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学習障害児に関する一考察 - 國學院大學北海道短期大学部

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学習障害児に関する一考察 - 國學院大學北海道短期大学部
学習障害児に関する一考察
学習障害児に関する一考察
A Study of Children with Learning Disabilities
山 口 功 夫
はじめに
このレポートは、昭和54年、55年に行った学習障害児の研究を再検し、加筆したものである。
目的は、上記の研究の対象児が、中枢神経系の機能障害が想定された、学習障害、注意欠陥
多動性障害、高機能自閉症などの軽度発達障害(文部科学省)で、通常の学級に在籍し、特
別支援教育の対象となっている児童であるという観点から、過去の論文を見直し、整理する
と共に、教員を志すものへの児童生徒理解のために供しようとするものである。
1、学業不振としての学習障害等
「学習意欲がない」「やれば出来るとおもうが」「学業成績が悪い」「注意の集中力がわる
い」「落ち着きがない」「他の子どもと変わっているところはないが文字を読んだり書いたり
する事が苦手」等々、学校での教科の成績不振を訴えて、担任へ相談に来校する親は少なく
ない。
学校の授業についていけない子ども、すなわち、学業不振の子どもたちの問題が、学校不
適応児の多発など、二次的、派生的にかかわっていることを考えると、ひとりひとりの子ど
ものもつ学業不振の要因の解明と、個々の子どものニーズに合わせた学業指導の方法の開発
は、今日の学校教育に課せられた大きな課題と言えよう。
北尾倫彦氏は、学業不振児の要因の診断に関して、「要因の階層性に注目することによっ
て、診断の効果を高めるべきである」(1)として、図Ⅰ−1.のような階層的要因を示してい
る。また、学業不振児の診断について、「学業不振は、学力が著しく低い状態をさすが、そ
の判定法にはいろいろな基準の取り方がある。
」と述べている。
北尾氏は、学業不振の判定を、知的能力水準と学力のずれを基準とする場合、成就値など
を用いるが、知能偏差値の高いものほど、これらの値が低く出る傾向があるので、極度に知
的能力が低い場合を除き、学力水準だけを基準にして判定する方法を用いる方が、不振への
対応がとりやすい。学力偏差値から学業不振を判定する場合、下学年の平均的学力水準との
─ 3 ─
國學院短期大学紀要第23巻
比較により、何年分の遅れを示すかを判定基準にすることができる。学業不振の原因は多様
であるから、それに応じた治療教育が考えられる、と提言している
松原達哉氏(2)は、「学業不振という子どもは、大体、正常の知能を持ちながら、何らかの
理由で学習能率が上がらず、ある教科の学習成績がそれに伴わない子どもを指す。そこで知
能が劣っているため学業成績が、その学年の一定標準に比べて劣っていて、学業の指導上、
特別の考慮を要する子どもの場合は学業遅進児slow learnerといって、 学業不振児と区別して
いることが多い。また、後者の子どもを境界線児borderline class child(IQ90∼75)というこ
ともある。なお、学業不振児には、全教科の学業成績が知能に比較して低い、全体的学業不
振児と、特定の教科だけ劣っていている特定教科学業不振児がある。また、ある教科は学業
不振で、他の教科は学業優良な子どもを学業不均衡児と呼んでいる。」と大体、正常な知能
を持ちながら、何らかの理由で学習能率が上がらず、ある教科の学習成績がそれに伴わない
子どもを指すと述べ、知能に遅れはない範囲、すなわち知能の目安としては、IQが90以上
を想定しているように思われる。
図Ⅰ−1.学業不振に関連する要因(北尾)
─ 4 ─
学習障害児に関する一考察
2、神経生理学的学業不振(学習障害等)
(1)学習障害による学業不振
北尾倫彦氏は、この図Ⅰ−1の二次的要因の中に、学習障害( learning disability )の研究
によって、特定の脳損傷を持つ子どもが、読書や計算に困難を感じるケースが明らかにされ
つつあることにふれ「このような医学的診断をくだすことが出来るのは学業不振のなかでも
限られたケースであることを忘れてはならない」としながらも、学習障害による学業不振の
存在を想定している。
学習障害が「学業不振のなかでも限られたもの」であるが、学習障害(神経生理学的要因
による)によって、学業不振になっていたり、反応としての学校不適応を示していたりする
子どもたちが通常の学級に在籍するということである。
学校(学級)での扱いは、「学習意欲がない」とか「落ち着きがない」等の評価により、
注意、激励を受け困惑していたり、自己不全感に落ち入ったりしている子どもたちが多いと
思われるのである。
私の所属していた、公立の相談室にも、通常の学級に在籍しながら、上記のような状態の
児童が相談におとずれることが少なくない。相談事例をあげると次のような事例であろう。
この事例は、北尾氏の言う神経生理学的要因による学習困難とか不適応を持ち合わせてい
る子どもといえる。
(2)学業不振に陥っている事例(学習障害の疑い)
事 例 T.Y児 小学校2年(男児)
T.Y児 昭和46年6月生 男子 (初回面接 昭和54年5月 小学校2年生)
1) 主訴
学校で注意されると反抗的になり、時には暴力を振るう。文字の読み書き、数の計算に
困難を示す。遊んだり、会話したりすることは他児と変わらないという。
2) 家族構成
父、母、姉、本児、弟、妹2人の計7人家族である。父親は長期の出張が多く家に居る
ことは少ない。
3) 生育歴
胎児期、出産時に異常はなかったと言う。首のすわり4ヶ月、歯の生え始め7ヶ月、歩
き始め10ヶ月、始語(片こと)11ヶ月であった。
幼児期は落ち着きなく、多動であった。3才時、交通事故にあうが異常なし。5才時、
「仲よし子ども館」へ出かける。着脱、排尿便などの身辺自立は早かったが落ち着きはな
─ 5 ─
國學院短期大学紀要第23巻
かった。また、母の後追いが激しく、外に見える母親を追って、二階の窓からとびだし怪
我をしたエピソードがある。左利きで修正はできなかったという。
小学校2年春、発作を起こし、意識なく、硬直状態となるが、医学的所見では、脳波に
異常は認められなかったということである。
4) 調査・検査
① 学校
文字の読み書きがほとんど出来ず、計算が苦手である。注意されると反抗的となり
乱暴する時がある。授業中に教室から出歩くこともある。興味のある事は大変よく知
っており会話は普通に出来る。学業成績は最下位である。
② 知能検査
鈴木・ビネー式知能検査 CA 7:11
下限 5才 上限 9才 紐結び(−)
MA 7:2 IQ 91(正常)
菱形の模写(−)など、視−運動協応、
事物の比較と順序づけとか概念化に困難を示していた。
WISC知能検査 VIQ 99
PIQ 90
FIQ 94(正常)
検査項目の特徴部分は、5数の反唱が出来るが2数の逆唱は難しい、積木模様が見
本通り配置出来ず、また、符号問題で「V」という記号を図Ⅱ−1のように書く。
③ フロスティッグ視知覚発達検査
(検査時のA児年令・8才0ヶ月)
下位検査1、視覚−運動の協応 下位検査Ⅲ、形の恒常性に著明な遅れがある。
全検査、評価点合計31で、知覚指数62であった。この成績は、同年齢の子どもの
1%以下ということであるから、視知覚の発達に著しい遅れを有していることとなる。
④ ITPA言語学習能力診断検査
全検査PLA8才2ヶ月、本児8才0ヶ月であり遅れは認められない。
下位検査をみると表象水準には問題が無く良好な成績を示しているが、自動水準の
聴覚・音声で、数の記憶(26、−37、−11)、視覚・運動での形の記憶(25、−37、−12)
に著しい遅れが認められる。また、ITPAは、能力という観点から下位項目を「受
動能力」「連合能力」「表現能力」「構成能力」「配列能力」に分類している。種々の能
力のうち配列記憶能力に著明な遅れが認められる。
⑤ その他の検査
図Ⅱ−2の左の図形をなぞらせた結果が右の図である。ゲゼルは(3)十字形のなぞり
は54ヵ月で完成するとしており、田中は(4)発達的に3∼4才の幼児は図形認知に際し
て、図形の持つ方向性に関係なく、図形の持つ構成要素の特徴的な部分をなす成素図形
─ 6 ─
学習障害児に関する一考察
に焦点を求めている。そして、図形の走査は焦点を図形の上位部分とし、そこから、下
位部分にかけて行われるとしている。このことと関連して考えられる現象であろう。ま
た、WISC知能検査の符号問題で「V」という記号が、図Ⅱ−2のようになることを
考え合わせると、何らかの認知障害が推察される。
図Ⅱ―1
Vの模写図形とWISCの積み木の配列
図Ⅱ―2
×のなぞり図形等3点
両手指を同時に折り曲げていく動作は、目で見ながら片手指ずつ折り曲げていき、同
時に両手指を折り曲げていくことは困難である。拇指と他の指をくっつけていくことは
片手だけでも困難であった。
5)考 察
乱暴行動、学業不振を主訴として来所した子どもであるが、これらの徴候は、書字障
