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この人に 聞く
こ の人 に 聞く ペット業界の現状と今後の展望 人とペットが共に暮らす豊かな社会の実現へ 一般社団法人 ペットフード協会 名誉会長 越村 義雄さん 政府が重視する「健康寿命」延伸との関わりから、改めて注目を集めているペット業界。 30年以上にわたって ペット産業に携わられ、愛猫家としても知られるペットフード協会の越村義雄名誉会長に、最近のペット業界 の動向と同協会の取り組みについてお話を伺った。 ペットフードの安全性への関心の高まり 一般社団法人ペットフード協会は、2015年6月1日現在、 日 本国内でペットフードを製造または販売する企業95社の会員 で構成されており、ペットフードの安全性・品質向上の推進を 軸に、人とペットの生活の質を高め、 “ペットとの幸せな暮らし” を実現するための啓発活動を行っている。ペットフードに関す る近年の傾向として、消費者は価格や栄養面だけでなく、安 全性を強く求めるようになってきている。 その大きなきっかけが、 2007年3月、北米でペットフードにメラミンが混入し、犬や猫が 大量死した事件である。 この時、 メラミンの混入したフードが日 本にも輸入されていたことが判明し、国内の現状と今後の対 正な体重を把握することが重要である。 応を検討する研究会が立ち上がった。 そして2008年6月にペッ ペッ トフード協会では、 正しいペッ トフードの選び方、 与え方や飼 トフード安全法 (愛がん動物用飼料の安全性の確保に関す 育マナーなどについて 「ペッ トフード/ペッ トマナー検定」 という制 る法律) が制定され、2009年6月に施行され、今日に至る。 度をつくり、 飼い主の知識向上を図っている。 また、 「ペットフード ペットフードは原料や製品の輸出入が多いため、国内の規 販売士」 「 、ペッ トフード安全管理者」 など専門家向けの資格制度 制だけではなく、 グローバルな基準を確立することが望ましい。 も設け、 ペッ トフードの品質や安全性の向上に努めている。 そこで我々は北米、 ヨーロッパ、 オセアニアなどの国々と共に、 2014年末にグローバルのペットフード協会同盟を発足させ ペットとの共生は、飼い主の健康寿命延伸にも貢献 た。現在、安全基準、栄養基準、 トレード障壁という3つの委員 政府は医療費削減のため、 平均寿命と健康寿命の差を短くす 会で活動を行っており、基準がまとまれば、今後、行政を含め、 る 「健康寿命延伸策」 に力を入れているが、 ペットと暮らすことは 各国に働きかけを行っていく予定だ。 飼い主の健康寿命にもよい影響を与える。当協会が昨年末に 国内のペットフードは、犬用、猫用といった種類別に分かれ、 実施した調査によると、 犬を飼っていて散歩をする人は、 ペット飼 さらに幼少期から高齢期まで各成長段階で必要な栄養基準 育経験のない人よりも健康寿命が長いことがわかった。 とくに女 に合わせた多様な製品が販売されている。ペットの健康を維持 性の場合、 2.8歳も健康寿命が長くなるという結果が出た。犬が するには、消費者がペットフードに関する正しい知識を持ち、適 いることが散歩をするモチベーションとなり、 その結果、 運動量が 正なフードを選び、正しく与えることが重要である。たとえば、市 増え活動的になって、 健康が長く維持できるということだろう。 販のペットフードよりも、 肉100%の食事の方が良いと思ってい ペットとの共生は、 精神面にも効用をもたらす。麻布大学が中 る方もいらっしゃるが、 肉はカルシウムよりもリンの割合が多いた 心になって、 幸せホルモンと言われるオキシトシンの調査をした。 こ め、肉だけを与え続けると栄養バランスが悪く、脚の変形などが れによるとペットと目を合わせたり、 ペットをなでたりすることで、 飼 起きやすい。総合栄養食は優れたペットフードであることを消費 い主にオキシトシンが分泌されることがわかった。 いわゆるペッ トの 者にご理解いただけるよう、業界として取り組んで行きたい。 ま 02 「癒し効果」 が科学的に実証されたのである。 た、最近は犬や猫の肥満が問題化している。 これはペットの体 ペッ トによるさまざまな効用は、 子どもから高齢者まであらゆる年 重増に気づかずに、 フードやおやつを与え過ぎるのが原因であ 代、 属性の方々に認められる。 たとえば赤ちゃんの時からペットと る。肥満はさまざまな疾患の併発にもつながるため、 日頃から適 暮らしていると、 感染症やアレルギー疾患になりにくい。 また、 幼少 Vol.107 Summer 2015 期に身近に生き物がいると情緒が豊かになり、 他者へのいたわり 高齢化は避けられない課題だが、 一方でこれを新たな市場を創出 や優しさが育まれる、 という研究がある。 さらにペッ トを通して会話も するチャンスととらえることもできる。 どうすれば、 高齢者が安心して 増え、 家族間のコミュニケーションが活性化しやすい。高齢者の場 ペットと共に暮らせる社会をつくることができるのか。 