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めがね装用による脳の活性化に関する研究 Study on the Brain Activity

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めがね装用による脳の活性化に関する研究 Study on the Brain Activity
実験力学 Vol.11, No.3, p182-187, 2011
1
めがね装用による脳の活性化に関する研究
金子
fMRI 装置内での実験 -
弘 *1,格内
敏 *2,田路秀樹 *3,西村
淳 *4
Study on the Brain Activity during Visual Stimulus with Glasses
- Experiment in the fMRI Equipment Hiroshi KANEKO, Satoshi KAKUNAI, Hideki TOHJI and Jun NISHIMURA
The effect of the visual correction with glasses on the brain activation by reading sentences with characters
presented in a stimulus image were measured by the fMRI. In order to move the lens unit inside the fMRI equipment, we
choose the suitable materials for the lens holder and jigs. As the results, when stimulus images can be seen clearly, the brain
activations are found in the classical language areas. On the other hand, when the visual correction was clear but the target
images were blurred, or when the target images were clear but the correction was not sufficient, little activation was found in
those areas, although lower visual areas and the frontal eye field / premotor area were activated. The activations in the
classical language areas would be much sensitive to whether the character images are readable or not.
Key words: Glasses, fMRI, Visual Stimulus, Brain Activation, Statistical Parametric Mapping
1.緒 論
人間は視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚の五感を使って周
②Parietal lobe
囲の環境を認識するが,中でも目から入る視覚情報は全体
の 80%に達すると言われている.目に入った光は,角膜と
①Frontal lobe
④Occipital lobe
水晶体で屈折され,網膜に外界の像を映し出す.網膜上の
視細胞はこれを神経電流に変え,視神経から脳に向けて送
り出す.Fig.1 に大脳の各部の名称を示す
1)
③Temporal lobe
.脳は大きく左
右の大脳半球に分かれ,各脳半球の外側の皮質部は,前頭
葉①,頭頂葉②,側頭葉③,後頭葉④に分かれて,それぞ
れ特有の機能があることが知られている.前頭葉には思考
や意志などに関係する前頭連合野,運動指令を出す運動野,
Cerebellum
Brainstem
Fig.1
Schema of brain structure
視線方向に眼を動かす前頭眼野,言語の理解と産生に関係
するブローカ野などがあり,頭頂葉には体性感覚に関係し
て,空間的な位置関係を理解する頭頂連合野と,触覚・味
覚などの感覚野などがある.側頭葉には視覚情報の区別や
記憶を担う側頭連合野と聴覚野,耳で聞いた言語の理解に
働く言語野(ウェルニッケ野)などがあり,後頭葉には視
覚をつかさどる視覚野がある.眼からの視覚情報の信号は
後頭葉の一次視覚野に入り,その後,読み取りや立体視な
どの目的に合わせて,脳のいろいろな領域で高次の情報処
理を行う.このとき,近視や乱視などの屈折異常や,老視
などの調節異常があると網膜像が不鮮明となり,脳に伝達
される視覚情報の質や伝達精度が相対的に低下するため,
Fig.2
fMRI system
脳活動レベルも低下すると考えられる.
これまでに筆者らは,めがねやレンズの工学的な解析を
通して,それらの物理的な評価を行ってきた 2)~ 4).同時に,
を視覚誘発脳波 VEP(Visual Evoked Potential)を用いた測
定が行われたが
5), 6)
,脳の賦活部位を直接には観察してい
めがね装用によって視機能や脳にどのような影響があるか
な い . 一 方 , 機 能 的 磁 気 共 鳴 画 像 法 fMRI( Functional
原稿受付 2011 年 5 月 17 日
正会員 ㈱三城(〒703-8282 岡山県岡山市中区平井 6-6-11)
正会員 兵庫県立大学(〒671-2201 兵庫県姫路市書写 2167)
兵庫県立大学(〒671-2201 兵庫県姫路市書写 2167)
㈱三城(〒703-8282 岡山県岡山市中区平井 6-6-11)
Magnetic Resonance Imaging)は脳活動を非侵襲的に画像化
*1
*2
*3
*4
できる計測法であり,同様に脳活動を画像化できる PET
(Positron Emission Tomography)法のような放射線の被爆
がなく,3 次元の高い空間分解能を持つ.本手法を用いて
2
Mirror
Mirror
Lens
Pull string to
exchange lenses
Screen
Lens
Projector
Fig. 3
Experimental overview
は,特定の視覚刺激による脳活動の変化から視野,コント
ラスト視力,色覚などの視機能を評価する試みはなされて
いるが
7), 8)
,fMRI 装置内で実際にめがねをかけたり外した
りした時の脳活動を直接に測定比較した研究は行われるこ
とがなかった.この理由には,fMRI 内には金属等の磁性体
Elastic cord
Fig.4
Strings for lens exchange
Placement around head-coil of fMRI system
を持ち込めないことや,実験中に被験者の身体や実験装置
の一部が動くことによって装置内の磁場が乱され,測定ノ
Lens 1
Lens 2
Lens 1
Lens 2
イズとなるため実験が難しいことなどがある.
