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経済分析 第76号

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経済分析 第76号
<分析3>
市場構造・行動・成果の同時決定モデル
による産業組織分析
―― 連立方程式モデルによる計測の試み ――
楠田
義・横倉
根来 正人
I
は じ め に
尚
一方向的な因果関係を想定するだけでは必し
も十分でない,というのは,構造←行動など
(1)産業組織論においては,これまで多くの実
逆方向の因果関係の存在をも考慮しなければ
証研究が行なわれているが,それらの分析の
ならないからである。このような関係は,た
ほとんどは,いわゆる「市場構造」
「市動行動」
とえば,企業の合併といった行動は,当該産
「市場成果」といった「三分法」を分析の枠組み
業の売手集中度に直接作用することや,ある
としている。周知のように,この「三分法」
いは,広告活動などによる製品差別化行動が
の枠組みにおいては,基本的に次のような因
直接的に,もしくは参入障壁を高めることを
果関係の存在が想定されている。すなわち,
通じて間接的に,当該産業の売手集中度に作
産業の市場成果は,その産業における企業の
用することなどを考えれば明らかであろう。
行動のパターン(市場行動)に依存し,企
このように構造・行動・成果の関係につい
業の行動は,企業の置かれた環境(市場構
て,相互の因果関係の存在が認められるとす
造)によって主に決定されるといった考え方
れば,構造→行動→成果といった一方向的な
である。
「市場構造」→「市場行動」→「市場成
因果関係を前提とした単一方程式モデルによ
果」といった矢印の方向に因果関係を想定し
る分析では不十分であり構造・行動・成果の
ている訳である。
同時決定を反映した連立方程式モデルによる
Bain〔1〕の研究を先駆とするその後の一
連の実証分析は,このような基本的な因果関
分析が必要となろう。
(3)連立方程式モデルによる産業組織分析は,
係の存在の検証を試みたものとみることがで
未開拓の分野であり,これまでのところ研究
きよう。産業間の利潤率格差を,産業の売手
事例も少なく,モデルの設定,推計方法など
集中度,産業への参入の難易度などの要因か
の面でも「試行錯誤」の段階にあると思われ
ら説明しようとする分析は,その典型であ
る。ここでは,こうした状況を考慮して,わ
り,そこでは,少数の売手,新規参入の困難
が国製造業を対象に,簡単な連立方程式モデ
さ(市場構造)→売手間の協調的価格形成
ルによる産業組織分析を試みている1)。分析に
(市場行動)→長期にわたる超過利潤の存在
あたっては,イ)従来から重用されている単一
(市場成果)といった因果関係が想定されてい
方程式モデルによる分析(推計)結果と比較
るとみることができる。
し,単一方程式モデルの「有効性」を検討
(2)ところで,こうした市場構造・行動・成果
すること,またロ)これまでの外国(米国)
の関係について,構造→行動→成果といった
における連立方程式モデルによる分析の結果
- 81 -
と比較検討すること,を意図している。
II
れた連立方程式モデルは次のとおりである。
Ad/S=a0+a1M+a2CD/S+a3C+a4C2
連立方程式モデル分析の事例
+a5Gr+a6Dur
われわれ分析について述べる前に,これまで
の研究のうち主な事例について,モデル,推計
方法,計測結果などをみておこう。ここでは,
Greer〔2〕Strickland & Weiss〔3〕,Intriligator〔4〕をみておけば十分であろう。2)
イ)Greer〔2〕の研究
Greerの研究は,広告活動と売手集中度と
の関係について,両者の間に相互作用の関係
が存在すること,その関係は非線形であるこ
とを,次のような連立方程式モデルを用いて
検証したものである。
A=a1+a2C+a3C2+a4G
C=b1+b2X+b3M+b4logK+b5A+b6XA
+b7G
G=c1+c2P+c3E+c4A
A:広告費売上高比率, C:4社集中度,
G:実質市場成長率,X:ダミー変数(高
集中,低集中),M:最少最適工場の相対
規模, K :最少必要資本額, P :価格変
化率,E:需要の所得弾力性
消費財業種41業種を対象として二段階最小
二乗法により計測を行ない,売手集中度(市
場構造)と広告活動(市場行動)とは相互に
作用し合っていること,その関係は非線形
(a2>0,a3<0,b2>0,b6<0)であること,
