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マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 中 野 香 織

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マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 中 野 香 織
( 225 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 139
〈論 説〉
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響
中 野 香 織
1.はじめに
近年、広告の実務において、インターネットを中心に複数のメディアを用い
るクロスメディアという手法が多く用いられている。クロスメディアとは、
「複
数のメディアを使い、相互作用をねらうこと」と定義され、メディア間の「相
乗効果を高めるという意味で使われることが多い」
(日経広告研究所2005)。ま
た、従来から行われてきたメディアミックスは、リーチを最大にするためのメ
ディアの組み合わせという意味合いが強く、その点がクロスメディアとの違い
だという。クロスメディアでは、各メディアの特性を活かして複数のメディア
を使い分けている。
日経広告研究所(2007)では、広告主を対象に、クロスメディアへの取り組
みを質問している。調査対象の256社の多くが、マスメディアから自社のウェ
ブサイトへ誘導したいと考えているという(篠田2007)。実際、テレビCMや
新聞広告において、インターネットでの検索キーワードを提示するダイレクト
レスポンス型の広告表現をよく見かける。
広告業界で話題となった「マルチメディア2.0」の著者Leberrechtも、自社
ウェブサイトへの誘導の重要性を示している。Leberrecht(2009)は、メデ
ィアをPaid Media(買うメディア)
、Owned Media(所有するメディア)
、
140 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 226 )
Earned Media(信頼や評判を得るメディア)の3つに分類している。この分
類をもとに再整理した横山(2010)によれば、Paid Mediaはマス広告や検索
連動型広告など、ブランドが購入可能なメディアであり、Owned Mediaは自
社のブランドサイトや商品パッケージなど、ブランド自ら所有するメディアで
あり、Earned Mediaは消費者による掲示板への投稿やマスコミ報道など、消
費者をはじめとする第三者が情報発信するメディアのことである。そして、こ
れらのメディアの有機的な連携が重要だと言う。
各メディアの役割は、Paid Mediaが認知を獲得してOwned Mediaへ見込み
客を誘導するもしくはEarned Mediaを創り出すこと、Owned Mediaが深いコ
ミュニケーションによって顧客との関係構築やロイヤルティ強化を行うこと、
そして、Earned Mediaが第三者からの推奨によって信頼性を構築し、評判を
広めることである。このように、実務においてはマスメディアで認知させ、自
社ウェブサイトへ誘導するような、メディアの使い分けが多く行われている。
一方、クロスメディアに関する研究をみると、複数メディアの相乗効果が議
論されている。それらの研究では、複数メディア接触時と単一メディア接触時
を比較することで、消費者反応の違いを明らかにしている。しかし、メディア
Aによって誘導された際のメディアBに対する反応を扱った研究は見られない
(例えば、マス広告によって誘導された際のウェブサイトに対する反応)
。加え
て、行動的変数が扱われていない。
そこで、本研究ではマス広告によってウェブサイトへ誘導した場合の消費者
の反応に着目する。ウェブサイト訪問前にマス広告に接触した場合と接触しな
かった場合では、ウェブサイト上の閲覧行動やウェブサイトへの態度がどのよ
うに異なるのかを明らかにする。言い換えれば、本研究の目的は、事前のマス
広告接触とウェブサイト上の閲覧行動との関係を明らかにすることである。
2.複数メディア間の相乗効果に関する先行研究
クロスメディアに関して、1990年代以降、複数メディアによる相乗効果が生
じるかを明らかにする研究が行われている。1990年代には複数のマス広告間の
( 227 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 141
相乗効果を、2000年代以降はマス広告とインターネット広告との間の相乗効果
を対象とするものが多い。
まず、複数のマス広告間の相乗効果について実験を行った研究には、Edell
and Keller(1989;1999)、Confer and McGlathery(1991)、Confer(1992)
などがある。それらの研究では、複数メディアによる広告を提示するグループ
と単一メディアによる広告を提示するグループに分け、広告提示後にブランド
名の想起、広告態度、ブランド態度、ブランド連想、購買意図などを質問し、
グループ間の差を見ている。
被験者への広告提示は、普段の生活における自然な広告接触形態と近い形に
なるよう工夫されている。具体的には、広告の調査が目的だと告知せず、調査
用に制作したダミーの新聞やテレビ番組などに広告を挿入している。複数メデ
ィアによる広告グループに対するメディアの提示順は、順序効果が考慮されて
いる場合もある。
