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現場から 老朽化した下水管の再生 見えないインフラの安全を守れ!
現場から 老朽化した下水管の再生 見えないインフラの安全を守れ! たか はし よし ふみ 〈訪問先〉東京都下水道サービス株式会社 技術顧問 高橋 良文 さん 高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が深刻な社会問題になっている。インフラの老朽 化は,2012年に発生した中央自動車道の笹子トンネル天井板崩落事故のように重大な被害をもた らす危険性がある一方で,維持管理やつくりかえには莫大な費用がかかるという課題がある。 下水を使用したまま下水管を更生させる画期的な技術である SPR 工法※の開発にたずさわった, 東京都下水道サービス株式会社技術顧問 高橋良文さんにお話を伺った。 ■老朽化する下水管 うな寒冷地の場合には塩化ビニール樹脂が破損するおそ 日本の下水管の総延長は地球11.5周分の約46万㎞にの れがあるので施工に工夫を加える必要があり,温泉のあ ぼります(裏面資料1)。そのうち,敷設後50年を経過 る地域などでは熱い水に耐えられる耐熱性が求められま した老朽管が1万㎞以上あり,今後さらに大量の下水管 す。現場によって状況は千差万別で,現在も技術の改良, が更新時期を迎えます。老朽化により破損した下水管に 開発が続けられています。 は地中の土砂が流れ込み,道路陥没を引き起こすおそれ SPR工法は現在までに全国で約900㎞施工され,海外 があります。下水管の老朽化による道路陥没は日本全国 でもアジアや欧州,北米など,十数か国で採用されてお であとをたたず,2013年の発生件数は約3,500件となっ り,さらなる展開が期待されています。 ています(裏面資料2・3)。また,下水管が整備され 実際の作業で最も注意しなければいけないのは,作業 始めた大正,昭和のはじめとは違い,アスファルトで舗 員の安全確保です。とくにこわいのが雨。下水を流した 装された現代の道路では降った雨が地面にしみ込むこと 状態での作業では,雨が降ると下水が増水して人が流さ なく下水管へ流れ込みます。その結果,下水管に収容し れてしまう危険性があります。そのため,東京では「1 きれなくなった水があふれ出す都市型水害という問題も 滴ルール」を設けて,雨が少しでも降ったら工事を中止 発生しています。このような問題に対処するためには, するようにしています。天気予報に注意して,数日前か 下水管を入れかえる必要があります。 ら人や機材の手配をするところが作業担当者のいちばん しかし,下水管は日常生活に不可欠なインフラのため, の苦労であり,腕のみせどころです。 工事のために使用を中断させることは難しく,そのうえ 地面を掘り返して工事をした場合には,騒音や振動,交 ■今後の課題 通阻害などの社会的影響が大きく,工事費も増大します。 現在の日本は,老朽化したインフラの更新が求められ このため,集中的に投資するだけの財源もないため,問 る一方で,少子高齢化の進展に伴う財源の制約や人材の 題が起こってから修繕や補修などを行う対症療法的な対 不足が大きな課題です。市民の安全と健全な社会経済活 応しか取れない状況でした。このため,下水を流したま 動を確保するためには,発生した問題や損傷に対して事 ま道路を掘り返さずに下水管への出入り口であるマンホ 後的に修繕を行う「発生対応型」の対応から,問題の発 ールを通じて経済的に施工ができ,かつ下水管の流下能 生を予測して問題が起こる前に修繕を行う「予防保全 力を向上させることができる下水管更生工法が強く求め 型」の維持管理への転換が求められています。その大き られていました。 なテーマの一つが調査・診断技術の向上です。下水管の 0.1㎜の亀裂も自動的に読み取るテレビカメラを搭載し ■SPR工法の開発 た自走式のロボットを使って,劣化状況を効率的に診断 SPR工法は,1986年より足立建設工業,積水化学工業, するしくみの導入も進められています。 東京都下水道サービスの3社で共同開発が行われた技術 それと同時に,アセットマネジメントの観点も大切です。 です。「プロファイル」とよばれる細長い塩化ビニール 一般的に下水管の耐用年数は50年とされていますが,50 樹脂製の帯をマンホールから挿入し,下水管の内側壁面 年たっても状態がよいものもあります。50年をこえたらす にそってらせん状に巻き立てて新たな管に仕上げていき べてつくりかえるのではなく,維持管理にかかるコストと ます(裏面資料4・5) 。道路を掘り返すことなく下水 つくりかえにかかるコストを比較して,コストが最も安く を流しながら施工ができ,従来の方法と比べて大幅に工 なるタイミングまで延命させて対応したほうが経済的です。 期・工費を縮減させることができます。また,塩化ビニ さらには,下水道は国民からの料金や税金によって行 ール樹脂は表面がなめらかなため,コンクリートに比べ われる事業であるため,事業に対する国民の理解が不可 て2~3割多い流下能力を確保できます。 欠です。しかし,下水道は市民生活や都市活動と密接な 下水管の形状は,丸型ものや角型のもの,線形も曲線 インフラである一方,普段は目にみえない施設なので, になっているものなど地域によってさまざまで,開発後 事業の必要性をわかりやすく説明して理解してもらえる も課題が次から次へと出てきました。また,北海道のよ ように,いっそうの努力が求められています。 ※Sewage Pipe Renewal Methodの略。 18 老朽化した下水管の再生 見えないインフラの安全を守れ! 現場から 20 18 約46万km 45 ) km 30 25 8 20 6 15 4 10 2 5 0 0 昭和 平成 29 32 35 38 41 44 47 50 53 56 59 62 2 5 8 11 14 17 20 23 25 (年度) 資料1 下水管の年度別管理延長 〈国土交通省資料〉 資料3 道路陥没のようす km 5,000 (件) 10 35 今後、50年経過管 が急増 平成25年度 約3,500件 6,000 40 14 12 7,000 50 管路管理延長(万 ) 布設年度別整備延長 (千 16 布設年度別整備延長 (左軸) 管路管理延長 (右軸) 4,000 3,000 2,000 1,000 0 平成 15 16 17 18 19 20 21 (年度) 22 23 24 25 資料2 下水管老朽化に起因した道路陥没件数 〈国土交通省資料〉 資料4 SPR工法の作業のようす(手前が施行前,奥が施工後) 内巻きプロファイルドラム 発電機 既設管 更生管 自走式製管機 油圧ユニット 資料5 SPR工法のしくみ(自走式製管方式) ドラムに巻きつけたプロファイルとよばれる細長い塩化ビニール樹脂の資材をマンホールへ挿入し,下水管のなかの製管機へ送る。製 管機はプロファイルを下水管の壁面にらせん状に巻き立てていき,新しい管に仕上げる。 東京都下水道サービス株式会社の高橋さん のインタビューは,このうら