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2010-2011年度経済見通しについて

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2010-2011年度経済見通しについて
2010年5月24日
明治安田生命
2010-2011年度経済見通しについて
~輸出の好調が徐々に内需に波及、日本経済は堅調な回復が続く~
明治安田生命保険相互会社(執行役社長 松尾 憲治)は、2010年1-3月期のGDP速報値
の発表を踏まえ、2010-2011年度の経済見通しを作成いたしました。
主要なポイントは以下のとおりです。
1.日本のGDP成長率予測
2.要
実質GDP成長率:2010年度
2.8%
2011年度
2.3%
名目GDP成長率:2010年度
1.9%
2011年度
2.2%
点
①2010年度から2011年度にかけての日本経済は、デフレが引き続き家計や企業心理の足かせとな
るものの、輸出の好調持続が見込まれるのに加え、内需にも徐々に回復のすそ野が広がってい
く展開が期待できるため、潜在成長率を上回る堅調な成長が続くと予想する。
②雇用・所得環境の緩やかな改善や子ども手当の支給開始などを受け、個人消費は堅調に推移し
よう。住宅ローン減税の効果などから住宅投資は持ち直しが続き、設備投資もストック調整の
進展などによって、2010年度後半から回復基調を強めよう。輸出は中国・アジア向けの好調に
加え、米国向けも次第に好転へ。一方、公共投資は予算減額の影響で減少基調が続こう。
③外需のカギを握る中国経済は、政府の適切なマクロ経済運営によって、景気過熱の抑止に成功
するとみる。南欧の財政問題も引き続きリスクだが、EU・IMFの大規模な支援策により金融危
機の再来に繋がるリスクは低下している。欧州景気の回復は鈍いものにとどまらざるを得ない
が、世界景気の腰折れ要因にはならないとみる。
〈主要計数表〉
2009年度
2010年度
実績
2011年度
2010/2時点
2010/2時点
実質成長率
▲1.9%
2.8%
1.8%
2.3%
2.1%
成長率寄与度・内需
▲2.4%
1.6%
0.9%
1.8%
1.3%
・外需
0.4%
1.3%
0.9%
0.5%
0.7%
▲3.7%
1.9%
0.6%
2.2%
1.6%
名目成長率
日本のGDP成長率・主要経済指標予測
1.日本のGDP成長率予測
予測
(前期比)
2009年度 2010年度 2011年度
予測
2009年度
10-12月
実質GDP
-1.9%
2.8%
2.3%
2010年度
1-3月
1.0%
1.2%
4-6月
0.5%
7-9月
0.5%
10-12月
0.7%
2011年度
1-3月
0.5%
4-6月
0.5%
7-9月
0.6%
10-12月
0.6%
1-3月
0.5%
0.6%
1.6%
1.5%
0.7%
0.3%
0.1%
0.5%
0.4%
0.2%
0.3%
0.5%
0.4%
0.4%
民間住宅投資
-18.5%
4.8%
5.2%
-2.7%
0.3%
3.1%
4.6%
2.3%
0.5%
1.3%
2.3%
0.9%
-3.7%
民間設備投資
-15.1%
6.0%
7.3%
1.3%
1.0%
1.4%
1.8%
3.4%
2.4%
1.5%
1.2%
1.0%
1.2%
政府最終消費支出
1.8%
0.9%
0.2%
0.7%
0.5%
0.0%
0.1%
0.1%
0.0%
0.0%
0.1%
0.1%
0.1%
公的固定資本形成
8.7% -10.1%
-6.1%
-1.2%
-1.7% -2.8%
-4.5%
-4.2%
-1.8%
-0.9%
-0.6%
-0.3%
0.0%
民間最終消費支出
財貨・サービスの輸出
-9.6%
17.2%
8.7%
5.8%
6.9%
3.1%
2.0%
2.4%
2.3%
2.2%
1.8%
1.9%
2.0%
財貨・サービスの輸入
-11.8%
11.0%
7.7%
1.5%
2.3%
2.7%
2.9%
2.8%
2.1%
1.8%
1.4%
1.2%
1.4%
名目GDP
-3.7%
1.9%
2.2%
0.3%
1.2%
0.1%
0.4%
0.6%
0.5%
0.4%
0.7%
0.5%
0.6%
GDPデフレータ(前年比)
-1.8%
-0.9%
-0.2%
-2.7%
-3.0% -1.4%
-1.2%
-0.5%
-0.5%
-0.3%
-0.2%
-0.2%
0.0%
予測
(前期比寄与度)
2009年度 2010年度 2011年度
予測
2009年度
10-12月
実質GDP
-1.9%
2.8%
2.3%
2010年度
1-3月
1.0%
1.2%
4-6月
0.5%
7-9月
0.5%
10-12月
0.7%
2011年度
1-3月
0.5%
4-6月
0.5%
7-9月
0.6%
10-12月
0.6%
1-3月
0.5%
0.4%
0.9%
0.8%
0.4%
0.2%
0.1%
0.3%
0.2%
0.1%
0.2%
0.3%
0.2%
0.2%
民間住宅投資
-0.6%
0.1%
0.1%
-0.1%
0.0%
0.1%
0.1%
0.1%
0.0%
0.0%
0.1%
0.0%
-0.1%
民間設備投資
-2.3%
0.8%
1.0%
0.2%
0.1%
0.2%
0.2%
0.5%
0.3%
0.2%
0.2%
0.1%
0.2%
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
-0.1% -0.1%
-0.2%
-0.1%
-0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
民間最終消費支出
政府最終消費支出
0.3%
0.2%
0.0%
0.1%
公的固定資本形成
0.3%
-0.4%
-0.2%
-0.1%
-0.5%
0.2%
0.0%
-0.2%
0.2%
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.4%
1.3%
0.5%
0.6%
0.7%
0.2%
0.0%
0.1%
0.1%
0.2%
0.1%
0.2%
0.2%
財貨・サービスの輸出
-1.5%
2.4%
1.4%
0.9%
0.9%
0.5%
0.3%
0.4%
0.4%
0.4%
0.3%
0.3%
0.3%
財貨・サービスの輸入
1.9%
-1.1%
-0.8%
-0.2%
-0.3% -0.3%
-0.3%
-0.3%
-0.2%
-0.2%
-0.2%
-0.1%
-0.2%
在庫品増加
純輸出
2.主要指標予測
予測
2009年度 2010年度 2011年度
予測
2009年度
10-12月
2010年度
7-9月
10-12月
1-3月
鉱工業生産(前年比)
-9.3%
16.7%
8.5%
-5.1%
27.1% 21.9%
19.5%
16.0%
10.7%
9.9%
8.8%
7.8%
7.5%
消費者物価指数(前年比)
-1.6%
-0.9%
0.0%
-2.0%
-1.1% -1.2%
-1.2%
-0.7%
-0.6%
-0.3%
0.0%
0.1%
0.2%
除く生鮮食品(前年比)
-1.6%
-1.0%
0.0%
-1.7%
-1.2% -1.3%
-1.2%
-0.8%
-0.6%
-0.3%
0.0%
0.1%
0.2%
国内企業物価指数(前年比)
-5.2%
0.2%
0.8%
-5.2%
-1.7%
0.0%
0.1%
0.3%
0.3%
0.5%
0.7%
1.2%
0.9%
4.9%
完全失業率(季調済:平均)
無担保コール翌日物(期末値)
為替レート(円/㌦:平均値)
1-3月
4-6月
2011年度
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
5.2%
4.9%
4.6%
5.2%
5.0%
5.0%
4.9%
4.8%
4.7%
4.6%
4.5%
4.4%
0.10%
0.10%
0.25%
0.10%
0.10% 0.10%
0.10%
0.10%
0.10%
0.10%
0.10%
0.10%
0.25%
93円
95円
101円
90円
91円
94円
96円
98円
2
93円
99円 100円 101円 102円
1.日本経済見通し
〈要
約〉
1-3月期の実質GDP成長率は、中国・アジア向けを中心に輸出が好調に推移したほか、個人消費
の回復基調も続いたことから、前期比+1.2%(年率換算+4.9%)と高い伸びを達成した。今後
は過去の経済政策の効果が薄れる時期に差し掛かるが、輸出が引き続き下支え役を果たすとみら
れ、日本経済は回復基調が続くと予想している。
個人消費は、エコカー減税・補助金やエコポイントの効果逓減が懸念されるものの、雇用・所
得環境が緩やかに改善すると見込まれることや、6月からは子ども手当の支給も開始されることな
どから、今後も底堅く推移しよう。住宅投資は、消費者マインドの好転に加え、住宅ローン減税
や住宅取得時の贈与税非課税枠拡大などの政策効果によって、緩やかに回復するとみている。設
備投資は、生産の回復や企業のキャッシュフローの好転、ストック調整の進展などによって、2010
年度後半から回復基調を強めよう。輸出は、中国・アジア向けが引き続き堅調に推移すると見込
まれることに加え、米国向けも次第に好転してこよう。一方、2010年度予算で公共事業関係費が
大幅な減額となり、公共投資は大きく減少することが避けられない。
2011年度は、子ども手当の満額支給の実現可否など不透明要素が残るものの、企業収益の回復
を受けた雇用・所得環境の改善が続く見通しであり、個人消費は引き続き堅調に推移しよう。設
備投資と住宅投資も回復基調が続くとみる。世界経済も次第に安定感を増してくるとみられ、輸
出も堅調な推移が続こう。公共投資の減少は続くと見込まれるものの、日本経済は民需主導で回
復基調を持続すると予想する。
マイナスの需給ギャップの縮小とともに、デフレ圧力は徐々に緩和するとみられるものの、今
後も引き続き物価の下押し圧力は残ろう。消費者物価は2011年度まで下落基調が続くと予想され、
利上げは2012年1-3月期となる可能性が高いとみている。
(1)個人消費は堅調に推移
雇用環境は最悪期を脱し、緩やかに改善してい
倍
る。完全失業率は昨年7月に過去最悪の5.6%にま
1.8
6.0
1.6
5.5
1.4
5.0
1.2
を底に、緩やかに好転しつつある。昨年7月から今
1.0
3月までの間に、雇用者数(季調値)は42万人の増
0.8
加となる一方、雇用調整助成金の支給対象者数は
4.5
4.0
3.5
0.6
有効求人倍率(左軸)
0.4
255万人から146万人へと、109万人も減少した。雇
新規求人倍率(左軸)
0.2
完全失業率(右軸)
用調整助成金は、雇用調整を実施せざるをえない
0.0
3.0
2.5
08/03
07/03
06/03
05/03
04/03
03/03
02/03
01/03
企業に対し、従業員の休業手当や賃金の一部を助
00/03
2.0
10/03
表1-1)。有効求人倍率と新規求人倍率も昨年8月
09/03
で上昇したが、その後は低下基調に転じている(図
%
(図表1-1)求人倍率と失業率の推移
成することによって、失業を防止することを目的
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」、総務省「労働力調査」
としており、支給対象者数の減少は、休業中の労働者が通常勤務に戻ったことを意味する。したが
って、実態としては雇用が増加したと考えることもできる。
3
一方、雇用形態別新規求人数(前年比)を見る
%
と、「臨時・季節」(臨時は1ヶ月以上4ヶ月未満
40
の雇用契約、季節は季節的な労働需要に対して一
20
-40
期契約社員の採用を優先している様子が窺われる。
-60
また、製造業を中心に所定外労働時間が顕著に回
-80
正社員
パートタイム
は鈍いことから、企業は従業員を増やすよりも残
%
かる。
15
3月調査の日銀短観における雇用人員判断DIは
10
+13(全規模・全産業ベース)と、3期連続で改
5
+23へと大幅に悪化する見通しとなっている。雇
10/03
09/12
09/09
10/03
09/12
09/09
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」
には失業者にカウントされる。また、今後は公共
ース)の先行き6月の雇用人員判断DIが+10から
09/06
あり、職探しを始めてもすぐに就職できない場合
09/03
-25
08/09
しを諦めていた人が労働市場に参入する傾向が
08/06
所定外給与
08/03
-20
07/12
雇用情勢が改善に向かう局面では、これまで職探
07/09
所定内給与
07/06
-15
07/03
者数は緩やかな増加基調が続くと予想されるが、
08/12
-5
現金給与総額
際、3月調査の日銀短観では、建設業(全規模ベ
09/06
0
-10
(約500万人)の失職が増加する懸念が強い。実
09/03
(図表1-3)現金給与総額(前年比)の推移
(事業所規模5人以上:調査産業計)
る水準である。生産の回復とともに、今後も雇用
投資の大幅減が確実な情勢であり、建設業従業者
08/12
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」
