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TMI 中国最新法令情報 ―(2012 年 6 月号)

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TMI 中国最新法令情報 ―(2012 年 6 月号)
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TMI 中国最新法令情報
―(2012 年 6 月号)―
TMI 総合法律事務所
〒106-6123 東京都港区六本木 6-10-1
六本木ヒルズ森タワー23 階
TEL: +81-(0)3-6438-5511
FAX: +81-(0)3-6438-5522
E-mail: [email protected]
〒200031 上海市淮海中路 1045 号
淮海国際広場 2606 室
TEL: +86-(0)21-5465-2233
FAX: +86-(0)21-5465-5745
E-mail: [email protected]
皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。なお、バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきま
すので、併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/office/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
(1) 中国インターネット情報センタードメインネーム登録実施細則(2012 年改正)
中国インターネット情報センタードメインネーム紛争解決弁法(2012 年改正)
中国インターネット情報センタードメインネーム紛争解決手続規則(2012 年改正)
(2) 遊休地処置弁法(2012 年改正)
(3) 国家外貨管理局による民間投資の健全発展の奨励及び誘導における外貨管理の問題
に関する通知
二.連載
中国企業法実務/第二弾:各種契約締結の実務(第 3 回
労働契約)
三.上海法務事情
上海市律師協会特別会員入会式
1
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一.中国最新法令(2012 年 5 月中旬~6 月中旬公布分)
(1) 中国インターネット情報センタードメインネーム登録実施細則(2012 年改正) 1
中国インターネット情報センタードメインネーム紛争解決弁法(2012 年改正) 2
中国インターネット情報センタードメインネーム紛争解決手続規則(2012 年改正)3
インターネット情報センター
①
2012 年 5 月 28 日公布
2012 年 5 月 29 日施行
背景
2002 年、中国インターネット情報センター(以下、
「CNNIC」という)により、
「中
国インターネットドメインネーム管理弁法」が制定された。それにちなみ、本実施
細則が作られ、中国を意味する「.CN」、「.中国」と漢字による表記される「.公司」
「.網絡」の 4 つのトップレベルドメインネームに関し、その申請、登録、管理、使
用延長、紛争解決等についての具体的な実施規則が定められた。
2002 年の制定当初から、原則的に個人による申請は認められていなかったが、法
人名義による登録や、法人が取得したドメインネームを譲渡してもらうなどの手法
で、実質的には個人による登録も可能であった。しかし、2009 年に、登録料が実質
無料になったことをきっかけに、上記のトップレベルドメインネームが悪用される
事件が多発したため、個人による登録は、CNNIC により全面的に禁止されるように
なった。
ところが、中国の国家トップレベルドメインネームに対して、個人ユーザのニー
ズが年々高くなり、その声に応えるべく、今回の改正が行われた。2012 年改正では、
個人による上記ドメインネームの申請が解禁され、一定の条件を満たせば、登録が
認められるようになった。その一方、ドメインネームの管理について、特に申請者
の情報保護に関する条項を新設した。
②
主な内容
今回の改正における主な変更は以下の 3 点である。
(ア) 登録主体に関する規定の改正
改正前は、上記ドメインネームの申請主体は、「法によって登記され、独立して
