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プローブデータの分析に基づく救急車への 緊急走行支援方策の検討

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プローブデータの分析に基づく救急車への 緊急走行支援方策の検討
プローブデータの分析に基づく救急車への緊急走行支援方策の検討
3
0
9
● プレホスピタルケアと救急搬送/論文
特集 プローブデータの分析に基づく救急車への
緊急走行支援方策の検討
南部繁樹*
吉田 傑** 赤羽弘和***
近年、救急車の出動件数ならびに搬送人員数の増加に伴い、現場への到着時間、病院へ
の搬送時間はともに増大している。また、自治体消防の広域化に伴い救急隊の活動範囲も
拡大することが想定され、運用の効率化と走行時間の短縮、信頼性の向上を両立させる方
策の必要性が高まっている。本研究では、金沢市における救急車と一般車のプローブデー
タを統合分析し、救急車の緊急走行の実態と特徴を明らかにした。さらに、救急車および
一般車のプローブデータを利用した、専用ナビゲーションシステムの適用性を示した。
A St
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orambul
anc
evehi
c
l
esus
i
ngt
hehybr
i
dpr
obedat
a.
場到着までの旅行時間は全国平均で7
.
0
分(前年6
.
6
1.はじめに
分)
、現場到着から搬送先病院までの旅行時間は2
6
.
4
2
0
0
8
年度版消防白書によると、平成1
9
年の救急車
分(前年 2
5
.
4分)となり、いずれもワースト記録を更
の出場件数は、
前年より5
2
,
5
2
0
件増加し、5
,
2
9
0
,
2
3
6
件、
新している1,2)。
搬送人員は前年に比べ1
0
,
1
6
0
人増加し、4
,
9
0
2
,
7
5
3
人
他方では、「市町村の消防の広域化に関する基本
となっている。救急活動時間を見ると、覚知から現
指針(平成1
8
年制定)」に基づき自治体消防の広域化
* ㈱トラフィックプラス代表取締役
Chi
e
fExe
c
ut
i
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f
i
c
e
r
,
Tr
a
f
f
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c
pl
usCo
.
,
LTD
* * ㈱本田技術研究所四輪R&Dセンター主任研究員
Chi
e
fRe
s
e
a
r
c
he
r
,
Ho
ndaR&D Co
.
Lt
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* * * 千葉工業大学工学部教授
Pr
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,
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l
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gy
原稿受理 2
0
0
9
年8
月5
日
が推進されつつあり、各救急隊の活動範囲はますま
IATSS Rev
i
ew Vo
l.
34,No.
3
す拡大する傾向にある。
本論では、これらの救急救命活動を取り巻く厳し
い環境への対応策の一つとして、道路・交通の側面
からの救急車の走行支援方策を検討した。具体的に
は緊急走行時の救急車の走行実態を明らかにした上
で、救急車の走行時間短縮と信頼性の確保に向けた
55)
( De
c
.
,
2
0
0
9
3
1
0
南部繁樹、吉田 傑、赤羽弘和
課題を把握し、救急車の走行時間短縮に資する経路
②緊急走行時の救急車の旅行速度の把握
情報提供方法について考察を行った。
③緊急走行時の救急車の旅行時間の把握
④救急車の旅行時間を増大させるボトルネックの特
2.研究概要
定とボトルネック箇所が救急活動時間に与える影
響の把握
救急車は緊急走行時において、一般車の避譲効果
により優先走行が可能となり、高い走行速度が保た
れていると考えられているが、その走行実態の詳細
は明らかではない。
交通事故救急に関しては、これま
⑤救急走行を支援する経路情報提供方法の検討
3.分析対象データの概要
で通報のための通信や救急車での移動・搬送におけ
救急車の走行データは、2
0
0
8
年に総務省消防庁に
る道路状況の旅行時間への影響について、都市部3)
おいて実施された「現場急行支援システムに関する
および都市間道路4)を対象とした研究例がある。ま
検討会」で収集した金沢市の救急車プローブカーデ
た、神戸市内の出動データのマクロ分析により、救
ータを使用し、一般車の走行データは、本田技研工
急活動の実態把握と救急活動の評価手法の検討例が
業㈱インターナビ推進室から提供いただいた金沢市
5)
ある 。
のフローティングデータを使用した。
本研究では、救急車と一般車の実走行プローブデ
両データを電子道路地図(DRM*1)と座標マッチ
ータを収集して詳細かつ統合的な分析を行い、救急
ングを行い、統合データベースを作成し分析を行っ
車の緊急走行時の走行実態と一般車の避譲効果を明
た。対象データはいずれも平成1
9
年1
1
月5日から同
らかにした上で、救急車の旅行時間の増大の原因と
1
2
月5日の1か月間の同一地域のデータである。
なる道路・交通の問題点を把握した。さらに、救急
Tabl
e1に、同データの概要を示す。1日の総走行
車の円滑な走行を支援するための方策としての、経
距離は、一般車1
,
4
4
2
.
