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下水道事業におけるXバンドMPレーダの 活用検討

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下水道事業におけるXバンドMPレーダの 活用検討
下水道事業におけるXバンドMPレーダの
活用検討
藤村
勝之1・山﨑
憲人2・中山
真二3
1建政部
都市・住宅整備課(〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1丁目1番1号)
2建政部
都市・住宅整備課(〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1丁目1番1号)
3
企画部
防災課(〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1丁目1番1号)
近年,全国的に局地的な集中豪雨が多発し,各地方公共団体が取り組む浸水対策において大きな課題と
なっている.建政部では,この浸水対策を積極的に支援していくことが北陸地方における災害に強い安
全・安心な暮らしの充実を図る上で最も重要な役割の一つであると考えている.
そこで,本稿は,支援策の一つとして,当局管内において運用を開始した新技術(XバンドMPレー
ダ)を活用した支援策を明らかにするため,各地方公共団体の浸水対策等の現状把握,XバンドMPレー
ダの活用事例並びに各地方公共団体のニーズを調査・整理し,支援のあり方を調査・研究するものである.
キーワード 下水道,XバンドMPレーダ,集中豪雨,内水対策
(2)内水による浸水被害
内水による浸水被害とは,主に都市部において一時的
災害が発生すると地方公共団体では,専門的な立場の
な大雨が生じることにより,下水道※2に流れ込む雨水が
職員に限らず,組織横断的な体制で市民の安全・安心を
下水道の排除能力を超えることで発生する浸水被害のこ
守らなければならない.このため,地方公共団体では災
とをいう(図1の①).また,河川上流部で発生した大
害の発生に備えて,限られた職員で対応に当たれるよう, 雨で河川の水位が上昇し,下水道から河川等の公共水域
より効率的な防災対策が必要とされている.
に雨水を排水できなくなることによって生じる浸水も内
このような地方公共団体を取り巻く現状を背景に,建
水による浸水被害に分類される(図1の②).
政部では,近年多発する局地的な集中豪雨について下水
これに対し,河川の水位がさらに上昇し,堤防の決壊
道事業における浸水対策の積極的な支援策の検討をはじ
や河川があふれることを外水による浸水被害と呼び,一
めた.
般的にはこの現象を洪水と呼んでいる.
1. はじめに
2. 概要(現況状況)
(1)調査に至った経緯
下水道事業における内水の浸水対策については国土交
通省下水道部が,平成21年に内水ハザードマップの手引
きを改定し,都市における浸水の軽減を促進してきたが,
現状は思うように進んでいない.その理由の一つに,浸
水シミュレーションに必要な局地的な豪雨等のデータ不
足が挙げられる.
一方,国土交通省水管理・国土保全局では,従来の観
測技術では把握しきれなかった局地的な豪雨を観測でき
る新技術,XバンドMPレーダ※1の導入を始めた.
本稿では,各地方公共団体が抱える内水の浸水対策に
おける課題を整理しながら,管内地方公共団体に行った
アンケート等の結果を元に,都市の浸水対策としてXバ
ンドMPレーダを有効活用した支援策のあり方を提案す
る.
図-1 内水による浸水被害
(3) 地方公共団体における浸水対策の事例と課題
北陸地方整備局管内の地方公共団体における対策の状
況について,新潟県上越市を事例としてその実態と課題
を整理した.
a) 上越市の下水道(雨水)の整備状況
上越市は,分流式下水道※2により雨水管渠の整備を行
っている.全体整備対象面積は3,231.6haあり,そのう
ち1,449.2haの整備が完了し,整備率は44.8%※3(H23年度
末)となっている.
上越市では浸水対策の抜本的な対策として新たな雨水
幹線の整備が有効と考えているが,整備には多額の費用
が必要となるため緊急性の高い箇所から順次整備を行っ
ている.さらに,同じ下水道事業において汚水処理人口
の普及率向上が喫緊の課題とされており,汚水処理施設
の整備が優先されている状況にある.
b) 緊急時の浸水対策
上越市では主に,上越市の中央を流れる一級河川関川
やその支流の水位が上昇し,下水道から河川への排水が
できなくなることで発生する浸水被害が大きな課題とな
っている.このため上越市では独自に「樋門管理マニュ
アル」を作成し豪雨時には,各排水樋門やポンプを管理
する複数の部局や地元住民,関係機関が連携し緊急時の
浸水対策に取り組んでいる.
