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高濃度 CO2 を活用した海藻の大量生産に伴う 「死の谷」克服

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高濃度 CO2 を活用した海藻の大量生産に伴う 「死の谷」克服
45頁- 56頁
第 26 巻(2014)
総合工学
高濃度 CO2 を活用した海藻の大量生産に伴う
「死の谷」克服研究
武田邦彦,中島江梨香*
A study to overcome "death valley" problem due to mass
production of seaweed with highly concentrated CO2
Kunihiko TAKEDA,Erika NAKASHIMA*
Basic research activities on the production of seaweed and algae have been
performed in the university level, as research projects were funded by NEDO and other
agencies. These performed studies signified the importance of developing marine
resources, as there is a possibility that the marine can have much higher resources than
that of land. However, there is a challenge in taking the academic research to applied
research for mass production in an industrial scale, which is known as "death valley"
problem. In this paper, we studied from the prospective of different specialized fields
from various research institutes related to production of seaweed and algae to overcome
the "death valley" problem. Since the authors belong to the engineering field, the goal of
present investigation is to organize and overcome the problems and the differences in
way of thinking for the agricultural industry and academia. This will provide a platform
to establish specific research techniques to enhance research output that goes beyond the
walls of academia.
Keywords : Death valley, Marine resources, Seaweed, Algae, Carbon dioxide
1.はじめに
海藻の生産に関する基礎的研究は,これまで NEDO などの国の研究プロジェクトや各大学の基礎的研
究を中心として行われてきた
1 ) .これらの研究を通じて,海洋の資源開発が必要なこと,陸上の資源よ
り豊富な物質が得られる可能性があること,基礎研究が必要なことなどが指摘されてきた
究に直接関係のある大学の研究としては,藻類の培養の方法や条件(高知大学
養槽の流体力学的研究(琉球大学
2 ) .また本研
3-6 ) ,鹿児島大学 7-10 ) ,培
11-14 ) )海水中の成分調整研究,マスバランス,エネルギーバランスな
どの総合的なデザイン研究(中部大学
15-18 ))が行われてきた.しかし,これらの基礎研究から工業的に
大量生産する応用研究に移行する際,学問的課題「死の谷」が存在することが指摘されている
19, 20 ) .本
報告は,特に専門領域が異なる複数の研究機関が関係する本研究で,
「死の谷」を生じる具体的障害はな
* 中部大学
博士特別研究員
-45-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
にか,克服するための研究に何が必要かについて検討を行った途中結果を報告する.特に著者らが工学
分野に所属することから,農水産学の考え方の違いと課題を整理し,具体的な研究手法の確立を行い,
学問の壁を越えた学祭研究の成果をあげることを目的としている.
本報告は初年度の研究の中間的整理であるが,研究を困難にしている 3 つの要因;1)植物の変質物
質としての空気中の酸素との反応生成物の分析と解析,2)濃度調整や pH などの調整に必要な酸化還元,
酸塩基バランスの理論検討,3)スケールアップに伴って必要とされる新しい化学工学の体系,を中心に
整理した.
2.海藻類の工業的利用に関する克服するべき課題
地球温暖化との関係で,現在は空気中の CO 2 量が増加することに対する懸念が社会には広がっている
が,学問的には太古の昔から現代に至る CO 2 の減少が環境破壊の大きな問題であり,それによってもた
らされている植物生育速度の低下が食糧危機などを招いている.したがって,CO2 問題の環境学的な中
心は,人工的に発生する高濃度 CO 2 を利用して植物生産速度を飛躍的に高めることが大切である.しか
し,はじめに記述したように,学問的,基礎的に研究を行い,工業化,実用化までに存在する「死の谷」
(基礎研究が成功しても実用化されない困難の存在)を克服する基礎的・工学的探索研究を行う必要が
ある.
本研究対象の別の克服すべき基礎的問題は「元素の処理」である.たとえば石炭を燃焼させる火力発
電所の排ガスは古生代を中心として生育していた植物の体の成分の変質物と酸素の反応の結果で生じた
ものであり,CO 2 の他,植物由来のイオウ,チッソの酸化物,金属酸化物などである.これらは太古の
昔に植物の環境に存在したものでありので,本質的には生物や環境にとって有害ではないと考えられる.
