...

セメント硬化体の処女脱着等温線および BET 比表面積の温度依存性の

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

セメント硬化体の処女脱着等温線および BET 比表面積の温度依存性の
セメント硬化体の処女脱着等温線および BET 比表面積の温度依存性のモデル化
Temperature dependency of virgin isothermal desorption and BET surface area of hardened cement paste
IGARASHI Go
正会員
○五十嵐 豪*
1. 材料施工 – 2. モルタル・コンクリートの物性
**
MARUYAMA Ippei
正会員
丸山 一平
BET 比表面積
処女脱着等温線
温度依存性
セメント硬化体
t-Curve
1. はじめに
セメント硬化体の乾燥収縮挙動を分離圧の立場から検討
した研究において,セメント硬化体の収縮を支配するも
水セメント比 0.55,0.40(記号:55,40)のセメントペ
ーストとしてブリーディングがなくなるまで練り返しを
行ってから,Φ5×10cm 円柱試験体を作製した。練混ぜ
のは,水和生成物表面と水との相互間力(水和力)によ
って生じるものであるという結果が実験的に得られた1)。
この水和力による分離圧(水和圧)を駆動力としてとら
えると,異なる鉱物組成のポルトランドセメント,水セ
メント比におけるセメント硬化体の乾燥収縮を,体積弾
性率,比表面積,含水量によって評価できる。特に,脱
にはホバートミキサを使用し,注水後に 3 分,掻き落し
を行った後に更に 3 分練混ぜた。試験体は,それぞれ材
齢 4 日と 3 日で脱型を行い,その後は恒温室(20±2°C)
で飽和水酸化カルシウム溶液による水中養生を行った。
2.2 異なる温度条件下の処女脱着等温試験
材齢 1 年まで水中養生を行った試験体について,ダイア
着の後の再吸着プロセスに示される吸着等温線上のヒス
テリシスプロセスにおいても,乾燥以後に生じる非回復
性の体積変化も回復性の体積変化も分け隔てなく評価が
可能である。
しかし,乾燥収縮を議論する上で,マスコンクリートの
若材齢時の水和発熱による温度分布や,原子炉建屋にみ
モンドカッターにより,中心部を切り出し,ディスクミ
ルで微粉砕後,分級により 90~150µm の粉末を作成した。
試験装置には,重量法水蒸気吸着装置(Aquadyne DVS,
Quantachrome 社製)を用いた。本装置は質量法に基づく測
定装置であり,定容法とは異なり,処女脱着線が測定可
能である。一方で,平衡に達するまでの時間が定容法と
られる外部からの加熱による温度分布など,湿度勾配だ
けでなく,温度勾配も考慮した初期乾燥プロセスにおけ
る脱着線の性状について検討を行う必要がある。
本検討では,今後,任意の温度,湿度環境下における乾
燥収縮予測を行うためのデータの蓄積を目的として,
様々な温度環境下における水蒸気処女脱着等温線を測定
比較して長くなるという性質を持つため,十分に水和し
た粉末試料を用いた。測定した処女脱着等温線の温度は,
65°C,50°C,40°C,30°C,20°C,10°C である。測定の
目標点は,100%RH,98%RH,95%RH から 5%RH ピッ
チで 0%RH まで測定を行い,最終点は,すべての温度に
おいて等温脱着線の測定の最終目標点を 65°C,0%RH と
し,BET 比表面積の温度依存性および任意温度環境下の
処女脱着等温線のモデル化を試みた。
2. 実験概要
2.1 使用材料および調合
本実験で使用したセメントは,研究用普通ポルトランド
セメント(記号:N)である。JIS R 5202,JIS R 5204 に
した。これは,各温度における等温脱着線の基準点を得
るためである。測定条件は,恒量と判断するカットオフ
値を装置限界精度の 0.001%/min.として実施した。
等温脱着線の整理は,各測定における最終点である 65°C
乾燥窒素フロー条件下での恒量状態(目標値:65°C,
0%RH)を原点として等温脱着線の整理を行った。
よる化学分析の試験成績を表1に示す。このセメントを
表1 セメントの性質
普通ポルトランドセメント
密度
比表面積
ig.loss
[g/cm3]
[cm2/g]
(%)
SiO2
Al2O3
Fe2O3
CaO
MgO
SO3
Na2O
K2O
Cl-
3.16
3110
0.64
21.8
4.49
2.90
63.9
1.84
2.26
0.20
0.38
0.007
化学成分 (mass%)
****名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 日本学術振興会特別 JSPS Research Fellow, Graduate School of Environmental Studies, Dept.
of Env. Eng. and Arch., Nagoya Univ.
