Comments
Description
Transcript
インドネシア編 2008年3月作成 - 一般財団法人海外産業人材育成協会
インドネシア進出日系中小企業の 経営課題とその対応 ~中小企業診断士による経営診断事例~ 進出日系中小企業等支援事業 平成 19 年度事業報告書 (インドネシア編) 平成 20 年 3 月 財団法人 海外貿易開発協会 序 文 財団法人 海外貿易開発協会(JODC)は、従来より経済産業省の補助事業として、我が 国中小企業の国際展開円滑化に資することを目的に、中小企業が海外においてビジネス活 動を行う上での環境整備に取り組んでおります。 日本企業のグローバル化に伴い、本邦中小企業もまた海外での事業展開を拡大させてい ますが、その多くはいまだ海外での事業経験が浅く、また経営資源が限られていることか ら、会計、税務、労務等の大きな経営課題については、自社内での問題解決が難しいケー スが多いと思われます。JODC ではこうした状況を踏まえ、これら分野の専門知識をもつ 専門家による経営支援を行うことを目的とした、 「進出日系中小企業等支援事業」を平成 18 年度より新たに開始し、初年度にはベトナム及びタイの 2 ヵ国において現地会計事務所等 によるセミナー開催及び個別相談を実施し、その内容について報告書をとりまとめ、広く 関係各位に供覧いたしました。 2 年目となる平成 19 年度には、上記 2 か国にて同様の事業を継続展開するとともに、新 たにインドネシアにおいて、進出日系中小企業を対象とする中小企業診断士の派遣事業を 実施いたしました。インドネシアは日本の重要なパートナーのひとつで、交流の歴史も長 く、多数の日系企業が進出しております。今回の事業は、従来の情報提供・相談から一歩 踏み込んだ支援事業であり、経営指導及び現場改善の専門家である中小企業診断士を各個 別企業に派遣し、診断及び改善のための提言を行うものです。 この報告書は、本事業の活動概要をご紹介するとともに、進出日系中小企業に共通して みられる課題とその対応のまとめ、及び本事業における実際の企業向け提言のうち、一般 企業にとりご参考になると判断される内容を抜粋して掲載しております。本報告書が、イ ンドネシアのみならず、広く海外に進出しておられる日系中小企業各位のお役にたつこと を願っております。 末尾ながら、本事業の実施に際し、種々のご協力を賜りました現地日本大使館、ジャカ ルタ・ジャパンクラブ、中小企業連合会、JETRO ジャカルタ・センター、じゃかるた新聞、 各地工業団地事務局、社団法人 中小企業診断協会を始め多くの関係者各位には、心から の感謝を申し上げます。 2008 年 3 月 財団法人 海外貿易開発協会 理事長 小 林 惇 目 次 第Ⅰ章 JODC 進出日系中小企業等支援事業の活動概要 第Ⅱ章 インドネシアの経済・投資概況 第Ⅲ章 進出日系中小企業における共通課題とその対策 第Ⅳ章 インドネシア進出日系中小企業への提言事例 提言事例について 参考資料 ····························· 1 ··················································· 5 ····························14 ································21 ·································································22 事例 1 内部統制・人材育成 事例 2 営業と製造の連携 事例 3 生産管理・経営戦略 事例 4 生産性向上・目標管理 事例 5 現場改善 事例 6 5S の徹底 事例 7 工程管理と生産性向上 ··················································23 ·····················································30 ··················································32 ···············································35 ··································································39 ································································51 ···············································54 ·····························································································61 1.中小企業診断士とは ··························································62 2.中小企業診断手法の概略 3.中小企業支援法 ····················································65 ································································71 第I章 JODC 中小企業診断士派遣事業の活動概要 1.JODC 進出日系中小企業等支援事業の経緯 財団法人 海外貿易開発協会(JODC)は、経済産業省の補助事業として、従来より日本 の中小企業の国際展開円滑化に資することを目的とした活動に取り組んでいるが、会計、 税務、労務など、自社内での問題解決が難しいケースが多いと思われる大きな経営課題に 対応し、経営支援を行うことを目的として平成 18 年度より開始したのが「進出日系中小企 業等支援事業」である。 初年度はタイ及びベトナムの 2 か国において、現地在住の日本人公認会計士等を講師と する税務・会計セミナー及びこれに付随して個別日系中小企業を対象とする相談会を開催 し、その内容に基づいて「進出日系中小企業の経営課題とその対応~税務・会計・投資~」 (タイ編およびベトナム編)と題する報告書を取りまとめ、関係各位に広く配布するとと もに、JODC ホームページ(http://www.jodc.or.jp)にも全文を掲載した。 第 2 年度である平成 19 年度は、タイとベトナムでの税務・会計セミナー及び個人相談を 継続するとともに、インドネシアにおいては、情報提供から一歩踏み込んだ実践的な支援 事業として、新たに「中小企業診断士派遣事業」を展開することとなった。 2.インドネシアにおける中小企業診断士派遣事業の実施と成果 (1)概況 豊富な天然資源と広大な国土、並びに 2 億を越す人口を擁するインドネシアは日本の重 要なパートナー国家の一つであり、両国には 50 年に及ぶ交流の歴史がある。製造業を始め とする日系企業の進出も盛んで、 日系中小企業も数多く存在している。それらの多くは 1997 年に発生した通貨危機の前に進出したものである。その後のインドネシア内外の政治経済 状況の変化は大きく、日系企業はこれらに対応しつつ 10 年以上に渡って操業を継続してき た。 現在の日系企業の課題は多岐にわたっており、今後の環境変化にも追随可能な財務体質 の改善に加え、生産性向上、コスト削減、従業員のスキルアップ、人材育成、企業内不正 の防止など現場改善を含めた総合的な経営の強化が求められている。こうした経営および 現場の両面における課題に対応ができ、具体的な改善指導の可能な専門家として考えられ るのが中小企業診断士である。 中小企業診断士は、中小企業の各種経営課題に対応するための診断・助言を行う国家資 格保持者であり、本事業では、これを専門家として日系中小企業のインドネシア現地法人 に派遣し、経営診断と現場改善の提言を実施、並びにその効果確認のための事後診断を行 うこととした。中小企業診断士の選定に当たっては、支援対象が海外の現地法人であるこ とを考慮し、海外での業務・指導経験を有することを条件とした。(中小企業診断士に関す る詳細は巻末の参考資料1を参照。 ) 1 (2)事業スケジュール 公募により、インドネシアに進出している日系中小企業の現地法人 7 社(いずれも製造 業)を選定し、2007 年 7 月 15~21 日に予備診断(1 社当たり半日) 、9 月 12~27 日にか けて本診断(1 社当たり 2~3 日) 、更に 2008 年 1 月 20~26 日に事後診断(1 社当たり半 日)と、原則として各社 3 次に渡る診断を実施した。中小企業診断士は予備診断で 2 名、 本診断は 3 グループ 6 名、事後診断は 2 名が参加し、いずれの場合も 2 名が一組となって 診断を実施した(下表参照) 。 予備診断 実施時期 中小企業診断士氏名 対象企業 2007年7月15日~21日 名倉 寛恭 6社 山﨑 康之 Aグループ 2007年9月12日~23日 本 診 名倉 寛恭 3社 中村 和善 Bグループ 2007年9月16日~23日 断 葉 恒二 2社 山本 洋治 Cグループ 2007年9月19日~27日 山﨑 洋一 2社 林 隆男 事後診断 2008年1月20日~26日 名倉 寛恭 7社 山﨑 洋一 注:中小企業診断士氏名は敬称略 以上のように診断期間は 7 か月に及ぶ長期であるが、診断先が海外であるため、常時連 絡を取りながら進めることは難しい環境である。このような場合、中小企業診断士は他の コンサルティングと平行して、インドネシア進出日系企業の抱える課題と対策を常時考え 続けることになる。また、2 名一組による経営診断であるため、中小企業診断士の持つ専門 分野の適格な組み合わせが必要となる。 予備診断においては、ヒヤリング及び工場視察による各企業の全般的状況把握と、本診 断に向けての問題点の絞込み(各社 2 点程度のポイントを抽出)を行うとともに、過去 2 年分の財務諸表を提出していただき、財務分析を行った。なお、一部企業では必要に応じ て日本本社でのヒヤリングも併せて実施した。 本診断では、抽出された問題点について詳細なヒヤリングと議論を重ねるとともに、現 場の状況の確認や、スタッフレベルの従業員との話し合いなども含めて解決策を探り、各 企業に対し改善のための提言書を手交した。また、事後診断では提言の実施状況とその効 果を確認するとともに、状況に応じて追加提言を行った。 2 (3)事業の成果 事後診断(本診断に伴う各社改善提案の実施から約 4 ヵ月後)においては、対象 7 社の 全てにおいて改善提案の効果を確認した(各社とも改善提案を実施、ないし実施計画中。 一部企業では実際の改善を確認) 。また、改善提言が工場改善、人材育成の良い機会になっ たとするものが多くあり、継続診断依頼がほぼ全社から回答されていることと併せて、本 事業の効果があったものと判断される。提言の効果としては、経営改善、現場改善、人材 育成、納期短縮、品質向上、コスト低減などが挙げられている。 企業側の感想の具体例としては、以下のようなものがある。 ・提言は、企業改善に着手する良いきっかけになった。 ・提言における財務分析や成長戦略のポイントにより発展の方向が明確になった。 ・提言を改善の機会ととらえ、提案内容を年度計画に盛り込み、企業理念の明確化や各 職場の技能レベル確認シートを作成中である。 ・原価低減の実績が挙がった。 ・納期管理などの数字が向上するとともに、従業員のモチベーションも改善した。 ・5S の徹底などを通じた現場改善に大きな実績を挙げている。 ・提言に従い 5S の担当者を定めて実践している。 診断先 7 社のコメント(成果) 7社のコメント内容(重複回答を含む) 8 7 6 5 件 4 数 3 2 1 たっなと 質 体 益利 ・ 化 強 が質 体 務 財 る あ で 中 行実 を 言 提 いし 欲 て し援 支 の 画 計資 投 備 設 5 成果とする内容 3 S 善 改 場現 ・ 化 強 施実 の た し上 向 が 欲 意の 員 業 従 い し 欲て し 討 検 も遣 派 期 長 る す 望 希 を成 育 材 人 い た け 受 を断 診 度 再 た っな と け か っき の 善 改 0 (4)セミナーにおける情報提供 2008 年 2 月 20 日(水)にジャカルタ市内のホテル、インターコンチネンタル・ジャカ ルタ・ミッドプラザにおいて JODC 主催の「インドネシア日系企業支援セミナー」が開催 された(一般参加者約 150 名) 。このセミナーのプログラムの一環として、名倉寛恭、山﨑 洋一の両中小企業診断士による「インドネシア日系中小企業の抱える課題と経営革新」と 題する講演を設け、本事業における企業診断と提言からみたインドネシア進出日系中小企 業の共通課題とその対応策や、企業経営の一般的ノウハウ、インドネシアを巡る内外情勢 等について情報提供を行った。 4 第Ⅱ章 インドネシアの経済・投資概況 1.インドネシアの一般情報 正式国名 インドネシア共和国 Republic of Indonesia 独 立 1947 年 8 月 17 日独立宣言 面 積 約 189 万平方キロメートル(日本の約 5 倍) 人 口 約 2 億 2,200 万人(2006 年政府推計 首 都 ジャカルタ(人口 896 万人 民 族 大半がマレー系(ジャワ、スンダ等 27 種族に大別) 言 語 インドネシア語(国内各地ではジャワ語、バリ語など独自の言葉を使用) 宗 教 イスラム教 87.1%、キリスト教 8.8%、ヒンズー教 2.0%他 世界第 4 位) 2006 年政府推計) (世界最大のイスラム人口を有するが、イスラム教は国教ではない) 政 体 共和制 元 首 スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領(2004 年 10 月 20 日就任、任期 5 年) 議 会 ①国会(DPR) :定数 550 名 ②国民協議会(MPR) :678 名(国会議員 550 名と地方代表議員 128 名の計) 通 貨 ルピア (2007 年末現在 1 ドル=9419 ルピア) 2.政治動向 2004 年 10 月、インドネシアにおける初の大統領直接選挙の結果、メガワティ前大統領 を抑えて、スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領とユスフ・カッラ副大統領が選出された。 ユドヨノ大統領は政権発足に当たり、平和と安全、公正と民主、福祉の向上を政策の 3 つ の柱として掲げ、特に政府及び関連機関の汚職・腐敗の撲滅を最大のスローガンとした。 また、同年 12 月にはカッラ副大統領が議会第一党であるゴルカル党の総裁に選出され、 政権に安定感が増した。2004 年以降は、スマトラ沖大地震・津波被害(04 年 12 月) 、鳥イ ンフルエンザの流行、バリ島テロ事件(05 年 10 月) 、石油価格の高騰、ジャワ島中部地震 (06 年 5 月)等の危機への対応に追われる中、投資促進、貧困削減等の課題に取組んでい る。また、分離独立をめぐって 30 年近く抗争の続いていた独立アチェ運動(GAM)との 間では、和平協定の合意にこぎつけ、国内情勢の安定に寄与した。 対外的には、積極的な友好経済外交を展開している。日本との関係では、政権発足後に 両国間で「投資に関するハイレベル官民合同フォーラム」が設立され、2005 年 6 月には戦 略的投資行動計画が策定された。日本・インドネシア経済連携協定(EPA)は 2007 年 8 月 に両国首脳の署名が行われ、発効を待つ状況である。なお、2008 年は 1958 年の両国の平 和条約及び賠償協定の署名・発効から 50 年目に当たるため、これを「日本インドネシア友 好年」として各種記念行事が予定されている。 5 3.経済動向 インドネシア経済は 1997 年に始まったアジア通貨危機で深刻な打撃を受けたものの、 IMF との合意に基づく経済構造改革が奏功し、2002 年以降は 4~6%台の安定した経済成 長が続いている。特に直近の 2006~2007 年は民間消費、輸出の好調に加えて内外投資が活 発であった。2007 年の名目 GDP は 4,330 億ドルで、経済規模はタイのほぼ 2 倍であり、 ASEAN の中では最大である。一方、1 人当たりの GDP(名目)は 2,000 ドル弱で、タイ の半分程度にとどまっている。 インフレ率は 2 年連続で 6%台となり、2005 年の突出した水準(17%台)からは沈静化 したが、賃金上昇等の要因となっている(図 1) 。また、現在の大きな問題は高い失業率(07 年 8 月現在 9.1%)である。毎年 250 万人が新規に労働市場に参入すると試算されており、 これを吸収するためには 6~7%の経済成長が必要とされている。 図1 インドネシアの主要経済指標 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 GDP実質成長率(%) 4.5 4.8 5.1 5.6 5.5 6.3 1人当りGDP(名目、$) 903 1,091 1,165 1,283 1,663 1,947 消費者物価上昇率(%) 10.0 5.1 6.4 17.1 6.6 6.6 為替レート(IDR/$) 8940 8465 9290 9830 9020 9419 総輸出額(bil$) 57.2 61.1 71.6 85.7 100.8 114.0 総輸入額(bil$) 31.3 32.6 46.5 57.7 61.1 74.4 国内投資(兆IDR) 25.3 48.5 36.7 50.6 162.7 188.9 9.7 13.2 10.3 13.6 15.6 40.1 0.3 1.3 1.7 0.9 0.4 0.6 外国直接投資(bil$) うち日本(bil$) 出所:外務省ウェブサイト、バンク・インドネシア等 為替レートは期末値、投資は投資調整庁認可ベース 対外貿易については、インドネシアは石油、天然ガスを始め天然資源が豊富であること を反映し、恒常的に多額の貿易黒字を計上しているが、一方で経済発展に伴い輸入も増加 の一途を辿っている。 