害、難読、計算障害などの知覚・認知の障害と環境とのかかわりのまずさとに原因が求
められる。
この問題を分析してみると、鈴木・ビネー検査で示した、視・運動協応、数の逆唱が
出来ないという数操作における可逆性に発達の遅れが認められる。WISC知能検査よ
り、視覚−運動協応、空間定位活動(積木模様など)に障害が認められる。フロスティ
ック視知覚検査からは、視覚−運動協応と形の恒常性(形を記憶して保持していること)
に4年ほどの遅れがある。ITPAより、自動水準における、聴覚・音声、視覚・運動
の両過程における数及び形の記憶に遅れがある。すなわち、数とか形の配列記憶能力に
障害がある。
以上、本児の学業不振の問題は、本児の持つ学習能力の障害にあり、その障害は、事
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國學院短期大学紀要第23巻
物の順序づけとか配列記憶能力といった能力、空間定位能力(空間関係能力)、視覚−
運動協応にあると思われる。
6)治療教育プログラム
以上のような考察から、まずは、次の三点から、教具等を作成し指導を試みることにする。
① 配列記憶(順序づけ)
カードに描かれた、絵、文字、数字などを見て、それらが隠された後、多くの同様
なカードの中より同じものを選び出す。耳から聞いた、ことば、数、事物名などそれ
らを表すチップを用いて、聞いたままを再現する。
② 空間関係
3個3列、5個5列等の点が描かれたカードに、見本に書かれている線を記入して
いく、左端の点、左下の点など位置、方向、順序を見本と同定しながら学習する。ま
た、カードを見ながら、カードのように積み木を構成する。
③ 視覚−運動協応
指で線をなぞったり、鉛筆で、文字、数字、線などをなぞったりする。
以上のような、教材・教具を用いながら指導し、子どもの変化の様子を観察し、次
のプログラムや教材・教具の開発をしていくことになる。しかし、保護者は家庭の都
合で、来所が困難になり相談指導が中断する。
7)中断後の再相談
T.Y児の指導は、来室が種々な事情で困難になり、再び来室したのは、小学校の
授業についていけず、就学指導の必要な子どもとして、学校より検査の申し込みがあ
った小学校4年生になってからである。
検査はWISC−R、ベンダーゲシュタルトを行い、結果は図Ⅲ−1に示す通りで
ある。WISC−Rでは、FIQ61となっているが理解、絵画完成、絵画配列に評価
点8∼10点をあげており、一部分において、平均かそれに近い能力を有している。直
接、比較することは出来ないと思われるが、知識、算数、単語の落ち込みは、環境か
ら、言語を通し学習していくことの困難さの結果であるとも考えられる。
また、符号は、両テストともに低い得点であり、視−運動の改善がみられない。
ベンダーゲシュタルトテストにおいては、統合の失敗が目立ち、一部回転(IV)
がみられ、CA10:7であることを考えると、かなり視−運動に問題が認められるの
である。
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学習障害児に関する一考察
3、学習障害児の早期発見
図Ⅲ−1
上記の事例のように、早期に発見できても、学校、家庭との連
携が取れないと、学習が遅れてしまうのと、二次障害として人間
関係や社会性、自尊心などの成育が阻害されてしまう事例もある。
今も昔も、悩みや困難を抱えている児童生徒に、必要なことは、
早期発見、早期の相談・指導と継続的なフォロウーであろう。
上野一彦氏(5)は、学習障害の子どもの早期発見において、行動
質問紙を作成し、教育的な観点からのスクリーニングを行ってい
る。この行動質問紙を使用することで、同時にたくさんの児童の
チェックができ、学校に在籍する児童の中から、行動リストにあ
るような児童を選び出すことができる。
また、文部科学省が実施した、「特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態調査」の
行動リスト項目から「聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する」と「不注意」又は
「多動性―衝動性」と「対人やこだわり等」をスクリーニングできると思われる。この場合、
学習障害の項目での、著しい遅れとして、小学校2,3年は1学年以上の遅れ、4年以上ま
たは中学生は2学年以上の遅れを目安としている。
4、情緒障害と発達障害(LD「学習障害」等)と学校
情緒障害と学習障害との関係は、通級指導学級の充実を、対象とする児童生徒を検討して
いる場で、知的な遅れはないが、中枢神経系の機能障害で、学習困難な者、学習障害の児童
生徒が、言語障害や情緒障害学級へ通級しており、情緒障害のカテゴリーを発達障害といわ
ゆる情緒障害に分け、自閉症などを発達障害へ、緘黙など情緒障害へという考えを示した。
〈文部科学省〉。このようなことから学習障害は、情緒障害かと、一時、情緒障害教育の対象
となったが、現在は、発達障害(軽度発達障害を含む)として、いわゆる情緒障害とは別扱
いになっている。
情緒障害という言葉が初めて使われたのが、昭和28年∼29年頃に、情緒に障害のある児童
を、短期に収容して、生活指導と心理療法と教育の三本柱で適応指導をしていく発想で、情
緒障害児短期収容施設がつくられ、この名称が行政サイドの用語として登場したのが最初で
ある。この場合の情緒障害という用語の定義づけは、あいまいなものであったといわれてい
る。
─ 9 ─
國學院短期大学紀要第23巻
(1)情緒障害の教育
昭和42年、文部省は、通常の学級で、学習困難とか、適応が困難などで、特別に配慮を必
要となる児童生徒への施策が必要なことから、第二回目の、教育上特別な取り扱いを要する
児童生徒の実態調査をおこなった。
この調査の判別基準として、①知能は普通か、それ以上あり、②明確な身体的な障害〈病
気か欠陥〉をもたないにも関わらず、下記のいずれかの項目に、該当する児童生徒である。
a 貧困や親の無理解などの理由がないのに、登校をしないで数ヶ月家にとどまっている。
b 1つのこと〈整理、整頓、清潔、順序等〉に極端にこだわり、反復する傾向がある。
c 些細なことを極端に心配し、こだわったりする。
d 友達に興味関心がなく、極端に孤立している。
e 一見*精神薄弱者のようにみえるが、時々知的なひらめきを示す。
f 家では普通に口をきくが、学校や人の前に出るとまったく口をきかない。
g 非行といわないまでも、極度に落ち着きがなく、他の児童生徒に迷惑をかける。
h 精神病ではないかと思われる言動がある。
i 些細なことにすぐかっとなり、衝動的である。
以上の項目による調査結果から、登校拒否の疑い、緘黙の疑い、自閉症の疑い、神経症の
疑い、精神病の疑い、脳の器質障害の疑い、その他に分類し、この頭に情緒障害という名を
つけて、これらの障害を一括したのである。この調査で、発達障害の児童生徒が、スクリー
ニングされていたと思われる。
その後、情緒障害学級が開設されるようになり、ほとんどの学級の対象が自閉児であった
ことから、情緒障害イコール自閉症とか、神経症も、脳の器質的障害の疑いも情緒障害とい
う名称でくくられたことから、情緒障害という名称は、障害のくず箱になっているといわれ
るようになるのである。※現在は知的障害という。
(2)軽度発達障害「LD(学習障害)
、注意欠陥多動性障害、高機能自閉症等」
2002年3月、文部科学省は、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態を調べ、今後
の施策の在り方や教育の在り方の検討の基礎資料として、通常の学級に在籍する特別な教育
的支援を必要とする児童生徒の実態調査を行った結果を公表した。
対象は、知的発達に遅れはないものの、学習面や行動面で著しい困難を持っていると担任
教師が回答した児童生徒である。
この実態調査は、「聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する」と「不注意」又は
「多動性―衝動性」と「対人やこだわり等」に大きく分けて、それらに多くの項目を設けて、
─ 10 ─
学習障害児に関する一考察
実施されている。
併せ持つものや変化の連続体としての状態もあるとおもわれるが、「聞く、話す、読む、
書く、計算する、推論する」の調査項目を挙げると(P11に掲載)以下のようなものである。
(他の項目は省略する。
)
(3)特別支援教育の対象として
文部科学省(6)は、この調査結果から特別な教育的支援を必要とし、通常の学級に在籍す
る児童生徒の、比率が、6.3%と発表した。このうち「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算す
る」「推論する」に著しい困難を示す者が4.5%、「不注意」又は「多動性―衝動性」の問題を
著しく示す者が2.5%、
「対人やこだわり等」の問題を示す者が0.8%であったと報告している。
従来の障害、盲、聾、肢体不自由、知的障害、病・虚弱、言語障害、情緒障害に、発達障