民事責任を負うことができる組織」であったが、改正後は、「すべての自然人また
は独立して民事責任を負うことができる組織」に改められ、自然人が適法な申請主
体であることが明文で規定された。
(イ) ドメインネーム申請者の登録情報の保護についての条項の新設
改正後は、申請者の登録情報の伝送、保存、廃棄及び登録抹消における登録情報
の取扱い方法について詳細に定め、申請者の情報の安全保護を図った。
(ウ) ドメインネームの使用延長の確認期間の新設
ドメインネームの登録が認められた後、使用期間に従い、使用料を納付する必要
1
2
3
《中国互联网络信息中心域名注册实施细则》(中国互联网络信息中心 2012 年 5 月 28 日改正)
《中国互联网信息中心域名纠纷解决办法》(中国互联网络信息中心 2012 年 5 月 28 日改正)
《中国互联网信息中心域名纠纷解决程序规则》(中国互联网络信息中心 2012 年 5 月 28 日改正)
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がある。当該使用期限が到来した後、30 日の延長確認期間に入り、その期間内に
おいて、書面にて延長しない旨を表明し、または、書面による意思表明はないが、
使用料を継続して納付しなかった場合に、管理機関は当該ドメインネームの登録を
抹消することができると定めた。
上記 3 点について、
「中国インターネット情報センタードメインネーム紛争解決弁
法」及び「中国インターネット情報センター紛争解決手続規則」の関連箇所におい
ても改正が行われた。
(2) 遊休地処置弁法(2012 年改正) 4
国土資源部
①
2012 年 6 月 1 日公布
2012 年 7 月 1 日施行
背景
近年、中国の不動産市場が加熱し、不動産の購入価格の高騰は大きな社会問題に
まで発展している。中国の地方都市では、不動産開発業者が落札した土地を長期間
開発しないケースがしばしば見られる。一部は開発業者の資金繰りの悪化が原因だ
が、大部分は土地を落札した開発業者が不動産価格の値上がりを待って、意図的に
放置しているからである。その結果、多くの土地が適切に開発されておらず、供給
不足に陥り、更なる価格上昇に繋がってしまうという悪循環が見られる。
1999 年、「遊休地処置弁法」が制定され、その中で、「遊休地」について定義し、
土地を開発せず放置する行為に対して、
「土地放置費」を徴収する、または、土地使
用権を無償で回収するという処置を定めている。しかし、具体的にどのように執行
するかについては、詳細に定めておらず、遊休地についての管理は不十分であった。
加熱しつつある不動産市場の実情から、遊休地の有効利用を促し、土地市場を管
理、規制する必要性がますます高くなってきているため、今回、「遊休地処置弁法」
(以下、「弁法」とする)が改正された。
②
主な内容
改正後の弁法は、5 章 32 条からなっており、それぞれ、遊休地の調査・認定、遊
休地に関する処置・予防及び監督について定めている。主な内容は以下のとおりで
ある。
(ア) 「遊休地」の定義の再確認
「遊休地」とは土地使用契約書の発効または、土地割当決定書で約定した着工日
から 1 年以上着工しない国有建設用地をいう。また、着工面積が開発計画の 3 分の
1 未満、または、投資額が投資総額の 25%未満で 1 年以上建設を中止する場合も遊
休地として認定されることがある。「1 年以上着工しない」とする場合の起算日に
ついて、「約定した着工日」が新たに定められた。これについて、改正後の弁法第
22 条では、国有建設用地使用権の有償使用契約書又は割当決定書において、開発
プロジェクトの着工・開発、竣工時期と違約責任等を明確に約定・規定しなければ
ならず、約定、規定した着工開発の時期は着工・開発の関連手続を行うことに必要
4
《闲置土地处置办法(2012 修订)》(国土资源部令第 53 号)
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な期間と実際の状況を総合的に考慮し、着工・開発のために合理的な期間を事前に
確保すべきと明示した。また、「遊休地」の認定プロセスについても、詳細な条項
を新設し、実際の操作性を高めた。
(イ) 「政府行為による」土地の遊休状況の規定
