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JOGMEC国際セミナー - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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JOGMEC国際セミナー - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
JOGMEC
K Y M C
JOGMEC 調査部
舩木 弥和子(編者)
アナリシス
JOGMEC国際セミナー
-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発
情勢を左右する3極の動向-
はじめに
2 0 1 5 年 2 月 2 6 日、JOGMEC は英国、ロシアおよび米国から著名なエネルギー専門家を招へいし、国
際セミナーを開催しました。本稿はその概要についての報告です。
本セミナーは、英国のオックスフォード・エネルギー研究所所長 Bassam Fattouh(バッサム・ファ
トウ)
氏、モスクワの石油業界団体 Petroleum Advisory Forum(PAF)事務局長 Vladimir Konovalov(ウ
ラディーミル・コノヴァロフ)氏、米国の石油産業 ・ 政策等に精通するコンサルタントの Lucian
Pugliaresi(ルシアン ・ パリアレシ)氏に講演をいただき、それに続いて質疑応答という形式で進められ
ました。各界から約 2 0 0 名の方のご出席をいただき、2 0 1 4 年後半からの原油価格下落の主な要因となっ
た米国、ロシア、中東の動向を中心に行われた講演は活況を呈しました。
出所:JOGMEC 撮影
出所:JOGMEC 撮影
会場入り口にて(左から Bassam Fattouh
写1 氏、Lucian Pugliaresi 氏、Vladimir
Konovalov 氏)
出所:JOGMEC 撮影
講演前の歓談(左から Bassam Fattouh 氏、
写2 V l a d i m i r K o n o v a l o v 氏 、 L u c i a n
Pugliaresi 氏)
出所:JOGMEC 撮影
写3 会場の風景
写4 会場の風景
57 石油・天然ガスレビュー
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アナリシス
1. Fattouh 氏講演
「不確実な時代における中東の石油情勢」
(1)
中東と現在の石油市場の情勢
しかし、その後、主にリビアを原因として原油供給途絶
この数年間で、世界の経済成長は鈍化した。新興およ
量は増加した。
び開発途上のアジア諸国においても経済成長の鈍化は見
非 OPEC の原油供給量の伸びは非常に強力で、特に米
られ、それが石油関連のデータにも反映されている。
国のシェールオイルの生産量は急激に増加した。米国の
2 0 1 4 年の世界の石油需要の伸びは、1 1 0 万 b/d ~ 1 2 0
原油生産量の伸びは、2 0 1 3 年は前年に比べて 1 0 0 万 b/d
万 b/d 程度であると予想されていたが、8 0 万 b/d ~ 9 0
弱、
2014年は150万b/d程度と非常に大きいものとなった。
万 b/d に下方修正された。2 0 1 5 年も、石油需要は前年
このように石油需給の展望が大きく変わり、若干の供
に比べ 8 0 万 b/d 程度の増加にとどまると予測されてい
給途絶量の減少があったりする状況であるが、大切なこ
る。ただし、原油価格が低いことで、若干反転する可能
とは OPEC の生産量が 3,0 0 0 万 b/d と非常に高いレベル
性はある
(図 1)
。
を保っていることだ。サウジアラビアが生産水準を 9 6 0
石油需要が下方修正される一方で、例えば 2 0 1 4 年 5
万 b/d 程度で維持していることがその要因だ。
~ 1 0 月には 1 0 0 万 b/d ほど原油供給途絶量が減少した。
こうしたさまざまな要因により、現在マーケットに流
入する石油の量が 1 0 0 万 b/d ~ 1 5 0 万 b/d 程度増加して
いる。2 0 1 4 年には既にかなり在庫の積み増しが行われ
ていたが、原油価格に先高感があるために、2 0 1 5 年上
半期も引き続き在庫積み増しが行われると考えられた。
最近、若干油価が戻り、ブレント価格はバレルあたり
5 0 ドル~ 6 0 ドルで推移している。この油価の反騰は、
原油価格の下落に過剰反応が起こったもので、さまざま
な技術的、根本的な要素によって説明することができる。
まず、油価が下落しているので、アジアだけでなくヨー
ロッパ等多くの地域で需要が反転してきていることが理
由の一つとして挙げられる。
また、米国のリグ稼働数が急減しており、長期的には
出所:JOGMEC 撮影
供給に影響を与えるのではないかというマーケットの期
写5 Bassam Fattouh 氏
待を受けて、スポット価格に影響が生じている。
もう一つ重要な要素は、多くの企業、特にアメリカで
4
シェール開発を行っている企業が設備投資、CAPEX
百万b/d
(Capital Expenditure:資本支出)を 3 5 %程度削減したこ
とだ。このように、CAPEX が削減されることで、2 0 1 5
3
年には影響はないかもしれないが、少なくとも2 0 1 6 年以
2
降はこれが供給の伸びに影響を与えるだろうという見方
1
をする向きがある。そのため、油価が上昇した。
0
もちろん、この見方にはリスクがある。現在、原油在
庫が多く積み上がっていると述べたが、ここ数カ月で積
-1
み増しが非常に多かったこと、米国の製油所の定期修理
が春先にかけてピークを付け、そのため製油所で必要と
出所:World Bank、IMF
図1 世界の石油需要の前年比変化
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
OECD
2007
2005
2004
2003
2002
Non-OECD
2001
-3
2006
-2
年
される原油が減少することで、需要が鈍化し、価格に影
響を与える可能性があると考えている。米国の原油の積
み増し能力は非常に高く、安いコストで積み増すことが
できたため、石油在庫の積み増しは、劇的に増加し、非
常に高い水準になっている。
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-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
(2)
サウジアラビアの対応と OPEC の結束
万 b/d 程度まで減少しているからだ。
サウジアラビアはなぜ石油生産量を調整せずに、高い
このような輸出入パターンの変化により、さまざまな
水準で生産を維持する政策を採っているのか。重要なこ
原油がアジアに入ってくるようになった。伝統的に米国
とは、サウジアラビアのこのような対応は予想外だった
市場に輸出されていた西アフリカ原油が今はアジアに向
のかという点だが、私はそうは思わない。
かっている。これは、アジア市場が現在成長している唯
油価が急落する前に、サウジアラビアは、われわれだ
一のマーケットだからだ。このような動向は、西アフリ
けが生産を削減することはない、OPEC の生産枠には満
カ原油に特有のものではない。中南米、ロシア、旧ソ連
足していないとの明らかなサインを送っていた。同国の
邦の国々も、アジア向けの原油輸出を加速させている。
高官は、「われわれ、サウジアラビアは教訓を得た。生
その結果、中東の産油国の間でアジア市場をめぐって
産枠を順守しようとすると、その影響を最も受けるのは
競争が激化している。サウジアラビア、イラン、イラク、
われわれである。われわれはもはやスイングプロデュー
クウェート、UAE がアジア市場をめぐって争っている。
サーの役割を果たさない」と発言した。今後はサウジア