Figure 1
Elements contained in the oceans and human serum are proportional relation.
しかし,火力発電所の排ガスは「有毒物質」と言われる水銀,重金属をはじめとして,イオウやチッ
ソ由来の二酸化硫黄,窒素酸化物を含む.このような元素や化合物は微量であるか,あるいは化合物の
形態に因っては人間にも必須のものであり,また有毒物とは認識されない.すなわち水銀のような化合
物も人体には微量に必要とされ,その制御自体に課題があることは明らかである.Figure 1 に示したよ
うに人体内の元素分布と海洋中に含まれる元素の比率が比例しているので
21)
,「有害元素」とされるの
は濃度などの問題であり,本質的に忌避しなければならない問題ではない可能性がある.
現実的には,社 会からの批判などによって 現在の火力発電所の排ガス 処理システムとして ,「人体に
有害な可能性のある元素や化合物を除く装置」が付属しており,従って,
「外部に放出して良いとされる
-46-
武田邦彦,中島江梨香
排ガス」の組成は現在のところ,石炭をそのまま燃焼させた化学物質の組成とは大きく異なる.
このように新しく総合的な研究を実用化するには,基礎的研究を経て得られた「知の集積」と個別領
域の成果を総合化する必要があり,このような総合的な研究は現在の狭い学問領域と目的的研究のもと
ではかなり困難であると認識されている.本研究では,この「総合化」を抽象的な研究を通じて解明し,
具現化するのではなく,具体例を通じて整理,解決する新しいジャンルを構築しようとしている.
第一段階として,1)植物の変質物質としての空気中の酸素との反応生成物の分析と解析,2)濃度調
整や pH などの調整に必要な酸化還元,酸塩基バランスの理論検討,3)スケールアップに伴って必要と
される新しい化学工学の体系,の 3 つを焦点とした.
3.研究の経緯と中間的整理
本研究のスタートとして工業的生産を視野に入れたプラントシステムを Figure 2 に示す.本プラント
システムはこれまでの農学的漁業的技術に加え,高効率で連続生産を可能にさせるため,次の工学的要
素を追加することを想定した.これをもとに,工業的生産のために,どのような課題があるか,それを
克服するために何をしなければならないかを最終的に明らかにする.
①石炭火力発電所の排ガスのように大気中の CO 2 濃度の 40 倍と高濃度の CO 2 源を利用する,
②無気泡溶解装置を利用し,低圧力で高濃度の CO 2 を水に溶解させる,
③培養槽には太陽光以外に特定の波長の光(LED)を照射する,
④高効率回収システムの考案(分離工学),
⑤連続生産を可能な循環型システムにする.
排気ガス
CO2, O2 他
微量成分
(SO2, NO3…)
H 2O
光
無気泡
溶解装置
培養槽
NO3, NH4,
PO4他
H 2O
回収
藻類
H 2O
栄養分
不純物
H 2O
Figure 2
Schematic diagram of system flow.
3.1. 高濃度の CO 2 の活用
現在の工業的生産性と同等の生産性を持つ海上バイオマス資源を得るためには約 0.04%という低い空
気中の CO 2 濃度と平衡した海洋の CO 2 濃度では不十分と考え,より積極的に CO 2 を活用するための方法
やそれによる藻類の成長について基礎的な探索を 2004 年度より行ってきた.現在の海洋の CO 2 では不
十分と考えた理由は,大量に製造され安価な工業原料,たとえば鉄鉱石,銅鉱石などの品位で 1%を切
るような原料を使うプロセスは存在しない.それから考えると,0.04%の CO 2 資源は極めて品位が低く,
このままでは大量に生産される物質への転換は困難と考えられる.
また地球が誕生した時に 95%の分圧を持っていたとされる CO 2 の減少要因は空気中の CO 2 の海洋への
-47-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
溶解,CaO のような弱アルカリ成分と結合して炭酸カルシウムなどが物質変化し石灰石,珊瑚礁などと
して沈着したこと,さらには生物の光合成によって固定された炭素が地球に埋没したことなどによる.
従って,その逆反応(たとえば石炭などの還元炭素資源を空気中で燃焼するなど)を利用して高濃度
CO 2 を発生させ,燃焼後の約 14%かそれ以上の CO 2 を含むガスの利用がポイントである.現実にはアル
カリ成分,イオウ,窒素酸化物などを含み,それらと分離したあとの CO 2 の溶解は pH の低下を招くの
で,それらの調整や藻類の生育と pH の依存性,CO 2 または太陽光に加えて人工的な光源の影響などを
研究してきた.
