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うつ病の原因・病態

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うつ病の原因・病態
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1 うつ病全般について
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うつ病全般について
精神科の専門性について
教えてください
精神科には七者懇談会というものがあります。
日本精神神経学会,精神医学講座担当者会議,日本精神科病院協
会,国立精神医療施設長協議会,全国自治体病院協議会,日本精神神
経科診療所協会,日本総合病院精神医学会という 7 つの立場の違う精神科団体
が集まり,日本の精神科医療についてや精神科の関連する事項に対し検討し,
精神科医の総意ということで意見表明をしたりしています。これは,所属の違
いによる分類ですが,学問的・臨床的な専門性ということでいいますと,精神
科関連学会の名称でわかるかもしれません。ただ,日本精神神経学会が精神科
専門医の認定のポイントとして認めている学会等は地域単位の学術集会研修会
等を除いても 88 学会があり,一つずつ専門性をひもとくと,精神科大全といっ
た本になってしまいそうですので,何となく分類しておきます。
まず,専門性とはいえないかもしれませんが,一般臨床精神医学ですね。こ
れは普通に精神科臨床をしているということです。この中での専門性では疾患
別に分けるとわかりやすいでしょう。統合失調症,うつ病,不安障害などで
す。産業精神医学といった職場のメンタルヘルスを中心とした専門性もありま
す。画像診断などを用い脳の機能的部位がどのように認知機能や行動,言語機
能などへ影響しているのかを解明する神経心理という学問もあれば,精神科の
古典と言われている正常を哲学と比較し精神症状を記載する精神病理という学
問もあります。
年齢で分けることもできます。児童思春期,老年期を専門にされる先生もい
ますし,総合病医院精神医学のようにリエゾン精神医学といって他の診療科と
の連携や精神腫瘍学といった専門もあります。依存・嗜癖の問題などを専門に
しているところもあるでしょう。治療ということでいえば臨床精神薬理といっ
た薬物療法の専門や認知療法・森田療法など精神療法を専門性にあげる人もい
精神科の専門性について教えてください
3
ます。精神科の夜のお仕事,人の寝ている間に働かなくてはいけない睡眠障害
を専門にされる先生もいます。表にあげた専門だけでなく,このほかにも社会
精神医学,司法精神医学などいろいろな専門性があります。学会には認定医,
専門医などもありますが,その所属している団体によって症例が集められず専
門医がとれなかったり,維持することが困難だったりします。学会認定医など
も資格産業の一つと割り切って取得されない先生もいます。不躾かもしれませ
んが,紹介しようと思う先生に,このような患者さんなんですけど診られます
かと直接聞いてみてください。診られなければ適切な医療機関を考えてくださ
ると思います。
精神科の専門性
●
一般臨床精神医学
●
児童思春期精神医学
●
産業精神医学
●
総合病院精神医学
●
臨床精神薬理学
●
アルコール・薬物
●
神経心理学
●
睡眠障害
●
老年期精神医学
●
精神療法
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2 うつ病の原因・病態
2
うつ病の原因・病態
うつ病の原因は遺伝か環境か?
