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医師不足について - 尾道市立市民病院

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医師不足について - 尾道市立市民病院
医師不足について
このたび HP(ホームページ)に「院長室便り」というコーナーを作っていただくことに
しました。普段患者さんたちに接する中で、尾道市立市民病院に関し色々報道されたり、
実情と違う噂が広がったりして一般市民の皆様に誤解されたり不安を感じさせているとい
うことが分かっていましたので、何とか病院の実情を広報できないかと以前より考えてい
ました。某市民病院の HP に「院長室より」というコーナーがあり、そこへ院長が随想的
に病院のことを中心に記載されているのを見まして、“これだ”と思いました。市民病院は
市民の皆様のための病院です。医師不足の科もありますが、この地域の医療を支えるため
職員は日夜頑張っています。このコーナーには市民の皆様に今の医療の現状と病院の実情
が分かっていただけるよう、できるだけ分かりやすく書いて行きます。市民の皆様にはこ
れを読んで市民病院の事をご理解いただき、病院を応援していただければ頑張っている職
員たちの励みになると思います。よろしくお願い申し上げます。
当院の医師不足が喧伝されているようです。ご存じのように医師不足は当院だけでは無
く全国的な問題となっており、特に中山間地域の病院や当院のような地方の自治体病院の
医療活動に深刻な影響を与えています。医師不足は絶対数の不足、地域による偏在、科に
よる偏在などが原因とされ、泥縄式に医学部定員の増加などの改善策が実行されています
が、簡単に解決できる問題では無いようです。当院では内科系医師や麻酔科医などが不足
していますが、少ない医師数ながら患者さんに迷惑をかけることがないよう、市民病院と
しての役割を果たせるよう皆使命感を持って頑張ってくれています。
医師不足が続く事の問題は、医師が少ない人数で必要な業務をこなさなければならない
ため(医療ですから手抜きはできません)過重負担から疲弊して行くことです。その結果、
もっと人間らしい生活を求めて病院を辞めてゆく医師が出てくるということになります。
使命感だけではいつまでも持ちません。この医師不足の時代、勤める病院はいくらでもあ
ります。もっと楽な病院を探して求めて辞めて行くことは一時「立ち去り型サボタージュ」
の言葉で呼ばれたこともあります。一人辞めると残った医師にさらに負担がかかりまた辞
めるという悪循環になります。こういう負のスパイラルに入ると病院は診療を縮小せざる
を得ず地域医療に悪影響を与えます。現在当院はまだそこまでは到っていませんが、一つ
間違うとかなり厳しい状況になる可能性もあります。
医師不足が生じたもっとも大きな原因は平成 16 年に新臨床研修制度が開始されたことで
す。それまでは医学部の卒業生はかなりの部分が卒業の時、専門科を決めて大学に入局(医
局に入ること、大学のそれぞれの診療科に籍を置くこと)し、入局した医師達は大学から
地域の病院に臨床研修のため派遣されていました。当院もそれまでは岡山大学の各科から
研修医を採ってくれと依頼され沢山の研修医を受け入れていたものです。しかし新臨床研
修制度が始まり、卒後 2 年間臨床研修病院で研修することになり、その間は専門科が決め
られないため 2 年間大学の医局に入る人が皆無となりました。そのためその間、大学から
若い先生を地方の病院に派遣することができなくなりました。また 2 年間の臨床研修が済
んだ医師も医局制度に対する疑問もあり、大学に入局しなくなり臨床研修で人気のあった
大都市の研修病院などにそのまま居着いてしまう事が多くなりました。大学は診療、教育、
研究の三役をこなさなければならないので人が要ります。大学も人員不足になり、やむな
くその不足分を補うため地方の病院から医師を引き上げるという方法を採らざるを得なく
なりました。そういう風にして地方の病院から医師が減って行きこういう状態になったの
です。
新臨床研修制度が始まり、医師を確保するためにはまず研修医からということで、どの
