...

アブダビの石油天然ガス開発を めぐる現況

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

アブダビの石油天然ガス開発を めぐる現況
JOGMEC
K Y M C
JOGMEC 調査部
猪原 渉
エッセー
アブダビの石油天然ガス開発を
めぐる現況
ー「重層的パートナーシップ」の構築に JOGMEC も貢献ー
う点で、エネルギー安全保障の観点か
はじめに
らも極めて重要な産油国と位置づけら
れる。JOGMECとしても、民間企業の
1.UAE の 石 油 天 然 ガ ス
資源の現状
アラブ首長国連邦(UAE)のアブダ
産油国における活動のサポートになる
ビでは、2 0 1 4 年 1 月に期限を迎える
ような取り組みを同国に対して行って
陸上の巨大油田の権益更新をめぐる動
きたところである。本稿では、こうした
最 新 の BP 統 計 に よ る と、2 0 1 2 年
きが佳境に入っている。今回、アブダ
重要産油国であるアブダビの石油天然
末の UAE の原油埋蔵量は 9 7 8 億バレ
ビ政府はメジャー各社が持つ権益をそ
ガス開発状況について概観するととも
ル、天然ガス埋蔵量は 2 1 5 兆 cf で、と
のまま継続させるのではなく、新たな
に、陸上鉱区の権益更改の動向につい
もに世界第 7 位にある有数の産油ガス
企業を含む入札で選び直す方針で、今
ても、アブダビ側からの公式発表がほ
国である(表 1)。ちなみに、中東地域
年(2 0 1 3 年)3 月以降、入札資格を取
とんどなく専門誌報道等の限られた情
に絞ってみた場合、UAE の原油埋蔵
得した対象企業との間で、一連の入札
報を頼りに若干の分析、考察を試みる
量はサウジアラビア(2,6 5 9 億バレル)
、
手続きが進められている。日本にとっ
ことにしたい。併せて、JOGMECの同
イラン(1,5 7 0 億バレル)
、イラク
(1,5 0 0
ては、最大の自主開発油田であるアブ
国における活動状況について、特に筆
億バレル)、クウェート(1,0 1 5 億バレ
ダビ海上鉱区の権益が 2 0 1 8 年に期限
者が JOGMEC中東事務所に在籍した
ル)に次いで 5 番目、天然ガス埋蔵量
を迎え、
その更新が最優先課題である。
2 0 1 0 年 5 月から本年 7 月頃までの 3 年
はイラン(1,1 8 7 兆 cf)、カタール(8 8 5
陸上鉱区の権益賦与の方法が海上鉱区
間に行われた取り組みを中心に紹介し
兆 cf)、サウジアラビア(2 9 1 兆 cf)に
の更改時にも適用される可能性もあ
たい。
次いで 4 番目となっている。
り、陸上鉱区の動向についても十分注
なお、ここで取り上げた動向、ニュー
UAE の 7 首長国中で原油・天然ガ
視する必要があろう。
スや各種統計データ等は本稿執筆時点
スを生産しているのは、アブダビを含
日本にとって UAEはサウジアラビア
(2 0 1 3 年 1 0 月 1 6 日)に得られた情報
む 4 首長国であるが、原油・天然ガス
に次ぐ第 2 位の原油供給国ということに
に基づくものであり、その後の本誌刊
の埋蔵量、生産量においてアブダビが
加え、アブダビに日本として最大の自
行までの間の状況変化は反映されてい
圧倒的なシェアを占めている。UAE
主開発油田の権益を保有しているとい
ない。
外国貿易省によると、原油埋蔵量の
(1)埋蔵量および生産量
表1 UAEの石油・天然ガス資源の概要(2012年)
世界ランク
確認埋蔵量
生産量
原油
978億バレル
第7位
79.1年
215.1兆cf
第7位
100年以上
338万バレル/日
第8位
517億㎥/年
第17位
天然ガス
原油
可採年数
天然ガス
(注)原油生産量はコンデンセートを含む。
出所:BP Statistical Review of World Energy June 2013
55 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
55
2013/10/31
12:29:18
JOGMEC
K Y M C
エッセー
9 4.3 %がアブダビに集中しており、ド
バイ 4.1 %、シャルジャ 1.5 %、ラス・
アル・ハイマは 0.1 %に過ぎない。天
然ガス埋蔵量もアブダビが 9 2.5 %を
占めるのに対し、ドバイ 1.9 %、シャ
ルジャ 5.0%、
ラス・アル・ハイマは0.6%
となっている。
(2)
日本との関係
UAE(アブダビ)は、日本にとって、
サウジアラビアと並ぶトップクラスの
原油供給国であるということのほか、
最大の自主開発油田の権益を有する国
オマーン
2.9%
インドネシア
3.7%
ロシア
4.6%
イラン
5.2%
カタール
10.7%
要な産油国であると言える。
サウジアラビアと UAE が常に 1 位、2
サウジアラビア
31.2%
クウェート
7.3%
であるという 2 点において、極めて重
近年、日本への国別原油輸入量では、
その他
12.7%
UAE
21.7%
出所:石油連盟「石油資料月報」
図1 日本の国別原油輸入量(2012年)
位を占めてきたが、2 0 1 2 年の原油輸
入量のデータを見ても、UAE は 2 1.7 %
にあたる 7 9 万 6,0 0 0 バレル / 日を日本
に供給しており、これはサウジアラビ
アの 3 1.2 %に次いで第 2 位である。
ADMA 鉱区の権益は当事者の民間企
邦)の副大統領兼首相として連邦の内
また、アブダビには、日本企業が開
業にとってのみならず、日本のエネル
政・外交面で大きな影響力を持つムハ
発に参加する油ガス田権益事業が 5 件
ギー政策上も死活的に重要な位置づけ
ンマド・ドバイ首長も、こと、アブダ
ある。とりわけ、国際石油開発帝石
となっている。
ビの石油政策については一切口を挟む
(INPEX)の子会社であるジャパン石油
開発(JODCO)が 1 2 %(一部 4 0 %)の
権益を有する海上油田の ADMA 鉱区
2.アブダビの石油天然ガ
ス開発の概況
アブダビでは、首長国政府に石油・
天然ガス産業を統括する省庁は置かれ
ておらず、ハリーファ・ビン・ザーイド・
(2 0 1 8 年に権益期限が到来)と、上部
アブダビの石油天然ガス政策決定
ザクム油田
(2026年に権益期限が到来) (1)
を合計した JODCO の引き取り量は約
立場にはない。
の構造
アル・ナヒヤーン UAE 大統領(アブダ
ビ首長)を議長とする1 0 名のメンバー
UAE は七つの首長国から構成され
から成る「最高石油評議会」
(Supreme
65万バレル/日の3割に相当)
となる 。
る連邦国家であるが、1 9 9 6 年に制定
Petroleum Council〈SPC〉
)によって石
経済産業省が発表したエネルギー基
された連邦憲法によって、天然資源の
油・天然ガス政策の基本方針について
本計画(2 0 1 0 年 6 月制定、現在見直し
所有と処分権は連邦政府ではなく各首
の意思決定が行われる。SPC の定めた
作業中)で、エネルギー安全保障の強
長国に帰属することが定められてい
政策指針に基づき、石油・天然ガス政
化、資源安定供給確保の観点から、石
る。連邦のエネルギー大臣はアブダビ
策の執行をアブダビ国営石油会社
油および天然ガスを合わせた自主開発
をはじめとする各首長国のエネルギー
(Abu Dhabi National Oil Company
比率を現状の約 2 0 %から 2 0 3 0 年に
政策に直接関与する権限を持っておら
〈ADNOC〉
)
が担っている。
4 0 %へ引き上げるとの目標が示され
ず、石油輸出国機構(OPEC)やアラブ
SPC の 1 0 名のメンバーのうち、議
た。現状の自主開発油田権益の根幹を
石油輸出国機構(OAPEC)などの国際
長であるハリーファ首長や同国のエネ
