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History of Western Philosophy

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History of Western Philosophy
2012年度・後学期
西洋思想史
(History of Western Philosophy)
第3回
池田真治
人文棟・第3講義室
木曜4限
1
本日のメニュー
• カント登場(前回の続き)
• 純粋理性のアンチノミー
• 第一アンチノミー
2
純粋理性のアンチノミー
第1
アンチノミー
テーゼ 世界は時間・空間的に有限
アンチテーゼ 世界は時間・空間的に無限
テーゼ 世界における合成された物は、分
第2
アンチノミー
割不可能な単純な要素からなる。
アンチテーゼ 空間は無限分割可能であ
り 、世界には単純な要素は存在しない。
3
純粋理性のアンチノミー
第1
アンチノミー
テーゼ 世界は時間・空間的に有限
アンチテーゼ 世界は時間・空間的に無限
テーゼ 世界における合成された物は、分
第2
アンチノミー
割不可能な単純な要素からなる。
アンチテーゼ 空間は無限分割可能であ
り 、世界には単純な要素は存在しない。
4
純粋理性のアンチノミー
テーゼ 世界の諸現象を説明するには、その絶対的始
第3
アンチノミー
まりとして、自由という原因がなければならない。
アンチテーゼ 世界の出来事はすべて、自然の因果法
則によって、必然的に起こる。
テーゼ 世界の因果連鎖のうちに、絶対的必然的存在
第4
アンチノミー
者が属している。
アンチテーゼ 世界の因果連鎖のうちに、絶対的必然
的存在者は存在しない。
5
純粋理性のアンチノミー
テーゼ 世界の諸現象を説明するには、その絶対的始
第3
アンチノミー
まりとして、自由という原因がなければならない。
アンチテーゼ 世界の出来事はすべて、自然の因果法
則によって、必然的に起こる。
テーゼ 世界の因果連鎖のうちに、絶対的必然的存在
第4
アンチノミー
者が属している。
アンチテーゼ 世界の因果連鎖のうちに、絶対的必然
的存在者は存在しない。
6
第一アンチノミー
定立(テーゼ)
世界は時間において始まりをもち、空間に関して
も限界のうちに囲まれている。
反定立(アンチテーゼ)
世界はいかなる始まりももたず、空間におけるい
かなる限界ももたない、むしろ世界は時間に関し
ても空間に関しても無限である。
7
第一アンチノミー
定立:世界は有限
×
反定立:世界は無限
8
第一アンチノミー
純粋理性
定立:世界は有限。
•
•
反定立:世界は無限。
純粋理性は両方を正しいものとして証明する。
このとき、定立と反定立が同時に成り立ってし
まい、矛盾する。
•
ということは、純粋理性が何かおかしい。
9
超越論的仮象
• このように真理を装った誤
、 みせかけ
の真理を、カントは「超越論的仮象」と
呼ぶ。
• 理性は究極を求める、その性ゆえに、自
己矛盾に陥ってしまう。
10
世界
• 「絶対的全体」としての世界。
• 世界とは存在するものすべてのこと。
• 世界は「理念」である。すなわち、理
性がその本性から必然的に立てるが、
経験を越えている思考の産物である。
11
第一アンチノミー
定立(テーゼ)
世界は時間において始まりをもち、空間に関して
も限界のうちに囲まれている。
反定立(アンチテーゼ)
世界はいかなる始まりももたず、空間におけるい
かなる限界ももたない、むしろ世界は時間に関し
ても空間に関しても無限である。
12
第一アンチノミー
ー定立の証明(前半)ー
(a) 世界は時間において始まりをもち、(b) 空間に関
しても限界のうちに囲まれている。
(a) 世界が時間に関して始まりをもたないとする(背理法)。
このとき、各時点までに永遠が過ぎ去ったことになり、事
物の状態に関する無限の系列が流れ去ったことになる。
しかし系列の無限性は、完結することは不可能。
よって、世界は時間に関して始まりをもたねばならない。
13
時間
過去
なう!
• 過去に無限の時間が流れていた?
• 無限が過ぎ去ることは可能か?
14
時間
過去
なう!
• 過去に無限の時間が流れていた?
