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河川敷地における不法占用等に対する考察
河川敷地における不法占用等に対する考察 小熊 信濃川河川事務所 占用調整課 英晃 (〒940-0098 長岡市信濃1-5-30) 従来より業務の迅速化を求められているが,河川管理業務においては,日常不法占用等の対応事例 が少ないないことから,発生した際の対応に時間を要することがある. 河川敷地における不法占用等の迅速な応の参考になることを願い,その実態及び代表的な事例を類 型別にまとめ,それぞれに関する対処方法,事務手続き,留意点等,私見を交えつつ整理及び考察し たものである. キーワード 不法占用 不法投棄 1.河川行政にて不法占用等に対応する理由 河川法の目的として同法1条で,「洪水, 高潮等によ る災害の防止,適正な利用及び流水の正常な機能維持及 び河川環境の整備と保全がされるよう総合的な管理する ことで,国土の保全と開発に寄与し,公共の安全を保持 し,公共の福祉を増進させる.」とある. 河川敷地の適正管理とは,利用の調整をはかり,秩序 を維持するとともに利用に伴う災害を防止して,利用の 増進を図ることが目的とし,川環境の保全とは,水質の 維持,優れた自然環境や景観を有する区域の保全を図る ものである. 官有地の耕作,自己所有地であっても河川法の許可の ない不法建築,及び廃棄物等の投棄といった不法占用等 は,これを阻害するものであり,河川法に基づき是正す るだけでなく,他の法令と併せて解消をはかるべきもの である. 河川区域 河川法違反 れた箇所の周囲の使用や進入経路も調べる. 不法占用等の証拠,及び対応の検討資料として写 真は必須である.撮影方向及び日時の記録,どの場所 かわかる背景の写ったもの,スタッフ等を当てた大き さのわかる詳細の撮影が望ましい. 自分の目で確認して,写真等,記録を残すことが 肝要であり,訴訟の際に,他人の記録を基としたもの でない,自信のある事実を述べることができる. 2)河川法が適用される場所か 基本として不法占用等のあった場所が,河川区域 または河川保全区域であるかの確認が必要である. 3号地及び河川保全区域は告示行為が必要なこと から,告示の図面と河川保全区域にあっては堤防横断 図を確認しておくことが重要である. 河川法の適用範囲外で,かつ不法行為と思われる 案件は,所掌官署へ速やかに通報する. 2.調査 3)場所と土地所有者等の確認 不法占用等は不法占用という1つの類型でも,事案に 不法占用等のあった場所の権原を持つ者の確定は,そ より背景,人と人の法的な関係は異なることから,それ の後の対応方針の策定に当たって重要な要因となるため, ぞれ事案に対応した対処方法が必要となる.したがって, 根拠となる資料を確認する必要がある. 調査は,全ての不法占用等に共通するものと,不法占用 官地,民地,占用地の別と,その権利者を不動産登記 等の類型に分けて考察する. 簿等で調べたら,聞き取り等で確認する必要がある.な お,真実の所有者,使用者,占用者(以下,「所有者 (1)全ての不法占用等に共通する調査事項 等」.)が,不動産登記簿等と異なる場合があるので注 1)現地調査 意を要する. 不法占用等が発見されたら,まず現地の実態を確認す また,不法占用等の行為者(以下,「行為者」.)以 る必要がある. 外の者が土地所有者等でない場合は,土地所有者等から 最初に確認しなければならないことは,緊急に危険を 是正への協力が得られるか否かで,河川管理者の対応が 回避する必要の有無である. 異なるからである. 不法占用等の実行箇所に接近しただけで危険がある場 行為者が,「社長に言われてやった.」,「ここに捨 合,自由使用者の安全を確保しなければならない. てても大丈夫と専務に言われた.」と主張したとき,こ 不要となる目的及び態様と併せ,不法占用等が実効さ れが事実ならば河川法第107条で法人も処罰の対象と なる場合もある.この場合,発言を録音しておくことが 有効である. 