成す ADMA 鉱区の 2 0 1 8 年の権益更
機関の会議に UAE 代表として参加す
ルギー政策で大きな影響力を有すると
新
(維持)
に失敗した場合、この目標は
るなど、もっぱら UAE の「顔」として
されるムハンマド皇太子を含め上位 6
ほとんど達成不可能な絵に描いた餅に
対外的、国際的な交渉窓口としての役
名までが首長家(ナヒヤーン家)メン
終 わ る 可 能 性 が 高 い。 そ の 意 味 で、
割にとどまっている。また、UAE(連
バーで構成されている。首長家メン
2 0 万バレル / 日(わが国自主開発原油
*1
2013.11 Vol.47 No.6 56
エッセー_55-68猪原.indd
56
2013/10/31
12:29:19
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
バー主体の構成が見直され
表2 アブダビ最高石油評議会(SPC)メンバー(2013年10月現在)
る可能性は低く、国の根幹
を 成 す アブ ダビ の エ ネル
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
01. H.H Sheikh Khalifa Bin Zayed Al Nahyan(議長)
UAE大統領、アブダビ首長
長家が直接下すと考えられ、
02. H.H Sheikh Sultan Bin Zayed Al Nahyan
元UAE副首相
このことは、同国のエネル
03. H.H General Sheikh Mohammed Bin Zayed Al Nahyan
アブダビ皇太子
ギー政策の意思決定構造を
04. H.H Sheikh Mansour Bin Zayed Al Nahyan
UAE副首相・大統領府長官
05. H.H Sheikh Hamed Bin Zayed Al Nahyan
アブダビ皇太子府長官
06. H.H Sheikh Mohamed Bin Khalifa Bin Zayed Al Nahyan
アブダビ執行評議会議員
や海上鉱区の権益更改にお
07. H.E Mohamed Habroush Al Suwaidi
元アブダビ財務庁長官
いても、権益賦与の方法(入
08. H.E Hamad Mohamed Al Hur Al Suwaidi
アブダビ財務庁長官
09. H.E Khalifa Mohamed Khalifa Al Kindi
ADIC* Managing Director
10. H.E Eng. Abdulla Nasser Al Suwaidi
ADNOC Director General
ギー政策の決定は今後も首
理解する上で重要なポイン
トと言えよう。権益期限切
れが目前に迫った陸上鉱区
札方針等)から契約先選定ま
で、基本方針の決定はすべ
て首長家が支配するSPCに
よって行われることになる。
ADNOCは SPCに対し方針
案の提 案、助言を行うが、
(注)メ ンバーは以前11名であったが、SPC事務局長(Secretary General)を務めていたDr. Ju’an Salem Al
Dhaheriが本年4月に逝去し、10名となった。
*:アブダビ投資評議会(Abu Dhabi Investment Council)
出所:2011年6月第25号首長令、各種報道等
意思決定には関与できない。
(2)
石油・天然ガス開発の体制
業を行うケースとしては日本企業が全
①陸上の操業会社
1970年代以降の世界的な資源ナショ
額または一部出資を行っているアブダ
Abu Dhabi Company for Onshore
ナリズムの高まりのなか、サウジアラ
ビ石油(Abu Dhabi Oil Co., ADOC)
、
Oil Operations(ADCO)
ビアやクウェートといった湾岸の有力
Bunduq 社およびアブアルブクーシュプ
ADCO の歴史は、1 9 3 9 年 1 月 1 1 日、
産油国が石油産業の国有化、石油・ガ
ロジェクトの例がある。
アブダビにおける最初の石油利権契約
が Petroleum Development Company
ス上流操業からの外国企業の締め出し
を行ったのに対し、アブダビは、国有
化は行わず、石油操業会社に事業参加
(3)
操業会社別油田開発状況と原油生
産能力増強計画
(Trucial Coast)
との間で締結されたこ
とに始まる。Petroleum Development
し外国石油企業と共存する道を選ん
UAE の原油生産量は、直近の BP 統
は 1 9 6 0 年に Bab 油田を発見し、以降、
だ。同国は、ADNOC と外国石油企業
計
(2012)では340万バレル/日弱となっ
商業生産規模の油田発見が相次いだ。
のジョイントベンチャーによる上流操
ているが(既述)、この数字にはコンデ
その間、1 9 6 2 年に社名は、Abu Dhabi
業のほか、1 0 0 %権益を賦与する伝統
ンセート(約 5 5 万バレル / 日)および
Petroleum Company(ADPC)と変更
的な石油利権契約に基づく外国石油企
他の首長国の生産量(約5万バレル/日)
された。その後、世界的に資源ナショ
業による上流操業も認めている数少な
も含まれており、これらを除いた現状
ナリズムが高まるなか、1 9 7 3 年 1 月 1
い産油国の一つであり、このことが多
のアブダビのみの原油生産量としては
日より ADNOC が 2 5 %の事業参加を
くの石油企業がアブダビを自社ポート
2 7 0 万~ 2 8 0 万バレル / 日程度と考え
行 い、1 9 7 4 年 1 月 1 日 に は シ ェ ア を
フォリオのなかで優先度の高い魅力的
られる。このような状況下でのアブダ
6 0 %まで引き上げた。この結果、権
な国と位置づける所以となっている。
ビの油田開発状況について陸上、洋上
益 比 率 は、ADNOC が 6 0 %、BP、
陸上の ADCO 鉱区、洋上の ADMA-
の操業会社別に以下で概観する。
Total、Shell、ExxonMobil 各社が 9.5 %、
OPCO、ZADCO 等、巨大油田を含む
また、アブダビでは、2 0 0 9 年 3 月
Partex が 2 %となった。1 9 7 8 年 1 0 月
鉱区の操業会社には ADNOC が 6 0 %
に
「2 0 1 7 年末までにアブダビの原油生
には、 首 長 令 によって ADPCは Abu
(一部88%)
事業参加し、
残りの40%
(一
産能力を現状比 1 0 0 万バレル / 日増の
Dhabi Company for Onshore Oil
部 1 2 %)を外国石油企業が出資する
3 5 0 万バレル / 日に引き上げる」とす
Operations(ADCO)に改組され(権益
ジョイントベンチャー方式が採られて
る増産目標が掲げられており、この増
比率は変わらず)
、現在に至っている。
いる。外資が 1 0 0 %権益の石油利権操
産目標の内訳についても後に触れる。
ADCO の 主 要 生 産 油 田 は、Bu
ゆえん
57 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
57
2013/10/31
12:29:19
JOGMEC
K Y M C
エッセー
Hasa、Bab、Asab、Sahil、Shah お よ
油田(Bida Al-Qemsan,Qusahwira 油田
の更改が実現するまでは、増産に伴う
び北東 Bab(NEB)エリアの Dabbiya、
等)の生産開始により、2 0 1 7 年に生産
投資決定を先送りしようとする可能性
Rumaitha、Shanayel 各油田などがあ
能力の 1 8 0 万バレル /日への引き上げ
が高く、現時点で ADCOの増産が計画