• 無限が過ぎ去ることは可能か?
ドユコト?
15
時間
•
•
•
•
•
•
時間は<流れる>?
時間は有限?無限?
時間は意識の内にある?
時間は世界の側にある?
時間は存在に先立つ?
時間はそもそも存在しない?
16
無限
•
「ある量よりいっそう大きな量がありえない
量」A430/B458
•
•
量・・・単位の集合。
系列の無限性・・・無際限の数え上げ(枚
挙)。1, 2, 3, 4, 5, ...... ad infinitum
•
系列の無限性は、無限な全体とは区別される。
17
第一アンチノミー
ー定立の証明(後半)ー
(b) 空間には限界がある。
(b) 空間が限界をもたないと仮定する(背理法)。
このとき、世界は実在的諸事物が無限に与えられた全体。
しかし、われわれは、直観のある種の限界内において与えられな
いような量の大きさを、諸部分の総合としてしか考えることがで
きない。
諸事物の無限な全体という「総体性」が現実に与えられるために
は、無限の諸部分の継起的総合が完全なものとして与えられる必
要がある。
18
第一アンチノミー
ー定立の証明(後半)ー
(b)[続き]しかし、これは無限の数え上げをする
こと(定立の証明におけるの系列の無限性)に
ほかならず、無限の時間が経過しないことには
できない。
したがって、諸事物の無限な集合体としての世
界が全体として与えられることは不可能。
よって、空間は限界をもつ。
19
カントのとる前提についての考察
•
カントは、定立の証明に際し、どのような前提をとっ
ているか?
1. 系列の無限性は、定義上、完成しえない。
2. 直観によって測量できるのは、限界によって囲まれて
いる量に限られる。
3. 無限な全体の直観はできないので、 想定されている無
限なものの完結は、理性が「理念」において捉えたも
のにすぎない。
20
第一アンチノミー
定立(テーゼ)
世界は時間において始まりをもち、空間に関して
も限界のうちに囲まれている。
反定立(アンチテーゼ)
世界はいかなる始まりももたず、空間におけるい
かなる限界ももたない、むしろ世界は時間に関し
ても空間に関しても無限である。
21
第一アンティノミー
ー反定立の証明(前半)ー
世界はいかなる始まりももたず、空間におけるいかなる限
界ももたない、むしろ世界は (a) 時間に関しても (b) 空間に
関しても無限である。
(a) [証明]世界が始まりをもつと仮定する(背理法)。
物が存在しない空虚な時間が、この始まりという現存在に先立つ。
この空虚な時間のうちでは、何らかの物のいかなる成立も不可能で
ある。
なぜなら、そのような空虚な時間のいかなる部分も、現存在の制約
と非存在の制約を区別することができないからである。
22
第一アンティノミー
ー反定立の証明(前半)ー
つまり、世界が始まりをもつとしても、それ
に先立つ空虚な時間があるが、その空虚な
時間のうちで、非存在から現存在へと変わる
時点を有意味に規定することができない。
よって、世界そのものはいかなる始まりもも
ちえない。
23
第一アンティノミー
ー反定立の証明(後半)ー
(b) 世界は空間に関して無限である。
(b) [証明]世界が空間に関して限界づけられていると
する(背理法)。
このとき、世界は限界づけられていない空虚な空
間のうちにある。
したがって、空間内の諸物の関係だけでなく、空間
に対する諸物の関係も見いだされることになる。
24
第一アンティノミー
ー反定立の証明(後半)ー
•
しかし、世界は一つの絶対的全体であるので、世
界の外には、いかなる対象も見いだされえない。
•
したがって、世界と空虚な空間の関係は、世界が
いかなる対象とも関係していないということにほ
かならず、そのような関係は無意味である。
•
よって、世界は空間に関して限界づけられていな
い、つまり世界は延長に関して無限である。
25
第一アンティノミー
ー反定立の証明(簡易版)ー
•
•
世界が無限でないとする(背理法)。
このとき、空虚な時間・空虚な空間が世界の
限界を構成しなければならない。
•
•
しかし、それは不可能である。
よって、世界は無限である。
26
Q.カントはどのような前提に立って、証
明を展開していたのか?
