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ANA 自社養成パイロット採用案内
全日本空輸株式会社
ANA 人事部
〒 144-0041 東京都大田区羽田空港 3-3-2
採用ホームページにも情報がありますので、併せてご覧ください。
http://www.ana.co.jp/recruit/
〈許可なく転載、複写することを禁じます〉
Reproduced with permission of Jeppesen Sanderson, Inc. NOT FOR NAVIGATIONAL USE
 Jeppesen Sanderson, Inc. 2010
C大空への夢へ、
learance
そしてアジアを代表するエアラインへ。
空は果てしなく、私たちに、さまざまな想いを抱かせてくれます。
3 万 5000 フィートの上空から望むパノラマは私たちを解き放ち、新しい希望を見いだす契機となります。
そんな空の旅の素晴しさを、より多くの人々に伝え、共有したい。
「安心」
と
「信頼」
を基礎に、より多くのお客様に
「夢」
と
「感動」
を提供したい。
そんな ANAグループ社員一人ひとりが抱く想いを受け止め、操縦桿を握るのが ANAパイロットの誇り。
そしていま、大空に描いたさまざまな夢を乗せて飛ぶ、パイロットへの挑戦の扉は、
あなたの目の前に、広く開かれようとしています。
Specialty
and
コックピットから
Integration
見えてくる
エアラインビジネスとANA。
ANAのパイロットが活躍する航空機のコックピットは、運
航中はパイロットだけが立ち入ることのできる閉ざされた空
間だ。それだけに、パイロットの仕事は見えにくいのかもし
れない。操縦席でパイロットは何を思い、客室や地上、管
制とどんなやり取りをしながら、一つのフライトをまとめ上
げていくのか。ここでは成田発、サンフランシスコ行きの
NH008 便に乗務する副操縦士、水田 潤の視点から、この
日のフライトを追いかけてみよう。
フライトオペレーションセンター
B777 部 副操縦士(現 B777 機長)
水田 潤
初めてのサンフランシスコ行き、
入念な準備を済ませてフライトに臨む。
その日、水田が ANA成田スカイセンターへと現れたのは、
13 時を過ぎた頃。前日は、羽田〜ソウル間を往復し、その
まま成田市内のホテルに宿泊。この日のフライトに向けた準
備のために、早めにホテルを出たのだという。既に中国や韓
国などのアジア路線、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンド
Specialty and
Integration
の気象状況、今後予測される変化、乗客数、搭載燃料、到
着空港の特性などを、よどみなく説明する。これに対して、
パイロット側からもいくつかの事項についてその詳細の確認
が行われる。わずか 10 分ほどの短いやり取りの中に、今回
のフライトに必要な情報が集約されるため、この場に立ち合
うことでパイロット間の情報共有も徹底されることになる。こ
のブリーフィングの後、3 名のパイロットは、乗務前の束の間
の休息をとり、小倉機長に従い、機内へと移動していった。
こうしてパイロットたちが、機内へと到着する頃、客室内
では既に客室乗務員(CA)たちがお客様をお出迎えする準
備を進めていた。また運航便間点検を済ませた整備士はコ
ックピットにパイロットが乗り込むタイミングを見計らい、機
体の整備状況の報告にやってくる。プロフェッショナルたち
が、それぞれの持ち場で責任を果たし、安全運航を支えて
いる。さきほどのディスパッチャーとのやり取り、客室内で
の CA のきびきびとした動き、整備士の技術者としての誇り
をたたえた表情を垣間見ながら、水田は、ANA ならではの
チームスピリットを感じていた。
高度3万5000フィートのパノラマ、
パイロットにとって至福の瞬間だ。
ンなどの欧米路線も経験済みの水田であったが、サンフラン
高めていく。
シスコへは初のフライトだった。
「ほんのひとこと、言葉を交わすことによって、キャプテンと
「初めての路線を飛ぶ際には、特に念入りに準備するように
の距離が縮まるというか、思ったことを言える雰囲気が生ま
しています。今回もかなり前から、この路線のフライトログ
れてきます。コックピット内、そして客室とのコミュニケーシ
をチェックし、気象情報や航空情報などを、自宅のパソコ
ョンは、安全で快適なフライトをつくりあげるためには重要
ンを使って集めてきました。この日も早めに出社して最新の
な要素ですから、それもキャプテンのさりげないマネジメン
パイロットとの想いは一つです。私たちは、空港
く。コックピット内では、機体に搭載されているコンピュータ
トなのだと、感じるようになりました。
」
に到着した機体を預かり、不具合なく安定したパ
システム(FMS)に、経路、高度、燃料などの情報を入力。
フライトプランを確認し、機内へ
それぞれの誇りと信頼を感じながら。
ます。パイロットはその機体を受領し、安全運航
地上に降り、機体の外部点検を行うのも、パイロットの重要
によってお客様の期待に応えます。私が大切にし
な役割である。それに先立ち、水田は、ジャーニーアンドレ
情報を入手し、また到着地空港の特性を踏まえた進入経路
などをあらためて検討することにしていました。
」
こうして水田が、事前の情報収集とその整理を終えて、
出発前の貴重な休息の時を過ごしていると、この日のフラ
イトの責任者(PIC)を務める小倉機長、さらには佐藤機長
(駐機場)
を離れ、タクシーウェイ
(誘導路)
を通じて、滑走路
から飛び立つまでの時間は限られている。その間に、パイロ
安全運航へのこだわり。
ットたちはその役割を分担しながら、出発の準備を進めてい
安全運航を支えるという意味で、私たち整備士と
フォーマンスを発揮できるように整備作業を行い
ているのは、そんなパイロットのみなさんとのコ
ミュニケーションです。上空での機体の状況につ
NH008 便の出発時刻は、
17 時 25 分。定刻の 90 分前には、
いて詳しい報告を引き出し、整備状況を正しく伝
が乗員室(現 フライトオペレーションセンター)に顔を出す。
その日のコックピットクルー 3 名が再び顔を合わせ、ディスパ
える。運航便間の限られた時間に機体の安全を
機長たちは、水田に軽いジョークを言い、その緊張を解き
ッチャーとのブリーフィングに臨むことになる。ディスパッチ
ほぐしながら、コックピットクルーとしての結束と連帯感を
ャーは、カウンター上にフライトプランを提示しながら、航路
04 _ C l e a r a n c e
パイロットたちが機内に乗り込んでから、機体がスポット
A n o t h e r Fo c u s !
