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水田大豆の安定生産に向けた技術ポイント

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水田大豆の安定生産に向けた技術ポイント
水田大豆の安定生産に向けた技術ポイント
独立行政法人
農業・生物系特定産業技術研究機構
大豆300A研究センター
(独)農業・生物特定系産業技術研究機構では、平成14年に単収300kg、Aクラス品質の
大豆生産技術の開発を目指して、全国7つの大豆研究チームからなる「大豆300A研究セン
ター」を発足させた(図)。研究を開始するにあたり、センターでは水田大豆の低収の原
因を、①水田の排水不良による発芽の不安定、②土壌有機物や無機成分不足による生育量
低下と乾燥や低温に対するストレス抵抗性低下、③雑草、病虫害問題、④収穫時のロスや
汚粒の発生に絞り込み、また、品質が変動要因解明に基づく肥培管理技術の開発も行うこ
ととした。
これまでの3年間、これらの問題を解決しようと研究開発を進めてきた結果、かなりの
技術開発が進み、水田大豆の安定生産に向けた技術ポイントを、まだ完全ではないが、新
しい視点で提供できると考え、今回のシリーズではそれらを紹介させて頂くこととした。
湿害の克服
大豆の発芽
大豆は発芽時の湿害に弱く、発芽不良を起こしやすい。発芽不良の大豆は、
根や地上部の発達が悪く、吸水が悪いため土壌が乾燥せず雑草の発芽を許し、発芽してき
た雑草との生育競合にも負けるため、雑草がはびこり、最悪の場合は収穫さえできなくな
ってしまう。大豆は発芽期以外には湿害にはむしろ強い作物であり、水田大豆では良好な
発芽が生産安定の鍵である。
種子の予備吸水
関東チームでは湿害による発芽不良は、過湿土壌で種子が急激に吸水
して膨張し、子葉が崩壊してしまうために起こり、種子周辺の酸素が不足して発芽不良を
さらに悪化させていることを明らかにした。また、各チームで種子水分が14~16%なるま
で予備吸水させておけば、加湿土壌でも発芽率が向上することを確認している。北海道チ
ームでは、大豆に、その種子重の8%相当の麦ふあるいは稲籾殻を混合し、それに10%相当
の水分を加えれば10時間程度で16%程度にできることを確認している。ただ、これだけで
湿害による発芽不良を防げるわけではなく、これは一種の保険と考えて頂きたい。
大豆播種時の湿害は、粘土鉱物の違で生じる土壌の物理性に応じた耕耘を行うことで大
-1-
きく軽減できる。次回からはそれについて述べることとする。
北海道大豆研究チーム
東北大豆研究チーム
(2サブチーム)
北陸大豆
研究チーム
近中四大豆研究チーム
大豆300A研究センター
関東大豆研究チーム
九州大豆研究チーム
東海大豆研究チーム
土壌型に応じた耕耘法
これまで水田大豆作では、プラウ耕(深さ20cm程度)、次いでロータリ耕により、砕土
率が60%以上となるよう丁寧に耕耘することが推奨されてきたが 、。この作業には時間を
要するだけでなく、圃場の表面排水が低下するため、降雨があると土壌が過湿になって播
種作業が難しい。しかも、栽培規模が大きい場合には、高土壌水分条件や、降雨の予想さ
れる時にも無理して耕耘作業を行い、クラストや湿害を発生させ、発芽不良を招くことも
多い。このように耕すことは常に良い結果をもたらす訳ではなく、土壌の特性に基づいて
行って初めて適正なものになる。今回からは3回にわけて土壌特性に応じた耕耘について
解説したい。
1)カオリン系土壌-耕耘のしすぎが問題となりかねない
この土壌は、高土壌水分で耕耘したり、耕耘後に降雨があると、透水性が低下するうえ、
乾燥するにつれ土壌表面が硬化して、大豆の発芽を著しく低下させてしまう。これはこの
土壌に含まれるカオリン、あるいはカオリナイトと呼ばれる粘土鉱物が、乾くと硬くなる
