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【地方自治体】 【目次】
【地方自治体】 【目次】 1 バンクスタウン市(2013 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・1 (Bankstown City Council) 2 パラマッタ市(2013 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 (Fairfield City Council) 3 ハーストビル市(2012 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 (Hurstville City Council) 4 フェアフィールド市(2012 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・9 (Fairfield City Council) 5 ウィロビー市(2011 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 (Willoughby City Council) 6 アッシュフィールド市(2010 年度)・・・・・・・・・・・・・・・13 (Ashfiled Council) 7 アッシュフィールド市(2008 年度)・・・・・・・・・・・・・・・16 (Ashfield Municipal Council) 8 マリックビル市(2009 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 (Marrickville Council) 9 フェアフィールド市(2007 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・20 (Fairfield City Council) 10 ホルロイド市(2006 年度)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (Holroyd City Council) 0 バンクスタウン市 Bankstown City Council 【訪問日】 2013 年 11 月 28 日(木) 【対応者】 Turkan Aksoy, Community Development Officer Jan Debenahm, Technical Specialist, Multicultural Access to Library Services Matt Jessop, Sister City Coordinator Mille Muskovich (from Centre Link) 1.バンクスタウン市の概要 バンクスタウン市は、シドニー大都市圏に属し、シドニーから南西約 20km に位置する地方自治 体である。人口は 182,352 人(2011 センサス/2011 年8月現在)、市域は約 77k ㎡。 1989 年に大阪府吹田市と友好交流都市提携を結んでいる。 英語を母語としない文化的背景をもつ住民が多いことでも知られ、レバノン・ベトナム・中国等の コミュニティが現在も拡大してい る。そのため、アラビア語・ベト ナム語・中国語話者が多く、母 国語と英語のバイリンガルが増 加している一方で、英語があま りできない住民も1割強存在す る。 世帯収入は NSW 州や国全 体と比較しても低水準で、失業 出典:Google Map 率が高い地域である。 2.バンクスタウン市の多文化事業 (1)就職のための支援 バンクスタウンでは、特に 16~24 歳の若者の失業率が 18%と高く、この数字はさらに悪化し ている。市はこの問題を重視し、政府と協力しながら対策に取り組んでいる。 具体策として、就職のためのワークショップが挙げられる。さまざまな文化的背景を持ってい る参加者のために、握手の正式なやり方から始め、それによって相手にどのような印象を与え られるのか、いわばオーストラリアのビジネス文化そのものを教えるのである。さらに、携帯アプ リで履歴書の書き方を学んだり、面接の専門用語を勉強できたりするようにしている。 しかし、就職がなかなか見つからないと、若者の労働意欲も減退し、カウンセリングにもやっ て来ない。そのため、若者を担当するユースワーカーが街に出て問題のありそうな若者に話し かけ、必要な支援をとっていく。 1 (2)図書館における多文化サービス 図書館で提供される、アラビア語・ベトナム語・中国語をはじめとした多言語の書籍、CD、DV D、新聞、オンラインプログラムといったメディアは、母国語で楽しみたいという欲求を叶えるだ けではなく、英語を学ぶためのツールでもある。英語だけでなく母語も奨励され、バイリンガル の本を制作したり、親や祖父母が子どもたちに読み聞かせをしたりといった活動が行われてい る。 その他にも、無料の英会話レッスン、3言語でのパソコン教室も行われている。英会話レッスン では、職員だけでなくボランティアも動員し、リスニング、スピーキングをインフォーマルな形態 で行い、オーストラリアで実際に使われている英語に対応できるよう訓練する。 これらのサービスは、地元紙の広告、ポスター、ちらし、ラジオといった手段で広報され、ライブ ラリー・ツアーや口コミでも周知され る。 また、図書館はコミュニティを超え た関係づくりにも注力している。編 み物やカリグラフィの教室で移民と そうでない住民の交流を深め、新 旧のコミュニティが互いの文化を尊 重し祝福するイベントを行っている。 図書館はさまざまなエスニックグル ープと関係を保ち、彼らのニーズを バイリンガル(英語・アラビア語)の本 汲み取ることに努めている。 (3)事業にあたる上での考え方 異なる文化的背景を持つひとりひとりが社会に参加し、自らが尊重されていると感じること、彼ら の物語に耳を傾け、home にいるという感覚を持ってもらうことが重要である。それを怠ると、抵抗感 が生まれ、犯罪の増加や失業率の上昇をはじめとした国のデメリットに繋がることになる。 そのためには、ポジティブなロールモデルを提示し、しっかりとした決意と資金をもって、誠意を 示さなければならない。 (4)今後の課題 オーストラリアでも高齢者人口が増えている。 英語を母語とせず、勉強して身につけた移民は、年齢を重ねると英語能力が下がり、母国語で 話し始めるため、ニーズを満たす老人保健施設が限られる。施設に入れることに抵抗感がある移 民も多いが、家庭でも面倒を見きれず、家庭内のもめごとや DV 等につながることが危惧されてい る。 3.連邦政府の就職支援事業(バンクスタウンを担当する Centrelink 職員による説明) 職員による説明) オーストラリア連邦政府厚生省(The Department of Human Services)に属する Centrelink は、 2 退職者・失業者・障害者・先住民・異文化背景をもつ人々への金銭的手当(「income support(所 得手当)」と呼ばれる)や年金、メディケア等を担当している機関である。全国に 470 箇所の Centrelink と 26 箇所のスマートセンター(コールセンターを含む)でサービスを提供している。 厚生省全体で 35,000 人の職員を有し、利用者は 2,000 万人となっている。利用者のうち 90.1% は異文化の背景を持っているため、約 200 言語に対応できる体制を整えている。 ベトナム語、アラビア語、広東語、北京語、トルコ語、韓国語、ダーリ語などが、使用頻度が高い 言語である。地域ごとに言語の使用頻度が異なるため、状況を見て重点的に配備する言語を決 定する。 多言語に対応しなければならないため、名簿登録している約 2,800 人の通訳・翻訳者と随時契 約して対応するほか、バイリンガルの職員を多く配備している。出版物も 50 か国語で出版しており、 当該翻訳者を活用している。 これらのサービスは税金が財源となっており、日本の社会保険制度とは異なる。手当受給の判 定は非常に複雑であるが、いずれの手当においても①オーストラリアの永住権、②所得、③資産 が必須確認項目となっている。 こうしたサービスは、技術系移民の場合、自分ではコントロールできない場合を除いて、入国後 2年間享受することができない。例えば、失業した場合であっても、失業手当を受給できないことと なる。 職を求める人は、まず Centrelink で就職までの準備がどの程度整っているかレベル1からレベ ル4にランク付けされる。