害が加わって、8障害が、特別支援教育の対象となったのである。
文部科学省は、学習障害をLD〈学習障害〉と呼び、概念規定〈定義〉は、教育的な定義
づけであるという。
(4)軽度発達障害と学校教育
学習障害児が、爆発的な勢いで学校教育の関心事になってから、まだ、数年である。それ
までは、本研究に見られるように、学習不振、MBDとか、微細脳損傷とか、学習障害とか、
たぶんにいろいろな名称で呼ばれていた。
上村菊朗氏(7)は、学習障害について、「MBDでは、臨床像がハッキリしない、くずかご
的な曖昧診断である、何を根拠にMBDだと言えるのかなどの論議が出され、教育や心理の
面からもあいまい診断だという批判が強くなりました。医者の中からもこの名称は返上しな
ければという提言があり、MBDは正式診断名として認められないまま、その時代は一応、
1970年代で終わり」「医学的な診断は、国際診断名として頭におき、実際問題はすでに教育
の世界に入っていますから、LDとの診断名を使っていくのが適切だ」と提言している。山
中康裕氏(8)が、「脳の微細な損傷の存在が科学的に証明されたわけでないことや、原田健一
の疾患概念に対する根本的な考え方で大きく批判されて、これから「MBD」なる名称は次
第に消えていくといわれるように、MBDとか脳の微細な損傷といった言われ方は見かける
ことがなくなったのである。
ともあれ、軽度発達障害と呼ばれる子どもたちは通常の学級に在籍していたのであり、そ
の扱いは、自閉的とか、落ちないとか、意欲のないとか、学業不振とかといわれ、叱咤激励、
教科を定めない個別指導、注意、意欲の喚起など、子どもも保護者も戸惑うばかりであった
─ 11 ─
國學院短期大学紀要第23巻
のではなかろうか。
学習障害に関し、公的に学校教育上の検討課題として取り上げられたのが、平成4年3月
の通級に関する充実方策について(審議のまとめ)、―通級に関する調査協力者会議―から
であろう。
この審議会で学習障害が取り上げられるが、学習障害については、国内で、その定義が一
致を見ていない現状にあり、今後の調査研究が必要とされたが、学習障害の児童生徒が、言
語、情緒障害特殊学級への通級がされており、これが適切な場合は、こうした指導の一層の
充実が必要であると、通級指導の拡充として認める方向にあった。
平成11年7月、文部科学省の「学習障害及びこれに類する学習指導上の困難を有する児童
生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」の報告、平成15年3月の「特別支援教育のあ
り方に関する調査研究協力者会」の最終報告、「今後の特別支援教育の在り方について」、
2002年「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の全国実態調査」に
よって、学習障害等の定義、在籍率、指導体制、指導法等が公表された。
平成17年3月 独立行政法人国立特殊教育総合研究所が、「LD・ADHD・高機能自閉
症の指導ガイドラインを、発行したのである。これによって、発達障害児童生徒へのより一
層の理解と指導の手立てが明確になり、特別支援教育が充実され、個別のニーズに対応した、
指導がいっそう進展していくことと思われる。しかし、障害者基本法(一部改正)、発達障
害者支援法、特別支援教育、軽度発達障害等々、多くの学校や教師は、意識改革が求められ
ると思われるようなこれらの法や施策等に現実対応の面での戸惑いが大きいのではないと思
われる。
─ 12 ─
学習障害児に関する一考察
表Ⅰ
質問項目
〈「聞く」「話す」
「読む」「書く」「計算する」「推論する」〉
・聞き間違いがある(
「知った」を「行った」と聞き間違える)
・聞きもらしがある
・個別に言われると聞き取れるが、集団場面では難しい
・指示の理解が難しい
・話し合いが難しい(話し合いの流れが理解できず、ついていけない)
・適切な速さで話すことが難しい(たどたどしく話す。とても早口である)
・ことばにつまったりする
・単語を羅列したり、短い文で内容的に乏しい話をする
・思いつくままに話すなど、筋道の通った話をするのが難しい
・内容をわかりやすく伝えることが難しい
・初めて出てきた語や、普段あまり使わない語などを読み間違える
・文中の語句や行を抜かしたり、または繰り返し読んだりする
・音読が遅い
・勝手読みがある(
「いきました」を「いました」と読む)
・文章の要点を正しく読みとることが難しい
・読みにくい字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない)
・独特の筆順で書く
・漢字の細かい部分を書き間違える
・句読点が抜けたり、正しく打つことができない
・限られた量の作文や、決まったパターンの文章しか書かない
・学年相応の数の意味や表し方についての理解が難しい
(三千四十七を300047や347と書く。分母の大きい方が分数の値として大きいと思っている)
・簡単な計算が暗算でできない
・計算をするのにとても時間がかかる
・答えを得るのにいくつかの手続きを要する問題を解くのが難しい
(四則混合の計算。2つの立式を必要とする計算)
・学年相応の文章題を解くのが難しい
・学年相応の量を比較することや、量を表す単位を理解することが難しい
(長さやかさの比較。
「15cmは150mm」ということ)
・学年相応の図形を描くことが難しい(丸やひし形などの図形の模写。見取り図や展開図)
・事物の因果関係を理解することが難しい
・目的に沿って行動を計画し、必要に応じてそれを修正することが難しい
・早合点や、飛躍した考えをする
(0:ない、1:まれにある、2:ときどきある、3:よくある、の4段階で回答)
─ 13 ─
國學院短期大学紀要第23巻
5、学習障害について
(1)学習障害の定義
改めて学習障害の研究の歴史と現在の動向を概観する。まず用語と定義についてであるが、
学習障害(学習能力障害)という用語はlearning disabilitiesの訳語である。これに類した用語
としては(医学的)、読み障害、書き障害、計算障害などのleaning disorders(DSM−IV
―TR)、あるいはspecific developmental disorders of scholastic disorders(ICD−10)が、学
習障害、学習能力の特異的発達障害と邦訳されている。
文科省は学習障害およびこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関す
る調査研究協力者会議の「学習障害児に対する指導について(報告)」で、学習障害を下記の
ように定義したのである。
「学習障害とは、基本的には、全般的な知的発達には遅れはないが、聞く、話す、読む、
書く、計算する、又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す
様々な状態を示すものである。
学習障害は原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、
聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではな
い。」と定義づけ、これは教育用語として定義されたものであるとしている。
学習障害という用語、状態像等のより一層の理解のために、以下の研究者等からの知見、
提言を参考として掲載しておく。
●
W.H.クリュクシャンク(9)、S.ファーナムディゴリィ(10)らは、「学習障害」とい
う用語は、「脳障害」「知覚障害」「微細脳機能不全」「精神遅滞」等の用語よりも、こうした
子どもを持つ親に受け入れやすいこと、制度をつくるための名称が必要であるという意味あ
いが強く、定義はあいまいであると述べている。
しかし、学習障害の研究を進めていくためには、この障害に対しての定義は必要である。
アメリカ合衆国議会で採決された全米学習障害児協会(NACLD)の「特殊な学習障害
児」にたいする規定が一つの定義となっている。
これによれば、「話しことばや文字を理解したり、使用したりする際の基本的な心理過程
に一つないし複数の障害を持つ子どもをさす。たとえば、聞く、考える、読む、書く、綴る、
計算するといった面での障害である。これには、知覚障害、脳障害、微細脳機能障害、読み
障害、発達性失語症などが含まれる。一次性の視覚、聴覚、運動障害によるもの、精神遅滞
や情緒障害によるもの、さらには環境、文化、経済的な悪影響による学習の問題をもつもの
は含まれない」としている。
●
鈴木昌樹氏(11)は「学習障害の定義は必ずしも一定していないようであるが、一般的
─ 14 ─
学習障害児に関する一考察
には知能、視力、聴力、運動機能、情緒面で異常がないのに、学習上の欠陥ある場合と理解
されている。ここで学習と言う場合、主として、話しことば、文字言語、計算など、いずれ
も記号を取り入れて概念に変えたり、概念を記号に変えて表出したりして、概念を直接でな
く記号を用いて伝達する動きであり、このような象徴機能は大脳の機能である。学習障害と