性質を持つためである。熱帯では、このような土壌は水を含ませて日干ししただけでレン
ガに使えるほどであり、この粘土は焼き物の材料に広く使われている。もともとCa、Mg等
の少ない花崗岩などが母材であり、風化も進んでいるためさらに養分が少なくなっている。
この土壌は風化が進んで、全国にあるが、東海、近畿、中国、四国及び九州北部にとくに
多い。
このような土壌で大豆の発芽を良好にするには、この土壌の欠点を補ってやる必要があ
る。この土壌はイオン物質が少ないというのが欠点で、高水分では土壌粒子が水中に分散
しやすく、土壌の孔隙を塞ぎ、乾くと硬化して土膜(クラスト)となる。これを防ぐには
土壌中にイオン物質を補ってやる必要があるが、その役割を果たすのが有機物である。土
-2-
壌の表層には有機物が多いため、不耕起、あるいは耕深5-7cm位に浅耕すれば、土壌粒子
が維持され、降雨でも分散せず、乾燥してもクラストを生じにくく、透水性が高く維持さ
れ大豆の発芽も良好となる。また、前作に麦などがあれば、その根が残した土壌孔隙も排
水性改善に大きく役立つ。このような状態で播種すれば、発芽率が低下することが少なく、
その後の生育も優れるため、大豆の吸水で土壌表面が乾燥して雑草が発芽しにくく、畦間
が葉に覆われるのも早く、雑草を抑制することが可能である。
関東と近畿中国の大豆研究チームでは不耕起播種機を開発し、また東海大豆研究チーム
では小明渠作溝同時浅耕播種機を開発し、いずれも発芽率、生育・収量の向上を実現して
いる。
ト
トリプルカット不耕起播種機
小明渠作溝同時浅耕播種機
(近畿中国四国大豆研究チーム)
(東海大豆研究チーム)
2)スメクタイト系重粘土壌-耕耘同時畝立てが有効
北陸地方には重粘土壌が多いが、その粘土鉱物はスメクタイトと呼ばれる2:1型粘土鉱
物である。スメクタイトは粘土鉱物の族名で、モンモリロナイトやベントナイトなどを含
む。わが国でスメクタイトが分布しているのはグリーンタフ(緑色凝灰岩)地帯である。
この地帯は2千5百万年前から5百万年前にかけて火山噴出物が厚く堆積した地帯であ
る。この火山噴出物は、その後、変質作用を受けてクロライト(緑泥石)やスメクタイト
などの粘土鉱物に変化し、全体が緑色化し、グリーンタフと呼ばれる岩石を形成した。こ
れらの岩石が土壌の母材となっているグリーンタフ地帯には、スメクタイトが主な粘土鉱
物となっている重粘土が広く分布している。このグリンーンタフ地帯は、北海道のオホー
ツク沿岸や樺戸山地以南の日本海側、本州の青森から島根県にかけての日本海側、糸魚川
-静岡構造線に沿う地帯、房総南部などに広がっている。このためグリーンタフ地帯の十
年土壌は、充分に耕耘し、畦立てすることで大豆の発芽、生育・収量を安定化できる可能
性が高いと考えられる。
スメクタイトは水分を含むと膨らみ、乾燥すると縮む性質があるため、耕耘・砕土後の
-3-
降雨で土壌孔隙が粘土で塞がれても、乾燥で亀裂が入るため土壌表面が硬化することがな
い。しかし、土壌が水分で飽和すると膨らんで土壌孔隙が無くなると透水性はほぼゼロと
なり、作物に激しい湿害を引き起こしてしまう。
これを避けるには、土壌を飽和水分以下に保つ必要がある。それには畦を立てて排水を
促すことが何より大事である。さらに、アップカット耕で土壌粒子を細かくして空気に触
れる土壌表面積を増やすことでできるだけ土壌を乾燥させる必要がある。乾燥すれば土壌
は収縮して、孔隙が多くなり、通気性が向上する。この粘土はいったん乾燥すると元の土
壌水分に戻ってもため、元の大きさまで膨らむことが無いため、通気性(排水性)が良好
に維持されやすくなる。東北や北陸のスメクタイト系重粘土の分布している地帯では、大
豆播種が行われる5月下旬から6月上旬頃は好天が続くことが多く、この期間に土壌を乾
燥させれば、土壌孔隙を長く維持できるようになり、湿害の危険性を低くすることができ
る。
