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消費者契約法に係る裁判事例の収集及び分析(裁判事例概要・統合版

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消費者契約法に係る裁判事例の収集及び分析(裁判事例概要・統合版
資料4
消費者契約法に係る裁判事例の収集及び分析(裁判事例概要・統合版)
本資料は、これまでに委員からの御報告において紹介された裁判例及び事務局において収集
した裁判例の概要をまとめたものである。
また、要旨の記載については、特に断りのない限り、ウエストロー・ジャパン株式会社が提
供するデータベースである「Westlaw Japan」より引用している。
1
【1】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年7月 11 日 大阪高裁 平 24(ネ)3741 号
ウエストロー・ジャパン
適格消費者団体である控訴人が、携帯電話を利用する3G通信サービスに関する
契約約款中、2年の定期契約期間中に料金種別を変更又は廃止する場合に消費者
が解除料を支払う旨の条項は、消費者契約法9条1号又は10条に反し無効であ
るとして、被控訴人に対し、本件解除料条項を含む契約約款を用いた意思表示を
することの差止めを求めたところ、原審で請求を棄却されたため、控訴した事案
において、本件解除料条項は付随条項であるから、消費者契約法9条及び10条
が適用されるとした上で、本件解除料条項は、同法9条1号所定の条項に当たる
が、本件解除料は本件契約の解除により被控訴人に発生する平均的損害額を上回
るものでなく、また、同法10条前段の要件を満たすが、消費者は本件解除料条
項を理解して契約締結していること等からすると、信義則に反して消費者の利益
を一方的に害するものではないとして、同条項の無効主張を否定し、控訴を棄却
した事例
論点項目
判示内容
中心条項への適用 1 争点(1)(本件解除料条項について、法9条及び10条の不当条項規制
が適用されるか否か)について
(1) 一般に、契約の条項には、契約によって当事者が獲得しようとし
ている主たる給付を定める条項である中心条項と、それ以外の、主として
契約関係の調整を自ら行うための措置を講ずる条項である付随条項とがあ
るとされているところ、中心条項とは、契約の成立のために当事者が実際
に合意することが必要である契約の主要目的や給付の均衡性、とりわけ対
価に関するものであり、少なくとも上記中心条項に関する定めについては、
法9条及び10条の不当条項規制の適用の対象外であり、付随条項につい
ては、上記不当条項規制の対象となると解するのが相当である。その理由
は、契約の主要な目的や対価に関する事項は、本来、市場にゆだねられる
べき事柄であるため、例外的に公序良俗違反等の一般条項による規制はあ
るにしても、このような事項に関する中心条項を不当条項規制の対象とす
ることは、市場に対する過剰介入になると考えられるのに対して、付随条
項は、広い意味では契約の履行過程で生じるトラブルに対処するためのも
のであって、予め事業者によって一括して定められていることが多い上、
一般に消費者は、契約の締結に際して、契約の履行過程で障害が生ずるこ
とを念頭におくことが少ないため、安易に付随条項を受け入れてしまう傾
向があることによるものということができる。
「平均的な損害の ア 法9条1号にいう平均的な損害とは、同一事業者が締結する多数の同
種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額
額」の意義
をいい、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額につ
いて、契約の類型ごとに合理的な算定根拠に基づき算定された平均値を意
味するものと解すべきところ、同号は、解除に伴う損害賠償額の予定等の
区分の仕方は、業種や契約の特性により異なるものであることから、契約
において定められた損害賠償の額の予定又は違約金の額が平均的な損害の
範囲内といえるかどうかの判断は、「当該条項において設定された解除の
事由、時期等の区分に応じ」て行われる ものと定めている。
2
論点項目
判示内容
前記1で認定・説示したとおり、本件契約の主要目的は、一定期間(2
年間)における携帯電話を利用する通信サービスの提供と利用に関するも
のであり、かつ、弁論の全趣旨によれば、本件契約を含む携帯電話サービ
スは、大規模インフラをもって、不特定多数の顧客に対し、特に定員を限
定せずに提供される定型サービスであり、特定の顧客が契約を解除した場
合に、別の顧客との契約が可能になって埋め合わせができるといった、契
約目的に代替可能性がある類型の契約ではない ことが認められる。
そして、上記のような本件契約の内容や特性等に鑑みた場合、本件解除
料条項が、契約期間である2年間の中途における解除について、一括して
定められていること自体、不合理なものではないし、また、消費者保護の
観点を併せ考慮したとしても、上記の定め方が著しく不当であるというこ
ともできない 。
したがって、本件において、本件解除料が法9条1号にいう平均的な損
害を超えるか否かを判断するに際しては、被控訴人の設定した、契約期間
である2年間の中途における解除という時期の区分を前提に、本件契約の
解除に伴い、被控訴人に生じる損害の額の平均値を求め、これと本件解除
料の額の比較を行えば足りるというべきであり 、これと異なる見解に立つ
控訴人の主張は、採用することができない。
イ 次に、法9条1号にいう平均的な損害を考えるに際して、契約解除に
伴う原状回復に係る損害を超えて、逸失利益(当該解除がなければ獲得で
きた営業利益等)に係る損害を考慮することができるかについて検討する。
・・・
(中略)
・・・そして、同号にいう解除に伴い、当該事業者に生ずべ
き平均的な損害とは、あくまでも民法416条を前提としつつ、そこで生
ずる損害を、当該事業者が締結する多数の同種契約について定型化した基
準であると解するのが相当であり、このように解する以上、法9条1号の
平均的な損害は、民法416条にいう「通常生ずべき損害」と同義であっ
て、事業者の営業上の利益(逸失利益)が含まれる と解するのが相当であ
る。
・・・
(中略)
・・・
そうすると、法9条1号にいう平均的な損害には、逸失利益が含まれる
と解すべきであって、これと異なる控訴人の見解は、採用することができ
ない。
また、控訴人は、上記平均的な損害に逸失利益が含まれるのは、当該消
費者契約の目的が、他の契約において代替ないし転用される可能性のない
場合に限られるべきであるとして、本件契約は、1人の消費者による解除
があっても、他の消費者との契約を獲得することによって、容易に代替し
て利益を得ることが可能である旨主張するが、前記アで認定・説示したと
おり、本件契約は、不特定多数の顧客に対し、特に定員を限定せずに提供
される定型サービスであるから、特定の顧客が契約を解除した場合、別の
顧客との契約が可能になり、同契約をすることによって、上記解除によっ
て生じた損害が填補されるといった性質の取引ではない。したがって、こ
の点についての控訴人の主張も、採用することができない。
10 条の後段要件
(2) 法10条は、その後段において、消費者契約の条項を無効とする要
の在り方
件として、当該条項が、民法第1条第2項に規定する基本原則、すなわち
3
論点項目
判示内容
信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定める
ところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもので
あるか否かは、法の趣旨、目的(法1条参照)に照らし、当該条項の性質、
契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及
び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべき
であると解される(平成23年判決参照)
。
4
【2】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 6 月 20 日 東京地裁 平24(ワ)11770号
ウエストロー・ジャパン
◇事案の概要: 生命保険契約の契約者兼被保険者である原告が、保険会社であ
る被告に対し、(1) 主位的には、乳がんに罹患してその旨の診断確定がされ、摘
出手術及び乳房再建手術を受けたことにつき、原告被告間の生命保険契約に付さ
れた特定疾病保障定期保険特約、女性特定治療特約及び保険料払込免除特約の適
用があると主張して、各特約に基づく保険金及び各給付金の支払、上記保険料払
込免除特約の適用後に支払った平成22年1月分から平成25年3月分までの保
険料の不当利得に基づく返還、並びに同年4月分以降の保険料支払義務の不存在
確認を求め、(2) 予備的には、上記事実関係による上記各特約の適用が否定され
たとしても、その後の保険期間中に新たに乳がんに罹患してその旨の診断確定が
されたから上記各特約の適用があると主張して、上記と同額の保険金及び各給付
金の支払、上記保険料払込免除特約の適用後に支払った平成22年2月分から平
成25年3月分までの保険料の不当利得に基づく返還、並びに同年4月分以降の
保険料支払義務の不存在確認を求めた事案
論点項目
判示内容
解釈準則に関する イ 原告は、90日条項の文言、趣旨、他の保険会社における支払事由の
規律の要否
定め方などを挙げ、90日条項の文言は平均的顧客の合理的理解によって
もなお多義的であるとして、消費者有利解釈の原則を適用すべきであると
主張する。しかし、一般に同原則が適用される場面があり得る としても、
本件においては、前記(3)で述べたところに従って 本件しおりを併せて読
むことにより、平均的顧客の合理的理解によっても、90日条項について
一義的に解釈することができる のであるから、同原則を適用する前提を欠
くものといえる。
※原告の主張する「消費者有利解釈の原則」は以下の内容。
「消費者有利解釈の原則とは、ある契約条項につき、平均的顧客の合理
的理解によってもなお多義的であるような場合において、顧客にとって
最も有利な内容で合意されたものと解釈する原則をいう。同原則は、明
文の規定はないが、消費者契約法における当然の法理とされている。
」
5
【3】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 4 月 19 日 東京地裁 平23(ワ)17514号
ウエストロー・ジャパン
◆スイス連邦法を準拠法として設立された銀行である被告に口座を開設して金銭
を預託し、被告から投資の勧誘を受け株式を取得した原告らが、同勧誘行為には
適合性原則違反及び説明義務違反の違法があるなどとして、損害賠償を求めた事
案において、本件では、原被告間で本件各口座開設契約に関連して発生する紛争
につき、スイスのチューリッヒの裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする管轄
合意が成立しているところ、原告らの有する資力、本件管轄合意条項について認
識・理解する機会や可能性が十分与えられていたことなどからすれば、本件管轄
合意が著しく不公平、不公正であるとまではいえず、公序法に違反するとはいえ
ない上、消費者契約法の趣旨に照らしても、なお原告らの利益を一方的に害し、
信義則上、原被告間の衡平を損なう程度に原告らの保護法益を侵害するとはいえ
ないから、本件管轄合意は消費者契約法10条にも違反しないとして、訴えを却
下した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
そこで本件管轄合意が、信義則(民法2条1項)に反して消費者の利益
の在り方
を一方的に害するものであるか否かについて検討すると、本件管轄合意の
内容は、確かに原告らに常居所国における訴訟追行を認めないという点で、
原告らに不利益を被らせるものではあるが、原告らの資力からすれば、チ
ューリッヒで訴訟追行をすることが著しく困難で、看過し難い損害を受け
るとは認められないこと 、また、本件管轄合意は、その内容、成立経緯な
どに照らし、被告が、原告らとの間の情報や交渉力の格差を利用して、殊
更原告らに一方的に不利益な内容の合意をさせたなどの事情も認められな
いこと は前記認定2及び3(2)で検討したとおりである。
以上の本件における一切の事情を総合すると、本件管轄合意は、消費者
契約法の趣旨に照らし、なお原告らの利益を一方的に害し、信義則上原告
らと被告との間の衡平を損なう程度に原告らの保護法益を侵害するとはい
えない。
したがって、本件管轄合意は、消費者契約法10条に違反しない。
6
【4】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 4 月 16 日 東京地裁 平24(ワ)17998号
ウエストロー・ジャパン
◇事案の概要: 原告が、別紙物件目録記載の建物(「本件建物」)を賃貸した
被告に対し、賃貸借契約解除に基づき、本件建物の明渡し、未払賃料、本件建物
明渡しまでの約定損害金の支払を求めた(本訴)ところ、被告が、原告に対し、
賃貸借契約の内容に違反してトランクルームを使用させず、本件建物には瑕疵が
あるなどと主張して、賃貸借契約の債務不履行に基づく損害賠償の支払を求めた
(反訴)事案
論点項目
判示内容
「解除に伴う」要
消費者契約法9条1号は、契約解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は
件の要否
違約金を定める条項について規律しているところ、本件契約第21条に基
づく損害金の定めは、本件契約解除そのものによって生じる損害賠償の額
を予定したものではなく、本件契約の終了事由にかかわらず、本件契約終
了後に賃借人が本件建物を明け渡さないことに対する損害金の定めである
から消費者契約法9条1号の適用はなく 、本件契約第21条に基づき、原
告は、被告に対し、本件契約終了の翌日から明渡し済みまで1か月当たり
賃料相当額の2倍である16万円及び諸経費(管理費)5000円の合計
額を請求することができると解される。
7
【5】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 4 月 15 日 東京地裁 平24(ワ)2477号
ウエストロー・ジャパン
◇事案の概要: 原告が、被告に対し、被告が原告を売主とするリース契約に基
づくリース料金の支払を怠ったため、リース会社に残リース料金を代位弁済した
と主張して、代位弁済金額139万1250円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日(平成24年2月12日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合によ
る遅延損害金の支払を求めた(本訴請求)ところ、被告が、上記リース契約の債
務不履行に基づく解除、消費者契約法による取消、特定商取引法に基づくクーリ
ング・オフ、錯誤無効、詐欺取消を主張して、支払義務を争うとともに、原告に
対し、不当利得返還請求権に基づいて、リース契約に基づいて被告がリース会社
に支払った金員及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(平成24年7月12
日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払いを求めた(反
訴)事案
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
被告は、本件リース契約について、消費者契約法による取消の主張をす
方
るが、しかしながら、本件において、被告は事業としては又は事業のため
に契約の当事者になったというべきであって、消費者契約法にいう消費者
(同法2条1項)に該当するとはいえない。
これについて、被告は、本件契約当時、耳つぼマッサージの資格は有し
ていたが、店舗もなく、営業も行っていなかったから事業者ではない(消
費者である)と主張する。しかしながら、前記1(1)の認定事実によると、
被告は、△△のホームページに「認定サロン」と記載されており 、被告本人
の供述によっても、被告は当時、店舗を有していなかったものの、出張の
形式により耳つぼマッサージを行っていたこと 、本件ソフトは、顧客を管
理し、携帯メールの送信や予約の受付などができるものであり、営業用の
ものであること 、STCが作成した「a」の携帯サイトがインターネット
に載った状態が続いていたこと、STCから事業譲渡の通知があるまでの
間、本件リース料金を支払い続けていたことに照らすと、本件リース契約
は、被告が、
「a」の名称で、耳つぼマッサージを事業として行っていくた
めに締結したものと認められるのであって、被告が消費者であるというこ
とはできない。
8
【6】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 3 月 29 日 大阪高裁 平24(ネ)2488号
ウエストロー・ジャパン
◆適格消費者団体である1審原告法人が、1審被告に対し、携帯電話を利用する
通信サービス契約締結時に現に使用等している約款記載の、2年間の定期契約を
契約期間途中に解約する際に解約金を支払う旨の条項は、消費者契約法9条1号
及び10条により無効であるとして、同定期契約を締結する際、同解約金条項を
内容とする意思表示をすることの差止めを求めるとともに、1審被告との間で本
件定期契約を締結し、契約期間途中で解約して解約金を支払った1審原告らが、
本件解約金条項の無効を主張して、不当利得の返還を求めたところ、原審が請求
を一部認容としたため、双方が控訴した事案において、本件解約金額が消費者契
約法9条1号の平均的な損害を超えるものでないことなどからすれば、本件解約
金条項は同号及び10条後段に該当するものではないとして、1審被告の敗訴部
分を取り消し、1審原告らの請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の (2) 法9条1号にいう「平均的な損害」の意義について
ア 法9条1号が、解除に伴う損害賠償の予定等を定める条項につき、解
額」の意義
除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超過する損害賠償の約定を
無効としたのは、事業者が消費者契約において、契約の解除等に伴い高額
な損害賠償等を請求することを予定し、消費者に不当な金銭的負担を強い
ることを許さない趣旨である。
事業者は、契約の相手方の債務不履行があった場合、民法416条によ
り、損害の賠償を求めることができるが、この場合損害の発生及びそれが
賠償範囲にあること(因果関係)を立証しなければならず、その証明の負
担を回避するために、民法420条は、事業者があらかじめ損害賠償額を
予定することを認める。法9条1号は、この予定額が本来認められる損害
額に近いものであることを要請し、定型的な基準として「平均的な損害の
額」を超える違約金等の定めを許さない。
このように、法9条1号は、債務不履行の際の損害賠償請求権の範囲を
定める民法416条を前提とし、その内容を定型化するという意義を有す
るから、同号の損害は、民法416条にいう「通常生ずべき損害」であり、
逸失利益を含む と解すべきである。なお、本件解約金条項が定めるのは、
消費者に留保された解約権の行使に伴う損害賠償の予定であり、債務不履
行による損害賠償の予定ではない。しかし、このような消費者の約定解除
(解約)権行使に伴う損害賠償の範囲も、契約が履行された場合に事業者
が得られる利益の賠償と解され、結局民法416条が規定する相当因果関
係の範囲内の損害と同様であると解される。
イ 同号が、
「平均的な損害」としたのは、消費者契約は不特定かつ多数の
消費者との間で締結されるという特徴を有し、個別の契約の解除に伴い事
業者に生じる損害を算定・予測することは困難であること等から、同一の
区分に分類される多数の同種契約における平均値を用いて、解除に伴い事
業者に生じる損害を算定することを許容する趣旨である。
そして、法9条1号は、
「当該条項において設定された解除の事由、時期
等の区分に応じ」て事業者に生ずべき平均的な損害を算定することを定め
9
論点項目
判示内容
ているから、区分は、当該条項により設定されたもの、すなわち事業者が
定め消費者がこれに同意した契約内容に従うと解すべき である。1審原告
らは、解除の事由、時期等により事業者に生ずべき損害に著しい差異があ
る契約類型においては、適宜同一の区分に分類される複数の同種の契約ご
とに、事業者に生じる損害を算定すべきであると主張する。しかし、法の
文言は前記のとおりであり、当事者が設定した区分を裁判所がさらに細分
化することを認める趣旨であるとは解されない。ただし、その区分の平均
的な損害と比較して、実損害が著しく低額となる例が同区分中に多数生じ
る場合は、そのような区分の定め自体が不当であり、法10条により無効
となるものと解される。
ウ したがって、法9条1号の平均的な損害は、民法416条に基づく損
害の算定方法を前提とし、当該条項すなわち契約に定められた解除事由、
時期等により同一の区分に分類される同種の契約における違約による損害
の平均値を求めることによって算定すべき である。
本件定期契約は、2年間の期間の定めのある契約であり、証拠(乙7)
及び弁論の全趣旨によれば、2年間継続して使用されることを基本的条件
として、基本使用料、通話料等が設定されているものと認められる。本件
定期契約にはもとより契約者数の制限はなく、各通信事業者は、利益を上
げるべくより多くの契約の獲得を目指して競争しており、中途解約者が生
じたことによる損害について、次の契約がこれを埋め合わせるという関係
には立たない。本件解約金条項は2年間という期間を一つの区分とし、そ
の 契約が解約されたことによる損害をてん補するものは本件解約金条項の
ほかにはない ということができる。
(3) 本件定期契約の解約に伴う平均的な損害の算定方法について
2年間を区分とする本件定期契約の解約に伴い1審被告に生じる平均的
な損害は以下のとおり算定するのが相当である。
ア 平均的な損害の算定の基礎となる損害額について
契約締結後、当事者の債務不履行があった場合、相手方の請求できる損
害賠償の範囲は、契約が約定どおり履行されたであれば得られたであろう
利益(逸失利益)に相当する額である。1審被告が2年間の継続契約を期
待して契約を締結し、本件解約金条項を設定したことからして、本件定期
契約の中途解約に伴い1審被告に生じる平均的な損害を算定する際にも、
中途解約されることなく契約が期間満了時まで継続していれば被告が得ら
れたであろう通信料収入等(解約に伴う逸失利益)を基礎とすべき である。
10 条の後段要件
前記のとおり、本件定期契約において、社会通念上著しい長期間にわた
って解約を制限するものではなく (前記(ア)
)
、解約金が法9条1号の平
の在り方
均的な損害を超えるものではない こと(前記(イ))、契約者は、通常契約
と比較した上で、本件定期契約を選択することができ、しかもその場合基
本使用料割引の利益を受けられること(前記(ウ))からすると、本件解約
金条項が、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項であるとは
いえず、法10条後段に該当しない。
10
【7】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年7月 19 日 京都地裁 平 22(ワ)2497 号
判タ 1388 号 343 頁
◆適格消費者団体である原告法人が、被告に対し、携帯電話を利用する通信サー
ビス契約締結時に現に使用等している、2年間の定期契約を契約期間途中に解約
する際に解約金を支払う旨定める契約条項は、消費者契約法9条1号及び10条
により無効であると主張して、同定期契約を締結する際、同解約金条項を内容と
する意思表示をすることの差止めを求めるとともに、被告との間で本件定期契約
を締結し、契約期間途中で解約して解約金を支払った原告らが、本件解約金条項
の無効を主張して、不当利得の返還を求めた事案において、本件解約金条項中、
本件定期契約締結日又は更新日の属する月から数えて23か月目以降に解約した
場合に、平均的損害額を超える解約金支払義務のあることを定める部分は、消費
者契約法9条1号及び同法10条により無効であるとして、同部分の一部差止め
を認めるとともに、同23か月目以降に解約した原告らの請求を一部認容した事
例
論点項目
「平均的な損害の
額」の意義
判示内容
(2) 法9条1号にいう「平均的な損害」の意義について
ア 法9条1号が、解除に伴う損害賠償の予定等を定める条項につき、
解除に伴い事業者に生じる平均的損害の額を超過する損害賠償の約定を無
効とした趣旨は、事業者が、消費者に対し、消費者契約の解除に伴い事業
者に「通常生ずべき損害」
(民法416条1項)を超過する過大な解約金等
の請求をすることを防止するという点にある。したがって、法9条1号は、
債務不履行の際の損害賠償請求権の範囲を定める民法416条を前提と
し、その内容を定型化するという意義を有し、同号にいう損害とは、民法
416条にいう「通常生ずべき損害」に対応するものである。なお、本件
解約金条項が定めるのは、消費者に留保された解約権の行使に伴う損害賠
償の予定であり、債務不履行による損害賠償の予定ではない。しかし、こ
のような消費者の約定解除(解約)権行使に伴う損害賠償の範囲は、原則
として、契約が履行された場合に事業者が得られる利益の賠償と解され、
それは結局民法416条が規定する相当因果関係の範囲内の損害と等しく
なる。したがって、本件解約金条項について法9条1号該当性を検討する
ときも、同号にいう「損害」は上記のとおり解すべきこととなる。
イ また、同号が、
「平均的」という文言を用いたのは、消費者契約は
不特定かつ多数の消費者との間で締結されるという特徴を有し、個別の契
約の解除に伴い事業者に生じる損害を算定・予測することは困難であるこ
と等から、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の契約
における平均値を用いて、解除に伴い事業者に生じる損害を算定すること
を許容する趣旨に基づくものと解される。
「当該条項において設定された解除の事由、時期
そして、法9条1号は、
等の区分に応じ」て事業者に生ずべき平均的損害を算定することを定める
が、上記アの同号の趣旨にかんがみると、事業者が解除の事由、時期等に
よる区分をせずに、一律に一定の解約金の支払義務があることを定める契
11
論点項目
判示内容
約条項を使用している場合であっても、解除の事由、時期等により事業者
に生ずべき損害に著しい差異がある契約類型においては、解除の事由、時
期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約における平均値を用
いて、各区分毎に、解除に伴い事業者に生じる損害を算定すべきである(た
だし、
「解除の事由」により事業者の損害に著しい差異が生ずることは、通
常、考えにくい。
)。
ウ 以上によれば、法9条1号の平均的損害の算定は、民法416条
に基づく損害の算定方法を前提とし、解除事由、時期等により同一の区分
に分類される同種の契約における平均値を求める方法により行うべきであ
る。
(3) 本件定期契約の解約に伴う平均的損害の算定方法について
上記のような考えに基づくと、本件定期契約の解約に伴い被告に生じる
平均的損害の算定方法は次のとおりである。
ア 平均的損害の算定の基礎となる損害額について
契約締結後に一方当事者の債務不履行があった場合に、他方当事者が民
法415条、416条により請求のできる損害賠償の範囲は、契約が約定
どおり履行されたであれば得られたであろう利益(逸失利益)に相当する
額である。したがって、本件定期契約の中途解約に伴い被告に生じる平均
的損害を算定する際にも、上記民法の規律を参照し、中途解約されること
なく契約が期間満了時まで継続していれば被告が得られたであろう通信料
収入等(解約に伴う逸失利益)を基礎とすべきである。
イ 解約に伴う逸失利益の算定方法
証拠(甲3)によれば、本件通信契約の料金体系は、定額制である基本
使用料金と従量制の通信料金を組み合わせたものであり、契約プランの種
別によって基本使用料金の額や通信料金の単価等が異なることが認められ
る。また、契約者は、本件定期契約の契約期間中、自由に契約プランを変
更し、月々に支払う基本使用料金の額及び通信料金の単価等を増減させる
ことができる。したがって、個々の契約者の月々の通信料金等は、加入し
ている契約プランの種別及び通信量等に応じてばらつきがあり、同じ契約
者であっても、契約期間中に一定の変動があることが想定される。このよ
うな本件通信契約における料金体系等を考慮すると、本件定期契約の解約
に伴う逸失利益の算定は、本件定期契約のARPUを基礎として、これに
解約時から契約期間満了時までの期間を乗ずる方法により行うのが相当で
ある。
また、民法の規定により債務不履行に基づく損害賠償請求をする際、当
該債務不履行に起因して債権者が支出を免れた費用等がある場合には、そ
の額を控除して賠償額を算定することとされている。したがって、法9条
1号における平均的損害の算定にあたっても、解約に伴い事業者が支出を
免れた費用を解約に伴う逸失利益から控除すべきである。
・・・(中略)・・・
ウ 本件定期契約における解約に伴う逸失利益の額
・・・(中略)・・・
12
論点項目
判示内容
(イ) ・・・(中略)・・・上記各時点におけるARPUを5000円と
して、本件定期解約の解約に伴う逸失利益を算定するのが相当である。
(ウ) また、上記認定によれば、本件定期契約が1か月間継続する
のに伴い被告に追加的に発生する経費は、多くてもARPUの20%に相
当する額であることが認められるから、同金額を、上記ARPUから控除
して、1か月あたりの被告の解約に伴う逸失利益を算定すべきである。し
たがって、上記逸失利益は、5000円から20%を控除した額である4
000円であり、これを解約時から契約期間満了時までの期間を乗じた額
が、解約に伴い被告に生じる平均的損害となる。
エ 解約時期による区分について
前記イのとおり、1か月あたりの解約に伴う逸失利益に、解約時から契
約期間満了時までの期間を乗じる方法により被告に生じる平均的損害を算
定すると、解約時期の違いによって、平均的損害の額には著しい差異が生
ずる。したがって、前記第3、1、(2)、イのとおり、このような契約類型
においては、解約時期により同一に区分される複数の契約における平均値
を求めることにより、各区分毎に、被告に生ずる平均的損害を算定すべき
と解する。そして、①上記のとおり、本件定期契約の一契約者あたりの1
か月の売上高であるARPU等を基礎に平均的損害を算定すること、②証
拠(甲3、36、乙1、2の1・2、3)によれば、被告は基本使用料金を
月額で設定・表示しており、通信料金等の請求も月毎に行っていることが
認められること、③被告の1か月あたりの解約に伴う逸失利益は4000
円であり、解約時期の違いが1か月の範囲内であれば、被告に生じる平均
的損害の額に著しい差異が生ずるとまでは評価できないこと等を考慮する
と、本件定期契約においては、解約時期を1か月毎に区分して、各区分毎
に、被告に生じる平均的損害を算定すべき である。
オ 更新後について
前記前提事実及び証拠(甲3)によれば、本件定期契約においては、更
新日の属する月に解約の意思表示をしない限り、期間満了日の翌日である
更新日に本件定期契約が更新され、新規に本件定期契約を締結したのと同
様の効果が生じることとなる。したがって、更新後の解約においても、更
新前と同様、被告には契約期間満了時まで契約が継続していれば得られた
であろう通信料収入等を基礎とする逸失利益が認められるから、解約に伴
い被告に生じる平均的損害の算定方法も、更新前後で同様であると解する。
カ 小括
以上によれば、中途解約により被告に生じる平均的損害は別紙2のとお
りであり、本件解約金条項中、①本件定期契約が締結又は更新された日の
属する月から数えて22か月目の月の末日までに解約がされた場合に解約
金の支払義務があることを定める部分は有効であるが、②本件定期契約が
締結又は更新された日の属する月から数えて23か月目以降に解約した場
合に別紙2の「平均的損害の額」欄記載の各金額を超過する解約金の支払
義務があることを定める部分は、上記超過額の限度で、法9条1号によ
り、無効である。
13
【8】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 3 月 28 日 東京高裁 平24(ネ)5480号
ウエストロー・ジャパン
◆適格消費者団体である控訴人が、不動産賃貸業等を営む被控訴人が不特定かつ
多数の消費者との間で建物賃貸借契約を締結又は更新する際に使用している契約
書には、更新料支払条項、契約終了後の明渡遅滞の場合の損害賠償額の予定を定
めた条項が含まれているが、これらの条項は消費者契約法9条1号又は10条の
規定に当たるとして、被控訴人に対し、当該契約の申込み又は承諾の意思表示の
停止及び契約書用紙の破棄並びにこれらを従業員に周知徹底させる措置をとるよ
う求めた事案において、本件更新料支払条項が消費者契約法9条1号又は10条
により無効であるとは認められない上、本件倍額賠償予定条項に、同法9条1号
を適用することはできず、また、同条項が同法10条に該当するとはいえないか
ら、各請求を棄却した原判決は相当であるとして、控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
控訴人は、これらの条項は、賃借人にのみ賃料等相当額の二倍もの損害
の在り方
金の支払という極めて大きな不利益を強いるものであり、賃借人は、倍額
相当額以下の損害しか発生していないことを立証しても免責されないもの
であって、民法一条二項に規定する基本原則に反して消費者である賃借人
の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法一〇条に該当し、
無効であると主張する。
しかし、本件倍額賠償予定条項は、賃貸借契約が終了しているにもかか
わらず、賃借人が当該契約の目的たる建物を明け渡さないために賃貸人が
その使用収益を行えない場合に適用が予定されている条項であって、賃貸
借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの
遅延によって賃貸人に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有する
ものである。このように、一方当事者の契約不履行が発生した場合を想定
して、その場合の損害賠償額の予定又は違約金をあらかじめ約定すること
は、消費者契約に限らず、一般の双務契約においても行われている ことで
あって、その適用によって賃借人に生じる不利益の発生の有無及びその範
囲は、賃借人自身の行為によって左右される性質の ものである。これらの
ことからすれば、本件倍額賠償予定条項は、賠償予定額が上記のような目
的等に照らして均衡を失するほどに高額なものでない限り、特に不合理な
規定とはいえず、民法一条二項に規定する信義誠実の原則に反するものと
は解されない。
14
【9】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 2 月 27 日 東京地裁 平23(ワ)6307号
ウエストロー・ジャパン
◇事案の概要: 被告が補助参加人から宝飾品を購入する資金として、銀行から
金員を借り受けるに当たり、株式会社アプラスフィナンシャルが、被告との間の
保証委託契約に基づき、被告の上記借受金債務を連帯保証した上、これを代位弁
済したことにより、被告に対し、求償権を取得したとして、同社の権利義務を承
継した原告が、被告に対し、上記保証委託契約に基づき、求償金351万551
7円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案
論点項目
判示内容
不実要件の在り方 被告は、本件販売契約における本件商品の販売価格は市場価値の2倍ない
し5倍であり、補助参加人は、本件販売契約締結に際し、商品の質及び価
格に関する重要事項につき不実の告知をした(消費者契約法4条1項1号)
旨主張する。
しかしながら、商品の小売価格は、原価(コスト)、需要、競争等の種々
の要素により左右されるものであり、特に、宝飾品については、一般に使
用価値に基づく客観的な価格設定は想定し難く、主観的かつ相対的な価値
判断によって価格設定がされる ものであって、買取業者や宝石の鑑別業者
が査定した価格が、直ちに実際の小売価格の相場を示すものであるとも言
い難い ことからすれば、売主が、同種商品が小売市場において一般的にど
のような価格で販売されているかという事実につき、買主に殊更誤認させ
るような行為をしたような事情がない限り、単に上記の査定価格と販売価
格(小売価格)との間に差異があることをもって、売主が、商品の質及び
価格に関する重要事項につき不実の告知をしたということはできない。
15
【10】
裁判例
出 典
平成 25 年 1 月 25 日 大阪高裁 平24(ネ)281号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
判示内容
「平均的な損害の (2) 消費者契約法九条一号該当性
額」の意義
ア 「平均的な損害」について
消費者契約法九条一号にいう「平均的な損害」とは、同一事業者が締結
する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均
的な損害の額を指し、具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分
に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の
額の平均値をいうものと解される。
本件互助契約は、消費者が将来行う冠婚葬祭に先立って、所定の月掛金
を前払いで積み立てることにより、消費者は冠婚葬祭の施行を受ける権利
を取得し、控訴人Y1社は、消費者の請求により冠婚葬祭の施行をする義
務を負う役務提供契約である。・・・(中略)・・・
そうすると、控訴人Y1社は、本件互助契約の締結により冠婚葬祭に係
る抽象的な役務提供義務を負っているものの、消費者から冠婚葬祭の施行
の請求を受けて初めて、当該消費者のために冠婚葬祭の施行に向けた具体
的な準備等を始めるものである。
以上によれば、具体的な冠婚葬祭の施行の請求がされる前に控訴人Y1
社との間の各互助契約が解約された本件においては、損害賠償の範囲は原
状回復を内容とするものに限定される べきであり、具体的には契約の締結
及び履行のために通常要する平均的な費用の額が、
「平均的な損害」となる
ものと解される。そして、上記の平均的な費用(経費)の額というのは、
現実に生じた費用の額ではなく、同種契約において通常要する必要経費の
額を指すものというべき であり、ここでいう必要経費とは、契約の相手方
である消費者に負担させることが正当化されるもの、言い換えれば、性質
上個々の契約(消費者契約)との間において関連性が認められるものを意
味するものと解するのが相当である。
イ 具体的な検討
・・・
(中略)
・・・
(ア) 会員の募集・管理に要する人件費 ・・・
(中略)
・・・これらの
経費は、本件互助契約を締結し、その後解約した一人の消費者のみならず、
その他の会員や会員以外の顧客の関係でも生じ得る一般的な費用であっ
て、個々の契約との関連性は認められないか、認められるとしても極めて
希薄 である。したがって、これらの経費(人件費)は控訴人Y1社の事業
の運営にかかる一般的な経費であって、
「平均的な損害」に含まれる上記の
意味の必要経費には当たらないというべきである。
・・・
(中略)
・・・
(ウ) 会員管理に要するその他の費用
・・・
(中略)
・・・
「集金費用」
、
「a誌作成・送付費用」及び「入金状況
通知」を除くものは、控訴人Y1社が、代理店に対しインセンティブを与
えるため、互助会の経営破綻リスクに備えて会員を保護するため、あるい
は互助会組織を維持運営するためといった目的の実現に必要であると判断
16
論点項目
判示内容
して支払をしているものであり、個々の契約との関連性が認められない 一
般的な経費であるから、上記の意味の必要経費に当たらない。
他方、
「集金費用」、
「a誌作成・送付費用」及び「入金状況通知」につい
ては、個々の契約との関連性が認められ、会員の管理に要する費用として、
同業他社でも通常支出をしているものと考えられるから、上記の意味の必
要経費に当たる。
17
【11】
裁判例
出 典
要 旨
平成 25 年 1 月 15 日 東京地裁 平23(ワ)27349号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、探偵業を営んでいた被告から、探偵業を始めれば被告が仕事を紹介す
ること、探偵業が高収入であること等の説明を受け、自ら探偵業を営むことを決
意して、被告との間で業務支援契約を締結し、また、探偵業のホームページ作成
に係る委託契約を締結して、それぞれ金員を支払ったところ、被告の本件説明は
事実に反していたとして、被告に対し、主位的に、不当利得の返還を求め、予備
的に、被告の虚偽説明により契約締結についての判断を誤り、過大な費用を支払
った等として、損害賠償を求めた事案において、被告は、探偵業の業務の実情や
収入等につき十分に説明する信義則上の義務を負っていたところ、同義務を尽く
さなかったとした上、本件ホームページ作成委託契約は、被告の説明義務違反の
有無という観点から本件業務支援契約と一体といえるとして、本件各契約の締結
に際して適切な説明をしなかったことによる被告の損害賠償責任を認めた上で、
3割の過失相殺をし、請求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り (4) 原告は、本件各契約について、消費者契約法4条1項に基づく取消し
方
を主張する。
しかしながら、原告は、探偵業を開業することを前提として本件各契約
を締結 したのであるから、消費者契約法2条1項にいう「事業として又は
事業のために契約の当事者となる場合の個人」に該当する。したがって、
本件各契約について、消費者契約法は適用されない。
情報提供義務の在 原告は、昭和59年生の女性であり、幼稚園に勤めていた経験はあるもの
り方
の、本件契約当時、十分な社会経験を有していたとはいえず 、探偵業を営
むとすれば 被告やA(ないしb株式会社)の支援を頼みにせざるを得ない
状況にあった というべきところ、他方で 、探偵業の実情を十分に理解して
いたことをうかがわせる事情は見当たらない 。なお、原告は、本件契約締
結以前に、b株式会社との間で、託児所事業を共同で営むための出資をし
て いたが、これも当初の予定どおりに進展せず、紛争を生じていることは
上記1(1)アのとおりである。
被告は、自らも本件契約と同 様の業務支援契約を締結し、探偵業を営ん
でいた のであるから、上記のような状況にあった原告 との間で、探偵業の
開始を前提とする本件契約を締結するに際しては、探偵業の業務の実情や
収入などについて十分に説明する信義則上の義務を負っていた というべき
である
18
【12】
裁判例
出 典
平成 24 年 12 月 17 日 東京地裁 平23(ワ)1756号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
①10 条の前段要
件の在り方
②不当条項リスト
追加の要否・在り
方(事業者が正当
な理由なく自己の
債務を履行しない
ことを許容する規
定)
判示内容
(3) この前提に立って、本件免責条項が任意規定による場合に比して、原
告に不利益を課すものであるか否か(消費者契約法10条前段)を検討す
る。
本件免責規定は、原告が第三者にカードを使用された場合に生じた損害
を原告に帰責するか否かの要件を定める ものであるから、その場合の民法
の一般原則による規律を検討するに、原告は、被告からその所有に係るカ
ードを一定の目的の下に貸与されており、カード及び暗証番号について善
良な管理者の注意をもって保管する義務を負うものと解されるところ、被
告が原告に対し、カードが盗取され暗証番号が冒用された場合の損害賠償
請求をするためには、被告において債務不履行の事実(カード及び暗証番
号の保管・管理についての善管注意義務違反の事実)を主張・立証する必
要があり、原告が自己に責に帰すべき事由がないことを主張・立証した場
合には、この請求を免れることとなる。他方、本件において、カードロー
ン マイベスト契約及びDC.VISAカード契約における各会員規約上
は、本件帰責条項により、被告においてカードが使用され暗証番号が入力
されたことにより損害が発生したことを主張・立証し、本件免責条項によ
り、原告において自己に故意もしくは過失又は責任がないことを主張・立
証することになるから、結局、本件免責が、任意規定による場合に比して、
消費者である原告に不利益を課すものであると断ずることはできない。
10 条の後段要件 (4) この点を措くとしても、暗証番号は、通常、カードの保有者のみが知
の在り方
り得るものであり、暗証番号の管理に係る情報は原告に集中しているから、
借入に当たり暗証番号が入力された場合には、原告にその事情を説明させ、
暗証番号の管理に過失がなかったことを立証させるのが公平にかなうこと
からすると、本件免責条項を定めた上記各会員規約が、信義則に反して消
費者の利益を一方的に害するものとはいえず、消費者契約法10条1項後
段の要件を充足するともいえない。
19
【13】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 12 月 7 日 大阪高裁 平24(ネ)1476号
判時 2176 号 33 頁①事件
◆被控訴人が不特定多数の消費者との間で携帯電話利用サービス契約を締結する
際に現に使用し今後も使用するおそれのある解約金条項は、消費者契約法9条1
号又は10条により無効であるとして、適格消費者団体である控訴人法人が、当
該条項等の内容を含む契約締結の意思表示の差止めを求めるとともに、被控訴人
との間で本件解約金条項を含む契約を締結し、同条項に基づく違約金を被控訴人
に支払った控訴人らが、同条項の無効を前提に不当利得の返還等を求めたとこ
ろ、原審で各請求を棄却されたため、控訴した事案において、認定事実によれ
ば、当初解約金条項に基づいて支払義務があるとされる金額は、本件契約の中途
解約による消費者契約法9条1号所定の「平均的な損害」を上回るものではない
から、本件当初解約金条項が同法9条1号に該当するとはいえないなどとして、
原判決を維持し、控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の (5) 平均的損害について
額」の意義
ア 基本使用料金の中途解約時から契約期間満了時までの累積額 (逸失利
益)については、上記引用の原判決説示のとおり、これを「平均的損害」の
算定の基礎とすることができない というべきである。
イ そこで、基本使用料金の割引分の契約期間開始時から中途解約時まで
の累積額について検討する。
本件契約は、FOMA サービス契約のうち、契約期間を 2 年間の定期契約と
した上で、基本使用料金を標準基本使用料金の半額とし(割引後基本使用
料金)
、2 年の中途で解約した場合には、一定の例外を除き、解約金として
9975 円を支払わなければならないという約定を含むものである。
ところで、
被控訴人は、電気通信事業会社として、上記のような諸要素の考慮の上、
本件契約という商品構成を設計したものと考えられるから、そこでは、当
該商品の利用者数、途中解約者数等を想定した上で、提供可能な基本使用
料金の額、途中解約があった場合の利益の補完手段等を検討しているであ
ろうことは当然である。そうすると、基本使用料金、定期契約の期間、解
約金などが一体となって、いわばこれらのバランスの上のこのような商品
が成り立っているものであり、これらを個々の要素に切り離して別々に吟
味することは相当ではないというべきである。したがって、上記法の趣旨
を踏まえても、上記引用の原判決説示のとおり、基本使用料金の割引分の
契約期間開始時から中途解約時までの累積額は、法 9 条 1 号に定める「平
均的損害」の算定の基礎とすることができる。 ・・・(中略)・・・
しかしながら、定期契約期間である 2 年間を通じて使用するのでなけれ
ば、本来は標準基本使用料金によるプランを適用すべきであったのである
から、基本使用料金の割引分は、もともと減額されなかったはずの減額分
を取り戻すというものであって、損害は現実に発生している というべきで
ある。また、上記のとおり、本件契約は、基本使用料金、定期契約の期間、
解約金などが一体となって構成された商品というべきで、商品としては 2
年の期間全体における利益を考えなければならないのであって、個々の時
点における利益と損害とを対比するのは相当ではない。
※なお、更新後の解約金条項についても同様に判断されている。
20
【14】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 11 月 30 日 東京地裁 平23(ワ)6954号
ウエストロー・ジャパン
◆被告所有の本件土地を賃借している原告が、賃貸人である被告に対し、本件賃
貸借契約の更新における契約締結上の過失に基づく損害賠償及び賃料の二重払い
に係る不当利得の返還等を請求した(本訴)ところ、被告が、これらをいずれも
否定した上、原告に対し、本件賃貸借契約の更新料を請求した(反訴)事案にお
いて、本件賃貸借契約の更新の際、原告の主張するような契約締結上の過失や不
法行為の事実があったとは認められないが、賃料二重払いの事実は認められると
して、本訴請求を一部認容し、また、当事者の合理的な意思解釈としては本件更
新時にも更新料を支払う旨の合意があるものと認め、法定更新の際にも合意更新
と同様に更新料は発生する等とした上で、鑑定書により更新料の価格を認定し、
反訴請求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
①10 条の前段要
原告は本件契約の更新料の発生について、消費者契約法10条や信義則
件の在り方
違反を主張するが、本件合意は調停条項という通常の書面よりも信用性の
②10 条の後段要 高い書面によって意思確認されているものであるので、いずれも採用でき
件の在り方
ない。
21
【15】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 11 月 27 日 高松高裁 平24(ネ)339号
ウエストロー・ジャパン
◆携帯電話会社である被控訴人と携帯電話の利用契約を締結した控訴人が、割引
サービスにおける解約金の説明が不利益事実の不告知に当たり、消費者契約法4
条2項に該当し、契約を取消す等と主張して、被控訴人に支払った解約金の返還
を請求した事案において、本件契約当時配布されたガイドブックや被控訴人が控
訴人に送付した本件契約締結確認文書等には、注意事項として、本件解約金の説
明が記載されており、また、少なくとも、本件契約締結に至る勧誘、説明の際、
被控訴人が控訴人に対し、本件契約金について故意に告知しなかったとの事実を
認めることも、被控訴人のガイドブックの記載が、本件解約金について故意に誤
認させ、故意に不利益事実を告知しないものであるとまでいうことはできないか
ら、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるとして、控訴人の控訴を棄却し
た事例
論点項目
判示内容
勧誘要件の要否・
新聞広告は本来、不特定多数向けにサービスを広告するものにすぎない
在り方
から、本件契約締結に至る店頭ないし電話での説明として、被控訴人が上
記新聞広告を積極的に使用してこれに基づいて説明したなどの事実が認め
られない以上、仮に、控訴人の主観として、上記新聞広告のみを信頼して
本件契約の内容を判断したとしても、客観的にみて、被控訴人が上記広告
をもって特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思形成に直接に影
響を与えたなどということはできない。
22
【16】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 11 月 12 日 大阪地裁 平23(ワ)13904号
判タ 1387 号 207 頁
◆適格消費者団体である原告が、不動産賃貸業者である被告の使用する賃貸借契
約書の条項は消費者契約法9条又は 10 条に該当するとして、同契約書による意思
表示の差止め、契約書用紙の破棄並びに差止め及び契約書破棄のための従業員へ
の指示を求めた事案において、本件契約条項のうち、成年被後見人及び被保佐人
の開始審判や申立てがされた場合に賃貸人が契約を解除できる旨の条項は、消費
者契約法 10 条に該当すると認められるとして、同契約条項による意思表示の差止
め、同意思表示が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の破棄を認め
たものの、指示請求やその余の契約条項に係る請求については、これを認めなか
った事例
論点項目
①10 条の前段要
件の在り方
②10 条の後段要
件の在り方
判示内容
a 本件損害金条項は、契約終了後の明渡義務の履行が遅滞した場合の損害
賠償額の予定であって、具体的な損害の発生や金額の主張立証を要せずに
賃借人に対する損害賠償を可能とする点において、任意規定の適用による
場合に比べ、消費者である賃借人の義務を加重 するものといえる。
よって、本件損害金条項は、法 10 条前段に該当する。
b 本件損害金条項の法 10 条後段該当性、すなわち本件損害金条項が信義
則違反に当たるかどうかを検討するには、本件損害金条項が適用されるの
は、賃借人が、賃貸借契約の終了にもかかわらず、明渡義務という基本的
な義務の履行を怠っている場合であることを前提としなければならない。
賃借人が明渡義務を怠っていながら、本件損害金条項が適用されないと
すると、賃借人は、基本的な義務を怠っているにもかかわらず、契約締結
期間中と何ら変わらない経済的負担によって賃借物件の利用を継続できる
ことになり、何ら明渡義務の懈怠に対する不利益がない以上、明渡義務の
履行促進が期待できず不合理 である。
また、賃借人は、本件損害金条項の適用を回避するには、明渡しという
基本的義務を履行することで足りる。他方、賃貸人は、賃借人の明渡義務
の履行が懈怠されている場合には、賃借人の明渡しのために相当の費用及
び時間をかけて訴訟手続及び強制執行手続をとらなければならず、その費
用の回収も確実とはいい難く、回収に至るまでの時間を金額的に評価する
と相当なものになることは容易に想定され、賃貸人に通常生ずべき損害は
賃料相当額にとどまるものではない。
以上によれば、本件損害金条項において、賃料の 2 倍の損害金を損害賠
償額の予定として定めることは、信義則に反するとはいえず、本件損害金
条項は、法 10 条後段に該当しない。
①10 条の前段要
件の在り方
②10 条の後段要
件の在り方
ウ 本件旧契約書特約事項 6 項(催告手数料)について
(ア) 法 10 条該当性
a 本条項は、債務不履行の賃借人に対する催告の費用を賃借人に対して負
担させ、それもその負担を定額とするものであり、実際に催告に要した費
用が 3150 円を下回る場合には、賃借人は本来支払う必要のない金員を支払
うことになるから、民法の規定が適用される場合に比べて賃借人の義務を
23
論点項目
判示内容
加重する条項といえる 。
したがって、本条項は法 10 条前段に該当する。
b 本条項の法 10 条後段該当性を検討するに当たっては、本条項が適用さ
れる場面が、賃借人が賃料債務という賃貸借契約における基本的義務の履
行を怠っている場面であることを前提としなければならない。賃貸人は、
催告の実費を賃借人に請求するには、電話代、郵送料、交通費などのコス
トのみにとどまらず、その証憑書類を確保し、回収まで保存するなどのコ
ストも必要となる のであって、これらのコストは膨大なものとなり、債務
の履行を受けていない立場であるのに、過大な負担を強いられることとな
る。他方、賃借人は、基本的義務である賃料支払を履行期までにすれば、
本条項の適用を免れる し、その金額も不相当に高額とまではいえない。
以上を総合考慮すると、本条項は、信義則に反するものではなく、法 10
条後段に該当しない。
①10 条の前段要 エ 本件旧契約書特約事項 9 項(クリーンアップ代)について
件の在り方
(ア) 法 10 条該当性
②10 条の後段要 a 民法の規定によれば、賃借物件の自然損耗や通常の使用にかかる損耗、
件の在り方
いわゆる通常損耗の発生は、賃貸借契約の性質上当然に予定されており、
その回復費用は賃料に含まれているから、原則として賃貸人が負担すべき
である。これに対し、本条項は、賃借物件の清掃という通常損耗の回復費
用を賃借人に負担させるものであるから、法 10 条前段の民法の規定の適用
による場合に比べて消費者の義務を加重するものに該当 する。
b 本件新契約書は、別紙 AKI サービスマンションシステム契約書のとお
り、貸主借主負担表において、清掃作業のうち、フローリングのワックス
がけなどが貸主の費用負担、借主が通常の清掃を実施している場合の専門
業者によるハウスクリーニングクリーンアップ代が借主の費用負担と明示
しているから、賃借人にとって、クリーンアップ代の支払によって負担す
る部分について明確に認識することができる 。また、本条項の内容をみる
と、クリーンアップ代の金額が賃借物件の床面積に応じた定額 とされてい
る。本条項が特約事項として本件新契約書に記載されれば、賃借人は、賃
料に加え、クリーンアップ代を負担することを明確に認識して契約を締結
することになり、このような合意が成立する場合には、賃料から上記クリ
ーンアップ代の回収をしないことを前提に賃料額が合意されているとみる
のが相当 である。また、本条項を適用すると、賃借物件の清掃実費によっ
ては、賃借人が支払う必要のない金員を支払う不利益を被る可能性もある
一方で利益を享受する可能性もあるが、クリーンアップ代の金額が概ね 1
㎡当たり 1000 円前後であることからすると、クリーンアップ代が不相当に
高額にすぎるということはできず、賃借人が不利益を被る可能性は低い と
いうことができる。
そうすると、本条項が本件新契約書に特約事項として付加される場合に
は、賃借人は、クリーンアップ代によって負担される清掃作業及び金額を
認識して合意 することができ、その 金額の程度からしても過重な負担とは
いえない ことを考えると、本条項が信義則に反して消費者を一方的に害す
るとまではいえない。
よって、本条項は法 10 条後段に該当しない。
24
【17】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 10 月 25 日 東京高裁 平24(ネ)2459号
判タ 1387 号 266 頁
◆Yとの間で医療保険契約等を締結した保険契約者兼被保険者であるXが、本件
各契約の存在確認を求めたのに対し、Yが、本件各契約は保険料未払のため各保
険約款の無催告失効条項により失効したと主張し、さらにXが、本件各失効条項
は消費者契約法10条に反し無効であると反論したところ、最高裁が、保険料支
払債務の不履行があった場合、Yが保険契約者に対して契約失効前に保険料払込
みの督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用を確実にして本件約款を適
用したならば、本件各失効条項は同法10条に反しないと解されるとして、本件
運用の確実性等につき審理させるべく本件を差し戻した差戻後控訴審の事案にお
いて、Yでは、本件各契約中で保険料の支払を怠った保険契約者の権利保護のた
めの配慮がされている上、保険料払込みの督促を行う態勢が整えられ、かつ、そ
の実務上の運用が確実にされていたといえるから、本件各失効条項が消費者契約
法10条に反して無効とはいえないなどとし、請求を棄却した一審判決を相当と
して、控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
被控訴人においては、本件各保険契約締結当時、同契約の中で保険契約
の在り方
者が保険料の支払を怠った場合についてその権利保護のために配慮がされ
ている上、保険料の払込みの督促を行う態勢が整えられており 、かつ、そ
の 実務上の運用が確実にされていた とみることができるから、本件失効条
項が信義則に反して消費者の利益を一方的に奪うものとして消費者契約法
10条後段により無効であるとすることはできない。
25
【18】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 9 月 24 日 東京地裁 平24(ワ)11456号
ウエストロー・ジャパン
◆原告と分離前被告A及び被告Y2との間で、原告を貸主として、本件建物を賃
貸する旨の本件賃貸借契約をしたところ、本件賃貸借契約が債務不履行解除によ
り終了したことに基づき、被告Y2及び本件賃貸借契約に基づく被告Y2の債務
を連帯保証した被告Y1に対し、連帯して、約定使用損害金及び未払賃料等の支
払を求めた事案において、更新料について新家賃の1か月分とする旨の本件契約
書を消費者契約法10条により無効とすることはできない上、借地借家法30条
にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利な定めである
ということもできないとして、また、本件の約定使用損害金の定めが消費者契約
法9条1号により無効であるとは言えず、かつ、消費者である被告らに一方的に
不利益を課すことが明らかとは言い難く、消費者契約法10条により無効である
とも言えない等として、被告らの主張を排斥し、原告の請求を全部認容した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の そして、上記平均的な損害及びこれを超える部分については、事実上の推
額」の立証責任の 定が働く余地があるとしても、基本的には、約定使用損害金の全部又は一
在り方
部が平均的な損害を超えて無効であると主張する賃借人において主張立証
責任を負うものと解すべき である(最高裁平成18年11月27日第二小
法廷判決・民集60巻9号3597頁参照。)。
10 条の後段要件 (3) また、賃借人は、賃貸借契約の解除がされた場合、目的物の返還義務
の在り方
を負うものであるにもかかわらず、解除された後も賃料に相当する額の使
用損害金を支払いさえすれば、従前と同様の使用収益が可能となることは
賃貸人にとっては不合理な事態と言わざるを得ず、他方、賃貸借契約が解
除された場合、賃料の倍額程度の使用損害金を支払わなければならないと
されたならば、賃借人にとっては適時の返還義務の履行の誘引となり、し
かも、返還さえすれば、賃借人は以降の使用損害金の支払義務を免れると
いう関係にあるから、本件における約定使用損害金の定めが、消費者であ
る被告らに一方的に不利益を課すことが明らかとは言い難く、消費者契約
法10条により無効であるとも言えない。
26
【19】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 9 月 13 日 東京地裁 平22(ワ)31257号
ウエストロー・ジャパン
被告から、原告が、訪問販売により、アルカリイオン整水器等を買い受けたと主
張されている11の取引について、原告が、被告に対し、その代金相当額(64
8万5000円)につき不当利得返還請求又は不法行為若しくは債務不履行に基
づく損害賠償請求をするとともに、被告により、原告の預金口座からの金員の不
当利得(2口合計198万円)及びアルカリイオン整水器のメンテナンス料名下
の不当利得(100万円)があったとして、原告が、被告に対し、それらについ
て不当利得返還請求をした事案
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関
原告は、上記事由のほかに、被告の従業員は、原告の判断能力及び財産
する一般規定(適 管理能力の不足に乗じて、健康な成人男性である原告には不必要な商品又
合性原則、状況の は必要な量を超える商品の購入を勧誘し、これを購入させているから、適
濫用、暴利行為等) 合性に反する勧誘であり、消費者である原告の判断力の不足に乗じた取引
の勧誘をしていることにもなると主張する。
そこで、この点についてさらに検討するに、原告には、現在、本件診断
が下されており、それによれば、軽度の精神遅滞 と認められ、表面的な意
思の疎通はできるものの、社会生活状況に即した合理的な判断を下す能力
及び責任判断能力は障害されており、自己の財産を管理する能力には制限
がある ものとされている。原告のこれまでの生活状況等や被告との本件取
引後に原告が脳障害を発症させた事実も窺われない本件事案に照らせば、
本件診断結果は、被告との取引が開始される前から存続していたものと優
に推認されるものであり、したがって、同取引の際にも、被告の訪問販売
員の勧誘の際の説明や文言を合理的に判断する能力は欠けていたとみら
れ 、また、同取引に関する自己の意思を的確に同販売員に対し表明できな
いまま、被告の従業員の勧誘を断りきれずにこれを受け入れてしまったも
のと推認するに難くない。このことは、被告との取引が開始される前の原
告の生活状況に照らせば、それまで値段の高い商品を購入した経験もみあ
たらない 原告が、被告の従業員の訪問販売を受けて、自らの単身生活には
必要であるとも思われない高価な寝具、空気清浄機、アルカリイオン整水
器、アクセサリー等を次々に購入 している事実や、原告が、判で押したか
のように、被告との取引の際に作成した確認書(乙4、7、10、17、2
0、22、26、29)記載の19の質問事項のうち18のそれの回答欄
の「はい」の印字に丸囲みし、
〈クーリングオフのお知らせ〉欄の箇所に全
く同じ文言である「口頭で説明をうけました」と自書しており、そこに 被
告の担当従業員の誘導がされた形跡 が残されていること、原告は、父親が
死亡した後、特に必要性もみあたらないのに新聞勧誘員の勧誘に応じて新
聞三社から新聞を購読していた時期があったことからも裏付けられるとい
うべきである。
以上によれば、原告には、被告との取引に際して、合理的な判断をする
ことができる能力や自己の意思を的確に表明する能力が不足していること
は明らかであるから、被告の原告に対する本件訪問販売取引の勧誘行為は、
適合性原則に違反するものであることが明らかである。そして、被告の担
27
論点項目
判示内容
当従業員は、原告との取引の際、原告の判断能力等の不足を容易に知り得
たものと推認できる。
したがって、被告の従業員による原告に対する本件訪問販売取引は不法
行為を構成する。したがって、被告は、民法 715 条に基づき、上記取引に
より原告に生じた損害について損害賠償責任がある。
28
【20】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 7 月 10 日 東京地裁 平24(レ)9号
ウエストロー・ジャパン
◆外国語を使用する幼稚園類似の施設を経営する被控訴人との間で、控訴人の長
男を同施設に通園させるための在籍契約を締結した控訴人が、授業料を支払った
後に国外転勤となったので、授業開始日前に同契約を解約したとし、かつ、一旦
支払われた授業料は授業開始前でも返還しない旨の特約は無効であるとして、被
控訴人に対し、授業料の返還等を求めたところ、請求が棄却されたことから、控
訴した事案において、本件不返還特約は、本件在籍契約と同種の消費者契約の解
除に伴い事業者に生じるべき平均的な損害の額を超える部分については無効とな
るところ、本件施設においては、授業料払込後、授業開始前の期間に在籍契約が
解除される場合があることは織り込み済みであり、授業開始日前に解除の意思表
示がなされた本件においては、本件施設に生ずべき平均的な損害は存在せず、本
件不返還特約は全て無効であるとして、原判決を取り消し、控訴人の請求を認容
した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
本件在籍契約の解除に伴う平均的な損害について検討するに、在籍契約
額」の意義
の解除に伴い本件のような施設に生ずべき平均的な損害とは、1人の生徒
についての在籍契約が解除されることによって当該施設に一般的、客観的
に生ずると認められる損害をいうものと解される。
・・・
(中略)
・・・ したがって、本件施設が在籍者を決定するに当たっ
て織り込み済みのものと解される在籍契約の解除、すなわち、生徒が当該
施設に通園することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点より
も前の時期における解除については、原則として、当該施設に生ずべき平
均的な損害は存しないものというべきであり、当該在籍契約に基づいて納
付された授業料は、原則として、その全額が当該施設に生ずべき平均的な
損害を超えるものというべきである。そして、本件施設のようなインター
ナショナルスクール等においては、その第1学期が9月1日に開始される
ものであるから、少なくとも、第1学期の開始日である同日以降は、入園
申込者が特定のインターナショナルスクール等に在籍することが高い蓋然
性をもって予測されるものというべきである。そうすると、本件在籍契約
の解除の意思表示がその前日である8月31日までにされた場合には、原
則として、本件施設に生ずべき平均的な損害は存在しないものであって、
本件不返還特約は全て無効となるというべきである。
29
【21】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年7月5日 東京地裁 平 22(ワ)33711 号
判タ 1387 号 343 頁
◆不動産賃貸業等を営む被告が不特定かつ多数の消費者との間で建物賃貸借契約
を締結又は更新する際に使用している契約書には、更新料支払条項、契約終了後
の明渡遅滞の場合の損害賠償額の予定を定めた条項が含まれているが、これらの
条項は消費者契約法9条1号又は10条の規定に当たるとして、適格消費者団体
である原告が、被告に対し、当該契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及び契
約書用紙の破棄並びにこれらを従業員に周知徹底させる措置をとるよう求めた事
案において、本件更新料支払条項が消費者契約法9条1号又は10条により無効
であるとは認められない上、本件倍額賠償予定条項に、同法9条1号を適用する
ことはできず、また、同条項が同法10条に該当するとはいえないとして、各請
求を棄却した事例
論点項目
10 条の後段要件
の在り方
判示内容
イ 消費者契約法10条後段該当性
(ア) 賃貸借契約において、賃借物件の明渡しが遅滞することにな
った場合、賃貸人が明渡予定日を前提に当該物件につき新たな賃貸借契約
を締結していた時には、新賃借人に対する引渡債務の履行が遅滞すること
により、賃貸人は、入居の準備が整うまでの期間に係る新賃借人の宿泊費
又は代替物件の使用料等の支払を余儀なくされる場合があることが優に想
定されるところである。さらに、相当期間内に任意の明渡しが見込めない
場合には、賃貸人は債務名義を取得するために弁護士費用を含めて相当の
費用と時間をかけて訴訟手続等をとる必要があり、その後の強制執行手続
においても一定の執行費用を要することになるが、これらの費用を全て回
収できるわけではない。そして、これらの損害の中には本件特別損害賠償
条項によって填補可能な部分もあるが、その立証責任は賃貸人側にあり、
現実の填補を確保するための時間と費用も無視し得ない。
また、賃借人が契約期間中と同程度の経済的負担で賃借物件の使用を継
