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暑中期間に製造・運搬されるコンクリートの温度推定式に関する研究
暑中期間に製造・運搬されるコンクリートの温度推定式に関する研究 米谷 裕希 1.はじめに θ0:JASS 5 中の解 13.2 式で求められる温度(℃) 暑中コンクリート工事における種々の「わるさ」は, 主として練混ぜ,運搬,打込みおよび初期養生までの比 較的短期間におけるコンクリート温度の上昇に端を発す る。したがってこの間の温度上昇の抑制が構造体コンク θr:相当外気温(℃)6) α:外気とコンクリートとの熱の伝達の割合を表す係 数(1/時間) β:セメントの水和熱および材料間の摩擦熱による温 リートの品質低下抑制に効果的である。練上がりから荷 度上昇量(℃) 卸し時までのコンクリート温度管理の重要性に伴い, t:輸送時間(時間) JASS5 等にはこれを簡易に算定するための温度推定式が 3.温度推定式中の係数βに関する実験概要 記載されている 1)2)。 3-1.実験概要 上記温度推定式中,練混ぜ中の温度上昇を表す係数β, 実機実験を行った各プラントの概要,測定対象とした 運搬に関わりの深い係数αおよび項θr において,βおよ コンクリートの使用材料,調合を表 1 に示す。材料温度 びαの値は各工場においてあらかじめ定めておくことが およびコンクリート温度はそれぞれ,ミキサ直上の計量 望ましいとされている。θr は「トラックアジテータのド 瓶と排出ホッパで熱電対を用いて測定した(プラント D ラム内の空気温度」とされている。係数αおよびβにつ を除く) 。基本的に自動測定としたが,骨材のみ計量瓶内 3), を改造して熱電対を設置頂いたプラントを除き,先端に 実機レベルでの測定例は少なかった。そこで実機レベル 熱電対を固定した棒を計量の都度骨材に挿入して測定し での実験を行い,これらの値や温度上昇の要因について た。2013 年の暑中期間においては,実際の練混ぜ中温度 検討を行った。 変化を確認するため,プラント E において,ミキサに使 いて実験室レベルでは多くの検討が行われているが また,前述した温度推定式の他にも,土木学会「コン 用されているボルトに直径数ミリ程度の穴をあけ,そこ クリート標準示方書」および日本建築学会「寒中コンク からミキサ内部に熱伝対を挿入し,測定を行った。 リート施工指針」にも運搬中のコンクリートについての 3-2.実験結果および考察 4)5)。このように,複 図 1 にβの値と練混ぜ時間との関係に,現在までに検 数の異なる式が示されていることで,実際に使用する際 討を行ってきた水和熱およびミキサで実測した温度上昇 の混乱を招くものと考えられる。そこで,それらの式を 量を併記したものである。練混ぜ中の水和熱による影響 一元化することを目的とし,それらの温度推定式の比較 は微小である。機械熱および摩擦熱の影響が大きいこと 検討を行った。一方で,そういった温度推定式とは別に, は明らかである。ミキサ内の実測においても温度上昇が 近年普及し,短時間で複雑な計算を可能にした表計算ソ 確認され,温度推定式中のθ0 とβの和が練上がり温度と フトによる運搬中コンクリートの温度解析を試みた。 なることが明確になった。 2.コンクリート温度の推定式 4.推定式中の係数αおよび項θr に関する実機実験 温度推定式がそれぞれ示されている 式(1)に示すコンクリートの温度推定式は,練上がり後, 4-1.実験概要 トラックアジテータなどで運搬されるコンクリート温度 実験は広島県福山市内のレディーミクストコンクリー の単位時間当たりの変化量が,外気温とコンクリート温 ト工場で,2013 年 8 月 10 日に実施した。実験項目の一覧 度との差に比例すると仮定して求められたものである 3)。 を表 2 に示す。