る。 現 状、ADCO 全 体 の生 産 量は約
を目指している。ただし、ADCOに出
どおり実現する目途は立っていない。
め ど
1 4 0 万バレル /日程度と見られ、今後、 資し て い る 外 国 石 油 企 業とし て は、
ADCO の増産が先送りになった場
これら既存油田の能力増強と新規開発
合、ホルムズ海峡を迂回してアブダビ
2 0 1 4 年1月に期限を迎えるADCO 利権
うかい
表3 ADCO陸上油田原油生産能力
油田
利権保有比率
Bu Hasa
ADNOC 60%
Bab
BP
Asab
Total
Sahil
Shell
Shah
ExxonMobil
NEB
各9.5%
Bida Al-Qemsan
千バレル/日
現 状 生 産 能 力 2017年目標生産量
550
730
2014年1月
350
430
同 上
280
310
同 上
55
75
同 上
50
60
同 上
110
110
同 上
51
同 上
50
同 上
Partex 2%
Qusahwira
計
利権更新期限
1,395
1,816
出所:Arab Oil Gas Directory 2012等各種資料より作成
カタール
サルマン
(サッサン)
油田
イラン
ナスル油田
アフアルプクーシュ油田
アレフ
ウムシャイフ油田
マンドュス
ヤサール油田
ダス島
エルフンドク油田
サター油田
ジャルナイン
プジュファイル
SWエプシロン
ジーム
ドバイ
ワー
ペルパゼム
ピンナシェフ
ジルク島
アルザーナ島
ザクム油田
ラシッド油田
エプシロン
デルタ
ハー
SARB
ウムアダルク油田
ムバラス油田
ウムアルアンバー油田
アルザーナ油田
アブダビ市
ガーシャ
ダルマ島
ウムルル油田
ヘアダルマ
ヘイル油田
サーバニヤス島
ジャンヤプール油田
アルダビヤ油田
シャナイエル油田
シュワイハットガス田
ルマイサ油田
ミルファ油田
ビダアルケムザイ油田
バブ油田
ルワイス油田
アブダビ
ブハサ油田
サウジアラビア
油田
ガス・コンデンセート田
ダフラ油田
フワイラ油田
サヒール油田
アサブ油田
ハリバ油田
オマーン
シャー
(サワーガス)
クザヴィラ油田
シャー油田
ザララ油田
メンデル油田
出所:各種資料よりJOGMEC作成
図2 アブダビの油田分布
2013.11 Vol.47 No.6 58
エッセー_55-68猪原.indd
58
2013/10/31
12:29:21
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
改で利権を失った場合、開発投資に見
イラン
合ったリターンを得られないまま撤退
しなければならなくなるというリスク
を抱えているので、ADMA-OPCO 参
加企業の意思決定が先送りされ結果的
フジャイラ
アブダビ
ジェベルダナ
に増産プロジェクトが遅延する可能性
もある。
Zakum Development Company
(ZADCO)
1 9 7 7 年 1 1 月に設立された ADNOC
ハブシャン
アラブ首長国連邦
オマーン
マスカット
出所:各種資料よりJOGMEC作成
と国際石油企業の共同操業形態による
オペレーター会社。上部ザクム
(Upper
Zakum)
、 ウ ム ア ダ ル ク(Umm Al
Dalkh)およびサター(Satah)各油田
図3 ハブシャン・フジャイラ原油パイプライン
の開発・操業とジャルナイン、ダルマ
構造の探鉱開発を行っている。
パートナーとなる国際石油企業の顔
ぶれ、参加比率は、油田ごとに異なっ
陸上油田から産出される原油をインド
会 社 Abu Dhabi Marine Operating
ているが、すべての油田操業において
洋側に位置するフジャイラから出荷す
Company(ADMA-OPCO)が設立され
JODCO がパートナーとして名を連ね
るために建設されたハブシャン・フ
た。ADMA-OPCO の 権 益 比 率 は、
ている。上部ザクム油田については、
ジ ャ イ ラ・ パ イ プ ラ イ ン( 全 長
ADNOC 6 0 %、BP 1 4.6 7 %、Total
2 0 0 6 年 3 月 に 変 更 が あ り、 新 た に
370km、
最大通油量:180万バレル/日)
1 3.3 3 %と、1 9 7 3 年から ADMA 事業
ExxonMobil がパートナーとして選定さ
の本格稼働にも影響を及ぼす可能性が
に参画した JODCO が 1 2 %である。
れ、オペレーターシップ および 権 益
ある。
ADMA-OPCO は、油層圧維持のた
2 8 %を付与された。変更後の利権保有
め、ウムシャイフ油田では 1 9 7 6 年か
比 率 は、ADNOC 6 0 %、ExxonMobil
②洋上の操業会社
ら水攻法、1 9 9 4 年から頂部ガス圧入
2 8 %で、JODCOの 1 2 %権益は変更な
Abu Dhabi Marine Operating
を開始、下部ザクム油田では 1 9 7 8 年
し。また、ウムアダルクとサター油田の
Company(ADMA-OPCO)
から水攻法、2 0 0 5 年から頂部ガス圧
外資パートナーはいずれもJODCO1 社
ウムシャイフ
(Umm Shaif)
油田およ
入を開始した。
で、ウムアダルクの JODCOシェアは
び下部ザクム(Lower Zakum)油田の
さらに、アブダビの原油生産能力増
1 2 %(ADNOC 8 8 %)
、サター油田で
開発・操業および ADMA 鉱区内の未
強計画に基づき、新規油田開発も実施
は 4 0%(ADNOC 6 0%)と当初からの
開発構造の探鉱開発を行っている。
し て お り、 洋 上 の ウ ム ル ル(Umm
シェアを維持している。
1 9 5 5 年に BP、CFP(現・Total)が
Lulu)
油田、SARB 油田、ナスル
(Nasr)
ZADCO 操業油田でも、油層圧維持
設 立 し た Abu Dhabi Marine Areas
油田の開発が進んでいる。これら 3 油
のための方策が採られており、上部ザ
(ADMA)が前身であり、1 9 5 9 年にウ
田の開発により、2 0 1 8 年までに約 2 7
クム油田に対しては 1 9 8 4 年から水攻
ムシャイフ油田を発見し、1 9 6 2 年に
万バレル / 日の増産が可能とされ、さ
法を、ウムアダルク油田に対しては
はダス島ターミナルからウムシャイフ
らに下部ザクム油田の再開発による 1 0
1 9 8 6 年から水攻法を実施し、サター
原油がアブダビ産原油として初めて輸
万バレル / 日の増産と合わせ、ADMA-
油田に対しては 1 9 8 8 年から頂部ガス
出(日本向け)された。ADCO と同様、
OPCO 全体の生産量は現状の約 6 0 万
圧入を開始、さらに 1 9 9 8 年から水攻
ADNOC による 2 5 %事業参加(1 9 7 3
バレル / 日の上に、4 0 万バレル / 日近
法が実施されている。
年)
、6 0 % 参 加(1 9 7 4 年 ) を 経 て、
いさらなる増産を目指す計画と見られ
3油田とも生産能力増強計画がある。
1 9 7 7 年 7 月に ADNOC と国際石油企
る。ただし、現行の ADMA-OPCO 参
上部ザクム油田については、ADNOC
業による共同操業形態のオペレーター
加企業にとっては、2 0 1 8 年の権益更
の指示の下、生産能力を従来の 5 5 万
59 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
59
2013/10/31
12:29:22
JOGMEC
K Y M C
エッセー
表4 アブダビ洋上油田概要(原油生産能力等)
油田
利権保有比率
現状生産能力
目標生産量(時期)
利権更新期限
300
425(2016)
2018
275
275(2018)
2018
0
105(2016)