続できるとすることは、一定の要件を満たして契約が終了したにもかかわ
らず、賃借人を事実上従前と同様の経済的状況に置くことになり、返還義
務の履行を促すことができないことは明らかである。
そうすると、予定される損害賠償額を、契約期間中において毎月支払う
こととされていた賃料その他の付随費用の合計額を超える金額とすること
は、賃貸人に生ずる損害の填補としての側面からも、また、契約終了時に
おける明渡義務の履行を促進する機能としての側面からも、相応の合理性
を有するということができる。
他方、消費者である賃借人にとっても、契約終了に基づく明渡義務とい
う賃貸借契約における一般的義務を履行すればその適用を免れるのである
から、賃料等の1か月分相当額を上回る損害金を負担することとなっても
直ちに不合理であるともいえない。
以上の諸点に鑑みると、建物賃貸借契約書に記載された契約終了後の目
的物明渡義務の遅滞に係る損害賠償額の予定条項については、その金額が、
30
論点項目
判示内容
上記のような賃貸人に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進と
いう観点に照らし不相当に高額であるといった事情が認められない限り、
消費者契約法10条後段にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に
反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが
相当である。
31
【22】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年5月 24 日 東京地裁 平 24(ワ)388 号
ウエストロー・ジャパン
◆独居の老女である原告が、被告会社の従業員である被告Y3の来訪を受け、わけ
のわからないうちに、所有する本件不動産を廉価で同社に売り渡す旨の売買契約を
締結させられたなどとして、同売買契約の不成立ないし錯誤又は公序良俗違反によ
る無効、あるいは消費者契約法4条1項1号に基づく取消しを主張して、被告会社
に対し、本件不動産の共有持分権及び所有権に基づき、本件不動産の移転登記の抹
消登記手続を求めるとともに、被告会社、被告Y3、同社代表取締役である被告Y
1及び同取締役である被告Y2に対し、連帯しての損害賠償を求めた事案におい
て、本件売買契約は、被告会社が高齢者の無知を利用して不当な利益を得ることを
目的とした暴利行為であり、民法90条により無効であるなどとして、抹消登記請
求を認容したが、被告会社の損害賠償債務は相殺により消滅したなどとして、各被
告に対する損害賠償請求は棄却した事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (3) 原告の判断能力
原告は、千葉市〈以下省略〉の自宅不動産を所有して単身で居住し、本
する一般規定(暴
件不動産のほかに、千葉県成田市にも賃貸用アパートを所有し(原告本人)
利行為)
、
不動産管理会社との間での本件不動産の賃貸借に関する管理代行委任契約
書(甲4)に関しては、本件売買契約の2か月前の平成23年9月13日
に自ら契約書に署名押印して更新契約をしている(C証人調書11頁)
。ま
た、前記(2)のとおり銀行口座や貸金庫も自ら管理し、権利証の保管場所が
京葉銀行新検見川支店の貸金庫であることも正確に記憶しており、陳述書
(甲10)においても上記認定の事実経過を詳細に記憶して述べている。
原告は、所有不動産の売却勧誘の電話がかかってくれば、その意味を理
解することができるし(原告本人調書9頁、16頁)
、別紙契約書の「区分
所有建物売買契約書」という表題を読むこともできるし、その意味が売買
であるということを理解することもできる(原告本人調書12頁)
。
しかし、原告は、不動産の賃貸収入を得ながら自己所有の不動産に居住
しているにすぎず、不動産売買の経験は乏しく、本件不動産の時価相場に
ついて十分な知識理解を有していない(甲10、原告本人、弁論の全趣旨)
。
・・・
(中略)
・・・
2 民法90条による売買契約の無効について
上記認定事実によれば、原告は、本件売買契約書の表題の売買契約の意
味を十分に理解する能力があり、本件売買契約書に署名した際、被告Y3
の説明を受けて本件不動産を代金150万円で被告会社に売却する契約書
を作成する趣旨であることを十分に理解していたと認められる。しかし、
被告会社の担当者である被告Y3は、本件不動産の固定資産評価額が69
4万6275円であり、売却価格の相場が少なくとも700万円を超える
物件であることを十分に認識しながら、86歳の高齢者である原告に突然
電話を掛けて、時価の約2割にしかならない150万円での売買の合意を
させ、その後、初対面でいきなり売買契約書の作成から登記申請手続及び
代金決済まで完了させたこと、被告会社の取締役である被告Y2は、契約
直後に事情を知った原告の甥Cから登記申請の取下げを求められ、その時
32
論点項目
判示内容
点では登記申請を取り下げることができたにもかかわらず、これに応じな
かった ことが認められる。
上記事実によれば、不動産会社である被告会社は、原告に電話をかける
前から、本件不動産の時価相当額が少なくとも固定資産評価額を超える7
00万円以上の価値があることを知りながら、所有権取得の登記が古く夫
の死亡による相続登記もされた女性名義の不動産であって、所有者である
高齢の女性が不動産相場に疎いことを予期しつつ、突然電話をかけて時価
を著しく下回る150万円での売却を持ちかけ、その電話で直ちに売買契
約の合意と決済手順までをも決めてしまい、その後、初対面でありながら
担当者と司法書士を派遣して売買契約書を作成して即日決済を完了させ、
不動産相場に疎い高齢者の無知ないし判断力の乏しさを利用して不動産を
時価を著しく下回る価格で買い取り、不当な利益を得るために本件売買契
約を締結したものと認めるのが相当である 。
このような動機、目的及び態様によって締結された本件売買契約は、被
告会社が高齢者の無知を利用して不当な利益を得ることを目的とした暴利
行為というべきであり、公の秩序に反する事項を目的とする法律行為とし
て、民法90条により無効とされる ものである。
33
【23】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 4 月 23 日 東京地裁 平23(レ)774号
ウエストロー・ジャパン
◆控訴人が、ドレス等のレンタル店を営む被控訴人に対し、電話で本件ドレス等
のレンタルを申し込み、代金を被控訴人名義の口座に振り込んだが、翌日本件ド
レス等をレンタルしない旨連絡し、本件代金の返還を求めたところ、被控訴人が
本件解約料条項を理由にこれを拒んだため、被控訴人に対し、本件レンタル契約
は成立していないなどとして、不当利得返還請求権に基づき本件代金の返還を求
めたが、原審は請求を棄却したため、控訴人が控訴し、本件解約料条項が消費者
契約法9条1号に違反して無効である旨追加主張した事案において、本件レンタ
ル契約の成立を認めた上で、同レンタル契約は消費者契約法2条3項に定める消
費者契約に該当し、本件解約料条項は同法9条1号にいう違約金を定める条項に
該当するところ、本件解約により被控訴人に生ずる平均的な損害はなく、本件解
約料条項は本件解約との関係では同法9条1号により無効であるとして、控訴を
認容し、原判決を取り消した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の (2) 本件のようなドレス等のレンタル契約の解除に伴い事業者に生ずる
額」の意義
法9条1号所定の平均的な損害は、当該契約が解除されることによって当
該事業者に一般的、客観的に生ずると認められる損害をいう ものと解され
る。そして、具体的には、当該契約締結から解除までの期間中に当該事業
者が契約の履行に備えて通常負担する費用、及び同期間中に当該事業者が
他の顧客を募集できなかったことによる一般的、客観的な逸失利益(解除
の時期がレンタル日の直近であるなどのため解除後に他の顧客を募集でき
なかったことによる逸失利益を含む。)がこれに当たる ものと解される。
※ 挙式予定日の4か月弱前に申込金を振り込み、その翌日に解約した事
例において、契約締結から解除までの実質1日の期間中に事業者に生じる
平均的な損害はないとした。
34
【24】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年3月 28 日 京都地裁 平 22(ワ)2498 号
判時 2150 号 60 頁
◆電気通信事業等を営む事業者が消費者との間で締結している、基本使用料金を
通常の契約の半額とし、契約期間を2年間の定期契約とする携帯電話利用サービ
ス契約における、
(1)2年間の期間内(当該期間の末日の属する月の翌月を除
く。
)に消費者が契約を解約する場合には、原則として9975円(消費税込み)
の解約金を支払わなければならないという条項及び(2)この契約が契約締結後
2年が経過すると自動的に更新され、以後、消費者は、契約を解約するに際し
て、更新時期となる、2年に1度の1か月間に解約を申し出ない限り、(1)と同
額の解約金を支払わなければならないという条項はいずれも消費者契約法9条1
号又は同法10条により無効となるものではないと判示して、適格消費者団体の
事業者に対する上記各条項の内容を含む意思表示についての差止め請求を棄却す
るとともに、上記各条項に基づき解約金を事業者に対して支払った消費者らの不
当利得返還請求をいずれも棄却した事例
論点項目
中心条項への適用
判示内容
法9条及び10条は、事業者と消費者との間に情報の質及び量並びに交
渉力の格差が存在することを踏まえ、消費者の利益を不当に侵害する条項
を無効とすることを規定したものである。このうち、法9条1号について
は、文言上、消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める
条項を対象としており、契約の目的である物又は役務等の対価についての
合意を対象としていないことは明らかである。
そして、契約の目的である物又は役務等の対価それ自体に関する合意に
ついては、事業者と消費者との間に上記のような格差が存在することを踏
まえても、当該合意に関して錯誤、詐欺又は強迫が介在していた場合であ
るとか、事業者の側に独占又は寡占の状態が生じているために消費者の側
に選択の余地が存在しない場合であるとかといった例外的な事態を除き、
原則として市場における需要と供給を踏まえた当事者間の自由な合意に基
づくものであるということができる。これらの例外のうち、前者の類型に
ついては個別の事例に応じて意思表示の瑕疵等の規定で対応すべきである
し、後者の類型については、これを公序良俗に反する暴利行為として民法
90条により無効とすることができるような場合を除けば、裁判所が個別
の条項につき法10条に基づき信義則の見地から有効性を判断して消費者
を保護することが妥当すべき領域であるということはできない。したがっ
て、契約の目的である物又は役務の対価についての合意は、法10条によ
り無効となることもないと解される。
以上のとおり、契約の目的である物又は役務の対価についての合意が法
9条又は同法10条により無効となることはない ところ、ある条項が契約
の目的である物又は役務の対価について定めたものに該当するか否かにつ
いては、その条項の文言を踏まえつつ、その内容を実質的に判断すべきで
ある。
・・・(中略)・・・
35
論点項目
判示内容
本件解約金条項は、実質的な内容としても、契約上の対価についての合
意ということはできず、契約期間内の中途解約時の損害賠償の予定又は違
約金についての条項であると認められるから、法9条1号及び10条を基
準とする審査が及ぶというべきであるから、争点(1)に関する被告の主張に
は理由がなく、原告らの主張に理由がある。
「平均的な損害の 2 争点(2)(本件当初解約金条項の法9条1号該当性)について
・・・(中略)・・・
額」の意義
(2) 「平均的な損害」を算出すべき対象について
ア 法9条1号における「平均的な損害」の算出は、当該消費者契約
の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について、契約の類型ごとに
行うものと解すべきである。
原告らは、本件契約を締結し、これを契約期間の中途で解約する顧客に
は、基本使用料金及び通信料等の組み合わせから成る料金プランが異なる
顧客が存在するほか、中途解約の時期の異なる顧客が存在するから、これ
らを総体的に捉えて「平均的な損害」を算出すべきではないと主張するの
で、この点につき検討する。
イ 消費者契約における「平均的な損害」を超える損害賠償の予定又
は違約金を定める条項を無効とした法9条1号の趣旨は、特定の事業者が
消費者との間で締結する消費者契約の数及びその解除の件数が多数にわた
ることを前提として、事業者が消費者に対して請求することが可能な損害
賠償の額の総和を、これらの多数の消費者契約において実際に生ずる損害
額の総和と一致させ、これ以上の請求を許さないことにあると解すべきで
ある。
このような法9条1号の趣旨からすれば、事業者は、個別の事案におい
て、ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が、契約の類型ご
とに算出した「平均的な損害」を上回る場合であっても、「平均的な損害」
を超える額を当該消費者に対して請求することは許されないのであり、そ
の反面、ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が、
「平均的な
損害」を下回る場合であっても、当該消費者は、事業者に対し「平均的な
損害」の額の支払を甘受しなければならないということになる。
したがって、法は、事業者に対し、上記のような「平均的な損害」につい
ての規制のあり方を考慮した上で、自らが多数の消費者との間で締結する
消費者契約における損害賠償の予定又は違約金についての条項を定めるこ
とを要求しているということができる。
ウ そうすると、法9条1号の「平均的な損害」の算出にあたって基
礎とする消費者の類型は、原則として当該事案において事業者が損害賠償
の予定又は違約金についての条項を定めた類型を基礎とすべきであり、解
除の時期を1日単位に区切ってそれぞれの日数ごとに事業者に生じる金額
を算定するというような当該事業者が行っていない細分化を行うことは妥
当でない。
・・・(中略)・・・
エ 本件においては、上記争いのない事実等及び証拠(甲3)によれ
36
論点項目
判示内容
ば、本件当初解約金条項は、顧客との間で本件契約を締結するに当たり、
顧客の具体的な特性、料金プラン及び解約の時期等を一切問わず、一律に
契約期間末日の9975円の解約金の支払義務を課していることが認めら
れる。
したがって、
「平均的な損害」の算定については、本件契約を締結した顧
客を一体のものとみて判断すべきである。
(3) 本件契約の中途解約に伴う「平均的な損害」について
ア (1)を前提として、消費者が本件契約を契約期間の中途で解約する
場合の「平均的な損害」について検討する。
イ 被告は、消費者が本件契約を契約期間の中途で解約する場合に生
じる損害として、①基本使用料金及びその他の割引分の契約期間開始時か
ら中途解約時までの累積額、②基本使用料金及び通話通信料等の中途解約
時から契約期間満了時までの累積額並びに③契約の締結及び解約のために
生じた費用があると主張し、①~③のうち、①の中の「基本使用料金の割
引分の契約期間開始時から中途解約時までの累積額」及び②の中の「基本
使用料金の中途解約時から契約期間満了時までの累積額」について、具体
的な算定の基礎となる証拠を提出している。
そこで、これらの損害を「平均的な損害」の算定の基礎とすることがで
きるかについて検討する。
(ア) 基本使用料金の割引分の契約期間開始時から中途解約時までの
累積額について
a この損害は、消費者が被告から現に本件契約に基づく役務の提
供を受けた期間に対応するものである。
b 上記争いのない事実等のとおり、消費者は、本来であれば毎月
の基本使用料金として各料金プランごとに定まっている一定の金額(以下、
これを料金プランの差を問わず「標準基本使用料金」という。)を被告に対
して支払うべきところ、本件契約の締結に伴い、2年間の契約期間内に中
途解約しないことを条件として、契約期間の全期間にわたって基本使用料
金の50%の値引きを受けており(以下、これを料金プランの差を問わず
「割引後基本使用料金」という。)、被告は、消費者が2年間の契約期間中
に被告に対して継続した支払を行うことにより一定の期間に安定した収入
を得られるのであれば、当該契約期間中は基本使用料金について割引を行
っても採算に見合うと判断した上で、本件契約を締結した場合の割引率を
50%と設定したものと考えられる。
c そうすると、消費者が本件契約を契約期間内で中途解約した場
合には、被告は、当該消費者に対し、現に標準基本使用料金の金額に相当
する役務を提供したにもかかわらず、その対価としては割引後基本使用料
金の支払しか受けていないこととなり、しかも、被告が継続して安定した
収入を得られるという前提も存在しなくなったのであるから、この期間の
標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額については、被告に生じ
た損害ということができる。
・・・(中略)・・・
37
論点項目
判示内容
g よって、基本使用料金の割引分の契約期間開始時から中途解約
時までの累積額については、
「平均的な損害」の算定の基礎となると解すべ
きである。
(イ) 基本使用料金の中途解約時から契約期間満了時までの累積額に
ついて
a この損害は、消費者が被告から本件契約に基づく役務の提供を
受けていない期間についてのものではあるが、被告が本件契約に基づいて
得べかりし利益に該当するものである
これらは、事業者にとってのいわゆる履行利益であり、仮に、本件当初
解約金条項及び法9条1号がいずれも存在しない場合には、被告は、民法
416条1項に基づき、個別の消費者に対して「通常生ずべき損害」とし
て、その賠償を請求することができるものと考えられる。
b ところで、法は、
「消費者と事業者との間の情報の質及び量並び
に交渉力の格差にかんがみ、・・・・・・消費者の利益を不当に害することとな
る条項の全部又は一部を無効とする・・・・・・ことにより、消費者の利益の擁
護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与する
こと」
(法1条)を目的とするものである。このような消費者の保護を目的
とする法律としては、法の制定よりも前から、特定商取引に関する法律(平
成12年法律第120号による改正前は訪問販売法)及び割賦販売法が存
在するところ、特定商取引に関する法律10条1項4号は訪問販売におけ
る契約につき、同法25条1項4号は電話勧誘販売における契約につき、
同法49条4項3号及び同条6項3号は特定継続的役務提供等契約につ
き、同法58条の3第1項4号は業務提供誘引販売契約につき、割賦販売
法6条1項3号及び同項4号は割賦販売に係る契約につき、それぞれ、各
種業者と消費者との間に損害賠償の予定又は違約金についての合意がある
場合であっても、契約の目的となっている物の引渡し又は役務の提供等が
履行される前に解除があった場合には、各種業者は、消費者に対し、契約
の締結及び履行のために通常要する費用の額を超える額の金銭の支払を請
求できないと規定している。これらの規定は、各種業者と消費者が契約を
締結する際においては、各種業者の主導のもとで勧誘及び交渉が行われる
ため、消費者が契約の内容について十分に熟慮することなく契約の締結に
至ることが少なくないことから、契約解除に伴う損害賠償の額を原状回復
のための賠償に限定することにより、消費者が履行の継続を望まない契約
から離脱することを容易にするため、民法416条1項の規定する債務不
履行に基づく損害賠償を制限したものと解することができる。
c 以上の特定商取引に関する法律及び割賦販売法の各規定に対
し、法9条1号は、事業者が契約の目的を履行した後の解除に伴う損害と、
事業者が契約の目的を履行する前の解除に伴う損害とを何ら区分していな
い。しかし、法9条1号は、損害賠償の予定又は違約金の金額の基準とし
て、「(事業者に)通常生ずべき損害」ではなく、
「当該条項において設定さ
れた解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約の解除に伴い当該
事業者に生ずべき平均的な損害」の文言を用いている。このような文言に
38
論点項目
判示内容
照らせば、法9条1号は、事業者に対し、民法416条1項によれば請求
し得る損害であっても、その全てについての請求を許容するものではない
ということができる。
そして、上記bで述べたような事情は、消費者契約一般において妥当す
ると考えられることからすると、法9条1号は、事業者に対し、消費者契
約の目的を履行する前に消費者契約が解除された場合においては、その消
費者契約を当該消費者との間で締結したことによって他の消費者との間で
消費者契約を締結する機会を失ったような場合等を除き、消費者に対して、
契約の目的を履行していたならば得られたであろう金額を損害賠償として
請求することを許さず、契約の締結及び履行のために必要な額を損害賠償
として請求することのみを許すとした上で、
「平均的な損害」の算定におい
てもこの考え方を基礎とすることとしたものと解することができる。
・・・(中略)・・・
(ウ) よって、本件においては、基本使用料金の割引分の契約期間開
始時から中途解約時までの累積額についてのみ、
「平均的な損害」の算定の
基礎とすることができるものというべきである。
ウ そこで、基本使用料金の割引分の契約期間開始時から中途解約時
までの累積額を基準として、消費者が本件契約を契約期間の中途で解約す
る場合の「平均的な損害」について検討すべきところ、証拠(乙19)によ
れば、次の各事実が認められる。
(ア) 被告と本件契約を締結した契約者につき、各料金プランごとの
平成21年4月から平成22年3月までの月ごとの稼働契約者数(前月末
契約者数と当月末契約者数を単純平均したもの)を単純平均し、それぞれ
に各料金プランごとの割引額(標準基本使用料金と割引後基本使用料金と
の差額)
(税込)を乗じて加重平均した金額は、2160円となる。
(イ) 被告と本件契約を締結した契約者のうち、平成21年8月1日
から平成22年2月28日までの間に本件契約(更新前のものに限る。
)を
解約した者について、本件契約に基づく役務の提供が開始された月からの
経過月数ごとの解約者数に、それぞれの経過月数を乗じて加重平均した月
数は、14か月となる。
エ そうすると、本件契約の更新前の中途解約による「平均的な損害」
は、上記ウ(ア)の2160円に(イ)の14か月を乗じた3万0240円で
あると認められ、本件当初解約金条項に基づく支払義務の金額である99
75円はこれを下回るものであるから、本件当初解約金条項が法9条1号
に該当するということはできない。
(4) よって、争点(2)に関する原告らの主張には理由がなく、被告の主張
には理由がある。
39
【25】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年3月 27 日 東京地裁 平 22(ワ)38195 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告から不動産投資を勧められて2件の不動産を購入した原告が、後に同不動
産の価格下落が判明し、また、被告から重要事実について不実の事実を告げら
れ、かつ、断定的判断の提供をされたなどと主張し、消費者契約法4条等による
本件不動産売買契約の取消しなどを求めた事案において、被告は、本件各売買契
約締結の際、重要事項である本件不動産の客観的な市場価格を提示しておらず、
非現実的なシミュレーションを提示し、原告に月々の返済が小遣い程度で賄える
と誤信させるなど、消費者契約法にいう重要事項について原告に不利益となる事
実を故意に告げなかったため、原告はそのような事実が存在しないと誤認し、そ
れによって原告は本件各売買契約を締結したものであるから、同法4条2項によ
る取消しが認められるとして、原告の請求を全部認容し、既払金から原告が受領
した家賃等を控除した差額である約4700万円について、被告に支払を命じた
事例
論点項目
①先行行為の要否
②不告知要件の要
否
③故意要件の要否
判示内容
(7) 本件契約1及び2の締結の際、E及びDは、原告に対し、「将来売却
プラン」
(甲3)を見せたため、原告は、不動産価格の下落が精々10%程
度であると誤信させられ、予想できない急激な不動産価格の下落がない限
りいつでも売却できるものと誤信したこと、新築マンションの場合、購入
後中古マンション扱いとなるため、売却価格は分譲価格の6ないし7割と
なるところ、Eらからそのような説明をされておらず、いつでもローンの
残債が処理できる価格で売却できると誤信したものと認める。 ・・・
(中
略)
・・・また、原告が、同時期にEらから示された書面(甲4、17)は
家賃収入が30年以上も同じ家賃を前提とし(確かに、※の中で家賃の変
動があることを示唆しているが、同書面は一見して同じ家賃収入が得られ
るものと誤信しやすい内容になっているものと認める。)、原告が関心を示
していた毎月の支払が小遣い程度で収まるとの点においても同書面は原告
に誤認させる要素を多分に含んでいるものと認められる。したがって、原
告の上記誤信は無理もないものであって、被告に重要な事項について原告
に不利益となる事実を故意に告げなかったものと認める 。
・・・
(中略)
・・・
2 以上の事実が認められる。とすると、被告は、原告に対し、本件契約
1及び2の締結の際、重要事項である物件1及び2の客観的な市場価格を
提示していない こと、家賃収入が30年以上に亘り一定であるなど非現実
的なシュミレーションを提示し、原告に月々の返済が小遣い程度で賄える
と誤信させたこと 及び その他原告が物件1及び2についての不動産投資
をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかった など 消費者
契約法にいう重要事項について原告に不利益となる事実を故意に告げなか
った ため、原告はそのような事実が存在しないと誤認し、それによって原
告は本件契約1及び2を締結したものであるから、同法4条2項による取
消しが認められる。
消費者概念の在り 言及なし(争点とならず)
方
40
論点項目
※投資目的の売買
における個人の
消費者性
判示内容
41
【26】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年3月 18 日 大阪簡裁 平 22(ハ)27941 号
消費者法ニュース 88 号 276 頁
◆契約期間途中で退去した場合、礼金は未使用期間に応じて返還すべきであると
して、礼金一部無効を認めた判決。
(上記出典より引用)
論点項目
10 条の後段要件
の在り方
判示内容
(2) 礼金の性質について
ア 広義の賃料
・・・(中略)・・・
礼金は、賃借人にとっては、①の他の一時金と同様に、建物を使用収益
するために必要とされる経済的負担である。一方、賃貸人は、賃借人から、
受け取る建物使用収益の対価を、毎月の賃料だけではなく礼金等の一時金
をも含めた総額をもって算定し、それを建物賃貸業経営の必要経費に充て
ているのが通常であり、そして、①の一時金は、賃貸人の初年度の所得と
して扱われている(顕著な事実)。礼金のこうした経済的機能に鑑みると、
礼金は実質的には賃借人に建物を使用収益させる対価(広義の賃料)であ
るといえる。
・・・(中略)・・・
イ 期間対応性
礼金を広義の賃料として扱う考え方に対しては、民法上の本来の賃料と
比較すると、中途解約の場合に一部返還がなされないなど賃料としての重
要な要素である賃料額と賃貸借期間との対応性(以下、「期間対応性」と
いう)に欠けるので賃料とみなすことはできないという指摘がなされてい
る。しかし、礼金が民法の定める形式的意義の賃料であないことは明らか
なのであって、実質的・経済的に見て使用収益の対価として授受されてい
るということにすぎないのであるから、礼金を広義の賃料として扱うのな
ら期間対応性を持たせるように礼金に関する契約を解釈していけばよいの
である。形式的意義の賃料でないから賃料ではないという批判はあたらな
いというべきである。
礼金に前払賃料としての期間対応性を持たせなければ実質賃料の支払と
しての合理性がなくなるのであるから、予定した期間が経過する前に退去
した場合は、建物未使用期間に対応する前払賃料を返還するべきであると
いう結論となるのは当然のことである。本件賃貸借契約締結の際の当事者
間の合意としては、礼金として支払われた金員は返還を予定していないと
いうことであると推認される。しかし、そのような合意は、契約期間経過
前退去の場合に前払分賃料相当額が返還されないとする部分について消費
者の利益を一方的に害するものとして一部無効である(消費者契約法 10
条)というべきである。
42
【27】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年3月 16 日 最高裁第二小法廷 平 22(受)332 号
民集 66 巻5号 2216 頁
◆保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定
める約款の条項の、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基
本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性
論点項目
10 条の後段要件
の在り方
判示内容
ア 民法541条の定める履行の催告は、債務者に、債務不履行があっ
たことを気付かせ、契約が解除される前に履行の機会を与える機能を有す
るものである。本件各保険契約のように、保険事故が発生した場合に保険
給付が受けられる契約にあっては、保険料の不払によって反対給付が停止
されるようなこともないため、保険契約者が保険料支払債務の不履行があ
ったことに気付かない事態が生ずる可能性が高く、このことを考慮すれば、
上記のような機能を有する履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定め
る本件失効条項によって保険契約者が受ける不利益は、決して小さなもの
とはいえない。
イ しかしながら、前記事実関係によれば、本件各保険契約においては、
保険料は払込期月内に払い込むべきものとされ、それが遅滞しても直ちに
保険契約が失効するものではなく、この債務不履行の状態が一定期間内に
解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められている上、上記一
定期間は、民法541条により求められる催告期間よりも長い1か月とさ
れているのである。加えて、払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額
を超えないときは、自動的に上告人が保険契約者に保険料相当額を貸し付
けて保険契約を有効に存続させる旨の本件自動貸付条項が定められてい
て、長期間にわたり保険料が払い込まれてきた保険契約が1回の保険料の
不払により簡単に失効しないようにされているなど、保険契約者が保険料
の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮がされてい
るものといえる。
ウ さらに、上告人は、本件失効条項は、保険料支払債務の不履行があ
った場合には契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う
実務上の運用を前提とするものである旨を主張するところ、仮に、上告人
において、本件各保険契約の締結当時、保険料支払債務の不履行があった
場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を
整え、そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば、通常、保険
契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考
えられる。多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏ま
えると、本件約款において、保険契約者が保険料の不払をした場合にも、
その権利保護を図るために一定の配慮をした上記イのような定めが置かれ
ていることに加え、上告人において上記のような運用を確実にした上で本
件約款を適用していることが認められるのであれば、本件失効条項は信義
則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないものと解され
る。
43
【28】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 2 月 1 日 東京地裁 平23(ワ)948号
ウエストロー・ジャパン
◆原告の代表取締役であったCを被保険者とする保険契約を被告との間で締結し
ていた原告が、Cの死亡により、死亡保険金の支払を求めたところ、被告が、本
件契約は、保険料未払のため本件約款の無催告失効条項により失効した後、原告
の申込みにより復活したものであり、復活後1年以内のCの自殺は保険金支払免
責事由に当たる旨主張したのに対し、さらに原告が、本件失効条項は、継続的契
約の本質及び消費者契約法の精神に鑑み、信義則違反及び公序良俗違反により無
効であるなどとして争った事案において、本件失効条項は、合理的な必要に基づ
くものであり、その内容を見ても消費者の利益を一方的に害するものとはいえ
ず、信義則にも公序良俗にも反せず、有効なものであるなどと判断して、請求を
棄却した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
本件保険契約の保険契約者は、原告すなわち「株式会社アイベックス」
方
という法人であり、消費者契約法2条1項に規定する「消費者」には当た
らない。かかる観点からも、本件保険契約に消費者契約法は適用されない。
・・・
(中略)
・・・ 確かに、原告と被告との間に情報及び交渉力に格差
があることは十分にうかがわれるが、前述した消費者契約法の対象となる
契約の締結時期(同法附則)の点からも、また、消費者契約法が「個人」と
「法人その他の団体」とを明確に区別しており、同法の規定上、後者は「消
費者」に当たらないと解されること(同法2条1項、2項参照)からして
も、本件保険契約につき消費者契約法を類推適用すべきとの原告の主張は、
にわかに採用し難い 。
44
【29】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年1月 12 日 京都地裁 平 22(ワ)3533 号
判時 2165 号 106 頁
◆被告との間で携帯電話を利用する電気通信役務提供契約を締結した原告が、パ
ソコンと接続して行うパケット通信方式によるインターネット通信サービスを1
週間利用したところ、通信料金として約20万円を請求され、これを支払ったこ
とから、本件契約の通信料金を定める条項中、本件サービスの利用時に通常予測
する金額である1万円を超える部分は無効であるとして、既払通信料金のうち1
万円を超える部分につき不当利得返還を求めるとともに、被告は通信料金の具体
的説明義務若しくは通信料金高額化防止義務を怠ったとして、損害賠償を求めた
事案において、本件契約中、いわゆるパケット料金条項は消費者契約法10条及
び公序良俗に違反せず、また、パケット通信料金に関する被告の説明・情報提供
義務違反も認められないとする一方、被告は、原告の通信料金が5万円を超過し
た段階における通信料金高額化の注意喚起をすべき義務を怠ったといえるとした
上で、原告の過失を3割とする過失相殺をして、損害賠償として約10万円を認
めた事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在 6 原告の通信料金が高額化した段階における被告の情報提供義務違反の
り方
有無について
(1) 前記第3、5は、未だ利用者がアクセスインターネットを利用する
以前の段階において、被告に契約上課される通信料金に関する説明義務な
いし情報提供義務であるが、これに対し、一旦、利用者がアクセスインタ
ーネットの利用を開始し、通信料金が高額化した後の段階においては、利
用者に生じる予測外の財産的負担の拡大の防止という観点から、情報提供
の必要性の程度が高まるといえるのであり、この段階において被告に課さ
れる情報提供義務の有無については、別途検討する必要がある。
(2)ア 前記認定説示のとおり、本件定型契約は、利用者が認識しないう
ちに高額な通信料金を発生させる危険性を内包するものであり、特に、ア
クセスインターネットは、通信情報量が大きくなりがちであることから、
利用料金の高額化のおそれが高い。そして、同定型契約におけるサービス
内容は多種多様であり、かつ、利用者は、契約締結時から一定期間経過後
に初めてアクセスインターネットを利用する意思が生じることも想定され
ることからすれば、利用者が、契約締結時等における説明や情報提供の内
容をサービス利用時点においては失念したり、契約締結時に交付されたリ
ーフレット等の説明書類等が既に廃棄される等して手元にないために、上
記説明書類等や被告ウェブサイトにおける説明書き等を確認しないままに
サービスの利用を開始することも予想されるところである。
さらに、利用者としては、利用料金照会、パケットメーター及び一定額
通知サービス等の被告が提供するサービスを利用することにより、パケッ
ト通信料金を確認することができるものの、①パケットメーター及び一定
額通知サービスは、利用者が自ら被告ウェブサイトを通じて申込みやイン
ストールをすることを要するし、利用料金照会についても、被告ウェブサ
45
論点項目
判示内容
イトにアクセスをしなければ料金の確認ができないこと、②これらのサー
ビス等は、被告のウェブサイトやカタログにおいて紹介されているものの、
被告が、契約者に対し、口頭や書面等を通じ、アクセスインターネットを
利用する際等に上記サービスを利用するよう具体的に働き掛けたことを認
めるに足りる証拠はなく、上記各サービスはカタログや被告ウェブサイト
において紹介がされているのみであることからすれば、上記各サービス等
の存在について認識がない利用者や、サービスの内容自体は認識していて
も、これらをアクセスインターネットによる通信の際に活用しない利用者
がいることも十分に予測されるところである (なお、被告がウェブサイト
において平成19年4月27日付けでアクセスインターネットを利用する
際に、パケットメーターを利用するよう告知したことは前記認定のとおり
であるが、上記ウェブページが本件通信時にも被告のウェブサイトに残さ
れていたことを認めるべき証拠はない。)。そして、このことは、前記認定
のとおり、平成19年ころの時点において、相当数のアクセスインターネ
ットの利用者が、国民生活センター等に、通信料金が予想外に高額になっ
たことにつき苦情・相談等を寄せていたことからも明らかである。また、
前記のとおり、被告は、本件携帯電話にアクセスインターネットの利用の
際に必要となるソフトウェアをインストールするためのCD-ROMを同
梱し、市販のUSBケーブルを用いることによりアクセスインターネット
を利用することのできる状態を作出している。そのうえ、被告は、平成2
0年2月に高額請求アラートを開始し、顧客に発生したパケット通信料金
を日々把握していることからすれば、本件通信時において、原告がアクセ
スインターネットを利用したことにより発生したパケット通信料金の額に
ついて、容易に把握することができる立場にあったということができるし、
原告のパケット通信料金が一定額を超過した場合にこれを通知することを
要求することとしても、被告に過大な負担を与えるともいえない。
イ 以上に掲げた諸事情を考慮すれば、本件通信時において、原告の
アクセスインターネットの利用により高額なパケット通信料金が発生して
おり、それが原告の誤解や、不注意に基づくものであることが被告におい
ても容易に認識し得る場合においては、被告は、本件契約上の付随義務と
して、原告の予測外の通信料金の発生拡大を防止するため、上記パケット
通信料金が発生した事実をメールその他の手段により原告に告知して注意
喚起をする義務を負うと解するのが相当である。
46
【30】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 12 月 20 日 京都地裁 平23(ワ)1875号
資料版商事法務 345 号 200 頁
◆適格消費者団体である原告が、無登録業者である被告は消費者に対して未公開
株式の購入を勧誘するに際して消費者契約法4条1項又は2項に当たる行為をし
たとして、主位的に、未公開株式の購入を勧誘することの差止めなどを求め、予
備的追加的に、金融商品取引業をすることが法律上禁止されている者であること
を告げずに未公開株式の勧誘をすることの差止めを求めた事案において、口頭弁
論期日に出頭しない被告は、請求原因事実について争うことを明らかにしないも
のと認められ、これを自白したものとみなすとした上で、未公開株式の客観的な
価値と比較して著しく高額な対価を告げることは、重要事項の不実告知に当た
り、また、被告が未公開株式を販売すると消費者に告げながら金融商品取引業の
登録を受けていないことを告げないことは不利益事実の不告知に当たるなどとし
て、請求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
消費者契約法4条2項で消費者の利益となる旨の告知の対象となる「重
要事項に関連する事項」とは、当該告知によって不利益事実が存在しない
の在り方
と消費者が誤認する程度に「重要事項」に密接に関わるものであることを
要すると解すべき ところ、金融商品取引業の登録を受けた者のみが適法に
株式を取引できることからすれば、消費者は、被告が未公開株式を販売す
ると告げることにより、被告が金融商品取引業の登録を受けていると誤認
するといえるので、被告による上記告知は「重要事項に関連する事項」に
ついての利益となる旨の告知といえる。
47
【31】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 12 月 13 日 京都地裁 平 20(ワ)3842 号
判時 2140 号 42 頁
◆冠婚葬祭業者である被告2社が、消費者との間で締結している冠婚葬祭の互助
契約等で解約金条項を使用していることに関し、原告適格消費者団体が、同条項
の無効を主張して、被告2社に対し、解約金を差し引くことを内容とする意思表
示等の差止めなどを求めるとともに、本件各契約を締結したものの同各契約を解
約した原告消費者らが、本件解約金条項の無効を主張して、被告a社に対し、差
し引かれた解約手数料相当額の返還等を求めた事案において、本件各契約に割賦
販売法の適用等はないから、消費者契約法11条2項及び12条3項ただし書に
より同法は適用されないとする被告 a 社の主張は理由がなく、また、被告 a 社に
とって、同法9条1号の平均的な損害とは、月掛金1回の振替え毎に要する振替
費用58円をいうから、これに第1回目を除く払込みの回数を掛けた金額を超え
る部分の本件解約金条項は無効であるとして、原告適格消費団体の請求及び原告
消費者らの請求を一部認めた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
(1) 消費者契約法9条1号にいう「平均的な損害」とは、契約の解除の
事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴
額」の意義
い、当該事業者に生じる損害の額の平均値をいう と解される。
本件互助契約は、一人の消費者と被告aとの間で締結される消費者契約
であるから、同号にいう平均的な損害の解釈にあたっても、一人の消費者
が本件互助契約を解約することによって被告aに生じる損害を検討する必
要がある 。
48
【32】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 11 月 18 日 東京地裁 平成 22(ワ)9499 号
消費者法ニュース 92 号 344 頁
原告は、原告の娘が過食症で診療内科に通院していたものの目立った効果がな
く、原告の息子が家族の制止を振り切って自宅3階から飛び降りてしまったとい
う出来事以来、精神面が落ち着くことがなく、子どもらの行く末に大きな不安、
悩みを抱えていたところ、被告である自称宗教家から除霊しなければ家族全員は
だめになる等を告げられて御祓い代等に総額62万円を支払わされた。また、原
告自身が重度の食物アレルギー及びラテックスアレルギーに苦しんでおり、いっ
たん発症すると呼吸困難、意識障害、血圧低下によって危険な状態に陥ることも
あったところ、原告のアレルギー状態が悪化し、被告における定例会を欠席した
ところ、被告は原告自身に問題がることを話すようになり、被告から狐の除霊を
しなければアレルギーが出る等を告げられて除霊に総額 250 万円を支払わされた
等の事案。被告は原告の悩みを知りつつ、それにつけ込み、害悪を告げて殊更に
不安ないし恐怖心を煽り不相当に高額な支払いをさせたもので、被告の勧誘行為
は社会的に相当と認められる範囲を逸脱した違法なものとして不法行為が認めら
れた。(第6回委員提出資料1-1より引用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
一般に、勧誘者が、特定の宗教に関し、被勧誘者に対して任意に宗教的行
為及びそれについての献金等をするように勧誘することは、その方法、態
様及び金額等が社会的に相当と認められる範囲内のものである限り、正当
な宗教活動の範囲内にあると認められるから、宗教的行為及び献金等の勧
誘の過程において霊的な要素の強い事象等を原因とするわざわいを説くな
ど、その内容がおよそ科学的に証明し得ないことなどを理由として、直ち
に虚偽であり違法であると評価することはできない。しかしながら、上記
勧誘行為が、宗教上の行為及び献金等を行わないことによる害悪を告知し
たり、あるいは、相手方に心理的な圧力を掛けるなどして、殊更に相手方
の不安や恐怖心をあおるなどし、そのような心理状態につけ込んで、不相
当に高額の金員を支出させるなど、社会一般的に相手方の自由な意思に基
づくものとはいえないような方法や態様で行われたものである場合は、も
はや社会的に相当と認められる範囲を逸脱したものとして、違法の評価を
受けるものといわざるを得ない。そして、宗教的行為及び献金等の勧誘行
為等の違法性を判断するに当たっては、一連の経緯を踏まえるにしても、
基本的には個々の勧誘行為等(加害行為)の方法や態様、金額の多寡等を
重要な要素として検討するのが相当 である。
(1)本件支払〔1〕ないし〔4〕について
標記の各支払は、悩みを抱える者が悩み事を相談する対価として、ある
いは、先祖供養、水子供養、お祓いといった宗教的行為に参加しそれに伴
う献金として、世上よく行われる程度のものであって、不相当に高額とい
うわけではないから、標記の各支払に関する被告の勧誘行為等が社会的に
相当と認められる範囲を逸脱したものとまではいえない 。
(2)本件支払〔5〕及び〔6〕について
証拠(略)によれば、平成13年ころ、原告の娘であるAは、過食症にな
49
論点項目
判示内容
り、心療内科に通院し投薬やカウンセリングを受けていたものの目立った
効果がなく、また、原告の息子であるBについても、平成15年ころ、家
族の制止を振り切って自宅3階から飛び降りてしまったという出来事以
降、精神面が落ち着くことがなく、原告は、子供らの行く末に大きな不安、
悩みを抱えていたこと、平成16年10月ころ、高島易断に相談したとこ
ろ、C家の因縁切りをして運気を上げる必要があるとして300万円かか
ると言われたが、そのような大金を用意できずに依頼するには至らなかっ
たこと、平成18年ころ、Bは出家するとして高野山で修行を志したもの
の、挫折して自宅に戻り、引きこもりの状態となったこと、被告は、平成
14年6月17日付けで高野山真言宗の度牒を授与されたが、平成19年
当時、同宗の住職になるための「教師」の資格を有していなかったにもか
かわらず(被告は、「教師」に必要な受戒(じゅかい)、加行(けぎょう)
、
伝法潅頂(でんぽうかんじょう)という行位(ぎょうい)を取得しておら
ず、教師検定試験に合格あるいは同試験を免除されたわけでもない。)、平
成19年ころには周囲の者から住職と呼ばれており、平成20年に、同宗
が「福寿山如意院」のホームページを認識し、高野山真言宗の寺院である
かのような記載につき問題があることから、被告に同宗名の使用の経緯を
説明するよう求めたのに対し、被告は、
「高野山真言宗」は名乗らないと返
答したこと、原告は、妻Dと息子Bともに、平成19年5月13日、
「福寿
山如意院」ホームページで高野山真言宗の寺院であると認識した福寿山如
意院の被告を訪ね、Aの長年の過食症やBの引きこもりの件を相談したこ
と、同月15日の早朝(午前6時ころ)、被告は、原告方に電話をかけ、原
告に対し、佛海和尚が降霊し、行を始めた方がよい、原告の娘や息子には
悪い霊がついており、原告自身にも悪い霊がついているので、それらをす
べて除霊しなければ家族全員はだめになってしまうと告げたこと、これに
より、原告は被告がいう除霊をしなければ家族が抱えている問題が今後も
継続するとの思いに駆られ、除霊をしてもらうべく、同月20目、原告を
含む家族4人が福寿山如意院を訪れたところ、被告から、先に家族4人で
護摩祈祷(お祓い)をする必要があり、その後に被告が行を始めること、
お祓い代が1人3万円で4人で合計12万円、行修行代が50万円である
ことを告げられ、行修行の内容がいかなるものかの説明もないままに、上
記金員をいつ払えるのかと何度も尋ねられ、原告は、一度きりの出費で悩
みが解決するのであれば構わないと考えて、被告勧誘に係る上記各行為を
依頼するとともにそれらの支払を約したこと、その際、被告は、要旨、い
かなる場合も返金はしないので金額等不明確な場合は納得するまで十分に
説明を受けることやお祓い期間中及び終了後も一切の苦情等を福寿山如意
院に対して不利益になる行為はしないことが不動文字として記載された念
書(証拠、略)を示して署名押印を促し、原告は妻に指示してこれに署名
させ、押印したこと、以上の事実が認められる。
そうであれば、被告は、原告に対して、原告が有する家族に関する悩み
を知りつつ、その悩みに付け込み、積極的に電話を掛け、原告の娘や息子、
原告自身についた悪い霊をすべて除霊しなければ家族全員はだめになって
しまうとの害悪を告げて殊更に原告の不安ないし恐怖心を煽り、行修行等
の名目で総額62万円もの不相当に高額な支払をさせたものというべきで
50
論点項目
判示内容
あるから、本件支払〔5〕及び〔6〕に関する被告の勧誘行為等は社会的に
相当と認められる範囲を逸脱したものとして違法といわなければならな
い。
(3)本件支払〔7〕ないし〔13〕について
・・・
(中略)
・・・
(4)本件支払払〔14〕及び〔16〕について
証拠(略)によれば、原告は、重度の食物アレルギー及びラテックスア
レルギーに苦しんでおり、いったん発症すると、呼吸困難、意識障害、血
圧低下により危険な状態に陥ることもあり得る状態であったところ、平成
19年7月ころ、原告のアレルギー症状が悪化し、被告における定例の供
養を欠席するようになったこと、被告は、その理由を原告の妻から聞いた
後、原告の息子のことは言わなくなり、原告自身に問題があることを話す
ようになったこと、被告は、ふと気付いたんだけど後ろに狐がいる、昔は
稲荷を大事にしていたので家も繁栄していたが、今はほったらかしで狐も
おなかをすかせているので、原告に食べさせないようにアレルギーを出し
ている、狐の除霊をしなければアレルギーが出る状態が続くとの害悪を告
げ、狐の除霊は大変で失敗すると乗り移ってしまうものだからふつうはや
らないが、あなたには特別にしてあげる、などと言ったこと、それにより、
原告は、狐が取り憑いているという説明に恐怖を感じ、当時原告は自宅を
建てたばかりで手持ち資金はほとんどなく、自家用車のローンも残ってお
り、費用負担が難しかったため、被告に狐の除霊の金額がいくらになるの
かを尋ね、その際、高島易断に相談したときには300万円を要求され負
担できなかったので断ったことを話したものの、被告が現地に行ってみな
いと分からないと繰り返すばかりであり、原告は、以前お祓い代として5
0万円もの金額を払っているので追加で30万円くらいで済むのではない
かと思い、金額を決めることなく被告に狐の除霊を依頼したこと、被告は、
平成19年8月、福島県所在の原告の実家に赴き、狐の除霊を行ったこと、
被告は、同年9月16日、原告に対し、狐の除霊につき250万円を請求
し、原告は、予想外の金額で途方に暮れつつも、被告が危険を承知しつつ
狐の除霊をしてくれた後であり、被告が何度も支払方法を尋ねたことから、
持参していた10万円をその場で支払うとともに、残金240万円につい
ては、同年10月末日までに支払うことにし、その旨を付記した念書(証
拠、略)を作成したこと、原告はその後借入れをして支払資金を工面し、
残金を支払ったこと、以上の事実が認められる。
そうであれば、被告は、原告に対して、原告自身の健康上の重大な悩み
を知りつつ、それに付け込み、狐の除霊をしなければ原告の重度のアレル
ギー症状が継続する旨の害悪を告げて殊更に原告の不安ないし恐怖心を煽
り、総額合計250万円もの不相当に高額な支払をさせたものというべき
であるから、本件支払〔14〕及び〔16〕に関する被告の勧誘行為等は社
会的に相当と認められる範囲を逸脱したものとして違法といわなければな
らない。
51
【33】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 11 月 17 日 東京地裁 平 23(レ)26 号
判タ 1380 号 235 頁
◆権利能力なき社団である控訴人が、被控訴人経営の旅館の宿泊予約を取り消し
た際に被控訴人に支払った取消料について、被控訴人には上記取消料を受領する
法律上の原因がない旨主張して、不当利得返還請求をしたところ、請求が棄却さ
れたことから、控訴した事案において、控訴人と被控訴人との間では、控訴人が
宿泊前日に本件予約を取り消した場合、本件取消料条項に基づき取消料を支払う
旨の本件取消料合意が成立したと認められるとした上で、控訴人が「消費者」に
該当し、本件予約は「消費者契約」に該当するとし、本件取消料合意のうち、「平
均的な損害」を超える取消料の額を定める部分は無効となるとして、控訴人は消
費者に該当し、本件予約は消費者契約に該当するとし、本件取消料合意のうち、
平均的な損害を超える取消料の額を定める部分は無効となるとして、被控訴人の
不当利得を一部認めて、請求を棄却した原判決を変更した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
法において、
「法人その他の団体」が「事業者」に当たるとされているの
は、
「法人その他の団体」は、消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉
方
力において優位に立っているからである(法1条参照)。そうすると、権利
能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、
消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っている
と評価できないものについては、
「消費者」に該当するものと解するのが相
当である。
これを本件についてみると、前記前提事実記載のとおり、控訴人は大学
のラグビークラブチームであり、その主要な構成員は大学生であるものと
認められ、現に、控訴人の担当者であったBは、本件手配旅行契約締結当
時大学生であったこと(甲12)からすると、控訴人は、事業者である被
控訴人との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っている
とは評価できず、
「消費者」(法2条1項)に該当するものと認められる。
「平均的な損害の
そして、「平均的な損害」及びこれを超える部分については、事実上の
額」の立証責任の 推定が働く余地があるとしても、基本的には、当該条項における損害賠償
の額の予定等が平均的な損害を超えて無効であると主張する消費者におい
在り方
て主張立証責任を負うものと解すべきである(最高裁平成18年11月2
7日第二小法廷判決・民集60巻9号3437頁参照)。
52
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
(ア) 以上のとおり、被控訴人は、本件予約の取消しにより、宿泊料
金120万2805円+グラウンド使用料金7万0500円-(食材費3
額」の意義
3万1411円+光熱費、クリーニング費用及びアメニティー費用計14
万4049円)=79万7845円の損害を免れ得なかったものと認めら
れる。
そして、本件のような手配旅行契約に基づく宿泊施設の予約の取消料に
ついては、企画旅行契約における標準旅行業約款(乙22、23、旅行業
法2条4項、12条の3参照)のように、業界における標準約款が存在せ
ず(なお、国際観光旅行連盟近畿支部においては、31名から100名ま
での人数の宿泊を宿泊前日に取り消した場合、宿泊料金の80%に相当す
る取消料が発生する旨定めている(乙21)が、本件宿泊先は長野市内に
存すること等からすると、上記定めは本件において十分に参考となるもの
ではない。)、また、被控訴人と同地域に存する他の宿泊施設においては、
宿泊前日の取消料について、宿泊料金の20%から100%までと宿泊施
設ごとに大きく異なる金額を定めており(甲15の1ないし3、乙28な
いし35)
、他に基準となるべきものが見当たらない以上、上記損害額が、
本件予約の取消しにより被控訴人に生ずべき「平均的な損害」に当たるも
のと解するのが相当である。
53
【34】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 10 月 25 日 最高裁第三小法廷 平21(受)1096号
民集 65 巻 7 号 3114 頁
◆個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者との間の売買契約が公序良
俗に反し無効とされる場合であっても、販売業者とあっせん業者との関係、販売
業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度、販売業者の公序良俗に反す
る行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし、販売業者によ
る公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ、売買契約と一体的に
立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情
があるときでない限り、売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との
間の立替払契約が無効となる余地はない。
論点項目
判示内容
複数契約の解除の (1) 個品割賦購入あっせんは、法的には、別個の契約関係である購入者と
割賦購入あっせん業者(以下「あっせん業者」という。)との間の立替払契
規律の要否
約と、購入者と販売業者との間の売買契約を前提とするものであるから、
両契約が経済的、実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても、
購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗す
ることはできないというべきであり、割賦販売法30条の4第1項の規定
は、法が、購入者保護の観点から、購入者において売買契約上生じている
事由をあっせん業者に対抗し得ることを新たに認めたものにほかならない
(最高裁昭和59年(オ)第1088号平成2年2月20日第三小法廷判
決・裁判集民事159号151頁参照)。
そうすると、個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者との間
の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても、販売業者とあ
っせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び
程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の
有無及び程度等に照らし、販売業者による公序良俗に反する行為の結果を
あっせん業者に帰せしめ、売買契約と一体的に立替払契約についてもその
効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限
り、売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契
約が無効となる余地はない と解するのが相当である。
適正な行使期間
そして、前記事実関係によれば、被上告人が消費者契約法の規定による取
消権を追認をすることができる時から6箇月以内に行使したとはいえない
から、同法7条1項により、その取消権は時効によって消滅したことが明
らかであり、被上告人の消費者契約法の規定による取消しを理由とする本
件既払金の返還請求は理由がない。
※平成 15 年3月契約締結、平成 17 年 10 月頃取消しの意思表示をした事案
54
【35】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 9 月 14 日 東京地裁 平21(ワ)27113号
判タ 1397 号 168 頁
◆被告から金銭を借入れその借入金により被告との間で金融商品である仕組預金
をする契約を締結し、借入れのための担保として自己の所有する建物に根抵当権
を設定するなどした原告が、本件仕組預金契約には、消費者契約法4条1項及び
2項所定の取消事由があり、また、金融商品販売法3条1項所定の説明義務違反
がある等と主張して、被告に対し、本件根抵当権設定登記の抹消等を求めた事案
において、本件仕組預金契約締結につき、不実告知、断定的判断の提供又は不利
益事実の不告知の消費者契約法上の取消事由があるとは認められず、また、被告
に金融商品販売法所定の説明義務違反は認められないなどとして、各請求をいず
れも棄却した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 Bは、原告に対し、本件仕組預金の時価評価額の算定方式及び中途解約が
の在り方
行われた場合の損害金の算定方式について、具体的な説明を行っておらず、
むしろ上記算定方式は説明できない旨回答しているが(上記(1)イ(オ))
、
上記各算定方式自体、極めて複雑な計算を要するものであって(証人B、
弁論の全趣旨)
、そのような算定方式は、消費者たる原告が、本件仕組預金
契約及び本件ローン契約を締結するか否かを判断するに当たっては必ずし
も必要でなく、かえって合理的な判断を妨げる事由ともなりかねないと考
えられるから、上記算定方式自体は消費者契約法4条2項における「重要
事項」に該当しないと解するのが相当 である。
55
【36】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年7月 28 日 東京地裁 平 22(ワ)47503 号
判タ 1374 号 163 頁
◆航空券及びホテルの手配を依頼することを内容とする手配旅行契約を被告との
間で締結した原告が、同契約を解除したところ、同契約に関する手配約款に基づ
いて事務手数料及び多額の違約金を負担させられたと主張し、同約款が公序良俗
に反する無効のもので、そうでないとしても消費者契約法9条1号により「平均
的な損害」を越える部分について無効であるなどと主張して、被告に対し、本件
契約の解除による原状回復義務に基づき、前記手配旅行契約に基づいて支払った
金員から既に返還を受けた金員を控除した残額等の支払を求めた事案において、
本件約款が公序良俗に反するとか、消費者契約法9条1号に違反するといった事
実は認められないとして、請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
原告は、本件約款が消費者契約法9条1号の定める「平均的な損害の額」
を超える定めとして同額を超える部分について無効であると主張するが、
額」の意義
この約款は、旅行者が本件契約を解除した場合には、同人は、①既に旅行
者が提供を受けた旅行サービスの対価、②取消料、違約料その他の運送・
宿泊機関等に対して既に支払い、又はこれから支払う費用の負担、③旅行
業者に対し、所定の取消手続料金及び同社が得るはずであった取扱料金を
支払わなければならない旨を定めているものであって、その内容に照らせ
ば、同法9条1号の「平均的な損害」の内容を一般的に定めたものと解さ
れる。
そして、被告は、本件約款に基づき、原告が自らの都合によって本件契
約を解除したこと(本件航空券については発券手続後に解除したこと)に
よって生じた航空会社や本件ホテルに対して支払うべき取消料・違約料に
相当する額の返還を拒絶しているが、これらの取消料・違約料に相当する
額を、原告のために本件航空券や本件ホテルの手配を行ったに過ぎない被
告が負担しなければならない理由はない のであるから、これらの取消料・
違約料相当額(本件航空券の航空券代、出入国税等、本件ホテルの取消手
数料)は、原告が本件契約を解除したことによって被告に生じた「平均的
な損害の額」の範囲内のものとして、被告に返還義務を生じないと解する
のが相当である(なお、原告は、本件航空券の発券手続後の取消しの場合
に、航空券代金《出入国税等を含む。》の100%を取消手続料金として徴
収する旨のアメリカン航空及びアビアンカ航空の定めが消費者契約法9条
1号に違反することを前提とする主張も展開しているが、そもそも外国の
航空会社が定める規定に同法が適用されるのかという問題があるだけでな
く、これらの法律問題によって生ずるリスクを航空券の手配を依頼された
だけの被告が負担すべき理由はない から、このような法律問題が本件約款
の解釈及び適用に影響することを前提とする原告の主張を直ちに採用する
ことはできない。
)。
また、被告は、原告が本件契約に基づいて支払った代金のうち、被告の
手配旅行に関する取扱料金についても、被告は、本件契約に基づいて本件
56
論点項目
判示内容
航空券及び本件ホテル予約の手配を完了したのであるから、本件契約の解
除によって被告に生じた「平均的な損害の額」の範囲内のものとして、被
告に返還義務を生じないと解するのが相当である。
57
【37】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年7月 15 日 最高裁第二小法廷 平 22(オ)863 号
民集 65 巻5号 2269 頁
◆賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は、
更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるな
どの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規
定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
論点項目
10 条の前段要件
の在り方
10 条の後段要件
の在り方
判示内容
消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当
該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の
適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重
するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規
定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そし
て、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借
人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる
(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の
要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味におい
て、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重
するものに当たるというべきである。
消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当
該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消
費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項
が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消
費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約
が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量
並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきであ
る。
更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、
賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するこ
とは、前記(1)に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合
理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間
満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存す
ることは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新
料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いが
されてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項
が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に
更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人
との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看
過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項
は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額
に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法
58
論点項目
判示内容
