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判例研究会
判例研究会
2014.02.13
秀
桜子
平成25年(ネ)第10064号 損害賠償等請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成24年(ワ)第24571号)
【当事者】
原告X(漫画家)
なお、訴外有限会社X漫画製作所は原告制作の漫画の著作権管理等を行う特例有限会
社である。
被告Y
【事案の概要】
X漫画製作所は同社が運営するウェブサイトの販促活動の一環として、同サイト経由で
原告の作品を購入した顧客に対して、原告が顧客のリクエストに応じた似顔絵を描いて贈
与するというサービスを行っていた。
同サイト経由で単行本を購入した被告Yは、X漫画製作所に対して、昭和天皇および平
成天皇のイラストをリクエストしたので、原告は同人らを描いたイラスト2枚(本件似顔
絵)を被告Yに対して送付した。
その後、被告Yは、ツイッターに「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。陛下の
似顔絵を描いてくれるプロのクリエイターさん。お願いします。クールJAPANなう、
です。
」と投稿し、その後、本件似顔絵のうち1枚を画像投稿サイトにアップロードし、ツ
イッターに「陛下プロジェクトエントリーナンバー1、X。海猿、ブラックジャックによ
ろしく、特攻の島」と投稿して、画像投稿サイトにリンクを張った。
また、被告Yは、本件似顔絵のうちの残る1枚を撮影した写真を上記画像投稿サイトに
アップロードし、ツイッターに「はい応募も早速三通目!盛り上がって来たねぇ陛下プロ
ジェクト。なんとまたXさんの作品だ!なんか、萌えますな。萌え陛下。」と投稿して、画
像投稿サイトにリンクを張った(これら一連の行為を「本件行為」という)
。
これに対し原告が、
「お客様のリクエストには極力お応えするのですが、政治的、思想的
に利用するのはご遠慮ください。あくまで個人的利用の範囲でお応えしたイラストです。」
と投稿したところ、被告は、「あ、はいゴメンなさい。賛同していただけると思ったのです
が、届きませんでしたか...ごめんなさい。消します。」と投稿し、その後、本件似顔絵の写
真を上記画像投稿サイトから削除した。
これに対して、原告Xが、①本件似顔絵を無断で画像投稿サイトにアップロードしたこ
とは公衆送信権侵害である、②本件似顔絵の写真を、上記投稿と共にアップロードする行
為は、著作者人格権侵害にあたるとして、損害賠償を求めた事案。
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【原告の主張】
本件似顔絵の写真を、上記投稿と共にアップロードする行為は、原告が政治色の強いプ
ロジェクトに賛同しているとの誤解を公衆に生じさせるものである、原告は第二次世界大
戦時の日本を舞台とする漫画を連載しており、天皇崇拝者と誤解されると、その作品が色
眼鏡で見られるおそれが生じるから、このような行為は原告の「名誉又は声望を害する方
法で著作物を利用する行為」である。
【裁判所の判断】
被告Yの上記投稿は自作自演の投稿であったにもかかわらず、本件似顔絵を入手した経
緯について触れることなく、あたかも被告がツイッター上に「天皇陛下にみんなでありが
とうを伝えたい。
」
「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ、プロのクリエーターに天皇
の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ、原告Xがその趣旨に賛同して本件似顔絵を
2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて、本件似顔絵の写真を画像投稿サイト
にアップロードしたものである。
本件似顔絵には、
「C様へ」及び「X」という原告Xの自筆のサインがされていたところ、
「C様」は、被告Yのツイッターにおけるハンドルネームであった。
上記の企画は、一般人からみた場合、被告Yの意図にかかわりなく、一定の政治的傾向
ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり、このような
企画に、プロの漫画家が、自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿す
ることは、一般人からみて、当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴、
賛同しているとの評価を受け得る行為である。
しかも、被告Yは、ツイッターに、原告の筆名のみならず、第二次世界大戦時の日本を
舞台とする「特攻の島」という作品名も摘示して、上記画像投稿サイトにリンクを張った
ものである。
そうすると、本件行為は、原告Xやその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場
からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって、原告の名誉又は声望を害
する方法により本件似顔絵を利用したものとして、原告の著作者人格権を侵害するものと
みなされる。
【学説・裁判例】
■著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人
格権を侵害する行為とみなす(著作権法第113条第6項)
。
■著作者人格権(=公表権・氏名表示権・同一性保持権)との関係
・著作権法第113条第6項は、
「3種の著作者人格権のほかに第4の権利として名誉・声
望保持権ともいえる性格のものを定めたと実質的に評価できる規定」で、
「著作者の品位・
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信用あるいは社会的な声価を保つ権利を裏から規定したもの」であり、「立法趣旨は、著作