輸出入合計での最大の貿易相手国は日本である(2 位はシンガポール) 。2006 年の対日輸 出は 217 億ドル、輸入は 55 億ドルで、インドネシアの大幅な出超となっている。日本向け の主な輸出品は石油・天然ガス、石炭、エビ、パルプ、繊維製品等。また主な輸入品は一 般機械・部品、化学製品、鉄鋼、電気機器等である。日本にとってインドネシアは重要な エネルギー供給国で、天然ガス輸入の 22.5%、石炭の 17.8%、石油の 2.8%を依存してい る(06 年) 。 6 図 2 インドネシアの商品分類別輸出 (単位:100 万ドル) 2005年 2006年 金額 非石油・ガス製品 金額 構成比% 伸び率% 66,429 79,589 79.0 19.8 電気機器・部品 4,486 6,471 6.4 0.5 鉱物性燃料 4,951 6,070 6.0 22.8 ゴム及び同製品 3,580 5,529 5.5 54.4 金属・スラグ・灰 3.499 4,994 5.0 42.7 石油・ガス製品 19,232 21,210 21.0 10.3 原 油 8,146 8,169 8.1 0.3 石油製品 1,932 2,844 2.8 47.2 ガ ス 9,154 10,197 10.1 11.4 額 85,660 100,799 100.0 17.7 総 注:FOB 出所:JETRO(原データはインドネシア中央統計局) 図 3 インドネシアの商品分類別輸入 (単位:100 万ドル) 2005年 2006年 金額 非石油・ガス製品 金額 構成比% 伸び率% 40,243 42,103 68.9 4.6 機械・部品 8,076 7,404 12.1 8.3 有機化学品 3,244 3,439 5.6 6.0 電気機器・部品 3,329 3,108 5.1 6.6 鉄鋼及び同製品 3,345 2,865 4.7 14.3 輸送機器 3,061 2,447 4.0 20.1 石油・ガス製品 17,458 18,963 31.1 8.6 原 油 6,797 7,853 12.9 15.5 10,646 11,093 18.2 4.2 ガ ス 15 30 0.0 102.0 額 57,701 61,066 100.0 5.8 石油製品 総 注:CIF。2006 年の石油・ガス製品の内訳は暫定値のため、合計と一致しない。 出所:JETRO(原データはインドネシア中央統計局) 7 図4 インドネシアの主要国・地域別輸出入 輸 2005年 金額 日 (単位:100 万ドル、%) 出 輸 2006年 金額 2005年 構成比 伸び率 金額 入 2006年 金額 構成比 伸び率 本 18,049 21,732 21.6 20.4 5,516 9.0 20.1 ASEAN 15,825 18,483 18.3 16.8 17,040 18,971 31.1 11.3 (内シンガポール) 6,906 7,837 8,930 8.9 14.0 9,471 10,035 16.4 6.0 中 国 6,662 8,344 8.3 25.2 5,843 6,637 10.9 13.6 韓 国 7,086 7,694 7.6 8.6 2,869 2,876 4.7 0.2 イ ン ド 2,878 3,391 3.4 17.8 1,052 1,407 2.3 33.8 台 湾 2,475 2,735 2.7 10.5 1,338 1,322 2.2 1.2 香 港 1,492 1,703 1.7 14.1 291 346 0.6 19.0 中 東 2,868 3,458 3.4 20.6 4,654 5,509 9.0 18.4 米 国 9,868 11,232 11.1 13.8 3,879 4,057 6.6 4.6 1,368 1.4 33.5 1,114 1,189 1.9 6.8 10,238 11,963 11.9 16.8 5,827 6,024 9.9 3.4 中南米 EU25 ロシア・東欧 アフリカ 合計(その他を含む) 1,025 878 1,026 1.0 16.8 958 987 1.6 3.0 1,669 1,986 2.0 19.0 1,607 1,190 1.9 26.0 85,660 100,799 100.0 17.7 57,701 61,066 100.0 5.8 注:輸出は FOB、輸入は CIF。 出所:JETRO(原データはインドネシア中央統計局) インドネシアの国内産業は、自動車・二輪等の資本集約型産業、繊維等の労働集約型産 業、エネルギーや農業関連、食品加工などの資源活用型製造業等に分類できるが、現状で 注目されるのは二輪車生産である。インドネシアは中国、インドに次ぐ世界第 3 位のオー トバイ生産国で、生産台数は 2007 年現在で約 500 万台に達している。また、生産シェアの 約 9 割は日系企業が占めており(中国市場では 1 割程度、インドでは 5 割強) 、裾野産業と 併せて日系企業の進出の大きな柱のひとつとなっている。一方、自動車生産は、まだ国内 市場が小さいこともあり、2005 年のピーク時で 53 万台、2007 年は 43 万台にとどまって いる。 4.外国投資動向 インドネシアへの外国直接投資(BKPM=投資調整庁による認可ベース、以下同じ)は、 2005 年以降 3 年連続で増加しており、特に 2007 年は前年比 2.6 倍の大幅増となった。分 野別には、化学、金属製品、製紙、食品等の製造業、及び建設、運輸、貿易等のサービス 部門がメインである(図 5) 。これは現ユドヨノ政権の安定と投資促進策の賜物といえるが、 インドネシアの経済規模、産業状況を考慮すると、外国投資は十分とはいえない水準であ 8 り、投資先としてのインドネシアの評価もタイやベトナムなどの周辺国と比べて必ずしも 高くないといえる。 図 5 インドネシアの業種別国内向け外国直接投資(認可ベース) (単位:100 万ドル) 2005年 2006年 金額 金額 2007年 金額 構成比% 伸び率% 農 業 462 849 1,262 3.1 +48.6 林 業 129 10 17 0.0 +70.0 漁 業 15 105 213 0.5 +102.9 鉱 業 776 326 818 2.0 +150.9 食 品 643 1,036 1,724 4.3 +66.4 繊 維 140 156 275 0.7 +76.3 木 材 102 138 224 0.6 +62.3 製 紙 228 1,171 6,884 17.1 +487.9 化学・医薬品 2,879 1,528 15,267 38.0 +899.1 非金属鉱物 368 785 319 0.8 59.4 金属製品 695 2,919 1,612 4.0 44.8 その他工業 974 574 905 2.3 +57.7 設 1,777 2,561 1,909 4.8 25.5 ホテル 259 258 355 0.9 37.6 3,107 294 4,690 11.7 16.0 倍 不動産・オフィス 125 57 1,044 2.6 18.3 倍 電気・貿易・その他サービス 901 2,856 2,629 6.5 7.9 13,579 15,624 40,145 100.0 +156.9 建 運 輸 外国投資計 出所:バンク・インドネシア(原データは BKPM=投資調整庁) 一般にインドネシアへの投資の優位点としては、世界第 4 位の人口、豊富な天然資源の 存在による労働力・原材料の調達の容易さと国内市場の潜在的成長力とされ、1997 年の通 貨危機以前には、日本を始めとして先進国の注目度が高かった。しかし、通貨危機以降は ASEAN 地域内外の状況変化もあり、投資回復が遅れている状況である。インドネシアの投 資阻害要因としては、インフラの未整備、生産性を上回る賃上げや、高額の退職金、スト ライキの発生など労働問題、汚職に見られるような不透明なコスト、産業競争力の欠如と いった点が挙げられる。そして対外投資の誘致政索(優遇税制等)も極めて不十分な現状 であり、政府主導で積極的な外資呼び込みを展開するベトナムなどとは対照的である。 9 しかし、近年では、将来の大形経済発展国とみられる BRICs(ブラジル、ロシア、イン ド、中国)にインドネシアを加えて BRIICs と称したり、BRICs に続く経済発展国とされ る 11 か国(NEXT11*)にインドネシアが含まれるなど、同国の持つポテンシャルが再び 注目されてきており、投資環境の整備が望まれるところである。 *NEXT11 米国金融グループのゴールドマン・サックスが、将来の成長が期待される国として選ん だ 11 の新興経済発展国家群。韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、パキ スタン、イラン、トルコ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ。 5.日本からの投資動向 日本はインドネシアの重要な投資パートナーであり、対インドネシア投資国の中では常 に上位を占め、累積ベースでは最大の投資国となっている。しかし近年は諸外国の投資増 により、日本の地位は相対的に下降傾向にある。2005 年の単独国としての投資認可額は英 国、シンガポールに次ぐ第 3 位であったが、2006 年は韓国に抜かれて 4 位となり、2007 年には大型案件のあった米国の他、中国、オランダよりも少なく 7 位となった(図 6) 。 図 6 インドネシアの国・地域別国内向け外国直接投資(認可ベース) (単位:100 万ドル) 2005年 2006年 金額 金額 2007年 金額 構成比% 伸び率% 日 本 916 444 598 1.5 +34.7 米 国 91 162 13,322 33.2 82.2 倍 英 国 1,529 1,038 866 2.2 16.6 オランダ 472 79 645 1.6 +716.5 豪 州 514 49 324 0.8 +561.2 韓 国 618 877 895 2.2 +2.0 台 湾 130 219 51 0.1 76.7 香 港 102 399 259 0.6 35.1 中 国 205 127 900 2.2 +608.7 1,267 1,994 5,557 13.8 +178.7 52 113 110 0.3 2.7 コンソーシアム 3,494 4,614 11,232 28.0 +143.4 その他 4,189 5,509 5,386 13.4 2.2 外国投資 計 13,579 15,624 40,145 100.0 +156.9 シンガポール インド 出所:バンク・インドネシア(原データは BKPM=投資調整庁) 10 JBIC(国際協力銀行)が毎年発表している日系製造業企業への海外投資に関するアンケ ート調査によると、将来の事業展開の有望国とみる国としては、インドネシアは全体の 8 位~9 位にとどまっており、BRICs 及びタイ、ベトナムの後塵を拝している(図 7) 。 インドネシアを有望国と回答した企業の理由としては、「安価な労働力」「現地市場の現 状・規模」 「現地市場の今後の将来性」が多く挙げられている。一方、タイやベトナムと比 較すると、 「優秀な人材」 「リスク分散の受け皿」 「投資への優遇税制」などの回答は少ない (図 8) 。また、インドネシアにおける課題としては、 「他社との競争」 「インフラの未整備」 「治安・社会情勢の不安」が多く挙げられている(図 9) 。 6.インドネシア進出日系企業の状況 インドネシアにおける進出日系企業は、2007 年 4 月現在で 1,024 社である(JETRO ジ ャカルタ調べ) 。日本のインドネシア向け投資が製造業中心であるため、製造業企業が多い。 また、1997 年の通貨危機前の時期に進出し、操業から 10 年以上を経過した企業が多いこ とも特徴である。今回の事業に伴う現地企業及び関係機関等へのヒヤリングによれば、既 存企業の拡張や多角化は比較的多く見られるものの、新規の企業進出は少ないのが現状で ある。また、一部には縮小・撤退の動きもある。日系製造企業が最も多く立地しているの はジャカルタ市の東部で、高速道沿いに工業団地群が並立しており、これらに入居してい る日系製造企業が多い。 現地ヒヤリングによれば、進出日系中小企業が抱えている最も大きな課題は、労務及び 人材育成に関するものである。インドネシアは人口が多い上に失業率が高いことから、一 般労働者の採用は容易であり、定着率も高い。しかし、現行の労働法(2003 年制定)は著 しく労働者側に有利な規定となっており、高額の退職金規定などのため従業員の解雇は非 常に難しく、企業各社は法律で認められた派遣社員を一定数雇用するなどの対策をとって いる。また、一般に企業人としての経験が乏しい現地人従業員とコミュニケーションをと りつつ、技術を向上させ、生産性を上げていくといった人材育成も、きわめて重要かつ困 難な課題といえる。 これに加え、税務や法制度の執行に係る不透明なコストも、インドネシア進出日系企業 にとっての大きな問題となっている。ローカル企業とのダブルスタンダードも時として存 在するとの指摘もある。また、石油、天然ガス等のエネルギーや各種金属材料など、原燃 料コストの上昇、及び人件費の上昇も企業経営の圧迫要因である。 このように、インドネシアの進出日系中小企業は社内外の多くの課題に直面しており、 自助努力の必要性とともに、公的機関等による支援へのニーズも大きいものがあるといえ る。 11 図 7 日本の製造業企業のみる有望事業展開国 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 1位 中国 中国 中国 中国 中国 2位 タイ タイ インド インド インド 3位 米国 インド タイ ベトナム ベトナム 4位 ベトナム ベトナム ベトナム タイ タイ 5位 インド 米国 米国 米国 ロシア 6位 インドネシア ロシア ロシア ロシア 米国 7位 韓国 インドネシア 韓国 ブラジル ブラジル 8位 台湾 韓国 インドネシア 韓国 インドネシア 9位 マレーシア 台湾 ブラジル インドネシア 韓国 10位 ロシア マレーシア 台湾 台湾 台湾 出所:JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」 (2007 年度) 図 8 有望事業展開国の理由 (アンケートに対する回答比率 単位:%) タ イ インドネシア 優秀な人材 ベトナム インド 中 国 2.2 17.7 31.3 29.7 14.6 安価な労働力 55.6 48.5 71.0 47.6 50.3 安価な部材・原材料 13.3 7.7 5.7 7.3 24.7 組立メーカーへの供給拠点 15.6 33.1 16.5 23.2 28.3 産業集積がある 4.4 32.3 5.1 5.3 19.9 他国のリスク分散の受け皿 4.4 14.6 36.4 6.1 3.3 対日輸出拠点として 11.1 15.4 11.9 2.4 16.4 第三国輸出拠点として 17.8 26.2 19.9 8.5 19.0 現地マーケットの現状規模 26.7 28.5 6.8 15.0 30.1 現地マーケットの成長性 62.2 47.7 53.4 84.6 79.8 現地マーケットの収益性 8.9 7.7 7.4 4.9 5.7 3.1 0.6 2.4 3.6 現地のインフラが整備されている 6.7 23.1 5.1 2.4 7.4 現地の物流サービスが発達している 2.2 9.2 3.4 1.2 3.0 投資にかかる優遇税制がある 2.2 16.9 13.6 3.3 8.0 8.5 10.2 2.0 1.2 2.2 13.1 19.9 7.3 2.4 商品開発の拠点として 外資誘致などの政索が安定 政治・社会情勢が安定 出所:JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」 (2007 年度) 12 図 9 有望事業展開国の課題 (アンケートに対する回答比率 単位:%) タ イ インドネシア 法制が未整備 ベトナム インド 中 国 9.8 4.5 34.5 18.4 23.7 法制の運用が不透明 19.5 8.9 34.5 27.1 64.9 徴税システムが複雑 9.8 5.4 5.6 19.3 19.4 税制の運用が不透明 24.4 7.1 14.8 19.8 39.1 課税強化 2.4 15.2 3.5 4.8 32.0 外資規制 2.4 17.0 12.0 11.1 27.1 投資許認可手続きが煩雑・不透明 9.8 8.0 14.1 15.9 27.1 知的財産権の保護が不十分 9.8 3.6 8.5 7.7 54.5 為替規制・送金規制 4.9 17.0 5.6 9.7 34.2 輸入規制・通関手続き 12.2 6.3 9.9 14.0 22.5 技術系人材の確保が困難 24.4 24.1 27.5 16.9 16.6 管理職クラスの人材確保が困難 24.4 36.6 39.4 19.3 27.1 労働コストの上昇 22.0 38.4 19.0 15.0 53.5 労務問題 17.1 17.9 9.9 23.7 19.4 他社との厳しい競争 41.5 42.9 14.8 24.2 44.9 代金回収が困難 7.3 0.9 2.8 12.1 36.9 資金調達が困難 2.4 3.6 2.1 4.8 4.3 地場裾野産業が未発達 9.8 2.7 35.2 18.4 10.2 通貨・物価の安定感がない 22.0 10.7 6.3 7.2 8.3 インフラが未整備 34.1 8.9 47.9 54.1 27.7 治安・社旗情勢が不安 34.1 23.2 6.3 22.7 18.5 7.3 4.5 15.5 23.2 2.2 投資先国の情報不足 出所:JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」 (2007 年度) 13 第Ⅲ章 進出日系中小企業における共通課題とその対策 1. 