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KPM成功事例詳細紹介 第16回:株式会社ダイム様 1.素人集団による

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KPM成功事例詳細紹介 第16回:株式会社ダイム様 1.素人集団による
KPM成功事例詳細紹介
第16回:株式会社ダイム様
大阪府吹田市にある株式会社ダイム様(安平健一社長)は、1968年創業の印刷工程を持った製版
会社です。CMS・画像処理を初めとした高品質な製版技術をコアとしつつ、2004年3月に菊全
判4色機(LS440)を導入し、本機校正を開始しました。2年有余の本機校正の後、06年末か
ら菊全判7色機(LS740)と4色機(LS440)への入れ替え・増設を図り、2台体制で本格
的な本刷印刷業務を始めたのです。
予防保全を基礎とした、“素人集団による印刷業2年”の成果を紹介します。(写真1)
写真1.印刷現場の皆様
1.素人集団による印刷
同社の印刷業務のスタートは、本機校正のために印刷機を導入したことに始まります。そこでは校正
紙を1件当り6枚ずつ印刷していました。小ロット印刷が06年から少しずつ始まりますが、それで
も校正刷と本刷の割合は、8対2でした。それが2台体制になってからは、逆転して2対8になった
のです。既に2直体制を取っていますが、「印刷量は10倍になった」といいます。
表2は、07年下期の校正刷件数を100とした場合の、本刷件数との割合を08年上期と比較し
たものです。この数字からもわかるように、本刷の割合は増加の一途をたどっています。既に、07
年下期において、校正刷よりも本刷の件数は20.5%も多いのです。更に、校正刷は半期で5.3%
増ですが、本刷は14.3%増です。この表は件数ベースですが、印刷枚数で計算すれば、校正刷は
1件6枚、本刷は1件平均5000枚ほどですから、
「印刷量は10倍になり」、本刷主体にシフトし
ていることがわかると思います。
2007年下期
2008年上期
比較
校正刷件数
100.0
105.3
5.3%増
本刷件数
120.5
137.7
14.3%増
総件数
220.5
243.0
10.2%増
印刷件数
表2.印刷件数の推移比較表
注:校正刷件数を100とし、各数値を表示している。
校正刷は6枚、本刷は平均5000枚印刷である。
このような数字を紹介したのは、同社が印刷についてはまったくの素人集団からスタートし、わず
か2年有余で“印刷会社”になったことを、理解いただくためです。しかもその品質は、「難しい仕
事はダイムに頼め」とまでいわれるほどなのです。
2.CIP4/CIPPIアワード賞受賞
同社は製版会社として培ってきたデジタル技術とその思考を、印刷現場に貫こうとしました。そのス
タンスと先進性を如実に示す出来事が、IGAS2007の会場で起こりました。同社は、CIP4
国際印刷製造改革賞(CIPPIアワード賞)を、日本で初めて受賞したのです。プリプレス・プレ
ス・ポストプレスの統合に関する、「プロセス自動化技術を最も革新的に活用した事例」部門で、同
社のJDFを活用した「ダイムプロダクトワークフロー」の構築が、国際的に認められ表彰されたの
です。(写真3)
JDFの流れの核となる経営情報システム(MIS)で、見積・受注・売上管理をして、作業指示
書をJDFデータで製版工程管理システムと印刷工程管理システムに流します。製版・CTP・フイ
ルム出力・DDCPは、印刷データを取り込んだジョブが自動作成され出力されます。印刷でもジョ
ブが作られ、印刷機械管理・印刷品質管理などが自動コントロールされ、絵柄面積率や印刷濃度を取
り込んで印刷されます。
(詳細は同社のWebサイトをご覧下さい。または、
「印刷雑誌」2007年
10月号、12月号のダイム紹介記事を参照下さい。)
このようなデジタルワークフローの構築と運用が、印刷現場と印刷機械にも貫かれています。しか
し、印刷については素人集団であるため、当社との共同歩調を望みました。「予防保全の三人四脚」
