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平成23年度県内優良果樹技術・経営事例

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平成23年度県内優良果樹技術・経営事例
平成23年度県内優良果樹技術・経営事例
第13回全国果樹技術・経営コンクール
「全国農業協同組合中央会会長賞」受賞者
受賞者
片桐
肇
氏(西伯郡大山町)
1.推薦要旨
片桐肇氏の経営目標は、自家労力を中心に消費者に好まれるおいしい梨作りを目指
すことであり、町内生産者が二十世紀梨偏重で収量重視の梨生産を行う中にあって、
早生から晩生まで多くの品種を導入し、味や品質を重視した梨作りを確立しつつある。
氏は、県特産二十世紀梨と熟期をずらした多くの品種を栽培しながら、「なつひめ」
「新甘泉」等県オリジナル新品種を積極的に導入し、本年から選果場に整備された糖
度センサーを通して高単価で販売し高収益を得るとともに、袋かけ省略や収穫期分散
等、作業の省力化を図っている。また、網掛け施設やかん水施設の一部は自力設置し、
経費の削減を図り、作業の省力化と適期かん水による果実品質の向上を目指している。
栽培のポイントは、芸術的なまでの徹底した整枝せん定技術、有機物・パーライトの積
極的導入による土作り根作りの徹底、元肥を冬期と春期に分ける施肥方法、夏期誘引など
の新梢管理、果色を見ながらの適期収穫等である。これらが、若木の早期多収、成園後の
安定生産、高糖度で高品質の梨作りにつながっている。
氏は、新品種圃場の一部を展示圃場として位置づけ、広く生産者に公開している。基本
的な栽培管理法の実証を行うとともに、新品種の収穫適期試験、糖度向上試験、着果方法
の検討、ジベレリン処理による新梢伸長試験等多くの実証試験を行っている。
平成 16 年には、
「ゴールド二十世紀」コンクールで最優秀賞を獲得。また、平成 23 年
には「なつひめ」のコンクールでも最優秀賞を獲得された。これらの賞は、果実品質だけ
でなく栽培課程も審査対象とされるもので、氏が優秀な技術者であることを証明している。
平成 22 年に大山果実部指導部長、平成 23 年には鳥取西部地区梨指導協議会会長に就任
し、
大山管内だけでなく県西部地区広域にわたり、生産者の梨栽培技術向上に貢献している。
2.対象経営を取り巻く環境
(1)立地条件
大山町は鳥取県の西部に位置し、中国山脈の最高峰大山のなだらかな裾野に開けた農業
と観光の町である。総面積は 189.8 ㎢で、人口は約 17,359 人(2011 年 9 月 1 日現在)であ
る。
土壌は大山火山灰が堆積した肥沃な黒ボク土で、河川流域と平野部には水田が開け、台
地は果樹園や普通畑として利用されている。ナシ栽培は主に標高 300m 以下の台地で行わ
れている。気象概況は次のとおりである。
1
年平均気温:14.7℃
年間降水量
(年最高平均気温:18.5℃
:1,776 ㎜
年最低平均気温:11.0℃)
年間日照時間 :1,722 時間
ナシの生育期間である4月から
9月までの日照時間は 1,084 時
間で、日照時間の長い瀬戸内海
式気候である岡山県とほぼ同等
(94%)であり、生育期間の天候
には比較的恵まれている。
主要都市への交通は、町内を
国道 9 号線が東西に大動脈とし
て走り、米子自動車道、山陰自
動車道へと連結している。山陰の商都米子市へは車で 20 分、大阪までは車で約3時間で
ある。
平成 17 年 3 月から(旧)中山町、
(旧)名和町、
(旧)大山町が合併し、
(新)大山町と
してスタートしている。
(2)地域の果樹農業事情
大山町の農業は、水稲をはじめ、野菜、果樹、畜産が盛んであり、特にブロッコリーは
西日本有数の産地となっている。果樹栽培は約 120ha で行われ、ナシが中心で約 70ha、
一部の地域でリンゴ(9ha)
、ブルーベリー(12ha)、梅、柿、栗等が栽培されている。
大山町で本格的にナシ栽培が始まったのは戦後であり、二十世紀を中心に、昭和 60 年