業時間の増加で対応している面が強いことがわ
善したものの、これは依然として雇用過剰感が残
08/09
復しているにも関わらず、常用雇用指数の回復力
08/06
07/03
臨時・季節
08/03
は正社員の採用には依然として及び腰であり、有
-20
07/12
1-2)。景気の回復基調は続いているものの、企業
0
07/09
しているものの、「正社員」は低調である(図表
07/06
定の期間を定める雇用契約)の求人は堅調に推移
(図表1-2)雇用形態別新規求人数(前年比)の推移
円
7,000
%
2.5
(図表1-4)春季賃上げ妥結状況の推移
※2010年度は4月23日現在
6,000
2.0
5,000
1.5
妥結金額(左軸)
用情勢は最悪期を脱したものの、2010年度一杯は
前年比伸び率(右軸)
失業率の高止まりが続くと予想される。
4,000
労働時間が増加しており、それに伴って、所定外
給与が回復している(図表1-3)。2008年9月のリ
ーマン・ショック後に落ち込んだ現金給与総額も
10年
09年
08年
07年
06年
05年
04年
03年
02年
01年
1.0
00年
所得環境に目を移すと、製造業を中心に所定外
(出所)日本経済団体連合会、旧日本経営者団体連盟
万円
%
(図表1-5)夏季賞与妥結金額の推移
10
90
※2010年度は4月20日現在
今3月は1年5ヶ月ぶりに前年比プラスとなった。㈱
80
5
インテリジェンスの調査によれば、正社員の賃金
70
0
60
-5
に先行する傾向があるアルバイトの平均時給は昨
年12月以降5ヶ月連続で前年比プラスとなってい
妥結金額(左軸)
50
る。
-10
前年比伸び率(右軸)
は前年比+1.81%(5,838円)と、前年の伸び率(同
4
(出所)労務行政研究所
10年
09年
08年
07年
06年
05年
04年
03年
02年
年度の大手企業の春季賃上げ率(定期昇給込み)
-15
40
01年
日本経団連の集計(4月23日現在)によれば、2010
+1.76%)を小幅ながら上回った(図表1-4)。労務行政研究所の調査(4月20日現在)では、主要
企業の2010年夏季賞与は前年比+2.4%の66.3万円となっている(図表1-5)。
2010年度は所定内給与も夏季賞与も前年水準を小幅ながら上回る見通しとなり、4月以降の現金
給与総額も前年比プラス基調が続く可能性が高まった。今後、所得環境は緩やかな改善基調が続く
と予想される。
ビである(図表1-6)。ただ、乗用車の販売は既
にピークアウトしつつある一方で、薄型テレビは
200
※季調値は明治安田生命が推計
35
150
30
100
好調を維持しており、両者は対照的な動きを示し
2011年7月にアナログ放送が終了予定のため、買
50
09/06
09/03
0
08/12
にピークアウトしつつあると考えられるものの、
20
08/09
については、エコポイントの効果は乗用車と同様
08/06
補助金の効果逓減による面が大きい。薄型テレビ
乗用車登録台数 (季調値)(左軸)
薄型テレビ出荷台数
(季調値)(右軸)
25
08/03
ている。乗用車のピークアウトはエコカー減税・
万台
10/03
の牽引役を果たしてきたのは、乗用車と薄型テレ
(図表1-6)乗用車登録台数と薄型テレビ出荷台数
40
09/12
いている。雇用・所得環境が厳しい中、個人消費
万台
09/09
個人消費は、昨年1-3月期を底に回復基調が続
(出所)日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会、
電子技術情報産業協会の資料より明治安田生命が作成
い替え需要が本格化していること、価格の大幅な下落によって消費者に値頃感が高まっていること
などが下支え要因となっているようだ。また、3月はエコポイントの省エネ基準変更前の駆け込み
需要(4月以降にエコポイントの対象外となる商品が大幅に値下げされたことによる)が販売台数
を大きく押し上げた。
今後は薄型テレビの販売もエコポイントの効果一巡によって次第に弱含む可能性が高い。ただ、
雇用環境は厳しいながらも最悪期は脱したとみられること、所得環境は今後緩やかに改善すると見
込まれること、第一生命の株式会社化に伴い契約者に株式・現金が割り当てられたこと(約1.4兆
円相当)、4月から公立高校の授業料無償化・私立高校の授業料軽減が始まっていること、6月から
は子ども手当の支給も開始されることなどを考慮すると、個人消費は今後も基本的には堅調に推移
しよう。これまでの個人消費回復の牽引役は耐久消費財であったが、今後は、教育、旅行、外食、
レジャー、衣料品など、幅広い分野で回復に向かうことが期待できる。
9月末にエコカーの補助金制度、12月末にはエコポイント制度がそれぞれ終了する予定であり、
制度終了前の駆け込み需要および制度終了後の反動減が予想される。ただ、エコカー減税は2012年
3月まで継続すること、乗用車や薄型テレビに向かっていた消費が他の消費に振り替わると予想さ
れることなどから、個人消費全体にとって大きな波乱要因にはならないとみている。
2011年度は、2010年1月からの所得税の扶養控除廃止・特定扶養控除縮小の影響が懸念されるも
のの、雇用・所得環境の改善が続く見通しであることから、個人消費は引き続き緩やかな回復基調
が続くと予想している。ただし、財政難を背景に子ども手当の満額支給の実現は不透明感が強く、
また、配偶者控除の廃止論議が再燃する可能性もある。今後の議論の動向次第では消費者マインド
を冷やすリスクが残ろう。
(2)住宅投資は緩やかに回復
新設住宅着工戸数は、2009 年 8 月の年率換算 68.8 万戸を底に回復しつつある(図表 1-7)。ま
た、住宅着工に数ヶ月先行する傾向がある建築確認申請件数や建築確認交付件数は、昨年 11 月以
降 5 ヶ月連続で前年比プラスとなっており、当面、住宅着工の回復基調が続くことはほぼ確実な情
5
勢だ(図表 1-8)。雇用・所得環境の改善に伴う
消費者マインドの好転に加え、2009 年から住宅ロ
(図表1-7)利用関係別新設住宅着工戸数の推移
(季調済年率換算戸数)
万戸
80
持家(左軸)
貸家(左軸)
分譲(左軸)
総戸数(右軸)
万戸
160
40
10
20
ションの契約率(新規売却戸数/新規発売戸数)
0
0
ヶ月連続で上回った(図表 1-9)。販売在庫数も
2008 年 12 月末には 1 万 2,427 戸にまで膨れ上が
っていたが、今 4 月末には 5,736 戸とピーク時か
10/03
140
09/12
は 79.9%と、好不調の分かれ目とされる 70%を 4
09/09
20
く底入れの兆しが見え始めた。4 月の首都圏マン
09/06
60
長らく低迷の続いたマンション市場もようや
09/03
80
30
08/12
40
とが可能)された効果が現れてきたようだ。
08/09
100
08/06
合、10 年間で最大 600 万円の税額控除を受けるこ
08/03
120
50
07/12
60
07/09
「長期優良住宅」に 2011 年末までに入居した場
07/06
70
07/03
ーン減税が大幅に拡充(耐久性や耐震性に優れる
(出所)国土交通省「住宅着工統計」
%
60
(図表1-8)建築確認件数(前年比)の推移
建築確認申請件数
ら半減しており、在庫調整も大きく進展している。
40
4 月の新規売却(契約)戸数は前年同月比+51.3%
20
建築確認交付件数
新設住宅着工戸数
と急回復した(図表 1-10)。
10/03
(出所)国土交通省
09/12
住宅の取得費用と比較すると少額であることから、
09/09
礎控除と併せても非課税枠が 610 万円にとどまり、
09/06
-40
09/03
(2011 年は 1,000 万円に引き下げ)。2009 年は基
08/12
-20
08/03
度額が 500 万円から 1,500 万円に引き上げられた
08/09
0
08/06
2010 年からは住宅取得資金の贈与税非課税限
効果は乏しかった。住宅生産団体連合会の調査に
%
よると、2008 年度に住宅資金の贈与を受けた者の
90
14
平均贈与額は 1,264 万円である。基礎控除とあわ
80
12
せた非課税枠が 1,610 万円にまで拡大したことに
70
10
より、住宅資金を贈与するインセンティブは高ま
60
8
ろう。
50
年 12 月 8 日から 2010 年 12 月 31 日に着工したも
の)した場合、一律 30 万ポイント(30 万円相当)
のエコポイントが付与されるが、住宅の場合は建
築費だけでも 2,000~3,000 万円程度は要するた
2
10/03
09/09
09/03
08/09
08/03
07/09
07/03
30
06/09
エネ性能に優れるエコ住宅を新築(対象は 2009
4
在庫数(右軸)
06/03
宅投資のインセンティブとしては物足りない。省
40
05/09
ーム需要を喚起する効果が期待されるものの、住
6
契約率(3ヶ月移動平均)(左軸)
05/03
一方、住宅版エコポイントについては、リフォ
千戸
(図表1-9)首都圏マンションの契約率・在庫数の推移
(出所)不動産経済研究所
(図1-10)首都圏マンション新規売却戸数の推移
戸
10000
%
40
3ヶ月移動平均(左軸)
8000
20
同前年同月比(右軸)
期に差し掛かっていること、1970 年代に大量に着
6
(出所)不動産経済研究所
10/03
-60
09/09
0
団塊ジュニア世代(現在 30 歳代後半)が住宅取得
09/03
期化などの構造的な問題を抱えている。しかし、
08/09
-40
08/03
2000
07/09
の余剰感(空き家の増加)、建替えサイクルの長
07/03
-20
06/09
4000
06/03
住宅市場は、世帯数の伸び悩みや住宅ストック
05/09
0
05/03
6000
め、ポイントの還元率は 1%程度に過ぎない。
工された住宅が建て替え時期を迎えつつあること、住宅ローン減税や住宅取得時の贈与税非課税枠
拡大などの政策効果も期待されることなどから、住宅投資は、2010 年度から 2011 年度にかけて、
緩やかな回復基調が続くと予想される。
(3)設備投資は今下期から回復基調を強める
120
資は下げ止まりつつあると判断できる(図表
110
1-11)。今 3 月には鉱工業生産指数がリーマン・
100
ショック前の 91%まで回復してきたこと、2009
90
資本財出荷 (除、輸送機械)
80
る。
10/03
09/12
09/09
09/06
6
5
+1.0%(年度平均)と、前年度調査の同+0.2%
4
からやや上昇した(図表 1-12)。これは企業の期
3
待成長率(中期的な実質 GDP 成長率の期待値)が
2
改善したことを示している。
1
09年度
06年度
03年度
00年度
97年度
94年度
91年度
88年度
85年度
73年度
0
上で重要な要素となる。期待成長率が上昇(低下)
する局面では、企業は売上高の増加(減少)を見
09/03
7
間(2010~2012 年度)の実質 GDP 成長率見通しは
期待成長率の動向は、設備投資の先行きを占う
(図表1-12)上場企業による今後3年間の実質GDP
成長率(年度平均)の見通し
%
76年度
アンケート調査」によると、上場企業の今後 3 年
08/12
(出所)内閣府、国土交通省、経済産業省
ック調整が進展したことなどが要因と考えられ
内閣府が発表した「2009 年度企業行動に関する
08/09
たこと、これまでの設備投資削減によって、スト
08/06
50
08/03
年同期比+19.8%と 9 四半期ぶりにプラス転換し
07/03
60
07/12
70
で「経常利益/2+減価償却費」として算出)が前
82年度
年 10-12 月のキャッシュフロー(法人企業統計
機械受注(船舶・電力を除く民需)
建築物着工床面積(非居住用)
130
07/09
荷(除、輸送機械)などの動きを見ると、設備投
(図表1-11)設備投資関連指標(3ヶ月移動平均)
140
79年度
需)、建築物着工床面積(非居住用)、資本財出
05年=100
07/06
このところの機械受注(船舶・電力を除く民
(出所)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」
込んでその成長率に見合うと考える水準まで資本
ストックを増加(減少)させようと、設備投資に
積極的(消極的)になる傾向があるためだ。
新設投資額
前年比(%)
15
資本ストック循環図で設備投資と資本ストック
10
の最近の関係を見ると、企業の期待成長率が大幅
5
に低下(2008 年度:+1.8% → 2009 年度:+
0
0.2%)したことから、新規の設備投資が大幅に削
-5
減(2009 年 10-12 月期時点で前年比▲20.4%)さ
-10
れた様子が窺える(図表 1-13)。企業の期待成長
-15
率が 1%程度にまで上昇し、それに応じて企業が適
-20
当と考える水準まで設備投資を増やした場合、
-25
2010 年 10-12 月期時点の設備投資は前年比で+
10~15%程度と試算される(2009 年 12 月時点の
「新設投資額/資本ストック」は 5.40)。
7
(図表1-13)資本ストック循環図(全産業)
04年4Q 05年4Q
07年4Q
08年4Q
10年4Q?