一方,都市部における内水の浸水対策については,原
因の一つとなる局地的な集中豪雨の影響を予測しマニュ
アル化することは技術的・財政的に難しく,経験的な対
応を余儀なくされている.また,広域な都市部全体を把
握するためには,多くの人員が必要となるため,下水道
部局の職員が過去の浸水被害箇所等の危険箇所を現地確
認するなど,必要最小限の対応を行っている.
c) 下水道における内水の浸水対策への課題
下水道による内水の浸水対策では,整備に多額の費用
が発生する.このため,財政難に苦しむ地方公共団体で
は,整備費用の確保と的確な浸水実績の分析に基づく,
効率の良い浸水対策が重要な課題となっている.
さらに,地方公共団体では,浸水対策と汚水対策が同
じ部署で実施されていることが多く,昨今の職員削減の
影響もあり工事発注などのハード整備をはじめ,内水ハ
ザードマップの作成などのソフト整備における人員不足
も課題となっている.
また,緊急時の体制では,予測が難しい都市部におけ
る局地的な集中豪雨を把握する方法や,浸水被害の発生
を予測し効率的な被害の軽減を図ることが課題となって
いる.
3. 調査方法と手順
こうした地方公共団体の持つ課題を背景に,北陸管内
の地方公共団体を対象として,XバンドMPレーダの利
用・活用の実態とその特徴,課題,ニーズ等を把握する
図-2 調査の進め方フロー図
ため、アンケート及びヒアリング調査を行った.この結
果を基に地方公共団体が費用と人手を掛けずに,整備局
としてどのような支援策が可能か検討を行った.
(1) XバンドMPレーダの利活用実態と課題,ニーズ等
の把握
a)北陸管内における利用状況の調査
北陸管内の地方公共団体を対象にXバンドMPレーダ
の雨量情報配信サイト(以下 XRAINサイト)の閲
覧状況等をアンケート調査し,利用の実態と特徴を把握
した.
b)活用目的,ニーズに関する実態調査
浸水被害が発生した事例のある団体等を対象に活用目
的と課題・ニーズをアンケート調査した.(対象:新潟
県・富山県・石川県,42市町村,1広域事務組合)
また,XRAINサイトの画像活用や浸水実績がある
等,関心が高いと思われる管内の5市を抽出し,ヒアリ
ング調査を実施した.
(2)XバンドMPレーダを活用した支援策のあり方検討
地方公共団体の浸水対策の課題及び,XバンドMPレ
ーダ活用に関する課題やニーズを踏まえ,支援策のあり
方について検討を行った.
4. 調査結果
(1) XRAINサイトの利用状況調査結果
新潟県,富山県,石川県,及び北陸地方整備局管内全
ての63市町村を対象とし、アンケートによりXRAI
Nサイトの「閲覧状況」と「過去 10ヶ年の浸水実績
(河川はん濫以外) の有無」による違いについて調査
した.
全体では,約4割の団体が「サイトの存在を知らな
い」結果となっており,「知っているが業務に活用して
いない」を含めると約6割の団体が活用していない.
特に,過去 10ヶ年で浸水実績(河川はん濫以外)
のない団体では,約8割が活用していない状況となった.
一方で,浸水(河川はん濫以外)が発生している団体
では,約5割が日常的または降雨時にXRAINサイト
を閲覧しており,浸水対策への活用方法を示していくこ
と等で利用が拡大していくものと期待される.
数値データによる雨量情報の活用について以下のとおり
調査した.
(2) XRAINサイトのニーズ・課題調査結果
下水道における浸水対策にXバンドMPレーダ雨量情
報を活用するという観点から,「過去10 ヶ年程度で,
浸水被害(河川の氾濫以外)が発生した団体」又は「下
水道事業に雨水対策が含まれている団体」の条件に合致
する北陸管内地方公共団体を対象に活用の実態と課題・
ニーズ等についてアンケート調査を実施した.
(調査対象:新潟県・富山県・石川県,42市町村,1
広域事務組合)
a)画像データによる雨量情報の活用について
現在XRAINサイトで配信されている画像データに
よる雨量情報の活用について以下のとおり調査した.
雨量情報の数値データは約6割の団体で,「可能であ
れば活用したい」との回答があり,活用の目的としては
「浸水被害発生の警戒・予測」が約8割,「今後の浸水
対策への活用」が約7割となっている.一方で,ほとん
どの団体で,必要な機器,ソフトウェアの用意ができな
いと回答しており,警戒・予測的な活用のニーズは高い
ものの,自らが予測システムを構築して活用できる状況
にないことが伺える.
