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北上川流域水循環計画
北上川流域水循環計画 【概要版】 ~北上川流域の健全な水循環を守るために~ 宮 城 県 1 計画の目的 私たちひとりひとりが,身近な川やその支流の流域に暮らし,育まれている ことを再認識し,みんなが協力して,ふるさとの森や自然豊かな里,清流, 湖沼,海を守るためにできることを考え,積極的に取り組み,次世代に豊 かな流域を引き継ぐことを目的とします。 この計画は,北上川流域の健全な水循環の保全を目指し,流域の上流から下流までが一体となり,県民,民間団体,NPO 法人,事業者,行政機関等による連携・協働を図っていくための具体的な目標や施策を定めたものです。 健全な水循環とは 流域を中心とした一連の流れの過程において,人 間社会の営みと環境保全に果たす水の機能が,適 切なバランスの下に確保されている状態をいいます。 宮城県水循環保全基本計画(平成18年12月策 定)では,健全な水循環を構成する要素として, 「清らかな流れ」,「豊かな流れ」,「安全な流れ」,「豊かな 生態系」の4つを取り上げ,これらの要素に配慮した施策 を講ずることで,健全な水循環がもたらす恩恵を維持・回 復することができるとしています。 2 計画の対象区域,計画期間 対象区域は,宮城県水循環保全基本 計画(以下,「基本計画」という。)により区 分された,北上川,旧北上川,迫川,江合 川及び定川の各流域を対象とします。ま た,計画期間は,平成22~31年度の10 年間とします。 ※対象市町村 石巻市の一部,登米市,栗原市,東松島市の 一部,大崎市の一部,涌谷町,美里町の一部 3 図1 北上川流域(計画対象区域) 計画策定の考え方 流域の水循環の特徴や基本計画を踏まえ,流域の水循環の課題への対応や将来にわたって健全な水 循環を保全するための具体策を示すものとします。 1.北上川流域の水循環の特徴(環境,自然,社会特性)を把握 ◎水質の状況(伊豆沼,石巻湾など) 伊豆沼,長沼などの湖沼で水質環境基準が未達成となっています。 ◎利水の状況(河川流量,水収支など) 農業用水の利用が多く,北上川は県外からの流入量が多くなって います。 ◎治水の状況(河川整備率など) 河川整備率は他の流域と比べ低い状況となっています。 ◎豊かな自然環境(希少種の生息など) 多くの渡り鳥が飛来する伊豆沼・内沼・蕪栗沼など豊かな自然環境が 残されています。 1 世界谷地湿原と栗駒山 2.基本計画における施策の方向性 ●施策実施時の視点 北上川流域の健全な水循環の保全 水は流域単位で上流から下流 へ流れ海にたどり着いた後,水蒸 気となり再び上流に戻るという水 各主体による水循環にかかわる取組の推進 循環の特性から,問題の生じてい ①施策の連携 ②上流域と下流域の連携 ③各主体間の連携・協働 る地点に着目しその解決を図る 「場の視点」に加えて,流域全体 を視野に入れた「流れの視点」に 流 れ の 視 よる取組が重要であり,基本計画 流域の課題解決に向けた 取組の設定 では,3つの視点に着目して施策 を実施することとしています。 点 北上川流域の水循環に関わる状況の把握 「清らかな流れ」,「豊かな流れ」,「安全な流れ」,「豊かな生態系」 図2 流域の課題解決のためのアプローチ 4 計画の目指す将来像及び流域の課題 基本計画に示された4つの要素ごとの基本目標が満足している状態を将来像とし,将来像実現のために 流域の現況及び各主体からのアンケート結果,意見等を踏まえ,要素ごとに流域の課題を整理しました。 計画の目指す将来像 流域の課題 (清らかな流れ) 清らかな川が流れ,きれいな湖沼や海があ ■ラムサール条約登録湿地,石巻湾等の水域の る流域 水質改善及び河川水質の維持 河川,湖沼及び海域の水質が水質環境基準を満足してい る状態を目指します。 (豊かな流れ) 水源の森が保全され,安定した豊かな水が ■渇水時における節水や水利用の調整 流れる流域 ■ダム上流域等の水源林の整備,保全 山間部は,森林によって雨水が地下水としてかん養され, 湧水が至るところで豊富に湧き出ており,河川は,常に正常 な機能を維持できる水量を有している状態を目指します。 (安全な流れ) ■災害時の流木対策や森林整備による災害の未 住民が安心して生活できる流域 然防止 河川整備がなされている(洪水の被害が少ない)状態を目 指します。 ■洪水時の防災体制の強化 ■河川整備による洪水被害の防止,軽減 ■豊かな水田環境の保全と農業用ため池の保全 管理 (豊かな生態系) 多様な生き物が育まれる自然豊かな流域 多様な生態系が保全され,バランスが保たれている状態を 目指します。 2 ■ラムサール条約登録湿地及び河川・水路等の生 物多様性の保全 5 具体的な施策と取組 1.行政機関による具体的取組 流域の課題を踏まえ,計画の目指す将来像を実現するため,4つの要素ごとに具体的取組を設定しまし た。設定した取組については,関係行政機関がそれぞれの役割に応じ,協力しながら関連する健全な水循 環の保全に配慮した事業を実施します。 流域の課題 課題に対する対応 ●ラムサール条約登録湿地,石巻湾等の水質調査等 ・伊豆沼・内沼自然再生事業 水質改善導水試験調査 ・公共用水域水質測定計画に基づく水質測定調査 ●生活排水処理基本構想に基づく汚水処理人口普及率の向上 (清らかな流れ) ■ラムサール条約登録湿地,石巻湾等 の水域の水質改善及び河川水質の維持 (豊かな流れ) ■渇水時における節水や水利用の調整 ■ダム上流域等の水源林の整備,保全 ●農地・水・環境保全向上対策等に基づく地域の水環境保全活動 ●みやぎの環境にやさしい農業の推進 ・みやぎの環境にやさしい農産物認証・表示制度の運用 ・持続性の高い農業生産方式(エコファーマ―)の推進 ・みやぎの有機農業推進計画に基づく有機農業の推進 ●家畜排せつ物の利用の促進を図るための宮城県計画に基づく家畜排せつ 物の利用促進 ●スマイルサポーターによる美化活動などの推進 ●伊豆沼・内沼自然再生事業 ●みやぎ e 行動(eco do!)宣言に基づく節水及び環境保全行動の実践 ●渇水情報連絡会等での情報の共有 ●みやぎ森林・林業の将来ビジョンに基づく森林整備・保全 ●農業用水水源地域保全対策事業による水源林保全の普及促進 (安全な流れ) ■災害時の流木対策や森林整備による 災害の未然防止 ■洪水時の防災体制の強化 ■河川整備による洪水被害の防止,軽 ●みやぎ森林・林業の将来ビジョンに基づく・森林整備・保全等 の推進 ●地域防災力の強化 ●河川情報システムによる情報提供 ●河川整備計画に基づく河川改修の実施 ●農地・水・環境保全向上対策等に基づく地域の水環境保全活動 減 ■豊かな水田環境の保全と農業用ため 池の保全管理 (豊かな生態系) ■ラムサール条約登録湿地及び河川・ 水路等の生物多様性の保全 ●伊豆沼・内沼自然再生事業 ●蕪栗沼遊水地環境保全事業 ●みやぎ農業農村整備基本計画に基づく環境との調和に配慮した 整備の推進(みやぎ農業農村整備基本計画(改訂版)) ●河川の生態系保全対策の推進 ・多自然川づくりの実施 ・在来個体群の保全 ●農地・水・環境保全向上対策等に基づく地域の生態系保全活動 ●水環境保全の普及啓発 水生生物調査 ●水生生物の保全に係る環境基準の類型指定 3 2.活動団体による水循環保全活動や身近な水とのふれあい(親水)活動の推進 民間団体,NPO法人,事業者等の水循環の保全にかかわる地域の活動団体は,健全な水循環の保全に 配慮した活動や身近な水とのふれあい(親水)活動を推進します。