1
km、救急車1
5
7
.
0
km、総走行
路情報提供方法について考察した。
時間は一般車4
4
.
3
時間に対して救急車は4.
2
時間であ
具体的な分析・検討内容は次に示すとおりである。 り、それぞれ一般車が救急車の9
.
5
倍、1
0
.
5
倍であっ
①救急車と一般車の旅行時間推定モデルの構築
た。一般車に対して救急車の1トリップ平均走行距
離は1
.
8
km短く、また、走行時間は3.
7
分短かった。
T
abl
e1 データの概要
一般車
Tabel2は分析対象範囲の概要である。
救急車
総トリップ数
1
0,
9
67トリップ*
2,
0
73トリップ
(1日平均)
3
5
8.
8トリップ/
日
6
6.
9トリップ/
日
総走行距離
4.救急車・一般車の旅行時間推定モデルの構築
4−1 推計モデルとデータ抽出方法
44,
7
04.
3k
m
4,
8
65.
5k
m
1,
44
2.
1k
m/
日
1
57.
0k
m/
日
救急車と一般車の旅行速度、旅行時間を比較検討
(1トリップ平均) 4,
0
7
6m/
トリップ 2,
3
47m/
トリップ
するために、式⑴に示す重回帰モデルを、救急車の
総走行時間
出動
(消防署−現場)および搬送(現場−病院)の活動
(1日平均)
1,
37
3'
29"
34
1
29'
4
0"
3
0
4
4'
1
8"
2
2
4'
09"
40
7"
21
3"
45
(1日平均)
(1トリップ平均)
注)*:2分を超えて停止した場合、別トリップとして計上。
同一経路を走行する救急車と一般車のデータを使用
した。
T
abl
e2 分析対象範囲の概要
対象エリア
区分別、時間帯別に構築した。同モデル構築には、
T=a
X1+b
X2+c
……⑴
金沢市および周辺部
約1,
2
00k
m2
4
,
8
1
4
k
m
対象エリア内の道路延長
(DRMリンク延長)
(幹線1,
0
80k
m、非幹線3,
7
3
4k
m)
*
面積
注)*:DRMがもつ属性情報の道路種別が、高速道路・国道・主要
地方道・県道である路線を幹線道路、それ以外を非幹線道路と定
義する。
ただし、
T:旅行時間(秒)
X1:幹線道路延長(m)
X2:非幹線道路延長(m)
a
,
b
,
c
:パラメータ
*1 DRMとは、Di
gi
t
a
l
Ro
a
dMa
p
(電子道路地図)
の略称であ
り、位置データや道路情報、交通情報などを数値化した
デジタルデータで表現される道路地図である。㈶デジタ
ル道路地図協会がデジタル道路地図データベースを提供
している。
国際交通安全学会誌 Vo
l.
3
4,No.