特に中国市場をめぐる争いは激しい。中東産油国は、公
ラビアだけが減産することはなく、そのため同国が市場
的な販売価格ではなく、ディスカウント原油を提供する
を調整することは難しくなる。サウジアラビアの対応を
ことで、アジアに売り込みを図り、マーケットシェアを
当たり前のものとして受け入れるべきではない、同国が
維持しようとしている。
状況に対応して減産すると考えるべきではないとの
このような競争は原油についてだけではなく、石油製
Robert Mabro 氏(オックスフォード・エネルギー研究所
品についても起こっている。例えば米国は、シェール革
元所長)
の考え方が非常に役に立つ。
命の結果、ディーゼルの主要な輸出国になった。この数
では、サウジアラビアはなぜあのような反応をしたの
年間で、米国のディーゼル輸出量は 3 0 万 b/d から 1 3 0
だろうか。
この低油価は好ましいのだろうか。答えはノー
万 b/d 程度まで増加した。米国は LPG、プロパンについ
だ。サウジアラビアも石油収入に対する依存度が高く、
ても輸出国となった。アジアの消費国はアメリカの LPG
経常支出、資本支出は増え続けている。政府の支出が増
やプロパンを利用できるようになった。
加する状況に直面しているなかで、同国がこのような政
中東諸国の多く、特にサウジアラビアと UAE は精製
策を採っているのは、マスコミで議論されているような
部門に多額の投資を行っている。そのため、アジア消費
地政学的な目的で、ロシアやイランに打撃を与えるため
国のこのような動向は中東諸国にとっても非常に重要で
というだけではないと考える。同国の政策は商業的な要
ある。特に中間留分とディーゼルを中心に生産しようと
因によって動かされており、
政治的な配慮はしていない。
しており、それが中東からの石油製品の輸出増大という
同時に、私は、サウジアラビアが米国のシェールオイル
形になって現れている。したがって、原油だけではなく、
の生産者を市場から追い出すためにやっているわけでも
石油製品をめぐる競争にもなってきている。
ないと考えている。もっと広い視野に立って採られてい
現在、サウジアラビアは市場の実勢に任せて、過剰供
る政策であると考える。
給をなくそうと、少し静観するアプローチをとっている。
Naimi 石油大臣は 2 0 1 4 年 1 2 月のインタビューで、
「石
1 0 0 万 b/d ~ 1 5 0 万 b/d の余剰があるが、価格メカニズ
油省が現在抱えている問題は、サウジアラビアが減産を
ムに対応させることで、どのくらいの規模で、どのよう
すれば、わが国のマーケットシェアはどうなるかという
なタイミングで、影響が出るのかは、はっきりしていな
ことだ。油価が上昇してロシア、
ブラジル、米国のシェー
い。サウジアラビアがスイングプロデューサーの役割を
ルの生産者がわれわれのシェアを奪ってしまう」と語っ
果たさないので、フィードバックのメカニズムも失われ
た。
サウジアラビアは、
競争が激化している環境でのマー
てしまい、市場の実勢だけに任されているため、市場で
ケットシェアに関心があるのだ。
はボラティリティが非常に高まっている(図 2)。
米国で起きたシェール革命によって、これまで米国の
長期的には、石油産業におけるリスクプレミアムが高
市場に原油を輸出していたいくつかの国がもはや米国へ
まり、それが投資の意思決定に影響を与えることになる。
原油を輸出できなくなってしまった。例えばナイジェリ
油価がバレルあたり 4 0 ドル~ 5 0 ドルになる確率は非常
アは、1 2 0 万 b/d 程度の原油を米国に輸出していたが、
に低いと考える。底値があることが明らかであれば、長
現在、米国向け輸出量はゼロになっている。同じことが
期プロジェクトに対する投資の意思決定が容易に行え
サウジアラビアについても言える。以前は原油 1 2 0 万
る。しかし、ボラティリティが高まっているのでそれが
b/d を米国に輸出していたが、現在では対米輸出量は 8 0
難しくなる。
59 石油・天然ガスレビュー
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問題は、このような低油価に対してサウジアラビアを
ます減少することが予想される。
はじめとする湾岸諸国がどのくらいの抵抗力を持ってい
紛争地であるイラク北部の生産量はごく僅かとなって
るかということだ。サウジアラビアの場合、政府債務は
いる。状況は若干改善したが、問題は持続している。南
GDP 比 1 0 %未満と極めて低い。また、対外債務もない。
部では北部よりは状況がよく、輸出も少しずつ増えてい
一方で、7,0 0 0 億ドル程度の資産を保有しているので、
かなりの耐久力があるということができる(図 3)
。
しかし、今後数年間、GCC(湾岸協力会議)諸国は財
年率%
政赤字を抱えることになると考えられる。それに対応す
るために借り入れを増やしたり、資産を活用したりする
ことになるが、財政赤字のような構造的な課題は残るこ
とになる。
(3)GCC 以外の中東諸国の状況
湾岸の外に目を向け、より広い意味での中東を展望し
てみたい。
中東の社会状況は毎年ひどくなっていくので、
これ以上悪化することはあり得るのかと尋ねられるが、
年
出所:EIA
図2 原油価格のボラティリティ(過去 30 日間)
答えはイエスだ。さらに悪化する可能性は大いにある。
地政学的なリスクの性質が大きく変わってきているから
だ。日本にとっては、これまで常に、ホルムズ海峡など
十億ドル
の通商ルートや石油が日本まで届くかという点が懸念事
項だったかと思うが、問題はもはやそれだけではない。
中東の多くの国において、いわゆる国家そのものや、そ
の正式な国家の機関、議会、軍、司法制度あるいはシー
クレットサービスに至るものまでが弱体化し、崩壊しつ
つあるからだ。また、例えば、エジプト、イエメン、イ
ラク、リビアなど一部の国の暫定政権の正当性にも問題
がある。
その空白を埋めようとしているのが、いわゆる非国家
的アクターと呼ばれる集団、
例えばレバノンのヒズボラ、
イエメンのフーシ派、イラク・シリアにおけるイスラム
出所:EIA
図3 サウジアラビアの予算とソブリンウェルスファンド
国、リビアの
「夜明け」
といった集団だ。これらの集団は
その存在の緊要度を増している。これらの集団は国家の
100
中に自称国家というものを確立しようとしている。そし
90
て、公式の国家を弱体化させようとしている。地域の勢
80
力とも強いリンクを持っているし、また、境界の外にお
いても戦争に参加するといった力を持っている。
このような事態が、地政学的なリスクを大きく変貌さ
せ、石油市場にインパクトを与えている。実際、約 4 0 万
百万bbl
十億ドル
9
8
7
70
6
60
5
50
4
40
30
3
生産量
歳入
b/d であったシリアの原油生産量はほぼゼロになってい
20
る。イエメンも 4 0 万 b/d 程度を生産していたが、現在で
10
1
は約 1 5 万 b/d を生産しているのみで、国内の状況がさら
0
0
2
に混沌とすれば、生産量はもっと減少すると考えられる。
大産油国の一つ、リビアの生産量も非常に大きく変動
している。ターミナルの閉鎖や、イスラム国がリビアに
拠点を確立するというようなことになると、生産がます
出所:イラク石油省
図4 イラクの月別石油生産量と歳入(2014 ~ 2015 年)
2015.5 Vol.49 No.3 60
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-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
るが、
パイプラインや貯蔵、
水等インフラストラクチャー
百万b/d
に難題を抱えている。そのため、イラクの輸出量は急速
には増えないだろう。
イラクは輸出量を増やしてきたが、
油価が下落しているので、実際の石油収入は減少してい
る。石油収入は減っているのに、治安が悪化しているた
め、治安対策費は増加しており、イラク政府にとって大
きな問題となっている
