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小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想
研究論集 第 2 号;29 − 39 , 2015 【研究論文】 小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想 ─ アイスブレイキングの意義に着目して ─ 佐野 泉(横浜国立大学・非常勤) 1.問題と目的 近年の経済社会及び雇用環境の変化は著しく、社会に出て生活したり仕事をしたりする上で求められる能力 も変化している。一方で、変動の激しい社会に適応し、必要とされる能力を育成するシステムが、学校教育の中 でなされているかという反省と改革が急務であることから、小学校からのキャリア教育の必要性が謳われて久し い(国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター 2014) 。キャリア教育とは、中央教育審議会答申にお いて、 「一人ひとりの社会的職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア 発達を促す教育」 (中央教育審議会 2011)と定義されている。なお「キャリア」は、小学校では個人の人生全体 として定義されているが、中学校から高等学校へと校種が移行するに従って職業選択へと絞り込まれていく。そ こで小学校教育においてまず注目すべき点は、キャリア教育で育成を求められる能力のうち、人間関係形成に関 わる「基礎的 ・ 汎用的能力」である。とくに、その中の「人間関係形成 ・ 社会形成能力」への注目は、小1プロ ブレムやいじめ問題、不登校問題の解消または緩和に向けて重要な視点である。 一方、最近の傾向として、小学校では毎年度学級編成替えを実施する学校が多くなっている。児童は進級を 重ねるたびに新しい学級構成員と出会い、新たな仲間づくりをはじめることになる。学年が上がるに従って、新 しい学級構成員の中に知り合いは増えていくものの、こうした環境の変化の中で、児童はどの学年にあっても学 級開き時の四月は過度の緊張を余儀なくされることが想像される。学級集団の仲間関係を育成するためには、ま ずこの緊張をほぐす必要がある。児童の緊張をほぐし、新たな学級生活に適応できるように援助することは、学 級担任の役割の一つである。教師には児童の発達や実態を考慮しながら、適切な教育活動を展開することが求め られており、学級づくりをしていくに当たり、学級開き時に仲間関係促進のための教師による支援が必要である ことが 1 年生を対象とした研究から明らかとなっている(佐野ら 2010、佐野 2011)。一方で、四月は各学年とも 保健関係や儀式に関するものなど様々な行事が予定されており、改めて仲間関係促進のためにまとまった時間を 取ることは難しい。そこで、学級開き時の緊張をほぐし、仲間関係を促進させる支援の一つとして短時間で子ど もの心を解きほぐすことができるアイスブレイキングの有効性が期待できる。 アイスブレイキングは、ワークショップと呼ばれる学び合いの場で誕生したものである。ワークショップで は学び合いの新しい手法である、参加体験型の学習形態が用いられるため、必ず見知らぬ人との出会いがある。 体験型講座としての「ワークショップ」は、20 世紀初頭の米ハーバード大学においてジョージ・P・ベーカーが 担当していた戯曲創作の授業 ("47 Workshop") に起源をもつ。見知らぬ人との出会いを滑らかに進展させるため に、始めに「出会いのレッスン」としてのアイスブレイキングが必要となった(今村 2009) 。今村は、アイスブ レイキングの有効性を、不特定の人々が集まる場において、お互いの警戒心を解き、心を開くための手法であり、 コミュニケーションを深めるきっかけとなるものとし、いわば本題の前のウォーミングアップの役割を果たすも ─ 29 ─ 佐野 泉 のであるとしている。また犬塚(2000)は、アイスブレイキングを小学校において活用することによって、児童 一人一人の過度の緊張や、学級集団の緊張を解きほぐす効果があるとしている。このことから、学級集団形成初 期の段階における構成員同士の交流が少ない状態では、アイスブレイキングの導入は学級の雰囲気を支持的風土 に導くための有効な手段であると言える。ゲームなどを活用することによって、児童が楽しみながら仲間関係形 成を促進させることができるとともに、教師にとっても教育活動に容易に組み入れていくことができるという利 点を併せ持つ。 