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(5)子どもの事故とその防止について 厚生労働省の人口動態統計 2014
第1章 (5)子どもの事故とその防止について 厚生労働省の人口動態統計 2014(平成 26)年によると,1 ∼ 14 歳までの死亡原因 * の上位を不慮の事故(予期できない事故のこと)が占めています。健やか親子 21 では, その目標は達成されました。しかし,今後も 0 歳に多い不慮の窒息や,1 ∼ 14 歳に 第 2章 子どもの不慮の事故死亡率を半減させることを目標としており,10 ∼ 14 歳を除いて, 多い交通事故や溺死・溺水への対策は,さらに強化していく必要があります。保育者 が関わる園において,子どもの事故死は決してあってはならないことです。事故につ 必要があります(第 6 章)。 用語解説 第3章 ながる事例から学び,その防止策や,万が一事故があった際の対処法を理解しておく 健やか親子 21 2015(平成 27)年度からは,「健やか親子 21(第 2 次)」が新たな計画(2024(平成 36)年度まで)とし てスタートします(第 8 章第 3 節(p.175)参照)。 第4章 21 世紀の母子保健の方向性を提示し,関係機関・団体が一体となって推進してきた国民運動計画。 (6)子どもをとりまく環境について 安全管理も重要です。安全面においては,事故防止の観点のみではなく,火災や地震 第5章 子どもを安心・安全に保育するためには,保育室などの保育環境に加え衛生管理, 発生の際の防災訓練や,昨今の社会情勢を踏まえての,不審者訓練なども視野に入れ ておきましょう(第 7 章)。 第6章 (7)子どもや家族,保育者自身の健康について 子どもの健康を守るためには,子どもの周りにいる大人の健康にも留意する必要が あります。家族環境や家族の心身の状態を把握することで,その子どもへの理解が深 気を配ることが大切です。保育者自身が心身ともに健康であることが良い保育につな がります(第 8 章)。 第7章 まることもあります。また忘れがちになりますが,保育者自身の健康についても常に (8)家庭・専門機関・地域との連携について 専門機関・地域と連携することで,より専門的な保育を提供することができるようにな 第 1 章 子どもの健康と保健の意義 3 第8章 保育者は常に家庭と連携して,情報交換をすることが求められています。また各種 第1章 す。逆に集団の中だからこそ一人ひとりの条件に合った健康を個別に考える必要もあ ります。保育現場における障害のある子どもや慢性疾患をもつ子どもの増加を踏まえ て,その子ども一人ひとりにとって順調な発育・発達がみられるか,その子どもなり 小児保健統計 第 2章 に健康な状態であるのか,といった視点をもつことが大変重要になります。 小児保健統計とは,子どもの健康状態を評価する上で大変重要な指標です。ここで (1)総人口 第3章 は,子どもの出生や死亡に関連のある統計について取り上げます。 わ が 国 の 総 人 口 は,2014( 平 成 26) 年 10 月 1 日 現 在,1 億 2,708 万 3 千 人( 男 6,180 万 1 千人,女 6,528 万 2 千人)で,2013(平成 25)年 10 月から 2014(平成 26)年 第4章 図 1 − 1 わが国の人口ピラミッド(差換え) 100歳以上 65歳以上人口 生産年齢人口 年少人口 平成26年( 14)10月1日現在 90 65 68,69歳: 終戦前後における 出生減 80 第5章 ︵ 歳以上︶ 老年人口 75歳: 日中戦争の動員による 昭和13年,14年の出生減 70 60 65∼67歳: 昭和22∼24年の 第1次ベビーブーム 女 ︵ ∼ 歳︶ 生産年齢人口 50 48歳: 昭和41年(ひのえうま)の 出生減 15 40 64 30 25 歳: 平成元年の合計特殊出生率 (1.57)が昭和 41 年(1.58)を 初めて下回った。 