2018
0
65(2016)
2018
0
100(2017-18)
2018
<575>
<970>
550
750(2016)
2026
10
20(2014-15)
2018
17
25(2014)
2018
<577>
<795>
NA
NA
2042
NA
NA
2042
24
24
2042
NA
NA
2042
10
10
2018
10
10
2018
1,196
1,809
(千バレル/日)
(千バレル/日)
(年)
ADMA-OPCO
下部ザクム
ウムシャイフ
ウムルル
ADNOC 60%
BP 14.67%
Total 13.33%
ナスル
JODCO 12%
SARB
<小計>
ZADCO
ADNOC 60%
上部ザクム
ExxonMobil 28%
JODCO 12%
ウムアダルク
ADNOC 88%
JODCO 12%
ADNOC 60%
JODCO 40%
サター
<小計>
ADOC(アブダビ石油)
ウムアルアンバー
ニーワットアルギャラン
ムバラス
コスモ石油 63%
JX日鉱日石開発 31.5%
東京電力
中部電力
ヘイル
関西電力 各1.8%
Bunduq
BP 3%
合同石油開発*97%
エル・ブンドク
*:UPD株主内訳
コスモ石油45%
JX日鉱日石開発45%
三井石油開発 10%
アブアルブクーシュプロジェクト
アブアルブクーシュ(ABK)
Total 75%
INPEX 25%
計
出所:MEES(15 February 2013)他各種情報、各種資料よりJOGMEC作成
(4)天然ガス開発をめぐる状況
バレル / 日から 2 0 1 6 年までに 7 5 万バ
ぞれ現状生産量比 5 0 %増し、1 0 0 %増
レル / 日に増強する“UZ7 5 0”プロジェ
しのレベルまで引き上げる計画があ
UAEでは、経済発展による電力消費
クトが進行中である。能力増強を実現
り、両油田合わせて 1 万 8,0 0 0 バレル /
の著しい伸びを背景として、発電の主
するため、既存サテライトに加え、四
日程度の増産が期待される。
要燃料である天然ガスの需要が急増し
つの人工島を建設し、そこから集中的
ており、今後、天然ガスの供給不安と
に掘削するという新たな工法が採用さ
アブダビの洋上油田全体の生産量を
いう事態を回避するための対策が急務
れている。近い将来(2 0 2 4 年頃)の
見ると、表 4 に示したように、現状生
となっている。天然ガス供給の拡大に
1 0 0 万バレル / 日への能力増強につい
産 能 力 約 1 2 0 万 バ レ ル / 日 に 対 し、
向け、アブダビが進めている天然ガス
ても検討が行われているようである。
2018 年までの目標生産量は合計約
開発プロジェクトやガス輸入プロジェ
また、ウムアダルク油田、サター油田
1 8 0 万バレル / 日となる。
クトなど、アブダビの天然ガス開発を
についても、2 0 1 4 ~ 2 0 1 5 年頃にそれ
めぐる主要動向について紹介する。
2013.11 Vol.47 No.6 60
エッセー_55-68猪原.indd
60
2013/10/31
12:29:22
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
イラン
ノースフィールド・ガス田
ラスラファン
ドーハ
ジュベールアリ
カター ル
フジャイラ
タウィーラ
アブダビ
ドルフィン・ガスのパイプライン
その他の既設ガスパイプライン
サウジアラビア
マクタ
アラブ首長国連邦
アライン
オマーン
出所:各種資料よりJOGMEC作成
図4 ドルフィンガスパイプライン
①パイプラインによる天然ガス輸入
「ドルフィン・プロジェクト」
は、2 0 0 7 年 7 月に完工し、2 0 1 0 年 1 2
ガスの開発がアブダビ陸上油田の随伴
月には、タウィーラからフジャイラま
ガスを対象として着手されている。
カタールのノース・フィールドで産
で 2 4 4 ㎞のパイプラインも完成した。
出される天然ガスをラスラファン(カ
ドルフィンプロジェクトは二つの
Shah サワーガス開発プロジェクト
タール)からアブダビのタウィーラま
フェーズに分かれており、第 1 フェー
Shah ガス田は、サウジアラビアとの
での 3 7 0 ㎞の海底パイプラインによっ
ズで 2 0 億 cf/ 日を、第 2 フェーズで 1 2
国境に近いアブダビの南西 1 8 0 ㎞の内
て輸送し、アブダビ、ドバイのガス需
億 cf/ 日を供給して、計 3 2 億 cf/ 日の
陸部に位置し、
1966年に発見されたが、
要家に供給するとともに、さらにタ
天然ガスを輸入する計画であった。し
経済的、技術的理由からガス層は長年
ウィーラからフジャイラまで 4 8 イン
かし、カタールがノースフィールドガ
開発されず手つかずのままであった。
チ級パイプラインで結び、またフジャ
ス田のモラトリアム宣言を行った関係
2 0 0 7 年の入札の結果、2 0 0 9 年 7 月に
イラからオマーンに向けて 2 4 インチ
で、第 2 フェーズ分は凍結されている
ADNOCと ConocoPhillips 合同のプロ
級パイプラインで天然ガスを輸出する
が、オマーン向けには既に 2 億 cf/ 日
ジェクトとしてスタートした。その後
事業である。オマーンからパキスタン
のガスを供給している。
2 0 1 0 年に ConocoPhillips が撤退を表明
まで延伸する構想もある。
2 0 0 3 年 1 2 月
に、Q P(Q a t a r
Petroleum) と 事 業 主 体 の Dolphin
したため、改めて開発企業の選定が行
②サワーガス開発プロジェクト
われ、2 0 1 1 年 2 月に Occidental が選定
UAEは世界第 7 位の天然ガス埋蔵量
された。権益比率は Occidental 4 0 %、
Energy Ltd(DEL、株主は、アブダビ (2 1 5 兆 cf、2 0 1 3 年 BP 統計)があるが、 ADNOC 6 0 %とされた。
国営投資会社のムバダラ〈Mubadala〉
埋蔵されるガスの大半がサワーガスと
Shah サワーガス開発プロジェクト
開 発 社 5 1 %、Total と Occidental 各
呼ばれる毒性や腐食性の強い高硫黄ガ
のアブダビ側実行組織として、2 0 1 0
2 4.5 %)がプロジェクト開発契約に調
スであるため、多くは未開発のままで
年 3 月の首長令により ADNOC 傘下の
印し、正式にスタート。ラスラファン
あった。しかし、天然ガス需要の急増
Abu Dhabi Gas Development
からタウィーラまでのパイプライン
に対応するため、リスクの高いサワー
Company(AL Hosn Gas)
が発足した。
61 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
61
2013/10/31
12:29:23
JOGMEC
K Y M C
エッセー
2 0 0 9 年以降、評価井の掘削を始め
の陸上鉱区の利権更改の動きが注目を
味と解釈されるが、そうではなくて、
て開発プログラムは順調に進んできて
集めている。
期限切れ後は外資(パートナー企業)
は
おり、
2014年から生産を開始する予定。
1 9 3 9 年の最初の契約以降、7 0 年以
ADCO の経営から撤退し、外資から
生産ガスは H2S 2 3 %、CO2 1 0 %を含
上にわたり、国際石油会社側の ADCO
ADCO に出向している技術者がいな
有するサワーガスであるが、日量 1 0
利権の保有者は、BP、Total、Shell、
くなっても、ADCO プロパーの要員
億 cf の生産が見込まれる。
ExxonMobil、Partex の 5 社 で 変 更 は
だけで油田操業を行うことを想定して
ないが、今回、アブダビ政府は、各社