いう場合、微細脳障害の一部として考えられている。
」と述べている。
また、「微細脳障害の場合、認知の働き、ことに視覚認知とそれと関連する機能に障害が
あることが少なくない。この認知の働きは、大脳機能のとしての象徴機能よりも低位の働き
と考えられる。しかし、視覚認知に障害があれば、当然、文字や図形などの習得に影響を及
ぼすし、一方、聴覚認知に問題があれば、話しことばの理解も困難になるので、必然的に学
習障害をひきおこすことになろう。いずれにせよ、学習障害の場合、基盤に大脳機能障害が
中心になっているということは、銘記しておかなければならない大切なことである。」と述
べ、知能は正常であるが、認知障害、象徴機能の障害があり、その根底に大脳機能障害があ
るとしている。
●
伊藤隆二氏(12)はSA・kirk
とH・Myklebust
討し、『
、J・kroth
、NACHC(米国障害児諮問委員会)、Dj・johnson
、W.M.Crwckshankなどによる学習障害の定義づけを検
Johnson‐Myklebustか指摘するように、学習障害の主症状である「象徴」とか「概
念化」の障害こそが、従来のmental retardationの中核をなすものである。また、「知能」の本
質が探求されている現在「知能水準の正常範囲ないしはそれ以上」という学習障害の条件そ
のものが、ゆらぎはじめていると言ってもよい。結局、筆者は量的な知能水準の程度を問題
にすることをやめて、「学習障害とは、何らかの中枢神経系の機能障害のために、話す、読
む、聴く(理解する)、書く、綴る、計算するといった学習能力ないしは抽象化、概念化と
いった思考能力の面で支障(ハンディキャップ)をきたしている状態をいう。」という定義
づけを提案している。
(2)学習障害児の診断
ナンシー.M.ロビンソンら(13)は、「脳障害をもつ(あるいはもつと疑われる)のだが、
知能のわるくない子どもたちの問題を定義し、探求し、改善しようとする傾向がさかんにな
り、この知能のわるくないという事を損傷のひろがりとその性質によって、精神遅滞児から
区別されるのではなく、知能指数が「平均値以下 2標準偏差」より高い事実によって、精
神遅滞児から区別しているにすぎない」と述べているが、ジョンソン・マイクロバストらは、
研究のためにも、また、治療教育の面(効果)からいっても、WISC知能検査の言語性、
あるいは非言語性尺度でIQ90以上を得た子どもたちを対象とするとしている。
─ 15 ─
國學院短期大学紀要第23巻
上野一彦氏は、図Ⅳ―1を学習障害の診断システムとして用いている。この図の中の、太
い矢印は、必須の基本検査、細い矢印は、子どもの年齢や予測される知能特性によって選択
的に用いられる検査であるとしている。
Ⅰ、Ⅱ段階は、学習障害の鑑別、認定を目的とし、Ⅲ、Ⅳ段階は、治療、指導の具体的手
がかりを探るための能力パターンの測定を目的としている。
平井信義氏(14)は、微細脳障害にふれて、子どもの学習上の問題と脳障害との関係を検討
し、脳障害を推定したり、決定したりする方法や、学問的知見に現在なお、不確定な要因が
多いことについて言及し、行動上や学習上の問題については、その実態を把握するために、
次にあげるような事項が大切であるとしている。
(1) 子どもの生活の中における行動を母親から詳細に聴取し、
(2) その生活史についても具体的に聴取し、
(3) 子どもに対しては、遊戯観察を十分行い、
(4) 子どもの家庭外での行動や作品についての資料を収集する。
生活史に問題が発見されたときには、具体的な提案を行い、その経過を追いながら母親の
洞察の状態とともに、子どもの行動変容を把握すること、そして上記のような努力によって
も、なお、行動上や学習上の問題に変化が認められない場合に、初めて脳障害を考え対策を
立てること、この場合でも、問題を持っている子どもに対して、その原因を追究するための
努力と同時に「よさ」の発見に努力し、その「よさ」を伸ばすことによって、子どもがどの
ように行動を変容させるか、学習上の問題を解決するのかを追跡的に検討する教育的観点に
立った努力が大切であることを強調している。
(3)学習障害児の特徴
どのような発見も、そのものの特徴とか、特性などを知っていることで、それが指標とな
り、サインとなって、発見を早めることになる。この特性や特徴などを研究している幾人か
の研究者の著書から、それらを参考として記述する。
●
鈴木昌樹氏(11)
① 読み書きの障害
一字一字の文字は読めるが、文字がいくつかまとまって語になると読むことが困難にな
る。日本語において、文字と音節が1対Ⅰに対応しない促音や拗音などの習得が困難とか、
語や文章の書き取りも困難なことが多い。しかし、機械的な写字は可能なことが多いので、
─ 16 ─
学習障害児に関する一考察
図Ⅳ―1 LDの心理診断システム(上野、1981)
─ 17 ─
國學院短期大学紀要第23巻
一般的には、視覚認知の障害ではなく象徴機能の障害と考える。
② 算数の障害
一般的には読み書きの障害にともなってみられるものが多いようである。
③ 行動異常の問題
学習障害の全てではないが微細脳障害にふつうみられる行動上の問題をかねそなえてい
るものが少なくない。
他動性、注意集中力に乏しい、注意転動、保続、情緒不安定で衝動的であるなどのパタ
ーンである。
●
上村菊朗他(15)
① 知的能力は正常である。
② 女子よりも男子に多い。
③ 日常生活での問題
整理、整頓が苦手、自分をとりまく環境の意味が理解できない(時間、空間、大きさ、
方向などに関する認知障害)
④ 発達的にみた特徴
ア 乳 児 期
多動な子どもと、おとなしい子どもがいる。運動の発達に比較して言語発達になん
らかの障害をもっている。
イ 幼 児 期
多動、執着、保続、注意散漫、不器用(協応運動の障害)、ことばの問題(表出言語の
発達の遅れ、構音障害、発音の障害)
、表出言語と理解言語の発達のアンバランス
ウ 学 童 期
読みの障害(一字一字の字は読めても、文章としての理解ができない)、書きの障
害、視覚−運動の協応の障害、視覚認知の障害(鏡映文字、上下の逆転、へんとつく
りの逆転など)
・ 算数障害(計算障害、量的な考え方の障害)
・ 非言語性の障害(時間、空間、大きさ、方向、順序などの非言語的な障害)社会性成
熟度が低い。
・ 行動特性;衝動的、注意力散逸、集中困難、多動、不器用である。
●
牧田清志氏(16)
① 読みの障害は日本の児童においては少ない(欧米諸国と比べて)
② 話しことばの理解の困難または歪み
─ 18 ─
学習障害児に関する一考察
・ 聴覚性受け入れ言語の障害(音としては耳に入っているのだが、その意味を理解でき
ないなど)
・ 聴覚性表出言語の障害(絵の名前を言わせたり、できごとを説明させたりするとうま
くできないなど)
③ 書字障害
視覚−運動の統合(手と目の協同)の障害、書字障害の子どもの中には、書くこと
を心にとめておく能力、考え方の整理能力、言語や考え方を正しく配置・計画する能
力、文字や単語の選択能力、文字の細部の判定能力の障害にもとづくものである。
④ 算数障害
数字の読みの障害、数量的概念の障害、計算能力の障害
⑤ 非言語性の障害
さまざまな事態における意味の理解が困難、非言語性運動学習ができない、左右の
感覚が未発達、社会性知覚の障害
●
W.M・クリュクシャンク(17)
① 多動性(子どもはたえず動きまわっている)
ア 知覚の多動性(子どもが必要のない無関係な刺激に反応する)−被転動性−
イ 運動の多動性(運動反応や刺激に対する反応を子どもが抑えることができない)」
② 統合性困難(子どもは木をみて森をみず)
聴覚あるいは知覚の多動性によってひきおこされることが多い。全体と部分の関係
の認知が出来ない。
③ 背景の逆転
本来、意味的には図となるべきものが地になってしまうような認知の仕方である。
④ 固執性(々音楽がくり返し、くり返しつづく)
固執性が表れるときは、子ども自身の自発性でさえぎることも、外部から教師がさ
えぎることもむずかしい。
⑤ 運動能力がとぼしい
空間で自分自身を方向づける能力、運動発達の不均衡(指の運動が稚拙、不器用など)
⑥ その他
ア
記憶と注意 学習障害児はたえず緊張と情緒的ストレスにさらされているため、
全体的にみると記憶力が極端にとぼしい。また、記憶の特性と密接に関係している
のが注意と注意の範囲である。
イ 学習障害児の注意の範囲は極端に狭い。
─ 19 ─
國學院短期大学紀要第23巻
ウ 自己概念の発達と身体像
発達の不均衡による自己概念の歪み、多動性は注意範囲をせばめ、つかの間の不
正確な知覚だけを可能する、すなわち、学習障害児は長い失敗体験と知覚上の問題
の結果、その身体像はひじょうに歪んだものとなっている。
●
H.R.マイクロバスト(18)
子どもが知的にも情緒的にも、運動機能的にも、感情的にも、ある程度完成されており、
学習以外の他の面では、正常な範囲に入るが、脳の機能障害があることを示す行動的ないし
は神経学的事実があるということが学習障害児の特徴である。
① 知覚障害
② 表象機能の障害
毎日の経験から学ぶ能力、これらの経験を表象の形で思い出す能力の欠陥