実験の結果、複数メディア接触時の方が単一メディア接触時よりも高い広告
効果が得られた場合もあれば、低い場合もあった。高い広告効果が見られた項
目は、広告態度、ブランド態度、購買意図、競合イメージであった。
続いて、マス広告とインターネット広告間の相乗効果について実験を行った
研究には、Dijkstra, Buijtels, and Raaij(2005)
、Chang and Thorson(2004)、
井上(2007a;2007b)などがある。これらの先行研究における実験方法は、
前述のマス広告間の相乗効果に関する研究と同様である。メディア提示後に質
問している項目は、メッセージや広告の信頼性、ブランド評価、ブランド態度、
購買意図などである。
Dijkstra, Buijtels, and Raaij(2005)は、テレビCM、印刷広告、インターネ
ット広告を用いて、認知的反応、情緒的反応、動能的反応を測定している。実
験の結果、認知的反応のうち広告再生について、複数メディアの提示グループ
と、単一メディアの提示グループの間で差がみられた。インターネット広告の
みを提示した場合は、
複数メディアを提示した場合よりも低い再生であったが、
テレビCMのみを提示した場合は、複数メディアを提示した場合よりも高い再
142 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 228 )
生であった。情緒的反応と動能的反応については、複数メディア提示と単一メ
ディア提示間で有意差はなかった。
Chang and Thorson(2004)は、テレビCMとインターネット広告を用いて、
広告態度、ブランド態度、購買意図などを測定し、複数メディア提示と単一メ
ディア提示の場合における情報処理モデルの違いを明らかにしている。実験の
結果、複数メディア提示の方が単一メディア提示よりも高い結果が得られたの
は、注意をひきつける力、ブランドへの総合評価、メッセージの信頼性、ブラ
ンドへの肯定的評価であった。情報処理モデルについても、複数メディア提示
と単一メディア提示の場合で差がみられた。複数メディア提示の場合は精緻化
見込みモデルの中心的ルートを経由して、単一メディア提示の場合は周辺的ル
ートを経由して、ブランド態度が形成されていることがわかった。
井上(2007a;2007b)は、メディアの特性を考慮した有機的結合から生じ
るソサイアタル性(1)と共感によって、消費者の知識構造化が促進されること
を明らかにしている。テレビCM、新聞広告、インターネット広告、店頭広告
の4メディアを用い、各メディアの組み合わせを9通りに絞り、メディア接触
の前後における消費者の知識構造の変化を測定した。実験の結果、テレビCM
と店頭広告はそれぞれ単一メディアのみでは知識構造化に影響を与えないが、
新聞広告を組み合わせた場合、テレビCMもしくは店頭広告に対する知識構造
化が促されることが明らかになった。
なお、複数メディア間の相乗効果が生じるメカニズムについて言及した研究
は少ない。Stammerjohan et al.(2005)は、
「符号化変動性仮説」
、
「バラエテ
ィのある反復効果」、
「選択的注意」
、
「情報源の信憑性」を、相乗効果のメカニ
ズムとして指摘しているが、実証はしていない。
これらの先行研究から得られた知見は主に二点である。①単一メディア提示
の場合と複数メディア提示の場合では、ブランドへの評価や情報処理プロセス
などが異なる結果が多い。ただし、先行研究によって異なる結果が示されてい
る。②実験では、広告だけを提示するのではなく、ダミーの新聞やウェブサイ
トなどを作成して広告を挿入し、可能な限り自然な環境で提示する手法を用いる。
( 229 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 143
一方、先行研究における課題は主に三点である。①消費者の反応として、ブ
ランド態度や購買意図などの心理的変数が扱われる一方、行動的変数を扱う研
究が少ない。特にクロスメディアでは、あるメディアからウェブサイトへ誘導
することが多いものの、誘導後の消費者の行動は注目されていない。
②井上(2007a;2007b)以外に、メディア特性の違いが考慮された研究が見
られない。先行研究では複数メディアを消費者に提示した後に、広告態度や購
買意図などの消費者反応を測定しているが、
メディア特性に応じた提示順序や、
メディア特性に沿った質問は行われていない。なお、
井上(2007a;2007b)では、
メディア特性を変数として分析に取り入れている。
③再生や広告態度などの「一時点」を単一メディアと比較した研究は多いも
のの、広告刺激から消費者の反応にいたる情報処理の「プロセス」を明らかに
した研究が少ない。Chang and Thorson(2004)や井上(2007a;2007b)など
が取り組んでいるが、相乗効果がどのように生じるかを把握するには一層の研
究が必要である。
3.仮説導出
先行研究における課題から、本研究では、行動的変数とメディア特性の視点
を取り入れたい。実務で用いられることが多いパターンである、マス広告で認
知を獲得し、ウェブサイトで詳細な情報を提供するという、メディアの使い方
に注目する。さらに、消費者がマス広告接触後にウェブサイトを閲覧する際の
ウェブサイトに対する反応、特に閲覧行動に焦点をあてたい。
先行研究による知見から、複数メディア接触時と単一メディア接触時では、
広告態度やブランド態度が異なることが多い。このことは、マス広告からウェ
ブサイトへと消費者を誘導した状況においても同様の結果をもたらすのではな