研究員 DC
****名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 准教授・博士(工学) Assoc. Prof., Graduate School of Environmental Studies, Dept. of Env.
Eng. and Arch., Nagoya Univ. Dr. Eng.
3. 実験結果および考察
各温度環境下における脱着等温試験について N55 の結果
を図1,N40 の結果を図2に示す。次に,図1,2から
得られた各温度における水蒸気吸着量と相対湿度との関
係から,BET 理論によって,温度と BET 比表面積の関
験上,
天秤周囲の温度の制限から,温度が低い条件ほど,
100%RH から低下した相対湿度からの処女脱着線しか計
測できなかったことによると考えられる。
4. 任意温度環境における処女脱着等温線のモデル化
本検討では,図1~4に示されるように,処女脱着等温
係を得た。その結果を,図3に示す。また,図4に,図
1,2から得られた処女脱着線における最大吸着量を示
す。図1~3に示されるように,温度が高いほど,相対
湿度全域にわたり,水蒸気吸着量は低下し,同様に,BET
比表面積は低下する。この結果から,C-S-H は温度変化
によって,表面のヒドロキシ基の会合反応が生じ,吸着
線および BET 比表面積は,温度に対して以下のような傾
向が確認された。
1) 温度が高くなるほど,BET 比表面積が小さくなる
2) 温度が高くなるほど,100%RH 近傍における水蒸気
吸着量が小さくなる
このうち,後者については,実験上,天秤周囲の温度の
サイトに変化が生じているものと推察された。このこと
については,今後,熱力学相平衡計算などから検討を行
う予定である。また,図4についても,図1,2と同様
に温度が高いほど,最大吸着量が低下する傾向がほぼみ
られる。上記の全体的な傾向に対して,N40 については,
10~30°C の範囲で温度の上昇に対して若干の増加がみ
制限から,低温環境ほど相対湿度 95%以上の領域の計測
ができなかったので,本検討では外挿によるモデル化を
検討することとした。
著者らの検討において,20°C 環境下において BET 比表
面積および最大吸着量が与えられた場合の処女脱着線の
挙動については,(1)~(4)式のように,モデル化が終わっ
られる。これは,図1,2の高湿度域に着目すると,実
ている2),3)。
図1
図3
異なる温度下での処女脱着等温線(N55)
セメント硬化体の BET 比表面積の温度依存性
図2 異なる温度下での処女脱着等温線(N40)
図4
セメント硬化体の水蒸気吸着量の温度依存性
( 0 < h ≤ 0.4 ) のとき,
(
)
w( h ) = S 'BET , 293 ⋅ K 3 − K 4 ⋅ ln ( ln ( h ) ) ⋅ ρ w ⋅ 10
−9
(1)
( 0.4 < h ≤ 0.975 ) のとき,
w(h) = ( w0.975,293 − w0.4,293 ) 0.575 ⋅ ( h − 0.4 ) + w0.4,293
(2)
( 0.975 < h ) のとき,
w(h) = w0.975,293
(3)
ただし,
(
)
w0.4,293 = S 'BET , 293 ⋅ K 3 − K 4 ln ( − ln ( 0.4 ) ) ⋅ ρ w ⋅ 10 −9
(4)
ここで,w(h):湿度 h のときの基準乾燥状態のセメント
硬化体質量に対する水蒸気吸着量 [g/g],w0.975,293:基準
乾燥状態のセメント硬化体質量に対する水蒸気最大吸着
量[g/g],w0.4,293:h=0.4 のときの水蒸気吸着量[g/g],h:
相対湿度[-],S'BET,293:20°C におけるセメント硬化体の
脱着過程の BET 比表面積 [m2/g],K3,K4:t-Curve に関
する係数 [-], ρw:水の密度 [g/cm3]である。
図5
図7
異なる温度環境下での t-Curve(N55)
20°C 時に対する BET 比表面積の温度依存性
本検討では,このモデルの任意の温度環境下への拡張を
試みる。なお,本検討では,水蒸気吸着量の基準点を 65°C
での乾燥窒素フロー条件下での恒量状態を原点として整
理したため,K3,K4 について,N40, N55 の 20°C での
t-Curve の 0~30%RH の範囲で回帰を行った。図5,6
に,各温度環境下における t-Curve(統計的吸着厚さと相
対湿度の関係)と,得られた K3,K4 の値を示す。
次に,図3に示されるように,セメント硬化体の脱着プ
ロセスにおける比表面積は,温度に対して非常に高い相
関性を有している。このことから,温度に対して一般化
する目的で,各温度環境における等温脱着線から得られ