土地の境界が不明な場合は,通常,用地実測図や公図 をもとに地番を特定し,土地登記簿及び固定資産課税台 帳の調査により権利者を調べて,この権利者にて境界確 認の立会いを行い,これを確定するが,地番又は権利者 が不明の場合,境界未確定又は所有者不明のまま対応せ ざるを得ない場合も考慮する必要がある. なお,投棄物等は,危険物や河川の汚染原因となる場 合もあるので,接触にあたっては慎重に対応するよう心 がける.投棄物の中から燃料が流出し,水質汚染を惹起 する,あるいは注射針等が混入している場合もあり,危 険物,毒物,病原菌が混入されていることを想定しつつ, 最大限の注意を払うべきである. 4)不法占用等の行為者の探索 行為者を探索し確定する必要がある.しかし,行為者 を確定することは難しいことが多く,残された手がかり からの追跡と目撃情報の収集等を尽くす必要はあるが, 個人情報の取扱等には,充分留意する必要がある. 行為によって,行為者が現地にいる時期,時間は異な る.それぞれの態様にあわせた時間帯に巡視を行うこと も有効と思われる. 例えば,耕作者は夏季であれば午前中の早い時間,プ レジャーボート等の係留は夏季の休日,建築物によって は平日の夕方,夜間にいる場合もある. 5)情報の共有 上司及び関係所属への報告は発見したら,直ちに行う. その際,位置図,写真等の情報については,全て共有す る.関係者間で判断材料は過不足のないようにすべきで ある.また,対象物件,事案に関する情報を別の担当 (課)で持っている場合も考えられる. (2) 類型別の調査事項 1)不法占用 目的(形態)と面積に目が行きがちだが,進入経路が 築造された場合,進入経路築造の河川法抵触の有無,経 路の土地の権原と築造方法と築造者を調べる. 不法占用で往々にみられる耕作の場合,隣接地に農具 小屋等がなくても離れた場所に設置することもある. バックホウ及びトラクターを使用した大規模な現状変 更もあることから,洪水による被害の危険性を検討する ため,農機具等の使用状況も確認が必要である. 隣接占用者によるはみ出し耕作の場合もあり,隣接に 占用がある場合,この許可内容も確認が必要である. また,「頼まれて耕作しているだけ・・・」と耕作者 が発言した場合であっても,実際に不法耕作者をしてい る者が河川法に抵触している旨を伝え,併せて依頼者の 関与状況も確認しておくと,後の対応に有効と思われる . 2)建築物等 木造,鉄骨造りといった構造と大きさ,建築物等の面 積,不法占用された面積の外に,河川保全区域で,都 市計画法の用途指定されている場合もあるので,その確 認も必要である. 違法建築物により,河川敷地の利用と治水の安全が損 なわれないか,違法建築された場所が死水域となるか確 認する. 盛土・掘削の有無とその形状も,自由使用者及び治水 の安全確保のため調査が必要である. 直ちに倒壊等の恐れがなくても,地震等による倒壊の 恐れがあって,違法建築者からの是正がなければ,行政 代執行法による代執行手続きとその費用算定や,違法建 築物に近づかないような,危険を回避する措置をとる必 要があるため,周囲の使用の状況,基礎の設置を調べる 必要がある. 3)投棄物 投棄物(廃棄物)なのか?落とし物,仮置なのか?判 別しなければならないが,不明確な場合が多い.一般的 には,仮置きか否かは,投棄後の移動の有無で判断する ことが多い. 埋め立てによる投棄があることから,地表の状態を確 認し,その面積も調べる. 建設廃材 十日町市地内 4)自動車 駐車場代わりに河川敷,堤外地に放置している場合も ある. 放置か投棄か廃棄車両であることを確定させるた め,「交通上の障害となっている路上放置車両の処理方 針について」(建設省道交発第25号平成5年3月30 日付け通達)に基づき警察の対応についてに定めている 『廃棄車両判定協議における「廃棄車両」の認定要領』に て判定を行う. フレームに打刻された車体番号がある場合,所有者の 特定が可能である. また,投棄車両数が複数となる場合は,その台数の確 認も当然である. 