いるとの見方もできる。穿った見方を
Bab サワーガス開発プロジェクト
の権益をそのまま継続することを認め
すれば、ADCO への出向者の引き揚
アブダビの南西 1 5 0km の内陸部に
ず、新たな企業を加えた入札で契約先
げという事態をちらつかせることで現
位置する。2 0 0 7 年に Shah ガス田とと
を決める方針である。本年 3 月以降、
パートナーにプレッシャーをかけ、利
もに入札にかけられたが、Bab 油田の
事前資格審査(PQ)をクリアして入札
権交渉を有利に進める思惑があるとも
真下にガス層があり、開発が困難であ
資格を取得した企業との間で、入札手
取れる。
るなどの理由から多くの企業は入札を
続きが進められている。今回、PQ を
見送り、契約には至らなかった。今年
取 得 し た の は、BP、Total、Shell、 (2)契約条件の見直し
になって改めて入札が行われ、4 月に
ExxonMobil の既往利権保有者に加え、
ADCO の更新契約においては、契
Shellが Totalなどを押さえて落札した。
Occidental(米)、Statoil(ノルウェー)、
約条件の見直しも行われる模様であ
Eni(伊)、Rosneft(露)、KNOC(韓)、
る。アブダビの多くの上流プロジェク
③ ADGAS LNG プロジェクト
CNPC(中)、INPEX(日)の計 1 1 社が
トでは、参加企業が受け取るマージン
Abu Dhabi Gas Liquefaction Limited
選定された。既往利権保有者のなかか
が「バレルあたり 1 ドル」とされ、外資
(ADGAS)は19 7 3 年に設立。ADMA-
ら Partex が落選し、一時、BP も外さ
にとっては経済性の低さが大きな問題
OPCOが操業する洋上油田からの随伴ガ
れたとの情報もあったが、UAE を訪
となってきた。PIW(2 0 1 3.9.3 0)では、
スをダス島のプラントで液化、東京電力
問した英キャメロン首相がアブダビ側
今回の更新契約の入札プロセスの過程
向けに19 9 4 年から2 019 年までの2 5 年
に強く働きかけ、なんとか復活したと
で、「バレルあたり 3 ドル」という新条
間のLNG 供給契約を結んでいる。同社
いう経緯がある。
件がアブダビ側から提示されたと報じ
権 益 は、 三 井 物 産 15 %、BP 10 %、 本稿執筆時点での情報では、PQ 取
うが
ている。この条件が実現すれば、外資
Total 5 %、ADNOC 7 0 %。2 012 年度
得企業は、2 0 1 3 年 1 0 月 2 0 日までに
にとって劇的な改善ではないものの、
以 降 は、 ス ポ ット 契 約 分 も 含 め た
技術提案書を ADNOC に提出すること
アブダビ事業の収益性向上につながる
ADGAS生産分全量(約57 0 万トン/年) になっている。その後、提案書に対す
一歩となるであろう。
が東京電力に供給されており、日本とし
るアブダビ側の評価作業が行われ、さ
また、アブダビ側は、コンソーシア
ては、アブダビはカタールとともに中東に
らに、商業見積もりの提出、評価といっ
ムへの参加比率について「1 0 %」と
おける重要な天然ガスサプライヤーの位
た選定プロセスが続くことになるが、 「5 %」の二つのケースでの選択を外資
置づけとなる。現契約が終了する2 019
ここにきて、利権契約の期限(2 0 1 4 年
に提示しているとも伝えられている。
年以降も契約締結できるかどうかは、日
1 月 1 0 日)まで 3 カ月を切るという段
あえてシェア 5 %のケースを提示する
本のエネルギー安全保障の観点からも重
階となり、期限前の契約更新(新パー
ことで、既存株主であるメジャーだけ
要であるが、アブダビ国内で、急増する
トナーの選定、新規利権契約の締結等)
に利権を取らせるのではなく、新規企
天然ガスの国内需要に対応するため、ガ
は物理的に間に合わないのではという
業にもマイナーシェアでの参加を促進
スを国内向けに使用し、ADGASのLNG
見方が出てきている。
したいとのアブダビ側の意向が透けて
については生産規模の縮小を主張する声
こ れ に 関 し、ADNOC の ス ウ ェ イ
見えるようで興味深い。
があり、注視が必要である。
ディ総裁は 1 0 月 2 日、現地紙の取材
3.陸上油田の利権更改の
動き
(1)
最近の動き
2 0 1 4 年 1 月に期限を迎える ADCO
に 対 し、
「ADCO の 利 権 期 限 は 2 0 1 4
(3)アジア勢の動き
年 1 月であるが、期限後の 1 月以降も
PQ 通過 11 社からパートナー候補企
生産継続を認める」とコメントした。
業を選定するにあたり、ADNOC 側は
スウェイディ総裁の発言は、期限切れ
何を評価基準としているのであろうか ?
後も、ADCO が現状体制のまま存続し、
油田操業に関する技術力や操業経
操業を続けることを容認するという意
験、コスト競争力ということであれば、
2013.11 Vol.47 No.6 62
エッセー_55-68猪原.indd
62
2013/10/31
12:29:23
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
既存ADCO株主でもあるメジャー各社に
大規模な国際会議・展示会、皇太子系
が有利との見方がある。INPEX は油
一日の長があるのは明らかである。むし
の Mubadala 社がメインスポンサー)で
田操業で得た EOR に係る経験・知見
ろ、アジア 企 業 3 社(CNPC、KNOC、 温家宝首相(当時)が基調演説を行い、
に 加 え、JOGMEC が ADNOC と 進 め
INPEX)もノミネートされたところに何ら
カンファレンスに参加した内外のエネ
てきた CO2EOR の共同研究(後述)に
かのヒントが隠されているのかもしれな
ルギー関係者に強い印象を残した。
メンバーとして参加し技術内容を共有
い。この3カ国は、
いずれも大きな原油マー
温首相のUAE訪問に合わせ、アブダ
してきており、この点は CO2EOR 技
ケットを有する国であり
(特に中国)
、アブ
ビの未開発鉱区の共同調査に係るCNPC
術を保有しない中韓に対する大きなア
ダビ原油を安定的に調達してくれる国の
とADNOCの合意書の調印も行われた。 ドバンテージとなり得る。
企業として重視していると思われる。
アブダビで開催されるエネルギー関係の
韓国、中国については、両国とアブダ
国際会議として有名なADIPEC(アブダ
ビの経済面での関係強化のほか、ここ数
ビ国際石油展示会・カンファレンス、毎
年の首脳レベルでのアブダビへの急接近
年11月に開催)
があるが、同じエネルギー
が功を奏したとの見方もできる。韓国の
関係会議でもWFESは開会式をムハンマ
筆者は 2 0 1 0 年 5 月から今年 7 月ま
李明博前大統領は任期5 年の間に3回も
ド皇太子が主宰し、元首クラスが基調演
での 3 年あまり、アブダビの JOGMEC
同国を訪問しており
(2 0 0 9年12月、2 011
説を行うという点で、会議のステータス
中 東 事 務 所 で 勤 務 し、 そ の 間、
年3月、2 012年3月)
、ハリーファ大統領
ではADIPECより上と思われる。ムハン
JOGMEC の同国向け事業の進展に向
やムハンマド・アブダビ皇太子との会談
マド皇太子への絶好のアピールの場にも
け微力ながら取り組んできた。それら
を重ねた。2 0 0 9 年12月訪問時には、韓
なり得る。余談ながらWFES開会式へ日
の 事 業 の 概 要 を 以 下 に 記 す。 な お、
国企業のアブダビでの原発受注契約の締
本からは最近では経済産業政務官や資
JOGMEC の事業は日本の民間企業と
4.JOGMEC のアブダビ
への取り組み