「ものづくり企業」に対する経営診断プロセス 今回の事業の対象となった進出日系中小企業は、いずれも自動車・二輪向け製品の 製造を中心とするサポーティング・インダストリーで、日本の得意とするいわゆる“も のづくり”企業である。その場合、財務分析を実施後に現場で課題を抽出して解決策 を講じる、現場診断・工場診断が主流となるので、まずそのプロセスを述べる。 (1) 予備診断 予備診断においては、財務分析から売上高在庫回転率、一人当たりの従業員売上高 等を特に検討しておくことが必要である。今回の課題とされた事項には「品質不良改 善」 「コスト低減」「納期改善」などの問題が含まれており、この背景には中国品など 安価な製品の市場への参入や石油高による原料の上昇、さらに人件費の上昇など、イ ンドネシア進出日系企業にとって外部環境の厳しい変化が続いている背景も考慮しな ければならない。予備診断においては、これらの外部環境変化から最終改善提案に結 びつくような情報入手が必要となる。 (2) 現場診断 現場診断のポイントは、①作業管理診断 質管理診断 ⑤資材管理診断 ②設備管理診断 ③工程管理診断 ④品 ⑥事務管理診断(コンピューター化診断)など各種診 断ツールを活用することである。現場診断では、あらかじめ決めた時間や範囲等の診 断方針に従い、販売・生産・人事・経理各部門にわたって聞き取り調査する必要がある。 具体的な工場診断での現場改善の手順は次の通りである。 ① 製品構成、製品の特徴(他社と差別化すもの)又は加工技術の特性をつかむ。 ② 顧客と受注先の構成は適正か判断する。 ③ 生産工程の概略(工程のネック)受注から納品までのリードタイムは適性か判断 する。 ④ 外注先の管理は十分か。 ⑤ 不良品と不良率の推移はどうか。 ⑥ QC 活動などの社内意見の吸い上げ体制が出来ているか。 ⑦ 人事、労務面での特徴は何か。 ⑧ コンピュター活用とシステム化の推移はどうか。 14 2.インドネシア進出日系中小企業に共通の課題と解決手段 今回の事業対象であるインドネシア進出日系中小企業 7 社に対する提言書の具体的な 実例については、第Ⅳ章に挙げる。ここでは個別企業の診断及び現地ヒヤリング等から 抽出した、進出日系中小企業に共通してみられる課題例と、それに対する一般的な解決 手段を紹介する。 (1) 生産現場で発生する課題と解決手段 課題例① 生産性を 20%上げるにはどのような改善が必要か。 ② 省力化 20%達成のためには、社内体制をどのようにすすめるのか。 対策: ・部門、ライン別採算性の精算 ・目標管理体制の確立 ・設計からライン作業見直し ・提案活動の推進他 課題例③ 5S 運動を定着するにはどうしたら良いか。 対策: ・組織風土の改革 ・管理職自ら実行 ・挨拶、朝礼の工夫 ・5S 運動から独自のネーミングと工夫 ・職場間での競争 課題例④ 工程に飛び込み、特急品が多く絶えず混乱し、納期遅れが多発する。工程 管理体制を確立するには、どのように進めたらよいか。 対策: ・進度管理の工夫 ・柔軟な組織機構 ・飛び込みが日常性としてのラインの組み方 ・多能工化と教育訓練の推進 課題例⑤ QC 活動や提案制度が長続きしないが、どのような方策が良いか。 対策: ・トップ自ら推進 ・独自のアイデア、工夫 ・成果と自己実現、給与面への反映他 15 課題例⑥ 生産の 60%を外注先に依存している。優良な外注先を確保・育成していくた めの対策は。 対策: ・外注先 ABC 管理の徹底 ・外注先の評価と報奨金制度 ・外注先の定期的教育、育成 課題例⑦ 製品在庫が多く、在庫管理体制の確立と在庫削減を進めるにはどのような 方策があるか。 対策: ・ABC 分析の徹底 ・現場意識の改革 課題例⑧ 原価システムを確立していくにはどのようにしたらよいか。 対策: ・部門、ライン別採算 ・時間当たりのコスト管理 ・原価意識の高揚 ・見えない原価の見える化 課題例⑨ 新工場をつくるが、効率的なレイアウト計画どのように設計したらよいか。 新工場のモノの流し方、ヒトの配置についての指導。 ・動線と設備配置の分析 ・活性化指数分析 (2)人事管理面の課題と解決手段 課題例① 就業規則がないので作成して社内に浸透させたい。どのような点に注意し たらよいか。 対策: ・今ある就業規則の内容と改定時期の検討 ・就業規則の周知状況と徹底方策 ・インドネシアの労働法との整合性 「インドネシアの労働法は、労働者擁護の傾向が強い。例えば、残業割増率をみて も、150%~400%が時間と日とで分けて定められている。なお、宗教上の祝祭日で の割増率は 400%と定められているため、祝祭日の残業の扱いには注意を要する。 」 16 課題例② 賃金体系のあり方について。労働構成が熟練従業員と若手従業員の 2 極分 化現象にあるが、賃金のあり方をどのように考えたらよいか。 対策: ・人員構成、年齢、経歴等の分析 ・賃金プロット表の分析、バランススコアカードの利用 ・賃金体系の分析 課題例③ 管理者の能力開発と職場活性化を進めていくには。 対策 ・モラールサーベイの実施 ・風土改革の推進 ・定期的な能力向上対策、教育訓練の実施 「能力開発をした結果、他社に引き抜かれる、ひどい場合は仲間と一緒に退社し て競合企業をスタートさせるケースがある。個人ベースでの能力開発よりも、社 外からエキスパートを招聘し、関係者に一斉に学習と技能習得の機会を与え、社 内、現場での同一技術の標準化をはかり、定期的にその知識・技能の定量を目的と して全対象者に対して展開していくことも有効である。 」 (3)経営全般に関する課題と解決策 課題例① ここ数年欠損で赤字計上が続いているが、なんとか解消したい。 対策: ・製品別粗利益分析(限界利益)、損益分岐点から割り出す。部門別採算分析 ・不採算部門の改善又は撤退(売却も含む) ・固定費削減、人件費改善 課題例② 新規受注先を開拓するにはどうするのか。 対策: ・市場調査 ・市場開拓に当たっての競合品との差別化戦略 課題例③ 下請けから脱皮する方策はなにか。 対策: ・設計ノウハウの習得 ・機械の改良、改善、治工具の改善 ・省力化、省エネ技術の習得 17 ・差別化により新規顧客の開拓 課題例④ 後継者の育成、バトンタッチをどうすればよいのか。 対策: ・権限委譲時期の内容検討 ・事業部制、子会社経営を委任して適否検討 ・後継者の適正性、社内での明示他 ・後継者の育成を常に心がける 3.インドネシアの日系中小製造企業にみられる重要課題と対策 ここでは、インドネシアの日系中小製造企業にみられる経営課題のうち、特に重要 と思われるものについて、対策とともにやや詳しく紹介する。 (1) 営業(受注)と工場現場との連携の不備 営業面では、 「無理な短納期の受注をとってくる」、 「特急受注・飛び込みが頻繁に ある」 、 「複雑な加工物を受注してくる」 、 「季節変動が著しく受注にムラがある」等 の問題により、生産側からすれば、生産効率の阻害や生産計画の遅延混乱を起こす ようなことが日常に起こるため、営業に不信感や不満を持つ。 一方、生産側からは、 「生産量を平準化して、機械などの稼働率を上げたい」 、 「ま とめてつくり、段取り回数を減らして生産効率を上げたい」などの要望があり、営 業側から不満が出る。 両者の連携をどのように調整し、効率・生産性・コストダウンなどを図るかが大き な課題となる。 対策: ・営業と製造とのコミュニケーションを日ごろから十分にとる。そのためには経 営者自らが、両部門の製販会議に出席し個別に解決する姿勢を示すこと。 ・顧客は納期の無理を承知で発注してくる場合があるので、常に顧客の事前情報 を入手できるような仕組みや人間関係の構築に勤めること。 ・製造は飛び込みや短納期に対応できるような生産体制、例えば計画が調整でき るようなラインを持っておくこと。 ・混乱した場合は緊急度と重要度から経営者が判断し、決断すること。 (2) 製造原価の引き下げ 中国品や安い競合品により顧客からコストダウンの要求が厳しい。 18 対策: ・総合的な固定費の引き下げ(操業度の向上) ・個別的な固定費の引き下げ(個別工程の稼働率と操業度向上) ・段取り費の引き下げ(段取り時間の短縮、経済ロットの研究) ・部品原価の引き下げ(加工法の選択、手順計画改善) ・加工費の引き下げ(工数短縮、熟練作業の減少) ・在庫管理費の減少(仕掛品、在庫の減少) ・材料、エネルギーの歩留りの向上、不良品の減少(材料使用原単位、熱・電気 エネルギー使用原単位の向上) さらに仕掛品の減少「対策」として ・工程待ち(工程間の一時待ち)の排除 ・ロット待ち(作業中の一時待ち)の排除 ・小ロット生産の推進 ・混合生産、平準化生産の推進 ・日程計画の精度向上 稼働率の向上「対策」は ・手待ちの減少(作業者、機械) ・段取り時間の短縮(準備作業の徹底) ・間接時間の減少 ・余裕時間の減少 ・手扱いの自動化、迅速化 (3) 後継者問題 日本においても中小企業経営者の高齢化は着実に進んでおり、資本金 1000 万円以 下では 1982 年度 52.1 歳であったのが、2004 年では 57.3 歳に上がっている。5.2 歳 の上昇である。また親族内承継の比率が年々低下している。経営者にとって事業承 継は避けられない課題であるので、早い段階からの計画的な取り組みが求められる。 このため、後継者の選定と育成には慎重な検討と十分な時間が必要である。 事業継承には 3 つあると言われている。親族内承継、従業員、M&A である。それ ぞれに課題があり、対策を述べておく。 ①親族内承継 ・後継者が未熟で経営を任せられない → 後継者教育(社内・社外教育) ・自分の死後の相続紛争を防止したい → 生前贈与と遺言の活用 ・税務対策で株式を分散させると、後継者の議決権比率が低下し経営が不安定にな る → 財産分与の際のポイント、会社法の各種制度の活用 19 ②従業員・外部からの雇い入れ ・関係者の理解(事業承継計画の発表、現経営者の親族の理解、経営体制の整備) ③M&A ・後継者がいないため M&A を行いたいが、会社がうまく売れるか自信がない → 会社の実力の「磨き上げ」の重要性、自己診断による会社売却価格の試算(M&A に対する理解、仲介機関への相談、会社売却価格の算定と会社実力の磨き上げ) 詳細は、中小企業庁が平成 18 年度 10 月に発刊した「事業継承ガイドライン」を参 照されたい。海外進出日系企業においても参考になるケース・スタデイが載せられて いる。 (4) 経理・財務の知識 インドネシアでは経理はローカルに任せることになっているが、問題が起きやす いので、数字は経営自身が把握しておくことが必要である。最低限必要な知識を挙 げておく。 ①総資本対経常利益率=経常利益÷総資本×100 判断基準は当期分と過去の推移を分析して判断する。目安は次の通りである。 6~7% 収益性普通 5%以下収益性低調 10%超 収益性優良 15%超収益性超優良 ②総資本対経常利益を 2 つに分けて考える 総資本対経常利益(率)=経常利益÷総資本=(売上高÷総資本)×(経常利益÷ 売上高)=総資本回転(率)×売上高経常利益(率) 総資本回転率は製造業で 1.5 を標準とする。売上高経常利益率は製造業で 6~7%、 卸売業で 2~3%、小売業で 3~4%を基準と考えると良い。 ③安全性―自己資本比率 自己資本比率=自己資本÷総資本×100 企業の安全性から 30%以上が目安となる。 20 第Ⅳ章 インドネシア進出日系中小企業への提言事例 提言事例について ···········································22 事例 1 内部統制・人材育成 事例 2 営業と製造の連携 ····························23 ·······························30 事例 3 生産管理・経営戦略 事例 4 生産性向上・目標管理 事例 5 現場改善 事例 6 5S の徹底 ····························32 ·························35 ············································39 ··········································51 事例 7 工程管理と生産性向上 21 ·························54 提言事例について 第 I 章にて紹介したとおり、インドネシアにおける今回の診断事業においては、製造業の 対象 7 社に、原則として予備診断、本診断、事後診断の 3 度の診断を実施した。このうち、 2 回目の本診断においては、事前に提出された財務諸表に基づく経営分析および収益改善計 画案を企業側に手交・説明した。また診断後にはポイントとなる経営課題(各社 2 点程度) への改善提案を文書で手交し、必要に応じて事後にその拡充版を対象企業宛に送付した。 これらの財務分析や改善提言は、各企業の製造品種、事業内容、財務状況等の問題に具 体的に対応するものであり、そのままの形での公開には馴染まないものであるが、一般の 海外進出日系企業の参考になると判断される汎用的な内容も多く含まれている。 本章は、主に本診断において各企業に提出された改善提言のうち、企業情報、財務分析 および企業固有の問題に係る部分を省き、海外進出企業一般の参考になると思われる項 目を抜き出して編集したものである。実際の診断における提言からの抜粋であるため、 項目によって濃淡があり、一部重複する内容もあるが、中小企業診断における提言の実 例として参考に供する。 企業各位においては、自社内で改善の必要を認める項目につき、それぞれの提言に示 される改善のための基本方針や具体的手法を参照され、採用できるものがあればお役に 立てていただければ幸いである。 なお、財務分析と、これに基づく収益改善計画(最終的には企業側との相談により作成) については、ここには一切例示していないが、実際の中小企業診断においては重要な柱の 一つである。その手法や意味合い等については、参考資料2の「中小企業診断手法の概略」 を参照されたい。 22 事例 1 内部統制・人材育成 経営課題: ① 現地監査に対応した内部経理・資金の流れマニュアル化 ② 人材育成、不良品低減 提言内容: 各業務プロセスの視点から見た提案、組織の視点から見た提案、情報システム上の提案、 及び社員教育に関する提案の 4 つのカテゴリーに分けて、それぞれにポイントを幾つか取 り上げた内容とした。 (1) 各業務プロセスの見直しを図る ①取引業者との間で契約書を締結する 新規に取引する業者との契約を締結する機能がなければ、担当従業員の裁量で、不適正 な業者を選ぶ可能性がでてくる。例えば、自分と親族関係にある業者を選定し、不当に高 い価格で発注したのちに、業者からのバックマージンが担当従業員の懐に入ってしまうこ とになる。このような問題を規制するためには、取引業者の選定調査と業者との契約を締 結する制度を設けなければならない。 業者選定調査では、その業者が十分な信用度を満たしているかどうか、並びに当事業所 の社員と縁故関係のある業者なのかも調べあげることが必要になってくるので、このよう なチェックポイントを業者に対する選定基準として設け、それに従った調査と評価・選定 をすることになる。次に選定基準をクリアした業者にたいしては、社長の適切な承認手順 を経た上で、契約書の締結をすることになる。 図 1 新規取引業者の選定及び契約締結のステップ 新規取引業者 ①評価・選定 ②契約書締結 23 選定基準 契約書雛形 ②発注の際には社長の承認を得る 発注処理において、発注書起票から受領(検収)まで、一人の人間の裁量で全て執り行 われると、担当従業員による架空発注や着服が容易に行われる可能性がでてくる。 この問題を規制するためには、発注書起票段階では必ず社長あるいは上位管理者の承認 (例えば伝票に捺印等をするなど)を得るステップを取り入れるべきである。そのステッ プを取り入れ、次の発注処理のステップで承認(捺印)がされていない伝票に対しては処 理受付ができないルールを設けることによって、架空発注等を未然に防止することができ る。 図 2 発注処理の承認ステップ 社長、又は上位管理者 ①報告 ②承認 発注書起票 承認印のない伝票は受付けない 発注処理 ③ 承認印 ③追跡可能な情報が記載された伝票を使用する 納品書の支払い作業においては、支払い集計表を作成し、その合計で仕入れ伝票を発行 し、支払い処理が行われるが、このような集計処理の操作においても不正な処理が発生す る可能性がでてくる。このような不正処理を規制するためには、計算した支払集計表を第 三者が検証する作業が必要になり、納品書と集計表の照合作業が容易にできる仕組みが必 要となる。