本研究では、先行研究を踏まえて、まず学級開き時の四月に、 「人間関係形成 ・ 社会形成能力」に深く関わる 仲間関係について、全学年に対象範囲を広げ、仲間関係に関する実態を把握することを第一目的とし、児童の実 態に基づき、各学年の発達課題も考慮したアイスブレイキングプログラム作成に向けた全体像を示すことを第二 目的としている。 2.方法 児童の仲間関係に関する実態を問う調査として、首都圏内 A 市立小学校教諭を対象とした悉皆調査を行った。 対象者への質問は、趣旨を説明した上で、 「現在受け持っているクラスの児童について当てはまる数字に○をつ けてください。 」とした。回答は、 「学級児童ほぼ全員が行う場合」を6、 「学級の 2/3 が行う場合」を5、 「学級 の半分程度が行う場合」を4、 「学級の 1/3 が行う場合」を3、 「学級の 1~2 人程度が行う場合」を2、 「いない場合」 を1とし、得点化した。回答は無記名とし、基本事項として担当学年・性別・経験年数の記入を求め、男・女別 に同じ質問項目を設けた。データ入力及び分析は個人情報保護を考慮し、筆者が実施した。学校名がわからない よう考慮した上で、公平性を保つため、データ入力後及び分析後の確認を特定の学校関係者に依頼し実施した。 調査時期:201 X年 7 月~8月 調査対象:首都圏内 A 市公立小学校教諭全 9563 名(うち、校長・副校長・事務職・技術員を除いた 7743 名 への悉皆調査)回答に欠損がなく調査に反映された人数:5654 名(全体の約 73.0%) 内 訳:1 年生担任 866 名(全体の約 86.9%・学年補助教諭 16 名を含む)、2年生担任 821 名(全体の約 85.4%) 、3 年生担任 802 名(全体の約 82.1%)、4 年生担任 814 名(全体の約 83.4%)、5年生担任 793 名(全体の約 80.8%) 、6 年生担任 815 名(全体の約 80.2%・学年補助教諭 13 名含む) 、個別級 担任(表中 7 年)567 名(全体の約 68.1%)、その他(専門科目担当者等-分析時は回答の中で関わっ ていると明記している対象学年に加算)186 名(全体の約 54.4%) 調査手続:首都圏内 A 市立全公立小学校 342 校を対象とし、郵送法にて実施した。 342 校のうち 258 校から回答を得た。回収率は 75.4%であった。 3.結果 (1)担任教諭に対する学級児童の仲間関係に関する質問紙調査結果 1)小学生における仲間関係を推察する教師用尺度(以下教師用尺度)の作成 学級児童の仲間関係に関する実態を調査するため、松田(1993)及び Witzlack.G.(1972)の就学能力テスト 及び立元ら(2007)の尺度を元に項目を収集した上で原案を作成し、現職小学校教諭と協議の上で目的に即した 項目を抽出し、質問紙を作成した。その結果、32 項目が精選された。各項目については表現を修正し、各項目 の差異が明確になるよう整理した。これらの予備項目に対し、小学校教諭 6 名によって項目の内容的妥当性が確 認された。なお、全員が納得するまで練り上げ作成したため、一致率は 1.0 であった。 ─ 30 ─ 小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想 2)教師用尺度の因子および各下位項目の抽出 小学生における仲間関係尺度 32 項目の平均値及び標準偏差を算出した。そして、平均値+標準偏差が取り得 る最高値以上となる天井効果の見られる 4 項目があり、得点分布が高い方に歪んでいたため、尺度項目の適性を 図るため、該当 4 項目を以降の分析から除外した。次に、残りの 28 項目に対して主因子法による分析を行った。 各因子毎に示される固有値(8.784、3.768、2.841、2.674、1.318、…)の変化と因子の解釈可能性を考慮すると、 4 因子構造が妥当であると考えられたため、4 因子を仮定して主因子法・Promax 回転による因子分析を行った。 その結果、十分な因子負荷量を示さなかった 4 項目を分析から除外し、残りの 24 項目に対して再度主因子法・ Promax 回転による因子分析を行った。Promax 回転後の最終的な因子パターンと因子間相関を表 1 に示す。なお、 回転前の 4 因子で 24 項目の全分散を説明する割合は 58.33%であった。 第一因子は7項目で構成されており、 「㉒粘り強く物事に取り組む」など自分の内面にかかわる内容の項目が 強い負荷量を示していたため、 「自分づくり」と命名した。