
ていく。
この段階で留意すべきは、ともすれば具体
ルの要件は、システムのコンセプトの策定、
性に欠ける夢のようなニーズが出てくるた
システム構成の検討に用いる。また詳細レベ
め、要件の整理にあたっては、開発期間、投
ルの要件は、システムの構成要素(端末、ネ
資コスト、技術革新の動向などをみすえて、
ットワーク、ホストコンピュータなど)それ
要件の優先順位を決めることである。
ぞれの機能の検討に用いるもので、システム
構成を決めた後でまとめる。
大枠レベルの要件は、次のような順序でま
とめていくのがよい。
①システムの基本構想の段階で、経営戦略
システム構成を決めるには
次の段階は、システム構成を決めることで
あり、ここが方式設計の前半における最大の
ポイントである。
を支える情報システム全体のあり方や目
システム構成がどうあるべきかは、まず業
標が設定され、それらを実現するための
務の内容や運用形態で大きく異なる。ホスト
ニーズが整理される。
コンピュータ集中型の業務か分散処理型の業
②まず、これらのニーズから直接システム
務かは、その分岐点ともいえる。また、シス
にかかわる要素を抽出する。たとえば、
テムの規模や機能分担のあり方によっても異
端末の種類やマン・マシン・インタフェ
なってくる。
ース、ネットワークの規模、障害対策の
あり方などである。
③次に、業務処理にかかわるニーズから要
件を整理する際、業務処理に必要なシス
テム基盤の要素も出てくる。たとえば、
30
⑤以上の要素をもとに、システム基盤の要
たとえば、ホストコンピュータが複数にな
ったリアルタイムシステムの例でみてみよ
う。この場合、システム構成として図 2 のよ
うな二つの案が考えられる。
①構成 A は中規模システム向きであり、端
データベースのあり方、端末・ホストコ
末系のコストを抑えるため、ホストコン
ンピュータ間の入出力方法などである。
ピュータ系でカバーしようというもので
④加えて、システム側から出てくる要素も
ある。構築しやすい構成であるが、反面
ある。たとえば、現行システムからの移
フロントエンドプロセッサーの機能が重
行方法、システム基盤の運用・保守のあ
くなり、その能力の限界がシステムの上
り方、開発・テストのあり方など。
限となる。
2008年12月号
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②構成 B は大規模システム向き
であり、端末系にコストをか
ビデオ
構成A
フロントエンド
プロセッサー
けてホストコンピュータの処
理負荷の軽減を図ろうとする
ネットワーク
ホスト
コンピュータ
端末制御
装置
ものである。機能が分散され
るため、拡張性に優れている
構成B
端末制御
装置
プリンター
ビデオ
ネットワーク
プリンター
が、構築には高度な技術力が
要求される。
図1 複数のホストコンピュータを用いたシステムの構成例
いずれにしても、システム構成を決めるに
る。メニューの出し方には、①端末が直接出
あたっては、投資コストや開発期間、システ
力する、②端末制御装置が出力する、③ホス
ムの性能や将来の拡張性など、いくつかの観
トコンピュータから出力する――の三つがあ
点から評価しつつ収束させていくことが肝要
り、それぞれ一長一短がある。応答時間やメ
である。また、この過程をへて、システムの
ニューの量、維持方法などを評価して、シス
コンセプトが固まってくる。
テムに合った方法を選ばねばならない。
機能要件をまとめるには
続いて、機能分担にもとづき、各構成要素
でもつべき機能要件をまとめる。
次に、システムを構成する各要素の機能要
●
ハードウェア
件をまとめる段階に入る。ここで、構成要素
●
他要素との接続機能
とは次のものをいう。
●
処理機能
●
端末と端末制御装置
●
運用・保守機能
●
ネットワーク
●
性能目標
●
ホストコンピュータのベースソフト
●
拡張性
機能要件をまとめるには、まずシステム基
この段階では採用ベンダーが決まっていな
盤の要件を大枠レベルから詳細レベルにブレ
いため、ベンダーに提案を要請するための資
ークダウンした後、それを実現するために構
料としても使えるようなものを作っておくこ
成要素間での機能分担をどうしたらよいかを
とが望ましい。
検討する。
機能要件がまとまった次の段階は、ベンダ
たとえば、マン・マシン・インタフェース
ーの選定をへて、その提供製品をベースに実
をよくするため、ビデオ端末からの入力をメ
現性を検証することである。これ以降につい
ニュー選択形式で行うとの要件があったとす
ては次号で紹介する。
(稲月 修)
2008年12月号
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31
再掲論文
『マンスリー・レポート』1994/02[トピックス]
米国の証券会社に見る垂直統合とシステム部門
米国の証券会社が用いるリストラクチャリング(事業の再構築)の手法にバーティ
カルインテグレーション(組織の垂直統合)がある。その目的は、部門長の部門収支
責任と統制権限を最大化して、部門コントロールを強化することにある。米国A証券会
社の事例を基に、バーティカルインテグレーションの考え方とその実際を解説する。
全体コストよりも部門コントロールを重視
にさらし、部門の戦略決定を簡単にする。
バーティカルインテグレーションとは、営
具体的には、非営業部門は人事、研修、法
業部門と非営業部門を垂直に統合し、部門長
務、検査を残して解体し、必ずどこかの営業
の部門収益責任と統制権限を最大化し、総務、
体に属さなければならないようにする。会計
会計などの本社レベルのコストを最小化する
部門も全体の勘定を行うスタッフを除いて各
ことである。スケールメリットが失われるの
営業体専属となる。そして通信費、光熱費な
で、全社的にはコスト増になるが、部門コン
どの請求書を部門あてにする。
トロールは強化される(表1参照)。
そのうえで、部門の各総務管理者の社内登
バーティカルインテグレーションの最大の
用や外部採用などを行う。政治的な駆け引き
効果は、間接経費の直接経費化である。経費
から優秀なマネジャーでも退職しなければな
には直接経費(アバブ・ザ・ライン。経費欄
らない場面も出てくる一方、登用されたスタ
の上段にある人件費、交際費など)と間接経
ッフはプロフィットセンター部門のために全
費(ビロー・ザ・ライン。経費欄の下段にあ
力投球する。業績いかんで大きく評価される
る通信費、総務分担金など)の2種類がある。
場面もあるが、解雇される可能性も大きい。
バーティカルインテグレーションでは、間接
経費を直接経費化して、全経費を白日のもと
外部からシステムアドミニストレーターを登用
表1 従来型組織と垂直統合型組織の比較
従来型
グレーションがシステム部門に及
ぼす影響を見よう(図 1 参照)。
部門長の責任範囲
直接経費
全経費
情報伝達
遅い
速い
自由度、機動性
低い
高い
事務作業の形態
歯車的流れ作業
有機的完結作業
上司の評価
部門の業績
各項目に値段(人×作業日数)を
システム
大型汎用機
クライアント・サーバー
つけて各部門に課金しようとした
スケールメリット
大きい
小さい
が、日常的なユーザー対応やトラ
モチベーションの源泉
(特にコスト部門)
32
垂直統合型
このようなバーティカルインテ
A証券では以前から大型汎用機
を利用しており、システム部が機
能追加を行っていた。導入の当初、
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レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
戦略システム部
[著者現職]
野村総合研究所
ヘルスケアソリューション事業本部
ヘルスケア事業戦略研究室長
畠山紳一郎(はたけやましんいちろう)
ブル解決の値段をユー
ザー部門に説明できな
会長、社長
最適なシステム投資配分の決定
・各ビジネス部門の収支による
最適な資本配分
経営委員会
かったため、ユーザー
の不満が高まった。
部門長
一方、ユーザー部門
長はシステム部の対応
の遅さを理由に、部門
のOA化(機器、ネッ
トワークの管理など)
のために外部からシス
(株式)
システム管理者
ビ
ジ
ネ
ス
部
門
部門長
システム管理者
ミドルオフィスシステム
・PC、WSとLANを組み合わせ
たオープン型システムを開発
(受発注システムなど)
・20歳代中心
内製部隊(プ
ログラマー)
テムアドミニストレー
(債券)
ビ
ジ
ネ
ス
部
門
ライアント・サーバー
ビ
ジ
ネ
ス
部
門
大型汎用機システムの保守
・ミドルオフィスシステムとの
インタフェース開発が中心
・ベテラン(35∼50歳)中心
ユーザー部門に
合わせて分割
システム部門
株式リエゾン
債券リエゾン
信託銀行リエゾン
コア(核)システム担当(属性、口座更新、会計処理など)
型の受発注システムな
ど)の開発を開始した。
システム管理者
戦略提案・決定と予算管理
・電話、PCからLAN、外部サー
ビス、システム開発まで部門
長からの信頼は絶大
・26∼35歳が中心
ターを採用し、ミドル
オフィスシステム(ク
部門長 (信託銀行)
LAN=構内情報通信網、PC=パソコン、WS=ワークステーション
この結果、システム部
図1 米国A 証券会社のバーティカルインテグレーション
門への機能追加の要求は激減した。
ニアやプログラマーにシステムの戦略的感覚
やコスト意識が芽生え、ユーザーとの一体感
信頼回復につながった部門リエゾン化
が士気高揚につながっているという。また、
こうした成り行きに危機感をもったシステ
クライアント・サーバー型システムを開発す
ム部門は、それまで蓄積してきた豊富な業務
る機会を得たことを歓迎するスタッフも多い
知識、大量処理における大型汎用機のコスト
ようだ。
パフォーマンスや信頼性をアピールするとと
このようなバーティカルインテグレーショ
もに、アプリケーション(適用業務)ソフト