03年4Q
95年4Q
06年4Q
2%成長
02年4Q
1%成長
0%成長
09年4Q
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
前年の新設投資額/前年末の資本ストック
(出所)内閣府資料より明治安田生命作成
日銀短観の設備判断 DI(全規模・全産業ベー
兆円
100
ス)と実質設備投資の関係を見ると、設備判断 DI
(過剰-不足)が概ね+10 前後まで改善(低下)
ポイント
25
(図表1-14)実質設備投資と設備判断DI
90
20
80
70
15 10
が読み取れる(図表 1-14)。3 月調査の設備判断
60
5
DI は+14 と、12 月調査よりも 2 ポイント低下し
50
との予測になっている。今後も企業の設備過剰感
40
実質設備投資(左軸)
過
剰
0 不
-5 足
30
日銀短観設備判断DI(右軸)
-10
→
た。先行き 6 月はさらに 2 ポイント低下して+12
←
すると、設備投資が本格的な回復局面に入る傾向
-15
DI が+10 程度まで低下するとみられる。このこ
08/12
06/12
04/12
02/12
00/12
98/12
96/12
94/12
92/12
90/12
20
は緩和に向かうとみられ、9 月調査では設備判断
(出所)内閣府「国民経済計算」、日銀「短観」
とからも、今下期から設備投資が回復基調を強め
る可能性は高い。2011 年度も設備投資の回復基調は続くと予想する。
(4)公共投資は大幅に減少
(図表1-15)主要な公共投資関連予算の動向
2010 年度予算では、公共事業関
(単位:億円)
2009年度予算
係費(一般会計+社会資本整備特別
2010年度予算
当初予算 1次補正 2次補正 合計(b) 当初予算 合計(c) (c)-(b)
会計)が 9.78 兆円と、2009 年度予
公共事業関係費[一般会計]
算(第 2 次補正後)の 16.49 兆円か
地方の公共事業の支援
社会資本整備事業特別会計
70,701
23,468
▲4,792
89,377
57,731
0
13,790
4,100
17,890
0
57,731 ▲31,646
0 ▲17,890
46,803
17,315
▲6,500
57,619
40,046
40,046 ▲17,572
ら 6.71 兆円の大幅減額となった(図
小計(国の予算)
117,504
54,573
▲7,192
164,886
97,777
97,777 ▲67,109
表 1-15)。一般会計の公共事業関係
補助事業費
49,486
-
-
49,486
43,319
43,319
地方単独事業費
80,808
-
-
80,808
68,683
68,683 ▲12,125
費だけでも当初予算比で過去最大
の▲18.3%である。2010 年度は地方
単独事業など、地方の公共事業予算
も大幅な減少となっている。国と地
小計(地方の予算)
合 計
130,294
-
-
130,294
112,002
112,002 ▲18,292
247,798
54,573
▲7,192
295,180
209,779
209,779 ▲85,401
(注1)各予算には重複部分があるため、合計額が公共事業予算の総額を示している訳ではない。
(注2)補正予算は追加額から修正減少額を差し引いた純増額を表示している。
(出所)財務省及び総務省のHPより明治安田生命作成
方の予算を単純合算した公共事業関連予算は、概
算で約 30 兆円から約 20 兆円へと約 30%も減少す
ることになる(実際には各予算で重複部分がある
ため、合計額が公共事業予算の総額となる訳では
%
20
(図表1-16)公共工事の前年同月比伸び率
10
0
ない)。もっとも、高速道路割引財源の一部(約
1.1 兆円)は道路建設に振り向けられる見通しで
-10
あり、さらに、一般会計に計上されている景気対
-20
10/03
09/12
09/06
09/09
09/03
08/12
08/06
08/09
08/03
07/09
07/12
07/06
07/03
-30
06/09
06/12
公共工事の受注から半年程度遅れる傾向がある
公共機関からの受注工事(3ヶ月移動平均)
06/06
資に充当される可能性が高い。
建設総合統計(公共)(3ヶ月移動平均)
06/03
策予備費(約 2 兆円)の相当部分は地方の公共投
(出所)国土交通省「建設総合統計」「建設工事受注動態統計」
建設総合統計(公共)は、前年比でプラス基調を
維持しているものの、プラス幅は次第に縮小しつつある(図表 1-16)。2010 年 1 月以降の数値が
上振れている要因は、統計上、冬季修正率を縮小したことによるものであり、実態としてのトレン
ドはこれまでと大きな変化はない。
2010 年度の公共投資は 2009 年度予算で発注された工事が寄与する部分もあるが、それでも大幅
な減少は避けがたい。2011 年度についても公共事業予算は削減の方針を続けると予想され、引き続
きマイナス基調が続こう。
8
▲6,167
(5)中国・アジア向け中心に輸出は引き続き堅調
高))は 3.0%に過ぎなかったが、直近 2008 年度
は 17.0%にまで上昇した(2008 年度の同比率が低
下した要因はリーマン・ショック後の世界経済の
NIES
ASEAN
10/03
40
米国
中国
09/12
外法人売上高/(海外法人売上高+国内法人売上
世界
EU
09/09
60
09/06
にある(図表 1-18)。1985 年度の海外生産比率(海
09/03
80
07/03
しており、それに伴って海外生産比率も上昇傾向
08/12
100
08/09
1980 年代後半以降、製造業の海外進出が積極化
120
08/06
進出した日系メーカー向けが増加している。
※季調値は明治安田生命が推計
140
08/03
牽引役は中国・アジア向けの輸出であり、現地に
(図表1-17)地域別輸出数量指数(季調値)の推移
07/12
は昨年 3 月を底に回復に転じている(図表 1-17)。
05年=100
160
07/09
時不況が輸出の急激な減少を招いたが、輸出数量
07/06
2008 年 9 月のリーマン・ショック以降、世界同
(出所)財務省「貿易統計」
急激な落ち込みによる)。進出先は中国を中心に
社
10,000
アジアが大きく増加しており、2008 年度末時点で
8,000
(図表1-18)製造業海外現地法人数と海外生産比率
%
25
製造業海外現地法人数(左軸)
海外生産比率(右軸)
20
製造業海外現地法人の 72.0%をアジアが占めてい
%
した基幹部品・材料は日本メーカーからしか調達
70
できない。また、汎用部材であっても現地メーカ
60
ーの品質レベルでは不十分であり、日本メーカー
07年度
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」
材料や部品、製造装置・機械類などをなるべく現
地で調達するように努めているものの、共同開発
05年度
85年度
ことが多い。海外に進出したセットメーカーは原
03年度
0
の部品メーカーや素材メーカーと共同開発を行う
01年度
0
機メーカーなど)は、新商品の開発段階から国内
99年度
5
97年度
2,000
95年度
10
93年度
4,000
91年度
一般に、セットメーカー(自動車メーカーや電
15
89年度
と、1993 年度の 8.9%から急上昇している。
6,000
87年度
る。とりわけ中国(香港含む)の構成比が 35.8%
(図表1-19)製造業現地法人の現地調達比率の推移
50
製を採用することは少なくない。労働集約的な部
40
信頼性が高く、生産効率を高める観点からも日本
08年度
06年度
北米
04年度
02年度
00年度
類なども現地メーカー製よりも日本メーカー製の
98年度
20
96年度
輸入した方が割安なこともある。製造装置・機械
アジア
94年度
30
92年度
あるものの、資本集約的な部材の場合、日本から
90年度
材は現地製品の方が低価格であることが一般的で
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」
メーカー製を採用することが多いのが実態だ。
1990 年代前半は、日本メーカーのアジア(とりわけ中国)への進出が急速に増え始めた時期であ
るが、アジア地域における現地調達比率は低下傾向にあった(図表 1-19)。日本メーカーが中国・
アジアに進出した当初は、現地で必要な部材を調達することが容易ではなく、日本からの輸入に頼
らざるをえなかったためである。1990 年代後半以降は、アジア地域における現地調達比率は緩やか
な上昇傾向に転じた。日本から部品メーカーや素材メーカーの現地進出が拡大して、日系メーカー
から現地で部品や素材を調達できるようになったことに加え、現地の部材メーカーの品質レベルも
次第に向上し、現地メーカーからの調達も増加したことが要因である。
9
兆円
の、その一方で、海外現地法人の日本からの調達
30
額も増加基調が続いている(図表 1-20)。日本か
25
20
15
10
5
0
08年度
からの輸入が増加、すなわち、日本から海外現地
日本の総輸出額に占める比率(右軸)
06年度
が品質や価格面で有利)な部材や機械類等の日本
10
04年度
0
日本からの調達額(左軸)
02年度
地では調達が困難(もしくは日本から輸入した方
90年度
している。日本企業の海外生産が拡大すると、現
5
00年度
地法人向けの比率は約 30%程度と高水準を維持
25
15
98年度
への輸出である。日本の総輸出額に占める海外現
30
20
96年度
るが、その多くは、現地に進出した日系メーカー
35
94年度
ら中国・アジア向けの輸出は大きく増加してい
%
40
(図表1-20)製造業現地法人の日本からの調達額
92年度
製造業の現地調達比率は上昇傾向にあるもの
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」、財務省「貿易統計」
法人への輸出が増加するという構造が確立して
いる。
中国を中心にアジア市場は今後も高成長が続く見通しであり、現地の旺盛な需要を取り込もうと
して、日本企業の海外生産は拡大傾向をたどると予想される。部材や機械類の現地調達比率は今後
も緩やかに上昇する可能性が高いものの、現地では調達しにくい部材や機械類などは引き続き日本
から輸入すると考えられる。日本メーカーの海外生産の拡大が日本の輸出増加要因として働く展開
が続こう。
欧州経済の回復力は鈍いものの、中国を中心にアジア経済は全般的に好調であり、米国経済も緩
やかな回復基調が続いている。輸出が反動増的に急拡大する局面は終わりつつあるものの、今後も
中国・アジア向けを中心に輸出は引き続き堅調に推移しよう。
(6)デフレ圧力はやや緩和
%
類を除く〉及びエネルギーを除く消費者物価指
0.4
数)は、1999 年度以降 11 年連続で前年度の水準
0.2
を下回った。国内景気は 2009 年 1-3 月期を底に
-0.2
-0.4
-0.6
ている。
2010 年 1-3 月期の需給ギャップは▲5.5%程
家庭用耐久財
教養娯楽用耐久財
その他
10/03
10/02
10/01
09/12
09/11
09/10
09/09
09/08
09/07
し、1 月は同▲1.2%、2、3 月は同▲1.1%となっ
-1.4
09/06
年明け以降はマイナス幅の拡大がようやく一服
-1.2
09/05
まで徐々にマイナス幅が拡大した(図表 1-21)。
-1.0
09/04
の前年同月比▲0.2%から 12 月には同▲1.2%に
-0.8
09/03
る傾向が強いため、コアコア CPI は 2009 年 1 月
0.0
09/02
回復に転じているが、消費者物価は景気に遅行す
(図表1-21)コアコアCPIの推移(前年同月比寄与度)
09/01
物価の基調部分を示すコアコア CPI(食料〈酒
被服及び履物
教養娯楽サービス
コアコアCPI
(出所)総務省「消費者物価指数」
度、年間約 25 兆円の需要不足とみられる。2009
年 1-3 月期の▲8.2%程度(約 45 兆円の需要不足)を大底に改善傾向にあり、これがコアコア CPI
のマイナス幅拡大に歯止めをかける要因になったと考えられる。
コアコア CPI は需給ギャップの低下に約 1 年遅れて下落する傾向が見られる。これは需給環境が
変化しても、価格の改定には相当の時間を要するためである。国内景気は緩やかながらも回復基調
が続くと予想しており、当面は潜在成長率(0.5%程度)を上回る成長トレンドが続くとみている。
10
マイナスの需給ギャップは今後も緩やかに縮小していく見通しであるが、解消するまでにはまだ 3
~4 年程度はかかると予想している。
デフレ圧力は徐々に緩和するとみられ、高校授業料の実質無償化の影響を除くと、コアコア CPI
のマイナス幅は緩やかな縮小基調をたどると予想される。しかしながら、マイナスの需給ギャップ
は依然として大きく、今後も引き続き物価の下押し圧力は残ろう。コアコア CPI がプラス基調に転
換するにはまだかなりの時間がかかりそうだ。
(図表1-22)全国コアCPIの推移(前年同月比寄与度)
コアコアCPI
生鮮食品を除く食料
エネルギー
コアCPI
2
幅は急速に縮小し、今 3 月には同▲1.2%となっ
1
縮小した影響によるものであり、コアコア CPI や
0
生鮮食品を除く食料のマイナス幅はむしろ拡大
-1
-2
私立高校の授業料軽減によって、コア CPI は 0.5%
ネルギー価格のプラス寄与などによって、コア
12/03
11/12
11/09
11/06
10/03
09/12
09/09
09/06
09/03
08/12
08/09
08/06
ア CPI のマイナス幅縮小や原油価格上昇に伴うエ
08/03
ポイント程度押し下げられる。その後は、コアコ
⇒明治安田生命予測
-3
10/09
している。4 月からの公立高校の授業料無償化・
10/06
た。これはエネルギー価格のマイナス幅が急速に
11/03
昨年 8 月の前年同月比▲2.4%を底に、マイナス
%
3
10/12
コア CPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は
(出所)総務省「消費者物価指数」等より明治安田生命作成
CPI のマイナス幅は再び縮小傾向をたどると予想している(図表 1-22)。2011 年度後半には、小幅
ながら前年比でプラス転換する可能性もあろう。
(7)利上げは 2011 年度終盤
日銀は引き続き、極めて緩和的な金融政策を粘り強く続けるというスタンスを維持しよう。景気
が大方の予想以上に堅調な回復を続けていることもあり、さらなる緩和策発動の必要性は薄れつつ
ある。そもそも、政策金利が既に 0.1%まで低下しているなかで、日銀に打つことのできる追加的
手段は限られている。国債買い取りの増額を期待する向きは依然根強いが、財政危機が叫ばれる中
での国債の買い取り額の増額が、マネタイゼーションとみなされるリスクは小さくない。白川総裁
は元々、「金融市場が流動性制約下にない中では、量的緩和の効果は限定的」とも述べており、量
的緩和政策の効果自体に懐疑的でもある(現在実施している国債買い取りについてはオペ手段との
位置付け)。政府サイドから余程強い要請がない限り、国債買い取り増額等の量的拡大に踏み切る
可能性は極めて低い。なんらかの追加対策を実施する可能性はあるにせよ、昨年 12 月以降実施し
ている固定金利の共通担保オペや、現在検討中の成長分野への貸出同様、打ち出し方は工夫するに
しても、どちらかといえば小粒の政策になりそうだ。
4 月 30 日の日銀金融政策決定会合で決定された、「成長基盤の強化を目的とした新たな資金供給
制度」については、何か量的目標が設けられるわけではないことや、白川総裁自身「現時点で追加
的な金融緩和が必要とは考えていません」と述べているように、少なくとも金融緩和策ではない。