また,関係行政機関は,活動団体の活動 を支援します。 <関係団体の水循環保全活動や身近な水とのふれあい活動の事例> ●河川や海岸の清掃活動 ●河川,湖沼等水質保全活動 清掃活動 ●水源林等森林の保全, 整備活動 水質調査 ●河川,湖沼,干潟等の野生生物の保全活動 植樹活動 ●河川,湖沼をフィールドとした野外活動 水生生物調査 カヌー体験 <関係団体への活動支援事例> ●水循環に関する情報提供や助言 ●保全活動への参画,後援,普及啓発 ●公共施設や機材の利用に関する便宜供与 ●事業の委託 ●活動の自立を促す各種支援 ●保全活動団体の表彰 ●「親水」活動の場の環境整備 等 6 計画推進のための方策 1.各主体に期待される役割 流域の健全な水循環の保全を推進するためには,県民,民間団体,NPO法人,事業者,行政機関等の各主体が,それぞ れの立場に応じた役割分担のもと,自主的・積極的に水循環の保全施策に取り組む必要があります。また,その取組は,施 策間の連携,上流域と下流域の連携,各主体間の連携を意識して行います。 家庭での取組例 事業者の取組例 流域全体での取組例 ・油の汚れや食べ残しを ・事業所からの廃水を適 ・水源林の植樹活動、田んぼの 水に流さない ・節水を心がける ・家庭でできること,地 域で協力できることを 話し合う 正に処理する ・地域の保全活動に参 加・支援する ・社員等への環境意識向 上のための教育を行う 4 生き物調査などの環境教育, 河川・湖沼海岸の清掃活動な どのきれいな水をつくり守る ための活動に積極的に参加す る 2.取組の進行管理 県は計画の推進に当たり,各部局におけ るそれぞれの取組の実施状況を把握し,全 庁を挙げた取組を推進します。 また,国,市町村等関係行政機関や NPO 法人,民間団体,事業者等関係団体の活 動状況についても情報の共有化を図りなが ら,進行管理を行います。 関係行政機関による各種取組については, 新たな取組も含めた各取組の実施状況を 定期的に取りまとめ,必要に応じて会議等 を開催し意見交換を行うなど,取組のレベ ル向上を図ります。 図3 計画の推進体制 3.管理指標 健全な水循環の状況を把握するための管理指標を以下のように定め,水循環の保全に係る取組による変 化を定期的に確認し,状況の変化を参考としながら順応的に取組の見直しを行います。 項目 清らかな流れ 管理指標 管理項目 モニタリング地点等 BOD 環境基準点 (河川 16 地点) COD 環境基準点 (湖沼 5 地点,海域 6 地点) 水質環境基準達成状況 目指すべき方向性 達成率の維持向上 豊かな流れ 健全なかん養量 流出係数 流域市町村 健全なかん養量の 維持 安全な流れ 河川整備状況 河川整備率 県,市町管理区間河川 整備率の向上 豊 か な生 態 系 水生生物保全 水質環境基準達成状況 全亜鉛 旧北上川,迫川,江合川 達成率の維持(向上) ※流出係数:流域内に降った雨量のうち河川への流出量の割合を表わす係数 4.普及啓発 県は,健全な水循環の保全に対する県民の意識醸成や関係機関及び活動団体の取組内容等をホームペ ージなどで情報発信し,広く周知することで効果的な普及啓発の推進に努めます。 5 7 水道水源地域の指定 1.水道水源特定保全地域 流域の健全な水循環を保全するため,ふるさと宮城の 山間部の森林地域の水かん養機能 水循環保全条例において,『山間部の水道水源地域のう 流域の水循環の出発点であり重要な水かん ち,その地域の良好な水循環の保全を図る上で特に重 養機能を有し,生態系が安定した生命活動が 要と認められる区域』を指定できるとされています。 具 盛んな天然又はそれに近い山間部の森林地域 体的には,流域の水循環の出発点である重要な水かん は,保水力の高い土壌の形成,地下水のかん 養機能(降水を土壌に浸透・保水させて,その後,時間を 養,雨水の浄化機能など水道水源を良好に保 かけ 河川へ水を供給する機能)を有しており,生態系が つ上で重要な役割を果たしています。 