③ 象徴化の能力の障害
ア 内言語
内言語の過程は、経験をシンボルに転換することを許す過程である。内言語に障害の
ある子どもは、意味そのもの−象徴化する経験の基準−を理解するのがむづかしいかも
しれないし、経験を言語性のシンボルに転換する能力に欠けているかもしれない。字は
よく読めるが、句の意味を把握できない子どもは、内言語に障害がある可能性がある。
イ 受け入れ言語の障害
内言語の発展は、受け入れ過程に依存している。聴覚的受け入れの学習に障害を起こ
している子どもたちは、活動性昂進・保続性・抑制不全・注意散漫・注意集中困難など
に象徴されるような行動を示すのが普通である。この型には、視覚性(文字)と聴覚性
(ことば)とがある。
ウ 表出言語の障害
子どもが自分自身をどう表現するかは、その子どもの受け入れ言語がどこまで整って
いるかを明らかにする。もし、その子どもが、言葉・順序・文章の構造やつづりを思い
出せず、または発音ないしは外形の似た言葉の区別ができなければ、彼の表出言語も欠
陥のあるものとなる。話すときには、聴覚と運動間の協調は、書くときには、聴覚と視
覚と運動の機能と協調が必要になってくる。この面の協調の障害も考えられる。
エ 概念化の障害
概念化が行われるさいには抽象化は含まれなければならないが、最も重要な要素は経
験が格づけされ、分類される方法である。
─ 20 ─
学習障害児に関する一考察
オ 非言語性の障害
人が学習することの多くは、また、毎日の生活機能の多くは、状況・環境・雰囲気な
ど十分には言語化されてないし、おそらくできないものによって左右されている。多く
の場合、学習面に欠陥のある子どもたちは、それが唯一でないにしても、最大の問題が
非言語性の学習にある。例えば、距離の判定とか空間的感覚の判断が困難であるという
ことがそれである。
6、学習障害を疑われる児童の調査・検査
上記の諸学者等の研究・実践を参考にし、また上野一彦氏の調査、表、判断システムを使
用し、学習障害児の発見と指導方法を考察する。
1、対象者のスクリーニング
相談室に来室した児童の中で、鈴木ビネー知能検査IQ90以上の児童のうち、特定できる
ような障害(情緒障害、肢体不自由、盲など)がない、児童をピックアップした。
39校、50名が、調査の対象となり、児童が所属する学校へ、表2行動質問紙を送付し、対
象児童の担任へ質問事項の記入を依頼した。その結果、転校、調査不備などで、下記の表4
の児童がこの調査研究の対象となった。なお、行動質問紙は、考案された上野一彦氏の許可
を得ると同時に、評価を「はい」と「いいえ」の二段階に「多少」を加えるとよいとの助言
をいただいたので、行動質問紙の評価を表2のように「はい」→(○)、「多少」→(△)、「い
いえ」→(・)の三段階の記入とした。行動質問紙の回答結果は、表3のようであった。
その結果、対象数が少ないが、一応行動質問紙の日常生活(表3)で統計的な偏りが大きい
ものを、学習障害の疑いありとした。
このようにしてスクリーニングした対象を、上野先生のLDの心理診断システム(上野
1981)図Ⅳ―1に従って、可能な限りの検査を行って、状態像を顕在化し指導の手がかりを
得るように心がけた。
調査項目に、どの程度の重みがあると区別できるかを統計的に調べると、「はい」のみで、
統計的偏りの大きいものは得点平均が1.60、標準偏差値が3.3でチェック項目が5個以上のも
のとなる。また、「はい」「多少」のどちらかにチェックされた場合、同じ重みとみて(+)
を与え、その偏りの大きいものは平均点が7.89、標準偏差が4.47となり、12項目以上にチェ
ックがあれば、対象とした。尚、11.10項目にチェックされたものも含めた。(これは項目15、
16にチェックされるものがほとんどなかったからである)。その結果、学習障害の疑い有り
の判定を受けたものは、13名となった。
─ 21 ─
國學院短期大学紀要第23巻
表2 行動質問紙
小学校 年 組 氏名
は い
日常生活
1. 落ちつきがなくて,じっとしていられない。
2. 全体に無気力で,動作がにぶい。
3. 短い時間しか,ひとつのことに集中できない。
4. まわりのちょっとしたことに気をとられやすい。
5. きまった遊び(積木,砂遊び,水遊びなど)や同じ質問
をくり返すことを好む。
6. 手先の不器用さが目立つ。
(例 はさみの使用,ボタンのかけはずし,ひも結び)
7. つま先立ちや,かた足立ちがうまくできない。
8. 全身を使った協応運動が苦手である。
(例 ボール投げ,なわ飛び)
9. 新しい環境や刺激の多い環境に入ると,
すぐに人や物にさわりたがり,がまんすることができない。
10. 初対面や,見知らぬ人にたいして,平気で話しかけたりする。
(思いがけないなれなれしさや,ものおじしない態度をとる。)
11. 忘れものが多かったり机の中の整理整とんがうまくできない。
12. 緊張したり,ちょっとしたことでびっくりしたり,
うろたえてしまう。
13. 自分勝手な行動が多く,仲間からはずれがちである。
14. 左右概念ができあがっていない。
(右側,左側,右向け右などの指示がわからないことがある。)
15. 日時の概念が,できあがっていない。
(明日,一昨日などをまちがえることがある。)
16. 場所や位置が,わからないことがある
(例 道順,机,ロッカーの位置)
多 少
いいえ
特記事項
学習面
1. 読めないひらがながある。
2. 一字一字は読めるが,たどり読みである。
3. 促音(きっぷ)や,拗音(きしゃ)を読みまちがえる。
「は」
,
「を」
,
「に」など)を読みまちがえる。
4. 助詞(
5. 文字をぬかしたり,つけ加えたり,取りちがえて読む。
「だから」
,
「けれども」など)を適切に使えない。
6. 接続詞(
7. 文章の内容をつかむことが苦手である。
8. 判読しにくい乱雑な文字を書く。
をぬかしたり,まちがえて書く。
9. 促音(きっぷ)や,拗音(きしゃ)
「は」
,
「を」
,
「に」など)を混同して書く。
10. 助詞(
(例 お , で , は ,つ )
11. 誤ったかな文字を書く。
12. 漢字の,ヘンとツクリを反対に書く。
13. 作文が苦手である。
14. 基本的な数概念(大小,多少など)を理解できない。
15. 演算記号(+−×÷=)の意味が理解できない。
(千の位まで)
16. 位どりができない。
17. くり上がり,くり下がりのない加減算ができない。
18. くり上がりのあるたし算ができない。
19. くり下がりのあるひき算ができない。
(特定の段しかできない)
20. 九九が覚えられない。
21. かけ算ができない(例 38×6)
22. わり算ができない(例 38÷6)
23. 小数の意味がわからない。
24. 分数の意味がわからない。
25. 計算はできるが,文章題ができない。
その他
26. 絵を描くのが苦手である。
27. 教科の出来,不出来が目立つ。
該当欄に○印を記入
─ 22 ─
日 常 生 活
1
△
1. 落ちつきがなくて,じっとしていられない。
△
2. 全体に無気力で,動作がにぶい。
△
3. 短い時間しか,ひとつのことに集中できない。
・
4. まわりのちょっとしたことに気をとられやすい。
・
5. きまった遊び(積木,砂遊び,水遊び,など)や,同じ質問をくり返すことを好む。
△
6. 手先の不器用さが目立つ。
(例 はさみの使用,ボタンのかけはずし,ひも結び)
・
7. つま先立ちや,かた足立ちがうまくできない。
△
8. 全身を使った協応運動が苦手である。
(例 ボール投げ,なわ飛び)
9. 新しい環境や刺激の多い環境に入ると,すぐに人や物にさわりたがり,がまんすることができない。・
(思いがけないなれなれしさや,
ものおじしない態度をとる。) ・
10. 初対面や,見知らぬ人にたいして,平気で話しかけたりする。
○
11. 忘れものが多かったり,机の中の整理整とんが,うまくできない。
△
12. 緊張したり,ちょっとしたことでびっくりしたり,うろたえてしまう。
△
13. 自分勝手な行動が多く,仲間からはずれがちである。
(右側,左側,右向け右などの指示がわからないことがある。
)△
14. 左右概念ができあがっていない。
(明日,一昨日などをまちがえることがある。
)
・
15. 日時の概念が,できあがっていない。
(例 道順,机・ロッカーの位置)
・
16. 場所や位置が,わからないことがある。
学 習 面
1. 読めないひらがながある。
・
2. 一字一字は読めるが,たどり読みである。
・
3. 促音(きっぷ)や,音(きしゃ)を読みまちがえる。
・
4. 助詞(
「は」
,「を」
,
「に」など)を読みまちがえる。
・
5. 文字をぬかしたり,つけ加えたり,取りちがえて読む。
・
6. 接続詞(
「だから」
,
「けれども」など)を適切に使えない。
△
7. 文章の内容をつかむことが苦手である。
・
8. 判読しにくい乱雑な文字を書く。
・
9. 促音(きっぷ)や,音(きしゃ)をぬかしたり,まちがえて書く。
・
助詞(
「は」
,
「を」
,
「に」など)を混同して書く。
△
10.