本研究は,まず高濃度炭素資源として,火力発電所の排ガスの利用を想定した.火力発電所の排ガス
には,CO 2 が 14%と大気中に含まれる CO 2 濃度の 400 倍と高濃度であり,火力発電所に利用される投入
資源は,生物の死骸から成っているため,その燃焼後の排気ガス中には生物の成長に必要となる,S,
O 2 ,N 2 等も含まれる.これらガスの溶解方法としては,既存のバブリング(液体に気体を溶解)方式で
はなく,無気泡溶解装置を用いて装置内に気体を充満させ,一定の加圧状態の中に液体を通過させ,液
体の薄膜中に気体の分子を拡散させ,短時間に高濃度の溶解をさせる.このようにすると,溶解した気
体はしばらく過飽和の状態で液体中に留まる(条件によるが,6 時間以上は変化しない).実際に,オゴ
ノリのビーカー培養実験では CO 2 濃度1%の時,3.5 倍の成長量が得られた(Figure 3).
4
Growth rate
3
2
1
0
0
1
2
3
CO2 concentration (%)
Figure 3
8uij
Growth rate of Gracilaria and CO 2 concentration.
先行する基礎研究によると現在の CO 2 濃度に対して濃度の上昇とともに成長量が増加する結果になっ
ているが,本実験では CO 2 が 1%の時にもっとも成長率が高く,それ以上の濃度領域ではむしろ低下し
ている.この原因としては,CO 2 が増加すると別の律速要因が表面化するのか,あるいは CO 2 の溶解に
よって pH その他の生育条件に変化が生じたものと考えられる.
3.2. 藻類培養と回収
琉球大学瀬名派研究室で使用していたリアクターにさらに改良を加え,密閉型の円筒型 100Lリアク
ター(Figure 4)を用いる.密閉型の円筒リアクターを用いることにより,高濃度 CO 2 凝縮の培養を可
能にし,ポンプから流入される角度を調整し溶解水の流速を利用してリアクター内の藻類が撹拌する仕
組みとなっている.また,リアクター中心に人工光源(LED)を照射し,日中の太陽光だけではなく,
夜間も人工光源を利用し藻類の成長を促進することが可能となる.藻類の光合成に利用する光の波長は,
440nm 付近および 670nm 付近にピークがあり,Figure 4 のリアクターに用いる人工光源は,波長を調整
することができるようになっており,生産する藻類の種類に合わせて波長を調整することによりさらに
高効率で光エネルギーを利用する.本研究ではさらに問題点を明白にするために,藻類の種類に合わせ
て,CO 2 濃度,pH の調整に加え,人工光源の波長調整を行った.さらに,藻類の種類によって,生息温
度帯も異なるため,藻類の生息環境に合わせ,海洋深層水,火力発電所の排熱などの利用,リアクター
-48-
武田邦彦,中島江梨香
全体を大型水槽に沈めて使用するなどの検討を行った.
人工光源
Figure 4
リアクター
Closed type cylindrical bioreactor.
現在,これら投入資源から最終プロダクトまでの全体構成を考え,物質・エネルギーバランスを算出
し,最適な培養条件を導き出す過程にある.現存技術で 10t-dryAlgea/day 規模のプラントを設計した場
合,Table 1 に示すように培養槽の温度コントロール,光のコントロールに多量のエネルギーを必要とす
る.次に培養槽内の流れのコントロールにエネルギーを必要としていることから,培養条件のコントロ
ール技術向上が求められる.一時間当たりの電気料を 20 円とし,消費電力で電気料金を計算した場合
1kg-dryseaweed 当たりの熱交換器,人工補光装置なしの場合は 128 円,熱交換器,人工補光装置ありの
場合は 1326 円であった
22)
.
また,これらのデータを元に実機レベルでの実証試験を行う場合,培養条件を設定し,効率の良い条
件での自動制御が必要となる.この点については,横河電気株式会社の調整技術と日本電気株式会社の
自動制御技術を融合し,IT を利用した自動管理システムの確立を検討している.