結に立ち会い、2 011年 3月には、石油、 源エネルギー庁長官が参加しているが、 の連携を前提とした事業も多く、アブ
ガス分野における広範な協力について合
大統領や首相級を出席させる他国と比べ
ダビに対しても、下部ザクム油田にお
意している。後者の合意は、その後の韓
役不足感は否めなかった。
ける CO2EOR の共同研究等、民間企
国企業(KNOC、GS Energy)へのアブダ
初のアブダビ陸上鉱区への参入を目
業を巻き込んだ官民挙げての取り組み
ビにおける3鉱区(陸上2、海上1)の開発
指すINPEX(JODCO)は、4 0 年にわた
が多く成されてきた。一方、1 9 8 9 年
権益付与につながるものであった。
るアブダビ沖合鉱区での操業実績を有
に開始された ADNOC をはじめとする
ムハンマド皇太子も李大統領任期中に
し、その間に、アブダビ石油開発事業へ
産油国 NOC 向けの研修事業などは民
韓国を2度
(2 010年5月、2 012年3月)
訪
の多大な技術的・人的貢献を果たしてき
間企業での実施が困難な分野の事業で
問しており、両者の親密さには際立った
ただけでなく、文化・社会・教育等石油
あ り、 こ の 点、 政 府 系 機 関 で あ る
ものがあった。ムハンマド皇太子は誰も
分野にとどまらない実に幅広い分野での
JOGMEC が独自に有する機能、リソー
が認めるアブダビのエネルギー行政の
貢献をしてきており(
「アブダビとの永続
スを最大限に活用した事業と言える。
キーマンであり、大統領と皇太子の良好
的関係をめざして」
な関係がエネルギー分野における韓国企
石油・天然ガスレ
業にとっての追い風になったことは間違
ビ ュ ー「2 0 0 9.5
いない。日本の安倍晋三首相が本年5月
Vol.4 3 No.3」
)
、ア
にUAEを訪問しムハンマド皇太子との会
ブ ダ ビ 政 府、
談も行ったが、日本首相のUAE訪問は
ADNOCからも高
第1次安倍政権時代以来 6 年ぶりのこと
く評価されている。
で、韓国とは大きく事情が異なる。
今回の入札で
中国も、トップによるアブダビでの
は、アブダビ側は
プレゼンスの拡大に余念がない。最近
EOR に よ る 石 油
では、2 0 1 2 年 1 月にアブダビで開かれ
生産能力拡大を大
た World Future Energy Summit
きな技術課題と捉
(WFES)2 0 1 2(WFES はムハンマド
え て お り、 特 に
皇太子がホストでアブダビで毎年 1 月
CO2 による増進回
に開かれる再生可能エネルギーに係る
収技術を持つ企業
出所:筆者撮影
World Future Energy Summit 2012で
写1 基調講演を行う温家宝中国首相(当時、2012年1月)
63 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
63
2013/10/31
12:29:23
JOGMEC
K Y M C
エッセー
JOGMECは多彩な内容の事業をアブダ
ア(アラビア語紙 Al-Ittihad など)でも
に始めた新たな資源国協力事業である。
ビで展開することにより、本年 5 月の安
大 き く 取 り 上 げ ら れ、JGGMEC と
産油国が抱える石油・天然ガス開発に
倍首相の UAE 訪問で両国が合意した
ADNOC の協力関係が石油関係者のみ
おける技術的課題(ニーズ)に対し、日
「重層的パートナーシップの拡充」に少
ならず UAE 国民全般に広く認知され
本の先端・先進的な産業技術(シーズ)
ることになった。
を転用・活用し、技術的解決策
(ソリュー
しでも貢献できればと考えている。
ション)を提供するというコンセプトで
(1)ADNOCとの新たな MOU の締結
(2)技術ソリューション事業
進められ、わが国企業のビジネス創出
2 0 1 3 年 2 月 1 0 日、J O G M E C は
資源国向け技術ソリューション事業
を支援するとともに、産油国との関係
ADNOC との間で、
「石油・天然ガス
は、JOGMEC が 2 0 1 3 年度から本格的
強化を狙いとしている*2。JOGMEC は
分野における技術協力に関する覚書」
(Memorandum of Understanding:
MOU)に調印した 。2 0 0 0 年に締結さ
れた旧 MOU の改訂版となるもので、
従来の協力事業を大幅に拡大して、わ
が国企業の先端技術により油・ガス田
での操業上の問題を解決する事業の実
施やこれらの新技術に関する人材育成
を強化していくことで合意した。MOU
調印式は、アブダビ市の ADNOC 施設
で、茂木敏充経済産業大臣同席の下、
双方の代表者(河野博文 JOGMEC 理事
長、スウェイディ ADNOC 総裁ほか)が
出席して行われた。
協力対象分野を拡大して新たに共同
実施する事業は以下のとおりである。
◦アブダビでの油・ガス田操業上の問
題をわが国企業の先端技術で解決す
(注)
(左から)シャムシ戦略調整局長、クベイシ探鉱生産局長、加茂駐UAE特命全権大使、
スウェイディ総裁、茂木経済産業大臣、河野JOGMEC理事長
出所:JOGMEC
写2 ADNOCとのMOU調印式(2013年2月10日)
る~「資源国向け技
術ソリューション事
業」~
◦従来の石油・天然ガ
ス開発技術に加え、
上記先端技術を活用
するための人材育
成・研修事業
◦C
O2 を用いた原油増
進 回 収(Enhanced
O i l R e c o v e r y:
EOR)および温暖化
ガス削減に資する海
洋油田での実証試験
の共同推進
出所:JOGMEC
MOU 調印式の様子
は、地元の有力メディ
図5 技術ソリューション事業のコンセプト
2013.11 Vol.47 No.6 64
エッセー_55-68猪原.indd
64
2013/10/31
12:29:25
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
長期にわたる協力関係のベースがある
が実施する通常研修コースとは別に、
が関与する業務の円滑な遂行に役立っ
ADNOC に対し他に先駆けて同事業の
民間企業に委託して ADNOC グループ
ている、ADNOCグループにおける日
コンセプトを紹介したところ、前向き
会社のみを対象とする特定テーマの研
本企業の評価・地位の向上にもつながっ
な反応が示されたため、今次 MOU の
修(LNG 研修等)も実施している。こ
ている、など JOGMEC 研修の実績を高
合意事項の一つとして織り込まれた。
れには過去 4 1 名が参加している。
く評価する声をいただいている。
具体的な案件の選定はこれからである
その他、フェローシップ制度として、
本年 3 月に弱冠 3 9 歳の若さで UAE
が、今後、産油国側ニーズの調査とニー
毎年、UAE 大学
(地質系学部)
から 5 名、
のエネルギー大臣に就任し、安倍首相
ズにマッチした日本側の提供可能な技
Petroleum Institute(PI、アブダビ石
が参加した 5 月の日本 UAE ビジネス
術(シーズ)について議論するワーク
油大学)から5名の学生を招いて
フォーラムで UAE 側ホストを務めた
ショップの開催等により、アブダビで
JODCO が企画・実施している夏季日
スハイル・ムハンマド・アル・マズルー
技術ソリューション事業の先行実施案
本研修について、JOGMEC は資金面
イ氏も JOGMEC(当時、石油公団)に
件が生まれることが期待される。
での支援を行っている。夏季日本研修
よる 1 9 9 8 年開催の油層工学コースに
また、技術ソリューション事業の関連
には、2 0 1 3 年 3 月時点で両大学からこ
参加した経歴がある。エネルギー資源
イベントとして本 年 5 月に開催された
れまで計115名の学生が参加している。