そのためには、納品伝票には、伝票の連番管理を設定することが望ましいが、 その設定が難しい場合は商品名や、商品コー取引先業者名、日付、数量、単価、金額など が最低限必要な項目になる。 図 3 支払集計と伝票照合処理のステップ 支払集計表 品目 納品書 数量 単価 金額 伝票連番 伝票連番 合計 ①報告 ③照合 ②検証 24 ④承認 支払処理 ④分散発注を行う 特定の商品を取扱う業者が 1 社のみに偏ると、その業者にとっては他に競争相手がいな いために、業者の都合のよい取引価格や納品条件を押し付けることになりがちになる。こ の弊害を避けるためには、同じ商品を 2 社以上に分け分散発注を行い、それぞれの業者が 回答する価格内容や納品条件をそれぞれ評価し、当事業所にとって都合のよいほうの業者 を優先させることができる。 このことによって業者間で互いに牽制する働きが生まれ、その結果、法外な回答(要求) を出さなくなり、当事業所にとって適正な取引を維持することが出来るようになる。 ⑤各部門の業務について明確な規定・マニュアルを設定する 業務フローを見直し、改善した手順や業務規定の変更について、会社で定めたルールと して規定書やマニュアル書にして作成することは、日常業務において関係者に遵守させる ことを促進させたり、担当者による業務のバラツキを押さえたりする上で有用な道具とな る。 図 4 規定・マニュアルの様式。書式例 規定類 実施要領・マニュアル例 様式・書式例 購買管理規程 新規取引先選定マニュアル 取引先選定基準表 発注マニュアル 契約書 受入検収マニュアル 発注書 検収書 棚卸資産管理規程 棚卸資産実地棚卸要領 棚卸集計表 原価計算表 原価計算規程 原価計算マニュアル 製造指図書 原価集計表 経理規程 勘定科目取扱要領 元帳 経理マニュアル 補助元帳 決算マニュアル 入金伝票 出金伝票 振替伝票 ⑥材料、製品の在庫管理の精度を高める 受け払い情報管理を徹底すべきで、特に払出しには数多くの種類があるので、それを一 つ一つ洗い出し、その処理について詳細に規定しなければならない。一方、棚卸について は、棚卸計画を事前にしっかりと立てておき、事前の在庫整理と担当者の役割や責任を明 確に立てておくことが必要である。 25 図 5 払い出しの種類 払出しの種類 払い出しの働き 良品返品 品違いや余剰品による返品 不良返品 不良品による返品 支給品払出し 外注依頼による支給品の払出し 貸出中 試験研究用等のための払出し 振替処理 違う在庫区への移動やコード振替等で発生するもの その他 修正中、貸出中等 ⑦標準化に関する定着の検証を行う 全ての業務は現状分析から始まり、改善して標準化し、最後に作業標準や社内規定、諸 規定等を制定する。日常の業務はこれらの標準に基づいて運用されるが、その定着度につ いて評価基準を設けて定期的に把握することが必要である。 評価基準には、図面の場合であれば新図面の枚数がどの程度削減できたか、事務処理で あれば、資材購入費の削減、事務処理ミスの削減度などが上げられる。このような評価基 準を設けて目標管理的に進めるのが良い進め方になる。 ⑧ロスの分析を行い、歩留まりの基準値の設定を行う ロスの内容には、材料取りされた素材を加工し部品に仕上げたときに残った材料や、不 良廃棄の数、紛失などが挙げられる。不良廃棄の数、紛失などについては、日常の作業業 務のなかで、作業実績として伝票などに記録し、その原因をデータとして把握する必要が ある。このデータを分析し、標準歩留や目標歩留などを設定し、目標設定や材料在庫の引 落し基準値などに利用することができる。 (2)組織制度の見直し ①権限を特定者に集中させない インドネシアでの労働法令上の規制では、経理と人事のマネージャーには現地人を設置 することが義務付けられている。そのために、この職責については現地人スタッフが保っ ており、これに購買処理も同スタッフが兼任するようなことがあると、不正が行われても その事実を把握することが難しくなっている。したがって、金銭にまつわる購買処理の仕 事については、特定な人間だけの特権的な領域から切り離すことが必要になる。仕事を分 離させ、互いに牽制し合う機能がうまく働くよう職務を分割すべきである。 26 図 6 組織制度の見直し変更例 社長 社長 生産管理 経理部門 生産管理 経理部門 購買 マネージャ マネージャ マネージャ マネージャ 部門 経理 購買 経理 購買 ②配置転換(ローテーション)を行う 契約社員は、 最長 2 年で入れ替わるというインドネシアでの労働法令上の規制があるが、 そのために現地スタッフを育成するには期間が少なく、2 年間で習熟度がピークに達した段 階で新人に交代させることを余儀なくさせられている。この問題に対しては、各部門の業 務が標準化されたマニュアルが準備されてあれば、それを元に比較的短期間で新人を育成 することが出来るはずである。 ③発注担当と受け入れ担当を分ける 購買処理において、発注担当者に権限が集中している場合、担当者の個人的な用途に基 づく商品の発注が行われたり、不適切な価額の発注が行われることによって、会社の利益 を阻害する可能性がある。このような購買手続きに関連するリスクを回避するためには、 発注書は上位管理者による承認を得る手続き((1)業務プロセスの見直しの②と同じ処理) を踏んだ上で、発注担当と受入担当を違う人間に分離させ、相互に牽制し合う組織形態に 変えることが必要である。 図 7 購買業務の職務分掌例 発注担当者 受入担当者 相互牽制 (3)有効なシステムの導入 ①ERP、EDI など人が介在しない取引方法の検討を行う ERP(Enterprise Resource Planning)とは、あらかじめ取引先や取引条件などの基準 情報を登録し、その基準に従って、決められた手順で処理されるシステムである。したが 27 って、不適正な取引先を用いたり、不適切な手順で処理をするとエラーとなるので、不正 な取引先や不正な処理を防止することにも役立つシステムになる。 一方、EDI(Electronic Data Interchange)とは、商取引に関する情報を標準的な書式 に統一し、企業間で電子的に交換する仕組みで、受発注や見積もり、決済、出入荷などに 関わるデータを、あらかじめ定められた形式にしたがって送受信する仕組みになっている。 したがって、この場合も不適正な処理は行うことは出来ず、不正防止に役立つ仕組みを備 えているシステムである。 以上、基準情報が整備され、仕事の手順が標準化され、担当者の役割や責任・権限が明 確になっていれば、このようなシステムを不正処理防止のために有効に活用することがで きる。 (4)教育・人材育成 ①仕事を構成する要素作業について難易度及び重要性について評価を行い、認識のギャッ プの発見を行う業務を要素作業毎にクラス分けし、それぞれに難易度や重要度を設定し、 それに基づいた評価を行うことが、より公平な実情にあわせた評価になる。さらに部下と 上司の同時採点を行えば、人材育成上のギャップが浮かび上がり、より効果的に人材育成 を推進させることができる。 ②プロセスも評価の対象にする 仕事の進め方(手順)の理解度や正しく処理がされているかを評価基準に追加すれば、 作業者の仕事の方法や手順に対する評価とコントロールを効果的に進めることができる。 (5)その他 ①全社的な活動についてキャンペーンを行う 提案制度や QC サークル、目標管理等全社的な取り組みとして行っている活動と同じ取 り組み方法で、間接部門の業務改革として関係する社員全員に訴え、協力を得る環境をつ くることが、効果的に進める上で必要不可欠なことである。 ②アウトソーシングを行う 経理や購買等専門アウトソーシングを活用すれば、経営管理部門の人員不足にも対応し、 インドネシアの法制度に精通した業務代行及び支援、情報提供、トラブルの予防コンサル タントなどの支援サービスも同時に活用できるメリットが生じてくる。 進め方について 以上、間接部門については仕組みの見直しを、主として人の行動を規制する提案を述べ てきたが、これらの提案については実施に当たっては要する資源や時間はまちまちである と考えられる。また、現在不明瞭・不明確なものの中には見えるようにするには多大なエ 28 ネルギーを要するものもある。改善の実施・不実施について経営的判断を行うには、 ①投入したエネルギーに見合った効果が得られるかどうか ②許容できるレベルがどのあたりになるのか が基準となると考えられる。そこで、実施に当たっては、やりやすさ、効果の大きさ、投 入する資源の多寡、効果が発現するまでの時間など、効果の大きさや費用対効果を測定で きる基準をもとに実施項目の評価を行うのが合理的なので、これらの要素を勘案し、優先 順位をつけて、段階を追って実施することを勧める。 図 8 プロジェクト方式による進め方の例(大日程) 3 ヶ月 6 ヶ月 9 ヶ月 1年 ★プロジェクト立上 キックオフ 業務プロセスの見直し 段階的導入 組織の見直し 段階的導入 フォローアップ診断の結果:教育・育成 システム見直し 29 事例 2 営業と製造の連携 経営課題: ①販売計画と生産計画の立案手法と経営全体 ②不良品撲滅と 5S 運動の提案 ③従業員のモチベーション向上 提案内容: (1)経営改善の課題 ① 顧客リストが完全でなく、販売機会損失の可能性がある。 ② 営業と製造のスーパーバイザーのコミュニケーションが悪い。 ③ 短納期化が必要である。 ④ 大口取引先との契約による体制が必要である。 ⑤ スーパーバイザーや営業員の動議づけのための研修を行う必要がある。 (2)対策 ① 顧客リストは、 「販売は販売した後から始まることを考え、次の修理や納期時期を把握 しておく」ように作成する。また、顧客リストの活用を徹底していただく。 ② 仕事を多く取り、いつも機械及びヒトに遊びがないこと。 ③ 納期遅れのない管理体制 ④ 契約書を作成する方向で検討に入った。 ⑤ 一定額以上の価格契約は、社長決済とする。 ⑥ JODC 等の支援事業の利用。 ⑦ 幹部クラスには、会社の内部事情を社長が直接伝える場を持つ。 ⑧ モチベーションの向上策を図る(現状をよく理解してもらう)。 ⑨ 社風を風通しをよくする(社員と話す時間をとる)。コミュニケーションをよくする。 診断において、工場スーパーバイザーと営業のミーティングをもつことにした。1 週間 に 1 回は定期的に行うことと、社長の出席は必須である。社長は方針と開会宣言を行う だけ、発言を指名して全員に話させる。前向きな発言をすることとし、会議内容は記録 し翌日貼り出すこと。 第一回目を診断士が指導し、営業と工場スタッフで行った。スーパーバイザーから社長 に対して日ごろの懸案事項が出された。結果として全員が内部のコミュニケーションが大 切との認識を持つにいたった。 30 (3)製造部門と販売部門の連携のポイント ① ポイント 1:製造部門がまず率先して活動を進める 販売部門の守備範囲は、お客様である。お客様を自分たちの都合で変更させるわけには 行かない。そこで製造部門は、改善活動を実施する際のも、まず、これからの市場動向 を自ら想定していかなければならない。 ② ポイント 2:お客様の研究からはじめる 実際には、過去のデータから売れ方を把握する。これは必要不可欠である。そして、こ の分析も製造部門が中心となって行うことである。なぜならば、この分析の目的は生産 と販売を統合していくことであり、常に製造部門の現状を考慮しながら進めなければな らないからである。 ③ ポイント 3:製造部門から業務を取り込んでいく 業務を統合するとは、お互い重複している機能を見直すことである。不要な手続きの 廃止・統合や業務の簡素化などがこれに当たる。この場合、業務を取り込むのは製造 部門とすべきである。なぜなら、製造部門に、人・モノ・設備などコントロールしな くてはならない不安定な要素が多くあるからである。 31 事例 3 生産管理・経営戦略 経営課題: ① 生産管理(マニュアル化するも実践されていない。内容確認し指導要請。 ) ② 経営分析・価格決定方法 現場の技術は軌道に乗ったが、納期管理・品質管理の問題を抱えている。政府の監査にも 対応できる財務体質にしたい。 提言内容: ① 当該企業は成長軌道に乗りつつあり、今後どのような成長戦略が良いのか検討する必 要がある。 ② 既存品の浸透戦略―新市場開拓―新製品開拓―多角化戦略の各成長戦略から、既存品 の既存市場への浸透を強化する浸透化戦略が有効であるとの判断となり、了解を得た。 ③ 販売増のための設備投資については、 「設備投資モデルプランの作成」、資金調達と運 用(新規投資)などの計画を立てているが、多額の投資であるため、リスク計算をし ておくことが大切であることを助言した。また、そのためにはマーケティング戦略立 案が重要となる旨説明し了解を得た。 ④ 体力のある企業(環境の激変に耐えうる企業)となるには、少なくとも 3 つの基本事 業を持っておくと良いとの提言に対して、社長より具体的な 3 事業を中心として拡販 していきたいとの決意を確認した。 ⑤ 3 事業のうち加工部門では、QCD における Q(品質)は日本並とし、さらに、付加 価値をつける(短納期など) 。また、不良品の減少により利益製品とする必要がある。 日本人の工場長の下で技術習得を行う積極的な人材の育成が必要である。工程で不良 が発生している原因はオペレーターの技術の未熟さにあるため、人材育成がさらに必 要と考え、工場長の了解を得た。 1.診断ポイントに関する整理・改善提案 (1) 売上高増に伴い、より安定した利益体質の企業になること、かつ、設備増強により 大きく売上を伸ばす成長戦略をとる。 (2) 工場長は、ローカルの人材の扱いがうまく尊敬されている(従業員から実力が認め られている) 。例えば、インドネシアでは従業員を人前で叱ることはタブーとされて いるが、後のフォローが上手なため逆にモチベーションを上げているようで、定着 率が極めてよい。しかしながらこの様な例はまれであり、今後は後継者の育成が課 題となろう。 (3) 一部部門については垂直的多角化を果たすことより、付加価値の高い商品となる可 能性が高い。そのための注意点を指摘し、了解を得た。 32 2.現場改善提案を以下のように行った。 (1) 品質マネージメント計画(マニュアル)にて、各ショップの行動規定が決められ活 動が進められている。会社としてのサポートが今後の定着・充実化に大きな効果を 与える。 一部のショップで、マニュアル通りに仕事が進まない原因として ① 生産管理部署の担当者の経験(業務に対する資格要件)不足と、その影響で後工 程への生産統制が的確に出来ていないことにある。 →暫し、熟練者のフォローをお願いする。 ② 内部監査は年 2 回の計画で、2006 年 12 月に制定以来 1 回実施され、緒に就いた 処である。機能するまでは、社長が内部監査の責任者として内部監査を進めるこ と。また、内部監査を待たずマニュアルの教育を担当者レベルで実施することを 計画し、定着化を図ること。 (2)生産の平準化のための諸施策(特に現場)を更に充実させることにより、納期など の向上が期待出来る。 ① 作業指示は、 「作業手順書」が各工程に掲示され明確である。指示書の中に「急所」 を“赤字”にしてより明確(専用欄を設けるのがよい)にすること、及び改訂欄を 設け今後の変化・変更に準備しておくこと。 ② 作業手順書は品質マネージメント展開で初めて作られている。今後、この手順書 を使い込み、活動を進める。すなわち監督者による「作業観察」「作業習熟訓練」 「多能工化」 「改善」へ進み(監督者教育指導で) 、安定した生産運営を目指すこと。 (3)現場活力の活性化を、意識して継続を図ることで一層強い現場が構築される。 製造現場では、生産する上で必要な管理や維持・向上させるシステムが少なく、効 率的な運営への改善代(現場監督者によるマネージメント)が大きい状態である。ま た、現場のモチベーションを確保し向上させる現場活動が少ない状態である。 *監督者層の教育……人材育成 *3S 活動の徹底 「目で見る」管理として、経営陣と現場監督者の協業活動を採ること。この活動は、 経営トップの関わりが重要となる。 ・経営陣と現場監督者合同の定期パトロール実施は必須である。 (4)各工程での「改善」の仕組みが少ない様である。前述の「作業手順書」使い込み活 動を進めることで、 「改善」のベースが確立出来る。後述する手法などを活用し生産性 向上活動を進めること。 33 同時に、提案制度も採用すると弾みがつく。 (5)人材育成の一環として、現場監督者へ教育プログラムを準備すること。 日本では、戦後から TWI(Training Within Industry for supervisors)及び RST (労働省方式現場監督安全衛生教育)教育を繰り返し行い現場の基礎力を確保して 来ている。この教育体系を参考に教育プログラムを検討すること。 3.価格決定方法 競合品のある場合、市場が需給バランスから製品価格を決定する。そのため製品を競 合品と差別化(品質、ブランド、アフターサービスなど)することで、付加価値を上げ、 少しでも高く売ることを指導した。その際に有効なツールとしての損益分岐点から売上 高(販売価格)を決める方法を伝えた。 基本式は、損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費÷売上高) である。この式から利益を上げるためには以下の点がポイントとなる。 ①変動費を下げる、不良率を下げる、生産スピードを上げる、ことなどにより、材料費 (変動費の大きな部分)の使用を抑える。