市場成長率を内生変数とするモデルは適当で
ないこと,連立方程式モデルによる計測結果
は単一方程式モデルによる結果とほぼ一致し
ていること,を指摘している。
ロ)Strickland & Weiss〔3〕の研究
Strickland & Weissの研究は,従来の単一
方程式モデルによる構造・成果分析の結果が,
構造・行動・成果の同時決定性を考慮した場合
と比べてどの程度のバイアスをもつかといっ
た点を検討することを主たる目的としたもの
である。連立方程式モデルによる計測結果は,
単一方程式モデルによる結果に重大なバイア
スはないことを示唆している。用いら
- 82 -
C=b0+b1Ad/S+b2MES/S
M=c0+c1K/S+c2Gr+c3C+c4GD
+c5Ad/S+c6MES/S
Ad/S:広告費売上高比率,M:価格費用
マージン,Cd/S:消費需要比率,C:4社
集中度,Gr:名目市場成長率,Dur:ダミ
ー変数(耐久,非耐久財),MES/ S:最
小最高工場の相対規模,K/ S:有形固定
資産産出比率, GD:ダミー変数(市場の
地域性)
製造業408業種の1963年のデータを用いて二
段階最小二乗法による計測を行っている。計
測結果のうち興味のある点は,市場構造(C)
,
市場行動(Ad/S)
,市場成果(M)の間の同時
決定性(相互作用)が認められること,広告
活動と売手集中度との関係は,逆U字型(a2
>0,a3<0)を示すこと,売手集中度と価格費
用マージンとの間の正の相関関係は連立方程
式モデルでは顕著にみられないことなどの点
であろう。
ハ)Intriligator〔4〕の研究
Intriligator〔4〕の研究は,これまでの単
一方程式モデルを統合した連立方程式モデル
として次のようなモデルを設定したものであ
る。すなわち,市場構造を,集中度,参入に
代表させ,資本集約度(技術の選択),広告強
度(広告活動)を市場行動(企業の意思決定)
の変数と考え,市場成果として,価格変化,
利潤率をとりあげ,これら構造・行動・成果
の諸変数が同時決定されるモデルを設定して
いる。
CR=f1(K/L,A/S,π;EP,g)
Δ N =f2(CR,A/S,π;MES)
K/L=f3(CR;W)
A/S=f4(CR,π;EP)
Δ P =f5(CR,K/L; Δ C )
π=f6(CR,A/S;MES,g,EI)
CR:4社集中度, Δ N :企業数の変化率,
K/L:資本労働化率,A/S:広告費売上
高比率, Δ P :価格の変化率,π:自己資
本利益率,θP:需要の価格弾力性,θI:
需要の所得弾力性, MES:最小最適工場
規模,W:実質賃金率,G:市場成長率,
Δ C :直接費用の変化率
製造業381業種を対象として,1963年−
1968年のデータを用いて,線形モデルについ
て,二段階最小二乗法による計測を行ってい
る。計測の結果から,連立方程式モデルの計
測結果は,単一方程式モデルの結果とは異な
る点が多くみられるとしてこれまでの単一方
程式モデルによる計測に疑問を呈している。
とくに,これまでの分析では,行動,成果を
説明する変数として売手集中度が過大に評価
されていたのではないかと指摘している。
このようなこれまでの諸研究からうかがわ
れるように,産業組織の連立方程式モデルに
よる分析は,モデルの設定,計測方法,計測
結果などの点で必ずしも確定的であるとはい
い難い状況にあるといえよう。
III
分析の方法・対象
(1)われわれの分析においては,これまでの研
究の成果を参考として次のような連立方程式
モデルを用いる。すなわち,われわれは,市
場構造の基本的要因として売手集中度を,ま
た市場行動については広告活動のほか研究開
発活動をとりあげ,市場成果について価格費
用マージンをとりあげ,これらを内生変数と
した連立方程式モデルを用いる。モデルを構
成する各式について簡単に説明しておこう。
イ)売手集中度(市場構造)
CR4=a0+a1MES/VS+a2logK/E
+a3AD/VS+a4RD/VS+a5V&S ……(1)
CR4:上位4社集中度,MES/VS:最小
最適企業の相対規模, K/E:企業平均有
形固定資産額(必要資本額の代理変数),
AD/ VS:広告費売上高比率, RD/ VS:
研究開発費売上高比率, V&S 市場成長率
産業の売手集中度は基本的には,当該産
- 83 -
業における最小最適工場規模の市場(産業)
規模に対する相対的大きさに依存してい
る。さらに市場への参入の難易が売手集中
度に作用する。参入が困難であるほど売手
集中度は高い。ここでは参入障壁として,