それから「Job Service Australia(JSA)1」が紹介され、JSA に加入するプロ バイダーによって必要な支援が決められる。例えば、英語サービスや語学学校の紹介、資格取得 のアドバイス等が行われる。なお、プロバイダーは求職者により選択できるうえ、プロバイダーの評 価はインターネットで公開されている2。 プロバイダーには次の三種類の資金が連邦政府雇用省から支払われる。 1.サービス代 団体が求職者にサービスを提供し始めた時から 13 週間ごとに支払われる。 2.就職手数料 求職者が就職した時点で支払われる。 3.成果報酬 求職者が就職し、雇用期間が 13 週間目及び 26 週間目を迎えた時点で支払われる。 (文責: (公財)広島平和文化センター 杉本 千明) 1 2 オーストラリア連邦政府雇用省(The Department of Employment)が行う求職者や雇用者のサポートシ ステム。2009 年7月にスタートし、求職者への援助だけでなく、雇用者のニーズに合ったスタッフを見 つけることも行う。連邦政府から資金提供されている団体(「プロバイダー」という)のネットワークに より行われる。なお、プロバイダーは入札により決定された非営利団体、民間団体などが加入している。 オーストラリア雇用省 HP http://jobsearch.gov.au/provider/ 3 パラマッタ市 Parramatta City Council 【訪問日】 2013 年 11 月 26 日(火) 【対応者】 Debbie Best, Manager Community Library & Social Services Megan Whittaker, Manager Social Outcomes David Moutou, Service Manager Community Capacity Building John Hugh, Councillor Shahadat Chowdhury, Councillor 1. 市の概要・特徴 パラマッタ市は NSW 州の西 23 キロに位置する人口約 16 万6千人の都市である。シドニー都市 圏の中で2番目に大きな CBD(中心業務地区:Central Business District)を持ち、オーストラリア国内では6番目の大きさを誇る。総 人口の 51.4%が海外生まれであり、国別では、①インド(総人口の 8.1%)、②中国(6.8%)、③レバノン(3.8%)の順となっている。 2. パラマッタ市の移民の特徴 パラマッタ市では、50.2%が英語以外の言語を話し、シドニー市の 32.5%を大きく上回っている。 移民の数は急速に拡大しており、市内移民の約 1/4 にあたる 28%が新たに入居してきた方であり、 そのほとんどが 20~30 代と若いのが特徴である。 今後は、移民の増加が続くと考えられ、移民2世の割合も増えている。約 140 の言語が話されて おり、アラビア語・北京語・広東語が使用されている3大言語である。統計を取った時点(2011 セン サス)と統計がまとめられた時点では、タイムラグがあり、状況は刻一刻と変わる。現場ではアフリ カ(サハラ砂漠以南)系の移民が増えている現状があり、当然コミュニティのニーズも変化している ため政策も変えなくてはならない。 パラマッタ市では、第2次世界大戦後に移民が多く入ってきたが、その理由としては、住居が安 いこと、コミュニティがオープンになっており、リソースも充実していることが考えられる。 (1)居住環境 インド・中国・レバノン出身者が多く、彼らは子どもと同居するなど世帯規模が大きく、一人 暮らし世帯が少ないのが特徴。賃貸の集合住宅で密集して暮らしている。また、若い世代が 多いため、大きな家を買えないことが多い。 (2)所得 若い世代が多く、新たな移民が増加してきていることもあり所得が低い。市全体の週給中央 値は 631 ドルであるのに対して、多様な文化的・言語的背景を持つ方々のコミュニティの週給 中央値は 463 ドルであり、所得格差が発生している。 4 (3)就労 「教育レベルは高いが収入は低い」という問題点がある。その理由として、母国で高い資格 を取得し入国したが、オーストラリアではその資格が認められないために、高い所得を得ること ができる職に就けないというものである。例えば、オーストラリアでは、健康・医療に関する資格 については、登録が必要であり、オーストラリアの大学を卒業しなければならない。母国の資 格が認められないため、希望の職につけず低所得に陥るという事例が発生している。 3. 移民に対する自治体の関わり 若い世代・新たな移民が生産的な一員となるために、 どこで・どの言語でサービスを提供するのかが重要である。 自治体では、図書、高齢者向けの配食など様々なサービ スを提供しているが、それぞれのコミュニティの需要にあ ったサービスの提供には、他部門との協調や補助制度が 必要である。 (1)概要(移民として来豪した市議会議員から説明) 新たに移民として入国したばかりの住民には様々なサービスが必要になる。コミュニティが 多様性のある市を重要とし、尊重するために、調和のとれた強いコミュニティづくりを目指して いる。パラマッタ市の中核的な目的の一つは、力強く活力のあるコミュニティを構築することで あり、コミュニティ内では市民同士が連携し社会活動に参加する姿を目指している。 具体的には、旧暦を祝う祭や南アジアの祭、レバノンやギリシャのイベントなど様々な文化的 なイベントを実行し、互いがそれぞれの文化を尊重することを推進している。 (2)市の施策 市の戦略的な目的は、力強く多様性に富み、活力のあるコミュニティを構築することである。 力強いコミュニティづくりに必要なことは、「互いを信頼すること」「人々及び提供されるサー ビスがつながっていること」「関ること」「エンパワーすること」「様々なリソースを創造的に活用す ること」「互いの違いを尊重すること」である。そうした目標を達成するために、コミュニティと密 接な関係を構築することが重要と考えており、Community Capacity Building Team(以下 「チーム」)という部署を創設している。 チームは顧客とする対象を3グループに分け、事業を推進している。 ①「The Local community sector」 …地域内の NPO、コミュニティのグループ、州政府機関など ②「Individual community members」 …地元に住む個々のコミュニティのメンバーで、各コミュニティのリーダー ③「Other units of Council」 …自治体内の他の部門 5 チームが効果的に事業を推進するためには、これら機関の関係性の構築、関係者間で知 識・能力を共有することが重要である。市は会議室などのスペースを貸与するほか、メンター 制度(1対1で教育する制度)を実施している。この制度では、自治体が一方的に実施するより 効果的であり、また、多様性のある組織ではより効果を発揮する。 (3)補助制度 チームが担当している補助制度として「Community Grants Project」がある。この地域に 移民の方が定着することを目指し、毎年 30 イベントに対して補助を実施。年間予算 43 万ドル。 カテゴリーごとに目的を定め補助を行っている。補助対象は、芸術・伝統・文化遺産・歴史調 査・社会的企業(social enterprise:社会貢献を目的とした会社)。具体的には、文化的イベ ントや、電話帳リスト作成、ホームレスの社会復帰、サッカーイベント(アフリカ系)、組織の改善 のための研修等。 この制度では、単に補助金を支出するだけでなく、申請書の書き方から事業前後のサポー トなど密接に関係を持ち相談にのっている。 (4)C (4)Cultural Competency ompetency(異文化適応力) オーストラリアの考え方として Cultural Competency というものがある。これは、市民の中で 移民の占める割合が大きい中で、自治体職員が様々な文化を理解・尊重する形で業務を遂 行できるための教育が必要であるというものである。自治体として、常に変化するコミュニティに 対応するサービスを提供するために常に学び、変化に対応したサービスを提供する必要があ る。 3. 図書館見学 蔵書はノンフィクション・フィクション・雑誌・幼児用の本等が 10 言語でそろえられ、PC コーナー や AV コーナー、セルフサービスの図書貸与機が設置してある。図書館ネットワークにより、他図 書館にある蔵書を取り寄せることができる。また、年配の方向けの PC 教室等をボランティアを講師 に迎え無料で実施している(訪問時には、55 歳以上の中国人向けの PC 教室を実施)。 