20 ︵ ∼ 歳︶ 年少人口 0 第7章 40∼43歳: 昭和46∼49年の 第2次ベビーブーム 第6章 男 10 14 100 80 60 40 20 0歳 0(万人)0 20 40 60 80 100 120 資料:総務省統計局「平成 26 年 10 月 1 日現在推計人口」。 出所:『国民衛生の動向 2015/2016』,2015 年,p.50。 第 1 章 子どもの健康と保健の意義 5 第8章 120 9 月までの 1 年間に 21 万 5 千人(0.17%)減少しました。年齢 3 区分別にみると,年 少人口(0 ∼ 14 歳) は 12.8%,生産年齢人口(15 ∼ 64 歳) は 61.3%で年少人口と生 産年齢人口が低下しているのに対し,老年人口(65 歳以上)は 26.0%と,年々増加し ており,4 人に 1 人以上が 65 歳以上となっています。 * (2)合計特殊出生率 第 1 次ベビーブームには 4.32 だった合計特殊出生率は,第 2 次ベビーブームには 2.14 になり,その後も減少傾向を示してきました。1989(平成元)年には,1966(昭 和 41) 年の「ひのえうま」の迷信による出生率の一時的な低下(1.58) を下回った ため 1.57 ショックと呼ばれ,少子化が社会問題としてクローズアップされました。 2005(平成 17)年には過去最低の 1.26 を記録した後いくらか増加傾向に転じ,2014 (平成 26)年には 1.42 となっていますが,少子化傾向は依然として続いています。 図 1 − 2 出生数と合計特殊出生率の年次推移(差換え) (万人) 300 第1次ベビーブーム (昭和22∼24年) 昭和24年最高の出生数270万人 250 合計特殊 出生率 4.32 昭和41年 ひのえうま 136万人 200 5 出生数 4 第2次ベビーブーム (昭和46∼49年) 昭和48年209万人 150 平成17年 最低の合計特殊出生率 1.26 2 2.14 100 1.58 平成26年 1.42 50 0 1947 昭和22 ‥年 55 30 65 40 資料:厚生労働省「人口動態統計」。 注:平成 26 年は概数である。 出所:『国民衛生の動向 2015/2016』,p.69。 6 75 50 85 60 95 平成7 2005 17 1 14 26 0 合計特殊出生率 出 生 数 平成26年 最低の出生数 3 100万人 第1章 用語解説 合計特殊出生率 ある年次の 15 ∼ 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。1 人の女性が一生の間に生む子ど もの数を推計したもの。 第 2章 以下の 15 ∼ 49 歳の年齢別出生率の合計。 15歳の女性の出生数 +……+ 49歳の女性の出生数 16歳の女性の人口 第3章 15歳の女性の人口 + 16歳の女性の出生数 49歳の女性の人口 第4章 (3)乳児死亡率 生後 1 年未満の死亡を乳児死亡といい,そのうち生後 4 週未満の死亡を新生児死 表します。乳児死亡の要因は,先天的なものと後天的なものに大きく分けられます。 新生児死亡,とくに早期新生児死亡は先天奇形や染色体異常といった先天的な要因に 第5章 亡,生後 1 週未満の死亡を早期新生児死亡といいます。通常出生 1000 対の死亡率で よることが多く,新生児期以降は細菌感染などの後天的な原因や不慮の事故などによ ることが多くなります。乳児の生存は母親の健康状態や養育条件などの影響を強く受 す。わが国の乳児死亡率は,大正末期は 150 以上でしたが,その後急激に改善され, 第6章 けるので,乳児死亡率はその地域の衛生状態や社会状態を反映する指標として重要で 2013(平成 25)年には 2.1 と世界的にも最高水準を達成しています。 また 2014(平成 26)年の人口動態統計によると,2013(平成 25)年の乳児死亡の 吸障害等,第 3 位が乳幼児突然死症候群(p.115 参照)となっています。 