4 台のうち 2 台に関しては,運搬中の水和 θ(t)=(θ0-θr+β)・exp(-α・t)+θr の進行を停止させ日射,内部摩擦および機械熱のみの影 (1) 響を検討するため,並びにできるだけ長時間にわたりデ ここに, ータを得ることを目的として安定化剤 7)を添加したもの θ(t):時刻 t におけるコンクリート温度(℃) 55-1 表 1 各プラントの概要,使用材料,調合 プラント A B C D E 所在地 福岡市 福岡市 熊本市 都城市 福山市 ミキサ(m3) 強制(2.50) 強制(1.50) 強制(1.67) 傾胴(1.50) 強制(2.25) 骨材貯蔵 サイロ ストックヤード ストックヤード ストックヤード ストックヤード 測定時期 夏,冬 夏,秋,冬 夏 夏 夏 データ数 128 84 23 10 60 水 上澄水 水道水 玄界産海砂 細骨材 地下水 玄界産海砂 地下水 上澄水 海+山+砕砂 大崎町菱田産陸 砂 津久見産石灰砕砂+砕砂+ 高炉スラグ 粗骨材 山口+津久見産 砕石 下関産砕石 砕石/ 人工軽量骨材 財部町北俣産砕 石+大崎町菱田 産陸砂利 瀬戸町産砕石 FA - Ⅱ種 - - - 混和剤 AE 減水剤/SP 42 15 N 40 AE 減水剤/SP 18 15 N 69.7 24 18 N 56.8 27 15 N 53.0 18 8 BB 57.0 18 5 BB 57.0 24 15 N 57 24 18 N 53 18 18 N 69 30 18 N 49 W 178 170 170 160 170 178 178 175 184 174 144 138 182 180 195 180 C 324 396 425 400 448 323 384 251 324 328 253 242 320 340 283 368 W/C(%) 40 18 N 40 AE 減水剤 33 18 N 46 Sl(cm) 36 18 N 43 AE 減水剤 24 18 N 55 セメント 24 18 N 55 AE 減水剤/SP 42 21 BB 38 呼び強度 *「a/b」は,同一調合で材料 a または b を使用, 「c+d」は材料 c と d を同時に使用することを意味する 開始した。アジテータドラ ム内のコンクリート温度, ドラム内の空気温度の経 時変化を練上がり直後か ら各条件とも約 10 分おき にドラムの回転を停止し て,熱伝対をドラム内に挿 入して測定した。外気温と して付近の日陰で空気温 度を測定した。コンクリー トの練上がり温度は,高温 化での経時変化を検討す るため,JASS5 で規定され ている 35℃を基準にその 図 1 練混ぜ時間とβ 前後を目標とした 1)。 は4時間程度,安定化剤を添加しない 2 台については 2 4-2.実験結果および考察 時間程度測定を行った。また,No.4 のみドラムカバー無 図 2 にコンクリートおよび気温の経時変化を示す。実 しとし,その影響を検討した。10:00 に No.1 の練混ぜを 験当日の天候は,快晴となり,全測定時間にわたり日射 開始し,以後 15 分おきに No.2,No.3,No.4 の練混ぜを が遮られることはなかった。No.1 と No.2 を比較すると, No. 輸送量 1 2 3 4 4.0m3 表 2 実験項目の一覧 直達日 ドラムカ 安定化 射 バー 剤 有 無 無 有 有 無 有 実験中,走行させた場合と待機させた場合とで大きな差 運搬条 件 走行 待機 走行 走行 はみられなかった。 No.3 と No.4 を比較すると, 最大で 2℃ 程度の温度差がみられ,これはドラムカバーの有無の影 響と考えられる。 また, 安定化剤を用いなかった No.1 は, 用いた No.3 と比較して練上がり時から温度が高くなって いる。これは水和発熱および練混ぜ抵抗の影響と思われ 55-2 43 るが,その後の温度上昇も大きい。図 3 に今回測定を行 った 4 台について算出したおよびθr を示している。θr 42 は外気温に対してほぼ同程度となった。αは安定化剤を 41 用いない通常のコンクリートで 2.0~2.6 の範囲内となっ 40 た。