ンにより、今までバラバラであった部門OA
の部門化(部門コードによって処理を分ける)
システムが統合されつつある。
と、対応スタッフの部門リエゾン化(部門ユ
また、メリルリンチ社では部門間の標準化
ーザーの隣でシステム開発を行う)を推進し
を進めるべく、システムのホリゾンタルイン
て、再びユーザーの信頼を回復した。
テグレーション(水平統合)を開始している。
ユーザー部門に派遣されたシステムエンジ
(畠山紳一郎)
2008年12月号
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33
再掲論文
『マンスリー・レポート』1994/03[トピックス]
フリーソフトウェアのビジネス利用
パソコンやワークステーション用ソフトウェアの世界には複製、配布、改変が自由
でかつ無償で利用できる「フリーソフトウェア」が数多く流通している。無償とはい
え、市販製品と比較しても遜色ない、あるいはそれを上回るソフトウェアも少なくな
い。ここでは、その特色とビジネスに有効利用するための留意点について述べる。
使用者の多さが強み
④オープンシステムである。
フリーソフトウェアは、主にパソコン通信
発表当初は利用対象機種が限定されるが、
や企業間ネットワークなどを通じて流通が行
良い評価を受けたソフトウェアについては、
われる。最近では、雑誌社が付録として配布
他機種の利用者の協力を得て、移植が行われ
したり、ハードウェアメーカーがサービスと
ることも多い。
してユーザーに提供するケースもある。これ
⑤ソースコードが公開されている。
らはパソコンのユーザーが個人あるいはグル
多くの場合プログラムのソースコードが公
ープで作成したものが多いが、なかには企業
開されているため、利用者がそれぞれの要望
活動のなかで作成されたものもある。
に応じた修正を行うことが可能である。
市販製品と比較すると、特色として以下の
点をあげることができる。
⑥利用者の協力を得られる。
プログラムの修正だけでなく、付随する関
①発表数が多く、淘汰が激しい。
連プログラムや有用なデータの作成、移植な
バージョンアップを含めて、発売ならぬ発
どに利用者の協力が得られ、ソフトウェアを
表が頻繁に行われるため競争が激しい。また、
充実させやすい。
ネットワークを通じてユーザー間の情報交換
が頻繁かつリアルタイムで行われ、使いづら
いものは流通しなくなる。
表 1 に、フリーソフトウェアの一例と、同
②試用ユーザー数が圧倒的に多い。
分野における市販製品の平均的な価格を示
気軽に入手できるためにユーザー数が多
す。一般にフリーソフトウェアを利用する場
く、動作不良や機能不足などに対する数多く
の指摘やアドバイスが得られる。
③作者の自由度が高い。
34
利用はギブ・アンド・テイクの精神で
合の留意点は次のとおりである。
①著作権に対する考慮を忘れない。
かつてのPDS(パブリック・ドメイン・ソ
従来の仕様との継続性にとらわれず、ダイ
フトウェア。著作権が放棄されたソフトウェ
ナミックに変更することが可能である。それ
ア)と異なり、現在日本で流通しているフリ
だけに、より挑戦的に作成できる。
ーソフトウェアには著作権者が存在する。し
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
オープンシステム技術部
真下竜実(ましもたつみ)
たがって、入手したら何をしてもよいという
ことではない。
通常は、営利目的の再配布(販売)を禁止
するなど、何らかの制限が記述されているケ
ースが多い。これらの記述は、使用許諾契約
と同等であると考えられており、著作権者の
[著者現職]
野村総合研究所
情報技術本部
主席
表1 フリーソフトウェアの例
機 能
市販製品の価格帯の目安
パソコン通信
1∼3万円
かな漢字変換
1∼2万円
ファイル圧縮
1万円
プログラム言語
2∼20万円
(C、C++コンパイラー)
電子会議、電子メール
50∼200万円
意思を尊重し、それに沿った利用を心がける
べきである。
入するには、数ある製品のなかから最適なも
②万一の動作不良を前提として使う。
のを評価、選出し、購入手続きをとり、承認
フリーソフトウェアを利用していて動作不
を得て、納品を待たなくてはならない。
良が発生した場合は、基本的には利用者が対
しかし、フリーソフトウェアを利用すれば、
処しなければならない。バックアップの手段
こうした時間的ロスを節減し、本質的なこと
を用意しておくか、動作不良を前提として割
に多くの時間を割くことができるので、より
り切って使う必要がある。
充実した成果を得ることができる。
③ギブ・アンド・テイクの精神で利用する。
また、組織としてより有効に利用するには、
フリーソフトウェアはコンピュータネット
利用者間での情報交換を促進し、かつ動作不
ワークの世界で一つの文化を形成していると
良時の対策を検討しておく必要がある。さら
いえる。自分もフリーソフトウェアを発表す
に、コンピュータウイルスの侵入に対処する
るとまではいかなくても、使用後の感想・評
ために、入手経路と利用実態の把握などを行
価を作者にフィードバックするなどの形で、
っていかなければならない(コンピュータウ
その文化に貢献していくことが大切である。
イルスはフリーソフトウェアを使わなければ
侵入しないというものではなく、本来、根本
ビジネス利用では運用ルールの策定が必要
的な対策が必要な問題である)
。
フリーソフトウェアをビジネスで利用する
メリットは、コストの削減だけに限らない。
以上のような課題に対処し、より有効にフ
たとえば、新しいシステムの導入を検討する
リーソフトウェアを利用していくためには、
際には、どのような機能が必要か、どの程度
利用ガイドラインの策定やとりまとめ部門の
の性能を実現できるか、等々を評価しなけれ
設置など、各組織の実情に合った利用形態、
ばならない。その評価に必要な道具(プログ
運用ルールなどを模索していくべきだろう。
ラム言語コンパイラーなど)の市販製品を購
(真下竜実)
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35
再掲論文
『マンスリー・レポート』1994/06 特別号[環境]
日本市場におけるWindows NT普及の可能性
当社は、STAR-Ⅲと呼ぶ証券会社向けの共同利用システムへのWindows NTの採用を発
表した。現行システムからの移行ではあるが、完了時には3,000端末すべてがWindows
NTを利用することになる。この世界最大規模の導入事例を踏まえ、システムインテグ
レーターの視点からWindows NTの普及の見通しについて触れてみたい。
コスト面で有利なWindows NT
豊富なツールが提供されているWindows NT
Windows NTの普及のカギは 3 つ存在する。
第 2 は小規模なアプリケーションサーバー
第 1 は、NetWareに代表されるパソコン
として普及するというシナリオである。現在、
LAN(構内情報通信網)のネットワークOS
従来のオフコン市場は低調だが、オフコンに
(基本ソフト)を代替するというシナリオであ
代わる新しい概念の製品がまだ明確になって
る。ここで焦点となるのはNetWareと
いない。オフコンを代替できるような解決策
Windows NTとのコスト効果の比較である。
をWindows NTとアプリケーションソフトの
現時点では、価格面で両者に大きな開きが
組み合わせで提供できれば、Windows NTが
ある。NetWareで100クライアントのシステ
普及するポテンシャルは十分にある。
ムを構築する場合と比べて、Windows NTを
米国には元来オフコンはなく、NetWareな
採用した場合は最大100万円ほど低価格にな
どのネットワークOSをベースに解決策が提供
る。しかもWindows NTのネットワーク管理
されている例が多い。しかし、現状でアプリ
はGUI(グラフィカル・ユーザーインタフェ
ケーションサーバーとしての優劣を考えると、
ース)ベースになっており、ユーザーにとっ
SDK(ソフトウェア開発キット)などのツー
てはNetWareよりも使いやすい。
ルが豊富に提供されているWindows環境の方
日本では、現行のWindows 3.1に対応する
がNetWareよりもかなり有利である。
Workgroup for Windowsが製品化されてい
ないことが接続性の面でややネックだが、反
36
注目される金融機関の動向
対にWindows NTの価格的なメリットが強調
第 3 は大規模ネットワークシステムに普及
されている。米国ではピア・ツー・ピア(対
するというシナリオである。たとえば、金融
等通信)型のLANを選択するユーザーは、
機関の大規模ネットワークにWindows NTが
Windows NTよ り も む し ろ Workgroup for
採用されるといった場合である。日本では
Windowsを選択するだろうが、日本ではこれ
1990年前後に稼働を開始した第三次オンライ
がないので、Windows NTのユーザー層に広
ンシステムが更新期に入りつつあり、金融機
がる可能性がある。
関の新規システム導入が最も注目される。
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
システム商品事業部
楠 真(くすのきしん)
[著者現職]
野村総合研究所
執行役員
金融フロンティア事業本部長
兼プロジェクト開発部長
大手金融機関はいずれもパソコンの大量導
にくい。もともとクライアントにはWindows
入によりエンドユーザー・コンピューティン
がたくさん利用されており、Windows NTの
グを充実させる方向を考えているが、このた
出番はなかなか出てこない。
めの選択としては次の3つの方向性がある。
①サーバーにUNIX、クライアントには
Windows 3.1
ところが、日本ではまだビジネスUNIXが
普及していない。日本のユーザーはこれから
