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(Asia Weekly (3/16~3/20)) ~官民一体での雇用創出に向けた動きが
1/5 ASIA Indicators 定例経済指標レポート 雇用悪化が深刻化するアジア新興国(Asia Weekly (3/16~3/20)) ~官民一体での雇用創出に向けた動きが進むも、効果には暫く時間が必要か~ 発表日:2009 年 3 月 23 日 (月) 第一生命経済研究所 経済調査部 副主任エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) ○経済指標の振り返り 発表日 指標、イベントなど 3/16(月) (フィリピン)1 月海外労働者送金(前年比) 3/17(火) (フィリピン)1 月失業率 結果 コンセンサス 前回 +0.1% +0.8% 7.7% 6.8% ▲23.7% ▲27.8% ▲34.9% +1.8% ▲1.9% ▲3.3% (香港)2 月失業率(季調済) 5.0% 4.9% 4.6% 3/18(水) (韓国)2 月失業率(季調済) 3.5% 3.4% 3.3% (タイ)2 月輸出(前年比) ▲11.3% ▲24.3% ▲26.5% 2 月輸入(前年比) ▲40.3% ▲36.7% ▲37.6% 3/19(木) (インド)3/7 時点卸売物価(前年比) +0.43% +0.86% +2.43% 3/20(金) (香港)2 月消費者物価(前年比) +0.8% +1.2% +3.1% +3.7% +3.5% +3.9% (シンガポール)2 月非石油輸出(前年比) (前月比、季調済) (マレーシア)2 月消費者物価(前年比) (注)コンセンサスは Bloomberg 及び REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。 [フィリピン] ~海外経済悪化で労働者送金は伸び悩むも、通貨安がペソ建の堅調な伸びをもたらす皮肉~ 16 日に公表された 1 月の海外労働者送金額は、対前年同月比+0.1%と前月(同+0.8%)から一段と伸び が鈍化し、世界的な景気後退の影響がより鮮明になってきた。同国の海外労働者送金は、2008 年通年で約 164 億ドルと GDP の 1 割程度の規模に達し、個人消費の下支え要因となってきた。しかし、最大の移民先であり、 送金額の約半分を占める米国における急速な景気悪化に加えて、ここ数年の資源価格上昇により移民数が増大 した中東も景気が後退するなど、移民労働者の雇用・所得環境の悪化が鮮明になる中で送金の原資となる所得 の伸び悩みが影響しているとみられる。なお、昨年以降、インフレによる同国の景気後退懸念から通貨ペソは 一転して大幅に減価しており、ペソ建での流入額は当社試算で前年比+15%程度を維持しており、依然高い伸 びが続いているとみられる。 翌 17 日に公表された 11-1 月の 3 ヶ月間に関する労働調査によると、失業率は 7.7%と前期(同 6.8%)か ら 0.9p 上昇し、国内経済の急速な悪化を示す内容となっている。特に、失業者数は前期に比べて 32 万人も急 激に増加したことが明らかになっており、半導体メーカーなどによる工場撤退などが相次いでいることが影響 したとみられる。同国は輸出の 6 割程度が電子部品などである上に、輸出全体の 2 割強が米国向けであるなど、 先進国向けが多くの割合を占めており、足元の世界的な景気悪化の影響を受ける形で輸出は激減している。こ うした状況を受けて、足元では製造業における生産は大きく落ち込んでおり、先行きも生産抑制による雇用・ 所得環境の悪化が続くことが懸念される。 金融当局は、足元の景気悪化に対して利下げによる金融緩和を進めることで対応してきた。足元では商品市 況の急速な下落によりインフレ圧力は大きく低下しているものの、食料品など一部の消費財を依然輸入に依存 する同国では、為替安による輸入物価の押し上げが起因となり、直近 2 月の消費者物価は前月比+0.5%と前 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/5 月(同+0.3%)から伸び率が上昇している。インフレ率も食料品やエネルギーを除いたコア物価も依然とし て当局が定めるターゲット(3~5%)を上回る水準にあり、今月 5 日に開催された金融政策委員会では利下げ 幅が市場予想を下回る 25bp に留まった経緯がある。当局は今後の金融政策のスタンスについて、 「慎重な金融 政策を継続する」との見通しを示しており、インフレ動向と景気動向とを睨みつつ、利下げを行う場合も小幅 利下げに留める可能性が高まっている。ペソ建の労働者送金の底堅さが個人消費を下支えするとみられるが、 輸出環境の悪化から企業部門を中心に投資は落ち込むとみられ、景気の減速感が強まると予想される。 