見極め、託す。互いにプロとしての誇りと信頼が、
安全運航を支えていくのだと思います。
ディオログと呼ばれる機内搭載書類に目を通し、機体の不具
整備本部 ラインメンテナンス
センター 羽田整備部
(現 整備センター
機体事業室 TEAM MOC 部)
夏目 和典
合などの履歴もチェックした。
「お客様のご搭乗の 5 分前には、パイロットが客室に移動
し、クルーブリーフィングを行います。搭乗されるお客様や
搭載貨物などの情報共有、非常時の連絡方法や脱出方法
Clearance
_05
Specialty and
Integration
ANA
FLIGHT CREW TRAINING SYSTEM
の確認、フライト中の天候や気流の影響、機体の揺れの予
ネジメントに注目しながら乗務するようにしています。その時々
測などの情報提供も行い、機内サービスを提供するタイミン
の判断、客室への気配りやコミュニケーション能力など、今は
グにも配慮します。その後、コックピットに戻り、最終のチェッ
ただ学ぶことばかりですが、それらを着実に身につけながら次
ク、管制との交信などを行いながら、いよいよ離陸の瞬間を
のステップへと踏み出したいと考えています。
」
迎えるわけです。
」
そしていよいよ、NH008便はサンフランシスコ上空へと近づ
17 時 25 分、NH008 便は、定刻にスポットを離れ、滑走
いてきたようだ。既に空は青く晴れ渡り、視界は良好。この空
路へと進む。滑走路上でエンジンの出力を上げながら、ボ
を見つめながら、水田は、同じく西海岸に位置するベーカーズフ
ーイング 777 の機体は、一気に大空へと飛翔していった。
ィールドでの訓練生時代を振り返っていた。
やがて、高度は 3 万 5000フィートへと達する。コックピット
「初めてのソロフライト、厳しい訓練を全員の力を合わせて乗
からの視界は、どこまでも青く広がり、やがて満天の星をた
り越えた同期の仲間たち。アメリカ西海岸特有の青く澄んだ
たえた夜空へと変化する。自動操縦で巡航中も、常に想定
空を眺めながら、ほんの一瞬ではあるのですが、ふとパイロ
されるリスクに備えながら、計器をモニタリングし、外部監
ットを目指して訓練に明け暮れていた日々を、なつかしく思い
視を続けていくという。
出しました。ベーカーズフィールドは、ANAパイロットの原点。
「ただ、極度に緊張した状態を続けているばかりでは、必
その頃の思いを再確認するために、明日は訓練が休みの日に
要な時に最大のパフォーマンスを発揮することができませ
仲間と出かけたサンフランシスコの街並みを歩いてみようと思
ん。適度にリラックスした状態を保ちながら、壮大な大自然
い立ちました。
」
のパノラマに感動したり、時には、隣に座るキャプテンと家
空路のトラフィックが増えてきた。コックピットにもたらされる
族の近況などについて話したりもします。この日も、小学生
無線交信も頻繁になっていく。管制から、カンパニーから、そ
になった長女が、パイロットの仕事に興味を持っているよう
してキャビンからの音声を聞き分けながら、それらへと対応す
で、将来はパイロットになりたいと言ったので驚いたことを
るコックピット内は、一段と慌ただしくなってくる。空の旅を締
話題にしました。
」
めくくる着陸の時が近づいていた。コックピットでは、アプロー
求められるのは、一つのフライトを
まとめあげるマネジメント力だ。
アメリカやヨーロッパなどの長距離路線では、2 名の機長
と副操縦士の計 3 名が乗務し、交替で休息を取りながら運
航する。水田が休憩中は、二人の機長が、そして水田がコ
チブリーフィングを終え、最終の着陸態勢へと機体を誘導して
いく。しばし静かな時が流れ、それはやがて安堵の空気へと
+01
自社養成パイロット選考システム
+02
学科訓練(国内・東京)
+03
実機訓練(米国・ベーカーズフィールド)
+04
学科訓練(国内・東京)
1カ月
+05
実機訓練(米国・ベーカーズフィールド)
5カ月
+06
副操縦士昇格訓練(国内)
+07
副操縦士機種移行訓練(国内)
+08
機長昇格訓練(国内)
3カ月
10カ月
10カ月
入れ替わる。飛行時間およそ 9 時間。現地の天候は快晴、機
内に注ぐ陽光がまぶしかった。
あんしん 、あった か、あかるく元 気!