UNIXベースのアプリケーションを本格的に
②サーバー、クライアントともOS/2
導入するよりも、見慣れた親近感のあるGUI
③サーバー、クライアントともWindows
を提供するWindows NTを導入する可能性が
NT
高いと思われる。
現状では一部の都市銀行が①でシステム開
発を進めているほか、②を選択している銀行
結論をいえば、日本市場でのWindows NT
もある。当社がSTAR-Ⅲで選択するのは③と
の普及については、米国市場よりも楽観的に
はやや異なるが、Windows NTの大量採用を
見ることができる。これは、Workgroup for
明確にしている点では③と同義である。
WindowsやUNIXのような、Windows NTと
3 つの方向性のうちどれを選ぶかという問
題は、金融機関の情報システム部の伝統的な
考え方を考慮して予想しなければならない。
市場を分け合う競争相手が浸透していないと
いう理由による部分が大きい。
しかし本格的な普及のためには、システム
全体の稼働を保証するシステムインテグレー
日本市場で普及する可能性は大
ターの役割が強まることが前提となる。マイ
米国では、金融業界にUNIXベースのアプ
クロソフト社が当社を始めとするソリューシ
リケーションソフトがかなり広まっている。
ョンプロバイダー32社と提携した狙いはここ
特にウォール街では、サン・マイクロシステ
にあるだろう。
ムズ社のワークステーションとサイベース社
今後、システムインテグレーターがハード
のデータベースを組み合わせたアプリケーシ
ウェアとソフトウェアを含めたシステム全体
ョンが幅を利かせている。
の稼働を保証するという概念の市場が形成さ
金融業界に限らず、米国市場ではビジネス
れていくならば、大型ネットワークにおける
分野のUNIXベースのクライアント・サーバ
Windows NTの本格的な普及が期待される。
ーアプリケーションがかなり普及している。
Windows NTを採用した前例が定着するこ
こうした状況でWindows NTが市場導入され
とにより、一気に普及へと結びつく可能性は
ても、UNIXを置き換えていく動きにはなり
高い。
(楠 真)
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37
再掲論文
『マンスリー・レポート』1995/05[視点]
新たなワークスタイルの実現
最近、経営者が集まると必ずといってよい
総量制限をしたり、業務の棚卸しを行って無
ほど出る話題の一つが、「電子メールを使っ
駄な業務や重複した業務を削減したり、社員
ていますか」だそうである。
一人一人が動作効率を意識した活動をする運
経営者をはじめ、オフィスにいるスタッフ
動を展開したりするなど、地道な努力を積み
部門に一人一台のパソコンを装備し、経営者
重ねている。しかし、少し手綱を緩めるとい
が率先して電子メールを使って社内連絡文書
つのまにか仕事が増え、元の状態に戻ってし
の照会やお互いの情報交換を行う。社内手続
まう失敗を繰り返してきた。
きは書面ではなく端末を操作して各自が自分
そこで、抜本策として登場したのが情報武
で行う。さらにはワープロや表計算ソフトを
装をテコとしたワークスタイルそのものの革
使って簡単な資料は自分で作る。
新である。
こうした動きが活発化したのは、パソコン
知的生産性の高いワークスタイルとはどの
自体が安くなり操作性が向上し、一人一台の
ような仕事の仕方であろうか。社員全員がパ
普及が可能となったのが一つの要因である。
ソコンに向かって、自分でできることは自分
しかしその根底には、ジャスト・イン・タイ
でやってしまうことだけではあるまい。筆者
ムやコンカレントエンジニアリング(設計、
は望ましいワークスタイルの要件を次のよう
開発の並行処理化)など製造分野の生産性は
に考えている。
世界に冠たる水準になったが、ホワイトカラ
ーの生産性は遅れているのではないか、とい
う経営者の危機感がある。
確かに、多くの日本企業では、設備という
モノ資源と労働力というヒト資源の最大有効
知的生産性を決めるのは第 1 に、社員個々
人の増力化である。それには、社員それぞれ
が、次のことを的確に行う必要がある。
●
ジョンを自発的に設定し、
活用を実現するリーンな生産システムを重要
視する一方で、情報という資源と創造的人材
●
●
造的業務に集中できない業務環境などなど。
その成果に対して適正な評価のフィード
バックを受けて、
えよう。山ほどの紙を産出する社内事務処理、
非効率な連絡調整会議、雑務に忙殺されて創
顧客に対して組織がもつ情報やノウハウ
をフルに活用してサービスを提供し、
という資源の有効活用を実現するシステムは、
きわめてお粗末な状況で放置されてきたとい
組織のビジョンの理解のもとに自らのビ
●
全体が見渡せる仕事の仕方をする。
この結果として業績が向上する。
第 2 に、チーム内での効果的な協働の実現
各社は業務改革のなかで、各部門の業務の
38
が必要である。チーム内に求められるのは、
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
コンサルティング事業本部
事業企画室
[著者現職]
野村総合研究所
研究理事
淀川高喜(よどかわこうき)
以下の要件である。
●
社員どうしやマネジャーとの間で、
●
ビジョンが共有化され、
●
最適な情報や知恵の共有がなされ、
●
適切な指導が相互に行われ、
●
成果に対する達成感が共有される。
この実現によって、個々人の能力はさらに
増幅される。
第 3 に、他のチームの社員や他社との知恵
ワークスタイルの実現に寄与する。
①オートメイト……業務効率化による本来
業務への集中
②インフォメイト……有効な情報な知恵の
提供による増力化
③コミュニケイト……最適な専門性や経験
をもつ人材どうしの効率的協働の促進
④モチベイト……ビジョンの共有、成果の
適切なフィードバックによる動機づけ
の相互活用が有効である。この場合は、チー
このいずれの段階においても、情報システ
ム内にとどまらず、以下の要件の達成が望ま
ムの導入と人間系システムの運営施策を併せ
れる。
て実施することによって、初めて大きな成果
●
局面に応じて最適な専門性や経験をもつ
が生み出せる。
人材の知恵を幅広く活用し合う。
これで、さらに個々人の能力の可能性を広
げることができる。
ホワイトカラーの知的生産性向上のための
施策は、電子メディアを有効に使いこなすた
第 4 に、戦略立案者と実践者のビジョンの
めの知恵比べにとどまるべきではない。いつ
整合が大切である。経営者や戦略立案者と実
までも「電子メールを使っていますか」とい
践部隊の間では、次のことが守られなければ
った水準にとどまっていたのでは、新たなワ
ならない。
ークスタイルの実現は不可能である。
●
ビジョン、状況認識、情報が共有され、
社員一人一人を、自律的生産活動を行うバ
●
組織としてのPLAN→DO→CHECK→
リューコミットメント人材(一人一人が企業
ACTIONが適切に運営される。
に対して自らが生み出す付加価値を約束して
こうして、経営の目指す方向に沿って戦力
が最大限有効に機能する。
仕事をし、その達成に責任をもてる人材)と
位置づけ、その新たなワークスタイルを実現
するために、組織運営と協働環境と情報活用
情報システムをうまく活用すると、上の第
基盤と個々人の増力化トレーニングをどう設
1から第 4 であげたようなビジョン、情報、
計し実施するか、という企業経営の総合問題
知恵の共有化を大幅に促進することができ
として考えるべきであろう。
る。情報システムは次の 4 つの段階で新たな
(淀川高喜)
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39
再掲論文
『マンスリー・レポート』1995/07[特集]
クライアント・サーバーシステム構築のノウハウ集
今年 1 月、当社で初の大規模クライアント・サーバーシステムが実現した。大型汎
用機で稼働していたY市の港湾管理システムをダウンサイズしたものである。開発に
は、DOA(データ中心アプローチ)を中心としたIE(インフォメーションエンジニア
リング)手法を採用し、またスパイラル開発方式によってユーザーニーズをできるだ
け反映させた。そこではいろいろな「初めて」に挑戦し、数々の試行錯誤を経て、貴
重なノウハウを獲得した。その一部を箇条書きノウハウ集の形で紹介したい。
IE手法の現実的な適用
(1)業務分析、データ分析を行わずして、
ER(エンティティー関連)図を描くことはで
きない。古典的な分析手法によって業務フロ
ーを理解することが重要である。
(2)まずシステムの全体図を作成し、デー
フロー図を作成する。
(7)初期の段階では処理性能を気にしない。
あくまで論理設計に重点を置く。
(8)IE手法を使いながらも、「概要設計」
「基本設計」という従来の言葉の枠内で作業を
進める。
タフローを中心とした図を作成する。これが
ないとER図は描けない。
(3)始めから詳細なER図は作成しない。簡
単なデータベースの箱に主要項目、関連項目
を描いた概略ER図を作成し、徐々にレベルア
ップしていく。
(4)IE理論にはバッチ処理の考え方が希薄
(1)スパイラル開発方式の適用は、
「ユーザ
ーインタフェースの改良」に絞る。
(2)レビュー前に、
「データの更新・参照方
法」「標準化の大枠」「採用するツールの“く
せ”への共通認識」だけは決めておく。
である。実際のシステムでは、月次締めバッ
(3)仕様を先送りできるのは、簡単なチェ
チ処理や大量の印刷処理が存在することに注
ックや操作性、見やすさについてだけである。
意する。
(4)レビューの回数は 1 画面につき 2 ∼ 3
(5)マトリックスダイアグラム(業務処理
とエンティティーを行列で表したもの)を書
いたうえで、業務上おかしな点があれば組織
を変更するという考え方は現実的でない。
(6)IE理論によるラフなデータモデルを提
示するだけでは、ユーザーは納得しない。ユ