の所有および処分に関する政策決定の
JOGMECテクノフォーラム2 013 では、 通常研修コースは開始以来 2 5 年に
権限をすべて各首長国の行政機関(ア
ADNOCとJOGMECの長年の協力関係
なるが、過去のアブダビからの研修参
ブダビの場合、国営石油会社 ADNOC
を背景として、ADNOCのCO2EOR 事業
加者のなかには、ADNOC や操業会社
と上位機関の SPC〈最高石油評議会〉
)
担当マネージャーのアラファト・アル・ヤ
の幹部クラスになった者も多くおり、
が握る UAE で、連邦のエネルギー大
フェイ氏が NOCを代表する立場からの
各社のキーパーソンとして活躍してい
臣に日本での研修経験を持つ人物が就
基調講演(題名「持続可能な発展への貢
る。たとえば、ADNOC Director(取
任したからといって、アブダビの油田
献」
)
を行った
(詳細については石油・天然
締役)
のアリ・ハリファ・アル・シャム
権益更改交渉で日本企業が有利になる
ガスレビュー
「2013.7 Vol.47 No.4」
参照)
。 シ戦略調整局長は総裁の懐刀とも称さ
ということにはならないが、日本アブ
(3)
研修事業の実施
れる実力者であるが、石油公団(当時)
ダビ関係の深化を示すエピソードの一
の海外技術者研修の第 1 回研修として
例ということが言えよう。
教育・人材育成はアブダビが最も力
1 9 8 9 年に開催された物理探鉱コース
を入れている分野である。JOGMEC
の 修 了 生 で あ る。 そ の ほ か に も、
は、長年にわたり同分野でのアブダビ
ADNOC の E&P 部門を中心に多くの部
への協力・貢献を行ってきた。石油公
長クラスの人材を輩出している。筆者
団時代の 1 9 8 9 年から実施している産
は多くの研修修了生と話をする機会が
油国 NOC を対象とする石油天然ガス
あったが、シャムシ氏をはじめとして
開発に関する研修コース
(地質、物探、
修了生は例外なく日本に対する好印象
掘削、油層の 4 コース、各コース定員
を語っている。
約 2 0 名、 期 間: 約 1 0 週 間、 場 所:
アブダビで活動する日本の上流開発
TRC)において、毎回、ADNOC およ
会社各社からも、アブダビ側カウンター
びグループ会社の技術者を受け入れて
パートとなるADNOCの技術者のなか
きた。UAE からの参加実績は、石油
に親日派の JOGMEC 研修修了生が少な
公団時代から平成 2 4 年度まで合計 6 7
からずいるため、日本企業・スタッフ
名に上る。各コース
出所:UAE政府ホームページ
マズルーイ・
写3 UAEエネルギー大臣
参加者は各国 1 名が
原 則 で あ る が、
UAE に つ い て は 同
表5 JOGMEC研修事業へのUAEからの参加実績(1989年~2013年3月末)
国との関係の重要性
通常研修(JOGMEC-TRC実施、地質・物理探査・掘削・油層の4コース)
67名
に鑑 み 2 名を受け入
特定テーマ研修(民間企業委託LNG研修)
41名
れている。
フェローシップ事業(UAE大学、PI学生を対象とする夏季日本研修)
かんが
上 述 の JOGMEC
115名
出所:JOGMEC
65 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
65
2013/10/31
12:29:25
JOGMEC
K Y M C
エッセー
産油国との人的交流を深めるため
に、JOGMEC は研修修了生との意見
交換会(OB 会)を国別に数年に 1 回の
頻度で行っているが、アブダビにおい
ては、最近では ADIPEC の開催時期
に合わせ 2 0 1 0 年 1 1 月、2 0 1 2 年 1 1 月
と立て続けに意見交換会を開催した。
特 に 2 0 1 2 年 1 1 月 の 意 見 交 換 会 は、
JOGMEC 理事長主催で開催され、ア
ブダビ側からは通常研修修了生のほ
か、フェローシップ修了生や共同研究
関係者など 5 0 名を超える参加があり、
り
成功裡 に終わった。JOGMEC のみな
らず石油会社にとっても産油国におけ
出所:JOGMEC
写4 研修修了生との意見交換会(OB会、2012年11月)
る重要な人脈構築の機会と考え、意見
交換会には在 UAE の日本の石油開発
会社の関係者も招待し、交流を深めて
もらう場とした。
本 年 2 月 締 結 の MOUに 基 づ き、
ADNOC向けの JOGMECによる新たな
研修事業の実施に向けた検討も進めら
れている。具体的実施内容は未定だが、
近年、JOGMEC が実施してきたイラク
特別研修と同様の形態となることが想
定されており、産油国(アブダビ)側の
ニーズに合わせたさまざまなテーマの 2
~ 4 週間程度の短期コースを同国向け
に提供する予定である。テーマについ
ては、従来の石油上流開発に係る技術
研修プログラムに加え、アブダビ側の
出所:PIホームページ
写5 PI校舎
ニーズが高い施設、エンジニアリング
系のプログラム等が期待され、技術ソ
リューション事業の進展に合わせわが
ネルギー・資源フロンティアセンター
された大学である。ADNOC のほか、
国の先端技術の活用に係る研修プログ
〈FRCER〉
、エネルギー工学連携研究
アブダビで活動している BP、ジャパ
セ ン タ ー〈CEE〉、 先 端 電 力 エ ネ ル
ン石油開発(JODCO)
、Shell、Total の
ギ ー・ 環 境 技 術 教 育 研 究 セ ン タ ー
外国石油会社 4 社もスポンサーとなっ
〈APRT〉)間の教育・研究に係る連携
て い る。PI の 卒 業 生 は 基 本 的 に
を促進する活動で、2 年間にわたる協
ADNOC グループ会社への就職が義務
経済産業省が進める「国際資源開発
議 を 経 て、2 0 1 3 年 3 月 4 日 に PI と 東
づけられるなどアブダビの石油ガス産
人材育成事業(石油・天然ガス分野)
」
京大学大学院工学系研究科間で大学間
業にとって重要な人材供給センターの
の一環として、JOGMEC は「アブダビ
の包括的連携協定(MOU)が締結され、
役割を担っている。理事会
(Governing
石油大学とわが国大学等との連携促
今後の具体的な連携(共同研究、人材
Board)の会長を ADNOC 総裁が務め
進」事業を受託して、活動してきた。
交流等)の進め方に関して合意した。
る な ど、PI は ADNOC と 極 め て 深 い
具体的には、アブダビ石油大学
(PI)
と
PI は、自国での技術者育成を目的
関 係 を 有 し、PI に 対 す る 貢 献 は
東京大学エネルギー関連3センター
(エ
として 2 0 0 0 年に ADNOC 主導で設立
ADNOC とアブダビ政府に日本の貢献
ラムの導入も検討される。
(4)
「国際資源開発人材育成事業」に
よる PI との関係強化
2013.11 Vol.47 No.6 66
エッセー_55-68猪原.indd
66
2013/10/31
12:29:28
JOGMEC
K Y M C
アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況
-「重層的パートナーシップ」の構築にJOGMECも貢献-
をアピールする良い機会に
な る こ と か ら、JOGMEC
としても積極的に大学間連
携 事 業 の 成 立に向けたサ
ポートを行ってきた。
(5)C
O2 EORに 関 す る
ADNOCとの共同研究
JOGMECは 石 油 公 団 時
代も含めて 3 0 年以上にわ
たってCO2EOR(CO2 圧入に
よる石油増進回収)
を中心と
したEORの研究開発を行っ
てきており、国内外での実
出所:JOGMEC
図6 CO2EORのイメージ
証試験を通じて実績を積み
上げてきた。アブダビにお