画像による雨量情報データの活用目的は,「降雨の状
況把握」が約8割と最も高いが,そのうち「降雨域の移
動を動画で表示する機能」を必要とする回答が約8割を
占めていることから,警戒・予測的な活用の意向が伺え
る.
b)数値データによる雨量情報の活用について
現在は配信されていないがデータとして加工しやすい
また,数値データを浸水被害発生の警戒,予測に利用
したい団体のうち約8割を越える団体で「任意期間の累
加雨量」のデータが必要と回答しており,警戒・予測シ
ステムの構築は困難であるため,経験的に予測の参考と
して活用したい意向が伺える.
(3) ヒアリングによる活用・課題・ニーズの調査結果
さらに,XバンドMPレーダを活用している管内地方
公共団体のうち,画像の活用や浸水実績がある等,活用
に関心が高いと思われる管内の5市を抽出し,ヒアリン
グにより詳細な活用の課題・ニーズ等を把握した.
問①「XRAINサイトで閲覧した雨量画像を具体的な
判断材料に使用しているか?」
いずれの市においても,明確な基準値等による判断は
行っていない.施設運用等の基準は,地上雨量計で判断
している.
XRAINサイトの画像で雨域の移動状況等を確認し,
経験的にパトロールの重点地域,施設操作の参考として
活用している.
問②「閲覧した画像を保存し,資料作成等にどのように
活用しているのか?」
XRAINサイトの降雨画像をハードコピー等で保存
しておき,出水後の説明資料に添付する等の活用を行っ
ている.
問③「アンケートで降雨量の予測や雨水ポンプ運転の予
測として利用している回答であったが,具体的にはどの
ような活用方法をしているか?」
XRAINサイトのデータを用いて数値計算等を行っ
ているわけではなく,XRAINサイトの画像で現在の
雨域,雨域の移動状況等を見て,経験的に予測(判断)
を行っている.
b) 浸水対策への活用のニーズ
①画像情報の活用
任意期間の動画による雨量画像表示のニーズが高く,
過去の降雨画像を含め雨域の移動状況等を確認し,経験
的に施設操作等の予測(判断),警戒の参考として活用
したい意向が伺える.
②数値データの活用
「任意期間の累加雨量」データのニーズが高く,過去
の降雨データを含め経験的に施設操作等の予測(判断),
警戒の参考に活用したい意向が伺える.
③その他
数値データを処理するための機器やソフトウェアは自
前では用意できないため,無料で画像データ,数値デー
タを活用できるシステムのニーズがある.
(2) 支援策のあり方
浸水対策への活用の課題,ニーズを踏まえ,以下に地
方公共団体へのXバンドMPレーダに関する支援策のあ
り方を検討した.
a)画像・数値データに基づく経験的な予測,警戒の活用
北陸地方整備局ではXバンドMPレーダのデータ蓄積
装置等の整備が進められており,これをうまく活用して
いく仕組みを作れば,地方公共団体のニーズに対応可能
と考えられる.
ただし,経験的な施設操作等の予測(判断),警戒の
参考としての活用となり,明確な基準値等による判断は
困難と考えられる.
5. 調査のまとめと支援策のあり方検討
【提案①】 新たなWEB表示システムの構築支援
(1) 活用の課題・ニーズ
地方公共団体のニーズとして最も大きかった過去の雨
以上の結果から,XバンドMPレーダの活用に関する
量画像表示,雨量値抽出について,WEBによる配信シス
課題・ニーズを以下にまとめた.
テムを構築することが想定される.数値情報を受信し,
a) 浸水対策への活用の課題
加工・表示するシステムを構築できればコスト縮減,確
警戒・予測的な活用のニーズが高い一方で,数値デー
実な情報利用を実現することができると考えられる.
タを解析して予測するために必要な機器やソフトウェア
b)予測,警戒システムを構築して活用
の用意ができない. (浸水対策に活用していない団体や
警戒・予測的なシステムについては,活用のニーズが
XRAINサイトの認知度が低い要因とも考えられ
高く,活用の拡大が期待されるものの,地域毎に流出係
る.)
数等,パラメーターの設定が必要となり,システムの管
XRAINサイトを浸水対策に活用する方法等の提案, 理も含め手間・費用がかかるなど,技術的・財政的に地
周知が必要である.
方公共団体自らがシステムを構築することは困難な状況
にある.