政府行為により生じる遊休地は、規制の例外として定められている。しかし、実
際では、開発業者が「政府行為」を口実に、脱法行為を行う例がしばしば見受けら
れ、法の執行にとって支障となることが多かった。今回の改正では、このような状
況を予防するために、「政府行為による」土地の遊休状況について、具体的に例示
し、例外の状況を明確化した。
(3) 国家外貨管理局による民間投資の健全発展の奨励及び誘導における外貨管理の問題
に関する通知 5
国家外貨管理局
①
2012 年 6 月 11 日公布
2012 年 7 月 1 日施行
背景
2010 年 5 月に、国務院により、民間投資の健全発展を支持及び誘導するための通
知が出され、インフラ建設、不動産建設、社会サービス、金融等の分野において、
国家が民間投資を積極的に誘導する政策方針を示した。これを基本方針として、今
回、国家外貨管理局により、外貨管理について、本通知が公布された。
②
主な内容
本通知の主な内容は以下のとおりである。
(ア) 対外直接投資資金の国内への送金に対する管理の簡便化
(イ) 対外資金貸出に対する外貨管理の簡便化
(ウ) 個人による対外担保に対する規制緩和。国内企業が国外企業から国外における
融資を得るため、これに対して担保を提供する場合、個人が共同担保人(保証人)
として、同一債権に対して担保(保証、抵当権、質権等)を供することができる。
この場合、企業が行う対外担保登記に、個人の担保提供について付記することにな
る。
(彭涛、瀋暘・中国弁護士)
5
《国家外汇管理局关于鼓励和引导民间投资健康发展有关外汇管理问题的通知》(汇发[2012]33 号)
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二.連載 中国企業法実務
第二弾:各種契約締結の実務(第 3 回/全 5 回)
第1回
2012 年 4 月号
合弁契約
第2回
2012 年 5 月号
賃貸借契約
第3回
2012 年 6 月号
労働契約
第4回
2012 年 7 月号
技術ライセンス契約
第5回
2012 年 8 月号
代理店契約
第3回
労働契約
1. 概要
労働契約とは、労働者と使用者が労働関係を確立し、双方の権利及び義務を明確にする
契約をいう 6。雇用を契約関係によって規律する労働契約制は、1978 年の改革開放後に徐々
に導入され、1994 年公布(1995 年施行)の労働法により、全ての企業に適用されるように
なった。その後、2007 年公布(2008 年施行)の労働契約法及び 2008 年公布の労働契約法
実施条例(同年施行)において、労働者の保護や権利関係の明確化の観点から、規定が整
備された。
労働契約法等の施行により、労働者の権利保護が強化されるとともに、労働者の権利意
識も向上した結果、労働紛争も増加傾向にある。そのため、使用者としては、法令の正し
い理解に基づく適切な労務管理の重要性がますます高まっている。
なお、上記の労働法や労働契約法等の法令の他、各地方において、その地域の実情を踏
まえた労働関連の規定が定められているので、使用者は所在地における労働関連規定を確
認し、遵守する必要がある。また、各地方の労働行政部門は、その地域の実情を踏まえた
労働契約書の雛形を作成・公表しており、実際に当該雛形を利用して労働契約書が作成・
締結される例は多い。
2. 労働契約の交渉・締結に関する注意事項
(1) 禁止事項
使用者が人員を募集採用するにあたっては、労働者に対して平等な就業機会及び公平な
就業条件を提供しなければならず、女性、障害者、農村労働者等に対する就業差別を行っ
てはならない7。
また、使用者が労働者を募集・雇用する場合、労働者の身分証明書その他証書を没収し
てはならず、また、労働者に担保の提供を求め、又はその他の名目で労働者から財物を取
得してはならない8。
6
7
8
「労働法」第 16 条
「就業促進法」第 26 条乃至第 31 条
「労働契約法」第 9 条
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(2) 契約締結時の情報提供及び情報収集
使用者は、労働者を募集・雇用する場合、業務内容、勤務条件、業務場所、職業上の危
険性、安全生産状況、労働報酬及び労働者が知りたいと要求するその他の状況を、労働者
に対して事実のとおりに告知しなければならない。他方、使用者は、労働契約に直接関連