現在インドネシアでは各種材料は値上がり 傾向にあり、この現場の努力(使用材料削減)は重要な課題となる。 ②固定費を下げる。固定費の大きな部分は人件費である。毎年最低賃金の上がるインド ネシアでは、固定費が上昇する傾向にある。そのため、次の式による生産性を高める 必要がある。 生産性=付加価値(あるいは売上高)÷従業員数=1 人当りの付加価値 一般的に企業が人員を 10~20%カットしても生産量は下がらないことが多い。人 員の余裕は必要な時もあるが、人員の削減を時間をかけてやることが今求められる。 ③製品の付加価値を上げることで販価を上げ売上高を伸ばす。あるいは新製品の開発を 行うことで、売上高を上げる。あらゆる企業で常に新製品開発、新システムの開発を 考えることは、企業存続のために必要であることを伝えた。 34 事例 4 生産性向上・目標管理 経営課題: 1.不良品発生の原因解明と防止策。 2.生産計画の精度の向上(現場にあった、ローカル従業員の実施可能なものが必要) 社長自ら生産計画を立てているが、「遅れることを計算に入れた内容」とのことである。 遅れる原因はローカルの意識にあり、人材育成(意識改革)が必要。 現状以下のような経営課題があると考えている。 1.生産性効率(5S の徹底) 2.情報や業務連絡の正確さとスピードに問題がある(現地の人材育成が必要との認識が ある) 3.生産計画の精度(どのような生産計画の立て方をしているのか、受注に間に合わない 点が注意を要する) 4.不良の再発防止と対策 提言内容: 当該企業の中核技術となっている設計部門は、日本人技術者の役割に依存している。し かし価格競争が更に激しくなることから、人件費削減が対応策として求められる。同時に 競争を勝ち抜くため、品質向上と生産性向上が必要である。コスト面で不利な日本人はコ ア技術の最重要部分のみとし最低限の人員を配置するとともに、現地人による生産システ ム運営が向上するような対策が必要となる。現地人の技術力・スキルの向上を定期的・継続 的に図る計画を策定する。 Ⅰ 生産性の効率(5S を含む) 1.生産性の維持と向上 (1) 設備の稼働率向上(スピード化) 加工工程、組み付け工程、品質検査管理、修理工程の各工程共に、 「付加価値を付ける 工程の生産性を上げる工夫」がポイントと思われる。設備の稼動率を維持し、適正運 転条件維持を図っていただきたい。 (2)次に前工程、中工程、後工程、仕上げ工程等の一連の流れの中で「ムダ」 、「ムラ」 が発生する。この工程は一般に 70%程度と云われるが、この「ムダ、ムラ、ムリを排 除する」ことがコスト削減や合理化の課題である。 (3)品質の安定及び不良品削減 不良品の削減が収益の源泉になる。「出さない!見逃さない!」が基本だが、不良品は 35 ベテランなら少ない、新人は多いなどのバラツキが出ないように、不良品発生場所ご とに原因を解明して再発防止を促す必要がある。例えば、Process Engineering、 Machining、QC の連携を強化することが必要である。 2.生産性向上と改善と合理化対策 上記の、生産性向上、品質維持管理は、従業員の自身の注意力、自覚、訓練によって改 善されるものである。これら改善や合理化の成果を出すのは、貴社が着手を開始している 5S 活動を全社的な実践テーマとして徹底されることだと考えられる。 (1) 5S の実行と定着 ①5S の目的や狙いを確認すること 「5S の狙いは、品質向上・原価低減・納期厳守・稼働率向上・安全向上」などが目的で ある。単なる整頓や清掃作業にとどまるものではなく、企業体質の改善になるのである。 ②合理化や改善の手法は 5S ひとつに絞る 5S, TQC, JIT、3M(ムリ、ムラ、ムダ) 、ポカ除け対策等のさまざまな改善活動が盛 んである。そして何れの手法も目的や狙いは同じである。従って、改善や合理化手法は、 「5S 一本に絞って実行する」ことを提言する。 ③5S の意味するところは、次の通りである。改めて確認していただきたい ・整理:要るものと要らないものを仕分けして、要らないものは現場から排除すること (例:1 年以上動かず役立たないものは捨てる) ・整頓:要るものは使いやすいようにきちんと置き、誰でも分りやすいように明示するこ と(例:治具工具など看板表示・・・3 定と云う) ・清掃:常に掃除をしてきれいに維持すること(例:機械周りや作業場) ・清潔:清潔は、上記の 3S を維持すること(現場毎に反復し習慣化する) ・躾 :決められたことを、常に正しく守り、習慣づけること(5S の核) ④「やるからには徹底する。 」 5S は、ステップを踏んで段階的に進め、職場に定着し習慣化されるまで繰り返すことが 必要である ・経営トップの決断と推進組織の設置(名称を考案する) ・推進者の選定、職場リーダーの選定 ・年次計画の立案 (5S のタネは現場にある。現場と話し合いの上自社内でプログラムを決める) ・現場パトロール巡回の実施 ・実施モデルの職場掲示板への明示(写真やメッセージを併記) 36 ・5S 発表会の開催 ・表彰や褒賞により動機づけに結びつける ・成果は評価して賞与や昇給に反映する ⑤「人材育成は 5S 活動を通じて実行」して欲しい ・計画(Action Plan)は PDCA 管理(実行マニュアル作成)により遂行する ・技術習得 OJT 教育の場とする ・職場環境の改善も合わせて実行する ⑥ 社内コミュニケーションに心掛ける 実践に際しては、社内のコミュニケーション機会が欠かせない。コミュニケーション機 会を作り、競って実行される環境づくりが効果を生む。 (2)5S は全社を対象とする ①人間の作業動作を勘案して、合理的な環境づくりを心掛ける ②原料資材から製品出荷工程までの全工程作業をカバーする ③同時に、職場全体を合理化の対象とする なお、ISO の取得を準備しているが、5S との兼ね合いを調整して実施していただきたい。 Ⅱ 業務や情報連絡のスピードアップ (1)目標管理の導入 当該企業では、社長が年間目標を設定し、責任者が各職場毎にこれをブレイクダウンし、 更に個人毎に計画を立てる、いわゆる「目標の連鎖」が実施されている。しかし、マネー ジャー、スーパーバイザーの力量の差により、進捗管理が十分になされていない。改善発 表を年 2 回行うものの、評価がされていない等の問題点がある。 そこで、計画を立て進捗を管理し、実績により評価を行う「目標管理」を提案する。個 人別の目標達成実績は、人事考課にリンクさせ、昇給とボーナスに反映させることで、各 人に計画遂行の動機付けを与えるものである。 達成の物差しは、金額、数量、回数、実施頻度など定量的に表現することがポイントで すが、定量化が出来ないものは達成の期日やレベルなど定性的に表現させることでよいと 思われる。上司と部下の面談は、計画作成時と計画評価時に年数回行い、部下指導を通じ て管理職を育成し、管理職の指導・評価能力を高めることになる。 (2) 報・連・相の徹底 当該企業では現在、上記の目標発表会(年二回)、生産会議(週一回) 、業績報告会議(月 37 一回) 、各職場毎のミーティング(毎日)の会議体が実施されているが、5S や安全推進、ISO のための組織は、まだ設定されておらず、具体的に推進されていない。開催責任者、参画 メンバー、実施頻度、日程、報告先などを具体的に決め、プロジェクト活動をとして推進 し、会議体を通じて報・連・相を活発化させることを提案する。 改善や合理化は、継続することにより会社の力となる。会社が人材で成り立つと云われ る所以でもある。改善活動も“継続は力なり”を旨として弛まず実行し発展されることを 期待する。また、経営管理においてはキャッシュフローに十分注意し、長期に渡る受注を 精査した上で、慎重かつスピーディに設備投資を決定していくことが求められる。 38 事例 5 現場改善 経営課題: ① 社長も含めたマネジャークラスを対象に、経営分析の手法・意味・改善方法指導 ② 不良品撲滅、目標値 1%以下 提言内容: (1)現場監督者への教育 TWI(Training Within Industry for supervisors)や RST(労働省方式現場監督 安全衛生教育)で示されている監督者像の教育である。診断士の経験からもこの教育 は現地人にも受け入れられる。彼らは新しいものに飢えており、自分に利益になるも のに対しては日本人以上に貪欲な面がある。 * 監督者とは * 監督者の立場 * 監督者に必要な条件 * 監督者の意識・気づき * 監督者としての心構え * 部下への教え方 (2)現場監督者へのツール トヨタ生産方式やキヤノン生産方式などの原点である、現場監督者が現場を納め るツールである。これを武器に監督者は部下の指導や、与えられた課題や目標の達成 を科学的に行動し効果・結果を発生させる。 * 作業手順書の作成 * 作業習熟 * 作業分解からの改善手法 * 作業編成 (3) 現場監督者へのフォロー活動 3S 活動の導入・徹底とフォロー (4)ツールの個別の説明 個々のアイテムの概要を記載する。 ① 作業手順書の作成 これは、「技術指図書」や「作業プロセスシート」とは異なり、現場監督者が中心と なって関係者(現場のキイパーソン)で作成する。監督者の武器となり、まさにバイブ 39 ルといえる。 現場での過去の失敗事例や作業する上での「カン」や「コツ」のキーポイントを「急 所」として記載する。新人作業者教育や現在の仕事がきちんと決められた通りに実施さ れているか評価し、また改善ネタを探す為のものである。S(安全) 、Q(品質) 、C(原 価) 、D(生産・納期) 、M(モラール)を確保する為の現場が作り、現場が持つ基本の 指示書である。 まず作業分解から始める。 ② 作業習熟(多能工化) 3-3-3 活動で、1 人 3 作業<3 工程>、1 作業<1 工程>3 人、3 人が全作業<工 程>が出来るように計画的に訓練を進める手段である。このシステムは、15 人相当 のグループで有効である。 これが進むことにより ・欠勤や増産など生産条件の変化に対する対応力の向上 ・作業に伴う疲労や精神的負荷の軽減 ・生産時の異常対応の迅速化 ・作業を複数の目で見る事から、改善ネタの発掘 などが期待出来、改善される。 ③ 作業分解からの改善手法と作業編成 作業編成表は、作業手順書作成時に作る。また、改善を省人化に結びつけるには新作 業編成が必須である。 ④ 3S 活動の導入とフォロー ご存知の整理・整頓・清掃である。悪い所が直ぐに目に入り「目で見る」管理の基本と なる。現場に経営人が立ち入っても、直ぐに指導出来る都合良い活動である。 それぞれにプログラムがあるが、活動のポイントは、社長などトップが“気合を入れて” 定期的に現場監督者の代表とパトロールすることである。人に任せた時点で活動はストッ プする。 ・ 「組織化」・・・トップは社長(経営陣)で担当者ではない。 ・ 「計画化」・・・経営陣が現場監督者と合同定期パトロールの実施 40 *作業分解例 *作業手順書例 急所 手順 失敗事例や 過去災害 41 改善の進め方 製造現場の生産性向上には、①現有勢力で生産数を増す方法、②現有勢力を精鋭化(絞 る)し同数の生産数を達成させる、等の方法がある。 近年は、生産数が伸びにくい厳しい環境下のため、現有勢力の精鋭化が求められてい る。現有勢力の精鋭化には、今までのやり方では勢い労働強化に繋がり、労働者の協力 を得るのもなかなか難しい状況となる。そのためやり方や進め方の変更が必要である。 トップダウンで、 「やり方や進め方を変更し“精鋭化する”」と指示することは、企業 の活動として進めるためには大切なことで、第一番目にお願いしたいことである。 「精 鋭化」するためには、製造業現場が長年に亘って培ってきた“改善”と“現場管理”で 代表される原理原則や進め方がある。今回これを紹介し、御社の精鋭化の仕組みづくり や現場力の向上をご支援させて頂きたい。 1.改善 改善も、P→D→C→A サイクルを回す活動である。現在は生産を行なっているから、 現状把握から始める。従って、C→A→P→D となる。 C;現状把握→A;改善案の発掘→P 改善案の採用計画→D 改善の実施の手順である。 以下にそれぞれを説明する。 42 (1)Check:現状把握 ① 作業や工程を観察する。 ・運搬作業 ・機械作業 ・手作業等などについて細かく見る。 ・作業分解シート ・ビデオ撮影などに記録する。 ② 現状の作業編成表を作成する。 ・生産タクトを求める。 稼動時間 生産タクト = 必要生産数量 *稼働時間は、 例)8 時間/日×60 分=480 分 480 分-(朝礼+休憩+後片付け) ・作業者別作業状況を把握する。 ・・・・・主なステップ(作業)ごとに時間の測定 *改善の方向性を探るときには、1 人分の作業量の測定。 *ストップウォッチや腕時計で測定。 *測定用の便利な帳票もありますが、普通の用紙で OK。 *主なステップは、 「1つの部品組付け」など“遣り切り仕舞い”単位で。 *設備の稼動時間も測定。設備稼働中の作業者の作業も測定。 *人による(繰返し連続生産)のケース・・・ 「作業編成表」の作成 作業者ごとに仕事量を把握する * 人と機械・設備が協業(繰返し連続生産)のケース・・・ 「作業組合せ表」の作成 工程に配置された機械・設備での「手作業時間」と「自動時間」を把握する。 43 *「工程能力表」から「作業組合せ線図」の作成 *修理など単品生産のケース・・・「工程能力表」の作成 単品の専用作業とはいえ、共通の作業や加工時間をデーター収集して洗い出す。 工程間移動(運搬)時間も測定する。 44 (2)Action;改善案発掘 ① 細かく見て、記録した作業ごとに機能やムダを分析する。 ・5W1H で「なぜ必要か?」→“廃止出来ないか?” “工夫出来ないか?”や「目的は 何か?」、「どんな方法が良いか?」を確認しながら改善案を洗い出す。 ・4M (人・物・設備・方法)や「安全」 「整理整頓」などの切口でも確認精査する。 ② 新たな方法を考える。 ・4 原則の活用 「取り去る」・・・・・・・・・不用な作業を取り去り、ムダを省きます。 「結合する」・・・・・・・・・作業間の取り扱いを少なくします。 「組み替える」・・・・・・・部品の取り扱いや運搬のムダなどを省きます。 「簡単にする」・・・・・・・やりやすくする方策を探ります。 ・作業をもっと楽に安全に行なうために 「材料・部品を動作範囲に配置」・・・・・・ストライクゾーン作業 「重力の活用」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シュートなど補給・送出装置の検討 「両手活用」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・両手作業 「治具・道具の活用」・・・・・・・・・・・・・・・・手で支える代替装置 「歩行の極小化」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・歩行のムダとり ③ 改善案発掘シートの活用。 各種帳票があるが、 「作業分解表」や「作業手順書」を活用すると便利。 45 (3)Plan;改善案の採用計画 ① 改善案を一覧表にまとめる。 ・進捗管理表で管理・・・ 例「誰いつ新聞」の活用 誰いつ新聞 (例) 改善案 効果 誰 いつまで 進捗 1 2 3 4 5 ② (2)で採用出来る案件を、 「新作業編成表」に組入れる。 <人系・・・・・・繰返し連続生産> ・目標タクトに達するように作業の「組み替え」を行なう。 目標タクト 新作業編成へ向け A B C D E F さ ん さ ん さ ん さ ん さ ん さ ん 46 作業の改善や組み替えから <1 人分や 2 人分の作業を移し変える> ・F さんは有効活用に回ることが出来るし、監督者がラインに入っている場合には作業 観察や改善への工数が生まれる。 ・D さんの仕事量が目標タクト以上であったから、目標数量に達しない要因や、忙しい 思いをさせている現状から脱皮が出来る。 <人と設備・機械の協業・・・・・・繰返し連続生産> ・手待ち時間の有効活用が図れ、各機械の手待ち時間に作業に回すことができる。 ・多能工化から多台持ちの改善が出来る。 ・機械毎の仕事量が機械時間以上であれば、目標数量に達しない要因となるし、忙しい 思いをさせている現状から脱皮が出来る。 ・機械時間を減じるのは、技術を主体とした改善活動となる。 <修理など単品作業> 個別の受注品により、作業時間がバラバラとか多工程に亘るケースが多くある。 しかし、生産計画策定には「時間」が必要であり、工程能力向上も図り生産性向上を 図る必要がある。このために、 *それぞれの工程で必要な時間<所要時間、作業工数>を測定しデータ収集をする。 *製品が違っても、 「共通の手作業時間」 「共通の加工時間」を洗い出す。 このようなデータから、その受注品は「何日掛かる」→「半日掛かる」→「何時間掛 かる」と言うようにメッシュを細かくして行く。 47 (4)Do;改善案の実施 新作業編成 目標タクト A B C D E F さ ん さ ん さ ん さ ん さ ん さ ん ・新作業編成表に基づいて、作業訓練の計画を作り実施する。 ・訓練を通じて、スムーズに生産出来るようにネックの問題点を洗い出して手を打つ。 また、追加の改善点も出てくる。 ・編成効率の計算をする。 各人の配分時間の合計 編成効率 = タクト時間 × 編成人数 *目標は 95%以上になるように検討する。 *新旧の比較で効果は明瞭である。 2.定着化 折角苦労して作成し採用した“新作業方式”も、定着・発展させなければ、それこそ“も ったいない”ものになってしまう。