第二因子は 6 項目で構成されており、 「⑱自分から 仲間に話しかける」など、自分を表現する内容の項目が強い負荷量を示していたため、 「自己表現」と命名した。 第三因子は同じく 6 項目で構成されており、「③仲間が何かを成し遂げた時は一緒に喜ぶ」など、仲間を思いや る内容の項目が強い負荷量を示していたため、 「共感・配慮」と命名した。第四因子は 4 項目で構成されており、 「㉑ 男女の別なく話したり遊んだりすることができる」など、仲間とのかかわりを表す内容の項目が強い負荷量を示 していたため、 「仲間づくり」と命名した。 抽出された四因子「自分づくり」、 「自己表現」 、 「共感・配慮」 、 「仲間づくり」の因子下位項目は表 1 に示し たとおりである。 すなわち、「自分づくり」下位項目は、㉒粘り強く物事に取り組む、⑭当番活動等自分の仕事を進んで行う、 ①教室の備品をきちんと片付ける、⑧積極的に先生の手伝いをする、②必要な時に待つ、㉕注意されたとき自分 の行動を振り返る⑥自分の失敗を認めることができる、の7項目である。 「自己表現」下位項目は、⑱自分から仲間に話しかける、④ゲームでの負けを認める、⑬仲間とトラブルが生 じたとき自分の気持ちを調整する、㉖仲間からの理不尽な要求をきっぱりとい断る、⑩必要な時にはっきりとし た声で発言する、⑮時々意地悪をする、の6項目である。 「共感・配慮」下位項目は、③仲間が何かを成し遂げた時は一緒に喜ぶ、⑤仲間が失敗しても許すことができ る、⑰相手の立場に立って考える、㉗誰にでも優しい言葉をかけている、㉔仲間の目を見て話したり聞いたりす る、⑭仲間の話を最後まで聴くことができる、の6項目である。 「仲間づくり」下位項目は、㉑男女の別なく話したり遊んだりする、⑦仲間と遊具や教具を分かち合って使う、 ㉙仲間と利害が対立したときに譲る、⑪不当な扱いを受けている仲間を庇ったり守ったりする、⑫不適切な行動 をしている仲間を止めたり諌めたりする、の5項目である(表 1)。 表 1 教師用尺度の因子分析結果(Promax 回転後の因子パターン) 項 目 Ⅰ .684 ㉒粘り強く物事に取り組む .640 ⑭当番活動など、自分の仕事を進んで行う .639 ①教室の備品などをきちんと片づける .634 ⑧積極的に先生の手伝いをする .602 ②必要な時に待つ .535 ㉕注意されたとき自分の行動を振り返る ⑥自分の失敗を認めることができる ④ゲームでの負けを認める ─ 31 ─ Ⅲ - .152 .058 - .063 .075 .032 .090 - .026 .202 .495 - .171 .032 .754 .094 ⑱自分から仲間に話しかける Ⅱ - .103 .876 Ⅳ .048 .027 - .099 - .013 - .047 .115 .030 .049 .102 .166 .118 - .159 .006 - .048 .032 佐野 泉 ⑬仲間とトラブルが生じたとき自分の気持ちを調整する ㉖仲間からの理不尽な要求をきっぱりと断る .046 .726 - .014 .645 .007 .605 .103 ⑩必要な時にはっきりとした声で発言する ⑮時々意地悪をする ③仲間が何かを成し遂げた時は一緒に喜ぶ ⑰相手の立場に立って考える ㉔仲間の目を見て話したり聞いたりする ⑦仲間と遊具や教具を分かち合って使う ㉙仲間と利害が対立したときに譲る ⑪不当な扱いを受けている仲間を庇ったり守ったりする ⑫不適切な行動をしている仲間を止めたり諌めたりする - .017 .016 .131 .763 - .093 .006 - .064 .649 - .010 .023 - .043 - .056 .201 .830 - .127 - .026 .184 ㉑男女の別なく話したり遊んだりする - .037 - .011 .040 ⑭仲間の話を最後まで聴くことができる .016 .086 .003 ㉗誰にでも優しい言葉をかけている .090 - .116 .006 ⑤仲間が失敗しても許すことができる .620 - .057 .771 .703 .571 .262 - .012 - .027 .062 .029 .666 - .181 - .123 .130 .647 .081 .086 - .050 .548 - .104 - .093 .131 .171 .037 .049 .630 .486 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ― .433 .513 .600 Ⅱ ― .526 .558 Ⅲ ― .549 Ⅳ ― 3)教師用尺度の各因子相関 まず抽出された4因子において、各学年を要因とする 1 要因分散分析を行った(表2)。 