現時点で制度の詳細は不明だが、こうした政策を打ち出した背景には、白川総裁が最近頻繁に言及
しているとおり、デフレの要因は単なる需要不足ではなく、潜在成長率の低下に伴う中長期的な成
長期待の低下が影響しているという問題意識がある。ただ、たとえ間接的な資金供給であっても、
中央銀行にとって禁じ手であるミクロの資源配分の片棒を担ぐ仕事には相違なく、本来は政策金融
機関の業務の範疇と考えられる。白川総裁は「日本銀行は生産性向上という課題を実現する上での
主たるプレーヤーでないことは承知しています」と認めたうえで、「これだけ経済の状況が厳しい
11
中で、日本銀行についても何かできることがその使命の中にあるのではないかと考えてきました」
と実施の理由について述べている。ただ、展望レポートの中で自らデフレ脱却を予想している中で
(2011 年度の CPI の政策委員の大勢見通しは+0.1%)、定例会見の表現を借りれば「中央銀行と
しての矩(のり)を超えてしまう」リスクをわざわざ犯す必要があるのか、理解に苦しむところで
もある。
むろん、成長戦略は日本経済がデフレ下にあるかどうかにかかわらず必要である。むしろデフレ
脱却後に重要になると言ってもよい。潜在成長率が 1%未満ということは、マイナスの需給ギャッ
プが完全に埋まった後も、平均的に 1%を超える成長を中長期にわたって続けるのは難しいという
ことになるためだ。そのためには供給サイドの強化策、すなわち成長戦略が必要ということになる
が、デフレ脱却後も、こうした仕事に政策金融機関ではない日銀がかかわり続ける必要があるのか
どうかという問いを立ててみると、やはり無理があると言わざるをえない。
昨年 12 月のいわゆる新型オペの開始以降、日銀の政策は一種のレジーム転換とも言える方向変
化を見せているように思える。すなわち、理論的な裏付けは十分か、効くか効かないかよりも、マ
スコミや政治家、市場参加者への「アピール重視」の方向に変わったのではないかということだ。
期待に働きかける政策が重要とは言っても、このところ、足元の景気判断との整合性がとれない政
策を打ち出すパターンが増えていることによって、日銀の政策の方向性が見えにくくなっており、
結果として、日銀の信認低下につながる可能性も否定できない。
なお、出口戦略については、主要国で唯一、デフレが続いていることもあり、他の中央銀行より
も遅れる可能性が高い。最初の利上げは 2012 年の 1-3 月期と予想する。
12
2.米国経済見通し
〈要
約〉
1-3 月期の米国経済は、3 四半期連続のプラス成長となった。今後も回復基調が続くとみるが、
景気対策の効果が薄れていくこと、金融機関の不良債権問題等、金融危機の後遺症が残ることな
どから、回復ペースは 2011 年にかけて緩やかなものにとどまるとみている。
個人消費は、雇用・所得環境が改善に向かうと考えられることから、持ち直し傾向が続くと予
想する。ただし、家計のバランスシート調整圧力が残るとみられることなどから、緩やかな回復
にとどまろう。
住宅市場は、支援策の一部終了の影響で一旦は減速を余儀なくされるが、夏場以降は、雇用・
所得環境の改善が続くとみられることから、緩慢ながらも再び持ち直しに向かうと予想している。
設備投資は、生産の増加基調が続いており、企業業績も上向いていることなどから、回復基調
が続くと予想する。ただし、企業の設備過剰感が残るとみられることや、商業用不動産市場の低
迷などから、力強い回復には至らないとみる。
輸出は改善傾向が続いている。今後も新興国を中心に世界的な景気回復基調が続くと考えられ
ることから、堅調な推移が続くと予想する。
FRB は異例の低金利を継続している。年後半以降、過剰流動性の吸収を開始し、2011 年 1-3 月
期には、利上げに踏み切るとみている。
(図表2-1)米国実質GDP
予測
暦年ベース
2009年
2010年
2011年
≪前期比年率≫ 2009年 2010年 2011年 09/12 10/3 10/6 10/9 10/12 11/3 11/6 11/9 11/12
実質GDP
-2.4%
3.0%
2.6%
5.6%
3.2%
2.5%
2.3%
2.4%
2.5%
2.6%
2.7%
2.7%
個人消費支出
-0.6%
2.3%
2.3%
1.6%
3.6%
2.2%
2.1%
2.2%
2.3%
2.3%
2.4%
2.4%
民間住宅投資
-20.5% -0.5%
4.5%
3.8% -10.9%
4.0%
1.6%
3.8%
5.3%
5.2%
5.6%
5.9%
民間設備投資
-17.8%
2.0%
5.9%
5.3%
4.1%
3.1%
4.3%
4.8%
6.3%
7.3%
7.0%
7.3%
1.2%
0.2%
3.8%
1.6%
0.3%
0.2%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
民間在庫(寄与度) -0.7%
純輸出(寄与度)
1.1%
0.0%
0.1%
0.3% -0.6%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
輸出
-9.6%
9.4%
4.8% 22.8%
5.8%
5.4%
5.7%
5.1%
4.5%
4.3%
4.7%
4.9%
輸入
-13.9%
7.9%
3.2% 15.8%
8.9%
3.7%
3.7%
3.2%
3.1%
3.0%
2.9%
3.1%
政府支出
1.8%
0.3% -0.2% -1.3% -1.8%
1.2%
0.5%
0.1% -0.5% -0.4% -0.6% -0.8%
内需
-3.4%
3.0%
2.4%
5.2%
3.8%
2.4%
2.2%
2.3%
2.4%
2.6%
2.6%
2.6%
国内最終需要
-2.7%
1.9%
2.3%
1.4%
2.2%
2.2%
2.0%
2.1%
2.3%
2.4%
2.4%
2.4%
(1)1-3 月期は個人消費が牽引
%
1-3 月期の米実質 GDP 成長率(速報値)は、前
期比年率+3.2%と、3 四半期連続のプラス成長と
なった(図表 2-2)。10-12 月期の同+5.3%から
6
4
2
0
伸び幅は縮小したものの、在庫投資と純輸出を除
-2
いた国内最終需要は、同+1.4%→+2.2%と加速
-6
しており、景気は徐々に底堅さを増してきている。
需要項目別の内訳を見ると、個人消費が同+1.6%
→+3.6%と 3 四半期連続の増加、寄与度ベースで
は+1.2%→+2.6%ポイントとなり、全体を牽引
13
(図表2-2)米国GDP成長率と寄与度(前期比年率)
8
-4
-8
-10
-12
07/12
08/3
個人消費
政府支出
(出所)米商務省
08/6
08/9
08/12
民間設備
純輸出
09/3
09/6
民間住宅
実質GDP
09/9
09/12
10/3
民間在庫
した形。設備投資も前期比年率+5.3%→+4.1%と 2 四半期連続で増加した。減少が続いていた在
庫投資も 8 四半期ぶりに増加に転じ、3 四半期連続でプラス寄与となった。ただ、寄与幅は+3.8%
→+1.6%ポイントへと縮小している。一方で、住宅投資は前期比年率+3.8%→▲10.9%と 3 四半
期ぶりに減少、政府支出も同▲1.3%→▲1.8%と 2 四半期連続で減少した。
雇用環境が改善に向かっていることなどから、今後も個人消費の持ち直しが続くと考えられ、4
-6 月期もプラス成長が続くとみる。その後も回復基調が続くとみているが、住宅支援策等、一部
の景気対策が打ち切られるほか、インフラ投資等の他の対策効果も逓減が予想されること、家計の
バランスシート調整が続くと考えられること、商業用不動産市場の低迷で金融システムに脆弱さが
残ることなどから、2011 年にかけて緩やかな回復にとどまるとみている。
(図表2-3)可処分所得・個人支出の伸び
(3ヶ月移動平均の前年比)
%
8
6
雇用環境の改善、株価が上昇したことによる資産
4
効果等が挙げられる。
2
減税の効果によって、可処分所得が増加したこと
が、その後の回復基調の持続につながっている(図
表2-3)。また、昨年末までは雇用者数の減少が続
可処分所得
10/3
09/9
09/3
08/9
08/3
07/9
07/3
06/9
06/3
05/9
05/3
04/9
04/3
-4
03/9
策は8月で終了したが、失業手当給付期間の延長や
-2
02/9
買い替え支援策が大きく貢献した。買い替え支援
0
01/3
昨年夏場の個人消費の回復には、政府の自動車
02/3
ている。背景としては、政府の支援策の効果や、
10
01/9
個人消費は、昨年夏場以降、堅調に回復してき
03/3
(2)個人消費は持ち直しが続く
個人支出
(出所)米商務省
(図表2-4)非農業部門雇用者月間増減数と失業率
千人
00/4
職探しを再開した人が増加したためで、先行き悲
観材料とはいえない。
非農業部門雇用者月間増減数(左軸)
10/4
3.5
09/10
-800
ら9.9%へと再び悪化したが、労働市場の改善から
09/4
4.5
08/10
-600
ている(図表2-4)。一方、失業率は3月の9.7%か
08/4
5.5
07/4
-400
29.0万人の増加と、年明け以降、増加基調が続い
07/10
6.5
06/10
-200
4月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比
06/4
7.5
05/4
05/10
0
の増加に寄与した。
04/4
8.5
04/10
200
03/10
×週平均労働時間)が増加に転じたことも、所得
03/4
9.5
02/10
400
02/4
間が増加したことで、総労働投入時間(雇用者数
01/10
%
10.5
01/4
600
00/10
いていたが、過去最低水準にあった週平均労働時
失業率(右軸)
(出所)米労働省
の特殊要因があり、5-6月の雇用者数はさらに増
加するとみるが、その後の回復ペースは緩やかな
14
大企業
中小企業(右)
(出所)Business Roundtable、NFIBより明治安田生命作成
10年
09年
-15
08年
今年は10年に1度の国勢調査が実施されるなど
07年
2-5)。
-5
-10
06年
小企業が新規雇用に及び腰であるためだ(図表
5
0
05年
は回復が遅れており、雇用の半数以上を抱える中
20
15
10
04年
とどまると考える。大企業に比し中小企業の業績
25
03年
られる。ただ、その改善ペースは緩やかなものに
%
(図表2-5)企業の雇用見通しの推移
02年
いている。そのため、雇用環境は改善が続くとみ
%
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
-70
01年
製造業では在庫調整が進んだことで、増産が続
ものにとどまり、2010年末にかけて失業率は9-
ポイント
140
10%台での推移が続くと予想する。一方、企業は
120
新規雇用を抑制する代わりに、労働時間を増加さ
100
せることで増産に対応していくとみられることか
80
(図表2-6)所得階層別消費者信頼感指数(実数値)
60
どの売上も回復してきている。比較的所得の高い
1.5万$以上2.5万$未満
3.5万$以上4.5万$未満
(出所)米コンファレンスボード
%
(図表2-7)家計負債、資産残高の推移(4四半期移動平均)
に対する減税も、中低所得者層に対しては継続さ
れるものの、高所得者層に対しては2010年末での
家計負債/可処分所得
09/12
08/12
500
施した所得収入やキャピタルゲイン、配当収入等
07/12
80
2010年で終了する。また、ブッシュ前大統領が実
06/12
550
05/12
90
04/12
大統領が実施した2年間で400ドルの税還付は、
03/12
600
02/12
100
01/12
となどは、個人消費の下押し要因である。オバマ
00/12
650
99/12
110
98/12
一方、2010年末で減税措置の一部が終了するこ
97/12
700
96/12
120
95/12
が大きい(図表2-6)。
94/12
750
93/12
130
92/12
表す消費者信頼感指数も、所得の高い層の改善幅
91/12
%
800
90/12
層が株式を多く保有しており、消費者マインドを
140
家計資産/可処分所得(右)
(出所)FRB、米商務省
打ち切りが決定している。加えて、医療制度改革に伴う歳出増の財源として、2011年から高額所得
者層への増税も予定されている。
また、家計のバランスシート調整が続くとみられることも、個人消費の下押し要因である。住宅
バブルが崩壊し、その後の金融危機で株価も大きく低下した結果、家計資産は大幅に減少した(図
表2-7)。そのため、家計は資産に見合った規模まで負債を削減する必要性に迫られている。こう
したバランスシート調整によって、米国家計の消費スタイルは大きな変化を余儀なくされており、
借入に依存した消費はもはや過去のものとなりつつある。
個人消費は、雇用・所得環境が緩やかながらも改善が続くとみられることから、今後も持ち直し
傾向が続くとみている。ただし、家計のバランスシート調整圧力が残るとみられることや、2010年
末で減税措置の一部が終了すること、2011年には
中古販売は、昨年初あたりから増加傾向が続いた
後、年末に減少に転じ、足元では再度増加に転じ
ている(図表 2-8)。新築販売も中古販売ほどで
はないが振れが見られる。
住宅着工件数
新築住宅販売件数
(出所)米商務省、米不動産業者協会(NAR)
15
09/9
10/3
住宅販売は、振れの大きい展開が続いている。
07/3
07/9
08/3
08/9
09/3
(3)住宅市場は不透明感が残る
千件
8500
8000
7500
7000
6500
6000
5500
5000
4500
4000
3500
3000
05/3
05/9
06/3
06/9
ものにとどまるとみる。
(図表2-8)新築・中古住宅販売件数と住宅着工件数の推移
00/9
01/3
01/9
02/3
02/9
03/3
03/9
04/3
04/9
ら、今後の回復ペースは2011年にかけて緩やかな
千件
2400
2200
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
00/3
高所得者層への増税が予定されていることなどか
中古住宅販売件数(右)
10/04
10/01
09/10
09/07
09/04
09/01
08/10
08/07
08/04
08/01
07/10
07/07
07/04
07/01
06/10
06/07
1.5万$以下
2.5万$以上3.5万$未満
5万$以上
のような低価格のディスカウントストアの売上の
伸びが目立っていたが、足元では、高級百貨店な
06/04
っているとみられる。これまでは、ウォルマート
06/01
20
05/10
果も、このところの個人消費の押し上げ要因とな
40
05/07
所得の増加以外に、株価の上昇等による資産効
05/04
ら、可処分所得は増加傾向が続くとみている。
%
住宅販売の振れが大きくなっている要因として
7
は、政府や FRB(米連邦準備制度理事会)による
6
支援策が挙げられる。とりわけ、住宅の初回購入
5
者に対する最大 8,000 ドルの税額控除が大きく影
(図表2-9)30年固定住宅ローン金利と30年物米国債金利の推移
3.0
2.5
2.0
1.5
4
1.0
響している。当初は、その期限が 11 月末とされて
30年債金利
10/4
10/2
09/12
09/10
09/8
住宅ローン金利(30年固定)
れ、それまで対象外だった 5 年以上住宅を保有し
た者が買い替える際も税額控除(最大 6,500 ドル)
09/6
11 月には、税額控除の期限が 4 月末まで延長さ
09/4
0.0
09/2
2
08/12
0.5
08/10
増したが、その後は反動で大きく減少した。
3
08/8
いたため、駆け込み需要で中古を中心に販売が急
%
スプレッド(右)