(図 4)
。
クルドは自治地域として運営されている。2016年には、
クルドの生産量は 3 0 万 b/d 程度増加すると考えている。
しかし、クルド政府にも中央政府との争いという問題が
あり、どちらが生産・輸出を支配すべきかという争いが
続いている。クルド政府が生産を増やすことができたと
しても、生産された石油が輸出市場まで到達しない可能
2012
2014
2016
2018
2020 年
出所:EIA
図5 イラクの石油生産見通し
性もある。
このような変化によって、長期的にはどのようなイン
プリケーションを持てるのだろうか。まず、治安が悪化
450
しており、
リスクとコストが上昇していることが大きい。
400
政府は大規模なインフラストラクチャーのプロジェクト
350
を遂行する能力を失っている。制度や機関は弱体化して
300
実性によって投資が遅れる可能性があると見る。
中東では、石油需要が生産を上回るペースで増加して
いる。これは石油だけではなく、ガスについても言える
2010
2012
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
0
1998
て不確実性が残る限り、サウジアラビアが大規模な投資
1980
200
1996
400
関しては、ポテンシャルは大きい。しかし、需要に関し
をするとは考えにくい。同国においても、需要側の不確
2008
600
1994
あるが、まだ限定的である。イラク、サウジアラビアに
800
1992
見る。イランについては増産のポテンシャルはある程度
Consumption
1,000
1990
UAE、リビアに関しては増産のポテンシャルは低いと
Production
1,200
1988
とは考えられない。イラン、カタール、アルジェリア、
1,400
1984
ないだろう。つまり、中東からの供給が大きく増えるこ
1,600
1982
以上の分析から、これから先を楽観視することはでき
2006
図6 (1980 年を 100 とする)
た地域ベースの勢力とどう交渉していけばいいのかが分
(4)
中東の長期的な投資および供給の展望
年
中東の石油生産量と消費量の推移(指数)
ベルの勢力が台頭してくる。国外の投資家にはこういっ
かりにくく、複雑さが増している。
2004
出所:BP 統計
2002
も同様だ。中央政府の力が弱体化すると、新たな地域レ
2000
誰がアクセスできるのかという問題がある。イエメンで
1998
0
1996
他に、他の地域での問題もある。リビアでは石油収入に
1994
50
1992
もある。イラクでは中央政府対クルド政府という問題の
1990
100
1980
国内においていかに石油収入を分配するのかという問題
1988
150
1986
~ 6 0 0 万 b/d くらいになればいいと考えている(図 5)
。
200
1986
すると考えられていたが、実際には生産量が 5 5 0 万 b/d
Consumption
250
1984
イラクは 2 0 2 0 年までに約 1,0 0 0 万 b/d 程度まで増産
1982
いて、官僚にも問題がある。
Production
年
出所:BP 統計
中東のガス生産量と消費量の推移(指数)
図7 (1980 年を 100 とする)
61 石油・天然ガスレビュー
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ことだ。生産されるガスがほとんど域内で消費されてい
わってくるだろう。2 0 1 5 年後半以降、需給が価格に対
るため、一部の国の輸出能力に影響が出ている。GDP
応し始め、それによって油価がもう少し高い価格帯で安
単位あたりのエネルギー消費量は、他の地域では減少を
定するのではないか。
続けているのに、
中東地域においては増加し続けている。
最 近 の OPEC の 決 定 に よ っ て 市 場 は 非 常 に 重 要 な
GDP 単位あたりのエネルギー消費量を増加させるには、
フィードバック機能を失い、それによってボラティリ
より多くのエネルギーを消費しなければならないが、そ
ティが高まっている。そのため、エネルギー関連のプロ
の背景として言えるのは、中東ではエネルギー価格が非
ジェクトへの投資に関するリスクが増大している。
常に安いことが挙げられる
(図 6、図 7)
。
低油価の環境に対して、GCC 諸国はある程度の対応
力はあるものの、構造的な問題が残っている。つまり、
(5)
結論
多くの中東諸国が政情不安、政情悪化という状況下にあ
多くの不確実性はあるが、需給が低油価の環境に対し
り、これは短期的には生産に、長期的には投資や供給の
て調整を始めることで、石油市場のバランスは大きく変
ポテンシャルに大きな影響を及ぼすことになるだろう。
2. Konovalov氏講演
「ロシアの石油・天然ガス開発・輸出における対東アジア戦略」
(1)油価の低迷と制裁が石油・ガスセクターにどのよう
な影響を与えているか
通貨ルーブルの価値を維持するという非常に興味深い政
策を採った。外国資産や外貨準備を使って国民への打撃
原油価格はロシアにとって重要である。ロシア連邦政
を少なくしようとしたのだ。資本の流出は相当大規模な
府予算の約 5 0 %は石油・ガス収入によるものであり、
ものであったが、油価が急速に回復したため対応可能な
経済に占める石油・ガス産業の割合も非常に大きい。そ
ものであった。
して、同時に、石油・ガスは地政学的な外交政策の手段
ところが、2 0 1 4 年、2 0 1 5 年の石油価格ショックに際
としても重要である。
して、政策決定者は全く違う選択をし、ルーブルの価値
近年、2 度にわたり石油価格ショックが起きた。最初
の切り下げを容認した。これは IMF の提言に基づくも
の石油価格ショックは、2 0 0 8 年、2 0 0 9 年のものである。
のだ。資本流出が極めて大規模であるため、GDP は少
それ以前は油価が上昇していた。
なくとも 3 ~ 5 %程度、あるいはもっと減少するかもし
ロシアでは 2 0 0 0 年にプーチン氏が大統領に就任した
れない。これは主に金融上の対露制裁の結果で、2 0 1 4
が、当時は資源ナショナリズムの高まりが見られ、ロシ
年にも 2 0 1 5 年にもかなりの資本流出が起こり、それが
アは外資に対してエネルギーセクターを閉鎖し、外国投
資家にとっては厳しい情勢となった。
石油価格ショックの後、ロシアはエネルギーセクター
の開放政策に転じ、合弁を歓迎、さまざまな形での興味
深いディール(deal)がまとまった。そのうちの多くは、
北極海の大水深海域、いわゆる大陸棚と、シェールを対
象としたものだった。ロシア政府は、西シベリアの生産
量減退懸念から、これらの開発を進めたいと考え、外資
を積極的に誘致しようとしたのだ。ところが、ウクライ
ナ問題によって対露制裁が発動され、不幸にも、2 0 0 8
年以降に合意されたこれらのプロジェクトのほとんどが
制裁の対象になってしまった。
外資とのプロジェクトは、
大きな進展が見られたにもかかわらず、制裁によって打
撃を受けてしまったのだ。
2 0 0 9 年の石油価格ショックに際して、ロシア政府は
出所:JOGMEC 撮影
写6 Vladimir Konovalov 氏
2015.5 Vol.49 No.3 62
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-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
表
ロシアの企業別の石油生産量
千 b/d
Russian oil output, kbpd
13-Dec
14-Dec
2013
2014
change
y-o-y, %
Rosneft
3,900
3,817
3,861
3,833
-28
-0.7
Lukoil
1,739
1,742
1,723
1,738
15
0.9
Surgutneftegaz
1,236
1,237
1,234
1,233
-1
0
Gazpom Neft
662