た比表面積を 20°C における等温脱着線から得られる比
表面積との比で整理した。その結果を,図7に示す。図
に示されるように,水セメント比によらず,任意温度の
脱着プロセスにおける比表面積は,(5)式のように評価す
ることができる。
S 'BET ,T S 'BET ,293 = 1.41⋅ exp ( −0.016 (T − 273.15) )
図6 異なる温度環境下での t-Curve(N40)
図8
97.5%RH における水蒸気吸着量の温度依存性
(5)
ここで,S'BET,T:温度 T におけるセメント硬化体の脱着過
程の BET 比表面積[m2/g],T:絶対温度 [K]である。
次に,飽水近傍時の含水量であるが,装置の制約上,測
定温度が低いほど測定された処女脱着線の最大相対湿度
が低下していることから,実験データを 97.5%RH の時に
外挿した値と温度の関係から評価することとした。この
とき,処女脱着線は,40%RH 以上でほぼ線形とみなせる
ため,その範囲で線形回帰を行った。得られた結果を,
図8に示す。図に示されるように,温度に対しておおよ
そ線形の関係で,高温ほど含水量が低下する傾向を示す。
図8に示される結果から,任意温度の 97.5%RH 時点の含
水量は,20°C の 97.5%RH 時点の含水量 w0.975,293 との比で
式のようにモデル化される。
w0.975,T w0.975,293 = 1.10 − 0.0045 ⋅ (T − 273.15 )
図9
各温度の処女脱着等温線における実験値と
モデルによる予測値の比較(N55)
(6)
ここで,w0.975,T:温度 T における水蒸気吸着量[g/g]である。
97.5%RH 以上における挙動は不明瞭であるが,現状では,
100%飽水状態においては,w0.975,T と同様の値をとるもの
と仮定した。
以上を総合すると任意温度環境下における処女脱着等温
線は,以下のようにモデル化ができる。
( 0 < h ≤ 0.4 ) のとき,
(
)
w( h , T ) = S ' BET ,T ⋅ K 3 − K 4 ⋅ ln ( ln ( h ) ) ⋅ ρ w ⋅ 10 −9
(7)
( 0.4 < h ≤ 0.975 ) のとき,
w(h, T ) = ( w0.975,T − w0.4,T ) 0.575 ⋅ ( h − 0.4 ) + w0.4,T
(8)
図 10 各温度の処女脱着等温線における実験値と
モデルによる予測値の比較(N40)
(9)
積の温度依存性および任意温度環境下の処女脱着等温線
のモデル化を試みた結果,以下の知見が得られた。
1) 処女脱着線は,高温環境になるほど水蒸気吸着量が
低下する。また,温度依存性は線形で評価できる。
( 0.975 < h ) のとき,
w(h, T ) = w0.975,T
ただし,
S 'BET ,T = 1.41⋅ exp ( −0.016 ⋅ (T − 273.15) ) ⋅ S 'BET ,293
(10)
2) 処女脱着線から得られた BET 比表面積は,高温環境
w0.975,T = (1.10 − 0.0045 ⋅ (T − 273.15) ) ⋅ w0.975,293
(
)
w0.4,T = S ' BET ,T ⋅ K 3 − K 4 ln ( − ln ( 0.4 ) ) ⋅ ρ w ⋅ 10 −9
(11)
(12)
ここで,w(h,T):相対湿度 h,温度 T のときの水蒸気吸着量
[g/g],
w0.4,T:温度 h=0.4,
T のときの水蒸気吸着量[g/g]である。
代表値として,20°C,40°C,65°C における(7)~(12)式の
モデルによる処女脱着等温線の予測値と実験値の比較を
図9,10 に示す。
5. 結論
本検討では,
十分に水和したセメントペーストに対して,
異なる温度環境下における脱着線を取得し,BET 比表面
になるほど低下する。また,温度依存性は,指数関
数形で評価できる。
3) 任意の温度環境下における処女脱着線をモデル化す
ることができた。
[参考文献]
1) I. Maruyama: Origin of Drying Shrinkage of Hardened Cement
Paste:Hydration pressure, Journal of Advanced Concrete Technology,
Vol. 8, No.2, pp.187-200, 2010
2) 丸山一平,五十嵐豪:ポルトランドセメントの水和反応と水蒸気
吸着試験による硬化体の比表面積,日本建築学会構造系論文集,
No. 663,pp.865-873,2011.5
3) 丸山一平,五十嵐豪:セメント硬化体の水蒸気吸着等温線モデル,
日本建築学会構造系論文集,
第 76 巻,第 664 号,pp.1033-1041, 2011.6
Fly UP