広告による障壁のほか参入に必要とされる
資本額による障壁,技術上の障壁をとりあ
げている3)。このような参入障壁のほか,
市場の成長性が参入に作用する。市場の成
長が著しいほど参入が容易となるものと考
えられよう。
以上説明から明らかなように,われわれ
が予想する各変数の符号は次のとおりで
ある。
a1>0,a2>0,a3>0,a4>0,a5>0
ロ)広告活動(市場行動)
AD/VS=b0+b1CR4+b2PCM+b3 V&S
+b4C/O ……………………(2)
AD/VS:広告費売上高比率,PCM:価
格費用マージン,C/ O:消費需要比率
(産出額のうち家計消費需要額の占める
割合)
産業における広告活動の水準を広告売上
高比率でみれば,それは当該産業の売手集
中度のいかんに依存する。一つは,売手集
中度が高くなるほど個々の企業の個別需要
曲線の価格弾力性が低下する結果,企業の
広告費売上高比率が上昇すると考えられる
こと4),いま一つは,企業の広告活動は当該
企業の需要を増大させるほか,産業全体の
需要をも増大させる「外部効果」を伴うが,
マーケットシェアの高い企業ほどこのよう
な外部効果を内部化することが可能なた
め,広告費売上高比率は高まると考えられ
ること,から売手集中度と広告費売上高比
率との間には正の相関が予想される。さら
に,広告活動によって追加的に増大する財
一単位当りの利益(マージン)が大である
ほど広告活動はProfitableであるから,価
格費用マージンと広告費売上高比率との間
でも正の相関が予想される5)。市場の成長
性との関係については,Greer〔2〕に従っ
よい。技術開発の可能性(機会)の大きな
て市場成長率の高い市場ほど広告活動は
段階にある産業ほど研究開発活動も活発で
「効果的」であるとすれば,市場成長率との
あろう。技術開発の可能性(機会)は潜在
間でも正の相関が期待されよう。ところで
的なものであって,計測が困難であるがこ
このような広告活動による需要拡大の効果
こでは多少問題もあるが,産業における企
は,いうまでもなく家計(消費者)需要の
業の平均保有特許件数を代理変数として用
場合に大きい。したがって家計消費需要の
いている。
占める割合が大きな産業ほど広告費売上高
各変数について,次のような符号条件が
比率は大きいと予想できる。
予想されている。
c1?,c2>0,c3>0,c4>0
このようなことから,われわれは次のよ
ニ)利潤率一価格費用マージン(市場成果)
うに予想する。
b1>0,b2>0,b3>0,b4>0
PCM=d0+d1CR4+d2AD/VS+d3RD/VS
+d4V&S +d5K/VS+d6VA/L………(4)
K/VS:有形固定資産売上高比率,VA/
L:付加価値労働生産性
ハ)研究開発活動(市場行動)
RD/VS=c0+c1CR4+c2PCM+c3 V&S
+c4logPAT/E………………(3)
RD/VS:研究開発費売上高比率,PAT/
E:企業平均特許保有件数
す。価格費用マージンは売上高利潤率にほ
研究開発活動の水準を,活動のインプッ
ぼ相当する。売手集中度が高いほど協調的
トの面からとらえて研究開発費売上高比率
価格形成が可能であると考えれば,売手集
で表わしている。研究開発活動と市場構
中度と利潤率との関係は正の相関関係が予
造,とりわけ売手集中度との関係について
想される。また,参入が困難であるほど既
は,独占的な産業で研究開発活動が活発に
存企業の協調が容易であると考えられる。
行なわれるとする「シュムペータ・ガルブ
ここでは,参入障壁として, AD / VS ,
産業の利潤率を価格費用マージンで表わ
レイス仮説」をめぐってこれまでも多くの
RD/VSをとりあげている。これらの変数
分析が試みられている6)。われわれの分析
は,それぞれ,広告による製品差別化,新
においても売手集中度をとりあげている。
製品開発による製品差別化を表わすものと
さらに,研究開発活動の能力に作用する要
考えることも可能である。市場の成長性に
因として,ここでは利潤率(価格費用マー
関しては,市場成長率が大きいほど予想外
ジン)をとっている。高利潤率の産業ほど
の利潤などによる高利潤が予想される。売
研究開発活動がより可能であると考える。
上高利潤率は,資本回転率が大であるほど
需要拡大を目的とした製品開発の場合に
低いことは容易に予想できよう。ここで
は,研究開発活動による追加的な需要の増
は,有形固定資産売上高比率を用いてい
大一単位当たりの利益(マージン)が大で
る。さらに,生産性の大きさが利潤率に作
あるほど研究開発活動は有利であると考え