本研究では,めがね装用前後における視覚刺激の脳への
影響を,fMRI を用いて三次元的に詳細に計測する方法につ
いて検討した.実際には,fMRI 装置内でのめがねの装用作
業が可能な実験装置を考案し,次に被験者の屈折異常をめ
がねで補正して正しく見えるようにした後,はっきり見え
る時とはっきり見えない時の脳活動を比較することにより,
視力の違いによる活動部位の違いを検討した.
2.実
Elastic cord
Release string
Fig. 5
Subject
Pull string
Mechanism of lens exchange unit
験
2.1 実験装置
本研究では,情報通信研究機構・未来 ICT 研究所が所有
する fMRI 装置(MAGNETOM Trio,Siemens 製,Fig.2)を
使用した.この装置の磁場強度は 3.0 T(テスラ),被験者
が入るボア内径は 60 cm である.めがね装用前後の脳活動
を調べる実験装置の概要を Fig.3 に示す.被験者は仰向けに
なって装置内に入り,スクリーン上に映し出される視標の
文字画面を,ミラー越しに見て実験を行う.
実験では,異なる度数のめがねレンズを被験者の眼前で
交換するため,レンズの可動装置を製作して,これを被験
者の頭部を覆う格子状のヘッドコイル(磁気共鳴信号の検
出アンテナを内蔵)の一部に取り付けた(Fig.4).被験者は
測定中,体を動かすことが禁じられるので,測定中のレン
ズ交換は,装置の外から補助者がヒモを引くことによって
行った.
なお,この可動装置は,プラスチックのような非磁性体
で作られていても,fMRI装置内の強磁場に曝されてわずか
でも磁化されると,それが装置内で動くとき微弱な磁場環
境を乱して大きな測定ノイズとなる.そこで本実験に先立
って,いくつかの非磁性素材(シリコン,塩化ビニル,ポ
ロエチレン,ポリプロピレン,ジュラコン,アクリル)を
準備し,fMRI装置内で使用できる適切な素材は何かを調査
した.まず棒状で同じ体積を持つ各素材の小片を作り,
Fig. 6 Example target images
(Upper: Clear image, Lower: Blurred image)
3
Fig. 7
Time course of a scanning session
fMRIの高磁場に曝した後,脳磁計MEG(Magneto-encephalo
なかった.被験者は,事前に測定距離と同じ 1.6 m の距離
-gram)の装置中で振動させた.fMRIの高磁場によって素材
で,1.6 m 用に縮小印刷した視力表を用いて視力測定を行っ
がわずかでも磁化されると,MEG装置内でそれを振動させ
た.その結果,視力 1.0 以上が見える最もプラス寄りの球
ることによって,動きに応じた磁場の乱れが検出できるの
面レンズの度数を求めて,これを「クリアレンズ」とした.
で,その乱れの大きさから磁化されやすいものとされにく
さらに,これにプラス(凸)レンズを順次付加して,視力
いものを判定することができる.その結果,これらの素材
が 0.3~0.4 になるレンズ度数を求めて,これを「ブラーレ
の中ではポリプロピレンが強磁場内でも最も磁化されにく
ンズ」とした.
いことがわかった.そのため,fMRI装置内で被験者のレン
Fig.7 に実験手順の時系列図の一部を示す.被験者は,度
ズを交換する可動レンズホルダーはポリプロピレンを用い
数が合って視界のよい「クリアレンズ」と,度数が合わず
て製作し,他の固定部の素材は主に塩化ビニルを用いた.