図書館にある蔵書の言語は統計データ等から選択しているが、図書館ネットワークを利用して、 州立図書館から借りることもしている。予算的には比較的潤沢にある。購入する図書の選択は、 読書会等で欲しい本についてヒアリングを実施している。 (文責:名古屋市市長室国際交流課 市原諒一) 6 ハーストビル市 Hurstville City Council 【訪問日】 2012 年 11 月 21 日(水) 【対応者】 Victor G Lampe, General Manager David Linden, Manager of Community Services Jamal Bassam, Multicultural Development Officer 1. 市の概要・特徴 ハーストビル市はシドニー中央ビジネス区から南西 15km に位置し、22.8k ㎡の市域に 約 8 万 2 千人が居住している。約 41%の住民が海外生まれである。中国・香港・イギリ スからの移民が多い。そのため、街の中心部では中国語の看板を多数見かけた。 多文化施策としては、様々な民族のコミュニティの相談に応じ、それぞれの特徴や何 を必要としているか等について、理解を深めるよう努めている。また、2ヶ国語を話せ る職員が、英語を話すことができない住民に対し、通訳サービスを提供している。 なお、宮城県白石市と姉妹都市提携を行っている。 市の概要説明後、以下の3名からスピーチが行われた。 2. アネット・ウエブ氏(地元先 アネット・ウエブ氏(地元先住民/ 住民/タンゲト族出身) 両親が離婚後、福祉省の職員により施設に預けられ、そこで2年間暮らした。その後、 15 歳で自立し、16 歳でシドニーに引っ越して 20 歳で結婚した。夫が定年退職後に、自 分は大学で美術を勉強したいと思いたった。その後、TAFE で勉強し大学に入学し、美術 に関する資格を取得した。現在、孫は 3 人おり、自分の絵を売ったり、学校の児童と交 流イベントを行ったりしている。地元の先住民に敬意を表したい。 3. ヴィクター・ランピ氏( ヴィクター・ランピ氏(General 氏(General Manager) Manager) オーストリアの文化は日本文化と異なり、 非常に若く、300 年以内の歴史を語ること しかできない。私のルーツはドイツ、アイ ルランド、スコットランドであり、アネッ トは先住民である。 オーストラリアはイギリスの植民地であ ったが、その後、潜在能力を高め、オース トリアの人口を増やすために、移民国家へ 7 と舵を切った。こうした移民社会を成功させるためには、住民の方々により良いサービ スを提供する必要があり、誰でも将来の 21 世紀の担い手となってもらう必要がある。 新移民を歓迎し、手厚いサービスを提供している。また、外国人がオーストラリアに 帰化しても二重国籍が認められている。オーストラリアは広い土地を持ち、新移民を歓 迎し、オーストラリアは世界の発展に貢献できると考えている。 質問 若者にアボリジニの問題を学習させる際にどのように勉強するとよいかアドバイス してください。 回答 異文化に触れる際には自分の価値観から世界を見るとよく、その人たちの価値観に 歩み寄ることが大切である。 質問 各コミュニティからの、多様な意見の拾い方を教えてください。 回答 ハーストビル市には多文化を管轄する部署があり、ジャマールさんはそれを管轄し ている。例えば、移民の方が自分の家を新しく建てるときは、建築基準に合わせる 必要がある。そのような場合に、市の多様なスタッフが多言語サービスを提供し、 問題を解決するようにしている。 質問 多文化主義の点における地方政府としての課題は何ですか。 回答 オーストラリアの移民には波があり、現在は中東とインドからの移民が多い。その 時代の移民政策に沿った事業を展開していく必要がある。 4. サンマルキ氏 15 年前、両親は難民としてオーストラリアに来た。現在は NSW クリケット協会やコミ ュニティ協会に所属し、多文化主義に関する助言を行っている。美術・スポーツを中心と した多文化主義の取組みは大切である。できるだけ、移民に主流文化(クリケットだけで なく他のスポーツも)に参加してもらい、オーストラリアのアイデンティティを持っても らうことが必要である。 1945 年以来、オーストラリアの多文化主義は変遷している。その当時、70 万人であった 海外出身者数は現在、600 万人となり、33%がアジア人である。統計から、多文化主義の 変遷が分かる。NSW 州には多文化主義法があるが、法的基盤が多文化主義の第一の基盤で ある。そして、法律には社会の変化を反映させなければならず、新移民のルーツによって は今後の政策を変更する必要がある。 (文責:(公財)かながわ国際交流財団 野呂田純一) 8 フェアフィールド市 Fairfield City Council 【訪問日】 2012 年 11 月 23 日(金) 【対応者】 Amanda Bray, Manager, Policy and Community Development Janette Sauterel, Community Project Officer Multicultural, Policy and Community Development 1. 市の概要・特徴 NSW 州にある地方自治体の 1 つ。シドニー中央ビジネス地区から南西 32km に位置し、 104k ㎡の市域に約 19 万人・6 万世帯が居住している。 人口減少が続いていたが、2004 年を境に増加に転じた。その理由として、都市計画(高 層ビル建設)や Baby Blip(小さなベビーブーム)が挙げられる。 オーストラリアにおいて最も文化的に多様な市の 1 つであり、市民の約 51%は海外生ま れ(約 130 カ国から移住)、このうちの約 70%が家庭で英語以外の言語を使用している。 移民の主な母国は、ベトナム・イラク・カンボジア・イタリア・中国である。 NSW 州内で難民と移民家族の受け入れが最も多く、逆に技術能力を有する者の受け入れ が少ない。 市民の所得はシドニー平均よりも低く、公営住宅入居者の割合が高い。また、市民の約 25%は何らかの社会保障手当の給付を受けており、貧困層が多い。犯罪検挙率は平均以下 だが、覚せい剤の検挙数が上がってきている。その他、喫煙率が高い、スポーツ参加率が 低いといった特徴が見られる。 2. 多文化主義政策 オールドカマーとニューカマーでは生活上のニーズが異なり、特にニューカマーではコ ミュニティの形成が不十分な傾向があるため、コミュニティへの参画を促す等、重点的に サポートを行っている。 市とコミュニティとを結ぶ組織が 3 つあり、コミュニティの現状の理解・情報収集・課 題解決に役立っている。1 つ目は、Fairfield Migrant Interagency(FMI)であり、参加者の 情報交換・連携促進を目的とした、行政とコミュニティで形成される自主的ネットワーク である。153 のコミュニティが参加しており、有識者による講演も行われている。行政職員 もメンバーとなっているため、コミュニティの声を直接行政に伝えられるというメリット もある。2 つ目は、Fairfield Emerging Communities Action Partnership(FECAP)であり、 参加者の有する技術・知識等を活用して事業の運営を行うことを目的とした、行政とコミ ュニティで形成される自主的ネットワークである。3 つ目は、Fairfield Multicultural Advisory Committee(MAC)であり、市とコミュニティとの直接的な対話により懸案事項の 抽出を行い、それに関するコミュニティの意見を聴取することを目的とした、市の公式な 9 委員会である。14 人のメンバーのうち市議会議員が 5 人参加しているため、議会への議案 提出権が認められていることが特徴である。 [概念図(Formal Links to Council)] [講義の様子] MAC (Community Participation) FECAP FMI (Projects) (Information Share and Networking) その他、多言語を話せる職員の採用、やさしい英語(3 音節まで)による情報提供、市ホ ームページの多言語化等に取り組んでいる。 (文責:浜松市中区社会福祉課 澤木 翔) ウィロビー市 Willoughby City Council 【日 時】2011年11月24日(木) 1 ウィロビー市庁舎 【対応者】 Lyn Smith 氏(Community Development Manager) Rita Leung 氏(Ethnic Services Co-ordinator) Vivien Chung 氏(Ethnic Services Librarian) Emi Kubota 氏(Library Volunteer) (1)市の概要 シドニーの北に位置する住宅都市で、人口は70, 008人(平成22年6月30日現在)、面積は2 2.18平方キロメートルである。市民の46%が 生み外生まれであり、うち非英語圏の生まれが3 0%という、移民が集住する地域である。非英語圏 の市民の出身国は、中国、韓国、日本の順で多い。 中心街にはオフィスや大規模なショッピングモー ウィロビー市街の様子 10 ルがあり、在豪駐在員など、比較的に裕福な住民が多く居住する。2つの工業地帯を 持ち、学校や病院施設も充実している。東京都杉並区と1990年(平成2年)に友 好都市提携を締結している。 (2)市の施策 ウィロビー市の全てのサービスは、ウィロビー市 の中期総合計画をベースとして提供されている。ウ ィロビー市戦略は、市の将来に向けた長期的なビジ ョンや計画を示したもので、2010年から2025年まで を対象期間としている。市総合計画は、住民や関係 機関など、広範囲の方々との協議により策定された ものである。 ウィロビー市の市章 総合計画は、(1)コミュニティと文化の共生、 (2)自然環境、(3)住宅、(4)交通、(5)経済活動、(6)市民リーダーシ ップ、の6項目を柱として構成されている。 総合計画の1番目に、「コミュニティと文化の共生」が掲げられていることに、市 がいかに多文化共生施策を重視しているかが感じられた。 エスニックコミュニティ同士の友好な関係を構築するためのプロジェクトとして、 多文化のハーモニーイベントを開催しているとのことであった。そのイベントの中で、 各国のゲームを持ち寄って共に興じる「ゲームエキスポ」を実施しているとのこと。 ゲームであるから、参加者も気軽に参加できるとのことで、相互理解へのハードルを 下げるための工夫を見ることができた。 2 多文化ワンストップ支援及び情報センター (MOSAIC:Multicultural One Stop Assistance and Information Centre) 【対応者】 Rita Leung 氏(Ethnic Services Co-ordinator) Sun-Hae-Kim 氏(MOSAIC Centre Co-ordinator) Keiko Hubnik 氏(Ethnic Project Officer) 多文化ワンストップ支援及び情報センターは、ウィ ロビー市コミュニティサービス課により、市に居住す るエスニックコミュニティに対して様々なサービス を提供している。 具体的には、多言語による情報提供・紹介サービス、 高齢者の方のそれぞれの文化に対応した看護、エスニ MOSAIC 入口 11 ックグループの活動支援(歌、料理、ダンス、フラワーアレンジメント、エクササイズ、 グループ討論会など。日本のものとしては折り紙など)、英語教室の開催、異文化の相 互理解のためのワークショップ、税金相談、不動産相談などのサービスを提供している。 このセンターのサービスは、英語以外の言語を話すエスニックのボランティアの方々 による活動で支えられているとのことであった。 センターの中は、様々なエスニックグループの写真が貼られていて、様々な文化によ る飾りつけがなされていた。また、各種言語による印刷物が自由に持ち帰ることができ るようになっていた。印刷物は、高齢者サービス、児童サービス、健康、住居、家族手 当、年金、賃貸と幅広い内容で、生活するうえで重要な情報が母国語により入手できる。 エスニックグループの活動が様々な形で連日行われており、移住者の方々にとっては、 単にサービスの提供を受ける場所であるだけでなく、自分の居場所として精神的な支え にもなっている場所であると感じた。 3 チャッツウッド図書館 【対応者】 Michele Burton 氏(Library & Community Learning Manager) Vivien Chung 氏(Ethnic Services Librarian) ウィロビー市には7つの市立図書館があるが、そのうち、2011年9月19日にオ ープンしたばかりの新図書館である。 英語に加えて、12言語の書籍を利用することができる(ア ルメニア語、中国語、クロアチア語、フランス語、ドイツ語、 イタリア語、日本語、韓国語、ペルシャ語、ポーランド語、ス ペイン語、ベトナム語)。日本語書籍の寄贈も多いとのこと。 もし利用したい言語の本がない場合は、市図書館のスタッフか らNSW州図書館の本を取り寄せてもらえる。また、図書館に 設置された端末により、全世界の新聞にアクセスすることがで きる。図書館パンフレットも、英語以外の各言語で作成されて いる。 多文化主義を支援するため、カーニバルなどの独自の催しが 図書館の様子 毎年開催されている。そこでは、着物、生け花、お御輿などの 日本文化の展示も行われている。英会話クラスや、ESL(第2言語としての英語)クラ スが提供されており、英語のほかにも、新しい言語を学ぶためのプログラムがある。 その他、iPhone利用者のための図書館アプリケーションがあり、GPSによる図書館の 位置検索、図書検索、図書予約、貸出期間の更新、図書館ホームページの紹介などが可 能であるとのことであった。 (文責:佐賀県新エネルギー・産業振興課 主査 山口 誠) 12 アッシュフィールド市 Ashfiled Council 【日 時】2010 年 11 月 17 日(水) 【対 応 者】 Monica Wagman 氏(Vice mayor) Gerard Howard 氏(Manager Community Services) 1 市の概要 シドニー市内から西へ 9 キロに位置し,人口は約4万人で,市民の 43%が海外生まれ, 37%が英語以外を母語としている。具体的には,中国語,イタリア語,ヒンズー語,ア ラビア語,タガログ語,韓国語が多く使われている。 戦後の1945年から1975年までの間は, 連邦政府が英国のほかポーランド,クロアチア, ドイツ,ギリシアなどヨーロッパ諸国から多くの 移民を受け入れたことにより,市の人口が倍増し た。 1990年代になってからは,天安門事件で亡命 してきた中国人を中心に東アジア諸国からの移民 が急増し,2000年代に入ってからは,インドや バングラデッシュなど南アジア諸国からの移民が アッシュフィールド市内の様子 増えてきている。 2 市の施策(コミュニティ・ハーモニー・プロジェクト) (1)文化カーニバル,文化ツアーの開催 モニカ・ワグマン副市長 文化の多様性を祝うためのカーニバルを市内の ジェラード・ハワード マネージャー 公園で開催している。また,アンケート調査によ り,中国系商店の増加が買い物など日常生活の不 便を通じて、アングロサクソン系の高齢者の不安 感を増長させていることが明らかとなったことか ら,定期的に様々な移民コミュニティで構成され る商店街を散策する文化ツアーも実施している。 (2)多言語を話せる職員の配置と翻訳 市では複数の言語を話せる職員を採用しており,仕事で活用された場合は特別手当 を支払っている。また,市民や企業向けの通知など様々な書類を多言語に翻訳して提 13 供しており,図書館においても,様々な言語の図書を常備している。さらに,新しく 市に越してきた人には,英語や中国語などで記載されたウェルカム・キットを配布し, 生活上必要となる様々なサービス情報を提供している。 (3)多文化委員会の設置 市は,市の多文化主義政策について進言する役割を担う多文化委員会を設置してい る。多文化委員会では,様々なコミュニティの活動を促進するため補助金を交付した り,様々な民族が集まる機会を提供するため,無料で施設を貸し出したりしている。 リリアナ氏 3 市民のスピーチ <リリアナ氏(中国出身,13歳)> ・オーストラリア(シドニー)生まれで,親の 仕事の関係ですぐに中国に渡り,小学校低学 年時に,再びオーストラリア(アッシュフィ ールド)に戻ってきた。 ・アッシュフィールドに来たばかりの頃は,英語 がわからなかったので,学校の勉強について いけなかったが,ESL教育のおかげで追いつくことができた。今は第一言語が英 語で,第二言語が中国語となっている。 ・今となっては,母語でない英語を学び習得に成功した経験が,新しいことを学ぶ際 に有利に作用していると思う。 ・オーストラリアにおいても,人種差別はまったくないわけではない。