図1 (%) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 -5 -10 -15 フィリピン 海外労働者送金の推移(前年比) 米ドル建 ペソ建 図2 フィリピン 為替相場の推移 (USD/PHP) 57 54 為替安↑ 51 48 45 為替高↓ 42 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (出所)CEIC 図3 (%) 8.5 フィリピン 雇用環境の推移 図4 失業率 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 2007 2009 2008 フィリピン 輸出入の推移(前年比) (百万ドル) 200 -400 -30 -40 -50 2003 -1,200 2009 収支尻(右) 輸出 輸入 0 -200 -600 -800 -1,000 -1,400 2004 2005 2006 2007 2008 -1,600 2009 (出所)CEIC フィリピン 政策金利の推移 図6 5 [韓国] 2008 20 10 0 -10 -20 6 2004 2007 1,000 800 600 400 200 0 -200 -400 7 (出所)CEIC 2006 (%) 50 40 30 (%) 8 4 2003 2005 (千人) 1,600 1,400 1,200 (出所)CEIC 図5 2004 (出所)CEIC 雇用者数前年差(右) 2006 39 2003 2005 2006 2007 2008 2009 (%) 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2003 フィリピン 消費者物価の推移(前年比) インフレ率 2004 2005 コア物価 2006 2007 2008 2009 (出所)CEIC ~企業側の努力で先行きの雇用の急悪化は避けられる見通しも、所得鈍化で内需に重石が広がる~ 18 日に公表された 2 月の失業率(季調済)は 3.5%と前月(同 3.3%)から 0.2p 悪化した。昨年 10-12 月 期の実質 GDP 成長率が前期比年率(季調済)▲20.8%と未曾有の景気後退に見舞われており、政府は今年 1 月に公表した 51 兆ウォン規模の「グリーン・ニューディール政策」に加えて、今月には追加的な景気対策を 含む 29 兆ウォン(約 205 億ドル)規模の補正予算を行う方針を明らかにしている。今回の追加景気対策では、 55 万人の雇用創出を行うべくワークシェアリングに向けた補助金などが実施されるほか、6.1 兆ウォン(約 42 億ドル)で低所得者層向けに商品券を配布するなどの施策が行われる見通しである。なお、雇用環境の悪 化が進む中、新卒者の雇用吸収が円滑に行われるか懸念されたが、政府は政府関係機関を中心に雇用を維持す る代わりに初任給の引き下げを行う計画を公表しており、大手民間企業もこうした方針に追随して新卒者の受 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/5 入数を増加させる代わり、初任給の引き下げを行う方針を明らかにしている。こうした取り組みが進んでいる ことで、一時は全労働者の半分近くまで低下した正規労働者の割合は、足元では若干ながら改善の兆しがみら れる。ただし、雇用が確保される一方で 1 人当たりの所得は伸び悩みが続くことになり、足元で疲弊感が強ま っている個人消費が力強さを取り戻すのは当面難しいであろう。また、長きに亘って企業部門の収益源となっ てきた輸出は足元のウォン安がプラスに作用するとみられるものの、世界的な景気の底入れに時間を要する中 で本格的な回復はその先になると予想される。企業サイドの努力もあり、雇用環境が急激に悪化する可能性は 低くなっているものの、当面は厳しい所得環境の中で内需の盛り上がりに欠ける状況が続くものと予想される。 図 7 韓国 (%) 4.0 3.9 3.8 3.7 3.6 3.5 3.4 3.3 3.2 3.1 3.0 2.9 2003 雇用環境の推移 雇用者数対前年差(右) 図8 (千人) 600 失業率 500 8 400 6 300 200 100 2004 2005 2006 2007 2008 2009 韓国 資本投資 GDP 在庫投資 0 -2 -4 -6 -200 -8 雇用形態別労働者比率の推移 正規雇用 派遣雇用 パート 2003 2004 2005 2006 2007 2008 図 10 韓国 小売売上高の推移(前年比) (%) 15 名目ベース 実質ベース 12 9 6 50 40 30 20 3 0 -3 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (出所)CEIC 2004 2005 2006 2007 2008 2009 輸出入の推移(前年比) 収支尻(右) 輸入 (十億ドル) 5 輸出 40 4 30 3 20 2 10 1 0 0 10 -1 20 -2 30 -3 2004 -6 2003 (出所)CEIC 韓国 (%) 50 40 2003 政府消費 不突合 2 -100 80 70 60 図 11 実質 GDP 成長率の推移(前年比) 個人消費 純輸出 (出所)CEIC (%) 100 90 10 0 2003 韓国 4 0 (出所)CEIC 図9 (%) 10 2005 2006 2007 2008 2009 -4 (出所)CEIC [香港] ~雇用の悪化とデフレ基調の強まりで、リセッション状態の長期化は避けられない方向へ~ 17 日に公表された 2 月の失業率(季調済)は 5.0%と前月(同 4.6%)から 0.4p 悪化した。今年 1 月から の失業者数は、ここ 2 ヶ月のあまりの間に 3 万人以上増加している。前年同月と比べると失業者数が約 6 万人 増加したことになり、急速な雇用の悪化が続いている。政府はこうした事態に対応する形で、インフラ公共投 資を前倒しで実施するほか、企業部門には新規雇用に対して補助金を支給するなど、12 万人の雇用創出を行 う計画を表明した。しかし、そのタイミングや歳出規模などについての詳細は決まっておらず、その実効性に 対する疑問が強まっている。