3
分析に使用する救急車、一般車の軌跡データの抽
出方法は次に示すとおりである。
⑴救急車の走行軌跡上の各ノード間を通過した一般
( 56
)
平成21年12月
3
1
1
プローブデータの分析に基づく救急車への緊急走行支援方策の検討
T
abl
e3 分析対象軌跡数
④
平休 昼夜 活動区分
⑤
終点
出動
⑥
非幹線
昼間
幹線
①
起点
②
③
搬送
非幹線
救急車軌跡
起終点ノード
区分ノード
平日
出動
夜間
搬送
Fi
g.1 一般車走行軌跡の抽出
出動
NODE1
昼間
搬送
③’
①’
休日
出動
NODE2
NODE3
②’NODE4
夜間
NODE5
搬送
一般車の軌跡
…救急車の軌跡
分類
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車計
一般車計
…幹線道路
…非幹線道路
…区分ノード
幹線道路 非幹線道路
計
225
226
451
886
746 1,
632
342
245
587
834
536 1,
370
89
79
168
230
226
456
121
81
202
226
176
402
35
29
64
93
65
158
48
29
77
83
40
123
18
21
39
25
22
47
9
4
13
12
4
16
887
714 1,
601
2,
389
1,
815 4,
204
T
abl
e4 旅行時間推定モデル
Fi
g.2 区間単位の照合による一般車走行軌跡の切り出し
偏回帰係数
車走行軌跡の抽出(1次抽出)
平休 昼夜
活動
区分
分類
幹線
道路延長
非幹線
道路延長
定数項
決定
係数
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
0.
700*
0.
119*
0.
074*
0.
100*
0.
066*
0.
106*
0.
074*
0.
102*
0.
070*
0.
112*
0.
074*
0.
096*
0.
062*
0.
104*
0.
074*
0.
091*
0.
072*
0.
127*
0.
080*
0.
123*
0.
074*
0.
104*
0.
080*
0.
100*
0.
073*
0.
118*
0.
086*
0.
114*
0.
074*
0.
137*
0.
117*
0.
162
8.
547*
10.
120*
13.
864*
24.
896*
8.
248*
7.
829*
14.
735*
14.
735*
7.
923*
11.
985*
11.
932*
38.
889*
7.
018*
2.
313*
6.
038
17.
860
0.
896
0.
630
0.
935
0.
722
0.
935
0.
733
0.
896
0.
782
0.
932
0.
744
0.
966
0.
730
0.
962
0.
877
0.
978
0.
658
各救急車の起終点ノードに加え、それらの走行軌
跡上の幹線と非幹線との交差点に区分ノードを設定
出動
昼間
する。その上で、各ノード間のいずれかを通過した
一般車走行データを抽出する。Fi
g.
1に、一つの救急
搬送
平日
車に走行軌跡に対して、1次抽出される一般車の走
出動
夜間
行軌跡の①〜⑥を示す。
搬送
⑵幹線および非幹線の区間単位の照合による一般車
走行軌跡の切り出し(2次抽出)
出動
昼間
1次抽出された一般車の走行軌跡を、各救急車の
走行軌跡と、交差点を両端とする区間単位に照合す
搬送
休日
る。その結果、走行軌跡の内で、通過区間の並びが
出動
夜間
完全に一致する部分のみを切り出す。 Fi
g.
2に、救
搬送
急車の一つの走行軌跡に対して、一般車の走行軌跡
の一部が切り出される例を、軌跡①'
、②'
、③'
とし
注)*:P値が1%未満で有意。
て示す。
力が高い。一般車の推定モデルの決定係数は、平日
⑶重複する一般車経路データの除外
昼間の出動時の0
.
6
3
0
、休日夜間の出動時の0
.
8
7
7
と
2次抽出で、異なる救急車の走行軌跡に対して、
なり、説明力のばらつきが相対的に大きい。軌跡サ
同一の一般車の走行軌跡が切り出され得る。その場
ンプル数が少ない休日夜間を除く全てのケースで P
合には、切り出し区間長が最大の一般車走行軌跡の
値は0
.
0
1
未満と、高度に有意である。
みを使用する。
T
abl
e3に示すとおり、
分析対象は救急車で計1
,
6
0
1
5.緊急走行時の救急車の走行速度
軌跡、一般車で計4
,
2
0
4
軌跡となった。
5−1 平均旅行速度
4−2 旅行時間推定モデルの同定結果
旅行時間推定モデルの偏回帰係数値から、救急車
T
abel4 に、旅行時間推定モデルの同定結果を示
および一般車の平均旅行速度を算定し比較した。Fi
g.