(出所)米抵当銀行協会(MBA)、Bloomberg
(図表2-10)差し押さえ件数と延滞率の推移
万件
の対象に加えられた。直近 3 月の住宅関連統計で
40
%
11.0
は、新築、中古販売ともに大きく増加し、再度駆
35
10.0
30
け込み需要が盛り上がっている姿が示された。
9.0
25
8.0
20
控除に加え、FRB による MBS(住宅ローン担保証券)
15
などの買い取りも、住宅ローン金利の低位安定を
10
欧の財政問題等から国債の利回りが低下している
差し押さえ件数(左)
10/2
09/8
09/2
08/8
4.0
08/2
0
07/8
5.0
07/2
5
06/8
らは 3 月末で打ち切られている。今のところ、南
6.0
05/8
通じて、住宅市場の改善に寄与していたが、こち
7.0
06/2
ただ、税額控除は既に打ち切られている。税額
全米ローン延滞率(右)
(出所)FRB、リアルティトラック
こともあり、住宅ローン金利に目立った
追加の差し押さえ抑制策
住宅ローン変更プログラム(HAMP)の拡充
とのスプレッドは拡大傾向にあり、南欧 ○失業者への支援
・3~6ヶ月間は返済額を所得の31%に抑える。
の財政問題がある程度落ち着けば、住宅
・自宅のためのローンで、残高が72万9,750ドル以下、
ローン金利への上昇圧力が強まる展開
2009年1月1日以前のローンの場合、サービサーに支援義務。
が予想される。住宅ローン金利の上昇は、 ○元本の削減義務
・ローン残高が住宅価値を115%上回る場合、
購入者の負担増につながるため、住宅市
サービサーは元本の削減を検討する必要。
場の下押し要因となる懸念がある。
○HAMPの利便性向上
・HAMPの利用要件の明確化。
また、失業率の高止まりが続く中、差
・恒久的なローン条件の変更を実施したサービサーに、
し押さえ件数は高水準で推移している
新たにインセンティブ。
(図表 2-10)。雇用環境は持ち直しつつ
・FHA-HAMPの実施(FHAローン利用者にもHAMPを拡大)
上昇はみられないが(図表 2-9)、国債
あるものの、差し押さえ手続き中の物件
FHA(連邦住宅局)ローンへの借り換え促進
○ 残高が住宅価値を上回るローンのFHAローンへの借り換え
・第一抵当ローンは少なくとも10%削減し、
差し押さえ件数は高水準での推移が続
全てのローンを住宅価値の115%以下に抑える。
く可能性が高い。高水準の差し押さえは
・FHAローンは住宅価値の97.75%以下に抑える。
住宅市場への供給圧力となり、価格の低
・第二抵当分を含めて、返済額を31%に抑える。
○第二抵当の削減にインセンティブ
下や着工の抑制要因となる懸念がある。
・FHAローン促進のため、第二抵当権者にインセンティブ
こうした状況下、3 月 26 日に政府は追 ○借り換え促進策の進捗の透明化
・FHAはローン数などデータを発表
加の差し押さえ抑制策を発表した。詳細
(出所)財務省資料より明治安田生命作成
は図表 2-11 の通りだが、主な内容は、
が依然として大量に存在しており、当面
住宅ローン変更プログラム(HAMP)の拡充と、連邦住宅局(FHA)を通じた住宅ローンの借り換え
促進である。この追加策は、政府保証の拡大や、ローン条件の変更に対する業者へのインセンティ
16
ブ等で、総額 500 億ドル規模となる見込みである。財源としては金融安定化資金いわゆる TARP 資
金が活用される。
追加策によって、差し押さえが減少することが期待されているが、その効果は限定的とみる。従
来から実施されている HAMP では、住宅ローンの条件変更後は一旦差し押さえ率が低下するものの、
時間が経つにつれて、再度差し押さえ率が上昇することが確認されている。背景には、住宅バブル
期に価格の上昇を見込んで無理なローンを組んだ家計が相当数いたことがある。このような家計に
とっては、ローン条件の変更は一時しのぎに過ぎないためだ。今回も、失業者への支援策強化など
によって、短期的に差し押さえを抑制することができても、差し押さえを抜本的に減少させる効果
は期待できない。
今後の住宅市場は、一旦は税額控除の終了による減速を余儀なくされるが、夏場以降は、雇用・
所得環境の改善が続くとみられることなどから、再び持ち直しに向かうと予想している。ただ、高
水準の差し押さえ件数などが住宅市場の下押し要因として残ろう。
(4)設備投資は持ち直しへ
2002年=100
%
(図表2-12)鉱工業生産と設備稼働率の推移
65
大きく増加した一方、工場や店舗などの構築物投
90
60
資は同 14.0%減と減少が続いている。機械・ソフ
トウェアに比べ、工場や店舗などは更新投資を先
鉱工業生産(左)
10/3
95
09/3
資が同 13.4%増と、更新投資の顕在化などにより
08/3
70
07/3
100
06/3
増加した。内訳を見ると、機械・ソフトウェア投
05/3
75
04/3
105
03/3
設備投資は前期比年率 4.0%増と、2 四半期連続で
02/3
80
01/3
110
けて、持ち直しに向かっている。1-3 月期の民間
00/3
85
設備投資は、生産の増加や企業業績の改善を受
99/3
115
設備稼働率(右)
(出所)FRB
延ばししやすいことに加え、商業用不動産価格の
低迷が今後も続くとみられることなどが抑制要因となっている。これらの抑制要因は当面残るとみ
られるため、構築物投資は低調な推移が続くと考えられる。
3 月の鉱工業生産は 9 ヶ月連続の増加となった。背景としては、在庫調整が進んだことや、個人
消費の持ち直し等が考えられる。生産が増加基調にあることで、設備稼働率も上昇してきているが、
依然として歴史的な低水準にある(図表 2-12)。これまでの回復ペースで生産の増加が続いたとす
ると、直近のピークである 2007 年 12 月の水準に達するのは、2011 年 8 月頃と試算される。ただ、
足元の回復ペースは回復初期の昨年半ばに比しやや鈍化してきているのに加え、在庫の復元がある
程度進めば、ペースはさらに緩やかになると考えられる。そのため、ピーク時の水準への回復は後
ずれする可能性が高い。
設備投資は、機械・ソフトウェア投資を中心に今後も回復基調が続くと予想する。ただし、生産
水準がピーク時に届かない状況が続くことで、企業にとっては設備過剰感が残るとみられるのに加
え、金融システムも完全には回復しない状態が続くとみられることから、力強い回復には至らない
と予想する。
(5)輸出は回復基調が続く
輸出は、新興国を中心とした世界的な景気の持ち直しから改善傾向が続いている。
地域別の内訳を見ると、アジア新興国向けの回復が顕著である。特に中国向けの輸出は高い伸び
が続いている(図表 2-13)。NIES 向けも中国向けに若干遅れる形で回復してきている。中国・NIES
17
向けの全体の割合は、合わせて 15%程度と高くは
80
ないが、これらの地域の回復が他地域に波及し、
60
それが米国の他地域への輸出拡大にも寄与してい
40
るとみられる。一方で、EU 向けの回復は比較的遅
20
0
れている。今後も南欧の財政問題が懸念されるが、
-20
れ、今後も世界的な景気回復基調が続くと予想さ
れることから、輸出は堅調な回復が続くとみてい
カナダ
メキシコ
EU
日本
中南米
NIES
10/3
09/12
09/9
09/6
09/3
08/12
08/9
08/6
08/3
07/6
で、南欧諸国以外への波及は限定的になるとみら
07/12
-40
それほど大きくない。EU と ECB による一連の政策
07/9
いわゆる PIIGS 向けの輸出は全体の 2-3%程度と
(図表2-13)地域別の輸出動向(前年比、3ヵ月移動平均)
%
中国
(出所)米商務省
る。
(6)利上げは 2011 年 1-3 月期
(図表2-14)米FFレートの推移
%
FRB は政策金利である FF レートの誘導目標を、
2008 年 12 月以来、0.0-0.25%のレンジで据え置
6
5
FFレート誘導目標
え置かれている。
10/5
09/11
09/5
08/11
08/5
形に弱められるかが注目されるが、今のところ据
07/11
0
07/5
いう声明の一節が、より早期の利上げを示唆する
06/11
1
06/5
る「長期にわたり(for an extended period)」と
05/11
2
05/5
は、超低金利政策の長期化を予告するとされてい
04/11
3
03/11
このところの FOMC(米連邦公開市場委員会)で
04/5
4
いている(図表 2-14)。
実効FFレート
(出所)米FRB
ただ、「長期にわたり」はこれまで概ね 6 ヶ月
を指すと市場で解釈されていたが、FOMC 議事録や最近の FOMC メンバーの講演等では、「一定の期
間を指す訳ではなく、経済動向に応じた条件付きのものだ」としている。これは、時間軸へのコミ
ットメントを薄め、利上げ開始の柔軟性の確保に動いているとみることができる。FRB がフリーハ
ンドの確保を急ぐ理由は、景気回復下での超低金利の継続が商品価格等の高騰を招き、それがイン
フレ期待の急速な高まりに繋がるなどの問題が起きた際に、文言に縛られることなく、迅速に対応
できるようにしたいためと考えられる。
ただ一方で、3 月の FOMC 議事録では、「利上げが遅すぎるリスクよりも早すぎるリスクの方が高
い」と指摘されていたことから、FRB が利上げに向けたフリーハンドの確保を急いでいるといって
も、利上げが差し迫ったものとは考えていないこ
(図表2-15)CPIの伸び(前年比)
%
6.0
とがわかる。
5.0
当 G では、利上げの時期は 2011 年 1-3 月期に
4.0
なるとみている。マイナスの需給ギャップを背景
3.0
2.0
1.0
インフレへの警戒感は高まりにくい状況が続くと
0.0
考えられるためだ。ただ、景気の回復が持続する
-1.0
らの是正が必要という判断に傾くものとみている。
コアCPI
09/9
10/3
08/9
09/3
08/3
07/3
07/9
06/9
06/3
05/9
05/3
04/3
04/9
03/9
CPI
(出所)米労働省
18
02/9
03/3
-3.0
02/3
うとみられることから、年明けには超緩和水準か
-2.0
00/3
00/9
ことで、2011 年以降、失業率が徐々に低下に向か
01/3
01/9
にコア CPI の鈍化傾向が続いており(図表 2-15)、
(7)FRB の出口戦略
利上げを含め、FRB がどのような手段と手順で非伝統的な金融政策を正常な状態に戻していくか
という、いわゆる出口戦略が問題となっている。バーナンキ議長は、非伝統的な金融政策の正常化
の手段として、各種流動性供給策の終了、公定歩合の引き上げ、流動性の吸収、利上げを挙げてい
る。それぞれの政策をどのような手順で行うかという点が問題となるが、各種流動性供給策の大半
は 2 月 1 日に既に終了済みである。MBS や CMBS(商業用不動産ローン担保証券)等の支援を目的と
したターム物資産担保証券貸出制度(TALF)のうち、唯一継続している CMBS を対象とした制度も 6
月 30 日で終了する予定である。
1.50
0.75%に引き上げている(図表 2-16)。金融危機
1.25
以前の公定歩合は、政策金利である FF レートより
1.00
り入れる際の金利で、FF レートの上限(キャップ)
公定歩合
10/5
10/4
10/3
10/2
10/1
09/12
09/11
09/9
09/8
09/7
09/6
09/5
FFレート誘導目標
09/10
ことである。公定歩合は、民間銀行が FRB から借
0.00
09/4
ていた。それを 2 月に 0.5%に引き上げたという
0.25
09/3
制するため、スプレッドは 0.25%に引き下げられ
0.50
09/2
ともに、日々大きく上下する FF レートの動きを抑
0.75
09/1
以降、公定歩合による貸出を利用しやすくすると
08/12
も 1.0%高い水準で設定されていたが、金融危機
(図表2-16)米FFレートと公定歩合の推移
%
公定歩合については、2 月 18 日に 0.5%から
実効FFレート
(出所)米FRB
となる金利である。足元の FF レートは、市場の過剰流動性やファニーメイなどの GSE が準備預金
の付利の対象となっていない影響で、付利水準である 0.25%を下回った推移となっているため、公
定歩合を引き上げても FF レートの引き上げ要因にはなっていない。そのため、この公定歩合引き
上げは、金融引き締めを狙ったものではなく、市場機能を回復させるとの意味合いが強い。
各種流動性供給策の終了と公定歩合の引き上げの次は、①準備預金残高の縮小による流動性の吸
収、②利上げ、③資産売却の順で実施するというのが、バーナンキ議長を初めとした FRB 内の主流
派の見解だ。②利上げの前に、①準備預金残高を縮小させるのは、流動性供給策により、市場には
過剰な流動性が存在しており、上述のようにそれが短期金利を押し下げているため、これをある程
度解消しないと、利上げをしても短期金利が上昇しない可能性が高いためである。一方で、③資産
の売却は、市場になお脆弱さが残る中では、市場への影響が大きく、予期せぬ金利の急上昇を招く
危険がある。①準備預金残高の縮小の手段としては、あらかじめ買い戻し条件付きで国債や MBS を
市場に売却するリバースレポや、一定期間引き出せない代わりに準備預金への付利金利より高い金
利を提供するターム預金が有力視されている。
準備預金残高の縮小の次のステップは、②利上げである。上述の通り、当 G では 2011 年 1-3 月
期の利上げを予想している。ただ、リバースレポやターム預金の実施だけでは、過剰流動性を吸収
しきれないとみられるため、利上げを実施したとしても、FF レートが十分上昇しない可能性がある。
そのため、利上げとともに準備預金への付利金利の引き上げも同時に行われるとみられている。準
備預金の付利金利は裁定取引を通じ、FF レートの下限となる金利で、これが引き上げられると、FF
レートに上昇圧力がかかることになる。
その後に③資産の売却が実施されることになると考えられるが、金融システムは完全に回復しな
い状態が続くとみられることから、利上げ後 1,2 年は、大規模に資産の売却が実施される可能性は
低いとみる。FRB は、保有資産の償還期限を待ち、5 年以上の長い年月をかけ徐々にバランスシー
トを縮小させていくことになろう。
19
3.欧州経済見通し
〈要
約〉
ユーロ圏経済は、各種対策効果や、海外景気の持ち直しを背景に、回復基調が続いている。た
だ、自動車買い替え支援策や住宅購入補助などの対策が順次打ち切られていくこと、南欧諸国の
財政問題等から各国が財政健全化を迫られていることなどから、今後の回復ペースは極めて緩や
かなものにとどまる可能性が高い。
個人消費は、雇用環境の悪化を背景に低迷している。雇用調整は今暫く続く可能性が高いほか、
自動車買い替え支援策の効果が弱まることも予想されることから、2010 年の個人消費は低調な推
移が続こう。ただ、輸出の増加による生産の回復が続くことで、2011 年以降は雇用環境が改善に
向かうと考えられ、個人消費も持ち直しに転じると予想する。
固定投資は、世界景気の上向きに伴い輸出が増加基調にあることから、緩慢ながらも回復に向
かおう。
ECB は、ギリシャ問題の深刻化を受けて、国債の購入、および既に終了していた固定金利での資
金供給オペの再開、各国中銀とのスワップ協定の再開などを発表している。ただ、ギリシャ問題
は当面燻り続けるとみられ、インフレ率も ECB が物価安定の目安とする 2%弱を当面下回って推移
する可能性が高いことから、政策金利の引き上げは 2011 年半ば以降と予想する。
(図表3- 1)欧州経済見通し
ユーロ圏実質GDP(2010年、10/03 期は合計のみ実績)
予測
2009年
2010年
2011年
(前期比)
2009年 2010年 2011年 09/12 10/03 10/06 10/09 10/12 11/03 11/06 11/09 11/12