視界の悪い「ブラーレンズ」を切り替えて,画面上の文章
さらに,これらが装置内にあることでおこる電波環境への
を読む.スクリーンの画面も「クリア画面」と「ブラー画
影響を最小にするため,装置部品の体積は極力小さくし,
面」があるので,これらを組み合わせて,被験者は次の3
可動レンズホルダーの動きも回転対称になるよう工夫して
条件で画面を見た.
製作した.
条件 A:クリア画面+クリアレンズ
考案した可動レンズホルダーの機構を Fig.5 に示す.補
条件 B:クリア画面+ブラーレンズ
助者が左右のヒモを引くと左右のレンズホルダーが各々
条件 C:ブラー画面+クリアレンズ
180°回転して入れ替わり,ヒモを放すとゴムの働きでもと
被験者は,条件 A では視標がはっきり見えるが,条件
に戻る.可動部を 180°回転させることで全体の形状変化
B, C ではいずれも同程度にはっきり見えない状態と考えら
を極力小さくした.本装置に,被験者が鮮明に見えるレン
れる.ここでははっきり見えない原因が,レンズの度数に
ズと,不鮮明に見えるレンズ(後述)を設置して,切り替
ある場合と画面のボケにある場合では感覚的には異なるが,
え て使 用し た. レン ズの 素材は プラ スチ ック の CR-39
この違いを脳が検出できるかどうかを確かめるために,あ
(ADC: Allyl Diglycol Carbonate)である.
えて条件 B, C を分けて実験を行った.
2.2 実験手順
実験で掲示する視標画面は,夏目漱石の小説「坊ちゃん」
1 つの画面の提示時間は 20 秒で,その後 20 秒のブラン
ク(グレー画面)をはさんで,次の画面が提示される.被
の文章を 7~8 行ずつ切り取ったもので,ピントの合った
験者は提示される画面の文字を目で追って発音しないで黙
「クリア画面」と,それを画像処理ソフトのガウスぼかし
読する.実験は,条件 A, B, C を各 1 回ずつ測定するのを 1
の処理を施した「ブラー画面」がある(Fig.6).ぼかしの半
ユニット(測定時間 2 分)として,条件の順序を変えた 6
径は 3.0 pixel(視角 1.8 分)とした.被験者の目からスクリ
ユニットを行った.これを 1 セッション(12 分)として,
ーン画面までの距離は 1.6 m で,画面の大きさは横 28.5 cm
1 回の実験は,ユニットの順序を変え,休憩をはさんで 4
×縦 18.9 cm(視角 10.1×6.7°),画面の解像度は 1024×768
セッション(48 分)行った.レンズの移動は,ブランク期
ピクセルである.1文字の大きさは,縦横ともに視角約 17
間に入って 10 秒後,すなわちブランク期間の中間時点で行
分で,測定距離 1.6 m では視力 0.34 の視標の大きさに相当
った.これは,脳の神経細胞の活動に対して,脳内血流中
する.視標輝度は白い背景部が 66 cd/m2 であり,視標文字
の脱酸化ヘモグロビン濃度が減少する現象(BOLD: Blood
のコントラストは 95 %である.
Oxygen Level Dependent)の変化が,神経細胞の電気生理学
被験者は,屈折異常以外の眼疾患のない 21~55 歳(平均
的活動の約 5 秒後にピークとなり,さらに約 5 秒でもとに
27.5 歳±10.8 歳)の男性 11 名である.なお,被験者は 43
戻ることから 9),レンズ移動によって発生するノイズが測
歳と 55 歳を除くと,ほぼ若年者である.ただし,実験結果
定結果に影響しないように考慮したためである.
をまとめるにあたっては前者の 2 名を除いても結果に差が
fMRI の撮影条件を以下に示す.