のある労働者の基本状況を知る権利を有し、労働者は事実のとおりに説明しなければなら
ない9。
使用者としては、上記の権利に基づき、雇用しようとする労働者に対し、身分証明書の
写し、学歴証明書、資格証明書、退職証明書 10等の提出を求めることができる。
なお、労働者が提出した証明書等が偽造によるものであった場合には、使用者としては
労働契約の無効を主張することができるが 11、そのようなトラブル自体を回避するため、
重要な証明書等の提出資料については、できる限り、適宜調査の上、信憑性の確認を行う
ことが望ましい。
(3) 書面での締結義務
労働契約は書面で締結する必要があり、使用者は、雇用開始日から 1 ヶ月以内に労働契
約を書面で締結しなければならない12。労働契約は使用者及び労働者が一部ずつ保管する13。
使用者は、雇用開始日から 1 ヶ月超 1 年未満の間に労働者と書面の労働契約を締結しな
い場合、労働者に対し、毎月 2 倍の賃金を支給しなければならない 14。さらに、使用者が
雇用開始日から 1 年を経過しても労働者と書面の労働契約を締結しない場合は、上記の毎
月 2 倍の賃金支払義務に加え、雇用開始日から 1 年が経過した日をもって労働者と固定期
間のない労働契約を締結したものとみなされる15。
なお、非全日制雇用(賃金の時間計算を主とし、通常、労働者の同一の使用者における
1 日の平均勤務時間が 4 時間を超えず、1 週間の勤務時間が合計 24 時間を超えない雇用形
態をいう。)については、書面での締結義務はなく、口答での締結が許容されている16。
(4) 集団契約及び就業規則との関係
集団契約とは、従業員全体の労働条件について使用者と労働組合(労働組合が存在しな
9
「労働契約法」第 8 条
使用者は、他の使用者との労働契約が終了していない労働者を募集・雇用して当該他の使用者に損失を
与えた場合、当該他の使用者に対して連帯して賠償責任を負う(「労働契約法」第 91 条)ので、採用時にお
ける労働者が前職を退職しているか否かの確認は重要である。
11
一方当事者が、詐欺、脅迫等の手段により、他方当事者にその真意に反する状況下で労働契約を締結又
は変更させた場合、労働契約の全部又は一部は無効となる(「労働契約法」第 26 条第 1 号)。
12
「労働契約法」第 10 条
13
「労働契約法」第 16 条第 2 項
14
「労働契約法」第 82 条、
「労働契約法実施条例」第 6 条。2 倍の賃金支払義務を負う期間は、雇用開始日
から 1 ヶ月が経過した日の翌日から労働契約を締結した日の前日までである。
15
「労働契約法」第 82 条、「労働契約法実施条例」第 7 条。支払義務を負う期間は、雇用開始日から 1 ヶ
月が経過した日の翌日から 1 年が経過した日の前日までである。
16
「労働契約」第 68 条、第 69 条第 1 項。なお、非全日制雇用においては、使用者が随時雇用の終了を通
知することができ、かつ、雇用終了時に使用者が経済補償の支払義務を負わない点(「労働契約法」第 71
条)でも、通常の労働契約と比べて使用者に有利となっている。
10
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い場合には、従業員の代表者)との間で締結する契約であり 17、日本における労働協約に
相当する。締結された集団契約は、使用者及び全労働者を拘束する 18。また、労働契約の
条件は、集団契約における労働条件を下回ってはならない19。
使用者の定める就業規則も、労働契約に定められていない事項について、労働契約の当
事者を規律する効力を有する。また、労働契約において就業規則を下回る条件を定めても
無効となり、就業規則に定められた条件が適用される。
3.労働契約の主な記載事項
労働契約には、①使用者の名称、住所及び法定代表者又は主な責任者、②労働者の氏名、
住所及び身分証明書又はその他有効な証明書の番号、③労働契約の期限、④業務内容と勤
務地、⑤勤務時間と休憩休暇、⑥労働報酬、⑦社会保険、⑧労働保護、労働条件、職業危
害の防護、⑨法律、法規が労働契約に盛り込むべき旨を定めるその他事項を必ず記載する
必要がある(必要的記載事項) 20。
また、労働契約においては、任意に、試用期間、研修、秘密保持等の必要的記載事項以