ックピットに座る時には、二人の機長のいずれかが座ること
になる。また、乗務する度ごとに、クルーの組み合わせは
異なるため、副操縦士は、都度、多くの機長と出会い、そ
れぞれの技倆、知識、そして機内のマネジメントを学ぶこと
ができる。
「私自身、数年後の機長昇格を視野に入れ準備を始めた時
期でもあり、それぞれのフライトで示されるキャプテンのマ
06_ C l e a r a n c e
Clearance
_07
+01
自社養成パイロット選考システム
憧れを確かな目標へと
変えていく。
大学時代、経済やバイオを専攻していた者。すでに複数社から内定をもらっていた者。
自社養成システムの歩み
ANA が大学卒業予定者を対象とした自社養
ところが、その方法ではパイロットの質・量
訓練所開設まで待たなければならなかった。
成パイロットの採用を再開したのは 1988 年。
とも安定的に確保することは困難だったので
その後、
IFTA は現国土交通省航空局(JCAB)
86 年、北 米 地 域への定 期 国 際 線 就 航後、
ある。再開当初は、ルフトハンザ・ドイツ航
の指定養成施設の認可を取得。技倆管理体
拡大基調を続ける国際線事業計画に基づき、
空が経営するパイロットスクールに訓練を委
制については IFTA が構築、具体的な訓練カ
優秀なパイロットの養成と確保が急務となっ
託する形をとった。しかし、養成人員数の制
リキュラムは ANA が構成し、IFTA に実施を
たからだ。70 年代前半に米カリフォルニア州
限などスクール側の厳しい要求を受け、思う
委託するスタイルをとる。現在までの 18 年間
ブラウンフィールズに開所していた自社養成
に任せぬ状態が続いた。そこで ANA は、自
で約 400 人のパイロットを輩出した自社養成
訓練施設を閉鎖して以来、じつに十数年ぶり
分たちの裁量でパイロットの養成をコントロー
システムは、ANAの安全運航の堅持、運航品
のことである。その間、航空大学校の卒業生
ルできる、新たな自社養成体制の確立に着手
質の向上を支える最も重要な取り組みのひと
や自衛隊出身者の採用、さらには現役パイロ
する。現行の体制が整ったのは 92 年、IFTA
つとなっている。
ットの中途採用などで人材不足を補ってきた。 (International Flight Training Academy)の
視力を矯正している者。一度も飛行機に乗ったことのなかった者。これまでさまざまな学生が ANA の門を叩いた。
そして彼ら、彼女たち、応募者すべてに分け隔てなくチャンスが与えられた。
そう、受験資格は「空を飛んでみたい」
という理屈抜きの感情だけなのだ。
+01
+02
一通のダイレクトメールが
小さい頃の夢を思い出させてくれました。
+03
たしかに「パイロットになりたい」と思っていた
時期がありました。小学生の頃だったと思います。
+04
でも、いつの間にか興味は経済へ。気が付くと、
大学院で研究を続けるほど、のめり込んでいま
した。そんな私の、幼い頃の記憶を呼び起こし
+05
てくれたのが、ANAから届いた自社養成パイロ
ットの募集案内でした。
「今からでもパイロット
になる手段があるのか」と新鮮な驚きを感じた
ものです。当時、私は博士課程に進むことを希
+06
望していました。そのつもりで準備もしていまし
た。ところがパイロットという未来像が、私の頭
階段を上るように、夢が一歩ずつ、現実へと近づいていく。
現在、ANA の自社養成システムを経てパイロットになった者は約700名。じつは全員にたったひとつだけ共通項がある。そ
れは、自社養成パイロットの募集に“志願した”ということだ。行動さえ起こせば、自分の未来を自分で切り開く可能性が
生まれる。ANA 自社養成パイロットの選考は、基礎的な学力や体力、健康、教養、適性を問うもので、健康チェックの項
目が細分化されていることや航空適性検査を行う以外は、一般企業と違いはない。航空適性検査にしても結果を総合的に
判断し、パイロットとしての資質を見極めるもので、学生の将来性も加味される。とにかく行動しなければ、夢は叶わぬ夢
のまま。ぜひチャレンジしてほしい。なお、晴れて採用試験に合格したパイロット訓練生は、正式入社前までに航空無線通
信士の資格を取得。また、入社後は地上勤務を経験し、社会人として ANA 社員として必要な知識を身に付けることになる。
これはパイロット以外の業務を体験することで、お互いの仕事に対する理解を深め、将来あるべき自分の姿を思い描くと同
時に、地上配置先の社員との交流を通じて信頼関係や社内の人間関係を築くことが目的だ。
08_ C l e a r a n c e
の中で次第に大きくなります。どうにも諦め切れ
+07
ず、研究に支障が出ないように ANA一社だけ
を、専願で受けることを決めました。ダメだった
ら、気持ちを新たに研究に没頭しよう。それが
ト訓練生になるための選考だということがリアル
自分の出した結論です。ANAを選んだ理由は
に感じられ、
その次の航空身体検査の頃には
「落
ダイレクトメールの縁もありますが、企業説明会