本実験結果を含め,αは現在までに 0.4~2.6 程度の 39 値が得られている(JASS5 解説表では 0.4~1.8)1)。 38 5.各種温度推定式の検討 37 5-1.概要 36 No.1 No.4 No.2 気温 No.3 ここで,式(2)に土木学会コンクリート標準示方書に記 35 0 50 100 150 200 運搬時間(分) 載されている温度推定式を示す。運搬過程においてコン クリート温度が低下する程度は通常運搬および打込み時 41.0 41.0 No.1 No.3 40.0 ここに, T0:周囲の気温(℃) T1:練混ぜたときのコンクリート温度(℃) T2:打込み終了時のコンクリート温度(℃) コンクリート温度(℃) (2) コンクリート温度(℃) 40.0 T2=T1+0.15(T0-T1)t 39.0 θ(t)=(36.4-θr)*exp(-α*t)+θr α=2.1 θr=37.4 38.0 37.0 36.0 39.0 θ(t)=(36.0-θr)*exp(-α*t)+θr α=1.0 θr=36.5 38.0 37.0 36.0 運搬中の平均外気温 37.5℃ t:練り混ぜてから打込み終了までの時間(h) 運搬中の平均外気温 39.1℃ 35.0 41.0 35.0 41.0 No.2 おり,練上がり後の経過時間により温度低下の速 さは異なり,練上がり後最初の 30 分間については, 荷卸時のコンクリート温度と周囲の気温の差の 30%程度,その後は 15%であるとしている 5)。 θ(t)=(36.3-θr)*exp(-α*t)+θr α=2.6 θr=37.2 39.0 38.0 37.0 36.0 0 20 40 練上がり後最初の 30 分間 38.0 37.0 θ(t)=(35.6-θr)*exp(-α*t)+θr α=0.50 θr=39.4 36.0 運搬中の平均外気温 39.1℃ 60 80 100 運搬時間(分) 35.0 120 0 40 80 120 160 200 240 運搬時間(分) 図 3 αと θr (3.1) 練上がりから 30 分以降 T1=T2+0.15(T2-T0)(t+0.5) 39.0 運搬中の平均外気温 38.4℃ 35.0 T1=T2+0.30(T2-T0) コンクリート温度(℃) 針・同解説には式(3.1)および式(3.2)が示されて No.4 40.0 40.0 コンクリート温度(℃) また,日本建築学会寒中コンクリート施工指 300 図 2 コンクリート温度と外気温 間が 1 時間につき,コンクリート温度と周囲の気 温との差の 15%としている 4)。 250 5-2.考察 (3.2) 実測値と推定式による結果の一例を図 4 に示す。暑中 ここに、 期における温度推定では練上がり温度が気温よりも高い T0:周囲の気温(℃) 場合でも,日射の影響等によりコンクリート温度は上昇 T1:コンクリートの練上がり温度(℃) するため,式(2)では暑中期に適用することはできない。 T2:指定した荷卸時のコンクリート温度(℃) また,図 5 に示した式(3.2)の検討結果からもわかるよう t:運搬時間(h) に,式(3.2)は周囲の気温 T0 に近づいていく。寒中期で は暑中期と異なり,強い日射の影響を考慮する必要がな (式 1)も含めたこれらの式について,夏期に行った実験結 いため,妥当な温度推定ができるものと考えられ,寒中 果を用いながら,一元化することを目的に,検討を行っ 期の温度推定式は暑中期には適用できないということに た。 なる。