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湖・沼・池の環境研究30年

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湖・沼・池の環境研究30年
天・地・人と向き合って
湖・沼・池の環境研究30年
――アオコから生物多様性・自然の再生へ――
生物多様性研究プロジェクト 多様性機能研究チーム 高村 典子
湖沼は、その流域の末端に位置するため、流域の人間活
物プランクトン量を下げることができるということです。
動の影響を大きく受けています。たとえば、農業および生
このように食物連鎖の上位の生き物が変化することで、植
活排水の流入、水利用や洪水防止のための湖岸の改変や水
物プランクトン量や透明度が変化した湖もあります。例え
位操作、外来魚(ブラックバスやブルーギルなど)や有用
ば、十和田湖では1980年代半ばから水中の窒素やリンの
魚の放流などがあげられますが、こうした要因の強弱は、
増加が認められないのに透明度が低下し、ヒメマスの不漁
湖の位置する地域性が強く反映され、また時代とともに変
に悩まされていましたが、その原因はワカサギの導入によ
化します。そのため、「湖沼は、いわば文明の症状を映す
る大型種から小型種への動物プランクトン種の変化に起因
鏡である」と第一回世界湖沼会議の琵琶湖宣言(1984)
することも私たちの調査研究で明らかになりました。
にも述べられています。
近年、水辺の生物多様性の著しい減少が指摘されていま
1970年代、琵琶湖や霞ヶ浦では富栄養化が原因とみら
す。湖沼も例外ではありません。水辺の生物多様性を保全
れる赤潮やアオコの大発生が顕在化しました。国立環境研
するにはどのような環境要素を大切にしなければならない
究所では1976年から数年間、霞ヶ浦の富栄養化に関する
のでしょうか。私たちは景観や植生の異なる35個のため
総合的な研究に取り組みました。その後も月1度の霞ヶ浦
池をモデルとして答えを出そうとしています。トンボをは
の水質・プランクトン・ベントスのモニタリングが続けら
じめとする多くの水辺の生き物の多様性にとって、水辺に
れています。この間、霞ヶ浦では植物プランクトンの優占
隣接する森林の存在、池の中の水生植物群落、コンクリー
種が数回ダイナミックに変化しました。こうしたモニタリ
ト護岸を施されていない自然の堰堤は正の効果、一方、水
ングデータから霞ヶ浦の状態をある程度、診断することが
中の窒素濃度には負の効果がありました。従って、湖沼の
できます。しかし、変化の要因を特定することは容易では
生物多様性を回復させるには、富栄養化防止とともに水辺
ありません。なぜなら、こうした変化にはたいてい複数の
の植生を保全することが大切になります。多くの湖では、
要因が複雑にからみあっているからです。
治水・利水のための水位操作に備えて護岸が施され、沿岸
霞ヶ浦生態系の生物間の複雑な関係を解明するための一
域の水生植物帯がなくなってきました。そのため、失われ
つの方法として、隔離水界という実験生態系を用い、ハク
てきた植生帯を再生しようとする取り組みが始まり、霞ヶ
レンというアオコを食べる魚の数を人為的に制御する実験
浦でも現在行われています。私たちはこうした取り組みに
を行いました。一連の実験から明らかになったことの一つ
参加しながら、今後、生物多様性を取り戻すことの意義を
は、霞ヶ浦では魚を除去することで中型の動物プランクト
明らかにしていきたいと考えています。
ンを増やし、その動物プランクトンの摂食活動を通して植
霞ヶ浦に構築された6基の隔離水界。隔離水界内でハクレンを操作す
ることにより、水質、プランクトンおよび魚の相互の関係を紐解く。
霞ヶ浦の植生帯の復元箇所。
魚を除去することで、透明度
を上げた。底泥に撒いた浚渫土
の中に含まれていた水生植物の散
布体からヒシ、ササバモ、クロモ、
コカナダモ、オオカナダモが再生した。
ササバモ
ヒシ
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