ちたくない」という気持ちがかなり強くなってい
に参加した際のスタッフの対応がとても丁寧だっ
たことを今でも覚えています。大学の 3 年生から
たことや、これは私の専門ですが財務体質や経
4 年生にかけての 1 年間、イギリスへ留学してい
営状況が良好だったことが挙げられます。また、
たこともあり、最終試験の英会話には自信を持
民間企業からスタートした航空会社であること
っていたものの、合格の連絡をもらった時はう
や、いまだに創業時の社名である日本ヘリコプタ
れしくて言葉になりませんでした。あの時、自分
ー輸送株式会社の頭文字「NH」を便名に使用す
の気持ちに素直になって、自社養成パイロットに
るなど、企業としてのこだわりに魅力を感じたか
応募して本当に良かったと心から思いました。じ
らです。もっとも選考初期の試験では、航空機
つは、もうすぐ副操縦士昇格訓練が始まります。
に関連のない選考内容だったので、少し拍子抜
エアバスA320に乗務することも決まっています。
けしました。でも、その後のフライトシミュレー
約 1 年の課程も、自分の気持ちに素直になって
タによる航空適性検査では、さすがにパイロッ
取り組んでいこうと思います。
訓練センター所属
操縦士訓練生
(現 エアバス 副操縦士)
+08
淺田 直樹
今しかできないことを一生懸命にや
るのが信条。1 年半の地上勤務で
は、旅客係員の業務にやりがいを感
じ、訓練の開始時期を延ばしてほし
いと本気で思ったほどだという。
Clearance
_09
+02 +04
学科訓練(国内・東京)
ANA 訓練センター
安全運航の確保。その責務を果たす運航乗
37,000m2 と世界有数の規模を誇る。また施
どが実施される。事業計画に基づいた綿密な
務員を養成する場として、1979 年に設立さ
設内には、コンピューターとモニターで構成さ
訓練カリキュラムに従い、年々進歩を遂げる大
れたのが ANA 乗員訓練センターだ。管理棟・
れる自学自習用視聴覚訓練装置 CBT といっ
型旅客機の性能、新しい機材の導入に対応し
訓練棟・第 1 シミュレータ棟・第 2 シミュレー
た座学訓練器材から、実際に空を飛んでいる
た人材を効率的かつ効果的に養成する総合的
タ棟・ビジネスセンタービルの 5 つの建物で構
かのような錯覚に陥るほど精密、精巧につくら
乗員訓練施設だ。IFTA(International Flight
成され、敷地総面積 32,500m2、延床面積約
れた FFS(Full Flight Simulator)
まで最新の
Training Academy)
、下地島訓練所と並び、
設備が整っている。ここでは訓
ANA の安全運航を支えるベースキャンプとい
練生たちの学科訓練ならびに
える。なお、ANA 訓練センターでは客室乗務
副操縦士昇格訓練や、運航乗
員や整備士の専門訓練のほか、AKX(ANA
務員を対象とした機種移行訓
WINGS)
、AJX(エアージャパン)
などグループ
練、機 長 昇 格 訓 練、さらに運
各社の委託を受けて乗員訓練を実施。ANA
航乗務員、客室乗務員すべて
グループ全体の訓練品質、運航品質の向上に
を対象とした緊急合同訓練な
も貢献している。
+01
+02
自分ひとりでは無理なことも
仲間がいれば可能になるという絆が大切。
+03
幼稚園の頃、東京—新潟間を運航するYS-11 に
乗ったことがあります。その時、窓から見た雲の
航空のプロフェッショナルへ。
+04
絨毯、空の様子は本当にきれいでした。訓練生
になるまで、飛行機に乗ったのは後にも先にもそ
の 1 回だけでしたが、パイロットになりたいとい
ライン運航のパイロット、つまり副操縦士として大型旅客機の操縦桿を握るまでに延べ 2 年半程度の訓練期間を要す。
う気持ちが子供心に芽生えたようです。航空大
最初の 22カ月は「基礎訓練課程」
と位置付けられ、学科訓練と実機訓練を繰り返しながら、パイロットに不可欠な知識、技能を
学校以外にもパイロットを目指す道があることを
習得することになる。ANA乗員訓練センターで実施される約 3カ月の学科訓練はその第一歩だ。
知ったのは、大学 1 年生の時。当時 4 年生だっ
+05
た先輩の挑戦がきっかけです。もっとも実際の
+06
就職活動では他の業界の企業も受験し、内定も
いただきました。それでも ANAの訓練生を選択
航空機と運航の基礎から、より高度な操縦技術の習得へ。
基礎訓練課程では 3つのライセンスを段階的に取得する。まず、
「事業用操縦士技能証明
(単発機限定)
」
、ついで
「陸上多発限定
(単
発機から多発機へ限定変更)
」
、最後が「計器飛行証明」
。いずれも国家資格だ。最初
[+02]
の学科訓練は、約 3カ月後に控える事
業用操縦士技能証明
(単発機限定)
の学科試験に合格するための座学だ。航空力学・航空計器といった飛行機に関する知識から、
航空法規・管制および交話法など航空機の運航にかかわるルール、さらに空中航法・航空気象といった高度なテクニックまで幅広い分