外の事項を約定することができる(任意的記載事項) 21。
法律、行政法規の強行規定に違反する記載は無効である 22。例えば、以下の(4)の服務
期間又は(6)の競合制限に違反した場合以外には、労働者が違約金を負担すべき旨(例え
ば、契約期間の途中で辞職した場合に違約金を払う等)を約定することができず、約定し
ても無効である23。また、労働契約法第 44 条に定められた終了事由以外に、労働契約の終
了事由を約定することはできず、約定しても無効である 24。
(1) 労働契約の期限(必要的記載事項)
労働契約は、契約終了時期の定め方により、以下の 3 類型がある 25。
①
固定期間のある労働契約(契約終了時期を約定する場合)
②
固定期間のない労働契約(契約終了時期を約定しない場合)
(i)労働者がその使用者の下で継続して 10 年以上勤務している場合、(ii)連続して
2 回、固定期間のある労働契約を締結し、かつ労働者が一定の解雇事由26に該当せず、労
働契約を連続して締結する場合において、労働者が労働契約の更新若しくは締結を申し
出たとき又はこれらに同意したときは、労働者が固定期間のある労働契約の締結を申し
出た場合を除き、使用者は、固定期間のない労働契約を締結しなければならない27。
③
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
一定の業務上の任務の完成を期限とする労働契約
「労働契約法」第 51 条
「労働契約法」第 54 条
「労働契約法」第 55 条
「労働契約法」第 17 条第 1 項
「労働契約法」第 17 条第 2 項
「労働契約法」第 26 条第 2 項第 3 号
「労働契約法」第 25 条
「労働契約法実施条例」第 13 条
「労働契約法」第 12 条乃至第 15 条
「労働契約法」第 39 条、第 40 条第 1 号、第 2 号
「労働契約法」第 14 条第 2 項
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(2) 試用期間及び採用条件(任意的記載事項)
初回の労働契約を締結する際には、契約期間の一部として試用期間を設定することがで
きる。設定できる試用期間の長さには制限がある 28。また、一定の業務上の任務の完成を
期限とする労働契約及び契約期間が 3 ヶ月未満の労働契約においては、試用期間を設ける
ことができない29。
労働者の試用期間における賃金は、当該使用者の同じポジションの最低賃金又は労働契
約で約定した賃金の 80%を下回ってはならず、かつ、使用者の所在地での最低賃金基準を
下回ってはならない 30。
使用者は、試用期間中は、採用条件に合致していないことを証明することにより、労働
契約を解除することができる 31。当該証明が困難とならないように、採用条件はできる限
り明確に記載すべきである。
(3) 業務内容及び勤務地(必要的記載事項)
労働契約に定めた業務内容及び勤務地を変更する場合には、労働者の同意を得て労働契
約を変更する必要があるので、労働契約に定める際には記載内容を慎重に検討する必要が
ある。
(4) 服務期間(任意的記載事項)32
服務期間とは、労働者が使用者に対して勤務を継続すべき義務を負う期間をいう。服務
期間は、使用者が労働者に対し、特別の研修費用を提供し、専門技術研修を行う場合に、
約定することができる。
労働者は、服務期間の約定に違反した場合、約定に定めた違約金を使用者に支払う義務
を負う。違約金の金額は、使用者の提供した研修費用のうち、服務期間の未履行部分に割
り当てられるべき金額を上限とする。
服務期間の約定がない場合、労働者は、契約期間中でも 30 日前までの通知により辞職で
きるので 33、高額の研修費用を支出して教育した労働者の退職を防止するためには、服務
期間の約定をすべきである。
(5) 秘密保持(任意的記載事項)34
使用者の営業秘密及び知的財産権に関する秘密保持事項を約定することができる。
28
契約期間が 3 ヶ月以上 1 年未満の場合、試用期間は 1 ヶ月を超えてはならない。契約期間が 1 年以上 3
年未満の場合、試用期間は 2 ヶ月を超えてはならない。3 年以上の固定期間のある労働契約及び固定期間の
ない労働契約においては、試用期間は 6 ヶ月を超えてはならない。
29
「労働契約法」第 19 条
30
「労働契約法」第 20 条
