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報告書骨子 - 経済産業省
人的資産を活用する新しい組織形態に関する提案 −日本版LLC制度の創設に向けて− < 骨子 > 平成15年11月 経済産業省 産業組織課 < 目 次 > 1.なぜ、今、人的資産を活用する新しい組織形態か (1)企業価値の源の変化 ∼有形資産(物的資産)から無形資産へ ・・・P1,2 (2)競争力の源が変わる ∼人的資産の重要性と新しい資本主義・企業のあり方についての有識者見解 ∼物的資産から差別化を担う組織特殊的な人的資産へ ・・・P3 ・・・P4 (3)人的組織の再評価に向けた動き ∼非公開型の会社組織の可能性 ・・・P5 (4)人的組織の改革 ・・・P6 ∼「有限責任の人的法人制度」 2.海外において急速に整備が進む「有限責任の人的法人制度」 (1)海外において急速に整備が進む「有限責任の人的法人制度」 ∼米国LLC、英国LLP、ドイツGmbH&Co.KG、フランスSAS ・・・P7 (2)諸外国において進む「有限責任の人的法人制度」の活用 ・・・P8 (3)有限責任の人的法人が活用される事業分野(米国現地調査結果) ・・・P9 3.我が国における組織法制度の限界と「有限責任の人的法人制度」への期待 (1)我が国の組織法制度の限界 ∼有限責任の人的法人制度を創設する必要性 ・・・P10 (2)有限責任の人的法人制度を整備するアプローチ ∼会社法上の「新たな会社類型」創設の論点整理 ∼その他のアプローチの論点整理 ・・・P11 ・・・P12 ・・・P13 (3)有限責任の人的法人制度に対する期待と産業政策上の意義 ・・・P14 【参考資料】 参考資料】 (1−①)株式会社制度を人的資産集約型産業において活用する上での工夫 ∼米国における「株主主権型株式会社」の修正に向けた試み (1−②) ∼日本における「従業員主権型モデル」の修正に向けた試み (2−①)新たな会社類型 ∼人的組織として重要な組織の柔軟性の確保(会社の内部の関係) (2−②) ∼有限責任の確保(会社と外部との関係) (3) 人的資産を活用する新しい組織形態に対する期待 ∼政府決定・民間の提言 ・・・P15 ・・・P16 ・・・P17 ・・・P18 ・・・P19 第一章 なぜ、今、人的資産を活用する新しい組織形態か 第一章では、「なぜ、今、人的資産を活用する新しい組織形態か」とい う根本的な問いかけへの回答を試みる。 人的資産の重要性が高まる中で人的組織が再評価され、欧米では、 新しい有限責任の人的法人制度の整備が進んでいることを提示する。 1.(1) 企業価値の源の変化 ∼有形資産(物的資産)から無形資産へ ○ 企業の競争力の源泉は、設備や機械などの有形資産(物的資産)から、アイデア、ノウハウ、技術などを創造する人的 資産へとシフトしている。 ○ 米国企業の場合、その市場総価値に占める無形資産の割合は、1978年の17%から1998年には69%にまで飛躍的に 増加している。 ○ 2001年6月末における米マイクロソフト社の保有資産は総額で390億ドルだが、そのうち有形資産はわずか6%にすぎず、 残りの94%に当たる367億ドルは無形資産が占めている。 ○ 日本企業についても、東証上場企業の時価総額のうち有形資産(物的資産)が324兆円で全体の70%であるのに対し、 無形資産は144兆円で30%を占めている。 市場価値総額 有形資産(物的資産) ・機械 ・設備 ・建物 無形資産 ・コンピュータ機器 ◇財として取引 可能な知的財産 ・ブランド ・特許権 ・データベース ◇人的資産 ・経営者の企画力 ・技術者の開発力 ・従業員のノウハウ 人的資産等無形資産の占める割合 米国市場価値総額 1978年 マイクロソフト 1998年 17% 無形資産 有形資産 東証上場企業 時価総額 無形資産 69% 83% 無形資産 144兆円(30%) 無形資産 367億ドル(94%) 324兆円(70%) 有形資産 31% [出所]マーガレット・ブレア、トマス・コーチャン「新しい 関係−アメリカの会社における人的資産」 有形資産 有形資産 23億ドル(6%) [出所]岩井 克人「会社 はこれからどうなるのか」 [出所]経済産業省「ブラン ド価値評価研究会報告書」 1 1.(1) 企業価値の源の変化 ∼有形資産(物的資産)から無形資産へ ○ 特に、日本を代表する企業の場合、業種を問わず無形資産の割合が高い。 企業のバランスシート 負 債 資 産 有形資産 簿価純資産※ ※簿価純資産:バランスシートに反映されてい る資産−負債 (バランスシートに反映されていないブランド、 ノウハウ等は対象外) 資 本 ブランド 知的財産 技術開発力 無形資産 時価総額 等 人的資産等無形資産の時価総額に占める割合 セブン-イレブン・ ジャパン 無形資産 3.4兆円(85%) 有形資産 6000億円 (15%) キヤノン 花 王 無形資産 1.4兆円(77%) 有形資産 4600億円 (23%) 東 芝 ソフトバンク 無形資産 任天堂 ソニー 無形資産 無形資産 1.2兆円(72%) 2.2兆円(72%) 有形資産 4200億円 有形資産 8300億円 (28%) トヨタ自動車 (28%) 本田技研工業 日産自動車 無形資産 5.9兆円(71%) 有形資産 2.3兆円 無形資産 1.3兆円(58%) 無形資産 9兆円(56%) 無形資産 2.8兆円(56%) 有形資産 1兆円 7.1兆円 有形資産 (44%) 2.2兆円 有形資産 (44%) 有形資産 9600億円 (32%) (29%) 大正製薬 NTT 無形資産 無形資産 2.5兆円(62%) 2.1兆円(68%) 無形資産 4400億円(48%) 6.1兆円(47%) 4700億円 有形資産 (52%) 有形資産 6.9兆円 ベネッセ コーポレーション 無形資産 3100億円(65%) 有形資産 1700億円 (35%) アサヒビール 無形資産 2100億円(35%) 有形資産 1.5兆円 有形資産 (38%) (42%) (53%) 3900億円 (65%) ※有価証券報告書から入手できるデータで、可能な範囲内で試算。 2 1.(2) 競争力の源が変わる ∼人的資産の重要性と新しい資本主義・企業のあり方についての有識者見解 ○ 多くの有識者は、「グローバル化、IT化、金融改革」に伴う「知識・人的資産の重要性の増大」は「資本主義の形の変化」を 引き起こし、「企業形態の見直し」につながりつつあることを指摘している。 A. バートン・ ジョーンズ氏 ニューエコノミーへと経済の変化をもたらした最大の要因は、経済活動が“知 識”への依存度を強めたことにある。知的資源を押さえる人々が企業を所有す ることとなり、“知識主導の組織モデル”が不可欠となる。 岩井克人 東大教授 物的資産の所有では利益が保証されず、「違い」を生み出す“人的資産”が利 益の源泉となる“ポスト産業資本主義”では、組織特殊な人的資産を防御する ために、モノでもありヒトでもある“法人実在説的会社”が重要となる。 