第7章 原因は,第 1 位が先天奇形,変形および染色体異常,第 2 位が周産期に特異的な呼 第8章 第 1 章 子どもの健康と保健の意義 7 図 1 − 3 生存期間別,乳児死亡率の欧米諸国との比較(差換え) 10 2.2 0 0.8 3.3 1.1 0.4 3.2 0.9 0.7 1.6 1.7 1.6 3.8 1.0 0.7 2.2 4.1 2.6 0.9 0.6 1.1 1.3 0.7 2.2 生後 4週未満 0.7 日本 2013 3.3 3.3 1.1 0.7 1週未満 0.6 2.4 2.1 1.1 0.3 1.1 0.8 乳児死亡 ︵1年未満︶ 5 生後 乳児死亡率︵出生千対︶ 6.4 シンガ アメリカ フランス ドイツ イタリア オランダ スウェー イギリス ポール 2009 2012 2012 2010 2009 デン 2012 2013 2012 資料:厚生労働省「人口動態統計」。 UN「Demographic Yearbook」. 出所:『わが国の母子保健 平成 27 年』2015 年,p.22。 用語解説 先天異常 先天的とは,「生まれつきそなわっている」という意味があります。反対に後天的とは,「生まれた後 にそなわる」という意味があります。 先天異常とは,生まれつき形態や機能に何らかの異常があることをいい,体の形態に異常があるもの を先天奇形といいます。先天異常の原因には,親から伝達される遺伝子によるもの,染色体の数や構造 の異常によるもの,胎児期の環境によるもの,複数の遺伝子と環境要因が関わるものなどがあります(第 5 章第 4 節(p.116)参照) 。 * (4)周産期死亡率 周産期とは妊娠満 22 週以降から出生後 1 週間までの期間のことです。この時期は 母親の健康状態に強く影響を受けるため,周産期死亡率は「出生をめぐる死亡」を反 映する指標として重要です。 わが国の 2013(平成 25)年の周産期死亡率は,3.7 で,戦後一貫して改善されてき ています。 8 第1章 用語解説 周産期死亡率 日本の場合の周産期死亡率の数え方は, 第 2章 周産期死亡数(妊娠22週以降の死産数+早期新生児死亡数) × 1000 出生数+妊娠22週以降の死産数 です。 妊娠22週 出生 出生後1週 第3章 妊娠22週以降の死産数 早期新生児死亡数 周 産 期 死 亡 ただし,周産期死亡率を国際比較する際は,各国とそろえるため,妊娠 28 週以降の死産数に早期新生 第4章 周 産 期 児死亡を加えたもの(率は出生 1000 対)を用います。 が国は低率国に属しています。早期新生児死亡率に比べて妊娠 28 週以降の死産の割 合が多いことが特徴です。 第5章 周産期死亡率を国際比較すると(図 1 − 4 参照。この場合の周産期死亡率は 2.7),わ 図 1 − 4 周産期死亡率の欧米諸国との比較(差換え) 2009 3.5 2012 4.0 第6章 2012 4.8 第7章 10 2.7 2.2 イギリス 5 3.6 2010 1.1 スウェ ーデン 2010 2012 2.2 オランダ 2.9 1.6 イタリア 2009 1.7 ドイツ 2013 2.0 1.6 フランス 2013 1.8 アメリカ 0.8 シンガ 0.7 ポー ル 0 3.3 日本 周産期死亡率︵出生千対︶ 早期新生児死亡率 5 10.2 妊娠満28週以後の死産比 第 1 章 子どもの健康と保健の意義 9 第8章 (注)なお,外国との比較のために日本も妊娠 28 週以後の死産と出生千対を用いた。 資料:厚生労働省「人口動態統計」。 UN「Demographic Yearbook」. 出所:『わが国の母子保健 平成 27 年』2015 年,p.23。 参考文献 厚生労働省『保育所保育指針』,2008 年。 厚生労働省『人口動態統計』,2014 年。 財団法人厚生統計教会『国民衛生の動向 2015/2016』,2015 年。 