...

製品開発プロセスの改革と業績評価 −金型製造業、インクスを事例として

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

製品開発プロセスの改革と業績評価 −金型製造業、インクスを事例として
製品開発プロセスの改革と業績評価
−金型製造業、インクスを事例として−
山北晴雄(新潟経営大学)
1.プロセス志向に基づく資源の管理
プロセスの活動への分解に基づく価値分析を特徴とする ABM において、ある活動が変動
的資源と関係付けられている場合には、非付加価値活動が削減されればこれに伴いこの非
付加価値活動が消費していた変動的資源を削減することができる。一方、多くの資源が固
定的な性格を有する短・中期的な期間を前提にした場合、非付加価値活動を削減すること
は、その非付加価値活動を消費していた固定的資源の削減にはそのままつながらない。
この点について Lawson(2002)は、「ABM による情報はプロセスの非付加価値活動は明
らかにするが、それを提供していた資源の除去には必ずしもつながらないため、資源の除
去に結びつけるためのツールが必要になる」と指摘する。そして、Lawson はこのツールと
して Process Based Costing を提唱する。すなわち、「プロセス志向に基づくアプローチ
と重要な資源の本質に焦点を当てることによって、プロセスから資源を除去する仕組み」
である。
本報告で取り上げるインクスの事例は、固定的資源のうち熟練人的資源に焦点を当て、
熟練人的資源を消費する活動を除去することにより、熟練人的資源を製品開発プロセスか
ら除去する試みである。本報告では、インクスの事例を用いて製品開発プロセスが消費す
る熟練人的資源の当該プロセスからの除去の過程と、除去するためのプロセス・ドライバ
ーとしての熟練作業者の「判断」について考察する。
2.熟練人的資源の製品開発プロセスからの除去−インクスの事例から−
インクスは1990 年の創業以来、3 次元 CAD/CAM の開発・製造と 3 次元の設計データから
短期間で試作を行なうことができるラピッド・プロトタイピングで急成長を果たした企業
である。インクスは、製品開発プロセスの改革により金型設計・製作工程を 45 日から 45
時間に短縮した。まず、製品開発プロセスの現状調査とプロセスマッピングから、製品開
発プロセスを構成する各工程間の滞留の除去と工程の並列化を行い、45 日の金型設計・製
作工程を 26 日に短縮した。
次に、取り組んだのが熟練作業者が行う作業上の判断の標準化である。作業者の作業を
サーブリグによって区分すると、第 1 類(作業に必要な 8 動作)、第 2 類(作業を遅らせる
動作であるが作業に必要な 5 動作)および、第 3 類(作業に不必な動作)に分類できる。
この熟練作業者の「判断」への着目は、動作分析法の一手法であるサーブリグの作業区分
の中の第 2 類の動作、すなわち、「位置決め、探す、選ぶ、考える、前置き」など目による
1
対象物の認識や脳による判断をする動作の標準化といえる。
この熟練作業者の作業に含まれる判断を伴う活動について、実際にどのような判断が行
なわれているのかを詳細に観察・調査し、判断基準のルール化、判断の選択肢化などによ
り改善した結果、金型設計・製作工程はさらに 45 時間まで短縮したのである。現段階で作
業者の判断が最も速い動作だけを残し、それ以外は標準化し物的資源に移行していく。作
業者の判断を要する活動の判断数を削減したり、判断レベルを引き下げることによって熟
練作業者の活動を削減し、当該プロセスから熟練人的資源を除去したのである。
3.資源の除去に焦点を当てたプロセス改革と業績評価指標
事例企業インクスにおける製品開発プロセスにおいて、業績指標に製品開発期間、プロ
セス・ドライバーのひとつとして作業者の活動に含まれる判断数や判断レベルが使用され
た。熟練作業者の判断数の削減や判断レベルの引き下げによって、作業者の判断を伴う活
動が減少する。その結果、その活動が消費していた熟練人的資源から、非熟練人的資源や
物的資源への消費資源の移行が行われ、資源コストの減少とともに製品開発期間が大きく
短縮する。
作業者の判断を削減するためには、熟練作業者の暗黙知による判断から一定のルールを
見出し、そのルールを標準化していかなければならない。この標準化が進むにしたがって、
活動が消費する資源が、熟練人的資源から非熟練人的資源へと変化し、作業者の判断がゼ
ロになったとき、活動が消費する資源は人的資源から物的資源へと移行する。活動を作業
者の判断の必要性の有無で分類する意義は、除去すべき資源コストを明らかにすることに
ある。資源コストを金額的に測定することによって、人的・物的資源のムダや非効率を可
視化できるとともに、資源間のトレードオフによる資源の適正配分が可能となるからであ
る。
【主要な参考文献】
・慶應義塾大学ビジネススクールケース.2001.『株式会社インクス 2001』(作成者
竹
田陽子)
・Lawson,R.A.,“Managing The Cost of Capacity Using Process-Based Costing”Journal of Cost
Management(November/December 2002).
・東京都中小企業支援センター.2003『IT 促進支援事業報告書−金型製造業界の経営変革
を目指して』
・山田眞次郎.2003.『インクス流!−驚異のプロセス・テクノロジーのすべて−』ダイ
ヤモンド社.
2
Fly UP