ーザーと仕様を検討するためにも、必ず業務
40
スパイラル開発方式の進め方
回が妥当。多すぎると仕様がなかなか決まら
ず、スケジュール遅延の原因となる。
(5)プロトタイプはあくまでプロトタイプ。
作り捨てと考え、仕様が決定した後にきちん
としたものを作り直す。
(6)レビューでは、だれがOKすれば作業完
了か、キーパーソンを明確にしておく。
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
地域・生活システム部
[著者現職]
野村総合研究所
システムコンサルティング事業本部
産業ITマネジメントコンサルティング部
上級コンサルタント
三田雄仁(みたゆうじ)
ベンダーの効果的活用
することも必要である。
(1)外国ベンダーの日本語マニュアルの記
(4)ラッシュテストや物理的に回線をまた
述をすべて信用してはならない。誤訳や間違
ぐテストは早期に必ず行い、処理方法の実現
った記述もある。できれば原文を読むことで
を確認し、現実的な応答時間を把握しておく。
より早くより正確に情報がつかめる。
(2)新しい機能は必ず自社のマシンでテス
トしてから使用する。
(5)UNIX上ではゴミプロセスを絶対に放置
しない。また、放置させない仕掛けを作る。
ゴミプロセスはCPU(中央演算処理装置)を
(3)基本的なことだが、ベンダーとのやり
食い続け、性能の劣化を招く。
とりは必ず紙で行う。
(4)外国ベンダーの日本法人で解決できな
いトラブルの場合は、外国の本社に解決して
もらう。必要ならば日本に来てもらう。
開発環境の整備
(1)開発環境は本番環境とできるだけ同じ
にする。特にサーバーやクライアントの機種、
(5)ベンダーが提供する種々のツールのバ
性能は、本番と同じでないと正確な性能テス
ージョンはなるべく統一させる。特にクライ
トができないだけでなく、コマンドが異なっ
アント側とサーバー側でバージョンが異なる
たりして、ソフトウェア開発に影響が出る。
と、機能が限定されることがある。
(2)リリース直前の作業を円滑にするため、
アプリケーションソフトのリリース方式をあ
性能評価・改善の常識
らかじめ決め、実現可能か確認しておく。
(1)性能評価に影響を与えるパラメーター
(3)クライアントに配布するアプリケーシ
の設定を適正化する。たとえばオ
ラクル社の場合、「init.ora」とい
表1 SQL(構造化照会言語)文の十戒
うパラメーターファイルが性能を
・インデックスを殺すべからず。
左右する。
・AND条件はゆるい順、OR条件はきつい順に並べるべし。
(2)アプリケーション(適用業
務)ソフトのチューニングは、ま
ずSQL(構造化照会言語)文を疑
う(表 1 参照)。
(3)アプリケーションソフトの
チューニングで効果が得られない
場合、ハードウェアの増強で解決
・テーブルは大きい順に並べるべし。
・NOTや ! 、= は避けるべし。
・副問い合わせは避けるべし(すべからくJOINすべし)。
・テーブルにはエイリアスをはるべし。
・すべからくEXISTSを用いるべし。
・NULL検索すべからず。
・小さいテーブルにインデックスはるべからず。
・バース(解析)回数を減らすべし。
(資料)Rogers & Ulka, A Database Developer's Guide、London & Tina, Guidelines
and Good Practice for Developing SQL、「ORACLE 7 Server アプリケーション開発
者ガイド」、および「ORACLE 7 Server 概要」
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41
再掲論文
(1)処理概要
入出力(画面、帳票、データベース)がわかる図と処理概要の説
明文を記述
(2)主な機能
登録、変更、削除、問い合わせの別に機能概要を記述
(3)テーブル更新・参照……表で記述
○:更新 △:参照
テーブル名
登録
変更
削除
問い合
わせ
ースの統一」「開発のガイドライ
ン」
「ツールの特性への共通認識」
「性能の向上」
「保守性の向上」に
おく。
(3)オンライン画面であれば、
機能を参照系、更新系など数種類
に分ける。それぞれ雛形を用意し
て、自動生成ツールを用いて生成
(4)入出力画面・出力帳票……表で記述
名 称
させ、生産性の向上を図る。
備 考
入力
(4)画面遷移などのユーザーイ
出力
ンタフェースから内部のエラー処
(5)チェック仕様
①単体チェック……表で記述
ブロック名 フィールド名 必須
理部分までを記述した「標準化手
更新 存在
禁止
チェック内容
引書」と、雛形の使用方法などを
記述した「開発手順書」を作る。
(5)画面や帳票のレイアウト
②関連チェック……表で記述
項番
タイトル
チェック内容
トリガー
は、単体開発が完了してからユー
ザーに提出する。基本設計時に提
出すると、画面や帳票が変わるた
(6)備 考
その他特記事項があれば、ここに記述
(7)画面・帳票イメージ
作成した画面のハードコピーまたはテスト出力した出力帳票
びに修正しなければならない。
(6)詳細設計書は簡略にする
(図 1 参照)
。
図1 詳細設計書の目次(書き方の標準化の例)
ョンソフトのリリース方式も重要である。
ユーザー端末としてのパソコンとGUI
(1)パソコンの頭であるOS(基本ソフト)
標準化の考え方
(1)4 GL(第四世代言語)開発ツールにも
標準化は必要である。ただし、コーディング
の自由度が低いツールは標準化を控えるなど、
ツールの特性を考慮する。
(2)標準化の目的は、
「ユーザーインタフェ
42
の開放には覚悟が必要。クライアントに設定
した各種のパラメーターをユーザーが変更す
る恐れがある。
(2)業務の内容を考えて、使用頻度の高い、
ユーザーのためになる、しかも使いやすいソ
フトウェアを厳選して提供することが大切で
2008年12月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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ある。基本的には、ワープロ、表計算、デー
ータベースアクセスツールなどの基本的な操
タベースアクセスツールが必要だろう。
作研修を何度も実施すべきである。
(3)GUI(グラフィカル・ユーザーインタ
(6)EUCとしばしば抱き合わせで用いられ
フェース)に向くのは画面上で作業が発生し、
るマクロという言葉は、開発者側の売り文句
人間の判断が必要な業務である。単なるデー
になる。しかし、マクロも一つの高級言語な
タ入力が目的の画面は、GUIにすることで逆
ので、安易に導入すべきではない。このこと
に煩雑になる危険性もある。
をユーザーに理解してもらうのも大切である。
(4)GUIの操作インタフェースは、すべて
(7)簡単にEUCが行える定型業務をマクロ
の画面に共通した同じものにする。そのため
対応で引き受けていては、EUCではなくなる。
には、なるべく操作インタフェースが同じ開
(8)ユーザーがデータベースの結合検索を
発ツールを使用する。
行うのはむずかしい。条件設定を誤りやすく、
そのため膨大な検索時間を要したり、ゴミプ
EUCの重要性
ロセスとしてシステムに多大な負荷を与える
(1)EUC(エンドユーザー・コンピューテ
原因となってしまう。また、間違った検索結
ィング)を、End User Confusingにしては
果でも正しいと判断してしまう。こういった
いけない。ユーザーはEUCの本質を十分理解
ことを解決するには、時には正規化を崩して
できずに混乱している。
データベースを設計することも必要である。
(2)自分で自由に検索・加工するためには、
テーブル選択、項目選択、抽出条件指定とい
った煩雑なことも自分で行わねばならないこ
とを、ユーザーに理解してもらう。
重要なノウハウの共有
現在、あらゆる業務処理についてクライア
ント・サーバーシステムの構築が行われてい
(3)定型的な業務では「情報はボタン一つ
る。だが、どのプロジェクトでも過去の類似
で参照したい」というユーザーの要求にこた
プロジェクトの調査が足りず、同じ過ちや失
えるためには、新たに個別の仕組みを作る必
敗をくり返しているのが実情ではないか。
要があることに注意する。
今回のプロジェクトでは、開発にたずさわ
(4)EUCに対する開発者とユーザーのずれ
った全メンバーが、システムのリリース後に
を少しでも埋めるためにも、また定型的な業
社内の発表会でノウハウを披露した。今後は、
務をなるべくEUCで行ってもらうためにも、
こうした現場の最前線のメンバーによる発表
EUC研修の支援が不可欠である。
会を多頻度に、かつ粉飾なく行うことが大切
(5)ユーザーのレベルごとに、表計算やデ
である。
(三田雄仁)
2008年12月号
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43
再掲論文
『マンスリー・レポート』1996/01[環境]
家庭生活のインフラとなるパソコン
1995年にはパソコンの普及台数が急拡大した。これには家庭への普及が大きく寄与
しているが、パソコンがこのまま普及すると、1 ∼ 2 年後には家庭生活の新しいイン
フラになり、企業と家庭のかかわりも大きく変化すると予測される。本稿では、新し
いインフラの形と、企業システムの情報技術の変化について展望する。
急速に進む家庭へのパソコン普及
を逆転すると見られる。また、97年には家庭
1994年度の国内パソコン出荷台数は325万台
だったが、95年度はこれに倍する600万台の出
のパソコンの40%が電話でネットワーク化さ
れると予測される。
荷が予測される。普及には、明らかに、昨年
それでは、このように急速に普及し、ネッ
までとは異なるメカニズムが働いていると思
トワーク化されるパソコンは何を変えるのだ
われ、特に今後は、家庭への普及が急速に進
ろうか。筆者は、パソコンが単純に個別の作
