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創造的産業組織の構築

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創造的産業組織の構築
創造的産業組織の構築
新しい事業価値の創造を可能にするネットワークの形成を目指して
∼ 概 要 ∼
平 成 1 3 年 3 月
産 業 構 造 審 議 会
新成長政策部会 中間報告
この中間報告(案)は、我が国経済が力強い成長軌道に乗るための将来の方向性
と、実現のための施策について取りまとめたものであり、産業分野における「企業
と企業」、「企業と被雇用者」、「企業と消費者」などの各経済主体間の結び付き(=
ネットワーク)の在り方という観点から検討した。
IT化の進展による情報の処理と伝達に係るコストと時間の大幅な低減は、高密
度の情報の広範・低コストでの共有を可能とし、これまで困難と考えられていた個
別化・細分化した潜在需要の掘り起こしと、広範囲で多様な経営資源の結合を通じ
て、これに対応した供給システムの構築を可能にしている。
こうした価値創造を行う企業にとって、専門分野に特化し(モジュール化)、柔軟
な企業間関係(オープンなネットワーク)を構築することが、企業戦略として避け
がたい大きな流れとなっている。我が国産業の強みである現場レベルの高密度な
ネットワークのメリットを残しつつ、オープンなネットワークの利点を取り込み、
各事業者の実態や目的に適した重層的なネットワークを形成することが重要であ
る。
政府としては、企業関連諸制度の改革等を通じ、民間事業者がその事業の実態や
目的に応じて最適なネットワークを構築するための選択の幅を拡大することが必要
である。
こうした認識を踏まえ、各論において、個別産業分野の競争促進と、ネットワー
クの在り方を規定する企業関連諸制度の改革を提言した。また、市場メカニズムを
活用し効率的に環境負荷を低減する仕組みについての提言を行った。
なお、近年の米国においては、オープンなネットワークが優位性を持つ産業にお
ける付加価値創造の拡大が顕著であるが、これを我が国に当てはめた場合に2%程
度の成長率の上方シフトが可能であることを補論にて試算した。
-1-
1.中間報告(案)における問題意識
我が国経済が未だに力強い成長軌道に移行していない中、近年新しい価値創造
のメカニズムを形成する企業群が拡大してきており、我が国経済の今後の成長を
担う存在になりつつある。これらの企業は単に事業の効率性が高いだけではなく、
多様な消費者のニーズをとらえ、新しい商品やサービスを提供することで潜在的
な需要を開拓することに成功している。
こうした状況の下、この中間報告(案)では、今後10年程度で我が国経済が
力強い成長軌道に乗るための方向性とその実現のための施策について取りまとめ
た。特に、新しい価値創造のメカニズムの発現を促進し、産業の生産性の継続的
な上昇と潜在的な需要の顕在化を実現するため、産業分野における経済主体間
(企業−企業、企業−被雇用者等)の結び付きとしてのネットワークの在り方と
いう角度から検討を行った。ネットワークの在り方を検討の対象としたのは、以
下の3点で大きな意味があると考えるからである。
第1に、情報技術の飛躍的な進歩の中で、ネットワークの在り方が経済的価値
の創造、潜在需要の顕在化に与える影響が著しく拡大してきたことである。
IT化の進展による情報の処理と伝達に係るコストと時間の大幅な低減は、高
密度の情報の広範・低コストでの共有を可能とし、これまで困難と考えられてい
た個別化・細分化した潜在需要の掘り起こしと、広範囲で多様な経営資源の結合
を通じて、これに対応した供給システムの構築を可能にしている。
こうした進歩を現実の経済成長に結実させていくためには、情報共有の範囲を
特定の企業や企業グループ内に限定することなく、価値創造の場として機能する
ネットワークを必要に応じて拡大し、潜在需要の顕在化を図ることが重要である。
第2に、我が国の産業界が、情報技術の発達の成果を享受し得るようなネット
ワークを構築していく高い潜在力を有していると考えられることである。
80年代の我が国における輸出型製造業部門の生産性向上の背景には、当該産
業部門を中心として構築された緊密なネットワークがうまく機能したという要因
があった。ジャスト・イン・タイムシステムなどの、現在では世界標準となりつ
つある経営手法の多くが、我が国産業界における緊密なネットワークの中から生
まれてきたものである。
このように、我が国の産業はネットワークの形成に高い潜在力を有しており、
IT革命の成果を活かして多様な知識・情報の共有・結合による価値創造を実現
-2-
するネットワークを形成することは充分に可能であると考えられる。
第3に、経済主体間のネットワークは、それを構成する雇用関係、金融関係、
企業ガバナンスの関係等の個々のサブシステムの制約を受けながら進化している
ものであり、政府としては、こうしたサブシステムを規定する諸制度の改革を通
じ、最適なネットワークの形成に向けた条件整備を広範な分野で進めていく必要
があることである。
産業分野におけるネットワークは、個々の経済主体自らの意思のみにより形成
されるものではなく、社会経済全体に存在する各般の制度によって規定され、維
持、強化されている。現に、我が国の高密度のネットワークは、長期常用雇用や
メインバンクシステム、長期継続的取引によって支えられており、それらは雇用
関係、コーポレートガバナンスシステム、企業間関係、資本市場、司法制度、供
給者と消費者の関係等などの影響を大きく受けている。
したがって、最適なネットワークの形成を促進するためには、こうしたサブシ
ステムを総体としてとらえ、関連諸制度の改革の具体策を示すことが必要である。
2.基本的方向性と中間報告(案)の構成