いだろうか。すなわち、事前にマス広告を見てからウェブサイトを閲覧する場
合は、先行研究における複数メディア接触時と同様の結果が得られるだろう。
一方、事前にマス広告を見ずにウェブサイトのみを閲覧する場合は、先行研究
における単一メディア接触時と同様の結果が得られるだろう。
144 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 230 )
そこで、本研究では、Wang(2006)を参考にして、ウェブサイトへの態度を、
ウェブサイトへの態度、メッセージ態度、メッセージの信頼性に分けた上で、
以下の仮説を設定する。
仮説1a 事前にマス広告に接した場合と、接していない場合では、その後に
閲覧したウェブサイトへの態度に差がある。
仮説1b 事前に接した広告メディアの違いによって、その後に閲覧したウェ
ブサイトへの態度に差がある。
仮説2a 事前にマス広告に接した場合と、接していない場合では、その後に
閲覧したウェブサイトのメッセージ態度に差がある。
仮説2b 事前に接した広告メディアの違いによって、その後に閲覧したウェ
ブサイトのメッセージ態度に差がある。
仮説3a 事前にマス広告に接した場合と、接していない場合では、その後に
閲覧したウェブサイトのメッセージの信頼性に差がある。
仮説3b 事前に接した広告メディアの違いによって、その後に閲覧したウェ
ブサイトのメッセージの信頼性に差がある。
複数メディア提示と単一メディア提示の場合における消費者の態度変容が異
なる理由として、前述の通りStammerjohan et al.(2005)は4つの理論を仮説
として提示している。しかし、ウェブサイトの場合はそれらの理由に加え、消
費者がウェブサイトで何を見たのか、つまり閲覧行動の違いによって、態度変
容が生じる可能性もある。
先行研究ではこうした行動を測定した研究は少ない。
そこで、以下の仮説を設定する。
仮説4a 事前にマス広告に接した場合と、接していない場合では、その後の
ウェブサイト閲覧行動に差がある。
( 231 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 145
仮説4b 事前に接した広告メディアの違いによって、その後のウェブサイト
閲覧行動に差がある。
複数メディアの相乗効果に関する先行研究では、広告への印象を扱ったもの
はなかった。しかし、複数メディア提示と単一メディア提示で広告態度が異な
るのであれば、広告への印象も同様に異なるだろう。そこで、以下の仮説を設
定する。
仮説5a 事前にマス広告に接した場合と、接していない場合では、その後に
閲覧したウェブサイトへの印象に差がある。
仮説5b 事前に接した広告メディアの違いによって、その後に閲覧したウェ
ブサイトへの印象に差がある。
4.実験
4−1.実験計画
ウェブサイト閲覧前にマス広告に接触するグループと、ウェブサイトのみを
閲覧するグループを設定し、ウェブサイトへの態度やウェブサイト上の行動を
比較する。具体的には、事前にマス広告に接触するグループとして、テレビ
CM提示後にウェブサイトを閲覧させるCM群と、印刷広告提示後にウェブサ
イトを閲覧させるPrint-ad群を設定した。さらに、事前にマス広告に接触せず、
ウェブサイトのみを閲覧させるグループとして、Web群を設定した(図1)
。
図1 実験の対象群
【CM群】
【Print-ad群】
【Web群】
テレビCMの提示
印刷広告の提示
提示なし
ウェブサイトの閲覧
146 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 232 )
上記の3グループを対象に、2008年2月にインターネット調査を行った。
4−2.広告素材
調査用の広告素材として、関西地方限定で広告が行われている焼酎ブランド
Aを選択した。被験者が既知のブランドや広告接触経験のあるブランドでは、
事前知識によるバイアスが生じるため、広告やウェブサイトという刺激によっ
て被験者の態度がどの程度変化したのかを正確に把握することができない。そ
こで本研究では、被験者を関東地方在住者とし、これらの被験者に知られてい
ないブランドと広告を用いることにした。
広告素材の具体的な選択手順を以下で説明する。まず、2007年の1年間に関
東地方で放映されていない関西地方限定のテレビCMを4365件抽出した(2)。次
に、その中から企業広告、音楽やゲームソフトなどのコンテンツを訴求対象と
した広告、関西でしか購入できない商品・サービスの広告、女性や子供のみを
訴求対象とした広告、
調査時期と季節が異なる商品・サービスの広告を除外した。
その中からさらに、携帯電話、自動車、飲料・菓子など全国的に知名度が高
いと判断できるブランドを除外した。それらの中から15秒テレビCMのみを抽
出し、関東地方在住の男子学生の被験者2名にブランド認知のプリテストを行
い、知られていなかったブランドを選択した。続いて、それらのブランドのウ
ェブサイト内容を確認し、一定レベルの情報が掲載されているブランドを選択
した。最終的に8本のテレビCMに絞り込み、内容を確認した。その中で表現
のクオリティが高く、被験者の広告態度やブランド態度を向上させられる可能
性のあるテレビCMとして焼酎ブランドAを選択した。また印刷広告について
は、当該ブランドのテレビCMの一場面を表現した広告を用いた。
4−3.被験者
被験者は、前述の通り関東地方在住者とした。調査素材である焼酎に比較的
関与の高い年代である30代男女を選択した(3)。株式会社マクロミルのインタ
ーネットモニターである30代男女を対象に事前調査を行い、半年以内に焼酎を