むと予測される(図 1 参照)。
業を支援する便利なツールになるだけではな
すなわち、94年時点で、販売台数の28%が
く、大きく生活の形態を変える家庭生活の新
家庭向けであったものが、97年には45%にな
しいインフラになると考えている。なぜなら、
り、2000年時点ではオフィス向けの出荷台数
パソコンの利用方法の本命はコミュニケーシ
2,500
オフィスへのPC出荷台数
家庭へのPC出荷台数
2,000
オフィスへのPC普及率
(ホワイトカラー当たり)
出
荷 1,500
台
数
︵
万
台 1,000
︶
普及要因
オフィス:パソコン一人一台を目指す
企業の情報化投資
家庭:ワープロを下回る低価格製品
学校/公共施設への普及が家庭
の教育投資に波及
初心者に操作できる製品ライン
アップ
1
0.9
0.8
0.7
家庭へのPC世帯普及率
(世帯当たり)
0.6
0.5
0.4
0.3
普
及
率
︵
台
/
人
︶
・
︵
台
/
世
帯
︶
0.2
500
0.1
0
1991
92
93
94
95
96
97
98
99
2000
0
図1 日本におけるパソコン普及の推移と予測
44
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
情報技術調査室
[著者現職]
野村総合研究所
内部監査室
上席専門スタッフ
清野龍介(きよのりゅうすけ)
ョンツールとしてのものになるか
らである。
サービス
情報提供
公開情報
業種
残高照会
(社)日本電子工業振興協会が
行ったアンケート調査でも、ワー
利用明細照会
金融
企業紹介
商品情報
経営情報
プロ、ゲーム、家計簿などの利用
方法の中で、家庭におけるパソコ
流通
ローン申し込み
住宅ローン
税金・納税・年金
財務・経営診断
利用明細照会
情報メディア
振込・振替
口座開設
電子現金
ローン貸出
商品販売予約
商品検索
ン利用の第1位は、パソコン通信
および電子メールになっており、
商取引
個人(機密)情報 (有料)相談・助言
ヘルプデスク
発注
割賦販売
ソフト販売
/配信
電子出版
上の主張を裏付けている。
すなわち、コミュニケーション
在宅学習
在宅医療
教育・福祉
ツールとしての機能と、以下に述
べるさまざまなサービスのネット
老人ケア
公共
地域情報
ワーク化が相互に作用し合うこと
によって、パソコンが家庭のイン
フラになっていくと考えられる。
証明書発行の申込
利用明細照会
=すでに実現または予定
図2 国内の家庭向けサービスのネットワーク化の状況
と、「情報提供」と「商取引」に分類できる。
ネットワーク化が進む企業・公的サービス
パソコンが家庭のインフラになるためには、
ただし現時点では、
「情報提供」の中でも主に
「公開情報」の提供と、「商取引」の中の通販
単に家庭に入るだけでは不十分である。生活
のための商品発注を中心とするサービスにと
を取りまく環境自体がネットワーク化し、今
どまっている。まだまだネットワーク化は不
のところは人が実際に動いて行っている活動
十分であり、パソコンが家庭生活のインフラ
の多くが、ネットワーク上で代替可能となる
となることを実感するには不十分である。
ことが必要である。図 2 に示されるように、
しかし、今後、新しい分野のサービスがネ
インターネットに代表されるネットワーク環
ットワーク化される兆しがあり、1 ∼ 2 年後
境の整備にともない、家庭へのさまざまなサ
には状況が一変しているだろう。たとえば、
ービスがオープンなネットワーク上で提供さ
国内のある銀行は、1996年 3 月から、オープ
れ始めている。以下では、この図を参照しつ
ンなネットワーク上で、24時間いつでも残高
つ家庭とパソコンとの関わりについて述べる。
照会が可能なサービスを開始するが、これは、
①インターネット上での提供サービス
インターネット上でのサービスを大別する
「情報提供」の中で「個人(機密)情報」の分
野になる。
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45
再掲論文
②個人(機密)情報
感するだろう。これらは、近い将来に実現す
この分野でのサービスは、金融業が先行す
ると見られる。
るであろう。金融業以外のサービスの可能性
としては、クレジットカードの利用状況、ガ
ス、水道料金等の利用状況などの情報提供が
サービスが多種多様になると、どのような
考えられる。また、公的機関のサービスとして
サービスを受けられるかがわからなくなる。
は、住民票等の証明書の発行申請や住所変更
また、選択の幅が多岐にわたるほど、ますま
の手続のネットワーク処理などが考えられる。
す何を選択したらよいかわからなくなる。
③(有料)相談・助言情報
こうした問題に対するソリューションの例
これも今後、急速にネットワーク化が進む
として、米国アンダーセン・コンサルティン
可能性の高い分野で、住宅ローン、税金、相
グ社が電子商取引のための実験として提供し
続などのサービスがネットワーク化されるだ
ている情報検索ツール「バーゲンファインダ
ろう。顧客が自分でシミュレーションを行う
ー」があり、ユーザーの欲しいCDを最も安く
ためのソフトウェアをネットワーク上で提供
ショッピングしてくれる。ユーザーが特定の
することも考えられる。金融業とともに教
CDのタイトルとプレイヤー名を入力すると、
育・福祉でこの分野が進展するだろう。
ツールがインターネット上の 9 カ所のCDショ
「コンピュータを利用している際にぶつかる
ップを訪問し、それぞれの値段を聞き、一覧
疑問に答えてくれる」ヘルプデスクもこの分
表にまとめてくれるのである。このような便
野のサービスに属するが、米国では、不特定
利なツールがあって初めてネットワーク化さ
多数のユーザーを低コストでサポートするた
れたサービスを有効活用できる。
めに、オンライン化している例が多い。
しかし、単純にCDショップがインターネッ
国内でも、最近、顧客に対する問い合わせ
ト上のサービスとして提供されているだけで
対応を代行するための新会社を設立したケー
は「バーゲンファインダー」の機能は実現し
スが出ているが、この新しいサービスがビジ
ない。各CDショップのホームページがCDを
ネスとなるだけの広がりを持つと判断したか
検索する機能を持っているからこそ実現でき
らだろう。
たわけである。
④商取引
46
社会的なルールが必要
このように、各種サービスをネットワーク
銀行の口座が家庭のパソコンから開設でき
で提供する際には、サービスに応じて必要と
たり、本格的な電子マネーが実現したあかつ
なる機能なり、フォーマットなりについての
きには、パソコンがインフラとなることを実
標準化が必要になる。
2008年12月号
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変わる企業の情報システム
家庭へのパソコンの普及を企業体から見る
情報を有効活用すべく、顧客データや取引デ
ータのような「大容量データの処理」を行う
と、顧客とのやりとりが直接化することにな
ための技術である。個別の情報技術としては、
り、情報システムの考え方にも大きな影響が
スーパーサーバー(並列機、ユニックス機、
及んでくる。たとえば、月 1 回わざわざ郵便
高性能パソコン)やデータベース技術に加え
で通知していた公共料金を、ネットワークで
て、大容量データの中から「有用な情報を発
提供してコストダウンを図るケースも出てく
見」する技術が重要になる。OLAP(Online
るだろう。また集金人が家庭まで行って集金
Analytical Processing)、データマイニング
したり、銀行振込していた料金をネットワー
などが、これに対応する情報技術である。
クを通じて直接支払うケースも考えられる。
③デザインセンス
このような変化を先取りして情報システム
今後は「情報の見せ方」が重要になる。情
戦略を立案することが、これから企業の競争
報の中身が良くても、見かけが悪ければ、顧
優位を築くことに貢献するのである。
客はその情報にアクセスしなくなるであろう
企業の情報システムを構築するための情報
ことは疑いがない。そこで今までの情報技術
技術も大きく変化する。以下では、今後重要
のセンスだけではなく、デザインのセンスも
になる情報技術について述べる。
必要になるのである。
①オープン・ネットワークと情報システム
の接続
インターネット上に情報を公開する場合、
④課金の仕組み
サービスに応じて課金の方法も変わる。固
定的な料金だけではなく、ヘルプデスクのよ
今のところはRDB(リレーショナルデータベ
うに利用時間または利用回数に応じた課金の
ース)のデータやワープロソフトで作った情
仕組みが必要になる。
報をいちいちホームページ作成言語である
HTML(ハイパーテキスト・マークアップラ
家庭へのパソコンの普及とネットワーク化
ンゲージ)に変換する必要がある。そこで、
により、これからの情報システムには、より
もっとシームレスに接続する仕組みが必要に
ユーザーフレンドリーなものが求められるよ
なる。また、従来以上に、セキュリティ技術
うになり、作り手の技量によりでき映えに大
が重要となる。
きな差が出ることとなる。そして、システム
②ビジネス・コンテクスト
「ビジネス・コンテクスト」とは、有用な情報
を作成・管理するための技術であり、顧客の
開発には、今まで以上に情報技術の総合力が
必要になってくるのである。
(清野龍介)
2008年12月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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47
再掲論文
『マンスリー・レポート』1996/10[視点]
三つの方向に進化するイントラネット
「インターネット」は、数十万の企業や数千
発信をすることができる。そしてこれに全文
万の個人をつなぐ、きわめてオープンなネッ
検索のシステムが加われば、優れた企業内ス