このようなことから、スメクタイト系粘土鉱物の多い地帯では、アップカットによる耕
耘同時畦立て播種は大豆の発芽勢向上とその後の生育改善に大きな効果を発揮する。畦に
播種された種子は圃場水位より高い位置にあり、排水性も良いため良好な発芽が得られや
すい。発芽の良い大豆は根系が良く発達し、水分を吸収して土壌の乾燥を進め、それによ
り根粒活性も高まる。スメクタイトは保水力も大きいため、根系が深ければ干ばつの恐れ
も少なく、またマグネシウムやカルシウムなどの養分に富むため、養分不足になる心配も
あまりない。大豆では発芽が良好であれば根系の発達も良く、根圏土壌を乾燥させていく
ため、その後の生育や根粒形成も順調にすすみ、この土壌では多収が期待できるようにな
る。新潟県柴田市のスメクタイトの多い重粘土の圃場では、土壌水分が高い状態で播種し
たにもかかわらず、細かく砕土できるアップカットロータリで耕耘して、畝立てした圃場
の大豆生育は非常に良くなっており、慣行法より圧倒的に優れていた。
施肥装置
播種装置
耕うん+畝立て
-4-
畝立ての収量効果
圃場名
処理
実収量
莢数
(kg/10a) (/10a)
標準
236
668
A
(暗渠有) 75cm畝
278
742
標準
207
519
B
(暗渠無) 75cm畝
255
537
標準
254
560
C
(暗渠無) 75cm畝 271~301 606
百粒重
(g)
28.9
32.0 *
31.1
35.1 **
34.0
35.7
分枝数 大粒割合
収 穫期の窒 素吸収量 (kg/10a)
(本/m2)
根粒由来 土壌・肥料由来
(%)
57.2
43.4
12.6
53.7
70.9
15.5
33.9
54.9
11.9
56.5 *
75.3
16.1
44.8
69.4
9.6
68.3 ** 65.7~70.1 13.0
5.9
5.5
5.7
9.7
3.9
7.7
圃場名は生育期間中の地下水位30cm以下の割合 A:60%(暗渠有り )、B:10%(暗渠無し)、C :20%(暗渠無
実収量はコンバイン刈り 取り収量/刈り取り面積、大粒は7.9mm以上、
*,**:各圃場毎の標準と の比較で5%、1%で有意 2003年(品種:エンレイ)
普通ロータリ耕で播種した大豆圃場
耕耘同時畝立てで播種した大豆圃場
(新潟県新発田市、2004年)
3)黒ボク土-土壌物理性が良い
黒ボク土は九州、関東、東北及び北海道を中心に、火山の山麓や台地を中心に分布して
います。この土壌は腐植とアロフェンが多く、団粒構造がよく発達し、保水性、通気性、
透水性等の物理性が優れています。耕耘による悪影響は小さく、東北や九州チームの黒ボ
ク土現地圃場では普通耕(耕深13cm程度)で大豆の生育は良好です。しかし、多量の降雨
があると黒ボク土でも過湿やクラストによる障害が生じます。多雨であった平成15年度は
東北チームの黒ボク土圃場で、播種床部を不耕起とした有芯部分耕による生育改善効果を
認めています。また、関東チームでは普通耕では根粒着生と窒素吸収が浅耕より劣ること
を認めています。
-5-
有芯部分耕のロータリ爪配置
不耕起部分
なた爪
中央部が有芯部分耕の不耕起部分
有芯部分耕播種の概略図
4)砂質土壌-排水性は良いが、土壌肥沃度が低い
扇状地や河川流域に多い砂質土壌は排水性が良く、水田転換畑大豆の栽培には適してい
ることが多い。砂質土壌は有機物や粘土が少なく、保水力が小さい、土壌肥沃度が劣るな
どの欠点がある。このため、土壌有機物の分解の少ない浅耕や不耕起栽培が望ましいと思
われる。
5)泥炭土壌-地力は高い、客土した土壌の種類に注意
わが国の泥炭土壌の表層は客土されていることが多く、耕耘の影響は客土された土壌の
種類によって大きく異なるため、表層土壌の性質を見て、適切な耕耘法を選択すべきであ
る。適切な耕耘法が組み合わされて大豆の発芽、生育が良好になれば、泥炭土は地力窒素
が多く、保水力にも富むため、多収となる可能性は大きい。