「うつ病は遺伝ですか」と聞かれると「遺伝もまったくないわけで
はないです」と答えます。双極性障害はより単極性のうつ病に比べて
家族内集積性が高くなり双生児研究などの臨床遺伝学的研究からも遺
伝負因は高くなります。気分障害の分野も分子遺伝学的研究が進み,性格関連
遺伝子,神経伝達物質関連遺伝子などいろいろな候補遺伝子と称し研究が繰り
広げられています。何を隠そう,実は私も分子遺伝学的研究というのをやって
いたことがあり,DNA マーカーだの PCR だとかいって,かの『The Lancet』
にも投稿したことがあります(載せるところがないと返事をいただきましたが
…)
。それはさておき,例年,「双極性障害の原因遺伝子を発見 ! !」といろいろ
と有名な雑誌に発表されます。大概,その報告は数カ月後,別のグループがそ
んなことありませんでしたという報告がなされます。
ではどの遺伝子が原因なんですかといわれると,“ようわかりません”とし
か答えられません。うつ病を含む気分障害は,単一遺伝子による疾患でなく複
雑な遺伝様式に環境要因が関連した多因子遺伝と考えられています。糖尿病と
同じようなもので,糖尿病では関連する複数の遺伝子があり,そこに生活習慣
で肥満などが重なり糖尿病となるというように,気分障害もなりやすさを示す
いくつかの遺伝子が関連し合い,それに何らかのストレスが関与して発症する
ということらしいです。
うつ病の病前性格は,几帳面,きまじめで責任感や正義感が強いことなどが
いわれています。もしこんな父母に育てられたらどうでしょう。同じ親に育て
られれば同じ環境で何をどうストレスとして感じるかというのは似てきます
ね。家族内集積性はひょっとするとこんなところも影響しているのではと考え
られます。だから遺伝とは関係ないと言い張る人もいます。
職場のメンタルヘルスはどうでしょう? 経理の仕事で数字の間違いをきっ
うつ病の原因は遺伝か環境か?
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ちり合わないといけない仕事。ソフトのプログラミングなど間違いが許され
ず,納期があって人に気を遣わなくてはいけない仕事。仕事はいろいろです。
こういった仕事に就いている人たちはうつ病になりやすい印象はありますね。
担当する仕事がすべて決められているより,自分の考えやアイデアなどが反映
できるような裁量性のある仕事は比較的うつ病になりにくいとされています。
うつ病の原因に環境が影響するなら,リスクは 1 つでも減らすほうがいいで
すね。
車のハンドルでも「あそび」がないと危険ですし,お風呂は熱すぎればやけ
どしますし,冷たければ風邪をひきます。
「いい加減」が一番いいようです。
環境の中にも「あそび」や「いい加減」な要素を入れる工夫をするほうがう
つ病予防にはいいようです。
環境が原因でストレス耐性が弱く
なることもあるんです。
トラウマが関連するってそういう
ことなんです。
62
3 うつ病の治療
3
うつ病の治療
認知行動療法について教えて
ください
近年,うつ病の治療法として認知行動療法が脚光をあびており,平
成 22 年 4 月からは保険診療で診療報酬が算定できるようになりまし
た。専門家向けの研修も頻繁に行われ,メディアでも盛んに取り上げ
られるようになってきています。本当にうつ病に適応かどうかはさておき,こ
こでは概要を説明しましょう。
認知行動療法は,うつ病によって生じている問題を①認知(考え,イメー
ジ),②感情,③行動,④身体反応─という 4 つの要素に分けて捉え,それ
ぞれの要素において,何が生じているかを明らかにすることから始まります
。うつ病の患者さんは,これらの要素間で症状を悪化させる悪循環を起
(図 1)
こしていることが多いのですが,そこには主に認知と行動のパターンが関わっ
ています。そこで,認知行動療法では,認知に働きかける方法(認知療法)と
行動に働きかける方法(行動療法)を必要に応じて組み合わせ,患者さん自身
が悪循環を解きほぐしていけるようにサポートしていきます。つまり,認知行
動療法を一言でいうと,非適応的な思考パターンと行動パターンを変容し,セ
ルフケアを通じて症状を改善していく治療法ということになります。では,具
体的にどんなことをしていくのか,一つ例をあげてご紹介したいと思います。
認知行動療法の中で最もよく知られている技法に認知再構成法と呼ばれるも
のがあります。認知再構成法は表 1 のようなコラムを用いて行うことが多いで
す。コラムに沿って,具体的な手順をお教えしましょう。うつ病の患者さん