第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する
もの」には当たらないと解するのが相当である。
59
【38】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 4 月 20 日 東京地裁 平22(レ)2000号
ウエストロー・ジャパン
◆控訴人Y1社との間で、資産運用ソフトウェアを購入する旨の売買契約を締結
し、売買代金を支払った被控訴人が、(1)控訴人Y1社に対し、選択的に、①
特定商取引に関する法律基づいて上記売買契約を解除したとして、原状回復請求
権に基づき、②特定商取引に関する法律又は消費者契約法に基づいて上記売買契
約を取り消したとして、不当利得返還請求権に基づき、(2)控訴人Y2社に対
し、同社が控訴人Y1社に対して自己の商号を使用して営業等を行うことを許諾
したとして、商法14条等に基づき、連帯して売買代金の返還等を求めた事案に
おいて、認定事実によれば、控訴人Y1社の従業員は、被控訴人に対して本件商
品の品質について事実を故意に告げなかったと認定し、被控訴人は、消費者契約
法4条2項又は特商法9条の3第1項2号に基づき、本件売買契約を取り消すこ
とができるとして、控訴人Y1社に対する請求を認めたが、控訴人Y2社の連帯
責任は否定した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
① 本件商品は、パソコンが自動で馬券の購入をナビゲーションして資
の在り方
産運用をするためのソフトウェアであること、② 本件商品のパッケージ
(甲9)には、「競馬や投資の知識も一切不要です」「安全・確実 JRA
(日本中央競馬会)が主催する過去10年以上の実績と3万件を超えるデ
ータと統計がベースです。」との記載があることがそれぞれ認められ、これ
らの事実に照らせば、本件商品を用いた資産運用において損益が発生する
こと及びその程度は、
「消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内
容」に当たり、かつ、消費者たる被控訴人が本件契約を「締結するか否か
についての判断に通常影響を及ぼすべきもの」と認められるから、
「重要事
項」
(消費者契約法4条2項、4項)に当たる ものと認められる。
60
【39】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 3 月 31 日 東京地裁 平21(ワ)31467号
証券取引被害判例セレクト 41 巻 27 頁
◆証券会社である被告から仕組債を購入した原告が、被告の従業員の行為に不法
行為が成立するなどと主張して、当該仕組債の代金相当額の支払を求めた事案に
おいて、本件仕組債の販売自体は公序良俗違反には当たらず、誠実公正義務・信
義誠実義務違反も認められず、適合性原則違反、断定的判断の提供禁止違反も認
められないとしたが、本件仕組債の特徴により高配当を取得できる可能性及び元
本毀損の可能性について検討が必要なことから、当該事項についての十分な説明
がなかったとして、説明義務違反を理由とする不法行為責任を肯定した上で、被
告の従業員は十分とはいえないが相当程度の説明義務を尽くしており、原告が十
分に注意を払い、その内容を理解することを尽くした場合は本件契約を締結しな
かった蓋然性が高いとして、原告側の過失を認定し、8割の過失相殺を認めて請
求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
原告は事業の経営者であり、本件仕組債も経営していた会社の営業資金
方
として活用することを予定していたとすれば、事業のために契約の当事者
になったことになるから、消費者契約法の適用はないこととなる(消費者
契約法2条1項参照)。
61
【40】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年3月 24 日 最高裁第一小法廷 平 21(受)1679 号
民集 65 巻2号 903 頁
◆消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は、信
義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはでき
ないが、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自
然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時
金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべき
ものであるときは、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額で
あるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一
方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる。
◆消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は、賃
貸借契約締結から明渡しまでの経過期間に応じて18万円ないし34万円のいわ
ゆる敷引金を保証金から控除するというもので、上記敷引金の額が賃料月額の2
倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること、賃借人が、上記賃貸借契約が更新
される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等
の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では、上記敷
引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無
効であるということはできない。
論点項目
10 条の前段要件
の在り方
判示内容
(1) まず、消費者契約法10条は、消費者契約の条項が、民法等の法律の
公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消
費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを要件
としている。
本件特約は、敷金の性質を有する本件保証金のうち一定額を控除し、こ
れを賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約であるところ、居住用建物の
賃貸借契約に付された敷引特約は、契約当事者間にその趣旨について別異
に解すべき合意等のない限り、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させ
る趣旨を含むものというべきである。本件特約についても、本件契約書1
9条1項に照らせば、このような趣旨を含むことが明らかである。
ところで、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に
予定されているものであるから、賃借人は、特約のない限り、通常損耗等
についての原状回復義務を負わず、その補修費用を負担する義務も負わな
い。そうすると、賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む
本件特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義
務を加重するものというべきである。
62
論点項目
10 条の後段要件
の在り方
判示内容
(2) 消費者契約法10条は、消費者契約の条項が民法1条2項に規定する
基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもので
あることを要件としている。
賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(い
わゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、
賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結す
るのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。そして、
通常損耗等の補修費用は、賃料にこれを含ませてその回収が図られている
のが通常だとしても、これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の
合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれ
ないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引
特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできな
い。また、上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な
一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる
紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷
引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ち
にいうことはできない。
もっとも、消費者契約である賃貸借契約においては、賃借人は、通常、
自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な
情報を有していない上、賃貸人との交渉によって敷引特約を排除すること
も困難であることからすると、敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額
に過ぎる場合には、賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに
交渉力の格差を背景に、賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされた
ものとみるべき場合が多いといえる。
そうすると、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引
特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、
賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金
の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同
種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限
り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであ
って、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。
【39-2】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年7月 12 日 最高裁第三小法廷 平 22(受)676 号
裁判集民 237 号 215 頁
◆消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は、保
証金から控除されるいわゆる敷引金の額が賃料月額の3.5倍程度にとどまって
おり、上記敷引金の額が近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約に
おける敷引金の相場に比して大幅に高額であることはうかがわれないなど判示の
事実関係の下では、消費者契約法10条により無効であるということはできな
い。
63
【41】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 3 月 23 日 東京地裁 平 21(ワ)17341 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、被告との間で被告の沈没船引き上げ事業に出資する匿名組合契約(本
件契約)を締結し、100万円を出資したが、消費者契約法4条により、本件契
約を取り消したなどと主張して、不当利得等に基づき出資金の返還を求めた事案
において、被告担当者は、原告に対し、本件契約の重要事項について事実と異な
ることを告げ、原告は、告げられた内容が事実であると誤認したものと認めら
れ、本件契約の勧誘、締結は、消費者契約法4条1項1号の要件を満たすなどと
して、原告の請求をすべて認容した事例
論点項目
判示内容
勧誘要件の在り方 (1) 前提事実と証拠(甲12ないし甲17、甲21ないし甲23、甲28、
甲29、丙3ないし丙9、丙12、証人B、原告、被告代表者)及び弁論の
全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア Bは、平成20年11月中旬ころ、原告に電話をかけ、被告が沈没船
の引き上げ事業を行っていることを説明し、同事業に対する匿名組合の形
式による出資を勧誘し、数日後、原告の自宅に、被告の会社案内、
「Discovery
Fund」と題する本件匿名組合のパンフレット、重要事項説明書、匿名組合
出資申込書、重要事項確認書等を郵送 した。
この パンフレットには、
「期間1~3年(予定)期間中合計の予想最低配
当率100%!」と記載 されていた。
イ Bは、同年11月27日ころ、原告宅を訪れ、本件匿名組合について
説明し、さらに、同年12月4日、原告宅を訪れ、
「100万円出資すれば、
1年後には倍になる。」
「100万円出資すれば、1、2年後には倍になる。」
と勧誘した。しかし、これらは、収益のあがっていない段階では実現でき
ない事柄であった。また、Bは、原告に対し、重要事項説明書に記載され
た内容や契約書の契約条項について説明をしなかった 。
そのため、原告は、Bの言葉を信じ、その勧誘に応じることとし、同月
10日、被告の銀行口座に100万円を入金し、本件匿名組合への出資2
口の匿名組合出資申込書を作成した。
ウ 原告は、その後、前記パンフレットを見たところ、出資金については
元本保証や利回り・配当の保証を行うものではないとの記載があることに
気付き、Bに問い合わせたところ、Bは、その記載は、法律上書かなくて
はならないから書いているだけで、気にすることはない旨回答した。
64
【42】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年3月4日 大阪地裁 平 20(ワ)15684 号
判時 2114 号 87 頁
◆被告との間で梵鐘製作を目的とする請負契約を締結し、代金の一部を支払った
契約当時91歳の高齢者である原告が、当該契約の効力を争って不当利得の返還
等を求めた事案において、本件では、本件請負契約締結前に原告が支払った2億
円の名目につき、本件請負契約書中で初めて単なる契約金ないし前金ではなく中
途解約時の解約金ないし違約金であることが明らかにされているところ、被告の
担当者がこれを告げた事実は認められないから、同担当者は、原告から前払いさ
れた金員が契約解除の場合にはそのまま違約金になるにもかかわらず、そのこと
を故意に告げなかったことにより原告を誤信させ、本件請負契約の締結に至らせ
たとして、本件請負契約につき消費者契約法4条2項の重要事実に係る不利益事
実の不告知があると認め、同契約を取り消して原告の請求をほぼ認めた事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
「原告から前払いされた二億円が契約解除の場合にはそのまま違約金に
の在り方
なる」こと
先行行為要件の要
言及なし
否
不告知の要件の在
そして、前記認定事実のとおり、同年三月一日に原告から被告に対し支
り方
払われた二億円について、本件契約書(五条)では、中途解約時の解約金
ないし違約金であることが初めて明確にされており、その名目が単なる契
約金ないし前金とは異なるものに変更されているにもかかわらず、Cが原
告にそのことを告げたとの事実は認められない 。
故意要件の要否
Cは、このようにして、原告から前払いされた二億円が契約解除の場合
にはそのまま違約金になるにもかかわらず、そのことを故意に告げなかっ
たことにより、原告にそのことを誤信させ、本件請負契約書に署名押印を
させ、本件請負契約の締結に至らせた ものであるから、本件請負契約につ
いては消費者契約法四条二項の取消事由(重要事項に係る不利益事実の不
告知)があるものというべきである。
65
【43】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年 2 月 24 日 東京地裁 平21(ワ)3443号
ウエストロー・ジャパン
◆本件建物を賃貸している原告が、賃借人である被告に対し、本件建物の賃料増
額確認並びに現行賃料との差額及びこれに対する利息の支払を求めた(本訴)の
に対して、被告が、原告に対し、本件賃貸借契約に基づく礼金及び更新料の支払
合意は暴利行為にあたり無効であるなどと主張して、既払礼金及び更新料の返還
を求めるとともに、経済事情の変動や近傍同種の建物賃料との比較、本件建物の
経年劣化等に照らして賃料が不相当に高額になったと主張して本件建物の賃料減
額確認を求めた(反訴)事案において、本件賃貸借契約の法定更新に際して被告
は原告に対し更新料の支払義務を負わないとし、また、本件賃貸借契約において
礼金支払条項は消費者契約法10条により無効であるが、更新料支払条項は無効
ではないとした上で、相当賃料額を認定し、本訴請求を棄却する一方、反訴請求
を一部認容した事例
論点項目
判示内容
10 条の前段要件
前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約にお
の在り方
いて、被告が原告に対し、礼金として33万8000円を支払う旨が合意
され、これに基づいて同額の金銭が支払われたことが認められるが、弁論
の全趣旨によれば、本件賃貸借契約における礼金支払条項は、契約締結に
対する謝礼金を原告に贈与することを義務づけるもので、被告は礼金の支
払によって何らの対価も取得しないことが認められるから、かかる金銭の
贈与を契約締結の条件とする旨の礼金支払条項は、本件賃貸借契約の成立
において、民法による場合に比べて被告の義務を一方的に加重するものと
認めるのが相当 である。
10 条の後段要件
また、前記礼金支払条項は、本件賃貸借契約の締結にあたって賃貸人た
の在り方
る原告から金額を定めて提示された条件であると認められるところ、被告
は、同条項に合意することを拒否すれば本件建物を賃借することを断念せ
ざるを得ず、あるいは、契約締結後の関係悪化を慮ってその免除ないし減
額の交渉を強硬に主張し難い立場にあるといえるから、原告と被告との間
には交渉力の格差が存した ものというべきであり、前記礼金支払条項は、
信義則に照らして被告の利益を一方的に害するものというべきである。
よって、本件賃貸借契約における礼金支払条項は、消費者契約法10条
により無効と解するのが相当である。
66
【44】
裁判例
出 典
要 旨
平成 23 年1月 20 日 東京地裁 平 22(レ)1691 号
ウエストロー・ジャパン
◆訴外Aの被控訴人に対する貸金債務につき連帯して保証していた控訴人が、被
控訴人との間で当該債務の残金を分割して支払う旨の和解契約(21.9%の割
合による遅延損害金)を締結したところ、控訴人が同和解契約に基づく支払債務
の期限の利益を喪失したとして、被控訴人が控訴人に対し、残金全額の支払を求
めた事案において、本件和解契約は公序良俗に違反するものではないし、消費者
契約法10条に違反するものではないとしたものの、本件和解契約は、貸金契約
及び保証契約とは個別に創設的に締結された和解契約であり、それ自体として
「金銭を目的とする消費貸借契約」(利息制限法1条)に該当しないから、消費
者契約法11条2項の適用はなく、同法9条2号の適用は排除されず、本件和解
契約に定める遅延損害金の上限は、期限の利益喪失時より利率は年14.6%で
あるとして計算して、被控訴人の請求を一部認めた事例
論点項目
判示内容
①前段要件の在り
1 争点①(本件確認条項の有効性)について
方
控訴人は、本件確認条項は本来金銭消費貸借契約では認められない利息
②後段要件の在り 制限法違反の違法な金利を含めた支払義務を容易に債務者に強要する結果
方
になり、暴利行為として公序良俗に反し又は消費者契約法10条に違反し
無効であると主張する。
しかしながら、貸金業者との間で取引を行った者が、当該取引により貸
金業者に対して過払金に係る不当利得返還請求権を有するに至ったとして
も、これを現実に行使するか否か、行使するとしてこれをいかなる範囲で
行使するかは、当該者の自由意思にゆだねられるべき事柄であって、当該
者が貸金業者との任意の合意によって上記過払金の減免を行うことが、直
ちに利息制限法の趣旨に反するということもできないから、本件確認条項
が既に生じていた被控訴人に対する過払金元金及びその利息の返還請求権
を控訴人において放棄する内容のものであったとしても、そのことが直ち
に本件確認条項の無効を招来するものではないというべきであり、また、
本件証拠上、本件和解契約が殊更利息制限法の規制を潜脱する趣旨で行わ
れたものとみるべき事情をうかがうこともできない。
以上より、本件和解契約は、公序良俗に違反するものではないし、消費
者契約法10条に違反するものでもない から、この点に関する控訴人の主
張には理由がない。
67
【45】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 12 月 15 日 東京地裁 平 20(ワ)37803 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告の従業員である訴外Bの違法な勧誘を受けて、被告の未公開株式を購入
し、被告に280万円を送金した原告が、消費者契約法4条1項2号に基づき上
記未公開株式の契約を取り消したとして、被告に対し、280万円の返還を求め
た事案において、訴外Bは被告の従業員ではない、被告は280万円を受領して
いない、消費者契約法7条2項及び会社法211条2項の適用により、原告は本
件未公開株式の引受けを取り消すことができないなどとする被告の主張・抗弁を
全て退け、原告の請求をほぼ認容した事例
論点項目
判示内容
「将来における変 (1) 原告は、平成19年6月、被告の株式公開準備室のBと名乗る人物か
動が不確実な事
ら、電話で、被告の未公開株式の購入の勧誘を受け、会社情報を送らせて
項」要件の在り方 ほしいと言われたので、原告は、これを承諾した。数日後、Bから、被告の
出版する雑誌や被告の運営するウェブサイトの名称の入った封筒により、
被告の会社案内等が送付されてきた。
Bは、原告に対し、株式の価格は1株28万円であるが、半年後の平成
20年春には上場し、上場時の公募価格は、幹事証券会社及び会計監査法
人の試算によれば50万円で、安く見積もっても40万円は下らないであ
ろうと説明をした。
・・・
(中略)
・・・
(2) その後、Bは、同年9月下旬ころ、場合によっては、上場が早まるか
もしれないと述べたが、その後、やはり年内の上場は難しいと連絡してき
た。原告が、平成20年に入ってから状況を尋ねると、Bは、
「2月の上場
も難しいので、もう少し待ってほしい。春には良い報告ができるでしょう。」
と述べた。同年3月には、Bの代わりに、被告の従業員のCと名乗る者が、
「時期的に今は良くないので、もう少し先になりそう。」と話した。同年4
月、前記Cは、
「事業も海外に展開することが決定している。6月には必ず
上場する。
」と述べた。同年6月、原告が被告本社に電話をかけると、株式
公開準備室は廃止されており、応対していた受付の人に株式公開準備室の
件を尋ねると、「現在は社長のAが未公開株担当をしている。」と述べた。
そこで、Aに連絡をとると、
「上場は延期された。来年以降になる。東南ア
ジアへの事業展開が決まった。」と述べた。
・・・
(中略)
・・・
そして、前記1のとおり、Bは、原告に対し、被告の未公開株式につい
て、上場すること及びその時期を明言し、断定的判断を提供 して、本件未
公開株式の取得を決意させたものと認められるから、原告は、消費者契約
法4条1項2号により、これを取り消すことができる。
68
【46】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 12 月2日 大阪地裁 平 20(ワ)13953 号
判タ 1350 号 217 頁
◆被告らとの間で連鎖販売契約を締結した原告らが、被告らに対し、クーリング
オフによる連鎖販売契約の解除又はクーリングオフによる訪問販売における契約
の解除に基づき、民法545条の解除に基づく原状回復請求として既払金の返還
等を求めるなどした事案において、被告らが契約締結時に交付した契約書面は特
定商取引法上の契約時交付書面に当たらないから、クーリングオフ期間である2
0日間は経過していないとした上で、連鎖販売契約締結時に連鎖販売業に係る商
品の販売のあっせんを店舗によらないで行う個人であったが、解除時点において
は連鎖販売業に係る商品の販売のあっせんを店舗によらないで行う個人とはいえ
ない原告らの一部については、クーリングオフによる連鎖販売契約の解除はでき
ないとしたが、その余の原告らのクーリングオフによる連鎖販売契約の解除を認
めるなどして、原告らの請求を一部認容した事例
論点項目
消費者概念の在り
方
判示内容
3 訪問販売における契約の解除の主張(X11夫妻)について
前記認定の連鎖販売取引の仕組み並びに前記1(3)及び後記5の認定事
実によれば、原告X11及び同X12は、連鎖販売契約のあっせんを反復
継続することにより、連鎖販売取引による報酬(特定利益)を得ることを
目的として、被告らとの間で連鎖販売契約を締結し、現に報酬を得ていた
ものと認められる。・・・(中略)
・・・
上記3の認定判断によれば、X11夫妻は、連鎖販売契約のあっせんを
反復継続することによって利益を得るために、すなわち事業として、被告
らとの連鎖販売契約を締結したものと認められる。そうすると被告らとの
連鎖販売契約におけるX11夫妻は、事業として契約の当事者となる場合
にあたり、消費者契約法2条1号に定める消費者にあたらない。
69
【47】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 11 月9日 東京地裁 平 21(ワ)4449 号
ウエストロー・ジャパン
◆マンションの管理組合である原告が、管理組合発足前に共用部分につき締結さ
れた電気受給契約が過大であったとして、マンション販売会社や従前の管理会社
らに適正な契約電力等の説明義務違反や契約上の地位譲渡に関する契約義務違反
を理由とする損害賠償請求をするとともに、電力会社に契約の取消し等による電
気料金の不当利得返還を求めた事案において、管理組合である原告は消費者契約
法の「消費者」ではないとした上、新規物件の契約電力設定として、契約が過大
であったとはいえないし、従前の管理委託業務を行っていた管理会社に新契約の
電気料金が適切となるように助言すべき注意義務があるともいえないなどとし
て、請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り ア 消費者契約法は、
「消費者契約」とは、
「消費者」と「事業者」との間で
方
締結される契約をいうと定義し(同法2条3項)
、その「消費者」とは、個
人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを
除く。
)をいうと定義している(同条1項)から、法人その他の団体は、小
規模なものであっても、消費者契約法における「消費者」には当たらない
ことは明らかである。
そうすると、原告は、本件マンションの管理組合であり、個人ではない
から、消費者契約法における「消費者」には当たらないし、したがって、本
件新契約も、消費者契約法における「消費者契約」には当たらない。
原告は、マンションの管理組合である原告は上記の「個人」ではないが、
マンションの区分所有者である各組合員個人の利益を守るために存在する
団体であり、原告の理事は区分所有者個人の中から選任されているから、
消費者契約法の適用又は類推適用が認められるべきであると主張するが、
消費者契約法の明確な定義に反する独自の見解をいうものであり、到底採
用することはできない。
70
【48】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 10 月 29 日 東京地裁 平 20(ワ)17540 号
ウエストロー・ジャパン
◆コンビニエンスストアのフランチャイズチェーンを運営する原告が、フランチ
ャイジーである被告Y1において、一方的に店舗を閉鎖し、半額セールを実施し
た上、その売上金を支払うよう求めても応じなかったことなどから契約違反を理
由に解除し、被告Y1及びその連帯保証人である被告Y2に対し、清算金、違約
金及び損害賠償の支払を求めた事案において、原告の説明義務違反、経営指導義
務違反など背信性の高い債務不履行行為によって被告Y1が先に解除したことに
よって原告との契約は終了しているとの被告Y1の主張を排斥するなどして、原
告の請求を認容した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り (3) 本件契約に対する消費者契約法の類推適用の可否
次に、被告らが主張する消費者契約法9条1号、2号又は10条の類推
方
適用による原告の請求権の一部無効の成否について検討するに、同法は、
事業者と消費者との間の契約を規律するものであり(同法2条3項)
、同法
における「消費者」とは、
「個人(事業として又は事業のために契約の当事
者となる場合におけるものを除く。
)」と定義されている。
そうすると、被告Y1は、コンビニエンスストアを自ら経営するために
本件契約を締結した者 として、事業のために契約の当事者となる場合に当
たるから、同法2条1号の「消費者」には該当しないことになる。
被告らは、被告Y1と原告との間には情報・交渉力について構造的な格
差があるから、本件契約にも同法の趣旨を及ぼすべきであると主張するが、
同法が「個人」であっても「事業として又は事業のために契約の当事者と
なる場合におけるものを除く。」と明確に定めている以上、原告が株式会社
で被告Y1が個人であることのみをもって同法の規定を類推適用すべきと
することは、同法の趣旨を没却するものといわざるを得ない。
71
【49】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 10 月 28 日 東京地裁 平 21(ワ)32488 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、原告の訴外A社に対する貸付金につき連帯保証した被告に対して、貸
付残元金の支払を求めるとともに、被告が原告に対して本件貸付にかかる一切の
債務を担保するために本件株式に質権を設定したところ被告が本件質権設定契約
の締結を否認していることからその質権を有することの確認を求めた事案に関
し、被告の錯誤無効、消費者契約法違反等の抗弁を排斥し、原告の請求を全部認
めた事例
論点項目
判示内容
消費者契約法は、事業者と消費者間の情報の質及び量並びに交渉力の格
消費者概念の在り
差に鑑み消費者の利益の擁護を図ることが目的であり、事業者と消費者の
方
区別は、取引における情報、交渉力の格差の観点から判断されるものであ
る。被告は、複数の企業の経営者であるから、企業経営のノウハウは当然
に有していると推認され、資金調達のために最低限必要な法律的常識、商
慣習等については、これを有しているものと認めるのが相当である。本件
貸付けは、被告が経営する会社が原告から直接融資を受けることができな
かったことから、直接の貸主であるプラスに原告が金主として資金を融資
するものであるところ、金主が直接の融資先(貸主)に対する貸付けにつ
いて、融資先(貸主)から最終的に融資を受ける借主に対し、連帯保証人
となることや担保権の設定を求めることは、一般にしばしば行われること
であるから、企業の経営者であれば、連帯保証人となることないし担保権
の設定について、その意味や当該契約から生ずる不利益を理解することは
容易 である。本件保証契約は、理解しやすい契約の類型であり、被告と原
告との間に、取引における情報、交渉力の格差において、消費者契約法が
予定しているような差異があるとは認められず、被告が本件保証契約等に
おいて、消費者契約法の消費者と認めることはできない。被告の上記主張
は、被告が消費者契約法の消費者であることを前提とするものであるから、
その前提を欠き、採用することはできない。
※被告が、自身が株主でありかつ代表取締役を務める会社のプラスからの
3億円の借入債務を連帯保証した事案。
72
【50】
裁判例
出 典
平成 22 年 10 月7日 三島簡裁 平 22(ワ)73 号
消費者法ニュース 88 号 225 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
連鎖販売取引であっても、それに加入しようとする者が商品等の再販売
方
等を行う意思を持たず、自らの消費のためだけに当該商品の購入契約を締
結する場合は、当該契約は「事業としてでも、又事業のためにでも」なく
なされる契約であって、当該加入者は消費者契約法2条1項の「消費者」
に該当すると解される。
第三者による不当
消費者契約法5条の「媒介」とは、契約の両当事者の間に立って、契約
勧誘行為規制の在 締結の直前までの必要な段取り等を行うことをいい、本件の場合でいえば、
り方(「媒介」要 被告販売会社の尽力によって、被告信販会社が原告と契約締結さえ済ませ
件)
ればよいという状況にしたことをいうものと解される 。
そこで、本件についてこの点を検討すると、前記争いのない事実等、証
拠(略)及び以上の認定説示並びに弁論の全趣旨によれば、被告信販会社
は、平成8年8月 30 日、被告販売会社と加盟店契約を締結し、あらかじめ
立替払契約申込書用紙(証拠、略)を被告販売会社に交付しているが、被
告販売会社又は沼田に立替払契約締結のための代理や媒介を委託したこと
はないこと、被告信販会社は、原告からの本件立替払契約の申込みを受け
(証拠、略)
、平成 18 年4月 18 日午後2時 03 分、原告の勤務先に電話を
かけ、原告が本件商品を購入したこと、その契約内容を了解していること
及び本件立替払契約の申込意思があることをそれぞれ確認したこと、その
際、沼田から本件商品で処理した水を飲むことで病気の治療に効果がある
旨の説明を受けたことが本件商品の購入動機であるとの原告からの申出は
なく、それら一連の対応に不審がなかったことから同申込みを受諾するこ
とを決定したこと(証拠、略)を認めることができる。これらの事実によ
れば、被告信販会社は、本件立替払契約締結のために独自に原告の意思確
認や与信調査を行っていて、これらを行う前の段階で、被告販売会社の尽
力により、被告信販会社が原告と契約締結さえ済ませればよいという状況
になっていたと認めることはできない 。
そして、被告販売会社が、その「ビジネスマニュアル」
(証拠、略)に前
記申込書の各項目の記入要領を記載してマニュアル化していることや本件
立替払契約の締結に当たり、沼田が原告に前記申込書の記入方法を教え、
実際に商品名、現金価格合計、申込金、分割払手数料、支払回数などを記
入するなどしたことは(証人、略)、一般に、物品等の販売業者にとってク
レジット契約が付くか否かは物品等の売れ行きに多大な影響を及ぼすこと
から、販売業者は、クレジット契約が円滑に締結されることを目的に顧客
の同契約申込手続を代行するなどしていると認められ、被告販売会社又は
沼田の行った前記措置もこれと同趣旨のものであって、被告信販会社のた
めに行ったものではなく、原告から依頼を受けて、本件立替払契約申込手
続の一部を代行したにすぎない ものと言わざるを得ない。
よって、被告販売会社は、本件立替払契約について、被告信販会社から
「媒介の委託を受けた第三者」であるとはいえないから、その余の点を判
断するまでもなく、原告の被告信販会社に対する消費者契約法5条、4条
73
論点項目
判示内容
1項1号を理由とする本件立替払契約の取消しの主張を認めることはでき
ない。
74
【51】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年8月 31 日 大阪高裁 平 21(ネ)2785 号
ウエストロー・ジャパン
◆5年間で償却する約定で600万円の入居金を支払って被控訴人の高齢者用介
護サービス付賃貸マンションに母親を入居させていた控訴人が、2年後、賃貸借
契約の終了に伴い、入居金の返還を求めた事案の控訴審において、入居金の法的
性格は、賃貸借契約から生ずる控訴人の債務の担保、医師及び看護師による24
時間対応体制が整った居室への入居の対価及び入居後の医師・看護師らによるサ
ービスの対価としての性格を併有するところ、同マンションには被控訴人が宣伝
していたような24時間対応体制の実態はなく、被控訴人が対価に相当するサー
ビスを提供していないのに1年毎に120万円を取得することは、民法の一般規
定による場合と比較して消費者である控訴人の権利を制限するものであるから、
本件約定は消費者契約法10条により無効であるとして、控訴人の入居金返還請
求を認めた事例
論点項目
判示内容
10条の後段要件の (ウ) 上記(ア)
(イ)によると、本件償却特約は、②本件居室への入居
を可能ならしめた対価の客観的価額がほとんどなく、③実際にBが本件居
在り方
室で受けた対価未払のサービスが皆無に近いのに、被控訴人が、重大な病
気を抱えた高齢者であるBの健康上の弱みにつけこみ、Bないしは控訴人
に対し、医師及び看護師から24時間対応の医療サービスを受けることが
できる、という虚偽の事実を告げて 、控訴人に本件入居金600万円を払
い込ませ、1年毎に120万円ずつを取得するものであるから(しかも、
被控訴人は、1年未満の期間は1年とみなす趣旨であると主張している。
)
、
本件償却特約は、民法の一般規定による場合に比して消費者である控訴人
の権利を制限する条項であり、民法1条2項に規定する基本原則(信義誠
実の原則)
に反して控訴人の利益を一方的に害する ものというべきである。
75
【52】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年7月 29 日 東京地裁 平 21(ワ)5917 号
ウエストロー・ジャパン
◆Y2から資金調達して原告に融資をしたY1が、原告所有不動産に根抵当権を
設定した後、原告・Y1・Y2間で根抵当権の一部をY2に譲渡するとともに、
当該根抵当権の債務者を原告からY1に変更する合意をしたところ、Y2により
根抵当権を実行されたため、原告が物上保証合意が原告の錯誤又は被告らの詐欺
によるもので無効であるとして、所有権に基づく抹消登記請求をした事案につい
て、譲渡された根抵当権は、原告への融資に関連する債務以外のY1の債務も担
保するものであるが、原告が係る債務を担保することまでも認識して変更合意に
応じたとは認められないから、変更合意には要素の錯誤があり無効であるとし
て、請求を認容した事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在
本件変更合意は、その内容から、クレディアが本件不動産について一部
り方
譲渡を受けた本件根抵当権について、被告CSIのクレディアに対する債
務を担保することを内容とするものであるが、その合意の効果は、被告C
SIが原告に融資するためにクレディアから借り受けた債務を担保するだ
けではなく、それ以外のクレディアに対する債務をも担保するものである
ことが認められる。また、前記第2の2(6)ないし(8)で認定した各事実に
よれば、クレディアは、被告CSIに対する債権を回収する目的で本件根
抵当権を実行しているが、この被担保債権のすべてが、被告CSIが原告
に貸し付けるための資金として被告CSIに貸し付けたものであるとは認
められない。
これに対し、前記1で認定した事実関係によれば、原告は、クレディア
が被告CSIに融資をしなければ同被告から融資を受けることができない
ことや、クレディアが原告に融資するための資金を被告CSIに貸し付け
るためには原告が本件根抵当権譲渡及び本件変更合意に応じなければなら
ないことを認識し、やむなくこれに応じたことが認められるところ、原告
が本件変更合意をするに至ったこのような動機は、明示又は黙示に被告ら
に表示されていたものと認められる。そうすると、原告は、被告CSIが
原告に貸し付けるためにクレディアから借り受けたことによって生じた貸
金債務を本件根抵当権によって担保する意思で本件変更合意をしたもの
で、そのような合意をするものと誤信してそれ以外の債務をも担保するこ
とを内容とする本件変更合意をしたものであるから、この点において錯誤
があるというべきである(なお、G及びクレディアの担当者であるDにお
いて、本件根抵当権譲渡及び本件変更合意の際に、原告に対し、これらの
合意によって担保されるクレディアの債権には本件融資とは関係のないも
のも含まれること、したがって、原告が被告CSIに対する債務を約定に
従って遅滞なく支払っていたとしても被告CSIの債務不履行によって本
件根抵当権が実行されることがある旨の説明をしていた事実は認められな
い。)。
そして、以上のような原告の本件変更合意に関する錯誤は、その内容に
76
論点項目
判示内容
照らすと要素の錯誤に該当すると言うべきであるから、結局、本件変更合
意は原告の錯誤により無効であると解すべきである。
77
【53】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年7月9日 奈良地裁 平 19(ワ)961 号
消費者法ニュース 86 号 129 頁
◆呉服・貴金属の販売業を営む呉服等販売会社から着物・宝石などを購入していた
高齢の原告が、同社との間の売買契約は公序良俗に反し無効であるなどと主張し、
呉服等販売会社に対し、不当利得返還ないし不法行為に基づく損害賠償を求めると
ともに、上記売買につき立替払をした信販会社らに対して割賦販売法に基づき支払
を拒絶できる地位にあることの確認を求めた事案において、認知症のために財産管
理能力が低下している原告の状態を利用し、個人的に親しい友人関係にあるかのよ
うに思い込ませ、必要のない商品につき、老後の生活に充てるべき流動資産をほと
んど使ってしまうほど購入させるような売買は、公序良俗に反し無効であるとし
て、呉服等販売会社の店舗において原告の上記状態を認識できた時期以降の売買を
無効とし、同社に対する不当利得返還請求を一部認容するとともに、無効と認めら
れる売買契約について原告が割賦金の支払を拒絶できる地位にあると認めた事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 2(1)・・・
(中略)・・・
する一般規定(暴
前記1認定及び甲88ないし93によれば、平成19年3月ころに光熱
利行為)
費の銀行口座からの引き落としができなくなっており、残高が数千円とい
う状態であって、3000万円ないし4000万円あっておかしくないは
ずの原告の銀行普通預金はほぼ底をついた状態となっていたものである。
本件売買の購入高は平成11年には2件で約47万円であったのが、平
成12年には(キャンセルした別紙1の11を除くと)11件で約309
万円、平成13年は14件で約641万円、平成14年は14件で約36
2万円、平成15年は14件で約571万円、平成16年は14件で約8
37万円、平成17年は10件で約459万円、平成18年は5件で約2
15万円、平成19年は1月から4月までで2件で約116万円と、平成
13年以降金額は増大している。上記合計は3561万円余に及んでいる
ところ、銀行預金口座への入金は定期預金からと年金程度であることから、
上記認定の銀行預金が底をついた原因の大半は、被告京ろまんでの本件売
買の代金支払によるものと考えられる 。
これは、高齢であって、今後収入のみならず財産が増えることのほとん
ど考えられない原告においては、大きな浪費ということができる。
(2) 原告は、前記1認定のとおり、公務員である夫とともに転勤の後高槻
市、後に奈良市で生活するようになったもので、専業主婦として生活して
おり、昭和53年以降平成15年までは脳梗塞を患った夫の介護のために
1日のほとんどを居宅で過ごさざるをえなかったのであり、平成元年以降
平成15年までは奈良市内と近所の句会に所属して、月に数回出かけるほ
かは、ほぼ自宅で生活していたものである。それまでの原告の生活におい
て、原告に着物、宝飾品や絵画等の購買・鑑賞・使用の趣味、またはこれら
を購入することによる浪費の性癖や傾向があったことを認めるに足りる証
拠はない 。
本件売買による商品のうち、着物は2枚ほど着用した形跡があるものの
その他はしつけ糸がついた状態で箱に入っていたこと、宝飾品やバッグ、
絵画等も使用した形跡もなく納戸に積み上げられていたことからは、これ
78
論点項目
判示内容
らを購入した動機が、原告による使用や鑑賞ではないことが推測される。
上記認定事実によれば、これら本件売買の商品は嗜好品であるとはいえ、
原告が購入に及んだ動機が、原告自身の強い希望・欲求や必要性に基づい
たとは到底考えられない 。
3(1)・・・
(中略)・・・
そして、甲1、4によれば、平成19年6月時点において、原告はアル
ツハイマー型認知症であって、財産管理には常に援助が必要と診断されて
いる。
・・・
(中略)
・・・
4 前記2、3のとおり、本件売買は、被告京ろまん店舗において、G、
Eらがその財産の管理能力が痴呆症のため低下している原告に対して、こ
れを知りながら、個人的に親しい友人関係にあるかのように思い込ませ、
これを利用し、原告自身の強い希望や必要のない商品を大量に購入させ、
その結果原告の老後の生活に充てられるべき流動資産をほとんど使ってし
まったものである。このような売買は、その客観的状況において、通常の
商取引の範囲を超えるものであり、民法の公序良俗に反するというべき で
ある。
79
【p26(1)】山健
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 7 月 7 日福岡地裁 平成 20 年(ワ)2259 号
消費者法ニュース 86 号 136 頁
婦人用品の小売り業者が 70 歳台後半の女性に対し、約6カ月の間に 115 点、総額
1286 万円の服飾品を次々と販売した事案。女性の判断能力が十分ではなく業者も
これを知り得たこと、商品は同種・高額なものが多数にわたり過量な質・量であ
ること、女性には支払能力がなく業者も支払能力に疑問を抱いていたこと、業者
は売買代金のほとんどを掛け売りにして後日まとめてクレジット契約を締結させ
ており、女性がどの程度の債務を負っているかを判断し難い状況で次々と取引が
行われており、取引開始から約2カ月半を経過した時点後に行われた売買契約に
ついては社会的相当性を逸脱しており公序良俗に反する無効なものとされた。
(第6回委員提出資料1-1より引用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
私人間の売買契約は私的自治の原則あるいは契約自由の原則により、原則
として有効であることはいうまでもないが、顧客の年齢や職業、収入や資
産状況、これらから窺われる顧客の生活状況、判断能力、取引対象商品の
必要性、取引の頻度、総量や代金額、取引手法等の諸事情に、これらに対
する販売者側の認識も加味した上、総合的に見て、社会的相当性を著しく
逸脱したと判断される場合には、公序良俗違反により無効となるというべ
きである。
以下、上記認定した事実に基づき、本件について原告被告との本件各購
入契約が公序良俗違反となるか否かについて考察する。
ア 被告は原告との 本件各購入契約当時、77歳の高齢者 であり、上記認
定事実ウの事実に照らせば、判断能力も十分ではなかった ものと認められ
る。そして、被告は原告店舗を頻繁に訪れ、長時間滞在することもしばし
ばあったのであるから、原告は被告の言動等からそのことを知り得た もの
と認められる。
イ 取引対象商品はいずれも婦人用の服飾品であり、生活に必需といった
類のものではなく、しかも本件においてはセーターだけでも22点など同
種別の商品が多数にわたっているほか、10万円以上の高級品が40点に
も及んでおり、社交の場にそれほど出ない高齢者である原告にとって、過
剰な量・質のものであることは明白 である。
・・・(中略)・・・
ウ 被告の資力は上記認定事実イのとおりであり、不動産を所有している
とはいえ、月額100万円以上の服飾品を買えるような支払能力はなかっ
た。
・・・(中略)・・・
なお、原告は被告が不動産を所有しているから資力は問題ない旨主張す
るが、これらの不動産からの賃料収入は、当該不動産のローン返済に充て
られるほか、生活費の原資にもなっているものであり、服飾品の販売代金
について不動産の売却による支払を期待することは通常の取引道徳に反す
るというべきである。
・・・(中略)・・・
エ 原告の販売方法は、総額1286万4025円の売買代金のうち、個々
80
論点項目
判示内容
の売買契約時に現金による支払が行われたのは総額51万6100円にす
ぎないのに対し、掛け払いの方法を用いたものは1023万8997円に
上る。しかも、掛け払い分のうち265万3122円分については後日ク
レジット利用に変更するといった、変則的な支払方法が採られている。
そして、本件では、原告から被告に対しては、それが原告被告のいずれ
の意向であったかは別としても、ごく一部を除き、売買契約書、領収書、
クレジット契約書は交付されておらず、とりわけ判断能力に問題のある被
告にとっては、総額としてどの程度の債務を負っているのか判断し難い状
況で、次々と取引が行われていた。
原告は売買の都度、それを被告に説明していたかのような主張をするが、
上記認定のとおり、平成18年1月26日以降、ようやく月に1回程度原
告において、被告に対し掛け払いの総額を示してサインをもらうようにな
ったことが認められるものの、少なくともそれ以前はそのような書類を示
して説明がされていたことを認めるに足りる証拠はなく、被告の判断能力
からすれば、個々の売買を累計して自分がどの程度の債務を負っているか
を把握することは著しく困難であったといわざるを得ない。
オ 原告は、他にも高額の商品を多数販売した顧客がおり、被告のような
顧客は珍しくない、と主張して、それに沿った証拠として甲17を提出す
るが、原告以外の顧客からも過量多額の売買をしたとして訴訟を提起され
たほか(証拠、略)、異なる2名の顧客が消費者センターに連絡をし、同セ
ンターから電話が受けたことがある(証拠、略)など、その販売方法につ
いては被告以外の顧客からも問題にされている。
カ 以上を総合すれば 、被告に対する本件各購入契約の締結は、被告の年
齢や収入、資産状況、生活状況、判断能力、取引対象商品の必要性に照ら
すと、その取引の頻度、総量が過剰・過量なものであったといわざるをえ
ない。さらに、被告に債務総額を認識させにくい掛け売り主体の販売方法
で行われる点でも不相当 である。
さらに、販売者である原告側の認識についても、松尾は遅くとも平成1
7年12月23日ころには、被告の支払能力に疑問を抱き始めているので
あるから、このころから被告に対する販売を抑制すべきであったのに、被
告の喜寿の祝い金といった不確かな臨時収入や生命保険の解約金といっ
た、服飾品の支払の原資としては不相当な資金を当てにするなどして、そ
の後も販売を継続している。
そうすると、平成17年12月24日以降の原告被告間の売買契約は社
会的相当性を著しく逸脱したものとして、公序良俗違反により無効という
べきである。
なお、本件売買が公序良俗違反であるか否かは、顧客の生活状況や判断
能力等個別の事情をも考慮して判断するものである上、松尾の証言によれ
ぱ、多額の売買をした顧客には掛け売りの方法で売買した顧客はいないと
いうのであって(証拠、略)、原告には多額の売買をした顧客が他にもいる
からといっても、被告に対する売買が公序良俗違反にならないというもの
ではない。
81
【54】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年6月 29 日 東京地裁 平 20(ワ)32609 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告X1が被告から購入した土地について、鉛が検出されるなど瑕疵が存在す
るため、瑕疵担保責任を理由として売買契約を解除したなどとして、被告に対
し、代金相当額の返還等を求め、同土地に住宅を建築する予定であった原告X2
が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、原告X1の
請求につき、(1)同土地には瑕疵があるものの、これにより売買契約の目的を
達成することができないとはいえない、(2)瑕疵担保責任の追及は引渡日から
3か月以内にしなければならないとする特約は、消費者契約法10条に違反する
無効なものであるなどとして、鉛等の除去費用の賠償請求を認容しつつ、被告の
原告X2に対する不法行為責任を否定した事例
論点項目
判示内容
10条の後段要件の ウ(ア) 本件土地の瑕疵は、環境基準を超える鉛が検出されるとともに
在り方
皮革等が多数埋設されていたというものであるが、このような瑕疵は、そ
の発見が困難であるとともに、このような瑕疵によって、買主は相当の損
害を受けるものというべきところ、本件特約は、買主である原告X1によ
る瑕疵担保責任の行使期間を、瑕疵の認識の有無にかかわらず、本件土地
の引渡日から3か月以内という短期間に制限 するものである。
(イ) 上記認定事実によれば、被告代表者の兄であるBが、本件土地に
皮革等の燃え殻を埋設し、その後、被告代表者が、本件土地を買い受け、
被告に対し、本件土地を売却したこと、被告は、平成20年1月31日の
本件売買契約の締結時、原告X1の妻から、本件土地の従前の利用方法や
埋設物の有無等の確認を求められたのに対し、居住のみに使用しており、
問題はない旨回答し、埋設物の可能性を記載することなく、原告X1に対
し、物件状況等報告書を交付したものの、その後、同年7月、環境基準を
超える鉛が検出されるとともに、同年8月25日、皮革等の燃え殻が多数
埋設されていることが判明したため、原告X1が、同年10月16日、被
告に対し、本件売買契約を解除するとの意思表示をしたことが認められる
のであって、原告X1は、適宜、本件土地の調査等を尽くしたというべき
である。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事情に照らせば、本件特約は、民法1条2
項に規定する基本原則である信義誠実の原則に反して消費者である原告X
1の利益を一方的に害するものであるというべきである。
(エ) したがって、本件特約は、消費者契約法10条の規定により無効
である。
82
【55】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年6月 11 日 東京地裁 平 21(ワ)41032 号
ウエストロー・ジャパン
◆建物の賃借人である原告が、その賃貸人である被告に対し、敷金の返還、本件
建物からの退去に際して行った工事の費用及び違約金条項により支払った違約金
相当額の支払いを求めた(甲事件)のに対し、被告が、原告に対し、約定の原状
回復義務を果たしておらず本件建物の明渡しは完了していないとしてその明渡し
を求めるとともに、明渡し完了までの損害金、鍵の返却及び鍵交換費用等の支払
いを求めた(乙事件)事案において、本件建物の明渡し完了を認定して敷金返還
請求権の発生を認めた上、原告による工事費用の支出は事務管理として償還請求
でき、本件違約金条項は消費者契約法10条に違反し無効であるから原告による
違約金の支払いは法律上の原因がない等判断して、原告及び被告の請求をそれぞ
れ一部認容した事例
論点項目
判示内容
10条の前段要件の (言及なし)
在り方
10条の後段要件の (5) 次に、原告の請求原因(5)ア(違約金の支払い)は、当事者間に争い
在り方
がない。
本件賃貸借において、同違約金の支払条項(特約36項)が存在するこ
とは、当事者間に争いがないが、同特約条項は、消費者契約法10条に違
反すると解するのが相当である。すなわち、本件においては、賃借人から
の 解約申し出後2か月で賃貸借契約が終了する旨の特約が別途存在するの
であり、賃貸借契約が2年以内に解約されることにより、賃貸人に特段の
不利益があるとは考えられない 。本件賃貸借は居住用マンションの賃貸借
であるが、その契約時期は、平成20年2月であるところ、一般的には、
4月に居住用マンションの新規需要が生じるのであるから、契約後2年間
の契約期間に特段の意味はない といわなければならない。そうすると、上
記特約は、事業者である被告と消費者である原告との間に取り交わされた
消費者契約の条項であって、消費者である原告の利益を一方的に害すると
いうべきである。
※本件賃貸借の違約金条項:賃借人より契約締結後2年未満に解約・解除
等がされたときは、賃借人は賃料・共益費の1か月分を支払う旨の条項
83
【56】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年6月 10 日 東京地裁 平 21(ワ)41710 号
ウエストロー・ジャパン
◆訴外Aからビルの一室を賃借していた原告が、本件賃貸借契約に定める原状回
復特約、更新料特約等が無効であるとして、訴外Aから賃貸人としての地位を相
続した被告に対し、支払済みの原状回復費用及び更新料等について不当利得に基
づく返還を求めた事案において、本件賃貸借契約書には賃借人が補修費用を負担
する通常損耗の範囲が明記されておらず、通常損耗分につき原告に原状回復義務
を認める合意もないから、原告は通常損耗について原状回復義務を負わず、通常
損耗の原状回復費用として被告に支払われた分は法律上の原因を欠くと判断する
一方、原告は、弁護士業務等を行う事務所として本件賃貸借契約を締結している
ことから消費者契約法10条の適用はなく、原告自身長年弁護士として活動して
いること等からすれば、被告との間に情報の質及び量並びに交渉力に格差がある
とは言えず消費者契約法10条を類推適用することもできない等判断し、更新料
特約等は有効と認定した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り (2) また、原告は、本件賃貸借契約を締結するについては、原告被告間に
方
「構造的な情報の格差」があり、この格差を生む原因となる「反復継続性」
は、本件ビルの所有者である被告の側にのみ存在したことからすれば、消
費者契約法10条が類推適用されると主張するので、この点について検討
する。
消費者契約法の趣旨は、
「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに
交渉力の格差」
(消費者契約法1条)に着目し、消費者の保護を図ることに
あるところ、本件においては、前記前提事実のとおり、原告は本件賃貸借
契約締結時及び本件更新契約締結時において、賃料、更新料及び共益費の
金額についてA及び被告と交渉し、減額してきたことが認められること、
原告が弁護士として30年以上にわたり活動していることからすれば、実
質的にみても、情報の質及び量並びに交渉力に格差があるということはで
きず、消費者契約法10条を類推適用することはできないから、原告の上
記主張には理由がない。
※前提事実において、本件賃貸借契約の目的は、
「原告の弁護士及び弁理
士業務を行う事務所」とされている事案。
84
【57】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 5 月 28 日 東京地裁 平 21(レ)324 号
ウエストロー・ジャパン
◆被控訴人が、控訴人に対し、控訴人との間でパチンコの攻略情報の売買契約を
締結したが、同契約は、断定的判断の提供によるものであり、この攻略情報を用
いれば確実に利益を得ることができると誤認して締結したものであり、消費者契
約法4条1項2号に基づいて取り消した、錯誤による無効である、上記のような
勧誘行為は詐欺行為であるから取り消したなどと主張して不当利得の返還を請求
したところ、原審が請求を認容したことから、控訴人が、控訴した事案におい
て、控訴人による勧誘は、被控訴人に対して断定的判断を提供したものといえる
から、錯誤無効、詐欺取消の成否について検討するまでもなく、被控訴人は控訴
人に対し、不当利得返還請求権に基づいて本件契約の売買代金相当額および遅延
損害金の支払いを求めることができるとして、控訴を棄却した事例
論点項目
適正な行使期間
判示内容
控訴人は、本件契約の取消しの意思表示が、本件契約の締結時から半年以
上経過してされたもので、消費者契約法7条1項により取消権は時効によ
って消滅している旨主張するが、上記認定のとおり、被控訴人は、平成2
0年7月9日に司法書士との会話の中でパチンコの攻略情報が存在しない
ことを知ったのであり、それ以前の段階で、被控訴人が、消費者契約法上
の取消事由が存することを認識していたと認めるに足りる的確な証拠はな
く、控訴人の主張は採用できない。よって、抗弁事実は認められない
85
【58】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年 3 月 31 日 東京地裁 平 20(ワ)35904 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、占い師と称する被告に対して、祈願料等の支払は被告の詐欺行為によ
るものであったとして損害賠償を求めた事案において、祈願術なるものを身に付
けたと称し、客観的根拠のないでたらめを原告に申し向けることで原告を不安に
陥れ、何らの効果もない祈願等を巧妙かつ執拗に勧めて多額の金銭を銀行口座に
振り込ませた被告の行為は不法行為に当たるとした上で、被告が主張する原告と
の間の和解契約は公序良俗に反し無効であるとして損害賠償請求を一部認容した
事例
論点項目
不当勧誘行為に関
するの一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
前記1に認定した事実関係によれば、被告は、真実は何らの効果もないに
もかかわらず、祈願術なるものを身につけたと称し、人の悩みを解決でき
る旨、及び、透視、霊視能力をも身につけており、縁結びや縁切りが可能
である旨の広告をした上、相談をした原告の悩みの深刻さや、原告の理解
能力や判断能力が低いことに乗じ、科学的、客観的な根拠のないでたらめ
を原告に申し向けることで、原告を不安に陥れ、被告であれば、原告の悩
みを解決できるものと誤信させ、原告に、何らの効果もない鑑定、祈願を
巧妙かつ執拗に勧め、多額の金員を自らの銀行口座に振り込ませたものと
認めるのが相当である。
このような被告の行為は、詐欺であり、不法行為を構成する。
86
【59】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年3月 30 日 最高裁第三小法廷 平 20(受)909 号
ウエストロー・ジャパン
◆金の商品先物取引の委託契約において将来の金の価格は消費者契約法4条2項
本文にいう「重要事項」に当たらない。
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
消費者契約法4条2項本文にいう「重要事項」とは、同条4項において、
の在り方
当該消費者契約の目的となるものの「質、用途その他の内容」又は「対価
その他の取引条件」をいうものと定義されているのであって、同条1項2
号では断定的判断の提供の対象となる事項につき「将来におけるその価額、
将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が
不確実な事項」と明示されているのとは異なり、同条2項、4項では商品
先物取引の委託契約に係る将来における当該商品の価格など将来における
変動が不確実な事項を含意するような文言は用いられていない。そうする
と、本件契約において、将来における金の価格は「重要事項」に当たらな
いと解するのが相当 であって、上告人が、被上告人に対し、将来における
金の価格が暴落する可能性を示す前記2(6)のような事実を告げなかった
からといって、同条2項本文により本件契約の申込みの意思表示を取り消
すことはできないというべきである。
87
【60】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年2月 25 日 東京地裁 平 20(ワ)9322 号
ウエストロー・ジャパン
◆液化石油ガス(LPガス)の販売等を業とする原告が、被告らに対し、LPガ
ス供給契約の終了に基づき、被告らにLPガス供給設備の買取義務が生じたと主
張して、代金の支払等を求めた事案につき、バルク設置契約の終了時に消費者に
バルク設備の買取義務が発生すること及びその金額は、消費者の契約を締結する
かの判断に通常影響を及ぼす取引条件であるから、バルク設置契約の重要事項に
当たると解されるところ、被告らは、バルク設置契約に定められた買取義務が存
在しないものとして契約を締結したことが認められるから、被告らがした意思表
示には要素の錯誤があり無効であるとして、原告の請求が棄却された事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
本件バルク設置契約の終了時に消費者にバルク設備の買取義務が発生す
の在り方
ること及びその金額は、消費者の契約を締結するかの判断に通常影響を及
ぼす取引条件であるから、本件バルク設置契約の重要事項(消費者契約法
4条4項2号)に当たると解するのが相当である。
先行行為要件の要
前記認定によれば、Cをはじめとする原告の従業員は、本件バルク設置
否
契約の締結を勧誘するに際し、被告らに対し、バルク設備の設置に関して、
工事その他の費用がかからないことを説明した ことが認められるところ、
これによれば、原告の従業員は、勧誘に際して、バルク設備の所有権が原
告にあることを説明したと認められる。
そして、これら本件バルク設置契約の対価や目的物の所有関係は、前記
取引条件に関連した事項に当たり、被告らは、バルク設備の設置に関して
費用がかからない等の事実を告げられたことにより、契約上買取義務が明
記されているという事実が存在しないと通常考えると解するのが相当 であ
る。
故意要件の要否
そうすると、原告の従業員は、上記事項について被告らに有利となる事
実を告げる一方で、被告らに不利益となる買取義務等を故意に告げていな
い のであるから、原告の従業員が本件バルク設置契約の勧誘に際して、被
告らに買取義務を告知しなかったことは、消費者契約法4条2項の不利益
事実の不告知に該当し、かかる不告知により被告らは、買取義務がないと
誤認して本件バルク設置契約を締結したと認めるのが相当である。
88
【61】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年2月 18 日 東京地裁 平 19(ワ)20387 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告との間で、刀を代金200万円で購入するとの売買契約を締結し、被告に
200万円を支払った原告が、被告に対し、主位的に当該売買契約の合意解除に
基づく現状回復請求 [ママ] として、予備的に当該売買契約の取消しに基づく不当利
得返還請求として、売買代金200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求
めた事案において、合意解除の成立は認めることができないとして、主位的請求
を棄却したものの、被告代表者は、当該刀の製作時期について、室町時代中期以
降であるにもかかわらず、鎌倉時代初期又は平安時代まで遡るとの説明をしてお
り、重要事項について不実の告知をしたものであり、本件売買契約は、消費者契
約法4条1項1号を理由とする取消しにより無効となったとして、予備的請求を
認容した事例
論点項目
判示内容
①「重要事項」要
(1) 原告は、本件売買契約時、被告代表者から、本件刀の製作時期に
ついて、鎌倉時代初期又は平安時代まで遡るとの説明を受けたと供述して
件の在り方
②不実要件の在り いるところ(原告【2、4頁】)、その内容に特に不自然な点はなく、前記
方
2(1)の認定によれば、被告が作成したパンフレット(甲3)には、本件刀
について、
「時代はかなり上がると見て良いでしょう。」
「平安時代まで上が
るのではないでしょうか。」などと記載されていることからすると、被告代
表者は、原告に対して、本件売買契約時、本件刀の製作時期について、鎌
倉時代初期又は平安時代まで遡るとの説明したと認めるのが相当である。
この点、被告代表者は、パンフレットの記載は飽くまで同人の意見にすぎ
ない旨供述するが、パンフレットの記載をそのように理解することはでき
ず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、前記2(3)の認定によれば、本件刀の製造時期は、室町時代中期
以降と認めるのが相当である。
したがって、被告代表者は、原告に対し、本件売買契約時に重要事項に
ついて不実を告知したもので、原告は、これを真実と誤認して本件刀を2
00万円で購入したというべきである。
89
【62】
裁判例
出 典
平成 22 年2月4日 福井地裁 平 18(ワ)65 号
先物取引裁判例集 58 号 494 頁
論点項目
判示内容
「将来における変 (3) 抗弁(1)ウの事実について
動が不確実な事
証拠(甲 24 の 2 頁、乙 23、乙 36 の 3 頁、証人B9 頁、被告本人 7 頁~
項」要件の在り方 8 頁)によれば、Bが、8 月 11 日に被告に対し、
「東京金 新甫発会から納
会までの動き」を示しながら、「自分と同じ●●●出身の人に儲けて欲し
い。」
、「うちは金については業界第一位。」、「インドの金の需要が高くて値
上がりしている。
」、
「上がり下がりはあるが、最後にはこの値段になってい
ます。
」と述べたほか、金の価格に関する今後の見通しについても述べたこ
とが認められる。しかしながら、これらの言動は、過去から現在に至る東
工金の価格の実績を示すものとはいえても (現に、証拠(乙 8、乙 10)に
よれば、東工金の価格は、1 月以降、短期的には上下動を繰り返しつつ、中
期的には値上がりを続けていたと認められる。)、それ自体は、東工金の価
格が将来においても被告に利益をもたらすように推移するとの断定的判断
を提供するものとは認められない し、その他の証拠を精査しても、上記言
動がなされた前後のBの言動中に、上記言動と相まって東工金の価格が将
来においても被告に利益をもたらすように推移するとの断定的判断をもた
らし得るものを見出すことはできない。
また、証拠(乙 36 の 3 頁、被告本人 7 頁~8 頁・31 頁~32 頁)中には、
Bが「金は途中上がり下がりはあっても持っていれば最終的には儲かる。
」
と述べ、被告が株と同じで金を買って持っていればいいのかと思っていた
旨を述べる部分もある。しかしながら、当事者間に争いのない事実及び証
拠(甲 15 の 3 頁~4 頁、甲 24 の 2 頁、乙 36 の 1 頁、被告本人 18 頁~20
頁)によれば、被告は、8 月 11 日ないし同月 12 日当時、既に三十数年に及
ぶ株式現物取引の経験を有し、保有株式の株価の値下がりにより損失を被