669
646
668
22
3.4
Tatneft
531
532
531
533
2
0.4
Bashneft
333
378
323
357
34
10.7
Gazprom
353
350
328
325
-3
-0.8
Slavneft
326
322
337
325
-12
-3.7
All other
Russia – total
1,553
1,621
1,526
1,565
39
2.5
10,632
10,667
10,509
10,578
69
0.7
出所:ロシアエネルギー省
今後のロシアの GDP の成長率に大きく影を落とすこと
Rosneft は、短期の借り入れを返済している。少なくとも
になると考える。制裁のリスクとウクライナをめぐる政
2 0 1 5 年は債務の返済に問題はないだろう。しかし、その
治的な不確実要因があることで格付け機関 Moody's、
他のロシア企業のなかには債務返済に問題が生じる企業
Standard & Poor's ともに、ロシア政府やルーブルの格
もあると思われる。そのような場合には、国家の保有す
付けを下げている。
る準備資産から借り入れることも必要になるのではない
ロシア政府は、石油価格ができればバレルあたり 6 0
だろうか。短期的には、これらロシアの企業は油価の下
ドル~ 7 0 ドル程度で安定してほしいと考えている。背
落に耐えることはできると考えられている。少なくとも
景には、その価格をベンチマークとして使って政策決定
2 0 1 5 年は、ロシアの石油生産はそれほど大きな影響は受
を誘導したいという考えがある。しかし、業界のトップ
けないだろう。西シベリアの油・ガス田は減退を始めて
はもっと悲観的な考え方をしており、油価はバレルあた
いるが、Bashneft はトレブスやチトフ等新たな油田を開
り 5 0 ドル~ 6 0 ドルくらいで推移すると見ている。どち
発しようとしており、増産が可能で、Rosneft の生産量減
らの数字が正しいかは別として、ロシア経済は 2 0 1 5 年、
少分を補うことができる。短期的には債務はそれほど大
2 0 1 6 年に向けてかなり厳しい時期を迎えることになる
きな問題ではなく、生産は維持されると考える
(表)
。
と 考 え る。Moody's も、2 0 1 6 年 に は リ セ ッ シ ョ ン
制裁がどれくらい続くかということも大きな問題だ。
(recession)
が起こるのではないかと見ている。
制裁が 3 ~ 4 年続けば、ロシアの石油生産量は 5 %~
石油価格ショックと制裁は、ロシアの石油産業が直面
2 5 %程度減少する可能性がある。ドヴォルコビッチ副
している問題の一つに過ぎない。
首相は、生産量の減少は 1 0 %程度であろうとしており、
ロシアの石油産業は長期的で構造的な問題、すなわち
これはさまざまな機関の見通しと一致している。
しかし、
西シベリアの石油生産量の減退という問題を抱えてい
L u k o i l や C E R A(C a m b r i d g e E n e r g y R e s e a r c h
る。ロシアは、より条件が厳しく、より複雑な油・ガス
Associates)は 2 5 %程度の減産となるのではないかと、
田、例えば北極海やシェールオイルなどの開発に手を付
より悲観的な見方をしている。
けなければならない。
政府の予算の 5 0 %が石油・ガス収入に依存しているの
一方、ロシアのエネルギーセクターは、多くの産油国
に、その収入が減少するのだから、石油生産量の減少は、
同様、資本支出を約 2 5 ~ 3 0 %削減しようとしている。
非常に大きなマイナス要因としてロシア経済に利いてく
ロシアの石油企業は、持てる資金を既存の油田・ガス田
るだろう。一方で、軍事支出は増やさなければならず、
に集中的に投資をして、あまり手間をかけずに生産をし
そこで社会保障等の支出を削減せざるを得なくなるだろ
たいと考えている。ロシアの成熟した油・ガス田からの
う。ロシアは短期的にはなんとか乗り切ることができて
回 収 率 は 2 5 ~ 3 0 % と な っ て い る。 米 国 の 回 収 率 は
も、中期的にはかなり大きな疑問符が付くことになる。
4 0 %あるいはそれ以上なので、これに比べるとロシア
図 8 はロシア天然資源・環境省(MNRE:Ministry of
の回収率は低く、より効率的な生産を行う余地がある。
Natural Resources and Environment)が制裁前に発表し
このような石油価格ショックや制裁にもかかわらず、
たグラフである。一番下のブルーの部分が西シベリアの
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600
2 0 1 2 年には 2 0 %だったが、2 0 1 4 年には 3 0 %まで増加
百万トン
し て いる。これ は 東 シ ベリア-太 平 洋 パ イプ ライン
500
(ESPO:Eastern Siberia -Pacific Ocean oil pipeline)に
よるところが大きい。ESPO パイプラインは、中国が石
400
油供給を受けることと引き換えに資金を提供して完成し
300
た。同パイプラインの送油能力は年間 5,8 0 0 万トンから
Onshore exploration
Supplementary exploration of fields
Shelf
Shale
New fields
Mature fields
200
100
0
2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 年
出所:天然資源環境省
図8 ロシアの石油生産見通し
8,0 0 0 万トンに拡張される計画で、さらにアジア向けの輸
出が増えることになる。日本は Kozmino 港からかなり多
くの石油を輸入しているし、中国や韓国も同様だ。中国
企業はパイプラインに対して資金を提供しただけでなく、
積極的にロシアの上流事業にも参画している。プーチン
大統領は、昨年の訪中時に、
「中国の友人に対しては全く
制限を設けない」と語った。石油部門ではこのような関係
の深化が人々が予想するよりも早く実現している。
ロシアの石油生産には、アジアの参画、関与が必要だ。
成熟油・ガス田の生産量を示しており、西シベリアの成
例えば、Vankor 油田の開発には、1,0 0 0 億ドルの投資が
熟油・ガス田の生産量は 2 0 1 6 年頃から減退が始まると
必要だが、現在までに 2 0 0 億ドルしか投資されていない。
されている。一方で、
シェールオイルや北極海の大陸棚、
同油田は 2 0 2 5 年までに生産量が 2,5 0 0 万トンから 5,3 0 0
陸上で探鉱が行われることで、ロシアは石油生産量を
万トンに倍増する可能性があるが、Rosneft はこの制裁
2 0 3 0 年代の中頃までコンスタントに維持できるとされ
下において追加的な資金を確保しなくてはならない。そ
ている。しかし、制裁によって、シェールオイルと北極
こで、中国やインドの企業に対して出資を募っている。
海の大陸棚の生産が期待できなくなった。米国と EU
このように上流部門への参入機会をアジアの企業に提供
(European Union:欧州連合)はまさにこのシェールオ
することが、政府としての政策、そして企業としての方
イルと北極海の大陸棚をターゲットに制裁を行ってい
針になりつつある。
る。生産量に対する制裁の影響は、
2020年代の半ば以降、
制裁によって、アジアのサービス企業や機器の提供企
非常に大きなものとなるだろう。
業にも新たな機会が生まれている。制裁が行われたこと
で、ロシアが輸入技術に依存していることが明らかに
(2)アジアの重要性
なった。機器の多くは制裁を科している国々から調達し
ロシアはアジアへのシフトを強化する政策を採ってい
てきた。最先端の水平掘削や水圧破砕の機器やメンテナ
る。私は、ロシアがもう少し早い時期からアジアへのシ
ンスは欧米の企業が握っている。制裁下のロシアは、制
フトを始めるべきだったと考えている。