トワークであり、それらの企業や個人がお互
キル・インベントリー・システムとなり、社
いをいつでも参照しあえるきわめて透明性の
員の特異な能力や創造性を引き出したいとい
高いネットワークである。
う経営ニーズによく対応するものとなる。
しかしながら、このオープンで透明性の高
さらにイントラネットは、経営者と社員
いネットワークを、ファイアウォール技術で
個々をネットワークで直結させるツールでも
外部と遮断し、暗号技術やアクセス管理技術
ある。当社では、毎週の経営会議のたびに、
を活用して情報流に濃淡をつければ、「イン
社長が会議での議論の内容や自身の見解をA
トラネット」という企業の内部管理用の優れ
4版用紙 1 枚程度にまとめ、Web(ウェブ)
た経営ツールとなる。
と電子メールで、その日のうちに全社員に発
PC(パソコン)一人一台の環境が整った
信している。そして電子メールについては、
企業では、イントラネットにより、従来の大
社員の側から社長に対して直接コメントや意
型汎用機系やクライアント・サーバー・シス
見を打ち返すことができるようになっている。
テム(CSS)系のシステムでは実現困難であっ
電子メールという非対面オン・デマンドの
た「社員個々を単位とした全社レベルの情報
コミュニケーションツールによって、数千人
共有システム」が容易に実現できるのである。
規模の会社であっても、社長と社員個々が一
対一で、随時コミュニケートすることが可能
「全社情報共有イントラネット」では、社員
個々が情報のネットワーク発信を行うことが
になるのである。
このようにイントラネットは、企業内コミ
できる。たとえば当社のイントラネットでは、
ュニケーションを、従来の統合・集中・管理
社員が半期ごとに提出する人事自己申告は、
型の情報システムではなく、個人を単位とし
全社共有情報のホームページから取ってくる
た自律・分散・協調型の柔軟なネットワーク
書式に社員個々が直接入力すれば、それがそ
で、安価かつ高効率に実現していく手段を提
のまま人事データベースに取り込まれ、自動
供している。すなわち、アジリティ(俊敏さ)
的に完了するようになっている。
と創造性を強く求められている1990年代後半
イントラネットが個人ホームページの仕組
みを持てば、一定の節度の下で、自身の能力
の日本企業にとって、出現すべくして出現し
た経営ツールであるといえよう。
や意見、履歴などについて、社員個々がマル
チメディアの表現モードで、思いきった情報
48
これまで述べたように、イントラネットは
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[著者・執筆時所属]
野村総合研究所
取締役新社会システム事業本部長
[著者現職]
野村総合研究所
シニア・フェロー
村上輝康(むらかみてるやす)
優れた全社情報共有のツールであるが、決し
の情報システムに、従来のシステムでは実現
てそこで終わるものではない。もっと大きな
困難であった、「生々しさ」や「ダイナミズ
可能性を秘めたものであると思う。つまり、
ム」を付与できるようになるであろう。
イントラネットは今後どんどん進化していく
第三は、既存の業務系システムと連結して、
と考えている。そして、その進化は、当面、
より高度な効用を発揮する「統合イントラネ
次の三つの方向で進行していくと思われる。
ット」への方向である。既存のグループウェ
第一は、全社情報共有ツールから、報告・
アやCSS、さらには大型汎用機のデータベー
連絡・相談等、多様なコミュニケーションニ
スとの連動性を獲得することで、営業の最前
ーズへの対応を、事業部門単位で行う「部門
線や経営の意思決定の先端にいる社員個々に
イントラネット」への方向である。全社情報
対して、オンライン・リアルタイムで高品質
共有システムとしてのイントラネットの効用
な情報を提供し、アジャイル・コンペティシ
に強い印象を受けた部門長が、その仕組みを
ョンに欠かせない、俊敏な経営基盤を提供す
自分の統括部門の中だけで、閉じて活用した
るのである。
いと考えるまでに、さほど時間はかかるまい。
つまりイントラネットは、既存の大型汎用
ただしこの場合には、全社情報共有システ
機やCSSのシステムを、代替したり、補完し
ムが、できるだけフラットな形の自由な情報
たりするものではなく、共生するものなので
交流を重視したのに対して、ある程度の階層
ある。
構造が必要になってくるであろう。情報の授
受にともなう部門内認証や、他本部に対する
当社でイントラネット事業を推進する新社
社内ファイアウォールすら必要かもしれない。
会システム事業本部が、その新組織発足に当
第二は、単なる社員相互の情報交流を超え
たって7月に開催したフォーラムでのアンケ
て、人事、営業、研究開発などの、経営の個
ートでは、すでにイントラネット構築に着手
別機能を担う「機能イントラネット」への方
した企業が全体の29%、今後に予定している
向である。これらの個別機能分野では、写真、
企業が36%と、実に65%の企業が近いうちに
図面、概念図などのカラー映像情報が直感的
イントラネットを構築するとの回答を得た。
なコミュニケーションのために重要であるが、
もちろんこの結果は、日本企業全体に一般
イントラネットはこのようなマルチメディア
化できるものではないが、先進的な企業にと
情報の授受を、非常に手軽に実現してくれる。
っては、すでにイントラネットが必要不可欠
また、カット・アンド・ペーストや入力・
な経営ツールとなりつつあることだけは確か
修正が個人単位で行えるため、人事や営業等
であろう。
(村上輝康)
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49
再掲論文
『マンスリー・レポート』1997/10[視点]
「オーイおじさん」と「情報リテラシー」
ホワイトカラーの生産性向上が叫ばれて久
工場の案内役の方の説明を聞きながら、ふ
しい。製造工場における生産性の飛躍的な向
と思い浮かんだのが、「この工場には、『情報
上に比較して、オフィスでの生産性がなかな
リテラシー』という言葉はいらないな」とい
か高まらない、というのがその論旨である。
うことであった。そもそも、そういう発想自
また、情報技術(IT)の活用により、米国の
体が存在しないのである。相手がコンピュー
ホワイトカラーの生産性が大幅に向上してい
タであれ、加工機械であれ、工具であれ、プ
るのに対して、日本のオフィスは旧態依然と
ロセスを預かる担当者としてそれらを使いこ
しており生産性が低い、という声も強い。
なせるのは、当たり前のことなのである。
一方、オフィスにおいて「情報リテラシー」
先日、ある大手メーカーの製造工場を見学
は、時流に乗った言葉のひとつである。たと
する機会があった。随分久しぶりであるうえ
えば、「当社では、一人に一台のパソコン
に、ちょうどホワイトカラーの生産性問題を
(PC)が設置されるのは、初めてのことであ
議論した直後でもあったので、これまでにな
る。機械に弱く、PCなどの操作経験のない人
く真摯(し)な心持ちでじっくりと見て回った。
たちにも、新システムの操作に慣れてもらい、
改めて言うまでもないことだが、製造プロ
活用してもらうために、
『情報リテラシー』研
セスの流れの最適化、各工程での効率化、合
修を実施しよう」という具合である。
理化が徹底していた。秒単位でのスピードア
このコンテクストには、
「コンピュータは特
ップ、0.01%単位での不良率の削減、作業員
殊なツールでホワイトカラーの仕事の本質と
一人ひとりの動作の標準化など、徹底した効
は関係が薄い。なるべくなら身につけてほし
率化、合理化への努力が、組織の遺伝子に組
いが、あまり強制するのもはばかられる」と
み込まれているような印象を受けた。
いうニュアンスが含まれている。
最新鋭の工場であっても、すべてが機械化
50
されているわけではなく、むしろ人手の方が
最近、ある国際コンファレンスでこんなこ
柔軟な対応ができ、効率的である場合も多い
とがあった。スピーカーの一人である米国企
という。人手が介在する工程では、何秒で次
業幹部が、控室でノートPCを操作していた。
の工程に回せるか、ミスをいかに減らすか、
貫禄のある初老の紳士然とした彼は、コンピ
そのために機械をどう使い、どのような角度
ュータ関連企業の人ではなかったが、その操
で操作するか、などが徹底して検証されてい
作のスピードには舌を巻いてしまった。単純
た。もちろん、機械操作や利用ソフトに習熟
な文章入力のみでなく、複雑な絵やグラフを
していることは、最低限の要件とされていた。
駆使した資料を即席で作成している。間もな
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[著者・執筆時所属]
NRIラーニングネットワーク
取締役社長
室井雅博(むろいまさひろ)
[著者現職]
野村総合研究所
取締役専務執行役員
本社機構担当、経営企画、広報、
情報セキュリティ、情報システム担当
研究創発センター長
く始まる講演の資料に手を入れているのだ。
作を教えてもらおうとする管理職をそう呼ぶ
彼いわく、「このPCは知的作業をビジュア
のだそうである。彼女たちからは管理職とい
ライズするための道具である。頭の中にある
えども、仕事の流れを妨げる、覚えの悪い中
ことをスピーディにデジタル化できることは、
年のおじさんということなのかもしれない。
口頭で論理的な発表ができることと同様、知
見に覚えがある者の一人としては、
「そこま
的ワーカーにとって必須の能力である。オフ
で邪魔者扱いしなくても……」と思うのでは
ィスは知的ワーカーの集合体であり、全員が
あるが、確かに製造工場のラインの中で「オ
デジタルツールを自由自在に使いこなせるこ
ーイ」と声をかけてのんびり操作を教わる人
とは、ミニマムの条件である」
。この人物の辞
がいないのも事実であろう。先ほどの米国企
書にも、
「情報リテラシー」という言葉は存在
業幹部の言葉を借りれば、