った経験もあったと認められることに加え、証拠(乙 36 の 3 頁、被告本人
8 頁~9 頁・33 頁・34 頁)中には、Bが被告に対して「先物の価格が下が
ったら買って上がったら売る。」と説明し、被告がBに対して「どこが底値
なのか分からない。」と問い返したことがある旨や、Bの説明を聞いた被告
が金の価格の上げ下げによって売買をすると損失が出るという点で株式現
物投資と原告を通じた金の取引とは同じだと考えた旨、被告がBに対して
「頻繁な取引を希望していないのに、おかしいじゃないか。
」というような
話をしたことはない旨を述べる部分もあり、そうとすれば、Bは、被告に
対し、東工金の取引により利益を得るためには売買を繰り返す必要があり、
値動きを的確に予測しなければ利益が上がらないという程度のことが被告
にも理解できるだけの説明はしていた ことになる。したがって、被告本人
は、Bの勧誘文言に関して、その文脈全体を捨象して、断定的判断を提供
したと評価し得る部分のみを強調して記憶喚起しているのではないかとの
疑いを払拭し切れず、Bが被告に対して東工金の買玉を保有しているだけ
で利益が得られる旨の断定的な説明をしたとは認め難い。
90
論点項目
判示内容
以上によれば、Bが原告を通じて東工金を購入すれば利益が得られると
の断定的判断を提供したとまでは認め難い。
「重要事項」要件 (3) 抗弁(2)ウ(利益事実の告知)
、エ(不利益事実の不告知)について
の在り方
ア 本件基本委託契約締結時について
〈ア〉 証拠(乙 7 の 35 頁等)からも明らかなとおり、金の価格変動要因
は、極めて多数に上り、かつ、相互に複雑に関連し合い、金の価格変動に
及ぼす影響の度合いも多様であって、将来における金の価格の推移は、一
般平均的な消費者のみならず、金の取引に業として従事する商品取引員に
とっても、予測困難なものであると考えられる。そして、被告がBから原
告を通じて東工金の取引をするよう勧誘され、上記取引をすることを主た
る動機として本件基本委託契約を締結したことは、当事者間に争いがない。
そうすると、将来における東工金の価格の推移が、被告のみならず、原告
にとっても予測困難であること(抗弁(2)エ〈ア〉a、b)は、本件基本委託
契約を締結しようとしていた被告にとって、
「重要事項について(中略)不
利益となる事実」
(消費者契約法 4 条 2 項)に当たる と解すべきである。
これに対して、上記要因それ自体は、一般平均的な消費者がその意味合
いを正確に理解し得るものではないと考えられるから、上記要因それ自体
が「重要事項」に当たると解すると、商品取引員による勧誘の相手方に対
する説明が過度に複雑なものにならざるを得ず、かえって、当該相手方の
商品先物取引に関する正確な理解を妨げる結果ともなりかねない。したが
って、上記要因それ自体は、「重要事項」には当たらない と解すべきであ
る。
先行行為要件の要
言及なし
否
不告知要件の在り 以上の事実が認められるから、少なくとも回顧的にみれば、同月 8 日以降
方
のロコ・ロンドン市場における金現物価格と東工金の価格との差は、東工
金取引市場の不安定要因といえる程度に達していた と考えられる。
また、・・・
(中略)以上の事実が認められるから、少なくとも回顧的に
みれば、同月 8 日以降同月 12 日の取引終了時刻までの間、東工金の価格
は、例えば取引臨時増証拠金の賦課決定等を契機として、ひとたび下落方
向に転ずれば、買玉の売り仕切りによる損切りが異例の規模で続出し、急
速かつ大幅に下落する可能性があるといえる程度に達していた と考えられ
る。
・・・
(中略)
・・・
そして、12 月 8 日以降被告が最後に原告を通じて新規の建玉をした同月
12 日の取引終了時刻までの間に、Bが被告に対して上記要因を指摘して東
工金の価格が、それ故それに連動して他の商品の価格も、急速に下落する
可能性が高まっているとの説明をしなかった ことは、当事者間に争いがな
い。
故意要件の要否
しかしながら、証拠(甲 9 の 1~甲 9 の 9 の 2)によれば、11 月 1 日付
けから 12 月 12 日付けまでの 業界新聞紙上では、東工金の価格は、短期的
な修正局面を迎えるとしても、中長期的には上昇傾向を維持するとの観測
記事が掲載され続けていたと認められるし、その他の証拠を精査しても、
原告従業員において、東工金の価格が直ちに下落傾向に転じる可能性が高
91
論点項目
判示内容
いと予想して然るべき情報を得ていたことを認めるに足りない。確かに、
証拠(乙 16、乙 37 の 1・2)によれば、専門家の中には、11 月ないし 12 月
上旬の時点で、東工金の価格は短期的に警戒水域に入ったと認識していた
者がおり、その旨を公表していた者もいることが認められるが、その他の
証拠を精査しても、上記認識を持つ者が専門家や商品取引員従業員の大勢
を占めていたとまで認めるに足りない。
したがって、Bが故意に被告に対して上記要因を指摘して東工金の価格
が急速に下落する可能性が従前にも増して高まっているとの説明をしなか
ったとまで認めるに足りない 。
92
【63】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 12 月 22 日 東京地裁 平 20(ワ)10592 号
ウエストロー・ジャパン
◆証券会社である被告との間で株式の信用取引を行っていた原告が、被告に対
し、原告が委託保証金の代用として被告に差し入れていた有価証券が被告により
何らの権限なく売却され、損害を被ったと主張して、債務不履行又は不法行為に
基づいて損害賠償を求めた事案において、原告が損金の支払ができず、その見込
みもないことを表明していたこと等を理由として、「債権保全を必要とする相当
の事由」が生じていたと認め、原告は期限の利益を喪失しており、本件債権保全
条項が信義則及び公序良俗に反するあるいは消費者契約法10条に違反して無効
とはいえないから、被告による有価証券の売却は適法であるとして請求を棄却し
た事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
原告は、債権保全条項について、抽象的な文言により期限の利益喪失事
の在り方
由を不当に加重するものであり、消費者である原告の利益を不当に害する
から、信義則又は公序良俗に反し、又は消費者契約法10条に照らし無効
である旨を主張する・・・(中略)
・・・。
しかしながら、当事者間において債務者の期限の利益喪失事由について
の合意をすることは契約自由の原則に照らし許される(最高裁昭和45年
6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁参照)ところ、本件約諾
書8条2項は、被告の請求により期限の利益を喪失させるための要件とし
て、原告の被告に対する信用取引に係る債務又はその他一切の債務のいず
れかについて一部でも履行を遅滞したとき(1号)
、原告の被告に対する債
務(信用取引に係る債務を除く。
)について差し入れている担保の目的物に
ついて差押又は競売手続の開始があったとき(2号)
、原告が被告との本約
諾又はその他一切の取引約定のいずれかに違反したとき(3号)と定め、
これに続けて、「前3号の他債権保全を必要とする相当の事由が生じたと
き」との債権保全条項を定めていることからすれば(甲2)、債権保全条項
は、上記1号から3号のように原告の信用が相当程度悪化し、又は原告と
被告との間の信頼関係が破壊されたことにより、期限の経過を待つことな
く債権を保全すべき必要性と緊急性がある場合に、期限の利益を喪失させ
ることを可能にした条項と解するのが相当であり、その文言が当事者の予
測可能性を害するほど不明確であるともいえないから、同条項が原告の利
益を一方的に害するものとはいえず、同条項が信義則又は公序良俗に反し、
あるいは 消費者契約法10条に照らし無効であるとは認められない。
93
【64】
裁判例
出 典
平成 21 年 12 月 22 日 名古屋地裁 平 20(ワ)6505 号
TKC ローライブラリー
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
原告が、補助参加人のこうした発言で本件土地1及び本件土地2に売却
の在り方
可能性があり売却のために必要であると信じたために、本件測量契約及び
本件広告掲載契約を締結したのは明らかであり、本件土地1及び本件土地
2の売却可能性は、消費者契約法4条1項1号、4項1号の「用途その他
の内容」についての「重要事項」に当たる 。
故意要件の要否
なお、本件証拠上、補助参加人が、本件土地1及び本件土地2が市街化
調整区域内にあり、景観計画区域に指定され、砂防法の適用があることを
知っていたとは認められない から、補助参加人が消費者契約法4条2項に
いう「当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在し
ないと消費者が通常考えるべきものに限る)を故意に告げなかった」とは
いえない。
94
【65】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 12 月9日 東京地裁 平 21(ワ)21371 号
ウエストロー・ジャパン
◆一般消費者である原告が、パチンコ攻略情報を販売する株式会社である被告と
の間で、パチンコ攻略情報を有料で提供する旨の契約を締結し、原告は合計43
0万円を支払ったが、被告から提供された情報はまったく効果がなく、原告は利
益を一切上げられなかった、また、原告は被告提供の情報をもとに軍資金20万
円を支出して遊戯を行い、軍資金相当の損害を被ったなどとして、本件契約の取
消しや不法行為に基づき、被告に対し、450万円の支払を求めた事案におい
て、消費者契約法4条1項2号により本件契約を取り消すことができ、また、被
告の勧誘行為は不法行為にも該当するなどとして、原告の請求を全て認容した事
例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為の効 事業者は、同法3条1項により、消費者契約の締結について勧誘をするに
果(損害賠償請求 際しては、消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めな
権)
ければならないという努力義務を課せられていることにかんがみれば、消
費者に対し、将来における変動が不確実な事項につき、断定的判断を提供
して契約の締結に関して勧誘を行うことは、単に、消費者契約の取消事由
となるというにとどまらず、不法行為をも構成すると解するのが相当であ
る。
95
【66】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 11 月 16 日 東京地裁 平 20(ワ)17485 号
ウエストロー・ジャパン
◆ゴルフ会員権売買業者である原告が、被告に対して、被告所有のゴルフ会員権
を原告から第三者に転売する契約が成立することを停止条件として原告と被告と
の間に上記会員権の売買契約を締結したのに、被告が売却意思を翻したとして、
被告が自認した約定違約金の支払を内容とする和解契約に基づき、和解金の支払
を求めた事案において、上記和解契約の締結に際して原告が被告に告知した違約
金額につき事実と異なる告知があったとして、消費者契約法4条1項1号による
和解契約の取消しを認めて請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
解釈準則に関する 被告は、消費者契約の解釈には、消費者有利解釈の原則が適用されるべき
であると主張し、確かに消費者契約法3条1項が、事業者に対し、努力義
規律の要否
務とはいえ「消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとっ
て明確かつ平易なものになるよう配慮」すべきことを定めていることや、
本件契約書のような曖昧な契約文言をもって本件契約内容を定めたのは専
ら原告であり、原告が停止条件付売買契約の成立や、有効期間中の契約撤
回ができないことを主張したいのであれば、本件契約書中に、何らの疑義
なきようこれらの内容を盛り込むことも容易であることを考えると、一般
論として被告が提唱する原則が支持されることも十分あり得ることと考え
られる。しかし、かかる原則が適用されるとすれば、本件契約書やそれを
前提とした当事者各人の言動を総合考慮して当事者の合理的意思解釈を図
っても、なお理解し難いような契約条項がある場合の解釈指針として問題
とされるものというべきであり、それ以前の段階で当事者間の契約内容を
合理的に確定できる場合には、前記原則を問題とするまでもないというべ
きである。
「平均的な損害の
まず原告は、本件違約金特約が、原告と第三者との転売契約締結後に解
額」の意義
除された場合には、原告が当該第三者に対する違約金債務を負うことを主
張し、本件違約金特約が、その可能性も考慮に入れた上で定められたもの
であることを指摘する。しかし、本件のように未だ原告と第三者との間の
転売契約が締結される以前の段階では、原告は当該第三者に対し、転売契
約成立を前提とする違約金支払義務を負う余地はないのである。とすれば、
そもそも転売契約の成立の前後を問わず、同額の違約金の定めを置いてい
るということ自体において、転売契約成立前の予約段階における債務不履
行に対する損害賠償額の予定としては、過大に過ぎることが疑われる。
また原告は、予約契約の撤回で売買契約成立の余地がなくなったことに
伴い、売買手数料や転売に伴う転売差益が逸失利益となりうることも主張
するが、ここでの予約完結権を行使するには、その旨の原告の意思表示を
もって足りるものではなく、原告と第三者との転売契約が現に成立するこ
とを必要とするのであり、原告主張のとおり、価格の騰落の激しいゴルフ
96
論点項目
判示内容
会員権が対象商品であることを考えれば、現に予約契約を撤回した時点で
未だ成立していなかった原告と第三者との間の転売契約が、予約契約の撤
回がなされることなく、本来の有効期間にわたり維持されてさえいれば、
残り期限内のいずれかの時点で必ず成立したとも認めがたいというべきで
ある。そうすると、原告と第三者との間の転売契約が成立することを前提
とした売買手数料や転売差益といった逸失利益が、同契約成立前の予約契
約を撤回した場合の平均的な損害に含まれるともいえないというべきであ
る (なお、原告は、本件においては、既に本件契約前から転売先の見込み
があり、現に転売予定者との間で交渉を行い、売買代金額についても内々
の合意が形成されていて、単に戸塚カントリークラブにおける入会審査が
極めて厳格であるという事情のために、いわばその資格審査の回答待ちの
ために転売契約締結自体は留保しているような状態であったことを主張す
るが、それは本件における個別的な事情に過ぎないものであって、原告に
おいて、かかる状況で商談が破談とされたことに伴う逸失利益等や、それ
が通常損害にあたり得るか、特別損害であるとしても当該損害が生じるこ
とを知り得たものであったのか等を個別的に主張立証して損害賠償請求を
求めるのであれば格別、かかる事情に基づいて原告に現に生じ得る損害が、
転売契約成立前の予約段階での契約破棄事案における平均的な損害と同視
できるものではない。)
。
97
【67】
裁判例
出 典
要 旨
岐阜地裁大垣支部判平成 21 年 10 月 29 日 平成 20(ワ)61 号
消費者法ニュース 83 号 199 頁
アルツハイマー型老年期認知症によって判断能力が低下していた年金暮らしで無
職の74歳の原告に対し、被告はか4社が次々と出展契約、掲載契約を締結し、
契約は判明しただけでも58契約、契約金額合計約 2640 万円に及び、出展覧契
約、掲載契約自体も契約内容が不明確なものであった事案。クーリング・オフの
ほか、被告との間の契約について、契約者の無思慮に乗じて不当な利得を得た暴
利行為、非良心的行為ないしは不公正な取引行為と言えるとして公序良俗に反す
る無効な契約であることを認めた。(第6回委員提出資料1-1より引用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
(3)以上のように、原告は、
(株)アートコミュニケーション、
(株)遊美
堂及び(株)世界文藝社(以下「訴外三社」という)との間で総額2500
万円を超える契約を締結している(1790万9640円+536万30
00円+265万9000円=2593万1640円)
。この契約に至った
経緯は、訴外三社が、原告を必要以上に褒め称え、無利息・無手数料の分
割払いを勧めるなどして執拗に勧誘した結果と認められる(証拠、略)。
更に、原告が特に資産家であるとの事情は認められず、原告の収入、資
産状況からみても著しく不相当に多数・多額の契約を締結していた。これ
らの契約は、契約金額、原告の年齢、契約の内容、特に事業者側が負うこ
とになる義務の内容が契約書上は必ずしも明確ではないことなどの事情に
照らし、社会相当性に反する契約といわざるを得ない。これらの契約によ
り、訴外三社は、原告の無思慮に乗じて不当な利益を得ていたといえ、原
告と訴外三社との契約は、暴利行為、非良心的行為ないしは不公正な取引
行為として公序良俗に反し無効といわざるを得ない。
(4)このように、原告と訴外三社との間で総額2500万円を超える契
約が締結されている最中に、原告と被告との契約が締結された。本件で明
らかになっている原告と被告との契約は、平成18年1月20日から平成
19年2月11日までの3件、総額47万6000円で、訴外三社と比べ
れば契約金額は少ない。しかし、被告は、美術家年鑑に掲載された作家等
に書籍への掲載や展覧会への出展を勧誘していたと答弁書で自認している
とおり、原告と訴外三社との間の契約があることを認識しうる立場にあっ
たといえる。そして、無思慮の状態である消費者を必要以上に褒め称え(証
拠、略)
、高額の契約を締結させるという問題点については、訴外三社と被
告とでは、何ら変わりがない。原告と被告のみの契約を取上げて、契約の
個数が3個だけであるからといって、訴外三社と原告との契約態様とは無
関係であるということはできない。
なお、原告は、本件訴訟において、訴外三社も被告としていたが、原告
と訴外三社との間では、それぞれ裁判上の和解が成立している。
(5)結局のところ、被告は、原告の無思慮に乗じて不当な利益を得てい
たといえ、本件契約〔1〕ないし〔3〕は、暴利行為、非良心的行為ないし
は不公正な取引行為として公序良俗に反し無効である。
98
【68】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 10 月 23 日 大阪高裁 平 21(ネ)1437 号
ウエストロー・ジャパン
◆消費者契約法所定の適格消費者団体である一審原告が、貸金業者である一審被
告の金銭消費貸借契約について、借主が返済期限到来前に貸付金を全額返済する
場合に利息及び遅延損害金以外の金員を貸主に交付する旨規定した早期完済違約
金条項は、消費者契約法10条により無効であるとして、同法12条3項に基づ
く本件条項を含む契約締結の差止め及び同各条項を含む借用証書の用紙の廃棄を
求めたところ、原審で請求を一部認容とされたため、当事者双方が敗訴部分につ
き控訴した事案において、本件条項の一部は、貸付けの内容によっては消費者の
義務を加重する場合があり、その場合は信義則に反して消費者の利益を一方的に
害するといえるなどとして、原判決を相当として控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
10 条の前段要件 本件条項A(注:契約条項等、利息付金銭消費貸借契約の借主が貸付金の
の在り方
返済期限が到来する前に貸付金の全額を返済する場合〔期限の利益を喪失
したことによる返済を除く〕に、返済時までの期間に応じた利息以外に返
済する残元金に対し割合的に算出される金員を貸主に対し交付する旨を定
める契約条項)を含む金銭消費貸借契約が利息制限法所定の制限内の利率
を定めるものである場合においては、貸主は、期限前弁済がされた場合に
おいて、期限までの利息を取得することが許される。したがって、本件条
項Aが民法又は商法の規定に比し消費者の義務を加重するものであるか否
かは、借主が借入れから期限までの期間に対応する約定の利率による利息
を超える金銭を負担する結果となるかどうかによって判断すべきところ、
本件条項Aが適用される場合には、当該金銭消費貸借契約における利率や
期限の定め、期限前弁済がされた時期や元本額等によっては、借主は、借
入れから期限までの期間に対応する約定の利率による利息を超える金銭を
負担する結果となる可能性があるのみならず、借入れから期限前弁済まで
の期間に対応する利息制限法所定の制限利率による利息を超える金銭を負
担する結果となる場合もあり得ることが認められる。したがって、本件条
項Aを含む金銭消費貸借契約が利息制限法所定の制限内の利率を定めるも
のである場合においても、他の契約条項又は本件条項Aが適用される具体
的状況によっては、同条項は、民法又は商法の規定に比し消費者の義務を
加重するものであると認められる。
10 条の後段要件 本件条項Aは、同条項を含む金銭消費貸借契約が利息制限法所定の制限の
範囲内の利率を定めるものである場合にも、他の契約条項又は本件条項A
の在り方
が適用される具体的状況によっては、民法又は商法の規定による消費者の
義務を加重するものとして機能することになるものと認められるところ、
本件条項Aあるいはこれを含む1審被告作成に係る金銭消費貸借契約書
(乙6~8)を見ても、そのような事態が生じ得ることは一見して明らか
であるとはいえず、消費者にとってはそのようなことを理解することは困
99
論点項目
判示内容
難である。のみならず、証拠(甲3、5の1、2、甲15、17)によれ
ば、1審被告は、約定日ごとに利息と元金最低支払額又は随意の元金を支
払い、最終弁済日までに残元金を完済する方式を自由返済と称し、これを
1審被告における金銭消費貸借契約の特色として宣伝しており、実際に本
件条項Aを含む金銭消費貸借契約を締結した事例においても、弁済方法を
自由返済としていることが認められるが、本件条項Aのような早期完済違
約金条項は、上記の自由返済の概念とは必ずしも整合せず、このような契
約条項は消費者をいたずらに混乱、困惑させるものであるといわざるを得
ない。このように考えると、本件条項Aは、仮に同条項を含む金銭消費貸
借契約が利息制限法所定の制限の範囲内の利率を定めるものである場合に
も、これが民法又は商法の規定に比し消費者の義務を加重するときは、信
義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして、消費者契約法1
0条により無効となると評価せざるを得ない。
100
【69】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 10 月2日 東京地裁 平 19(ワ)30728 号
消費者法ニュース 84 号 211 頁
◆原告のカード会員である被告が、インターネットのサイトを通じて、原告のカ
ード決済の方法により株式投資情報を購入した(以下「本件メルマガ配信契
約」)として、当該VISA加盟店に立替払をした訴外カード会社の被告に対す
る立替金支払債権を譲り受けた原告が、被告に対し、カード契約に基づき、立替
金代金の支払を求めた(本訴)のに対して、被告が原告に対し、原告の訴訟行為
は不法行為を構成し、また、調査確認をしないで本件支払請求をしたカード会員
契約上の義務違反であるなどとして、損害賠償を求めた(反訴)事案において、
本訴については、原告が訴外カード会社から本件立替金支払債権を取得したこと
を前提に、本件メルマガ配信契約は消費者契約法10条に反しないなどとして、
請求を認容し、反訴については、原告の訴訟行為は不法行為を構成しないが、被
告から本件メルマガ配信契約について苦情の申出を受けたにもかかわらず、訴外
カード会社に適切な調査依頼をしなかったことは信義則上の義務違反に当たると
して、請求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
第三者型与信契約
被告は、2か月以上の期間で3回以上に分割して支払う場合にのみ、原
における抗弁の接 告に対して、加盟店に対する抗弁事由を主張して支払を停止することがで
きるとする本件会員契約の上記約定が、消費者契約法10条により無効で
続の規定の要否
ある旨主張する。しかし、上記条項は、平成20年改正前の割賦販売法(以
下、単に「法」という。
)30条の4第1項、法2条3項が、代金又は役務
の対価に相当する額を2月以上の期間にわたり、かつ、3回以上に分割し
て受領する場合を「割賦購入あっせん」と定義した上で、販売業者に対す
る抗弁事由は、その支払を請求する割賦購入あっせん業者に対抗すること
ができるとし、1回払いの支払方法を選択している場合には、販売業者に
対する抗弁事由を立替払いをした業者に対抗できないとしている趣旨と同
様である。そして、これは、原告会員の購入者が購入契約の相手方である
販売業者に対して主張し得る抗弁事由は、これと別個の立替払契約の当事
者である原告に対しては当然には主張し得ないのが原則であるものの、2
か月以上の期間で3回以上に分割して支払うこと等一定の要件に当たる場
合には、当該抗弁事由を割賦購入あっせん業者である原告に対しても主張
することができるとし、購入者に対し特別な利益を付与したものである。
したがって、抗弁の接続が許される一定の要件に当たらないことをもっ
て、消費者契約法10条にいう、消費者の利益を一方的に害するというこ
とはできない。この点に関する被告の主張は、採用できない。
101
【70】
裁判例
出 典
平成 21 年 10 月2日 大津地裁長浜支部 平 19(ワ)127 号、平 20(ワ)16 号
TKC ローライブラリー
論点項目
判示内容
第三者による不当 (1)被告らは、クレジット契約において、販売店が信販会社と顧客との
勧誘行為規制の在 間の契約を媒介するという構造にはなっていないので、消費者契約法5条
り方
の適用がない旨主張する。
しかし、媒介とは、他人間との間に法律行為が成立するように、第三者
が両者の間に立って尽力すること をいうところ、本件の基本契約1条で、
ジュエリー社が顧客に対し被告新生のクレジット制度を利用して商品を販
売することとされ、同5条で、顧客のクレジット申込書はジュエリー社を
通じて被告新生に提出し、被告新生の承諾可否の結果をジュエリー社が顧
客に対し通知することとされていること(証拠、略)等に照らすと、ジュ
エリー社は、顧客に商品を販売する過程において、顧客と被告新生との間
に立って、両者間にクレジット契約が成立するよう尽力することを、基本
契約に基づき被告新生から委託されていると解するのが相当である。
したがって、被告新生は、ジュエリー社に対し、被告新生と顧客との間
の消費者契約であるクレジット契約の締結について媒介をすることを委託
しているのであるから、消費者契約法5条の適用があると解すべきであっ
て、被告らの上記主張は採用することができない。
「重要事項」要件
前記認定事実によれば、Aは、原告に対し、本件クレジット契約の締結
の在り方
について勧誘をするに際し、同契約の目的となるものである役務の質(効
果・効 能・機能)ないし用途として「ライフ契約及びオリコ契約を解約す
るため」という事実と異なることを告げ、これによって原告は、本件クレ
ジット契約によりライフ契約及びオリコ契約を解約することができるとの
誤認をし、これによって、被告新生からの電話に対し、本件クレジット契
約の申込の意思表示をしたと認めることができる。
上記の告知に係る 「本件クレジット契約を締結すれば、ライフ契約及び
オリコ契約を解約することができる」という事項は、本件クレジット契約
の締結により契約者が得る利益そのものに関する事項であって、一般平均
的な消費者が本件クレジット契約を締結するか否かについての判断を左右
すると客観的に考えられる基本的事項であるから、消費者契約法4条にい
う「重要事項」に該当するというべき である。
102
【71】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年9月 30 日 京都地裁 平 20(ワ)871 号
判タ 1319 号 262 頁
◆消費者契約法13条に基づいて内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体で
ある原告が、不動産賃貸業及び不動産管理業を目的とする事業者である被告に対
し、定額補修分担金条項が同法10条に反して無効であるとして、同法12条3
項に基づき、定額補修分担金条項を含む意思表示をすることの差止め及び同条項
を含む契約書用紙の破棄等を求めた事案において、定額補修分担金条項は、消費
者契約法10条に反して無効であるとした上で、上記条項を含む意思表示をする
ことの差止めを認め、本件訴えのうち、被告が、その従業員らに対し、被告が消
費者との間で建物賃貸借契約を締結し、又は合意更新するに際し、上記条項を含
む契約の申込み又はその承諾の意思表示を行うための事務を行わないことを指示
することを求める部分を却下し、その余の請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
の在り方
(2) 消費者契約法10条後段該当性
ア 次に、定額補修分担金条項が「民法第1条第2項に規定する基本
原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」
(消費者契約法10条後
段)に該当するかを検討する。
この要件に該当するかは、消費者契約法1条の趣旨に照らし、契約条項
の内容のみならず、契約当事者の有する情報の質や量及び交渉力の格差の
程度等諸般の事情を総合的に考慮して決するべきである。
イ そこでまず、定額補修分担金条項の内容をみると、賃借人の軽過
失による損耗の原状回復費用が定額補修分担金の額を超える場合には、賃
借人はその差額の支払を免除されるから、その額によっては賃借人の利益
になることもあり得るが、前記(1)ウ記載のとおり、賃借人の軽過失による
損耗の原状回復費用が、定額補修分担金の額に満たない場合には、賃借人
は本来負担しなくてもよい通常損耗の原状回復費用を負担することにな
る。
ウ 次いで、被告を賃貸人とする定額補修分担金条項を含む賃貸借契
約における定額補修分担金の額をみると、原告提出の証拠(甲13、24、
25)によれば、別紙3のとおりであり、被告からは特段の立証はない。
別紙3によれば、定額補修分担金の額は、7~30万円で平均して18万
円強であり、月額家賃の2~4倍で平均して3倍強である。賃借人の軽過
失による損耗の原状回復費用がこれらの額になることは、あまりないと考
えられる。
エ すすんで、その他の事情について検討する。
証拠(乙17)及び弁論の全趣旨によれば、被告は建物賃貸借、マンシ
ョン管理、運営等を業としており、建物の修繕に関する知識や情報が豊富
であること、定額補修分担金の額は、明確な算定基準はなく、被告が、賃
借物件ごとに、賃借人の特性、賃貸物件の広さ、設備・素材の損傷のしや
すさ、契約期間、用法などの諸要素を総合的に考慮し、退去時の原状回復
103
論点項目
判示内容
費用を予想して提示していたことが認められる。
他方、証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、建物賃貸借契
約締結に際し、賃借人に、定額補修分担金について、退去時において入居
時と同様の新装状態に回復することが必要で、そのうちの一部として定額
補修分担金を負担してもらう旨の説明をしていたことが認められるもの
の、その有利な点、不利な点を判断するために必要な情報(一般的に生じ
る原状回復費用の種別と額、賃借人の軽過失による原状回復費用が定額補
修分担金の額に満たない場合には本来負担しなくてもよい通常損耗部分の
原状回復費用を負担させられる結果となることなど)を提供していたと認
めるに足りる証拠はない。
そうすると、賃借人が消費者である場合、賃借人は、定額補修分担金の
額が自己に有利か不利かを判断するのに十分な情報なくして定額補修分担
金条項に合意することが多くなり、賃借人と賃貸人との間に、顕著な情報
の質及び量の格差があることになる。
オ 以上によれば、定額補修分担金は、その額によっては賃借人に有
利となることもあり得るが、現実にそのような例があるとは窺えず、定額
補修分担金の額の設定方法や賃貸人と賃借人との情報の格差を考慮する
と、その額が賃借人に有利に定められることは期待しがたく、軽過失によ
る損耗の原状回復費用はもとよりこれに通常損耗の原状回復費用を加えた
額を超えるように定められることが、構造的に予定されているとさえいえ
るものである。
結局、定額補修分担金の額が賃借人にとって有利な額である場合が観念
的にはあり得るとしても、定額補修分担金条項は、基本的に、信義則に反
して消費者を一方的に害する条項であるということができる。
104
【72】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年9月 16 日 東京地裁 平 20(ワ)36662 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告が運営するオンラインゲームの利用者であった原告が、被告に対し、本件
ゲームで使用していたキャラクターの被告による削除が本件ゲームの使用許諾契
約上の債務不履行ないし不法行為を構成するとして、上記キャラクターの使用権
の確認並びに債務不履行ないし不法行為に基づく慰謝料等の支払を求めた事案に
おいて、本件ゲームのネットワーク利用規約(以下「本件規約」)は消費者契約
法10条に違反しているとはいえず、また、原告は本件規約を「承諾する」との
ボタンをクリックしたのであるから、本件規約に拘束されるとしたうえで、本件
規約における規定の適用として行われた本件削除行為が、被告による裁量権の範
囲の逸脱ないしその濫用に当たるということはできないとして、原告の請求を棄
却した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件
原告は、本件規定の内容が不明確な判断基準を用いて被告の一方的判断
の在り方
により利用者に著しい不利益を与えるものとなっていることなどから、本
件規定が消費者契約法10条、信義則及び公序良俗に反し無効であると主
張する。
しかし、本件ゲームは、多数の利用者が同時に参加して他の利用者と交
流することを想定して創作された多人数参加型オンラインゲームであり、
利用者が本件ゲームを快適に楽しむことができるようにするため、本件ゲ
ーム空間内の秩序を維持し、これを適切に管理する必要があるところ、こ
うした管理の権限と責任を負うのが本件ゲームを運営する被告であること
はいうまでもない。また、本件ゲームでは、利用者が多種多様な行動をと
ることが前提とされており、利用者が被告も想定できないような行動をと
ることもあり得ることからすると、本件ゲームの管理運営を行う被告にお
いて、本件ゲームの適切な管理のために本件規約上で使用条件を定める際
に、不適切な行為やその対応策をあらかじめ個別具体的にかつ網羅的に列
挙することは実際上不可能であり、ある程度包括的な定め方ないし記載と
なったとしても、それが過度に広汎ないし不明確にわたるものでない限り、
やむをえないものと解するのが相当である。しかるところ、本件規定の「中
傷・嫌がらせ・わいせつ等、他のユーザーが嫌悪感を抱く、又はそのおそ
れのある内容の掲載・開示・提供・送付・送信等の行為」という禁止事項に
係る条項については、その文言及び趣旨・目的等に照らして過度に広範な
いし不明確であるとはいえず、民法1条2項に規定する基本原則に違反し
利用者を一方的に害するものとは認められない。さらに、前記の本件ゲー
ムの適切な管理運営の必要性も勘案すれば、利用者の行為が本件規定に定
める禁止事項に違反するかどうかの認定及び違反と判断された場合の対応
についても、被告に一定の合理的な裁量を認めるのが相当であり、本件ゲ
ームの適切な管理運営を図るという本件規定の趣旨・目的にかんがみ、被
告の認定判断ないし対応措置の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠
105
論点項目
判示内容
くものと認められる場合に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法の
問題が生じ得ることは格別、本件規定の「当社による認められる」及び「当
社の裁量において」といった被告の裁量による情報の削除に係る条項につ
いても、それ自体として民法1条2項に規定する基本原則に違反し利用者
を一方的に害するものとまでは認められないというべきである。
106
【73】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年9月8日 東京地裁 平 20(ワ)24606 号
ウエストロー・ジャパン
◆住宅の設計業務委託等の契約を被告と締結した原告が、契約を解除したにもか
かわらず内金を被告が返還しないとしてその返還を求めた事案において、原告が
自己都合により契約を解除したことは明らかであるとした上で、原告・被告間の
契約は消費者契約にあたり、被告は受領済み金員の返還義務を負わないと定める
条項は、受領した金員を違約金とする趣旨と解されるから、平均的な損害の額を
超える部分については無効であるとして、本件においては、設計業務の報酬は請
負金額の 2.8%とされているところ、出来高としては完了に近い段階まで至って
いたものと推認されるから、請負金額の 2.5%が平均的な損害であるとしてこれ
を超える部分の返還を認めた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
(2) 消費者契約法9条1号に規定する「平均的な損害」とは、同一事
業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定
額」の意義
される平均的な損害の額という趣旨であり、具体的には、解除の事由、時
期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該
事業者に生じる損害の額の平均値を意味するものと解される。
前記認定のとおり、原告が被告に対して本件契約の解除を申し入れた時
期は、平成20年5月28日ころであるが、同年9月5日には工事に着手
することを予定して(乙1)、原告と被告との間で打ち合わせを重ね、建築
確認申請のための図面等の書類が整備されつつあった段階にあり、被告が
作成した図面等の内容に照らせば、建築確認申請の準備は着々と進行して
いたものと評価することができる。
そして、被告が原告に交付した建築士法24条の8第1項に基づく書面
に従えば、設計業務の報酬は、調査・企画、基本設計までの業務について、
請負金額の2.8%とされているところ、この業務が完了していたか否か
について明確な証拠はないものの、出来高としては完了に近い段階まで至
っていたものと推認されるのであるから、これを請負金額の2.5%と評
価するのが相当であり、この額をもって平均的な損害と解することができ
る。
(3) そうすると、原告の自己都合により本件契約を解除された被告
が、原告から交付された契約時金100万円のうち、違約金として84万
5375円(3381万5000円×2.5%)は返還する義務を負わな
いが、その残額である15万4625円は、平均的な損害(消費者契約法
9条1号)を超えるものとして、原告に対して返還すべきである。
107
【74】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 8 月 28 日 東京地裁 平成 19(ワ)7020 号
消費者法ニュース 82 号 348 頁
うつ病ないし統合失調症の女性に対し、教会の牧師が「献金をしなければ地獄に
落ち、二度と戻ってくることができなくなる。」等と述べて教会への献金を勧誘
してほぼ全財産にあたる約6900万円を支払わせた事案。社会的に相当なもの
と認められる範囲を逸脱する違法な勧誘として不法行為が認められた。(第6回
委員提出資料1-1より引用)
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (1)特定の宗教を信じる者が、その宗教の信者に対し、献金を勧誘する
す る 一 般 的 規 定 ことは、その方法が社会的に相当なものと認められる範囲を逸脱するもの
(状況の濫用、暴 でない限り、違法なものということはできない。
利行為)
しかし、献金を勧誘する行為が、勧誘の相手方に対し、その不安をあお
り、困惑させ、又は恐怖心を抱かせるなどした上、そのような心理状態の
中で献金を決意させるようなものであるときは、そのような勧誘行為に基
づいてされた献金は、自由な意思に基づくものということができないから、
上記範囲を逸脱するものとして、違法なものであり、不法行為が成立する
ものというべき である。
(2)前記認定事実によれば、原告は、平成6年に被告教会の信者となり、
平成9年5月ころから、東京集会に参加するようになったこと、被告教会
では、イエス・キリストに従わなければ地獄へ行くと教えられていたこと、
また、原告は、被告安間に指示されて、イエス・キリストに従わなければ
地獄に落ちるという内容のビデオと書籍を買い、何度も見たり読んだりす
るようになったこと、被告安間と被告理恵は、
「頭はいらない」として、考
えることに否定的な態度をとった上、被告安間に従うようにと操り返し説
いたこと、原告は、平成3年ころ、軽いうつ状態と診断され、抗うつ剤や
精神安定剤を服用していたが、被告安間から薬に対して否定的な発言を繰
り返されたことから、平成11年2月には、抗うつ剤や精神安定剤の服用
をやめたこと、原告は、マンションを買おうとしたことや、賃借していた
マンションの家賃の減額を求めようとしたことについて、被告安間や被告
理恵から、そのようなことはすべきでないと言われ、イエス・キリストに
従っていなかったという罪悪感にとらわれたこと、このような状況の中で、
平成14年1月2日、被告安間は、原告に対し、数時間にわたって、
「戒め」
と称して、お金を愛するのは地獄のルートであり、地獄は永遠の世界だか
ら二度と戻って来れない、お金を愛するのが一番の悪の根っこである、一
番の悪の根っこを切れば祝福の道に入れるなどと話し、献金をするよう迫
ったこと、原告は、これによって恐怖心を抱き、献金をするしかないとい
う気持ちになって、被告理恵を通じ、被告教会に対して本件献金をしたこ
と、献金総額は6867万8424円であり、これは、原告の当時のほぼ
全財産に当たること、平成14年11月に受診した医院では、受診時点で
既に統合失調症であったと診断されたこと、以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、原告は、考えることを否定され、また、うつ状態
ないし統合失調症であったにもかかわらず、薬の服用その他の治療をしな
108
論点項目
判示内容
い状態で、イエス・キリストに従わなければ地獄に落ちると繰り返し言わ
れ、かつ、原告はイエス・キリストに従っていなかったという罪悪感にと
らわれた中で、数時間にわたって、献金をしなければ地獄に落ち、二度と
戻ってくることができなくなるとの話を聞かされ、恐怖心を抱いて、ほぼ
全財産を献金したものであり、かつ、その献金額は、極めて高額 のもので
ある。
そうすると、本件献金の勧誘は、うつ状態ないし統合失調症であった原
告に対し、不安をあおり、恐怖心を抱かせるなどした上、そのような心理
状態の中で献金を決意させるものであったということができ、このことに、
献金額が極めて高額で、原告のほぼ全財産に当たるものであったことをも
総合すれば、本件献金は、原告の自由な意思に基づくものであったという
ことができない。したがって、本件献金の勧誘は、社会的に相当なものと
認められる範囲を逸脱するものとして、違法なものであり、不法行為が成
立するものというべきである。
109
【75】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年8月 25 日 大阪高裁 平 21(ネ)595 号
判時 2073 号 36 頁
◆各土地を所有していた被控訴人が、本件各土地について被控訴人からの売買を
原因とする所有権移転登記を受けた控訴人に対し、本件売買契約は意思無能力な
いしは公序良俗違反により無効であると主張して、同登記の抹消登記手続を求め
たところ、原審で、請求を全部認容とされたため、控訴人が控訴した事案におい
て、被控訴人の当時の状況、控訴人による被控訴人の当時の状態への認識の程
度、被控訴人の経済状態や本件売買の内容など、本件事実によれば、本件売買
は、認知症で高齢者である被控訴人の判断能力の低い状態に乗じてなされた、被
控訴人にとって客観的な必要性の全くない(むしろ被控訴人に不利かつ有害な)
取引といえるから、公序良俗に反し無効であるとして、原判決の結論を維持し、
控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
前記一に判示した前提事実を総合すれば、被控訴人は、本件売買契約当
不当勧誘行為に関
する一般規定(暴 時、平成一五年ないし一七年ころに発症したとみられる認知症と妹の死を
利行為)
きっかけとする長期間の不安状態のために事理弁識能力が著しく低下して
おり、かつ、被控訴人に受容的な態度を取る他人から言われるがままに、
自己に有利不利を問わず、迎合的に行動する傾向があり、周囲から孤立し
がちな生活状況の中で、Cらから親切にされ、同人らに迎合的な対応をす
る状態にあったこと、Cらは、これらのことを知悉して十分に利用しなが
ら、被控訴人を本件売買締結に誘い込んだ こと、控訴人代表者は、被控訴
人がそのような事理弁識能力に限界がある状態であったことを、本件売買
契約が行われた際の被控訴人の風体、様子から目の前で確認して認識して
いた と推認することができる。その上、控訴人は、昭和六〇年に設立され、
以来数え切れないほどの物件を手がけた不動産業を営む会社であり、Cは、
控訴人の従業員でこそないものの、控訴人と仕事上の関係が一五年以上あ
って本件土地の売買話しを持ち込んできたので、控訴人代表者は、本件土
地をすぐに転売する目的で購入することとし、坪当たりで、その更地価格
を七〇万円ないし八〇万円と見立てた上で、本件売買直後の転売価格を二
〇万円ないし二五万円と目論み、その二分の一以下に相当する本件売買に
おける坪単価一〇万円もCの言い値をそのまま採用し、本件土地に係る借
地権の内容もCから説明を受け、自分では同社に直接確認しなかったこと
も明らかにされている。これらの事実に鑑みれば、Cは、控訴人と極めて
密接な関係にあり、少なくともこと本件土地の売買に関する限りCを実質
的に控訴人の被用者として活用していたということができ、控訴人代表者
は、被控訴人に関する事実について、Cから逐一報告を受け、Cと全く同
一の認識を有していたと推認することもできる。
また、本件土地の収益性、被控訴人の客観的な経済状態(賃料収入、年
金収入及び本件売買に先立つ土地の売却金)からは、被控訴人にとって本
件売買をする必要性・合理性は全くなかった だけでなく、それは、客観的
に適正に鑑定された本件土地の価格の六割にも満たない売買価格の点で、
110
論点項目
判示内容
被控訴人に一方的に不利なものであった こと、長年にわたり不動産業を営
む 控訴人代表者は、それらのことを十分に認識し尽くし、上記のとおりた
だちに転売して確実に大きな差益を獲得することができると踏んだ上で本
件売買を締結したと推認する こともできる・・・(中略)
・・・。
このような事情を総合考慮すれば、本件売買は、被控訴人の判断能力の
低い状態に乗じてなされた、被控訴人にとって客観的な必要性の全くない
(むしろ被控訴人に不利かつ有害な)取引といえるから、公序良俗に反し
無効であるというべき である。
111
【76】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年7月 10 日 横浜地裁 平 19(ワ)2840 号
判時 2074 号 97 頁
◆弁護士の委任契約におけるいわゆるみなし成功報酬特約が、消費者契約法9条
1号により無効とされた事例
◆弁護士である原告が、被告から委任を受けた後、解任されたことに関し、未払
着手金の支払を求めるとともに、いわゆるみなし成功報酬特約又は民法130条
に基づくみなし条件成就を主張して、成功報酬の支払を求めた事案において、本
件解任は、原告の責めに帰することができない事由によるものであるとした上、
報酬額、委任処理事務の程度、同事務処理に要した費用などから、未払着手金の
支払請求を一部認めたものの、成功報酬請求については、本件特約が定めるみな
し成功報酬は、その全額が違約金等としての性質を有し、また、本件で消費者契
約法9条1号所定の「平均的な損害」は存在しないとして、本件特約を全部無効
とした上、本件解任が民法130条の所定の故意による条件成就の妨害に該当す
るとは到底いえないとして、成功報酬支払請求を棄却した事例
◆弁護士委任契約における着手金とは、一般に、「事件又は法律事務の性質上、
委任事務処理の結果に成功不成功があるものについて、その結果のいかんにかか
わらず受任時に受けるべき委任事務処理の対価」をいうと解されるところ、着手
金も本質的には「委任事務処理の対価」である以上、委任が履行の途中で終了し
た場合には、民法648条3項、650条1項に従った精算を予定するものと解
され、仮に、委任の中途終了の場合でも着手金の精算を一切認めない旨が合意さ
れていた場合には、当該合意は、消費者契約法9条1号又は10条の規定により
全部又は一部が無効となるとされた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
ア 消費者契約法九条一号は、上記平均的な損害の額は、対象となる条
額」の意義
項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じて定めることを規
定するところ、本件特約は、解除の事由を原告の責めによらない事由によ
る解任等と定める一方、解除の時期については何の区分も設けていない。
したがって、本件においては、遺産分割調停事件を受任した弁護士が、そ
の責めによらない事由によって解任された場合に、当該弁護士に生ずべき
損害としてどのようなものがあるかということを考える必要がある。
イ このような損害としては、①当該事件処理のために特別に出捐した
代替利用の困難な設備、人員整備の負担、②当該事件処理のために他の依
頼案件を断らざるを得なかったことによる逸失利益、③当該事件に係る委
任事務処理費用の支出、④当該事件処理のために費やした時間及び労力、
⑤本件委任契約の定める報酬を得ることができなかった逸失利益などが考
えられる。
そこで、これらを上記「平均的な損害」に加えることができるかどうか
を順次検討するに、まず、消費者契約法九条一号が典型的に想定している
のは、上記①、②のような損害であると解されるが、通常の弁護士の業務
態勢を想定した場合に、本件遺産分割調停事件の受任のためにこのような
損害が通常発生するとは言い難いから、これを平均的損害に加えることは
112
論点項目
判示内容
できない。
次に、上記③、④は、通常、着手金によって賄うことが予定されている
ものと解されるから(本件においても、現実に着手金によって賄われる範
囲に収まっている。)、みなし成功報酬によって賄われるべき損害に加える
ことはできないというべきである。
最後に、上記⑤は、これをそのまま平均的損害に加えてしまうと、中途
解除に係る損害賠償額の予定又は違約金を適正な限度まで制限することを
意図する消費者契約法九条一号の趣旨が没却されてしまうことは明らかで
ある。委任事務の大半が終了していながら、受任者の責めに帰することの
できない事由により委任契約が解除されたというような場合に、別途、民
法一三〇条の適用があり得ることは格別、約定の報酬額を逸失利益として、
これをそのまま平均的損害に含めるような扱いは許されないというべきで
ある。
ウ 以上によれば、本件において、消費者契約法九条一号が定める「平
均的な損害」は存在しないというべきであり、本件特約は、全部無効であ
る。
113
【77】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年6月 19 日 東京地裁 平 20(ワ)1275 号
ウエストロー・ジャパン
◆医療機関との間で包茎手術及びこれに付随する亀頭コラーゲン注入術について
診療契約を締結し、割賦購入あっせんを目的とする会社である原告との間で治療
費の支払につき立替払の委託契約を締結した被告に対し、原告が立替金残金の支
払を求めたところ、被告が、消費者契約法4条に基づく診療契約等の取消しなど
を主張して支払につき争った事案において、本件術式につき、医学的に一般に承
認されたものとはいえず、同事実は消費者契約法4条2項の「当該消費者の不利
益となる事実」に該当するとした上、医療機関は本件各契約の締結に当たり、同
事実を被告に故意に告げなかったとして、同項による本件立替払契約の取り消し
を認め、請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
しかしながら、手術を受ける者は、特段の事情のない限り、自己が受け
「重要事項」要件
の在り方
る手術が医学的に一般に承認された方法(術式)によって行われるものと
考えるのが通常であり、特段の事情の認められない本件においては、本件
診療契約の締結にあたり、被告もそのように考えていたものと認めること
ができる。そうすると、仮に亀頭コラーゲン注入術が医学的に一定の効果
を有するものであったとしても、当該術式が医学的に一般に承認されたも
のとは言えない場合には、その事実は消費者契約法四条二項の「当該消費
者の不利益となる事実」に該当するものと解するのが相当である。
先行行為要件の要
否
故意要件の要否
言及なし
(3) 以上によれば、亀頭コラーゲン注入術は医学的に一般に承認されたも
のではなく、訴外医院は、本件診療契約及び本件立替払契約の締結にあた
り、同事実を認識しながら (同術式の実施例に関する医学的文献がない以
上、訴外医院が同事実を認識していたことは明らかである。)、同事実を被
告に故意に告げなかった結果、被告は、亀頭コラーゲン注入術が医学的に
一般に承認された術式であると誤認して本件診療契約及び本件立替払契約
を締結したものであるから、被告は、消費者契約法四条二項により本件立
替払契約を取り消すことができる(なお、包茎手術と亀頭コラーゲン注入
術は一つの診療契約に基づく一体の手術と認められるから、亀頭コラーゲ
ン注入術に関して被告に誤認があった以上、被告は本件立替払契約全部を
取り消すことができると解するのが相当である。
)
。
第三者による不当
以上によれば、亀頭コラーゲン注入術は医学的に一般に承認されたもの
勧誘行為規制の在 ではなく、訴外医院は、本件診療契約及び本件立替払契約の締結にあたり、
同事実を認識しながら(同術式の実施例に関する医学的文献がない以上、
り方
訴外医院が同事実を認識していたことは明らかである。)、同事実を被告に
故意に告げなかった結果、被告は、亀頭コラーゲン注入術が医学的に一般
に承認された術式であると誤認して本件診療契約及び本件立替払契約を締
結したものであるから、被告は、消費者契約法四条二項により本件立替払
114
論点項目
判示内容
契約を取り消すことができる(なお、包茎手術と亀頭コラーゲン注入術は
一つの診療契約に基づく一体の手術と認められるから、亀頭コラーゲン注
入術に関して被告に誤認があった以上、被告は本件立替払契約全部を取り
消すことができると解するのが相当である。)。
115
【78】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年6月 15 日 東京地裁 平 21(レ)134 号
ウエストロー・ジャパン
◆一審原告が、長男の私立中学受験のために、家庭教師の派遣事業を営む一審被
告との間で家庭教師派遣契約を締結し、報酬を支払ったが、消費者契約法4条1
項に基づき本件契約の申込みを取り消し、既に支払った報酬全額の返済を求めた
事案の控訴審において、一審原告が「有名校に合格できる」という説明に期待し
て本件契約を締結したものであっても、一般的な消費者は上記説明を一審被告が
目的達成のために全力を尽くす旨約束したものと理解するのが通常であり、上記
説明は「事実と異なることを告げること」に当たらず、消費者契約法4条1項1
号の要件には該当しないことなどから、請求を棄却した原判決は相当であるとし
て、控訴を棄却した事例
論点項目
不実要件の在り方
判示内容
控訴人が、
「成績は必ず有名校合格の線まで上がり、有名校に合格できる」
という被控訴人の説明に納得し、期待して、本件派遣契約を締結したもの
であったとしても、契約締結時に有名校に合格できるかどうかを見通すこ
とは、社会通念上不可能であることは明らか であり、一般的な消費者は、
上記説明を、被控訴人が目的達成のために全力を尽くす旨約束したものと
理解するのが通常である。そうであるとすると、上記の説明が 「事実と異
なることを告げること」に当たらず、 法4条1項1号の要件には該当しな
い。
「将来における変
また、有名校に合格するか否かは、消費者の財産上の利得に影響するも
動 が 不 確 実 な 事 のではないから、「将来におけるその価額、将来において当該消費者が受
項」要件の在り方 け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」に当たらず、
同条項2号の要件にも該当しない。
116
【79】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年5月 25 日 東京地裁 平 20(ワ)27036 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告は、被告甲から購入したパチンコの攻略情報は、被告甲が一般には知られ
ていない特別な情報を有していて、それにより確実に利益を得られると思わせる
内容になっており、本来予測することのできないパチンコで獲得できる出球の数
について断定的判断を提供したものと解され、消費者契約法4条1項2号所定の
断定的判断を提供したと判断した事例
◆被告甲が、断定的判断を提供して本件攻略情報を購入させたことは、消費者契
約法上の取消事由だけでなく、社会通念上違法な行為として不法行為にも該当す
るが、不法行為による損害とは不法行為により現実に生じた金銭的な被害をいう
ところ、①パチンコをしたことによる損害については、まさにパチンコをしよう
と判断したことで支出することになった金員のことであって、本件攻略情報の購
入それ自体によって発生した法律上の相当因果関係のある損害とは認められず、
②逸失利益については、原告が実際に支出した金員の補償ではなく、本件攻略情
報の購入に際して保証されたという利益を支払うように求めるものであって、こ
こでいう損害とは認められず、③本件攻略情報を購入させたことは財産権を侵害
する不法行為であるところ、財産権を侵害する不法行為において慰謝料請求が認
められるのは相手が殊更に精神上の攻撃を与えることを目的として不法行為をし
たような特段の事情がある場合に限られ、本件ではそのような特段の事情は認め
られないとした事例
論点項目
判示内容
①「将来における
変動が不確実な事
項」要件の在り方
②勧誘要件の在り
方
)は、常
ところで、本件攻略情報の売買契約(以下「本件契約」という。
に多くの出球を獲得できるパチンコの打ち方の手順等の情報を提供し、経
済的な利益を得させることを目的とする契約であるところ、一般的に、パ
チンコは、パチンコ台毎の釘の配置や角度、遊技者の玉の打ち方や時間、
パチンコ台に組み込まれて電磁的に管理される回転式の絵柄の組み合わせ
等の複合的な要因により出球の数が様々に変動する遊技機であって、遊技
者がどれほどの出球を獲得できるかは前記複合的要因に左右されることの
多い偶然性の高いものである(公知の事実)から、本件契約で提供される
本件攻略情報は、将来における変動が不確実な事項に関するものである。
しかるに、本件パンフレット及びこれに沿った被告サポートセンターの
説明は、全体として、被告サポートセンターが一般には知られていない特
別なパチンコ攻略の情報を有していて、それにより確実に利益を得られる
と思わせる内容になっており、本来予測することのできないパチンコで獲
得できる出球の数について断定的判断を提供するものと解される(なお、
被告サポートセンターは本件攻略情報が有効であるかのような主張もして
いるが、裏付けを伴っておらず、採用の限りではない。
)
。
そして、原告は本件攻略情報を購入する前後に被告サポートセンターに
何度も問い合わせをするなどしており(やりとりの内容如何はともかく、
やりとりの回数に関しては基本的に争いがない。)、このような経緯と説明
117
論点項目
判示内容
内容からすると、原告は、本件攻略情報の効用について半信半疑であった
ところ、被告サポートセンターの説明等における断定的判断の内容が確実
であると誤信して、実際に本件攻略情報に従ってパチンコをしたものの、
ほとんど当たりが出ずに、多くの金銭を費消したものと認められる(弁論
の全趣旨)
。
したがって、被告は、本件契約の締結に際して、消費者契約法4条1項
2号所定の断定的判断を提供したことになる。
不当勧誘行為の効
被告サポートセンターが断定的判断を提供して本件攻略情報を購入させ
果(損害賠償請求 たことは、前記のとおり、本件契約について消費者契約法上の取消事由と
なるだけでなく、社会通念上違法な行為として不法行為にも該当すると解
権)
され得る。
しかし、不法行為による損害とは不法行為により現実に生じた金銭的な
被害をいうところ、本件攻略情報購入後、実際にパチンコをするに際して
は、購入者の判断が当然介在するのであって、攻略情報を購入したからと
いって、パチンコをすること、続けることを強制されるわけではないから、
パチンコをして支出することになったすべてを損害として位置づけて、そ
の賠償を求め得るものではない。
※パチンコをしたことによる損失、逸失利益、慰謝料のいずれも、賠償す
べき損害として認められなかった。
118
【80】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 4 月 15 日 大阪地裁 平成 17(ハ)21229 号
消費者法ニュース 84 号 209 頁
無職で年金以外に収入がなく、その他見るべき資産もない 68 歳の女性に対し、宝
飾品販売会社が約 10 カ月の間に総額約 1000 万円の宝飾品をクレジットで次々販
売した事案。販売契約については、クーリング・オフのほか、明確に断り切れず
にいることに乗じて売買の勧誘をして販売を継続したもので、商品の代金額、数
等から著しく社会的相当性を欠いており、公序良俗に反して無効とし、クレジッ
ト会社に対する抗弁の対抗が認められた。(第6回委員提出資料1-1より引
用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
「なお、控訴人補助参加人は、販売店としては顧客の支払能力を正確に把
握するための手段がなく、顧客自身の申告に基づいて判断するほかなく、
信販会社の与信審査が通っている以上、商品を販売することが公序良俗に
反することにはならない旨主張する。しかし、本件売買1の締結に至るま
でに原判決別紙「クレジット支払一覧」記載のとおり、被控訴人は、控訴
人補助参加人から宝飾品を7回に分けて購入しており、支払代金総額が7
00万円を超えていることは、控訴人補助参加人としても十分に認識して
いたはずであり、他方、本件書面1の「おつとめ先」欄には「厚生年金」と
記載されており、他に被控訴人に年収や資産があることは本件書面1上は
うかがえないのであるから、明確に断り切れないでいる被控訴人に対し勧
誘をして本件契約1を締結させたことは著しく社会的相当性を欠き、公序
良俗に反して無効であるというべきである。」
119
【81】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年 3 月 27 日 大津地裁 平 20(ワ)525 号
判時 2064 号 70 頁
◆賃貸借期間を2年とする建物賃貸借契約をさらに2年更新する際、賃借人が賃
料約2か月分に相当する更新料10万4000円を支払う旨規定した更新料支払
条項が、消費者契約法10条に反しないとされた事例
論点項目
判示内容
解釈準則に関する (2) 原告は、更新料支払条項は、事業者が不動文字にて印刷して作成した
規律の要否
約款であるから、その内容確定にあたっては、文言の客観的解釈及び作成
者不利の原則があてはまり、更新料の意味を更新拒絶権放棄の対価、賃借
権強化の対価、賃料補充の意味に解することは許されないと主張する。
約款とは、事業者が多数契約のために予め設定した定型的契約条件であ
り、その一方性のゆえに事業者に不当に有利になりやすく、その定型性ゆ
えに顧客の認識が十分に及び難いという構造的問題を内包するものであ
る。しかし、約款を用いた取引にあっても、いかなる商品・サービスをど
れだけの対価を払って獲得するかという選択、すなわち、契約の目的とな
る部分(核心的合意部分)については、特定の需要をもつ顧客の主導によ
って交渉が開始され、最終的な契約内容も、市場に現れた複数の選択肢の
中から、顧客が最も自らの需要に合致すると判断した商品・サービスを選
択することによって決定されるのであり、そこでは、顧客の主体的意思は、
交渉過程及び契約内容に反映されているのであるから、企業者が定型的処
理のため一方的に定めた技術的事項や付随的条件とは異なり、解釈にあた
って、約款の特殊性に応じた厳密な内容規制を及ぼす必要はない というべ
きである。
120
【82】
裁判例
出 典
要 旨
平成 21 年2月 20 日 東京簡裁 平 20(少コ)3509 号
裁判所ウェブサイト
◆建物の賃貸人である原告が、賃借人である被告Aは賃貸借契約(本件契約)を
即時解約したとして、被告A及び本件契約の連帯保証人である被告Bに対し、本
件契約の約定に基づき賃料・共益費の6ヶ月分の金員を請求した事案において、
本件契約は、事業者たる原告と一般消費者である被告らとの間の消費者契約に該
当する(消費者契約法2条3項)、一般の居住用建物の賃貸借契約であり、解約
予告に代えて支払うべき違約金額の設定は、消費者契約法9条1号の「消費者契
約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に当たると解
され、同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超え
るものは当該超える部分につき無効となるとした上で、本件において解約により
原告が受けることがある平均的な損害は賃料・共益費の1ヶ月分相当額であり、
1ヶ月分を超える違約金額を設定している本件約定は、その超える部分について
無効と解すべきであるとして、賃料・共益費の1ヶ月分のみ請求を認めた事例
論点項目
判示内容
①「平均的な損害
の額」の意義
②「平均的な損害
の額」の立証責任
の在り方
解約予告に代えて支払うべき違約金額の設定は、消費者契約法9条1号の
「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条
項」に当たると解されるので、同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者
に生ずべき平均的な損害を超えるものは、当該超える部分につき無効とな
る(被告らの主張はこの点をも含むものと解される)。これを本件について
みると、一般の居住用建物の賃貸借契約においては、解約予告期間及び予
告に代えて支払うべき違約金額の設定は1ヶ月(30日)分とする例が多
数であり(乙1標準契約書の10条)、解約後次の入居者を獲得するまでの
一般的な所要期間として相当と認められること、及び弁論の全趣旨に照ら
すと、解約により原告が受けることがある平均的な損害は賃料・共益費の
1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である(民事訴訟法248条)
。そ
うすると、原告にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本
件においては、1ヶ月分を超える違約金額を設定している本件約定は、そ
の超える部分について無効と解すべきである。
(※以下のような契約条項がある事例)
被告Aが賃貸借期間中に解約する場合は、次の区分に応じた予告期間を置
かなければならない。ただし、予告に代えて予告期間分の賃料・共益費を
原告に支払い即時解約することができる。
9・10・11月に解約通知する場合
3ヵ月
12・1月に解約通知する場合
1ヵ月
2・3・4・5月に解約通知する場合
9ヵ月
6・7・8月に解約通知する場合
6ヵ月
121
【83】
裁判例
出 典
平成 21 年5月 21 日 京都地裁 判決
消費者法ニュース 84 号 23 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
第三者による不当 ①「消費者」(2 条 1 項)とは、消費者契約法が制定された趣旨からすると、
勧誘行為規制の在 自らの事業としてでなく、自らの事業のためにでもなく契約の当事者とな
り方(「媒介」要件) る主体をいう。②「媒介の委託を受けた第三者」(5 条)とは、事業者が第三
者に媒介を委託して事業活動を拡大し、利益を得ている以上、その第三者
の行為による責任を事業者も負担すべきであるという趣旨にかんがみ、そ
の第三者が媒介の委託を受けた事業者との共通の利益のために契約が締結
されるよう尽力し、その契約締結について勧誘をするに際しての第三者の
行為が事業者の行為と同視できるような両者の関係が必要となる。本件借
主は、事業者である貸金業者の事業活動拡大等のためではなく、あくまで
自らが資金を獲得するという利益のために保証人となるように依頼したの
であり、貸金業者と共通の利益を有しているということはできず、第三者
にあたらない。
122
【84】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 12 月 25 日 東京地裁 平 19(ワ)24131 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告会社を仲介業者としてハワイ州の土地を買い受け、また、被告会社との間
で締結した請負予約に基づき同土地の工事申込金を支払った原告が、上記売買に
関して被告に不法行為又は債務不履行があったなどと主張して、被告らに対し、
損害賠償及び上記申込金の返還を求めた事案において、(1)仲介業者である被
告会社には、売主の売却希望価格が著しく不相当である場合、顧客に対し、土地
の実際の価格に関する情報を提供する義務がある、(2)上記請負予約における
工事申込金の不返還条項は、消費者契約法10条により無効であるとした上で、
損害賠償について3割の過失相殺を認め、原告の請求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
10 条の後段要件 原告が本件依頼書に署名押印したことにより、原告と被告会社の間におい
の在り方
て請負予約が成立したと認めることができるところ、本件依頼書には、原
告は工事申込金として3万ドルを受任者である被告会社に支払い、工事申
込金は請負契約時に契約金の一部に充当されるが、契約に至らない場合に
は返還されない旨の不返還条項が記載されている ので、これによれば、原
告が被告会社に支払った357万7500円は、請負契約が成立に至らな
かったため、被告会社が全額取得し、原告は返還を受けられないことにな
る。
・・・
(中略)
・・・
この点につき、被告らは、工事申込金は違約金に当たるから返還しない
旨主張するが、上記のとおり、本件依頼書の記載は、請負契約が成立に至
らなかった場合、理由のいかんを問わず工事申込金は原告に返還しないと