3.土壌肥沃度
大豆の収量・品質は地域による変異が大きく、実需側からはその解消を望む声が高い。
地域差には土壌が関係していると思われるが、それを土壌に違いの大きい鳥取県の市町村
別大豆収量と地質図を用いて検討してみた。やはり大山火山灰の覆われた地帯は収量が18
0kg/10a以上と高く、やはり火山灰土壌では収量が高かった。一方、水田転換畑大豆の歴
史の長い富山県では収量が以前より低下しているが、有機物の少ない扇状地の土壌で目立
っていた。東北チームでは稲大豆体系でも大豆作付の増加につれて窒素肥沃度が低下する
こと、稲わら無しではそれを悪化させることを確認している。黒ボク土は有機物が多いた
め大豆収量が高く、一方扇状地の砂質土壌では有機物が少なく窒素肥沃度の低下が早いと
推定でき、大豆の収量・品質の安定には有機物増大を図る必要がある。そのためには、土
壌有機物の分解の遅い浅耕や不耕起栽培の導入、家畜糞堆肥と投入などが重要と考えられ
る。また、全国的にしわ粒や裂皮の発生が多くなっており、検査等級の低下も大きな問題
となっている。カルシウム不足がしわ粒発生に影響することは各チームで認めており、関
東チームではカルシウム施用がしわや裂皮を軽減することを認めている。これにより、肥
-6-
水田利用方法による土壌
可給態窒素の変化
(東北大豆研究チーム )
連作2年目(化肥のみ)
連作4年目(化肥のみ)
連作4年目(化肥+堆肥2t)
350
大豆収量(kg/10a)
300
250
200
150
100
50
大豆連作圃場のと堆肥に
0
普通大豆(リュウホウ、おおすず)
根粒非着生大豆
よる増収効果
大豆連作圃場における堆肥の増収効果(東北農研センター、2004)
(東北大豆研究チーム )
培管理によって品質向上を図れる可能性が出てきている。
水田輪作により水田土壌の地力窒素は消耗していく。東北農研センターの結果では、
水田で短期畑輪作(13年間に大豆を6作)や中期畑輪作(13年間に大豆を10作)を行うと、
水田土壌の地力ま窒素は消耗の方向に向かい、稲わら無投入はそれを促進することが明ら
かになっている。また、稲わら施用では土壌中の生物由来の炭素は一定に保たれるだけで
あるが、家畜糞堆肥の場合には増加していくことも明らかにしている。
さらに東北農研センターでは各地糞堆肥施用の大豆収量への効果も明らかにしている。
大豆は連作により収量が低下していくが、化学肥料(N,P2O5,K2O各3,12.5,9kg/10a)に堆
-7-
肥施用(2t/10a)を加えると、収量は低下することなく、むしろ増加しており、堆肥の施用
効果が極めて大きなものであることがわかる。
4.雑草防除
雑草は水田転換畑の大豆栽培では大きな問題である。中耕・培土が広く行われているが、
その最大の目的は雑草防除である。ここで注意しなければならないのは、播種後に土壌処
理した除草剤は処理後一ヶ月間は有効に働いていることである。したがって、あまり早く
中耕培土を行うと、土壌処理除草剤による土壌の被膜を壊すことになり、除草剤の効果を
キャンセルすることになることである。第1回の中耕培土は播種後3週間から5週間が良
いとされているが、あまり早い中耕培土は雑草発生を促す場合があることに注意が必要で
あり、中耕培土の回数を減らすことも検討すべきである。そもそも、早期から除草が必要
となるのは大豆の発芽が悪いか、除草剤の土壌処理が上手くいかなかった場合が多く、む
しろ播種時の作業を注意深く行うことが大事である。
これまで大豆には、生育期に処理が可能な除草剤が無く、雑草が繁茂してしまうと中耕
培土しか、防除手段が残されていなかった。しかし、今年度から生育期処理が可能な除草
剤のベンタゾンが登録され、中耕培土の重要性は若干は低下すると思われる。ベンタゾン
はタチユタカでは薬害がひどくなりますが、初期に葉が影響を受けても、その後は、健全
な葉が展開して生育は回復し、開花、結実していく。処理約1週間後の薬害程度と収量の