(経営・現場・メーカーがそれぞれの役割を果たす)を推進したのです。
写真3.CIPPIアワード賞トロフィーを持つ石原俊之業務推進グループ課長
3.KPMの推進
印刷機を導入して校正刷を始めて2年ほどした2006年6月に、KPMセミナーを社長・管理職に
実施しました。予防保全とは何でありなぜやるのか、KPMキックオフです。そして06年下期に2
台体制にして、本格的印刷を始めたのです。新台の初期稼動段階を経て、07年6月から「KPM年
間メンテナンスパック」を実施し始めます。
この「KPM年間メンテナンスパック」は、年間を通したメンテナンス・サポート・プログラムで
す。当社の予防保全担当技術者が定期的に伺い、機械診断とメンテナンスを行い、その結果や課題を
経営陣・現場メンバーと協議して、機械故障ゼロを目指します。これまでの突発故障修理対応=事後
保全ではない、予防保全のための有償サービスです。
年次機械点検・電気点検・オイル交換・各種グリース給油・ブロアー等のフイルター交換・インキ
給水ローラー調整交換・爪関連清掃調整などを、管理職・現場オペレータに指導しながら、一緒に行
うのです。担当技術者は固定メンバーとするため、継続的・系統的なプログラムと臨機応変の対応が
可能であるばかりか、現場オペレータの良き相談相手ともなります。ある時には、現場と経営陣の橋
渡しにもなるし、当社の営業・設計・工場とユーザーの橋渡しにもなります。
このような活動の成果は、06年下期に納入された2台の機械故障件数に、如実に表れています。
07年上期に1件ありましたが、それ以降現在までゼロです。(表4)
印刷機械2台
07年上期
07年下期
08年上期
比較
故障修理件数
1件
0件
0件
▲100.0%
表4.機械故障件数履歴表
4.管理された工場と機械
工場と機械は、数値による管理が徹底させています。
工場環境は,JapanColorなども参考にしながら、独自の基準を決めています。室温・湿
度管理基準を、印刷室は温度:24℃±2℃、湿度:55%±5%とし、壁や機械ユニットなどいた
るところに測定器をつけて管理しています。(写真5・6)
写真5.室温・湿度管理基準と測定器
写真6.温湿度測定器とニップ確認表が貼られた印刷ユニット
更に、照明についても同様です。写真3のバックのプレートに注目してください。「色評価用環境
光管理基準、色温度:5000~5500kelvin、照度:600~800lx、色温度・照度
共に毎月第一月曜日に計測、色評価用蛍光灯:演色性AAAの蛍光灯」と管理基準と計測基準が定め
られています。管理責任者もそこに記されているのです。
照明に関しては、多くの印刷会社は憂うべき現状であると、筆者は感じています。オペレータスタ
ンドの照明に一般的な市販蛍光灯を使うのは論外ですが、クライアントや営業と刷本を見ながら打ち
合わせをする応接室の照明が、管理されていない場合が多いからです。色で仕事をしているプロであ
るならば、色温度によって色の見え方が異なること、その照明管理に無頓着でよいのでしょうか。
また水舟の水温の基準値を10~12℃とし、操作側と原動側の両方を経過的に測定管理をしてい
ます。(図7)湿し水の温度は、水の粘度を大きく変化させます。水上がりを良くし、版面の保水性
を高めるために粘度を上げる必要がありますが、そのためには水を冷やさなければなりません。その
場合、水舟の中の両サイドで水温差がありすぎますと、左右の水上がりのバランスが崩れます。品質
の良し悪しと安定化は、少ない水の均一な供給が第一であることは、オフセット印刷の真髄でありま
しょう。
水舟の操作側と原動側の水
温を計る測定器
図7.水舟の水温を計る測定器設置ユニット
これらの室温・湿度、水舟水温の他にも、給水タンク糖度(基準値0.8~1.0)・PH(基準
値5.5~6.5)
・タンク内水温、課題の進捗報告などを「日間環境管理表」
(図8)で管理してい
ます。そこでは、昼夜の引継ぎ事項ばかりか、上司や管理者からの指示なども書かれています。
このことについて、石原俊之業務推進グループ課長は、
「トラブルの原因を見つけていくためには、