IT革命によって企業間の情報共有が容易になっている現在、事業活動のモ
ジュール化とネットワークのオープン化は避け難い大きな流れである。すなわち、
これまで同一企業内で行われてきたビジネスプロセスを分解して、各々の専門分
野に特化した企業によって分業する(事業活動のモジュール化)とともに、既存
の企業間関係に縛られることなく戦略的に企業間連携を進め、オープンで柔軟な
企業間関係(ネットワーク)を構築し、多様な知識・情報の組合せのメリットを
享受する戦略が有効になっている。こうした中で、我が国産業は、これまで培っ
てきた高密度なネットワークの長所を活かしつつ、モジュール化とオープンな
ネットワークのメリットを取り込んでいくことが必要である。
政府としては、企業関連諸制度の改革等を通じて、民間事業者がその事業の実
態や目的に応じて最適なネットワークを構築するための選択の幅を拡大すること
が必要である。
第1章においては、80年代、90年代の日本経済のパフォーマンスについて
統計資料に基づく検討を行った。
80年代に我が国経済は高い成長を遂げたが、その大きな要因には、我が国製
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造業が産業用ロボットなどのME技術導入を世界に先駆けて進めるなど生産工程
によるイノベーションを進め、品質面・コスト面で優位性を獲得・維持したこと
がある。一方、我が国経済の90年代の停滞は、バブル崩壊に伴う逆資産効果や
金融システム不安といった悪条件に加えて、我が国産業がIT投資の成果を生産
性の上昇に結び付けられなかったことが大きな要因の一つだと考えられる。
第2章においては、我が国のネットワークの特質とその変化について分析を
行った。
情報技術の発展により、高密度の情報共有を広範かつ迅速に行うことが可能に
なったことから、柔軟に他社と連携し、多様な知識・情報の組合せにより新たな
製品・サービスを開発・提供するという戦略の有効性が高まっている。そのため
には、これまでの企業間ネットワーク内で行われていた複雑なビジネスプロセス
を機能に分解して、専門分野に特化した複数の企業で分業することがこれまで以
上に必要になる。
にもかかわらず、我が国において既存の企業間ネットワークを越えた企業間連
携が進まない原因の一つには、長期継続的取引などを背景に、競争圧力の低い分
野を中心として、発達した高密度なネットワークの裏側に利益の分配と調整のメ
カニズムが付着していることがあげられる。こうした利益分配のメカニズムは、
低効率部門を温存するとともに、既得利益を保護することで新しいビジネスモデ
ルの形成と発達を阻害する場合が多い。ただし、これらは競争の導入により、効
率性と創造性を指向したネットワークに置き換えることが可能であると考えられ
る。
我が国企業が価値創造につながるネットワークの拡大を行う場合、既存の組織
の全てをモジュール化して新たなネットワークを初めから作り直すのではなく、
一部についてはモジュール化を採り入れつつ、我が国産業の強みである現場レベ
ルでの緊密なネットワークを既存の企業や企業グループの枠を越えて拡大してい
くことが現実的な選択であろう。
第3章では、ネットワークの在り方についての第2章の分析を基礎として、情
報産業を始めとする個別の産業分野に関する競争促進と、雇用や企業法制等、
ネットワークシステムの基礎となるサブシステムを規定する具体的な制度変更の
提言を行っている。
多様な知識・情報の結合による価値創造を円滑化するためにも、情報通信関連
産業における競争を促進し、情報処理・情報共有のコストを低減することが重要
である。また、公益事業や医療・介護などの規制分野についても、規制改革を通
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じて競争を促進し事業の効率化を図ることが必要である。
さらに、閉鎖的なネットワークの弊害が顕在化している我が国企業システムの
再構築を図るため、個別企業の事情に応じた柔軟で戦略的な企業組織や雇用シス
テムの選択を可能にする中立的な制度を実現することが必要である。具体的には、
○ 労働市場の改革
○ 新しいコーポレート・ガバナンスの構築と直接資本市場の改革
○ オープンな研究開発体制の整備
○ 経済社会インフラとしての司法制度の改革
に取り組んでいくべきである。
第4章では、循環型社会の構築に向けて、市場メカニズムを活用して効率的に
環境負荷を低減する仕組みについての提言を行った。
環境問題の原因者や被害者として多数の主体が関与するようになった現在では、
インセンティブの伴わない規制の強化によって環境負荷の軽減を進めることには
限界がある。したがって、自主的取組、規制的手法及び経済的手法を適切に組み
合わせ、市場メカニズムを活用して効率的に環境負荷を低減する仕組みを構築す
ることが必要である。
例えば、廃棄物・リサイクル分野においては、市場メカニズムを通じ環境負荷
の軽減が動機付けられるシステムを形成するため、廃棄物処理法上の廃棄物の定
義の見直しや一般廃棄物と産業廃棄物の区分の見直し等の制度改革を行うことが
必要である。
最後に、IT革命等の環境変化の中で米国においてはオープンなネットワーク
が優位性を持つ産業における付加価値創造の拡大が顕著であるが、これを我が国
に当てはめて計算すると2%程度の成長率の上方シフトが生じ得ることを補論に
おいて示した。
2%程度の成長率の上方シフトが起きた場合、我が国の成長率は3%を超える
ものになることが予想される。成熟した先進国においてもIT革命を一つの契機
として3%を超える成長を遂げていることにかんがみれば、中長期的に我が国が
この程度の成長率を達成することは十分に可能である。
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