いう趣旨のものと認められる。そうすると、不返還条項は、原告に債務不
履行がある場合に支払う違約金を定めた条項と解することはできず、請負
予約を締結した段階で357万7500円という高額な工事申込金を支払
った原告に対し、請負契約が成立しない場合に取得すべき工事申込金の不
当利得返還請求権を事前に放棄させるものと解すべきであるから、原告に
対し、一方的に不利益を課する条項に当たる ということができる。しかも、
前記1(1)イ(ア)
、
(イ)のとおり、A及びBは、原告に対し、不返還条項
の存在について一切説明することなく、造成と浄化槽の手続を今のうちに
しておかないと浄化槽の許可が下りるのに時間がかかるのでまず先に浄化
槽と造成の許可だけは取っておくよう勧め、浄化槽及び造成の手続に必要
な書類だと言って本件依頼書を示し、署名押印させたものであり、Aは、
その数日後、原告に対し、来週中に工事申込金を振り込まないとペナルテ
ィが生じてしまうなどと言って357万7500円を送金させたものであ
り、このようなA及びBの行為は、原告と業務代行契約を締結した仲介業
者として信義則に反するものといわざるを得ない。
以上によれば、原告と被告会社の間において締結された請負予約が消費
者契約に当たることは明らかであるところ、そのうちの不返還条項は、消
123
論点項目
判示内容
費者である原告の権利を制限し、民法1条2項に規定する信義誠実の原則
に反して原告の利益を一方的に害するものと認められるから、消費者契約
法10条により無効である。
124
【85】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 12 月 17 日 東京高裁 平 18(ネ)141 号
金商 1313 号 42 頁
◆LPガス消費設備につき、ガス供給業者と消費者との間で締結された補償費支
払に関する合意において、当該補償費は消費者契約法9条所定の違約金に該当す
ると解され、平均的な損害を超えた部分は無効となるところ、本件では、ガス供
給業者に平均的損害があるとは認められないとして、本件補償費全額が同条によ
り無効とされた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
控訴人は、被控訴人らとの間で LP ガス消費設備及び給湯器の貸与契約を
額」の意義
締結するに先立ち、自らの判断の下に各建物にそれらの設備を設置したの
であるから、その設置に要した費用は被控訴人らとの間の契約解消による
損害とはなり得ない。
また、契約締結に関する事務処理費用については、契約の中途解約によ
り契約が遡って失効するわけではないし、解約後に格別の費用が発生する
というわけでもないから、その費用を損害と認めることはできない。
・・・
(中略)
・・・
そして、他に貸与契約の中途解約により控訴人に生ずべき損害の発生を
うかがうべき資料もない から、本件各合意に定める補償費はその全額が消
費者契約法 9 条 1 号の規定により無効というべきであって、被控訴人らに
これを請求することはできないものというべきである。
125
【86】 ※不法行為責任に関する裁判例
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 10 月 16 日 東京地裁 平 19(ワ)32364 号
判タ 1224 号 259 頁
◆「100%の勝率」であるとして紹介されていた商材を被告Y1から購入した無
職大学生である原告が、同商材に紹介されている被告Y2に取引口座を開設し、外
国為替証拠金取引をしたところ損害を被ったとして賠償を求めた事案において、被
告Y1の説明は断定的判断を提供するものであるが、被告Y2はこの誘引行為を顧
客獲得の手段としていたのであるから、誤った理解をしている者が申込をしている
可能性があることを認識していたはずであり、それを前提により慎重な適合性審査
をすべきであるのに、さしたる適合性審査もせずに、取引を開始させたのであり、
この顧客獲得行為自体が違法であるとし、5 割の過失相殺をした上で請求を一部認
容した事例
論点項目
①勧誘要件の要
否・在り方
②第三者による不
当勧誘行為規制の
在り方
判示内容
被告マネースクウェアは、
「FX常勝バイブル」に記載されたリンクをた
どって被告マネースクウェアのホームページへアクセスし、口座開設等に
至った場合には、被告幸せwinに対して一定の金員を支払っており、そ
のような方法により口座開設に至った者が被告マネースクウェアの顧客3
000から4000名のうち700名程度に至っていたのであって、まさ
に、被告マネースクウェアは、被告幸せwinによる被告マネースクウェ
アへの口座開設までの誘引行為を利用していたのである。
被告幸せwinによる「100%の勝率と、月間利益率25%以上」と
の外国為替証拠金取引に関する説明は、断定的判断を提供するものであり、
投資者の判断を誤らせるものである。
被告マネースクウェアは、この誘引行為を顧客獲得の手段としていたの
であるから、外国為替証拠金取引に関する誤った理解をしている者が申込
をしている可能性があることを認識していたはずであり、そうでなかった
としても少なくとも認識すべきであり、それを前提により慎重な説明や適
合性審査をすべきであるのに、前記のような不適切な口座開設までの手順
指導を容認し、さしたる適合性審査をするでもなく、本件取引を開始させ
たのであり、この一連の顧客獲得行為自体が違法である。
※原告は、
「100%の勝率と、月間利益率25%以上」などとうたう被
告幸せwinのホームページを閲覧し、「絶対にリスクがない」などと
いう「FX常勝バイブル」に誘引されて取引を開始したという事例
126
【87】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 10 月 15 日 東京地裁 平 19(ワ)34594 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告らから別荘地を買い受けた原告らが、被告らが各売買契約の際に本件各土
地の隣接地域に産業廃棄物の最終処分場等の建設計画があることを原告らに説明
しなかったことは消費者契約法所定の不利益事実の不告知に該当し、また上記契
約は動機の錯誤により無効であり、さらに上記不告知は不法行為に該当すると主
張して、不当利得に基づく売買代金の返還、不法行為に基づく損害賠償等を請求
した事案において、本件各土地周辺の自然環境は消費者契約法4条2項にいう重
要事項に当たるところ、被告らが上記建設計画を告げなかったことは同項所定の
不利益事実の不告知に当たるから売買契約を取り消すことができ、かつ上記不告
知は不法行為を構成するとして、原告らの請求が認められた事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 (1) 前記前提事実1及び2によると、本件各土地は別荘地として売買され
の在り方
たというのであって、このことにかんがみれば、本件各土地周辺の自然環
境がいかなるものであるかは、原告らのみならず、一般平均的な消費者に
とっても、それを購入するか否かについての判断に影響を及ぼす事項であ
るということができるから、本件各土地周辺の自然環境は、消費者契約法
(以下「法」という。)4条2項にいう重要事項に当たる というべきであ
る。
先行行為要件の要
また、前記前提事実3によると、Bは、本件各売買契約の締結を勧誘す
否
る際、原告らに対し、本件各土地は、緑が豊かで、空気のきれいな、大変静
かな環境が抜群の別荘地であるなどと説明した というのであるから、被告
らは、消費者契約たる本件各売買契約の締結について勧誘するに当たり、
消費者である原告らに対し、上記の重要事項に関して原告らの利益となる
旨を告げたものと認められる。そして、Bから上記の説明を受けたならば、
原告らのみならず、一般平均的な消費者においても、緑が豊かで、空気の
きれいな、大変静かであるという、本件各土地周辺の自然環境を阻害する
ような要因は存在しないであろうと通常認識 するであろうと考えられる。
不告知要件の在り
しかるところ、本件各計画のいずれかが実現して、それらの計画に係る
産業廃棄物の最終処分場や中間処理施設が実際に建設されることになれ
方
ば、それが本件各土地周辺の自然環境を阻害するような要因となりうるこ
とはたやすく否定することができない から、被告らが原告らに対して本件
各計画の存を告げなかったことは、法4条2項所定の不利益事実の不告知
に該当するものと認めるのが相当である。
故意要件の要否
言及なし
不当勧誘行為の効 (1) 前記1判示のとおり、原告らは、法4条2項に基づき、本件各売買契
果(不当利得返還 約を取り消すことができるから、被告らは、原告らに対し、本件各売買契
の範囲、損害賠償 約に基づいて原告らから交付を受けた金員を不当利得として返還しなけれ
請求権)
ばならない。
・・・
(中略)
・・・
(2) また、前記2判示のとおり、被告らは、不法行為による損害賠償責任
に基づき、原告らに対し、相当な弁護士費用を賠償しなければならない。
127
128
【88】
裁判例
出 典
平成 20 年9月 19 日 福岡地裁
国民生活センター平成 21 年 10 月 21 日発表情報(要旨)
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
被告は抗弁として、立替払契約に関する支払義務の有無という消費者契
の在り方
約における「その他の取引条件」
(消費者契約法 4 条 4 項 2 号)に当たる重
要事項につき、事実と異なることを告げられたと主張する。しかし、同号
における「その他の取引条件」とは、契約の目的物の対価以外の取引に関
して付される価格の支払時期などの条件をいうと解される。この概念に絶
対に迷惑をかけないと強調したことが含まれると解することはできない。
129
【89】
裁判例
出 典
平成 20 年7月 16 日 東京高裁 平 20(ネ)1410 号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
金に関していうと、東京工業品取引所の商品取引員の自己玉のほとんど
の在り方
が売玉であり、これに対し、一般顧客の委託玉はそのほとんどが買玉であ
り、2006 年 10 月限の場合、原告の自己玉は 11 月 17 日時点ですべて売玉
であったのに、証人Cの証言によると、Cは、その事実を知らず、被告に
この事実を告げなかったことが認められる。しかしながら、商品取引員が
自己玉を建てるのは、場勘定の支払に備えたり、あるいは、ストップ値で
委託者が手仕舞いできないとき顧客の売買を成立させ緊急的に救済するな
どのために行われるのであり、一般の委託者とは異なる事情で自己玉を建
てるのであるから、一般の委託者に勧める建玉と異なる自己玉を建てるこ
とはあり得るところであって、商品取引員の建玉を当然に一般の委託者に
とって必要な相場情報ということはできないから、これを告げなかったこ
とが直ちに不利益事実の不告知ということはできない。
※なお、従業員の新規委託者保護義務違反による不法行為責任(715 条)
を認めた上、過失相殺8割としている。
【参考】原審判決
裁判例
出 典
平成 20 年2月 21 日 横浜地裁相模原支部 平 18(ワ)60 号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
判示内容
不実要件の在り方 (2) まず、前記①の不実の事項の告知と断定的判断の提供に関し、甲第 6
号証の 1 及び 2、第 9 号証の 1、第 13 号証、第 14 号証、乙第 1 号証、証人
C及び同Bの各証言によると、B及びCは、平成 17 年 11 月 16 日、金の先
物取引を勧誘するに当たり、被告に商品先物取引委託のガイド(本冊・別
冊)
、取引管理運用の手引き、約諾書及び受託契約準則、取引本証拠金額一
覧及び委託手数料一覧を交付し、約 2 時間にわたり、前記資料に基づきス
トップ安(高)を含む先物取引の内容につき説明し、被告から商品先物取
引の説明及び理解に関する確認書①及び②を徴求した 上(商品先物取引委
託のガイドにはストップ安(高)と仕切り不成立に関する説明が記載され
ている。
)
、当時、金相場が平成 17 年に入って上昇傾向にあったことから(1
グラム 1400 円、1 枚 140 万 0000 円)、被告に対し、金を購入することを勧
め、既に新日本商品、日本ユニコムとの間で金の先物取引経験のあった被
告が原告との間でも金の先物取引を開始したことが認められ 、Cらがスト
ップ安(高)による仕切問題につきことさら事実と反する説明をし、この
ため被告において先物取引の内容につき誤認したまま取引を開始したと認
めることはできない。
「重要事項」要件
東京金の相場とロコ・ロンドン市場における現物取引における金相場と
の在り方
の乖離や総取組高の増大が金相場の今後を予測する上で重要な指標である
130
論点項目
判示内容
としても、金相場の価格形成要因は、金の需要供給のバランスのほか為替
相場の変動等複雑かつ多種多様であって、現物取引における金相場との乖
離や総取組高の増大が拡大すれば直ちに当然に下落すると判断できる根拠
は存在しないから、被告にこの事実を告知しなかったからといって、重要
事項で被告に不利益となる事実を告げなかったということはできない。業
界紙の値下げ予測に至っては価格の動向を判断する上での参考資料ではあ
っても重要事項で被告に不利益となる事実に当たらない。
不当勧誘行為の効
以上の認定事実によると、原告担当者であるB及びCは、法の求めるガ
果(不当利得返還 イドラインの定める新規委託者保護のための措置を講じることなく 、取引
の範囲、損害賠償 開始後 9 日間経過した時点で投資可能額を 3 倍以上に拡大することを承認
請求権)
した上、銀相場の上昇局面であったとはいえ、買いのメリットのみを説明
し、長期にわたる価格上昇局面における相場の急変に伴う仕切注文の不成
立といったデメリットを十分に説明せず 、被告が当初投資可能額の 2 分の
1 に近い投資により銀の買玉 100 枚(証拠金 720 万 0000 円)を建てるに当
たり、漫然その委託を受け入れ、前記ガイドラインに違反して先物取引未
習熟者としては明らかに過大な取引を成立させ、その後金の価格高騰によ
り臨時増証拠金徴収預託措置がとられた際も損害回避のため緊急に連絡助
言すべき契約上の義務の履行を怠り、被告をして早期に銀の相場下落によ
る仕切処分をする機会を失わせた 点で、Cの外務員活動全体に違法性があ
り 、その結果、被告に対し、売買損金 2706 万 7400 円の損害を被らせたが、
Cが登録外務員資格を有する営業担当であったことからすると、少なくと
も過失を免れないので、原告は、その使用者として、不法行為責任 があり、
前記銀の売買差損は前記違法行為によって発生したものであるから、委託
手数料(消費税を含む。
)はもとより差損金(立替金)の支払請求も許され
ないというべきである。
131
【90】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年6月 24 日 最高裁第三小法廷 平 19(受)1146 号
裁判集民 228 号 385 頁
◆Yが投資資金名下にXから金員を騙取した場合に、Xからの不法行為に基づく
損害賠償請求においてYが詐欺の手段として配当金名下にXに交付した金員の額
を損益相殺等の対象としてXの損害額から控除することは、民法708条の趣旨
に反するものとして許されないとされた事例
〔裁判要旨〕
◆Yが自己を介して米国債を購入すれば高額の配当金を得ることができると架空
の事実を申し向けてXから金員を騙取した場合において、Yが、詐欺の発覚を防
ぎ、更なる詐欺を実行するための手段として、あたかも米国債を購入して配当金
を得たかのように装い、配当金名下にXに金員を交付したという事情の下では、
XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求において同金員の額を損益相殺な
いし損益相殺的な調整の対象としてXの損害額から控除することは、民法708
条の趣旨に反するものとして許されない。(反対意見がある。)
論点項目
判示内容
不当勧誘行為の効
社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)
果(不当利得返還 に該当する不法行為の被害者が、これによって損害を被るとともに、当該
反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には、同利益については、
の範囲)
加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不
法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の
対象として被害者の損害額から控除することも許されないものというべき
である(最高裁平成19年(受)第569号同20年6月10日第三小法
廷判決参照)
。
前記事実関係によれば、本件詐欺が反倫理的行為に該当することは明ら
かであるところ、被上告人は、真実は本件各騙取金で米国債を購入してい
ないにもかかわらず、あたかもこれを購入して配当金を得たかのように装
い、上告人らに対し、本件各仮装配当金を交付したというのであるから、
本件各仮装配当金の交付は、専ら、上告人らをして被上告人が米国債を購
入しているものと誤信させることにより、本件詐欺を実行し、その発覚を
防ぐための手段にほかならないというべきである。
そうすると、本件各仮装配当金の交付によって上告人らが得た利益は、
不法原因給付によって生じたものというべきであり、本件損害賠償請求に
おいて損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として本件各騙取金の額か
ら本件各仮装配当金の額を控除することは許されないものというべきであ
る。
132
【91】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年6月 19 日 東京地裁 平 18(ワ)10504 号
判タ 1314 号 256 頁
◆弁護士である被告に対して土地の譲渡に関する事務等を依頼してその弁護士報
酬を支払った原告が、相当な報酬額を超える支払は民法90条により無効であると
主張して、不当利得の返還及び報酬の支払に伴って負担した源泉徴収額相当額の損
害賠償等を求めるなどした事案につき、被告が行った事務の内容からして原告によ
る報酬の支払は暴利行為として無効であるとした上で、相当な報酬額を算定して原
告の不当利得返還請求を一部認容したが、原告が国との関係で源泉徴収税納付義務
の存否・範囲を争っていない以上、被告にその賠償を求めることもできないとして
損害賠償請求を棄却するなどした事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (2) 原告会社の被告に対する報酬の支払の暴利行為該当性
する一般規定(暴 ア 被告は、前記第2の2(1)イのとおり、本件新橋物件の買収に関する東
利行為)
京都と原告会社との間の契約金額の合計額である4億3227万0951
円を基準に弁護士報酬会規17条1項、18条1項を適用すると、適正な
着手金、報酬金の合計額は約3700万円となるから、原告会社が被告に
支払った報酬額が高額に過ぎるとはいえない、などと主張して
いる。
・・・
(中略)
・・・
ウ 東京弁護士会の弁護士報酬会規14条5号の定めからすれば、不動産
の時価が着手金、報酬金を定める基準となるのは、当該不動産の所有権の
帰属自体が争点となっている事件等の着手金、報酬金であると解されると
ころ、上記(1)オ、サ、セで認定した事実によれば、本件新橋物件について
は、買収者である東京都と被買収者である原告会社との間で所有権の帰属
に関する争いがなかったこと、東京都が土地建物の買収の対価として支払
う補償金額は、画一的に定められ、当事者間の交渉によって増減すること
のない性質のものであり、被 告は、東京都の職員と本件新橋物件の売却価
格について交渉したわけではなく、また、本件新橋物件の売却時期の決定
に関与したわけでもなかったことが明らか である。そして、裁判所の行う
不動産競売手続においては、競落人は、代金の納付により不動産の所有権
を取得することができるとされているところ(民事執行法79条、188
条、184条)
、原告会社が、本件蒲田物件を競落するに際し、所有権の帰
属に関する紛争に遭遇した形跡はない。
また、被告は、前記第2の2(1)イのとおり、被告が原告X1又は原告会
社から受任した事務は多岐にわたっている(平成18年6月19日付け被
告答弁書の第4の2参照)旨主張し、被告が原告会社の依頼により行った
事務として、原告X1に同行して本件新橋物件に担保権の設定を受けてい
る金融機関を訪れ、支払期限の延期を要請したことや、原告会社に806
0万円を融資した株式会社北陸銀行を原告会社に紹介したことなどを挙げ
ているが、東京弁護士会の弁護士報酬会規14条1号は、金銭債権につい
ては債権総額が着手金、報酬金を定める基準となるとされているところ、
証拠(原告X1本人11頁)によれば、原告会社が抵当権者に支払った金
133
論点項目
判示内容
額は、抵当権者が提示したとおりの金額であり、被告の交渉によって債務
額が減額されたような事情はうかがわれない 。
そうすると、上記の弁護士報酬会規の定めに照らせば、本件新橋物件の
売却に伴って東京都から原告会社に支払われた4億3227万0951円
の全額や本件蒲田物件の競売代金である1億2400万円が弁護士報酬会
規13条にいう「経済的利益」に当たることを前提に報酬額を算出するこ
とは相当ではなく、被告が請求した報酬額は高額に過ぎるというべき であ
る。
・・・
(中略)
・・・
上記エのとおり、被告は、自己及びその親族と依頼者である原告会社と
の間に特別な財産上の利害関係を生じさせているが、このような特別な利
害関係を有する依頼者から委任を受けて事務を処理し、報酬を請求するに
当たっては、報酬請求の根拠を明確にし、いやしくも職務の公正に関する
疑惑を招かないように留意すべきものと考えられる。
ところが、本件全証拠を検討してみても、被告と原告会社との間で委任
契約書が作成されたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告は、上
記ウのとおり、原告会社の受ける経済的利益や被告の払った労力に比して
高額の報酬を請求しているにもかかわらず、上記(1)タ、トで認定した事実
によれば、原告会社に対してその具体的な算出根拠についての説明をして
いない 。しかも、上記(1)ナ、ニで認定した事実によれば、被告は、本件蒲
田物件を競落した後、一方で、原告会社に実質的には妻Cが本件蒲田物件
の4分の1の持分を有することを認めさせる書面(甲29)を作成しなが
ら、他方で、借入金に対する利息の名目で、本件蒲田物件の賃借人が支払
う賃料から、妻のCの出捐した3160万2360円に対する年10パー
セントの割合による金員を受け取っていたもので、被告の親族の利益に偏
しているとの疑惑を招く行為に及んでいる。
カ 以上のとおり、本件新橋物件の売却に伴って東京都から原告会社に支
払われた4億3227万0951円や本件蒲田物件の競売代金である1億
2400万円を経済的利益と見て報酬額を算定することは相当ではなく、
被告の請求した報酬額は高額に過ぎるとみられることのほか、被告が、原
告会社に報酬を請求するに当たり、金額の具体的な算出根拠を説明せず、
かえって原告会社と特別な財産上の利害関係のある被告の親族の利益に偏
しているとの疑惑を招く行為に及んでいることを考慮すれば、原告会社の
被告に対する合計3516万1500円に上る報酬の支払(上記(1)タ、ト)
は、暴利行為として無効と解すべき である。
134
【92】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年6月 10 日 東京地裁 平 20(ワ)1275 号
民集 62 巻6号 1488 頁
◆反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が当該反倫理的行為に係る給付を受
けて利益を得た場合に、被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等
の対象として被害者の損害額から控除することは民法708条の趣旨に反するも
のとして許されない
◆ヤミ金融業者が著しく高利の貸付けにより元利金等の名目で借主から金員を取
得し、これにより借主が貸付金に相当する利益を得た場合に、借主からの不法行
為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額
から控除することは民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた
事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為の効
民法708条は、不法原因給付、すなわち、社会の倫理、道徳に反する
果(不当利得返還 醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利
得返還請求を許さない旨を定め、これによって、反倫理的行為については、
の範囲)
同条ただし書に定める場合を除き、法律上保護されないことを明らかにし
たものと解すべきである。したがって、反倫理的行為に該当する不法行為
の被害者が、これによって損害を被るとともに、当該反倫理的行為に係る
給付を受けて利益を得た場合には、同利益については、加害者からの不当
利得返還請求が許されないだけでなく、被害者からの不法行為に基づく損
害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者
の損害額から控除することも、上記のような民法708条の趣旨に反する
ものとして許されないものというべきである。なお、原判決の引用する前
記大法廷判決は、不法行為の被害者の受けた利益が不法原因給付によって
生じたものではない場合について判示したものであり、本件とは事案を異
にする。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、著しく高利の貸付
けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し、
多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として、
本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたという
のであるから、上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は、不法原
因給付によって生じたものというべきであり、同利益を損益相殺ないし損
益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許され
ない。
135
【93】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 6 月 5 日 大阪高裁 平 20(ネ)174 号
消費者法ニュース 76 号 281 頁
◆易断の鑑定会を行っている控訴人に悩みを相談したところ、超自然的な能力の
話をされ、害悪を告知されて不安を煽られ、多額の出捐をさせられたとする被控
訴人が、控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案の控訴審におい
て、易断に鑑定料の支払又は祈祷その他の宗教的行為に付随して祈祷料の支払を
求める行為は、その性格上、直ちに違法となるものではないが、それに伴う金銭
要求が不相当な方法で行われ、その結果、相手方の正常な判断が妨げられた状態
で、過大な金員が支払われたような場合には、社会的に相当な範囲を逸脱した違
法な行為として、不法行為が成立するというべきところ、本件鑑定1及び2にお
ける控訴人の言動は、社会的に相当な範囲を逸脱した違法なものといわざるを得
ないなどとして、被控訴人の請求を一部認容した原審の判断を維持し、控訴を棄
却した事例
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
易断による鑑定料の支払又は祈祷その他の宗教的行為に付随して祈祷料の
支払を求める行為は、その性格上、易断や祈祷の内容に合理性がないとか、
成果が見られないなどの理由によって、直ちに違法となるものではない。
しかしながら、それに伴う金銭要求が、相手方の窮迫、困惑等に乗じ、殊
更にその不安、恐怖心を煽ったり、自分に特別な能力があるように装い、
その旨信じさせるなどの不相当な方法で行われ、その結果、相手方の正常
な判断が妨げられた状態で、過大な金員が支払われたような場合には、社
会的に相当な範囲を逸脱した違法な行為として、不法行為が成立するとい
うべきである。
そこで、本件について見るに、前記3(1)で認定した本件鑑定1の際の控
訴人の言動は、親族や健康上の多くの悩みを抱えて相談に訪れた被控訴人
に対し、今年中に死ぬとか、水子が被控訴人の足にすがって泣いていると
か、子どもが未亡人になるかもしれないなど、被控訴人にとって不吉な事
実を次々と告げ、殊更に被控訴人の不安を煽った上で、控訴人が水子供養
をすれば被控訴人やその子らに生じる害悪を取り除くことができるかのよ
うに装って被控訴人をしてその旨信じさせ、正常な判断が妨げられた状態
で、鑑定料もしくは祈祷料名下に著しく高額の金員を支払わせたものであ
り、社会的に相当な範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。
また、本件鑑定2における控訴人の言動についても、具体的な害悪の告
知こそされていないものの、本件鑑定1の影響下から脱し切れていない被
控訴人の、控訴人を信じたいという心情につけ込み、200万円という鑑
定料としては著しく高額な金員を支払わせたものであって、これまた社会
的に相当な範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。
したがって、本件鑑定1、2のいずれの控訴人の言動及び金員の受領に
ついても、被控訴人に対する不法行為が成立するというべきである。
136
【94】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年4月 25 日 倉敷簡裁 平 19(ハ)828 号
消費者法ニュース 76 号 213 頁
◆訪問販売により被告販売会社との間で売買契約を、被告信販会社との間で売買
代金についての立替払契約を締結した原告が、本件各契約の無効及び精神的損害
の存在等を主張して、不当利得返還、損害賠償、立替金債務不存在確認を求めた
のに対し、被告信販会社が、本件立替払契約に基づく立替金の支払を求めた事案
において、本件売買契約の一部につきクーリングオフを認め、また、本件売買契
約を公序良俗違反と認定して無効とした上で、立替払契約は売買契約と一体の契
約関係にあるから、売買契約が無効と解される以上、立替払契約も無効になると
して、原告の被告信販会社に対する弁済金の不当利得返還請求を認めたものの、
その他の本訴請求を退け、反訴請求は理由がないとして棄却した事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関
(4) 公序良俗違反による無効
する一般規定(暴
ア 民法90条は、法律行為の明文に反しない場合にも、それが社
利行為)
会的妥当性を持たない場合には、これに法律効果を与えないことを規定す
る。そして、公の秩序・善良な風俗という概念をもって社会的妥当性判定
の標準としているが、消費者の利益を保護するための消費者立法である特
商法の条項に反する行為も、公序良俗に反すると判断されている。
イ そこで判断するに、ホームテックは、原告に対し、平成17年
5月9日に「宝皇寿茶」12箱を15万1200円で、同年8月26日に
「ビーワンジェル」1個を7万1400円で、平成18年4月7日に「マ
ジトール」1個を20万7900円で販売する契約を締結しているところ、
①上記各商品代金は、その品質、効能又は機能に比較して著しく高額であ
ること、②各売買契約は、原告宅においての訪問販売であり、●●●は、
原告に対し、各売買契約に係る商品の効能又は機能・支払方法等につき、
正確かつ適切な説明をしているとは到底認められないこと(甲11)
、③各
立替払契約申込書(甲4ないし6)には、
「おつとめ先」欄に「年金」とし
か書かれておらず、年金額の記載もないことてから、ホームテックの●●
●は、年金生活者である原告の支払能力の有無を全く意に介しないまま、
平成17年5月9日から平成18年4月7日までの間に次々と上記商品を
販売していること、④上記各売買契約当時、原告は、77歳又は78歳(昭
和2年8月23日生)であり、心臓の機能障害により日常生活活動が極度
に制限されていたこと(甲 12)、⑤各売買契約締結時、●●●から原告に交
付された特商法5条所定の書面(甲1ないし3)には、同法施行規則3条
1号のうち「代表者の氏名」、同5号の「商品の型式又は種類」の必要的記
載要件を満たしていないことが認められる。
上記事実を総合して考慮すると、上記各売買契約は、社会的妥当性を持
たないものであることが明らかであり、公序良俗違反により無効と解する
のが相当である。
137
【95】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 4 月 23 日 大阪地裁 平成 18 年(ワ)10959 号
消費者法ニュース 77 号 266 頁
勤務先の呉服店から着物等を次々と購入させられ、多額のクレジット契約を締結
させられたとして、呉服店の従業員が呉服店および信販会社に対して既払金の返
還を求めた事案。呉服店の従業員が年収に比して過大な金額の呉服等を購入する
のを知りながら放置した雇用者の行為は不法行為であり、売買契約は公序良俗に
反し無効とされた。
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
オ 以上のとおり、被告健勝苑の外交員である原告は、同被告の売上を伸
ばすため、同被告での勤務で着用するために同被告から過大な商品購入を
繰り返し、同被告はその状況を知りつつ原告に対し、商品販売を続けて同
被告が支払う給与とほぼ同額か、少なくとも7割以上の額の立替金債務の
支払をさせる一方、原告のかかる負担により企業としての利益を継続的に
得ていたものであるから、本件売買は、商品販売の量、代金額、それによ
って負担する原告の債務額、さらには上記商品販売の継続期間によっては、
著しく社会的相当性を欠くことになるというべきである。
そこで、検討すると、前記イによれば、原告は、平成9年以降、被告健勝苑
から着物等を購入し、平成11年に172万円余りを、平成12年に14
6万円余りを、平成13年にも156万円余りの立替金債務の支払を続け
ており、この額は、原告の得た給与の額に匹敵する額であったものと推認
できるのであり、このような状態が3年間も続く間、被告健勝苑は、かか
る状態を認識しつつこれを放置し、総販売代金額が800万円に近づいた
後も同様の対応を続けたのであるから(平成14年及び平成15年も同様
に原告の給与収入とほぼ同額あるいはその7割以上の立替金債務の支払を
続けている。)、平成14年2月26日以降に締結された本件売買契約26
ないし31は、著しく社会的相当性を逸脱するもので、公序良俗に反して
無効であるというべきである。
カ また、被告健勝苑が原告との間で本件売買契約26ないし31を締結
した行為は、著しく社会的相当性を逸脱するものとして、不法行為に該当
するものと認められる(なお、原告は、本件売買契約は、一連一体として
公序良俗に違反して無効であり、また不法行為に該当すると主張するが、
本件においては、各売買契約は、それぞれ別個に契約締結がなされ、前記
のとおり、原告の支払能力を超える量の購入をさせた以降において公序良
俗に反し、不法行為に該当すると認めるべきであるから、原告の上記主張
は、採用することができない。)。
この点、被告健勝苑は、原告が十分な呉服販売の知識があり、その職を
辞すること、購入しないことができたにもかかわらず、自己の支払能力等
を的確に把握せずに、漫然と購入を続けたのであるから、責任を負担する
のが公平の理念に合致するとして、過失相殺を主張する。しかしながら、
前記アのとおり、原告は、被告健勝苑の売上を伸ばす目的や同被告での勤
務で着用する目的として、購入を余儀なくされたのであり、これらの事情
に照らすと、原告に過失ないし落ち度があったと認めることはできない。
138
論点項目
判示内容
よって、この点に関する被告健勝苑の主張は採用することができない。
キ 以上からすると、被告健勝苑は、原告が本件売買26ないし31に対
応する立替払契約に基づいて支払った248万2000円について、不当
利得返還義務及び不法行為に基づく損害賠償義務がある。
139
【96】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 2 月 28 日 大津地裁 平成 17(ワ)355 号
消費者法ニュース 75 号 294 頁
総極性うつ病であった中年の女性が躁状態の1年1カ月の間に47回、合計 120
0万の呉服を購入させられて預金が空となってしまい悲観して自殺未遂をした事
案。一部の契約については、原告の判断能力の低下を利用する意図があったと言
わざるをえず、社会的相当を逸脱した販売行為で違法とし不法行為が認められ
た。(第6回委員提出資料1-1より引用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
判決は、
「原告は、平成十五年十一月頃から錦西大津店へ頻繁に来店し、短
期間のうちに高額商品を次々に購入するとともに、同店の従業員らに対し、
自己の身上や精神状態、資産状況などを話していたところ、内縁の夫も平
成十六年三月までに数回同店を訪れて同原告の精神状態について警告を発
し、原告の友人もそのことについて忠告をしていたのであるから、被告錦
の従業員らにおいても、少なくとも取引開始から相当期聞を経過した後は、
同原告について、上記(イ)のように適切に自己の財産を管理する能力が
低下していたことを認識することができたというべきである。」「販売買ら
は、その後も、適切に自己の財産を管理する能力が低下していた同原告に
対し、高額の着物を売ることによって同原告が経済的に困窮しないか等の
配慮をすることなく、その生活状況からして着る機会がほとんどなく、買
う必要性の乏しい高額の着物等の購入を勧誘し、販売 していたものである
から、平成二八年四月二五日以降の契約における販売員らの上記行為には、
同原告の上記判断能力の低下を利用する意図があったといわざるをえな
い。そして、このような勧誘や、販売の方怯は、著しく不当 といわざるを
えない。」「本件各契約のうち、遅くとも平成一六年四月二五日以降の、売
買代金が一〇万円以上である契約番号三四ないし三七、三九、四〇、四二
及び四五の各契約における佐々木らの勧誘及び販売行為は、上記のような
事情に基づいて同原告に対して負うべき、不測の財産的損害が発生しない
ように配慮すべき注意義務に違反するものと解され、社会的相当性を逸脱
した販売行為であって、違法というべきであり、不法行為が成立する。」
「し
かし、原告は軽操状態であって、その程度は重症ではないし、被告錦の販
売員らは、少なくとも当初は同原告が病気の影響で高額の着物を購入して
いるとは認識し得なかった。同原告が自らの好みで着物の種類を選択して
購入を決めていたことは否定できない。」と判示した。
不法行為の成立する売買を十万円以上に限定し、かつ七割の過失相殺をし
たので、認容額は売買価格の一.五割にとどまった。
140
【97】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年1月 30 日 大阪地裁 平 18(ワ)1633 号
判タ 1269 号 203 頁
◆被告呉服店の従業員である原告が、被告呉服店に対して、原告の支払能力を超え
る着物の立替払契約を締結させたことが公序良俗に反するなどとして立替金相当
額の不当利得返還等を求めた事案において、被告呉服店が従業員に呉服を販売した
行為は売上げ目標達成のために事実上購入を強要したものであるとして公序良俗
違反を認め、これをもって信販会社の立替金請求に対抗できるとされた事例
◆呉服販売業者がその従業員に対し呉服等の自社商品を販売した行為が、従業員
の支払能力に照らし過大であり、売上目標の達成のために事実上購入することを
強要したものであるとして、公序良俗に反して無効であるとされた事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (1) 前記1(7)エのとおり、原告は、平成14年11月26日からの約3
する一般規定(暴 年という期間において、被告奈良松葉から着物、帯、バッグ、貴金属等を
利行為)
次々に購入し、合計で27回の本件売買契約を締結し、これに対応する立
替払契約に基づく債務も、平成15年3月には100万円を超え、同年1
2月23日に約280万円に達し、平成16年6月3日に300万円を超
え、その後の1年4月の間に600万円を超えるまで急激に増加している
のであり、これに伴い、各月の返済額も7万円ないし8万円から20万円
以上にまで急激に膨らんでいる。
一方で、前記1(1)で認定したとおり、原告あるいは夫であるRの資力は
乏しく、年金やパート収入に頼った生活を送っていたのであり、そもそも
原告が被告奈良松葉でパートとして働き始めた経緯が生活費を捻出するた
めであって、前記1(4)ウで認定したとおり、原告の給与収入額はせいぜい
年収が213万円程度から181万円程度(月平均で17万円から15万
円程度)にすぎなかったのである・・・(中略)
・・・。
そうすると、原告が繰り返した本件各売買とそれに伴う立替払契約は、
返済がおよそ不可能な状況下でされた ものというべきである。
・・・
(中略)
・・・
以上の諸点に照らすと、原告が過大な債務を負担するような本件売買と
これに伴う立替払契約を繰り返した原因は、原告の購買意欲にあったわけ
ではなく(社員割引を利用したからといって、それは負担を少しでも軽減
しようとする極めて自然な態度であって、購買意欲があることを示すもの
というわけではない。)、被告奈良松葉の売上目標達成優先の営業方針とそ
のための給与体系を採っていたことに起因したものというべきである。
もっとも、原告は、前記1(9)のとおり、適正な状況判断をすることが困
難な傾向があるという診断を受けているが、この診断は、本件立替金債務
の返済に窮するようになった後の状況であること、前記1(6)イのとおり、
松葉グループにおいて自ら自社商品を購入する従業員が非常に多かったこ
と、また、前記1(10)のとおり、各地の消費生活センター等に松葉グルー
プの従業員が着物を購入して債務の支払に困惑しているとの相談が多数寄
せられていたことに照らすと、原告の個人的な資質が過大な債務負担の原
141
論点項目
判示内容
因であるとはいえないというべきである。
(4) さらに、前記1(6)ウ、エのとおり、被告奈良松葉にあっては、地区
長であるQやその他の幹部が商品購入の際に社員割引の承認をしていたこ
となどから、原告の購入回数や月々の支払金額も概ね把握していたのであ
り、その購入回数や毎月の返済額が非常を多いことは認識していたという
べきである。また、前記1(7)ウのとおり、本件売買15、16及び18の
際には、既に利用した信販会社では審査が通らない程度に立替金債務が膨
らんでいたことを認識していたことが認められるのである。
このように、被告奈良松葉は、原告の商品購入やその債務負担額について
幹部を通して把握していたのであるし、また、当然ながら、原告に支給さ
れる給与額についても把握し、原告の実情は認識していたというべきであ
る 。事実、同被告は、前記1(11)のとおり、消費生活センターに寄せられ
た苦情に配慮して、平成15年10月15日付けで社内ルールとして多重
販売契約等のガイドラインを設け、残債権額が年収の1.5倍から2倍の
範囲を超えないようにすることとしていたのであるから、原告について、
従業員とはいってもこのガイドラインを超えているということは十分認識
していたものというべきである。被告奈良松葉は、その上で、原告に対し、
なおも売上目標の達成を徹底して求め、同被告の利益を図ったということ
ができる。
・・・
(中略)
・・・
(5) 以上、本件各売買とこれに伴う立替払契約に基づく立替金債務が極め
て過大であり、原告の資力等に照らして到底支払不能であったこと、その
ような事態を引き起こした原因が被告奈良松葉の営業方針にあった上、同
被告も原告の上記実情を十分認識して、売上目標の達成を徹底して求めて
いたという事情を総合すると 、本件売買に至らせた被告奈良松葉の行為は、
売上向上や売上目標の達成のために、原告の従順な人柄を利用し、原告に
対し、自社商品を購入することを事実上強要したものというべき であり、
その結果、同被告は、従業員である原告の過大な債務負担のもとで会社と
しての利益を得た ということができる。そうすると、同被告の上記行為は、
原告が負う上記債務の程度によっては社会的相当性を著しく逸脱したもの
となるというべき である。
そこで、さらに判断すると、平成16年6月3日の本件売買契約17及
び本件立替払契約17を締結するまでに、別紙2のとおり、すでに残債務
額が293万4400円あり、上記各契約の締結により立替払契約の残債
務額が300万円を超え、各月の返済額も8万円を超え(8万4200円
ないし8万1200円)
、向こう1年以上にわたって各月の返済額が月平均
の給与の半分を超える状態に至ることとなった のであり、その後の本件売
買によって、さらにその状況は著しく悪化し、残債務も平成16年の原告
の年収額の1.5倍を超えるようになっている 。そうすると、本件売買契
約17の締結以降において締結した本件売買契約、すなわち、本件売買契
約3ないし6、8ないし18、21、23及びDは、原告の支払能力を超
えるものであっていずれも公序良俗に反して無効であるというべき であ
る。
なお、原告は、本件売買契約は、一連一体として公序良俗に違反して無効
であると主張するが、本件においては、各売買契約は、それぞれ別個に契
142
論点項目
判示内容
約締結がなされ、前記のとおり、原告の支払能力を超える量の購入をさせ
た以降において公序良俗に反すると認めるべき であるから、原告の上記主
張は、採用することができない。
143
【98】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 1 月 18 日 東京地裁 平19(ワ)14167号
ウエストロー・ジャパン
◆本件マンションの管理組合の管理者である原告が、本件区分建物を共有してい
る被告らに対し、本件マンションの管理費と修繕積立金等の支払を求めた事案に
おいて、本件区分建物の共有者である被告らは、不可分債務として、本件区分建
物に関する管理費及び修繕積立金の支払債務を負っており、したがって、各自、
その未払額全額について支払義務を負っているというべきであるとした上で、本
件訴訟の提起日から5年以上前に支払期限が到来している管理費及び修繕積立金
の請求権については消滅時効が完成していることから、消滅時効を援用した被告
Y2に対する請求については、その一部のみ認容し、被告Y1に対する請求を全
部認容した事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り
(1) 被告Y2は、本件マンションの管理規約の第55条2項が管理費及
方
び修繕積立金の未払に対する遅延損害金について年30%と定めているこ
とについて、消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降、同法が
定める損害賠償の予定の上限である年14.6%を超える部分は公序良俗
に反し無効であると主張している。
(2) しかし、原告が主張するように、マンションの管理規約は対等当事
者で構成された団体の自治規範であり、非対等な契約当事者間の消費者契
約とは異なるから、消費者契約法の適用対象とならないことはもとより、
同法の趣旨を及ぼすべき対象とならないこともまた明らか であり、
その他、
本件マンションの管理規約が管理費及び修繕積立金の未払に対する遅延損
害金について年30%と定めていることが公序良俗に反すると認めるべき
事情はないから、被告Y2の主張は採用できない。
※本件マンションの区分所有者らは管理組合として管理協議会を組織し
ており、原告は、その管理者であり、被告らは、本件区分建物を共有す
る者である。
144
【99】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 1 月 17 日 東京簡裁 平19(ハ)5644号
ウエストロー・ジャパン
◆自動車販売を業とする被告会社から、走行距離を改ざんないし交換されていた
本件車両を買い受けた原告が、主位的に、改ざんないし交換の事実を告げない行
為は詐欺に当たると主張して、被告会社らに対し、不法行為に基づく損害賠償を
求め、予備的に、上記行為は不実告知であるなどと主張して、被告会社に対し、
不当利得返還請求をした事案において、本件事実及び証拠によれば、詐欺の成立
は認められないとして、主位的請求は棄却したが、本件売買契約は、被告会社の
不実告知により締結されたというべきであるから、消費者契約法4条1項1号に
よる取消が可能であり、取消の意思表示到達後から被告会社は悪意の受益者とな
るなどとして、原告の予備的請求を一部認容した事例
論点項目
勧誘要件の在り方 2
判示内容
不実告知の存否(予備的請求)について
(1) 上記1の(1)で認定したとおり、被告会社は、本件車両の実際の
走行距離が約12万キロメートルであったにもかかわらず、ホームページ
でも店舗内のプライスボードでも走行距離を8万キロメートルないし8万
1500キロメートルと表示 し、本件売買契約締結に際してもこれを明確
に訂正したとは認められないから 、本件売買契約締結にあたり、原告に対
し不実の告知があったというべきである。そして原告は、上記1の(1)で認
定したとおり、走行距離が10万キロメートルを超えないことを重視して
いたことが認められるから、本件車両の走行距離が約8万キロメートルで
あることを信じたからこそ本件売買契約を締結したものと解される。被告
会社は、本件売買契約は本件車両の走行距離が不明との前提でなされたも
ので、原告もこれを了解していたと主張し、契約締結を証する注文書(甲
2の1、2の2)には、これに沿う記載がある。また、本件車両引渡の際原
告に交付された同車両の保証書(乙1)及びその際原告が署名した納車受
領書(乙2)にも、上記主張の事実をうかがわせる記載がある。しかし、本
件車両の走行距離は約12万キロメートルと分かっていたのであり、不明
と変更しても事実を伝えたことにはならない。また、上記注文書がプライ
スボード等と異なる内容になっているのであるから、その作成の際これを
原告に対し明示的に説明すべきところ、●●●ないし被告●●●がその内
容を説明した事実を認めるに足る証拠はなく、上記注文書によっても上記
認定を覆すには足りない。さらに、上記保証書及び納車受領書は、本件売
買契約締結後に交付ないし作成されたものであり、その時点で原告が本件
売買契約の取消事由を知ったと言えるか否かは別として、これらをもって
直ちに原告が本件売買契約締結時に本件車両の走行距離が不明であること
を了解していたと認めるには足りない。
以上によれば、本件売買契約は、被告会社の不実告知により締結された
というべきであるから、消費者契約法4条1項1号による取消が可能であ
り、原告のこの点に関する主張は理由がある。
※詐欺取消しの主張(主意的請求)については、
「原告を積極的に欺罔す
る意思も、原告が走行距離を誤信していることを利用し、実際の走行距
離につきあえて沈黙して本件売買契約を締結させようとする消極的な
欺罔の意思もなかった」として、否定している。
145
【100】
裁判例
出 典
要 旨
平成 20 年 1 月 7 日 広島高裁 平19(ラ)204号
ウエストロー・ジャパン
◆貸金業者である相手方を被告として抗告人が提起した不当利得返還請求事件に
おいて、相手方が移送申立てをしたところ、原決定は、抗告人と相手方との間の
金銭消費貸借契約において合意により小倉簡易裁判所を管轄と定めたことを理由
として、移送を決定したことから、抗告人が、即時抗告した事案において、専属
的合意管轄のある裁判所と異なる裁判所に訴えが提起された場合であっても、訴
訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要があると認めると
きには、民事訴訟法16条2項及び17条の趣旨を類推し、当該訴訟を移送しな
いことも許されるところ、本件については、抗告人の住所地を管轄する裁判所に
おいて審理することが当事者間の衡平に適うというべきであるとして、原決定を
取り消した上、相手方の移送申立てを却下した事例
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(専属的裁判管
轄合意規定)
判示内容
専属的合意管轄のある裁判所と異なる裁判所に訴えが提起された場合であ
っても、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要
があると認めるときには、民訴法16条2項及び17条の趣旨を類推し、
当該訴訟を移送しないことも許される。
146
【101】
裁判例
出 典
平成 19 年 12 月 26 日 名古屋地裁 平 19(ワ)701 号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
判示内容
「将来における変 (3) 上記 2 の認定の事実によれば、被告従業員は、本件売買の勧誘に際
動 が 不 確 実 な 事 し、原告に対し、「株式会社アイ・ディ・テクニカの縁故株を特別に売る。
項」要件の在り方 1 株 30 万円であるが、公募価格は 50~60 万円となり、上場すれば 120 万
円以上になり、200 万円くらいにはなる。」と述べたことが認められ、これ
は、消費者契約法 4 条 1 項 2 号にいう断定的判断の提供にあたる と解され
る。
不当勧誘行為の効 (1) 被告従業員が、本件売買の勧誘に際し、原告に対し、
「株式会社アイ・
果(不当利得返還 ディ・テクニカの縁故株を特別に売る。1 株 30 万円であるが、公募価格は
の範囲、損害賠償 50~60 万円となり、上場すれば 120 万円以上になり、200 万円くらいには
請求権)
なる。
」と述べたこと(上記 2 の認定事実)は、被告従業員の原告に対する
不法行為にも該当するということができる。
(2) 原告は、この不法行為により 本件売買の代金に相当する 150 万円の
損害を被ったと認められる。しかし、原告に株式の取引の経験があり、未
公開株のリスクについても十分理解することは可能であったといいうるこ
とからすると、原告にも同損害の発生につき過失があったというべき であ
る。その過失の程度からすると、その損害額から 5 割を過失相殺すべきで
ある。そうとすると、原告の損害額は、75 万円となる。
147
【102】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年 11 月 22 日 大阪地裁堺支部 平19(モ)172号
ウエストロー・ジャパン
◆過払金返還請求訴訟を提起した相手方(原告)に対し、貸金業者である申立人
(被告)が、本件金銭消費貸借契約には訴訟行為につき姫路簡裁を専属的合意管
轄裁判所とする条項があるとして、本件訴訟の移送を申し立てた事案において、
本件条項によれば本件訴訟についても姫路簡裁が専属的合意管轄となるものの、
相手方が現在無職の個人で経済的に余裕がない一方、大手金融業者である申立人
は、相当の経済力がある上、大阪市内に法務部を設置するなど訴訟への態勢も充
実していることなどの事情にかんがみると、本件訴訟を姫路簡裁で審理すること
は訴訟の著しい遅滞を招き、当事者の衡平を図るためには本件訴訟を当庁(大阪
地裁堺支部)において審理するのが相当であるとして、本件移送申立てを却下し
た事例
論点項目
判示内容
不当条項リストの
エ 相手方は、本件条項は消費者契約法10条により無効である旨主張
追加の要否・在り するが、本件条項を貸金返還請求訴訟や保証債務履行請求訴訟だけでなく、
方(専属的裁判管 本件のような過払金返還請求訴訟に適用しても、社会的弱者である消費者
轄合意規定)
の権利を制約し、不当な不利益を与えたりするものとはいえないから、相
手方の上記主張は採用することができない。
(2) 本件訴訟の移送の当否について
ア 前記のとおり、申立人と相手方との間には、姫路簡易裁判所を
専属的管轄とする合意が成立しているというべきであるが、本件訴訟を姫
路簡易裁判所で審理することが訴訟の著しい遅滞を招き、又は当事者の公
平を図るため必要があるときは、民事訴訟法17条の趣旨に照らし、姫路
簡易裁判所への移送申立てを却下することができるというべきである。
148
【103】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年 10 月 15 日 東京地裁 平18(ワ)23291号
ウエストロー・ジャパン
◇事案の概要: 原告が、被告から、被告が販売するパチンコ攻略法を199万
円で購入したが、購入時の説明とは異なってほとんど実現不可能な方法で、か
つ、攻略法の効果がなく、消費者契約法4条2項本文に定める不利益事実の不告
知があるとして、売買契約の取消しに基づいて代金の返還を求める事案
論点項目
判示内容
(2) そして、被告が原告に対してGRの使用許諾契約締結を勧誘するに
先行行為要件の在
り方
際して、最初に「
(GRの)一般販売を行った場合のパチンコ業界へのダメ
ージを懸念したためです。広く知れ渡ってしまった場合に日本のパチンコ
業界が成り立たなくなる可能性が高く、それは日本のパチンコファンの皆
様にとってマイナスであると判断した」と述べ、GRの実行の難しさにつ
いて、
「難しくないと思います。物理的に実現不可能な手順を攻略法として
販売している会社が多く存在しているのが現状ですが、当社の情報はその
ようなものではありません。」と回答し、GRが「日頃の勝率をアップする
ことを目的とするということを十分に認識ください。」と利用規約に記載
し、原告の「100%はともかくとして、何らかの勝率アップ効果は認め
られるはずであると理解しておいてよろしいでしょうか?」という質問に
対して「もちろん当社は収支向上に効果があると判断しております。」と回
答したのは、GRについて、被告が、消費者契約4条2項にいう「重要事
項について当該消費者の利益となる旨を告げ」たことに該当するというべ
きである。
(3) さらに、GRを実行することがかなり困難であり、かつ、通常の
確率を超える確率で大当たりを出すことが不可能であり、原告にとって経
済的効果が全くないという原告の不利益となる事実を、被告が故意に原告
に告げず、原告がそのような不利益な事実は存在しないと誤認し、その誤
認によってGRの使用許諾契約を締結して代金を支払ったと認めるのが相
当である。
149
【104】
裁判例
出 典
平成 19 年8月 27 日 東京地裁 平 17(ワ)21084 号
判例秘書
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 4 争点(4)
(消費者契約法に基づく取消しの可否)について
の在り方
(1)被告が消費者契約法上の「事業者」に当たるか否かを検討する前に、
同法4条1項1号及び同条2項の取消事由の存否について検討する。
ア (略)
また、被告が原告に対し、本件自動車には損傷箇所がない旨説明した点
については、第2瑕疵が存在するという客観的事実には反したことを告知
したことになるけれども、中古車売買において、車体の底面に特に修理の
必要性の認められない損傷があることは、売買契約を締結するか否かにつ
いての判断に通常影響を及ぼすもの(消費者契約法4条4項)であるとま
ではいえないから、「重要事項」には当たらない というべきである。
イ 次に、被告が、本件契約締結に際し、原告に対し、ある重要事項又は
当該重要事項に関連する事項について、原告の利益となる旨を告げ、かつ、
当該重要事項について原告の不利益となる事実を故意に告げなかった(不
利益事実の不告知)か否かについて検討すると、消費者契約法4条2項の
「不利益となる事実」は、消費者の利益となる旨の告知によって、当該事
実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限られている。
これを本件についてみると、上記1(1)において認定したとおり、被
告は、原告に対し、本件自動車に「修復歴」がないことを告知したが、本件
自動車が本件事故に遭ったことは、これを認識していながら、告知しなか
ったのであるから、上記告知によって、本件自動車が本件事故に遭わなか
ったと通常考えられるかが問題となるところ、修復歴がなくとも、車体の
底面については、通常目には入らない部位であるから、運転に支障がない
限りは、たとえ何らかの損傷を受けていたとしても、通常は修復までしな
いというべき である。したがって、本件自動車が本件事故に遭ったことは、
本件自動車について「修復歴なし」という告知をしたこととの関係では、
「不利益な事実」には当たらない。
(2) そうすると、被告が消費者契約法の「事業者」に当たるか否かを
検討するまでもなく、同法上の取消事由があるとは認められない。
150
【105】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年7月 26 日 東京簡裁 平 17(ハ)21542 号
ウエストロー・ジャパン
◆信販会社である被告Aの加盟店であった有限会社B(販売店)から除湿剤置き
マットを購入し(本件売買契約)、被告Aとの間で当該マットの代金を被告Aが
販売店に立替払いすることを内容とする契約(本件立替払契約)を締結した原告
が、消費者契約法4条3項1号、同法5条1項により本件立替払契約を取り消し
たと主張して、被告Aに対し、原告が被告Aに支払った金員の返還及び本件立替
払契約の残債務の支払義務がないことの確認を求めるとともに、販売店の代表取
締役であった被告Cに対し、販売店の従業員であった訴外Dの不法行為により原
告に上記既払金に相当する額の損害が生じたとして、民法715条2項に基づ
き、当該損害額の支払を請求した事案において、訴外Dの勧誘行為は消費者契約
法4条3項1号に違反し、かつ、不法行為に該当すると認定し、さらに、被告A
と販売店間には本件立替払契約の締結について媒介することの委託関係があり、
同委託に基づいて訴外Dが本件立替払契約の締結を媒介したと認められるなどと
認定して、原告の請求を全部認容した事例
論点項目
退去すべき/する
旨の意思表示要件
の要否
判示内容
1 認定事実
(2) 本件売買契約締結にいたる状況
原告は、訴外有限会社Eから、平成12年5月27日に、除湿剤bなど
4点を32万2100円(分割払手数料及び税込)で、同年9月20日に、
cボード、除湿剤dなど38点を107万4400円(分割払手数料及び
税込)で、同年11月2日に、除湿剤dなど31点を101万7740円
(分割払手数料及び税込)で、次々と信販会社のクレジットを利用して購
入していたが、本件売買契約当時、Eから購入した除湿剤dは、まだ使用
しきれていなかったことから、原告は、自宅に保管していた。
平成16年9月1日、原告の自宅に、販売店の従業員から、
「除湿剤を預
かっているのでお届けしたい、商品をお届けするので、今までの伝票を用
意して待っていて下さい。」という内容の電話がかかってきたが、その従業
員は、販売店名を名乗らなかったことから、原告は、従来取引のあったE
からの電話だと誤信し、販売店従業員の来訪を承諾した。
同日午後1時ころ、原告の自宅に販売店の従業員Dと、もう一人の男性
従業員が来訪し、玄関内において、Dが原告に対し、原告から示された伝
票を見ながら、
「まだ買ってもらっていない品物がセットにあるので、それ
が済まないと最終登録が終わらないから、買ってもらいたい、cボードの
上に敷くマットをまだ渡していないので、購入してもらいます。
」と言うの
で、原告は、Eとの契約がセットになっているのかとも思ったが、セット
販売のことは聞いていなかったし、除湿剤もまだ十分に残っていたことか
ら、
「これ以上はいらない。」と言って、その購入を断った。しかし、Dは、
「これはセットになっていて、まだセット販売の中のマットがお買い上げ
になっていなくて残っている。この購入が終わったら、初めて最終登録が
済むことになっている。
」と言って、勧誘を続けた。原告は、それでも、
「除
湿剤はいらないし、これ以上銀行からの引き落としはしたくないので、い
151
論点項目
判示内容
りません。」と言って、購入を断ったが、Dは、「セットになっているので
断れない。前の銀行の引き落としも段々と終わるので支払いは楽になりま
す。」などと述べて執拗に勧誘を続けた。しかし、それでも原告は、「除湿
剤は十分にあります。これ以上は置き場所もないので購入できません。
」な
どと言って、購入を断わり続けていた。
そのようなやりとりはDらが原告宅を訪問してから1時間以上も続いた
が、Dらは一向に帰る気配を見せなかったことから、原告は、困惑した心
理状態に陥っていたが、当時、原告の家族は、外出していて、原告の自宅
には、原告しかいなかったことから、次第に恐怖感も覚え初めていた。原
告がそのような心理状態に陥っているときに、Dから、今回契約すればも
う来ることもないというようなことを言われたので、原告は、とにかくD
らには早く帰って欲しいし、これ以上嫌な思いをしなくて済むのなら契約
をしようと決意し、本件売買契約書(甲3)に署名捺印をした。
(3) (後掲)
2 争点に対する判断
(1) 消費者契約法4条3項1号、5条1項による本件立替払契約の取
消
ア 退去すべき旨の意思表示の認定
前記1認定事実(2)によれば、原告は、Dが、本件売買契約締結を勧める
のを、長時間にわたって何度も明確に拒否していた事実が認められるが、
原告の当該拒否行為は、社会通念上、Dらに対し、自宅から退去して欲し
いという意思を黙示に示したものと評価することができる から、本件で原
告は、Dらに対し、消費者契約法4条3項1号に定めるところの、
「その住
居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示した」と認
めるのが相当である。
第三者による不当
1 認定事実
勧誘行為規制の在
(3) 本件立替払契約の締結にいたる状況
り方(「媒介」要件) Dは、本件売買契約の締結を済ませると、すぐに「gクレジット」と題
する書面(甲1)を原告に示し、
「マットを買ってもらえれば最終登録は終
わります。これがクレジットの引き落としの紙です。」と言ってきたが、原
告は、前記(1)で認定したと同様の困惑した心理状態が続いていたことか
ら、内容も確かめずに、本件立替払契約書の「お申込者欄」と「支払口座」
欄に所要事項を記載し、印鑑を押した上で、同書面をDに渡した。すると、
Dは、
「60回払いでこの金額になります。この金額で引き落としが始まり
ますけどいいですか。
」と言ってきたので、原告は、前記心理状態のままに
了承すると、Dは、本件立替払契約書の商品名などを記載する欄に本件マ
ットの個数や、支払総額などの所要事項を記入した。その際、被告Aの従
業員などは同席していなかった。
2 争点に対する判断
(1) 消費者契約法4条3項1号、5条1項による本件立替払契約の取
消
ア (前掲)
イ 被告Aの媒介の委託
前記1認定事実(2)、(3)及び弁論の全趣旨によれば、本件売買契約と本
152
論点項目
判示内容
件立替払契約は、同じ場所で、ほとんど間をおかずに締結された事実及び、
原告は、Dの、被告Aとの立替払契約の勧誘行為がなければ、本件売買契
約の高額な代金を用意できなかった事実並びに、Dは、原告に対する勧誘
の当初からクレジットの利用を前提に本件売買契約の締結を勧めている事
実が認められることから、本件売買契約と本件立替払契約は密接不可分の
関係にあると認定できる 。
次に、消費者契約法5条1項にいう「媒介」とは、ある人と他の人との
間に法律関係が成立するように、第三者が両者の間に立って尽力すること
と解されるが、本件立替払契約は、Dが、長時間にわたる勧誘の末に締結
した本件売買契約に引き続き、分割払いの回数や方法、総額などを判断し
た上で、その内容を原告に示し、同意を得たとして締結された事実が認め
られるから、Dは、被告Aと原告との間に、法律関係が成立するように、
両者の間に立って尽力したと評価でき、Dは、消費者契約法5条1項にい
う「媒介」をしたと認定できる 。
153
【106】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年 6 月 26 日 東京地裁 平17(ワ)18247号
ウエストロー・ジャパン
◆運転代行業のフランチャイズチェーンを展開する原告が、フランチャイジーの
債務を保証した被告に対し、ロイヤルティ、自動車賃料残額等の支払を求めた事
案において、車両の賃貸借契約を裏付けるに足りる証拠はないことから、原告の
請求のうち車両賃貸借契約に基づくものは理由がないとし、フランチャイザー
は、交渉過程において、契約を締結するかどうかを判断するために重要な事実に
ついて可能な限り客観的・正確・適正な情報を開示・提供する義務があるが、原
告が加盟店の募集に当たりその誘因の手段として、重要な事項について十分な開
示を行わず、又は虚偽若しくは誇大な開示を行ったとは認められないとして、請
求を一部認容した事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在
(1) フランチャイズ・システムにおいて、フランチャイザーは、事業全
り方
体を企画し、遂行してきたものであるから、当該事業全体の動向や既存の
フランチャイジーの経営状況について豊富な情報を有しているのに対し、
フランチャイジー希望者はフランチャイザーから提供される情報に頼らざ
るをえず、これをもとに継続的契約関係に入っていくものである。
したがって、フランチャイザーは、契約締結のための交渉過程において、
信義則上の保護義務として、フランチャイジー希望者に対し、当該事業に
関して、契約を締結するかどうかを判断するために重要な事実について可
能な限り客観的・正確・適正な情報を開示・提供する義務があり、また、虚
偽の情報をフランチャイジーに提供してはならず、相手方が情報内容につ
いて誤解している場合にはその誤解を解く義務がある。そして、これらの
義務の内容及び義務違反の有無は、提示すべき情報をどの程度具体的に確
定することが可能か、フランチャイジー希望者の理解能力及び具体的認識
等を総合して、判断されるべきである。
154
【107】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年2月 28 日 徳島地裁 平 14(ワ)288 号
ウエストロー・ジャパン
◆躁うつ病を発症していた亡Aが、被告呉服業者らとの間で、合計約6000万円
もの着物等を現金、クレジット契約等で購入していたことから、Aの相続人である
原告らが、本件各契約の不成立又は無効を主張して、被告呉服業者らに対して、受
領した金員の返還又は同相当額の賠償等を求めるとともに、被告クレジット会社に
対して、Aに対し不当な取立て行為を行ったとして損害賠償を求めた事案におい
て、本件契約当時、Aに意思能力がなかったとか著しく減退していたとまでは認め
られないものの、本件売買契約の一部は公序良俗に違反した無効なものであり、無
効な契約に基づき金銭を支払わせたことは不法行為に当たるとして、被告呉服業者
に対する損害賠償を一部認めたが、被告クレジット会社が、A所有の不動産に対し