【提案②】独自の予測警戒システム構築等への支援
大都市を抱える東京都,中核都市である新潟市などで
こうしたシステムを活用した浸水対策等に関する検討※4
が先進的に進められているものの,地方公共団体の多く
は前記のサイト利用にとどまっている.
下水道への流入量予測や浸水予測などに関し,実用性
のある標準的な数値解析システムの技術的提供や,それ
を用いるために地方公共団体が行う下水道等のデータ作
成,さらには基本データとなる台帳作成,内水ハザード
マップ作成等に関する財政的支援について,既存制度を
継続し拡充していくことが必要と考えられる.
付録
※1 XバンドMPレーダは,国土交通省 水管理・国土保全
局が近年の豪雨対策として導入した雨量観測の新技術である.
このXバンドMPレーダは,従来のCバンドレーダに比べ,時
間的,空間的に詳細な雨量観測をすることができ,その結果を
リアルタイムに配信することが可能になっている.これにより,
これまで把握しきれなかった局地的に発生する一時的な大雨
(いわゆるゲリラ豪雨)を観測することが可能となった.
北陸地方整備局では,平成22年度から試験導入が開始され現
在4基が稼働中である.地方公共団体を含む一般への利用は,
XRAINサイトによる実況監視の閲覧が可能となっているが,
過去のデータを確認することはできない.
※2 下水道は,発生原因を元に大きく2種類に分かれる.一
般家庭や事業所から排出される生活排水や事業所排水は「汚
水」と呼ばれ,降雨によるものは「雨水」と呼ばれている.こ
の2種類を合わせたものが「下水」と呼ばれ,下水道法に基づ
き各地方公共団体が主体となって整備や管理を行っている.
6. おわりに
北陸地方整備局では管内直轄河川の洪水予測や豪雨監
視等のために,XバンドMPレーダのデータ蓄積装置等
の整備が進められている.このシステムでは過去の観測
雨量も蓄積される予定であることから,実況監視のみな
らず,既往豪雨との比較などの各種資料作成にも活用で
き,地方公共団体の情報ニーズに対する基盤システムと
なりうる.
さらに,本システムに内水被害の浸水実績データを反
映させることにより,降雨状況と浸水状況の関連性を分
析し,経験的な浸水予測に活用していくことも考えられ,
今後さらに,下水道と河川が連携・調整していくような
仕組みを構築することが望まれる.
一方で,浸水実績データを得るためには,地方公共団
体の下水道担当者が不足しており,下水道モニターを募
り,インターネットを活用し浸水状況を把握する方法等,
簡便な浸水実績把握方法の提案が必要と考えられる.ま
た,浸水範囲の把握等にTEC-FORCEとして整備局防災ヘ
リコプターを活用した支援の可能性について検討してい
くことも必要と考える.
最後に,「XRAINサイトの存在を知らない」団体
及び活用していない団体が半数以上を占めており,浸水
対策への活用を図っていくためにも,活用方法を提案し
ていくことや河川部の説明会等に下水道部局も参加する
等の連携を図っていきたい.
また,下水道には汚水と雨水を一本の管渠で集め,まとめて
処理する合流式下水道と,汚水と雨水を別々の管渠で集める分
流式下水道の2種類の方式が存在する.前者は,現代における
下水道の整備が始まったころに普及した方式であり,下水道の
インフラ整備が先進的であった大都市ほど,この方式が採用さ
れていることが多い.
※3 都市浸水対策達成率は平成 23 年度末において全国平均約
53%となっている.これは同じ下水道における汚水対策の指標
である汚水処理人口普及率が約 87%(H22 年度末参考値)であ
ることからみても,下水道における浸水対策の整備率は低い状
況にあるといえる.なお,北陸管内では全整備対象区域のうち
整備済区域の割合は約 41%にとどまっている.
※4 東京都における下水道分野における活用事例
下水道関連施設操作への活用【東京都下水道局】
リアルタイムコントロールシステム(雨量,流入量,水位デ
ータをリアルタイムで収集し,管渠・雨水貯留池・ポンプ場等
の各水理施設の能力を十分に引き出せるように,ゲート・堰・
ポンプ等の運転制御を行うシステム)に,独自の X バンドレー
ダー雨量計(東京アメッシュ)の雨量データを活用し,効率的
な下水道関連施設の操作を実施している.
(著者 3 は,2013 年 4 月に建政部 都市・住宅整備課から企画部 防災課に
異動)
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