関係をみると、26品種に150ml/10aの薬量を2~7葉期に処理すると、初期に葉に大きな影
響を受けても、収量には大きな影響はない。ただ、ベンタゾンはヒユ類、シロザ、エノキ
グサ、アサガオ、イヌホウズキなどには効果がないので注意が必要である。その場合には、
中耕培土や茎葉処理型の非選択制除草剤を悲惨防止装置で畦間処理が必要となる場面があ
るものと予想される。
子実重(無処理区に対する%)
120
100
80
60
雑草無防除の場合
40
20
0
0
10
20
30
40
処理1週間後の薬害程度(%)
-8-
50
5.中耕培土と灌水
中耕培土は土壌通気性を改善する効果があるため、重粘土壌や加湿土壌では、中耕培土
で根系、とくに根粒の活性が高まり、生育が改善される。土壌が重粘な地帯や土壌が加湿
な場合には中耕培土は生育改善に効果的である。ただし、中耕培土は播種時の畦立てには
かなわない。というのは、畦立て播種された大豆は下方に向かって根が発達し、土壌の通
気性を自らが改善していく事ができるが、通気性不良の土壌に平畦播種された大豆の根は
水平方向に浅く、広がっていて、中耕培土は通気性は改善するが、切断される根も多くな
るためである。
一方、通気性の良い火山灰土壌や、土壌が乾燥しがちな所では中耕・培土の効果は小さ
い。このような場所では、中耕・培土による根の切断が大豆の水不足を激化させてしまい、
生育を抑制する危険性が高い。大豆は開花始めからその1,2週間にかけてが最も耐乾性
が弱いため、中耕培土後に乾燥が続いた場合には灌水が必要である。中耕培土後の灌水で
収量が大きく向上することは福井県などで広く認められている。収穫期になっても葉が青
いままで残るのが青立ちであるが、開花期後の干ばつによる落花や落莢が原因であるため、
灌水はその防止にも効果がある。 図は福井県の農家アンケート調査のデータに基づいた
ものであるが、中耕培土と灌水の組み合わせで収量が向上していることが明らかである。
250
200
子実収量 150
(kg/10a) 100
50
2回
1回
培土
無し
3回
以
上
2回
1回
無
し
0
灌水
灌水と培土の回数と大豆収量
(福井県坂井農林事務所の調査、2000)
-9-
6.病虫害
大豆の主要害虫はハスモンヨトウとカメムシ類である。サヤムシガ類とダイズサヤタマ
バエも発生しているが、通常はカメムシ類の際に同時に防除されるためあまり問題になら
ない。その他の害虫にはマルカメムシ、マメハンミョウ(葉を食害)、ミツモンキンウワ
バ、コガネムシ類、フタスジヒメハムシなどがある。
ハスモンヨトウの発生面積は広く、平坦部、とくに窒素肥沃度の高い転換畑で多発し、
九州では佐賀平野は常発地帯である。ハスモンヨトウの薬剤に対する感受性は幼虫若齢期
は高いが、それ以降は低下する。幼虫はダイズ葉を摂食して葉脈以外は白変するので、そ
れが目につき出したら防除しなくてはならない。ハスモンヨトウの薬剤防除では生育ステ
ージを考慮する必要がある。開花期以前の防除対象はハスモンヨトウだけであるので、老
齢幼虫にも比較的効果の高い昆虫制御抑制剤(IGR)であるツフルベンズロンやテブフェ
ノジドを散布するのがよい。選択性の低いピレスロイド系や有機リン・カーバメイド系殺
虫剤では、天敵も殺すため、天敵の働きの大きいと思われるハスモンヨトウではかえって
発生が増すリサージェンスという現象を引き起こし、逆に大発生の一因となることがある。
開花期以降は、カメムシ類も同時に防除する必要ため非選択制殺虫剤を施用せざるを得な
いが、リサージェンスを防ぐにはIGR剤を混合散布する必要がある。
カメムシ類の発生面積は低いが、収穫物を直接加害するため50株当たり1.3頭という低
密度でも10%減収するほどの被害を与える。20021年の熊本県のある収穫物調査では収量変
異の85%が説明できていた。カメムシ類は平坦部よりは山寄りの地域で発生しやすい。防