す。救急車の推定モデルの決定係数は、全ての活動
3には、時間帯別、活動別、幹線・非幹線別の救急車、
および時間帯に対して0.
8
9
6
〜0
.
9
7
8
であり、全説明
一般車の平均旅行速度を、Fi
g.
4には、
救急車と一般
IATSS Rev
i
ew Vo
l.
34,No.
3
57)
( De
c
.
,
2
0
0
9
3
1
2
南部繁樹、吉田 傑、赤羽弘和
車の平均速度の差を示す。
幹線の速度が非幹線より高い。一般車では、この関
救急車の速度は、搬送時より出動時のほうが高く、
係が逆転している時間帯がある。また、救急車の時
一般車に対する速度の優越性も出動時のほうが高い。
間帯による速度の変動は、一般車よりも小さい傾向
患者への配慮や救急処置実施の必要性から、搬送時
にある。これは、一般車の避譲や交差点における優
には走行速度が抑制されていることがうかがわれる。
先通行等の効果により、救急車の走行が一般車より
救急車の速度は、いずれの時間帯、活動においても
も、相対的に交通状況の変動の影響を受け難いこと
の証左であろう。
(km/h)
70
60 51.4
50.0
50
40
非幹線
58.1
51.4
48.6
49.3
48.6
48.6
48.0
45.0
41.9
36.0
39.6
34.6
37.5
32.1
35.0
34.6
34.0
31.6
30.8
30.5
26.3
22.2
54.5
48.6
48.6
45.0
30.3
28.3
30
幹線
36.0
29.3
20
時間経路の差異
前節に総括した緊急走行時の救急車
と一般車の平均走行速度の特性と、両
者における経路選択の差異との関係を、
実際の走行事例から示す。
Fi
g.
5は、起終点が同一の走行で、救
10
一般車
救急車
一般車
救急車
救急車
一般車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
一般車
救急車
救急車
一般車
0
5−2 救急車と一般車の最短旅行
急車と一般車の走行経路が異なる例で
ある。この事例の一般車と救急車とが
同一ルートを走行した場合の旅行時間
出動
搬送
出動
昼間
搬送
出動
夜間
搬送
出動
昼間
平日
搬送
夜間
休日
Fi
g.3 平均旅行速度
(km/h)
25
21.7
21.1
20
15.7
12.6
15
度に基づいて算定した。 Fi
g.
6に、算定
結果による走行軌跡を示す。
仮に一般車が実走行経路を走行せず、
非幹線
幹線
23.5
22.3
19.3
18.8
20.5
14.0 13.6
11.1
10.3
9.0
10
救急車と同一の経路を走行した場合、
幹線道路を利用するため走行距離は
5
7
5m 短縮される。しかし、当該経路
上の交通渋滞のため、旅行時間は53
秒
8.6
8.4
5
0
を、Fi
g.
3に示した一般車の平均旅行速
増加することになる。救急車の旅行時
間と比較すると 2
.
8倍の旅行時間とな
る。
出動 搬送 出動 搬送
昼間
夜間
平日
出動 搬送 出動 搬送
昼間
夜間
休日
Fi
g.4 救急車と一般車の平均旅行速度の差
すなわちこれは、一般車の避譲等に
より救急車の優先走行環境が確保され
ている状況では、救急車と一般車の最
小旅行時間経路が異なる例である。
起点:兼六園下交差点
一般車
一般車
(救急車経路走行)
救急車
6.緊急走行時の救急車の旅行時間
6−1 旅行時間の分布
4章の旅行時間推定モデルにより算
出した旅行時間の期待値に対する実旅
終点:増泉交差点
行時間の残差を、救急車と一般車とで
比較した。
Fi
g.
7およびFi
g.
8には、平日昼間の
走行距離
(m)
旅行時間
(秒)
旅行速度
(k
m/
h)
一般車
3,
2
9
4
5
9
6
1
9.
9
一般車(救急車経路走行)
2,
7
1
9
6
4
9
1
5.
1
救急車
2,
7
1
9
2
1
4
4
5.
7
出動、搬送別に残差の度数分布と累積
度数分布とを示す。一般車に対して救
急車の旅行時間の変動がはるかに小さ
いことがわかる。さらに、一般車の実
Fi
g.5 同一起終点の救急車と一般車の走行経路例
国際交通安全学会誌 Vo
l.