財団法人母子衛生研究会『わが国の母子保健 平成 27 年』,2015 年。 財団法人母子衛生研究会『母子保健の主なる統計』,2015 年。 保育士養成課程等検討会「保育士養成課程等の改正について(中間まとめ)」,2010 年。 文部科学省『幼稚園教育要領』,2008 年。 山崎善比古他編『生き方としての健康科学 第 5 版』有信堂高文社,2011 年。 「健やか親子 21」公式 HP(http://rhino.med.yamanashi.ac.jp/sukoyaka/ 2015 年 2 月 1 日閲覧)。 10 ロタウイルス 定期 定期 任意 任意 BCG 三種混合(DPT) ・ ポリオ(IPV 単独) 定期 定期 おたふくかぜ 任意 不 A型肝炎 生ワクチン 生 1 任意 2 多くは有料(自己負担)。ワクチンによっては公費助成があります。 任意接種ワクチンの必要性は定期接種ワクチンと変わりません。 4歳 5歳 1 2 3 任意接種の接種できる年齢 おすすめの接種時期(数字は接種階数) 中学1年で接種開始(接種対象:小6から高1の女子) 2価と4価があり,ワクチンによってスケジュールが異なります。 日本脳炎: 9歳で追加接種 (接種対象9-12歳) 2 2 4 1 (満年齢) 7歳 同時接種:同時に複数のワクチンを接種することができます。安全性は単独でワクチンを接種した場合と変わりません。 国や日本小児科学会は乳幼児の接種部位として大腿外側部も推進しています。くわしくはかかりつけ医に相談しましょう。 定期予防接種の対象年齢 6歳 二種混合(DT): 11歳で追加接種 (接種対象11-12歳) 1歳から受けられます。1回目の2-4週間後に2回目,その約半年後に3回目を接種します。 インフルエンザ: 毎年,10月から11月ごろに 接種しましょう。 3歳 幼稚園,保育園の年長の 4月∼6月がおすすめ 日本脳炎ワクチンと同時 接種でも受けられます。 1歳の誕生日が来たら同時接種で受けましょう。 ヒブ・小児用肺炎球菌・四種混合・MR・おたふく かぜ・水痘の6本を同時接種で受けることや, ヒブ・小児用肺炎球菌・四種混合の追加接種の 1週間後に受けることもできます。 2歳から受けられます。海外留学や高校や大学で寮生活をする人などは接種がすすめられます。 定期 定められた期間内で受ける場合は原則として無料(公費負担)。 任意 2歳 補助的追加接種:7価ワクチンの接種完了後に 13価ワクチンを1回接種するとより確実に 予防できます(任意接種) 。 追加接種は,初回接種から3か月の間隔をあけて受けましょう。 4 4 4 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 出所:VPD(ワクチンで防げる病気)を知って,子どもを守ろうの会 HP,を参照し筆者改変。 不活化ワクチン 不 6日以上 不 髄膜炎菌 (ヒトパピローマウイルス) 不 HPV 6日以上 定期 任意 6日以上 1 1 3 ロタウイルス・ヒブ・ 小児用肺炎球菌・四種 混合の必要接種回数を 早期に完了するには, 同時接種で受けること が重要です。 定期 不 インフルエンザ 6日以上 2 3 3 3 3 ロタウイルスワクチンは,1価ワクチンと5価ワクチンがあります。 できるだけ生後14週6日までに接種を開始し, それぞれの必要接種回数を受けましょう。 1 定期 6日以上 1 2 2 2 2 個別接種の場合は四種 混合などと同時接種で 受けられます。 