除しても周辺から新たに圃場に侵入してくるため、2回程度の薬剤散布では防除が難しく、
残効の長いエトフェンプロックス、MEP、バイジット、メソミルなどが使われる。ただ、
防除適期は幼莢期と子実肥大期と変わらず、計画的散布ができる。防除の効果は後半が高
い。被害粒は。また、カメムシは晩播により密度が下がり、小粒種では被害が軽いとく、
組み合わせることで耕種的防除の可能性も高い。
北海道や北東北で発生の多い大豆わい化病は、罹病すると大豆が矮小化し、収量もほと
んど期待できなくなるうえ、抵抗性品種もないという深刻な病害である。これまで北海道
では5月下旬が大豆の播種適期とされてきた。しかし、その時期にはわい化病ウィルスを
保毒しているジャガイモイゲナガアブラムシの数が多く、ときおり深刻な被害を与えてき
ていた。しかし、このアブラムシは5月末から6月になるとウィルスを保毒しているもの
の割合が急に減少するうえ、気温が高くなると罹病しても発病程度が低下する。そこで、
晩播しても生育や収量が低下しない性質をもつ早生品種「ユキホマレ」を6月初旬に播種
することによって、罹病株と病害発現を大きく軽減し、収量・品質を高めることに成功し
ている。また、この栽培法は、播種が田植え後となるため労力分散という面でも、外観品
質向上という面でも望ましいものでもある。
- 10 -
400
サチユタカ
フクユタカ
九143普通植
九143遅植
収量(Kg)
300
250
25
r = -0.92
p < 0.01
200
150
100
15
10
5
0
50
0
0
10
20
30
40
50
逆正弦関数変換後の被害粒率(%)
60
早播き
標準播き
田植え後
20
わい化病感染率%
350
70
図2.品種/系統別にみたカメムシ被害粒率と収量との関係
2001年
2002年
2003年
播種時期とダイズわい化病感染率
早播き:5月中旬
標準播き:5月下旬
田植え後播種:6月初旬
7.コンバイン収穫
実際の農家圃場で、収穫時のコンバイン刈取損失や汚粒発生をみると、これらの損失は、
合わせて20%以上にもなる場合があり、収穫ロスは生産現場における大豆の実収量低下の
隠れた要因の一つといえる。このため大豆300A研究センターでは収穫ロス軽減を大き
な目標としてきた。
収穫ロスの原因を追及したところ、刈り刃の切断時に前方に飛び出した茎が、リール衝
突し裂莢する、プラットフォームから落ちること等であった。そこで、普通コンバイン用
切断部の刈刃の切断角を鋭角にして、受刃ピッチを狭くして、切断による茎の前方への飛
び出しを抑えることにより、大豆の頭部損失を低減することができた(写真1)。
また、軸流コンバインては、脱穀部シリンダ回転軸と平行に丸棒を配置した平行棒式コ
ンケーブの棒間隙を広くすることによって茎莢の通過性および子実の漏下性を向上させる
ことができ、汚粒および脱穀・選別損失を低減することも明らかにした(写真2)。
大豆の栽培法も収穫ロスに大きく影響していた。中耕・培土を行う慣行栽培体系に比べ
ると、浅耕無中耕・無培土栽培では、コンバインの頭部損失が1/3程度に低下していた
(図)。これは、最下着莢位置が高くなるためである。また、土の掻き込みの危険が低い
ことから汚粒の発生も低くなっていた(図)。さらに、無中耕・無培土栽培ではコンバイ
ン作業速度が向上するため、畦幅が30cmでも、70cmの慣行栽培と同等の作業能率を確保す
ることができる。ただ、狭畦・無中耕・無培土栽培には耐倒伏性に優れた系統を選ぶ必要
がある。
大豆栽培面積の拡大に伴い、収穫可能期間を拡大することが非常に大事になってきてい
る。無中耕・無培土栽培とすれば圃場は地耐力が高く、土壌水分が高くてもコンバイン作
業が可能であり、脱穀部の改善は高い茎水分での収穫作業を可能にする。これらにより、
収穫時期を前進させたり、降雨後の収穫中断期間を短縮することができ、収穫期間を拡大