5)係留船 自動車同様に,所有者に撤去を促すことが不法占用等 解消の最初の作業となる. プレジャーボートの場合は ,船体に打刻された船舶識別番号を,「日本小型船舶検 査機構」に照会すると所有者が判明する場合がある. 放置艇か,現に使用中か,現場の状況から識別する. 使用中ならば係留施設が不法占用の可能性もあることか ら,桟橋等の設置の有無,係留船の材質(FRP,木造) 及び規模(寸法)を,また水質保全のため,燃料が流出 していないかも確認しておく. 河口部にあっては,当該区域が港湾区域や漁港区域と 重複していないか留意する必要がある. 現況写真を撮影する場合には,その船舶の用途を特定 するため,漁具,作業用機械等も撮影しておくとよい. 廃棄のボート 長岡市地内 6)その他 動物の死骸のがあった場合,伝染病,犯罪,及び消毒 の必要がある可能性があることから,接触せず保健行政 機関へ通報して指示を仰ぐことが妥当と思われる. また,ホームレスが滞在した場合,仮設物の有無のほ か,火の使用の有無と類焼の恐れを確認する必要がある . 3.関係法令 (1)河川法 河川法令で,不法占用等に対応する条項は,概ね以 下のとおりである. ・第24条(土地の占用の許可) ・第25条(土石等の採取の許可) ・第26条(工作物の新築等の許可) ・第27条(土地等の掘削等の許可) ・第28条(竹木に流送等の禁止、制限又は許可) ・第29条(河川の流水等について河川管理上支障を及 ぼすおそれのある行為の禁止、制限又は許可) ・第55条(河川保全区域における行為の制限) ・第75条3項(簡易代執行) ・第77条(河川監理員) ・河川法施行令第16条の4(河川の流水等について河 川管理上支障を及ぼすおそれのある行為の禁止,制限又 は許可.) ・河川法施行令第16条の5(汚水の排出の届出) ・河川法施行令第16条の8(河川の流水等について河 川管理上支障を及ぼすおそれのある行為の許可) 河川法令以外で,不法占用等の対処にあたって適用さ れる法令は,以下のとおりと考えられる. 場合によっては,本局,関係機関,弁護士と充分協議 のうえ,これらの法令により河川内における不法行為 を解消することも検討すべきと思われる. (2)砂利採取法 ・第16条(採取計画の認可) 砂利採取業者は,砂利の採取を行おうとするとき は,当該採取に係る砂利採取場ごとに採取計画を定め, 当該砂利採取場の所在地を管轄する都道府県知事(当該 砂利採取場の区域の全部又は一部が河川区域等の区域内 にあるときは,河川管理者.)の認可を受けなければな らない. (3)水質汚濁防止法 ・第12条(排出水の排水の制限) 排出水を排出する者は,その汚染状態が当該特定事業 場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出 してはならない. (4)廃棄物の処理及び清掃に関する法律 ・第16条(投棄禁止) 何人も,みだりに廃棄物を捨ててはならない. (5)毒物及び劇物取締法 ・5条の2(廃棄の方法) 毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令 で定める物は,廃棄の方法について政令で定める技術上 の基準に従わなければ,廃棄してはならない. (6)動物の愛護及び管理に関する法律 ・36条(負傷動物等の発見者の通報措置) 道路,公園,広場その他の公共の場所において,疾病 にかかり,若しくは負傷した犬,猫等の動物又は犬,猫 等の動物の死体を発見した者は,速やかに,その所有者 が判明しているときは所有者に,その所有者が判明しな いときは都道府県知事等に通報するように努めなければ ならない. ・44条3項(愛護動物の遺棄) 愛護動物を遺棄した者は,百万円以下の罰金に処す る. (7)家畜伝染病予防法 ・21条(死体の焼却等の義務) 次に掲げる家畜の死体の所有者は,家畜防疫員が農林 水産省令で定める基準に基づいてする指示に従い,遅滞 なく,当該死体を焼却し,又は埋却しなければならない. ただし,病性鑑定又は学術研究の用に供するため都道府 県知事の許可を受けた場合その他政令で定める場合は, この限りでない. 