裁に参加していない国々から機器やサービスを調達しな
アジアへのシフトに関しては、いくつかのいわゆる外
ければならない。輸入していた機器を代替するためには
生的要因がある。一つは、ロシアがようやくアジア市場
少なくとも 5 年間かかるという。ルーブルの切り下げに
の成長という機会に気づき始めたことだ。そして、アジ
よって国内のコストは下がっているが、機器やサービス
アもエネルギー供給元を多様化し、LNG のプレミアム
に関するロシア独自の企業を設立することは資金の問題
価格を引き下げたいと望んでいる。さらにロシアとして
もあり、困難である。また、老朽化したリグが多いとい
は東シベリアや極東といった比較的未開発で人口の少な
う問題もある。リグの半数以上は稼働開始から 2 0 年以
い地域を開発する必要もある。
上を経過しており、交換する必要がある。
これに対して自発的要因としては、ウクライナ問題に
アジア向けのガス輸出は進展しているが、主にサハリ
よって欧米から制裁を受けていること、ヨーロッパは経
ン -2 のプロジェクトからのもので、ロシアのガス輸出に
済成長が鈍化し、ロシアへの依存度を引き下げたいと考
占めるアジアのシェアはわずか 8 %に過ぎない。「シベ
えていることが挙げられる。
リアの力」
(東シベリアから中国東北 3 省に天然ガスを
石油部門に関しては、アジアへのシフトは、多くのア
輸送するパイプライン)と「アルタイ」(西シベリアから
ナリストが考えていたよりも早く進み、既に実現してい
新疆ウイグル向けに天然ガスを輸送するパイプライン)
る。ロシアの石油輸出に占めるアジア向けの割合は、
という新しいパイプラインが予定どおり建設されると、
しん きょう
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JOGMEC国際セミナー
-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
アジアのシェアは大きく増えることになる。東シベリア
(3)結論
の新たなガス田からのガス供給も可能になる。
ロシアの石油・ガス部門は低油価と制裁によって大き
ただ、計画どおりに中国あるいはアジア向けのガス供
な打撃を受けている。ルーブルの切り下げは正しい政策
給が実施できるのかという点については、大きな不確実
であったと思われる。財政面にはプラスに働いたし、国
性 が あ る。 例 え ば Chayanda ガ ス 田 に つ い て は、
際的なコストと比較して国内のコストが低く維持される
Gazprom が 2 0 2 0 年までに 4 5 億㎥ / 年を生産できれば
というメリットがあった。債務に関しても現在までは返
非常に運のよいことで、生産量が 3 0 0 億㎥ / 年に到達す
済ができている。しかし、2 0 1 5 年以降、Rosneft は債務
るのは2020年代の後半になるだろうと言われている。
「金
の返済が厳しくなるだろう。
のなる木」であったヨーロッパの伝統的な市場へのガス
市場の変化、政治的な変化によって、ロシアはアジア
供給が減少し、2 0 1 5 年下期には輸出額が 3 0 %減少する
へのシフトをこれからも進めていくだろう。石油に関して
と見込まれているため、Gazprom は財政的に大変厳し
は、シフトは既に起きており、ガスに関してもこれから起
い状況に置かれている。中国のパートナーが「シベリア
きると考えるが、石油より多くの時間を要するだろう。ア
の 力 」 パ イ プ ラ イ ン 向 け の 資 金 拠 出 を 断 っ た の で、
ジア企業にとって上流部門への投資や機器の製造という
Gazprom は他の資金提供者を見つけなければならない。
面で参入機会は増えるだろう。中期的な見通しは、油価
非常にリスクの高い大規模で複雑なプロジェクトに対し
に大きく左右されるし、また、制裁がどのくらい持続する
ての資金調達なので、計画どおりに目標を達成するのは
かにもより、
不確実性が高い。油価はある程度反発したが、
かなり困難と考えられる。いずれにしても、ロシアには
今後どの程度上がるのか分からない。制裁が長く続くこ
アジアに対してより多くのガスを輸出したいとの意欲は
とになると、ロシアの石油生産量は 5 ~ 2 5 %くらい減る
あるが、現在は非常に厳しい時期で、ガスに関しては石
可能性がある。いずれにしてもアジアへのシフトは、ロ
油ほど進展がないと考える。
シアの将来のエネルギー開発にとって重要な意味を持つ。
3. Pugliaresi氏講演
「米国の非在来型石油・天然ガス開発・輸出の今後の見込み」
(1)
米国の非在来型石油・天然ガスの生産状況
動への意欲は北米ではほとんど変わりがないと言うこと
3 カ月ごとに米国での探鉱・開発の許認可の状況を調
ができる。
べているが、
油価が大きく下落しているにもかかわらず、
米国とカナダの原油と NGL(Natural Gas Liquid)の生
その状況はほとんど変わっていない。油価下落下でも活
産量は、非常に大きな伸びを示している。過去 5 年間を
見ると、世界の石油供給の伸びの 8 0 %は北米、主に米
国での生産増による(図 9)
。
シェール革命と言われるようになってからあまり時間
はたっていないが、それにもかかわらず驚くべき実績が
上がっている。非在来型の掘削や生産のパフォーマンス
は、2 0 1 1 年から 2 0 1 4 年の 3 年間で大きく改善した。掘
削に必要な日数は、2 2.3 日から 8.9 日に減少、1 年間にリ
グ 1 基で掘削される井戸の数は 1 6 坑から 4 1 坑に増加、
3 0 日間の初期生産量の平均は 5 3 3b/d から 7 6 7b/d へと
増加した。リグ 1 基あたりの 1 年間の初期生産量は、約
9,0 0 0b/d から約 3 万 1,0 0 0b/d に 2 3 9 %増加した。北米
のシェール革命は終わったとか、シェール生産は悲劇的
出所:JOGMEC 撮影
写7 Lucian Pugliaresi 氏
なブレークイーブンコストの問題に直面しているといっ
た議論があるが、シェールオイル、シェールガスの生産
は非常に新しいもので、技術の発展も非常に速い。
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米国のシェールオイルの生産は地質だけによって決ま
れない、ガスの生産を続けるのは難しいかもしれないと
るわけでも、油価だけによって決まるわけでもない。主
言われていた。しかし、実際には、リグの数は変わって
にどれだけのペースで技術の改善が行われるかによって
いないのに、米国のガス生産量は増加している。図 1 0
決まる。Bakken、Eagle Ford、Permian の 3 シェールが
は Bakken シェールの平均的なパフォーマンスを示した
最高の生産量を有しているが、注目してほしいのはこれ
グラフだ。Bakken においては 2 0 1 2 年からリグの数は
らのシェールでは数年前まではガスの生産が中心だった
横ばいだが、リグあたりの生産量は増え続けていること
ことだ。そして、米国では水圧破砕は中止されるかもし
が分かる。
(2)米国からの原油輸出
16,000
米国は決して原油の輸出をしていないというわけでは
百万b/d
US
14,000
ない。カナダ向けの輸出ライセンスは日常的に与えられ
Canada
12,000
ている。カナダ向けの原油輸出はメキシコ湾岸地域から
10,000
も行われており、輸出量は40万b/d以上に増大している。
8,000
6,000
その結果、アフリカ、特にナイジェリア産の原油が北米
4,000
に輸入されなくなってしまった。
2,000
米国は、非常に大量の原油の輸出入を行っており、付
0
年
9 0 992 994 99 6 998 0 0 0 0 02 0 04 0 0 6 0 08 010 012 014
2
2
2
1
1
1
1
19
2
2
2
2
2
出所:Canadian Association of Petroleum Producers、EIA