用していると考えられる。付加価値労働生
てよかろう7)。市場の成長との関係につい
産性で生産性をみる。
ては,プロダクトライフサイフルにおいて
ここで予想される符号条件は次のとおり
市場成長が著しい段階では,研究開発活動
である。
も活発であると考えられる。さなにこのこ
d1 >0, d2 >0, d3 >0, d4 >0, d5 >0,
d6>0
ととも関連するが一般に研究開発活動の水
準は,その産業の直面する技術開発の可能
性(機会)に大きく依存しているといって
(2)わが国製造業110業種(4桁産業分類)につ
いて昭和45年のデータを用いて次のような
- 84 -
分析を行う。
イ)全業種(サンプルサイズ110)を対象と
するほか,消費財業種(同30)を対象として,
ロ)
(1)∼(4)式を用いた単一方程式モデルの最小
二乗法(OLS)による推計 ハ)
(1)∼(3)式,
(1)∼
(4)式を連立した連立方程式モデルの二段階最
少二乗法(TSLS)による推計を行ない,モ
デルの差異による計測結果の異同等を検討す
る。
IV 計 測 結 果
(1)全業種を対象とした計測結果は,第1表のと
おりである。同表により,まず単一方程式モ
デルの結果をみておこう。イ)売手集中度の決
定要因についてはAD/VS, V&S を除いて他の
変数は予想どおりその符号はプラスでかつ有
意である。とくに, MES / VS が売手集中
度に有意に作用していることがわかる。
AD/VSが有意な結果を示していないことは,
広告活動が参入障壁,製品差別化の機能を必
ずしも有効に果していないことを示唆してい
る。V&S については,予想に反してプラスで
有意であるが,このことは,市場の成長性の
大きな業種でむしろ売手集中度が高水準にあ
ることを示している。ロ)研究開発活動に関し
ては,PCM,10gPAT/Eの係数は,期待どお
りプラスで有意であり,高利潤(マージン)
の業種,技術開発の可能性(機会)の大きな
業種ほど研究開発活動が活発であるものとみ
られる。これに対し,売手集中度,市場成長率
については,いずれの係数もプラスであるが
有意でない。少なくともこのような結果から
みればいわゆるシュムペータ・ガルブレイス
仮説は支持されないといえよう。ハ)広告活動
についてみれば,C/O,PCMの係数の符号
はプラスで有意であり,家計消費需要の比率
の高い業種,広告活動がProfitableである業種
で広告費売上高比率が高いことが示されてい
る。売手集中度の係数は予想どおりプラスで
あるが有意でない。また市場成長率の係数は
予想に反しマイナスを示している。
(ただし
- 85 -
有意性は低い)。このことは,市場の成長が著
しい業種では広告活動による需要の拡大の必
要性が小さいことを物語るものかもしれない。
ニ)利潤率(価格費用マージン)については,
CR4を除き,予想どおりの結果が得られている。
とくに,RP/VS,K/VS,VA/Lの係数は1%
有意水準で有意である。AD/VS,V&S の係数
は,プラスの符号を示しているものの,有意
とはいえない。このように,RD/VSとAD/
VS とで利潤率に及ぼす効果に差異がみられ
るという結果は,広告活動による製品
差別化などの効果よりも,研究開発活動によ
る新製品開発,生産方法の改善の効果の方が
大きいことを示唆しているとみることもでき
よう。市場構造の基本的な要因である売手集
中度の係数の符号が予想に反してマイナス
(ただし有意ではない)を示している点は,こ
れまでの研究の結果とは一致しない8)。われ
われの分析では,利潤率として一時点(昭昭
45年)の価格費用マージンを用いているが,
売手集中度の効果をみるうえでは長期の利潤
率(平均)をとる必要があったともいえよう
もっともこの点については,たとえばStrickland & Weiss〔3〕は一時点の利潤率(価
格費用マージン)を用いて,売手集中度がプ
ラスの効果を示していることを検証してい
る)。このような単一方程式モデルの計測結果
を,連立方程式モデルの計測結果と比較しよ
う。第1表のTSLS(1)は,CR4,AD/VS,
PCM を内生変数とした連立方程式モデルの
計測結果を示したものである。これによれ
ば,ホ)売手集中度の式に関しては,単一方程
式モデルの計測結果とほとんど差異がない。
しかしながら,ヘ)広告活動についてみれば,
単一方程式モデルの計測結果と比較して,
CR4の係数(プラス),V&S の係数(マイナス)
の有意水準が高まっている。このことは,売手
集中度,市場成長率の広告活動に及ぼす効果
は,連立方程式モデルにおいて顕著に現われ