( 233 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 147
飲んだことのある人を抽出した。焼酎を全く飲まない人を対象にすると、広告
やブランドについて「どちらでもない」という答えが多くなることが予想され
るためである。
最終的に各グループ206名、合計3グループ618名を被験者とした。各グルー
プ内の割付は男性103名、女性103名である。さらに618名のうち、当該ブラン
ドを認知している者、飲用経験者、広告やウェブサイトの接触経験者である
147名を除外し、
「全く知らない」と答えた471名に絞った。そのうち、被験者の
自由回答の内容を確認し、指定したウェブサイトを指示どおり見ていないと判
断できる者、および調査対象ブランドを間違えて回答している者として51名(4)
を除外し、最終的に420名を対象に分析した。グループごとの内訳は、CM群
に131名、Print-ad群に150名、Web群に139名である。
4−4.実験手順
先行研究では、ダミーのテレビ番組や雑誌を制作し、それらの中で広告を提
示する手法を採用していた。具体的には、テレビCMはテレビ番組の間に放映
し、印刷広告は記事が掲載された新聞や雑誌に挿入するという形である。その
理由は、被験者に広告だけに着目させるのではなく、できるだけ普段の生活と
同じような環境で広告を見せるためであった。しかし本研究では、金銭面と技
術面の限界からダミーのテレビ番組や雑誌を制作せず、広告のみを提示する方
法を採用した。
最初に、CM群には15秒CMを2回提示し、Print-ad群には印刷広告を2種類
提示した。実際の生活においては、テレビCMを1回だけではなく複数回見る
ことが多い。したがって、
調査ではテレビCMを2回繰り返して提示した。一方、
印刷広告は2種類の表現を提示した。
これより後はCM群、Print-ad群、Web群とも同じ手順で行った。指定した
ウェブサイトを5分間見るよう被験者に指示し、当該ブランドと商品カテゴリ
ーに関するページを自由に見るように説明した。5分間という閲覧時間は、男
子学生被験者2名に制限時間を設けずに当該ブランドのウェブサイトを見せて
148 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
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閲覧時間を測定したプリテストの結果に加え、インターネット調査のモニター
が大きな負担だと感じない時間というバランスを考慮して設定した。
ウェブサイト閲覧後、ウェブサイトに対する態度やウェブサイト閲覧行動な
どについて質問を行った。
4−5.測定尺度
(1)ウェブサイトに対する態度、メッセージ態度、メッセージの信頼性
「ウェブサイトをご覧になって、どのように感じたか教えてください」と質
問し、ウェブサイトに対する態度、メッセージ態度、メッセージの信頼性につ
いて5段階尺度で測定した。
ウェブサイトへの態度は浅川(2008)の尺度を参考にした。5項目のうち3
項目を採用し、「見た感じに好感が持てる」「魅力的である」「共感できる」の
3項目で測定を行った。「動きの感じがよい」という項目は、ウェブサイトの
内容に合わないため、
採用しなかった。もう一つの不採用項目「信頼感がある」
は、本研究ではメッセージの信頼性を測定する項目に変更した。
メッセージ態度は、Wang(2006)を参考にして「興味がわいた」
「思わず注
目した」「楽しい」の3項目で測定を行った。
メッセージの信頼性は、Chang and Thorson(2004)とWang(2006)を参
考にして「信頼できる」
「情報が詳しい」
「自分にとって価値のある情報だ」の
3項目で測定を行った。
(2)ウェブサイトの閲覧行動
被験者にウェブサイトを提示後、「ウェブサイトでは何をご覧になりました
か。ウェブサイトで見た内容について、覚えていることを何でも自由に書いて
ください。」と質問した。自由回答を記入する欄を画面上に10個提示し、被験
者は必ず1個以上記入しないと次の質問に進めないように設定した。
自由回答に加え、選択肢形式の質問も行った。
「ウェブサイトでは、どのコ
ーナーやページを見たかを教えてください」と質問し、複数回答をさせた。選
( 235 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 149
択肢はブランドのウェブサイトのトップページから移動できるページを全て挙
げ、さらにリンクが張られているプロモーションサイトの内容も挙げた(5)。
(3)ウェブサイトの印象
「ウェブサイトについてどんなイメージを持ちましたか」と被験者に質問し、
5段階尺度で測定した。測定尺度は浅川(2008)による広告表現の視聴印象の
項目を採用した。浅川(2008)では、佐々木・浅川(2000)をもとに、広告表
現の視聴印象の測定項目を設定している。
質問項目は「説明が十分である」
「メッセージがはっきりしている」
「色彩が
明るい」
「意外性がある」
「インパクトが強い」
「温かい感じがする」
「自然な感
じがする」
「静かな感じがする」
「洗練されている」
「高級感がある」
「面白い」
「新
鮮な感じがする」
「色彩が印象に残る」
「元気がある」
「わかりやすい」「親しみ
がある」「説得力がある」
「ユニークである」
「健康なイメージ」「活力のあるイ
メージ」の20項目とした。
5.調査結果
5−1.ウェブサイトに対する態度、メッセージ態度、メッセージの信頼性
被験者のウェブサイトに対する態度は、ウェブサイト閲覧前のマス広告接触