1 1 1 1 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1歳 1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月 7か月 8か月 9か月 10か月 11か月 1歳 任意 不 日本脳炎 27日以上(みずぼうそう) 生 水痘 27日以上 生 27日以上(麻しん風しん混合) 生 MR 27日以上 生 6日以上 不 四種混合(DPT-IPV) 定期 6日以上(13 価) 不 小児用肺炎球菌 6日以上 不 ヒブ 27日以上 生 6日以上 不 B型肝炎 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 か月 か月 か月 か月 か月 か月 か月 か月 か月 か月 か月 第3章 0歳 第 2章 ワクチン名 図 5 − 27 予防接種スケジュール(2016(平成 28)年 1 月)(差換え) 第1章 第 5 章 子どもの病気と保育 125 第1章 厚生労働省研究班『乳幼児突然死症候群(SIDS)に関するガイドライン』,2005 年。 厚生労働省『保育所保育指針』,2008 年。 厚生労働省『保育所保育指針解説書』,2008 年。 厚生労働省『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』,2011 年。 厚生労働省『2012 年改訂版保育所における感染症対策ガイドライン』,2012 年。 厚生労働省 SIDS 研究班『乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第 2 版)』,2012 年。 第 2章 厚生労働省『児童福祉施設の設備及び運営に関する基準』,2012 年。 巷野悟郎監修『最新保育保健の基礎知識 第 7 版改訂』日本小児医事出版社,2011 年。 国立感染症研究所感染症情報センター HP(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/dschedule.html)2014 年 2 月 1 日閲覧。 新保育士養成講座編纂委員会編『新 保育士養成講座 第 7 巻 子どもの保健 改訂 1 版』全国社会 福祉協議会,2012 年。 第3章 財団法人日本学校保健会『就学時の健康診断マニュアル』,2013 年。 武隈孝治監修『最新 0 ∼ 6 歳 赤ちゃんと子どもの病気事典』ナツメ社,2009 年。 東京都アレルギー疾患対策検討委員会監修『食物アレルギー緊急時対応マニュアル』東京都健康安全 研究センター,2013 年。 2010 年。 東京都福祉保健局『アレルギー疾患に関する児童施設調査報告書』,2010 年。 第4章 東京都福祉保健局『保育園・幼稚園・学校における食物アレルギー日常生活・緊急時対応ガイドブック』 , 服部右子他編『新時代の保育双書 図解 子どもの保健Ⅰ』みらい,2011 年。 早川 浩他編『テキスト子どもの病気(第 2 版)』日本小児医事出版社,2012 年。 向山徳子『先生と保護者のための子どもアレルギー百科』少年写真新聞社,2006 年。 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課監修『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイド ライン』財団法人 日本学校保健会,2008 年。 第5章 文部科学省『学校給食における食物アレルギー対応指針』,2015 年。 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課監修『児童生徒の健康診断マニュアル(視力改訂版)』 財団法人日本学校保健会,2012 年。 予防接種リサーチセンター『予防接種と子どもの健康 2014 年度版』,2014 年。 第6章 「VPD を知って,子どもを守ろうの会」HP (http://www.know-vpd.jp/ 2016 年 2 月 19 日閲覧)。 第7章 第8章 第 5 章 子どもの病気と保育 135 第1章 1 子どもに多い事故 2014(平成 26)年の厚生労働省人口動態統計の死因順位をみると,日本人総数の死 第 2章 子どもの死亡事故 因順位の 1 位は悪性新生物,2 位は心疾患,3 位は肺炎であり,不慮の事故は 6 位で す。