L. サロー MIT 教授 生産の中心的な要素は物的資本から“人的資本”に移行しつつあり、“資本を 所有 できな い資本 主 義”が到来 する。そ こ では 、“人間主 体 の頭 脳 産業モ デ ル”が求められる。 R. ドーア ロンドン大名誉教授 “人的資本”は、すでに物的資本よりもはるかに決定的な生産要素となっている。 伊丹敬之 一橋大教授 真の競争力の源泉は、コミットして働いてくれる従業員の知恵やエネルギーと いった“見えざる資産”にあり、彼らが企業にとってメインの存在となる“従業員 主権企業”の方が合理的である。 R. ライシュ 元米労働長官 大企業が規模の生産性に依存して力を得ていた古い工業社会とは異なり、“ニューエ コノミー”においては、ビジネスは「信頼」が大きな利益と高い市場価値を生み出す。 渡部亮 法政大教授 “ネットワーク経済”の時代となり、アングロサクソン・モデルでも、“リレーションシップ投 資”や、株主利益向上の前提条件として従業員や地域社会の利益を位置づける“包 含性の原理”への着目等、単純な株主利益極大化とは一線を画する動きが見られる。 3 1.(2) 競争力の源が変わる ∼物的資産から差別化を担う組織特殊的な人的資産へ ○ 1960年代の高度成長期以降、日本経済を支えてきたのは重厚長大型産業である。重厚長大型産業においては最新鋭の大規模 な物的資産が競争力の源であり、多数の投資家から大量に資金を調達する上で有利な公開株式会社が主役を担ってきた。また、 安定した株主構造の下、経営者や従業員が主体的に大規模な物的資産を使いこなす能力に長けた組織固有の技能を形成したと ところに、日本企業の強みがあった。 ○ しかしながら、1990年代以降、有形資産(物的資産)を効率的に運営するだけでは、開発途上国との競争に勝ち抜くことが難しく なってきている。製造業においても、物的資産の効率運営を得意とする(主として海外の)製造企業群を、他社とは違った形で束ね て差別化していく自社独自のノウハウを持った人的資産が必要とされており、従来型の公開株式会社形態でこうした人的資産をうま く活用していくにはかなりの工夫が必要となる(具体例はP16,17を参照)。 ○ また、投資銀行やファンドマネージャー等の最先端の金融産業、ソフトウェアやコンテンツ開発等の情報産業、法務・会計・税務・ 医療・教育といった高度サービス産業、企業の研究開発部門といった今後の成長が見込まれる産業群は、高度で組織特殊的な 人的資産の固まりこそが競争力の源である。差別化を生み出す人的資産そのものが競争力の要となる「人的資産集約型産業」 であり、他の企業には無い組織特殊的な能力を持った人材を生み出し続ける企業内のメカニズムをうまく築き上げることが重要と なる。人的資産をフルに活かせるような新しい会社の仕組みが必要となる。 競争力 の源泉 産業の 種類 受け皿と なる 会社類型 大規模な物的資産、及び 物的資産を効率的に使いこなす のみならず、他社との差別化を 生み出すような人的資産 重厚長大型産業 重厚長大型産業 コア人材を大事にする 公開株式会社 組織特殊的な人的資産の固まり 人的資産集約型産業 人的資産集約型産業 最先端の金融産業 情報産業 (投資銀行、ファンドマネージャー等) (ソフトウェア、コンテンツ開発等) 高度サービス産業 企業の共同研究開発 (法務・会計・税務・医療・教育等) (ジョイント・ベンチャー) コア人材のみが集まった 人的な会社 4 1.(3) 人的組織の再評価に向けた動き ∼非公開型の会社組織の可能性 ○ 米国では、コア人材のみが集まった組織特殊的な人的資産の固まりを活かす組織形態として、非公開型の人的組織 (パートナーシップやNPOなどの非株式会社)の可能性が注目されている。 (注) 非公開型の人的組織の典型例としては、組合、組合に法人格を与えた合名会社、合名会社に経営に は参加せず出資のみを行う投資家を組み入れた 合資会社がある。 米国における閉鎖系の会社組織の再評価 米国における閉鎖系の会社組織の再評価 ① ① ∼ ∼ パートナーシップ等の閉鎖系組織の活躍 パートナーシップ等の閉鎖系組織の活躍 ◎ 全米トップ10のビジネススクールの優秀な学生が、ピラミッド型の組織を嫌い、有名大企業に入る機会を放棄して、能力と勤勉を 基準に報酬と責任を得る機会のある少人数のパートナーシップ組織(※)を選んでいる。 (※) パートナーシップの組織形態は、日本の組合にあたるもので、組織の構成員が所有者であり、かつ共同事業者として経営に参画する非公開型の組織である。 組織構造が柔軟で、構成員の合意による定款で自由に内部規定が決められ、事業活動の成果として創造された価値をストレートに構成員間で分配できる。 これら優秀な人材によって、所有と経営が一致したこのような組織は、自らの能力を活かし、それに応じたリターンを得るための魅力的な選択肢になっている。 ◆エドワード・ジョーンズ(証券ブローカー) 第 1 位 (「働きがいのある会社ベスト100」 調査(フォーチュン誌)2003.1.20 )◆ ○パートナーシップ組織の1つであるリミテッド・パートナーシップの組織形態を採用。全従業員の25%が組織の所有者であるパートナーと ○パートナーシップ組織の1つであるリミテッド・パートナーシップの組織形態を採用。全従業員の25%が組織の所有者であるパートナーと なっている。 なっている。 ○このため、共同事業体として利益を分け合うプロフィットシェアリングの考えが貫徹して構成員・従業員の意識が高く、従来はニッチと考えられ ○このため、共同事業体として利益を分け合うプロフィットシェアリングの考えが貫徹して構成員・従業員の意識が高く、従来はニッチと考えられ ていた個人向けの金融商品をきめ細かく提供することに成功し、急成長。同社は、現在では、証券業界第1位のオフィス数と第4位のブロー ていた個人向けの金融商品をきめ細かく提供することに成功し、急成長。同社は、現在では、証券業界第1位のオフィス数と第4位のブロー カー数を誇る。 カー数を誇る。 米国における閉鎖系の会社組織の再評価 米国における閉鎖系の会社組織の再評価 ② ② ∼ ∼ NPOなどの非株式会社の活躍 NPOなどの非株式会社の活躍 ◎ 米国では、教育や医療など専門性と公益性が要求される事業分野でも、株式会社が参入することができるが、こうした分野では、 株式会社よりもNPOなどの非株式会社が活躍している。 健康サービス 教育サービス ソーシャルサービス NPO 娯楽サービス 研究開発サービス 3% 30% 36% 41% 42% 64% 会社 59% 58% 70% 97% [出所]Allen.F,Gale.D『Corporation Governance and Competition』より 5 1.(4) 人的組織の改革 ∼「有限責任の人的法人制度」 ○ しかしながら、既存の人的な組織には一長一短がある。組合には法人格がなく、登記や登録など法的な行為を団体名義 で出来ないところに経済主体としての限界がある上、無限責任制が要求される。