加価値の高い精製も盛んだ。米国からの石油製品の輸出
も非常に増えてきていて、2 5 0 万 b/d 程度となっている。
原油と石油製品のネットの輸入量は、2 0 0 4 年から 2 0 0 7
図9 米国とカナダの原油・NGL の生産量
年には 1,2 0 0 万 b/d 程度だったが、 現在は約 4 0 0 万 b/d に
下がっている。そして、4 0 0 万 b/d のネットの輸入量のう
ち、2 0 0 万 b/d はカナダからの輸入だ。海洋を経由した
米国の石油輸入量は、劇的に低下し続けている
(図11)
。
2 0 1 1 年第 3 四半期にはリビア、スーダンの生産減、
そしてイラン制裁の影響で石油供給の途絶が起こった。
それに対して米国は生産量を増加させた。ロシアの分析
センターのメトローバ氏は、北米の石油生産量が増加し
なかったならば、これらの供給途絶によって油価はバレ
ルあたり 1 4 0 ドルくらいまで上がっていたかもしれない
年
出所:EIA
と語っている。北米は過去 5 年間において非常に大きな
貢献を果たし、原油市場を安定化させるという大きな役
図10 Bakken シェールにおけるリグの生産性
割を果たした。
現在、原油価格が非常に下がっているが、この水準は
悪い価格ではないと思う。油価がバレルあたり 5 0 ドル
16,000
以下になると、恐らく、2 0 1 5 年には約 1 兆 5,0 0 0 億ドル
千b/d
が産油国から消費国へ移転することになる。
日本や米国、
14,000
12,000
ラテンアメリカ、インド、中国の立場からすると、これ
10,000
は非常に大きな利益だ。
8,000
6,000
(3)資本支出の削減と技術の進展
4,000
アメリカの上流部門の資本支出は 2 0 1 4 年には約 1,5 7 0
2,000
0
2004
1月
2005
1月
2006
1月
2007
1月
2008
1月
2009
1月
2010
1月
2011
1月
2012
1月
20113
1月
出所:EIA
図11 米国の原油と石油製品の輸出入量推移
2014 年
1月
億ドルだったが、2 0 1 5 年以降、約 9 5 0 億ドルと 1/3 に
減少すると見ている。低油価が長引けば状況はもっと悪
くなると思う。世界の国々、会社における資本支出は、
既に 2 0 0 億ドル以上削減されており、削減額は急増して
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-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
いる。中国の CNOOC(中国海洋石油総公司)も設備投資
的な伸びを示していると言える。
を 3 5 %削減した。
ノースダコタ州やカナダといった北部の生産地域は、
リグの数は劇的に減少しており、2 0 1 4 年 1 2 月 5 日か
主要な精製処理センターから距離的に離れた場所にあ
ら 2 0 1 5 年 2 月 6 日までに 4 6 4 基ものリグが減少した。リ
る。ノースダコタ州、ワイオミング州、コロラド州、カ
グの減少はノースダコタ州で 1 3 2 基、コロラド州で 5 5 基、
ナダの生産量が増えると、沿岸地域の製油所にこれを輸
ワイオミング州で 4 2 基となっている
(図12、図13)
。
送しなければならないが、パイプラインの建設が遅れて
シェール生産の仕組みは、まず穴を水平に掘ってケー
いるため、米国とカナダは合計で約 1 5 0 万 b/d の原油と
シングを入れ、水圧破砕をかけて完成となるが、完成待
石油製品を鉄道で輸送している。これはあまり効率的で
ちの井戸の数が増えている。ノースダコタ州だけでも4 0 0
はなく、われわれは旧ソ連型解決策と呼んでいる。
坑から6 0 0 坑に増えた。生産者には生産増の余地があり、
米国は疑いもなく、非在来型の石油・ガス生産におい
水圧破砕を素早く行えれば生産量を増やすことができる。
て、技術と経験の面で世界をリードしている。2 0 1 4 年
生産者はより柔軟性を高めたいと考えているようだ。
には、米国では世界で最も多く 1 万 5,0 0 0 坑ほどの非在
主要な地域の生産量を見ると、特に Eagle Ford では
来型の坑井が掘削された。しかし、シェールの資源の質
2 0 1 1 年 1 月にはほとんど生産がなかったが、生産量は
ということを考えると米国がベストではない。アルゼン
1 4 0 万 b/d 以上まで増加している。非常に顕著な、驚異
チンやロシア等のほうが地質的には米国よりも優れてい
る。ただ、米国は探鉱・開発の権利を得やすく、技術が
素早く共有され、業界の規模も非常に大きいので、地質
2,500
基
的に劣っていても十分対抗できる。
もう一つ、この低油価の状況下で気に留めておくべき
Oil
Gas
Total
2,000
重要なことは、在来型の回収率は50%であるのに対して、
非在来型の回収率は 5 %であるということだ。シェール
1,500
オイルの生産に関して回収率はまだ低いが、生産技術が
徐々に改善され、生産効率は上がると考えられる。地質
1,000
は重要だがそれだけではなく、掘削に関しての効率を高
500
める必要がある。モニタリングやマイクロサイズミック
イメージング等の技術の進歩があり、そしてまた、さま
0
出所:Baker Hughes
図12 米国のリグ数推移
ざまな分野の技術の統合が行われている。Halliburton
や Schlumberger 等のサービス会社も、石油業界以外の
人材を採用している。イメージングや光ファイバー等に
ひら
より全く違う世界が拓かれている。
米国では、サービスコストが 2 5 ~ 3 0 %程度下がって
きており、2 0 1 4 年には経済性がなかったが、経済性が
250
NorthDakota
Colorado
Wyoming
200
150
生まれている油井・ガス井が多数ある。また、キャッシュ
を潤沢に持っているが質の低いプロジェクトを保有して
いる企業がある一方、負債を多く抱えた企業が質の高い
プロジェクトを保有している場合もあり、今後、企業や
資産の整理、統合が進んでいくと考える。
100
(4)インフラストラクチャーの重要性
50
かつては石油の生産、輸入、精製のほとんどがメキシ
コ湾岸地域で行われており、それを内陸部に輸送してい
0
た。しかし、現在は北部で多くの石油が生産され、これ
出所:Baker Hughes
ノースダコタ州、コロラド州、ワイオミング州
図13 のリグ数推移
を湾岸地域へ輸送しなければならない。パイプラインの
方向を逆転させてはいるが、まだインフラストラク
チャー建設は大きな問題となっており、これがブレント
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と WTI(West Texas Intermediate)の価格差の大きな原
行うハイドロクラッカーやコーカーが主となった非常に
因となっている。
高度な石油精製部門がある。それを踏まえてコスト面で
油 価 が 下 落 し て い る が、EPRINC(Energy Policy
考えると、米国は軽質のタイトオイルを輸出して、重質
Research Foundation, Inc.)は、2 0 1 5 年の米国の石油生
の原油を輸入することになる。
産量は当初の見通しに比べそれほど大きく減少するとは
見ていない。試算では、当初見通しに比べ 5 0 万~ 7 0 万
(5)結論
b/d 程度の減少となっている。2 0 1 6 年以降は、油価が
新たな均衡原油価格はバレルあたり 6 0 ドル~ 8 0 ドル
非常に低くなれば生産量も下がってくる可能性はある
と低くなると考えている。石油業界にとっては問題だが、
が、当面、生産量は横ばいの状況になると見ている。
日本、 米国、インド、中国にとっては大きなメリットが
オイルサンドをカナダのアルバータ州から湾岸地域へ
あるだろう。
輸送する KeystoneXL パイプラインに、オバマ大統領が
生産技術の専門家と話をし、さまざまな素晴らしく高