い て も、 長 年 に わ た り、
ADNOCとの間で CO2EORの共同研究
るが、ADNOCは CO2EORの導入に基
/日を超える原油生産で得られる巨額の
を 行 っ て き て い る。JOGMECは
本的に前向きである。
オイルマネーを生かした国造りを行って
ADNOCとの合意に基づき、2 0 0 0 年か
アブダビ政府が陸上鉱区の権益更新
おり、the garden city of the gulf(湾岸
ら2 0 0 5 年まで沖合の上部ザクム油田を
にあたり入札参加の条件として CO2 を
の庭園都市)とも称される緑あふれる近
対象とするCO2 回収を含めた CO2EOR
含む EOR 技術の有無を挙げ、2 0 1 8 年
代的な街並みの建設や、教育費、医療
の研究を共同で実施し、2 0 1 0 年から2
の海上鉱区の権益更新時も同様の方針
費の手厚さなど充実した社会保障の実
年間は下部ザクム油田を対象とした共
を採るとの見方がある。こうしたなか、 現などに力を入れてきた。最近は、6 0
同研究を実施した。下部ザクム油田に
CO2EORに関して、日本は官民挙げて
階を超える高層ビルやホテル、オフィス、
関する研究では、研究施設でコアや原
の取り組みを行ってきた。上記共同研
レジデンスの複合施設が次々と建てられ
油サンプルを使った CO2 圧入による回
究の実施チームには INPEX(JODCO) ている。とりわけ、2 014 年の完成を目
収率の向上を評価し、良好な結果が得
も参加し、CO2 圧入技 術に係る知見、 指し建設中のADNOCの新本社ビルは、
られた。CO2EOR が現行の水攻法
(水圧
経験を積み重ねてきており、メジャー
アブダビの石油産業の発展を象徴する
入)や随伴ガス圧入に比べ EOR 効果が
に劣らぬ先端 EOR 技術を保有すること
意味合いも持つ新たなランドマークとし
高いことが確認されている。
が、今後、日本にとって権益更改交渉
て認知されることになろう。
今後は、上記評価を基に、実際の油
を有利に運ぶための切り札になる可能
成長を続けるアブダビは、日本から見
田におけるCO2EORの実証試験(パイ
性を秘めている。
れば、有数の石油・天然ガスの供給国
ロット)に進むかどうかをADNOC 側が
判 断 することになるが、JOGMECは
おわりに
であることに加え、最大の自主開発原油
の権益賦与国であるという2点において、
2 0 1 3 年 2 月締結の ADNOCとの MOU
エネルギー安全保障の観点からも極め
での合意に基づき、実証試験の共同推
UAEは1971年12月の建国
(連邦成立) て重要かつ関係の深いエネルギー資源
進に向けた取り組みを行っている。
からまだ 4 2 年しか経過していない若い
国である。今後、来年1月に期限を迎え
CO2EORについては、EOR(アブダ
国であるが、その間、ばく大な石油収入
るADCO陸上油田利権問題の取り扱い
ビの原油生産能力増強に寄与)
、環境対
を背景に飛躍的な発展を遂げてきた。 を皮 切りに、2 018 年に期限を迎える
策(回収 CO2 の有効活用)
、圧入随伴ガ
UAEを構成する7 首長国のなかで、国
ADMA沖合鉱区他、2 0 2 6 年期限の上
スの国内消費への転用(UAEのガス供
家経済の屋台骨を支える石油・天然ガ
部ザクム油田まで、国際石油企業の関
給不足への対応)
という
“一石三鳥”
の効
ス資源の大半が集中するアブダビ首長
心を集める重要な利権更新が続く。アブ
果があるとされる。経済性の見極めや
国が、事実上の連邦の盟主と位置づけ
ダビ側が利権賦与企業を選定するにあ
CO2 源の確保・輸送といった課題はあ
られている。アブダビは、2 5 0 万バレル
たり何を評価基準とするのか、そして日
67 石油・天然ガスレビュー
エッセー_55-68猪原.indd
67
2013/10/31
12:29:29
JOGMEC
K Y M C
エッセー
本としてどのような取り組みをすべきか
こうしたコメントから浮き彫りになる
ADNOCとは十分な関係を築いているこ
について、改めて検討する必要がある。
のは、ADNOC がパートナー候補とし
とが確認できる(ちなみに、Bunduq 社は
これまで述べてきたように、アブダビ
ての日本(企業含む)に最も期待してい
2 010年12月に設立4 0 周年、アブダビ石
側が重視する要素としては、
「石油開発
るのは、
「CO2EORを含めた技術力」と
油は 2 013 年 1 月に 4 5 周年、JODCOは
に関する総合的な技術力や経験」
「生産
「人材育成・教育への貢献」の 2 点であ
2013年2月に40周年をそれぞれ迎えた)
。
能力拡大のためのEOR 技術の保有」
「ア
ることである。4 項「JOGMECのアブダ
今後は、今年 5 月の安倍首相の UAE
ブダビ原油のマーケットを提供できる
ビへの取り組み」で述べた JOGMECの
訪問で再び動き出した感のある政府間
か」
「教育・人材育成への貢献」などが
取り組み(研修事業、共同研究等)の多
の資源外交の取り組みや、JOGMEC
挙げられるが、このほかに「当該国・企
くが、アブダビのこれらのニーズに十
のアブダビへのアプローチの一層の強
業とのトップを含めた関係の緊密さ、人
分合致していることが分かる。
化を図る等により、2 国間声明で謳 わ
うた
「トップを含めた関係の緊密さ、人脈の
脈の有無」も無視できない要素であろう。 れた「重層的パートナーシップ」の構築
石油会社が有する「資金力・財務力」に
有無」に関しては、少なくとも当事者であ
に取り組む必要がある。アブダビ、日
ついては、キャッシュリッチのアブダビ
る日本企業は、いずれもアブダビでの約
本双方が利益を得る Win-Win 関係の実
にとって必ずしも優先順位は高くないと
4 0 年 に わ た る 操 業 経 験 を 背 景 に、 現を目指すべきである。
考えられる。
ここで参考となるのが、本年 5 月7日
に開催された JOGMECテクノフォーラ
ム 2 0 1 3 で ADNOC 代表として基調講
演を行ったアラファト・アル・ヤフェイ
氏の下記のコメントである。
「ADNOCは、JOGMECを は じ め と
する日本企業とは、1 9 8 9 年以来技術者
研 修 プ ログラムや CO2EOR関 連 スタ
ディに代表される多数の共同研究を通
じて、長期にわたって技術協力関係に
ある。ADNOCはJOGMECと協力して、
アブダビ初の洋上 CO2EOR パイロット
実施に向け取り組んでいる、また、持
続可能な石油開発の実現に向け、HSE
活動・上下流開発・効率向上・人材育
成等の多岐にわたって、日本のあらゆ
る技術分野との協力を必要としている」
(文責
〈翻訳〉
:JOGMEC)
出所:筆者撮影
写6 建設が進むADNOC新本社ビル(左、2013年1月撮影)
< 注・解説 >
* 1: 経済産業省
「資源確保戦略」
(平成 2 4 年 6 月)P1 2
* 2: 技術ソリューション事業については、石油・天然ガスレビュー「2 0 1 3.7 Vol.4 7 No.4」に詳しい紹介記事が掲載されて
いるので参照されたい。
執筆者紹介
猪原 渉(いのはら わたる)
兵庫県出身。大阪大学卒業。1982年住友金属工業(現、新日鐵住金)入社。1997年から2000年まで、サウジアラビアの日サ合弁鋼管製造
会社に勤務。2000年6月、石油公団(企画調査部)に出向後、中東の石油、天然ガス開発動向の調査・分析業務に従事。2004年1月、石油
公団に移籍し、その後、JOGMEC調査部上席研究員。2010年5月から2013年7月まで、アブダビ(UAE)のJOGMEC中東事務所所長。現在、
JOGMEC調査部特命調査役。
2013.11 Vol.47 No.6 68
エッセー_55-68猪原.indd
68
2013/10/31
12:29:30
Fly UP