Table 1 Amount of power required to 10t-dry/day production in each process
熱交換器、人工補光装
熱交換器、人工補光装置
置なしの場合の消費電
プロセス
ありの場合の消費電力
力
[kW]
[kW]
培養水製造工程
藻類製造工程
藻類回収工程
エタノール製造工程
合計
45
2781
1,890
24099
20
20
717
717
2,672
27,617
さらに,培養中に細菌等による藻類の死滅を未然に防ぐため,培養槽を一つではなく,成長ステージ
に応じて,数個の培養槽を移行していく培養プロセスを設定する.その際に,1ルートだけではなく,
何個かルートを切り替えられるようにする.各培養槽にはセンサーを取り付け,pH,細菌の濃度を測定
し,危険値に近づいたら弁を切り替え,移行する培養槽のルートを変更する.これにより,プラントを
全停止することなく,危険値に近づいた培養槽,あるいは定期的に槽内を清掃し汚染を未然に防ぐこと
が可能となると考えられる.(Figure 5)
培養槽①
培養槽②
培養槽③
回収
培養槽④
培養槽⑤
培養槽⑥
-49-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
Figure 5
Culture tank system flow.
これらに必要なデータを計測し,藻類の種類に合わせた水温,塩分,pH,光源の波長および二酸化炭
素の流入量,流れ(撹拌)と藻類の増殖速度の関係式を導入している.
成長した藻類の回収方法としては,下水処理の技術を参考に沈殿凝固と遠心分離の組み合わせを用い
ることを検討した.その際,下水処理で一般的に凝固剤に硫酸バンドを用いるが,最終プロダクトとし
て食用を考えた場合,より適切な系が求められるが,計算結果は芳しくなく,工業的な活用が困難と考
えられる.
そこで,さらに現在,琉球大学小西准教授の開発したモズクから作られた凝固剤を使用することを検
討している.生産する藻類の大きさなど,この他にも国際的に活動を検討する必要があり,新たな回収
技術の確立と最適化がもっとも重要で,来年度は新しい装置の試作をする予定である.
3.3. 予備的研究からみた課題の摘出
以上述べた研究を整理した結果,明らかになった大まかな課題を Table 2 に示す.生産する藻類のサイ
ズに対して異なる課題と,共通の課題が存在することが判明してきた.
Table 2
Challenges in improving production efficiency of macroalgae and microalgae.
大型藻類
・胞子発芽の高効率化
・培養中の藻類同士の絡み合い(流体工学)
・投入資源中の微量成分
・培養槽内のpH、温度のコントロール
・培養密度の向上
・光の波長と照射サイクル
・培養中の細菌による感染
・低コストでの流れの制御
微細藻類
・培養中の藻類の沈殿(流体工学)
・回収効率の向上
投入資源から最終プロ ダクトまでの 全体構成を考え,物質・エ ネルギーバランスを算出, 総合的デ
ータ―処理し,最適な培養条件(pH,温度,光の調整)を導き出すための計算式(シュミレーションプ
ログラム)を作成している.計算式によって実機レベルでの実証試験を行う場合の培養条件,運転効率
を設定する.この計算式が確立できれば,どのような投入資源,培養生物,プラントサイズにおいても
最適の条件を導き出すことが可能となる.
特に投入する資源の成分,物質収支は非常に重要で石炭火力発電所の排ガスだけでなく,条件によっ
ては,メタン発酵ガスなど様々な投入資源が検討されているが,それぞれの投入資源の成分,組成のデ
ータは不十分である.石炭の有機質の元素組成は石炭の種類によって異なり,およそ C 100 H 30 ~ 110 O 3 ~ 40 N 0.5
~2
S 0.1 ~ 3 のように表され,そのほかに主要無機元素に Si(ケイ素),Al(アルミニウム),Ca(カルシウ
ム),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),Na(ナトリウム), Ti(チタン),K(カリウム),微量元素に Be
(ベリリウム),Se(セレン),V(バナジウム),Cr(クロム),Co(コバルト),Ni( ニッケル),Cu(銅),
Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Ge(ゲルマニウム),As(ヒ素),Hg(水銀),Pb(鉛),Rb(ルビジウム),
Sr(ストロンチウム),Y(イットリウム),Zr(ジルコニウム),Nb(ニオブ),Ba(バリウム),La(ラ
ンタン),Ce(セリウム),Nd(ネオジム),Sm(サマリウム)などが含まれる.さらに,Table 3 に示す
ように表産地によっても組成が異なる.