3
4,No.
3
救急車と一般車の旅行時間について、
( 58
)
平成21年12月
3
1
3
プローブデータの分析に基づく救急車への緊急走行支援方策の検討
旅行時間が期待値より大きな方向に分布の裾がのび
る。このように、緊急走行時の救急車の旅行時間の
ていることに対して、救急車の分布は期待値周りで
信頼性はかなり高い。
ほぼ対称であることが特徴である。 Fi
g.
9 に示す残
6−2 救急車の旅行速度と旅行時間との関係
差の変動係数値の救急車と一般車との差も顕著であ
Fi
g.
10は、救急車の平日昼間の走行について、
前節で算定した実旅行時間の期待値に対する残差と、
一般車
一般車(救急車経路走行)
救急車
︵秒︶
旅行時間
700
600
500
400
300
200
100
0
実旅行速度の平均値との関係を示す。実旅行速度の
平均値の低下に伴い、実旅行時間が期待値よりも非
線形的に大きくなる。また、残差の分布領域も拡大
していることから、旅行時間の信頼性が大きく損な
500
0
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500
距離
(m)
われている様子もうかがわれる。この傾向は、出動
時の緊急走行においてより顕著である。救急車の緊
急走行時の平均速度の低下がわずかであっても、旅
Fi
g.6 同一起終点の救急車と一般車の走行軌跡
行時間の信頼性の低下は小さくないことがわかる。
頻度
200
[救急車]
n=436
100%
変動係数:0.280
160
500
300
80
100
60
40
0
20
0
-20
0
-40
20
-60
40
-80
40
-100
80
-300
60
変動係数:0.650
400
0.540
0.472
0.4
0.3 0.280
0.311
0.263
0.251
0.2
0.1
n=1,632
100%
[一般車]
0.581
0.5
旅行時間の残差
(秒)
頻度
500
0.650
0.6
変動係数
120
-500
0.7
80
0.0
救急車 一般車 救急車 一般車 救急車 一般車 救急車 一般車
80
出動
60
搬送
平日
(昼間)
200
40
Fi
g.9 救急車と一般車の残差の変動係数
100
20
0
100
80
60
40
20
0
0
-20
-40
-60
-80
-100
旅行時間の残差
(秒)
Fi
g.7 救急車と一般車の残差の度数分布:出動
[救急車]
頻度
250
n=583
100%
150
120
90
60
30
0
0
-30
-60
-90
-120
-150
500
300
100
80
60
40
20
旅行時間の残差
(秒)
[一般車]
頻度
500
400
n=1,370
100%
80
変動係数:0.581
旅行時間の残差
(秒)
Fi
g.8 救急車と一般車の残差の度数分布:搬送
IATSS Rev
i
ew Vo
l.
34,No.
3
500
300
100
80
60
40
20
0
-20
-40
-60
20
0
-80
40
100
-100
200
-300
60
-500
300
0
平日
(夜間)
搬送
n=436
100%
85%
80
[出動]
60
50%
20
40
60
80
100
40
15%
20
0
平均速度
(km/h)
[搬送]
20
40
60
n=583
100%
85%
80
80
60
50%
100
40
15%
平均速度
(km/h)
累加相対度数
実旅行時間の期待値からの残差
︵秒︶
0
0
-20
20
0
-40
50
-60
40
-80
60
100
-100
150
-300
80
-500
200 変動係数:0.263
出動
累加相対度数
実旅行時間の期待値からの残差
︵秒︶
0
-500
-300
-100
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
100
300
500
300
20
0
Fi
g.10 救急車の平均旅行速度と残差の関係
59)
( De
c
.