(例 お , で , は , つ )
11. 誤ったかな文字を書く。
・
・
12. 漢字の,ヘンとツクリを反対に書く。
△
13. 作文が苦手である。
・
14. 基本的な数概念(大小,多少など)を理解できない。
・
15. 演算記号(+−×÷=)の意味が理解できない。
(千の位まで)
・
16. 位どりができない。
・
17. くり上がり,くり下がりのない加減算ができない。
・
18. くり上がりのあるたし算ができない。
19. くり下がりのあるひき算ができない。
(特定の段しかできない)
20. 九九が覚えられない。
(例 38×6)
21. かけ算ができない。
(例 38÷6)
22. わり算ができない。
23. 小数の意味がわからない。
24. 分数の意味がわからない。
・
25. 計算はできるが,文章題ができない。
そ の 他
△
26. 絵を描くのが苦手である。
・
27. 教科の出来,不出来が目立つ。
表3
─ 23 ─
・
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第2学年 11名
13 14 15 16 17 18 19
・・・△○△△
○○・△△・△
・・・△○・○
・・・△○△△
・・・・△・・
△△・△○△○
△△・・△・・
○○・・△・・
・・・・○・・
・・・・・・・
△・・△○・○
△・・△△・・
△・△・△・・
△・・△○・○
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第1学年 10名
3 4 5 6 7 8
・・△○・○
・・・・△・
・・・○△△
・・・△△○
・・・△△・
・・・○○○
・・・○△△
・・・○○○
・・・○○△
・・・△○△
・・・○○△
・・・○△△
・・△○△○
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2
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23
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第3学年 11名
24 25 26 27 28 29 30
・・・△△ △△
・△△・・ ・・
・・・△○ ○△
△・△△○ △△
・・・△・ ・・
△・△△・ ・○
△・・△・ ・△
△・△○・ ・△
・・・△○ ・・
△・・△○ ○・
△・・△○ ○○
△・・△△ △・
△・△△○ ・△
・△△○・ ・・
・・・・・ ・・
・・・・・ ・・
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○
△
○
○
△
○
○
○
△
・
○
△
△
△
・
・
△
・
△
・
△
△
・
△
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
32
○
△
○
○
△
○
○
○
△
○
○
△
・
△
△
・
・
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
・
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
○
○
○
○○○
○○○
・
・
△
・
△
△
△
○
○
・
・
○
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
第4学年3名
33 34 35
○○○
△○△
○○○
○・○
△○・
○○○
○○○
○○○
○・・
○○・
○△○
○○△
○○△
・・・
△・・
△・・
○ はい △ 多少 ・ いいえ
・△・・○△△ ○○○ △
・△・・○・△ ○○○ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
△
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
△
22
・
・
・
・
○
△
○
・
・
・
・
・
○
・
・
△
学習障害児に関する一考察
國學院短期大学紀要第23巻
表4 通常の学級に在籍し、教育的配慮を要する事例
鈴木
学年 ビネー
異常所目
担任所見
IQ
1
1
94
臍帯てんらく(首)
運動能力が劣る、給食を食べようとしない
2
1
100
なし
所見なし
3
1
117
なし
最初のことばがどもる
4
1
110
なし
内気、幼児的な発音
5
1
118
帝王切開
声量のコントロールができない、大声のときが多い
6
1
125
臍帯てんらく(首)
算数に強い関心を示す、国・体・図に関心を示さず、
7
1
103
陣痛微弱 帝王切開
左右の概念が確立していない、服装に頓着しない
8
1
93
なし
けんかが多い、友人関係がなく孤立
9
1
94
なし
他人のものをいじりたがる
発音が不明瞭
場や状況の変化に敏感であり混乱する、
10
1
129
妊娠中毒症,仮死状態
11
2
124
なし
問題なし
12
2
96
なし
幼児的発音、わずかな出血にも貧血を起こす、警戒心が強い
13
2
105
なし
工作、作文で作る順序を決めるのに時間がかかる
14
2
110
微弱陣痛、仮死
国語は良いが算数が劣る
15
2
98
なし
行動が幼稚である
16
2
91
なし
国算ともに劣る、2+5がとっさに出来ず
17
2
97
2,200g出産 EEG異常
全般的に行動、動作が緩慢
18
2
101
なし
話し方にくせがある
19
2
100
なし
所見なし
20
2
100
なし
数に興味が強い、読解が困難、協応動作が劣る
21
2
104
帝王切開 4,650g出産
感情のコントロールが劣る
集中力が乏しい、協応動作が劣る、構音障害あり
感情のコントロールがわるい、協調性に欠ける、
22
3
100
なし
23
3
137
8か月早産 1,500g出産
24
3
95
帝王切開
複雑な問題や不得意なものはすぐあきらめる
25
3
93
なし
所見なし
26
3
95
なし
登校をしぶることがあった
27
3
94
なし
人なつこい、規則を守れないことが多い、無気力
28
3
99
なし
反省的思考や根気に乏しい
29
3
100
微弱陣痛
同じことでも良い時と全々だめなときがある
30
3
96
なし
所見なし
31
3
91
出産時脳内出血
32
3
99
臍帯てんらく 仮死
指名されるとうれしさと緊張で思考が混乱、協応動作が劣る
33
4
102
なし
耐性が極端に弱い、自己顕示が強い
34
4
91
7才時 ひきつけ
手指機能が劣る
所見なし
集中力が乏しい、
手指機能が劣る(習字、図工、リコータン困難)
興奮すると長時間おさまらない、
集団の規律に従えないことが多い
35
4
118
妊娠中毒症
語を単語や文章として理解しない、鏡映文字、
興味のあるものへはとりかかる
─ 24 ─
─ 25 ─
○△△・△△△△○○○○△△△・△○△○△・△・・○・・・・ △・△・・
○○△○△○○○○○○○○△○△△・△△○・△・△・○・・・ ・・・・・
○△○○○△△○△○○・○・・△△○△・・△△△・・・△△・ ・・・・・
○・△○○△△○○△○○○△・△・△△・・△・△・・・・△・ △・・・・
○△△△△△△△○△△○△○△△△△・・・・・△△・・・・・ ・・・・・
△△・△△△・△・△・○△△○△・・・○△△△・・・○・・△ ・・・・・
○△○○○○△○○○△○○・・・・○△・・○・○・・・・・・ ・・・・・
○△○○△○△○○・△○○△△△△・△・○・・・・○△・・・ ・・・・・
13. 自分勝手な行動が多く,仲間からはずれがちである。
8. 全身を使った協応運動が苦手である。
(例 ボール投げ,なわ飛び)
4. まわりのちょっとしたことに気をとられやすい。
1. 落ちつきがなくて,じっとしていられない。
12. 緊張したり,ちょっとしたことでびっくりしたり,うろたえてしまう。
2. 全体に無気力で,動作がにぶい。
3. 短い時間しか,ひとつのことに集中できない。
7. つま先立ちや,かた足立ちがうまくできない。
15 14 14 14 13 13 13 13 12 12 11 11 10 8 8 8 8 8 8 7 7 7 6 6 5 5 5 3 3 2 2 1 1 0 0
−++++++++−−+++−−−−−−−−−+−−+−−− ++−−−
生育歴に異常所見あり(+)
△・△・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・△△・・・ ・・・・・
(例 道順,机・ロッカーの位置)
16. 場所や位置が,わからないことがある。
○(はい) + △(多少)
△△△△・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・△・・・・・ ・・・・・
(明日,一昨日などをまちがえることがある。
)
15. 日時の概念が,できあがっていない。
9. 新しい環境や刺激の多い環境に入ると,すぐに人や物にさわりたがり,がまんすることができない。○ ○ ○ △ ○ ○ △ △ ○ △ △ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ○ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
△△・△△△△△△△・○・・・・・・・△・・・・・○・・・・ ・・・・・
初対面や,見知らぬ人にたいして,平気で話しかけたりする。
(思いがけないなれなれ
○○△○・・△・△△△○・・・・△○・△・・・○・・・・・・ ・・・・・
しさや,ものおじしない態度をとる。
)
5. きまった遊び(積木,砂遊び,水遊びなど)や,同じ質問をくり返すことを好む。
10.
(右側,
左側,
右向け右などの指示がわからないことがある。
)・ ○ △ △ ○ △ ○ △ ・ ・ ・ ・ ・ ・ △ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ○ △ ・ △ ・ ・ △ ・ △ ・ ・ ・ ・ ・
14. 左右概念ができあがっていない。
○○△○○△△○○○△△○○△△△○○△△○・○・・・△・・ ・○・・・
11. 忘れものが多かったり,机の中の整理整とんが,うまくできない。
33 7 10 32 17 21 27 31 6 20 8 34 35 1 13 16 24 28 30 2 9 19 26 29 12 22 14 11 18 25 5 23 15 3 4
○○△○○△△○○○○○○△△△△・○△○○△・△△△・△・ ・・・・・
No.
日常生活調査結果及び異常所見
6. 手先の不器用さが目立つ。
(例 はさみの使用,ボタンのかけはずし,ひも結び)
表5
M =7.89
SD=4.47
学習障害児に関する一考察
△△ △
7. 文字をぬかしたり,つけ加えたり,取りちがえて読む。
○
△
△
10. 一字一字は読めるが,たどり読みである。
「は」
,
「を」
,
「に」など)を混同して書く。
11. 助詞(
12. 促音(きっぷ)や,音(きしゃ)を読みまちがえる。
─ 26 ─
△
(例 お , で , は , つ )
20. 誤ったかな文字を書く。
20(57.1%)
17(77.3%)
22(100%)
103.7
3(23.1%)
13(100%)
103.5
異常所見なし
計
鈴木ビネーIQ
103.6
35(100%)
15(42.9%)
B
5(22.7%)
A
10(76.9%)
所 見
異常所見あり
クラス
表7 A群とB群間の異常所見・知能の比較
22. 読めないひらがながある。
△△
○
△
○
△
19. 基本的な数概念(大小,多少など)を理解できない。
21. くり上がり,くり下がりのない加減算ができない。
△△△
○○
「は」
,
「を」
,
「に」など)を読みまちがえる。
18. 助詞(
△○
○
△△
△△○
17. 演算記号(+−×÷=)の意味が理解できない。
△
16. くり上がりのあるたし算ができない。
△
△△○
△
(千の位まで)
14. 位どりができない。
○
○
○○○
○
△
△
15. くり下がりのあるひき算ができない。
13. 漢字の,ヘンとツクリを反対に書く。
計
△△○
△○○△
△△○
△
○
△○ ○
8. 判読しにくい乱雑な文字を書く。
9. 促音(きっぷ)や,音(きしゃ)をぬかしたり,まちがえて書く。
△
○ ○○
○△ ○△○△○
6. 接続詞(
「だから」
,
「けれども」など)を適切に使えない。
○△
○○
△△
○○
○△
○△
○△
○△
○ ○○
△ ○○
○○
○○
○ ○○
○ ○○
△○△△ ○○
○○
○○△
○○
5. 作文が苦手である。
○△ ○△
△△ ○△△○○△
○
4. 計算はできるが,文章題ができない。
○ ○○
○△ ○○○○○△△ ○○
○
△○△○ ○○
3. 文章の内容をつかむことが苦手である。
○△ ○△ ○○△
△
○
△
△
△
△
△
△△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△△
△
△△△△
△△
△△△○△
△
△
△
△
△
△
○
△
△
△
○△
○△
△
△
△△△
△△
△△
△
△
△
○○△△ △
△○△△
△△△
△
○
○△
※※
○○○ ※
△
○△
△
△△
※※
※※
※※
※5%水準,※※1%水準
△
△
△△
△
△ ○ △ △ ※※
△
△○
△△○○○
△ △ ○ ○ ※※
△○△△ ※
△ ○ △ ○ ※※
△○○○△ ※
△○○○○
△○○○○ ※
○△○○ ※
○ △ ○ ○ ※※
6 7 8 10 17 20 21 27 31 32 33 34 35 1 2 3 4 5 9 11 12 13 14 15 16 18 19 22 23 24 25 26 28 29 30
2. 教科の出来,不出来が目立つ。
No.