頃には栽培面積が 430ha とピークをむかえる。しかし、樹の老木化、生産者の高齢化、さ
らに販売単価の低迷等により減少し、それに伴う選果場の統廃合が進み、旧中山町の3果
実部(上中山、下中山、逢坂)が、平成 7 年に合併して「中山果実部」となり、平成 20
年には名和果実部と合併して「大山果実部」
(栽培面積 93ha、生産者 202 名)となった。
県下全域で同様にナシ栽培面積の
減少が続く中、鳥取県は平成 13 年
に「二十世紀梨再生のためのアクシ
ョンプログラム」を策定し、新規ナ
シ団地の造成等、産地振興のための
各種事業を創設した。同時にこれら
の取組みをまとめて各産地の実情に
合わせた「地域プラン」を作成する
動きが始まり、平成 15 年に「名和
の梨新生プラン」
、平成 17 年に「中
山梨パワーアッププラン」が作成さ
れた。
平成 18 年には、鳥取県園芸試験
場で育成された
「なつひめ」
「新甘泉」
等梨新品種が、県のオリジナル品種
第1表 大山果実部の梨品種別栽培面積(H23)
品
種
面積(㏊)
二十世紀、ゴールド二十世紀、
48.4
おさゴールド
ハウス二十世紀
2.6
既 豊水
6.2
存 幸水
1.2
の 新興
3.8
品 新高
0.5
種 愛宕
0.5
秋栄
3.1
あきづき
1.3
王秋
1.2
なつひめ
0.6
新
新甘泉
2.8
品
涼月
0.3
種
その他
1.5
合
計
74.0
2
として普及を始め、平成 20 年には「鳥取県梨産業活性化ビジョン」が策定され、梨のオ
リジナル品種のシリーズ化による旬の鳥取梨ブランド再興への取り組みが進んだ。大山町
は、県下で最も早く新品種導入が進んだ地域として、注目されている。
「大山町梨
そして平成 23 年、大山町では、魅力ある梨作りと産地の維持発展を目指し、
産地振興プラン」が策定された。同年大山選果場では、糖度センサー選果機が導入され、
美味しい梨を安定供給することが可能となり、生産者の経営向上に貢献している。
3.対象経営の概況
(1)経営の履歴
片桐氏は、倉吉農業高校を卒業後、昭和 51 年から県果樹試験場(現園芸試験場)で、
非常勤職員として勤めつつ、野菜について 3 年、果樹について 1 年間技術を学んだ後、昭
和 55 年に就農した。
その頃梨の品種は、県内、町内とも二十世紀が中心に生産され、その割合は 8 割を超え
ており、栽培面積や生産量はピークを迎えていた時代である。
就農後は、父の代から続く梨園を引き継いで、二十世紀梨中心の梨作りを始めた。しか
し、二十世紀の過剰生産から単価が取れないだけでなく、二十世紀特有の病気である黒斑
病の多発により収量は上がらず、苦労を積み重ねながらの経営となった。
平成 2 年には、黒斑病に強い「ゴールド二十世紀」を導入し、安定した生産基盤に切り
替えることとした。平成 10 年には、黒斑病に強く他品種との交配が不要な「おさゴール
ド」を導入。古い二十世紀梨は、果樹園から消えることとなった。
世間では、ゴールド二十世紀が植栽されて 10 年ほどすると、ようやく収穫のピークを
迎えるようになったが、一方で二十世紀に比べて「おいしくない」とか「作りにくい」等
の批判が、生産者の中から出るようになった。そのような中で、県は平成 14 年より、
「ゴ
ールド二十世紀コンクール」を開催した。圃場管理から美味しい梨作りまでを評価される
その会で、平成 16 年には初の最優秀賞を獲得(平成 14、15 年には最優秀賞の受賞者はな
かった)
。圃場管理の徹底により、ゴールド二十世紀でも高品質の梨作りが可能なことを証
明した。
新しい品種については、
「あきづき」「王秋」を、品種登録直後の平成 13 年には既に導
入。現在は経営の柱のひとつとなりつつある。
平成 18 年には、県園芸試験場で育成された県のオリジナル品種「なつひめ」
「新甘泉」
等の新品種を積極的に導入し、その 20aの圃場を展示圃場として広く生産者に開放した。
平成 23 年、県内で開催された梨新品種振興大会の、第 1 回ナシコンクール「なつひめ」
の部で最優秀賞を受賞した。