野をカバーする。早くも訓練生たちは“パイロットは総合的な知識を持つ航空のプロ”だということを思い知らされることになる。また、
学科訓練にはもうひとつ大切なフェーズ
[+04]
がある。それは計器飛行証明の学科試験突破のための課程だ。100 時間以上におよぶ
集中講義によって、航空計器だけを頼りに飛行するための知識を身に付ける。有視界飛行から計器飛行へのレベルアップは、多くの訓
練生が「一番苦しかった」
と回想するほど困難だが、事業用操縦士からエアライン・パイロットへ大きく前進するための試練なのだ。
10_ C l e a r a n c e
したのは、美しい空の景色が目に焼き付いたま
+07
まだったからかもしれません。ところが訓練が始
まった途端、自分が肺結核であることを知りまし
フライトオペレーションセンター
B747 部 副操縦士
(現 B767 機長)
た。
「すべてがこれで終わりか」と目の前が真っ
をパスしたわけですが、その時に気付きました。
暗になったのですが、幸いにも完治することが
なぜ一般の大学、しかも文系出身でもパイロッ
わかり、3 カ月後に訓練をスタートするコースへ
トに育つのか。それは切磋琢磨する仲間がそば
の編入が許されたのです。
ホッとしたのも束の間、
に居て、全員がパイロットになるために協力し合
出るし、わかりやすいからいい」とい
今度は学生時代に無縁だった無線や航空力学と
い、お互いを高め合うチームワークを重視した訓
修正しては課題を見つける繰り返し
いった科目に苦しめられます。法学部出身です
練スタイルだからです。私の時代、基礎訓練課
から、そもそも電気・電子や物理の理論がわか
程はすべて熊本訓練所(99 年閉所)での集中合
らない。理論がわからないと暗記しようにも覚え
宿。寝食を共にする中で連帯感が育まれた気が
づらいわけです。そんな時、頼りになったのが
します。こうした仲間のおかげで、副操縦士昇
理系出身の同期生たちでした。逆に自分の得意
格を果たした私は、総飛行時間が 5,000 時間を
分野については彼らに教えてあげた、と言いた
超え、機長昇格のために必須となる ATPL(定
いところですが、
私は教わるばかりでした。結局、
期運送用操縦士技能証明)の資格を取得する段
ひとりの落後者も出すことなく、20 名全員が事
階にたどり着きました。近い将来、同期に胸を
業用操縦士技能証明(単発機限定)の学科試験
張れる機長へと成長したいと思います。
星山 亮
+08
パイロットの仕事は「すぐに結果が
う星山。課題を見つけては修正し、
が自分の仕事だと言い切る。
Clearance
_11
+03 +05
実機訓練(米国・ベーカーズフィールド)
ベーカーズフィールドの頃。
IFTA(International Flight Training Academy)
I F T A(I n t e r n a t i o n a l F l i g h t T r a i n i n g
州ベーカーズフィールドは、ロサンゼルスの北東、
定評のあるビーチクラフト A36 ボナンザ単発機
Academy)
は 1991 年、訓練生を一人前の事
空路で 40 分ほどの場所にある小さな街だ。サ
および B58バロン双発機がハンガーに整然と駐
業用操縦士へと育てる実機訓練を担当する目
ンフォアキン・バレーと呼ばれる谷地の南端に
機され、
訓練生たちを待ち受ける。ひとり一部屋、
的で設立された訓練施設。ANA100%出資の
位置し、年間を通して気候が温暖で安定してい
シャワー・トイレを完備した個室が与えられ、視
現地法人だ。IFTA のある米国カリフォルニア
る。訓練施設は地上支援施設の充実したメドー
聴覚設備を備えた教室・ブリーフィングルーム・
ズフィールド空港と隣接する好立地、さらにゆ
ブーストレーナーを併設する訓練棟でスキルを磨
とりある訓練空域とパイロットの実機訓練に最
き、和食メニューを毎日用意してくれるダイニン
適な条件が揃う。全米20数カ所の候補地から
グで空腹を満たす。さらに訓練生たちの心と身
選ばれたベストロケーションだけあって、訓練環
体をリフレッシュする大浴場、
プール、
マシンジム、
境としては申し分ない。日本ではお目にかかれ
テニスコート、バスケットコートなどを整えた施
ないほど深く、青い空が訓練生たちの研さんの
設は必要にして十分。IFTA の近郊にはゴルフ場
場となる。19エーカー(約 77,000m2)という広
や乗馬クラブなどがあり、週 2 日のオフタイムも
大な敷地には、エアラインの基礎訓練機として
充実した時間を過ごすことができる。
事業用操縦士技能証明(単発機限定)
の学科試験が終わると、訓練の舞台を
アメリカへと移し、飛行訓練が開始される。教室は、単発レシプロエンジン機ボナンザのコックピット。
操縦席に腰を沈め、操縦桿を握り、大空へと高く舞い上がる時、
飛行機を地上から見上げていた自分が、初めて見上げられる存在になっていることに気付くのだ。
+01
+02
ここでは普段着姿で飾らずに
同期と話し合う時間が何よりも大切でした。
+03
パイロットを職業として意識したのは高校時代。
