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優れた人工臓器・医療機器がなければ心臓外科医は何もできない

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優れた人工臓器・医療機器がなければ心臓外科医は何もできない
●私の歩んだ道
優れた人工臓器・医療機器がなければ心臓外科医は何もできない
国立循環器病研究センター 名誉総長
北村 惣一郎
Soichiro KITAMURA
ス手術が主流に変わっていく時期であった。20 ∼ 30 歳代
1. はじめに
に動機付けされると一生ものになるが,私も虚血性心疾患
私は昭和 40 年(1965 年)に大阪大学を卒業し,同級生約
の外科が主となり,左室瘤や心室中隔穿孔の手術,内胸動
10 人と共に,故曲直部寿夫先生の第一外科教授就任時の第
脈グラフトの使用,川崎病外科治療の開発,それに組織・
一期生として入局した。この中で心臓血管外科を専攻した
臓器移植に外科医の人生を費やした。これでお分かりの
のは,確か 4 人位で,その後,各々の分野で研修・研究する
ごとく,私は自分で医療機器開発の研究を行った経歴はな
ことになった。1965 年当時でも既に,将来は人工心臓,心
く,南カルフォルニア大学の Kay 先生のラボで新モデルの
臓移植というのが分かり易い 2 大テーマとして存在してい
人工弁を仔牛に移植する実験を行った程度である。
た。間もなく米国から帰局した川島康生先生が心臓外科ラ
心臓外科医は人工臓器の最大の使用者(ユーザー)と
イター(主任)となられ,同級生の高野久輝君(後に国立循
言っても過言ではないが,私もその例外でなく,人工心肺,
環器病センター先進医工学センター長)は「人工心臓の研
人工腎,人工弁,大動脈内バルーンパンピング(IABP)
,体
究」をテーマに米国ミシシッピー大学の故阿久津哲造教授
外式膜型人工肺(ECMO),左室補助人工心臓(LVAS)など
のもとへ,同じく同級生の広瀬一君(後に岐阜大学第一外
の人工臓器のユーザーとしての仕事をしてきた。その後,
科 教 授 )は「 心 臓 移 植 の 研 究 」を テ ー マ に 南 ア フ リ カ・
国立循環器病センター総長に就任してからは医療機器関係
Bar nard 教授のもとへ留学した。大西健二君(後に大阪府
の委員会や審議会に多く出席する機会が与えられ,この間,
立病院心臓血管外科部長)は政府の医療援助隊長として,
日本の医療機器企業連合体である医療技術産業戦略コン
ケニア国ナイロビ市に赴任し,帰国後は当時あまり取り組
ソーシアム(Medical-Engineering Technology Industrial
まれていなかった胸部大動脈外科を志した。
Strategy Consortium; METIS)の委員や,未承認医療機器を
私は,皆とは少々入局が遅れたこともあってか,
「普通の
用いた医師主導の臨床研究のあり方や早期導入の委員会,
心臓外科をせよ」という指示を受け,少々不満も感じたこ
日本学術会議における「報告書」の作成,高次医療機器のト
とを憶えている。Educational Commission for Foreign
ラッキングシステムの構築など,医療機器に関連する行政
Medical
Graduate(ECFMG ®)を取得していたこともあっ
との架け橋的な仕事に従事した。
てか,川島先生の留学先でもあったロスアンゼルス(L.A.)
の St. Vincent 病院,南カルフォルニア大学の J.H. Kay 先生
この度,
「人工臓器」誌の巽編集委員長より特別の機会を
頂いたので,私なりに人工臓器との関わりを中心に記述し
のもとに若いうちに留学させて頂いた。私が留学した
てみるが,及ばずながらも貢献できたのは,医療機器の研
1969 年頃は,米国では大伏在静脈グラフトを用いたバイパ
究の活性化や実用化における行政との対話という部分では
ス手術の創成期であり,病院でも Vineberg 手術からバイパ
なかろうかと思っている。
■著者連絡先
国立循環器病研究センター
(〒 565-8565 大阪府吹田市藤白台 5-7-1)
E-mail. [email protected]
2.