また、合名・合資会社は、最低1人以上の 無限責任社員を必要とする点に組織法制度上の限界がある。 ○ そこで人的組織に着目した組織法制度上の改革が諸外国で精力的に進められている。有限責任の出資者のみからなる 人的な法人組織 (「有限責任の人的法人」)であり、株式会社の持つ有限責任制と法人格、組合の持つ組織内自治の 徹底という特徴を兼ね備えた組織であり、会社(株式会社)、組合の間を埋める第三類型の組織とも言える。 ○ 米国LLC、英国LLP、ドイツにおける有限合資会社、フランスにおけるSASである。 組織法制度上の特徴 会社の内部の関係 (出資者間の内部関係) 物的組織 人的組織 有限責任 無限責任 ︵ 構成員の会社債権者との関係︶ 会社と外部との関係 ∼株式会社制度∼ 物的組織の性質か らくる、人的資産重 視型の企業組織 の器としての限界 有限責任の人的法人 (米国LLC,英国LLP, ドイツ有限合資会社, フランスSAS) ∼組合制度∼ (パートナーシップ<日本の任意組合 相当>、合名・合資会社等) 法人組織 法的主体性 あり 「有限責任の人的法人」 法的主体性: 自ら契約の主体とな るなど法的主体性を有 している。 組合組織 法的主体性 なし 有限責任 全構成員有限責任: 負債に対して、構成 員は出資額を超えて責 任を負わない。 無限責任 機関等設置 組織内の自治の徹底: 組織内のルールは法 律に強制されず自由に 設定できる。 組織内自治 出資者に無限責任が要求 されるという限界 6 第二章 海外において急速に整備が進む「有限責任の人的法人制度」 第二章では、海外において急速に整備が進む有限責任の人的法人 制度(米国のLLCや英国のLLP等)の現状を鳥瞰する。 また、米国における現地調査をもとに、これらの組織を活用した事業 分野と企業の事例を紹介し、LLCの持つ高度人的資産集約型産業の 創出効果を明らかにする。 2.(1) 海外において急速に整備が進む「有限責任の人的法人制度」 ∼米国LLC、英国LLP、ドイツGmbH&Co.KG、フランスSAS ○ 諸外国では、「所有と経営の分離」を前提とする株式会社の対極にある、「所有と経営の一致」した人的組織が再評価され、 人的組織に着目した組織法制度上の改革が精力的に進められている。 ○ 米国におけるLLC、英国におけるLLP、フランスにおけるSASが、近年、こうした有限責任の人的法人制度として新たに 整備されており、ドイツにおいても、有限合資会社(GmbH&Co.KG)が同様の機能を果たしている。 【米国】 【英国】 出資者間の内部関係 Corporation (Limited Liability Company) LLC GP 物的会社 人的会社 LLP Company 無限責任 無限責任 LP (Limited Partnership) 有限責任 人的会社 との関係 構成員の会社債権者 有限責任 との関係 構成員の会社債権者 物的会社 出資者間の内部関係 (Limited Liability partnership) LP (Limited Partnership) Partnership (General Partnership) (注)この他、LLCとは別に、法律事務所や会計事務所等の専門的サービス業を 主体に利用されるLLP(Limited Liability Partnership)制度が設けられている。 【ドイツ】 【フランス】 出資者間の内部関係 人的会社 GmbH&Co.KG GmbH (有限合資会社) (有限会社) OHG(合名会社) 人的会社 SA (株式会社) SAS SARL (単純型株式資本会社) (有限会社) 無限責任 無 責 任係 と限の 関 KG(合資会社) KGの無限責任社 員に全構成員が有 限責任の法人(主に GmbH)がなること によって全構成員 の有限責任を確保 した形態 物的会社 有限責任 AG (株式会社) との関係 構成員の会社債権者 有限責任 との関係 構成員の会社債権者 物的会社 出資者間の内部関係 SCS (株式合資会社) SNC (合名会社) 7 2.(2) 諸外国において進む「有限責任の人的法人制度」の活用 ○ 諸外国における有限責任の人的法人制度の整備は、「高度人的資産集約型産業」の創出効果を上げ始めている。 【米国:LLC】 ◆米国の企業数の推移◆ (万件) 3,500,000 ○米国では、1990年代以降、各州がLLC制度を導入。 500 3,000,000 ○その後1993年時点の約2万社から、2000年には72 万社に達している。約500万社ある株式会社と比較し てもその規模が大きいことが伺える。 450 2,500,000 400 2,000,000 ◆米国の企業におけるLLCの比率◆ ◆LLCの業種別構成比◆ その他 1% 金融、保険、不動 産、リース業 51% Corporation 88 % (505万社) LLCは90年代 後半から急成長 1,500,000 150 100 1,000,000 サービス業 23% LLC (72万社、12%) 【英国:LLP】 50 500,000 0 鉱業 4% 製造業 10% 93 94 LP 流通・小売り業 情報産業 9% 2% 95 96 GP 97 98 LLC 99 00 [出所] 米国IRS資料より作成 【フランス:SAS】 ○ドイツの有限合資会社(GmbH&Co.KG)は、10万社あるKG(合資会社)のうち8万社を占めてお り、会社全体の数では、日本の3分の1しかないドイツにおいて、日本における合名・合資会社の(4 万社)の2倍にあたる有限合資会社が存在していることとなる。 合名・合資会社45% (36万社) ←(株)6千社、(有)45万社 GmbH&Co.KG 8万社 ◆我が国の会社数比率(全体244万社)◆ 合名・合資会社 1%(4万社) 株式・有限会社55 % (45万社) [出所]ドイツ連邦統計局資料より作成 ○監査法人や法律事務所、経営コン サルタントなど、法制定時に想定して いた専門的職種における活用に加 え、デザイン、ソフトウェア開発等一 般の事業体においても活用が進ん でいる。 Corporation 【ドイツ:有限合資会社(GmbH&Co.KG)】 ◆ドイツの会社数比率(全体81万社)◆ ○職務義務をめぐる訴訟が増加し、無 限責任のリスクが高まっていた公認 会計士業界からの要望を受け、200 0年に、「Limited Liability Partn ership Act 2000」を制定。 ←(資)3万社(名)7千社 ○多国籍企業が、SA(株式会社)の有 している出資者の有限責任性を維 持しつつ、内部規定の設定の自由 度が高いというような特徴を併せ持 った、合弁事業に使い勝手の良い 組織形態の創設を要望したことが契 機となって導入。 株式・有限会社99 % (240万社)←(株)100万社、(有)140万社 [出所]国税庁会社標本結果調査より作成 8 2.