小学校4年生 の時に遊園地に行った際の出来事の中で,「アジア人は自分がさえよければよく,人 を押しのけてようとする」というようなアングロサクソン系の人からの発言があり, とてもショックを受けたことを覚えている。 ・文化の違いもある。目上の人の目を見て話すことが失礼に当たるという場合もあっ たりする。また,家庭内でも文化の対立がある。シドニー五輪では,自分はオース トラリアを,親は中国を応援していた。 ・学校では,多文化主義のスピーチコンテストがある。自分も人種差別は不毛なもの であるというスピーチをした。今後,人種差別がなくなるような社会を強く望んで いる。 <キャシー氏(中国出身,市職員でコミュニティー・ハーモニー・ワーカー)> ・1991年に天安門事件の亡命者の一人としてオーストラリアに移住。 ・悲痛な思いで1歳の子どもを中国に残して夫と二人で亡命。 14 キャシー氏 ・洋裁の仕事を経験した後,運よくある会社 に採用されたが,コミュニケーション能力 が不十分であったため,2ヶ月で解雇され た。 ・就職して成功を収めるためには,会話レベ ルではなく,ビジネスに必要な言語能力を 身につける必要があることを痛感した。 ・文化の違いに躊躇することもある。言葉としてはわかっても,その先にある意味が わからないようなことも多く,移民一世が,本当のオーストラリア人になることは 難しいように感じる。 ・アンデンティの問題もある。自分はオーストラリアに17年暮らしているが,周り からは依然として中国人に見られるし,中国に行けば,周囲の中国人とはどこか違 う気もする。自分は,ハーフ&ハーフのような感じを持っている。 ・ただ,オーストラリアに来て後悔したことはなく,多文化主義の素晴らしさを実感 している。特にリビングハーモニープログラムには感謝している。 <ジェイ氏(韓国出身,市職員でコミュニティ・ハーモニー・ワーカー)> ・韓国の大学でソーシャルワーカーの修士号 ジェイ氏 を取得した後の2005年に移住。 ・移住したばかりの頃は,英語能力が不十分 であったため,好条件の職に就けず,低賃 金の旅行会社勤務を強いられ,十分な満足 感を得られなかった。 ・1年後,韓国福祉協会の仕事を見つけ,オ ーストラリアに来たばかりの韓国人のサポ ート(主に就職支援)業務に従事。 ・2008年にアッシュフィールド市の職員となり,現在は韓国人だけでなくインド や中国,マレーシアなど多くの国々の人のサポートを行う機会を得て,満足してい る。 ・移民の多くは高学歴で母国では大企業に勤めていたような人が多いが,オーストラ リアに来てしまえば,何にも持っていない状況からのスタートとなる。特に女性は 就職が大変である。 ・行政関係者に伝えたいメッセージは「言葉」と「雇用」の二つ。移民にとって言葉 を学べる環境と仕事を見つけやすい環境を整備すること。 15 4 市議会議員との昼食会の様子 市議会議員等との昼食会の様子 多言語が刻印されたモニュメント (文責:宮城県国際経済・交流課 主任主査 見田 茂紀) アッシュフィールド市 Ashfiled Council 【日 時】2008 年 12 月 4 日(木)14:00~15:30 【対応者】Ms. Vanessa Chan(Director) 1.概 要 アッシュフィールド市は人口約 4 万人の地方自 治体。 住民の約 43%が海外で生まれており、約 37% が非英語圏の背景を持つ。シドニー都市圏でも有 数の多文化都市の一つ。特に中国、イタリアから の移民が多い。市では、多文化主義の取り組みの 優良事例の表彰などを通じて多文化社会のメリッ トを啓発すると共に、地域コミュニティへの活動 助成金の交付、公共施設の無料貸し出しなどの施 策を実施している。 市役所前の街並み。英語以外の看板も多い。 市議会はシンガポール、中国、アイルランド、スコットランドなど様々な出身を持つ市 議で構成されている。 2.アッシュフィールド市における多文化主義について 多文化主義の原則は州の政策であり、各公共団体は事務を実施するにあたり多文化主義 の原則を遵守しなければならない。すなわち、多様性を大切にする、すべての人が母語を 16 大切にする、リソースを平等に配分する、人々は差別・偏見を恐れることなく生活する権 利を持つこと、などである。 3.多文化主義施策の一つ「Welcome Shop Award」 中国などアジア系の商店が入ってくることによる商店街の変化が(英語を話し、以前か ら住んでいる)年配の住民にどのような影響を与えているか調査を実施した。英語以外の 言語で書かれた看板が読めない、お店で歓迎されない、商品が乱雑に置かれていて通路が 歩けない、などの要因により疎外感や不安感を覚えていることが分かった。 また、近所に住む人が英語を話せないことで寂しさを感じたり、新しい住民ばかりに行 政の目が行くことを不満に感じたりしていることも分かった。しかしながら、このような ことについて不満を訴えると人種差別だといわれるのではないかという恐れがあることも 分かった。年配の住民は別の土地に移ることも難しく、変化によって受ける影響が若い人 よりも大きい。 アッシュフィールド市では新旧の住民が日常の中で対話し、理解し合うことが重要であ ると考え、お互いが知り合う環境を市が提供することとした。そのためには、市の中心に ある商店が重要な役割を果たすと考え、看板を英語でも表記する、商品を整然と置く、な ど街に溶け込むような努力を奨励する Welcome Shop Award という施策を実施している。 4.所 感 市長自らお出迎えいただき、質問にもお答えいただいた。アッシュフィールドはオース トラリアの近代的多文化主義が誕生した地であるとおっしゃっていたのが印象的であった。 住民の半数近くが海外で生まれているということから、今回お伺いしたこと以外にも 様々な課題があると考えられる。問題が日常生活の中で発生するものである限り、解決す ることも日常生活の中で地道に続けていかなければならないのだと思う。立場の異なる双 方の状況を調査した上で対策を考えることが大切だと感じた。 施策についての説明の中で、この施策は現在も進行中であるとおっしゃった言葉に、言 葉や文化の異なる人々が共に暮らすことについての難しさを認めながら、地域をさらによ いものにしていこうとされていることを感じた。 【文責】 財団法人名古屋国際センター 市長、スタッフの方々と一緒に 17 大山 陽子 マリックビル市 マリックビル市 Marrickville Council 【日 時】2009 年 12 月 4 日(金)10:00~12:00 【対応者】ゲーリー・ムーア氏、ジョゼフィン・ベネット氏 マリックビル市は人口約 75,000 人の都市である。このうち 34%が英語以外の言語を バックグラウンドとして持ち、市内には 35 の異なる文化的グループが存在する。高齢 化とベビーブームの波が同時に訪れているのが特徴である。経済的生活水準としては、 平均収入はシドニー地域全体に比べ高いが、約 25%は低所得層である。また、賃貸住 宅に住む人は約 44%に上り、これはシドニー地域全体における割合 28%を大きく上回 る。経済水準における地域差が大きいことも特徴の一つとして挙げられる。 議会は 12 名の議員から構成され、互選により市長が選出される。実質的な執行機関 としては、General Manager と 4 名の Directors が役員としており、この下に 4 つのセ クションに分かれて 520 人のスタッフがいる。マリックビル市では、市職員の約 30% が異なるルーツを持っているが、職員が市民と同じバックグラウンドの構成をしている ということの意味は大きい。年間の予算総額は 8,500 万豪ドルである。 多文化主義に果たす市の役割として、「文化イベントプログラム」という政策を行っ ている。主要な民族コミュニティや新興コミュニティのうち 8 つのコミュニティを対象 に選び、イベントを開催するものである。各イベントはコミュニティの人たちと協力し て計画・実行し、コミュニティ側には費用負担は求めていない。ただし、コミュニティ によっては、募金活動やスポンサー集めにより独自に費用を調達している場合もある。 当該コミュニティにとって重要な記念日などにイベントを開催することもあり、当該コ ミュニティだけでなく、すべてのコミュニティが参加し、ともに記念日を祝うことを奨 励している。 市には、14 名の委員から構成さ れるマリックビル多文化諮問委員 会がある。14 名のうち、12 名はコ ミュニティの代表であり、2 名は議 員が務める。12 名のコミュニティ 代表はそれぞれ異なるコミュニテ ィの代表であり、構成人数の多い 18 コミュニティや新興コミュニティから選ばれる。