一 牛疫,牛肺疫,口蹄疫,狂犬病,水胞性口炎,リ フトバレー熱,炭疽,出血性敗血症,伝達性海綿状脳症, 鼻疽,アフリカ馬疫,小反芻獣疫,豚コレラ,アフリカ 豚コレラ,豚水胞病,家きんコレラ,高病原性鳥インフ ルエンザ,低病原性鳥インフルエンザ又はニユーカツス ル病の患畜又は疑似患畜の死体 . 二 流行性脳炎,ブルセラ病,結核病,ヨーネ病,馬 伝染性貧血又は家きんサルモネラ感染症の患畜又は疑似 患畜の死体(と畜場において殺したものを除く.) 三 指定家畜の死体 (8)刑法 ・235条の2(不動産侵奪罪) 他人の不動産を侵奪した者は,十年以下の懲役に処す る. 侵奪とは奪取すること.賃借期間経過後,引き続き占 有しても,不動侵奪罪とならない.したがって,占用許 可受者が占用期間満了後も占有しても,不動産侵奪罪に ならない. ・第262条の2(境界損壊罪) 境界標を損壊し,移動し,若しくは除去し,又はその 他の方法により,土地の境界を認識することができない ようにした者は,五年以下の懲役又は五十万円以下の罰 金に処する. (9) 民法 ・第200条第1項(占有回収の訴) 占有者がその占有を奪われたときは,占有回収の訴え によ,その物の返還及び損害の賠償を請求することがで きる. 4.不法占用等の行為者への初期対応 不法行為を発見した場合,初期対応の重要性が言われ ている. 是正が必要なことに説得力をもたせ,行政担当者個人 の判断でないことを示すために,不法占用等の行為であ ることの具体的な法的根拠を示すことが大切である.ま た,不法占用等の行為者であれ,是正行為を促すからに は説明責任を果たす必要がある.したがって,「昔か ら・・・」といった法に基づかないローカルルールを根 拠としてはならない. 即断できないことは,持ち帰り,確認・相談する.あ いまいなままの対応は,先方の誤解を生じさせることに なり,余計な問題が発生する.事実及び適用法令等を誤 ったまま,不法行為者に対応しない. 応対はできる限り二人以上で行うこととして,互いの 説明を補完をし,一方が説明し一方が記録する等役割分 担とすることで,トラブルを防止し適切な対応をするこ とができる. なお,写真撮影を行う際に,被写体となることに抵抗 感を示す場合がある.写真撮影にあたっては,人物は除 外する,又は被写体となる者に一言断るなどの配慮を行 ったほうがよい. 5.河川法の適用による対処 河川法に違反する行為に対して,河川法は75条に て監督処分を定め,河川管理の適正化を図っている.こ れは,行為者に対して,現状回復とその他必要な措置を とることにより,適正な状態を取り戻すために行われる 行政処分と解される. 河川管理の実務上では,河川監理員による口頭指導, 指示書(河川法第77条)によっても是正されない場合 に,監督処分とすることが一般的である. したがって,不法な状態があったら,口頭指導,指示 書の段階から,監督処分を想定した対応をとることが重 要となる.監督処分は,行政代執行を行う要件である『 法律により直接に命じられ,または法律に基づき行政庁 により命じられた行為について義務者がこれを履行しな いこと.』の「法律に基づき行政庁により命じられた行 為」である. 監督処分にあたっては,「不法な事実」の確定が重要 なことから,不法占用等の形態,場所,範囲,面積はむ ろん,口頭指導の相手方は,直接の行為者か,共同で実 施した者かその代表者か,法人か雇用者か使用人か,不 法占用等された土地の所有者は行為者か,再度確認する 必要がある.土地の所有者は,行為者の親族,姻族であ る場合もある.また,堤外地は,不動産登記簿が個人名 の所有となっていても,集落が実所有している場合もあ り,以上についても再確認すべきである. 第75条第3~10項(河川管理者の監督処分)は, 違法放置物件が,特に治水上の支障等河川管理上の支障 が著しく現に河川を損傷し,可及的かつ速やかに当該物 件を除去する必要がある場合であって,相手方を確知で きないとき,撤去,撤去物の保管,売却及び廃棄を,相 当の期間の公告等の手続きを経て実施できることを定め たものである. 