表2 4因子における1要因分散分析表 **p<.01 その結果、 「自分づくり」(F(6,5654)= 39.56, p<.01)、 「自己表現」(F(6,5654)= 45.86, p<.01)、 「共感・配慮」(F (6,5654)=2.96, p<.01)、「仲間づくり」(F(6,5654)=2.96, p<.01)は、「自分づくり」を除く3因子において1%水 準で有意な主効果が得られた。その後 Tukey(HSD 法 ) による多重比較(5%水準)を行った結果、表 2 のようになった。 そこで、すべての因子下位項目において学年ごとに有意な差があるかを検討するために、1 要因分散分析を行った。 その結果、 「自分づくり」下位項目7項目のうち㉒粘り強く物事に取り組む、㉕注意されたとき自分の行動を振り返る、 について 6 年生の得点が他の全学年よりも有意に高いという特徴はあったが、1年生から5年生までは有意差は認 められないものの、学年を追うごとに得点が高くなっていることが明らかとなった。また、その他の6項目も学年 を追うごとに得点が高くなっていることから、発達に即した得点差と考えられたため、今後の検討材料から除外し、 「自己表現」、 「共感・配慮」、 「仲間づくり」下位項目について検討することとした(表3~5)。なお、7 学年(個別級) は、他の学年に比べて平均値は低いが、1年生から 6 年生までの混合による学級編成であり、学校によって在籍児 童の学年が異なるため、「自分づくり」因子の発達段階による得点の推移を検討する材料から除外した。 ─ 32 ─ 小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想 4)第二因子「自己表現」下位項目の分析 「自己表現」下位 6 項目について各学年を要因とする 1 要因分散分析を行った結果、⑩必要な時にはっきりと した声で発言する(F(6,5654)=170.91,p<.01 表中⑩)、⑬仲間とトラブルが生じたとき、自分の気持ちを調整する」 (F(6,5654)=542.02,p<.01 表中⑬) 、⑱自分から仲間に話しかける」(F(6,5654)=18.58,p<.01 表中⑱)の 3 項目に おいて1%水準で有意な主効果が得られた(表3)。 表3 「自己表現」下位項目における1要因分散分析表 **p<.01 Tukey(HSD) 法による多重比較(5%水準)を行った結果、表 3 のようになった。「⑬仲間とトラブルが生じた時、 自分の気持ちを調整する」については学年が上がるにつれて得点が高くなっていることから、発達に即した成長 であると推察されたため、プログラム作成時の検討課題から除外した。「⑩必要な時にはっきりとした声で発言 する」は、3年生の得点が最も高く、続いて2年生と6年生の得点が高い。1年生と5年生がほぼ同数で低い得 点となっている。これは、調査年の学年構成員における発達上の傾向であるのか、学年特有のものであるのかに ついてのさらなる検討が必要であるが、今回の調査においては、特に得点の低い1年生と5年生に対し、それぞ れの学年の発達に即した支援が必要であると捉え、プログラム構成全体像作成時の参考資料とすることとした。 「自分から仲間に話しかける」は、 全体的に平均値が低いが、中でも4年生の得点が他学年に比べて高い。一方、 1年生と5年生の得点が4年生に比べて有意に低いことについて検討の余地があり、支援の必要性があると考え られる。 以上から、 「自己表現」下位項目では、 特に1年生と5年生に対して「必要な時にはっきりとした声で発言する」 ことと、 「自分から仲間に話しかける」ことを考慮した支援が必要であると捉え、プログラム構成全体像作成時 の指標とした。 5)第三因子「共感・配慮」下位項目の分析 「 共 感・ 配 慮 」 下 位 項 目 6 項 目 に つ い て 1 要 因 分 散 分 析 を 行 っ た 結 果、 ⑭ 仲 間 の 話 を 最 後 ま で 聴 く (F(6,5654)=34.22,p<.01 表中⑭) 、③仲間が何かを成し遂げたときは一緒に喜ぶ(F(6,5654)=62.87, p<.01 表中③)、 ㉔仲間の目を見て話をしたり聞いたりする(F(6,5654)=192.96,p<.01 表中㉔)の3項目において1%水準で有意 な主効果が得られた(表4) 。 