諮問委員会では、各コミュニティの意 見を聞き、議会で取り上げるべき問題についてのアドバイスを受ける。市では「文化多 様性行動計画」を策定しているところであり、2010 年 4 月までに完成させる予定であ る。計画は多文化主義の原則に基づいており、今後 10 年間にわたる行動計画となるも のである。計画の策定にあたっては、代表が諮問委員会の委員となっていないコミュニ ティからも意見を直接聞いている。市内 35 のすべてのコミュニティと話をし、それぞ れのコミュニティのプライオリティを確認している。 多文化主義では、各コミュニティの言語でコミュニケーションできることが大切であ る。ギリシャ、アラビア、中国、ベトナム、ポルトガル、アフリカ系などを対象に、様々 な媒体で多言語情報を提供している。週一回発行される地元紙の市政に関するコラムを 月に一回、多言語に翻訳している。また、年 6 回発行される市のニュースレターにはコ ミュニティに関する記事を掲載しているが、このニュースレターは 5 言語に翻訳され、 各世帯に配布されたり、公的施設での配布している。時間と予算があれば、プレスリリ ースも多言語化し、各コミュニティのマスメディアで取り上げてもらえるようにする。 この他、無料の翻訳サービスも提供している。市の発行物で言語の問題で読めないもの があれば、ニュースペーパーに記載されている電話番号に連絡すると翻訳されるサービ スである。翻訳をするときは、認定を受けた翻訳業者に依頼しているが、言い回しの難 しい言葉を翻訳するときは、その言語のネイティブ・スピーカーである職員に読ませ確 認することもある。翻訳に必要な予算は、各事業費に組み込まれている。 新しいコミュニティに気づくのは、偶然の場合もある。新たなコミュニティに属する 人が市役所の窓口を訪れたことをきっかけに、そのコミュニティの存在に気づくことも ある。また、MRC のコミュニティ・ネットワークを通じて、市へ情報提供されることも あるし、国勢調査で気づくこともある。新しいコミュニティの存在を認識したら、即座 に接触を図るようにしている。各種イベントでは市のブースを設け、通訳を配置してお くと、移民の側から声をかけてくれることもある。医者などから情報提供を受けること もある。また、コミュニティ・ワーカーを地域に配置し、その地域のコミュニティ情報 を市役所に報告してもらっている。コミュニティ・ワーカーは、市役所コミュニティ開 発課に 8 名いる正規職員であり、コミュニティと連携しながら、それぞれのコミュニテ ィの福祉向上を目指している。有給・無給に関係なくコミュニティ開発に携わる人は多 いが、市がコミュニティと連携を図る上では、MRC やコミュニティ・ワーカーの存在が とても大きい。 また、地元企業との連携も重要である。中小企業の活力を活性化させることを目的と しているアーバン・センター・プログラムは、商店街を中心にしたものである。商店街 には非英語系住民が多いため、商店街の活性化は多文化をバックグラウンドとする企業 19 を成長させることにも繋がる。これは、多文化のビジネス等を力強く推進すること、コ ミュニティ間の貧富の差を埋め、恵まれない立場の人を支援することを目的としている。 今後の課題としては、DV、ホームレス、失業、家庭へのサポートの欠如、社会的な変 化への対応である。また、住民全般と同様に、多文化コミュニティにも貧富の差がある ため、この差の解消も課題である。 (文責:名古屋市国際交流課 平野 喜子) フェアフィールド市 フェアフィールド市及びカブラマッタ市街視察 Fairfield City Council 【日 時】2008 年 1 月 30 日 10:00-16:00 【対応者】Mr. Nick Lalich (Mayor) Mr. Alan Young (City Manager) Ms. Amanda Bray (Manager Community Life) Mr. Greg Thurling (Community Project Officer, Multicultural Diverse Communities) 1. 市の概要 ニューサウスウェールズ州に 152 ある地方自治体のひとつで、シドニー 市中心部から南西へ 32km に位置す る。27 の地域 (suburb)からなる 104 ㎡の面積に 181,900 人(2001 年国勢 調査)の住民が暮らす。インドシナ難 民の収容所が近くにあったことから ベトナム系移民が多数居住するよう になった。海外で生まれた人の全人口 に対する比率 52.5%は、オーストラ Fairfield City Council にて リアで最も高い数字である。しかも、 前列右から 3 番目が、Lalich 市長 これら移民の母国 133 ヶ国のうち 95%は非英語圏であり、72.5%の住民が家庭で英語 以外の言語を使用している。母語の言語数は 70 言語、宗教は 50 に及ぶなど、日本で は考えられない多文化のまちである。 2. 市が直面する諸課題 技術移民およびその家族、難民などさまざまなバックグラウンドを持つ住民が居住 する状況は、豊かな文化の源として市の誇りであるとともに、様々な分野において他 20 に例のない課題-住居、青少年問題、社会事業に必要な経費、健康問題、防犯、英語 能力、社会的孤立、教育、育児、失業、人種差別と地域の連帯、翻訳・通訳、社会福 祉改革、難民コミュニティと固有の課題など-を生み出している。 (1) 高い失業率 失業率 10.4%(2007 年 3 月)は全国平均の約 2 倍に当たる。 (2) 低い大学進学率 2000 年の時点で 58%だった大学進学率が 2003 年には 43%に低下した。一方、 TAFE (Technical and Further Education=「テイフ」と呼ばれる州政府所管の専門学校)へ の進学率は 2000 年の 44%から 2002 年には 51%に増加している。 (3) 低い個人所得 15 歳以上の週当たり平均個人所得は、全国平均が 466 ドルであるところ、319 ドル と低い。また、平均世帯所得は全国平均が週当たり 1,027 ドルであるところ、873 ド ルに留まっている。 (4) 悪い住宅居住状況 十分な住居に住めない世帯は 6,928 世帯で、シドニー大都市圏全体の同世帯の 7% を占める。 (5) 低い社会経済指標 市の社会経済指標は NSW 州で 2 番目に低い。 (6) 低いスポーツ参加率 スポーツ参加率は、NSW 州平均が 48.1%であるところ、33.1%と低い。また、15 歳以上男女の肥満の割合も NSW 州平均よりも高い。 (7) 高い有病率 糖尿病の有病率 6.24%はシドニー大都市圏で最も高い。また、癌、呼吸器系疾患、 2型糖尿病、精神疾患、行動障害に罹る割合も全国平均よりも高い。 (8) 高い喫煙率 喫煙率 28.5%は、NSW 州平均の 21.7%より高い。 3. 3つのアプローチ こ う し た 課 題 に 対 処 す る た め 、 市 (council) は 以 下 に 述 べ る 3 つ の 協 議 会 (committee)を設置している。 (1) The Fairfield Migrant Interagency (FMI) 市内の 100 以上の官民関係機関からなる無報酬制の自主的ネットワークで、 月1回、 会議を行っている。主な目的は、情報交換、連携促進、懸案事項の提出、クライアン トサービスの質的向上についての戦略づくりや提案、移民からの要望事項の提出、サ ービス提供についての連携強化などである。 (2) The Fairfield Emerging Communities Action Partnership (FECAP) 21 市内の 10 余りの官民関係機関からなる無報酬制の自主的ネットワーク。主な目的 は、各機関の持つ技術、知識、リソースを共有しながら、事業の企画から運営までを 共同で行うことである。 (3) The Fairfield Multicultural Advisory Committee (MAC) 市議会議員を含む市 (city council)の公式な委員会。コミュニティサービス提供者の ほか、一般の市民も参加できる。委員会は2ヶ月に1回開催されるが、委員は無報酬 で、問題が生じた時に自主的に参集する。主な目的は、移民コミュニティと市 (council) との間の直接的な対話によりその時点における懸案事項に関しコミュニティから直 接情報を得ることである。 これら3つのグループの役割には重なり合う部分もあるが、FMI は主に情報共有と ネットワーク、FECAP は主に事業、MAC は主にコミュニティと市との間の直接対話 に重点を置いているといえる。 (関係概念図) 移民コミュニティ MAC (市との直接対話) Council FMI FECAP コミュニティ FECAP (事業) MAC Council FMI (情報共有と ネットワーク) 4. 情報収集・提供 市が移民コミュニティとの間で情報収集・提供を行う際には、以下に示すように様々 な方法を用いる。 (1) ガイドライン 移民のみを対象としたものではないが、コミュニティとの間で効果的な情報伝達を 行うためのガイドラインを定めている。 (2) 相談員 (consultants) 相談員を通じてコミュニティとやりとりをする際には、情報の収集・提供や調査を 行うにあたり、移民コミュニティの住民を交え、かつ相談しながら、効果的に行うよ うに努めている。 (3) 事業担当者 (council project officers) 市の事業担当者が独自調査を行ったりコミュニティに影響する事業を始めたりす る場合は、相談員に依頼する場合と同様の原則に従う。 (4) 図書館 22 図書館に専門のスタッフを置き、図書サービスや情報提供を行う際に移民コミュニ ティとの連絡を密にし、常に多言語による図書の収蔵に努めている。 (5) インターネット 市のウェブサイトでは7言語で市民向けの情報提供を行っているほか、移民関連の サービス提供者による E メールグループを主宰している。この E メールグループを通 じ移民関連情報をスピーディーにやりとりし、グループ内の各機関を通じてそれぞれ のコミュニティに伝達することが可能になっている。また、市は LINKS community directory というコミュニティ団体の電子データベースも構築している。このデータベ ースにより、特定の移民グループや関連サービスその他、市内の関連情報についてキ ーワード検索を行うことができる。 (6) 主要団体 市は、Fairfield Migrant Interagency (FMI)を通じて主要な団体と常に連絡を保っ ているほか、Migrant Advisory Committee (MAC)など様々な諮問委員会を組織して おり、市、サービス提供者、コミュニティと常に連携を保ち情報を共有するように努 めている。 (7) 監視と評価 市が移民コミュニティと効果的に連絡を保っているかどうかについて評価するた めに、第三者機関により、年1回、情報関係などについて抽出電話調査を行っている。 5. 多言語サービス 市は「行政サービスの提供における多文化主義指針 (Multicultural Access to Council Services Policy)」を定めている。この指針に従い、市は多文化コミュニティ との適切な情報収集・提供を通じ、包括的で非差別的な方法でサービスを提供するこ とに努めることになっている。この指針の目的は、市の全てのリソースやサービスに ついて全ての市民に公平な利用機会を保障することと、住民間の文化的・言語的な差 異に配慮した適切な行政サービスを提供することである。方針の具体的内容としては 以下のものがある。 (1) 翻訳 市が発行する印刷物は可能な限り多言語に翻訳し、市のウェブサイト、パンフレッ ト類、新聞紙上を通じて入手できるようにするとともに、市の職員がコミュニティラ ジオを通じて情報提供を行うように努める。 (2) バイリンガル・エジュケーター (Bi-lingual Educators) 通訳を利用したサービスと併行して、二カ国語を話せる職員により特定の情報提供 やワークショップを行っている。こうした職員は、特定の分野について研修を受けた 後、通訳を介さずに直接、移民へのサービス提供を行う。 (3) 市職員 23 保育所など特定の分野においては、職員の採用条件として「地域の言語への知識」 が求められている。職員に語学力があれば、情報の収集や連絡をより直接的、効果的 に行うことができる。 (4) 語学支援プログラム(Language Aid Program) 英語以外の言語を話せる市職員へ支援を行っている。職員が移民の言語を話すこと ができれば、移民との関係を向上させ、誤解を減らし、行政サービスを向上させるこ とができる。現時点で、市職員の6から7割の職員が英語のほかに1言語以上を話し、 全体で 12 の言語に対応している。 (12 言語の内訳:アラビア語、アッシリア語、広東 語、北京語、クロアチア語、イタリア語、マルタ語、スペイン語、セルビア語、ベト ナム語、ラオス語、クメール語) (5) 新移民ハンドブック(New Migrant Information Kit) 地域の移民リソースセンター (Migrant Resource Center)と共同で新しく移民して きた人のための情報ハンドブックを作成している。新移民の母語で、当面必要な事項 についての情報を掲載している。具体的な内容は、通訳・翻訳サービス、失業給付、 就職支援、英語教室、成人及び子供の教育、託児サービス、住宅供給、保健医療、法 律扶助、定住への助言、図書サービス、各種行政サービス、スポーツとレクリエーシ ョン、交通、警察・消防・救急、少数民族・宗教集団、移民リソースセンターなど。 そのほか、市は、新移民に対し各種オリエンテーションツアーを実施し、市のサー ビスの概要や場所について周知するよう努めている。 6. 英語教育についての指針 英語力の低い移民が直面する課題を解決するのは簡単ではないが、市は以下の指針 に基づき、計画を十分に練り、対象を知るように努めている。 (1) 対象を知る 英語力の低い集団の数と構成(出身国と母語など)を知ることが重要である。こう した情報を元に短・長期計画が立てられ、必要に応じて逐次変更される。市は「地域 住民の現状」調査を通じてこうした情報を得ている。 (2) プランニング 対象についての情報を得た後は、非英語集団のニーズに合致した短・長期計画を立 てる。サービスの未整備分野を把握し、 「市政基本計画 (City Plan)」などのより上位 の市政方針に従いながら、優先度順に様々な事業を「事業計画 (Management Plan)」 にまとめる。 (3) 行動 こうして作成した事業計画によって3年間単位の事業が行われる。 こうしたアプローチにより市が現在行っている言語関連事業は、フェアフィールド 24 市と近隣地域で英語学習サービスを行っている団体を調査するための English Training Mapping と、通常の英語教室で学ぶことが困難な移民を同じ民族集団によ る ク ラ ス に 集 め よ り リ ラ ッ ク ス し て 学 習 で き る よ う に す る FECAP English Language Pilot の二つである。 7. 雇用 (1) 現状 フェアフィールド市における失業率は、全国平均の約2倍に当たる 10.4%である。 移民が多いということはそれだけ特有の就労機会も多いことを意味するが、一方で、 そのために全体の失業率が高くなっているのも事実である。 (2) 現時点における取り組み状況 市は、以前から移民の就労について様々な取り組みを行ってきた。例えば、移民コ ミュニティを対象とした就職フェアを2年前から開催している。これまでの経験から、 直接就労につなげる事業を行うよりは、 「就労コース (employment pathways)」を開 発する事業の方が効果的なようである。 Employment Pathways project は、就職の斡旋を主目的とするものではなく、明確 な就労コースを創出するものである。具体的には、1) 特定の分野の職業に就きたい場 合に必要となる手順についての情報を提供すること、2) コースを辿るうえで必要とな る関連サービスや関連教育機関とのネットワークを構築すること、3) コースを開始し 継続するための支援を行うことである。 そのほか、市では、食品取扱い、工芸品製作、コンピュータ講座などの雇用プロジ ェクトや研修を行っている。 8. 広範囲な支援体制 市内には、公的機関、NPO、民間企業など様々なサービス提供者が活動している。 こうした団体が提供する事業分野は、健康、研修と教育、英語教育、拷問とトラウマ、 住居、雇用、芸術・文化、青少年、高齢者と障害者、女性問題、育児、法制度と法的 サービス、難民へのサービス、保育、民族・宗教集団への支援、物質的援助などであ る。 9. 市内視察 午後は、Ms. Bray と Mr. Thurling の案 内により市内視察を行った。 (1) カブラマッタ地区 (Cabramatta) 25 ベトナム系、中国系移民によるレストランや土産物屋が軒を連ね”Asian Town”と呼 ばれる地区である。オーストラリアの多文化主義に関する文献には頻繁に紹介されて いる。