定着・発展をさせるには手段がある。繰返しになるが、 大きくは、 「改善を支える仕組み」と「人材育成」である。 (1) 改善を支える仕組み 前述の監督者へ渡すツールである。 *作業手順書の改定と整備 *作業習熟訓練・技能拡大/多能工化 48 (2)人材育成 前述の監督者への教育である。 *TWI(Training Within Industry for supervisors) 第 2 次大戦中にアメリカで開発・普及した訓練方式であり、戦後日本に導入されて 現在のトヨタ生産方式や日産同期生産方式へと発展してきている。監督者教育として、 「仕事の教え方」 「改善の仕方」 「人の扱い方」でまとめられており、いわばバイブル となっている。 *RST(労働省方式現場監督者安全衛生教育) 労働安全衛生法 60 条に基づく職長(監督者)教育のプログラムで、昭和 48 年から実 施されている。「作業手順書の定め方」 「作業方法の改善」 「労働者の適正な配置の方 法」から「リスクアセスメント」まで 13 項に亘っての教育訓練プログラムである。 3.生産統制の基本ツール (1)ガントチャート 生産工程は、分業の集積である。 「いつまでに製品を出荷しなければならない」という計 画とその進捗を見える様にして管理する。これにはバックワード方式<納期を起点として 時間軸で個々の工程を一元的に管理する>を採用する。前述の「工程能力表」を活用し、 工程の同意と協力の基に計画を作る。 このバックワード方式が根付くまで、本ガントチャートの使用は有効である。プロジェ クト活動には必須のものであり、日々の生産では現在はコンピューター内で管理されてい る。 49 (2)工数山積み表 受注の都度や毎週、負荷(前述の工程能力)を工程別、機械別、納期別などに累積し、 棒グラフに表し累積して現状や今後の負荷を確認するものである。どの工程にどの機械に 過不足が発生しているか直ぐに分かる。平準化生産や納期管理に有効である。 50 事例 6 5S の徹底 経営課題: ①人材育成(対象者リーダーからマネジャーまでの中間管理層) 。 “ものづくり”での PCDA のマネジメントの大切さの指導。 ② 不良率減少。人材育成も含め対策必要。 提言内容: 1.稼働率の維持と向上 (1)設備の稼働率向上(スピード化) 設備稼動率を高め、正に、付加価値を付ける工程の生産性を上げる考案がポイントと思 われる。このため、設備の能力測定と適正運転条件維持を図っていただきたい。次に前工 程、後工程、仕上げ検査工程等にムダ、ムラが発生する。この工程は一般に 70%程度と 云われるが、この部分を極力排除する必要がある。 (2)品質の安定及び不良品削減 不良品の削減が収益の源泉になる。出さない!見逃さない!が基本であるが、ベテラン なら少ない、新人は多いなどのバラツキが出ないように不良品発生場所ごとに注意を促す 必要がある。例えば、注湯作業、仕上げ・検査工程の清掃や手元照明をチエック整備こと も必要である。 (3)安全運転(事故対策) 安全と事故対策は重要な仕事である。新人の挟まれ怪我が発生するとのことであるが、 事故防止を喚起する点検表示や注意促進を十分実施していただきたい。 2.生産性向上と改善と合理化対策 上記の生産性向上、品質維持管理、安全管理等は、従業員の自覚、注意、訓練によって改 善される。これらの改善や合理化を実践するのは、貴社が既に進めている 5S 活動を徹底す ることだと考える。 (1)5S の実行と定着 ①5S の狙いを確認して実践してほしい。 現場の合理化は、5S を始め TQC, JIT、3M(ムリ、ムラ、ムダ) 、ポカ除け対策 等さまざまな手法が盛んに行なわれている。しかし、何れの手法も、その目的や狙い は同じである。それは、品質向上・コスト削減・納期遵守・リードタイムの短縮・在 庫削減・安全確保・モラールの向上・組織活性化等を幅広くカバーするものである。 51 従って、当社では、すでに着手している“改善活動を 5S 一本に絞って”職場に定着さ せ従業員一人々々の自主的行動になるまで実践されることを期待したい。 ②S 活動の実行 3 原則を理解する。 5S 活動には 3 つの原則がある。その第一は①経営トップの率先垂範のもとに中間管 理者が先頭に立って指揮すること。次に②全社を挙げて全員が参加する活動として推 進すること、第三は③就業時間内に推進することである。 ③5S の導入を現場改善の場としてほしい。 5S 導入に際して、第一に①5S 活動の内容と手順を明確にして導入プログラムを作成 することが必要である。なお、当社は ISO を取得しているが、ISO を調整して 5S に 組込んでほしい。第二に②“5S 実行委員会”を設置、委員長と責任者を任命すること が必要である。第三に③推進組織図を整備して正式な会社業務に位置づけることが必 要である。組織にはネーミングつけて身近なものにするとよい。 ④5S 改善は、PDCA 管理過程を踏まえて手順的に実行してほしい。即ち、 1.Plan: ・5S セミナー、勉強会を開催して計画内容や推進方法を検討する。 ・現場毎に実情を査察して具体的な内容を計画する。 ・実施方法や手順を明確にする。 2.Do: ・現場巡回により部下指導(OJT)を徹底する ・5S 看板を掲示、職場ミーティングの開催により進捗状況を確認する。 ・トップによる巡回及びパトロールを実施して奨励する。 3.Check: ・5S の実施状況を適格に評価・チエックし分析する。 ・次段階の内容を決め、繰り返し成果が出るまで実行させる。 ・従業員の注意・自覚・動機づけに結びつける工夫させる。 4.Action: ・5S 進捗状況は、写真による Before&After を掲示して公開する。 ・5S 発表会や VTR 大会を開催し、コミュニケーション機会とする。 ・実施の成果は、表彰や褒賞により努力を報いる。 (2)人材育成とモラルの向上 ①人材育成は 5S 活動を通じて実行して欲しい ②実行計画(Action Plan)は自前のプログラムを作成して行う 52 ③職制による指導と教育(OJT 教育の場)を実行する ④5S 効果を測定評価して職場に明示し、Incentive(表彰や褒賞)に結びつける ⑤技術習得と職場環境の改善も合わせて実行する ⑥実践に際しては社内のコミュニケーション機会が欠かせない。各種のコミュニケー ション機会を作り、競って実行される環境づくりが効果を生む。なお、ISO シリー ズを取得されているが、5S との兼ね合いを調整して実施していただきたい。 また、日本本社との連携、特にマーケティング戦略及び技術連携について確認され、戦 略的コンセンサスを得られることが必要と考えられる。かつ、改善や合理化は継続するこ とにより会社の競争力となる。会社が人材で成り立つと云われる所以でもある。貴社の合 理化活動も“継続は力なり”で実行し、弛まず発展させて頂きたい。 53 事例 7 工程管理と生産性向上 経営課題:工程管理、品質管理、生産管理 提言内容: 現状では日本人 1 人が設計業務を担当し、修理の判断を行っていること、現状でも納期 が遅れがちであることなどを考えると、ビジネスチャンスは多くあるにもかかわらず、そ の有利な状況を生かすことができない可能性がある。すなわち、いくら仕事があってもそ れをこなせない、あるいは仕事が増えても非効率な生産活動のために仕事量に見合った利 益を上げることができない可能性がある。 今後、当社の規模を拡大する構想があるが、規模が大きくなってからでは体制の整備に 非常なエネルギーと時間を要してしまう。従って、現在のうちに企業としての体制を整備 しておくのが得策である。 当該企業が今回の診断・提言を受けたいポイントとして「製造、設計に関する工程管理、 品質管理、生産性向上」を挙げており、今後、体制の整備を進めることにより生産性の向 上を実現するのが貴社の進むべき方向性であると考える。具体的には ①受注から検収完了までの間に存在するネック工程の解消による生産性の向上 ②生産工程での生産性の向上 の 2 点である。 今後の規模の拡大を考えると、製品の受注から検収完了までの間に存在するネック工程 は、実は設計担当者である。製品を実際に加工する工程は、生産性を向上させるための策 は幾通りも考えられる。しかしながら、製品は設計図がなければ製作することはできず、 現在、設計を行っているのは日本人 1 名のみである。設計を行うには知識と経験の両方が 必要で、設計能力は一朝一夕で身に付くものではない。現在でも仕事を断っている状況で、 設計能力がないためにこれ以上仕事を入れることができない状況である。従って、今後、 規模の拡大を考えると設計者の増強が必須で、人材の育成が必須となってくる。 当社製品の製作は、設計と、部品の加工・組み付けの 2 つの工程から成り立つ。設計だ け生産性が向上しても加工・組み付けの生産性が向上しなければ製作全体の生産性は向上 しない。従って、設計と並行して部品の加工・組み付けについても生産性の向上を図らな ければならない。加工・組み付けという作業には人に依存する部分が大きいという特徴が あることから、生産性向上においてはいかに作業者が効率良く作業を行うようにできるか がポイントとなってくる。作業者が効率良く作業を行うためには作業者の能力向上ととも に、能率の把握や作業者の働きやすい環境整備も重要となる。以上のように、当社の生産 性向上には設計と加工・組み付けの両面での人材育成と実態把握やムダを排除するための 仕組みづくりが必要となる。 54 (1)人的な面からの生産性向上 ①コミュニケーションの密度を高める。 ミーティングの実施や、現在でも分かりにくいところは聞きに来るなど、比較的コミュ ニケーションは取っている方ではある。当社製品の製作はマニュアル化しにくい人の技能 に負う部分が多い。そのため、教育にはコミュニケーションは必須となる。また、当社が 発展してゆくためには当社の進むべき方向や個々人が何をしなければならないか、などを 従業員が理解していなければならない。そのためにもコミュニケーションが必要である。 ただし、必要な時に必要なことを伝えるためだけのコミュニケーションでは相互の信頼を 醸成することは難しく、肝腎な時に肝腎なことを伝えることができない。そこで、信頼を 醸成し、肝腎なときに肝腎なことを伝えることができるよう、普段から積極的に確認、質 問、指摘、提案などコミュニケーションを取るようにすることを提案する。その際、意思 の伝達が一方通行にならないよう、また、意思を確実に伝えるよう、働きかけに対して相 手がどのような反応を示すのか注意をはらい、相手の反応に応じてさらに別の働きかけを 行うようにする。 働きかけ 変化 変化 反応 働きかけ 変化 変化 反応 働きかけ 変化 変化 相互理解 コミュニケーションはそれほど大きな意味を持たないもの、あるいは定量的直接的な効 果が見えないものと思われがちであるが、価値観、技能、情報などを共有するための基本 となるものなので、何を措いてもまずは実施していただきたい項目の一つである。 ②表現力、伝達力を高める コミュニケーションは価値観、技能、情報を共有するための基本であり、まずは積極的 55 に働きかけることが重要であるとした。基本としては確かにそのとおりであるが、生産性 がテーマとなっている当該企業では、これら情報の伝達・共有もできるだけ効率的に行い たいところである。そのためには短時間で真意が的確に伝わるよう伝え方にも注意を払う 必要がある。具体的には表現力や伝達力を高めることである。表現力や伝達力を高めるた めには、何を、どのように伝えるのかを工夫する必要があるので、伝える側の頭の中を整 理しなければならず、場合によっては書き出さなければならないこともあり、知識や経験 を体系づける良い機会となる。 また、トップと現場の間に立つ中間的な位置にいるリーダーは、両者の間にいて両者に 対して説得や説明を行って動かす必要があり、説得や説明のツールとしても表現力や伝達 力が必要である。 ③ルールを守る 組織が組織として機能するために最低限必要なことは、ルールを守ることである。しか し、価値観や生活環境が異なる人間が集まっている組織では一方的なルールの押し付けで はルールが守られることは期待できず、ルールを押し付けた方、押し付けられた方の双方 に不満が残る。そのため、不満が残らないよう、ルールの運用に先立ちコミュニケーショ ンや表現に関する能力を高めておく必要がある。しかし、これらコミュニケーションや表 現に関する能力だけでルールが守られることは期待できない。そこで、原則論から導かれ るルールとルールの遵守は重要であるが、それらあるべき姿の実現よりも、まずはルール を守る習慣作りが重要である。 そのためには守ることのできるルールや守らなければならない気持ちになるルールから 入ってゆくのが現実的である。具体的には簡単なルールを、ルールを守らなければならな い人たちが作るようにするのである。自分達で守ることができるルールを自分達で作った のであるから、守らない(守れない)ことに対する言い訳は成り立ちにくく、また、相互 に監視することとなるので押し付けのルールよりは守られやすくなるものと考えられる。 ルールを守る習慣が根付いたところで次第に理想像に向けてのルール作りへと次第に厳し いものへとステップバイステップで進めて行くのが妥当である。 ④ビデオの活用など教育方法を工夫する 既に述べたように、当社製品の製作は個人の技能に依存する部分が大きく、数値化やマ ニュアル化が難しい部分も多い。そのため、これら数値化やマニュアル化しにくい部分を 教育するためには、ビデオや写真などの映像を使用する。写真は文字のマニュアルと併用 することによって文字では表現しにくい、あるいは理解しにくい部分を補うことができ、 ビデオでは動きそのものを繰り返し見せることができるので解釈に食い違いが生じにくい。 また、ビデオを関係者で見ることにより改善点や注意点を検討したり作業者間で方法や動 作を比較したりすることができる。 56 また、教育方法についても単に通り一遍の説明を行うだけではなく、 ⅰ.教える側と教えられる側とで、マニュアルの読み合わせを行う。 ⅱ.教える側が、マニュアルに従ってやって見せる。 ⅲ.教えられる側にやらせてみる。 ⅳ.教えられる側の結果を受けてマニュアルをもとに検討を行う。 というように、理解の状況を確認しながら教育を行うことも重要である。 さらにビデオ映像を検討することによりムダの発見や作業改善などを行うこともでき、 直接的な生産性向上についても期待することができる。 ⑤マニュアルを作成する 映像を用いた作業の検討や作業の改善の結果をマニュアルとしてまとめる。もちろん、 当社製品の製作においては基本的に感覚や感触に基づく技能に依存する部分が多いのでマ ニュアル化できる部分は限られる。ただし、機械加工の基本的な操作あるいは成形作業な どではマニュアル化できる部分も多いので、教育期間の短縮や稼働率の向上などによる生 産性の向上を図るためには必須である。 また、規模を拡大することを視野に入れているならば、規模が大きくなり従業員数が多 くなると、それに応じて作業にばらつきが生じやすくなり、また、目も届きにくくなるの でマニュアルの整備は規模の小さい今のうちに行うのが妥当である。もちろん、マニュア ルを作成し、有効に運用するためにはルールを守る、という基本ができている必要がある。 ⑥任せる 人材が成長するためには時にはチャレンジも必要である。また、人材が成長するために は努力によって達成することが可能な負荷をかけることが有効な場合もある。すなわち、 環境が人を育てる場合もあるのである。従って、何かあれば報告するような習慣ができて いること(コミュニケーションが成立していること)、納期など負荷の状況が読めること、 などを前提条件にチャレンジの要素の入った仕事を任せてスキルアップを図り、また、責 任感の醸成、努力や工夫に結びつける。これを実行するためには、指導する側にも気長に 構える、失敗を責めないなど相手の積極性を引き出す姿勢も必要である。 ⑦評価基準の作成・公開 教育の効果を確認し、成果を生産性向上やモラールの向上、さらには次の教育計画につ なげるためには当社製品の製作に必要な要素作業についての客観的な評価基準とそれに基 づく評価が必要である。評価基準には様々な尺度が考えられるが、作業をできるだけ小さ く分解し単純化し、それを分かりやすい尺度で評価できるようにすると評価する側にとっ ても評価される側にとっても納得しやすいものとなる。コミュニケーションなどを通じて 信頼が醸成されているならば、これらの評価結果を公表し、互いに切磋琢磨できるように 57 することもできる。 評価尺度について一例を挙げておく。 レベル 基準 1 ある程度の知識や経験はあるが 1 人ではほとんどできない 2 支援があれば何とか行うことができる 3 一通りの作業を教えられることなく 1 人でできる 4 かなり理解しており、1 人でできる 5 良く理解しており、改善・改良、指導を行うことができる (2)仕組みの面からの生産性向上 ①日報を工夫する 生産性を向上させるには、まず現状がどうなっているのか、基準となるデータが必要で ある。また、様々な策を講じて生産性が向上したとしてもそれを企業の業績と関連付けて 評価を行うには、稼動状況に関するデータを収集する必要がある。また、製品製作など労 働集約的な業務では、個別原価の算出には当該製品にどの程度の工数が投入されたのかを 知る必要がある。そのためにはデータを集めるための日報の運用が必須である。 日報の考え方にはいくつかあるが、代表的なものは作業者単位の日報と部品単位の日報 である。