ユーロ圏GDP
-4.0%
0.9%
1.7%
0.0%
0.2%
0.3%
0.3%
0.4%
0.5%
0.5%
0.5%
0.6%
家計消費
-1.0%
0.0%
1.1%
0.0%
-0.1%
0.1%
0.2%
0.2%
0.3%
0.3%
0.4%
0.4%
政府消費
2.3%
1.1%
0.7%
-0.1%
0.3%
0.3%
0.2%
0.2%
0.1%
0.1%
0.2%
0.2%
固定投資
-10.8%
-2.2%
0.9%
-1.3%
-0.4%
0.0%
0.1%
0.1%
0.2%
0.3%
0.4%
0.4%
純輸出(寄与度)
-0.8%
0.9%
0.7%
0.3%
0.4%
0.1%
0.1%
0.1%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
予測
英国実質GDP
(前期比)
英国GDP
2009年
2010年
2011年
2009年 2010年 2011年 09/12 10/03 10/06 10/09 10/12 11/03 11/06 11/09 11/12
-4.9%
0.6%
1.6%
0.4%
0.2%
0.2%
0.3%
0.3%
0.4%
0.4%
0.5%
0.5%
(1)輸出頼みの緩慢な景気回復
ユーロ圏経済は、緩やかな回復基調にある。
%
1-3 月期のユーロ圏実質 GDP 成長率(速報値)
2.0
は前期比 0.2%増と、2 四半期ぶりにプラスに転
1.0
じた(図表 3-1)。需要項目別の値は 6 月に入
0.0
ってからの発表となるが、個人消費の低迷が続
-1.0
-4.0
10/03
09/12
09/09
09/06
が、スペインは引き続きマイナス成長となった
09/03
-5.0
ス、イタリアは 2 四半期ぶりのプラスとなった
08/12
ると、ドイツ、フランスは 4 四半期連続のプラ
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
-3.0
08/09
寄与したと予想する。主要 4 カ国の成長率をみ
-2.0
08/06
く一方で、輸出と在庫投資が引き続きプラスに
(図表3-2)ユーロ圏主要国GDP成長率(前期比)
(出所)各国統計局
(図表 3-2)。
輸出については、2009 年末以降のユーロ安の進行と、世界的な景気の持ち直しにより堅調な回復
が続いた(図表 3-3)。特に、中国を初めとしたアジア向けの輸出の寄与が高まった。輸出の進展
20
を受け、鉱工業生産や製造業受注も緩やかに持
(図表3-3)ユーロ圏輸出の伸びと相手国寄与度
(前年比、四半期ベース)
%
ち直しつつある。ギリシャ問題の世界経済への
20
悪影響が限定的なものにとどまる限り、輸出は
10
堅調に回復し、ユーロ圏経済を牽引していこう。
0
内需に目を向けると、個人消費は雇用環境の
-10
悪化を受けて低迷している。各国政府による自
-20
動車買い替え支援策や住宅購入補助などの効果
-30
08/3
が表れた時期もあったが、自動車の買い替え支
援策は、ドイツでは昨年 9 月に打ち切られてい
%
-40
18
16
14
12
業績も上向くなど、持ち直しの兆しが見え始め
10
ている(図表 3-6)。ただ、欧州の銀行は、元々
8
10/03
10/01
09/11
09/09
09/07
09/05
09/03
09/01
08/11
08/09
08/07
ドイツ
フランス
イタリア
ユーロ圏
スペイン
6
米銀に比し不良債権の引き当てが遅れているほ
10年
09年
08年
07年
06年
01年
05年
4
か、南欧の国債からの含み損の拡大懸念も残る
(出所)ユーロスタット
(2)ギリシャ問題と財政健全化
4月29日、EUとIMFはギリシャ向けに総額1,100
億ユーロ(EU:800億ユーロ,IMF:300億ユーロ)
の支援パッケージに合意した。しかし、その後
との利回り格差(10年債)は一時1,000bpに迫っ
た(図表3-7)。ギリシャ同様、財政悪化が懸念
-5
-10
-15
-20
-25
設備稼働率(製造業)
(出所)ユーロスタット
21
10
0
98/12
99/9
もギリシャ債の利回りは上昇を続け、ドイツ債
%
5
09/6
10/3
86
84
82
80
78
76
74
72
70
68
(図表3-6)設備稼働率(製造業)と鉱工業生産
(製造業:前年同期比)の推移
07/12
08/9
%
定投資の抑制要因となろう。
05/9
06/6
07/3
貸出態度が中々軟化しないと考えられる点が固
されているギリシャ以外のPIIGS諸国(ポルトガ
08/05
(出所)ACEA
%
(図表3-5)ユーロ圏主要国の失業率(EU統一基準)
20
固定投資は、鉱工業生産が増加に転じ、企業
など、財務面に不安を抱えており、金融機関の
08/03
-60
04/3
04/12
人消費も持ち直しに転じると予想する。
-20
04年
は緩やかながらも改善に向かうと考えられ、個
フランス
スペイン
01/12
02/9
03/6
在のペースで生産の回復が続けば、2011 年以降
10/3
0
03年
調整の余地が残っているとみられる。ただ、現
ドイツ
イタリア
08/01
雇用調整が遅れていることから、さらなる雇用
09/12
アジア
輸出
20
うとみられ、2010 年を通して消費の下押し要因
欧州では、労働市場が硬直的で、米英に比べて
09/9
40
が、他の国々でも今後自動車販売は減少に向か
率は、いまだに上昇傾向にある(図表 3-5)。
09/6
(図表3-4)新車登録台数の推移(前年比)
60
されている。ドイツでは既に反動減がみられる
雇用環境は悪化が続いている。ユーロ圏失業
09/3
米国
その他
80
段階的に引き下げた後、12 月に打ち切りが予定
となろう(図表 3-4)。
08/12
(出所)ユーロスタット
02年
は 6 月に打ち切られ、フランスでは補助金額を
08/9
00/6
01/3
る。その他、スペインでは 5 月に、イタリアで
08/6
英国
圏外欧州(除く英国)
鉱工業生産(前年比:右)
ル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイ
ン)へも飛び火した結果、金融機関に対するPIIGS
諸国の国債からの損失拡大懸念が高まり、ドル
bp
(図表3-7)ドイツ国債と周辺国債との利回り格差(10年債)
1000
アイルランド
ポルトガル
スペイン
ギリシャ
800
Liborが上昇するなど世界的な金融危機に発展す
600
る兆しを見せた。
5月9日、EUは悪化の一途を辿る欧州の信用不安
を払拭すべく、最大で総額7,500億ユーロに上る支
400
200
援の枠組みを打ち出した。PIIGS諸国での2010年の
しかし、これで財政赤字の削減という根本問題
%
の解消の目途が立ったわけではない。ギリシャが
16
年には5.6%まで縮小させる計画となっている(図
8
表3-8)。財政再建策のうち、歳出削減については、
6
ただ、デモや暴動が頻発するなど、国民からの反
10/04
10/01
09/10
09/04
09/01
09/07
120
100
80
60
40
4
(出所)ユーロスタット、ギリシャ統計局
12年
11年
10年
09年
08年
07年
06年
05年
0
04年
20
0
03年
2
00年
増税・新税導入・脱税の取り締まりが主である。
累積政府債務(右)
12
10
公営企業の民営化が主で、歳入拡大については、
%
140
財政赤字
14
13.6%だった財政赤字を、2010年には8.7%、2011
公務員の給与削減・年金削減・公共事業の中止・
(図表3-8)ギリシャの財政赤字と累積政府債務の推移
(対名目GDP比)
02年
提出している財政再建策は、2009年は対GDP比で
08/10
(出所)Bloomberg
01年
その全てをカバーすることができる規模である。
08/07
08/01
億ユーロと言われていることから、万一の時には
08/04
0
借入必要額は、国債の償還等を含め、4,000~5,000
※10年以降はギリシャ政府目標値
発は強く、財政健全化が計画通り進むかは不透明である。また、たとえ財政健全化が進んだとして
も、それによる景気の悪化は避けられない。ギリシャは今までIMFが救済してきた途上国と違い、
大幅な通貨切り下げによる競争力の確保ができず、輸出による経済回復が期待できないためだ。
また、「次のギリシャ」と目されていたポルトガルは、5 月に追加の財政再建策を発表した。財
政赤字を 2010 年は対 GDP 比 7.3%、2011 年は同 5.1%まで削減するとの方針を提示している。スペ
インも 5 月に追加の財政再建策を発表し、財政赤字を 2010 年は同 9.3%、2011 年は同 6.5%まで縮
小させるとの計画を打ち出した。
しかし、両国の財政再建策は楽観的な経済成長の見通しに依拠しているとの指摘がなされており、
今後も財政再建策の見直しを迫られる可能性がある。当 G では、ユーロ圏の崩壊という最悪の事態
は免れるとみているが、今後は、PIIGS 諸国を始め多くの国が財政健全化に向けて舵を切ることが、
ユーロ圏経済の停滞要因となるのは避けられない。また、財政が比較的健全なドイツ、オランダ、
フィンランドなどの国と、PIIGS 諸国に代表される財政悪化国との格差が拡大に向かうことも懸念
される。
(3)ECB の利上げは 2011 年半ば以降を予想
ECB(欧州中央銀行)は5月6日の理事会で、政策金利を1.0%で据え置くことを決定した。トリシェ
総裁によれば、同会議の中では、国債の買い入れについての議論はなされなかったとのことであっ
たが、その後の株式・為替相場の大幅な下落を受けて、5月10日、ECBは公社債市場への介入、3ヶ
月物・6ヶ月物リファイナンスオペ、主要中銀とのスワップ協定の3つの政策を打ち出した。PIIGS
諸国の国債市場では買い手が極端に少なくなり、流動性が枯渇した結果、ファンダメンタルズ以上
22
に金利が上昇していたため、ECBは、ギリシャ債、ポルトガル債を中心に5月14日の時点でPIIGS諸
国の国債を、165億ユーロ購入したとのことである。買い取りの結果、ギリシャ国債(10年債)の
利回りは、5月7日の12.4%から12日には7.2%程度まで低下した。これらの政策と、EUの巨額の支
援策によって、短期的には金融危機的状況に陥るリスクは遠のいたと考えられる。PIIGS諸国の財
政再建の成否によっては債務再編の観測が広まり、再び危機的状況に陥る可能性は依然残っている
が、EU各国は投機的な売買を制限する姿勢を強めているほか、7,500億ユーロの支援枠組みが背後
に控えていることから、ギリシャの財政再建は難航しながらも進むとみる。
インフレ率はECBが物価安定の目安とする2%を当面下回って推移する可能性が高いことから、
ECBの利上げは2011年の7-9月期になると予想する。
(4)英国景気の回復ペースも緩やか
(図表3-9)実質小売売上(前年比)と
消費者信頼感指数の推移
%
英国の1-3月期実質GDP成長率(速報値)は前期
比0.2%増と、2四半期連続のプラス成長となった。
回復の遅れていた英国景気だが、ここへきて少し
8
10
6
0
4
ずつ上向きつつある。住宅市場が持ち直している
2
こと、ポンド安で輸出が堅調に推移したことなど
0
が背景と考える。
ただ、1月にVATが15.0%から17.5%に引き戻さ
れ、2月からは自動車買い替え支援策が打ち切りに
なるなど、今後は対策効果の反動が個人消費の下
押し要因となると考えられる。そのため、GDPの6
ポイント
-10
-20
-2
-30
-4
-40
02/8 03/6 04/4 05/2 05/12 06/10 07/8 08/6 09/4 10/2
実質小売売上(季調前)
消費者信頼感指数(右)
(出所)英統計局
(図表3-10)英住宅価格指数(前年比)と英政策金利
ポンド→175,000 ポンド)も 2009 年末で終了して
0
2.0
おり、今後は住宅市場の持ち直し傾向に歯止めが
-10
1.0
かかる可能性が高い(図表 3-10)。住宅価格は足
-20
0.0
元で上昇基調に転じているものの、価格の急騰が
始まった 2001 年以前のトレンドと比べれば依然
として高い水準にあり、調整圧力は残っている。
ハリファクス住宅価格指数
英政策金利(右)
(図表3-11)BOEの5月インフレ見通し
今後の下押し材料となろう。
BOE(イングランド銀行)は 5 月の MPC(金融政
策委員会)で政策金利を 0.5%に据え置いた。5 月
12 日に発表されたインフレレポートによると、政
策金利と資産買取枠を据置いた場合の CPI 上昇率
が 2 月レポートから小幅に上方修正されたものの、
2011 年中は前年比で 2%に達しないとの予想が示
された(図表 3-11)。BOE の利上げは 2011 年に入
ってからと予想する。
(出所)BOE
23
ネーションワイド住宅価格指数
(出所)英国統計局資料等より明治安田生命作成
家計のバランスシート調整が道半ばであることも
%
6.0
10年
3.0
09年
10
08年
てきた印紙税の課税最低限の引き上げ策(125,000
07年
4.0
06年
20
05年
また、これまで住宅取得促進策として実施され
04年
5.0
03年
30
02年
能性が高い(図表3-9)。
01年
割超を占める個人消費は目先低調な推移が続く可
%
40
4.中国経済見通し
〈要
約〉
2010 年 1-3 月期の実質 GDP 成長率は前年同期比 11.9 %増と、10-12 月期の同 10.7%増から
伸びが一段と加速した。政府による一連の財政政策や、緩和的な金融政策、世界経済の回復によ
る輸出の好転などがあいまって、大方の予想以上に速いペースで回復を続けている。2010 年は GDP
の規模で日本を抜き、世界第二位の経済大国に躍り出るのがほぼ確実な情勢である。
景気の牽引役は引き続き企業部門である。景気対策として着工した大型投資プロジェクトの多
くが仕掛中であることから、2010 年の固定資産投資は 20%超の伸びを確保する見込み。個人消費
も、「家電下郷」、「汽車下郷」といった農村部への支援策が継続されるほか、雇用・所得環境
も回復していることで、引き続き堅調な伸びを維持しよう。輸出は、韓国、台湾、ASEAN 向け等を
中心に急回復しており、固定投資とともに景気の牽引役をはたそう。
政府当局は徐々に引き締め的な政策運営にシフトしつつある。2010 年央には元高方向への誘導
を再開、利上げも 2 回程度実施すると予想。バブル色を強めつつある不動産市場については、政
府が価格抑制策に本腰を入れ始めていることもあり、ソフトランディングに成功するとみる。引
き締めの過程で景気の振幅が多少大きくなる可能性は
(図表4-1)中国実質GDP成長率予測
前年比(%)
08年
09年
あるが、政策の機動性の高さを考えれば、深刻な景気
後退に陥るリスクは高くない。2010 年の成長率は前年
実質GDP成長率
9.0
10年
(予測)
8.7
11年
(予測)
10.9
10.3
比 10.9%、2011 年は同 10.3%の伸びを予想する(図表
4-1)。
(図表4-2)中国実質GDP成長率の推移
(前年比)
%
14
(1)中国景気は V 字型回復
13
中国経済が V 字型の回復を続けている。2010 年 1
-3 月期の実質 GDP 成長率は前年同期比 11.9%増と、
10-12 月期の同 10.7%増から一段と加速、2 四半期
12
11
10
9
連続の二桁成長となった (図表 4-2)。前年の数字が
8
低いことも高成長の要因のひとつだが、中国経済が、
7
大方の予想以上に速いペースで回復を続けているの
は確かと考えられる。政府による一連の財政政策や、
緩和的な金融政策、輸出の好転、先進国からの資金
流入などがその背景にある。
6
5
01年
02年
03年
04年
05年
06年
07年
08年
09年
10年
(出所)ブルームバーグ