表4 「共感・配置」下位項目における1要因分散分析表 **p<.01 Tukey(HSD) 法による多重比較(5%)を行った結果、表3のようになった。具体的には、 「仲間が何かを成 し遂げたときは一緒に喜ぶ」は、低・中学年の得点が高く、高学年である5・6年生の得点が低い。この点につ ─ 33 ─ 佐野 泉 いて、発達上の特徴が影響しているかについて検討し、適切な支援が必要であると考えられる。次に「仲間の目 を見て話したり聴いたりする」 については、 1~3年生の得点が低い。平均値を比較すると、1年生で低い得点が、 2年生で上昇し、3年生で低下していることがわかる。その後4年生からは学年を追うごとに平均値は上昇して いるが、 「仲間の目を見て話したり聴いたりする」ことは、コミュニケーションをとる上で重要な行為であると されるアイコンタクトをとることができるかどうかに関わる(岡田ら 2009)ため、プログラム作成時の指標と して検討する。 「仲間の話を最後まで聴く」については全学年において得点が低く、学年ごとの有意差は認めら れなかったが、中でも平均値が最も高いのは 1 年生であり、最も低いのが 6 年生であることについては十分考慮 すべきことであると考える。 以上から、 高学年においては「仲間が何かを成し遂げたときは一緒に喜ぶ」ことが、1~3年生においては「仲 間の目を見て話したり聴いたりする」ことが支援を要することであり、 「仲間の話を最後まで聴く」については 全学年においてそれぞれの学年ごとに具体的な傾向を把握し、適切な指導支援について検討した上でプログラム 構成全体像作成時の指標とする。 6)第四因子「仲間づくり」下位項目の分析 続いて、「仲間づくり」下位項目5項目について 1 要因分散分析を行った結果、⑪不当な扱いを受けている仲 間を庇ったり守ったりする(F(6,5654)=23.23,p<.01 表中⑪) 、⑫不適切な行動をしている仲間を止めたり諌めた りする(F(6,5654)=69.74,p<.01 表中⑫)において1%水準で有意な主効果が得られた(表5)。 表 5 「共感・配置」下位項目における1要因分散分析表 **p<.01 Tukey(HSD) 法による多重比較(5%)を行った結果、表4のようになり、5%水準で有意な主効果が得られ た。いずれも全学年において平均得点が低いのが特徴であるが、取り分け5・6年生と7年生の得点が低い。こ のことから、検討した 2 つの下位項目は、全学年において支援が必要であるが、特に高学年において厚い支援が 必要な課題であると言えよう。 (2)調査結果から導出された児童に必要な指導支援 以上をまとめると、具体的に次の 5 点において指導支援が必要であると推察された。 ①全体的に1年生の得点が低いこと ②低学年及び高学年においては、 「必要な時にはっきりとした声で発言する」ことの得点が低いこと、 ③低学年及び中学年においては、 「仲間の目を見て話をしたり聴いたりする」ことの得点が低いこと、 ④全学年を通して「仲間の話を最後まで聴く」こと、「不当な扱いを受けている仲間を庇ったり守ったりする」、 及び「不適切な行動をしている仲間を止めたり諌めたりする」ことの得点が低いこと、 ⑤5年生において「自分から仲間に話しかける」ことの得点が低いこと 今回の調査では、各学年とも学級開き時における児童の様子を学級担任及びその学年に関わる教諭に尋ねた。 学年ごとに顕著な違いが現れたとは言い難いが、低・中・高学年のくくりで検討すると、それぞれの特徴が見られ、 注目した三因子は仲間関係形成に直結するものであり、そこに学級開き時の緊張につながる要因が散見している ─ 34 ─ 小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想 ことが示唆された。学級開きの段階では、児童一人一人への指導支援、及び集団としての傾向を把握し、支援の 方向性を定めていくことが大切であると考えられる。従って特にこの時期には、児童同士の関係において新しい 環境での緊張が予想されるため、緊張を緩和させ学級風土を和ませる手立てが必要であることが明らかとなった ことから、学校での生活や学習の中に、児童の発達段階や仲間関係を考慮した、個人や集団の緊張緩和を主な目 的とするアイスブレイキングを導入することは有効な手立てであろうと考えられる。 そこで、導出された課題と自助資源は、学級を支持的風土に導くために活用するアイスブレイキング作成の 際の検討材料とした。 4.