△△ ○△ △○
学習面の調査結果
1. 絵を描くのが苦手である。
表6
國學院短期大学紀要第23巻
学習障害児に関する一考察
表8 心理診断の対象として抽出された事例とそのWISC−R 知能検査一覧
言 語 性
動 作 性
No. VIQ PIQ FIQ 知識 類似 算数 単語 理解
6
135
108
128
18
13
19
14
絵画 絵画 積木 組み
完成 配列 模様 合せ
12
8
13
15
12
符号 dio
鈴木
ビネー
7 V>P 125
7
103
8
72
74
68
3
3
10
8
6
9
6
8
5
10
120
104
115
13
15
12
10
15
13
11
8
7
6 V=P
93
14 V>P 129
17
97
20
93
82
86
12
11
16
5
1
7
5
8
6
13 V>P 100
21
108
114
113
8
14
10
9
15
13
15
11
12
8 V>P 104
27
68
62
59
2
1
3
9
9
8
4
4
6
5 V=P
94
31
71
59
59
8
7
6
3
5
6
6
5
5
3 V>P
91
32
78
85
78
4
7
8
9
6
10
8
6
11
6 V<P
99
33
102
34
65
69
61
4
6
2
5
8
10
10
4
6
1 V=P
91
35
83
96
87
12
7
4
5
10
11
13
10
9
5 V<P 118
ナンバーの空欄は、WISC−Rの検査が出来なかった児童である。
鈴木ビネー検査結果(推定年齢は異なる)が、IQ90∼99までの対象は、WISC-Rで、言語
性、動作性ともに、IQ90台に達しているものはない。
学習障害の疑いありの児童の神経心理学的な所見とその他の調査対象者との関連を見る目
的で表6(表のNo.1から左をA群、右をB群)を作成した。学習障害の疑い有りの13名をA
郡とし、その他22名をB郡とすると、神経学的な異常を予測する所見との関連は、表7とな
る。
表7より、A郡のほうがB郡より異常所見のあるものが有意に多いといえそうである。
鈴木ビネー知能検査において、両群の差はない。但し、測定した年齢が対象によって異な
ることを考慮する必要があるものと考えられる。
ついで、各項目でA郡とB郡の間に差があるといえるかについてx2検定(イェーツの修
正)を行った。その結果5%水準で有意差のあった項目は15,16番目の項目を除く全ての項
目であった。
以上、事例数が少ないこと、何らかの問題を持って相談にきたこともあり、確信したこと
は述べられないが以下のことが推定される。
─ 27 ─
國學院短期大学紀要第23巻
1.行動観察表の日常生活チェック項目に、3段階評価(はい 多少 いいえ)で7∼8割の項
目に「はい」か「多少」にチェックがあれば、学習障害の疑い有りと言えそうである。
2.評価項目に7∼8割にチェックされた対象は、かなりの確率で胎生時、出産時になんら
かの異常所見があると言えそうである。
3.IQ90以上の水準で調査を行った場合、学習障害の疑いの対象とその他の対象とはIQに差
はなかった。
2、対象者の分析
(1)学習面でのA群とB群の比較
A郡とB郡に分け、各項目間でA郡とB郡との間に差があるかどうかの検定(x2検定、イ
ェーツの修正)を行った。
表6において、※印のある項目が5%で、※※が1%水準で有意差があったものである。
その結果、「絵を描くのが苦手である」「教科の出来不出来が目立つ」の2項目を除き、他
は読む、書く、綴るといった国語科に関する項目であり、算数科に関する項目には有意な差
はなかった。
1%水準で有意な差があった項目は、次のようなものであった。
1. 絵を描くのが苦手である。
6.接続詞(
「だから」
、「けれども」など)を適切に使えない。
8.判読しにくい乱雑な文字を書く。
13.漢字のヘンとツクリを反対に書く。
、「に」など)を読み間違える。
18.助詞(「は」、「を」
20.誤った文字を書く(例 お 、 で 、 は 、 つ )
参考までであるが、○印(はい)にチェックされた項目のみで、A郡とB郡の比較をする
と、1%水準で有意な差のあったものは、次のような項目であった。
2. 教科の出来、不出来が目立つ。
5.作文が苦手である。
6.接続詞(「だから」
、「けれども」など)を適切に使えない。
7.文字を抜かしたり、つけ加えたり、取りちがえて読む。
8.判読しにくい、乱雑な文字を書く。
13.漢字のヘンやツクリを反対に書く。
17.演算記号(
+、−、×、÷、= )の意味が理解できない。
、「を」
、「に」など)を読みまちがえる。
18.助詞(「は」
─ 28 ─
学習障害児に関する一考察
20.誤ったかな文字を書く(例 お 、 で 、 は 、 つ )
以上、学習面における分析であるが、事例が少ないのと、学年が1∼4年生にわたり、学
習経験のちがいもあるが、一応の傾向として捕らえることができるであろう。
傾向として、視知覚上の問題、視覚―運動協応の問題、注意の問題、関係、関連づけの問
題などがあるように思われる。
低学年が多いことを考えると、調査時点では、学習の問題のほとんどは言葉の理解上の問
題であることから、当然な結果であろう。今後の予想として、現在は、問題はないにしても
積み上げが必要な算数・数学に、学習の困難が多くなるとも考えられる。
(2)心理検査および医学的診断
質問紙調査表からは以上のような分析となったが、一応、学習障害の疑いありとして、次
のような項目で、心理検査を実施した。
①面接・行動質問紙
②検査による児童の理解
鈴木ビネー知能検査、WISC(WISC−R)知能検査、ITPA(イリノイ式心理
言語能力検査)、フロスティッグ視知覚検査、BGT(ベンダーゲシュタルト検査)、人
物画
③事例史、行動観察、学力調査
④医学診断(嘱託医による)
(3)学習障害の疑いのある事例
紙面の都合があり心理検査を行ったすべての児童の検査結果を記載できないが、学習障害
の疑いのある児童の一覧中の6名(No.34は、前出)についてその結果を記載する。
①事例No.20
(
R.S
)
胎生児(−)、出産時(−)、始歩 13ヶ月、始語 3歳、2歳前後より視線が合わず、積
木・ブロック等ひとり遊びをしていた。幼稚園時代は、注意の集中が短く、また、ルールの
理解に乏しい。課題の絵は描かず、数字とか、課題に関係のないものを描いていた。3歳時
に、左手使用より右手使用に強制された。小学校へ入学した当初は、座っていられないほど
多動であったが現在は落ち着き始めている。尚、医診で、軽い自閉的傾向が疑われるとなっ
ている。
本児は、2歳半頃より「ことばの遅れ」という主訴で、保健所の精神発育相談を受け、こ
─ 29 ─
國學院短期大学紀要第23巻
とばかけ、母親との接触を密にする事など、コミュニケーションや母−子関係についての指
導を受ける。
幼稚園時代に、幼稚園より当教育研究所を紹介され来所している。対人関係のもち方、情
緒の表現の仕方などが偏っている事、協応運動の困難な事が主訴であった。
この時点で、母親へは、子どもの行動を一方的におさえず、受容し、共に遊ぶ方向へ指導、
父親へは、身体活動を通し、運動能力を高めるように話す。幼稚園には、行動の許容範囲を
拡大すると共に気長に、くり返し、働きかけていくことをお願いした。
学校へ入学する時点で「新しい場面では、落ち着きを欠き、多動とか奇異な行動が出現す
ることもあり、無理に落ち着かせようとしたり、過剰に働きかけをすると、不適応行動へと
発展する可能性もあるので、行動は許容的に扱い、長期的展望に立って、学習場面へ適応さ
せていくように」とお願いしたケースである。
図Ⅳ−1∼3までは本児が描いたものである。図Ⅳ−2は図Ⅳ−1を描いた後に描いたも
のであり、木の根が指様になっているのが興味深い。
本児の経過観察及び検査を2週に1回あるいは月に1回程度行い、学校・家庭への助言を
行ってきた。また、学校にあっては、担任へ出来るだけ、個別にかかわりのもてる時間を設
定してもらい、本児の学習過程と指導の効果を観察してもらった。以下は担任より報告され
たものの一部である。
1) 読みの習得に関して:文字を単語、文として読んでいず、切れめがない。内容について質
問すると覚えていない事が多い。読解テストでは、ひとりで問題を読んで理解することが困
難。1対1でついて聞くと、けっこう覚えている。
2) 書く能力に関して:作文では、読みやすい文字を書くが、内容は事柄を時間的な順序で
羅列されていることが多い。毎日、日記を書いており、「∼しました」とか「∼してい
ます」とか「∼します」など時制をふまえた書き方とか「おもしろかった」とか「さび
しいなあ」とか「つまらなかった」など感情表現の文も時々書くようになってきている。
3) 話しことばや単語を理解することに関して:意味のわからない言葉が他児より多く、よ
く「それどういう意味」と質問する。かみくだいて教えているが、結構、時間がかかる。
工作で作り方を説明しても、のみこむのにかなりのくり返しを要し、時間がかかる。
4)自分を「ことば、動作」で表現することに関して:自分の行いを「なぜ」と質問され、
その行いの説明を求められると、ほとんど説明できない。担任が推察し、説明すると、