することができる。
- 11 -
最後に、大豆コンバインの収穫ロスを防ぐ、その他の注意点を上げておく。
①収穫ロスを低減するためには、大豆の状態にあわせた適切な作業速度を選択する。
②リール速度比は頭部損失の最も低い1.2~1.4とし、リール高さ、前後位置を適切な位置
にする。
③茎水分50%以上で頭部損失は3%以下となるが、60%以上では汚粒が増加するので注意
する。
④土を咬み込まないよう注意して作業する。土を咬んだ場合はすぐに清掃する。
狭ピッチ
50.8
20°
標準
76.2
35°
写真1
狭ピッチ切断部
18落 莢
裂莢
刈残し
写真2
排塵弁開度3
コンケーブの形状
0.6
排塵弁
開 度 11
16
0.5
12
0.4
10
0.3
8
0.2
6
汚れ指数
頭 部 損 失 (% )
14
4
0.1
2
0
0
浅耕無中耕・無培土
耕起中耕培土(慣行)
図1 頭部損失及び汚れ指数に及ぼす栽培様式の影響
8.大豆の品質
豆腐は豆乳中のタンパク質を塩化マグネシウムなどの凝固剤で凝固させて作ることか
ら、タンパク質含量が高い大豆の方が豆腐を作り易いと考えられ、従来、豆腐用としては
- 12 -
タンパク質含量の高い品種が育成されてきた。しかし、タンパク質含量が同じ程度の品種
でも栽培地や栽培年が異なると一定の堅さの豆腐が作れないことがある。
様々な品種や栽培環境の異なる大豆を使って、凝固剤の濃度を何段階かに変えて豆腐を
作ると、豆腐が最も硬くなる濃度があり,この凝固剤濃度(この濃度自体には品種間や試
料ロット間で差があります)における豆腐の堅さはタンパク質含量と高い相関を示す。こ
れから、凝固剤が十分量存在する場合の豆腐の堅さは,明らかにタンパク質の量で決まる
といえます。しかし,普通の豆腐製造で使われる比較的低い凝固剤濃度の条件では、同じ
程度のタンパク質含量であっても,品種や栽培条件によって,豆腐の堅さがばらつきが見
られる。このばらつきをもたらす成分の一つが、フィチン酸であることが明らかとなった。
フィチン酸は,リン化合物の一種で,キレート作用によって凝固剤のマグネシウムと強く
結合し,凝固剤がタンパク質を凝固させるのを妨げる(図)ため、フィチン酸含量が高い
大豆ほど豆腐は堅くなりにくい傾向を示すことが確認された。フィチン酸は米や大豆等の
穀類に比較的多く(1~2%)含まれ、土壌から吸収されたリンはこの形態で種子中に貯蔵
されている。このため、土壌リン酸濃度が高すぎると、子実のフィチン酸濃度が高くなり、
豆腐加工適性を低下させると考えられる。
さらに、豆腐においてタンパク質の凝固反応が正常に進むためには、種子にカルシウム
が充分含まれていることが大切であることも明らかになっている。タンパク質に加えてフ
ィチン酸やカルシウムなどの非タンパク質成分の影響を考慮することで、これまで以上に
正確に大豆種子の豆腐加工適性を判断することが可能となりつつある。また、大豆の裂皮
やしわ粒などは子実の充実程度に大きく左右されているが、カルシウムやカリ等の影響も
かなり大きいことも明らかになりつつある。
大豆のリン酸施肥は火山灰土壌を基準に考えられてきたと思われるが、非火山灰土壌は
施肥されたリン酸が不溶化しにくいうえ、カルシウムが少ない場合も多い。そのような土
壌では、豆腐の加工適性を考えたリン酸やカルシウムの施肥量の検討が必要と考えられる。
凝固剤による
タンパク質の凝集
フィチン酸少
堅い豆腐
フィチン酸による
凝固剤作用の妨害
フィチン酸多
同じ量の
凝固剤投入
柔い豆腐
同じ程度のタンパク質を含む豆乳でも
フィチン酸が凝固剤をキュレートして
豆腐の堅さに差が出てしまう
図 豆腐の凝固過程におけるタンパク質、フィチン酸、凝固剤の相互作用の模式図
遊離のタンパク質 凝固したタンパク質 フィチン酸 凝固剤
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