アイスブレイキング活用による学級集団育成プログラム構成全体像の作成 ここでは、質問紙調査結果を踏まえ、低・中・高学年のくくりでプログラム作成に向けた構成全体像を示す こととする。本研究では、対象を小学校1年生から6年生までとしていることから、本調査と合わせて低・中・ 高学年の発達課題を考慮し、学校生活へのアイスブレイキング導入に向けて検討する。犬塚(2000)は、アイス ブレイキングの実施効果に①リラクゼーション効果、②グループワークのウォーミングアップ、③コミュニケー ションの潤滑油、④“緊張は関係を分かつ、弛緩は関係を繋げる”(中川米蔵)、⑤ユーモア療法的効果(精神神 経免疫学の知見から)を挙げている。このこともプログラム作成に向けた検討材料として考慮する。 低学年については、個人によって知識量及び五感に代表される身体的発達の差が大きいと想定されることか ら、犬塚(2000)が示すアイスブレイキングの実態形態のうち②及び③(上述)に重点を置き、実施することが 有効であると考えられる。また、幼児教育において既習のゲームや、じゃんけん・握手といった身体表現を取り 入れていくことで更なる効果が期待できると考えられる。 中学年においては、子どもの精神発達上、親と子・教師と児童という上下関係(縦の関係)よりもむしろ仲 間関係という水平関係(横の関係)の方が重視され、仲間との不一致や仲間からの評価に敏感になる時期であり、 仲間関係に対する重要性の認識が芽生える(村上ら 2009)ことから、仲間との関わりをより深めるためのプロ グラムの開発を試みる。さらに、学習面においては知的好奇心が旺盛になり、自主的・積極的に課題に取り組む 児童が現れてくる最初の時期であること(Gesell,A. 1946 須郷ら訳 1967、吉田ら 1990)を考慮し、犬塚(2000) が示す①~⑤の中の①と②(早口言葉など)及び④の初歩的な内容を重点的に取り入れる。 高学年になると、大人の権威から離れて自分の行動原理が持てるようになり、生活行動も自主的判断に基づ いて行うようになるとされ(吉田ら 1990) 、それまでの依存的な態度は減少して自律的な態度が見られるように なる(村上ら 2009)ことから、犬塚(2000)が示す①及び④を重視する。全体を通して「話す(自己開示)」、 「聴 く(傾聴) 」のプログラムを取り入れ、仲間関係促進のためのスキル形成を試みる。この段階では、自我意識が 芽生えることにより、児童は自分を体力・体格・学力などいろいろな面から考えるようになり、周囲を意識し始 めることから、他者からの視線や他者と自分との相違などを気にするようになることを考慮する必要がある。 学童期は、自分自身を客観的に観察する能力が発達し、同時に自分に対する他者からの評価を意識するよう になってくる時期である(大場ら 1992)と言われていることから、この時期に課せられている発達課題として 考えられるのは、大きく捉えて「学ぶ」ということの基本的な態度を身に付けること、社会性を身に付けること の二点である。特に社会性の発達に注目すると、その中で同学年の同一化は、仲間関係を通して獲得されるもの である。児童は仲間関係を通してルールを守ること、情緒をコントロールすることを学び、自我意識も形成され、 自己についての正しい評価ができるようになってくる。この時期に課題の達成が不十分のままであると、その後 において他者との良好な関係を構築しにくく、対人関係において不適応に陥りやすい(大場ら 1992)とも言わ れている。 また Shure,B.B,&Spivack,G.(1972)は、児童における社会的問題解決について研究し、適応的な子どもは、 問題を解決する際、配慮や計画性豊かな手の込んだ方略、起こりうる障がいの予期、時間への配慮について、不 ─ 35 ─ 佐野 泉 適応な子どもに比べてより思考していることを明らかにした。これらの結果から、より良い適応は、手段-目的 -思考における認知能力と関連していると言える。つまり、豊かで選択性に富んだ問題解決方略は、他者とうま く適応する有用な役割となることが考えられるため、特に仲間関係構築に困難を来す児童にとっては、この時期 にアイスブレイキングを導入し、楽しみながら仲間関係形成を促進させることを支援することは重要であると考 えられる。 児童の発達課題として調査結果に示された 5 つの課題を踏まえ、低・中・高学年の発達とプログラム構成の 全体像を表6にまとめた(表6) 。 