そこには、 高 合は、 脈拍や血圧の安定、 認知症予防などのほか、 生きがいを感 齢者をサポートする仕組みが必要となるだろう。 そう考えると、 たとえ じ、 生活のメリハリが出るといった効果もある。 ばフードの宅配や散歩代行サービス、 ペッ トをクリニックに連れてい ある欧米の調査では、心臓疾患で手術をした人の1年後の くサービスなどは、 これから大いに発展する可能性がある。 生存率が、ペットを飼っている人は94.3%、ペットを飼っていな またアメリカでは、高齢者が必要に応じて介助や援助を受け い人は71.8%だった。 また、 ペットと暮らしている人はペットのい ながらペットと暮らせる 「タイガープレイス」 という高齢者住宅が ない人より、年間で病院にかかる回数が1.8回少ないという調 できている。日本でも一部似たような施設が出てきたが、ペット 査結果も出ている。 と暮らせる特養老人ホームやペットと面会できる病院などは、 このように、 ペッ トを飼うことは人々の心と体に好影響を与え、 健 もっとたくさん出てきてもいいのではないだろうか。 康寿命の延伸にも貢献する。 やや古いデータだが、 ペッ トと暮らす 今、ペット業界は岐路に立っており、業界全体で何をすべき ことによる医療費の削減効果が、 ドイツで7,500億円、 オーストラリ かを考えなければいけない。ペットフード協会では、 「 笑顔あふ アで3,000億円もあったという試算がある。約40兆円になった医 れるペットとの幸せな暮らし」 というパンフレットを監修し、ペット 療費の増加に頭を悩ませている日本社会にとって、 ペッ トとの共生 との共生推進協議会の一員として、 ペットと暮らす効用の発信 は一つの有効なソリューションとなるのではないだろうか。 と啓発に努めている。 また、当協会ならびにメサゴ・メッセフラン クフルト株式会社の主催で毎年開催している 「インターペット ペット市場を拡大していくために必要なこと 〜人とペットの豊かな暮らしフェア」 では、住宅、 自動車、電機な 日本におけるペットの飼育頭数は、 2008年をピークに減少傾 ど さまざまな業界と手を組み、人とペットのよりよい暮らしを多 向にあり、 とくに犬は毎年5%前後減少している。 このままでは、 角的に考えている。 さらに今年は初の試みとして、 「インターペッ 10年後にはペットフードを始めとするペット関連市場は3,000億 ト」会場に隣接するホールで、一般社団法人日本ペット用品工 円近く縮小してしまう可能性がある。一番の問題は、 業界内でこ 業会主催の「2015ジャパンペットフェア」、一般社団法人ジャ うした状況に危機感を持つ人がまだ少ないことだ。 これまでのよ パンケネルクラブ主催の「FCIジャパンインターナショナルドッグ うに各社が自社製品の売り上げやサービスの充実ばかりを考え ショー 2015」 を同時開催した。業界の関係団体が一堂に会 ているようでは、 市場全体が沈んでいく。業界が一丸となって、 人 したことは、今後に向けた一つのステップになるだろう。 とペットの暮らしの推進を図っていかなければいけない。 ペット産業はいわば「幸せ創造産業」 である。ペットと共に暮 ペットが減っている一番の要因は、 人口減少と高齢化である。 らすことの素晴らしさが広く社会に認識され、ペット市場がさら 高齢者の場合、 ペットと暮らしたいという願望はお持ちでも、 最後 に活性化するよう、 ペットフード協会としても積極的な情報発信 まで責任をもって飼えないのでは、 と断念される方が多い。社会の を続けていきたい。 犬猫をはじめとしたペットの現在の飼育状況、今後の飼育意向 (%) 70 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 現在の飼育状況 60 65.2 66.2 61.0 62.163.1 30 20 10 0 17.8 17.7 16.8 15.8 15.1 10.6 10.310.2 10.110.1 猫 犬 6.8 6.3 6.2 5.2 4.9 金魚 4.8 4.4 4.4 3.9 3.7 3.3 3.1 2.7 2.5 2.3 2.6 2.4 2.5 2.3 2.2 2.0 1.9 1.9 1.7 1.8 メダカ 熱帯魚 カメ 小鳥 1つもない (%) 60 今後の飼育意向 50 40 30 34.2 33.1 30.4 20 10 0 犬 26.824.9 19.118.718.2 猫 43.9 45.9 53.0 55.3 48.8 16.816.6 6.2 5.8 5.8 5.0 4.6 6.1 5.3 4.9 4.2 3.7 4.6 4.3 4.4 4.0 3.5 4.2 3.9 3.6 3.5 3.4 3.3 3.6 3.4 2.7 2.7 金魚 熱帯魚 メダカ 小鳥 ウサギ (ラビット) ※各年60代まで(20 ~69歳)※2014年を基準にソート ※各年n=50,000 ※外猫 (野良猫、 地域猫は除く) 1つもない (出典:一般社団法人ペットフード協会「平成26年全国犬猫飼育実態調査」) Vol.107 Summer 2015 03