(3) 有限責任の人的法人が活用される事業分野 (米国現地調査結果) ○ 「有限責任の人的法人制度」は、あるものは組合制度、あるものは合資会社制度、あるものは 株式会社制度と、その淵源は異なるものの、各国において整備が進んでいる。 ○ 近年増加が著しい米国LLCが使われている事業分野は、米国IRS(内国歳入庁)の統計に よると、金融・保険・不動産・リース業(51%)、サービス業(23%)、製造業(10%)が主な 事業分野である。米国現地調査結果によれば、その中でも特に以下の3分野は、人的資産 が競争力の源泉となる事業分野(「高度人的資産集約型企業」)であり、LLCが活躍する主 たる舞台となっていることが言える。 (1) 個人の専門的知識やノウハウを使った専門企業 (2) 人的資産を元手にした現代的創業 (3) 法人の専門的能力を使ったジョイント・ベンチャー サービス業 23% その他 1% 金融、保険、不動 産、リース業 51% 鉱業 4% 製造業 10% 情報産業 2% 流通・小売り業 9% [出所] 米国IRS資料作成(再掲) (1) 個人の専門的知識やノウハウを使った専門企業 ◆モスキート投資銀行 (ロバーツ・ミタニLLC)◆ ○大手金融機関に勤務した経験のある人間が集まって設立したモスキート(蚊のように小さい)投資銀行。 ○投資銀行の本質は「知恵とネットワーク」によるビジネスで、異なる経歴・能力を持つ人間が知恵を出し合い、チームとして投資事業を実施し、投資先ハイテク 企業の企業価値を高めることにより収益を得ている。 ○出資者全員が業務に参加している。大きな資本を必要とせず、人材の質こそが資本であることから、株式公開で外部からの介入を防ぐためにLLCを選択。 (2) 人的資産を元手にした現代的創業 [出所]神谷秀樹「ニューヨーク流たった5人の『大きな会社』−我々の仕事の仕方・考え方」(亜紀書房、2001) ◆物流用ラックのレンタル (E-Z Shipper Racks, LLC)◆ ○創業者が、物流用のラックで、ホームセンター等に搬送後そのまま陳列できる構造をもつ特殊ラックを開発し(創業者が特許を保有)、これを 大手企業にレンタルすることで収益をあげるというビジネスアイデアを考案。二人のパートナーとともにこのビジネスアイデアを実現するため に、LLCを設立した。 ○3名の出資者は出資割合が異なるが、経営の意思決定は3名の出資者全員の合議制で随時行うことにより、機動的な経営を可能としている。 ○全米72ヶ所の拠点で、1,000人の契約社員を活用して12万個のラックを貸し出すビジネスに成長した。 (3) 法人の専門的能力を使ったジョイント・ベンチャー (米国調査におけるヒアリングによる) ◆日米自動車産業の合弁 ( General Motors Isuzu Commercial Truck,LLC )◆ ○いすゞとGMが共同で中型トラックの販売管理、サービス管理を委託するためにLLCを設立。いすゞは米国での販売網の維持コストの効率化を主な目的とし、 GMは販売店におけるマネジメントの向上を主目的としており、出資比率はいすゞ側が51%、GM側が49%。 ○いすゞ側は、LCFという代表的なトラックとともに、ディーラーのマネジメント手法とそれを熟知する従業員、ディーラー網を提供し、GM側はボンネットトラック の品揃えとともに、ディーラーが使うシステムと広範なディーラー網を提供。 ○収益の分配については、出資比率とは別に出来高制(GM車が売れた場合はGM側へ、いすゞ車が売れた場合はいすゞ側へ配分)を採用している。 (米国調査におけるヒアリングによる) 9 第三章 我が国における組織法制度の限界と 「有限責任の人的法人制度」への期待 第三章では、日本の現状に目を転じ、新しい有限責任の人的法人 制度を整備すべきことを、組織法制度上の具体的な論点とともに提案 する。 また、有限責任の人的法人制度に対する期待と産業政策上の意義 を明らかにする。 3.(1) 我が国の組織法制度の限界 ∼有限責任の人的法人制度を創設する必要性 ○ これまで、我が国の組織法制度には、「有限責任の物的会社(※1)」と「無限責任の人的会社(※2)」の二類型 しかなく、「有限責任の人的会社」は用意されていない。 ○ このため、我が国おいても、新しい企業組織モデルである「高度人的資産集約型企業」の受け皿として、対外 的には法人格を持ち、出資者全員が有限責任で、かつ内部的には社員の個性を重視する人的会社の要素を 持つ「有限責任の人的会社」という第三類型の組織形態の創設が必要となる。 (※1) 物的会社の内部規律 : ・ 不特定多数の出資者からの資金調達が想定される物的会社においては、所有と経営の分離が前提となっており、社員の個性は重視されない。従って、個性 のない出資者とは別の経営機関の設置が不可避となり、意思決定の効率性の追求のために多数決決議が基本となっている。 ・ 持分の実現方法に関しては、社員の個性が希薄であるため、持分の譲渡が原則自由になっている一方、任意の退社や利益処分には他の社員の同意が必要 という制限が設けられている。 (※2) 人的会社の内部規律 : ・ 少人数の出資者を予定しており、社員の個性が重視される人的会社では、原則社員の総意によって定める定款で、会社内部の関係についてのあらゆる事項 (業務の運営方法、利益処分の方法及び配分の割合等)を自由に決めることができる(定款自治の徹底)。 ・ 持分の実現方法に関しては、社員の個性が重視される組織であるため、持分の譲渡は制限されるが、その代わりに、原則として全員一致で意思決定を行う 組織の性質上、意見の合わない社員には脱退する自由が認められている。 会社の内部の関係(出資者間の内部関係) 有限会社 我が国には 存在しない 無限責任 無限責任 合名会社 合資会社 /任意組合・有責組合 物的組織 有限責任 株式会社 人的組織 ︵ 出資者の会社債権者との関係︶ との関係 会社と外部との関係 有限責任 ︵ 出資者の会社債権者との関係︶ 会社と外部との関係 物的組織 会社の内部の関係(出資者間の内部関係) 人的組織 株式会社 公開会社(非譲渡制限) 譲渡制限株式会社 大規模 新しい 有限責任人的法人 小規模 合名会社 合資会社 /任意組合・有責組合 10 3.(2) 有限責任の人的法人制度を整備するアプローチ ○ 有限責任の人的法人制度を整備するには、①会社法現代化に合わせて、会社法上に「新たな会社類型」を創設する方法 (具体的にはP12を参照)、②合名・合資会社制度を拡充する方法、③有限責任組合制度を改正・拡充する方法、④企業 組合制度を改正・拡充する方法(②∼④の各方法についてはP13を参照)がある。 出 資 者 間 の 内 部 関 係 物 的 組 織 人 的 組 織 法 出 資 者 の 会 社 債 権 者 と の 関 係 全構成員 有限責任 最低1人 無 以上の 限 無限責任 責 構成員 任 全構成員 無限責任 人 組 株 株式 式会 会社 社 新たな会社類型 新たな会社類型 有 有限 限会 会社 社 企業組合制度の拡充 企業組合制度の拡充 企 企業 業組 組合 合 合名・合資型有限責任人的法人 合名・合資型有限責任人的法人 合 有限責任組合制度の拡充 有限責任組合制度の拡充 中小企業等投資事業 中小企業等投資事業 有限責任組合 有限責任組合 合 合資 資会 会社 社 匿 匿名 名組 組合 合 (※) (※) 合 合名 名会 会社 社 (※)匿名組合では、匿名組合員は有限責任を負うのみであるが、業務執行にあたる営業者が無限責任を負う。 