「最低限のツールが
しないようである。
使いこなせないのは、もっての外」なのかも
確かに先進的な米国企業のオフィスを訪問
しれない。
すると、そのスピードに驚かされることが多
どうやら、①各種PC・ソフトウェアなどを
い。イントラネットが張り巡らされ、各人の
自由自在に使いこなせること、②タッチタイ
業務をプロセスとして繋ぐワークフローがネ
ピングができ、話すスピードでキーボードが
ットワーク上で定義され、ものすごいスピー
打てることは、オフィスのプロフェッショナ
ドで情報が流れていくのである。
ルとしての最低条件となり、③ネットワーク
情報の内容は、融資の審査であったり、注
やデータベースを駆使して情報の検索、加工、
文データであったり、大型機械の設計情報で
分析などが自在にできること、④情報システ
あったりする。プロセスがきちんと連携して
ムを活用してビジネス上の付加価値を飛躍的
スムーズに流れているだけでなく、各プロセ
に高めることも、できて当然という時代が来
スでのワークステーションの操作スピードが
ているのかもしれない。
非常に速い。丁度、製造工場の中で、自動化
機器を操作している人の動きによく似ている。
オフィスの中で「情報リテラシー」という
言葉が必要でなくなる日を目指して、製造工
日本の大企業のある若いOLによると、最近
場並みの努力と、徹底した操作研修が必要と
オフィスの中に「オーイおじさん」が異常増
されているようである。少なくとも、
「オーイ
殖しているそうである。オフィスの窓寄りの
おじさん」という呼称は、早めに返上してお
役職席から「オーイ、何々ちゃん、ちょっと
きたいものである。
教えて」と声をかけ、最近導入されたPCの操
(NRIラーニングネットワーク 室井雅博)
2008年12月号
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51
再掲論文
『システム・マンスリー』1998/08[視点]
CSSプロジェクトのマネージャー心得集
PC(パソコン)の普及や性能の向上で、
ント」とでも呼んだらよかろうか。
クライアント・サーバー・システム(CSS)
構築の機会が増えているが、そこでは、最新
CSSは、JAD(Joint Application Develop-
の情報技術に加え、高度な管理技術が求めら
ment)の手法やGUI(グラフィカル・ユー
れる。以下では、著者の経験をベースに、
ザーインタフェース)などの採用で、ユーザ
CSS構築プロジェクトのマネジメントで、特
ーニーズにマッチしたシステムを、より簡単
に留意すべき要点(心得)を整理してみた。
に、より迅速に構築できるようになった。
しかし、その結果、システムのデザインが、
CSSの構築では、プロジェクトマネージャ
見た目のユーザー満足の追求に偏するように
ー(PM)は、初めての新技術や新手法を使
なり、本番開始の直前に「性能問題」が多発
わなければならないことが非常に多い。リス
するようになってきている。
クも格段に高くなる。しかし、それを理由に、
恐れたり、気後れしたりしてはいけない。
データ入力後の「レスポンスに 5 分もかか
るリアルタイム処理」や「朝になっても終わ
PMが、まずすべきことは、次の 3 点である。
らないバッチ処理」といった問題に、頻繁に
①システムの完成図(構成図)のデザイン
遭遇する。これらの場合のほとんどは、デザ
②システム実現のためのタスクの洗い出し
インバランスの悪さに起因している。
とスケジューリング
いうまでもなくシステムでは、機能、性能、
③タスク実施のための体制作り
運用の 3 つが調和したデザインが重要である。
PMは、これらを行うに当たって、他の専門
本番の稼働直前に大騒ぎしないように、机上
家の協力も仰ぐことになるが、その内容につ
評価、パイロットシステムの構築など、細心
いては、自分なりに理解しておくことが重要
の注意を払ったマネジメントが求められる。
である。その結果を踏まえ、上記 3 点がクリ
アできれば、成功の確率70%は堅いといえる。
「動かないコンピュータ」になったようなプ
はWindows NT、UNIX、開発言語はC、VB
ロジェクトでは、PMが上記①②③を自ら行
(ビジュアル・ベーシック)、データベースは
わず、他のメンバー任せにし、彼らからのド
ORACLE、SYBASEなど、非常に多様で複
キュメントを、単純にホッチキスでとめて管
雑である。そしてPMは、そのような環境の
理していたため、正式に報告されていない真
中で、システムの構築にかかる工数や金額の
の問題を、把握・指摘できなかったというケ
見積もりを強いられている。
ースが多々あった。「ホッチキス・マネジメ
52
CSSのシステム環境は、OS(基本ソフト)
CSSでは、見積もり手法が確立されていな
2008年12月号
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Copyright © 2008 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
[著者・執筆時所属]
NRI情報システム
取締役金融システムサービス本部長
[著者現職]
野村総合研究所
常勤監査役
栗之丸孝義(くりのまるたかよし)
いことに加え、採用した開発手法や技術の違
応援要員を投入しても、システムの構造す
いによって、生産性に数十倍の差が出るのが
らすぐにわからないため、役には立たない。
普通である。また、実行すべきタスクを初期
これでは、本番稼働後のエンハンスメントに
の段階であげきれないような事態も起こる。
支障が出てくることも当然であるといえよう。
問題プロジェクトの原因に当たってみる
したがって、どんな簡単なシステムでも、
と、当初の見積もりの甘さや無謀さが第一に
必要なドキュメントは必ず残し、後事への備
あげられるが、そのような場合の回避策とし
えとしなければならない。PMは、確固たる
ては「 2 点見積もり」を行うとよいであろう。
信念を持ち、最低限必要なドキュメントの作
「ファンクションポイント(FP)法」と「タ
成をメンバーに義務づけるべきである。
スクブレークダウン(TBD)法」による2つ
の見積もりを比較・調整するのである。
FP法の説明は、既存の文献に譲るが。
CSSでは、システム環境の複雑化などで、
問題の発見が遅れ、その対応に苦慮するケー
TBD法では、他の専門家のノウハウを借り
スが増えているが、その解決策は、問題に対
たり、割り当て可能なメンバーの実力を想定
するスタンスの変更にあると思う。すなわち、
したりしながら、必要なタスクの洗い出しと
「ネバー・ギブアップ」ではなく、「オープ
想定日数の算定を行い、概略のスケジューリ
ン・ギブアップ」を提案したい。「ギブアッ
ングを行い、工数を集計していく。
プを早くオープンにし、問題解決のために衆
そして、2 つの手法による見積もり結果を
知を結集しよう」という意味である。
比較調整していくのであるが、いずれにして
問題の解決を当事者に押しつけ、自らの強
もPMは、見積もりの実績を積み、自分なり
いところにしか口をはさまないようなPMの
の手法を確立する必要があろう。
下では、問題はなかなかオープンにならず、
なったとしても手遅れになりやすい。「オー
CSSでは、スピーディなシステム対応が求
められるが、その結果、開発現場ではユーザ
プン・ギブアップ」の運営ができるかどうか
は、PMの人間性そのものにかかっている。
ーにニーズを聞いてはすぐPCに向かい、ソ
フトウェアを作るのが常態となっている。
システムは、動いて初めてユーザーの期待
基本設計書、詳細設計書はもちろん、テス
に応えるものとなる。PMは、このことを念
ト設計書、リリース計画書もないままで開発
頭に、人間性やリーダーシップを磨き、成功
されるのでは、進捗の遅延、品質の不安定な
体験を積み上げていってほしいものである。
どが発生したとき、お手上げの状態となる。
(NRI情報システム 栗之丸孝義)
2008年12月号
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再掲論文
『システム・マンスリー』1998/10[視点]
大規模システムとプレハブ型システム開発
大型汎用機のシステムとCSS(クライアン
と同じであるが、特にCSSでは、OS(基本
ト・サーバー・システム)の開発手法の違い
ソフト)、RDB(リレーショナル・データベ
は、建築の世界でいう、注文建築とプレハブ
ース)、ビジュアル開発ツールなどの「部品」
建築のそれに当てはめることができる。
の選定が最も大切となる。
大型汎用機系では、通常、採用したベンダ
技術進歩の激しい分野でもあるので、特に
ーの持っている以外のシステムを使うことは
部品は、現時点での機能やサポート体制の優
ない。それは、ベンダーごとに閉じた世界で
劣だけでなく、デファクト・スタンダード
あり、他のソフトウェアを使うと、かえって
(事実上の標準)として、長く使えるように
開発面や運用面で非効率となるからである。
なるものを選ばねばならない。これは、場合
建築でいうと、予算と家族構成と希望を伝え
によっては製品の機能アップが止まるだけで
て、あとは棟梁に任せる注文建築といえる。
なく、製品を供給している企業そのものがな
CSSでは逆に、1社でハードウェアから基
くなるケースすらあるからである。
盤ソフトまでを提供しているベンダーがない
ために、数社のソフトウェアを組み合わせて
大規模システム開発で難しいのは、性能や
使わざるを得ない。またクライアント側の機
信頼性の確保である。CSSの場合は、これま
能が大幅に向上しており、表計算ソフトやグ
で比較的小規模なものが多かったことと、集
ループウェアなど、いろいろなソフトウェア
めて組み合わせる方式のため、それらをあま
があるため、開発しなければならない範囲が
り気にしないでも何とかなってきた。
狭くなっている。これは、部品を集めておい
最近になって、CSSで大規模システムを作
て、現場では組み立てるだけというプレハブ