米国への留学と人工弁の開発実験の時代
1960 年代には人工弁の開発競争が行われた。僧帽弁閉
鎖不全(逆流)症(MR)の手術は,今でこそ人工弁より形成
人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
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術に主体が置かれるようになったが,人工弁の良いものが
1960 ∼ 80 年代 は,こ の よ う な 手 作 り の 医 療 機器 ベン
なかった時代にも,MR の手術は形成術からスタートして
チャーが大企業に発展していく時代であった。研究者は,
いる。Kay 先生も太い縒り糸を用いて僧帽弁交連部を縫縮
一山当たれば億万長者になれるが,臨床医はユーザーとし
し,弁口を縮小し,弁葉の coaptation を改善する手術法(Kay
て威張っていても知れたものだなあ,と思った次第である。
。その後,人工弁の開発と実用化の
それでも当時の米国の心臓外科医は誰でもプール付きの
時代に入り,Starr-Edward ball 弁 , Smeloff-Cutter caged ball
家は当たり前で,私の知っているシカゴ在住の医師は教会
弁に次いで disc 弁が登場し,これが進化して tilting disc 弁
のような家に住み,ミシガン湖の砂浜と豪華なヨットハー
法)を報告している 1)
(傾斜人工弁),即ち Björk-Shiley 弁が一世を風靡したのは
記憶にあろう。
バーが自宅の庭にあった。ところが,最近の米国では胸部
外科医のなり手が激減し,レジデントの席が埋まらず,人
Kay 先生が Shiley 氏と開発した disc 弁である Kay-Shiley
弁は,2 本の平行する str ut 内で回転せず,disc の一部の摩
材不足で問題視されるまでに凋落している。仕事は昔の
ままハードなのに,収入が激減しているからである。
耗が激しいことがあり,この原因として,disc poppet の一
私は前述の muscle guard 付き人工弁のテストのため,仔
部が周辺の心室筋部や増生した pannus に固定されるため
牛への移植手術を数多く行った。1969 年当時でも,ラボに
と考えられた。これを予防するために,1969 年頃,muscle
はちゃんと技師がいて,牛の麻酔などの手術準備を全てし
guard 付き人工弁が開発され,私はこれを仔牛の僧帽弁位
てくれた。牛の心筋は厚く,一旦,心室細動を起こすと,
に移植する実験を行った。Muscle guard 弁は僧帽弁位よ
人間用の除細動器では戻すのに大変苦労したことから,
り心室腔の平坦な三尖弁位で有用と考えられ,この実験結
人工弁置換術は on-pump,beating heart 下に行うようにす
果は森透先生(後に鳥取大学第二外科教授,大阪府立母子
ることで成績が向上した。
医療センター総長)らにより報告された 2) 。さらに,三尖
この実験を一緒に行ったアルゼンチンからの医師は面白
弁置換に有用ならばということで,Ebstein 奇形で三尖弁
い人物で,サンタモニカの海沿いのアパートに給料の大半
置換を要する場合に,この muscle guard 弁を用いた臨床報
をつぎ込んで住み,海に潜って貝などを採って来て料理を
。しかし,実用機械弁として広く世に普及す
振る舞ってくれた。本心は,女の子を招き入れることにあっ
告も行った 3)
る こ と は な か っ た。 そ の 後,弁 の 材 質 も 変 化 し た が,
たようである。アルゼンチン航空が L.A. に着くと,美人の
pyrolyte carbon 製二葉弁が極めて良好な成績を生み出した
スチュワーデスがやって来ていた。
ことから,現在の人工弁はこの型に定着した感がある。
そんな彼が牛の手術で名付けた“Tefloma”という言葉が
一方,生物弁も進歩した。私が L.A. にいた 1970 年頃,
おかしくて忘れられない。Beating heart 下で僧帽弁置換術
Hancock 氏や Ganz 先生の研究室を見学したことがある。
を行うため,心尖部から左室ベントを入れるが,その抜去
Hancock 氏 は 6 ∼ 8 畳の狭いラボを持っており,そこに
後の止血をテフロンフェルトを用いて行う。Beating heart
おばちゃんが 1 人居て,豚弁を frame(ワッパ)に裁縫のよ
下で心筋が裂け,出血がひどくなるにつれ,フェルトが数
うに手で縫い付けていた。その時は「こんなものか」と思っ
を増し,心尖部に山盛りになってテフロン腫を作ってしま
て帰ったが,数年後,Hancock 弁が世に出て臨床応用が始
う。ラボの責任者をしていた Irma 女史は“Dr. Tefloma”な
まった時に再度訪問して驚いた。その時は十数人のおば
どと嫌みを言って「また牛が死んだ。あんたの給料より高
ちゃんが 2 列にずらっと並んで豚弁の縫着をしている大型
いのよ」と叫んでいた。あれから 40 年が経った。彼は元気
の工房となり,そこへ行く新しい道路ができ上がっていた。
でいるのか,音信はない。嬉しいことに Kay 先生は御存命
であるが,2001 年に私が日本胸部外科学会会長時にお招き
“Hancock Drive”と標識が上がっていた。
Ganz 先生は東ヨーロッパからの移民一世と聞いたが,
したが,体調の問題で来日できず,ビデオでメッセージを
L.A. の Cedars-Sinai 病院で小さなラボを持ち,細々と自ら
送って下さった。故曲直部寿夫先生は Kay 先生とほぼ同じ
手で糸を巻いてゴム膜をカテーテルに付けていた。これが
年と聞いているので,曲直部先生の早逝が寂しい。
その後,一世を風靡する Swan-Ganz カテーテルの始まりで
あった。このバルーンカテーテルは御存知の通り世界的な
3.
