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意欲低下のために 作業療法の介入に難渋した一例
意欲低下のために 作業療法の介入に難渋した一例 医療法人渓仁会 札幌西円山病院 馬場 晶子OTR, 久保進也OTR,伊藤 隆OTR, 横串算敏MD 高齢者の意欲低下 高齢のリハ患者にみられる意欲低下,発動性低下 うつ病 認知症 (脳卒中後PSDなど) (ADなど) 意志欠如 abulia, 無感情状態 apathy, 無動 akinesia・・・・ 事例紹介 うつ病と薬剤性パーキンソン症候群による意欲低下,生活圏の 縮小,対人交流の減少があり,リハに対して拒否があった事例 症 例:73歳 女性 診 断:うつ病/神経症/薬剤性パーキンソン症候群 現病歴: 40歳代-神経症,うつ病で精神科通院 72歳-右上下肢脱力で薬剤性パ症候群と診断 73歳-長期療養のため当院に転入院 既往歴:高血圧症/糖尿病/胃潰瘍/甲状腺機能亢進症 生活歴: 26歳-結婚 34歳-離婚,姉と二人暮し 60歳-高校の家庭科教師退職 リハ介入前の評価-心身機能/身体構造,活動 振戦(安静・動作時) 無動 固縮 姿勢反射障害 小刻み歩行 仮面様顔貌 起き上がり 座位 立ち上がり 立位保持 歩行 N-ADL 27/50 食事 6 歩行・起座 5 整容 4 生活圏 5 清拭 1 着脱衣/入浴 3 上更衣 3 摂食 7 下更衣 3 排泄 7 トイレ動作 4 排尿 5 排便 6 ベッド移乗 5 トイレ移乗 5 浴室移乗 1 車椅子 1 介助 階段昇降 1 見守り 理解 5 家事/身辺動作 0 介助 表出 5 関心・意欲/交流 0 社会的交流 3 会話 7 問題解決 3 記銘・記憶 7 記憶 3 見当識 5 基本動作 寝返り FIM 64 (45/19) 介助 手すり 使用見守り N-M 19/50 前方介助で5∼6m可能 N-ADL:西村式老年者日常生活動作能力 N-M:精神状態評価尺度 リハ介入前の評価-精神心理認知機能 うつ病評価尺度 (Hamilton):37/54 HDS-R:14/30 精神・心理・認知機能 行動観察評価 意欲・自発性低下,無為的 話しかけに反応がない 無感動 身体が動かない,苦しいとの訴え 思考の制止(精神運動抑制) 奇声 自己・周囲への関心低下 スタッフの前で意図的に転落 心気的,不安,焦燥、苦悶感 落ち着きなく身体を揺らす 長・短期記憶,作動記憶の低下 病棟スタッフ<リハスタッフへ攻撃的 療養経過とリハ(OT)の介入 経過 拒否的・攻撃的言動 問題点 3ヵ月後 開始時 苦痛な表情 疲労を訴え倒れようとする 短時間での関わり 拒否的・攻撃的な言動の減少 苦痛表情の変化なし 右とう骨神経麻痺発症(不動による) 約束した分は歩行リハを遂行できる 関われる時間の延長 ・音楽/導入時は聴いている様子だが,徐々に落ち着きなく「もういい」 ・Activity/促がしても自発的動作なく,「やめて」「部屋に帰して」 ・集団レクへの参加/開始後まもなく大声で「帰りたい」と訴える OT内容 ・机上での作業活動/提示すると同時に拒否,振り払う ・歩行リハ/回数・距離を明確に伝えることで約束した分は遂行できる ・他動的可動域リハ/触れる事に対し拒否,怒りを表す 薬物療法 マイスリー,セルシン ワイパックス,ドパコール, ビシフロール 追加 療養経過とリハ(OT)の介入 8ヵ月後以降 経過 問題点 拒食・拒薬,失禁,離床拒否 対人交流に対し拒絶的 問いかけに無言または拒絶し,歩行リハも拒否のため実施できず ・歩行リハ/離床拒否,介助に対して抵抗し実施できず ・他動的可動域リハ/拒否または,拒否があっても訴えられない様子 OT内容 薬物療法 ・ADLへの介入/トイレ誘導し,可能なときはトイレ動作介助 ・人と関わること自体に拒否があり,リハビリが休みになることも,,, ルボックス,リフレックス追加 現在リフレックス中止 症例の小括 介入時 心身機能/身体構造 振戦(安静・動作時) 自発的動作の減少 現在 振戦の増悪 自発的動作はほぼなし +右橈骨神経麻痺発症 N-ADL 27/50 FIM 64 (45/19) N-M 19/50 13/50 33/54 37/54 14/30 実施不可(拒否) 歩行 前方介助で室内の移動程度可能 体幹・骨盤可動性乏しく後方重心 右下肢筋力低下進行,膝折れ 一歩を踏み出せない 歩行できるときもある 病棟生活での問題点 ・介助に依存的 ・病棟で奇声をあげる ・意図的に転倒 ・拒食・拒薬,処置への拒否 ・対人交流に対し拒絶 ・尿意を訴えず失禁 ADL 精神心理認知 HAM-D HDS-R 13/50 39 (25/14) 考察-高齢者の意欲低下に対する作業療法 高齢のリハ患者にみられる意欲低下,発動性低下 うつ病 (脳卒中後PSDなど) 精神科作業療法など 薬物療法 精神療法 リハ 看護 認知症 (ADなど) 認知行動療法など 病態把握とそれに応じたアプローチが必要 患者の希望がリハ意欲を引き出す 特効薬的な作業療法介入はない 「がんばらない」が合い言葉=治療内容よりも環境整備を 考察-本症例に対するOT介入 1.受動的な対応でも良いので対人交流や提示されたものに対し 受容できるようになること 2.また,問題行動が少しでも減少していくこと OTプログラムの工夫 ・粗大な運動,適度な疲労感 ・積極的な言語的関わりが無くても活動が可能 ・半自動的で繰り返した動作 ・回数や距離等で段階付けや負荷量を調整できる ・パーソナルスペースの把握/一定距離を置いた関わり ・言語&非言語(アイコンタクト)的関わりの許容量把握 ・刺激や情報量の統制と理解度・許容量の把握 ・時間帯 『歩行』 『支持的対応』 『機械的対応』 考察-本症例の問題 原因が特定できない中で症状の増悪が顕著となっている. 1.精神科担当医,病棟スタッフとの密な意見交換が必要. 具体的症状や問題行動をOTの立場で分析し,リハ内容に 活かせるのではないか. 2. リハを継続するか休息期間を設けるべきか検討が必要 皆さんの意見をお聞かせください