任 任意 意組 組合 合 11 3.(2) 会社法上の「新たな会社類型」創設の論点整理(LLC制度類似のアプローチ) ○ 会社法の現代化に合わせて、会社法上に、有限責任の人的法人として「新たな会社類型」が創設される。 ○ この「新たな会社類型」の要素である、①内部における組織の柔軟性の確保(定款自治の徹底)、②対外関係における 全構成員有限責任の確保(その対価としての債権者保護規定)については、以下のような具体的な論点の検討が必要 である(詳細についてはP17∼18を参照)。 会社の内部の関係(出資者間の内部関係) 有限責任 無限責任 ︵ 出資者の会社債権者との関係︶ との関係 会社と外部との関係 物的組織 ①組織の柔軟性の確保(会社の内部の関係) 人的組織 出資者の業務執行参加原則 株式会社 新しい 有限責任人的法人 公開会社(非譲渡制限) 譲渡制限株式会社 大規模 ○所有と経営が一致しており、社員は原則として業務執行者となる。原則として 出資者全員が合意して定める定款において、予め業務執行者にならない出資 者を定めることも可能。 組織運営の定款自治原則と定款設定の全員一致原則 小規模 ○組織内部のルール(意思決定の方式、業務執行者の裁量の範囲、利益分配の ルール等)は定款で自由に決められる。 ○定款によって全てを決めるので、その制定、変更には原則として出資者全員の同 意が必要。 合名会社 合資会社 /任意組合・有責組合 人的会社の特性を維持するための 譲渡制限原則と退社自由の原則 ○出資者の個性が重要な人的会社であるから、持分利益の実現方法は、譲渡 ではなく退社が原則となる。 ②有限責任の確保(会社と外部との関係) 開 示 制 度 ○会社財産の状況を債権者に明らかにするために、開示制 度が設けられる。 ※但し開示の範囲は、決算公告のように広く第三者に開示を求める措置ではなく、 債権者の閲覧請求権に止めるべき。 金銭出資原則と全額払込制度の適応 ○会社財産を確保するために、労務出資等は認められず金 銭出資が原則となり、設立時に全額を払い込むことが義 務付けられる。 ※但し、労務で貢献するような社員については、利益配分を自由に工夫することに より報いることが可能。 最低資本金規制 ○他の会社類型への変更規定の整備等の議論はあるが、簡 素でスピード感をもって会社を設立することを可能にするた め、最低資本金規制は課さないのが妥当。 配 当 規 制 業務執行者の債権者等に対する 責任の明確化 ○原則として社員全員が有限責任となるため、その有限責任 に伴う合理的な措置として、第三者保護の観点から、悪意・ 重過失の業務執行者に責任を負わせることは妥当と考えら れる。 ※但し、業務執行者でない社員については第三者責任を負わせる必要はない。 ○会社財産を維持する観点から、配当において純資産から資 本金等の一定額を控除する必要があるなどの株式会社と 同様の配当規制がかかる。 ○また、社員の退社時の払い戻しについても、同様の配当規 制をベースに債権者保護を検討する必要がある。 12 3.(2) その他のアプローチの論点整理 <合名・合資型有限責任人的法人の創設 ∼ 会社が他の会社の無限責任社員になることを許容> ○ ○ 現在の合名・合資会社は、内部関係におい 現在の合名・合資会社は、内部関係におい ては組合の規則を準用しており、定款で組織内 ては組合の規則を準用しており、定款で組織内 ルールを自由に決められるようになっている。 ルールを自由に決められるようになっている。 ○ ○ 但し、最低1人以上の出資者が無限責任を 但し、最低1人以上の出資者が無限責任を 負う必要があり、ドイツの有限合資会社(GmbH 負う必要があり、ドイツの有限合資会社(GmbH &Co.KG)のように、この無限責任社員に有限 &Co.KG)のように、この無限責任社員に有限 責任の会社組織が就くことが出来ないため、出 責任の会社組織が就くことが出来ないため、出 資者全員の有限責任性を確保することが出来 資者全員の有限責任性を確保することが出来 ない。 ない。 ○ ○ 会社法現代化の議論にあるように、会社が 会社法現代化の議論にあるように、会社が 他の会社の無限責任社員となることを禁止して 他の会社の無限責任社員となることを禁止して いる規定(商法55条)を廃止する必要がある。 いる規定(商法55条)を廃止する必要がある。 ※ ※ 現在でも、有限責任組合の無限責任社員に株式会社や有 現在でも、有限責任組合の無限責任社員に株式会社や有 限会社がなることは可能であり、ベンチャーファンドではこうした 限会社がなることは可能であり、ベンチャーファンドではこうした 形態が一般的となっている。 形態が一般的となっている。 <有限責任組合制度の拡充 ∼ 有限責任の徹底と法的行為能力の付与>・・・LLP制度類似のアプローチ ○ ○ ベンチャー企業向けの投資事業に用いられ ベンチャー企業向けの投資事業に用いられ る中小企業等投資事業有限責任組合は、民法 る中小企業等投資事業有限責任組合は、民法 組合の一種なので、組織内部の柔軟性は確保 組合の一種なので、組織内部の柔軟性は確保 でき、構成員課税である。 でき、構成員課税である。 ○ ○ もっとも、人的資産を活用する新しい組織形 もっとも、人的資産を活用する新しい組織形 態の受け皿としては、①事業範囲が投資事業に 態の受け皿としては、①事業範囲が投資事業に 限定されており、②法人格はなく、③最低1人の 限定されており、②法人格はなく、③最低1人の 無限責任組合員を必要とするなどの問題がある。 無限責任組合員を必要とするなどの問題がある。 ○ ○ ①事業内容の制約の撤廃、②有限責任の ①事業内容の制約の撤廃、②有限責任の 人的会社制度における債権者保護制度と同様 人的会社制度における債権者保護制度と同様 の措置を講じることによる全構成員有限責任性 の措置を講じることによる全構成員有限責任性 の確保に加え、③団体名義での登記・登録が可 の確保に加え、③団体名義での登記・登録が可 能となるように何らかの法的な措置を講じるなど、 能となるように何らかの法的な措置を講じるなど、 組合が法的主体となりうるための適切な法制の 組合が法的主体となりうるための適切な法制の 整備を行う必要がある。 整備を行う必要がある。 ※ ※ 現在、経済産業省において、有限責任組合の投資対象を更 現在、経済産業省において、有限責任組合の投資対象を更 に拡大し、事業内容を充実する方向で法改正が検討されている に拡大し、事業内容を充実する方向で法改正が検討されている が、事業範囲は依然投資事業に限定される見込み。 が、事業範囲は依然投資事業に限定される見込み。 <企業組合制度の拡充 ∼ 定款自治の徹底> ○ ○ 企業組合等は、対外的には法人格があり、 企業組合等は、対外的には法人格があり、 全構成員の有限責任性が確保されている。 全構成員の有限責任性が確保されている。 ○ ○ しかしながらその内部関係を見ると、総会、 しかしながらその内部関係を見ると、総会、 理事会、監事といった機関の設置が強制され、 理事会、監事といった機関の設置が強制され、 定款でこれを緩めることができない上、意思決 定款でこれを緩めることができない上、意思決 定の方式も多数決原則で、出資者に応じた権限 定の方式も多数決原則で、出資者に応じた権限 配分は許されておらず、人的資産を活用する組 配分は許されておらず、人的資産を活用する組 織としては課題が残っている。 織としては課題が残っている。 ※ ※ 設立や定款変更に際しては行政庁の認可も必要 設立や定款変更に際しては行政庁の認可も必要。 。 ○ ○ 例えば、出資組合員(出資のみを行い組合 例えば、出資組合員(出資のみを行い組合 事業に従事しない組合員)がいない企業組合で、 事業に従事しない組合員)がいない企業組合で、 組合員全員が理事として業務執行に参加するよ 組合員全員が理事として業務執行に参加するよ うな企業組合は、有限責任の人的法人の性格を うな企業組合は、有限責任の人的法人の性格を 持つと考えられる。 持つと考えられる。 ○こうした特定の企業組合には、定款で機関設 ○こうした特定の企業組合には、定款で機関設 計や意思決定の方法を自由に定めることが可 計や意思決定の方法を自由に定めることが可 能になるよう措置していけば、有限責任の人的 能になるよう措置していけば、有限責任の人的 法人制度の一翼を担える可能性がある。 法人制度の一翼を担える可能性がある。 有 限 責 任 の 人 的 法 人 制 度 の 導 入 13 3.(3) 有限責任の人的法人制度に対する期待と産業政策上の意義 ○ 有限責任の人的法人制度が備え持つ、組織の柔軟性・構成員の有限責任等の性質に対し、具体的には、①個人の 専門的知識やノウハウを使った高度専門職の集団、②人的資産を元手にした現代的創業、③法人と法人の共同実験 (ジョイント・ベンチャー)等における活用可能性が考えられる。 ○ こうした「有限責任の人的法人制度」の創設により、創業の活発化、高度サービス産業化、産業の高付加価値化、対日 投資の促進、事業再編の促進、研究開発の活発化、新規事業の開拓など、様々な効果が期待される。 物 的 組 織 人 的 組 織 <参考> 有限責任の人的法人 制度の潜在的ニーズ ∼ 株式会社・有限会社 ∼ 有 限 責 任 法人と法人の 共同実験 事業再編の促進、研究開発の活発化、 新規事業の開拓、対日投資の促進、 産業の高付加価値化等 ○組織内自治の徹底による機動的な意思決定 ○利益配分の自由度 人的資産を 元手にした 現代的創業 有限責任の人的法人制度 48% (日本版LLC制度) アプローチ 方法 ○ ○ ○ ○ 新たな会社類型 合名・合資型有限責任法人 有限責任組合制度の拡充 企業組合制度の拡充 ベンチャーキャピタルの48%がファン ドの組成に使いたいと回答 30% 創業の活発化、新規事業の開拓等 ベンチャー企業の30%が新たな 事業 を興す場合に使いたいと回答 無 限 責 任 創業の活発化、 新規事業の 開拓等 ○全構成員の 有限責任性の 確保 人的資産を 元手にした 現代的創業 ex)コンテンツ制作等 高度サービス 産業化、 産業の高付加 価値化等 高度専門職 ex) コンサルティング業、 監査法人等 ∼ 合名・合資会社 / 組合組織 ∼ 55% 大企業の5 5%が他社との実験的事 業の母体に使いたいと回答 是非活用 どちらでもない 活用 あまり活用したくない 活用したくない 無回答 [出所]経済産業省国内アンケート結果 (回答数:139社) 14 (参考1−①) 株式会社制度を人的資産集約型産業において活用する上での工夫 ∼米国における「株主主権型株式会社」の修正に向けた試み ○ 1980年代以降、米国では、「株主主権」と「雇用の流動化」が進展したが、組織のコアとなる人材をいかに企業の内部に 引き留めて競争力を維持するかという新しい悩みに直面している。 ○ 実際に、人的資産集約型企業においては、株主利益の追求が人材の流出を招いて企業価値が低下するという事例が 報告されている(株主主権型株式会社のアンチテーゼ)。 (「①サーチ&サーチ社」の例 、「②ソロモン・ブラザーズ社」の例参照。) ○ 米国における優良企業においては、年功制賃金や定期昇給制度による長期雇用へのインセンティブ強化、企業文化や チームワークの重視、福利厚生制度の充実など、かつて日本企業が得意とした雇用システムを採用して、離職率が上が るのを食い止めようとしている例も報告されており、米国では、株主主権型モデルを修正しながら、人的資産を重視する 組織へ組み替える試みが始まりつつある。 米国型株主主権型モデルの限界 米国型株主主権型モデルの限界 ① ① 米国型株主主権型モデルの限界 米国型株主主権型モデルの限界 ② ② サーチ&サーチ社の、30%の株を所有する米国機関投資家が、 創業者であり 広告作品と経営を取り仕切るサーチ兄弟と役員報酬 をめぐり対立したことから 同兄弟がサーチ&サーチ社を退社として ライバル会社を立ち上げたところ、 元のサーチ&サーチ社の人材、 更には主要な顧客を奪ってしまった例。 ソロモン・ブラザーズが取引の失敗を理由にあるトレーダーを解雇 したために、当該トレーダーと人的なつながりのあるトレーダーたち (当時のソロモンの利益の大変を稼ぎ出していた人材)が次々と退 社し、ロングタームキャピタルマネジメントを設立した例。 ソロモン・ブラザーズ 米国機関投資家(30%の株を保有) ①会長の解任 忠誠心 ③大損害 サーチ&サーチ社 (英・広告会社) M&C サーチ社 (新設) 会長 会長 役員 役員 会長 会長 役員 役員 従業員 従業員 顧客 顧客 ② 解任された会長がライ バル会社設立。 会長の経営手腕、従業 員、顧客等が流出。 従業員 従業員 顧客 顧客 物的・人的の 両面で結合の 希薄化 債券取引部門 リーダー 指揮・調整 専門スタッフ 資金、看板 指揮・調整 Long Term Capital 部下の失敗の責 Management 任を取らされ解雇 経営者 指揮・調整 忠誠心 独立 忠誠心 強い人的つながり 専門スタッフ 専門スタッフ 専門スタッフ ソロモン・ブラザーズ の1990-93年の利益 全体の87%相当の 利益に貢献したスタッ フが流出 15 (参考1−②) 株式会社制度を人的資産集約型産業において活用する上での工夫 ∼日本における「従業員主権型モデル」の修正に向けた試み ○ 我が国の80年代までの企業モデルは「従業員主権型モデル」と呼ばれ、安定した株主構造と組織特殊的な人的資産の蓄積を進め、 メインバンクシステムが経営危機時の介入を行い、従業員主権のなれ合いを防ぐことにより、有効に機能する企業モデルであった。 ○ しかしながら、90年代に入り、従業員主権型モデルの監視役を果たしてきたメインバンク機能が弱まった結果として、相次ぐ企業不祥 事や変化への適応の遅れ、過剰債務構造の温存という形でその弊害が目立つようになった。 ○ 高度成長を支えてきた日本型の従業員主権モデルは修正を余儀なくされているが、雇用の流動化や株主機能の強化は、米国企業 が直面しているように、企業内における人的資本への投資を阻害する副作用を伴う可能性がある。日本の優良企業は、株主監視が 強まる中でも長期雇用を経営の理念として掲げて対応するなど、我が国においても、人的資産重視型の新しい企業モデルの模索が 始まっている。 90年代に顕在化した 90年代に顕在化した 日本型企業モデルの変質 日本型企業モデルの変質 新しい企業モデルの模索 新しい企業モデルの模索 我が国の企業システムは、「株式持ち合い」 「メインバンクによる監視機能や経営危機時 における介入機能」「終身雇用制」により、株 主の短期的視点に基づく意思決定による侵 害から組織特殊的な人的資産を防御し、そ の蓄積を促進する上で積極的な役割を果た してきた。 1980年代以降、メインバンク機能が低下し たことにより、年功制の弊害顕在化を有効に 阻止する機能がなくなるという「ガバナンス の空白」が生じた。その結果、相次ぐ企業不 祥事や変化への適応の遅れ、過剰債務構 造の温存という形でその弊害が現れた。 株主監視が強まる中でも長期雇 用を経営の理念に掲げた新たな 企業モデルが模索されている。 終身雇用制 株式持ち合い メインバンク システム 企業固有の人的投資の促進 競 争 力 の 源 泉 終身雇用制 ガバナンスの空白 株式持ち合い メインバンク システム 内部のもたれあい 不良債権、過剰債務構造、 人材の死蔵 日本型 ﹁ 従業員主権型﹂モデルの限界 80年代までの日本型企業モデル 80年代までの日本型企業モデル ∼従業員主権型の企業モデル∼ ∼従業員主権型の企業モデル∼ 御手洗 冨士夫 キヤノン社長 知識創造企業においては、会社の実体は社 員。従って会社の実力を突き詰めれば社員 の実力の集積値。 終身雇用による運命共同体意識が社員の団 結力となり、目標に向かって一致団結 して進む。新技術は発想から製品化まで10 年以上かかるため、生活の不安なく長期間 没頭できる環境が研究開発には必要。 (経済産業省「日本企業の将来像を考え る研究会」資料 2002.1) 町田 勝彦 シャープ社長 技術の融合を生むためにも、社内にノウハウ、 人材のストックをいかに積み重ねるかが重要 になる。特にこれからは、専門外を経験した 技術者、「ゼネラルスペシャリスト」をどう育成 するかの競争になるだろう。それだからこそ、 早期退職みたいなことをせず、頑張って終身 雇用を維持していきたい。ただし、実力主義 だということをはっきりさせ、一方で個人のス キルを高める受け皿を用意する。 (日経ビジネス 2003.1.6) 16 (参考2−①) 新たな会社類型 ∼人的組織として重要な組織の柔軟性の確保(会社の内部の関係) ○ 人的会社や組合は、誰が社員であるかが重要であり、社員の総意によって定める定款で全て定められ(定款自治)、強行 規定は少ない。いかなる機関を設ける否かも定款で定めることができ、株主平等原則も適用されず、定款により特定の社員 に意思決定権限や損益の帰属を集中させることもできる。 ○ 会社法現代化にあわせて検討されている「新たな会社類型」の内部の関係については、こうした既存の人的会社(合名・合 資会社)の規定が準用されており、定款による自治の徹底が確保されることとなる。 物 的 組 織 物的・人的の区別 組 織 形 態 意思決定 組 織 定款変更 の 柔 軟 業務執行 性 株式会社 有限会社 人 的 組 織 企業組合(注1) ・株主総会普通決議、 特別決議 ・社員総会通常決議、 特別決議 ・総会普通決議、 特別決議 ・株主総会特別決議 事項(3分の2以上 の多数決) ・社員総会特別決議 事項(4分の3以上 の多数決) ・総会特別決議事項 (3分の2以上の多数決、 但し、行政庁の認可が 効力発生の要件) 出資者から独立した業務執行機関等の 設置が法的に強制され、 機関の設置や在り方に自由度がない ・取締役 ・理事会、監事 (監査役の設置は任意) 利益処分には組織としての意思決定が必要 持 分 の 考 え 方 脱退 (退社) ・株主総会普通決議 事項(多数決) ・社員総会普通決議 事項(多数決) ※取締役会で承認され ない場合は譲渡制限に かかる旨を、定款に定 めることは可能。 (注1)企業組合は、設立に行政庁の認可が必要。 ・社員以外への譲渡に は、社員総会での承認 が必要。 有限責任組合 任意組合 原則全員一致ではあるものの、 定款によって意思決定方法を自由に定めることが可能 ・原則として総社員の一 致によるものとする。 ・原則総社員の同意 が必要。 ・原則総社員の同意 が必要。 ※明確な規定なし。 ※明確な規定なし。 原則として社員全員が業務執行に参加するが、 定款で業務執行機関そのものや機関の在り方を自由に定めることが可能 ・原則として、社員全員 が会社の業務を執行す る権限を有するものと する。 ・各無限責任社員は定 款に別段の定めのない 限り、業務を執行する 権利を有し義務を負う。 ・社員は定款に別段の 定めのない限り、業務 を執行する権利を有し 義務を負う。 ・無限責任組合員が業 務執行者となる。 ・各組合員は、各自業 務執行に参加する権限 を有する。 いかなるルールでどのように利益配分するかを定款で自由に定めることが可能 ・定款に、損益分配の割 合、及び分配の手続に ついて定めることが可能。 ・90日前までに予告し、 事業年度の終において 脱退することが出来る。 ・やむを得ない事由が あるときは、定款の定 めにかかわらず、退社 できるものとする。 ・組合員は、組合(理事 会)の承諾を得なければ、 持分を譲渡することが 出来ない。 ・持分の譲渡は、原則と して総社員の一致によ るものとする。 退社の自由は認められない ¾明確な規定はないものの、株主(社員)平等の 原則の観点から一部の構成員だけが任意に会 社から財産の払戻しを受ける制度は認めにくい。 合名会社 (注2) ・総会普通決議事項 (多数決) ※明確な規定なし。 ※明確な規定なし。 ・損益分配の割合は組 合契約で定めることが 可能。 ・損益分配の割合は 組 合契約で定めることが 可能。 原則的に脱退(退社)の自由は認められる 原則持分の譲渡は自由 持分譲渡 合資会社 法定の意思決定機関における 多数決が強制され、基本的には定款によって 決議要件を緩めることが出来ない ・取締役会、監査役 利益処分 新たな 会社類型 ・やむを得ない事由があ る場合は、任意に脱退 出来る。 ・やむを得ない事由があ る場合は、任意に脱退 出来る。 ※やむを得ない事由が ある場合を除いて、任意 に脱退出来ることは出 来ない。 ・やむを得ない事由が ある場合は、任意に 脱 退出来る。 持分の譲渡は、原則他の構成員全員の同意が必要 (注2)有限責任組合は、事業範囲が原則として投資事業に限定されている。 ・①有限責任社員は無 限責任社員全員の、 ②無限責任社員は他の 社員全員の同意がそれ ぞれ必要。 ・他の社員全員の承諾 が必要。 ※明確な規定はないが、 全組合員の同意が必要 とされる。 ※明確な規定はないが、 全組合員の同意が必要 とされる。 17 (参考2−②) 新たな会社類型 ∼有限責任の確保(会社と外部との関係) ○ 有限責任の会社の場合、債権者にとっては、会社財産が債権回収のよりどころになるため、一定の債権者保護規定が必要とされる。 →「試案」における個別の検討事項についてみれば、以下の通り。 【配当規制】有限責任性の確保に伴う当然の措置であり、純資産から資本金などの一定額を控除するなどの、株式会社と同様の配当規制がかかる。 また、退社員に対する持分の払戻しについても、同様の配当規制をベースに債権者保護を検討するのが妥当である。 【最低資本金制度】人的資産を持ち寄り、スピード感をもって簡易に会社を設立することを可能にしておくべきであるため、適用しないのが妥当。 【計算書類等の開示制度】債権者の求めに応じて計算書類を開示するということで、債権者に閲覧請求権を与えることは考えられるが、債権者以外 の第三者にも広く開示を求める決算公告のような義務は不要とすべきと考えられる。 【業務執行者の第三者責任】業務執行者については、悪意・重過失の業務執行者に責任を負わせることは有限責任性に伴う合理的な措置と思わ れる。但し、この点に関し、業務執行者でない社員についても、第三者に対する責任を負わせるべきとの議論もあるが、 現行の合資会社の規定をみても、定款設定の意思決定に参加することとなる有限責任社員は、第三者責任を負わない ことになっており、この「新たな会社類型」についても同様の考え方を採るべきと考えられる。 構成員の責任の範囲 組織形態 規定項目 財産的 基礎 充実の ための 主な 規律 資本 維持・ 充実の 原則 最低 資本金 制度 その他 主な 情報 開示 義務 計算書類 等の開示 規制 公告等 その他 取締役等の 第三者に対する 責任 全構成員有限責任 株式会社 有限会社 企業組合 最低1人以上が無限責任を負う 新たな 会社類型 合資会社 資本維持・充実の原則有り 合名会社 資本維持・充実の原則無し ○配当規制:会社の貸借対照表上の純資産額が資本・法定準備金等の総額を上回る場合でなければ、会社 は株主(社員)に対し、利益配当等財産分配をしてはならない。 ○全額払込主義:資本の額に相当する財産が出資者から確実に拠出されることを要する。 ○配当規制や全額払込主義は適用 されない。 有限責任 組合 任意 組合 有り 無し ・組合財産は、純資産 額を超えて分配出来な い。 最低資本金制度無し 最低資本金制度有り ※下限額の引き下げ乃至撤廃で検討中。 ・現行1,000万円以上。 ※新事業創出促進法による 適用除外の特例有り。 ・現行300万円以上。 ※新事業創出促進法による 適用除外の特例有り。 ※この他、資本不変の原則(減資時の債権者保護手続 の必要)有り。 計算書類等の開示規制有り ・計算書類等の備付及び閲覧 等 ・計算書類等の備付及び閲覧 等 ・分割、合併等は官報等に よる公告等を要する。 ・計算書類の公告を要する。 ・分割、合併等は官報等に よる公告等を要する。 ・計算書類等の備付及び閲覧 等 ・債権者に、貸借対照表及 び損益計算書の閲覧請求 権を与えるものとする。 計算書類等の 開示規制無し 公告(及び個別催告)等の義務有り ・合併、出資一口の減少等に ついては公告等を要する。 ※決算公告のように、広く第 三者に決算内容の開示を 求める措置はなし。 ・合併については、官 報による公告等を要す る。 ・合併については、官 報による公告等を要 する。 規制有り 無し ・財務諸表等、公認会 計士等作成の意見書 の備置き・閲覧。 ※有限責任組合員 の存在を明確化する 為、登記制度が導入 されている。 無し 悪意・重大なる過失がある場合の第三者に対する責任規定有り ○悪意又は重大なる過失があった場合は、その取締役等は第三者に対して連帯して損害賠償の責任を負う。 18 (参考3) 人的資産を活用する新しい組織形態に対する期待 ∼政府決定・民間の提言 ○研究開発型ベンチャーの創出と育成について<総合科学技術会議意見具申> 平成15年5月 人的資本を基礎とする閉鎖型の簡易で柔軟な組織形態という特性を活かし、ファンドやベンチャーキャピ タル等の運営組織して、米国で最近急速に普及しているLLC制度があるが、日本においても、合理的かつ 健全な私法上の事業組織形態の在り方について、私法上の問題点の整理と検討を行うとともに、併せて税法 上の取扱いも検討する。 ○早期事業再生ガイドライン <経済産業省> 平成15年2月 ∼ベンチャー事業やジョイントベンチャーなどにおいて活用されている米国におけるリミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC)の ような新たな有限責任組織については、∼出来るかぎり早期に、構成員の有限責任性が確保された事業組織 法制の整備のあり方について検討し結論を得るとともに、併せて税制のパススルー性についても検討を行う。 ○規制改革の推進に関する第2次答申<総合規制改革会議答申>平成14年12月 私法上の事業組織形態についての検討 現在用意されている私法上の組合や法人の諸形態については、こ れらを一層利用しやすい制度に再構築する必要がある。∼合理的かつ健全な事業組織形態の在り方について、 私法上の問題点の整理と検討を行うとともに、併せて税制上の取扱いも検討すべきである。 ○対日投資会議専門部会報告(別表) 平成15年3月 新しい事業組織形態(日本型Limited Liability Company 等)の創設につき検討する。 ○経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(骨太方針) <閣議決定> 平成15年6月 ∼研究開発型ベンチャーの創出、知的財産推進計画の推進、知的技術革新・産業集積の充実を一体的に推 進する。このため、最低資本金規制の撤廃の恒久措置化、有限責任会社(LLC)、有限責任組合(LPS)の 早期創設、全国レベルでの見本市の開催、起業家支援機能の強化、特許審査の迅速化、投資ファンドに対す る支援策の改善等を行う。 (注) 経済界からの要望 ○産業力強化の課題と展望−2010年におけるわが国産業社会− <日本経団連> 平成15年4月 高成長・新規分野における起業や、共同事業再編をはじめとする企業の戦略的連携、投資ファンドへの リスクマネーの集約と投資拡大などを促すためには、リスク分散を可能とするとともに二重課税を排除す る、新しい企業組織制度の創設が必要となる。…米国のLLCなどにならい、①法人格、②出資者の有限 責任性、③税制上の導管性、④組織の柔軟性を備えた「日本型LLC」を創設すべきである。 ○対日投資促進民間フォーラムからの提言 平成14年12月 対日直接投資促進に向けた抜本的な税制改革∼米国のLLC並みの機能を持った日本版LLCの制定∼ 19