ていることを意味しており,この点で単一方
程式モデルの計測結果にはバイアスがあると
CR4
RD/VS
O
L
S
AD/VS
PCM
CR4
(1)
AD/VS
PCM
T
S
L
S
CR4
RD/VS
(2)
AD/VS
PCM
(注)
各欄の上段は偏回帰係数,下欄(
CR4
RD/VS
O
L
S
AD/VS
PCM
CR4
(1)
AD/VS
PCM
T
S
L
S
CR4
RD/VS
(2)
AD/VS
PCM
(第)
const
23.576
(2.843)
△0.2007
(△0.560)
△0.1746
(△0.573)
0.1090
(4.422)
22.354
(2.548)
△1.1770
(△2.862)
0.1388
(4.635)
14.593
(1.429)
1.0442
(1.546)
△0.6161
(△1.311)
0.1043
(2.664)
MES/US
1.1063
(6.194)
RD/VS
3.5725
(2.089)
1.0859
(5.867)
0.0274
(4.073)
3.2158
(1.692)
1.0999
(6.005)
0.0266
(3.654)
11.431
(2.358)
第1表
Log K/E
7.3085
(2.304)
全
業
種
AD/VS
の
△1.5311
(△0.742)
7.5720
(2.339)
0.0049
(0.590)
△0.1659
(0.044)
7.4595
(2.325)
0.0191
(1.193)
△0.6251
(△0.170)
0.0592
(2.537)
0.0312
(1.666)
)内はt 値。
const
△5.0735
(△0.201)
0.1775
(0.251)
△0.2611
(△0.270)
0.0772
(1.804)
△5.6825
(△0.219)
△1.7683
(△1.713)
0.1159
(2.618)
△33.958
(△1.198)
3.0272
(2.156)
△0.8593
(△0.792)
0.0720
(1.438)
MES/VS
0.8967
(1.793)
RD/VS
4.1198
(0.933)
0.869
(1.5919)
0.0369
(2.915)
3.9661
(0.858)
1.0258
(2.215)
0.0332
(2.652)
20.406
(2.402)
0.0614
(2.541)
1表に同じ。
- 86 -
第2表
消
費
Log K/E
22.547
(2.017)
財
業
種
AD/VS
の
△3.2283
(0.885)
22.632
(1.999)
0.0065
(0.541)
△2.7461
(△0.523)
33.011
(2.901)
0.0152
(0.839)
△8.4483
(2.119)
△0.0001
(△0.008)
計
測
結
CR4
0.0326
(2.051)
0.0007
(0.857)
△0.0008
(△1.226)
0.0001
(1.060)
0.0345
(2.088)
△0.0013
(△1.991)
0.0001
(1.732)
0.0193
(1.077)
0.0011
(1.183)
△0.0011
(△1.501)
0.0001
(1.200)
計
測
V&S
結
0.0177
(0.430)
0.0029
(1.639)
△0.0019
(△0.907)
0.0001
(0.156)
0.0182
(0.436)
△0.0032
(△1.687)
0.0001
(0.693)
△0.0606
(△1.170)
0.0008
(0.394)
△0.0027
(△1.291)
△0.0001
(△0.458)
N=100
果
V&S
PCM
0.0002
(0.037)
0.0033
(0.958)
△0.0002
(△0.661)
4.8021
(4.278)
2.0510
(2.245)
0.0141
(2.664)
△0.0011
(△2.181)
3.7640
(3.026)
△0.0153
(△1.427)
0.0097
(1.786)
△0.0012
(△2.296)
2.5759
(1.346)
2.3751
(1.620)
log PAT/E
C/O
0.3578
(2.223)
K/VS
VA/L
R2
0.400
0.216
0.0205
(5.453)
0.0221
(6.156)
0.6099
(2.646)
0.256
0.1460
(2.686)
0.0169
(3.363)
0.351
0.397
0.328
0.1798