ポイント (図表4-3)中国PMI(中国物流購買連合会)の推移
65
(2)引き続き固定投資が牽引役
60
景気の牽引役は引き続き企業部門である。企業部
55
門の景況感を表す 4 月の PMI 指数(中国物流購買連合
50
24
10/4
10/1
09/10
09/7
09/4
09/1
08/10
08/7
08/4
08/1
総合指数の水準はリーマン・ショック前のレベルに
(出所)ブルームバーグ
35
07/7
2010 年 1-3 月期まで 4 四半期連続で改善しており、
40
07/10
期ごとに国家統計局から発表される企業景気指数は、
45
07/4
点とされる 50 ポイントを上回った(図表 4-3)。四半
07/1
会)は 55.7 ポイントと、14 ヶ月連続で好不況の分岐
まで回復している(図表 4-4) 。
企業景況感の回復は、実際の生産活動、投資行動
にも反映されている。4 月の鉱工業生産は、前年比
150
17.8%増と、3 月から伸びは若干鈍ったものの、前
140
130
年比で 20%近い伸びを維持している(図表 4-5)。1
120
-3 月期の全社会固定資産投資は、前年比 25.6%増
となった(図表 4-6)。政府による過剰融資、過剰投
110
合計
工業
100
建設
不動産
運輸・通信
卸・小売
資の抑制策などを受け、足元では若干伸びが鈍って
10/3
09/9
09/3
08/9
08/3
07/9
07/3
06/9
06/3
05/9
05/3
04/9
04/3
90
いるが、企業の投資意欲自体は引き続き旺盛と判断
(出所)ブルームバーグ
できる。3 月の発電量は、工業部門の電力需要を背
景に、前年比 17.6%増の 3,369 億 5,000 万キロワッ
トと、高い伸びが続いている。
(図表4-4)企業景気指数
ポイント
160
(図表4-5)鉱工業生産(前年比)
%
25
政府は昨年 10 月に、鉄鋼、セメント、板ガラス、
20
石炭化学工業、多結晶シリコン、風力発電設備の 6
業種を生産過剰抑制策の重点対象とし、新株発行、
社債発行、環境基準、土地取得などの面で規制をか
15
10
けている。今後はさらに引き締め政策を強めてくる
(出所)ブルームバーグ
10/4
10/1
09/10
09/7
09/4
09/1
08/10
08/7
08/4
08/1
07/10
07/7
07/4
07/1
06/10
景気も持ち直していることから、固定資産投資は引
06/7
0
06/4
ある 4 兆元の景気対策の効果が残るのに加え、海外
5
06/1
ことが予想されるが、元々2 年間のプロジェクトで
き続き 20%台半ばの高い伸びを維持する可能性が高
い。
(図表4-6)全社会固定資産投資の推移
%
35
※年初からの累計値の前年比
30
(3)個人消費も堅調
個人消費も順調な回復が続いている。4月の小売売
上高は、前年比18.5%の伸びとなった (図表4-7)。
2008 年後半以降の消費減速の主因は、輸出の急減
25
20
15
10
速を受けて沿海部の工場の閉鎖が相次いだことなど
による雇用環境の悪化だったが、政府は 2009 年以降、
5
0
貧困層を対象とした生活補助金の給付や、インフラ
建設における農民工の優先的採用、農民工が事業を
08/9
興す場合の融資や税の減免などを次々に実施してい
09/3
09/6
09/9
09/12
10/3
(図表4-7)中国小売売上高の推移(前年比)
%
る。
08/12
(出所)ブルームバーグ
24
また、政府は 3 農問題(農業、農村、農民)を政策
の最重点課題と位置づける立場から、特定の家電製
品を購入する農村部の消費者に対して補助金を支給
22
20
18
16
する「家電下郷」(家電製品を農村へ)、同じく自
14
動車購入に補助金を支給する「汽車下郷」を実施し
12
たほか、小型車の車両取得税の引き下げ、環境を重
10
視した家電・自動車の買い替え促進策等を実施した。
この結果、家電、自動車の国内消費量が大幅に増加、
25
8
06年
07年
(出所)ブルームバーグ
08年
09年
10年
2009 年の自動車販売台数は前年比 46.2%増の 1,364 万台と、米国の 1,043 万台を上回り、「世界
一の自動車市場」となった。
政府は、2010 年も農村部の支援策を一段と強化している。「家電下郷」については、優遇対象と
なる家電の価格上限を大幅に引き上げたほか、対象品目について、各地方政府が地域のニーズに合
わせて、1 品目を自由に追加できるようにしている。
旧型家電の買い替え促進策も、従来 5 月とされていた期限を年末まで延長した。農業機械の購入
補助策も継続し、補助額も引き上げる。農民の住宅建設支援のため、農村部での建設資材購入に補
助金を支給するなどの政策も実施している。「汽車下郷」も継続され、旧型車の買い替え促進に伴
う補助金の上限も引き上げた。ただし、小型車の車両取得税の税率は 5%から 7.5%へと、減税率
を半分に縮小している(本則は 10%)。
こうした措置は新年度の家計部門の需要拡大に引き続き寄与すると考えられる。雇用・所得環境
も改善傾向をたどると予想されることから、個人消費は引き続き堅調な回復が期待できる。もっと
も、4 月の自動車販売については、前年比 34.4%増の 155 万台、14 ヶ月連続の 100 万台突破と、水
準は依然として高いものの、前月比では 10.4%増と、足元の伸びはやや鈍化しつつある。減税率縮
小の影響とみられ、各種の自動車購入補助策打ち切り後の推移が懸念されるところだが、中国がま
だモータリゼーションの黎明期にあるのに加え、中間所得者層が趨勢的な増加傾向にあることを考
えれば、大きな減速に繋がる可能性は低いとみている。
より中長期的な見地から、個人消費を安定的な成長軌道に乗せるためには、労働分配率の上昇と、
高すぎる貯蓄率を低下させていく政策が必要である。中国の労働分配率はいまだ 50%未満である。
これは労働組合の組織率が低いことに起因しており、この裏返しである資本分配率の高さが過剰投
資を招く要因となっている。また、社会保障制度が未整備なため、人々は貯蓄率を高めに保たざる
を得ない。農村部の物流システムの整備も引き続き
課題である。いずれも一朝一夕に解決できない問題
10億㌦
50
であり、投資主導の成長構造の転換は容易ではない
40
といえる。
30
(図表4-8)中国貿易収支の推移
%
100
80
60
40
20
20
0
10
(4)輸出入とも急回復
-20
-40
入とも約 1 年にわたり前年同月を下回る状態が続い
上に速い。
いるが、固定投資や個人消費に加え、輸出も明確な
回復に転じてきたことで、今後中国景気の回復ペー
10/4
10/2
09/12
09/10
09/8
09/6
輸入(右軸)
輸出(右軸)
(図表4-9)輸出主要国・地域別内訳(前年比)
%
て世界一の輸出大国になったことが明らかとなって
09/4
貿易収支
(出所)ブルームバーグ
ていたが、このところの回復ペースは大方の予想以
2009 年通年の輸出は、金額ベースでドイツを抜い
09/2
輸入は 6 ヶ月連続の対前年比増。金融危機後、輸出
08/12
-60
08/10
49. 7%増となった(図表 4-9)。輸出は 5 ヶ月連続、
-10
08/8
0
08/6
4 月の輸出額は前年同月比 30.5%増、輸入額は同
100
80
60
40
20
0
(出所)ブルームバーグ
26
10/4
10/2
09/12
09/10
09/8
09/6
09/4
09/2
08/12
08/10
08/8
08/6
ASEAN
米国
台湾
08/4
-60
08/2
が同 33.9%、対 ASEAN が同 42.6%と、軒並み高い伸
-40
07/12
は、対韓国が同 37.9%、対台湾が同 49.3%、対香港
日本
EU
韓国
香港
-20
07/8
輸出入とも対アジア新興国の伸びが大きい。輸出
07/10
スがさらに加速することが予想される。
びを記録している。対先進国向けをみても、対米国が前年比 19.1%、対 EU が同 28.5%、対日本が
同 24.6%といずれも堅調だ(図表 4-9)。
一方、輸入に目を転じると、対米国が前年比 30.8%、対 EU が同 40.8%、対日本が同 44.1%で、
中国経済が世界景気の回復に寄与している姿を示している。アジア新興国からの輸入の伸びはさら
に大きい。
1990 年代後半以降、東アジアにおいては、日本が一般機械や素材、韓国や台湾が汎用半導体やパ
ソコン用液晶、中国が家電や衣類、雑貨などに比較優位を持つ形になってきており、アジア全体の
内需振興との相乗効果で互いに域内貿易を拡大させている。2010 年後半から 2011 年にかけては、
米欧景気の足取りも次第にしっかりしたものになると考えられることから、輸出入とも、2011 年に
かけても堅調な伸びを維持すると予想している。
(図表4-10)中国消費者物価の推移(前年比)
%
25
(5)強まりつつあるインフレ圧力
景気の好調を受け、インフレ圧力が徐々に強まり
20
つつある。4 月の CPI は前年同月比 2.8%の上昇と、
15
3 月の同 2.4%を上回る 1 年半ぶりの高い伸びとなっ
10
た(図表 4-10)。食品が同 5.9%の伸びとなった影響
5
が大きいが、当局は、輸入価格の上昇や国内労働コ
CPI総合
食品
0
ストの上昇により、物価押し上げの圧力が強まって
いるとの見解を示している。2010 年の CPI 上昇率の
-5
06年
07年
08年
09年
10年
(出所)ブルームバーグ
目標である 3%以内を達成するのは難しいかもしれ
ないとの見解だ。
(図表4-11)不動産開発投資の推移
%
もっとも、当局が警戒しているのは、一般物価よ
40
りも、バブル色を強めつつある不動産市場の動向で
35
※年初からの累計値の前年比(1月は発表なし)
30
25
前年比 75%超の上昇となったほか、2009 年の政府の
20
不動産譲渡収入が前年比 43.2%の増加(1 兆 4,239 億
15
7,000 万元)となったことも明らかとなっている。
10
5
36.2%増と、1-3 月の同 35.1%から一段と加速し
14
10.7%から伸び率がさらに上昇している(図表 4-12)。
12
10/3
10/2
10/1
10/4
%
2.0
1.5
10
8
が前年比 53.3%、同じく三亜が同 52.3%の高い伸び
6
となったほか、広東省深センが同 17.9%、浙江省温
4
(6)政府は不動産価格の抑制に本腰
(図表4-12)中国70都市住宅価格の推移
%
格は前年比 12.8%と、3 月の同 11.7%、2 月の同
州が同 21.8%、北京が同 14.7%の伸びとなっている。
09/12
09/8
(出所)ブルームバーグ
た(図表 4-11)。また、4 月の主要 70 都市の不動産価
政府がリゾート構想を打ち出している海南省の海口
09/11
0
は見えない。1-4 月の不動産開発投資は、前年比
09/10
2010 年に入ってからも、不動産価格沈静化の兆し
09/9
ある。2009 年の不動産販売額は、地価上昇を背景に、
1.0
0.5
0.0
2
0
前月比(右軸)
-2
前年比(左軸)
-0.5
-1.0
を購入する際の支払い条件を厳格化する方針を明ら
27
(出所)ブルムバーグ
10/3
10/1
09/7
09/10
09/1
09/4
08/7
08/10
08/1
08/4
07/7
07/10
07/1
07/4
06/7
06/10
政府は、昨年 12 月に、個人や不動産会社が国有地
06/3
-4
かにしている。新ルールでは、取引価格の半分以上を頭金として支払い、購入から 1 年以内に全額
を支払う必要がある(状況によって 2 年に延長可能)。2010 年 1 月からは、中古住宅の転売にかかる
営業税(5.5%)の免除対象が購入後 2 年から購入後 5 年に戻された。
中国国務院は 4 月 14 日、第 1 四半期の経済情勢分析会議(温家宝首相が主宰)を開いた。そこで
は、緩和的な財政金融政策がインフレに与える潜在的リスクは軽視できないとの認識が示されたほ
か、「一部都市での住宅価格高騰問題は突出している」とし、「過度の上昇は断固として抑える」
との方針が示された。翌 15 日には早速、住宅ローンの貸出条件の規制強化を発表している。具体
的には、初めて住宅を購入する場合(90 平方メートル以上)の頭金の割合を 20%から従来の 30%
に戻すほか、2 軒目の住宅を購入する場合は頭金の割合を 40%から 50%に引き上げる、住宅ロー
ン金利を人民銀行の基準金利の 1.1 倍以上とすることを銀行に義務付けるといった内容。投機色が
強いと考えられる 2 軒目以降の住宅購入への規制を一段と厳しくした内容だ。他にも次々に抑制策
を打ち出している。主たるものは下記のとおり。
・地方政府に投機的な購入を抑制する権限を付与
・建設中の住宅について、当局の認可なしで不動産開発業者が前払金を受け取ることを禁止
・販売日を先延ばしして意図的に住宅価格を引き上げた開発業者は処罰の対象
・3 軒目の住宅購入向け融資の厳格化
・納税申告書の提出や社会保障費の支払い証明ができない住宅購入者への融資見合わせを銀行
に命令
・明らかに投機目的の住宅購入に対しては、融資を拒否することを銀行に求める。
・大手銀に対し、不動産融資のストレステストの四半期ごとの実施を義務付け。
人民銀行が窓口指導を通じて金融機関に貸出拡大を
10/4
10/1
09/10
09/7
09/4
09/1
08/7
に発動された 4 兆元の景気対策のサポートのため、
08/10
策を次々に実施してきた。とりわけ、2008 年 11 月
08/4
以来、5 回の追加利下げをはじめ、大胆な金融緩和
08/1
局は、2008 年 9 月に 6 年半ぶりに利下げを実施して
07/10
一部が投機マネーに化けていることがある。中国当
(図表4-13)新規融資額の推移
07/7
動産市場再過熱の背景には、急拡大した銀行融資の
07/4
金融面でも引き締め方向の動きを強めている。不
07/1
(7)利上げは近い
十億元
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
(出所)ブルームバーグ
指示したことが、2009 年以降の融資残高の急増に繋
%
(図表4-14)中国の主要金利の推移
%
がった。政府は当初、2009 年の融資増加目標を 5 兆
12
元と置いていたが、これは 4 月までのわずか 4 ヶ月
10
16
で達成、最終的には目標の約 2 倍にまで膨らんだ(図
8
14
6
12
4
10
28
10/3
09/12
09/9
09/6
6
09/3
ち 1-3 月期は 40%、4-6 月期は 30%、7-9 月期は
8
(出所)ブルームバーグ
08/12
0
08/9
の融資目標額は 7 兆 5,000 億元と置いているが、う
1年物貸出金利
1年物預金金利
法定預金準備率(右軸)
08/6
2
08/3
資に向かったとの調査結果を発表している。2010 年
07/12
設立)は、昨年の融資額のうち、20%前後が不動産投
07/9
機関を統一的に管理監督する組織として 2003 年に
07/6
表 4-13)。中国銀行業監督管理委員会(銀監会、金融
18
20%、10-12 月期は 10%以内と、順次絞り込んでいくとの方針だ。ちなみに 1-3 月期については、
32.5%が不動産セクター向けの融資だったことが明らかとなっている。
人民銀行は 1 月に、5 ヶ月ぶりに、3 ヶ月物手形オペ金利を 1.3280%から 1.3680%まで 0.04%引
き上げたほか、1,2,5 月と 3 回に分けて法定預金準備率を 0.5%ずつ引き上げた(図表 4-14)。今の
ところ、政府は「比較的緩和的」な金融政策を維持する姿勢を崩していないが、今後は徐々に引き
締め路線を強化してくるとみている。法定準備率は年内にあと 3~4 回引き上げられる可能性があ
る。利上げについては、高金利通貨を志向する投機資金の流入によって景気過熱をさらに助長する