まず基準を決め、日々管理していくことが必要です。もし水温や糖度が高ければ,次の事故を誘発し
ますから、直ちに対策を打ちます。3年ほど前に裏移りの事故が出ましたが、この管理記録から湿し
水の過剰乳化を発見し、水を絞る印刷の大切さを学びました。」と語っています。
しかも、この管理表の確認者は、営業部長、プリプレス業務課長、プリプレスチーフ、フォトクリ
エイティブ主任、営業主任にまで広がっています。品質に対する印刷現場の標準化と管理状況を常に
把握することによって、お客様への色校や印刷物持参時の説明や、自部門の責任を再考する社内ツー
ルとするためです。
図8.日間環境管理表
図9.メンテナンスチェックリスト
日々の機械メンテナンスは、メンテナンスチェックリストによっています。
(図9)毎日、週1回、
週2回、必要時、隔週、月1回、隔月の項目を決めています。そこでは所要時間が分単位で決められ、
終了後に作業者がサインする運用スタイルをとっています。そして、実際に作業にかかった時間を欄
外にコメントを入れて記録することによって、運用の改善を図ってもいるのです。
更に、ローラーニップを週単位で測定し、その記録表を印刷機のユニットに貼り付けて、「見える
化」を実施しています。
(写真6)
また、印刷現場を5名で毎朝30分清掃しています。見学者が来ることが多いそうですが、そのこ
とが「社員の心のハリを生んでさえいる」といいます。
5.カラーチャート定期診断
ダイムプロダクトワークフローの印刷部門・CMSの核となる管理が、ダイム独自のカラーチャート
を2週間に1回30分で印刷することによる、機械・品質診断です。
写真10 は、そのカラーテストチャートです。同社ではAMスクリーンのSQ175線をベースと
しながらも、SQ230線も日常の通常業務として印刷しています。要望があれば、FMスクリーン
の20μ(AM420線相当)・10μ(AM560線相当)も受注しています。その他にも、ハイ
ブリッドスクリーニング、4色高濃度・高彩度印刷、6色広色域印刷、7色広色域印刷など、高品質
印刷を常時受注しています。そのためこのチャートは高品質印刷が出来ているかを、診断できるよう
に作られているのです。
写真10.ダイムカラーテストチャート
まず咥側の横バーで濃度を測定、SQ175を四隅に配置して咥側と尻側の色変化を測定、線数の
異なるグレーバランスの測定、ドットゲインカーブの測定などが出来るように配置されています。そ
の上で、印刷日、紙、室温、湿度、などと共に測定されたドットゲインカーブを記載できるようにな
っています。
(写真11)
写真11.カラーチャートを測定する石田善久フォトクリエイティブチーム主任
安平社長は、「ドットゲイン・トラッピング・グレーバランスを見て、機械の状態を把握するので
す。ブランケットの状態、ローラーの状態などがこの定期診断でわかりますから、印刷部門にフィー
ドバックをかけられるのです」と語っています。
たとえば、ブランケットは月1回交換を基本としていますが、ドットゲインカーブの変化からブラ
ンケットのへたりを見つけた場合どうするでしょうか。通し枚数を確認して、次の交換サイクルの計
画を立てます。連続物を印刷途中の場合は、ブランケットを交換すると色調ムラが出てしまうため、
区切りがつくまでCTPの出力カーブを変更して刷了するのです。
あるいは、グレーバランスを測定していて線数によって色調が異なる事を見つけた場合はどうする
のでしょうか。ローラー交換の時期が来ているが、仕事が混んでいて今すぐには出来ない場合は、ロ
ーラー調整とCTPカーブ変更で緊急回避して、ローラー交換後に通常の基準値に戻すのです。
6.CMSミーティングのよる改善
印刷部門とプリプレス部門をつなぐ形で、CMS推進委員会によるミーティングを毎週実施していま
す。図8で紹介した日間環境管理表の「課題の進捗報告」項目や、印刷機の調整項目として爪調整・
見当精度調整などの日程なども議題となります。更に、チャート診断からの品質管理項目が議題とな
ります。08年9月の協議項目を紹介します。
1.SQ230の色ムラがあるため機械調整に問題はないか。2.ベタ濃度とCTP出力カーブの