安定し,生命活動が盛んな天然又はそれに近い山間部 の森林地域から選定することとしています。 2.指定の必要性 北上川流域には,上流部の「花山ダム」,「上大沢ダム」などが水道水源として利水目的を有しており,将 来にわたり水環境の保全を図ることが必要な水域です。このため,水道水源特定保全地域を設け,地域内 の開発行為に対し届出を義務付け,良好な水循環の保全を図るための必要な措置を指導するなどによ り,適切に管理していく必要があります。 3.指定指標 平成9年に策定された前宮城県環境基 本計画において,県内の植生の現況を 数量化し 10 段階の評価をした「植物自然 充実度(植生評価度)」をもとに保全地域 を設定していきます。 ※植物自然充実度は,水循環保全基本計画 において「豊かな生態系」を評価した指標の一 つです。 4.指定区域 優れた自然環境とされている「植物自 然充実度8~10の区域」を保全地域に 指定します。 図4 6 植物自然充実度現況図 家庭でできる取組 日常生活に欠かせない大切な水は、家庭でも簡単に楽しく節水することができます。 ここでは家計にも環境にも優しい取組をいくつかご紹介します。 お風呂 残り湯を洗濯や洗車、散水に使用し、 1 日約 200ℓの節水 洗 一般家庭の浴槽には一杯で約 200ℓ入り、そ の量をシャワーに換算すると約 16 分間使用 することになります。浴槽にお湯があるのに シャワーを使用したり、水のためすぎや沸か しすぎに注意するだけ大分節約になります。 濯 浴槽1/2 の残り湯を使用することで 約 90ℓの節約 洗濯時の注水すすぎで約 165ℓの水を使用 しますが、ためすすぎにすれば約 110ℓの 水ですみます。洗濯の残り湯を最初 1 回だ け再利用すれば約 50ℓの節水にもなりま す。 冷水よりも温かい残り湯を使用す 電動式ポンプ等使用し、残り湯を洗 ることで洗剤も少量使用で済むた 濯や洗車、庭の散水に再利用しまし め洗浄能力も高くなります。 ょう。 洗 車 バケツに水をくんでおこなえば、 約 210ℓも節水 洗 顔 洗面器に水を溜めて洗顔を行えば約 24ℓの節水 ホースの流しあらい(20 分間)すると約 240 ℓの水を使用しますが、風呂の残り湯をバケツ に水をくんで行うと 30ℓ程度の水量で済みま す・ バケツにくんで洗えば約 30ℓの 流水しながら洗顔すると、1 分間に約 12 ℓ の水を使用します。洗面器に水を ためたり止めながら洗顔を行うと、 4 分の1の使用量で済みます 水ですみます。水を使用しない時 節水コマ※によって蛇口の流 はすぐに止めるようにしましょう。 量を制限できます。 ※節水コマ: 歯磨き コップに水を汲んで使用すると、 流水状態に比べて約5ℓ節約 歯磨きをする際、30 秒間流水状態にしてい ると、約6ℓの水を使用します。歯磨きの時 には水をとめ、コップに汲んで使用すれ 10 分の1の量の水ですみます。 歯磨きをする前にコップに水をい れておくことを習慣にしましょう。 炊 事 ため洗いだと 90ℓ節水。節水コマで 1 分間に6ℓも節水 ため洗いで食器洗いを行うと 90ℓの節水が 可能な上、油分を拭き取ってから行うと水 の節約だけではなく洗剤も減らすことがで き河川の汚濁防止につながります。 野菜やお米を洗った水には栄養 分が含まれているため、樹木など の散水に利用しましょう。 表紙の写真 左上「里山の間伐とホダ木づくり」(NPO 法人鬼首山学校協議会),右上「鳴子ダム上流の水源かん養保安林」,中央「伊豆 沼・内沼」,左下「こども観察体験楽校-皿貝川」(NPO 法人ひたかみ水の里),左下「栗原地方の水源を守る植樹祭-小田ダム」