,
2
0
0
9
3
1
4
南部繁樹、吉田 傑、赤羽弘和
線道路で1
7
区間、非幹線道路で3
区間が抽出された。
7.救急車の走行速度低下区間
7−2 走行速度低下要因の分析
前述したように、金沢市においては一般車の避譲
これら抽出された区間について、道路状況、交通
等の効果は高く、緊急走行時の救急車の旅行速度は
状況、救急車のリンク別走行速度の変化を基に分析
高水準に保たれている。しかしながら、実旅行時間
を行い、走行速度低下要因を整理した。T
abl
e5に、
が期待値に対して大きく遅れ、現場到着時間、搬送
その結果を示す。これらを大別すると、以下のよう
時間の信頼性が低下したケースも見られる。
に整理される。
ここでは、救急車の旅行時間増大につながってい
・大規模交差点への流入部における交通渋滞
るボトルネック箇所を抽出し、それらの箇所の詳細
・大規模変形交差点への流入部の交通渋滞
分析から救急車の緊急走行時の走行速度低下要因を
・橋梁の取付部での速度低下
明らかにする。
・左折時の路上駐車による阻害
7−1 走行速度の低下区間の抽出
・大規模交差点の右折通過
平日昼間の時間帯のサンプルについて、6−1に
・細街路から交通量の多い幹線道路への右左折流入
時
おいて算出した救急車の実旅行時間の期待値からの
残差を、さらに期待値で除して正規化した。さらに、
・踏切および踏切近傍通過時
正規化残差がその標準偏差の2倍より大きい区間を
・搬送先病院入口へのアプローチ部
抽出した。T
abl
e5および Fi
g.
11に示すように、幹
・道路の連続した屈折
7−3 ボトルネック区間が緊急走行に与える影響
T
abl
e5 速度低下区間の特徴
区分 No.
場所
1 国道159号、武蔵交差点付近
2 市道、金石東付近
3
(県)
金沢停車場南線、
金沢駅東口付近
4 国道159号、橋場交差点付近
出動
5 市道、上荒屋付近
6
7
8
(県)
金沢停車場西線、
京町付近
(県)
金沢停車場南線、
(主)
金沢美川小松線
(主)
金沢湯涌福光線、
金沢市役所付近
(県)
金沢停車場南線、
金沢駅西口付近
前節で抽出した走行速度低下をもたらすボトルネ
特色(速度低下影響要因)
■連続する大規模交差点
の流入部
(現場到着時滞在で速度
が大きく低下しているも
のと考えられる)
■大規模交差点流入部の
混雑
■大規模変形交差点流入
部の混雑
(現場到着時滞在で速度
が大きく低下しているも
のと考えられる)
■橋梁取付部
■道路の屈折
■混雑区間の大規模変形
交差点
(県)
金沢井波線、
金沢大学病院入口部
2 国道159号、香林坊付近
■大規模交差点の右折時
10 国道159号、武蔵交差点付近
1
(主)
金沢湯涌福光線、
兼六園下交差点付近
国道159号、
4
浅野川大橋交番前付近
(県)
上安原昭和町線、
5
松島東付近
搬送
3
6 (県)
寺中西金沢線
7 (県)
野ノ位置西金沢停車場線
期待値に対する比との関係を、Fi
g.
12に示す。全ボ
トルネック区間において、リンク平均速度は同時間
帯の各活動時の幹線道路の平均速度5
1
.
4
km/
h、お
よび非幹線道路の5
0
.
0
km/
hより低い。また、リン
ク平均速度のわずかな低下が、リンク旅行時間を著
しく増大させる可能性を高めていることがわかる。
Fi
g.
13 に、平日昼間にこれらボトルネック区間
を通過した救急車の、起点から終点までの平均旅行
2
10
6
9
5
■搬送先病院入口の直近
3
6
7
■橋梁取付部
■一方通行から幹線への
右折流入
■大規模混雑交差点の通
過
■踏切直近および大規模
交差点流入部の混雑
8 国道159号、武蔵交差点付近
■混雑区間の変形交差点
9 市道、兼六園南西部
■道路の屈折
10 市道、三池町-国道15
9号
■細街路から混雑した幹
線への左折流入
国際交通安全学会誌 Vo
l.
3
4,No.