作業者単位の日報では、当該作業者が1日のうちどんな作業を行ったのか、どの 部品にどの程度の工数を投入したのかを記入するようにしたもので、作業者の稼働状況を 主体にデータの収集を行う。一方、部品単位では各部品単位で日報を運用し、当該部品が 完成するまでのどのような工程を経由し、各工程でどの程度の時間を要したのか、を部品 が工程から工程へと移動するたびに記入を行う。こちらの場合、類似部品の製作の所要工 数の見積もりに有用な資料とはなるが、部品加工を伴わない組み付けには別途工数の集計 が必要となる。 いずれにせよ、ルールを守る文化が醸成されていることも必要であるが、日報を書くこ とが作業者本来の仕事ではないので、日報の記入が本来の業務を阻害しないようなもので ある必要がある。このため、日報の様式の検討には実際の作業者の意見を良く聞く必要が ある。 ②製作の実績表を確実に運用する 新たに日報を設定するにせよ、現在運用されている実績表を使うにせよ、これらを有効 なものとするには確実に記入するとともに、その仕組みを継続的に運用することが必要で ある。継続的に運用するにはルールを守る文化が醸成されることや使いやすい実績表や日 報を工夫することも大事であるが、実績表に記入せざるを得ない環境を作ることも一つの 方法である。具体的には現在運用されている実績表は作業者が個人個人で記入、保管して 58 おり、誰にいつ提出するか、どのように集計し、何に活用するのかが明確ではなかった。 そこで、実績表の目的や運用ルールを再設定、再説明するとともに、今までは作業者個人 が保管していたものを 1 箇所にまとめて貼り出し、相互に見ることができるようにするこ とを提案する。このように 1 箇所にまとめて貼り出せば、誰が記入していないのかが一目 で分かるので、誰もが記入せざるを得なくなる。また、実績をまとめて見ることができる ので、ある程度の進捗状況の把握もできるようになる。 ③修理の実績を収集する 新規の製品製作の工程を混乱させている最大の原因は、修理製品の飛び込みである。し かし、修理の実績はあまり効果的に収集されておらず、どの程度の負荷があって混乱して いるのかがわからない。また、全体の持ち工数の中で修理の工数がどの程度の割合を占め ているのかがわからない。 今後、混乱を防止する策を考えてゆく必要がある中、新規製品と修理製品の負荷の実態 や推移を把握しなければ策を考える方向性を定めることができない。そのため、新規製品 の実績と同じ精度で修理の実績を把握する必要がある。 ④負荷の予測を行う 新規の製作の実績、修理の実績を集計することができるようになると、修理の実績が持 ち工数あるいは投入工数のうち、どの程度の割合を占めているのか、傾向が見られるのか、 ばらつきがあるのか、などを把握することができる。傾向を把握することができれば製品 の修理に要する工数や負荷の予測を立てることができる。そうすれば、負荷の集中につい ても予測を行うことができる。新規製品の納期は顧客が決めるものなので、必ずしもうま く行くとは限らないが、納期の調整・交渉の材料に使うことができる。また、月度の残業・ 休日出勤の予測、月度の人件費などの予算など月度の原価計算、収支予測などを行うこと ができるようになる。この実績をもとに新規製作の生産性、修理の生産性などの算出を行 うことができる。 ⑤新規製品、修理製品の分担を行う ヒアリングによれば、新規製品の製作が混乱する原因は修理製品が急に飛び込んでくる ためであるとしている。混乱を防止するには、新規製品と修理製品が相互に干渉しないよ うにするのが最も本質的な解決策である。規模の大きなメーカーでは新規製作と修理の担 当を別々にしているところもあるが、企業規模が小さかったり負荷がばらついたりすると 繁閑の差が出てしまう。そこで、明確な担当分けではなく、優先的に新規製品を担当する 作業者、優先的に修理を担当する作業者を決め、どちらかの負荷がオーバーしたら状況に 応じて相互に応援するようにし、できるだけ相互に干渉しないようにして混乱を防止しつ つも柔軟に負荷を分散できるようにする。もちろん、その前提としては作業者が一定の技 59 能を身に付け、どの程度の能力を持っており、どこまで任せることができるのか、を見極 めておく必要がある。 以上、合計 12 項目の生産性向上に向けての提案を行ったが、人的な面からの生産性向 上策にせよ、仕組みの面からの生産性向上策にせよ、これらは同時並行に実施できるも のではなく中期的あるいは長期的な視野を持って基盤の整備から始まってステップバイ ステップで進めていくのが妥当であると考えられる。 そのためのロードマップの一例を以下に示す。 人的な面からの生産性向上策 コミュニケー ション密度を 高める 教育に映像 教材を活用 する 任せる 表現力・伝達 力を高める マニュアルを 作成する 評価基準を 作成・公開す る 人的能力を 向上させる ルールを守る 生産性を向 上させる 新型の実績 表を確実に 運用する 負荷の予測 を行う 日報を工夫 する 修理の実績 を収集する 仕組みの面からの生産性向上策 短期的な課題 中期的な課題 長期的な課題 60 新型・修理型 の分担を行う 工程の混乱 を防ぐ 参考資料 1.中小企業診断士とは ··································62 2.中小企業診断手法の概略 3.中小企業支援法 ····························65 ········································71 61 参考資料1 中小企業診断士とは (1)中小企業の相談役 日本の企業の 90%以上を占め、日本経済の基盤を支えているのは中小企業である。中小 企業は、経営改善、設備投資や人材確保、新技術の導入などを単独で行おうと考えても、 非常に厳しい状況にある。中小企業政策で「経営革新・創業支援」 「経営基盤強化」 「経済社 会環境変化への円滑な適応」が必要とされるが、中小企業が現状を脱するための何らかの 手段を講じようとしても、問題点の明確化や現状把握のための情報入手、現状打開のため の戦略立案など大きな壁が存在する。 この様な状況で、相談役となるのが中小企業診断士である。中小企業診断士は、中小企 業の経営課題に対応するための診断及び助言を行う専門家で、 「中小企業支援法」 (昭和 38 年法律第 147 号)第 11 条に基づいて経済産業大臣により登録される国家資格を有するもの である。なお、中小企業診断士は名称独占資格であって、法律で規定された独占業務はな いが、経営コンサルティング業務に係るものとしては唯一の国家資格である。 (2)中小企業診断士の制度変更 平成 13 年度に大幅な制度改正があり、中小企業診断士の位置づけは、 「国や都道府県が 行う中小企業指導事業に協力する者」から「中小企業の経営診断の業務に従事する者」に 変更された。また、それまでの「工鉱業部門」 「商業部門」「情報部門」の 3 登録部門制度 が廃止され、一本化された。 法改定により、中小企業診断士の優先的な役割は、法律上の業務において「民間経営コ ンサルタント」として自立できる競争力を有し、中小企業に不足する経営資源を補足する ため、経営コンサルタントの民間市場を質・量ともに充実させる役割を担うものとなった。 平成 13 年度からの制度では、企業経営の重要事項についてのレベルアップを図り、国際 的な水準に見合う制度にすべく、実践的で高度な知識・能力を保有することを義務づけて いる。 (3)中小企業診断士の業務 中小企業診断士の基本的な業務は、上述の通り中小企業の経営の診断及び経営に関する 助言であり、併せて現状分析を踏まえた企業の成長戦略の策定や、その実行のためのアド バイスである。また、中小企業と関係行政機関や金融機関等をつなぐパイプ役や、専門的 知識を活用しての中小企業施策の適切な活用支援等の幅広い活動が求められている。 社団法人中小企業診断協会が平成 17 年 9 月に行った調査によると、中小企業診断士の実 際の業務内容は、経営指導が 27.5%、講演・教育訓練が 21.9%、診断業務が 19.7%、調査・ 研究業務が 12.8%、執筆業務が 11.6%となっている。 中小企業診断士の有資格者のうち、独立している者の割合は、平成 17 年 12 月時点で 62 27.6%であり、7 割以上は独立開業を行わず、企業内に留まる「企業内診断士」となってお り、他の国家資格である公認会計士、税理士等と比較して独立開業するものの割合が低い。 この理由としては、中小企業診断士の試験内容が経営やマーケティング全般に及び、ビジ ネスパーソンとしての資質向上に直結するため、自己啓発を目的とした資格取得者が多い こと、また業務の性質上、独立に際しては、相応の実践的スキルが必要となることが挙げ られる。 (4)中小企業診断士制度の国際化 中小企業診断士制度に期待する東アジア・ASEAN 諸国 1996 年の第一フェーズに始まったタイにおける中小企業診断士及び中小企業診断士養成 事業は、2003 年 9 月の第四フェーズをもって終了した。インドネシアでは、2006 年 4 月 に始まった中小企業診断士研修コースの修了式が 10 月に行われた。また、 タイの事業には、 JODC、JICA 等から派遣された多くの中小企業診断士がタイ工業省の TPA に専門家として 協力した。 インドネシアの場合は、JICA とインドネシア産業省中小企業総局が共催し、我が国の中 小企業診断士が協力し、将来 1 万人の中小企業診断士の育成を目指している。 アジア各国では経済基盤を支えるサポーティング・インダストリー(裾野産業)を担う中 小企業の育成・強化・底上げを国づくりの基本と考え、我が国中小企業診断士制度への注目 が集まっている。タイ、インドネシアに続きフィリピンでも同様な動きがあり、中国も関 心を示している。 この様な状況を踏まえ、経済産業省では中小企業診断士制度を「アジア標準」と位置付け、 東アジア・ASEAN での展開を検討中である。 タイ、インドネシアの事例に見られるように、現地事情の違いから厳密に言えば、我が 国の中小企業診断士制度の求めている内容とは一致していないが、制度の根幹・養成プロセ ス自体は似通ったものとなっている。中小企業診断協会では、すでに一定の成果を挙げて いるとはいえ、今後の様々な東アジア・ASEAN 諸国からの要請に応えて中小企業専門家を 派遣するためには、現在以上の要請に応じられる中小企業診断士の質と量の確保、要請に 即応できる機関の充実が重要な課題になっている。 インドネシアでは 2006 年 6 月発令されたインドネシア共和国工業大臣令に、中小企業診 断士の資格用件として次のように述べられている。 1.中小企業診断士とは、中小企業コンサルタントサービスを提供するための能力証明書を 保有し、中小企業総局にすでに登録されている個人をさす。 2.中小企業診断士とは、中小企業の問題に対して全般的な分析と診断活動を行う中小企業 コンサルタントのことである。 3.中小企業専門コンサルタントとは、中小企業診断コンサルタントの診断結果より、特定 の側面に関し、より詳しい分析活動を行う中小企業コンサルタントのことである。 63 又、中小企業コンサルタントの資格付与・登録に関しては次のように述べられている。 1.中小企業コンサルタント研修に参加し、試験に合格したコンサルタント候補者には、研 修修了書が与えられる。 2.中小企業コンサルタント候補者は、職業証明機関により定められた能力試験所において、 能力試験を受ける義務がある。 3.能力試験を受け、合格となったコンサルタント候補者は、職業証明機関により能力証明 書が付与される。 4.能力証明書の基づき、中小企業総局に中小企業コンサルタントとして登録される。 5.登録を行った能力証明書保有者は、当該能力証明書の有効期間に即して有効期限を定め た中小企業コンサルタント身分証明書が付与される。 64 参考資料2 中小企業診断手法の概略 1.診断の進め方 中小企業診断士による企業診断は、次に示すプロセス(予備診断―本診断―提言書―事 後診断・成果確認)で行うのが一般的である。しかし各段階は現場の要求に合わせて行う。 実際の問題として、限られた時間で行うには、画一的なプロセスをとらない場合もある。 常に問題意識をとらえながら、例えば、末端段階の問題をとらえても、それが基本的な問 題につながると判断される場合は、その事実をとらえ、基本問題までさかのぼり診断の過 程を進めていく場合が少なくない。 2.診断のプロセス ① 予備診断 *SWOT(内部資源の強み・弱み、外部環境の機会・脅威分析)により 経営面・環境面の概要把握 外部要因(社会経済状況、外部関係、当該業界事情及び企業の概況) 内部要因(経営目標、基本方針、組織の概況) *財務諸表入手(2 期~3 期の損益計算書、貸借対照表、あればキャッシュ フロー計算書から「成長性」 「安定性」 「生産性」「収益性」の 4 項目を分析し、 同業・同規模企業の指標と比較して課題を抽出する) 財務諸表分析と SWOT 分析、さらに経営者の課題認識の聞き取り調査から 診断重点の把握(課題の把握)本診断を行うに当たっての仮説をたてる。 ② 本診断及び提言 把握した課題に応じた方法を持って 経営管理・経営活動・工場活動の実態を、 事実に基づいて分析総合し、 諸事項の関連性を検討し、 改善と方法とその実施の組織や段階を研究する。 「仮説の検証を現場で行う」 経営者と企業幹部へ改善提案を説明し、納得を得て実施計画を確認する。 65 ③ 提言内容の事後診断、フォローアップ診断 提言内容の進捗状況確認と経営者の意見を聞き取り、その結果により 提言内容の修正と補助助言を行う。「顧客満足度調査」とも言える。 3.予備診断 予備診断は、財務分析のための財務諸表 2 期~3 期分を入手し、経営者との面談から抱え る課題の聞き取り調査及び SWOT 分析表を利用するケースが多い。併せて工場、現場を観 察、見学する。これらの目的は、経営活動がいかに行われているかを客観的に知る材料を 得ることであり、これは次の本診断に入るための重要な過程である。 通常、診断申し込みの趣旨、経緯、企業側が問題と考えている事項、並びにその企業の 設立経緯、資本金、業種、商品・製品などの概要を申込書に記載してもらう。グループ診 断の場合には、おおむね予備調査に基づき、それぞれの専門分野によってチームが編成さ れる。 予備診断の結果、経営者の抱える問題として提言された内容が、財務分析など客観的な 分析と食い違うことがある。第一段階の予備調査は仮説を立てるための意味を持つので、 大局的、本質的、かつ目的のしっかりしたものでなくてはならない。次の本診断において の診断重点課題を導き出すものであり、財務、生産、労務などの分野で、種々の測定に基 づいて問題を摘出し、それを総合的に判断しなければならない。 4.本診断・改善提案 財務分析:2~3 期の損益計算書、貸借対照表、 (キャッシュフロー計算書)から収益性、 成長性、生産性、安定性を中心に企業の実態と数字から、当該企業が抱える課題の仮説を 立てる。良いか悪いか、改善すべき点かどうかは同業種・同規模企業の標準指標との比較 が必要になる。標準指標がない場合、それに近いものを準備する必要がある。 ① 収益性 売上高対総利益率=総利益(粗利益)÷売上高×100 経営資本回転率=純売上高÷経営資本 売上高対営業利益率=営業利益÷純売上高×100 総資本対経常利益率=経常利益÷総資本×100 「これらの数字は大きいほど良いとされるが、標準値との比較が必要である」 。 66 ② 安定性 総資本対自己資本比率=自己資本÷総資本×100 売上高対支払利息率=(支払利息・割引料-受取利息)÷純売上高×100 固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+長期借入金)×100 「固定長期適合率は数字が小さいほど安定と判断される。投資などを自己資本と安 定的な借入金でまかなった事を意味し、小さいことは自己資金の範囲内で投資を行 ったことになる」 。 流動比率=流動資産÷流動負債×100 ③ 成長性 売上高前年比増加率=(今年度÷前年度)×100-100 経常利益前年比増加率=(今年度経常利益÷前年度経常利益)×100-100 総資産前年比増加率=(今年度総資産÷前年度総資産)×100-100 ④ 生産性 売上高人件費率=人件費÷売上高×100 従業員一人当り年間売上高=売上高÷従業員数 従業員一人当り月平均人件費=月平均総人件費÷従業員数 「これらの数字は労働分配率と関連し利益三分轄(配当・投資・人件費)に照らし て適当であるか判断される」。 ⑤ レーダーチャートによる比較 レーダーチャートは、標準値に比べて診断先企業が悪いか良いのかを判断する場合 や経営者を説得するため、見える財務診断分析結果として有効に使われる。 実際の診断での事例をあげる。 レーダーチャート 従業員一人当り月平均人件費 売上高対営業利益率 25 20 売上高対総利益率 15 従業員一人当り年間売上高 総資本対経常利益率 10 5 0 売上高人件費比率 -5 総資本回転率 -10 -15 総資産前年対比増加率 総資本対自己資本比率 経常利益前年対比増加率 売上高対支払利息比率 売上高前年対比増加率 固定長期適合率 流動比率 67 当社 経営指標 5.事後診断 理論的かつ実践的に優れた改善提案であって、経営者が了解したとしても、それはあ くまで第三者の立場からの提案である。これを実際に生かし、改善効果を挙げられるか どうかは、受診企業の企業努力いかんにかかっている。改善案を生かす意思や能力が無 ければ、絵に書いた餅にすぎない。 基本的には、経営者の理解と合理化意欲が必要なことは言うまでもない。