によって異なるのかどうかを検証する。ウェブサイトに対する態度、メッセー
ジ態度、メッセージの信頼性について、CM群、Print-ad群、およびWeb群の
間で差があるかどうかを分析する。
ウェブサイト態度、メッセージ態度、メッセージの信頼性は、それぞれ3項
目の質問によって測定しているため、主成分分析を行って尺度ごとに項目を合
成した。
ウェブサイト態度は「見た感じに好感が持てる」
「魅力的である」「共感でき
る」の項目について主成分分析を行い、主成分得点を算出した。第一主成分の
寄与率は83.81である。
メッセージ態度は、「興味がわいた」「思わず注目した」「楽しい」の項目につ
150 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 236 )
いて主成分分析を行い、主成分得点を算出した。第一主成分の寄与率は77.29
である。
メッセージの信頼性は、「信頼できる」「情報が詳しい」「自分にとって価値
のある情報だ」の項目について主成分分析を行い、主成分得点を算出した。第
一主成分の寄与率は70.08である。
上記で算出した主成分得点を使って3グループを比較し、一元配置の分散分
析を行った。分析の結果、ウェブサイト態度(F
(2,417)=4.49, p<.05)とメッ
セージ態度(F
(2,417)=4.16, p<.05)について5%水準で有意な差がみられた。
差のあった変数について、どのグループ間に差があるかをみるため、Tukey
HSD法を用いて多重比較を行った。ウェブサイト態度ではCM群とPrint-ad群
の間で有意な差がみられ、CM群よりもPrint-ad群の方が高かった(p<.01)。
メッセージ態度ではCM群とPrint-ad群の間(p<.05)
、Print-ad群とWeb群の間
(p<.05)で有意な差があり、Print-ad群のメッセージ態度が他のグループより
も高かった。
以上の結果をまとめると、ウェブサイト態度についてはPrint-ad群の方が
CM群よりも高く、メッセージ態度については、Print-ad群の方がCM群とWeb
群よりも高いことがわかった。ただし、メッセージの信頼性では有意差がみら
れなかった。そのため、仮説1aは棄却、仮説1bは支持された。仮説2aは一
部支持、仮説2bは支持された。仮説3は棄却された。
5−2.ウェブサイトの閲覧行動
被験者のウェブサイトの閲覧行動は、ウェブサイト閲覧前のマス広告接触に
よって異なるのかどうかを検証する。ウェブサイトで見た内容について、CM
群、Print-ad群、およびWeb群の間で差があるかどうかを分析する。
まず、ウェブサイトでは何を見たかという自由回答の質問は、回答記入欄を
10個準備しているため、被験者が回答を記入した欄の数を比較した。ただし、
「特になし」「わからない」「覚えていない」といった回答はゼロとした。各グ
ループの平均は、CM群は3.43個、Print-ad群は3.41個、Web群は3.78個と、ウ
( 237 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 151
ェブサイトの前に広告を見ていない被験者のほうが多い傾向がみられた。しか
し、一元配置の分散分析を行った結果、統計的に有意な差はみられなかった(F
(2,417)
=1.56, p> .05)
。
続いて、ウェブサイトの具体的な閲覧内容に違いがあるかを分析する。被験
者の各グループと閲覧したコンテンツとの関係について、カイ二乗分析を行っ
た。その結果、「こだわりの味わい:ブランドAの特長、麦、米、芋」
「製品ラ
インナップ:価格」の2項目は5%水準で、
「ポスター」の項目は1%水準で
有意であった。
どのグループとの間に有意差があったのかをみる。「こだわりの味わい:ブ
ランドAの特長、麦、米、芋」を閲覧したのは、Print-ad群が他のグループよ
りも少なく、調整済み残差は-2.5であった(χ2=6.21, df=2, p<.05)。「製品ライ
ンナップ:価格」を閲覧したのはPrint-ad群が少なく、Web群が多い結果であり、
調整済み残差はPrint-ad群が-2.2、Web群が2.2という値であった(χ2=6.37,
df=2, p<.05)
。ウェブサイトで「ポスター」を閲覧したのはCM群とWeb群が
少なく、Print-ad群が多いという結果であった。調整済み残差はCM群が-3.6、
Print-ad群が5.2、Web群が-1.8という値である(χ2=28.83, df=2, p<.01)。
以上の結果をまとめると、メディア別に閲覧内容に違いがみられ、「こだわ
りの味わい」はCM群がPrint-ad群とWeb群よりも多く、
「製品ラインナップ」
はWeb群がPrint-ad群よりも多く、「ポスター」はPrint-ad群がCM群とWeb群
よりも多い結果であった。
そのため、
仮説4aは一部支持、
仮説4bは支持された。
5−3.ウェブサイトの印象
ウェブサイトの印象が、ウェブサイト閲覧前のマス広告接触によって異なる
のかどうかを検証する。CM群、Print-ad群、およびWeb群の間で差があるか
どうかを分析する。
ウェブサイトの印象は、20項目の質問によって測定しているため、因子分析
を行って因子を抽出し、
因子ごとにグループ間で差があるかどうかを比較した。
因子分析(主因子法、バリマックス回転)を行い、5因子を抽出した。固有値
152 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 238 )
1以上の因子は3つであったが、浅川(2008)は同じ測定項目を主成分分析に