3
る救急車の平均速度と、リンク旅行時間の最大値の
■左折時の路上駐車障害
■細街路から幹線への右
折
■大規模変形交差点流入
部の混雑
■搬送先病院入口のアプ
ローチ部
9
ック区間について、該当するDRMリンクを通過す
( 60
)
5
1 10
8 4
2 8
4
3
9
7
凡例
1∼10 速度低下区間
(出動)
1∼10 速度低下区間
(搬送)
Fi
g.11 救急車の走行速度低下区間
平成21年12月
3
1
5
プローブデータの分析に基づく救急車への緊急走行支援方策の検討
出動時間および搬送時間全体の平均
速度低下をもたらしていることがわ
かる。さらに、この平均速度の低下
と、旅行時間の変動係数との相関関
係も明らかである。特に搬送時の変
6
16.0
12.0
11
4.0
関する情報の系統的な収集と提供が、
旅行時間の信頼性を向上させる効果
を期待できそうである。
8.救急走行の支援方策
[出動時]
0.5
0.4
6
0.3
8
3 9
7
4
1
0.2
0.1
0.0
20.0
これまでの分析結果を踏まえ、救
急走行を支援する方策について考察
9
10
12.0
8.0
2
1
4.0
4
5
6 3
8
7
12 9
10
11
0.0
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
速度低下区間平均速度
(km/h)
25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
起終点間の平均速度
(km/h)
起終点間の旅行速度の変動係数
は、このようなボトルネック区間に
3
7 8
16.0
Fi
g.12 速度低下区間における平均速度と最大旅行時間
起終点間の旅行速度の変動係数
が馴染みのない地域で活動する際に
1
[搬送時]
20.0
速度低下区間平均速度
(km/h)
の変動係数値が0
.
2
6
程度であること
救急車の広域運用体制下で救急隊
2 4
8.0
0.0
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
動係数値は、
Fi
g.
9に示した同一区分
と比較すると、著しく悪化している。
[出動時]
20.0
区間最大旅行時間/期待旅行時間
示す。ボトルネック区間の通過が、
区間最大旅行時間/期待旅行時間
速度と旅行時間の変動係数の関係を
[搬送時]
0.5
8
0.4
1
3
9 10
7 54
6
0.3
0.2
2
0.1
0.0
20.0
25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
起終点間の平均速度
(km/h)
Fi
g.13 速度低下区間通過救急車の起終点間の平均速度と旅行時
する。
1)救急車専用の最短旅行時間経路情報の活用
でいる。
これまでの分析結果が示すように、救急車は緊急
これらへの対応策として、前述した救急車プロー
走行時に、一般車の高い避譲効果等や救急隊の経験
ブカーデータの分析による、救急車専用の最短走行
に基づく経路選択により、走行速度はおおむね高水
経路情報を広く共有することが考えられる。走行経
準に保たれている。一方で、大規模交差点を先頭と
験の少ない地域において、その地域を活動拠点とす
する交通渋滞、踏切近傍の交通状況、あるいは連続
る救急隊の蓄積されたデータの活用は、多大なる支
した屈折などの道路状況から速度低下を余儀なくさ
援となるものと期待される。
れるボトルネック区間も存在している。このボトル
3)一般車の最短走行経路情報の活用
ネック区間の速度低下が、出動時間および搬送時間
直近の消防署から救急車を出動させることができ
の増大や、信頼性の低下の招いている可能性が高い。
ない場合には、他の消防署から救急隊を振り向ける
このような状況への対応策として、日常的に救急
ことになる。これらのケースを削減するためには、
車のプローブデータを収集・分析し、ボトルネック
救急活動サイクルの短縮するために、搬送先病院か
区間を特定することが想定される。これにより、ボ
ら帰署する時間も無視できない。帰署時には、救急
トルネック区間を迂回する信頼性が高い代替経路の
車は緊急走行ではないため、一般車と同様の走行状
情報等、救急車専用の最短時間経路情報を提供でき
態である。
る。これは、救急隊の高度な経験値に科学的な情報
インターナビデータなどの一般車のプローブデー
を付加し、より安定性の高い緊急走行を可能にする
タを活用した一般車の最短旅行時間経路の情報活用
体制となると期待される。また、この体制は、救急
は、帰署に要する時間の短縮に有効な支援策となる
隊の経路選択のみならず、派遣する救急隊の選択も
と期待される。
より高度に最適化し得る。
9.まとめ
2)救急車専用最短旅行時間経路情報の共有
近年、管制システムを活用した救急活動の広域化
本研究では、同じ期間の金沢市の救急車プローブ
が進んでいる。この結果、救急隊が土地勘のない地
カーデータとインターナビのフローティングデータ
域での救急活動を行う頻度が増えていると聞き及ん
の統合分析を行い、緊急走行時の救急車の走行実態
IATSS Rev
i
ew Vo
l.