平成7年11月6日付け事務連絡『「所有者不明の物 件に対する代執行制度」の運用について』にて,放置さ れた車両と船舶の簡易代執行手続きがマニュアル化され たため,迅速な対応が可能となっている. 6.類型別の対処の留意点 (1)全ての不法占用等に共通する留意点 行政の公正及び信用の確保から,また,行為者に対し 説明責任を有することから,過去の事例を参考に同様の 対処が求められる. また,河川行政は河川毎に特有の歴史的経緯及び経過 があり,その経緯,経過を踏まえた対応を図ることが必 要であると考える. 耕作,漁業,観光資源的なものは,河川法制定以前か らの事案もあるので,充分にその経緯を確認する. 不法占用等は,その行為者が自ら是正するよう働きか けることが,解消のための第一段階である.不法行為で あることを伝え,まずは,相手の話を聞くことに徹する ほうが,理解を得られると思われる. (2) 類型別の留意事項等 1)不法占用 不法占用者が耕作を自ら放棄した場合,農作物,種苗 等は,不法占用者に引き取らせる方がよい. 民地に所有者の承諾を得たとして,蜂の巣箱を河川公 園の近くに置かれた事例は,抵触する法令が不明だった が,危険性を理解していただき対応した. 2)建築物等 違法建築者の損害額が大きくならないためにも,基礎 工事の帳張りをかけた段階で,違法建築者に河川法26 条に違反していることを認識させ処置をとることが,事 態の拡大回避につながることから,初期対応が重要であ る. なお,未然の防止策として,可能ならば河川区域内の 土地の表示に関する登記の嘱託(不動産登記法第43 条),及び河川保全区域で都市計画法の用途指定がある 場合,建築確認申請において河川法の許可を得たことを 市町村から確認申請時にチェックしてもらうことも,一 法と考える. 3)投棄物 河川巡視の過去の記録に,同様の投棄が報告されてい ないか,確認しておく. 一般廃棄物は,市町村処理場へ依頼するが,他市町村 のものは受け付けてくれないので留意する. 産業廃棄物は,市町村は受付ていないことが多いので 注意が必要である. 投棄は地元住民からの通報で認識される場合が多い. このような河川愛護の観点からなされる通報には,速や かに対応することが重要であると考える. 4)自動車 投棄車両が,盗難等犯罪と関係ある場合は,警察へ引 き渡すことから,所有者不明かつ金銭的価値のある場合 ,所轄警察署へ通知する. 所有者不明の場合,『所有者不明の場合の代執行制度 の運用』により,代執行手続きに入る. 所有者が判明しながら,撤去に応じてくれない場合, 警察の協力を依頼し対応する. 所有者に断りなく移動したり解錠すると,車両の破損 又は車内におかれた物品等の紛失等を主張され,トラブ ルになるので注意が必要である. 耕作者が,農機具又は漁具を格納する小屋代わりに使 用している場合は,一見すると放置車両のようだが,所 有権がある場合もあるので注意を要する. 洪水,災害などで上流から流出してきた場合もある. この場合,所有者自身も当該車両を探査していることも ある.警察に照会,確認するなど対応が必要である. 5) 係留船 自動車同様に,警察へ通知を行い,犯罪と関係する と確認された場合は,警察へ引き渡す. 放置艇等の燃料漏れは,オイルフェンス,吸着マット による対応を図る.後日の原因者負担を想定し,用資材 と数量は記録しておく. 既に多数の不法係留が存在する場合もあるが,新規の 不法係留船が発生しないよう心がける.新規の不法係留 船の相手方に対しては,「周囲の船舶は河川法に違反し ている.」ことを説明し,理解してもらうよう努める. 平成26年4月1日から,船舶等の放置等の禁止に係 る改正規定が施行された.