拒否権を発動したが、これは KeystoneXL パイプライン
度な技術が計画されていることは分かっており、技術の
で原油を輸送することを禁止したというだけで、カナダ
進展はあるだろうが、将来の生産コストがどうなるかは
のオイルサンドをアメリカへ輸送することには規制がな
分からない。非在来型の生産コストが下がり、回収率が
い。エネルギー省に対する調査で分かったことだが、オ
改善することが期待される。
イルサンドの生産拡大には、KeystoneXL パイプライン
また、シェールに関してはある程度迅速に生産調整を
と Energy East パイプラインという二つのインフラスト
することが可能であるので、米国が非常に短期的なサイ
ラ ク チ ャ ー 関 連 の 問 題 を 解 決 し な け れ ば な ら な い。
クルでスイングプロデューサーになる可能性がある。新
Energy East パイプラインが建設されれば、カナダとノー
たなダイナミクスがマーケットに生まれるだろう。
スダコタ州の原油をカナダ東部に輸送できるようになる。
重要なことは、コストの高い生産とリスクの高い生産
米国のエネルギーセキュリティとは、石油の輸入や輸
を区別することだ。米国の非在来型の油・ガス田の開発
出に関連しているのではなく、北米での石油生産をでき
は、コストは高いが、リスクは低い。延期されることに
る限り効率のよいもの、生産性の高いものにするという
なるであろう一部の超大水深や北極海での開発と、非在
ことだ。そしてその結果、マーケット全体が拡大して、
来型のプロジェクトは分けて考えるべきだ。
安定的な供給がなされることで、油価の変動が少なくな
業界の再編も進むだろう。
るということだ。
地政学的なリスクは非常に不確実性が高いワイルド
われわれは、上流、中流だけではなく、下流にも注意
カードで、投資戦略や公共政策に照らして十分検討する
を払わなくてはならない。米国には、重質原油の処理を
必要があると考える。
4. 質疑応答
【質問①】
・ 2 0 1 5 年における油価に関する最も重要なゲームチェ
ンジャー、リスクは何か。
が輸出できるのか、OPEC が減産を合意できるのか、
低油価が続いた場合、米国が 2 0 1 6 年にまだ増産を続
けていくのか、といった多くの不確定要因がある。需
要と供給のバランスは、油価がバレルあたり 1 0 0 ドル
《回答》
の場合と 6 0 ドルを下回った場合では同じではない。
・非常に多くの不確定要因が存在している。需要に関し
供給側も、需要側も対応をとると考えられるが、その
ては、低油価の環境で需要がどうなるかが重要だ。プ
大きさも、タイミングも分からないのが現在の状況だ
ラスの数字も出てきているが、本当の需要なのか、あ
と思う。
るいは在庫積み増しの需要なのかがポイントとなる。
マーケットが供給について現在、注目しているのは
供給については、
例えばリビアの状況が悪化するのか、
アメリカのシェールオイルだが、米国以外の地域の動
リビアが輸出をするようになるのか、さらに、イラン
向も全体的に見ていかなければならない。期待感は非
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-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
常に重要である。2 0 1 5 年上半期において供給が増え
ると、将来の供給に対する期待感が変わってくるから
だ。 そ れ が 油 価 に 影 響 を 与 え る と 考 え て い る。
(Fattouh 氏)
【質問②】
・イランの核合意とその後についてどう考えているか。
《回答》
・イランについては、明日、合意がなされたとしても、
制裁解除のための手続きがもろもろあるので、すぐに
市場に相当量の石油を輸出することはできない。もち
出所:JOGMEC 撮影
写8 質疑応答の様子
ろん、これによって期待感が変わるということはある
と思う。しかし、現段階では、バイヤーもセラーも供
給過剰と見ており、地政学的なリスクもコントロール
されていると見ている。石油積み出し港ラスタヌラの
が 7 年前の状況であった。しかし、その後、ロシアと
爆破、中東の混乱の継続、ベネズエラでの革命といっ
中国が国境問題について合意した。ロシアは、極東を
たさまざまな地政学的な事象が発生するかもしれず、
開発する必要があることを認識した。そして、中国と
そうなれば、これらがゲームチェンジャーになると思
距離を置いた関係は建設的ではないとの結論に達し
う。米国のシェールのコストについては特に大きなブ
た。中国の成長にあやかろうと考えたのだ。このよう
レークスルーは起こらないと思うが、改善は続いてい
に国境問題の解決によって、ロシアの対中姿勢は変
くだろう。その結果、予想以上によいということであ
わった。それまでのネガティブな姿勢から中国の対露
れば期待感が変わってくると思うし、石油価格もそれ
投資を歓迎するという方向に政策の変更を行ったのだ
に反応すると思う。
(Pugliaresi 氏)
ろう。ロシアは、ノルウェーともバレンツ海の境界問
題を抱えていた。4 0 年にわたる交渉後、それが解決
【質問③】
されて、その後 Statoil がロシアのプロジェクトに参
・ロシアは現在、アジアに軸足を移しているということ
加するようになり、そしてその逆も起きた。このよう
だが、ロシアが焦点を当てているのは輸送能力の大き
に領土紛争というのは大きな要因で、これがロシアと
なパイプラインがある中国なのではないか。シベリア
日本との関係にも関わってくると考える。
の東部にエネルギーを輸出するための港を建設するプ
北方領土の問題は日露関係にプラスには働いていな
ロジェクトもあるが、実現するのかどうかについては
い。何らかの形でこの問題を解決し、中国と同様のモ
不確実性が高いと考える。また、油価が上昇したら、
デルを使って日本からの投資を誘致することはロシア
ロシアよりも、カナダあるいは米国が日本に LNG を
にとって一つの可能性だと思う。ロシアは明らかに日
輸出する確率のほうが高くなると思う。ロシアはどれ
本をアジア戦略の重要な一部と考えている。日本は中
くらい真剣に日本のエネルギー市場を検討しているの
国よりも経済規模が小さく、ロシアと陸地でつながっ
だろうか。
ているわけではないが、日露関係の進展は大いに期待
できると思う。(Konovalov 氏)
《回答》
・サハリンプロジェクトの 4 0 周年が近づいていると思
・これまで、ロシアは中国を重視してきたと思う。これ
うが、こういった非常に長期のプロジェクトに関して
には歴史的に興味深い背景がある。2 0 0 8 年の金融危
は余地があると思う。長期的な LNG プロジェクトは
機以前には、中国はロシアの
「エネルギーシーン」の一
ますます必要になってくると思うが、償却には 2 0 年、
部ではなかった。ロシアは中国を恐れていた。国境を
あるいはそれ以上の期間がかかるかもしれないので、
越えて移民が流入することを懸念していた。国境問題
供給側と買い手の側の相互の信頼関係が必要になる。
も解決していなかった。ロシアの政策担当者は、中国
米国メキシコ湾岸からの供給はまだ先のことかもしれ
を市場に参入させないようにしようとしていた。これ
ないが、多様化、セキュリティということを考えると
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JOGMEC
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アナリシス
プラスに働くと思う。
(Pugliaresi 氏)
いかと思う。ただ、実際にどれくらい早く井戸が完
成して価格の変化に反応できるかが分からないので
【質問④】
何とも言えない。(Pugliaresi 氏)
・米国の現政権は KeystoneXL パイプラインを認めない
・コスト削減は会社によって影響の度合いが違う。プロ
かもしれないが、2 0 1 6 年以降はどのようなシナリオ
ジェクトによっても違う。コスト削減はアメリカの
があると思うか ?