より5つの成分に分類しているため、本研究の因子数も5に設定した。因子負
荷と寄与率は表1のとおりである。因子負荷が0.50以下の項目が2項目、複数
の因子にまたがって0.50以上の負荷を示した項目が2項目あったものの、今回
は尺度開発が目的ではなく、因子得点の算出が目的であるため、それらの項目
を削除しなかった。その結果5因子を抽出し、浅川(2008)を参考にして以下
のように解釈した(表1)
。
①第一因子は「刺激」である。項目は「ユニーク」
「面白さ」
「意外性」
「元気」
「イ
表1 ウェブサイトの印象 因子分析
第1因子
刺激
ユニークである
面白い
意外性がある
元気がある
インパクトが強い
洗練されている
高級感がある
静かな感じがする
色彩が印象に残る
新鮮な感じがする
説明が十分である
わかりやすい
メッセージがはっきりしている
説得力がある
温かい感じがする
親しみがある
自然な感じがする
活力のあるイメージ
健康なイメージ
色彩が明るい
因子寄与
因子寄与率
累積寄与率
0.77
0.74
0.59
0.59
0.59
0.16
0.08
-0.25
0.24
0.45
0.14
0.20
0.19
0.23
0.25
0.38
0.10
0.50
0.22
0.35
3.31
16.54
16.54
第2因子
品格
第3因子
伝達
第4因子
親近性
第5因子
溌剌さ
-0.01
0.08
0.22
-0.11
0.40
0.70
0.65
0.64
0.54
0.48
0.18
0.19
0.26
0.37
0.09
0.18
0.29
0.04
0.14
0.24
2.55
12.76
29.30
0.16
0.19
0.17
0.15
0.20
0.20
0.14
0.16
0.20
0.21
0.76
0.73
0.58
0.53
0.29
0.22
0.36
0.17
0.25
0.15
2.45
12.25
41.55
0.25
0.29
0.05
0.25
0.04
0.17
0.03
0.16
0.04
0.07
0.15
0.23
0.18
0.26
0.72
0.61
0.47
0.27
0.41
0.14
1.81
9.06
50.60
0.08
0.18
0.24
0.51
0.30
0.11
0.08
-0.17
0.17
0.34
0.09
0.14
0.12
0.20
0.16
0.25
0.16
0.57
0.53
0.52
1.70
8.51
59.12
共通性
0.69
0.70
0.49
0.70
0.64
0.60
0.45
0.55
0.42
0.60
0.67
0.69
0.49
0.58
0.69
0.66
0.47
0.67
0.58
0.49
ンパクトの強さ」であった。これらはウェブサイトが刺激的であることを表現
している。②第二因子は「品格」である。項目は「洗練」
「静か」
「高級感」
「色
彩の印象」であった。これらは広告の品格の良さを表現している。③第三因子
( 239 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 153
は「伝達」である。項目は「説明の十分さ」
「わかりやすさ」「メッセージがは
っきりしている程度」「説得力」であった。これらは広告の情報伝達面への評
価を表現している。④第四因子は「親近感」である。項目は「温かさ」
「親しみ」
であった。これらは広告に対する親近感を表現している。⑤第五因子は「溌剌
さ」である。項目は「活力」
「色彩の明るさ」
「健康」であった。これらは広告
を視聴した際に感じる溌剌さを表現している。
これら5因子の因子得点を算出して3グループを比較し、一元配置の分散分
析を行った。分析の結果、
第一因子「刺激」
(F
(2,417)=6.17, p<.01)、第二因子「品
格」
(F(2,417)
=6.56, p<.01)
、第五因子「溌剌さ」
(F(2,417)=4.92, p<.01)につ
いて、有意な差がみられた。
差のあった項目について、Tukey HSD法を用いて多重比較を行ったところ、
第一因子ではCM群とPrint-ad群の間(p<.05)
、およびPrint-ad群とWeb群の間
(p<.01)で有意な差がみられた。つまり、ウェブサイトの「刺激」については
CM群とWeb群に比べ、Print-ad群が最も強く感じていることが示された。
第二因子ではCM群とWeb群の間(p<.01)
、およびPrint-ad群とWeb群の間
(p<.05)で有意な差がみられた。つまり、ウェブサイトの「品格」については、
CM群とPrint-ad群に比べ、Web群が最も強く感じていることが示された。
第五因子ではPrint-ad群とWeb群の間で(p<.01)有意な差がみられた。つ
まり、ウェブサイトの「溌剌さ」については、Web群よりもPrint-ad群のほう
が強く感じていることが示された。
以上の結果をまとめると、ウェブサイトに対する印象の「刺激」については
CM群とPrint-ad群の間で、
「品格」についてはWeb群と広告群(CM群とPrintad群)の間で、
「溌剌さ」についてはWeb群とPrint-ad群の間で、差があるこ
とが示された。そのため、仮説5a、仮説5bともに支持された。
最後に、仮説と分析結果を表2にまとめた。
154 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 240 )
表2 仮説と分析結果のまとめ
仮説
質問内容
測定尺度
目的変数
分析手法
分析結果
仮説1 ウェブサイトの態度 5段階尺度 主成分得点 一元配置分散分析 Print-ad群>CM群
仮説2 メッセージ態度