4
Anterior
Posterior
f
h
f
a
Left
b
lateral
Right
lateral
d
Bottom
f : Lateral geniculate body
/ Pulvinar nuclei
g : Superior colliculus
h : Left putamen
g
(1) Vertex view
e
h
a
g
h
Top
f
f
c
(2) Left-side view
f
(3) Posterior view
Fig.9 Activated regions in the group analysis
(Condition A) shown in a glass brain
b
a : Visual cortex
b : Left frontal eye field / Premotor area
c : Supplementary motor cortex
d : Broca’s area
e : Wernicke’s area
Fig.8
g
3.結果と考察
3.1 はっきり見える時の集団解析
11 名の被験者の結果から集団解析を行い,母集団の統計
Group analysis results (Condition A)
的な検定を行った.クリアな視標画面を視界のよいクリア
・撮影幅(FOV:Field of view):192 mm
レンズで見たとき(条件 A)の結果を Fig.8 に示す.これは
・繰り返し時間(TR:Time to repeat):2,000 ms
大脳を6方向から見た図で,有意な活動を示した脳表面部
・エコー時間(TE:Time to echo):30 ms
位が赤黄色に表示されている.後頭葉の一次視覚野(a)は強
・Total Scan Time:12 分×4 試行
く活動し,左前頭眼野(運動前野)(b)および補足運動野・
・Flip Angle:79°
眼野(c)も活動している.(a)部の活動は網膜に映る情報を受
・Slice 厚/枚数:3.0 mm/34 枚
け取って処理しているためで,(b), (c) は画面の文字を追う
・グラジェントエコーEPI 法による T2*強調画像(機能画像)
ために眼球の視線を適切な方向に向ける指令を出している
ためと考えられる.また文字の意味を理解するためにブロ
3
の解像度(Voxel):3×3×3 mm
・グラジェントエコー法による T1 強調画像(構造画像)の解
3
ーカ野(d),ウェルニッケ野(e)などの言語野が活動した.
次に脳の内部の活動状態をみるために,条件Aの場合の
像度(Voxel):1.2×1×3 mm
透過脳活動マップ
2.3 解析方法
得られたデータの解析には,fMRI 研究で広く利用されて
12)
をFig.9に示す.これは,脳を3方向か
ら透視した図で,反応部位は黒く表示される.たとえば,
を,
Fig.9 (1) の後頭部(図の右寄り)に見られる大きな反応は
MATLAB(The Math Works)Ver.6.5 の動作環境下で使用し
一次視覚野であるが,Fig.8の最上段の図と比較すると脳の
た.まず前処理として,スキャン中の被験者の頭部の位置
表面だけでなく,鳥距溝と呼ばれる溝に沿って脳内部まで
ずれを補正し,構造画像を機能画像に合わせた.次に,複
回り込んで反応していることがわかる.さらに,Fig.9の脳
数の被験者データを比較するため,被験者ごとに異なる脳
内部の中央部の(f), (g), (h)に反応がある.(f)は網膜からの情
の形状を MNI(Montreal Neurological Institute)の 3D 標準
報を一次視覚野に投射する左右の「外側膝状体」および視
いる統計手法 SPM(Statistical Parametric Mapping)2
10)
に合わせる解剖学的正規化を行った.最後に,被験
覚情報を統合する「視床枕」などの領域と考えられる.(g)
者間のばらつきの補正と統計値の検定に適合させるための
は注視するための眼球運動(サッカード)に関係する「上
平滑化処理を行った.統計検定では,Voxel ごとに得られ
丘前部」であり,(h)は補足運動野から投射を受ける皮質下
た BOLD 信号の時系列データに対して t 検定を行い,課題
の「左被殻」と考えられる.これらの領域は言語を処理す
に伴う有意な活動部位を求めた.これを各被験者について
るブローカ野と関連する場所と思われる.
行い,その全結果を集めた集団全体の統計解析を行い,母
3.2 はっきり見えない時の集団解析
脳
11)
集団の賦活パターンを推定した.また,A, B, C の各条件間
視標がはっきり見えない状態(条件 B, C)で得られた左
の反応の差分を求め,他の条件に対して有意に反応する部
半球の賦活結果を,条件 A の結果とともに Fig.10 に示す.
位を特定した.