物を創作した著作者の創作意図を外れた利用をされることによってその制作意図に疑いを
抱かせたり、あるいは著作物に表現されている芸術的価値を非常に損うような形で著作物
が利用されたりすることを防ぐことにあ」る(加戸・逐条講義)
。
・名誉または声望を害するとは、
「著作物の同一性を害さない行為であるにも拘わらず、著
作者人格権侵害行為とみなすからには、それ相応の行動の基準というものが明確にならな
いことには著作物の利用者に不測の不利益を与えることになりかねないから」、「著作者の
社会的な名誉の毀損、すなわち、著作物の著作者が公衆から受ける評価を低落せしめる行
為を指」し、
「単なる名誉感情の毀損は含まない。
」対象は「あくまでも著作物を利用する
行為に限られ」
、
「著作物の創作的表現を用いることなく、著作物を論評する行為は本項の
枠」外である(田村・著作権法概説)。
■裁判例
・最二小昭和61年5月30日
法三六条ノ二は、著作者人格権の侵害をなした者に対して、著作者の声望名誉を回復す
るに適当なる処分を請求することができる旨規定するが、右規定にいう著作者の声望名誉
とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観
的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値につ
いて有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである
・東京地裁平成5年8月30日
基本的ストーリーの変更、表現内容の変更、表題の変更は、原告著作物のような読み物
をテレビドラマ化する場合、外面的な表現形式の相違により必然的に生ずる表現の削除、
付加、変更の範囲をはるかに超えた変更であり、原告が原告著作物について有している同
一性保持権を侵害するものである。
また、右に認定したような原告著作物の基本的ストーリー、表現内容又は表題の変更は、
原告著作物についての原告の創作意図に反する利用であり、後記九2認定のとおり、女性
の自立、女性の権利擁護のための著述活動、社会的活動を行って来た原告の名誉又は声望
を害する方法による原告著作物の利用であることも明らかであるから、著作権法一一三条
三項により、原告の著作者人格権を侵害したものとみなされるものである。
・東京高裁平成14年11月27日
著作権法113条5項の規定が、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物
を利用する行為を著作者人格権の侵害とみなすと定めているのは、著作者の民法上の名誉
権の保護とは別に、その著作物の利用行為という側面から、著作者の名誉又は声望を保つ
権利を実質的に保護する趣旨に出たものであることに照らせば、同項所定の著作者人格権
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侵害の成否は、他人の著作物の利用態様に着目して、当該著作物利用行為が、社会的に見
て、著作者の名誉又は声望を害するおそれがあると認められるような行為であるか否かに
よって決せられるべきである。したがって、他人の言語の著作物の一部を引用して利用し
た場合において、殊更に前後の文脈を無視して断片的な引用のつぎはぎを行うことにより、
引用された著作物の趣旨をゆがめ、その内容を誤解させるような態様でこれを利用したと
きは、同一性保持権の侵害の成否の点はさておき、これに接した一般読者の普通の注意と
読み方を基準として、そのような利用態様のゆえに、引用された著作物の著作者の名誉又
は声望が害されるおそれがあると認められる限り、同項所定の著作者人格権の侵害となる
ことはあり得るが、その引用自体、全体として正確性を欠くものでなく、前後の文脈等に
照らして、当該著作物の趣旨を損なうとはいえないときは、他人の著作物の利用態様によ
り著作者の名誉又は声望を害するおそれがあるとはいえないのであるから、当該引用され
た著作物の内容を批判、非難する内容を含むものであったとしても、同項所定の著作者人
格権の侵害には当たらないと解すべきである。控訴人は、著作権制限規定によって著作者
人格権が制限や影響を受けるものではないから(著作権法50条)、著作権法113条5項
の適用においては、
「引用」は正確であることを要し、上記のように「全体として正確性を
欠く」というあいまいな要件では足りないと主張するが、以上の説示に照らし、採用する
ことができない。その場合において、当該引用に係る著作物の内容を批判、非難する表現
が、別途名誉毀損の不法行為を構成するかどうかは別論である。なぜならば、著作権法1
13条5項は、上記のとおり、著作物の利用行為に着目した規定であって、名誉毀損の不
法行為の成否とは場面を異にするからである。
【検討】
・名誉毀損は事実を摘示するもの、著作権法第113条第6項は「著作物を利用する行為」
によるものであるが、著作物の同一性を害さない場合でも成立し得る。本件も、本件似顔
絵自体が改変された事案ではない。
・
「著作者の声望名誉とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について
社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すもの」であり、
「人が自己自
身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれない」と解され
るところ、創作意図に反する利用であっても社会的声望名誉を毀損しない利用行為は、著
作権法第113条第6項の対象外であると考えられるので、同項は、
「創作意図そのもの」
を保護するものではない。
・本件は、
「政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受ける」こと自体が、名誉
又は声望を害すると判断されたもの。
以上
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