31
「労働契約法」第 39 条第 1 号
32
「労働契約法」第 22 条
33
「労働契約法」第 37 条
34
「労働契約法」第 23 条第 1 項
8
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(6) 競業避止(任意的記載事項)35
高級管理職員、高級技術職員その他の秘密保持義務を負う労働者については、労働者の
競業避止について約定し、かつ、労働契約の解除又は終了後、競業避止期間内において、
労働者に毎月経済補償を支給する旨を約定することできる。労働契約の解除又は終了後に、
労働者に対し、競業事業者への就職又は同種事業の開業等を禁止できる期間は、2 年を上
限とする。競業避止条項については、違約金を約定することができる。
[応用編―労務派遣について]
外国企業の駐在員事務所は、労働者を直接雇用することが認められていないため、労働
者と直接労働契約を締結することはできず、派遣会社からの労働者の派遣(労務派遣)を
利用する必要がある 36。また、多くの外商投資企業も、労務管理の手間が省ける等の理由
で、労務派遣を利用している。
労務派遣は、「一般に臨時的、補助的又は代替的なポジションにおいて実施する」 37と
されているが、実際にはそれ以上の広範なポジションにおいて利用されている。
上海のような大都市で外商投資企業がよく利用する、FESCO や中智といった国有の派
遣会社の場合には、派遣労働者を派遣会社に戻す場合の条件を厳格に契約で規定している
ため、派遣従業員の地位は安定的である。しかし、地方の工場等においては、時間外労働
の規制を無視するような派遣契約や、派遣事業を行う資格がない業者による派遣等が存在
しており、厳格な労働者保護法制を回避して、低コストで労働力を集める手段として使わ
れている実態もある。
そのため、労務派遣の要件の限定、明確化と違法行為に対する罰則の強化を行うための
労働契約法の改正案が全国人民代表大会に提出され、現在審議中である。
(今村俊太郎・弁護士)
三.上海法務事情
上海市律師協会特別会員入会式
上海市律師協会特別会員の入会式が、6 月 29 日に開かれた。
特別会員とは、先月号で紹介したとおり、政府内弁護士(公職律師)と企業内弁護士(公
司律師)、並びに、外国法律事務所の代表処の代表を対象とするもので、「両公一外」と略称
される。
35
36
37
「労働契約法」第 23 条第 2 項、第 24 条
「外国企業常駐代表機構の管理に関する暫定規定」第 11 条
「労働契約法」第 66 条
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この全国初の試みの一期生となった
特別会員は、政府内弁護士 118 名、企業
内弁護士 76 人、外国弁護士 22 人の計 216
名である。
入会式で配布された名簿によれば、政
府内弁護士については、各区の人力資源
社会保障局(労働局)、司法局、質量技
術監督局に所属する者が多い。
また、企業内弁護士については、上海
実業、上海農商銀行、上海城投、上海電
気、上海銀行、光明食品、国泰君安証券、
申銀万国証券、上海汽車といった、大型
国有企業、上場会社を中心とする 9 社が
団体会員となり、その企業内弁護士が個
人会員となっている。一般の外資系企業
の企業内弁護士は未加入である。
外国法律事務所については、名簿の順
で、日本からは TMI と大江橋の 2 事務所、
米国からは、ジョーンズ・デイ、ホワイ
ト&ケース、ベーカー&マッケンジー、オメルベニー・アンド・マイヤーズの 4 事務所、英
国からは、アレン・アンド・オーヴェリーとディーエルエイ・パイパーの 2 事務所、その他、
香港から 2 事務所、フランス、オーストラリア、ドイツ、スウェーデンから各 1 事務所、合
計 14 事務所が加入した。
なお、写真のように、特別会員には、団体会員証(証書)と、個人会員証(カード)が発
行された。
(山根基宏・弁護士)
TMI 中国最新法令情報―2012 年 6 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏・弁護士
発 行 日:2012 年 6 月 30 日
10
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