人工臓器のユーザーとしての心臓外科医時代
商品となり,肺動脈圧モニターのみならず,熱稀釈法を用
私が卒業した 1965 年当時,大阪大学第一外科の心臓グ
いた心拍出量測定カテーテルへと進化した。その利益は莫
ループは人工心肺グループと心臓カテーテルグループに分
大と思われ,彼の家は L.A. の一等地にでき上がり,息子さ
かれていた。私は後者に属して,先天性心疾患から弁膜症,
んも医師となって米国滞在し,大成功者となった。
虚血性心疾患までの全てに対して外科医が心臓カテーテ
90
人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
ル,心血管造影を行っていた。そして,術前,術後の心機
なった 10) 。
能のデータを得て,博士論文を作ることが多かった。前者
その後,高野先生らの研究による東洋紡社製国循型ポン
の人工心肺グループは人工臓器に興味を持ち,また,動物
プが出現し,私も心原性ショックの拡張型心筋症(DCM)
実験をする者が多かった。私は心臓カテーテルグループに
患者に用いたことがあった 11),12) 。同ポンプが早々に保険
属していたため,当時の最大の人工臓器であった人工心肺
収載となったことから,開心術後の LVAS にはこれを用い
への馴染みは薄く,研究よりユーザーの域を出ていない。
る時代になった。更に,1997 年の臓器移植法の発効ととも
し た が っ て,私 の 博 士 論
文 4) は
左 室 瘤 や akinesis,
dyskinesis を示す心筋梗塞後の瘢痕心筋切除術後の心機能
に,心臓移植への bridge 使用にまで同ポンプが用いられ,
現在に至っている。
の変動とその術前予測に関するもので,これは Kay 先生の
この間,臨床現場では米国製の Novacor ® , Hear tMate ®
もとで行った研究 5),6) を,引き続き日本で行ったものであ
VE な ど が 導 入 さ れ,次 い で EVAHEAR T ™ の 治 験,
る。私としては,現在,心臓外科領域で 1 つのトピックと
DuraHear t ™,Jar vik 2000 の海外データを利用した早期導
なっている surgical ventricular restoration(SVR)手術の先
入,少数治験が終了し,2010 年にはこれらが薬事承認され
駆けと思っているが,当時はあまり関心が払われなかった
る予定である。また,2009 年には小児の心臓移植が是認さ
まま,忘れ去られてきた気がする。しかし,この論文に記
れたことから小児用 LVAS が必要となり,Berlin Heart 社の
した画像解析に基づく左室容積の減少と駆出率(EF)の増
EXCOR® Pediatric が早期導入の対象として検討に入ってい
加などに関する機能予約理論は今でも正しいものである。
る。まもなく Hear tMate Ⅱ® の申請も始まる予定で,多種
当時,私は残存心筋部 EF > 0.3 で,瘢痕心筋切除後に 90
の LVAS が次々と利用可能となり,夫々の目的で利用される
ml/m2 の拡張末期容積相当が必要と報告している 4) が,現
ことになろう。保険収載も早期に行われるようにしたい。
在,メジャーバルーンを用いて左室容積確保のもと SVR 手
LVAS の心臓移植待機使用(bridge to transplant use)から
術が行われている。この予測値から見ると,SVR 術後の収
永久使用(destination use)への体制作りが多学会連合のも
縮末期容積(ESVI)値は約 65 ∼ 70 ml/m2 となり,最近の
とに始まっており,わが国では LVAS を植え込んで社会に
SVR 報告に見る術後 ESVI 値とよく一致している。
復帰していく人達が徐々に増加すると考えている。そのた
前述したごとく,人工臓器の研究に関しては私はユー
ザーとしての臨床研究の域を出ていないが,それでも当時
新しく登場してきた IABP の理論には興味を持った 7)
。
丁度同じ頃,日本でも冠動脈バイパス手術が始まったこと
から,IABP を術前から挿入した場合,術後の安定が良い
めには社会整備が重要で,これも多学会連合 – 行政の大き
なテーマとなっている。
4.