は,自己や周囲の環境,将来に対するネガティブな予測や判断,解釈が習慣化
しており,ふとしたきっかけによって,それらが繰り返し湧いてくることで
(自動思考)症状が悪化していくといわれています。そこで,まずは①生活の
中で落ち込んだ出来事やイライラした出来事と,②その時に考えていたこと,
③その時の気持ちを記入していきます。①∼③を繰り返し行うことで,患者さ
認知行動療法について教えてください
認知
(考え,イメージ)
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感情
状況
行動
身体反応
図 1 認知行動療法の 4 つの要素
表 1 認知再構成法コラム
状況
例:
職場で自分の仕事が終
わらず,遅くまで同僚
に手伝ってもらった。
認知
感情
例:
例:
迷惑をかけてしまった。 憂うつ(90%)
不快な思いをさせてし
まったに違いない。
不安(90%)
合理的思考
例:
以前は自分が手伝ってあげたこと
もある。
お互い様だと笑って言ってくれた。
長い付き合いだから 1 日のことで
何かが大きく変わる訳ではない。
もう嫌われてしまった。 落胆(70%)
今はまだ体調も本調子じゃないん
自分の仕事も出来ない 悔しい(70%) だからしょうがない。
病院の先生にも焦るのは逆によく
自分は駄目なやつだ。
ないと言われている。
感情の変化
例:
憂うつ(60%)
不安(60%)
落胆(50%)
悔しい(30%)
んは自らの思考のパターンや特徴に気づき,それらが自分の感情に影響を与え
ていることを学びます。次に④思考の正確性,妥当性を現実的に再検討し,新
しい考えや見落としていた考えを探索し,それらの考えを踏まえると⑤感情が
どう変化するかを確認し,記入していきます。④⑤を通じて,患者さんはマイ
ナス思考から距離を取り,思考の多様性と柔軟性を高めることを身につけま
す。この一連のプロセスを繰り返し練習し,観察と再構成を習慣づけること
で,症状の改善を目指していきます。認知再構成は「ものは考えよう」という
日常的で常識的なことを実践しているのですが,系統立てて訓練することで,
より意図的に気持ちが楽になる考え方ができるようになっていきます。
最近では一般向けから専門向けまでたくさんの関連書籍が出版されています。
難しい言葉で書かれているかもしれませんが,一度手に取ってみてください。
14
1 うつ病全般について
Column
精神疾患が加わり5 疾病に
厚生労働省(以下,厚労省)は,患者数が多く緊急の対策が必要であるなど
一定の基準を満たしている疾患を,医療計画に盛り込むべき疾患として指定し
ています。平成 18 年の医療法改正で,がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病が「4
疾病」に定められましたが,平成 24 年に新たに精神疾患が加えられ「5 疾病」
となりました。これには自殺者数が年間 3 万人を超え続けたこと,職場でのう
つ病や高齢化に伴う認知症が増加しつつあることなどが背景にあると考えられ
ます。厚労省が発表している患者数の年次推移をみると,従来の 4 疾病がほぼ
横ばいなのに対し,精神疾患の患者数はこの 10 年間で大幅に増加し,今や 5
疾病の中で最多となっています。精神疾患を取り巻く近年の状況を鑑みると,
医療計画に盛り込まれることは必然だったのかもしれません。こうしたことか
ら,精神科の先生のなかには精神科医療が注目されるようになり,これで精神
科医療にも国から予算がついていい方向に向かうんじゃないかとのんきに考え
ておられる方がいるかもしれません。実はこれまったくの誤解で,国からみれ
ば 5 疾病に入れたのは膨らむ医療費のなかで精神疾患の伸びが著しい。高齢化
で認知症が増えていき医療費も増える。うつ病が増えて就労人口が減れば税収
も落ちるじゃないか。そうしたら精神疾患の治療費の抑制を国家規模でやらな
いと社会保障費がもたないじゃないか,それなら 5 疾病に入れて医療計画で縛
るかといった具合です。国の策定に関する意見をまとめると,今ある社会資源
で知恵を出してお金のかからないシステムを作りなさいと書いてあるだけです。
万人
350
精神疾患
300
糖尿病
250
がん
200
150
脳血管疾患
100
虚血性心疾患
50
0
1996 年
1999 年
2002 年
2005 年
2008 年
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