5段階尺度 主成分得点 一元配置分散分析
Print-ad群>CM群
Print-ad群>Web群
仮説3 メッセージの信頼性 5段階尺度 主成分得点 一元配置分散分析 有意差なし
閲覧行動
自由回答
回答数
一元配置分散分析 有意差なし
有意水準
結果
5%水準 仮説1a 棄却
仮説1b 支持
5%水準
仮説2a 一部支持
仮説2b 支持
−
仮説3a、3b 棄却
−
「こだわりの味わい」
CM群>Print-ad群 5%水準
CM群>Web群
仮説4
閲覧行動
行動の
度数
カイ二乗分析
有/無 (選択者数)
仮説4a 一部支持
「製品ラインナップ」
5%水準 仮説4b 支持
Web群>Print-ad群
「ポスター」
Print-ad群>CM群 1%水準
Print-ad群>Web群
「刺激」因子
Print-ad群>CM群 1%水準
Print-ad群>Web群
仮説5a 支持
仮説5 ウェブサイトの印象 5段階尺度 因子得点 一元配置分散分析 「品格」因子
Web群>CM群
1%水準 仮説5b 支持
Web群>Print-ad群
「溌剌さ」因子
5%水準
Print-ad群>Web群
6.まとめ
本研究では、クロスメディアの実務において多く行われているものの、先行
研究で扱われることの少なかった、マス広告からウェブサイトへの誘導と、そ
の後の反応に着目した。ウェブサイトを閲覧する前にマス広告に接触したかど
うかによって、またマス広告の種類によって、ウェブサイトへの反応が異なる
のかを明らかにすることを目的とした。消費者の反応として、ウェブサイトへ
の態度、ウェブサイトの閲覧行動、ウェブサイトへの印象を測定した。
実験を行った結果、事前にマス広告を見てからウェブサイトを閲覧した場合
と、ウェブサイトのみを閲覧した場合で、さらに事前に接した広告の種類によ
っても、ウェブサイトへの反応に違いがみられた。
ウェブサイトに対する態度については、Print-ad群の方がCM群より高かっ
た。さらに、
メッセージ態度についてPrint-ad群がCM群とWeb群より高かった。
( 241 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 155
このように、態度についてはPrint-ad群の値が他の群よりも高い傾向がみられ
た。この理由として、印刷広告はテレビCMよりも情報量が多いため、ウェブ
サイト閲覧前に接触した印刷広告が、ウェブサイトへの態度に何らかの影響を
与えた可能性がある。さらに、態度の形成には、ウェブサイト上で何を閲覧し
たのかという行動、またウェブサイトへ抱いた印象も関連することが考えられ
る。
ウェブサイトの閲覧行動は、自由回答によって測定した閲覧量と、選択肢に
よって測定した閲覧内容を用いて分析した。閲覧量についてはグループ間で有
意な差はみられなかったが、ウェブサイトの閲覧内容では、以下のコンテンツ
について、Web群、CM群、Print-ad群の間で差がみられた。
製品特性を説明した「こだわりの味わい:ブランドAの特長、
麦、
米、芋」と「製
品ラインナップ:価格」のコンテンツについては、Print-ad群よりもCM群と
Web群の方が、閲覧者が多かった。それは、前述のとおり印刷広告の方がCM
より製品に関する情報量が多いため、Print-ad群では製品特性に関するコンテ
ンツを閲覧した被験者が少なかったのではないかと考えられる。また、Web
群はウェブサイト閲覧前に、ブランド名の情報しか与えられていない。したが
って、Web群では、当該ブランドの情報を得るために製品特性に関する内容
を閲覧した被験者が多かったと考えられる。
「ポスター」のコンテンツについては、CM群とWeb群よりもPrint-ad群の方
が、閲覧者が多かった。その理由として、Print-ad群はウェブサイト閲覧前に
印刷広告に接しているため、ウェブサイトにおいてもポスター(印刷広告)に
対する注意が高まったのではないかと考えられる。
「ポスター」だけでなく、
「CM」のコンテンツでも同じような傾向がみられた。5%水準で有意ではな
かったものの、CM群では他群に比べて「CM」のコンテンツを見た被験者が
多かった。このことから、ウェブサイトを見る前に広告に接した被験者は、ウ
ェブサイトに広告や関連するコンテンツがあった場合、
その広告を確認したい、
あるいは広告表現のバリエーションを見たいと思うのではないかと考えられる。
以上から、ブランドに関する事前知識がない状態でウェブサイトを閲覧する
156 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 242 )
場合と、当該ブランドの広告に接した後にウェブサイトを閲覧する場合では、
ウェブサイトの閲覧行動が異なることが明らかとなった。また、ウェブサイト
閲覧前に接した広告の種類によっても、閲覧行動が異なることが明らかとなっ
た。
ウェブサイトの印象では「刺激」
「品格」
「溌剌さ」について、Web群、CM群、
Print-ad群の間で差がみられた。
「刺激」については、CM群およびWeb群より
もPrint-ad群の方が高かった。
「品格」については、CM群よりもPrint-ad群の
方が、Print-ad群よりもWeb群の方が高かった。
「溌剌さ」については、Web
群よりもPrint-ad群の方が高かった。
ウェブサイトの印象の一部について、Web群とCM群とPrint-ad群で差があ
ったということは、ウェブサイト閲覧前の広告接触が被験者に対して何らかの
影響を与えた可能性がある。例えば、ウェブサイトの品格に対する印象につい
ては、CM群とPrint-ad群の両方がWeb群より低い数値を示している。このこ