世の中のいろいろな仕事を紹介する本で知り、
+04
興味を持つようになりました。応募の動機は、デ
スクワークが嫌いだったこと、乗り物が好きだっ
たこと。何よりもパイロットという仕事がシンプル
+05
で、その内容がイメージしやすく、私としては入
りやすかったということが大きいです。ところが、
学科訓練が始まると取り扱う分野が意外にも幅
広く、かなりギャップを感じました。覚えることが
+06
多い上に、工学部出身なのにシステムが一番苦手
だったので、けっこう大変な思いをしました。訓
緊張の初飛行からソロ飛行へ。有視界飛行から計器飛行へ。
約 10カ月にわたる最初の実機訓練[+03]は、ボナンザとは一体どんな飛行機なのか、アメリカの空港管制とはどのように交信すれば
よいのか、といった座学から始まる。地上では燃料や機体の点検など一連のフライト準備作業を学び、空の上では操縦法について
マンツーマンで講義を受ける。最後は自分ひとりでフライトプランを立て、ソロフライトに出られるようになるまで訓練は繰り返される。
約 160 時間というフライトを終える頃、訓練生たちは事業用操縦士技能証明(単発機限定)の技能審査をパスするだけの心技体を身に
付ける。日本、アメリカと共同生活を続け、苦楽を共にしてきた訓練生たちの絆が深まるのもこの頃だ。事実、志を同じくする仲間が
いつもそばに居たことで、陸上多発限定および計器飛行証明の資格取得のための実機訓練[+05]を乗り切ることができたという訓練
生は少なくない。とりわけ、前方視界をフードで隠してしまう計器飛行訓練は、自身の感覚と計器表示とのギャップに誰もが苦労する。
そんな時、教官の指示よりも訓練生同士の客観的なアドバイスと励ましが、壁を乗り越えるきっかけとなったというのだ。
練場所がベーカーズフィールドに移されると、い
訓練機を目にした時には、学科訓練の苦労もど
フライトオペレーションセンター
エアバス部 副操縦士
(現 B787 副操縦士)
こかに吹き飛び、初めて目にする美しい光景に見
た」という具合に、その日の訓練中に起こったさ
とれてしまいました。この機で空を飛ぶとわかる
さいな出来事を報告し合います。この会話の積み
と、その後の苦労も考えずにワクワクしている自
重ね、ナマの情報交換がお互いの絆を深め、成
分がいました。実際、飛行訓練は想像以上にタ
長を促した貴重な時間だったように思います。じ
トとして注目されているにもかかわら
フでした。フライトは 2 時間程度でも、離陸前の
つは 1 カ月ほど前、副操縦士として初フライトを
です」
と極めて自然体。
入念なフライト準備、着陸後の教官のレビュー、
経験しました。羽田〜佐賀間を一往復、しかもほ
それに対する対策の検討が必ずセットになってい
とんど座っているだけだったのですが、運航中は
ますから、慣れないうちは 1 日掛かり。それを週
無我夢中で乗務に専念していたので、家に帰ると
4 回。その上、うまくいかないことばかり続きま
パタリ。操縦席でも、乗員室(現 フライトオペレ
すから、肉体的にも精神的にもキツくなってきま
ーションセンター)でも緊張しっぱなしだったのだ
す。そんな時、
一番リラックスできるのが夕食後の、
と思います。当分は、お客様の命を預かるプレッ
同期生との他愛もない会話でした。時にはリラッ
シャーと闘う日々が続きそうですが、少しずつ経
クスした雰囲気の中で「ギアが上がらずに困った」
験を積み、多くのことを学び、機長やクルーに頼
「○○に行ったけど教官が言うほど楽じゃなかっ
12_ C l e a r a n c e
+07
よいよ初飛行。ハンガーに整然と駐機されていた
梨木 玲奈
+08
自社養成システム初の女性パイロッ
ず、本人は「新人副操縦士のひとり
りにされるパイロットに成長したいと思います。
Clearance
_13
+06
副操縦士昇格訓練(国内)
初フライト、その日を目指して。
基礎訓練課程を終え、3 つのライセンスを取得した訓練生たちは、いよいよ最終段階を迎える。
ANA 乗員訓練センターでの座学にシミュレータ訓練、旅客機による飛行訓練、さらに実際の国内線運航乗務における OJT を経て
ANA の副操縦士資格を得る。金色の 3 ラインの肩章と、安全運航という責任を両肩に背負うエアライン・パイロットとなる。
FFS(Full Flight Simulator)
一言でいえば FFS(Full Flight Simulator)と
きるほか、航空機の状況に応じてエンジン音、
夜間の時間帯に切り替わる上、航空機の位置
は模擬飛行装置のこと。ANA 訓練センターに
風切り音など各種の擬音が発生するなど音響
や態勢に応じて刻一刻とシーンが変わるように
は、ボーイング 767 やボーイング 777 をはじ
効果も実機さながら。とりわけ CGI(Computer
プログラムされている。まさに飛行感覚まで再
め、ANA グループ各社が所有する機種毎のシ
Generated Image)方式の疑似視界装置によっ
現する画期的な訓練装置である。実機では実
ミュレータが用意されている。コックピットを