しかし,子どもの死因を年齢階級別にみてみると 0 歳の第 4 位,1 − 4 歳,5 − 9 378 人の 15 歳未満の子どもが不慮の事故により亡くなっています。 第3章 歳の第 2 位,10 − 14 歳の第 3 位が不慮の事故となっており,2014(平成 26)年には 全死因中の不慮の事故による死亡の割合をみると 0 歳は 3.8%,1 − 4 歳は 14.1%, 5 − 9 歳は 22.2%,10 − 14 歳は 17.0%となります(表 6 − 1,図 6 − 1 参照)。 の他の年齢階級では不慮の事故が占める割合は高いといえます。 第4章 0 歳は出生という特殊な環境で先天異常により亡くなる子どもが多いのですが,そ 不慮の事故による死亡の内訳をみると,0 歳と 1 − 4 歳では不慮の窒息が第 1 位で, 中でも 0 歳では 4/5 の割合を占めていますが,5 − 9 歳,10 − 14 歳では交通事故が よって,子どもの不慮の事故防止対策を具体的に考える際には,0 歳,1 − 4 歳で は窒息事故防止対策を,5 − 14 歳では交通事故防止対策を中心に考える必要があり 第5章 第 1 位となっています。 ます(表 6 − 2,図 6 − 2 参照)。 また,2011(平成 23)年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では多くの子どもたち で,この年の不慮の事故による死亡を考えるときは,その前後の年の統計とは異なる 第6章 が亡くなりました。震災による死亡は「その他の不慮の事故」として統計されますの 特異な値として慎重に取り扱う必要があります。 第7章 第8章 第 6 章 子どもの事故 137 表 6 − 1 全死因順位(差換え) (平成 26 年) 第1位 第2位 死亡数 年齢 死因 死亡数 死亡率 死因 割 合 悪性新生物 293.5 1-4 歳 751 周産期に 変形及び 74.8 特異的な 261 26 染色体異常 36.1 呼吸障害等 12.5 先天奇形, 146 113 染色体異常 5-9 歳 157 3.5 不慮の事故 乳幼児突然 死症候群 119,650 114,207 95.4 脳血管疾患 100 自殺 20.2 1.8 不慮の事故 20.0 老衰 63 14.5 不慮の事故 7.8 新生児の 6.3 7 3.8 出血性障害等 56 2.1 0.7 5.9 肺炎 その他の 8 新生物 85 1.5 心疾患 17.0 1.3 5 23 19 0.4 心疾患 5 26 先天奇形, 24 0.5 0.4 変形及び 5.2 染色体異常 1∼4歳 14.1% 22.2% 85.9% 10 ∼ 14 歳 17.0% 52.9% 77.8% 138 0.4 4.1 3.8% 5∼9歳 1 7 図 6 − 1 事故死の全死因に占める割合(差換え) 96.3% 3 40 心疾患 資料:厚生労働省「人口動態統計」。 0歳 60.1 胎児及び 22.2 染色体異常 1.8 75,389 91.1 78 37 101 割 合 146 102 先天奇形, 変形及び 死亡率 9 103 1.9 死因 9.4 11 2 不慮の事故 死亡数 死亡率 割 合 14.1 22.4 死因 割 合 88 2.7 悪性新生物 第5位 死亡数 死亡率 18.2 悪性新生物 10-14歳 悪性新生物 肺炎 15.5 先天奇形, 変形及び 死因 196,926 心疾患 28.9 0歳 死亡率 第4位 死亡数 割 合 368,103 総数 第3位 83.0% 4.8 第1章 表 6 − 2 不慮の事故の死因順位(差換え) (平成 26 年) 1位 2位 死亡数 死因 死亡率 死亡数 死因 不慮の窒息 7.8 7,946 転倒・転落 25.1 64 不慮の窒息 6.4 82.1 20.4 不慮の窒息 0.8 不慮の事故 交通事故 1.0 49.0 34 10-14 歳 交通事故 0.6 40.0 不慮の溺死 7,508 6.0 及び溺水 19.2 0.2 及び溺水 2.6 転倒・転落 0.3 21 