隣国の中国では大規模経済対策が既に進んでおり、同国にも輸出入などを通じて 一定程度の裨益効果が出ることが期待される。とはいえ、中国の景気対策が政府主導による内向き対策に終始 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4/5 していること、米国をはじめとする海外経済の底入れには未だに時間を要するとみられることから、その効果 は限定的と言える。さらに、政府による雇用対策の詳細が不明な中、その効果発現には一段と時間がかかるこ とで当面の雇用・所得環境の悪化は避けられないであろう。特に、同国では景気が悪化していることで海外か らの投資資金の流出が続き、株式相場のほか不動産市況といった資産市場は大きく低下しており、ここ数年の 消費を押し上げてきた資産効果は剥落しているとみられる。外需の回復が遅れる上、内需の回帰も見込みにく い中、昨年 10-12 月期に前期比年率(季調済)▲7.8%と景気失速状態にある同国は当面の間リセッション状 態が続くと予想される。 20 日に公表された 2 月の消費者物価は、対前年同月比+0.8%と前月(同+3.1%)から伸びが急激に鈍化 した。前月比では▲0.7%と前月(同+0.4%)から一転してマイナスに陥っており、需要低迷によるデフレ懸 念が高まっていると考えられる。前月の旧正月(春節)が終わった後の需要の減少も、デフレ傾向を早める要 因になったと考えられ、先行きもこうした基調は続くことが予想される。特に、サービス部門では前年比▲ 4.0%と大幅なマイナスに陥っていることで、先行きは所得の低下を通じて個人消費に一段の下押し圧力が掛 かる可能性が高いとみられ、こうしたことからもデフレ圧力が強まる可能性が高いと考えられる。 図 12 (%) 9 香港 雇用環境の推移 就業者数対前年差(右) 図 13 失業率(季調済) (千人) 120 100 8 80 7 6 5 2004 2005 2006 2007 2008 2009 輸入 輸出 (十億ドル) 1 30 0 40 10 -1 20 0 -2 -10 -3 -40 -20 -60 -30 2003 (出所)CEIC 図 14 収支尻(右) 20 -20 3 2003 輸出入の推移(前年比) 60 0 4 香港 (%) 40 2004 2005 2006 2007 -4 2009 2008 (出所)CEIC 香港 投資ファンドの売買高推移 (十億ドル) 3 図 15 香港 株式相場の推移 28000 26000 24000 2 22000 流入↑ 1 20000 18000 0 16000 14000 -1 12000 流出↓ -2 2005 2006 2007 10000 08/1 2008 (出所)CEIC 図 16 (%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 2003 香港 不動産価格の推移(前年比) 住宅価格 2004 (出所)CEIC 08/3 08/5 08/7 08/9 08/11 09/1 09/3 (出所)Bloomberg 2005 2006 2007 オフィス価格 2008 図 17 (%) 14 12 10 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 2003 香港 実質 GDP 成長率の推移(前年比) 民間消費 在庫投資 2004 2005 2006 政府消費 純輸出 2007 資本投資 GDP 2008 (出所)CEIC 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 5/5 図 18 (%) 7 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 2003 香港 消費者物価の推移(前年比) 食料品 運輸 2004 住宅 その他 2005 2006 公共サービス CPI 2007 2008 2009 (出所)CEIC [インド] ~インフレは 20 年来の低水準でデフレ懸念、一層の利下げ余地から金融緩和で景気刺激の可能性~ 19 日に公表された 3 月 7 日時点における卸売物価は、前年比+0.44%と前週(同+2.43%)から大幅に鈍 化し、過去 20 年来で最も低い水準となった。昨年半ばにピークを迎えたインフレは、その後の原油をはじめ とする商品市況の急速な下落もあって低下が続いてきたが、ここに来て景気の鈍化による需要の低迷からデフ レの可能性が高まっている。4 月からの新年度予算では大幅な赤字国債の発行が予定されている上、内外需双 方で低迷が懸念されており、一段の金融緩和により景気を下支えする可能性が高まるとみられる。次回の定例 の金融政策委員会は 4 月 21 日に予定されているが、場合によっては同日程前に緊急利下げを行う可能性が高 まっていると言えよう。 図 19 インド (%) 14 卸売物価の推移(前年比) 食料品 その他一次産品 その他工業製品 12 食料加工品 燃料 WPI インド 預金準備率 金融政策の推移 レポ金利 リザーブレポ金利 9 10 8 8 7 6 6 4 5.0 5 2 4 0 -2 2003 図 20 (%) 10 2004 2005 (出所)Bloomberg 2006 2007 2008 2009 3 2003 3.5 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (出所)CEIC 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。