-50-
武田邦彦,中島江梨香
Table 3
項目
単位
全水分
発熱量
高位
固有水分
工業分析
AR
9.6
9.6
28
AD
AD
7,150
1.8
6,830
3
7,150
1.8
5,900
14
wt%
AD
15.3
14.4
15.3
8
wt%
wt%
AD
AD
34.9
48
25.8
56.8
34.9
48
40
38
wt%
wt%
AD
DAF
0.55
83.75
0.46
85.2
0.55
83.75
0.8
73.01
wt%
DAF
5.89
4.79
5.89
7.21
wt%
wt%
DAF
DAF
2.01
0.46
1.63
0.33
2.01
0.46
1.2
1.01
wt%
℃
DAF
-
7.89
46
8.04
57
7.89
46
17.8
50
-
1370
1,500
1370
1,350
wt%
wt%
-
59.68
23.05
51.67
35.01
59.68
23.05
62.23
24.00
wt%
wt%
-
1.23
5.79
1.99
3.82
1.23
5.79
0.53
5.89
wt%
wt%
-
3.8
1.41
1.76
0.56
3.8
1.41
0.90
1.43
wt%
-
0.23
0.20
0.23
2.00
wt%
wt%
-
1.24
0.32
0.73
0.6
1.24
0.32
1.03
0.11
wt%
wt%
-
0.05
2.62
0.02
0.66
0.05
2.62
0.05
1.20
炭素
水素
窒素
硫黄
酸素
HGI
FT
SiO 2
Al 2 O 3
TiO 2
Fe 2 O 3
CaO
灰組成
豪州瀝 豪州瀝 中国瀝 ネシア亜
青炭A 青炭B 青炭A
瀝青炭A
Wt%
灰分
揮発分
灰融点
基準
kcal/kg
wt%
固定炭素
全硫黄
元素分析
Quality of coal.
MgO
Na 2 O
K2O
P2O5
MnO
SO 3
10.4
参照:出光興産㈱
石炭を燃焼させた場合,酸塩基反応に注目した基本的燃焼後の反応は,
CO 2 +H 2 O → H 2 CO 3 → H + +HCO 3 NaO+H 2 O → NaOH+OH となる.CO 2 だけに注目すると酸性の液が得られ,アッシュに注目するとアルカリ性になる.単純な
ことであるが,現実の開発を成功させるためには基礎学問が必要となるし,微量成分の反応と排気ガス
中に含まれる量など,いまだ明らかになっていない部分は,外部に委託し分析し,火力発電所への投入
量,排出量のマテリアルバランス,その他の投入資源についても同様に外部分析し,マテリアルバラン
スを計算している.
4.溶液の調整に関する研究
4.1.高濃度 CO 2 溶解方法の検討
通常,気体溶解方法には,液体に気体の泡(バブル)を吹き込むことバブリング方法が用いられてい
るが,その溶解効率,設備・メンテナンスコストの観点から大規模なプラントでの使用には向かない.
そこで,本研究では,より高効率で,メンテナンスコストの低い装置の検討を行った.
Figure 6 に示す株式会社大栄製作所製無気泡溶解装置は,タンクの中に気体が充満され,その中に液
体が上部から噴射されスパイラルを描くようにタンクの下まで落下していき,タンク出口から高濃度に
気体が溶解した液体が噴出される.噴出される液体中の気体は黙視することは困難な為,無気泡溶解と
呼んでいる.装置の運転には,液体を吸い上げるポンプの動力だけで稼働する仕組みとなっており,溶
-51-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
解効率の向上のために電子制御も可能となっている.
Figure 6
Dissolution device manufacturer by Daiei factory co., ltd.
水温 27 度の水において二酸化炭素 100%,15%をバブリング及び無気泡溶解装置を用いて溶解実験を
行った結果を Figure 7 に示す.測定には,島津製作所製 TOC(IC)を用いて全炭酸量を測定した.無気泡
溶解装置を用いたほうがバブリングで二酸化炭素を溶解するより,二酸化炭素 100%で約 6 倍,二酸化
炭素 15%で約 4 倍溶解することが明らかになり,高濃度 CO 2 を用いて,低コストで安定的に高濃度に溶
解させることが分かった.