(3.082)
0.0170
(3.172)
0.380
0.407
0.108
0.0214
(5.609)
0.253
0.2235
(3.231)
0.0121
(1.827)
0.293
N=30
果
CR4
PCM
△0.0029
(△1.639)
0.0093
(1.073)
△0.0011
(△2.260)
5.1555
(2.520)
7.3025
(2.930)
0.0264
(2.308)
△0.0022
(△3.094)
10.536
(3.881)
△0.0680
(△2.406)
0.0100
(0.927)
△0.0016
(2.373)
7.5068
(2.514)
10.730
(3.411)
log PAT/E
0.4491
(1.122)
C/O
VA/L
R2
0.452
0.373
△0.0030
(△0.241)
△0.0032
(△0.288)
2.2448
(2.511)
K/VS
0.249
0.3122
(2.270)
0.0298
(3.055)
0.618
0.440
0.415
0.3435
(2.566)
0.0302
(2.745)
0.670
0.575
0.404
△0.0057
(△0.471)
- 87 -
0.307
0.3648
(2.454)
0.0348
(2.973)
0.592
みることができよう。さらに,ト)利潤率に関
しても,V&S (プラス)
,AD/VS(プラス)の
有意性は,単一方程式の計測結果と比べて改
善されている。CR4の係数は,マイナスでか
つ有意であり,売手集中度が高い業種で利潤
率が低いという予想に反する結果が明確に表
われている。このような結果は,われわれ
の利潤率のとり方に問題があるとしても,
Intriligator〔4〕の計測結果と産業組織分析
における売手集中度の「過大評価」に対する指
摘あるいはStrickland & Weiss〔3〕の,連立
方程式モデルにおいては売手集中度の価格費
用マージンに及ぼす効果は有意でないといっ
た計測結果とも方向としてはほぼ一致してい
るとみられる。
第1表(2)は,さらにRD/VSをも内生変数
とした連立方程式モデルの計測結果を示した
ものである。これによれば,チ)売手集中度の
式についてみれば,V&S の有意性が低下して
いるものの,単一方程式モデル,連立方程式
モデル(TSLS(1))の計測結果とほぼ一致し
ている。リ)研究開発活動については,単一方
程式モデルの計測結果と比べて, PCMの係
数(プラス)の有意性が著しく低下している
のに対し,CR4の係数(マイナス)の有意性
が上昇している。このような計測結果からす
れば,売手集中度の高い業種では研究開発活
動は必ずしも活発ではないといえよう。ヌ)
広告活動に関しては,PCMの係数(プラス)
の有意性が低下を示しているほか,ほぼTSLS
(1)の計測結果と同様である。ル)利潤率につい
ても,各変数の有意性に若干の変化がみられ
るものの,概ねTSLS(1)の計測結果に近い。
以上の結果は,単一方程式モデルの計測結
果と連立方程式モデルの計測結果とでは,多
少の差異がみられまた,連立方程式モデル
についてもモデルのタイプにより差異が生ず
るものの,総じていえば重大な差異はみられ
ないといえよう。ただ,売手集中度について
は,単一方程式モデルの場合と,連立方程式
モデルの場合とで,その行動,成果に及ぼす
効果において無視し得ない差異が認められ
る。このことは,これまでの研究においても
指摘されていることであるが,われわれの分
析の結果もそうした傾向があることを示唆し
ている。
(2)ところで,このような結果は,財の特性に
よってどの程度左右されるであろうか。たと
えば,広告活動についていえば,分析の対象
を消費財業種に限定した方がより適切であ
るとが予想されよう。第2表は,この点を考慮
して消費財業種を対象として計測した結果を
示している。ここで消費財業種は,C/O≧0.5
の業種である。第2表によれば,単一方程式モ
デルの計測結果は,イ)売手集中度については,
各変数の係数の符号は,全業種を対象とした
場合の計測結果と一致しているが,総じて有
意性は低下している。AD/VSの係数も有意
でなく,消費財業種においても,広告活動が
参入障壁,製品差別化の効果をもたらしてい
ないことを示唆している。ロ)研究開発活動に
ついてみれば,概ね予想された結果と一致し
ている。すなわち, V&S ,PCMの係数の符号
はプラスで有意であり,10g PAT/Eの係数は
有意性は低いもののプラスを示している。こ
こでCR4の係数がマイナスで有意であること