及び溺水 0.6 8 不慮の窒息 0.2 及び溺水 7.8 25 0.4 11 18.6 32 8 不慮の窒息 0.1 29.4 9.4 5,717 交通事故 16.1 3.8 31.4 不慮の溺死 不慮の事故 0.3 不慮の溺死 25.7 及び溺水 5.0 9.7 火災への曝露 煙,火及び 火災への曝露 火災への曝露 10 0.2 8.8 5 0.1 転倒・転落 0.1 5.9 4.9 7 煙,火及び 4.6 14.6 6 煙,火及び 死亡率 割 合 6,289 その他の 0.7 転倒・転落 0.5 死因 割 合 9.0 不慮の溺死 死亡数 6 0.1 転倒・転落 0.1 8.2 7.1 第4章 5-9 歳 死亡率 2 0.7 不慮の溺死 死因 割 合 3 交通事故/ 29 交通事故 30.1 50 死亡率 7 その他の 34 1-4 歳 6.3 死亡数 第3章 0歳 死因 割 合 9,806 総数 5位 死亡数 死亡率 割 合 4位 第 2章 年齢 3位 資料:厚生労働省「人口動態統計」。 第5章 図 6 − 2 不慮の事故の種類別割合(差換え) 0歳 3.8% 9.0% 1∼4歳 2.6% 2.6% 8.8% 7.1% 25.7% 82.1% 5.9% 4.9% 30.1% 5∼9歳 1.0% 10 ∼ 14 歳 8.2% 40.0% 9.4% 31.4% 第7章 7.1% 49.0% 29.4% 窒息 転倒・転落 火災 その他 第 6 章 子どもの事故 139 第8章 溺死・溺水 18.6% 5.9% 7.8% 交通事故 第6章 9.7% また,1 − 4 歳では窒息以外に交通事故,溺死,転倒・転落,火災とさまざまな事 故が発生しています。これは,この年齢階級の子どもは,自分で歩けるようになり, 何にでも興味をもち,活発に動き始めるという発育・発達の特徴と大きく関係してい ます。5 − 9 歳と 10 − 14 歳では交通事故に次いで,溺死・溺水が第 2 位を占めてい ます。これも,遊びなどでの活動範囲が広がり,友だちと川に近づいたり,遊泳禁止 の海に入ったりすることと大きく関係しています。 (1)交通事故 乳児はまだ一人で自由に歩くことができないので保護者などと一緒に車に乗ってい て交通事故にあうケースが大半を占めますが,1 − 4 歳になると歩行者として交通事 故にあう子どもが増えます。そして,5 − 9 歳,10 − 14 歳になると自転車に乗って いて交通事故にあう子どもが急増します。 日本では 2000(平成 12) 年 4 月 1 日の道路交通法の改正により,6 歳未満の子ど もを自動車に乗せる場合はチャイルドシートの使用が義務付けられています。 チャイルドシートは ●車が衝突した際に体が車外に投げ出されるのを防止 ●子どもが車内で動きまわり運転の妨げになることなどの防止 に役立ちます。また,チャイルドシートを使用していて交通事故にあったケースと, 使用していないで交通事故にあったケースでは,子どもの死亡率が約 10 倍違うとい う交通安全白書の調査データもあります。 よって,0 歳の交通事故防止対策としては,保育施設への送迎などの機会を使って 保護者にベビーシートやチャイルドシートの着用を呼びかけたり,安全運転をお願い するなどの声かけを行うことが望まれます。5 − 9 歳,10 − 14 歳の子どもに多い自 転車の事故では,従来の「二人乗りの禁止」「並進の禁止」「夜間のライト点灯」「児 童や幼児が自転車を運転する場合,その保護者は乗車用ヘルメットをかぶらせるよう に努める」などのルールに加えて,2009(平成 21)年 7 月 1 日に「傘をさしながら, または携帯電話をしながらの運転の禁止」などのルールが追加され,自転車の事故を 防止する対策が前向きに進められています。 しかし,自転車の転倒事故による頭部外傷を軽減してくれるヘルメットの着用につ いては,日本ではまだ保護者の努力義務でしかなく,欧米のような罰則規定はありま せん。