1200
1100
Total Carbon amount [mg/L]
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
0
200
400
600
Time (Sec)
CO2100% 0.05MPa-G 1L/min Bubbling
CO215% 0.05MPa-G 2L/min Bubbling
Figure 7
CO2100% 0.05MPa-G 1L/min Non-bubble dissolving
CO215% 0.05MPa-G 2L/min Non-bubble dissolving
Comparison of total carbon amount in difference of the dissolution method.
4.2 .微細藻類培養液中の元素測定
連続生産可能な循環型システムを構築するためには,培養水のコントロール,水の処理が非常に重要
である.現在の生産現場では,経験的処方・対策が取られており,過剰な栄養元素が投入されており,
培養水の再利用(水の循環)を行っていくとある一定の時期に成長が悪くなる又は病気が発生する.循環
-52-
武田邦彦,中島江梨香
させる水の処理する際に,処理する元素及び量を特定することは重要である.
宮古島で生産されている微細藻類の一種,スピルリナを純水に SOT 培地を加えて,30℃で 14 日間培
養し,培養前と培養後の元素を ICP を用いて測定した(Table 4).Na,K,P,B,Ca,Cu,Zn は培養前,
培養後でほとんど変化はなかったが,Mg,Mn,Fe は培養後ほぼゼロとなった.
Table 4
Na
[ppm]
K
P
[ppm]
[ppm]
Measurement result in ICP.
B
[ppm]
Ca
Mg
Mn
Fe
Cu
Zn
[ppm]
[ppm]
[ppb]
[ppb]
[ppb]
[ppb]
培養前
5002
940
75.7
0.468
5.67
11.6
42.9
6.68
19.9
50.5
培養後
4762
945
77.1
1.85
6.94
0.736
0.457
0.135
17.1
17.1
スピルリナは pH が 8.5~10.5 のアルカリ環境に生息するため,この結果からも Na,K,P は緩衝剤と
して藻類が成長するのに必要な量よりも過剰に投入されていることがわかる.ICP の測定精度の問題も
あり,K,P の測定値に疑問は残るものの,Na,K,P は従来の概念で言われるほどの顕著な減少は見ら
れなかった.水を循環させる場合これらの元素をモニタリングし調整する必要がある.また,14 日目に
はスピルリナの成長が止まったことから,Mg,Mn,Fe が律速になり成長が止まったとも推察される.
これまでは,窒素とリンが律速となり成長しなくなると考えられていたが,今回窒素も測定したが培養
前と後ではそれほど変化がなく,窒素とリンが律速となって成長が止まったわけではなかった.
このように,水産,植物生理学の分野では,培養条件等の調整のために必要となる工学的観点での研
究がされておらず,まだまだ解明されていないことが多い.
4.3. CO 2 を利用した微細藻類培養
CO 2 を水に溶解した場合,pH の低下をもたらす以下のような水和反応がおこる.
H 2 O(aq)+CO 2 (aq)⇔H 2 CO 3 (aq)
H 2 CO 3 (aq)⇔HCO 3 - (aq)+H + (aq)
HCO 3 - (aq)⇔CO 3 2 - (aq)+H + (aq)
持続的に CO 2 を水の中に溶解した場合,飽和溶解量まで CO 2 が溶解し,pH はどんどん低下する.し
かし,スピルリナは pH が 8.5~10.5 のアルカリ環境に生息するため,CO 2 の投入量に合わせて緩衝剤を
投入する必要がある.4.2 章で示した通りすでに SOT 培地には緩衝材として Na,K,P が投入されてい
る.そこで,SOT 培地で緩衝可能な CO 2 投入量を検討した.
実験条件は,50ml の培養液中にスピルリナを 30℃で,蛍光灯の光量 100[μmol/m2 s -1 ],Light/Dark=12/12
で,光照度時にのみ CO 2 をバブリングして投入した.Figure 8 に示した通り CO 2 5%,10%では空気より
も成長がよかった.CO 2 20%,30%では空気よりも成長が良くなかったが,40%は成長することはなか
った.培養実験終了時の pH は空気で 10.2,CO 2 5%で 8.5,10%で 8.6,20%で 8.0,30%で 7.9,40%で
7.5 であった.今後さらに再現実験及び解析を進める必要がある.