が注目されよう。ハ)広告活動については,C
/O係数を除き,全業種を対象とした計測結果
と大差ない。消費財業種においても,売手集
中度が高い業種で広告費売上高比率が高いと
有意な関係は認められない。C/Oの係数は,
有意でない。このような結果は,C/Oの高い
業種がサンプルとして選ばれたため,C/Oの
変動が小さいことによるものと思われる
(Strickland & Weiss〔3〕においても同様
の結果が示されている)
。ニ)利潤率に関しては,
CR4の係数を別として,総じて有意性が低下
しているものの,全業種を対象とした計測結
果と一致している。CR4の係数は,マイナス
で有意であり,売手集中度の高い業種で利潤
率が低いという傾向が現われている。AD/
VSの符号はプラスであるものの有意で
- 88 -
はないが,このような結果は, AD / VS と
VA/Lとの間に比較的高い相関(単相関係数
0.526)があることが影響しているかもしれ
ない。このような単一方程式モデルの計測結
果を連立方程式モデル(TSLS(1)
)の計測結
果と比較すれば次のとおりである。ホ)売手集
中度の式については,単一方程式モデルの計
測結果とほぼ一致している。ヘ)広告活動につ
いては,各説明変数の係数の有意性は総じて
上昇しており,とくに,売手集中度の高い業
種ほど広告費売上高比率が高く,市場成長率
の高い業種ほど広告費売上高比率が低くなる
傾向が有意に表われている点が注目される。
ト)利潤率についても係数の有意性は概して上
昇しており,売手集中度の利潤率に及ぼすマ
イナスの効果は一層有意に表われている。こ
うした連立方程式モデル(TSLS(1)
)の計測
結果は,RD/VSを内生変数に追加した連立
方程式モデル(TSLS(2)
)の計測結果とも大
差がない。
消費財業種を対象とした以上の計測結果は
次のことを示唆しているといえよう。すなわ
ち,連立方程式モデルによれば,売手集中度
の利潤率に及ぼす効果はマイスナであること
のほか,広告費売上高比率に及ぼす効果がプ
ラスであることが有意に示され,また広告活
動が利潤率にプラスに作用していることも明
らかにされる。これらの効果については,単
一方程式モデルの計測結果とは異なった結果
が得られる訳である。
V む す び
(1)これまで産業組織論における実証分析は,
いわゆる構造・成果分析を中心に発展してき
たが,その基礎は構造→行動→成果といった
分析の枠組みに求められており,分析の方法
は主として単一方程式モデルの最小二乗法に
よる推計に依っている。このような実状に対
して,構造・行動・成果の相互間にフィード
バックが存在することはつとに指摘されてい
るものの,この点を考慮した実証分析は数え
るほどしか見当らない状況である。しかも,
それらの研究も,モデル設定,計測結果など
の点において差異があり,必ずしも確立され
たモデル等が存在する訳ではない。仮に,問
題とされるようなフィードバックの関係が存
在し,その影響を無視し得ぬとすれば,これ
までの単一方程式モデルによる分析結果や,
これに基づく産業組織政策の効果について再
検討することが必要とされることはいうまで
もない。また,産業組織の総合(拡大)モデ
ルの確立は,たとえばマクロ経済の変化によ
る産業組織の変化の予測を可能とするかもし
れない。このような状況等を考慮して,われ
われは,わが国製造業を対象とした連立方程
式モデルの計測を試みた。
(2)計測の結果は,総じていえば,単一方程式
モデルの計測結果と連立方程式の計測結果と
では次の点を除けば,重大な差異はみられな
いように思われる。問題となる点は,売手集
中度の行動,成果に及ぼす効果に関して,モデ
ルの差異により無視し得ない差異が認められ
る点である。このことは,これまで売手集中
度を分析上の基本的な要因としてきたことか
らすれば,見逃せぬ問題といえよう。このよ
うな問題の所在については,すでにいくつか
の研究においても指摘がなされているが,こ
こで留意すべきことは,モデルの設定のいか
んにより影響されるところが少なくないこと
である。いうまでもなく,われわれのモデル
も一つの試みに過ぎない。今後,モデルの設
定,計測方法,データなどの面での改善を重
ねていかなければならないものである 9)。こ
のような点からも,われわれの結果は,
tentativeな性格を免れないといえよう。
- 89 -
注
1.)本分析は,分析2「わが国製造等における
参入障壁」の補論にあたるものであり,利用
したデータ等は共通のものである。サンプル