仮差押えをし、立替金残金請求訴訟を提起したりすることは不法行為に当たらない
とした事例
論点項目
判示内容
前記認定によれば、Aは若年のころから躁うつ病を発症していたことは
不当勧誘行為に関
する一般規定(暴 認められるものの、同人が、これまで本件取引のような多額の浪費行為を
したことを認めるに足る証拠はないこと、主治医が、Aは遅くとも平成1
利行為)
2年7月ころには、肝性脳症に伴う精神神経障害を発症していた可能性が
あると判断していることに照らすと、Aが上記のような浪費行為をするに
ついては、上記の病気の影響があったものと推認するのが相当であり、A
が全く正常な精神状態で本件取引を行ったということはできない。
もっとも、前記認定によれば、Aは、親族により前記のような異常行動
があることを把握されていたものの、本件取引時において同様の異常行動
があったことを認めるに足る証拠はないこと、原告らAの家族・親族らに
おいて、Aを入院させることを考えたり、その行動を監視したりすること
をした形跡はなく、Aは単独で行動し、販売店に自ら出向いて店員や他の
客と話をしていたこと、Aは自ら、平成13年の手帳に被告ますいわ屋を
含む呉服販売店主催の展示会や旅行会の予定日や知人の葬儀の日を書き込
み、これらの日程を管理していたことが認められること(甲26)などに
照らすと、Aが本件取引時において意思能力がなかったとか、著しく減退
していたとまで認めることはできず、被告らの担当者において、本件取引
時において、Aが精神神経障害を発症していたと認識することができたと
認めることもできない。
しかしながら、本件取引にかかる着物等の商品は、一般的に高額の商品
であるということができ、このような商品を販売する販売店においては、
顧客に対し、不当な過量販売をしてはならず、販売店と提携するクレジッ
ト会社においても、これに応じて不当に過大な与信をしてはならない信義
則上の義務を負っていると解すべき である。徳島県消費者基本条例(平成
16年12月27日公布、平成17年4月1日施行。甲49)13条及び
同規則13条は、不当な過量販売を規制の対象となる不適正な取引行為と
規定している。同条例は、本件取引の後に公布、施行されたものであるが、
取引上の信義則に照らし当然に認められるべき義務を確認的に規定したも
155
論点項目
判示内容
のとみるのが相当である。
不当な過量販売に当たるか否かは、顧客の職業、資力、年齢等に照らし、
個々具体的に判断されるべきであり、その不当性が著しいと判断された場
合には、販売契約及びこれに関連するクレジット契約が公序良俗に反し無
効とされる場合があるというべき である。
・・・
(中略)
・・・
前記の 本件取引の期間、Aの職業、資力、年齢等やこれに対する被告ら
の認識内容に照らすと、本件取引においては、遅くとも、各被告とAとの
取引総額が2000万円を超えた時点より後においては、各被告らは、A
との取引量が過量販売に当たるものとして、以後の販売ないし与信取引を
差し控えるべき信義則上の義務があったというべき であり、Aが客観的に
は精神神経障害の影響の下に本件の浪費行為を行ったと認められることを
も併せ考慮するならば、少なくとも、この時期以降の取引は公序良俗に反
するものとして無効となると解するのが相当 である。前記認定によれば、
本件取引上の債務の支払は滞っていなかったことが認められるものの、そ
のことは、上記の判断を左右するものではない。購入者が資産を使い切る
などして、支払が滞るようになるまでは販売を続けても良いなどというこ
とはできない。その程度に至る前の段階でも販売量(金額)が余りにも多
額に上る場合には販売を差し控えるべき場合があるというべきである。
・・・
(中略)
・・・したがって、被告ますいわ屋は、平成13年9月12
日の別紙全取引一覧表番号92以降の取引を、差し控えるべき義務を負っ
ていたというべきであり、被告ますいわ屋については、平成13年9月1
2日以降のAとの売買契約は公序良俗に違反し無効である。
156
【108】
裁判例
出 典
要 旨
平成 19 年1月 29 日 名古屋地裁 平 18(ワ)4452 号
ウエストロー・ジャパン
◆パチスロ攻略情報を販売している被告の従業員が断定的判断を提供したことに
より、高額の会員登録料・情報料を支払ったと主張する原告が、被告に対し、本
件契約の取消しに伴う不当利得の返還を求めるとともに、存在しない情報を売る
という本件行為は詐欺であるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案に
おいて、本件事情の下では、被告は断定的判断を提供していたと認められ、原告
は消費者契約法4条1項2号により本件契約を取り消すことができるから、被告
は原告が支払った登録料等の返還義務を負い、また、本件攻略情報はまったく虚
偽のものであり、被告はそれを知りつつ原告と本件契約を締結したのであるか
ら、本件契約締結行為は不法行為であるとして損害賠償責任も認めた事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在
(2) また、被告は、原告が、消費者契約法3条2項の努力義務に違反
り方(法的性質、 しているから、同法による保護を受けることができない旨主張する。
思うに、消費者契約法3条は、同法1条の目的に添って、事業者及び消
同義務違反の効
果)
費者双方の努力義務を規定したものに過ぎず、同法3条に規定する努力義
務違反を理由として、契約の取消の可否や損害賠償責任の有無といった私
法的効果には影響を及ぼすものではないと解するのが相当である 。
付言するに、同法3条2項により、消費者に課せられた努力義務は、事
消費者の努力義務
の在り方(法的性 業者から提供された情報を活用することを要請するものに過ぎず、消費者
質)
自ら情報を収集する努力までも要請するものではない。換言すれば、消費
者は、事業者から情報が提供されることを前提として、少なくとも提供さ
れた情報を活用するように要請されるに過ぎない 。
157
【109】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 12 月 28 日 神戸地裁姫路支部 平 17(ワ)633 号・平 17(ワ)899 号
ウエストロー・ジャパン
◆太陽光発電システム及びこれに付随するオール電化光熱機器類の売買及び工事
契約を締結した業者である原告が、買主である被告に対し、工事代金等の支払を
求めたところ(本訴請求)、被告が、本件契約は消費者契約法に抵触する勧誘によ
るものであり、被告は取消しの意思表示をしたと主張して、原告の本訴請求を争
うとともに、取消しに基づく原状回復として、被告の居宅に設置した機器類等の
撤去工事をするよう求めるなどした(反訴)事案において、原告従業員による本
件契約についての説明内容と本件システムの性能からすれば、本件説明は不実の
告知及び重要事実の不告知に当たると解され、本件契約は消費者契約法4条1
項、同2項、特定商取引に関する法律9条の2の取消事由により無効であるか
ら、原告は、本件工事代金を請求できず、かつ、被告に対する原状回復義務を履
行すべきであるとして、被告の反訴請求のみ認容した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 ア 前記認定の事実によれば、被告らは、本件工事代金について月額3万
円以上のクレジットとしてこれを15年間に亘って支払うという高額な商
の在り方
品ないし役務提供であることを大前提として、どの程度経済的にメリット
があるかに関心を持ち続けていたことが優に認められ、そうすると、この
ような関心にかかる事実は消費者契約法所定の誤認対象事実と認めるべき
ものである 。
①先行行為要件の 1 証拠(甲1ないし11、乙5ないし25、証人●●●)及び弁論の全
要否
趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。
②不告知要件の在
・・・
(中略)
・・・
り方
(2) 同月25日、●●●が被告宅を訪問し、被告及び●●●(以下「被告
ら」という。
)に対し、本件契約の勧誘を行った。
ア ●●●は、エコキュート・IHクッキングヒーター・食洗機及びIH
クッキングヒーター用の鍋等の希望小売価格等の記載のあるメーカーのパ
ンフレットを交付し、現在特別にこれらのオール電化機器類をサービスで
提供できる旨説明したうえ、予め被告らが用意していた被告方の光熱費の
平均月額2万3500円という数値をもとに、上記オール電化機器類を設
置した場合、ガス代がかからず、また電気代も節約でき、これらにより月
1万3200円光熱費が減少すること、食洗機を設置することによって月
3000円の水道代の節約が見込まれること等を説明した。
イ さらに、●●●は、同日中に本件契約を締結すれば国からの14万0
400円の補助が受けられること、三菱電機製の本件システムは、外のメ
ーカーより割高であるが、それは発電効率が良いことや架台がしっかりし
て屋根が傷む心配が少ないことなどによるものであること、特別に20年
保証を付けられること等の説明をした。なお、本件システムの希望小売価
格等の記載されたパンフレットは交付されず、また保証料が別途代金に含
まれる旨の説明もなかった。
ウ また、●●●は、被告方に最適な太陽光発電システムを設置すると、
1か月481KW相当、売電額にして1万2200円相当の発電が見込ま
158
論点項目
故意要件の要否
判示内容
れる旨説明した。
エ ●●●は、上記ア及びウを総合して、本件契約を締結すれば、月額に
して、光熱費の節約分1万3200円、水道代の節約分3000円、売電
代金1万2200円の合計2万8400円得になる旨説明し、本件契約に
かかるクレジット代金月額3万1762円と従前の光熱費月額2万350
0円を比較すると8000円程度負担が増えるけれども、クレジット期間
15年で代金の支払いを完了した後、本件システムの寿命を30年と考え
れば、長期的にやはり本件契約によるのが得である旨説明した。
・・・
(中略)
・・・
3 以上の認定事実を前提に、本件契約にかかる勧誘において不実告知又
は事実不告知が存したか否かについて判断する。
・・・
(中略)
・・・
イ そして、そのような関心を有する 被告らに対する●●●の勧誘文言
は、上記認定のとおりであるから、このような説明を受けた 被告らとして
は、本件工事代金が三菱電機製の太陽光発電システムとして標準的な価格
であることを前提に、本件オール電化機器類が無償でサービスされること
それ自体に経済的なメリットがあること及び本件システムと本件オール電
化機器類の設置による光熱費・水道代等の節約がクレジット代金の支払い
を考慮してもなお経済的にメリットがあること等の事実を本件契約の重要
な事実として考慮して本件契約に至った というべきであり、これらの点に
ついて誤認があり、かつそれが●●●の勧誘文言上重要事実を告げなかっ
た [ママ]によるものであることは明らかであるというべきである。
ウ 加えて、本件システムにかかる発電能力についても、前記認定の説示
の点からすると、●●●は不実の告知をしたといわざるを得ず、当該不実
は、本件システムを導入することによる経済的メリットに直接関わる事実
であることは明らかである。
言及なし
159
【110】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 11 月 28 日 大阪高裁 平17(ネ)151号
判タ 1228 号 182 頁
◆企業と退職者との間の契約に基づく年金につき、企業側が退職者の意に反して
給付額を減額することが認められるとし、退職者の企業側に対する年金支払請求
が棄却された事例
論点項目
10 条の後段要件 6
の在り方
判示内容
規程 23 条の拘束力に関する控訴人らの主張等について
(1) 消費者契約法 10 条等に関する控訴人らの主張について
控訴人らは、規程 23 条 1 項 (※)が、消費者契約法 10 条の趣旨に基づき
無効である、あるいは公序良俗や信義則に反する、などと主張 する。しか
し、前記 5 のとおり、規程 23 条 1 項は、限定された要件の下で加入者に対
する不利益変更を認めた規定として、本件年金制度の性質上合理性を備え
ている ということができ、公序良俗や信義則に反して、消費者の利益を一
方的に害する契約条項とはいえない。控訴人らの主張は、採用できない。
(3) 控訴人らは、本件各年金契約は、個別的な契約であり、契約当事
約款規制に関する
規律の要否(定義、 者双方が私的利益を追求するという対価関係に立っており、社会保障制度
組入要件)
としての機能や恩恵性を有するものではなく、いわゆる約款理論も適用さ
れないなどとして、被控訴人において、本件各年金契約締結時に、控訴人
らに年金規程の書面を交付してその内容を説明していない以上、控訴人ら
には、年金規程に従う意思がないから、年金規程が契約の内容とされるこ
とはないし、少なくとも、仮に規程 23 条が一方当事者の改廃権を定める規
定であるならば、同条によって不利益を被る他方当事者の具体的認識が必
要であるなどと主張する。
しかし、前記 3(1)のとおり、各契約者の年金規程の個々の内容に対する
具体的認識の有無に関わりなく、年金契約の内容が年金規程に従うとする
根拠は、年金規程が本件年金制度の 規律としての合理性を備えていること
を前提に、被控訴人において、多数の加入者との間の反復、継続する契約
関係と技術的な要素を含む契約内容を合理的、画一的に処理し、各加入者
を平等かつ公平に取り扱うこと、各加入者もそれを期待していたこと 、一
定のルールに基づき公平な取扱をすることが被控訴人と従業員との間の事
実たる慣習ともいえること という点に求められる。福祉年金契約において
は、一定のルールの存在は、加入者の側からみても、必要なことであり、
契約当事者双方が私的利益を追求するという対価関係、本件年金制度の社
会保障制度としての機能や恩恵性は、仮に福祉年金契約においてそのよう
な側面があったとしても、各加入者ごとに異なった契約をすることを可能
にするとまでは解されず、個別の同意や実質的開示などがない限り年金規
程の各条項の拘束力が認められないというような主張を、当然には基礎付
けることができない。
もっとも、本件規程 23 条のような、一方当事者に不利益な条項は、その
当事者にその存在が明確に告知されることが望ましい とはいえる。そして、
被控訴人は、年金契約の締結に先立ち、その契約の内容となるべき年金規
程を書面として申込者に交付しなかったし、配布した冊子における記載を
160
論点項目
判示内容
除いては、各種セミナーで規程 23 条による不利益変更の可能性を口頭で明
確に説明したことを認め得る証拠が見当たらない。
しかし、本件年金制度の申込者は、全て被控訴人に 15 年以上勤務した従
業員であるから、あらかじめ年金規程の内容を知り得る機会や手段が確保
されていれば、自ら年金規程の内容を調査して、その内容に従った契約を
締結するか否かを判断することができる ともいえる。また、被控訴人が長
期間存続して多数の退職者が生じることからすれば、福祉年金制度が相当
長期にわたり施行され、その間にさまざまな状況の変化が生じ得ること、
それに従い制度に変更が生じ得ることも、予測不可能とはいえない 。これ
らのことに、多数の契約関係の画一的、合理的処理という年金規程の目的
を勘案すれば、年金規程の書面を現実に交付しなければ、契約内容を年金
規程によらせることができないとはいえず、被控訴人が容易に年金規程の
書面を現実に交付し得たか否かも、年金規程の拘束力を左右する事情とは
いえない 。これまで認めた事実によれば、福祉年金制度の創設時に、明確
ではない部分は残るが、社内時報により福祉年金制度が将来変動し得るこ
とが周知され、控訴人らを含む相当数の者に退職 5 年前に配布されたパン
フレットに、被控訴人の業績等を理由に制度が変更され得るとの記載もあ
ったのであるから、最低限の開示または了解可能性があったということが
でき、開示不十分を理由に年金規程 23 条の効力を否定することはできない
というべきである。
※規程 23 条 1 項は、被控訴人の社内規程として、現役従業員につき退職
時に適用されるべき福祉年金制度を改廃する場合があることを定めた
規定
161
【111】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 11 月 28 日 東京地裁 平17(ワ)6986号
ウエストロー・ジャパン
◆社会的経験に乏しい若者に対して執拗に高価な宝石の購入を働きかけて宝石の
売買契約を締結させ、ショッピングクレジットによる支払約束をさせたことが、
購入者の自由な意志決定を妨げた違法なものであると判断された事例
論点項目
①不当勧誘行為に
関する一般規定
(適合性原則、状
況の濫用、暴利行
為等)
②情報提供義務の
在り方
①不当勧誘行為に
関する一般規定
(適合性原則、状
況の濫用、暴利行
為等)
②情報提供義務の
在り方
判示内容
ア 本件売買契約〈1〉締結当時、満20歳になったばかりの原告甲山の
年齢や無職であって、収入の途も定かではなく、社会的経験が乏しかった
こと や 戊野は、このような原告甲山の属性を2回の長時間に亘る面談で認
識し得たはずであること に照らせば、戊野は、原告甲山において自由な意
思決定が可能な状況下で契約を締結すべき であった。
・・・
(中略)
・・・
そうすると、戊野は、同人が認識し得た原告甲山の能力や属性に応じて、
被告会社の扱う宝石の力や効能とされるものが根拠に乏しく、主観的なも
のに止まることを原告甲山に対し注意喚起すべきであるのに、これをせず
に本件売買契約〈1〉の締結を勧誘した ものであるから、このような勧誘
方法は、原告甲山の自由な意思決定を妨げるものとして違法の評価を免れ
ないというべきである。
イ 戊野は、被告丁沢の話に共鳴して被告会社に入社し、被告丁沢
から日常的に販売方法について指示を受けていた被告会社の従業員であっ
て、原告甲山に電話を架けて被告会社への来訪を促し、長時間に亘って話
をし、原告甲山と、被告丁沢が言うところのラポール(関係)を形成した
のも、被告会社の商品の販売のため以外の何ものでもあり得ないのであり、
戊野ら被告会社の従業員が客に見せるビデオや「お客様宝石体験談ご紹介
シート」も販売の手段として作成されたものであるから、戊野において、
原告甲山に対し、上記のような勧誘方法を自らが行うこと、その結果、原
告甲山において、自由な意思決定を妨げる結果になることは、これを認識
ないし認容していた ものといえる。
ウ 従って、被告会社の従業員である戊野は、その職務執行に際し、
故意に、違法な勧誘行為 によって原告甲山をして本件売買契約〈1〉を締
結させたものであって、その行為は不法行為に当たるというべきである。
ウ 平成16年1月中旬の午後9時ごろ、自宅に庚崎から電話がかかって
きた。 ・・・
(中略)・・・ 原告丙谷は、夜間でもあり、電話を切る機会
を与えない庚崎の話に応じるのが面倒になり、被告会社に赴く旨答えてし
まった 。
原告丙谷は、庚崎に対し、被告会社に行くと約束したのに何も言わない
ままにするのは良くないと考え、数日後、庚崎に断りの電話を架け、面倒
なので行かない旨申し向けたところ、庚崎から、約束を破られると庚崎の
側でも準備をしていたりするので困る旨、当初の電話勧誘の際よりも強め
の口調で応じられたため、再度、被告会社を訪れる旨の返事をした。
エ 平成16年1月26日午後5時30分ごろ、原告丙谷は、アルバイ
トが終わった後、新宿区〈住所略〉所在の被告会社の営業所を訪れた。
162
論点項目
判示内容
そこで、原告丙谷は、庚崎と身の上話を始め、雑談し、その中で、原告
丙谷が就職したら、ホテルマンとして頑張ってゆきたいという話もした。
・・・
(中略)
・・・
数時間経過したころ、原告丙谷は被告会社から宝石を購入する気持ちに
なってきた。原告丙谷は、アルバイト先の職場では結婚指輪以外の指輪を
つけることが禁じられていたので、エメラルドが1個入ったネックレスを
購入することにした。 (2) 上記(1)の事実によれば、
ア 原告丙谷は、本件売買契約〈3〉締結当時、満20歳で 、アルバイ
トをしていたとはいえ、専門学校に通学中で、アルバイト収入も月額15
万程度で、社会的経験が乏しかった のであり、庚崎は、このような原告丙
谷の属性を同人との面談で充分に認識し得た はずであるし、また、原告丙
谷が元々本件売買契約に消極的であった ことは、庚崎からの電話勧誘に対
し、一旦は面倒であるとして被告会社への訪問を断ったことからも認識し
得たはずである。庚崎は、原告丙谷において自由な意思決定が可能な状況
下で契約を締結すべき であった。
しかし、庚崎は、約束を破られると準備の都合もあるので困る旨庚崎か
ら告げられて被告会社を訪れることとなった原告丙谷に対し、被告会社本
店において、本件売買契約〈3〉の成立前に、戊野が原告甲山に見せたの
と同内容の被告会社の制作した勧誘ビデオを見せ、自ら、宝石の持つ力や、
エメラルドを持った人については、仕事がうまくいった人や財産が貯まっ
た人、宝くじが当たった人がいる旨告げた。
これらのビデオや庚崎の発言の主たる内容となっていた宝石の「力」や
宝石を身につけていることによる 効能はこれが客観的に存するとの証拠は
なく、不実ないし少なくとも主観的なものに止まる ものと考えざるを得な
い。
そうすると、庚崎は、同人が認識し得た原告丙谷の能力や属性に応じて、
被告会社の扱う宝石の力や効能とされるものが根拠に乏しく、主観的なも
のに止まることを原告丙谷に対し注意喚起すべき であるのに、これをせず
に本件売買契約〈3〉の締結を勧誘したものであるから、このような勧誘
方法は、原告丙谷の自由な意思決定を妨げるものとして違法の評価を免れ
ない というべきである。
・・・
(中略)
・・・庚崎において、原告丙谷に対し、上記のような勧誘方法
を自らが行うこと、その結果、原告丙谷において、自由な意思決定を妨げ
る結果になることは、これを認識ないし認容していたものといえる。
ウ 従って、被告会社の従業員である庚崎は、その職務執行に際し、故
意に、違法な勧誘行為によって原告丙谷をして本件売買契約〈3〉を締結
させたものであって、その行為は不法行為に当たる というべきである。
163
【112】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 11 月 27 日 最高裁第二小法廷
平 17(受)1158 号・平 17(受)1159 号
民集 60 巻9号 3437 頁
◆大学と当該大学の学生との間で締結される在学契約は、大学が学生に対して、
講義、実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で、大学の目的にかなっ
た教育役務を提供するとともに、これに必要な教育施設等を利用させる義務を負
い、他方、学生が大学に対して、これらに対する対価を支払う義務を負うことを
中核的な要素とするものであり、学生が部分社会を形成する組織体である大学の
構成員としての学生の身分、地位を取得、保持し、大学の包括的な指導、規律に
服するという要素も有し、教育法規や教育の理念によって規律されることが予定
されている有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約である。
◆大学の入学試験の合格者が納付する入学金は、その額が不相当に高額であるな
ど他の性質を有するものと認められる特段の事情のない限り、合格者が当該大学
に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有し、当該大学が合格者
を学生として受け入れるための事務手続等に要する費用にも充てられることが予
定されているものである。
◆大学と在学契約又はその予約を締結した者は、原則として、いつでも任意に当
該在学契約又はその予約を将来に向かって解除することができる。
◆大学の入学試験に合格し当該大学との間で在学契約を締結した者が当該大学に
対して入学辞退を申し出ることは、それがその者の確定的な意思に基づくもので
あることが表示されている以上は、口頭によるものであっても、原則として有効
な在学契約の解除の意思表示であり、入学試験要項等において所定の期限までに
書面で入学辞退を申し出たときは入学金以外の所定の納付金を返還する旨を定め
ている場合や、入学辞退をするときは書面で申し出る旨を定めている場合であっ
ても、解除の効力は妨げられない。
◆大学の入学試験の合格者が当該大学との間で在学契約又はその予約を締結して
当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有する入学金を
納付した後に、同契約又はその予約が解除され、あるいは失効しても、当該大学
は当該合格者に入学金を返還する義務を負わない。
◆大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業
料等を返還しない旨の特約は、在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約
金の定めの性質を有する。
◆大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約又はその予約は、消費者
契約法二条三項所定の消費者契約に該当する。
◆大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約に納付済みの授業料等を
返還しない旨の特約がある場合、消費者契約法九条一号所定の平均的な損害及び
これを超える部分については、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的
には、当該特約の全部又は一部の無効を主張する当該合格者において主張立証責
任を負う。
◆大学の入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業
料等を返還しない旨の特約は、国立大学及び公立大学の後期日程入学試験の合格
164
者の発表が例年三月二四日ころまでに行われ、そのころまでには私立大学の正規
合格者の発表もほぼ終了し、補欠合格者の発表もほとんどが三月下旬までに行わ
れているという実情の下においては、同契約の解除の意思表示が大学の入学年度
が始まる四月一日の前日である三月三一日までにされた場合には、原則として、
当該大学に生ずべき消費者契約法九条一号所定の平均的な損害は存しないものと
して、同号によりすべて無効となり、同契約の解除の意思表示が同日よりも後に
された場合には、原則として、上記授業料等が初年度に納付すべき範囲内のもの
にとどまる限り、上記平均的な損害を超える部分は存しないものとして、すべて
有効となる。
◆入学試験要項等の定めにより、その大学、学部を専願あるいは第一志望とする
こと、又は入学することを確約することができることが出願資格とされている大
学の推薦入学試験等の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授
業料等を返還しない旨の特約は、上記授業料等が初年度に納付すべき範囲内のも
のである場合には、同契約の解除の時期が当該大学において同解除を前提として
他の入学試験等によって代わりの入学者を通常容易に確保することができる時期
を経過していないなどの特段の事情がない限り、消費者契約法九条一号所定の平
均的な損害を超える部分は存しないものとして、すべて有効となる。
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
在学契約の解除に伴い大学に生ずべき平均的な損害は、一人の学生と大
額」の立証責任の 学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的、客観的に生
在り方
ずると認められる損害をいうものと解するのが相当である。そして、上記
平均的な損害及びこれを超える部分については、事実上の推定が働く余地
があるとしても、基本的には、違約金等条項である不返還特約の全部又は
一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証
責任を負うものと解すべきである。
「平均的な損害の
一般に、各大学においては、入学試験に合格しても入学手続を行わない
額」の意義
者や入学手続を行って在学契約等を締結した後にこれを解除しあるいは失
効させる者が相当数存在することをあらかじめ見込んで、合格者を決定し、
予算の策定作業を行って人的物的教育設備を整えている。また、各大学に
おいては、同一学部、同一学科の入学試験を複数回実施したり、入学者の
選抜方法を多様化したりするなどして、入学者の数及び質の確保を図るこ
とに努め、あるいは、補欠合格(追加合格)等によって入学者を補充する
などの措置を講じている。このような実情の下においては、一人の学生が
特定の大学と在学契約を締結した後に当該在学契約を解除した場合、その
解除が当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものであれ
ば、原則として、その解除によって当該大学に損害が生じたということは
できないものというべきである。なお、一人の学生の在学契約の解除に伴
い、大学においては、当該学生の受入れのために要した費用が無駄になっ
たり、事務手続をやり直すための費用を要したりすることもあるが、これ
らは入学金によって賄われているものということができる。
したがって、当該大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのも
のと解される在学契約の解除、すなわち、学生が当該大学に入学する(学
165
論点項目
10 条の後段要件
の在り方
10 条の前段要件
の在り方
判示内容
生として当該大学の教育を受ける)ことが客観的にも高い蓋然性をもって
予測される時点よりも前の時期における解除については、原則として、当
該大学に生ずべき平均的な損害は存しないものというべきであり、学生の
納付した授業料等及び諸会費等は、原則として、その全額が当該大学に生
ずべき平均的な損害を超えるものといわなければならない。
ケ 不返還特約等の消費者契約法10条該当性
前記のとおり、不返還特約のうち平均的な損害を超える部分に限って消
費者契約法9条1号によって無効とされるのであり、前記の不返還特約の
目的、意義に照らすと、同号によって無効とならない部分が、同法10条
にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一
方的に害するもの」に該当しないことは明らかである。
また、入学金の納付の定めは、入学し得る地位を取得するための対価に
関する定めであるから、同条にいう「民法、商法その他の法律の公の秩序
に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消
費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず、同条適用の要件
を欠くものというべきである。
166
【112-2】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 11 月 27 日 最高裁第二小法廷
平 17(受)1437 号・平 17(受)1438 号
民集 60 巻9号 3597 頁
◆入学手続要項等に「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみな
す」、「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」等の記載がある大学の
入学試験の合格者が当該大学との間で在学契約を締結した場合において、当該合
格者が入学式を無断で欠席することは、特段の事情のない限り、黙示の在学契約
の解除の意思表示に当たる。
◆入学手続要項等に「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみな
す」、「入学式を無断欠席した場合には入学を取り消す」等の記載がある大学の
入学試験の合格者と当該大学との間の在学契約における納付済みの授業料等を返
還しない旨の特約は、入学式の日までに明示又は黙示に同契約が解除された場合
には、原則として、当該大学に生ずべき消費者契約法九条一号所定の平均的な損
害は存しないものとして、同号によりすべて無効となる。
【112-3】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 11 月 27 日 最高裁第二小法廷 平 18(受)1130 号
裁判集民 222 号 511 頁
◆大学の入学試験に合格し同大学に授業料等を納付するなどして納付済みの授業
料等の返還を制限する特約の付された在学契約を締結した者が同大学の職員から
入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨告げられたため3月31日ま
でに同契約を解除することなく入学式に欠席することにより同契約を解除した場
合において同大学が同特約が有効である旨主張して授業料の返還を拒むことが許
されないとされた事例
【112-4】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 12 月 22 日 最高裁第二小法廷 平 17(受)1762 号
裁判集民 222 号 721 頁
◆いわゆる鍼灸学校の入学試験に合格し当該鍼灸学校との間で納付済みの授業料
等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した者が入学年度の始まる数
日前に同契約を解除した場合において同特約が消費者契約法9条1号により無効
とされた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の (3) 消費者契約法9条1号・・・(中略)・・・にいう「当該消費者契約と同種
(以下「平
額」の立証責任の の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」
均的な損害」という。
)及びこれを超える部分については、基本的には、本
在り方
件不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張す
る上告人において主張立証責任を負うものと解される(以上につき、前掲
最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決等参照。)。
「平均的な損害の (4)
大学の場合は、大学と在学契約を締結した学生による当該在学契約の
167
論点項目
額」の意義
判示内容
解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害は、学生が当該大学に入学す
ることが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期に
おける解除については、原則として存しないものというべきところ、現在
の大学の入学試験の実情の下においては、原則として、学生が当該大学に
入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点は、入学年
度が始まる4月1日であるから、その前日の3月31日までの解除につい
ては、当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないのであって、学生が当
該大学に納付した授業料等及び諸会費等に係る不返還特約はすべて無効と
いうべきである(前掲最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決等参
照)。
前記のとおり、鍼灸学校等の入学資格を有する者は、原則として大学に
入学することができる者であり、一般に鍼灸学校等の入学試験を受験する
者において、他の鍼灸学校等や大学、専修学校を併願受験することが想定
されていないとはいえず、鍼灸学校等の入学試験に関する実情が、大学の
それと格段に異なるというべき事情までは見いだし難い。また、鍼灸学校
等が、大学の場合と比較して、より早期に入学者を確定しなければならな
い特段の事情があることもうかがわれない。そして、被上告人学校におい
ても、前記のとおり、入学試験に合格しても入学しない者があることを見
込んで、補欠者を定めている上、定員割れが生ずる ことを回避するため、
入学定員を若干上回る数の合格者を決定している。これらの事情に照らす
と、当時被上告人学校の周辺地域に鍼灸学校等が少なかったことや、これ
まで被上告人学校において入学手続後に入学辞退をした者がいなかったこ
となどを考慮しても、大学の場合と同じく、入学すべき年の3月31日ま
では、被上告人学校と在学契約を締結した学生が被上告人学校に入学する
ことが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるような状況にはなく、同
日までの在学契約の解除について被上告人学校に生ずべき平均的な損害は
存しないものというべきである。
【112-5】
裁判例
出 典
要 旨
平成 22 年3月 30 日 最高裁第三小法廷 平 21(受)1232 号
裁判集民 233 号 353 頁
◆専願等を資格要件としない大学の平成18年度の推薦入学試験に合格し、初年
度に納付すべき範囲内の授業料等を納付して、当該大学との間で納付済みの授業
料等は返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した者が、入学年度開始後
である平成18年4月5日に同契約を解除した場合において、学生募集要項に、
一般入学試験の補欠者とされた者につき4月7日までに補欠合格の通知がない場
合は不合格となる旨の記載があり、当該大学では入学年度開始後にも補欠合格者
を決定することがあったなどの事情があっても、上記授業料等は、上記解除に伴
い当該大学に生ずべき平均的な損害を超えるものではなく、上記解除との関係で
は、上記特約は、すべて有効である。
168
【112-6】
裁判例
出 典
要 旨
平成 24 年 12 月 21 日 名古屋地裁 平 23(ワ)5915 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告の設置運営する専門学校で、AO入試等によって入学を許可された場合、
在学契約の解除の時期にかかわらず納入後の学費を一切返還しないとの不返還条
項が定められていることに関し、適格消費者団体である原告が、同条項は消費者
契約法9条1号により無効であるとして、同条項を内容とする意思表示等の差止
めを求めた事案において、AO入試等の合格者が2次募集の最終試験日までに在
学契約を解除した場合、本件専門学校は、解除者の代わりの一定水準を持った入
学者を通常容易に確保でき、いわゆる平成18年最判のいう特段の事情があると
いえ、被告に生ずべき平均的な損害は存しないと認められるから、本件不返還条
項のうち、2次募集の最終試験日までに解除された場合について本件学費を返還
しないとする部分は消費者契約法9条1号に該当し無効であるなどとして、請求
を全部認容した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の イ 在学契約の解除と授業料等の不返還特約の消費者契約法上の効力につ
額」の意義
いて、平成18年11月27日最判は、大学の場合について、おおむね次
のとおり判示している。
大学が合格者を決定するに当たって織り込み済みのものと解される在学
契約の解除、すなわち、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い
蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期における解除については、
原則として、当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないというべきであ
るところ、一般に、大学の入学年度が始まる4月1日には、学生が特定の
大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されることか
ら、在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた
場合には、原則として、大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであ
って、授業料等を返還しない旨の不返還特約は無効となる。もっとも、入
学試験要項の定めにより、その大学、学部を専願あるいは第1志望とする
こと、又は入学することを確約することができることが出願資格とされて
いる推薦入学試験(これに類する入学試験を含む。)に合格して当該大学と
在学契約を締結した学生については、上記出願資格の存在及び内容を理解、
認識した上で、当該入学試験を受験し、在学契約を締結したものであるこ
と、これによって、他の多くの受験者よりも一般に早期に有利な条件で当
該大学に入学できる地位を確保していることに照らすと、学生が在学契約
を締結した時点で当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもっ
て予測されるものというべきである から、当該在学契約が解除された場合
には、その時期が当該大学において当該解除を前提として他の入学試験等
によって代わりの入学者を通常容易に確保することができる時期を経過し
ていないなどの特段の事情がない限り、当該大学には当該解除に伴い初年
度に納付すべき授業料等及び諸会費等に相当する平均的な損害が生ずるも
のというべき である。
(4) a専門学校の各入試区分における本件不返還条項と消費者契約法9
条1号の適用の有無
ア AO入試・・・
(中略)
・・・同専門学校のAO入試に合格して在学契約
169
論点項目
判示内容
を締結した学生については、上記出願資格の存在及び内容を理解、認識し
た上で、AO入試を受験し、在学契約を締結したものであり、これによっ
て、他の多くの受験者よりも早期に有利な条件で同専門学校に入学できる
地位を確保しているということができるから、当該学生が在学契約を締結
した時点で同専門学校に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予
測されるものというべき である。
170
【113】
裁判例
出 典
平成 18 年 10 月 27 日 大阪地裁
「詳解 不動産仲介契約」241 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
本件居室は、本件マンションの 2 階という低層階にある居室であり、し
の在り方
かも、その南側には一戸建建物が間近に存在し、南側バルコニーには目隠
しのためにガーデンラティスが設置されていること、西側バルコニーには
ほぼ全面にわたって目隠し用のパネルが設置されていることからすると、
本件居室は、もともと日照、眺望等が格別良好な物件であったということ
はできない。そして、Y も、本件居室を販売するに当たり、日照、眺望等の
良さを強調していたとは認められない。また、X が[本件販売事務所に来場
した際に]記入したアンケートの内容、X は販売チラシに記載された価格か
ら約 1000 万円も減額された価格で本件居室を購入していること、本件マン
ションが○○駅から徒歩 2 分という、生活利便性及び交通利便性の高い立
地条件にあることなどの事情にかんがみれば、X においても、購入する物件
を選定するに当たり、日照、眺望等が確保されることは通常程度に考慮し
ていたとしても、物件の立地条件や価格、生活、交通の利便性といった事
項と同程度あるいはそれ以上に、日照、眺望等が良好であることを重視し
ていたとまでは認められない 。以上のとおり、本件契約の締結に当たって、
甲または Y に消費者契約法所定の重要事項についての不実告知や不利益事
実の不告知があったとは認めることができず、また、X が甲または Y の説
明により生じた誤認に基づき本件契約を締結するに至ったと認めることも
できない。
情報提供義務の在
Yは、分議マンションの販売等を業とする株式会社であるところ、この
り方
ような 不動産販売業者が不動産売買を行うことの少ない一般消費者を買主
として不動産売買契約を締結する場合には、契約の目的物件の購入に関し
買主に比べてより高度の専門的知識及び情報収集能力を有していることに
かんがみ、信義則上、買主に対し、契約の目的物件の購入に関する判断を
誤らせるととがないよう配慮し、そのために必要な情報を適切に提供すべ
き義務を負うと解するのが相当である。前記認定事実によれば、Y は、X に
対し、本件重要事項説明書等により、本件マンション南側敷地にマンショ
ンの建設計画があることについて説明したと認められ、この点において、Y
に説明義務違反があったと認めることはできない。
【参考】控訴審判決
裁判例
出 典
平成 19 年9月 21 日 大阪高裁
「詳解 不動産仲介契約」241 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
マンションの購入をする消費者にとって、購入予定のマンションに隣接
のあり方
するマンションがどの程度離れた場所に建設されるのかは、通常、購入す
るか否かの判断に重要な影響を及ぼす と考えられる。これからすると、乙
171
論点項目
判示内容
が X に対して行った、南側マンションの敷地は本件マンションの敷地から
約 50m 離れているとする説明は、消費者契約法にいわゆる重要事項に関す
る説明と認めるのが相当 である。
172
【114】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年8月 30 日 東京地裁 平 17(ワ)3018 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告がマンションの一室を購入するに当たり本件建物の眺望・採光・通風とい
った重要事項の良さを告げている一方、当該重要事項に関して本件マンション完
成後すぐにその北側に隣接する所有地に三階建ての建物が建つ計画があることを
知っていたのに被告の担当者が説明しなかったのは不利益事実を故意に告げなか
ったものであるとして、消費者契約法四条二項に基づく売買契約の取消に基づく
売買代金の返還を建物明け渡しによる引換給付とともに請求し認容された事例
論点項目
①勧誘要件の在り
方
②先行行為要件の
要否
③「重要事項」要
件の在り方
判示内容
(1) まず、消費者契約法4条2項に基づいて消費者契約を取り消すに
は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に
対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者
の利益となる旨を告げることが要件となっているところ、前記認定のとお
り、東急リバブルの従業員で本件マンションの販売担当者であったBは、
本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンシ
ョンの北西角の本件建物の窓から洲崎川緑道公園が望める旨を告げて眺望
の良さを強調したほか、原告に配付した本件マンションの「Buon A
ppetito!」
((伊)たっぷり召し上がれ)と題するパンフレット(甲
6)
、図面集(甲15)及びチラシ(甲11)に記載されている本件建物の
採光や通風の良さを強調し、これらのパンフレット、図面集及びチラシに
も本件マンションの眺望・採光・通風の良さが謳われていること、本件建
物の眺望・採光・通風は、本件売買契約の対象物である本件建物の住環境
であること等に徴すると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をす
るに際し、原告に対し、本件建物の眺望・採光・通風といった重要事項に
ついて原告の利益となる旨を告げた というべきである。
(2)ア 次に、消費者契約法4条2項は、事業者が当該重要事項について
①不告知要件の在
当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと
り方
)を故意に告げなかったことを要件と
②故意要件の要否 消費者が通常考えるべきものに限る。
しているところ、前記認定のとおり、被告は、本件売買契約締結当時、D
から本件マンション完成後すぐにその北側に隣接する所有地に旧建物を取
り壊して3階建ての作業所兼居宅を建て替える計画であることを聞かされ
て知っていたのであり、しかもDからも康和地所のCを介してマンション
の2階、3階の購入予定者にはその旨必ず伝えるよう要請されていた にも
かかわらず、本件売買契約締結の際に、重要事項説明書に記載された一般
的な説明はしたが、Dによる旧建物の建替え計画があり、近い将来本件マ
ンション北側隣地に3階建て建物が建築される予定であるとか、本件マン
ションの完成後に建物の建て替えがされる予定であるといった具体的な説
明はしなかった のである。
そうすると、被告は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、
原告に対し、本件マンション完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築
173
論点項目
判示内容
され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通
風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実
ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかった ものと
いうべきである。
不当勧誘行為の効 本件売買契約が取り消されたことにより、被告が法律上の原因なく本件売
果(不当利得返還 買契約に基づく売買代金相当額の利得を得ていることは明らかである。
の範囲)
※引渡しから1年弱の間居住している
174
【115】 ※大学の学納金に関する最高裁判例が出る前の下級審裁判例
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年6月 27 日 東京地裁 平 16(ワ)7327 号
判タ 1251 号 257 頁
◆三月三一日までに大学との間で在学契約を解除した場合には、原告らの入学辞
退によって被告大学らには平均的損害は発生しておらず、学納金不返還の合意は
授業料等の不返還を規定する限りにおいて消費者契約法九条一号によって無効に
なると判断された事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の a 平均的損害の立証責任
額」の立証責任の
消費者契約法9条1号にいう平均的損害とは、同一事業者が締結する多
在り方
数の同種契約事案について、当該契約の性質、解除事由、解除時期、損害
填補の可能性、解除により事業者が出捐を免れた金額等、諸般の事情を考
慮して、類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいうもの
であると解される。そして、このような平均的損害の有無及びその額に関
する主張立証責任については、消費者契約法9条1号は、消費者と事業者
との間で定められた損害賠償の予定ないし違約金の一部ないし全部を無効
とするものであり、消費者に有利な法律効果をもたらす条項であることか
ら、原則として消費者側がその主張立証責任を負うものと解するのが相当
である。ただし、上記のような平均的損害に関する資料は、全て事業者の
手中にあり、消費者においてこれにアクセスすることは事実上困難である
ことからすると、消費者において、事業者の平均的損害について、外形的
事情によりなし得る一応の推計に基づく主張を行った場合は、事業者の側
に相応の資料や根拠に基づいて平均的損害が違約金等の額に及ぶことを反
証する必要があり、これを怠る場合には、平均的損害額は消費者の主張す
る額であると推認するのが相当である。
175
【116】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 6 月 12 日 最高裁第一小法廷 平 16(受)1219 号
裁判集民 220 号 403 頁
◆顧客に対し、融資を受けて顧客所有地に容積率の上限に近い建物を建築した後
にその敷地の一部を売却して返済資金を調達する計画を提案した建築会社の担当
者に、建築基準法にかかわる問題についての説明義務違反があるとされた事例
◆顧客に対し、建築会社の担当者と共に前記計画を説明した銀行の担当者には建
築基準法にかかわる問題についての説明義務違反等がないとした原審の判断に違
法があるとされた事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在
(1) 前記事実関係によれば、上告人は、本件各担当者の説明により、本
り方(法的性質、 件貸付けの返済計画が実現可能であると考え、被上告人積水ハウスとの間
同 義 務 違 反 の 効 で本件建物の設計契約及び建築請負契約を締結し、被上告銀行から本件貸
果)
付けを受け、本件建物が建築されたところ、本件北側土地の売却により、
本件建物は、その余の敷地部分のみでは容積率の制限を超える違法な建築
物となるのであるから、上告人としては、十分な広さの隣接土地を本件建
物の敷地として確保しない限り、本件北側土地を売却してはならないこと
となり、また、本件北側土地を売却する場合には、買主がこれを敷地とし
て建物を建築する際、敷地の二重使用となって建築確認を直ちには受けら
れない可能性があったのであるから、信義則上敷地の二重使用の問題を買
主に明らかにして売却する義務がある以上、本件建物がない場合に比べて
売却価格が大きく低下せざるを得ないことは明らかである。したがって、
本件建物を建築した後に本件北側土地を予定どおり売却することは、もと
もと困難であったというべきである。
本件計画には、上記のような問題があり、このことは、上告人が被上告
人積水ハウスとの間で上記各契約を締結し、被上告銀行との間で本件貸付
けに係る消費貸借契約を締結するに当たり、極めて重要な考慮要素となる
ものである。
したがって、積水ハウス担当者には、本件計画を提案するに際し、上告
人に対して本件敷地問題とこれによる本件北側土地の価格低下を説明すべ
き信義則上の義務があったというべき である。しかるに、積水ハウス担当
者は、本件敷地問題を認識していたにもかかわらず、売却後の本件北側土
地に建物が建築される際、建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建
物の建築に支障はないなどとして、本件敷地問題について建築基準法の趣
旨に反する判断をし、上告人に対し、本件敷地問題について何ら説明する
ことなく、本件計画を上告人に提案したというのであるから、積水ハウス
担当者の行為は、上記説明義務に違反することが明らかであり、被上告人
積水ハウスは、上告人に対し、上記説明義務違反によって上告人に生じた
損害について賠償すべき責任を負うというべき である。これと異なる原審
の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
この点に関する論旨は、理由がある。
176
【117】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 4 月 24 日 東京地裁 平 16(ワ)24027 号
判タ 1207 号 109 頁
◆被告の年金制度が破綻して年金支給が困難になる具体的可能性が生じているに
もかかわらず、被告酒税共済組合の私的年金受給権を有する原告にその説明義務
を尽くさなかったため同人に一時金としての年金一括受給と月額当たりの年金分
割支給の選択の情報がないままに月額による分割受給を選択して損害を被らせた
として年金契約上の付随的義務に違反する債務不履行による損害賠償が命じられ
た事例
◆原告が被告に対してした一般的・抽象的説明義務(すなわち本件年金制度を設
計、運営、加入募集してきた者として、制度への加入あるいは年金の受給方法の
選択に先立って制度の一般的な破綻の可能性、これにより原告が被る年金不受
給、支給金の元本割れ等の不利益について説明した上で年金の一括か分割かの受
給選択を行わせるべき契約上の、あるいは不法行為法上の信義則に基づくもの)
及び信義則上の掛け金元本返還請求権(すなわち契約締結時に支給金の元本割れ
の不利益について説明が行われ加入者がこれを了解した旨の特段の合意がない限
り、信義則上元本の支払いが保証された契約とみる)の主張についてはいずれも
合理的な根拠がないものとして排斥した事例
論点項目
情報提供義務の在
り方(法的性質、
同義務違反の効
果)
判示内容
1 本件制度は以上のような私的年金制度であるから、一般的な破綻の可能
性自体は否定できないものである(そもそも、公的年金制度であっても、
そのような危険性自体は含んでいる)。また、原告が関連の判例を援用する
投資信託取引のように営利を目的とし、手数料を徴収するような制度では
ないことはもちろんである。
2 したがって、これを運営する被告につき、原告のいうところの一般的・
抽象的説明義務、すなわち、本件制度を設計、運営、加入募集してきた者
として、本件制度への加入あるいは年金の受給方法の選択に先立って、本
件制度の一般的な破綻の可能性、これにより原告らが被る年金不支給、支
給金の元本割れ等の不利益について説明した上で前記の点についての決
定、選択を行わせるべき契約上の、あるいは不法行為法上の信義則に基づ
く、説明義務を被告に負わせることは、その合理的な根拠を欠き、困難で
あると言わざるをえない 。
3 さらに、本件各契約のような私的年金契約について、一般的に、原
告のいうところの信義則上の掛金元本返還請求権、すなわち 、契約締結時
に支給金の元本割れ等の不利益について説明が行われ加入者がこれを了解
した旨の特段の合意がない限り、信義則上元本の支払(積み立ててきた掛
金の元本額と年金として受領した金額との差額、すなわち掛金元本のうち
未返還の金額の返還)が保証された契約とみるべき特段の根拠があるとみ
ることも、同様に、困難であると言わざるをえない(なお、後記四 1 の(九)
の末尾の段落に認定の事実のみから被告について右のような信義則上の掛
金元本返還請求権を肯定することも困難である)
。
以上のとおり、原告のいうところの、一般的・抽象的説明義務、信義則
上の掛金元本返還請求権の主張はいずれも採ることができない。
177
論点項目
判示内容
4 しかしながら、原告のいうところの、被告の具体的説明義務、すなわ
ち、本件制度を設計、運営、加入募集してきた者として、本件 1 選択に先
立って、本件制度が破綻するなどして原告に対する年金支給が困難になる
具体的な可能性が生じており、かつ、被告がこれを予見し又は予見するこ
とができた場合には、破綻の可能性、これにより原告が被る年金不支給、
支給金の元本割れ等の不利益について説明した上で右選択を行わせるべき
契約上の説明義務について言えば、右のような可能性(制度破綻の可能性)
が生じており、かつ、被告がこれを予見し又は予見することができた時点
において加入者に対し年金支給の方法を選択させるに際しては、前記のよ
うな可能性それ自体について説明し、あるいは少なくともその可能性を加
入者に認識させるに足りるような本件年金財政に関する重要な情報を示す
とともに右情報に関する適切な説明を行った上で選択を行わせるべき、年
金契約であるところの第 1 契約上の付随的義務が被告にあると考えるべき
であり、被告がこれを怠った場合には、被告は、原告に対し債務不履行責
任を負うものと解される。
本件 1 選択のような重要な選択に関して制度破綻の可能性が既に生じ
ているにもかかわらず加入者がこれを認識しないまま選択を行うならば極
めて重大な不利益を被る可能性がある一方、被告にとっては、前記のよう
な可能性の説明や本件年金財政に関する重要な情報を示しての説明を行う
ことは困難なことではなく、加入者の老後の生活設計に密接に関わる契約
である年金契約上の付随的義務としてのこのような義務を制度設営者であ
る被告に課することによって被告に過大な負担を負わせることにはならな
いと考えられるからである。
178
【118】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 4 月 14 日 松山地裁西条支部 平18(モ)25号
ウエストロー・ジャパン
◆相手方から過払金返還請求訴訟を提起された申立人が、金銭消費貸借契約に基
づく専属的合意管轄の合意、または、当事者間の衡平、訴訟経済を理由に、松山
簡裁への移送を申し立てた事案において、本件過払金返還請求訴訟は金銭消費貸
借契約に基づく返還請求とは訴訟物が全く異なること、当事者間の理解度及び経
済力の格差が著しいことなどの諸事実からすると、本件過払金返還請求訴訟には
本件契約に基づく専属的合意管轄は生じていないと解すべきであり、また、本件
過払金返還請求訴訟は電話会議での審理が可能であり、そもそもの原因が申立人
の利息制限法違反にあることなどの事実によれば、当事者間の衡平、訴訟経済を
理由とする移送には理由がないとして、本件申立てを却下した事例
論点項目
判示内容
不当条項リストの ※前提:金銭消費貸借契約証書並びに貸付及び保証契約説明書には、いず
追加の要否・在り
れも「訴訟行為については、松山簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判
方(専属的裁判管
所とします。
」と定型の文言が記載されている。
轄合意規定)
上記記載の文言は、単に「訴訟行為」としか記載しておらず、文言上全
ての訴訟行為が対象となる余地があるところ、上記書面が貸付の際に作成
されたことから、一般消費者である相手方は、当該貸付金の返還訴訟を対
象とすると理解していたものと考えるのが合理的で、将来発生する可能性
のあるその他の訴訟一切を含めて考えていたとは認め難い 。例えば、相手
方が申立人による取引履歴不開示等の不法行為により被害を受けたような
場合の慰謝料請求訴訟等で、被害者となる相手方が加害者に便利な裁判所
でのみ訴訟を行うことまで許容していたというのは不合理である。
そして、本件基本事件は、不当利得返還請求権に基づく過払金返還訴訟
であり、上記金銭消費貸借契約に関連するとはいえるものの、①金銭消費
貸借契約に基づく返還請求とは、訴訟物が全く異なること、②一般消費者
で、法律の素人である相手方が、上記各書面に署名する際、申立人が利息
制限法に違反して貸し付けていることや、将来過払金返還請求を行う余地
があることなど理解していたとはいえないこと、③相手方が本件基本事件
の訴訟を提起せざるを得なくなったのは、そもそも、申立人が強行法規で
ある利息制限法に違反していたということが原因であり、上記のような訴
訟についてまで、相手方が自ら交通費等を負担して申立人に便利な裁判所
で訴訟を行うことを許容していたとも考えられないことから、上記「訴訟
行為」に本件基本事件についての合意も含まれると解することは、契約当
事者の合理的意思解釈に反する 。
・・・(中略)
・・・
以上に加え、①上記各書面は、申立人側の利益を考慮して申立人が定型
文書で作成しているもので、相手方がそのまま署名しなければ借入自体が
できなかったと考えられること、②申立人は、全国的に貸金業を展開する
企業で、法律及び訴訟の理解度や経済力の点で相手方とは比較にならない
179
論点項目
判示内容
程優位に立っていること、③専属的合意管轄が、他の裁判所での利用を全
て排除するという重要な効果が生じることから、申立人に有利となる専属
的合意管轄の合意内容についても、限定的に解釈するのが相当 である。
以上の点を総合して考慮すると、上記各書面の専属的合意管轄の記載に
ついては、相手方は、少なくとも本件基本事件のような過払金返還訴訟を
含める意思はなかったと認めるのが相当で、本件基本事件に関して、上記
各書面記載の専属的合意管轄は生じていないものと認められる。
①10 条の前段要
なお、仮に本件基本事件も含めて専属的合意管轄の合意をしたとすれば、
前述の指摘の事情から、消費者である相手方の利益を一方的に害すること
件の在り方
②10 条の後段要 になるため、
上記合意は消費者契約法10条によって無効 となるといえる。
件の在り方
※「前述の指摘の事情」合理的意思解釈に反する+①~③と思われる
180
【119】
裁判例
出 典
平成 18 年3月 22 日 小林簡裁 平 17(ハ)247 号
消費者法ニュース 69 号 188 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
本件において A は、ウェーブ社員から本件工事契約及び本件ローン契約
の在り方
の勧誘をされるに際して、住宅の耐震・大風に有効であるという事実を告
げられ、本件工事契約及び本件ローン契約を締結している。しかし、前記
1の認定事実及び証拠(甲一二)によれば、本件工事は住宅の耐震や揺れ防
止に有効ではなく不要な工事であることが認められる。本件ローン契約に
おける契約の目的とは、立替金及び手数料合計一八九万三四五〇円を七二
回に分割して支払うことであるが、その用途は、耐震工事である本件工事
代金の立替支払いであることは明らかである。したがって、立替金及び手
数料 合計一八九万三四五〇円の七二回分割支払 が耐震工事である本件工
事代金の立替支払いに充てられるという事項について A に不利益となる事
実を故意に告げなかったか否かが問題 となる。確かに、一八九万三四五〇
円の七二回分割支払という事項そのものについては、将来分割額が変動に
なるなどといった不利益事実があるわけではないが、契約の目的物である
一八九万三四五〇円の分割払いの用途(原因)である本件工事そのものが、
耐震や揺れ防止工事としては有効でない工事であるということは、A にと
ってまさに不利益な事実にほかならない 。
先行行為要件の要
言及なし
否
故意要件の要否
このような事実についても消費者契約法四条二項所定の不利益事実と考
えなければ、被告のように加盟店を通じて加盟店の販売契約等と一体をな
すものとして立替払契約の勧誘をして利益を上げる業態において消費者契
約法によって消費者を保護する趣旨を貫くことができないからである。本
件ローン契約の場合、事業者とは被告であるが、被告は契約の勧誘に際し
ては、ウェーブ社員を通じて行動 しており、ウェーブ社員は、本件工事が
耐震や揺れ防止工事としては有効でない工事であることは当然知っていた
と推認するべき であり、結局、被告は、A にとって本件ローン契約の重要
事項である立替金及び手数料合計一八九万三四五〇円の七二回分割支払が
耐震や揺れ防止工事としては有効でない本件工事代金の立替払いに使用さ
れるという不利益事実を告げないで本件ローン契約を締結したことにな
る。これによれば、A の消費者としての地位を承継した原告が本件ローン契
約を取り消すことができることは明らかであり、本件訴状送達により、原
告はこれを取り消したことが認められる。
181
【120】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年 3 月 10 日 右京簡裁 平17(ハ)212号
ウエストロー・ジャパン
◆中古車販売業者である原告が、被告から買い受けた普通乗用自動車は接合車で
あるから、本件売買契約の契約解除条項又は民法570条に基づき、本件契約を
解除すると主張して、個人である被告に対し、売買代金の返還を求めた事案にお
いて、本件条項は解除の行使につき過失の有無を問わず、また、解除行使期間の
定めもないため、本件契約の解除に当たって適用される民法の規定よりも消費者
である売主の義務を加重し信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものと
認められるから、消費者契約法10条により無効であり、また、原告の査定担当
者が査定した上で本件契約を締結したなどの本件事情の下では、原告は本件自動
車が接合車であることを知らなかったことにつき過失があるから、民法570条
の適用もないとして、請求を棄却した事例
論点項目
①10 条の前段要
件の在り方
②10 条の後段要
件の在り方
判示内容
本件契約を解除するに当たって適用される民法の規定によれば、・・・(中
略)
・・・買主において瑕疵の存在を知らないことについて過失がある場合
には契約を解除することはできないし、隠れた瑕疵の存在を理由とする解
除権の行使も、瑕疵の存在を発見したときから1年以内に限られる。
ところが、本件約定では、原告において重大な瑕疵(盗難車、接合車、車
台番号改ざん車等)の存在を知らなかったことについて過失がある場合に
も契約を解除することができ、しかも解除権の行使期間に関する定めはな
いから、解除権行使による原状回復請求権の消滅時効(その時効期間は1
0年と解される)が完成するまでは解除することができることになるので
あって、これは消費者である売主の義務(瑕疵担保責任)を加重する条項
であり、民法1条2項の信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に
害するものであると認められる 。
したがって、本件約定は消費者契約法10条により無効であるというべ
きである。
182
【121】
裁判例
出 典
要 旨
平成 18 年2月2日 福岡地裁 平 17(ワ)121 号
ウエストロー・ジャパン
◆全戸オーシャンビューとして購入したマンションが電柱及び送電線によって眺
望が阻害されている場合、売主にマンションの眺望等に関する説明義務の違反が
あるとし、買主の売買契約の解除と損害賠償請求が認められた事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
前記争いのない事実等及び証拠(甲 6、10、乙 6、8、17 の 3 ないし 6、
の在り方
証人丙山、被告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。
「海のそばっていいな」という言葉
(1) 本件マンションのテレビ CM では、
が流れ、販売用パンフレットには、
「全戸オーシャンビューのリビングが自
慢です。
」と記載され、パース(完成予想図)では、
「実際とは異なる」旨の
注意書きがあったものの、海側には電柱その他のなんらの障害物も記載さ
れておらず、海が近いこと、海が見えることが本件マンションのセールス
ポイントの一つであった 。
(2) 被告は、平成 15 年 7 月ころ、結婚を控えて新居を探していたところ、
夫婦の各職場の中間地点であったことや 海が見えるということが気に入っ
て、2 回本件マンションのモデルルーム(本件マンションの敷地とは別の所
にあった。
)を訪れ、3 回目に訪れた同年 8 月 3 日、応対した丙山三郎(以
下「丙山」という。
)に対し、同一規格の 301 号室(3 階、2640 万円)と 501
号室(5 階、2760 万円)について、ベランダからの眺望に違いがあるか尋
ねたところ、丙山は眺望に違いはないと答えたことなどから、301 号室につ
いて本件売買契約を締結した。(・・・(略)・・・
。
)被告は、モデルルームを訪れるときに敷地の西側道路を車で通ったが、
道路端の本件電柱の存在に気を止めたことはなかった。丙山も、301 号室と
本件電柱の位置関係については認識していなかった。被告は、同日、宅地
建物取引主任者丁川四郎から重要事項説明を受けたが、本件電柱の存在に
ついては何も説明はなかった。
不実要件の在り方
5 消費者契約法による取消しについて
消費者契約法 4 条 1 項 1 号は、事業者が、重要事項について「事実と異
なること」を告げたことにより、消費者が当該告げられた内容が事実であ
ると誤認して契約の申込みをしたときは、これを取り消すことができると
規定している。ここにいう 「事実と異なること」とは、主観的な評価を含
まない客観的な事実と異なることをいうと解すべきところ、301 号室と 501
号室の眺望が同一かどうかということは、主観的な評価を含むものである