27
カントのとる前提についての考察
•
事物と空間・時間の区別。すなわち、有限な世界(=
事物の総体)とは区別される、無限の空虚な時間と空
間の存在。
•
世界の始まりに先立つ「絶対時間」・現実世界の外に
ある「絶対空間」(ニュートンの影響)。
•
•
したがって、ライプニッツの「関係説」を拒否。
もっとも、カントにとっては、空間は「外的直観の形
式」にすぎない。
28
空間
カントは、
A) 事物で満たされている空間
B) 事物の存在していない、空虚な空間
の二つのタイプの空間を考えている。
•
カントに「空虚な空間」としてみなされているの
は、諸現象の可能性のアプリオリな制約、すなわ
ち外的直観の形式としての空間である。
29
空間
•
•
カントにとって、空間は「外的直観の形式」にすぎない。
空間は現実的対象ではない。したがって、絶対空間・絶対時間
は、直観の対象ではなく、その意味で、現存在しない。
•
空間は可能的諸対象の形式にすぎない。空間はそれ自体では現
実的なものではなく、現象としての事物がそこに現れることが
可能であるための形式。
•
空間は、現象としての事物があってはじめてそこに限界づけら
れるものとして存在する。可能的でしかない空間が、現実的諸
現象を限界づけることはできない。
30
空間
「空間は(それが満たされていようと空虚であろう
と)、諸現象によって限界づけられうるが、諸現象
は諸現象の外なる空虚な空間によっては限界づけら
れえない」A432-3/B460-1
✤ ただし、反定立では、証明の前提として、世界の限
界が仮定されている。したがって、カントは、この
場合には絶対時間と絶対空間があくまで想定されね
ばならないとする。
31
現象界と叡知界
カントは、
•
感性界あるいは現象(フェノメノン)として
の世界mundus phaenomenon,
•
叡知界mundus intelligiblis
という2つの世界を考えている。
ここでは感性界だけが問題。
32
Q.カントの証明は、本当に上手くいって
いるのか?
33
カントの証明に対する批判
• カントの証明は、循環論証。
• アンチノミーとして、そもそも成立して
いない。
• カントのとる哲学的前提を受け容れ
て、はじめて成り立つ論証。
34
第一アンチノミー
定立(テーゼ)
(a) 世界は時間において始まりをもち、(b) 空間に
関しても限界のうちに囲まれている。
反定立(アンチテーゼ)
(a) 世界はいかなる始まりももたず、時間に関して
無限である、また、(b) 世界は空間におけるいか
なる限界ももたず、空間に関しても無限である。
35
第一アンチノミー
定立の証明の問題点
•
カントの定立の前半 (a) の証明は、「無限の世
界系列が不可能」とする前提に依存している。
•
しかし、まさにそのことが定立の主張そのもの
だった。
•
なぜなら、無限の世界系列が不可能ならば、世
界に始まりがなければならないことは、即座に
導けるから。(岩崎)
36
第一アンチノミー
定立の証明の問題点
•
スミスは、(a)の証明について、「完成する」ないし「過ぎ去
る」(verfließen)という語の使用が不正だとする。
•
もし、無限を決して完成されえないものとして定義するなら、
時間系列は現実的無限ということになる。
•
このとき、その中の系列のいかなる点も、時間系列の始まりな
いし終りに近くも遠くもない。
•
したがって、選ばれた点で、系列が「完成」するわけではな
い。
•
またカントは過去の制限に限定して議論しているけれども、こ
れもちとおかしい。(スミス)
37
第一アンチノミー
定立の証明の問題点
•
•
アンティノミーの反証には、定立か反定立か、一方を否定すれば十分。
そこでラッセルは、定立に関して「継起的な総合によって完成すること
が不可能である」として系列の無限性を定義するのは誤り、と主張。
•
カントは、世界に始まりがないと仮定すると、事象からなる無限の系列
が与えられるはず、とする。そして、無限の系列は有限の時間内には完
成しえないのだから、世界に始まりがなければならない、と結論した。
•
しかし、これは終わりのない心的な系列であり、カントはこの心的な系
列を、現在を終わりとしたときの、終わりのある物理的な系列と混同し
ている。(ラッセル)
38