-53-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
OD730
2
1
0
1
2
0%
Figure 8
3
4
5%
5
6 7
day
10%
8
20%
9
10 11 12
30%
40%
Culture experiments in Spirulina.
5.「死の谷」克服のための必要な研究の抽出
基礎研究がある程度,進行して実用化開発の段階になっても,そこから重要な課題が克服できず,工
業的応用に失敗する例は極めて多い.本研究,すなわち海藻の大量培養とそのエネルギーおよび食料へ
の利用という大きなテーマで,基礎研究,展開に対する開発研究で何が必要かということに関して現時
点でわかっていることは,
1)
生物には病気,死亡,ストレスに対する複雑な反応があり,部分的に知られているものの系統的
な研究結果は少ない.これは水産関係の大学の研究室が機械系,電気系などの工業的な背景を持
つ学科に比較して小さいからと考えられる.つまり海洋の工業化開発には大学の水産系研究を強
化する必要がある.
2)
海藻類の生産に関する基礎的データをテーブル化した組織的研究結果が少なく,又まとめられて
いない.かつてX線解析のデータからイギリスが膨大なテーブルを作ったこと,さらに世界の中
心 が ア メ リ カ に なっ て か らア メ リ カ 内 務 省 が多 く の テー ブ ル を 作 っ て 世界 の 研 究者 に デ ー タ を
供給した.それに相当することを日本が本格的な海洋開発を進めるときには率先して行い,世界
をリードする必要がある.
3)
海藻の大量生産には,建設工学,土木工学,機械工学,電気工学などの工学が必要であるが,最
も重要なのは化学工学であり,「海洋化学工学」という分野を確立する必要がある.さらに「海
洋生物化学工学」の体系化の必要性がある.
4)
以上の基礎的な知見のほかに,CO 2 の溶解方法,微細藻類の回収方法,熱効率,排ガスの品質な
ど現実的で具体的な方法を開発する必要がある.現在時点で,CO 2 の溶解方法だけは工業化が満
足できる状態にあるが,他の分野は個別具体的に開発する必要がある.
5)
マスバランス,ヒートバランスなどの一般的な計算とともに,本システムが陸上生産とどの面で
優位性を持つのか,具体的な数値に基づく研究と,本質的(陸と海の拡散,環境への影響など)
な面での研究が必要である.
特に,この中で 2)及び 3),つまり基礎的テーブルと海洋生物化学工学の体系化について,本研究に
協力していただいている研究者の一致した考えである.
-54-
武田邦彦,中島江梨香
謝辞
本研究は中部大学総合工学研究所 平成 25 年度~26 年度の第 6 部門の援助を受け遂行されたものであ
り,本研究を遂行するに当たり,鹿児島大学水産学部前田広人教授,名古屋大学エコトピア科学研究所
市野良一教授,神本祐樹助教,琉球大学工学部瀬名波出准教授,琉球大学農学部小西照子准教授,高知
大学教育学部平岡雅規准教授,神戸大学自然科学系先端融合研究環鈴木千賀助教,中部大学工学部行本
正雄教授,中部大学応用生物学部愛知真紀子講師,一般社団法人海洋環境創生機構,株式会社竹中工務
店,株式会社大栄製作所には多大なるご支援並びに有益なアドバイスを頂き,ここに感謝の意を示しま
す.
なお,2013 年中に実施した主たる研究(日々の実験などを除く)は以下の通り.
No.