その他、鳥大や他県で育成された品種も少しずつ導入し、今後有望となる品種の実証に
も力を入れている。
現在は、産地の生産者のほとんどが 7 割以上二十世紀で占める栽培を行なう中、二十世
紀系の栽培は 4 割に止め、以前から栽培していた「幸水」「豊水」を更新し、経営的に有
利な新品種を積極的に導入し、経営の改善を図っている。
また、平成 22 年より大山果実部の指導部長を務め、産地生産者の技術向上に貢献して
いる。
3
(2)経営の状況
梨と水稲の経営のうち、梨部門の粗収益が 95%を占める。
経営規模
①
経営耕地面積 145aのうち果樹園が 100aを占める。
その内訳は「二十世紀」を中心とする青梨が 45a、
「王秋」「新甘泉」を中心とする赤梨
が 55aである。
②
機械施設の整備状況
ア
主要機械
防除は、1000ℓのスピードスプレヤーを
使用。収穫、出荷等の運搬作業は運搬車及
びトラックを使用。
イ
主要施設
◎ 多目的防災網(網掛け施設)…86a
◎ かん水施設………………………61a
ウ
労働力
本人、
妻、
両親の 4 人の家族労働が中心。
家族の年間労働従事日数 540 日のうち約 4
割を、片桐肇氏本人が占める。
エ
生産概況
第2表 片桐氏の経営規模
面積(a) 被袋数(枚)
作
目
ゴールド二十世紀
25
22,500
おさゴールド
17
17,500
王秋
13
13,900
あきづき
7
9,000
新甘泉
14
9,600
なつひめ
6
4,200
秋栄
3
2,500
新興
15
1,500
涼月2,200、南水900、瑞秋500、
秋甘泉400、他
その他
被袋数7,050
収 穫 ( 出 荷 ) 量 23,400kg の う ち
計
12,613kg(54%)が二十世紀であり、続いて
100
80,700
王秋(5,815 ㎏)、新甘泉(2,760 ㎏)の順となっている。
(3)経営的特色
経営の目標は、
「鳥取県の特産二十世紀を活かしながらも、省力的で糖度の高い優良品種
を導入し、消費者に好まれる美味しいなし作りと、自家労力を中心とするゆとりある梨作
りを行なうこと」である。
経営の特徴は以下のとおりである。
①
高単価の望める新品種導入により収益性向上
近年低単価となり労力のかかる二十世紀梨に偏重する栽培体系を見直し、現在は大山町
の特産となっている「王秋」を早くから導入。収量、単価ともに経営の柱となっている。
また、園芸試験場で育成された鳥取県のオリジナル品種「なつひめ」
「新甘泉」は、すべ
て糖度センサーをクリアーしたものが、高単価で販売される。大山町は、早くからこの新
品種を導入してきた地域であり、氏は、他の生産者に先駆けてこれら新品種を導入し、早
期多収と糖度向上の技術をいち早く現地で確立してきた。そして、収益性の高い梨栽培を
展開している。
②
作期の異なる品種導入により雇用に頼らないゆとりある経営
早生の涼月から始まり晩生の王秋まで、赤梨を中心とする高品質で省力的な品種を配置
し、収穫をはじめとする管理作業の分散を図っている。
4
特に、外観を重視する二十世紀は、小袋掛け(2回袋掛けを行ううちの1回目、5月に
行なわれる)が遅れると、商品価値が下がる。この時期は、どの品種もちょうど摘果の時
期に当たり、5月に作業が集中することになる。そこで、省力化を図るためには、小袋掛
けの不要な赤梨の導入は不可欠となる。
雇用については、2∼3日に作業が集中する交配に 10 人役(80 時間)投入されている
だけで、それ以外はすべて家族労働によっている。
③ 多目的防災網(網掛け施設)やかん水施設の導入による生産安定
多目的防災網やかん水施設の一部は、資材を自分で購入して自力で設置し、経費の削減
を図っている。
網掛け施設については、防虫や防鳥により、袋掛け作業の省力化できる赤梨の導入を可
能にしている。
かん水施設は、干ばつ等近年の不順な天候の中での生産安定に役立っている。特に 5 月
のかん水により、果実の細胞分裂を促し、初期生育を順調に行なうことで、高品質果実の
生産に役立っている。
(4)技術的特色
氏いわく「これまで実証されてきた当たり前の技術を当たり前にやるだけ」とのこと。