うなずき、少々説明らしい事を加える。また、話しの途中、他に興味が移ってしまい、
話題からそれてしまう場合がある。
5)身体運動や手指機能に関して:なわとびがスムーズにとべない、粘土で動物の形を作る
─ 30 ─
学習障害児に関する一考察
ことが困難である。
6)計算や算数に関して:数に関しては、かなりの興味を持っており、計算は速い方である。
文章問題は、やや苦手である。
以上、本児は、ことば、文字(単語、文)の意味の理解に関する学習過程、身体・手指運
動に関する学習及び、注意の集中に関して、かなりの困難性を有している子どもといえよう。
②事例No.21
(
U.K
)
胎生児(−)、出産時、帝王切開、過熟児、首のすわり 4ヶ月、始歩 12ヶ月、始語
1歳、乳児期の発達運動は良好であったが、歩行開始後、ころび易いとか協応運動が劣るな
どがみとめられた。
幼稚園時は、注意の集中が短い、初対面の人でもすぐ馴れてしまう。協応動作の困難が認
められた構音の障害があり言語治療学級へ通う。
小学校時、初期は書字不能、記憶は良いが、数の理解が不十分であった。移動を伴う多動
はないが、身体のあちこちを動かし、少しも、動かないでいられない。
学業不振の内容は、算数(計算)と読字で、計算は「2+2」とか「3+3」はできるが
「1+3」とか「1+5」が出来ない。平仮名のひろい読みはできるが、すらすら読んで単語、
文章の意味の理解ができない。しかし、同じ単語、文章でも耳から聞くと、かなりよく理解
する。協応運動が困難で、なわとび、自転車のりが苦手である。
家庭で、運動・計算・読字・読解の学習を、タイル、カード、ボール、自転車などを使っ
て、毎日欠かさず学習を続けた。また、家庭教師による指導、学校での個別指導も行われた。
図Ⅴ−1、図Ⅴ−2は本児が描いたものである。ベンダーゲシュタルト検査で、枠は必要
ないことを述べるが、その意味がわからず、おしまいまで枠をつける。
WISC-R、VIQ108、PIQ114、FIQ113であり、知識、単語、数唱、符号が平均的評価点以下
であった。
No.20のケースと同様、学校へ観察指導を依頼したケースであるので以下担任の報告を概
略し記述する。
1)読み書きの習得に関して:一字一字のたどり読みが多かったが、読みの練習を、くり返
し練習することで、かなり改善されてきている。
2)書く能力に関して:助詞の「 を 」と「 お 」のまちがい。促音、拗音の書きまちがいな
どが多少残っているが、「き」→「 き 」、「ま」→「ま 」といったまちがいはなくなった。
ノートの文字も正しく書けるようになってきた。
3)話しことば、単語を理解する能力に関して:相手にわかる話し方をする。
─ 31 ─
國學院短期大学紀要第23巻
4)自分を表現することに関して:問題は特にないようである。
5)身体運動や手指機能に関して:走ったり、ボールを投げたりすることがやや劣る。
6)計算に関して:初期よりは、とても進歩した。計算ばかりでなく、算数的思考について
もよくなってきている。
本児は、書字、読字、読解及び計算において困難を有する子どもであったが、聴覚言語の
理解が比較的よく、前者の問題も後者の機能により改善されていったものと思われる。
事例No.20.21の諸検査
事例No.20
図Ⅳ−1 人物画
図Ⅳ−2 バウム検査
図Ⅳ−3 BGテスト
事例No.21
図Ⅴ−1 人物画
図Ⅴ−2 BGテスト
─ 32 ─
学習障害児に関する一考察
7、研究のまとめと今後の課題
学業不振を窓口にして、学習障害について、文献を検索し 調査研究の糸口とした。実際
の研究は、上野一彦氏(東京学芸大学教授)の学習障害スクリーニングのための行動質問紙
で、通常の学級に在籍する学業不振・不適応の児童を抽出し、心理的検査等を行い、学習障
害児の発見と指導を試みた。その結果、13名の対象児が選ばれ、そのうち事例研究として、
5名の子どもを対象とし、家庭−学校−教育相談室との三者のかかわりで経過を観察した。
WISC-R知能検査で、言語性、動作性のいずれかでIQ90をこえていない対象児は学習の改
善は困難であった。IQ90以上の子どもで、言語性V>P動作性の子どもはかなりよく改善さ
れた。但し、学校での個別指導、家庭での学習が継続してなされていた。
また、学習上に偏り(教科で)よりも、社会的認知とか情緒の発達に未成熟な児童が問題
となる場合もあった。
低学年での学習困難に対する改善は良好であったが、中学生以上になると困難な場合が多
い。
今後の課題としては、対象を拡大(WISC-RでIQ80以上)し、早期発見と早期の治療教育
をどのようなシステムと場で行えるかの検討が必要であろう。
少なくとも、就学前に発見し、小学校低学年(2年)までに、学習困難、適応困難上の問
題を発見し、継続して対応できる対策が必要であると考えている。
発達障害児を包み込む特別支援教育は今始まったばかりである。学習障害の理解、指導方
法等の研究は、古くて新しい教育の課題である。従って、教員になろうとするものの、挑戦
的な課題ともなろう。
引用文献・参考文献
(1)北尾倫彦 学業不振児の原因と診断 P10,11 明治図書 1981年
(2)松原達也 心理臨床大事典 改訂版 培風館 2004年
(3)Gesell.A 新井清三郎訳 新発達診断学 日本小児医事出版 1970年
(4)田中敏隆 図形認知の発達心理学 講談社 1976年
(5)上野一彦 学習障害に対する心理学的アプローチ 発達障害研究 日本文化科学社
(6)文部科学省 今後の特別支援教育の在り方について(最終報告) 特別支援教育のあり方に関する研究協力者
会議 2003年
(7)上村菊朗、上野一彦他 「学習障害」 こころの科学 日本評論社 1992年
(8)山中康裕 ADHDの問題点と疑問 臨床心理学 P626 9月 金剛出版 2002年
(9)W.H.クリュクシャンク 伊藤隆二訳 学習障害児の心理と教育 誠信書房 1981年
(10)S.ファーナムディゴリィ 上野一彦訳 学習障害 サイエンス社 1982年
(11)鈴木昌樹 微細脳障害 川島書店 1980年
(12)伊藤隆二 学習障害の基本概念について 発達障害研究 3巻2号 日本文化科学社 1981年
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國學院短期大学紀要第23巻
(13)ナンシー.M.ロビンソン他 伊藤隆二訳 精神遅滞児の心理学 日本文化科学社 1981年
(14)平井信義 乳幼児期の精神衛生 新曜社 1982年
(15)上村菊朗、森永良子 小児のMBD 医歯業出版 1980年
(16)牧田清志 学業不振と学習障害 上出弘之、伊藤隆二編 学習不振の子ども 1980年
(17)N.Mクリュクシャンク 伊藤隆二、中野善達訳 学習障害児の心理と教育 誠信書房 1978年
(18)H.Rマイクロバスト 森永良子、上村菊朗共訳 学習能力の障害 日本文化科学社 1972年
(19)上野一彦 発達障害研究 vol3 no2 日本文化科学社 1981年
(20)上村菊朗 神経系 児童心理学の進歩 金子書房 1980年
(21)A.ルリヤ 天野清訳 現代の心理学 文一総合出版 1980年
(22)本城秀次編 就学相談と特別支援教育 こころの科学 124 日本評論社 2005年
(23)中根晃 ADHDハンドブック 金剛出版 2001年
(24)杉山登志郎、辻井正次編著 高機能広汎性発達障害 ブレーン社 1999年
(25)杉山登志郎、辻井正次編著 齋藤久子監修 学習障害 ブレーン社 2003年
(26)独立行政法人国立特殊教育総合研究所 LD.ADHD.高機能自閉症の子どもの指導ガイドブック 東洋館
出版社 2005年
(27)発達障害者支援法ガイドブック 河出書房新社 2005年
あ と が き
学習障害という、まだ、学校教育のもとでは、なじみのない対象を研究の対象としてきた
が、知的な能力が正常範囲にありながら、身体的理由
(中枢神経の障害)
によって学業不振とか、
学習不適応あるいは社会的な不適応になっている子どもが存在することが明確になった。
これらの子どもたちの指導は、かなり集中した個別指導が必要であり、そのことによって
かなり改善されることがわかった。
この研究を始めるに当たって、学習障害のスクリーニングのための行動質問紙の使用と使
用上の助言を下さり、快く使用の許可を下さった東京学芸大学の上野一彦先生に、感謝を申
し上げます。それによってこの研究が始められたことに、心からお礼を申し上げます。
また、当研究に協力をいただいた先生方、児童、保護者の方々、研究協力員として、多忙
な時間をさいて記録、資料提供にかつご指導をいただいた先生方に深く感謝申しあげます。
昭和56年3月
この研究の見直しを許可された、札幌市教育研究所にお礼申し上げます。見直してみると、
いろいろな部分で学習の不足、説明が不十分であったり、資料不足であることが目立つもの
でした。しかし、文部科学省の実態調査から今なお対象とした状態の児童・生徒は通常の学
級に在籍し、理解を求め、援助を求めている者が多く、今後とも適切な対応が望まれる。
平成17年12月28日
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