シェールに関してだけ行われているわけではなく、もっ
と幅広く、NOC(National Oil Company)
等も資本支出
《回答》
を削減している。したがって、具体的に生産の伸びに
・私 はどうしようもないロマンチストかもしれないが、
どう影響を与えるか予測するのは難しい。シェールの
KeystoneXL パイプラインがまだ完全に駄目になった
生産者自体でさえも予測はなかなか難しいと思う。い
とは思っていない。オバマ大統領はある意味で、木に
ずれにせよ、これはマーケットの問題である。設備投
登って動けなくなったネコのようなもので、政治のな
資の減少によって期待感が変わり、それが油価に影響
かではそういうことはあると思う。外に出てみたら、
を与える。価格の反騰が起こっているが、これは将来
色々な環境グループの人たちに囲まれてしまい、今と
の供給が細ってくるという予測も影響しているのでは
なってはどうやって戻ればいいのか分からないという
ないだろうか。(Fattouh 氏)
状態なのだろう。私は、これは人間の悲劇だと思う。
ちなみに、Trans Canada は KeystoneXL パイプライン
おわりに~追加コメント~
建設のプロセスに非常に強い信頼を置いていて、あら
・長 期間にわたって油価はバレルあたり 1 0 0 ドルから
かじめパイプを買っているほどだ。規制面での期待感
1 1 0 ドルで安定していた。この期間は例外的な期間で
の変化というのも重要だ。2 0 1 6 年になるかもしれない
あって、正常ではなかった。そこに、米国のシェール
が、
いずれは建設されると信じている。例えばヒラリー・
オイルと市場の期待とは異なるサウジアラビアの行動
クリントン氏が大統領になったら、彼女がどういう立
という二つの新しい要因が導入された。その結果、ボ
場をとるかは非常に興味深いと思う。
(Pugliaresi 氏)
ラティリティが生じているのだ。新しい安定した価格
になるまではこの状態が続くと考える。
(Fattouh 氏)
【質問⑤】
・米国エネルギー省は、数年前には高油価に対する先入
・ CAPEX 削減の影響について伺いたい。1 9 8 0 年代後
観を持っており、それに基づいてさまざまな代替エネ
半には、設備投資削減が油価の高騰につながったと言
ルギー戦略を考えていた。しかし、現在は石油のほう
われていた。現在の掘削技術の進歩は将来的な油価の
が代替エネルギーよりも価格が安い。かつて考えられ
高騰を阻止するに十分だろうか。
たもろもろの代替エネルギーのプロジェクトは、現在
全て死骸になってしまった。政府は、将来のエネルギー
《回答》
に対して賢明な政策を採り、失敗するようなプロジェ
・ 1 9 8 0 年代には、ほとんど全てのプロジェクトは長期
クトを生み出さないことが大切だ。想定される油価が
的な視野に立った開発案件であった。ほとんどの設
バレルあたり 1 1 0 ドルではなくて 6 0 ドル~ 7 0 ドルに
備投資は初期段階だけに行えばよく、初期投資が高
なったので、政策に対しての影響は大きいと考える。
いという特徴があった。ところが、現在の問題は、
一 体どれくらいの規模で、どれく ら い の ペ ー ス で
(Pugliaresi 氏)
・私はオーストラリア出身なので、日本同様、オースト
ひ えき
シェールについての短期的なサイクルが起こるかと
ラリアも低油価から裨益するということを喜んでいる。
いうことだ。仮に、あまりその期間が長くなく、そ
石油業界に従事して 1 0 年以上たつが、ロシアのような
して先物価格がマーケットへの期待を反映すること
石油に依存した国家は低油価に対して脆弱で、それを
ができるようになれば、それが緩和効果を持つと思
踏まえて建設的に政策を変える機会があるのではない
う。大規模な乱高下ではなく、生産が増減して、先
かと考える。日本としてもエネルギーの供給先を多様
物市場のカーブをなぞるようなものになるのではな
化させることができると考えている。
(Konovalov 氏)
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JOGMEC国際セミナー
-原油市場の動きを踏まえた世界の石油・天然ガス開発情勢を左右する3極の動向-
講演者紹介
Bassam Fattouh(バッサム・ファトウ)
Oxford Institute for Energy Studies所長(在ロンドン)
中東地域の石油・天然ガス市場分析の専門家で、ロンドン大学等でも研究、指導にあたってきた。
Vladimir Konovalov(ウラディーミル・コノヴァロフ)
Petroleum Advisory Forum(PAF)事務局長(在モスクワ)
世界銀行に勤務後、欧米外資石油関連企業で構成されるロビー団体PAFを立ち上げた。ロシアの石油・天然ガス情勢に精通している。
Lucian Pugliaresi(ルシアン・ パリアレシ)
Energy Policy Research Foundation, Inc.(EPRINC)社長(在ワシントン)
レーガン政権下のホワイトハウス国家安全保障委員会で国際問題を担当した。FSU、中東に対する米国の事情に精通し、議会、政府
関係者、エネルギー関連企業首脳等幅広い人脈を有している。
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