条件 B と条件 C では,ほぼ同じような部位が賦活した.全
5
b
b
d
e
a
Condition A-B
(2) Blurred view and
clear image: B
(1) Clear view and
clear image: A
b
a : Visual cortex
b : Left frontal eye field
/ Premotor area
Condition B-A
b
d
e
a
Condition A-C
Condition C-A
Condition B-C
Condition C-B
(3) Clear view and
blurred image:C
Fig. 10 Activated regions in the group analysis
for 11 subjects (Condition A, B and C)
ての条件で共通して活動した部位は,後頭葉の一次視覚野
(a),および前頭葉上部に位置する前頭眼野(運動前野)(b)
である.条件 A で活動が見られた補足運動野とブローカ野
は,条件 B, C では活動が小さく,ウェルニッケ野はまった
く活動しなかった.全体に条件 B, C の活動は条件 A に比
べて小さいが,一次視覚野(a)では賦活の大きさはほぼ同じ
である.よって一次視覚野の活動は,物がはっきり見える
b: Left frontal eye field / Premotor area
d: Broca’s area
e: Wernicke’s area
Fig. 11
Activation comparisons among the conditions
in the group analysis for 11 subjects
か見えないかとは関係なく,同等の働きをすることが推察
される.なお条件 B, C では,視標の文字がはっきり見えな
いために言語野の活動が低下したものと思われる.実験後,
被験者に自覚的な見え方を確認したところ,条件 B, C では
ひらがなや画数の少ない漢字は推測してようやく読める程
度であったが,大半の漢字は読めなかった人が多かった.
一方,感情や自己の行動評価に関係する前頭前野に反応が
見られないことから,本実験では物がはっきり見えないこ
とに対する不快感やイラだちは小さかったものと思われる.
3.3 実験条件間の差分による集団解析
実験 A, B, C の 3 つの条件間の相互の差分について,11
方がよく働いていることが明らかになった.
条件 B と条件 C では,ともに条件 A に対して有意な反
応はほとんどなかった.また B と C の差分でも反応は認め
られず,両者はほぼ同じ結果になった.このことより,は
っきり見えていない時は,その原因が視標画面のボケであ
るか,またはレンズの度数が合っていないためであるかに
関わらず,脳活動に大きな違いはないことが分かった.こ
れは,今回提示した画像が文字列のために,はっきり見え
ない時には,文字の形以外に集められる視覚情報が他にほ
とんどないことが原因と思われる.したがって,レンズの
名の集団で解析した左半球の結果を Fig.11 に示す.ここで
度数が合わず視界が悪い場合と,視標自体がボケている場
A-B とは,条件 B に対して,条件 A で有意に脳活動が大き
合の違いを検出するには,両者の行動学的な違いや,被験
い部位を示している.
条件Aで有意に賦活する部位は,視覚関連領野では眼球
者がどこに違いを感じやすいかなどの,主観的な違いが検
出できる課題を検討することが,今後に必要と思われる.
運動に関係する前頭眼野(b)である.一方,脳内部において
はFig.9とほぼ同様の,外側膝状体・視床枕(f),上丘前部(g)
4.結
論
が賦活された.言語関連領野ではブローカ野(d),ウェルニ
本研究では,めがね装用による視覚刺激の違いが脳の活
ッケ野(e)が反応した.よって文字がはっきり見える時は,
性化に及ぼす影響について,fMRI 装置内での実験を試みた.
言語関連や,目を特定の場所に向けるはたらきをする眼球
まず,fMRI 装置内でのめがねの装用作業を可能にするため,
運動関連の部位がよく活動するが,はっきり見えない時は
適切な非磁性素材を選定し,それを用いた実験装置を製作
それほど活動せず,脳全体としては,はっきり見える時の
してノイズの影響を受けにくい実験方法を考案した.次に,
6
視標画面とめがねレンズの組み合わせによって,はっきり
見える時とはっきり見えない時の違いについて実験を行っ
た.得られた知見を以下に示す.
(1) 装置内で動きを伴う実験では,可動部品の素材や設計
について十分なノイズ対策が必要である.
(2) 非磁性体の中でもポリプロピレンが特に磁化されにく
く,装置内の可動部品の素材として適している.
(3) 一次視覚野は,はっきり見えるかどうかにほとんど関
係なく常に賦活される.
(4) クリア画面+クリアレンズで画面がはっきり見えると
きは,読書が促進されるため,言語関連の部位や眼球運
動の関連部位の活動が高まる.
謝 辞
本研究は情報通信研究機構・未来 ICT 研究所の fMRI 装
置によって実施したものであり,本実験の遂行にあたりご
協力と適切なご助言を頂きました脳情報通信研究室室長の
村田 勉 様,主任研究員の加藤 誠 様,および技術者の糸
井誠司 様に感謝申し上げます.
参 考 文 献
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