34,No.
3
61)
( De
c
.
,
2
0
0
9
3
1
6
南部繁樹、吉田 傑、赤羽弘和
の把握、および救急車の緊急走行時の速度低下要因
化への有効な対応策として、緊急走行時の救急車の
と、速度低下が救急活動に及ぼす影響について明ら
プローブデータの収集・分析に基づく救急車専用の
かにした。具体的な成果は次のとおりである。
最短時間経路情報の提供と、同情報の他地域との共
⑴緊急走行時の救急車と一般車の走行状況を比較す
有の有効性を示唆している。また、救急車の帰署走
るために、同一経路を走行する救急車と一般車の
行時等において、インターナビデータなどの一般車
データを抽出し、それに基づいて旅行時間推定の
のプローブデータに基づく最短旅行時間経路情報が
ための重回帰モデルを同定した。その結果、幹線
提供されることも、救急活動サイクルの短縮に有用
道路および非幹線道路の走行距離により、時間帯
であろう。
区分ごとの旅行時間が一定精度で説明できること
[謝辞]本研究においては、2
0
0
8
年に総務省消防庁
を示した。
において実施された「現場急行支援システムに関す
⑵各区分の推定モデルから算定された走行速度の期
る検討会」で収集した、金沢市の救急車プローブカ
待値より、いずれの時間帯においても救急車の走
ーデータを活用させていただいた。また、一般車デ
行速度は一般車より高く、特に出動時に速度差が
ータを分析するにあたり、本田技研工業㈱インター
大きい傾向が明らかとなった。平日の昼間におい
ナビ推進室より金沢市のフローティングデータを提
ては、出動時に幹線、非幹線道路いずれにおいて
供いただいた。関係組織各位には、ここに記して感
も2
0km/
h以上もの速度差が見られた。救急車と
謝の意を表する次第である。
同じ経路を同じ時間帯に一般車が走行した場合、
旅行時間において救急車の 2
.
8倍の時間を要する
参考文献
こと等、救急車の優先走行状況が把握された。
1)総務省消防庁『平成2
0
年版 救急・救助の現況』
2
0
0
9
年
⑶推定モデルから算定される期待旅行時間に対する
実旅行時間の残差分析から、救急車の旅行時間の
2)消防庁編『平成2
0
年版 消防白書』㈱ぎょうせ
い、2
0
0
8
年
信頼性の高さを示した。また、救急車の緊急走行
時の平均速度の低下がわずかであっても、旅行時
3)小池則満他「救急車の走行阻害要因と走行支援
間の信頼性の低下は小さくないことがわかった。
方法に関する基礎的研究」『土木計画学研究講
演集』No
.
2
(
22
)、pp.
6
2
7
−
6
3
0
、1
9
9
9
年
⑷実旅行時間の期待値に対する残差をもとに走行速
度の低下区間を特定し、速度低下要因を明らかに
4)元田良孝他「交通事故救急における道路と通信
した。特に、搬送時の残差の変動係数値は、ボト
の時間的影響 −国道1
0
6
号の事例研究」『第2
0
ルネック区間の通過により著しく増大する場合が
回交通工学研究発表会論文報告集』交通工学研
究会、pp.
8
5
−
8
8
、2
0
0
0
年
あり、旅行時間全体の信頼性を低下させているこ
5)高井広行「救急活動の実態と評価に関する一考
とがうかがわれた。
これらの分析結果は、近年の救急車の現場到着時
察」『土木計画学研究講演集』土木学会、
(CD-
間、病院への搬送時間の増大傾向や救急活動の広域
ROM)
』2
0
0
4
年
国際交通安全学会誌 Vo
l.
3
4,No.
3
( 62
)
平成21年12月
Fly UP