恐れがあるほか、中国経済の金利チャネル自体が弱いということもあって、今のところ行われてい
ないが、年央には最初の利上げに踏み切る可能性が高い。もし、4 月の CPI 上昇率の 2.8%が人々
のインフレ期待に一致すると仮定すると、1 年物定期預金基準金利(2.25%)を上回る「実質マイ
ナス金利」が実現していることになる。今後は CPI 上昇率が 3%に迫ってくる可能性が高いことを
考えれば、金利水準の段階的調整も避けては通れない。南欧の財政問題が世界景気に大きな悪影響
を与える事態を免れることができれば、年内に 2~3 回程度は利上げが実施されると見ている。
(8)元高誘導再開も秒読み
(図表4-15)人民元直物と先物(NDF)の推移
元/㌦
7.0
6.8
の信頼性を高め、先進国からの安定的な資金流入に繋
6.6
がった。とりわけ、米国では、FRB が、ほぼゼロ金利
6.4
という超金融緩和策を長きにわたって維持すること
6.2
にコミットするという金融政策運営を行っているこ
6.0
リスク資産に投資するという、「ドルキャリー取引」
人民元NDF(12ヶ月)
10億㌦
が膨張し、これが中国をはじめとした新興国や資源国
2500
への大量の資金流入をもたらした。
2000
10/3
09/12
09/9
09/6
09/3
08/12
(出所)ブルームバーグ
07/9
とから、低利のドルで資金を調達して、高金利通貨や
人民元
08/9
これが足元の輸出回復に貢献しているほか、金融市場
7.2
08/6
事実上の対ドル固定相場に戻している(図表 4-15)。
7.4
08/3
ようだ。政府当局は、人民元相場を一昨年の 7 月以降、
7.6
07/12
人民元の元高誘導再開も秒読み段階になってきた
(図表4-16)中国の外貨準備高の推移
景気回復とドル安、およびドルキャリー取引の拡大
に伴い、昨春以降、通貨当局は元売りドル買い介入の
規模拡大を余儀なくされており、結果として外貨準備
高が増加の一途をたどっている(図表 4-16)。また、
1500
1000
500
元売り介入を通じて市場に供給されたマネーを不胎
化しきれないことが、足元のマネーサプライ拡大の一
因ともなっている。各種の金融引き締め策を有効に機
0
06年
(出所)ブルームバーグ
07年
08年
09年
10年
能させるためには、マネーサプライの拡大を抑制しな
ければならず、それは人民元の緩やかなフロートを容認しなければ難しい。当局者である人民銀行
の周其仁金融政策委員も、4 月 25 日、「人民銀行が国内物価の安定と為替相場の安定という 2 つの
目標を同時に達成するのは不可能であり、どちらかを選ばなければならない」と発言している。
人民元の固定については、米国だけではなく、最近では新興国からも「アンフェア」との声が上
がっている。もっとも、中国当局は、「外圧によって行動することはない」と強く抵抗している。
中国政府への圧力は、世論の反発を招き、中国政府を逆に動きにくくしてしまうと言う点で逆効果
29
と考えられるが、放っておいても、V 字型の景気回復を続ける国内事情が、固定相場制の持続を許
さない状況になりつつある。
中国政府は、年央には元高誘導を再開させる可能性が高いとみている。手法としては、経済への
影響を考えれば、2005 年のように一度に数%の切り上げを実施する可能性は低く、まずは日々の変
動容認幅を拡大させ、その範囲内で緩やかに元高方向への誘導を進めるという形をとることになろ
う。2011 年末までに 1 割程度の引き上げが実施されると予想する。
(9)バブル崩壊への過度な懸念は不要
先進国の金融市場では、中国当局による引き締め強化が景気をオーバーキルするリスクが懸念さ
れているが、一連の政策は、むしろ、中国景気の過熱色を弱め、景気拡大局面の持続度向上に寄与
すると考えられる。政策の機動性が極めて高い中国の景気腰折れリスクは、市場が懸念するほど高
くない。
たとえば、先進国における財政政策は、通常議会等で延々と議論を重ねた後でなければ実施でき
ない。それが民主主義のコストだが、一党独裁国家の中国では、多少誇張して言えば、「今日決め
たことが明日からできる」強みがある。景気腰折れリスクが現実のものになったら、ただちに引き
締め政策を撤回し、緩和政策に転じることが可能だ。
また、先進国の中央銀行は、短期金利を 0 コンマ数ポイントずつ動かすだけで、市中のマネーの
量、ひいては実体経済をコントロールしなければならない。金融政策の効果が実態経済へ十分波及
するまで、通常 1 年以上かかる。最近では、銀行の貸し渋りが問題になることも多い。これに対し、
中国政府は直接銀行に「貸せ」、あるいは「貸すな」と指導することが可能である。金融危機後の
中国景気が先進国に先んじて回復に向かったのは、4 兆元の景気対策もさることながら、歩調を合
わせて銀行に融資増加の大号令をかけ、その結果 5 兆元という年間目標をわずか 4 ヶ月で達成する
という驚異的なペースで貸出額が増加した効果が大きかった。
経済政策には、認知ラグ、行動ラグ、効果ラグの三つのタイムラグがあることが問題とされてい
るが、中国に関しては行動ラグがかなり短い。より直接的な手段をとることが可能な分、効果ラグ
も短いと言えるだろう。たとえ、一時的な景気減速を余儀なくされたとしても、高度成長期にある
中国では潜在成長率が高く、巡航速度に向けた迅速な復元が期待できる。日本のような「失われた
10 年」といった状況に陥る可能性は小さい。政府の関与が強すぎるという点で自由な市場とは言え
ず、いつ政策変更があるかわからないという点で商売のしにくい国であることは確かだが、中国の
政治体制は危機管理と言う点では向いている。
そもそも、中国の不動産市場は、図表 4-12 からもわかるとおり、既に一度不動産市場の急落を
経験したばかりである。にもかかわらず、短期間でこれだけの回復を遂げた復元力を評価すべきで
ある。中国の不動産取引は多くが現金取引で、価格下落が信用不安の連鎖に直結するわけではない
ことも考えると、やや乱暴な言い方だが、不動産バブルの崩壊はさほど怖くないとも言える。中国
の財政は主要国に比べれば健全で、再度 4 兆円規模の景気対策を打ち出すことも可能なだけの余力
がある。内陸部のインフラ需要等、蛇口をひねればいくらでも水が飛び出す状況にあることを考え
れば、引き締めによるオーバーキルを過度に恐れるべきではないも言える。多少景気の振幅が大き
くなるリスクはあるが、均せば、今後数年にわたって高めの成長が続く可能性が高い。
30
5.商品相場見通し
(1)原油価格は緩やかな上昇を予想
リーマン・ショック後、一時 30 ドル/バレル台
千枚
450
350
ドル/バレル
150
(図表5-1)WTI原油価格と投機筋ポジション
130
前半まで下落した米国産標準油種 WTI(ウェスト・
250
テキサス・インターミディエート)先物価格は、
その後上昇基調に転じ、5 月上旬には 87.1 ドル/
150
50
-50
バレルと、2008 年 10 月以来の高値を付けた(図
-150
50
表 5-1)。世界景気の回復期待が高まりつつある
-250
-350 (出所)NYMEX、CFTC
30
110
90
で推移している。
100万バレル/日
55
10/04
09/10
09/04
08/10
08/04
07/10
07/04
06/10
06/04
10
買い(Long)
ネット
だ、足元では、南欧の財政問題を抱える欧州経済
の不透明感などにより、70~80 ドル/バレル近辺
05/10
資金が流入していることなどが背景と考える。た
05/04
こと、市場参加者のリスク許容度が回復し、投機
04/10
04/04
70
売り(Short)
WTI原油価格(右)
%
(図表5-2)世界の原油需要
3
50
国際エネルギー機関(IEA)による5月の原油需
45
給見通しをみると、需要面に関しては、2009年の
40
8,480万バレル/日から2010年には8,640万バレル
2
1
0
35
-1
30
OECD(左軸)
OECD対前年増減(右軸)
長著しい中国などの非OECD諸国で増加が見込まれ
09年
07年
OECD諸国の需要量は横ばいにとどまるものの、成
05年
-3
03年
20
01年
っている。地域別にみると、低成長が予想される
99年
-2
97年
25
95年
/日と、160万バレル/日ほど増加する見通しとな
非OECD(左軸)
非OECD対前年増減(右軸)
(出所) IEA
一方、供給面では、非OPEC諸国が2009年の5,150
10年
表5-3)。
0
09年
ある80万バレル/日は、十分対応可能と考える(図
08年
あることを考えれば、需要増加見通し分との差で
07年
現在、OPECの余剰生産能力が600万バレル/日ほど
4
3
2
1
06年
足元では2,900万バレル/日の水準となっている。
その他
イラク
サウジアラビア
8
7
6
5
05年
いる。OPEC諸国も2009年半ばより徐々に増産し、
(図表5-3)OPEC余剰生産能力
04年
と、80万バレル/日ほど増加する見通しとなって
02年
万バレル/日から2010年には5,230万バレル/日
100万バレル/日
9
03年
ている(図表5-2)。
(出所) IEA
2005年
2008年
原油需要の増加により、引き続き上昇基調をたど
(出所)EIA
31
2006年
2009年
2007年
2010年
12月
11月
10月
09月
08月
今後のWTI価格は、世界景気の回復を背景とした
07月
目先の原油市場では高くないと言える。
06月
念が深刻化して価格が大きく跳ね上がるリスクは、
05月
から、2008年までの数年間に見られた需給逼迫懸
04月
ても、依然として高水準である(図表5-4)。以上
(図表5-4)米国原油在庫の推移
03月
水準で推移しており、米国の原油在庫の動きを見
02月
2000年以降最も低い水準であった2009年とほぼ同
百万バレル
380
370
360
350
340
330
320
310
300
290
280
01月
また、足元の米国における石油製品消費量は、
ると予想するが、OPECに供給余力が残っていることから上昇余地は限られよう。投機資金の流出入
により、一時的に値動きが激しくなる局面はあろうが、WTI(年平均)は、2010年が80ドル/バレ
ル、2011年が87ドル/バレルと、緩やかな上昇を予想する。
1967年=100
400
年と 2010 年の 4 月月中平均の比較)をみると、CRB
1967年=100
指数+24.2%、うち貴金属+38.9%、エネルギー
1,600
+41.3%、産業素材+68.1%となっている。
1,400
穀物
1,200
産業素材
しての需要は強いが、欧州問題が落ち着くととも
60
に、調整局面に入る可能性もあろう。
40
エネルギー分野では、天然ガスが値下がりして
20
いる。米国では年末年始の寒波到来により、需給
0
は一時的に引き締まったが、暖房需要期以降は、
-20
も増加する見通しであり、価格は緩やかな上昇に
09/11
10/02
10/01
10/04
し
ろ
こ
麦
と
うも
小
豆
ミ
(出所)NYMEX、COMEX、CBOT、LME
大
ガ
然
アル
ス
油
天
需要は回復していくと予想されるが、北米の供給
-40
原
然ガス価格は軟調に推移している。米国の産業用
*4月月中平均の比較 銅・アルミは3ヶ月物、他は中心限月
銀
産業用需要の回復が遅れていることもあって、天
09/10
(図表5-7)主要商品の1年間の騰落率
%
80
金
政問題が燻ぶる中で、今のところ資金の退避先と
09/07
(出所)Reuters/Jefferies
りに伴う資金の流入によって、金とドルが同時に
上昇する場合も見られる。ギリシャ等、南欧の財
09/04
の側面を持ち、ドル不安や金融不安が起こると価
09/01
0
08/07
08/10
高値を更新している。金は通貨の代替資産として
08/04
200
07/07
07/10
現在)では 1,243 ドル/トロイオンスと、過去最
07/04
400
06/01
600
トロイオンスの安値を付けたが、足元(5 月 12 日
06/10
07/01
800
月に金先物価格(COMEX 中心限月)は、722 ドル/
格が上昇する傾向があるが、最近では、ユーロ売
貴金属
1,000
06/07
が目立つ。リーマン・ショック以降、2008 年 11
(図表5-6)CRBサブインデックス(抜粋)
エネルギー
06/04
貴金属分野では、安全資産である金価格の上昇
09/08
(出所)Reuters/Jefferies
銅
率が大きい(図表 5-6)。直近1年間の上昇率(2009
08/01
材(銅、アルミニウム、ニッケル、綿花)の上昇
09/05
150
09/02
(原油、燃料油、ガソリン、天然ガス)、産業素
08/11
200
08/08
分野別に見ると、貴金属(金、銀)、エネルギー
08/05
250
08/02
穀物、食品、家畜の 6 分野、19 品目で構成される。
06/08
300
07/08
350
CRB 先物指数は、エネルギー、貴金属、産業素材、
07/05
年 2 月を底に上昇基調に転じている(図表 5-5)。
450
07/02
リサーチ・ビューロー)先物指数を見ると、2009
06/11
主要国際商品指数である CRB(コモディティ・
(図表5-5)CRB先物指数
500
07/11
(2)その他商品市況も緩やかに上昇
とどまると考える。
産業素材分野では、非鉄金属の価格上昇率が大きく、とりわけ銅は1年間の上昇率(LME 銅 3 ヶ
月物の 2009 年と 2010 年の 4 月月中平均の比較)が+74.5%と高騰した(図表 5-7)。最大の消費
国である中国経済が好調であること、第 2 位の米国も製造業の回復基調が鮮明になってきたことな
32
どが要因である。ただ、足元では供給量が増加し、かつ在庫も十分な水準であることから、当面は
調整局面に入り、その後は需要の拡大に伴って緩やかな上昇に向かうと予想する。
穀物分野(大豆、小麦、とうもろこし)の価格は総じて軟調に推移している。米国農務省の発表
によれば、小麦は 2 年連続の供給超過、在庫も過去稀にみる高水準にまで膨れ上がる見込みである。
作付面積の削減によって 2011 年以降、供給調整が進むと予想されるが、当面は弱含みで推移する
だろう。大豆は、主要輸入国である中国の需要拡大が予想されるものの、今年度の生産量は過去最
高になる見通しであり、今後の価格上昇も小幅なものに留まると考える。とうもろこしについても
供給面の懸念は小さく、2010 年の在庫率は上昇が見込まれる。しかしながら、バイオ燃料需要の増
加などが見込まれるため、2011 年に向けて緩やかに価格は上昇すると考える。
最近の商品価格の上昇は、好調な中国経済や世界経済の回復基調を背景に、若干行き過ぎた需要
拡大期待による投機資金の流入という側面が大きい。実際、価格上昇幅の大きい非鉄金属では、在
庫水準も高く、当面需給が逼迫する可能性は低い。ファンダメンタルズ面を見る限り、商品価格が
再度高騰する可能性は低いと考えられ、世界経済の景気回復を背景に、緩やかな上昇にとどまると
予想する。CRB指数(4月月中平均276.86)の今後1年間の上昇率は、10%程度と予想する。
33
本レポートは、明治安田生命保険 運用企画部 運用調査Gが情報提供資料として作成したものです。本レポートは、
情報提供のみを目的として作成したものであり、保険の販売その他の取引の勧誘を目的としたものではありません。
当社では、本レポート中の掲載内容について細心の注意を払っていますが、これによりその情報に関する信頼性、正
確性、完全性などについて保証するものではありません。掲載された情報を用いた結果生じた直接的、間接的トラブル
や損失、損害については、当社は一切の責任を負いません。またこれらの情報は、予告なく掲載を変更、中断、中止す
ることがあります。
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