て窓の外に描き出される風景は、日中・薄暮・
施困難な失速や急減圧による急降下などの危
かたどった室内は、シートや操縦桿をはじめダ
険度の高い緊急訓練、劣悪な気象条件での飛
ッシュボードに至るまで実際の航空機と同一の
行訓練、飛行場によって異なる出発進入方式
寸法、配列、色彩でつくられている。もちろん
の訓練などを繰り返し行える点でシミュレータ
スイッチの点滅、計器類の表示まで実機と同
訓練は、実機訓練に勝るとも劣らない。また、
じだ。また、6 軸モーションシステムによって
ライン運航を想定し、あらゆる状況下でのパイ
制御されたその動きは、操縦にあわせて前後・
ロットの対応能力やマネージメント能力を見極
左右・上下動、ピッチング(縦揺れ)
、ローリン
める LOFT(Line Oriented Flight Training)に
グ(横揺れ)
、ヨーイング(偏揺れ)まで体感で
も活用されている。
+01
+02
優劣を決める訓練など何ひとつないことを
あらためて実感させられました。
+03
応募当初は、食品メーカーや化学メーカーと並ぶ
一社に過ぎなかったのですが、選考が進むうち
+04
にどんどんパイロットの魅力に引き込まれて。航
空適性検査の頃には不合格だったら、別の道で
パイロットを目指そうと本気で考えるほどになって
+05
いました。自社養成パイロットに合格して、本当
に良かったです。副操縦士に昇格したのは今か
ら 2年ほど前のこと。昇格訓練開始の発令を受
けた時は、本当に待ちに待ったという気持ちでし
+06
た。ところが段ボール一箱分以上もあるボーイン
グ 767 型 FFS のマニュアルを手渡された時には
訓練の集大成。大空への扉を自らの手で開く。
まず、覚えておいてほしいのはエアライン・パイロットの場合、乗務する機種ごとの限定ライセンスが必要になるということ。普通免許を
持っていればいろんな車種に乗れる車とは事情がまったく違う。だから、訓練生たちはシミュレータ訓練に入る前に、ANAの主力機種
であるボーイング 767か、ボーイング 777の 2 つのグループに分かれる。コックピットの大きさ、計器類の数、単発・双発の訓練機との
勝手の違いに戸惑いながらも、自分が運航を任される機種のすべてを知り尽くす。高性能シミュレータでの訓練、離発着を繰り返す下
地島訓練所での実機訓練を終える頃には、両翼の位置がわかる機体感覚まで身に付くという。それだけではない。状況変化への対応
能力やマネジメント能力を磨き、飛行機を動かすだけのパイロットから、ライン運航のすべてに責任を持つエアライン・パイロットへの成
長を図る。そして、ボーイング 767ないしはボーイング 777の限定ライセンスを取得した訓練生たちは、総仕上げとなる路線訓練に入る。
およそ 3 カ月半にわたる運航を通じて、乗客の命を預かることの重み、エアライン・パイロットの使命を心に刻み込むのだ。
14 _ C l e a r a n c e
言葉を失いました。
「これだけの量を 1 年で!」と
+07
気が遠くなってしまったのです。しかも 2 年ほど
地上勤務についていたため、既に習ったはずのオ
フライトオペレーションセンター
B767部 副操縦士
(現 B777 副操縦士)
ペレーションの手順や法規が虫食い状態になって
練の場は競争の場ではない”という教えが徹底さ
いました。結果、過去に学んだことをさかのぼり
れていたのです。現在、2,000 時間弱のフライト
ながら、新しい知識を身に付けるという、私にと
を経験していますが、パイロットの成長に大切な
っては一番キツイ訓練課程となりました。FFS 訓
のは、飛行時間の多寡よりも、機長をはじめとす
りかえすものだ」
との教えを受け、以
練では、1ミッション 2 時間の運航の中で 20 数回
るクルーとどれだけ話し合うかではないかと思っ
憧れ、喜びや楽しみをしっかりと送
におよぶ故障に対処。下地島での実機訓練では
ています。機長から自分が思ってもみなかったこ
1 日に数十回、ボーイング 767で離発着を繰り返
とや、自分では気付かない癖について指摘を受
すというスパルタ式。忙しすぎて、一つひとつを
けたり、マニュアルの解釈や天候に応じた運航判
丁寧に振り返る余裕もないほど。一気に駆け抜
断について、機長とディスカッションする機会が
けた 1 年だったように思います。私は 2 組のペア
あると得した気分になります。とにかく、ANAに
で計 4 人のチームで副操縦士昇格訓練に臨んで
はパイロットとしても人間としても尊敬できる、魅
いたのですが、事あるごとに教官から 4 人で話し
力的な先輩がたくさんいます。今思うと、そんな
合い、教え合い、知識を共有し、弱い所を補完
人たちの後輩になれることもまた、ANAのパイロ
しなさいとアドバイスを受けました。ここでも
“訓
ットになる大きなメリットのような気がします。
高瀬 武志
+08
「お客様から手を振られたら、手を振
来、実践しているという高瀬。夢や
り届けるパイロットになるのが夢だ。
Clearance
_15
+07
副操縦士機種移行訓練