とは、事前に接した広告の品格に対する印象が低く、その広告に対する印象が
ウェブサイトに対する印象へ移転した可能性があることを示唆している。さら
に、CM群とPrint-ad群の間でもウェブサイトの印象が異なっており、Print-ad
群の方が品格の印象が良い。今回使用した広告素材のCMの表現はタレント二
人の大阪弁でのやりとりであり、
印刷広告の表現はタレント二人の写真である。
そのため、関東地方在住の被験者にとっては、印刷広告の方がCMよりも品格
の印象が良く感じられたであろう。このように、事前に接する広告メディアの
種類によっても、ウェブサイトの印象へ与える影響が異なることを示唆してい
る。
本研究は以下の点で貢献できたと言えるであろう。一点目に、
先行研究では、
複数メディアによる相乗効果がみられない結果もあったものの、複数メディア
と単一メディアでは消費者反応が異なることが改めて検証できたことである。
事前の広告接触の有無によって、さらに接触した広告の種類によって、ウェブ
サイトへの反応が異なることが明らかとなった。二点目に、複数メディアによ
る相乗効果として、心理的変数だけでなく行動的変数を測定したことである。
( 243 )
マス広告接触がウェブサイト閲覧行動へ及ぼす影響 157
記憶に頼った測定ではあるものの、複数メディアと単一メディアでは行動も異
なることを明らかにできた。三点目に、メディア特性の視点を取り入れたこと
である。メディア特性に合わせて、マス広告から誘導した後のウェブサイトに
着目した。
今後の課題として、まず、なぜ事前の広告接触によってウェブサイトへ
の 反 応 が 異 な っ た の か、 そ の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る こ と が 必 要 で あ る。
Stammerjohan et al.(2004)が指摘する理論をもとに、検証を行いたい。続い
て、
実験方法も改善する必要がある。今回はインターネット調査を用いており、
自然な形で被験者へ広告を提示することができなかったため、今後はCLTを
用いたい。また、広告素材は一つのブランドのみだけでなく、複数ブランドの
広告素材を用いる必要がある。さらに、行動の測定方法は記憶に頼るのではな
く、デジタル技術を用いて、正確に測定できるとよいであろう。
本研究は、平成19年度(第41次)吉田秀雄記念事業財団研究助成を受けたものである。
注
(1)
ソサイアタル(societal)とは「社会の」(研究社『リーダーズ英和辞典』)という意
味であるが、井上によれば、ソーシャルなコミュニティやメンバー、それらの関係や関
連をより強く含む用語という。
(2)
株式会社プロジェクトから、関東地方で放映されていない関西地方限定のCMリスト
の提供を受けた。
本研究で使用したCMは株式会社プロジェクトより購入したものである。
(3)
株式会社マクロミルが2004年9月に実施した「お酒についての基礎調査」の結果から、
焼酎への関与の高い性・年代を選択した。調査対象者は、全国に住む男女20才以上で3
ケ月以内に何らかのお酒を飲んだ522名である。焼酎が「好きなお酒」
と答えているのは、
男性20代24.6%、男性30代29.2%、男性40代23.1%、男性50代以上37.3%、女性20代24.6%、
女性30代26.2%、女性40代13.8%、女性50代以上6.2%。この結果から、男女ともに数値
の高い年代は30代であるため、本調査の被験者とした。
(4) 分析から除外した基準は以下のとおりである。指定したウェブサイトを指示どおり見
ていないと判断したのは、ウェブサイトを見た直後に質問した「ウェブサイトで何をご
覧になりましたか」に対して、「特になし」や「忘れた」と答えたサンプル、およびこ
ちらが指定したブランドや焼酎以外のコーナーを主に答えたサンプルである。また、調
査対象ブランドを間違えて答えたと判断したのは、
「広告とウェブサイトをご覧になっ
158 駒大経営研究第 42 巻第 3・4 号
( 244 )
た上で、その中で扱われている商品について良い印象だと感じたことについて書いてく
ださい」と「先ほどご覧いただいた商品のブランド名とキャッチコピーを書いてくださ
い」という両方の質問に対して、対象ブランドとは異なる商品やカテゴリーについて答
えたサンプルである。その結果、合計51名を除外した。
このように除外したサンプルが多くなった理由の一つは、インターネット調査におい
て被験者の行動を完全にコントロールすることができないことにある。そのため、5分
間きちんとウェブサイトを見ていなかったり、指定したページ以外を見たり、指定した
ブランドを間違えたりといったことが生じた。こちらの指示を正確に遂行させるために
は、CLTなどを用いないと難しいであろう。
(5)
具体的には、
「製品情報のINFORMERCIAL MOVIE」
「こだわりの味わい:ブランド
Aの特長、麦、米、芋」「こだわりのデザイン:ボトル、ラベル、裏ラベル」「製品ライ
ンナップ:価格」
「鹿児島・B酒造について」
「INFORMERCIAL MOVIE:B酒造、鹿
児島の焼酎文化、杜氏インタビュー、芋焼酎づくり、芋生産農家インタビュー」
「芋焼
酎のふるさと/伝統の技術/恵まれた土壌」
「プロモーションサイト」
「宣伝情報」
「CM」
「ポスター」
「初デュエット曲の誕生」
「タレントプロフィール」
「焼酎を愉しもう」
「そ
の他の焼酎のページ」「焼酎以外の情報を扱ったページ」「会社情報」を選択肢とした。
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