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朝の光と朝ごはん - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
第 16 回 東京大学理学部公開講演会 朝の光と朝ごはん - 体内時計の時刻リセット 理学系研究科 生物化学専攻 教授 深田 吉孝 入力シグナル 光 温度 食事 ストレス 活動 など 概日時計の発振系 中枢時計・末梢時計 出力リズム 睡眠・覚醒 体温 代謝機能 血中ホルモン 免疫系 など 図 1:概日時計システム 時計システムは、自律的に 24 時間周期で振動する発振系を中心に、これをリセットする 入力系と時刻情報を表現する出力系の 3 つからなる。 図1 1. 生物が獲得した概日時計 醒の自発周期は約 25 時間である。この時計に 地球の一日は昼と夜に区切られ、ダイナミッ 従って生活すると、2 週間もしないうちに昼と クな環境変化を繰り返す。この環境変化と同じ 夜が逆転しそうだが、実際にそういう事は起こ 一日の周期性をもって繰り返す生理現象は、動 らない。これは、概日時計が外部環境からの入 物・植物を問わず、非常に多い。永い生物史を 力シグナルによって毎日リセットされ、24 時 ふり返ると、地球の環境変動が約一日周期で規 間の環境サイクルに同調できるからである(図 則的に繰り返されてきた結果、生物はこれに応 1) 。概日時計の特徴は、環境に同調できるとい 答しながら内因性の変動機能を獲得し、リズム う柔軟性にある。この入力シグナルの中でも、 形成メカニズムが最終的に遺伝子プログラムに 動物と植物に共通する重要なシグナルは明暗の 組み込まれたと考えられる。これが概日時計シ サイクル、つまり光である。温度や湿度など、 ステムであり、動物では睡眠・覚醒、体温、血 地球上で日内変動する環境因子は多いが、最も 中ホルモン濃度、代謝機能など、多くの生理現 信頼できる時刻の手掛かりとして太陽からの光 象が概日時計に制御されている(図 1) 。 シグナルが選ばれたのだろう。 2. 概日時計のリセット 3. 中枢時計と末梢時計 一日時計と呼ばず、概(おおむ)ね一日と書 哺乳類の行動リズムを支配する中枢の時計機 くのは、周期が生物種によって 24 ±4時間と 能は、脳の中でも自律機能の中枢である視床下 いう広がりをもつからである。ヒトの睡眠・覚 部の小さな領域(視交叉上核)に存在する。最 裏に続く 近、この時計機能は生体内の多くの組織に分布 と食餌に同調した末梢時計は体内で異なる時刻 することが分かってきた。この時計は、視交叉 を示す二重構造を形成し、睡眠・覚醒リズムを 上核の中枢時計と区別して、末梢時計と呼ばれ はじめ個体としての概日リズムがかく乱され る。視交叉上核を破壊すると活動リズムが消失 る。本講演では、光と食餌による2つの時計の するので、その重要性は明らかである。この中 リセットを紹介し、これらのシグナルのタイミ 枢時計の時刻情報は、神経あるいはホルモンの ングが生体リズムにいかに重要であるかについ 濃度変化を介して末梢時計の時刻合わせを行 てお話しする。 い、この末梢時計が各組織の生理的リズムを支 配する。つまり生体の概日時計システムは、視 <参考図書> 交叉上核の中枢時計を頂点とし、これに末梢時 『時計遺伝子の分子生物学』(岡村均、深田吉孝 共編) 、 計が従うという階層構造をもつ(図 2) 。 シュプリンガー・フェアラーク東京、2004 『動物の感覚とリズム』( 七田芳則、深田吉孝 共編 ) 21 4. 光と食餌による生体時計システムのリセット 世紀の動物科学シリーズ第 9 巻、培風館、2007 中枢時計が光でリセットされるのに対し、末 梢時計は独自の入力シグナルによって(中枢時 計を介さずに)リセットされるという特徴をも つ。例えば活動期に食餌を与えずそれ以外の時 間帯に食餌を与え続けると、末梢時計は中枢時 計の支配から逸れて食餌サイクルに同調したリ ズムを刻む。この時、明暗に同調した中枢時計 疾患との関連 光 視交 上核 睡眠リズム障害 中枢時計 メタボリック シンドローム * 高血圧・肥満 動脈硬化 心筋 塞 入力系による調節 外界の環境因子 図 2:概日時計の階層性 ・神経支配 ・液性因子 ・睡眠覚醒リズム ・摂食リズム 入力系による調節 哺乳類の中枢時計は視床下部の視 交叉上核に存在する。中枢時計は 神経連絡や血中ホルモンを介して 末梢時計 心臓や肝臓などに存在する多くの 末梢時計の位相を制御している。 組織特異性 これらの時計は、それぞれ独自の 時刻特異性 肝臓 腎臓 東京大学大学院理学系研究科・理学部 心臓 血管 図2 SCHOOL OF SCIENCE,THE UNIVERSITY OF TOKYO 入力シグナルによって独立にリ セットされる。 〒 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 03(5841)7585