表6 低・中・高学年児童の発達とプログラム構成の全体像 学年 低学年 中学年 高学年 仲間関係に関する 発達の特徴 調査結果に示された課題 2 〜 3 人の親しい 仲間 自己中心性の名残 ・必要な時にはっきりとした声で発言する ・仲間の目を見て話をしたり聴いたりする ・仲間の話を最後まで聴く ・不 当な扱いをしている仲間を庇ったり 守ったりする ・不 適切な行動をしている仲間を止めたり 諌めたりする 4 〜 5 人の仲間集 団 仲間関係重視 知的好奇心の萌芽 ・仲間の目を見て話をしたり聴いたりする ・仲間の話を最後まで聴く ・不 当な扱いをしている仲間を庇ったり 守ったりする ・不 適切な行動をしている仲間を止めたり 諌めたりする 自立的態度の萌芽 仲間と自分との比 較 学びの深化 ・自分から仲間に話しかける ・必要な時にはっきりとした声で発言する ・仲間が何かを成し遂げた時には一緒に喜ぶ ・仲間の話を最後まで聴く ・不 当な扱いを受けている仲間を庇ったり 守ったりする ・不 適切な行動をしている仲間を止めたり 諌めたりする 仲間関係促進に有効と考えられ るプログラム構成 *互いに存在を知り合う ・朝の会のあいさつリレー ・簡 単な話し合い活動(お話の キャッチボール)につなげる ための、ゲーム感覚のアイス ブレイキング ・簡単な話し合い活動 *相手との相性を知り合う ・朝の会のあいさつリレー ・自己紹介の工夫 ・話 し合い活動へつなげるため の、クイズ形式のアイスブレ イキング ・話し合い活動 *互いに内面を知り合う ・朝の会のあいさつリレー ・自己紹介の工夫 ・ゲ ームを通して一人一人の良 さを認め合えるようなアイス ブレイキング ・話し合い活動の重視 5.考察 本研究では、まず、小学校1年生から6年生までの仲間関係に関する課題の存在及び所在を明らかにするこ とを目的とし、関東圏内 A 市立小学校教諭に対する悉皆による質問紙調査を行い、データを分析した。その結果、 どの学年にも学級開き当初には仲間関係に対する過度な緊張があること、またそこに緩和すべき課題があること を示唆することができた。その内容は、 職業的 (進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・ 態度として、文部科学省(2011)が示すものに相応する傾向にあることが明らかとなった。文部科学省で提示し ている育成することが期待される具体的な能力態度と本研究成果との関連について検討した結果を表7に示す (表 7) 。 ─ 36 ─ 小学生の仲間関係に見る課題を踏まえたキャリア教育の構想 領域説明 能力説明 文科省が示す、育成が期待され る能力・態度 本研究で明らかとなった課 題 ・自分の好きなことや嫌なこと をはっきり言う ・友達と仲良く遊び、助け合う ・お世話になった人などに感謝 し親切にする ・必 要な時にはっきりとした 声で発言する ・仲間の目を見て話をしたり 聴いたりする ・仲間の話を最後まで聴く ・不当な扱いを受けている仲 間を庇ったり守ったりする ・不適切な行動をしている仲 間を止めたり諌めたりする ・あいさつや返事をする ・ 「ありがとう」や「ごめんなさ い」を言う ・自分の考えをみんなの前で話す 中 人間関係形成能力 他者の個性 を尊重し、 自己を発揮 しながら、 様々な人々 とコミュニ ケーション を図り、協 力・共同し てものごと に取り組む 低 【自他の理解能力】 自己理解を深め、 他者の多様な個性 を理解し、互いに 認め合うことを大 切にして行動して いく能力 学年 域 領 表 7 職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度と本研究で明らかになった 低・中・高学年の人間関係における課題との関係 ・自分のよいところを見つける ・友達の良いところを認め、励 まし合う ・自分の生活を支えている人に 感謝する ・自分の意見や気持ちを分かり やすく表現する ・友達の気持ちや考えを理解し ようとする ・友達と協力して、学習や活動 に取り組む 高 【コミュニケー ション能力】 多様な集団・組織 の中や豊かな人 間関係を築きなが ら、自己の成長を 果たしていく能力 ・自分の長所や欠点に気付き、 自分らしさを発揮する ・話し合いなどに積極的に参加 し、自分と異なる意見も理解 しようとする ・思いやりの気持ちを持ち、相 手の立場に立って考え行動し ようとする ・異年齢集団の活動に進んで参 加し、役割と責任を果たそう とする ・仲間の目を見て話をしたり 聞いたりする ・仲間の話を最後まで聴く ・不当な扱いを受けている仲 間を庇ったり守ったりする ・不適切な行動をしている仲 間を止めたり諌めたりする ・必 要な時にはっきりとした 声で発言する ・仲 間が何かを成し遂げた 時は一緒に喜ぶ ・仲間の話を最後まで聴く ・不当な扱いを受けている仲 間を庇ったり守ったりする ・不適切な行動をしている仲 間を止めたり諌めたりする これは、学級づくりにおいて支持的風土を醸成していく上で重要課題である学級構成員同士の融和的関係を 構築するために参考資料とし、活用できるものであると考える。