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ミニマム創前立腺全摘術の初期成績
H25年1月26日 日本泌尿器科学会 北海道地方会 地方会賞受賞演題 ミニ マム創 前 立腺全摘術の 初 期 成 績 断端陽性ゼロ+尿失禁の早期改善を目指して 三浦克紀 古野剛史 関晴夫 飴田要 奥山みどり 立崎恵美子 松野正 南谷正水 谷口光太郎 北海道泌尿器科記念病院 要旨 当院では小切開手術の施設認定を受け、2010年からこれまでにミニマム創前立腺全摘術を 54例に施行した。 後半の20例は尿失禁を軽減する目的で、内骨盤筋膜、恥骨前立腺靭帯(PPL)、恥骨尾骨 筋、内尿道口温存に加えて、尿道の後方再建(PR:直腸尿道筋とデノビエ筋膜を縫合)+ 前方固定(AS:温存したPPLに膀胱尿道吻合糸2時と10時を固定)を追加している。 創の長さは平均6.6cm、手術時間平均255分、出血量平均684ml、輸血例および術中合併 症は無かった。 術後に鼡径ヘルニアを7例に認め、現在は予防処置として腹膜鞘状突起の 結紮を追加している。 術前にホルモン療法を行った3例を除く51例のうち、pT2(前立腺内限局がん)は48例で あり、そのうち切除断端のがん陽性は1例(2%)のみと良好だった(通常5∼25%)。 尿失禁について、術後3か月時点でパッド1枚以下である割合は、PR+ASなし群71%、 PR+ASあり群で95%だった。 患者の90%がパッド1枚以下になるまでの期間は、PR +ASなし群が約1年かかったのに対し、PR+ASあり群では3か月弱と大幅に短縮した。 尿失禁軽減のためには前立腺周囲の解剖学的構造を温存し、そこに尿道を固定することが 重要である。 ミニマム創手術では高いコストをかけることなく、根治性と尿禁制と低侵 襲性のすべてを両立させることが可能である。 北海道泌尿器科記念病院 はじめに 当院では小切開手術(別名:ミニマム創手術)の施設認 定を得て、2010年6月から2012年10月までに前立腺 全摘術を54例に施行した。 その初期治療成績および尿失禁を軽減するための工夫 (PR+ASなど)について報告する。 北海道泌尿器科記念病院 手術成績の指標 根治性(pT2の断端陽性率、PSA非再発率) 合併症 重要 尿失禁の程度 創の大きさ・ 痛 出血量・手術時間・入院期間 性機能(勃起神経温存の場合) 難易度・コスト・・ etc. 前立腺 がん 切除ライン 断端陽性になる ベストのライン 尿失禁が増える 北海道泌尿器科記念病院 尿失禁改善のための工夫① 前立腺周囲の構造をなるべく温存 PPL 内骨盤筋膜温存 恥骨尾骨筋の 扇状付着部 恥骨尾骨筋温存 以前の 切開ライン PPL温存 膀胱頚部温存 現在の 剥離ライン 前立腺 内骨盤筋膜 北海道泌尿器科記念病院 DVCバンチング時の違い PPL温存 PPL PPL切開(以前) PPL断端 北海道泌尿器科記念病院 尿失禁改善のための工夫② 吻合部が落ち込まないよう固定する(PR+AS) 尿道後方再建(PR) Posterior Reconstruction 直腸尿道筋 PR デノビエ筋膜 膀胱 恥骨 デノビエ筋膜 温存したPPL 直腸尿道筋 尿道 温存した PPL 膀胱 尿道前方固定(AS) Anterior Suspension AS 北海道泌尿器科記念病院 PR+ASでどう変わる? PR+ASあり PR+ASなし 膀胱頸部が術前と ほとんど同じ高さ 吻合部が落ち込んで 漏斗状になっている 失禁しやすい? 北海道泌尿器科記念病院 ミニマム創前立腺全摘術 54例の患者背景 年齢 47∼76 才 (平均65.5) 術前PSA 4.08∼50.48 ng/ml (平均10.9) 術前臨床病期 T1c 40例 T2a 5例 T2b 6例 T2c 2例 T3a 1例 リスク分類 Low 19例 Mid 22例 High 13例 術前治療 なし 51例 術前ホルモン療法 3例 神経温存 なし 48例 片側神経温存 6例 創の長さ 5.5∼7cm 平均6.6cm 北海道泌尿器科記念病院 合併症 術中 術後 創延長 (7→9cm) 1 例 膀胱尿道吻合不全 2 例 直腸損傷 例 膀胱尿道吻合部狭窄 1 例 外尿道口狭窄 1 例 感染性リンパ嚢腫 2 例 鼡径ヘルニア 7 例 輸血 0 0 例 現在、腹膜 状突起の予防的結紮を追加 /54例中 北海道泌尿器科記念病院 病理結果 (NHT3例を除く51例) 断端陽性率 