,変数の推計方法等の詳細については,分析2
の付属資料を参照されたい。
2.)ここでとりあげた連立方程式モデルは3個以
上の内生変数を含むものである。このほ
か,企業の売上高(シェア)と広告費支出
ようなわが国における構造・成果分析の結果は,
( シ ェ ア ) と を 内 生 変 数 と し た , Cow ling
植草〔8〕に詳しい。
〔 5〕,Comanor & Wilson〔6〕の広告支出決
9)構造・行動・成果の相互のフィードバック
定モデルなどがある。
の作用が顕現する期間がどの程度であるかと
3.)広告の効果は,参入障壁として作用するほ
いう点と関連して,とくに,推計期間の長さ
か,直接,売手集中度に作用する面も無視で
をどう設定するか,又,タイムラグを明示的
きない。
にくみ入れたモデルの作成などが,さしあた
4.) i 企 業 の 最 適 広 告 費 売 上 高 比 率 を ( AD /
り改善すべき問題であると思われる。
VS)i とすれば,他企業の反応について一定
*
の仮定を設ければ,(AD/VS)i*=ηAi/ηpiと
参
考
文
献
〔1〕J. S. Bain, “Relation of Profit Dete to
表わされる。ただし
ηAi:i 企業の需要の広告支出弾力性
Industry Concentration: American Manufactu-
ηpi:i 企業の需要の価格弾力性
ring, 1936∼40,” Q. J. E., Aug, 1951
この点については,たとえばCow ling〔5〕を
〔2〕D. F. Greer, “Advertising and Market Concentration,” S. E. J. June, 1971
参照のこと。
5.) i 企 業 の 最 適 広 告 費 売 上 高 比 率 ( AD /
〔3〕A. D. Strickland & L. Weiss, “Advertising,
VS) i は,他企業の反応をも考慮した場合に
Concentration, and Price-Cost Margins,” J. P.
は(AD/VS)i =P−MC/P( a + na )と表わ
E’. Oct, 1976
*
*
〔4〕M. D. Intriligator, Econometric Models Tech-
される。
た だ し , P − MC / P : 価 格 費 用 マ ー ジ ン ,
niques and Applications, Chap 13, North. Holl
a :i 企業の需要の広告支出弾力性, a :i
and Publishing Comp, 1978
企業の需要の他企業広告支出弾力性,η:
〔5〕K. Cowling, “Optimality in Firms’ Advertis-
i 企 業 の広 告支 出 に対 する他 企 業広 告支出 の
ing Policies: An Empisical Analysis,” in Mark-
弾力性
et Structure and Corporate Behavior, edited
この点についてはSchmalensee〔7〕を参照の
by K. Cowling: Grays Mills, 1972
〔6〕W. S. commanor & T. A. Wilson, Advertsing
こと。
6.)これまでの研究では「シュムペータ・ガル
and Market power, chap. 5. Harvard Univ.
Press, 1974
ブレイス仮説」は概ね支持されていないとい
〔7〕R. Schmalensee, The Economics of Advert-
えよう。なお,わが国における研究について
ising, North-Holland 1972
は,植草〔8〕をみよ。
7.)この点は,広告活動(広告費売上高比率)
〔8〕植草 益「市場成果」小西唯雄他編『経済学
の場合とほぼ同様に考えることができる。注
(3)−産業組織論』(有斐閣,昭51)
4)参照のこと。
注 ) Q. J. E.; Quarterly Journal of Economics
8.)わが国においては,昭和30年代末以降売手
S. E. J.; Sourthern Economic Journal
集中度と利潤率との間に正の有意な関係が存
J. P. E.; Journal of Political Economy
在することを実証した研究結果が多い。この
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