さらに、小学校教育において、キャリア教育で 育成を求められる能力のうち、人間関係形成に関わる「基礎的 ・ 汎用的能力」の中の「人間関係形成 ・ 社会形成 能力」に深く関わる仲間関係を改善・緩和することが可能になると考える。 続いて、本研究の第二目的である、児童の実態に基づき、各学年の発達課題も考慮したアイスブレイキング プログラム作成に向けた全体像を示したことについて考察する。 アイスブレイキングは、集団の緊張を緩和し、学習への参加準備を促す役割を果たす(渡部 2008)ことから、 ─ 37 ─ 佐野 泉 プログラム作成時には全ての児童活動導入部分に位置づけていく。アイスブレイキングも大きく分けて 2 種類を 設定する予定である。一つ目は緊張を緩和するために声を出し身体を動かすことで元気が出ることを意図した内 容として、例えばゲームを取り入れたりすることであり、二つ目は、緊張は緩和させるが、気持ちを落ち着かせ ることを意図した内容として、声を出さないで活動できるものである。これら二つの方法は、次の学習活動との 組み合わせによって設定するよう工夫する必要がある。これは、学級内に少なくとも一人以上相互選択し認め合 える仲間がいることにより、学校または学級に適応していくことができる(Barndt,T.J.,1989)とされているこ とを拠り所としている。 具体例として 1 年生を例に上げれば、本研究で明らかとなった課題を緩和するために、朝の会において「挨拶」 の進め方を学級の実態に合わせて段階を追った活動例を提示する。 これは、アイスブレイクの指標としては前者に当たる。すなわち、①先生の目を見て挨拶 ②友達の目を見 て挨拶 ③友達の目を見てにっこりしながら挨拶 ④友達の目を見てにっこりしながら元気に挨拶 というよ うに、である。この場合、1年生の朝の会において解決を試みる児童の課題は、質問紙調査で明らかになった課 題の一つである「仲間の目を見て話をしたり聴いたりする」である。さらに付随して学級構成員である仲間の存 在を知ることも課題の一つとしている。これは、幼小移行期における仲間関係の課題を取り上げた野呂(2008) の指摘を踏襲するものである。 このように活用していくことで、本研究にて明らかになった各学年の学級開き時における児童の仲間関係の 課題は緩和または解決に向かうことができると考える。また、課題解決に向けたプログラム構成の全体像は、実 際に各学校で児童の実態に合わせたプログラムを作成する際の指針として役立つものと考えている。 6.今後の課題と展望 本研究では、学級開き時の児童における仲間関係に関する課題を明らかにし、それらを緩和または解消する ためのプログラム構成全体像を示したが、今後は、実際にこれらを念頭に置いた具体的なプログラムを作成し、 学校現場において実践検証していくことが求められる。また、子どもの実態は各年度により違いが生じることが 予想されるため、その点においても配慮を要する。 さらに、質問紙の項目についても、児童のキャリア発達の現状を把握するために、これまで拠り所としてい たものから、2011 年に文部科学省で示している「職業観・勤労観をはぐくむ学習プログラムの枠組み(例)」(文 部科学省)などを参照しながら検討していく必要性があると考える。その上で、文部科学省で求めている人間関 係形成能力には、様々な人々とのコミュニケーションを円滑にすることが挙げられていることから、今回のよう に対象を仲間関係に絞るのではなく、お世話になっている人など、他者との幅広いかかわりにも注目する必要が あると考えている。 今回は首都圏内 A 市を対象としたが、地域性も考慮する必要があると考えられることから、今後対象範囲を 広げ、定期的に調査する必要性も考えられる。さらに、本研究では被験者を学級担任としたが、児童の実態をよ り正確に把握するためには、児童本人への調査も必要である。このような残された課題を払拭し、更なる研究の 深化を図っていきたいと考えている。 【参考・引用文献】 Barndt,T.J.,&Ladd,G.W. 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