管理作業すべてに、梨農家として妥協を許さない氏の職人とも言える技がにじみ出ている。
以下は、主に新品種の若木を中心に実施している栽培のポイントについて挙げる。
①
若木の整枝せん定の徹底による早期多収技術
主枝、亜主枝等骨となる枝の先端を立て、側枝(成らせ枝)を水平にと、誘引を徹底する
ことにより、樹勢の維持と早期多収を可能にしている。側枝は、効率的に果実生産ができ
るよう平行に配置し、添え竹に丁寧に誘引される。
② 土作り根作りのための有機物の確保と土壌改良の実施
すべての園地に有機物によるマルチが処理されており、園内道と区別した栽培となって
いる。収穫後にはマルチ部分の土壌改良を毎年場所を変えて計画的に実施している。穴を
掘り根の更新を行なうとともに、パーライトを始め、リン酸や石灰等の土壌改良資材とと
もに、大山のふもと(清水原)から確保した葦等の有機物を投入している。
③
施肥時期を変え効率的に肥料を効かせる施肥方法へ改善
一般には、土壌改良直後の 11 月∼12 月に元肥を施肥し、2 月∼6 月まで追肥を行なう
のが一般的である。しかし、収穫前の追肥はアザや低糖度の原因にもなる。氏は、肥料の
流亡防止と効率的な肥効を考え、園地のほとんどが黒ぼく土壌であることも考慮し、12 月
と 3 月に分けて元肥を行い、追肥はほとんど行なわない。それにより、高糖度で高品質な
果実を生産している。
また、肥料の遅効きを防ぐため、5 月の乾燥時期には、土壌の状態を見ながら、かん水
を実施している。
④ 新梢誘引や夏季せん定等夏季管理の徹底
果実の順調な肥大と糖度向上及び次年の花芽確保のために、すべての樹で新梢誘引を行
っている。
主幹周りの、樹形を乱したり影を作る徒長枝は、必要最小限に摘心する。
5
また、主枝、亜主枝の先端はテープナーを使って上向きに誘引し、樹冠拡大と樹勢維持
に勤めている。
春先の新梢伸長にジベレリンペーストを利用するなど、新しい技術も積極的に取り入れ
ている。
⑤
適期収穫により美味しい梨の出荷
糖度センサーが導入される以前から味重視の梨作りを行っている。おいしい梨作りの仕
上げに、収穫は、果色を見て適期に行い、おいしい梨を安定的に出荷している。
(5)地域への波及効果
①
大山果実部指導部長
氏は、平成 22 年から大山果実部の指導部長に就任されている。毎月の指導部情報や年
10 回程度開催される指導会の準備、新規就農者への個別指導等、自らの忙しい時間を割い
て産地生産者の技術向上に貢献している。
また、平成 23 年には、鳥取西部地区梨指導協議会会長に就任し、現地試験の実施や研
修会の開催を行う中、鳥取県西部広域生産者の技術指導を行っている。
② 積極的な新品種の導入とその普及
氏は、
「なつひめ」
「新甘泉」等鳥取県のオリジナル品種をはじめ、有望な新品種につい
て、他の生産者に先駆けて、積極的に導入している。これから有望と思われる新品種につ
いては、試験栽培を行い、果実品質や栽培方法について、納得いくまで実証されている。
また、ほ場の一部を新品種の展示ほ場として展示し、広く生産者に栽培方法等展示して
いる。現地指導会は、ここで開催されることが多い。
このほ場では、
ア 「なつひめ」
「新甘泉」の収穫適期の把握
イ
「なつひめ」の糖度向上試験
ウ
「新甘泉」の果そう葉のない果実品質試験
エ
ジベレリンペーストによる新梢伸長試験 等
多くの実証を行っている。
③ 新品種の梨コンクール受賞
平成 23 年 2 月に県内で開催された新品種梨振興大会の第 1 回ナシコンクール「なつひ
め」の部で最優秀賞を受賞された。県下でもオリジナル新品種の先駆けとして、注目され
ている。
(6)今後の経営展開
①今後は、まだ幼木である「なつひめ」
「新甘泉」等新品種が成園化するに従い、生産量が
増加し、収益が上がる見込みである。
②生産性向上や品質向上のための現地試験を行い、その技術を経営に取り入れ、経営の安
定とさらなる向上を目指している。
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