から、これは上記「事実」に該当しないと言うべき である。
故意要件の要否
同条 2 項は、事業者が、重要事項について、不利益事実を故意に告げな
かったことにより、消費者が当該事実が存在しないと誤認して契約の申込
みをしたときは、これを取り消すことができると規定している。ここでは
「故意」が要求されているところ、本件においては、上記認定のとおり、
丙山は本件電柱の存在を知らなかったのであるから、その事実を「故意に」
告げなかったということはできない 。
情報提供義務の在
建築前にマンションを販売する場合においては、購入希望者は現物を見
183
論点項目
判示内容
り方(法的性質、 ることができないのであるから、売主は、購入希望者に対し、販売物件に
同 義 務 違 反 の 効 関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務
果)
があり、とりわけ、居室からの眺望をセールスポイントとしているマンシ
ョンにおいては、眺望に関係する情報は重要な事項ということができるか
ら、可能な限り正確な情報を提供して説明する義務がある というべきであ
る。そして、この説明義務が履行されなかった場合に、説明義務が履行さ
れていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるとき
には、買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を
解除することができると解すべき である。
これを本件についてみると、原告は、本件マンションの販売の際、海側
の眺望をセールスポイントとして販売活動をしており、被告もこの点が気
に入って 5 階と眺望の差異がないことを確認して 301 号室の購入を検討し
ていたのであるから、原告は、被告に対し、眺望に関し、可能な限り正確
な情報を提供して説明すべき義務があったというべきである。そして、上
記認定の事実(前記争いのない事実等(5))によれば、301 号室にとって、
本件電柱及び送電線による眺望の阻害は小さくないのであるから、原告は、
本件電柱及び送電線が 301 号室の眺望に影響を与えることを具体的に説明
すべき義務があったというべきであり、原告がこの説明義務を怠ったのは
売主の債務不履行に当たるというべきである。
そして、本件電柱及び送電線による眺望阻害の程度、被告は眺望を重視
し、301 号室と 501 号室のいずれかにするか決定する際、丙山から眺望に
は変わりがないとの説明を受けたので 301 号室に決めたものであることな
どからすると、原告が上記説明義務を履行していれば、被告は 501 号室を
購入して 301 号室を購入しなかったことが認められるから、被告は本件売
買契約を解除することができるというべきである。
184
【122】
裁判例
出 典
平成 18 年1月 31 日 東京高裁 平 17(ネ)4640 号
消費者法ニュース 68 号 301 頁(要旨)
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
営業マンが勧誘にあたり、現実には教育役務を伴わない単なる学習教材
の在り方
の販売であるにもかかわらず、
「電話やファックスで質問すれば回答する」
旨を述べたこと、被控訴人が、本件以前に利用していた他社の学習教材は、
改訂作業が加えられていたにもかかわらず、営業マンは「内容が長らく改
訂されていない」と述べたこと、代表者本人は中途解約はほとんどのケー
スで受け付けられていないことを認識していたにもかかわらず、営業マン
に、「容易に中途解約して解約返戻金を受領できる」と説明させていたこ
と等である。
かかる認定に基づき、判決は、教育役務及び資金調達という契約の重要
事項に関して、事実と異なることを告げたとして、消費者契約法 4 条 1 項
1 号に基づく取消しを認めた。
185
【123】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 11 月 29 日 東京簡裁 平17(少コ)2807号
ウエストロー・ジャパン
◆原告とA社との間で締結した本件居室の賃貸借契約に関して、被告は本件居室
の所有権を取得してA社の賃貸人の地位を承継したとして、原告が被告に対して
敷金の支払を請求し(本訴)、これに対して、原告とA社間の契約においては、
原告が本件居室内の汚損等による損害を賠償する義務を負うことが約され、また
原被告間には、原状回復に関する費用負担の合意があるから、これらの合意に基
づいて原告が負担することになった原状回復費用を敷金から控除すると原告に返
還すべき敷金はないとして、被告が原告に対して原状回復費用残額の支払を請求
した(反訴)事案において、原告とA社間の契約の自然損耗等についての原状回
復費用に関する部分は、消費者契約法10条に該当し無効であり、また、原被告
間に費用負担の合意はなく、さらに原告の故意又は過失による毀損、あるいは通
常使用を超える使用方法による損傷は認められず、原告の負担すべき原状回復費
用を認めることができないとして、反訴請求を棄却し、本訴請求を認容した事例
論点項目
①10 条の前段要
件の在り方
②10 条の後段要
件の在り方
判示内容
賃貸借契約書(甲2)第5条には、
「敷金は本契約が終了し借主が明渡し後、
本契約に基づく一切の債務、電気・水道・ガス等の未払金及び損害金を差
引き、借主にその差額を返還するものとし、損害金の中には、(1)畳・襖・
壁、床、天井・ガラス・ドア(室内外)
・その他の汚損、破損。(2)換気扇・
ガス台・流し台・浴室・浴槽・風呂釜・湯沸し器・トイレ、網戸、エアコン
等の汚損・破損、この回復に費用を要する時。
」などと合意され、また、第
6条には、借主の修理費負担部分の合意がされ、さらに、第11条には、
「明渡しの時は、原状に復するものとし、又、借主は故意及び過失を問わ
ず、本物件に損害を与えた場合は直ちに原状に復し、損害賠償の責に任ず
るものとする。
」と合意されているが、これらの趣旨は、借主が賃借開始当
時の原状に回復すべきこと、つまり自然損耗等についての原状回復費用も
負担することを定めたものといえる 。しかし、貸主において使用の対価で
ある賃料を受領しながら、賃貸期間中の自然損耗等の原状回復費用を借主
に負担させることは、借主に二重の負担を強いることになり、貸主に不当
な利得を生じさせる一方、借主には不利益であり、信義則に反する 。そし
て、上記第5条の合意は、原状回復の内容をどのように想定し、費用をど
のように見積もるのか、とりわけ、自然損耗等に係る原状回復についてど
のように想定し、費用をどのように見積もるのか、借主に適切な情報が提
供されておらず、貸主が汚損、破損、あるいは回復費用を要すると判断し
た場合には、借主に関与の余地なく原状回復費用が発生する態様となって
いる。このように、借主に必要な情報が与えられず、自己に不利益である
ことが認識できないままされた合意は、借主に一方的に不利益であり、こ
の意味でも信義則に反する といえる。そうすると、自然損耗等についての
原状回復義務を借主が負担するとの合意部分は、民法の任意規定の適用に
よる場合に比べ、借主の義務を加重し、信義則に反して借主の利益を一方
的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である。
186
【124】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 11 月8日 東京地裁 平 17(レ)253 号
ウエストロー・ジャパン
◆パチンコ攻略情報の売買契約に際して売主から「一〇〇パーセント絶対に勝て
る」等の勧誘を受けた買主がした消費者契約法四条一項二号所定の「断定的判断
の提供」を理由とする当該売買契約の取消しについて、契約の取消しを認め、代
金の返還請求が認容された事例
論点項目
判示内容
「将来における変 2 断定的判断の提供による誤信
動 が 不 確 実 な 事 (1) 本件第 1 契約及び本件第 2 契約(あわせて「本件契約」という。)は、
項」要件の在り方 いずれも被控訴人が控訴人に対し、常に多くの出球を獲得することができ
るパチンコの打ち方の手順等の情報を提供し、控訴人に経済的な利益を得
させることを目的とする契約であるところ、一般的に、パチンコは、各個
別のパチンコ台の釘の配置や角度、遊技者の玉の打ち方や遊戯する時間、
パチンコ台に組み込まれ電磁的に管理されている回転式の絵柄の組合せな
どの複合的な要因により、出球の数が様々に変動する遊技機であり、遊技
者がどれくらいの出球を獲得するかは、前記のような複合的な要因による
偶然性の高いものである。したがって、本件契約において、被控訴人が控
訴人に提供すると約した情報は、将来における変動が不確実な事項に関す
るものといえる。
勧誘要件の要否・ (2) 前記第 3、1(2)のとおり、本件広告には、
「1 本の電話がきっかけで勝
在り方
ち組 100%確定」などの記載があり、また、同広告の「T の一言」という欄
の記載など、広告の読者において、被控訴人が一般には知られていない特
別なパチンコ攻略の情報を有しており、読者がそれに従えば確実に利益を
生み出すことができると思わせる内容になっていた。また、同(3)のとおり、
丙川は本件広告に関心を持ち、その内容の真偽を問い合わせてきた控訴人
に対し、
「だれにでもできる簡単な手順、70 歳のおばあちゃんでもできるほ
ど簡単なもの」
「毎回 3000 円から 5000 円で大当たりが引ける。」
「100 パー
セント絶対に勝てるし、稼げる。月収 100 万円以上も夢ではない。目指せ
年収 1000 万円プレーヤー」「お店 1 店につき滞在時間は約 2 時間で、平均
5 万円から 8 万円勝てる。」「パチンコ攻略情報代金は数日あれば全額回収
できる。
」などと将来の出球による利益が確実であるという趣旨の言葉を用
いた。さらに、前記同(3)のとおり、丙川は、控訴人に対し、手順の内容の
秘密が一般に広まることのないよう、情報はすべて口頭で伝えるなどと述
べて、あたかも被控訴人が提供する情報が一般には知られていない特別な
ものであり、それによって控訴人が将来、利益を確実に獲得できるかのご
とき印象を与えた。以上を総合すると、本件広告における前記表現及び丙
川の控訴人に対する前記の勧誘は、本来予測することができない被控訴人
がパチンコで獲得する出球の数について断定的判断を提供するものといえ
る。
187
【125】
裁判例
出 典
平成 17 年 10 月 18 日 佐世保簡裁
消費者法ニュース 68 号 61 頁(要旨のみ)
論点項目
適正な行使期間
判示内容
契約から約 11 ヶ月後に取消の意思表示をした点について、誤認に気づいた
のが8ヶ月後であったとして、信販会社の時効主張を排斥した。
188
【126】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 9 月 16 日 東京地裁 平17(ワ)3715号
ウエストロー・ジャパン
◆統合失調症に罹患している原告に外国為替証拠金取引のような複雑でハイリス
ク・ハイリターンの取引を勧誘し投資させた被告会社の社員には適合性原則に反
する不法行為が成立すると判断して、使用者である被告会社及び商法二六六条の
三により同社の役員にも責任があるとして、原告の損害賠償請求をいずれも認容
した事例
論点項目
判示内容
不当勧誘に関する 原告は、昭和38年ころより幻聴・被害妄想などが出現し、30歳ころに
一般規定(適合性 これらの症状が増悪し1年ほど入院加療し、退院後1年ほどは通院治療し
原則)
た後は未治療であったこと、その後両親の援助を得つつ定年まで勤務して
いたものの、平成12年に父が病死し、平成14年5月に母親が脳梗塞の
ために施設に入所した後は、自宅で一人暮らしをせざるを得なくなり、援
助してくれた両親がいなくなったため、入浴・更衣などはほとんど行わず、
家の中も荒れ放題となり(この点については原告後見人が平成16年5月
以降原告方を訪れた際目撃している。)、食事・睡眠のリズムなども乱れて
きたこと、また、このころから、家のリフォームや不必要な高額の電気機
器、羽布団の購入などの奇異な行動が発現したこと、平成17年2月ころ
に原告後見人が原告方を訪れると、家の中は荒れ放題で、原告は入浴・着
替えはしておらず、排便処理もできていなかったことが認められる。
そして、被告Y2において原告方を訪れて外国為替証拠金取引の勧誘を
行った 平成16年10月当時には、家が荒れ放題になるなど、既に統合失
調症の外部的発現が生じていた ものであり、会話をしていく中で、具体的
な病名はともかくとして、原告が外国為替証拠金取引のような複雑でハイ
リスク・ハイリターンの取引の意義、危険性を理解する能力がない状況に
あることは十分認識していたはず である(乙A4、5の反訳文〔平成16
年11月11日から15日までの営業日における原告と被告Y3の電話で
の会話〕からみても、甲45の鑑定書にいう「少し複雑な内容の話になる
と、こちらが問いかけた内容から徐々に脱線していき、迂遠・冗長な話を
続け、問いとは全く無関係な話題へと飛躍してしまう。」傾向が認められ
る。)。約諾書・口座開設申込書(甲2の中にその控えがある)には、受託
制限対象者(成年被後見人、精神障害者等が列挙されている)に該当する
かどうかについて、
「該当しない」の欄にチェックがされているが、この点
について自己申告がなかったからといって、上記の認定を左右するもので
はない。
(2) 加えて、原告の年齢(当時68歳)、年金生活者であること、金
融資産が1000万円の定期預金しかないこと は、約諾書・口座開設申込
書自体から明らかである。
(3) そうすると、被告Y2において、原告に外国為替証拠金取引を勧
誘し、預金の全額である1000万円を投資させたこと自体、適合性原則
に反する不法行為であるといわざるを得ず、被告会社もこれについて使用
者責任を負う。
※全額認容
189
【127】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年9月9日 東京地裁 平 17(レ)67 号
判時 1948 号 96 頁
◆結婚式場利用契約に付された予約取消料条項が、挙式予定日の一年以上前にさ
れた予約取消しに関する限度で、消費者契約法九条一号により無効であるとし、
申込金の返還請求が認められた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
上記(1)に認定した事実によると、挙式予定日の1年以上前から被控訴人
店舗での挙式等を予定する者は予約全体の2割にも満たないのであるか
額」の意義
ら、被控訴人においても、予約日から1年以上先の日に挙式等が行われる
ことによって利益が見込まれることは、確率としては相当少ない のであっ
て、その意味で通常は予定し難いことといわざるを得ないし、仮 にこの時
点で予約が解除されたとしても、その後1年以上の間に新たな予約が入る
ことも十分期待し得る時期にある ことも考え合わせると、その後新たな予
約が入らないことにより、被控訴人が結果的に当初の予定どおりに挙式等
が行われたならば得られたであろう利益を喪失する可能性が絶無ではない
としても、そのような事態はこの時期に平均的なものとして想定し得るも
のとは認め難い から、当該利益の喪失は法9条1号にいう平均的な損害に
当たるとは認められない。
また、本件全証拠によっても、被控訴人が、本件予約の後に、その履行
に備えて何らかの出捐をしたり、本件予約が存在するために他からの予約
を受け付けなかったなどの事情は見当たらず、他に本件予約の解除によっ
て被控訴人に何らかの損害が生じたと認めることはできない。
(3) したがって、本件においては平均的な損害として具体的な金額を
見積もることはできず 、本件取消料条項は、本件予約の解除に対する関係
において、法9条1号により無効である。
190
【128】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年8月 25 日 東京地裁 平 15(ワ)21672 号
ウエストロー・ジャパン
◆土地売買契約と建物建築請負契約につき、原告らが請負契約代金についてもロ
ーン審査が通らない場合には土地売買契約をも解除できると誤信していたのは、
被告から媒介の委託を受けた被告補助参加人において重要事項について事実と異
なることを説明したことに原因があるとして、消費者契約法に基づく契約取消が
認められた事例
論点項目
判示内容
第三者による不当
証人Aは、被告補助参加人は、原告ら及び被告の双方から、土地売買契
勧誘行為規制の在 約及び建物建築請負契約の双方につき、媒介の委託を受けていた旨証言し
り方
ているところ、本件売買契約書である甲5はそもそも被告補助参加人名が
表紙に印刷された契約書式によるものであること、同契約書の末尾には売
主である被告の記名押印、買主である原告X2の署名押印があるところ、
それに続けて宅地建物取引業者という標記の下に被告補助参加人の記名押
印があること、重要事項説明書(乙1)には媒介者として被告補助参加人
の商号が記載され、かつ、代表者印が押なつされていること、そして、被
告補助参加人は平成15年5月ころ原告らが飛び込みで事務所を訪れて以
来、一貫して本件物件を被告から原告らのいずれかに買い取らせて、その
地上に被告を請負人、本件物件買受人を注文者とする建物建築請負契約を
成立されるべく奔走していたものであって、被告補助参加人が、被告との
間で本件物件の売却に関し全く打合せ等をしないままここまで奔走するこ
とは考えにくいことに照らせば、被告補助参加人は被告から本件売買契約
及び本件請負契約の相手方を探すよう依頼を受けていたものと認定するの
が相当 である。
したがって、被告補助参加人は、消費者契約法5条1項の「委託を受け
た第三者」にあたると認められ、よって、争点(2)における(原告の主張)
にかかる事実を認めることができる。
告知要件の在り方 3 争点(3)について
(1) 争点(1)において認定したとおり、被告代表者は、本件売買契約書に
記載された条項どおり、本件請負契約代金額について融資の承認が得られ
なかったことは本件ローン条項による解除の要件を満たさないという認識
であったのに対し、原告らは逆の認識を有していたといえる。
(2) そもそもそのような認識のそごが生じた原因について検討すると、乙
5及び被告代表者本人尋問の結果から、A及びBが平成15年6月7日及
び同月19日に被告事務所に赴いたものの、被告代表者に対し融資の承認
が得られなかった具体的経緯等について要領を得ない説明を繰り返し、そ
れは被告代表者の納得をえられるようなものでなかったとの事実が認めら
れることに照らすと、A及びBは、本件売買契約書に記載された本件ロー
ン条項の内容を誤解し、本件売買契約代金のみならず本件請負契約代金に
ついても融資の承認が得られなければ手付金は被告から返還されるものと
思い込んで、その旨原告らに説明してしまったことがその原因であると推
認される のであり、Aらは、原告らが城南信金新橋支店から融資の承認が
191
論点項目
判示内容
得られない状況に至ってようやく誤解に気付き、その責任の所在を原告ら
及び被告代表者に対し明確に説明しないままに、被告代表者に対して手付
金返還に応じるよう説得を試みたが、被告代表者が、Aらの要領を得ない
説明に納得できず、これを受け入れなかったため、それが結果的に、原告
らによる甲事件提起につながったものと考えられるのであって、被告補助
参加人が、原告らが契約締結の翌日に突然翻意したという特異な内容を含
む主張をし(しかも原告らの側がそのような行動をとるに至った動機とな
る事情が証拠上見当たらないことは、前記のとおりである。)、そして、証
人Aも前述のとおり不可解な内容の供述をしていることもまた、かえって
被告補助参加人の言動が、契約当事者間における認識のそごをもたらした
原因であることを、うかがわせるものといえる。
(3) そうすると、原告らは、被告補助参加人から、本件ローン条項の適用
条件について事実と異なる説明を受けたものと判断される のであり、争点
(3)における(原告の主張)にかかる事実は、これを認めることができる。
その結果、消費者契約法4条1項1号、5条1項に基づき、原告X2は本
件売買契約について、原告X1は本件請負契約について、それぞれ解除権
(原文ママ)を取得したことになる。
4 争点(4)について
適正な行使期間
※取消権の行使期 (1) 争点(1)において認定したとおり、被告代表者が、平成15年5月2
7日、原告X1の居合わせた被告事務所において、Bに対し、ローンは大
間の起算点
丈夫かどうか訪ねたところ、Bが大丈夫である旨回答した事実が認められ
るが、果たして1500万円という具体的な金額が話に出されていたかど
うかは、証拠上明らかではなく、そして、この金額が話題に上っていなけ
れば、原告X1が、被告補助参加人の説明に疑義を持つことは考えにくい
(なお、仮に金額が話に出ていたとしても、それが消滅時効の起算点とな
り得ないことは、次項(2)で述べるところと同様である。)
。
(2) 争点(1)において認定したとおり、被告代表者は、平成15年6月2
4日、原告X1の同席する場において、Aらに対し、
「ローンの利用は15
00万円だったはずじゃないですか、3200万円というのは全く聞いて
いませんよ。
」と言い、納得がいかないとの態度を示した事実が認められる
(この段階に至っていれば、具体的な金額が話題に上らないと
は考えにくい。)。しかしながら、前記のとおり、原告らが、本件請負契約
代金をも含む合計3200万円の融資の承認が得られなかった場合でも本
件ローン条項が適用されるという認識を有していたこと、そして、平成1
5年7月9日以降訴訟代理人を通じて発せられた内容証明郵便において
も、手付金返還請求の根拠としては本件ローン条項の適用以外の事由に全
く言及していないことに照らすと、原告X1は、被告代表者の前記発言を
耳にしても、そして原告X2も同発言のことを知ってからも、原告らは本
件ローン条項を根拠として手付金を返還してもらえることについて疑問を
抱くことがなく、被告代表者がローンの利用額を誤解していただけと考え
たにとどまった可能性が高く、少なくとも、証拠によっては、原告らが、
被告補助参加人が本件ローン条項の適用条件について誤った説明をしてい
たのではないかという認識を抱いたとまで認定することはできない。すな
わち、被告代表者の前記発言があったからといって、これを認知した 原告
192
論点項目
判示内容
らが、被告補助参加人が重要事項について事実と異なることを告げたと認
識したとまではいえない 。
(3) その他、本件全証拠を総合しても、原告らが、被告補助参加人が重要
事項について事実と異なることを告げたと初めて認識したのが答弁書受領
日である平成15年11月4日よりも前であったことをうかがわせる事情
は、見当たらない。
(4) そうすると、原告らの、消費者契約法に基づく取消権の消滅時効の起
算日は、平成15年11月4日より前であったとは認められず、したがっ
て、争点(4)における(被告の主張)は、採用できない。その結果、原告ら
は、消費者契約法に基づく取消を主張できることになるから、争点(5)ない
し(7)については検討するまでもない。
193
【129】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 6 月 24 日 盛岡地裁遠野支部 平17(ワ)12号
ウエストロー・ジャパン
◆貸金業者である被告との間で継続的な金銭消費貸借取引を行ってきたとする原
告らが、過払金の発生を主張してその返還を求めたところ、被告が回付申立書を
提出して、一部の原告に対する移送を希望した事案において、本件回付申立書は
本件訴訟の移送を希望する趣旨を含むと解されるため、職権によりこれを判断す
ると、各原告との間で交わされた借入限度基本契約書における管轄合意につき、
原告のうちの一人については専属的管轄の合意と解されるが、当該合意は消費者
契約法10条により無効であり、また、他の原告については選択的管轄の合意と
解されるところ、土地管轄、事物管轄や当事者間の衡平等諸般の事情なども考慮
すると、一部の原告については、当裁判所に管轄がないとして、訴えを分離し、
当該原告の住所地を管轄する簡裁に移送した事例
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(専属的裁判管
轄合意規定)
判示内容
被告は、
「回付申立書」において、被告と各原告との間に交わされた借入限
度基本契約書に管轄の合意があることを指摘するが、専属的管轄の合意(原
告梅●●●に関するもの)は消費者契約法10条により無効と解され、他
の原告ら4名に関する管轄の合意は、選択的管轄の合意と解され、いずれ
にしても、不当利得返還請求に関する義務履行地(民法484条により、
債権者たる原告らの現時の住所)を管轄する裁判所に土地管轄がある。
194
【130】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年3月 10 日 東京地裁 平 15(ワ)18148 号
ウエストロー・ジャパン
◆床下換気扇等の取付を業とする被告会社の従業員の勧誘により床下換気扇、防
湿剤等を購入する契約を締結し、また、被告クレジット会社との間でクレジット
契約を締結した原告が、上記購入契約がいわゆる「点検商法」によるもので、特
定商取引法に基づく解除等により契約が解消されたとして、被告換気扇取付会社
に対しては床下の防湿剤の撤去を、被告クレジット会社に対しては立替金債務の
存在しないことの確認をそれぞれ求めた事案につき、本件売買契約においては、
建物への換気扇等の設置の必要性及び相当性に関する重要事項について販売担当
者から原告に告げられた内容が事実と異なるなどとして、消費者契約法に基づく
契約の取消が認められた事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 (1)本件売買契約において、消費者契約法4条1項1号にいう重要事項
の在り方
は、本件商品自体の品質や性能、対価等のほか、本件建物への本件商品の
設置の必要性、相当性等が含まれるものと解すべきである が、これらの重
要事項について、被告ユナイトの販売担当者が事実と異なることを告げ、
原告が告げられた事項が事実であると誤認して、本件売買契約の申込み又
は承諾の意思表示をしたか否かについて、前記認定事実に基づいて検討す
る。
・・・(中略)
・・・
(8) このようなことからすると、本件売買契約において、被告ユナイト
の販売担当者は、原告に対し、本件建物への本件商品設置の必要性及び相
当性に関する重要事項について、事実と異なることを告げ、原告は、被告
ユナイトの販売担当者から告げられた内容が事実であると誤信して、本件
売買契約の承諾をしたものと認められる。
195
【131】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 2 月 14 日 東京簡裁 平16(ハ)15108号
ウエストロー・ジャパン
◆貸金業者である原告が、被告Y1及びその連帯保証人である被告Y2に対し、
貸金業法43条1項の適用があるとして貸金返還請求をした事案において、本件
の期限の利益喪失条項は、実際の効力以上の無効な内容が表記された不正確、不
明瞭な内容であり、債務者の誤解を招き、債務者にとって不利益な条項と認めら
れるから、信義則による契約条項明確化の原則の趣旨に反し、本則規定たる利息
制限法の立法趣旨を考慮すれば、その適用に当たっては債権者(作成者)に不利
に働き、貸金業法17条の要件を充たさず、したがって、本件については同法4
3条1項の適用はないなどとして、原告の請求を棄却した事例
論点項目
透明性の原則
判示内容
(7) 貸金業法43条の解釈・適用に当たっては、
「貸金業に対する必要な
規制等を定める法の趣旨、目的(法1条)と、上記業務規制に違反した場
合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設
けられていること等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件につ
いては、これを厳格に解釈すべきものである。」(平成16年2月20日付
最高裁第二小法廷判決)
。
また、貸金業者は、その法関係や業務に関し、資金需要者とは比較にな
らないほどの専門的な知識や取引経験、情報、交渉力等を有しており、ま
た、金銭貸借により法定の要件が充たされれば利息制限法所定の利率以上
の利率で営業上の利益が得られること等に鑑みれば、17条書面等の要件
充足性の判断は、形式的に法定記載要件を充たしていれば足りるだけでな
く、債務者の保護に資すべく、重要な事項につき、適法かつ正確な情報を
提供し、かつ、その内容が契約書面(17条書面)中に、一義的かつ容易
に、明確に認識できるようなものとして表示されていることが求められる
(契約条項明確化(透明性)の原則)
。
解釈準則に関する
そして、貸金業法43条1項が本則規定たる利息制限法の例外規定であ
規律の要否
ること、利息制限法の立法趣旨が「経済的弱者の地位にある債務者の保護
を主たる目的とする」ものであること(昭和39年11月18日付最高裁
大法廷判決)を考慮すれば、契約書面の重要事項について正確かつ明確な
記載を欠き、二様の解釈を許すような場合には、信義則及び衡平の原理に
より、その契約書面を作成表示をした者は、例外規定(貸金業法43条1
項)適用の特典は受けられず、債務者保護のため、本則規定(利息制限法
の規定)に立ち戻って、その適用を受けると解釈するのが相当である(作
成者(債権者)不利の原則)。
(作成者不利の原則については、
「消費者契約法(仮称)の制定に向けて
(概要)―第16次国民生活審議会消費者政策部会報告―(平成11年1
月28日)
」等参照)
(8) これを本件についてみれば、本件の期限の利益喪失条項は、債権者
にとっては過大に表示された無効な制限超過利息部分で督促することを許
すものであり、他方、一般平均的な債務者にとっては、その真実の法的な
意味を容易に知り得ないものでありながら、実際上は法律的に制限内利息
196
論点項目
判示内容
部分の効力しか有しないのであって、こうした二重の基準を有する不正確、
不明瞭な表示は、債務者にとっては不利益な方向で誤認を生じやすいので
あり、適正な表示に基づく「公正な契約条項」
(消費者基本法(平成16年
法律第70号)第12条参照)とは言えず、支払の任意性にも影響を与え
る不当な条項と認められる。
同条が有効とみなすのは「弁済」であって、無効な表示部分によって債
務者に不利益制裁を課した分までも有効とみなしてしまうものではない。
原告は、別表1の元利金計算書のとおり、被告らは期限の利益を喪失し
たとして平成13年2月7日から以後3年間を超す期間、年29.2パー
セントの割合による遅延損害金を計算して充当計算をしているが、これを
裁判所が認容すれば、無効な表示部分によって債務者に不利益制裁を課し
たことまでも有効とみなしてしまうことになる。
(9) 期限の利益喪失条項は、みなし弁済の必須要件でもなく、貸金業者
が期限の利益の喪失条項を設けるとすれば、本件のような記載の仕方が唯
一のものではなく、
「分割元金の支払を遅滞したとき」又は「利息制限法所
定の制限利息の支払を遅滞したとき」という趣旨以下で明示することでも
足り、他の契約条項の表現も可能であり、それを実行する上で格別貸金業
者に困難を強いるものでもない。
(10) 結局、本件の期限の利益喪失条項は、実際の効力以上の無効な内容
が表記された不正確、不明瞭な内容であり、債務者の誤解を招き、債務者
にとって不利益な条項と認められるから、前記の信義則による契約条項明
確化の原則の趣旨に反し、本則規定たる利息制限法の立法趣旨が「経済的
弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする」ものであることを考
慮すれば、その適用に当たっては、債権者(作成者)に不利に働き、貸金業
法17条の要件を充たさないと判断せざるを得ない。
197
【132】
裁判例
出 典
要 旨
平成 17 年 2 月 3 日 東京簡裁 平16(ハ)11333号
ウエストロー・ジャパン
◆貸金業者である原告が、被告Y1及びその連帯保証人である被告Y2に対し、
貸金業法43条1項の適用があるとして貸金返還請求をした事案において、本件
の期限の利益喪失条項は、実際の効力以上の無効な内容が表記された不適正、不
正確な内容であり、債務者の誤解を招き、債務者にとって不利益な条項と認めら
れるから、本件契約書面については、貸金業法17条の要件を充たさないと判断
せざるを得ず、したがって、本件について貸金業法43条1項の適用はないとし
て、利息制限法所定の制限利率で計算した限度で原告の請求を認容した事例
論点項目
透明性の原則
判示内容
ア 貸金業法43条の解釈・適用に当たっては、
「貸金業に対する必要な規
制等を定める法の趣旨、目的(法1条)と、上記業務規制に違反した場合
の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設け
られていること等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件につい
ては、これを厳格に解釈すべきものである。」(平成16年2月20日付最
高裁第二小法廷判決)。
また、適用要件を厳格に解釈するに際しては、利息制限法の立法趣旨が
「経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする」ものである
(昭和39年11月18日付最高裁大法廷判決)ことも念頭に入れておく
必要がある。
イ 上記(2)のような2法の適用関係及び要件規定の趣旨・目的に加えて、
貸金業者は、その法関係や業務に関し、資金需要者とは比較にならないほ
どの専門的な知識や取引経験、情報、交渉力等を有しており、また、金銭
貸借により法定の要件が充たされれば利息制限法所定の利率以上の利率で
営業上の利益が得られること等に鑑みれば、貸金業法17条書面等の要件
充足性の判断は、形式的に法定記載要件を充たしていれば足りるだけでな
く、その前提となる契約締結過程及び契約内容において、債務者の保護に
資すべく、重要な事項につき、適法かつ正確な情報を提供し、かつ、その
内容が契約書面(17条書面)中に、一義的かつ容易に、明確に認識でき
るようなものとして表示されていることが求められる(契約条項明確化(透
明性)の原則)
。
解釈準則に関する
貸金業法が「貸金業者に契約書面及び受取証書の交付を義務づける」の
規律の要否
は、
「債務者が貸付けに係る契約の内容又はこれに基づく支払の充当関係が
不明確であることなどによって不利益を被ることがないように」
(平成2年
1月22日付最高裁第二小法廷判決)するためであり、その趣旨は、所定
の記載事項が形式的に記載されているだけでなく、その内容が実質的に適
正かつ明確であり、債務者の不利益とならないことをも要求している趣旨
と考えられる。
ウ この理に従えば、貸金業者には適正かつ明確な情報提供が求められ、
契約書面の重要事項について正確かつ明確な記載を欠き、二様の解釈を許
すような場合には、信義則上、その契約書面を作成表示した者は、同法1
7条の要件を欠き、例外規定(貸金業法43条1項)適用の特典は受けら
198
論点項目
判示内容
れず、債務者保護のため、本則規定(利息制限法の規定)に戻って、その適
用を受けると解釈するのが相当である(作成者(債権者)不利の原則)。
(契
約内容の適正化、不明確条項解釈準則、作成者不利の原則、情報提供法理
等については、後藤巻則著「消費者契約の法理論」(平成15年)、上田誠
一郎著「契約解釈の限界と不明確条項解釈準則」(平成15年)、山本敬三
著「消費者契約法の意義と民法の課題」
(民商123巻4-5号合併号50
5頁以下等参照)
エ 以上は、契約の本義たる信義則から導かれるものであるが(信義則は、
契約趣旨の解釈基準にもなる(昭和32年7月5日付最高裁第二小法廷判
決))、金銭消費貸借契約も、平成13年4月1日から施行された消費者契
約法(平成12年5月12日法律第61号)の適用範囲に入るのであり、
同法が消費者と事業者間の知識、情報、交渉力の格差から、消費者の利益
を擁護しようとして規定している法の趣旨は、金銭消費貸借契約の場面に
おいても、他の特別規定(利率等の規定)に反しない限り考慮に入れる必
要がある。
199
【133】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 11 月 29 日 東京簡裁 平 16(ハ)4044 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、被告と訴外株式会社との間の教材販売契約の購入代金を立替払いする
契約を締結したところ、被告は立替金の一部を支払ったのみで残金を支払わない
として、被告に対して残金の支払を求めた事案において、本件販売契約及び本件
立替払契約はその締結に際し信義則に反する特段の事情があり販売業者に帰責事
由があるため本件販売契約の合意解約は割賦販売法30条の4の抗弁事由に該当
し、また、不実告知があり消費者契約法4条1項、同法5条により本件立替払契
約は取り消されているとして、被告の抗弁がいずれも認められ、原告の請求が棄
却された事例
論点項目
判示内容
法定追認の適用除
なお、本件契約後、被告が騙されたと気づいた後、速やかに解約の申し
外の要否
出もせず、自分ががんばって働くからと思っていたとしても、その意思が
相手方に意思表示されたものではないし、たとえ黙示の追認とみたとして
も、その後の合意解約あるいは解約の意思表示には影響はない。
告知要件の在り方
販売員Cが月々の支払が1万2000円位であると説明していたにも関
わらず、契約時になるとクレジット契約書に引落し銀行口座等の記載及び
被告の署名捺印を求め、金額の数字は最後にCが勝手に記入して、控えを
渡すとさっと帰った(証人B)という手口は、実際は月々の支払額が倍額
以上の金額であること及び全体の金額も秘匿して相手方をその気にさせる
詐欺的手法で、結局、金額という重要事項について事実と異なることを告
げていたということ(不実告知)であり、消費者契約法第4条第1項に該
当する取消事由となるものである。
200
【134】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 11 月 15 日 東京簡裁 平 16(少コ)2715 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、被告との間で締結した業務提供誘引販売契約について被告会社の契約
担当者から事前に受けた本件契約の内容に関する勧誘発言が消費者契約法4条1
項2号の断定的判断の提供に該当することを理由に本件契約申込みの意思表示を
取り消したと主張し、原状回復請求として、原告が被告へ商品を引き渡すのと引
き換えに既払の購入代金の支払を求めた事案において、契約担当者の月2万円は
確実に稼げるとの発言は、「将来におけるその価額、将来において当該消費者が
受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」について、断定的
判断を提供した場合に当たり消費者契約法4条1項2号の要件に該当するとして
請求が認容された事例
論点項目
判示内容
消費者概念の在り (※原告が、被告との間で締結した業務提供誘引販売契約に関し、その勧
方
誘に際して、
「同社に返済する支払ローン月2万円分は、本契約における
入力の仕事をすることによって確実に稼げる」との断定的判断の提供等
があったとして、消費者契約法上の取消しを主張した事案において、以
下のとおり判示して、内職商法の被勧誘者である原告の消費者性を肯定)
また、本件契約における原告と被告とが、消費者契約法2条に定める「消
費者」と「事業者」であることも明らかである。
201
【135】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 10 月 14 日 仙台地裁 平成 15 年(ワ)547 号
判時 1873 号 143 頁
同年代の者や通常人と比べて判断力に乏しかった長男(20歳代)に対しデート
商法によって高額な宝石等をクレジットで買わされ多額の負債を負担した長男が
自殺し、父親が販売会社等に損害賠償を求めた事案。長男が同年代の者や通常人
と比べて判断力に乏しく、手取収入も月 14 万ないし 15 万円ほどしかないと認識
したうえで、クレジットを利用させて商品を購入させ、クレジットによる負債が
約560万円となり、返済のために消費者金融から借り入れをしていたことを知
りながら、さらに商品をクレジットを利用して購入させ、クーリング・オフ後も
何度も撤回をさせよと働きかけていた一連の行為が不法行為と認められた。(第
6回委員提出資料1-1より引用)
論点項目
不当勧誘行為に関
する一般的規定
(状況の濫用、暴
利行為)
判示内容
(1)前記第三「争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実」
二「本件各商品購入等の経緯及び自殺に至るまでの経緯」
(1)記載のとお
り、一郎は、被告会社から、平成一二年四月三〇日、番号一の商品をクレ
ジット契約を利用して買った。
このころ、一郎には恋人はおらず、結婚も考えておらず、宝石にも興味
がなかった。
この点、原告らは、被告会社仙台支店に連れて行かれた一郎が、
「僕は宝
石に興味がないし、身につけたいとも思わない。
」と商品購入の意思がない
ことを説明し、また自分の支払能力を理由に、番号一の商品の購入を断っ
たにもかかわらず、丁川から、「結婚したいなら指輪を買え。」、「結婚した
くないのか。」
、「これを買わないと結婚できない。」、「働ければいくらでも
買える。
」と購入を迫られ、さらに強面の男性社員の脅迫も加わり、三時間
以上も一郎を同所に監禁されるなどしたため、番号一の商品について売買・
クレジット契約を締結させられたと主張し、証人甲野一江の証言(陳述書
を含む。
)にもそれに沿う記載がある。
・・・
(中略)
・・・
しかしながら、
《証拠略》によれば、丙山社の女性研修用資料には、客と
応対するときに自分が会いたい理由をいかに今だけ特別と自然に感じさせ
られるかがポイントであるとの記載があり、実際の年齢より幼く、同年代
の者や通常人と比べて判断力に乏しく、女性と交際したり、女性とあまり
親しい関係になったことがない一郎に対し、二〇歳程度の女性従業員が研
修資料どおり親しげに話すことによって、本件各商品を買わせたものであ
ることが認められる。また、一郎の生前のメモは、一郎が精神的に不安定
となっていた時期におけるものでそれほど重要視できないものの、これに
よれば、
「正しい判断力ください 騙されない」などと記載されており(
「黙
まされない」と記載されているが、
「騙されない」の誤りと認められる。
)
、
監禁・脅迫行為により本件各商品を買ったというよりは、女性従業員が親
しげに話すことにより、一郎が良い気分や見栄を張ったりして契約を締結
してしまう雰囲気に飲み込まれ、本件各商品の購入を断れなくなったもの
と認められる。
202
論点項目
判示内容
・・・
(中略)
・・・
争点二(被告らの一郎に対する不法行為の有無)について
・・・
(中略)
・・・
(2)しかしながら、前記認定事実に加え、
《証拠略》によれば、被告らは、
いわゆるデート商法ないし恋人商法を行っていたことが認められること、
被告丁原、被告戊田は、そのような商法を取るように女性従業員を指導し
ていたこと、被告丁原は、本件各商品を一郎が購入する際、被告戊田に許
可を与えていたこと、被告らは、一郎が同年代の者や通常人と比べて判断
力に乏しく、手取収入も月一四ないし一五万円ほどしかないと認識した上
で、番号一ないし五の各商品をクレジット契約を利用させて購入させ、ク
レジット契約による債務総額が約五六〇万円に上り、一郎が上記債務の返
済のために消費者金融(丙田社)からも借り入れをしていたことを知りな
がら、更に八七万円を超える番号六の商品をクレジットを利用させて購入
させたこと、加えて、被告乙野及び被告戊田は、一郎に対し、番号六の商
品のクーリングオフの申出を撤回させようと何度も働きかけていたこと、
被告丁原も一郎のクーリングオフの申出について被告戊田から報告を受
け、被告戊田に対し、クーリングオフの申出を撤回させるよう指示をして
いたことが認められ、これら一連の行為は不法行為と評価できる。
(3)この点、被告らは、一郎の客観的支払能力は超えていないなどと主
張するが、
《証拠略》によれば、一郎の手取収入は月額一四ないし一五万円
程度であるのに対し、クレジットの支払債務の合計額が月八万六四〇〇円
にもなり、自宅で生活費が少なく済むことを考慮しても、自己の収入に比
してクレジットの支払が過大であったと認められるし、商品購入の際に、
被告ら、特に被告戊田及び被告乙野は一郎の支払能力を心配していたこと
が認められるから、被告らの主張は理由がない。
二
203
【136】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 10 月 7 日 大阪簡裁 平16(ハ)2169号
ウエストロー・ジャパン
◆原告との間でデジタル回線システムにおける電話機及び主装置一式のリース契
約を締結した被告に対し、原告がリース料の支払を求めたところ、被告が、本件
リース契約は訪問販売業者の虚偽説明により締結したものであり、消費者契約法
4条に基づく取消等をしたなどと主張して支払につき争った事案において、本件
事情の下では、本件リース契約は消費者契約と認められること、本件業者と原告
は提携関係にあり、本件業者はその交渉の一切を任されていたと認められるこ
と、本件業者の虚偽説明により本件リース契約等を締結したとする被告の証言が
信用できることなどが認められるから、本件業者の不実告知の事実をもって、被
告は、消費者契約法4条1項1号により、本件リース契約の申込みの意思表示を
取り消すことができ、現に取り消したとして、原告の請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件 3 上記1(1)ないし(3)の事実によれば、本件リース契約締結当時、被告
の在り方
の主要な関心は光ファイバーの敷設にあったのであり、それとは無関係に
インターフォンの修理を契機に上記のような本格的なデジタル回線システ
ムを設置することは、事業廃止後で必要性が全くなかったことやその価格
が著しく高額であることに照らして不自然であり、電話施工契約は、光フ
ァイバー敷設との何らかの関連のもとに締結されたものと考えざるを得な
いから、●●●が被告に対し、光ファイバーを敷設するためにはデジタル
電話に替える必要があり、電話機を交換しなければならない旨を告げたた
めに被告はこれを信じ本件リース契約及び電話施工契約を締結した という
被告本人及び証人●●●の供述には合理性があり信用できる。そうすると、
●●●の上記不実告知の事実をもって、被告は、消費者契約法4条1項1
号により本件リース契約の申し込みの意思表示を取り消すことができ、平
成16年1月26日上記1(5)の通知書の到達により本件リース契約は取
り消された。
204
【137】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 9 月 15 日 東京地裁 平 15(ワ)7057 号
ウエストロー・ジャパン
◆火災保険契約者兼被保険者である原告が、保険者である被告に対し、保険契約
の目的である建物等に火災が発生し全損になったと主張し、火災保険金の支払を
求めた事案につき、火災が原告の放火等、保険契約者側の故意、重過失又は法令
違反によって生じたと推定することはできないとして、原告の請求を認容した事
例
論点項目
判示内容
解釈準則に関する
(3) 次に、被告は、本件約款における「事故」の意義について、日常
規律の要否
用語でいう事故であり、偶然性、すなわち、保険金請求者等の故意等に基
づかないことをも含む趣旨であると主張する。
しかし、本件各契約と同じ損害保険である傷害保険においては、急激、
偶然、外来などの文言が約款に定められているのに、本件約款にはその規
定がないことを合理的に考えれば、
「事故」という文言にそこまで読み込
むのは困難であって、また、前記のとおり保険関係法規におけるに「事
故」の概念は日常用語とは異なるものであり、更に、保険約款は保険会社
側が自ら作成するものであるからそれが多義的で不明確である場合には保
険契約者側に有利に解釈されるべきであるところ、本件約款は多義的とい
うよりも素直に解釈すれば前記のとおりと解される ものであるから、本
件約款を作成した保険会社側である被告の主張する合目的的な解釈は到底
とりえない。
205
【138】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年7月 30 日 大阪高裁 平 15(ネ)3519 号
ウエストロー・ジャパン
◆被控訴人(一審本訴請求原告)が、控訴人(一審本訴請求被告)Y1との間で
締結した本件易学受講契約等の無効を主張して、控訴人Y1及び同Y2に対し、
不当利得返還請求権に基づき既払金の返還等を求めたのに対して、反訴として、
控訴人Y1が、被控訴人に対し、本件易学受講契約に基づく受講料等の支払を求
めたところ、原審は、本訴請求を認容し、反訴請求は一部認容としたことから、
これを不服とした控訴人らが、各控訴した事案において、本件における事実関係
の下では、本件易学受講契約については消費者契約法4条3項2号による取消
し、本件付随契約については同法4条1項2号による取消しはできないが、上記
各契約は、著しく不公正な勧誘行為によって、不当に暴利を得る目的をもって行
われたものというべきであって、暴利行為として公序良俗に反し無効であるなど
として、各控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
法定追認の適用除 (イ) 法11条の規定によれば、消費者契約法の適用を受ける契約につ
外の要否
いても、民法125条(法定追認)の規定が適用されることとなっている。
被控訴人は、前記認定のとおり、控訴人の経営する●●●易学院の部屋か
ら退去することが困難な状態に陥らされて、本件易学受講契約を締結した
ものであるが、いったん同所を退去した翌々日の平成13年6月4日以降
に本件易学受講契約の授業料等の一部を支払ったのみならず、易学の受講
をもしているのであるから、これによれば、取消権者である被控訴人にお
いて、債務者として自らの債務の一部を履行し、また、履行を受けたもの
というほかなく、したがって、上記被控訴人の行為は、民法125条1号
所 定の「一部の履行」に該当するものであって、取消し得べき行為を追認
したものとみなされる。もとより、法定追認の要件に該当する行為は、
「追
認を為すことを得る時より後」にしたものであることを要するが、法4条
3項2号により取消権が生ずる場合は、当該消費者が退去する旨の意思表
示をした場所から、当該消費者が退去した時をもって、追認をすることが
できる時と解するのが相当 であり、前記認定の事実関係の下では、被控訴
人は追認をすることができるようになった後に法定追認に該当する行為を
したものというほかないから、本件易学受講契約は、法4条3項2号該当
を理由に取り消すことはできないものといわなければ ならない。したがっ
て、被控訴人が平成13年7月28日にした本件易学受講契約取消しの意
思表示は、その効力を有しないものといわざるを得ない。
「将来における変 ア 争点(2)の①(本件付随契約の法4条1項2号による取消しの可否)に
動 が 不 確 実 な 事 ついて
項」要件の在り方
被控訴人は、
「本件付随契約は、将来の運勢、運命あるいは経済という変
動が不確実な事項につき、断定的判断を提供したものであるから、法4条
1項2号により取り消すことができる。」旨主張する。しかしながら、法4
条1項2号の「その他将来における変動が不確実な事項」とは、消費者の
財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことがそもそも困難で
206
論点項目
判示内容
あるものをいうと解すべきであり、漠然とした運勢、運命といったものは
これに含まれないものというべき である。もっとも、証拠(甲7)によれ
ば、控訴人Aは、被控訴人に対し、ペンネームを付けることを勧めた際「あ
なたもお金が必要でしょう。」と述べており、これは、暗にペンネームによ
り金銭的な利益があることを述べたようにもみられないわけではないが、
全体的にみると、経済的な利得ではなく、前記(1)イに認定のとおり、改名
により子供のけがや病気などの不幸を免れる こと、ペンネームを付け、印
鑑を購入することで「運勢が良くなる。
」ことを強調して、本件付随契約を
勧誘したものと認められるから、控訴人Aにおいて財産上の利得に関する
事項について断定的判断を提供したと認めることは困難であり、また、易
は、その性質上、不確定な出来事についての予測であって、断定的判断を
提供するものとは言い難い 。したがって、本件付随契約につき法4条1項
2号の適用があるとの被控訴人の主張は採用することができない。
不当勧誘行為に関 イ 争点(1)の③(本件易学受講契約の無効事由(暴利行為による公序良俗
する一般規定(暴 違反)の存否)について
原審における調査嘱託の結果によれば、大阪府易道事業協同組合所属の
利行為)
易学院では、授業は1回90ないし120分間程度行い、月2回の授業を
する場合で、授業料の月額は1万円であることが認められるところ、乙3
号証によれば、控訴人Aの●●●易学院では、入会金5万円のほか、普通
科は、講習30時間で、講習料17万円、認定書交付料3万円、諸費用1
万円で合計21万円(本代は別途料金)、中等科は、講習30時間で、講習
料17万円、認定書交付料3万円、著作権使用料1万円、資料費ほか2万
5000円で合計23万5000円、高等科は、講習48時間で、講習料
30万円、認定書交付料5万円、著作権使用料1万円、資料費ほか2万5
000円合計38万5000円、師範科は、講習48時間で、講習料40
万円、認定書交付料30万円、資料費ほか2万5000円合計72万50
00円、以上普通科から師範科までを受講した場合は、入会金を含めて1
60万5000円を要し、このほかに試験料として10万円徴収されるこ
とが認められる。これによれば、控訴人Aの●●●易学院における易学受
講料は、異常に高額であるというほかない。
前記引用の原判決認定(原判決26頁2行目から27頁7行目まで)の
とおり、控訴人Aは、●●●易学院に興味を持って控訴人A方を訪れた被
控訴人に対し、易学の説明冊子等をろくに見せることもなく、易の説明も
しないで、費用の高額であるのに驚いて帰りかけた被控訴人を引き留め、
被控訴人を困惑させて、本件易学受講契約を締結させた。さらに、証拠(被
控訴人本人(原審)、甲7)によれば、被控訴人は、夫の死亡当時は会社勤
めをしていたが、夫の死亡後仕事ができる精神状態ではなくなり、数か月
休職した後退職してしまっていた ところ、控訴人Aが、前記本件易学受講
契約後、その日の内に、被控訴人に対し、改名、ペンネーム付け、印鑑の購
入を勧め、被控訴人の「●●●」という名前について、
「あなたの名前はお
かしい。
」などと言い出し、更に「あなたの親はひどい親だ。●●●は要っ
ても、子は要らない。あなたは親に「いらない子だ。」と言って名前を付け
られた。」
、「名前を変えたらあなたの運勢は良くなる。」、「あなたの夫が亡
くなったのもあなたのせいだ。この名前のせいだ。あなたの良いときはま
207
論点項目
判示内容
だいいが、運勢が悪いときは、50パーセントの不幸が100パーセント
くらい悪くなる、娘や息子にも悪いものが行く。
」
、
「印鑑の名前はその人の
顔です。良い印鑑を持つと、名前同様に運命が変わります。絶対に印鑑は
良い印鑑が必要です。天台宗のお坊さんだった人に製作を依頼します。私
を信じなさい。私が何日も祈願してあげます。」と述べるなどして、夫を亡
くし、子供が家を出て心の支えを失い精神的に不安定な状態にあった被控
訴人において、夫の死のほかに、このさき息子や娘にまでけがや病気など
の不幸などが起こってはあまりにつらいと思わせるなどした上、被控訴人
が動揺し、かつ、改名、印鑑の購入や控訴人Aの祈祷が必要である等の暗
示にかかったことを奇貨として、本件付随契約が結ばれたことが認められ
る。
そして、前記引用の原判決認定のとおり、控訴人Aは、その後わずか3
週間の間に、被控訴人に対し、普通科、中等科、高等科、師範科の各授業
料、諸費用、試験料等名目で合計190万円を支払わせたほか、証拠(被
控訴人本人(原審)
、甲5、7)によれば、改名代、ペンネーム代、印鑑製
作費用及び祈祷料として原判決別紙出捐一覧表2-5、2-6及び3、4
のとおり、138万3000円を支払わせたことが認められる。
以上認定の 控訴人Aの本件易学受講契約の勧誘の方法及びその態様、同
契約締結の経緯、同契約締結直後の本件付随契約締結の事情、契約内容と
しての易学受講料が異常に高額であること、被控訴人の身上などを合せ考
慮すると、本件易学受講契約は、著しく不公正な勧誘行為によって、不当
に暴利を得る目的をもって行われたものというべきであって、暴利行為と
して公序良俗に反し無効 であるというべきである。
208
【139】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 7 月 21 日 東京地裁 平15(レ)368号
ウエストロー・ジャパン
◆美容整形手術契約において、患者の都合により手術を取り消した場合の違約金
の支払義務を定めた条項につき、平均的損害を超えるものと認めることはできな
いと判示された事例
論点項目
判示内容
平均的な損害の意 イ 次いで、消費者契約法の適用について検討すると、消費者契約法9条
義
1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定
める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された
解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の
解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害額を超えるものについて
は、平均的損害を超える部分について、消費者契約の条項が無効となる旨
定めている。
しかしながら、前記認定事実に照らすと、本件において、控訴人が、本
件手術契約を手術日の当日に解約したことによって、被控訴人が前記(1)
エのとおりの損害を被った事実は、これを容易に認めることができるとこ
ろであって、また、前記アで検討したとおり、控訴人と被控訴人との間で、
甲第2号証に記載された違約金に関する合意が成立しているところ、a以
外の美容整形外科医院においても、被控訴人医院と同様に上記のような段
階的な違約金額の定め及び手術当日の解約の場合、違約金額を手術代の全
額と定めている医院が存在すること(乙第21号証)、前記(1)オのとお
り 本件手術と同様の手術を他の美容整形外科医院で行った場合の費用は5
0万円ないし70万円であること からすると、被控訴人の違約金63万円
が平均的損害を超えるものとは認めることができない。
209
【140】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 7 月 8 日 東京地裁 平16(ワ)997号
ウエストロー・ジャパン
◆愛玩動物を販売している被告からシェットランドシープドッグという種類の犬
を購入した原告が、購入後相当期間経過後に当該犬が特発性てんかんと診断され
たために、遺伝的欠陥のない中等の品質を有する犬を引き渡す債務の債務不履行
ないし隠れた瑕疵があったことによる瑕疵担保を理由とする損害賠償を請求した
事案において、本件売買は特定物売買であり被告の引渡債務は履行されているこ
と、当該犬には隠れた瑕疵があったといえるが、本件売買契約には一定期間経過
後の被告の免責特約があり被告は免責されるとして、原告の請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
「全部を免除」の
次いで、本件免責特約の無効をいう原告の主張について検討すると、確
意義
かに、本件免責特約の下においては、売買の目的物である犬が特発性てん
かんの原因となるような遺伝的要因を有していたような場合においては、
買主が売主である被告に対し、損害賠償を請求することは事実上不可能で
あることは原告が指摘するとおりである。しかし、消費者契約法8条1項
5号は、有償契約の目的物にある特定の瑕疵があった場合において、当該
瑕疵による損害賠償については、これを請求することができなくなるよう
な条項を無効とすることが定めたものと解することはできず、当該契約上
生じ得る目的物の瑕疵による損害賠償責任をすべて免除する条項を無効と
するものと解される。そして、本件免責特約は、被告の瑕疵担保責任をす
べて免除するものではなく、本件契約書4条(1)及び(2)は、被告が、同条
(1)の要件の下において損害賠償責任を負担し、同条(2)の要件の下におい
て同程度の愛玩用動物を提供することを定めているのであって、本件免責
特約が、消費者契約法8条1項5号に反し、無効となると解する余地はな
い。
210
【141】
裁判例
出 典
平成 16 年 7 月 5 日 東京簡裁 平16(少コ)325号
ウエストロー・ジャパン
論点項目
①10 条の前段要
件の在り方
②不当条項リスト
の追加の要否・在
り方(消費者の解
除権・解約権・取
消権を制限する規
定)
判示内容
2 被告は事業者として、原告は消費者として本件契約を締結していると
ころ、本件契約書4条の、借主が本件契約を解除する場合には、解約日の
3か月前に解約届を提出しなければならず、これに違反した場合には、賃
料と共益費の合計額の6か月分を貸主に保証する旨の約定及び同30条
の、借主が貸主に一旦支払った礼金や家賃又は共益費は一切返還しない旨
の約定は、公の秩序に関するものではないが、著しく原告の権利を制限し、
又は原告の義務を加重する条項であるので、消費者契約法10条の趣旨に
照らして無効である。
211
【142】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 6 月 25 日 神戸簡裁 平16(ハ)335号
ウエストロー・ジャパン
◆原告(賃貸人)が、被告(賃借人)に対し、訴外取扱店を介して締結した通信
機器のリース契約に基づき、残リース料の支払を求めたのに対し、被告が、本件
リース契約は、消費者契約法4条1項1号により取り消す等と主張した事案にお
いて、不実告知をした従業員の所属する取扱店は、本件リース契約の当事者では
ないから、消費者契約法にいう「事業者」ではないが、取扱店は、リース契約の
締結に至る手続の重要な部分を、前もって原告から任されているものであって、
取扱店の消費者に対する不実告知は、事業者である原告による不実告知と評価す
べきであるとして、消費者契約法4条1項による本件契約の申込みの意思表示の
取消しを認め、原告の請求を棄却した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
1 乙第3号証、第5号証及び争点に対する被告の主張について原告が
の在り方
具体的な反論をしないなどの弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ
る。
訴外●●●の通信事業部の従業員●●●は、平成14年3月18日、被
告に対し、まず名刺を差し出したが、その名刺の裏面には最上部に中太字
で、
「電話をさらに便利にするNTT西日本の電話サービス」と纏め書きが
されており、さらに、本件リース物件を被告に勧めるに当たって、被告に
対し、
「NTTの回線がアナログからデジタルに変わります。今までの電話
が使えなくなります。この機械を取り付けるとこれまでの電話を使うこと
ができ、しかも電話代が安くなります。
」と告げて、本件リース物件を勧め
た。しかし、この告知の内容は虚偽である。そして被告は、従業員●●●
の告げるところを事実であると誤認して、原告に対し、本件リース契約の
申込みをしたものである。
2 事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、重要事項につ
いて事実と異なることを告げ、消費者が事実であると誤認して、契約をし
た場合には、当該契約の申込みまたは承諾の意思表示を取り消すことがで
きる(消費者契約法4条1項1号)
。
第三者による不当
ところで、本件では、不実告知をした従業員の所属する訴外●●●は、
勧誘行為規制の在 本件リース契約の当事者ではないから、消費者契約法にいう「事業者」で
り方(5条)
はなく、他方、契約の当事者である原告は、被告に対し直接不実告知をし
てはいないといった関係にある。
乙第11号証によると、原告とリース契約をするための仕組みは、リー
ス希望者が原告の取扱店と、リース物件の機種、仕様、価格、納期などを
打ち合わせて決定した後、原告にリースの申込みをし、原告は書類審査の
後、契約を締結し、その後は原告と取扱店がリース物件の売買契約を結ん
で、取扱店が賃借人にリース物件を納品することになっていることが認め
られる。
この事実によれば、リース物件の機種、仕様、価格、納期その他リース
契約の諸条件などの顧客に対する説明と確定の作業は、原告がすべて取扱
店に任せ、原告は事後的に書面審査をするに過ぎないもので、その限りで
212
論点項目
判示内容
は取扱店は、リース契約の締結に至る手続の重要な部分を、前もって原告
から任されているものであって、割賦購入あっせんの場合の、販売業者と
割賦購入あっせん業者との関係よりもさらに密接な関係にあるということ
ができる。
このような原告と取扱店との関係に基づけば、取扱店の消費者に対する
不実告知は、これによる原告の責任を解除するのが相当であるような特段
の事情のない限り、事業者である原告による不実告知と評価すべきである
ところ、本件においては、右のような特段の事情を認めうる証拠はないか
ら、訴外●●●の被告に対する前記不実告知の事実をもって、被告は、消
費者契約法4条1項により本件リース契約の申込みの意思表示を取り消す
ことができる。
213
【143】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 5 月 10 日 大阪高裁 平16(ラ)268号
ウエストロー・ジャパン
◆消費者金融業を営む相手方が再抗告人を被告として京都簡易裁判所に提起した
貸金残元本等の支払を求める本案訴訟につき、再抗告人が福岡簡易裁判所に移送
するよう申し立てた事案において、契約書に印刷された管轄合意条項から管轄合
意の存在を認める一方、遠隔地の裁判所に出頭することは消費者金融業の顧客で
ある再抗告人にとって非常に大きな経済的負担となるが、相手方は遠隔地での訴
訟にも耐えるだけの経済力を有すると考えられること等から、本案訴訟について
は、民事訴訟法17条に基づいて福岡簡易裁判所に移送する要件を具備している
として、移送を認めた事例
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(専属的裁判管
轄合意規定)
判示内容
(1) 相手方のように手広く消費者金融業を営む者は、債権回収のため比較
的少額の訴訟を頻繁に行う必要に迫られることが明らかである。そのため、
相手方は、本社最寄りの京都簡易裁判所に訴訟を集約することにより、訴
訟追行に要する時間や労力を節約しようとして、すべての顧客との間で本
件管轄合意を行っているものと考えられる。
この種の管轄合意は、民法90条や消費者契約法10条によって当然に
無効になるとは解されないから、有効な合意として尊重される。
214
【144】
裁判例
出 典
平成 16 年4月 22 日 大阪高裁 平 15(ネ)2237 号
消費者法ニュース 60 号 156 頁(抜粋)
論点項目
判示内容
告知要件の在り方 ア、本件リングの陳列されていたコーナーでは、どの商品も原則として一
点のみでの販売はせず、赤シールを付けた商品は二点で三九万円、青シー
ルを付けた商品は二点四九万円で販売するものとされていた。
イ、本件リングは、青シールが付けられるとともに、四一万四〇〇〇円と
表示された値札を付けて陳列 されていた。他の商品にも同様の値札が付け
られていたが、Aは「一般市場価格」との趣旨でこの値札を付けており、
これに表示された価格での販売はしていなかった。
ウ、B(注:販売担当者)は、本件リングを他店で購入すれば一点で上記値
札表示程度の価格になると認識しており、控訴人に対してもその旨を説明
した。
エ、控訴人は、ア記載のとおり二点での値付けがされていたため、同行し
ていた友人にも商品を購入しないか尋ねたが、同人に購入の意思がなかっ
たため、Bに対し、一点での購入の可否を尋ねた。そこで、Bは、売場責任
者に相談した上で、一点を二九万円で販売できる旨控訴人に返答したとこ
ろ、控訴人は、ウの説明を前提に、二九万円ならば買い得であると考え、
請求原因記載の契約締結に至った。
「重要事項」要件 (3)商品をいかなる価格で販売するかは基本的に売主の自由であり、売
の在り方
主の主観的評価に基づく値付けをすること自体は何ら妨げられない。
しかし、事業者が、他の事業者が同種商品をいかなる価格で販売してい
るかについて、消費者にことさら誤認させるような行為をすることは、消
費者の合理的な意思形成を妨げるものであって相当でない。ことに、本件
リングのような宝飾品については、一般に使用価値に基づく客観的な価格
設定は想定しがたく、主観的かつ相対的な価値判断によって価格設定がさ
れるものと解されるから、買主にとっての価値も、それが一般にどのよう
な価格で販売されているかという事実に依拠し、その購買意思の形成は、
これと密接に関連するものと解される 。したがって、本件リングについて
は、その一般的な小売価格は、消費者契約法四条四項一号に掲げる事項(物
品の質ないしその他の内容)に当たり、かつ、消費者が当該契約を締結す
るか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものであるから、同法同
条一項一号の重要事項というべきである。
本件では、Aにおいて、控訴人に対し、重要事項である本件リングの一
般的な小売価格(一般市場価格)について、四一万四〇〇〇円程度である
旨、事実と異なることを告げ、控訴人がそれが事実であると誤認し、それ
によって上記契約の申込みをしたと認められるから、控訴人は、消費者契
約法四条一項に基づき、Aに対し上記売買契約を取り消すことができる。
215
【145】
裁判例
出 典
要 旨
平成 16 年 3 月 25 日 山口簡裁 平15(ハ)406号
消費者法ニュース 60 号 109 頁
◆貸金業者である原告が、原告と訴外Aとの間の金銭消費貸借契約の連帯保証人
である被告に対し、貸金残金等の支払を求めた(甲事件)のに対し、被告が、過
払金が生じているとして、原告に対し、不当利得返還請求権に基づき過払金等の
支払を求めた(乙事件)事案において、本件貸付契約説明書には、約定利息の支
払を遅滞することにより、当然に期限の利益を失う旨が記載されているから、債
務者は約定利息の支払を怠ると、期限の利益を喪失すると誤解して、強い心理的
な強制を受けて約定利息を支払うことになり、債務者の支払の任意性は失われる
から、貸金業法43条所定のみなし弁済は本件に適用されないとして、原告の請
求を棄却し、被告の請求の一部を認容した事例
論点項目
透明性の原則
判示内容
ウ さらに原告は、第2の3(1)(原告の主張)イのとおり主張するが、平
成16年2月20日最高裁第二小法廷判決は、
「貸金業者の業務の適正な運
営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として、貸金
業に対する必要な規制等を定める法の趣旨、目的(法1条)と、上記業務
規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法
49条3号)が設けられていること等にかんがみると、法43条1項の規