第一アンチノミー
定立の証明の問題点
•
カントは、定立の後半の証明 (b) で、無限な空間の踏破
可能性を思考することは、無限な系列の完成を意味し、
そのことは無限な時間を要すので不可能、としている。
•
•
ここでは、空間の問題が時間の問題に還元されている。
無限な世界の思惟の不可能性から、無限な世界そのもの
の存在の不可能性を帰結している(論理的飛躍)。
•
つまり、主観的不可能性から、客観的不可能性を推論す
る誤りをおかしている(ケンプ スミス)。
39
第一アンチノミー
反定立の証明の問題点
•
カントは、(a)の証明で、空虚な時間のうちには事物が存在
しないので、事物の始まりの制約を含みえない、と前提。
•
しかし、先行する事物によって制約されないからこそ、世
界の始まりはそう呼ばれうるのである。
•
この前提そのものが、世界に始まりがないことを意味して
いる。
•
したがって、始めから反定立の主張を前提している。(岩
崎)
40
第一アンチノミー
反定立の証明の問題点
•
カントはここで、空間と時間が現実的無限である
と仮定して証明している。したがって、カントは、
現実的無限が自己矛盾的だとは考えていない。
•
カントの証明は、「世界」として何を理解してい
るかに依存している。
•
もし世界が単に「物質的世界」を意味するなら
ば、その非存在が、空虚な空間と時間だけを残し
たりはしない。
41
第一アンチノミー
反定立の証明の問題点
•
他方で、世界が「在るものすべて」を意味する
ならば、その非存在の想定は、そのあらゆる可
能な原因の非存在のようである。
•
しかしこの想定は不可能。というのもカントに
よって普遍的に妥当するとされる「因果律」に
反することになるからである。
•
したがって、カントの議論は不可能な想定にも
とづく。(スミス)
42
第一アンチノミー
反定立の証明の問題点
•
後半 (b) の証明は、空虚な空間と世界との関係は無意味であ
る、なぜなら、それらの関係を考えることができないから、
という前提に基づく。
•
しかし、なぜ空虚な空間と世界との関係を考えることができ
ないのか?
•
カントは空間は「外的直観の単なる形式」であるから、世界
と空虚との関係は無意味とする。
•
しかしそれは、空間が独立して存在する実在的対象ではな
く、単なる形式にすぎないとするカント独自の考えを受け容
れてのみ成り立つ(岩崎、スミス)。
43
第一アンチノミー
反定立の証明の問題点
•
•
そして、(b)の証明もまた、循環論証になっている。
カントの証明は、事物は他の事物によってのみ限界づけ
られるのであり、空虚は何ものでもないので限界づける
ことができない、という想定に基づく。
•
ここでは、空虚な空間は無限であることが前提されてい
る。
•
したがって、世界が空虚な空間によって限界を持たない
から、世界は空間的に無限である、という循環をおかし
ている。(岩崎)
44
カントは何がしたかったのか?
•
純粋理性は、互いに矛盾する命題を導いてしま
う。
•
純粋理性が不可避的に陥ってしまう誤りを示し
たかった。
•
純粋理性の限界を見極め、合理論者の誤
を正
すとともに、経験の可能な範囲にあるものを正
確に理解することで、経験論者の誤
も正す。
45
カントの議論を診断する
•
定立と反定立は、たしかに相反する主張であ
る。
•
しかし、アンティノミーの議論が、成功して
いるとみなす必要はない。
•
証明に失敗し、アンティノミーの提出に失敗
しているからといって、その議論が無価値に
なるわけでもない。
46
参考文献
•
カント、『純粋理性批判』中、カント全集5、有福孝岳
[訳]、岩波書店、2003年。
•
岩崎武雄、『カント『純粋理性批判』研究』、岩崎武
雄著作集第7巻、新地書房、1982年。
•
Norman Kemp Smith, A Commentary to Kant’s ‘Critique of Pure
Reason’ 2nd ed., 1923 (Reprint: 1979 The Macmillan Press).
•
石川文康、『カントはこう考えたーー人はなぜ「な
ぜ」と問うのか』、ちくま学芸文庫、2009年。
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