河川法施行令16条の4第1 項第2号に,規制の対象物として「船舶その他の河川管 理者が指定したもの」が追加され,これに違反した者は ,従前の同号に違反した者と同様,3月以下の懲役又は 20万円以下の罰金を課すこととなった. この対象物は,個別の河川の態様により,河川管理上 の支障となる物件が異なることから,「船舶その他の河 川管理者が指定したもの」とし,船舶のほか,これに類 するものとして,例えば浮桟橋,ブイ等が想定される. 河川管理者は,河川ごとに放置等を禁止する対象物を 指定し,その旨を公示し,当該公示は原則として当該指 定の適用の日の10日前までに,官報又は公報に掲載す るほか,当該指定に係る河川において,掲示して行うこ ととされた. 放置艇対策については,今後,各河川の実情に応じて 対象物を特定していくこととなる. 6)その他 ホームレスは,轄警察署及び市町村に連絡し,対 応を協議する. 橋梁下における焚き火等で横過物に危険がある場 合は,道路管理者及び横過物管理者にも通報する. 河川管理上(許可工作物を含む)の理由により指 導できることであることに留意し,必要に応じ文書 (不在の場合は張り紙等)で指導する.その際には できる限り所轄警察署及び市町村と連携を図る. ホームレスの滞留箇所が出水時に危険であった り,テントや小屋等を設置しているものに対しては 特に注意を払うとともに移動の指導を継続する. 7.法的措置 行政代執行 (1)行政代執行の意義 法的に義務を課せられている者が, その義務を履行し ない場合,行政が自らその義務=行為をなし,または第 三者にこれを行わせて,それに要した費用を義務者から 徴収するもので,代執行を行うには,以下の3つの要件 が必要となる. ① 法律により直接に命じられ,または法律に基づき行 政庁により命じられた行為について義務者がこれを履 行しないこと. 参考文献 1 有斐閣:行政法概説Ⅰ行政法総論 ② 他の手段によってその履行を確保することが困難で 2)ぎょうせい:行政代執行の実務 あること. ③ その不履行を放置することが著しく公益に反する. 実務においては,対応に日数を要すると放置しても公 益に反しないと見られ,『③その不履行を放置すること が著しく公益に反する.』に該当しなくなる恐れがある ことから,洪水による災害の発生及び流水の正常な機能 の維持の不能等の恐れがあるときは,迅速早急な対応を とることが必要である. (2)戒告書 相当の期限を定めて義務の履行を促し,その期限まで に義務の履行がなされないときは代執行をなする旨をも って通知する文書である. (事務所から本局に上申.局内決裁後,局長名で発出. 戒告書案,経過書,理由書,不法行為の現状書面,是正 方法,履行期限の根拠等が必要となる.) (3)代執行命令書 戒告書の期限内に,義務が履行されない場合に交付す る. (事務所から本局に上申.内決裁後,局長名で発出.代 執行命令書案,経過書,代執行の要件を満たしているこ との理由書,代執行に要する費用が適切であることの書 面,代執行の実施手順書等が必要.) 8.考察 河川における行為者は,担当者にとってその多くは, 初めて直面する事案であることが多い.したがって,そ の対応に苦慮し,先送りするうちに,問題をこじらせ事 態を拡大させ,解決に日数を要することになる場合も多 い. 事案によって検討内容,対応が異なることも,不法占 用等の解決に日数を要する理由と思われる. しかし,より迅速に解決するには,初動対応の的確さ が,その後の所要日数を左右するようである.毅然とし た対応と,発見直後の事実を把握する初動調査を洩れな く正確に行うことが,後日の解決に向けた次の段階に手 戻りなく進めるために必要である. また,日頃から個々の河川の不法占用等の特徴を把握 しておくことも早期発見と迅速な対処に有効と思われる. 不法占用等があった場合に備え,事業の現場に行く際は 時間が許す限り,堤防天端あるいは堤外地の道路を経由 するなどして,河の状況を常に確認することを心がける ことが,その後の適切な対処に直接影響すると思われる. 謝辞:本稿を作成するに,不法占用等の事例を教授及び 本稿を推敲してくれた当所の河川占用を所掌する 上司,資料提供をしてくれた同僚に謝意を表させ ていただきたい.