子どもの未熟な自転車走行技術を考えると,保育施設での自転車講習会などで, 140 施されており,これによって,新生児訪問が行えなかった子育て家庭に対しても,生 後 4 か月までの間にすべての子育て家庭を訪問し,その後の多様な子育て支援が可能 になるように事業展開されています。 図 8 − 3 母子保健対策の体系(差換え) 区分 思春期 妊娠 乳児期 出産 (∼1歳) 幼児期 (1 歳∼小学校入学) 学童期 ●妊産婦健康診査 健康診査等 ●乳幼児健康診査 (1歳6か月児健康診査)(3歳児健康診査) ●先天性代謝異常等検査 ●新生児聴覚検査 ●HTLV-1母子感染対策事業 ●B型肝炎母子感染防止事業 ●妊娠の届出・母子健康手帳の交付 保 健 指 導 等 ●保健師等による訪問指導等(妊産婦・新生児・未熟児等) ●乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業) ●養育支援訪問事業 ●母子保健相談指導事業 (両親学級等) (育児学級) ●女性健康支援センター事業 ●不妊専門相談センター事業 ●子どもの事故予防強化事業 ●思春期保健対策の推進 ●妊娠・出産包括支援事業 (母子保健相談支援事業,産前・産後サポート事業,産後ケア事業等) ●食育の推進 ●入院助産 療 対 策 等 医 ●小児慢性特定疾病医療費の支給 ●小児慢性特定疾病児童等自立支援事業 ●小児慢性特定疾病患児に対する日常生活用具の給付 ●未熟児養育医療 ●代謝異常児等特殊ミルク供給事業 ●結核児童に対する療育の給付 ●不妊に悩む方への特定治療支援事業 ●子どもの心の診療ネットワーク事業 ●児童虐待防止医療ネットワーク事業 その他 ●健やか親子21(第2次) ●マタニティマークの周知・活用 ●健やか次世代育成基盤研究事業(厚生労働科学研究) 出所:母子衛生研究会『わが国の母子保健 平成 27 年』,2015 年,p.52 を参照し,筆者改変。 174 いることを忘れず,子どもを保育し,保護者への支援を行い,必要があれば関連機関 と連携しながら,子ども一人ひとりにとって最善の園生活が送れるよう,心がけてい きたいものです。 参考文献 兼松百合子他編著『子どもの保健実習 すこやかな育ちをサポートするために』同文書院,2012 年。 厚生労働省『保育所保育指針』,2008 年。 厚生労働省『要保護児童対策地域協議会設置・運営指針について』,2010 年。 厚生労働省『平成 26 年版 厚生労働白書』,2012 年。 厚生労働省『母子健康手帳の交付・活用の手引き』,2012 年。 厚生労働省「ファミリー・サポート・センター事業の概要」厚生労働省 HP(http://www.mhlw.go.jp/ bunya/koyoukintou/ikuji-kaigo01/index.html 2014 年 2 月 1 日閲覧) 厚生労働省・健やか親子 21 推進協議会「健やか親子 21(第 2 次)」(http://www.mhlw.go.jp/file/06Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000067539.pdf 2015 年 2 月 1 日閲覧) 財団法人母子衛生研究会『わが国の母子保健 平成 27 年』,2015 年。 内閣府・文部科学省・厚生労働省「子ども・子育て関連 3 法について」,2012 年。 内閣府・文部科学省・厚生労働省「おしえて! 子ども・子育て支援新制度」,2014 年。 日本発達障害ネットワーク編『新版・発達障害児のための支援制度ガイドブック』,2012 年。 服部右子他編『新時代の保育双書 図解 子どもの保健Ⅰ』みらい,2011 年。 保育者の健康を考える会編『保育者の健康』チャイルド本社,2007 年。 無藤 隆・安藤智子編著『子育て支援の心理学』有斐閣,2008 年。 森上史朗・柏女霊峰編『保育用語辞典[第 6 版]』ミネルヴァ書房,2010 年。 文部科学省『幼稚園教育要領』,2008 年。 180