人口は 19,391 人で Fairfield City Council 内で最も多い。同地区のベトナム料 理店 Dong Ba にて昼食後、周辺の商店街を視察した。町の入り口に鎮座する極彩色の 中国式鳥居を過ぎると、片側1車線の道路に沿って飲食店や雑貨屋などの店舗が並ぶ。 一行が訪問した辺りはベトナム系、中国系の店が多く、Asian Town の名称のとおり 派手な色遣いの看板が多く、アジアンテイストがいっぱいである。旧正月が近いこと もあってか、平日の昼間にもかかわらず観光地のような賑わいであるが、利用してい るのはほとんど住民だとのことだった。また、アジア系であるためか、クレジットカ ード社会であるオーストラリアにあって現金決済が基本で、この地区にある Commonwealth Bank はオーストラリアで最も現金の引き出し額が多い銀行だとの ことである。 (2) 教会・寺院 各地区にあるさまざまな宗教の教会、寺 院等を見学した。ギリシャ正教の教会、中 国の仏教寺院、ラオスの仏教寺院、中国の 教会、トルコの教会、フィリピンの教会な どが時に軒を連ねて建っている。互いの文 化の違いを認め尊重し合う多文化主義の 象徴のように思われた。 (3) 市営農場 (City Farm) 最後に、市が運営する観光農場、City Farm を視察した。580 エーカーの敷地 内にコアラ、カンガルー、様々な鳥類や 爬虫類を飼育しており、動物のエサやり、 牛の搾乳、羊毛刈りなどのアトラクショ ンを体験できる。入場料は子供 10 ドル、 大人 16 ドル。コアラやカンガルー、トカ ゲなど触れさせてもらえたのは思わぬプレゼントだった。この農場は、観光目的のほ か、環境教育施設としての役割も担っているとのことだった。移民にもオーストラリ アの動植物について良く知ってもらうことで環境の大切さについて理解を促すとの ことのようだ。また、移民をアボリジニーのグループに会わせてオーストラリアの風 土について学んでもらうという新プロジェクト Operation Blue Tongue もスタートし たとこのと。いずれも、単なる知識(knowledge)でなく、心(emotion)から理解するこ とが重要であるとの考えに基づくものである。 26 10. おわりに 移民コミュニティとの対話(コミュニケーション)を、市は何よりも重視している ように感じた。多言語による情報発信を積極的に行い、バイリンガル市職員を確保す るうえでの様々な方策を施す一方で、移民に対する長期的な英語学習計画を策定して いる。さらに、より重要なアプローチとして、3つの協議会を定期的に開催して移民 からの声に直に耳を傾けるという方法を採っている。こうした方針については日本で も大いに参考にしたいところだ。 しかしながら、今回の訪問を通じて最も印象的だったのはこうした事業や方針では ない。Nick Lalich 市長始め多くの職員の口から繰り返し発せられた「多文化地域であ ることを誇りに思う」という言葉だった。市長自身、旧ユーゴスラビアに生まれエジ プトの難民キャンプで 4 年間を過ごしたという経歴を持つだけに、単に聞こえの良い 政治的スローガン以上の誠実さが伝わってきた。高失業率、低所得、低学歴など、お そらく新移民が多いことに起因する問題が多いことがはっきりと数字で示され、若い 世代で多少トラブルがあることを認めつつも、コミュニティリーダーのレベルでは全 く問題がないと力強く言い切る姿には、移民政策に対する市のゆるぎない信念を感じ させるものがあった。 報告書担当者 財団法人 愛知県国際交流協会 本庄 俊和 財団法人 徳島県国際交流協会 逢坂 範子 ホルロイド市 ホルロイド市 Holroyd City Council 【日 時】2007 年 2 月 1 日(木)14:00~16:00 【対応者】Clr Dr John H Brodie (Mayor) Clr Eddy Sarkis (Deputy Mayor) Clr Elizabeth Culgan (Councillor) Clr Ken Morrisey (Councillor) Mr Dennis Trezise (General Manager) Mr Merv Ismay (Director, Financial Services) Ms Diane Jogia (Director, Library and Community Services Director) Mr Stan Antczak (Director, Engineering Services) Mr Rick Beers (Director, Environmental and Planning Services) Ms Helen Connell (Manager, Human Resources) Ms Lucy Maguire (Ethnic Communities Development Officer) 27 Holroyd 市はシドニー西部に位置しており、職員数 413 人、人口約 92,000 人、住民の約 4割が移民の町である。移民は過半数がレバノンを始めとするアラブ系、中国系の移民で 構成されており、その8割が市民権を取得している。同市では市議会のサービスとして、 民主主義に基づく地方自治体の役割やサービス、制度、法律上の責任に関する理解を促す コミュニティプログラムを実施している。 このコミュニティプログラムは、1992 年にレバノン福祉団体からの要望によって実現さ れたものであるが、当初のプログラムは歴史の授業に重点を置き、通訳は無く、キーワー ドとなる要点のみ部分的に翻訳されていたものであった。しかしながら現在はコミュニテ ィ関係者や資格を持つ通訳とともに、最大限の協議を図りながら内容が改善され、プログ ラム参加中の託児サービスや身体障害者へのサービス等も提供されている。 3週間に渡って運営されるこのプログラムは、1日2時間、週3~4日のペースで実施 されるが、Holroyd 市は専従職員1名を配置し、模擬選挙の実施、図書館の利用案内、幼児 や高齢者福祉に関する地方自治体サービスの説明など、現在の社会システムへの理解を促 すだけでなく、先住民を含むオーストラリアの歴史や、連邦政府や州政府等政治制度が理 解できるように構成されている。プログラムは様々な背景と多様性を持つ人々総てに地方 自治体のサービスが享受できることを目的としているが、同時に、双方のコミュニケーシ ョンを円滑にすることで信頼関係を構築することにも重きを置いている。このため、参加 者が Holroyd 市の住民として歓迎されているという安心感を抱けるよう、市長との写真撮 影や昼食会、プログラム修了記念品の授与だけでなく、各関係機関(学校、警察、健康保 険センター、移民サポートセンター、言語センター等)の実務担当者を指導講師に置く等 により、プログラム終了後も普段から情報交換や相談し易い環境をもてるような配慮がな されている。 現在では様々な自治体で同様の取組みが見られるようになったが、1992 年に始められた このプログラムは、様々な背景と多様性を持つ人々総てに対して、住民として共同体に参 加する権利や共同感、所属感や主体感を提供する試みとして、長年高い評価を得ているも のである。サービスの受け手となった移民からも、異なる文化や言語を持つコミュニティ 同士が織物に関するワークショップに参加したり、警察ボランティアや廃材回収ボランテ ィアに参加する機会を設けることで、互いの文化を尊重するだけでなく、双方の警戒感や 緊張を和らげてきたことや、民主主義のルールに基づき、自分の考えがどのように反映さ れるか、意思決定が行われるかを学ぶことを実感したという声が多数寄せられている。 既に上述のとおり、オーストラリアの地方自治体の役割は生活環境関連サービスが中心 であり、規模も権限も小さく、単純に日本の市町村と比較することは出来ない。しかしな がら、行政サービスは言語や文化、人種にかかわらず全ての住民が均等で公平に享受でき るものと捉えられており、成人移民に対する英語教育のように特定の必要性に応じた定住 者支援ではなく、地方自治体が当然対応すべき一般サービスとして認識されている。 28 特別化するのではなく、多様なネットワークを駆使し、移民にも先住者にも均質なサー ビスを提供することにより、住みやすい地域づくりを目指す。この「オーストラリア流」 とも言える定住と共存の取組みは、結果的に、人種差別や偏見による大きな衝突や対立、 分裂の少ない平和的な統合を生み出していると言っても過言ではない。 【財団法人 福島県国際交流教会 渡部 洋子】 【財団法人 愛媛県国際交流教会 八塚 優子】 29