定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきものである。
」と判示し
ており、これと法43条施行後に施行された消費者契約法の消費者保護の
精神を総合的に考慮すれば、契約証書等の内容については、債務者に弁済
を強要することになるようなあいまいな表現を避けて、明確な記述をし、
債務者に不利益を与えないようにすべきであり、原告の主張は相当でない。
216
【146】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年 11 月 28 日 宮崎地裁 平 13(ワ)685 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が、被告に対し、日掛金融業を営む被告の従業員が、原告に対し、その弟の
借り入れについて、連帯保証人になるように執拗に要求して、連帯保証契約の締結
を余儀なくしたから、同契約は無効であるとして、その債務の不存在を確認し、ま
た、被告従業員の上記行為が不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した事案
において、被告の従業員らの言動は、取立て行為の規制に係る貸金業規制法21条
1項に違反し、本件連帯保証契約は公序良俗に違反するものであって、無効であり、
被告の従業員らの不法行為は被告の事業の執行についてなされたものであるから、
被告は民法715条に基づき原告に対し、損害を賠償する義務があるとして、慰謝
料10万円を認定した事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (1) 公序良俗違反について
する一般規定(暴 ア 原告は、前記のとおり、いったんは、保証依頼を断っていたものの、
夜間、再びBから、泣きながら土下座しての懇願を受けるとともに、突然
利行為)
訪問してきた被告従業員と長時間にわたって応対するなか、自ら保証人に
ならない限り、Bは、被告従業員から解放されないし、本件主債務とDら
の保証分の一部の合計60万円を一括して支払わなければならないなどと
考え、やむなく本件連帯保証契約を締結するに至った ものである。
イ そこで、本件連帯保証契約の効力について判断する。
(ア) ところで、益●●●らは、正当な理由なく午後9時過ぎころに原
告宅付近へ赴き、翌日の午前零時過ぎころまで、本件連帯保証契約の締結
のため、居残っており、事前の承諾など特にこれを正当化する理由もない
から、この点はガイドライン3-2-2(2)①の禁止事項「正当な理由なく、
午後9時から午前8時まで、その他不適当な時間帯に、電話で連絡し若し
くは電報を送達し又は訪問すること」に該当 するうえ、原告に連帯保証人
になることを要求する行為(益●●●は、前記のとおり、原告に対し、直
接的に要求したものではないが、前後の状況からこのようにみうることは
明らかである。)は同(3)③の禁止事項「法律上支払義務のない者に対し、
支払請求をしたり、必要以上に取立てへの協力を要求すること」に該当す
る ものである。もとより、ガイドラインは行政監督上の指針を示す通達で
はあるものの、貸金業規制法違反成否の判断に際しては、有力な解釈基準
の一要素となるものである。
これに加え、前記益●●●らの行為により、原告は、私生活の平穏を害
され、Bを助けるためには自分が保証人になるしかないと考えて本件連帯
保証契約を締結したものであって、Bからの伝聞を含め益●●●らの言動
によって心理的圧迫を受け、困惑させられたものといえるから、益●●●
らの言動は、取立て行為の規制に係る貸金業規制法21条1項所定の「人
の私生活の平穏を害するような言動により、困惑させてはならない」に当
たるものであることは明らか である。そして、同条に違反する行為は、1
年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられる犯罪である(同
法48条3号)
。
217
論点項目
判示内容
(イ) このように 益●●●らの行為はガイドラインに違反するのみなら
ず、貸金業規制法に違反する犯罪である こと、また、益●●●らが真実は
存在しないDらの保証分を事情が全く分からない原告に持ち出す行為はま
さしく欺罔行為そのもの であり、同人らの要求行為の悪質さないし違法性
を増大させるものであること(本件連帯保証契約締結時には、Bに対し、
Dらの保証分の一部の請求があったに過ぎないものの、総額として270
万円という金額を聞かされていたことからも、原告が本件連帯保証契約を
締結するにあたり同債務の存在を前提としていたことは明らかである。)
、
さらに、Bは、夏●●●らから、既に、9月28日の時点で、前記のとおり
脅迫的な言動を受け、畏怖し、さらに10月1日には長時間にわたってE
宅に連れ回され、そのような状態が継続しているなか、泣きながら土下座
して原告に保証を依頼したため、原告は連帯保証人となることを決意 した
ものであるから、益●●●らのBに対する言動と原告に対する言動とは一
連の行為と評価できるところ、これらの脅迫的言動及び連れ回しは、正当
な取立て行為の限界を著しく逸脱する ものであること、そして、原告は、
Bを介し、もっぱら間接的に益●●●らの社会的相当性を逸脱するのみな
らず、犯罪をも構成する言動によって心理的圧迫を受け、自由な意思決定
ができない状態に陥った上で、本件連帯保証契約を締結したものというべ
き であること(この点、原告と益●●●とのやりとりは前記のとおり比較
的平穏に行われているが、これは弟であるBを守ろうとする原告自身の気
丈な性格によるものが大きいものと考えられるし、そもそもその場面を前
後の状況と切り離して考えることは困難であり、直前のBの泣きながらの
懇願と一連・一体のものというべきであるから、このことが上記判断の妨
げになるものではない。)、Bを介在し、このような事態になることは、益
●●●らも十分認識できた、のみならず、むしろこれを意図していたこと
すら窺えること、これらの事情を合わせ考慮すると、本件連帯保証契約は、
その締結過程における被告従業員である益●●●らの行為が社会的相当性
を著しく逸脱するものとして公序良俗(民法90条)に違反するものであ
って、無効というべきである(なお、以上の検討によれば、少なくとも、錯
誤無効、詐欺取消の主張も理由がある。)
。
218
【147】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年 11 月 10 日 東京地裁 平 15(ワ)10908 号
判タ 1164 号 153 頁
◆大学受験予備校の講習受講契約及び模擬試験受験契約(模擬試験については仮
に特約が存在した場合のもの)に基づく解除制限特約は、消費者契約法 10 条によ
り無効であるとして既払いの受講代金及び受験料の返還請求を認容した事例
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(消費者の解除
権・解約権・取消
権を制限する規
定)
判示内容
(被告の主張)
被告は、原告との間において、本件普通講習受講契約、年間模試受験契
約及び冬期講習受講契約を締結する際、各受講契約の取消しや受講コース
の変更等を一切認めない旨の合意をしている(以下「本件解除制限特約」
という。
)
。
(原告の主張)
本件年間模試受験契約については、本件解除制限特約は成立していない。
なお、本件冬期講習受講契約において本件解除制限特約があることは認め
る。
10 条の前段要件
そこで、本件冬期講習受講契約について成立した本件解除制限特約及び
の在り方
仮に年間模試受験契約についても成立したと仮定した場合の同特約が消費
者契約法10条により無効となるか否かについて検討する。
ア 本件冬期講習受講契約及び年間模試受験契約は、それぞれ準委任契約
であり、民法上は当事者がいつでも契約を解除することができるとされて
いるが(民法651条、656条)
、本件解除制限特約は解除を全く許さな
いとしているから、同特約は民法の公の秩序に関しない規定の適用による
場合に比し、
「消費者の権利を制限」する ものであるということができる。
10 条の後段要件 エ したがって、たとえアムスが 小規模、少人数の教育をめざす大学医学
部専門の進学塾であって、申込者からの中途解除により講師の手配や講義
の在り方
の準備作業等に関して影響を受けることがあるとしても、当該冬期講習や
年間模試が複数の申込者を対象としており、その準備作業等が申込者1人
の解除により全く無に帰するものであるとは考えられない以上、申込者か
らの解除時期を問わずに、申込者からの解除を一切許さないとして実質的
に受講料又は受験料の全額を違約金として没収するに等しいような解除制
限約定は、信義誠実の原則に反し、
「民法第一条第二項に規定する基本原則
に反して、消費者の利益を一方的に害する」ものというべき である。
219
【148】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年 10 月 29 日 千葉地裁 平 15(レ)38 号
消費者法ニュース 65 号 32 頁
◆貸金業者である控訴人が、Dに対する貸付を連帯保証した被控訴人に対し、本
件連帯保証契約に基づき、貸付金残元金等の支払を求めた事案において、被控訴
人は個人として本件連帯保証契約を締結しているから、本件連帯保証契約は消費
者契約に該当し、控訴人従業員は、消費者契約法4条1項1号に定める重要事項
について、被控訴人が誤信していることを知りながらあえて沈黙することによ
り、事実と異なることを告げたというべきであるから、本件連帯保証契約申込み
の意思表示の取消が認められ、かつ、本件連帯保証契約についての被控訴人の申
込みないし承諾の意思表示は、詐欺による意思表示として取り消すことができ、
また、要素の錯誤により無効であるというべきであるから、控訴人の請求を棄却
した原判決は相当であるとして、控訴を棄却した事例
論点項目
判示内容
「重要事項」要件
本件連帯保証契約における主債務者及びその支払能力、融資金の使用目
的及び弁済金の支払方法は、消費者契約法4条1項1号に定める重要な事
の在り方
項に当たるというべき である。
告知要件の在り方
上記(1)の事実によれば、Fは、Dが、被控訴人に対し、本件貸付におけ
る実質的借主がDではなくa社又はCであること、本件貸付金がa社の事
業資金に充てられること及びDがいわゆる信用情報のブラックリストに載
っていて支払能力が全くないことを秘し、a社の事業に投資するために借
入を行う旨の虚偽の説明をしているのを知りながら、本件連帯保証契約締
結の際、これらの事実をあえて被控訴人に告げなかったこと、そのため、
被控訴人は、主債務者が形式的にも実質的にもDであり、その支払能力に
は問題がなく、また、融資金がDの投資資金に充てられると誤信し、本件
連帯保証契約を締結したことが認められる。
そうすると、Fは、本件連帯保証契約締結の際、主債務者及びその支払
能力等の消費者契約法4条1項1号に定める重要事項について、被控訴人
が誤信していることを知りながらあえて沈黙することにより、事実と異な
ることを告げたというべき である。
220
【149】 ※消費者契約法施行前の事案(不法行為に基づく損害賠償請求)
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年 10 月3日 大津地裁 平 14(ワ)540 号
ジュリ別冊 200 号 78 頁(消費者法判例百選)
◆被告のパソコン講座の予約制を申し込み、同講座を受講した原告が、厚生労働
省の教育訓練給付制度を利用して受講することを希望していたが、被告の説明不
足のために、同制度を利用することができなかったとして、被告に対し、損害賠
償を請求した事案において、原告は、本件給付制度を利用することを前提として
本件講座を受講したことが認められ、予約制に本件給付制度が適用されないこと
を予め知っていたならば、予約制を利用しなかったものと判断するのが相当であ
り、被告の従業員であるCは講座の内容だけでなく、予約制では本件給付制度を
利用することができない旨の正確な説明をすべき義務があり、この点の説明を怠
ったCの行為には過失があるとし、原告が給付制度を利用して受講することを申
し出ていない点を考慮して2割の過失相殺をするなどして請求を一部認容した事
例
論点項目
判示内容
3 争点2(被告の説明義務の違反の有無)について
情報提供義務の在
(1) 平成13年4月1日施行の消費者契約法1条は、「消費者と事業
り方(法的性質、
同義務違反の効
者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定
果)
の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又
はその承認の意思表示を取り消すことができること・・により、消費者の
利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に
寄与することを目的とする。」と、同法3条は「事業者は、
・・・消費者契約
の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消
費者の権利義務その他の消費契約の内容についての必要な情報を提供する
よう努めなければならない。」と各規定し、更に同法4条2項は、「消費者
は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に
対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者
の利益になる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益
となる事実を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの
誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示
をしたときは、これを取り消すことができる。」と規定している。このよう
な消費者契約法の趣旨(事業者の情報の質及び量の絶対的な多さを考慮し、
これに対する消費者の利益の擁護による健全な取引の発展を目的とする趣
旨)からは、事業者が、一般消費者と契約を締結する際には、契約交渉段
階において、相手方が意思決定をするにつき重要な意義をもつ事実につい
て、事業者として取引上の信義則により適切な告知・説明義務を負い、故
意又は過失により、これに反するような不適切な告知・説明を行い、相手
方を契約関係に入らしめ、その結果、相手方に損害を被らせた場合には、
その損害を賠償すべき義務があると解する 。
(2) これを本件について見るに、被告は、資本金3800万円の企業
でAの名称で全国305校もの多数のパソコン教室を有し、厚生労働省か
ら指定を受けて、教育訓練講座を運営しているが、新聞、雑誌及びインタ
ーネット等を通じてAの講座を宣伝し、それら宣伝において、本件給付制
221
論点項目
判示内容
度が利用できることを述べている(甲3ないし5号証、証人Gの証言)
。ま
た、被告は、本件給付制度を利用すると最大30万円の給付金が支給され
るために、受講者の経済的な負担が少なくなり、受講者の確保を容易にす
ることから、本件給付制度が利用できる旨宣伝に記載しているとしている
(証人Gの証言)
。
このように、被告は本件給付制度を熟知していること、被告においては、
本件給付制度を利用して講座を受講することができることを宣伝して集客
を行っていることから、少なくとも本件給付制度の利用を前提として受講
内容の問い合わせを行った者に対しては、本件給付制度の説明及びその対
象講座について具体的かつ正確に説明すべき義務があると判断するが相当
である 。
(3) Cは、原告から平成13年2月26日に本件給付制度を利用して
受講できる講座についての説明を求めたのであるから(前記1の認定事
実)
、講座の内容だけでなく、予約制では本件給付制度を利用することがで
きない旨の正確な説明をすべき義務があり、この点の説明を怠ったCの行
為には過失がある。
よって、被告は、原告が予約制でも本件給付制度を利用できるものと思
って予約制の受講を申し込んだことによる損害について賠償すべき義務が
ある。
消費者の努力義務 4 争点3(損害)について
の在り方(法的性
(2) なお、原告は、13年2月28日B校でCに本件講座の受講を申
質、同義務違反の し込む際に、本件給付制度を利用して受講することを申し出ていない。し
効果)
たがって、少なくとも原告が、本件講座の受講申込みの際に、本件給付制
度を利用して本件講座を申込むものであることを説明していたならば、C
が予約制を勧めることがなかった(乙2号証、証人Gの証言)ことから、
その点において消費者契約法3条2項の趣旨及び公平の見地から過失相殺
をするのが相当であり 、本件説明義務の内容、損害の回避可能性などから
は原告の上記(1)の損害額から2割を控除するのが相当である。従って、原
告の損害は、24万円となる。
222
【150】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年9月 19 日 横浜地裁 平 14(ワ)1669 号
判時 1858 号 94 頁
◆前額部等の肝斑というシミの治療で形成外科等を専門とする医院でレーザー治
療を受けた女性が、前額部左側が色素脱出、右側が炎症性色素沈着の状態になっ
た場合に、診療契約は要素の錯誤により無効であるとして診療代金を支払う義務
はないとし、医師には説明義務違反があるとして損害賠償請求が認容された事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在
原告のシミに対する治療は、主として審美的な観点から行われたものと
り方(法的性質、 認められるから、いわゆる美容医療の範囲に入るものということができる。
同 義 務 違 反 の 効 美容医療の場合には、緊急性と必要性が他の医療行為に比べて少なく、ま
果)
た患者は結果の実現を強く希望しているものであるから、医師は、当該治
療行為の効果についての見通しはもとより、その治療行為によって生ずる
危険性や副作用についても十分説明し、もって患者においてこれらの判断
材料を前提に納得のいく決断ができるよう措置すべき注意義務を負ってい
るというべき である。
本件においては、原告のシミは肝斑であって、肝斑に対しては一般にレ
ーザー治療は増悪の危険性があって無効あるいは禁忌とされているもので
あったから、仮に原告が当該治療を希望した場合であっても、菅谷院長は
これらの点を十分に説明し、原告自らが納得のいく決断をすることができ
るよう措置すべき注意義務を負っていたというべきである。
しかるに、菅谷院長は、原告に対し、原告のシミはレーザー治療一回で
きれいになり、副作用などの危険性もほとんどないなどと説明して、レー
ザー治療を勧め、肝斑に対するレーザー治療の危険性については全くとい
ってよいほど説明をしなかったというべきである。その結果、原告は菅谷
院長の説明及び勧誘に従って代金八〇万円でレーザー治療を受ける決断を
したものであるから、菅谷院長には上記の説明義務違反があったというべ
きである。したがって、本件のレーザー治療によって原告に損害が発生し
た場合には、被告は民法四四条の規定に基づきその損害を賠償すべき義務
を負うことになる。
なお、菅谷院長がそのような説明義務を果たさなかったのは、そもそも
同院長が原告のシミを肝斑と判断していなかったことによるものと考えら
れる。その意味では、被告クリニックは原告のシミについての診断を誤っ
たということができる。したがって、そのこと自身を過失ととらえること
もできるが、原告は説明義務違反を請求根拠として主張しており、説明義
務の局面で考えても同院長に説明義務違反があることは明らかであるか
ら、本件では、説明義務違反に基づき被告について不法行為に基づく賠償
義務を認めることができる 。
223
【151】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年7月 24 日 神戸地裁 平 13(ワ)2419 号
ウエストロー・ジャパン
◆原告が被告に対して、フランチャイズ契約に基づいて支払った加盟金800万円
について、不当利得を理由に返還を求め、被告は、加盟金不返還特約を主張して争
った事案において、本件における加盟金は、営業許諾料、被告の商号・商標の使用
許諾料及び開業準備費用としての性質を有するところ、商号・商標の使用許諾料及
び営業許諾料を合わせても800万円に相当する価値があるとは到底認められな
い上に、被告は開業準備費用も支出していないのであるから、本件加盟金800万
円は著しく対価性を欠き、その返還を一切認めないという本件加盟金不返還特約
は、暴利行為であって公序良俗に違反し無効であるとし、商号・商標の使用許諾料
及び営業許諾料の対価は200万円を上回ることはないと推認され、これを超える
600万円の部分については被告の不当利得に該当するとして、原告の請求を一部
認容した事例
論点項目
判示内容
本件加盟金不返還特約は「加盟金は如何なる事由によっても返還しませ
不当勧誘行為に関
する一般規定(暴 ん」という一切留保のない規定であるところ、本件加盟金が800万円に
も及ぶことを考えると、本件加盟金800万円が対価性を著しく欠く場合
利行為)
にまで、事由の一切を問わずおよそ返還を求めることができないというの
は、暴利行為であって公序良俗に反し、無効と解すべき である(民法90
条)。
・・・
(中略)
・・・
以上のとおり、本件においては、商号・商標の使用許諾料及び営業許諾
料を合わせても800万円に相当する価値があるとは到底認められない上
に、被告は開業準備費用も支出していないのであるから、本件加盟金80
0万円は著しく対価性を欠き、高額に過ぎる と認められる。そうすると、
その返還を一切認めないという本件加盟金不返還特約は、暴利行為であっ
て公序良俗に違反し無効 というべきである。
・・・
(中略)
・・・
本件において、被告は、開業準備行為を行っていないのであるから、本
件加盟金の実質(営業許諾料、商号・商標の使用許諾料、開業準備行為費
用)のうち、被告が収受することができるのは、営業許諾料と商号・商標
の使用許諾料に限られるというべきである。
そして、前記認定のとおり、被告の商号・商標に周知性・集客力が認め
られないこと、純然たる営業許諾料以外に、年間数百万円のロイヤリティ
が支払われることを考慮すると、商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料
の対価としては、いかに高く見積もっても、本件加盟金800万円の4分
の1、すなわち200万円を上回ることはないと推認される。
従って、これを超える600万円の部分については被告の不当利得に該
当すると認められる から、被告は原告に対し600万円及びこれに対する
訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払義務を負う。
224
【152】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年7月7日 横浜地裁 平 15(手ワ)57 号
判タ 1140 号 274 頁
◆商工ローン会社が主債務者及び連帯保証人との間で締結した同社所定の定型の
契約書で定めている管轄合意条項について、被告の無思慮急迫状況のもとにされ
た管轄の合意として無効であり、受訴裁判所に管轄がないとして、職権で被告の
住所地を管轄する裁判所に移送された事例
論点項目
判示内容
不当条項リストの ※本件管轄合意条項:
「手形貸付取引、証書貸付取引等の金銭消費貸借契約、
手形割引等、本取引約定に基づく各取引に関して訴訟の必要性が生じた
追加の要否・在り
場合は、事物管轄に拘わりなく、債権者の本支点の所在地を管轄する裁
方(専属的裁判管
判所を管轄裁判所とすることに異議なく同意するものとします。」
轄合意規定)
原告の融資業務は、あらかじめ原告が独自に統一的に定めた様式の上記契
約書等を作成することによって貸付けが実行されるはずであるから、管轄
の合意に限ってみても、資金が逼迫して原告から融資を受けざるを得ない
多くの比較的零細な資金需要者(債務者)として、原告が定めた以外の内
容による管轄の合意をする余地などなく、このことと、原告が原告手形に
基づき提起する手形訴訟及び貸金請求訴訟等が、上記のような属性を有す
ることに照らすときは、これは、要するに、被告(債務者)の無思慮急迫
状況のもとにされた管轄の合意として無効というべきであるのみならず、
本件管轄合意条項は、原告手形の支払地、振出地及び被告(債務者)の住
所地いかんにかかわらず、原告が全国に散在する上記五〇箇所の本支店所
在地を管轄するいずれかの裁判所を任意に一方的に選択して訴えを提起す
ることを可能とする内容の管轄合意なのであって (因みに、平成一五年五
月一三日から同月二八日までの間に、原告が当庁(本庁)に提起した本件
を含めた手形訴訟(手ワ事件)は、合計六四件であるが、それら事件の振
出人たる被告の住所地ないし原告手形の振出地は、全国各地に点在し、北
は仙台市から西は高知県土佐清水市、南は沖縄県島尻郡まで極めて広範囲
に及ぶことは、当裁判所に顕著である。)、それ自体、一般的に被告から実
質的な防御の機会を一方的に奪うものとして管轄の合意としては無効と解
すべきである。
225
【153】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年5月 14 日 東京簡裁 平 14(ハ)85680 号
ジュリ別冊 200 号 82 頁(消費者法判例百選)
◆訪問販売により被告販売会社との間で売買契約を、被告信販会社との間で売買
代金についての立替払契約を締結した原告が、本件各契約の無効及び精神的損害
の存在等を主張して、不当利得返還、損害賠償、立替金債務不存在確認を求めた
のに対し、被告信販会社が、本件立替払契約に基づく立替金の支払を求めた事案
において、本件売買契約の一部につきクーリングオフを認め、また、本件売買契
約を公序良俗違反と認定して無効とした上で、立替払契約は売買契約と一体の契
約関係にあるから、売買契約が無効と解される以上、立替払契約も無効になると
して、原告の被告信販会社に対する弁済金の不当利得返還請求を認めたものの、
その他の本訴請求を退け、反訴請求は理由がないとして棄却した事例
論点項目
判示内容
退去すべき/する
(1) 販売店の勧誘行為は消費者契約法4条3項2号に該当するか
旨の意思表示要件
被告は、展示場において、自分が家出中であり、定職を有しないことや
絵画には興味のないことを繰り返し話したにもかかわらず、担当者は、被
の要否
告のこれらの事情を一切顧慮することなく勧誘を続け、契約条件等につい
て説明しないまま契約書に署名押印させ、収入についても虚偽記載をさせ
たものである。販売店の担当者は「退去させない」旨被告に告げたわけで
はないが、担当者の一連の言動はその意思を十分推測させるものであり、
被告は、販売店の不適切な前記勧誘行為に困惑し、自分の意に反して契約
を締結するに至ったものである 。販売店のこの行為は、消費者契約法4条
3項2号に該当するというべきである。
適正な行使期間
(2) 期間内の取消権行使か
被告は、前記販売店の不適切な勧誘行為を理由として、平成15年1月
23日提出の答弁書(同年1月27日原告に対しファクシミリにより送信
済み)において、信販会社である原告に対し、本件立替払契約を取り消す
旨の意思表示をした。消費者契約法においては、上記取消権行使期間は追
認することができる日から6ヶ月間とされており、被告の取消権行使がこ
の期間内のものであったかどうかについて検討する。
被告は、販売店から商品を引き取りに来るようにとの連絡を受け、平成
14年8月10日納品確認書に署名押印している。そして、この時点にお
いても、被告は、契約の意思も商品引取りの意思もないことを販売店に表
明しているのであり、申込時におけると同様、販売店の担当者の言動に基
因する困惑した状況のもとに、納品確認書に署名押印したことが認められ
る。この引渡しの手続は、販売店の債務履行のためになされたものであり、
申込時における契約と一体をなすものであると考えられる (因みに、鑑賞
のために購入したはずの絵画が、飾る場所がないからという理由でその後
も引き続き販売店において保管されている事実は、被告には当初から絵画
の購入意思がなかったことを推認させるものである。)。したがって、取消
権行使期間も、この時から進行すると解するのが相当である 。そうすると、
被告の取消権行使は、行使期間である6ヶ月間の期間内になされたという
ことになる。
226
【154】
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年3月 26 日 大阪高裁 平 14(ネ)2423 号
金商 1183 号 42 頁
◆相続税対策のための融資一体型の変額保険に加入するための銀行との間の約一
四億円の消費貸借契約について、要素の錯誤があったとして同消費貸借契約は無
効とされた事例
論点項目
判示内容
複数契約の解除の
ウ 以上検討したとおり、本件勧誘の程度・態様、勧誘に際し示さ
規律の要否
れた資料の体裁・内容、控訴人ら側の属性、相続税対策の要否その他の事
情にかんがみるならば、A夫、控訴人B雄のいずれにおいても、前記〈1〉
ないし〈3〉のリスクについての十分な情報を与えられ、各リスクについ
ての基本的な理解を得た上で、相続税対策のスキームとして本件変額保険
や本件消費貸借の締結に及んだとはいえるものではない。結局、控訴人ら
は、本件変額保険が真実は多大の投機的なリスクを孕んでおり、損益の予
測が極めて困難で相続税対策とは相容れない不確実性の側面を多々有する
のにもかかわらず、被控訴人側から相続税対策として有用であるとの有利
性の側面のみを強調され、再三の強い勧誘を繰り返され、わが国有数の大
銀行でありかつ長年にわたる取引を続けてきた被控訴人担当者らの言を信
じたがために、本件変額保険及び本件消費貸借契約の締結に至ったという
ことができる。
そして、相続税対策として有用かどうかということは動機であるが、控
訴人らも被控訴人も、本件変額保険や本件消費貸借契約が相続税対策のス
キームであるとの共通の認識があったから、その動機が表示されているこ
とは明らかである。
また、本件消費貸借契約は、相続税対策のスキームとしての本件変額保
険の保険料支払のためのものであるから、専ら相続開始時点における負債
の作出による相続財産の圧縮を目的とする。すなわち、本件変額保険への
加入とその保険料支払のための本件消費貸借契約とは、いずれか一方のみ
を実行し、他を残しても相続税対策のスキームとしては機能しない。した
がって、控訴人らにおいて、もし、かような相続税対策が効を奏しないの
であれば、被控訴人から10億円を超える借入れをおこしてまでして10
億円という巨額の変額保険契約を締結しなかったことはみやすい道理であ
るし、それが社会的に見ても相当である。したがって、相続税対策として
有用かどうかということは、本件変額保険のみならず本件消費貸借契約の
要素でもあると認めるのが相当である。
エ 本件変額保険及び本件消費貸借契約は、いずれも錯誤により無
効というはかない。
227
【155】 ※消費者契約法施行前の事案
裁判例
出 典
要 旨
平成 15 年2月 25 日 仙台地裁 平 13(ワ)310 号
裁判所ウェブサイト
◆海外旅行の際、預けた手荷物を予定どおり受取ることができなかった場合、旅
客と手荷物の所在、両者の地理的関係、その地域における航空機の運航状況その
他の交通事情、航空会社の運送処理体制等に照らして、旅客が運送されたときか
ら客観的に相当な期間を経過して手荷物が運送された場合には、航空会社は債務
不履行責任を負うとされた事例
論点項目
判示内容
約款規制に関する
原告らは、同約款は被告が一方的に作成したものであって、原告らとの
規律の要否(組入 間で改めて同約款に基づく合意が存在しない限り、同約款の効力は生じな
要件)
いと主張する。
しかしながら、同約款のような運送約款が付された運送契約を締結する
に際し、当事者双方が特に運送約款によらない旨の意思を表示しないで契
約を締結したときは、反証のない限り、その約款による意思をもって契約
をしたものと推定される 。
そして、証拠(甲 12 及び 13、原告宮城雅俊本人、原告吉岡和弘本人)に
よれば、原告らは、それぞれ、特に本件運送約款によらない旨の意思を表
示することなく本件各運送契約を締結したことが認められるから、同契約
の締結に当たり、同約款による意思で契約を締結したものと推定される。
したがって、原告らの主張は採用できない。
228
【156】 ※消費者契約法施行前の事案
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年 12 月 12 日 広島高裁 平 14(ネ)232 号
判タ 1157 号 157 頁
◆被控訴人が、控訴人に対し、分割弁済の期限の利益を喪失したとして貸金等の
支払を求めたところ、控訴人が約款は無効であるとして争った事案において、消
費者契約法は、同法施行前の契約には適用されないことが明らかであり、のみな
らず、当事者において期限の利益喪失に係る合意をすることは原則として有効で
あって、本件約款は、控訴人らに不当な不利益を強いるものではなく、また法律
関係を不当に混乱させるものでもないから有効であるとし、控訴人らが被控訴人
に対し、貸付債務の弁済を今後一切しないとの意思を表明し、期限までに引き続
き控訴人の返済口座から返済金を引き落とす事を承諾する旨の連絡をしなかった
のであるから、本件約款の「債権保全を必要とする相当な事由が生じたとき」に
該当するとして、請求を全部認容した原判決を相当として、控訴を棄却した事例
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(消費者の期限
の利益を喪失させ
る条項)
判示内容
控訴人らは、ア 本件約款が「債権保全を必要とする相当の事由」とい
う漠然として客観的に確定し得ない事実を条件とするものであるので、消
費者である控訴人らの利益を不当に害するから、消費者契約法10条の直
接適用又は同条の準用ないし類推適用により無効であること、イ 本件約
款が消費者の法律上の権利を合理的な理由なくして制限するものであるの
で、消費者契約法の趣旨を踏まえると、民法1条2項により無効であるこ
とを理由として、控訴人らが本件約款によっては期限の利益を喪失しない
と主張する。
しかし、消費者契約法の附則によると、平成13年4月1日施行にかか
る消費者契約法は、その施行前の消費者契約については適用されないこと
が明らかである。
のみならず、当事者において債務者の期限の利益喪失にかかる合意をす
ることは契約自由の原則上有効であるというべきであるから (最高裁判所
昭和39年(オ)第155号同45年6月24日判決・民集24巻6号58
7頁参照)
、消費者契約法の趣旨や民法1条2項に照らしても、本件約款の
効力を否定することはできないものというべき である。
※「本件約款」は、債権保全を必要とする相当の事由があるときには被控
訴人の請求により期限の利益を失うと定めるもの。
229
【157】
裁判例
出 典
平成 14 年 10 月 30 日 京都簡裁 平 13(少コ)155 号
消費者法ニュース 60 号 212 頁
論点項目
判示内容
勧誘要件の要否・
原告は、被告発行のパンフレット(甲1)を見て、仲裁手続が当事者双
在り方
方と仲裁人の3者同席のうえなされるものと誤信し仲裁手続を申し込んだ
と主張する 。確かに、パンフレット(甲1)の「和解」のところには3者
が並んだ絵が描かれているが、
「仲裁期日」のところでは、3者が同席して
手続をすることを発送させるような3者の絵は描かれていない。
「和解」の
ところの3者の絵は、和解が成立し、紛争が解決したことを比喩的に表現
したものと認められ、このパンフレットが、原告の主張するように、仲裁
手続の全般にわたり3者同席のうえで行われることを一般人に誤認させる
ものとは認められない。従って、被告が、仲裁センターにおける仲裁手続
を利用者(消費者)に勧誘するについて、重要事項につき一般人に誤信を
与えるような事実と異なることを告知したとはいえない。
230
【158】
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年7月 19 日 大阪地裁 平 13(ワ)9030 号
金商 1162 号 32 頁
◆消費者が自動車売買契約を解除した場合、事業者である売主に現実に損害が生
じていないときは、事業者は、特約条項に基づき損害賠償金を請求することはで
きないとされた事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
(2) これを前提として本件について検討するに、本件では、被告に
よる本件売買契約の撤回(解除)がなされたのは契約締結の翌々日であっ
額」の意義
たこと、弁論の全趣旨及び証拠(被告本人)によれば、原告担当者は、本件
売買契約締結に際し、被告に対し、代金半額(当初全額と言っていたが、
被告が難色を示したため、半額に訂正した)の支払を受けてから車両を探
すと言っていたことが認められることなどからすれば、被告による契約解
除によって事業者である原告には現実に損害が生じているとは認められな
いし、これら事情のもとでは、販売業者である原告に通常何らかの損害が
発生しうるものとも認められない。
原告は、本件売買契約の対象車両は既に確保していたとするが、それを
認定するに足りる証拠はない上、仮にそうであったとしても、被告に対し
てそのことを告げていたとは認められないし、また、被告の注文車両は他
の顧客に販売できない特注品であったわけでもなく、被告は契約締結後わ
ずか2日で解約したのであるから、その販売によって得られたであろう粗
利益(得べかりし利益)が消費者契約法9条の予定する事業者に生ずべき
平均的な損害に当たるとはいえない。
もっとも、厳密に言えば、原告が取引業者との間で対象車両の確保のた
めに使用した電話代などの通信費がかかっているといえないこともない
が、これらは 額もわずかである上、事業者がその業務を遂行する過程で日
常的に支出すべき経費であるから、消費者契約法9条の趣旨からしてもこ
れを消費者に転嫁することはできないというべきである。
231
【159】 ※消費者契約法施行前の事案
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年3月 26 日 神戸地裁 平9(ワ)10 号
ウエストロー・ジャパン
◆兵庫県南部地震が発生した平成7年1月17日に、所有ないし占有する神戸市
に存在した建物ないしその中の家財が火災によって焼失したと主張する火災保険
契約者や火災共済契約者ないしその相続人である原告らが、保険者ないし共済者
或いはその承継人である被告らに対し、1次的に、火災保険金ないし火災共済金
等の支払を求め、2次的に地震免責条項、地震保険等に関する情報提供をしなか
ったとして、旧募取法16条1項、11条1項違反、不法行為、債務不履行又は
契約締結上の過失に基づき火災保険金相当額の損害賠償金等の支払、3次的に被
告会社らに対し、3次請求のうち主位的に地震保険金等、2次請求のうち予備的
に地震保険金相当額の損害賠償金等の支払を求めた事案において、火災の火元は
地震によって生じたものとはいえないなどとして、原告1名の火災共済契約に基
づく請求についてのみ認めた事例
◆地震免責条項は公序良俗に反するものではないとした事例
◆原告らと被告会社らとの間で、火災保険契約を締結する際に、地震保険契約を
締結する意思の合致があったとは認められないとした事例
論点項目
判示内容
原告らは、顧客の合理的期待を超えた「不意打ち条項」には、約款によ
約款規制に関する
規律の要否(不意 るとの意思の推定が及ばず、契約内容とならないこと、当該規定が内容的
に「異例」で、
「不意打ち要因」がある場合に、不意打ち条項となると主張
打ち条項)
した上、地震免責条項、特に、第3類型を免責とする部分は不意打ち条項
であるから、火災保険契約や火災共済契約とならず、原告らを拘束しない
旨主張する。
しかし、原告らの主張する不意打ち条項に関する一般的な見解を採用す
るとしても、「異例」と判断されるためには、その条項が、約款による契約
全体からして、合理的な一般人において、想定することを期待することが
不可能であることが必要と解されるところ、火災保険において、異常危険
について免責条項があること、地震が異常危険に該当することを想定する
ことは合理的な一般人に期待することが不可能とは言い難いこと、第3類
型についても(第3類型が、地震免責条項の対象となるか否かは後述す
る。)、後述するように、地震によって、直接、間接に延焼、拡大が助長さ
れることも想定され、それが地震との関連を有するとの見解が異例とも言
い難いことからすると、地震免責条項が不意打ち条項に該当するとは言え
ない 。
232
【160】
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年3月 25 日 東京地裁 平 14(レ)12 号
判タ 1117 号 289 頁
◆パーティーを内容とするサービス契約の中途解約による損害賠償額の予定は、消
費者契約法9条1号にいう「当該事業者に生ずべき平均的損害額」に限定されると
ころ、平均的損害額につき民事訴訟法 248 条の趣旨に従って裁判所が相当の損害
額を認定した事例
論点項目
判示内容
「平均的な損害の
問題となるのは、消費者契約法9条1号にいうところの「平均的な損害」
の意義であるが、これについては、当該消費者契約の当事者たる個々の事
額」の意義
業者に生じる損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基
づき算定された平均値であり、解除の事由、時期の他、当該契約の特殊性、
逸失利益・準備費用・利益率等損害の内容、契約の代替可能性・変更ない
し転用可能性等の損害の生じる蓋然性等の事情に照らし、判断するのが相
当である。
「平均的な損害の
前記(1)アからも明らかなとおり、本件予約の解約は、開催日から二か月
額」の立証責任の 前の解約であり、開催予定日に他の客からの予約が入る可能性が高いこと、
本件予約の解約により被控訴人は本件パーティーにかかる材料費、人件費
在り方
等の支出をしなくて済んだことが認められる。
他方、前記(1)アないしウによれば、被控訴人は本件予約の解約がなけれ
ば営業利益を獲得することができたこと、本件パーティーの開催日は仏滅
であり結婚式二次会などが行われにくい日であること、本件予約の解約は
控訴人の自己都合であること、及び控訴人自身三万六〇〇〇円程度の営業
保証料の支出はやむを得ないと考えていること(弁論の全趣旨)が認めら
れる。
以上の控訴人、被控訴人にそれぞれ有利な事情に、そもそも本件では証
拠を検討するも、旅行業界における標準約款のようなものが見当たらず、
本件予約と同種の消費者契約の解約に伴い事業者に生ずべき平均的な損害
額を算定する証拠資料に乏しいこと等を総合考慮すると、本件予約の解約
に伴う「平均的な損害」を算定するに当たっては、民訴法 248 条の趣旨に
従って、一人当たりの料金四五〇〇円の三割に予定人数の平均である三五
名を乗じた四万七二五〇円(4500×0.3×35=4 万 7250 円)と認めるのが
相当であり、この判断を覆すに足りる証拠はない 。
233
【161】
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年3月 12 日 神戸簡裁 平 13(ハ)2302 号
ウエストロー・ジャパン
◆被告の経営する俳優等の養成所に入所した歌手志望の原告が、入所式直後に、
被告の養成システムが原告の考えていたものと違う等として退所を申し出、錯誤
による契約無効、被告の勧誘に不実の告知があったとして消費者契約法4条1項
による契約取消を主張して、被告に対し、入所に際して被告に納入した諸経費等
の返還を求めた事案において、被告(事業者)は原告(消費者)に対し、本件契
約を勧誘するに際して、歌手コースに進むことについて、月謝の値上げという原
告に不利益となる事実を告げておらず、かつ原告が月謝の値上げを知らなかった
ことにつき、被告には故意があったと認定し、原告の本件契約取消の主張は理由
があるとして、原告の支払った入所経費の限度で請求を認容した事例
論点項目
勧誘要件の在り方
判示内容
原告は、被告は本件契約を「勧誘するに際し、重要事項について事実と
異なることを告げ」たから法4条1項により本件契約についての意思表示
を取り消したと主張する。確かに、前掲各証拠によれば、被告は、応募し
てきた原告に対して、書類審査の上、面接(オーディション)通知(乙3)
とともに、
「ごあんない」と題する書面(乙4)を、次いで、合格通知(乙
6)、
「合格者入所御案内」
(乙1)をそれぞれ送付しており、それらの各書
面(以下「案内書類」という)には原告が本訴で主張している文言の記載
がなされていることが認められる。
ところで、前記2で認定した事実によれば、原告は新聞広告により被告
においてテレビタレントや歌手等の新人養成をしており、これの希望者を
募集しているのを知って応募し、合格通知を受けて、所定の入所経費を納
入して入所手続を完了したというのであるから、一連の手続の中で被告か
ら原告に送付された上記各書類(案内書類)は、本件契約成立以前に、す
なわち「契約の締結について勧誘をするに際し」て送付された ということ
ができるものである。
・・・
(中略)
・・・
そこで、被告の案内書類において、原告が主張する「事実と異なること
を告げ」たかどうかについて検討するに、前記原告の主張事実に沿う趣旨
の証拠として甲2及び原告本人の供述があるが、これらは乙10、同15
及び証人●●●の証言に照らすと、たやすく採用することができない。か
えって、乙10、同15及び証人●●●の証言によれば、被告における施
設及び新人養成の実態は、上記のとおり、会社や学校の入社入学案内と同
じく、その性格上有利と思われる点については多少の強調をする傾向があ
ることは避けられないものの、少なくとも案内書類にはほぼ真実が記載さ
れていると認められるのであって、少なくとも事実と異なることを告げて
いるとすることはできない (ちなみに、前記●●●証言によれば、被告は
業界でも一、二を争う大手業者であることが認められるのであり、また、
「芸能界全般にわたる強大な出演網」という記載は、主観的な評価という
べきものであり、客観的な事実により真実か否かを判断することができな
いものというべきであろう)。
234
論点項目
判示内容
①先行行為要件の
そもそも、前記のとおり、被告は歌手コースに新人養成所研究生として
要否
入所することになった者(原告)との間で本件契約を結ぶに当たり、月謝
②不告知要件の在 1か月分として1万3650円を納入させているのであるから、被告に入
り方
所した当人にしてみれば、これは歌手コースとしての月謝であると思うの
は当然のことであり、まさかこれは歌手コースの月謝ではなく、当初3か
月間演技の基本レッスンを学ぶための演技コースの月謝であり、その後歌
手コースに進むと、月謝が1万5750円に値上げされるなどとは思わな
いのが通常であるというべきである上、本件契約の場合、その値上げの率
も15パーセント強とかなりの高率であり、その値上げ額も飲食店のアル
バイトで生活している、来日してそれほど間もない中国人である原告にと
っては決して軽い負担とはいえないものであって、これらの事情を考え併
せると、月謝の値上げについては、本件契約を勧誘するに際して、被告は
原告に対し、月謝として1万3650円を納めさせて歌手コースに入所さ
せるという「利益」を告げながら 、3か月後には月謝の値上げがあるとい
う「不利益」を告げておらず、このため原告は歌手コースの月謝は入所時
に支払った1万3650円のままであると誤信したものといわなければな
らない。
故意要件の要否
被告が原告に月謝の値上げを告げていなかった以上、原告がこれを知ら
なかったのは当然であり、しかも、この事実は被告においでも認識し得た
はずであるから、この点について被告には「故意」があったといわざるを
得ない。
235
【162】
裁判例
出 典
要 旨
平成 14 年 2 月 22 日 東京地裁 平 12(ワ)28018 号
ウエストロー・ジャパン
◆マンション居室の売買契約がマンションの建築前及び建築中に締結される場合
には、売主及び販売代理人は、買主に対し、マンションの近くに変圧器付き電柱
が存在すること、その内容、位置関係等について説明すべき信義則上の義務があ
るとされた事例
論点項目
情報提供義務の在
り方(法的性質、
同義務違反の効
果)
判示内容
電柱は、電線が地下に埋設されている一定の地域を除き、公道等に一定の
間隔で設置されているものであるから、本件のように、特に都市型のマン
ションにあっては、周囲に電柱が配置されていることは容易に想像できる
といえる。また、マンション購入者は、現地見分を行って購入するのが通
常であるから、購入予定のマンションの近くに電柱等があり、マンション
と電柱との位置関係や電柱の形状等を確かめて購入することが可能であ
る。このようなことからすると、マンション販売業者に、常に、購入予定
者に対し、電柱の存在を説明する義務があるとは解されない。
しかし、マンションの居室の売買契約が、マンションの建築前若しくは
建築中に締結されるようなときは、マンション購入者は、現場に臨んだと
しても、購入する居室と嫌悪施設との位置関係を知ることは容易でないの
であるから、これを知り得る立場にあるマンションの販売業者は、購入者
に対し、嫌悪施設の存在、その内容、位置関係等をあらかじめ説明する信
義則上の義務があると解するのが相当 である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、本件変圧器付き電柱は、
本件建物のリビングルーム開口部から4.3メートル、バルコニー先端か
ら3メートルという至近距離にあり、またその変圧器は、ちょうど本件建
物のリビングルーム開口部あたりに位置し、それがため、本件建物のリビ
ングルームの窓はふさがれたようになっていたこと、本件売買契約は、本
件マンションの建築途中で行われ、当時本件マンションの工事現場周辺は
囲いがされ、工事中の建造物にはシートがかぶされ、その外側から、購入
する居室がどのあたりに位置するかは容易に知り得ない状況にあったこと
に照らすと、本件変圧器付き電柱は本件建物の居住者である原告にとって
嫌悪施設に当たり、しかもこの嫌悪施設である本件変圧器付き電柱と本件
建物の位置関係は、売買契約締結の段階では容易に知り得なかったのであ
るから、本件建物を販売した被告らは、本件売買契約締結前に、原告に対
し、本件変圧器付き電柱が存在することを原告に説明する信義則上の義務
(本件建物を販売した被告セコムは売買契約上の、その代理人を務めた被
告新都心は不法行為上の)があったものというべきである。しかるに、被
告らは、原告に対し、本件建物を販売する前に、原告に対し、本件変圧器
付き電柱が存在することを一切説明しなかったのであるから、この信義則
に違反したものというべきである 。
もっとも、被告らも、本件変圧器付き電柱が本件建物の前面に位置する
ことを知らなかったことが認められるが、被告らは、本件建物を販売する
者として、当然これを知りうる立場にあったのであるから、その存在を知
236
論点項目
判示内容
らなかったからといって、この義務を免れるものではない 。
237
【163】
裁判例
出 典
要 旨
平成 10 年7月 29 日 東京高裁 平7(ネ)5834 号
判タ 1042 号 160 頁
◆甲乙間のマンション売買契約と甲丙間のライフケアサービス契約が一体のもの
であり、後者の債務不履行を原因とする解除事由があれば両者とも解除し得るが
(解除事由否定)、右売買契約と甲丁間のケアホテル会員契約とは右のような一
体性はないとされた事例
論点項目
判示内容
複数契約の解除の 本件マンションの売買契約(甲三)とライフケアサービス契約(甲八)と
規律の要否
は、形式上は契約の当事者も異なる別個の契約となっているが、上記のよ
うな契約内容から明らかなように、本件マンションの購入者は(株)中銀
ライフケアとの間でライフケアサービス契約を締結してライフケアメンバ
ーとなることが売買契約上必須の内容となっており(転売する場合におい
ても転売先の第三者がライフケアサービス契約を(株)中銀ライフケアと
の間に締結してライフケアメンバーとなる必要がある。)、本件マンション
の区分所有権の得喪とライフケアサービス契約のメンバーとなることは密
接に関連づけられ、被控訴人は両者がその帰属を異にすることを予定して
いないのみならず、およそライフケアサービスの内容とされる物的施設及
び食事を含む各種サービスの提供、利用関係を抜きにしては、居住の用に
供すべき本件マンションの所有権取得の目的を達することができない関係
にあるというべきである。その意味で、本件マンションの売買契約とライ
フケアサービス契約とは相互に密接な関連を有し、前者の解除が契約条項
上当然に後者の契約の消滅事由とされている(二三条)にとどまらず、後
者について債務の本旨にしたがった履行がないと認められる場合には、本
件マンション売買契約を締結した目的が達成できなくなるものというべき
であり、ライフケアサービス契約について債務不履行を原因とする解除事
由がある場合には、控訴人らとしては右ライフケアサービス契約の債務不
履行を理由として右ライフケアサービス契約と併せて本件マンション売買
契約についても法定解除権を行使し得るというべきである。
238
【164】
裁判例
出 典
要 旨
平成 10 年 4 月 22 日 東京高裁 平 8(ネ)593 号
判タ 1003 号 220 頁
◆節税のため等価交換方式によるマンションの建築の勧誘につき建設業者の契約
締結上の過失に基づく損害賠償責任が認められた事例
論点項目
判示内容
情報提供義務の在 1 契約締結上の過失及び契約履行段階における過失について
り方(法的性質、
(一) 前記一に認定説示したことろによれば、元々控訴人らにいわ
同 義 務 違 反 の 効 ゆる等価交換方式によるマンション建設の話を持ちかけたのは被控訴人で
果)
あり、被控訴人の営業担当者は、等価交換方式によれば、マンションの建
設に伴う課税は全くされないか、又は、特段の用意が必要な多額の税負担
が生じることはないと判断し、控訴人らに対してその旨説明していたので
あるから、被控訴人の営業担当者は、マンション等の大手建設業者の従業
員として、等価交換方式によるマンションの建設方法について正しい知識
を持ち、十分な理解をした上、控訴人らに対し誤解を招くことがないよう
正しく説明すべきであったことはもちろん、ディベロッパーが見つかった
後も、控訴人らに多額の税負担が生じることのないように、控訴人ら及び
ディベロッパーとの間で、綿密な打合せ・調整を図り、工夫をするなどす
べき注意義務があったものというべき である。
しかるに、被控訴人の担当者は、先に繰り返し判示したとおり、等価交
換方式に関する租税特別措置法の規定を「土地等を譲渡した者が、譲渡し
た土地等の価格以下の資産を取得すれば税金はかからないが、それを超え
る資産を取得した場合には、その差額について税金がかかる。」と誤った理
解をしていたのであり、その誤解を前提にした上、控訴人らに対しその旨
誤った説明をして、控訴人らを注文者とし、被控訴人を請負人とする本件
マンションの建設工事請負契約を締結し、さらに、ディベロッパーとして
檜不動産が見つかった後は、檜不動産と何ら打合せ・調整を図ることをせ
ず、本件マンションの区分所有建物一五戸を檜不動産に売却するよう交渉
して売買契約を締結させ、それ以後の手続を檜不動産や司法書士等に任せ
きりにしていたのである。
そうであるとすれば、被控訴人の担当者には、等価交換方式について正
しい知識を持ち十分な理解をした上、控訴人らに対し誤解を招くことがな
いよう正しく説明すべき義務、控訴人ら及びディベロッパーとの間で、控
訴人らに多額の税負担が生じることのないように打合せ・調整を図り、工
夫をするなどすべき義務の違反があったことは明らか であり、被控訴人に
は、この点において契約締結上の過失及び契約履行段階における過失があ
ったものといわなければならない。
そして、控訴人らは、被控訴人の担当者の前記説明を信頼して被控訴人
との間に本件マンションの建設工事請負契約を締結し、被控訴人は、本件
マンションを建設した上、その区分所有建物一五戸を檜不動産に売却する
交渉などしたのであるから、被控訴人は、控訴人らに対し、不法行為に基
づき、これらの過失によって控訴人らに生じた損害を賠償すべき義務があ
る。
239
【165】
裁判例
出 典
要 旨
平成 9 年 3 月 18 日 秋田地裁 平 7(ワ)158 号
判タ 971 号 224 頁
◆積雪の重みで鶏舎の屋根が落下した事故は、店舗総合保険普通保険約款一条二
項にいう「雪災」に当たるとして、保険金請求が認容された事例
論点項目
判示内容
解釈準則に関する 2 右の「雪災」の定義については、店舗総合保険普通保険約款に明示され
規律の要否
ていないし、必要にして十分な定義づけをすることも困難であるから、結
局のところ、社会通念及び保険の目的にしたがって判断するよりほかない。
被告は、
「雪災」とは、異常な気象状況(三〇年以上経験しなかったほど
稀で極端な天候)によって生じた雪による災害であると主張するが、店舗
総合保険普通保険約款上、
「雪災」を右のように限定する条項はなく、保険
事故として、
「風害」と並んで「豪雪、なだれ等の雪災」が明記されている
本件保険契約において(原告でも、台風被害の場合には三〇年に一度の台
風に限定するような解釈はとっていないであろう。)、右約款の「雪災」の
意味を右のように極めて限定して解さなければならない理由はない。この
点をさらに敷衍すれば、証拠(甲第一五、第一六、乙第四、証人佐藤賢、原
告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、
「雪災」の意味については、店
舗総合保険普通保険約款及びパンフレットにその説明はなく、被告もこれ
といった明確なものを持ち合せておらず、実際に保険の勧誘及び契約を行
う損害保険代理店にもその説明を行っていなかったこと、原告も、本件保
険契約締結にあたって、損害保険代理店であるケンジャパン有限会社の佐
藤賢から雪で鶏舎が潰れたら保険金が支払われる程度の説明を受けただけ
であることが認められる。ところで、一般に普通契約約款の作成にあたっ
て、相手方が関与することはなく、相手方の意向が約款に反映されること
はないから、約款の不明瞭な部分に関しては、作成者にその危険を負わせ、
約款の作成者に不利に、相手方に有利に解釈されるべきである。したがっ
て、約款上まったく明記されていないにもかかわらず、
「雪災」にあたる場
合を、被告主張のように限定する解釈は受け入れることはできない。
240
【166】
裁判例
出 典
要 旨
平成8年 11 月 12 日 最高裁第三小法廷 平8(オ)1056 号
民集 50 巻 10 号 2673 頁
◆同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由
に他の契約を解除することのできる場合
◆いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が
締結された場合にその要素たる債務である屋内プールの完成の遅延を理由として
買主が右売買契約を民法五四一条により解除することができるとされた事例
◆同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上
の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連
付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけで
は契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契
約上の債務の不履行を理由に、その債権者は、法定解除権の行使として甲契約と
併せて乙契約をも解除することができる。
論点項目
判示内容
複数契約の解除の
2 前記一 3 の事実によれば、本件マンションの区分所有権を買い受け
規律の要否
るときは必ず本件クラブに入会しなければならず、これを他に譲渡したと
きは本件クラブの会員たる地位を失うのであって、本件マンションの区分
所有権の得喪と本件クラブの会員たる地位の得喪とは密接に関連付けられ
ている。すなわち、被上告人は、両者がその帰属を異にすることを許容し
ておらず、本件マンションの区分所有権を買い受け、本件クラブに入会す
る者は、これを容認して被上告人との間に契約を締結しているのである。
このように 同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約
といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とすると
ころが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約
のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成
されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その
債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除すること
ができるものと解するのが相当である。
3 これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポ
ーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンション
であり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をその
ような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上
告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務
の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができな
くなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表
示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四
一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当で
ある。
241
【167】
裁判例
出 典
要 旨
平成5年7月 13 日 東京高裁 平4(ネ)2980 号
金法 1392 号 45 頁
◆不動産を顧客に分譲するとともに、顧客から賃借する契約は売買契約と賃貸借
契約の混合契約であるが、可分の契約であるとして、賃料の不払いによる契約全
体の解除を認めなかつた事例
論点項目
判示内容
複数契約の解除の ※原審(東京地判平成4年7月 27 日(判時 1464 号 76 頁))では、
「本件契
規律の要否
約は、本件持分を買い受ける方法により出資し、これに対し相当の利益
配分を受ける旨の、本件持分の売買と賃貸借契約が不可分的に結合した
一種の混合契約であるとみるのが相当であつて、右契約が形式上売買契
約の部分と賃貸借契約の部分とに分かれている体裁をとつているからと
いつて、後者の債務不履行が前者の解除事由に当たらないとすることは
相当でない」として、契約全体の解除を認めた。
本件契約は、これを経済的にみれば、持分の取得者(買主)が取得した持
分を直ちに売主に賃貸し、もっぱら賃料を収受することによって経済効果
を達成する仕組みであって、持分の処分により投下資本の回収を図ること
も可能である。一方、法律的には本件物件の持分の売買契約と賃貸借契約
との混合契約であることが明らかである。そして、本件契約の各条項を仔
細に検討すれば、売買契約の部分と賃貸借契約の部分とはそれぞれ可分の
ものとして扱われており、売買契約の解除は売買契約の条項に不履行があ
った場合を前提とし、賃貸借契約の不履行により売買契約の効力が左右さ
れることを窺わせる条項は存在しない。そうすると、本件契約においては、
賃貸借契約の不履行により売買契約をも含めた本件契約全部の解除を予定
した特段の規定のない以上、売買契約の履行が完了した後は、売買契約の
解除事由も消滅し、賃貸借契約の不履行など賃貸借契約上の問題によって
売買契約の効力が影響を受けることはないこととし(賃貸人は賃料請求、
賃貸借契約の解除、持分の処分などの方法を選択することができる。)、法
律関係の安定を図ったものと解するのが相当である。
ところで、被控訴人は、賃料支払債務の不履行を理由として本件契約全
部の解除を主張しているが、右に説示したとおり解除事由に当たらないか
ら右主張は理由がない。
242
【168】
裁判例
出 典
要 旨
昭和 62 年 11 月 17 日 津簡裁 昭 61(ハ)148 号
判タ 661 号 177 頁
◆北海道原野の転売斡旋、不当な測量代金の支払契約が、依頼者の無知に乗じて暴
利を博するもので、公序良俗に反して無効とされた事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 四 次に、原告の公序良俗違反について考えてみる。前記認定事実による
する一般規定(暴 と、被告会社は、本件測量工事請負契約成立によつて、契約締結費用を含
めて、金九〇万円位の営業利益を得ることゝなるのは計算上明らかである。
利行為)
ところで、前記認定事実を総合すると、本件土地を坪当たり金九万円で
売却できるとは到底考えられないところからみて、被告会社は、当初から
本件土地転売の斡旋をする意思を有しなかつたのではなかろうかと推認す
るのが、ごく自然であろうか と思われる。そして、被告会社は、同社々員
森園嘉春をして、原告に右転売の話をさせて、同人の金銭的欲望を刺激 し
(原告が本件土地を前記認定事実のように本件土地を坪当たり金三万円で
手に入れたのは、利殖の意思が大いにあつたことは、同土地が原告の住所
地から遠く離れた北海道内の土地であることから容易に想像できる。)、そ
れを好餌として本件測量工事請負契約を締結させたと推認するに難くな
い 。このことは、原告らの本件土地は既に測量ずみであるから、その再度
の測量の必要性について疑問を呈したことに対する右森園の応答内容によ
つてもうかがわれるところである。
これら一連の行為は、本件土地の価格等についての原告らの無知に乗じ、
商業道徳をいちぢるしく逸脱した方法によつて暴利を博する行為であつ
て、公序良俗に反して無効であると解するほかはない。
そうすると、被告会社は原告が本件測量着工金として支払つた金五五万円
を原状回復として返還する義務があるといわなければならない。
243
【169】
裁判例
出 典
要 旨
昭和 62 年 10 月 13 日 高松高裁 昭 62(ラ)27 号
高民 40 巻 3 号 198 頁
◆生命保険普通保険約款による義務履行地の定めが、実質上専属的合意管轄を定
めたもので、相手方と対等の立場にない保険契約者に不利に、しかも、保険契約
者が十分にその意味を理解することなく契約されることを前提としたものと認め
られる場合には、右定めは無効であり、これに基づく義務履行地は民事訴訟法五
条の特別裁判籍とならない。
論点項目
不当条項リストの
追加の要否・在り
方(専属的裁判管
轄合意規定)
判示内容
本件約款一一条による義務の履行地の定めは、前記認定のとおり、実質上
専属的合意管轄を定めたものにほかならないところ、およそ右専属的合意
管轄のように、相手方と対等の立場にない経済的弱者ともいうべき保険契
約者に不利に、しかも同人が十分にその意味を理解することなくしてなさ
れたものと推測されるものについては、その効力を有しないものとみるの
が相当である。なぜならば、約款は保険契約のように大量処理の必要上附
合契約によらなければならない性質のものについて定められるものであつ
て事柄の性質上必ずしもその内容について具体的合意を要しないものとさ
れているのであるから、当然その内容は合理性・妥当性を備えなければな
らないと解されるところ、本件約款一一条は右要件の具備について疑問な
しとしないからである。このことは、前記認定のとおり、本件約款一一条
と同旨のものが生命保険業界において保険契約者の利便を考慮して漸次改
善されつつあることに加え、もし保険会社において従来の右約款に固執す
るときは、その説明をなす限り、契約申込者は既に右約款を改めた同業他
社との契約締結に流れるであろうと考えられることによつても裏付けられ
るところである。そうすると、本件約款一一条は相手方がその説明をなさ
ず、しかも保険契約者がこれを知らなかつたことを前提に存続可能なもの
と言つても過言でなく、このような約款は附合契約としての許容限度を超
えたものと解さざるをえない。
244
【170】
裁判例
出 典
要 旨
昭和 58 年3月 31 日 名古屋地裁 昭 54(ワ)2242 号
判時 1081 号 104 頁
◆難聴を治癒すると称して祈祷と療術を施し高額の料金を取得した行為に公序良
俗に反する部分があるとした事例
論点項目
判示内容
不当勧誘行為に関 (公序良俗違反の契約無効による返還請求)
する一般規定(暴 三 前記一、3で認定した被告の療術行為が医師法一七条で禁止されてい
利行為)
る医業の内容である医療行為に当たるとは認められず、またあん摩師・は
り師・きゆう師及び柔道整復師法一二条で禁止されている医業類似行為に
当たるものとも認められない。
そして前認定のごとき被告の加持祈とうはそれ自体が公序良俗に反する
ということができないのはもちろんである。
しかしそれが人の困窮などに乗じて著しく不相当な財産的利益の供与と
結合し、この結果当該具体的事情の下において、右利益を収受させること
が社会通念上正当視され得る範囲を超えていると認められる場合には、そ
の超えた部分については公序良俗に反し無効となるものと解すべきであ
る。
本件においては前記一で認定したように、原告をはじめその家族は、医
師からも見放された春子の難聴を治すため、いわば藁をも掴みたい心境 に
あり、これに対し被告は過去に難病を治癒させた例のあることを引き合い
に出し、春子の難聴も治癒できる旨言明して、原告を契約締結に誘引し、
そして昭和五一年一一月二六日から昭和五四年三月三日まで、この間春子
の難聴はいっこうに回復の兆しがなかったのに、再三治ると繰り返し、合
計七三七回にわたり春子を殆ど毎日のように通わせて加持祈とうを継続
し、一回金八、〇〇〇円による 合計金五八九万六、〇〇〇円という高額な
料金を取得 したものであって、以上のような事情の下では、被告に対し右
料金全額の利得をそのまま認めるのは著しく不相当であり、社会一般の秩
序に照らし是認できる範囲を超えている ものといわざるを得ない。しかし
て前記一認定のように、被告が属している善導会では一回の料金が金二、
〇〇〇円と決められていること、また被告は最初春子の難聴を一年のうち
に治す旨言明し、しかも前記のように高額な料金を取得し続けてきたので
あって、かかる点からすると、療術開始後相当期間経過してもなお症状に
回復の兆しがなければ、原告に対しその事情を通知し、療術を続けること
の再考を促し、損失の不当な拡大を防止すべきであったと認められること、
その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、被告が原告から支払を
受けた料金のうち、昭和五一年一一月二六日から昭和五二年一二月までの
間合計三五四回について一回当り金二、〇〇〇円による合計金七〇万八、
〇〇〇円については被告の取得を是認できないわけではないが、その余の
金五一八万八、〇〇〇円について被告の取得を認めるのは公序良俗に反し、
契約はその限度で無効である。
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