再調整をして理想に近づけたい。3.各網種毎のCTP出力カーブをベストに近づけたい。4.定期
診断チャート記録用紙の運用を開始したい、です。
ここでは、4について解説します。石田善久フォトクリエイティブチーム主任・CMS推進委員会
長は、「これまでは診断チャートを測定して問題点を掴んでも、印刷と診断の間にタイムラグがある
ため、印刷部門の現状が変わっていたり、多分こうだろうという曖昧さが残りました。そこで『定期
診断チャート記録用紙』を作り、診断チャート印刷物と一緒に、その時の状況についてのコメントを
書いてもらうようにしました。その結果、いつもと違う結果について、なぜかが解るようになり、対
策と課題がよりはっきりしてきました。」と語っています。
このような絶え間ない改善こそが、同社の「SQ230線は当たり前、FMスクリーン20μも日
常的にスムースに刷れる」、高品質印刷を支えていると思います。
そして、工場・機械・印刷物の標準化のための数値管理は、「本刷が10倍になった」ほどの生産
量上昇の中にあって、品質事故の激減としても、成果を上げています。表12をご覧ください。07
年上期の品質事故の件数と金額を、08年上期と比べてみますと、会社全体の総件数は13.5%減、
その内の印刷部門件数は26.9%減です。総金額は37.6%減、その内の印刷部門金額は42.
7%減です。会社全体の減少率よりも、印刷部門の減少率がずば抜けて高いのがわかります。
品質事故
07年上期
07年下期
08年上期
比較
総件数
100.0
87.5
86.5
▲13.5%
印刷部門件数
50.0
35.6
36.5
▲26.9%
総金額
100.0
75.7
62.4
▲37.6%
印刷部門金額
64.2
40.8
36.8
▲42.7%
表12.印刷事故履歴表
注:総件数を100とした場合、そのうち印刷部門件数は50であったと表示している。
総金額を100とした場合、そのうち印刷部門金額は64.2であったと表示している。
7.2年を振り返って
KPM推進について、石原課長は「日々機械を管理維持できる環境を作ってやることが大事です。そ
うすることによって、オペレータが当たり前のように予防保全が出来るようになり、故障もなくなり
ました。」と語っています。
安平社長は、「印刷はミクロン単位のものですから、機長の腕もさることながら、機械整備が命で
す。しかし何のためにやるのか、やらないとどうなるのか、その意味・意義をKPMセミナーやKP
Mパックで知りました。机上論では保全の大事さはわかっています。しかし小森さんが心をこめて話
す、一緒に現場でやってくれる、すると感じるものがあります。その気になる、動機付けになりまし
た。だから能動的に動けるようになったのです。」と語っています。そして品質事故について、
「機械
整備不良での事故はありません。そのようなことは言語道断であり、怠慢は許しません。ミクロン単
位の印刷機械を整備するのは、機長の第一の仕事です」とはっきりと語っています。
今後の方向性について安平社長は、「保守メンテナンスにしろ技能にしろ、標準化を図りブレの少
ない印刷をしたいのです。その標準化の土台は、機械の保守であり維持管理です。そして標準化の先
に差別化があります。よそ様を超えることが差別化だと思っていますから、徹底的な標準化を図り、
それを土台として、スピード、品質、価格あらゆる面で、差別化を目指します。
」と語っています。
まったくの印刷の素人集団が、校正機用印刷機械を入れて4年半、本格的な本刷印刷を始めて2年。
製版会社で培ったデジタル技術とその思考を貫いた標準化による高品質印刷は、印刷業として長い歴
史を持つ多くの会社にとって、“目からうろこ”ではないでしょうか。
文責:予防保全チーフアドバイザー
川名
茂樹
なお本稿は、
『印刷雑誌』
(日本印刷学界機関誌、印刷学会出版部発行)2008 年 12月号「続・印
刷現場の予防保全」連載第 12回、の内容と同等のものです。
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