臨床研修病院も研修医獲得のため努力を続けています。当院ももちろん臨床研修医を集め
るべくあらゆる努力を続けておりますが苦戦しております。研修医の都会志向やブランド
病院志向のためか(これは大学受験と同じような感覚があるのだと思います)、地方の中規
模臨床研修病院にはあまり人が集まりません。問題は大都市のブランド病院などに集中し
た研修医がそのまま居着いて地方になかなか帰ってこないことです。大学の臨床研修医も
大幅に減りそのため大学に所属する医師も減りました。大学の医師が増えなければ大学か
ら外の病院に医師は派遣できません。逆に大学から外の病院の臨床研修医を大学に帰すよ
う頼まれるような状況です。われわれのような地方の中規模病院がどのようにして研修医
を集めることができるのかは大きな課題です。臨床研修制度についてはまた稿を改めて書
く予定です。
今まで述べましたように新臨床研修制度が始まる前は地方の病院も大学から必要なだけ
の医師の派遣を受け、地域医療も成り立っていたのです。院長も医師確保にさほど労力を
使わなくても良い時代でした。当院は岡山大学の関連病院ですのでほとんどの医師は岡大
から派遣されています。従って、たとえ派遣力が低下しているにしても岡山大学との良好
な関係を保つことは医師確保の基本です。私も岡山大学から当院に派遣されてきた人間で
す。医師を派遣してくれている岡山大学の各科の教授を定期的に訪問し情報交換すること
は必須の仕事です。また私は岡山大学関連病院長会議の理事にも任命していただいており、
定期的な会議が持たれたときにも病院の実情を訴えています。医師確保のため開設者であ
る市長にも何回も岡山大学に行っていただきました。私と一緒のこともあり単独で行かれ
る事もあります。市長には岡山大学の学長を始め、病院長、研究科長など執行部の教授た
ちと良好な関係を築いていただいております。そいう努力を継続していますが、大学も医
師を派遣したくても駒が無いし、また医局が本人の意思を無視して赴任させることはでき
ない時代になったということも影響を与えていると思います。
医師を確保するため川崎医科大学や広島大学にも何回も行きました。しかしどの大学も
医師不足に喘いでおり、いつも当院まで医師を派遣する余裕はないとの返事で思うような
結果が出せていません。また HP でも募集をかけています。少数ですがそれを見て来てく
れた先生もいます。また人材派遣会社も利用しています。医師の斡旋をすることで営利を
得るこういう会社ができること自体、医療行政の貧困を如実に示しているものだと思いま
すが背に腹は代えられません。学生への臨床研修説明会もこういう会社が主催し、参加す
るためには病院が会社にお金を払わねばなりません。日本全国どの地域でも公平に提供さ
れるべき医療が、こういう営利会社の力を借りなければ成り立たないということは本当に
残念なことです。また広島県でも地域保健医療推進機構という組織で医師確保に取り組ん
でいただいていますが、今のところ当院への派遣は成功していません。
それ以外に医師を確保する手段は無いのでしょうか。私が最近とみに思うことは、この
地域から医学部に行き医師になっている人が沢山いるにもかかわらず、地域に帰ってきて
故郷の人たちのために頑張ろうという医師が少ないように思えます。前述しましたように
大都市のブランド病院に就職しそのまま居着いている人も多いと思います。そろそろ大都
市に出て行った先生方が地域に戻ってくるのではないかという議論は前からありました。
そういう兆しは少しあるようにも思えます。市民の皆様には、この地域から生んだ医師の
人たちに地域に帰って故郷の医療のために活躍して欲しい、できれば尾道市立市民病院ま
たは公立みつぎ総合病院に帰って来て欲しいと伝えていただきたいのです。いつでも病院
はウェルカムです。また医学部を卒業する学生にも地元の病院で研修を受けることを勧め
ていただきたいのです。決して失望するような研修はさせません。市民の皆様のそうした
応援が少数精鋭で頑張っている病院の医師たちや職員に力を与えることと思います。どう
かよろしくお願い致します。
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