しかし、現 実の問題としては、往々にして経営管理者を中心とした組織構成員に経営近代化に対す る認識と意欲が欠けているために、効果をあげられないケースがしばしば見受けられる。 もちろん、経営合理化を進めるということは、管理者を含め一般従業員の日常の業務 や作業内容に対して、一種の矯正を求めることになる。合理化を迫られた人々からすれ ば、経営者の一方的な要求だけでは抵抗を感じるかもしれない。 そのためにも、実効にあたっては、これらの人々に対する十分な理解と協力が欠かせ ない。例えば、従来の業務が日々の帳簿や伝票整理、決算資料の作成にとどまっている 経理担当者に対しては、新たに予算統制、経営分析、利益計画などの管理資料の作成と 言う仕事が付加され、現場の職長は、直接作業のほかに最も苦手とする数字による作業 のチエックをしなければならない。 その意味からも今日、人材育成問題は日本のみならず、海外進出日系企業の経営にお いて重要な課題となる。特に労働力の資質の問題は、企業が今後高付加価値分野へ指向 する場合に欠くことの出来ない重要な課題となる。しかし、中小企業では能力開発など 人材育成の問題は、直接生産や販売に結びつかない非生産的なものとして回避する傾向 がある。 従って、この様な企業では、今日のように日々変化する環境への対応にも、後れを取 ることになり、従業員のモラールも低下し、定着率も悪化し、貴重な人材も外部流失し てしまうことになる。 このように、今日では企業体質の改善は単に設備などの物質的な問題だけではなく、 人的能力を中心とした質的な面での改善が要求されることが多い。そのため、診断は単 に改善提案にとどまるのでなく、積極的なフォローアップ(事後診断)の段階まで進展 させていく必要がある。改善提案後も改善実効のための事後指導を進めるとともに、出 来るだけ機会をとらえ社内講習やミーティングなどを通じて、経営改善への考え方や具 体的な手法を指導するなど改善意欲を浸透させていかなければならない。中小企業診断 士と企業関係者が一体となって、はじめて改善提案が生きてくるのである。 6.総合判断 企業を形作る構成要素は、人的要素と資本的要素の二つがある。さらにこれは、経営 活動の過程において機能面から販売活動、生産活動、購買活動として分化されていくこ とになる。企業は機能の有機的な活動の基に運営されている。これらの一つの欠陥が企 68 業活動全体の運営の円滑化に影響を与える場合が多い。そのため経営活動の実態を分析 する際にも、活動の一部分をとらえるのではなく、総合的に分析する必要がある。 例えば、コスト低減したいと経営者の課題が提出された場合、その内容は経理・現場・ 労務・購買等企業全体に及ぶ場合がある。しかし中小企業診断士は抽象的でなく具体的 な数字での改善提言でなくてはならないため、多くの要因から一番効果的な内容に絞っ て改善を提言する場合もある。 総合診断のスキーム 予備診断 経営内部要因 市場調査、企業外の 財務諸表 資料等外部資料 財務分析 計数分析 本診断・改善提案 門部売販 門部務財・理経 門部産生 門部買購 門部務労 総合・比較検討 総合判断・改善提案 事後診断 フォローアップ 改善提案後の修正・改善成果確認と将来取り組む経営 課題の提言他 69 参考文献 1.「企業診断の手ほどき」 日本経済新聞社 中谷道達著 2.「新たなるアジアとの連携」 社団法人中小企業診断協会 3.「平成 19 年度中小企業診断士理論政策更新研修」 社団法人中小企業診断協会 70 参考資料3 中小企業支援法 (昭和三十八年七月十五日法律第百四十七号) 最終改正:平成一八年六月二日法律第五〇号 (目的) 第一条 この法律は、国、都道府県等及び独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業 支援事業を計画的かつ効率的に推進するとともに、中小企業の経営の診断等の業務に従事する者 の登録の制度を設けること等により、中小企業の経営資源の確保を支援し、もつて中小企業の振 興に寄与することを目的とする。 (定義) 第二条 一 この法律において「中小企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以 下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第二号の三までに 掲げる業種及び第三号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの 二 資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下 の会社及び個人であつて、卸売業(第三号の政令で定める業種を除く。 )に属する事業を主たる 事業として営むもの 二の二 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百 人以下の会社及び個人であつて、サービス業(第三号の政令で定める業種を除く。 )に属する事 業を主たる事業として営むもの 二の三 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五 十人以下の会社及び個人であつて、小売業(次号の政令で定める業種を除く。 )に属する事業を 主たる事業として営むもの 三 資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用 する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であつて、その政令で定め る業種に属する事業を主たる事業として営むもの 四 中小企業団体の組織に関する法律 (昭和三十二年法律第百八十五号)第三条第一項 に規 定する中小企業団体 五 特別の法律によつて設立された組合又はその連合会であつて、その直接又は間接の構成員 たる事業者の三分の二以上が第一号から第三号までの各号のいずれかに該当する者であるもの (前号に掲げるものを除く。 ) 2 この法律において「経営資源」とは、中小企業基本法 (昭和三十八年法律第百五十四号) 第二条第四項 に規定する経営資源をいう。 71 (中小企業支援計画) 第三条 経済産業大臣は、毎年、中小企業政策審議会の意見を聴いて、中小企業の経営資源の 確保を支援する次に掲げる事業であつて、国、都道府県(政令で指定する市を含む。以下同じ。) 及び独立行政法人中小企業基盤整備機構が行うもの(以下「中小企業支援事業」という。 )の実 施に関する計画を定めるものとする。 一 中小企業者の依頼に応じて、その経営方法に関し、経営の診断又は経営に関する助言を行 う事業 二 中小企業者の依頼に応じて、技術に関する助言を行う事業又はそのために必要な試験研究 を行う事業 三 中小企業の経営方法又は技術に関し、中小企業者又はその従業員に対して研修を行う事業 四 中小企業支援担当者(国又は都道府県が行う第一号又は第二号に掲げる事業(第七条第一 項に規定する指定法人が行う同項に規定する特定支援事業を含む。)において、経営の診断又は 経営若しくは技術に関する助言を担当する者をいう。以下同じ。 )を養成し、又は中小企業支援 担当者に対して研修を行う事業 五 前各号に掲げるもののほか、中小企業の経営の診断又は経営若しくは技術に関する助言に 関連する事業 2 経済産業大臣は、前項の計画を定めるに当たつては、国、都道府県及び独立行政法人中小 企業基盤整備機構が行う事業が相互に重複しないようにするとともに、中小企業に関する団体そ の他の民間事業者との協力及び役割分担の下に、 中小企業の経営方法又は技術の状況その他中小 企業の発展の状況に応じて、 適切に中小企業支援事業が行われるように配慮しなければならない。 3 経済産業大臣は、第一項の計画を定めたときは、すみやかにこれを都道府県知事(第一項 の政令で指定する市の市長を含む。以下同じ。)に通知するとともに、その要旨を公表しなけれ ばならない。 第四条 都道府県知事は、前条第三項の規定による通知を受けたときは、同条第一項の計画に 基づき、当該都道府県が行う中小企業支援事業の実施に関する計画を定め、これを経済産業大臣 に届け出るものとする。 2 都道府県知事は、前項の計画を定めるに当たつては、地域における中小企業に関する団体 その他の民間事業者との協力及び役割分担の下に、当該都道府県の区域内における中小企業者の 数、中小企業の経営方法又は技術の状況その他中小企業の発展の状況に応じて、適切に中小企業 支援事業が行われるように配慮しなければならない。 (経済産業大臣の助言) 第五条 経済産業大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、都道府 県に対し、前条第一項の計画の作成及びこれに基づく中小企業支援事業の実施に関し助言をする ことができる。 72 (基準の作成) 第六条 経済産業大臣は、中小企業支援事業の効率的な実施に資するため、中小企業政策審議 会の意見を聴いて、経済産業省令で、経営の診断又は経営若しくは技術に関する助言の方法その 他の事項について、中小企業支援事業の実施に関する基準を定めるものとする。 (指定) 第七条 都道府県知事は、次の各号に適合する者を、その申請により、当該都道府県に一を限 つて指定し、その者(以下「指定法人」という。 )に、当該都道府県が行う中小企業支援事業の うち特定支援事業を行わせることができる。 一 申請者が民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三十四条 の規定により設立された法人 であること。 二 申請者が当該特定支援事業を適正かつ確実に実施することができると認められる者である こと。 三 申請者が次条第二項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しな い者でないこと。 2 前項の特定支援事業とは、次に掲げる事業をいう。 一 中小企業者が行う電子計算機を利用して行う事業活動に関する経営の診断、助言、調査、 研究及び情報の提供(以下この項において「経営診断等」という。)を行う事業 二 中小企業者の経営に必要な資金の株式又は社債による調達の円滑な実施に資する経営診断 等を行う事業 三 中小企業者が技術革新の進展に即応した高度な産業技術の開発を行い、又は当該産業技術 を製品若しくは役務の開発、生産、販売若しくは役務の提供に利用する事業活動に関する経営診 断等を行う事業 四 中小企業者が行うエネルギー及び特定物質(エネルギー等の使用の合理化及び資源の有効 な利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法 (平成五年法律第十八号)第二条第二項 に 規定する特定物質をいう。)の使用の合理化並びに資源の有効な利用(同法第三条第一項 に規定 する資源の有効な利用をいう。 )の促進に資する事業活動に関する経営診断等を行う事業 五 前各号に掲げるもののほか、中小企業者の経営方法又は技術に関し、高度の専門的な知識 及び経験を必要とするため当該都道府県が自ら行うことが困難な経営診断等を行う事業 (指定法人の義務等) 第八条 指定法人は、当該特定支援事業を、第四条第一項の規定により都道府県知事が届け出 た計画に基づいて、かつ、第六条の基準に従い、適正かつ確実に実施しなければならない。 2 都道府県知事は、指定法人が前項の規定を遵守していないと認めるときは、当該事業の改 善に関する命令、前条第一項の指定の取消しその他必要な措置をとることができる。 73 (小規模企業者等設備導入資金助成法 の特例) 第九条 小規模企業者等設備導入資金助成法(昭和三十一年法律第百十五号)第二条第四項 に 規定する貸与機関が、指定法人の地位を兼ねる場合における同法第十四条 の規定の適用につい ては、同条第一号 中「全額」とあるのは、 「二分の一以上」とする。 (国の補助) 第十条 国は、第四条第一項の規定による届出があつた計画が第三条第一項の計画に適合して いる場合において、都道府県が当該届出に係る計画に基づいて中小企業支援事業を行うときは、 都道府県が自ら行う事業についてはその経費の一部を、 都道府県が第七条第一項の規定により指 定法人に行わせる特定支援事業については当該指定法人に対しその事業につき都道府県が補助 する経費の一部を、当該都道府県に対し、予算の範囲内において補助することができる。 (中小企業の経営診断の業務に従事する者の登録) 第十一条 経済産業大臣は、中小企業者がその経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関 する助言(以下単に「経営診断」という。)を受ける機会を確保するため、登録簿を備え、中小 企業の経営診断の業務に従事する者であつて次の各号のいずれかに該当するものに関する事項 を登録する。 一 次条第一項の試験に合格し、かつ、経済産業省令で定める実務の経験その他の条件に適合 する者 二 前号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者で、経済産業省令で定めるもの 2 前項の規定により登録すべき事項及びその登録の手続は、経済産業省令で定める。 (中小企業の経営診断の業務に従事する者に係る試験) 第十二条 経済産業大臣は、中小企業の経営診断の業務に従事する者の資質の向上を図るため、 中小企業の経営診断に関する必要な知識についての試験を行う。 2 経済産業大臣は、経済産業省令で定めるところにより、民法第三十四条 の規定により設立 された法人であつて、次の各号のいずれにも適合していると認めるものとしてその指定する者 (以下「指定試験機関」という。 )に、前項の試験の実施に関する事務(以下「試験事務」とい う。)を行わせることができる。 一 職員、設備、試験事務の実施の方法その他の事項についての試験事務の実施に関する計画 が、試験事務の適正かつ確実な実施のために適切なものであること。 二 前号の試験事務の実施に関する計画の適正かつ確実な実施に必要な経理的及び技術的な基 礎を有するものであること。 3 指定試験機関の役員若しくは職員又はこれらの職にあつた者は、試験事務に関して知り得 た秘密を漏らしてはならない。 74 4 試験事務に従事する指定試験機関の役員及び職員は、刑法 (明治四十年法律第四十五号) その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。 5 第一項の試験を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める額の受験手数料を納付 しなければならない。 6 前項の受験手数料は、経済産業大臣が行う第一項の試験を受けようとする者の納付するも のについては国庫の、 指定試験機関がその試験事務を行う同項の試験を受けようとする者の納付 するものについては当該指定試験機関の収入とする。 7 経済産業大臣は、指定試験機関が民法第三十四条 の規定により設立された法人でなくなつ たときは、その指定を取り消さなければならない。 8 経済産業大臣は、指定試験機関が次の各号のいずれかに該当するときは、その指定を取り 消し、又は期間を定めて試験事務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。 一 第二項各号の要件を満たさなくなつたと認められるとき。 二 不正な手段により第二項の規定による指定を受けたとき。 9 前各項に定めるもののほか、第一項の試験及び指定試験機関に関し必要な事項は、経済産 業省令で定める。 (報告及び検査) 第十三条 経済産業大臣は、試験事務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、 指定試験機関に対し、試験事務の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、指定試験機関 の事務所に立ち入り、試験事務の状況若しくは設備、帳簿、書類その他の物件を検査させること ができる。 2 前項の規定により立入検査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求 があつたときは、これを提示しなければならない。 3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。 (罰則) 第十四条 第十二条第三項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に 処する。 第十五条 第十二条第八項の規定による試験事務の停止の命令に違反したときは、その違反行 為をした指定試験機関の役員又は職員は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 第十六条 第十三条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規 定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合には、その違反行為をした指定試験機関の役 員又は職員は、三十万円以下の罰金に処する。 75 進出日系中小企業等支援事業 平成 19 年度事業報告書 インドネシア編 発行:平成 20 年 3 月 財団法人 海外貿易開発協会 〒104-0061 東京都中央区銀座 5-12-5 白鶴ビル 4 階 電話 03-3549-3051 URL: http://www.jodc.or.jp 2008.初.500(第一)