pT stage 3b 6% 2a 20% pT2 4% 2b 2 % (48例中 1例) 2c 71% pT3b 2a 2b 2c 3b (全例 pN0) 67 % (3例中 2例) 北海道泌尿器科記念病院 尿失禁 1日あたり尿パッド枚数@術後3か月 PR+ASなし PR+ASあり n=34 5% 12% 18% n=20 47% 0 1 2~3 4枚以上 35% 60% 24% パッド0-1枚の割合 71% 95% 北海道泌尿器科記念病院 尿禁制の回復 尿パッド0∼1枚/日の割合 (% 100 100 PR+ASあり (n=20) 95 * 90 91 80 85 PR+ASなし (n=34) 71 60 55 45 40 44 患者の9割がパッド0∼1枚 になるのに要した期間 47 20 *p<0.05 (Fisher検定) 0 退院時 1か月後 3か月後 6か月後 1年後 PR+ASなし: 1年 PR+ASあり:3か月弱 北海道泌尿器科記念病院 結 語 内骨盤筋膜、PPL、膀胱頸部の温存、またASやPRは、 単独での有効性は明らかでないが、組み合わせて行うこ とで尿失禁を減らすことができる。 すなわち、根治性を損なわない範囲で前立腺周囲の解剖 学的構造を温存し、そこに固定することが重要である。 ミニマム創手術では、コストをかけることなく根治性と 尿禁制と低侵襲性を両立させることが可能である。 北海道泌尿器科記念病院 参考資料 北海道泌尿器科記念病院 断端陽性率(pT2):海外との比較 報告者 開腹 症例数 断端陽性率 (pT2) Salomon 2002 145 18.8% Pettus 2004 800 3.3% Swindele 2005 1209 6.8% Salomon 2002 137 21.9% 1000 15.5% El-Feel 2003 100 18.1% Rassweiler 2005 500 7.4% Rozet 2005 600 14.6% Stolzenburg 2005 700 10.8% Soderdahl 2005 110 13.5% Atug 2006 140 18% Joseph 2006 325 10% Borin 2007 400 6% Menon 2007 2652 1.5% Mottrie 2007 184 2.5% Tewari 2007 700 5.5% Zorn 2007 300 15% Ficarra 2009 103 12% 6169 9.5% 54 2% Guillonneau 2003 腹腔鏡 ロボット Patel 2011 ミニマム 三浦(当院) 2012 北海道泌尿器科記念病院 ロボット手術の体位とポート(6本) 呼吸・循環器系への負担 30度も頭を低くした 姿勢で4∼5時間の手術 脳圧上昇:未破裂脳動脈瘤の頻度5%あり 眼圧上昇:緑内障は禁忌 腕神経障害のリスク 本当に低侵襲?! 北海道泌尿器科記念病院 前立腺癌診療ガイドライン2012 腹腔鏡およびロボット手術の断端陽性率、術後尿禁制の回復、 術後性機能回復は開腹手術と同等である。 ロボットで切除断端をコントロールできるようになるには 80例以上の経験が必要(腹腔鏡はさらに多く必要) ロボットは、開腹手術より出血量は少ないが、手術時間は長い ミニマム創手術は開腹手術と同等の根治性、機能温存をもちなが ら、手術コストが開腹手術同様に低い。明らかな欠点はない。 開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術、ミニマム創手術の いずれであっても、習熟した術者が行えば、根治性および 尿禁制、性機能に及ぼす影響は同等である。 であるならばコストが低く、開腹手術の手技を生かせ、 CO2を使わない ミニマム創手術が最も合理的と考えます。 あなたが手術を受けるなら? 開腹手術 ミニマム Good Bad Good Bad 傷が小さい ● 操作性 ● 安全性 ● コスト ● ● 操作性 環境に優しい ● ● 安全性 ● コスト ● ● ● 立体視 ● 俯瞰視 ● 傷が大きい ● 拡大視不可 ● 拡大視 立体視 俯瞰視 腹腔鏡 ロボット Good Bad 操作性悪い ● 立体視不可 ● 俯瞰視不可 ● ● 傷が小さい ● 拡大視 ● ● ● Good 頭低位 ● 高コスト ● 安全性劣る ● Bad ● ● 出血量 術者が楽 ● ● 立体視 操作性 ● ● 拡大視 傷が小さい 極端な頭低位 超絶高コスト 俯瞰視不可