り始めるようになったが、そのようなプロジ
建築によく似た作り方といえる。
ェクトでは、性能が出ない、思ったよりトラ
注文建築の良さが出るのは棟梁の腕前が良
ブルが多くて困る――といった事態があちこ
いときである。長年の経験から注文主の気づ
ちで発生している。これは大型汎用機系の時
かないようなところにまで気を配り、なおか
代に培った大規模システム設計のやり方を無
つ予算と納期を守ってくれる。これに対して、
視しているからである。
プレハブ建築は材料によってほぼ住宅の質が
大型汎用機系では、特に大規模な業務系シ
決まり、現場の施工で左右される割合は少な
ステムを作る場合には、最初に性能目標を決
い。しかし、材料が悪いと手のつけようがな
め、設計フェーズに応じて何回も性能評価を
いという意味で、その選定が重要である。
行う。もし所定の性能が出ないならば、早め
システムも「組立加工」という点では建築
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早めに対策を講じる。信頼性も概要設計時点
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野村総合研究所
取締役情報技術本部長
[著者現職]
野村総合研究所
取締役会長兼社長
藤沼彰久(ふじぬまあきひさ)
で目標を明確にし、必要なハードウェアの確
③プロトタイプによる評価に頼らざるを得
保、ソフトウェアの選定、改造などを行って
ないため、スケジュールには 2 カ月の余
きた。これを「方式設計」といっている。
裕を持たせる
CSSにおいても大規模なシステムの場合は
方式設計を導入すべきであると考える。ただ
本号の特集では、2 つのミドルウェアとPC
し、大型汎用機系とは異なり複数ベンダーの
(パソコン)上のOLAP(オンライン・トラ
製品で構築するために、性能評価や信頼性の
ンザクション処理)用のソフトウェアの紹介
設計が机上では難しい。そのため、早めにプ
を行っている。前二者は、SI(システムイン
ロトタイプを開発し、実測による評価を行う
テグレーター)である当社の経験から開発さ
のである。信頼性の評価も同様で、いくつか
れたものであり、当社のCSS構築ノウハウの
のベンダーの製品を組み合わせ、できるだけ
集大成となっている。
本番環境に近い構成でチェックするのである。
これらは、大規模CSS構築の基盤技術とし
て、それぞれ用途に特徴を持っている。以下
大型汎用機系システム開発する場合、「ベ
ンダーを決めるまでが主人で、決めてからは
に、それらの位置づけを簡単に述べておく。
①infoSTAR
召し使い」とよくいわれる。これは、一度開
既存システムとの連動機能を持つ大規模
発が始まるとベンダーを変えることがいかに
CSSの技術基盤である。大型汎用機やCSSに
難しいかを表現している。これをCSSに当て
データベースを提供する機能があり、ユーザ
はめてみると、「ベンダーを決めるまでも、
ーは任意の分析を手元で行うことができる。
決めてからも常に主人、しかし召し使いのい
②Notes 3Tier Works
ない主人」である。
CSSの場合、部品の取り替えは比較的容易
当社の統合型オフィス支援プラットフォー
ム“Infoworks”と米Lotus社のグループウェ
であるが、ベンダーは複数なので、彼らは責
ア“Lotus Notes”とをシームレスに繋ぎ、
任を取らない。構築の最終的な責任はすべて
Notes 環境と既存システム(大型汎用機、
自分に帰されるのである。そのようなことに
CSS)環境を融合する架け橋となる。
ならないための対策は、次の 3 点である。
③Probe NT
①情報収集には費用を惜しまない
②性能や信頼性の確保の本質は大型汎用機
系と何ら変わってないので、基礎的なス
キルを身につける
PC上でのOLAPやアプリケーションの開
発ツールであり、トランザクションの多いシ
ステムをPC上で稼働させる場合に使う。
(野村総合研究所 藤沼彰久)
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再掲論文
『システム・マンスリー』1998/12[視点]
情報社会の命綱
情報社会の進展は、日々その歩みを速めて
おり、われわれの生活に利便性や快適性をも
ほど無防備なのが、わが国の常のようである。
特にシステム技術者の仕事では、業務を円
たらしてくれている。しかし、その一方で、
滑に遂行するのに、日頃のチームワークや相
これと表裏の関係にある「陥穽(おとしあな)
」
互の信頼感が重要な役割を果たすが、このた
に遭遇する機会も増えてきている。「情報の
め彼らは、「身内を装う」こととか「仲間の
機密(Security)、保全(Integrity)」に関す
行動を性悪説を前提に考える」ことが、極め
る犯罪や事故が、その代表である。
て苦手な集団になっているといってよい。
情報セキュリティにまつわる犯罪や事故が
情報セキュリティに関する議論では、「楽
起これば、マスコミのほとんどは、「情報社
観主義」と「悲観主義」とが常に交錯する。
会のアキレス腱」というように、ネガティブ
このことは、「守るべき情報やデータ」に関
な論調で取り上げるのが通例で、情報産業に
わる人間を「性善説」で見るか「性悪説」で見
身を置く者の心胆を寒からしめることになる。
るかといった、人間理解の根本に通じている。
今年、某都市銀行、某人材派遣会社で起き
た、顧客データや派遣スタッフ個人データの
犯罪や事故への対応策、防止策を検討する
漏洩事件などは、まさにその典型例で、多く
に当たっては、「性善説」や「楽観主義」で
の企業に、情報セキュリティ犯罪の防止対策
は危険が大きすぎ論外である。しかし、議論
の検討や取り組みを急がせることとなった。
の多くは、「性悪説」や「ワーストシナリオ」
を想定した“膨大な対応コスト”や“生産性
ここ数年、インターネットの急速な普及と
ビジネスへの適用の拡大が進んだが、これに
皆で「善良な博愛主義者」となり、幸運を祈
ともない、高度なIT(情報技術)を駆使す
ることで終わっているのではなかろうか。
る「ハッカー」や「コンピュータ・ウイルス」
56
を阻害する種々の運用面での制約”に直面し、
実際、「ダウンサイジング」「オープン化」
への対抗手段として、ネットワーク経由の外
「ネットワーク化」という言葉に代表される
部侵入を防ぐファイアウォールや、データの
ITの進歩は、“守るべき情報”の器である
暗号化、個人認証といった、防御技術の実用
“データベース”の「共有化」「分散化」を実
化とビジネス化が進み、脚光を浴びている。
現したが、その運用と安全対策のかなりの部
しかしながら、外部の不心得者に対する防
分をエンドユーザーに依存する結果となって
御策には、十分に知恵を絞り、多額のコスト
いる。厳密な入館・入室チェックを経て、限
をかけるのに比較して、内部者またはそれに
られた一握りの人間が大型コンピュータを操
準ずる者たちの不法行為に対しては、呆れる
作していた時代が恨めしいばかりである。
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取締役証券システム本部長兼プロジェクト監理室長
鈴木 純(すずきじゅん)
モバイルコンピュータや情報記録媒体の小
型・大容量化は、情報やデータの持ち出しチ
ェックに膨大なコストを課する結果となる。
[著者現職]
野村総合研究所
専務執行役員
基盤・アジアシステム担当
②部門組織的な施策
・セキュリティエリアの特定と例外のない
入退出チェック
また、コストだけでなく、VIP(重要人物)や
・パスワードやIDカードの厳密な運用
女性なども含めた厳密なボディチェックは、
・施錠励行、整理整頓、机上放置の禁止
一般企業では果たしてどこまで可能だろうか。
・モバイルコンピュータ持ち込みの禁止
終身雇用が多くの企業で過去のものとなり、
(例外届出制)
労働市場の流動化が進んでいくことも、セキ
・記録媒体持ち出しの禁止(例外届出制)
ュリティ対策に負荷をかける要素となろう。
・私物持ち込みの禁止
不法行為の目的も「金目当て」だけであれ
③技術的な施策
ばまだいい。その場合は「金になる=価値の
・情報やデータ、電子メールの暗号化
ある情報・データ」を特定し、それを守れば
・バイオメトリクス(Biometrics:指紋、
よいことになる(もちろん簡単ではない)
。こ
虹彩などの計測)を利用した個人認証
れに対し、犯罪目的が「情報を漏洩した企業
これらを一つひとつ、根気よく吟味しなが
の信用失墜(恨みなどによる業務妨害)」や
ら、「善なる人間」に“できごころ”を起こ
「世の中を騒がしたいという愉快犯」であれ
させない教育・啓蒙・牽制機能を組み込み、
ば、守るべき対象の範囲は膨大なものとなる。
「悪意をもった人間」に対する鉄壁の防御と、
しかし、天を仰いで嘆息していても、こと
万が一の場合の追跡機能を備えた、企業個別
は先に進まない。われわれは、不法行為を犯
の情報セキュリティシステムを運用可能な形
す者への怒りをバネに、可能な範囲で、でき
態で実現し、リーズナブルなコストで提供し
得る限りの対策を講じ、立ち向かっていかな
ていくことは、システム面で情報産業に携わ
ければならないのである。
る者の大きな責務であるといえよう。
われわれが、情報セキュリティ確保のため
「人間は生来善である」ことを、これからも
になすべきことは多いが、その施策は大まか
信じていきたい。そして進みゆく情報社会に
には、次のようなものになるであろう。
おいて、「善なる人間たち」の相互信頼を支
①全社組織的な施策
・企業としてのセキュリティポリシーやセ
キュリティルールの策定
・情報セキュリティに関する教育、啓蒙
える「情報セキュリティシステム」こそは、
「情報革命という名の帰らざる河」を渡って
しまった現代社会の命綱であると思う。
(NRI情報システム 鈴木 純)
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