日時
場所
2013年4月15日 ~
1
鹿児島県内
4月16日
2013年4月18日 ~
2
台湾
4月22日
3 2013年4月26日
4
中部大学
2013年5月15日 ~
鹿児島大学
5月17日
テーマ
内容
日本の養鰻場における工業的生産
研究会
台湾における海洋バイオマスの工業的生産
施設視察及び研
究会
持続性社会の意味と意義
研究会
CO2を用いた藻類のスケールアップ培養の検討
施設視察及び調
査
5 2013年5月24日
鹿児島大学
開発途上国におけるエネルギー、生産問題
研究会
6 2013年6月7日
梅田スカイビル
第 8回オートアナライザーシンポジウム参加
シンポジウム参
加
CO2を用いた藻類のスケールアップ培養試験
実地試験
7
2013年6月19日 ~
鹿児島大学
6月26日
8 2013年6月28日
中部大学
「持続性研究会」として「持続可能な発展」を学問的に検討する
研究会
9 2013年7月5日
中部大学
琉球大学との検討会
研究会
微細藻類の工業的生産における課題調査と対策
施設視察及び調
査
10
2013年8月4日 ~8
宮古島
月8日
11 2013年8月12日
JR勝川駅前ルネック
「持続可能な発展」理念(概念)の形成過程とその到達点及び指標
ならびに再生不能資源の埋蔵量
研究会
12 2013年8月23日
神戸大学
微細藻類の光合成量の測定
施設視察及び調
査
13 2013年9月2日
中部大学
持続性と幸福
研究会
14 2013年9月4日
九州大学
International symposium on innovatative materials for
processes in energy systems 2013
国際学会
野村コンファレンス
プラザ日本橋
藻類バイオマス国際シンポジウム参加
国際学会
16 2013年11月21日
中央大学
微細藻類バイオマス利用国際シンポジウムの参加
国際学会
17 2013年11月22日
WINK AICHI
フィリピンの経済成長と持続性―途上国のホンネとタテマエ
研究会
Pacific Rim Summit on Industrial Biotechnology and Bioenergy
国際学会
Sustainable Housing through Holistic Waste Stream Management
and Algal Cultivation
施設視察及び研
究会
15
2013年9月5日
~9月6日
2013年12月8日 ~
San Diego, CA
12月11日
2013年12月12日~
19
Ohio University
12月13日
18
20 2013年12月20日
中部大学
海洋から見た持続性
研究会
21 2013年12月21日
中部大学
海洋バイオマス研究会
研究会
22 2014年1月10日
高知大学
海洋バイオマス研究会
研究会
-55-
高濃度 CO2を活用した海藻の大量生産に伴う「死の谷」克服研究
参考文献
1)
NEDO バ イ オ マ ス エ ネ ル ギ ー 技 術 研 究 開 発 戦 略 的 次 世 代 バ イ オ マ ス エ ネ ル ギ ー 利 用 技 術 開 発
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2)
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3)
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of Applied Phycology 20.1 (2008) 97-102.
4)
Hiraoka, Masanori, and Naohiro Oka. Tank cultivation of Ulva prolifera in deep seawater
using a new “germling cluster” method. Journal of Applied Phycology 20.1 (2008) 97-102.
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CO 2 発生量削減試算 CO 2 発生係数による簡易試算の試み, 環境技術, 40, 9, 553-558, 2011.
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養のための焼酎粕の有効利用, 防菌防黴, 35, 6, 351-357, 2007.
10) 特許 2005-168508 光合成細菌およびラン色細菌
11) 平成20年度 低炭素社会に向けた技術シーズ発掘・社会システム実証モデル事業 海洋バイオマ
ス利用による CO 2 排出削減・新エネルギー創出の実証モデル事業 報告書
12) 瀬名波出, 矢吹匡, 永松和成 , 平岡雅規. 藻類利用による CO 2 吸収システム開発 . 環境工学総合
シンポジウム講演論文集, 2010(20), 108-109, 2010.
13) 瀬 名 波出 , 大 城邦 夫 , 消 化ガ ス から の二 酸化 炭素 削減お よ びそ の利 活用 方法 開発 , バ イオ マス 科
学会議発表論文集 (7), 210-211, 2012.
14) Dai Yamashiro, Izuru Senaha, yousuke Watanabe, Bidyut B. Saha, Development of the
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15) 特許 2010-22331 二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法
16) Erika Nakashima, Hiroto Maeda, Izuru Senaha and Kunihiko Taked, Regeneration system of
carbon dioxide using algae, Innovative Materials for Processes in Energy Systems, 309-312,
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17) 特許 2012-110260 藻類の養殖方法及び藻類の養殖装置
18) 特願 2013-014047 貝の養殖システム
19) 吉川弘之, 持続可能な開発のための教育の 10 年(DESD), 工学教育, 58, 1, 5-12, 2010.
20) 吉川弘之, 総合工学とは何か, 15, 12, 8-21, 2010.
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22) 経済産業省 平成24年度二酸化炭素海洋固定化・有効利用技術調査事業 報告書
-56-
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