(国内)
+08
機長昇格訓練(国内)
さらに知識・技能の高みへ。
エアライン・パイロットを目指す者が最終目標としているのは運航の最高責任者、つまり機長だ。
そのためには乗務経験を積み、同乗する機長から多くのことを学ぶ必要がある。フライトの経験を積むためには
機種移行や国際線運航資格の取得が欠かせない。
ANA エアマンシップ
ANAパイロットは、人命、財産をお預
私達は人命財産を預かる
プロフェッショナルとしての自覚を持ち、
かりし、
安全性、
定時性、
快適性、
利便性、
効率性を含む基本品質、運航品質向上
への配慮をもって航空輸送に携わると
いう重要な付託を社会一般から受けて
礼節・品性を重んじ、ともに助け合い、
いる希少な職業であるからこそ、尊敬
安心と信頼の運航を担う
られる。
に足る優れた人格、技倆、識見を求め
ANAパイロットであることを誇りとする。
副操縦士になった瞬間から誰もが、機長昇格に向けた訓練を自分自身に課していく。
+01
+02
一度として同じフライトはないから、
パイロットは上を目指すのかも知れません。
+03
就職情報誌で自社養成パイロットの募集案内を
見るまで、パイロットに応募するなど別の世界の
+04
出来事と思っていましたし、それまでパイロット
になろうなど一度も考えたことはありませんでし
た。誤解を恐れずに言えば、一度チャレンジし
+05
てみようと軽い気持ちで応募したのが最初でし
た。副操縦士時代、パイロットになったきっか
けを機長に尋ねられ、この話をすると決まって
叱られました。しかし、今なら生まれ変わっても
+06
ANAのパイロットになりたいと胸を張って言え
る気がします。学生のみなさんに対しても、厳し
航空のプロフェッショナルとしての成長にゴールはない。
新人の副操縦士が乗務に就けるのは、ボーイング767 かボーイング777 が運航する国内線に限られる。そこから始め国際線運航資格の取得、
さらに現機種から他機種乗務への限定変更(移行)
[+07]を行う。こうした資格取得・訓練を経て乗務経験を積み上げ、パイロットとしての幅
を広げていく。総飛行時間が 3,000時間を超えると、機長昇格に欠かせない国家資格ATPL(定期運送用操縦士技能証明)の受験資格が与え
られる。ATPLを取得し、半年間の見極め期間を終えると機長昇格訓練[+08]だ。機長の仕事は航空機を操ることだけではない。フライトの
すべてに責任を持ち、高度な判断で運航全体をつかさどる。それ故に強力なリーダーシップが求められるが、それほどの人格や人間性は一朝
一夕に完成しない。だからこそ副操縦士昇格から機長昇格まで 10年余りの期間を要す。しかし、機長昇格をゴールだと考える者はいない。半
年毎に実施される定期審査では、すべての機長が健康管理を含めた自らの成果をチェックする。また、新機種投入や新規路線就航に伴う、機
種移行や国際線の運航資格取得に先頭を切って臨むのも機長だ。現役を退くまでエアライン・パイロットの挑戦は決して終わらないのである。
16_ C l e a r a n c e
くも温かい、素晴らしいパイロットの世界ですか
+07
ら、一度のぞきに来てくださいと自信を持って勧
めることができます。そう思えるようになったの
は、苦楽を共にした同期生をはじめ、ANAとい
ないもの、成長すべきテーマがまだまだあること
フライトオペレーションセンター
B777 部 機長
う組織風土のおかげで人との出会いに恵まれた
を教えてくれるのですから面白いものです。当面
古田 伊知朗
からです。何よりも運航に携わることで、パイロ
は、お手本となる先輩たちに少しでも近付けるよ
ットという仕事に誇りとやりがいを感じているか
う、運航の質を高めていくことが目標です。また、
なさい」
と教官に指導されたという古
らに他なりません。ちょうど一年前、ボーイング
安全運航をスタッフ全員の明確な意志でつくり
ョンを通じて、皆で成長するスタイル
777 型 FFS のシミュレータ訓練と、実機の OJT
上げるためには、客室乗務職、地上職、技術職
を含む約 5 カ月間の昇格訓練を経て、私は機長
のスタッフ、そしてパイロットとの連携や、意思
になりました。機長は運航の総責任者。個人的
の疎通は不可欠だと思います。つまり、それぞ
には“最後の砦”
と表現していますが、すべてに
れの立場を超えた積極的なかかわりの中で、お
優先して乗客を守り、クルーを守り、飛行機を
客様の求める空の旅、理想のフライトを追求して
守るのが機長です。その一瞬、一瞬を判断し、
いきたいと考えています。その延長線上で自分
自ら決定し、勇気を持って着実に前へ進む行為
なりのフライト、自分が理想とする運航、新しい
は、マネジメントという言葉で片付けられないほ
機長像というものを見つけ出すことができたら、
ど重いものです。でも、その重責が自分に足り
私にとってこれ以上幸せなことはありません。
+08
訓練生時代、
「団子になって勉強し
田機長。情報共有、コミュニケーシ
は、
今も訓練生に受け継がれている。
Clearance
_17
Fly UP