逆に,暑中期に用いることのできる式(1)を寒中期 55-3 38.0 38.0 41.0 運搬開始から30分経過後 37.5 36.5 T2=34.9+0.15(T0-34.9)t T0=40.1 R=0.95 36.0 35.5 T0にドラム内の空気温度を 用いた場合( T0 =34.4) 35.0 40.0 37.0 コンクリート温度(℃) 実測値 37.0 コンクリート温度(℃) コンクリート温度(℃) 37.5 36.5 T0=40.3 36.0 35.5 35.0 34.5 T2=(34.9+0.15×34.4(t+0.5))/(1+0.15×(t+0.5)) 34.5 34.0 0.0 T0に平均気温を用いた場合( T0 =33.6) 1.0 1.5 2.0 運搬時間(h) 0.5 2.5 3.0 34.0 0.0 39.0 実測値 38.0 37.0 解析値 36.0 平均気温39℃ 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 35.0 0 0.5 1 運搬時間(h) 図 4 式の検討① 図 5 式の検討② 1.5 2 2.5 運搬時間(h) 3 3.5 4 図 6 実測値と解析値 実験結果の比較では,ほぼ精度よく推定できていること に適用させることができれば,式を一元化することは可 がわかる。 能だと思われるが,これまでに述べてきたように式(1)に おける係数等の値を寒中期でも検討することは,コス 7.まとめ ト・労力ともに非常に大きい。そこで,これらの温度推 練混ぜ中の温度上昇量βは 2~2.5 を用いればよく,実 定式を用いずとも,表計算ソフトを用いた簡易な温度推 測値も練混ぜ時間が長くなるにつれて,高くなる傾向を 定を試みた結果,暑中期においては精度よく推定できて 示したため,温度上昇の要因として,機械熱や摩擦熱の おり,寒中期でも適用でき得ると考えたため,次節にそ 影響が強いと考えられる。αおよびθr については,現在 の概略を示す。 までに複数回,実機実験を行ってきたが,一般に用いる ことのできる値を示すためには,さらなる労力を要し, 6.表計算ソフトによる温度解析 また複数の温度推定式を一元化する際にも,その値の決 6-1.概要 定が大きな障害となりかねない。一方で,表計算ソフト 運搬中にコンクリート温度が上昇する要因は,主として, による温度解析ならば,運搬する地域の日射量や気温、 ドラムを介しての直達日射,同じく外気との熱伝達,お ドラムの色(厳密には反射率)等の諸条件を反映させるだ よびセメントの水和熱という 3 つの要素であると考え, けで,温度推定式を用いずとも比較的容易に温度推定を 解析で考慮した。ドラム内のコンクリート温度は場所に 行うことができる。 よらず同程度であったことから,コンクリートの温度分 〈参考文献〉 布を考慮する必要がないため,各時間ステップ⊿T におい 1)日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コ て,先述した熱の流入/流出を考慮し,(式 4)のように次 ンクリート工事 2009 のステップの値を考慮した。 2)暑中コンクリートの施工指針・同解説,日本建築学会,2000 3) 松藤泰典,大久保孝昭,小山智幸,眞方山美穂,原博志, ΔT=(ΔQc+ΔQs+ΔQt)/Ccon (4) 暑中環境下で練混ぜ・運搬されるフレッシュコンクリート の温度推定に関する研究,日本建築学会九州支部研究報告, ΔT:Δt(秒)間における運搬中のコンクリート温度上昇 (℃) pp.85-88,1991.3 など 4)コンクリート標準示方書[施工編],土木学会,2012 5)寒中コンクリート施工指針・同解説,日本建築学会,2010 Qc:セメントの水和発熱量(J) 6)大川裕,小山智幸,小山田英弘,松本侑也,暑中コンクリ Qs:直達日射エネルギー(J) ートの運搬中の温度上昇に関する研究その 6.温度推定式に Qt:外気との熱伝達(J) おけるα,θr に及ぼす日射の影響 2,日本建築学会九州支 Ccon=コンクリートおよびドラムの熱容量(J/K・m ) 3 部報告,pp.177-180,2012.3 など 7) RC クリーン協会, 戻りコンクリートを有効活用する方法, 1999.10 6-2.解析結果 実測値と解析結果の比較が図 6 である。暑中期における 55-4