医療機器に関する行政への関与の時代
私 は 2001 年 に 国 立 循 環 器 病 セ ン タ ー 総 長 に 就 任 し,
か,つまり IABP に術後の低心拍出量症候群(LOS)の予防
2007 年までの 7 年間務めさせて頂いたので,この間,色々
的効果があるかどうか,という未熟ながらも 2 群に分けて
な厚生労働省関係の委員会や審議会に参加する機会を得
のランダム(的)臨床研究を行ったことがある 8) 。結論と
た。国立循環器病センターは,どちらかといえば,その性
して,IABP の予防的効果は期待できない,という結果を報
質上,薬よりも医療機器に専門的であろうということから,
告した。これは今でも正しい結果であると思っている。術
私も医療機器関連の委員会への出席が多かった。国立がん
前に血行動態の安定している予定手術では,低心機能症例
センターの薬,国立循環器病センターの機器という判断に
であっても術前から IABP を入れる必要はないということ
基づいている。次に挙げるもののいくつかは,現在も継続
であって,現在の外科手術でも必要な事態になれば早めに
しているが,METIS 会議第 1 ∼ 3 期委員,日本学術会議第 2
IABP を挿入する,という考え方が一般化している。
部会員,厚生労働省「先進医療専門家会議」構成員,同「医
IABP の次に来るものは ECMO であるが,人工肺が未だ
療機器・体外診断薬部会」委員,
「医療ニーズの高い医療器
未熟な段階であったので,ECMO に移行すると死亡率は
機等の早期導入に関する検討会」委員長,医薬品・医療器
極めて高く,印象は良くなかった。重症例を手術している
機総合機構「トラッキング医療機器データ収集評価システ
と,稀ながらもどうしても LVAS が必要となることがあっ
ム構築に関する検討会」議長,da Vinci 手術支援ロボットの
た。私が奈良県立医科大学第三外科に赴任した 1981 年当
心臓外科への導入,EVAHEAR T 補助人工心臓治験推進委
時には姫路にラボを持っていたトーマス技研の湯浅貞夫
員長,日本臨床補助心臓研究会(JACVAS)代表世話人,な
氏のポンプを使用して救命し得た症例を報告した 9)。また
どを務めさせて頂いている。
同 LVAS を用いた実験は,医局員の博士論文の対象とも
これらの業務の中で私が大切にしたのは,専門学会と行
人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
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図 1 「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」の流れ
図 2 医療テクノロジー推進会議の構成と重点 7 項目
政が手を取り合って,わが国の医療機器の開発やユーザー
合いの関係もできていたこともあり,ミネアポリス市議会
のためになる仕事をすることであった。具体的に言うと,
を見てくれ,というので見学した。わが国なら市議会員が
未承認医療機器の早期導入を検討する「医療ニーズの高い
30 数名いるのではなかろうかと思われる規模の市で,市長
医療機器等の早期導入に関する検討会」では,学会からの
を含め 13 名で運営していた。見学時の議題はペットの飼
要望を受けて選択し,企業を公募して 1 年以内に承認・導
育に関する条例変更であったが,少人数の市議員で運営さ
入を図っている(図 1)。当検討会により,da Vinci 手術支
れている点は,わが国の市町村も見習うべきであろう。
援ロボット,胸部大動脈ステントグラフト,頸動脈ステン
丁度,オバマ現大統領が選挙遊説中で,翌日にオバマ氏が
ト,小児用右室流出路人工弁付き血管(生物弁),LVAS,血
来るので見て行ってはどうか,と誘われたが,我々は L.A. に
管内塞栓物質,人工迷走神経刺激装置など,かなりの数の
向かう予定があり,失礼した。市長はオバマ氏を支援して
新しい機器が承認され,利用可能,あるいはその承認申請
いると言って忙しそうであった。しかし,市長の紹介で
中となっている。
Medtronic 社も St. Jude Medical 社も大変丁寧な対応をして
また METIS 会議では経済産業省,厚生労働省,文部科学
くれ,朝から夕まで次々と人が来て説明してくれた。ミネ
省,内閣府の 4 省府もオブサーバーとして参加して重点
ア ポ リ ス 市 と L.A. と で ペ ー ス メ ー カ ー の 製 造 工 場 や
7 項目を掲げ,官民体制を構築し,わが国の医療機器開発
pyrolyte carbon 弁の工場を見学したが,工場では日本の自
と産業振興に努めている(図 2)。この中で私は,
「医療機器
動車工場があみ出したという「流れ作業工程方式」を取り
開発に特化した研究所(室)を企業体からの寄付講座でも
入れているとのことであった。また,粉末状の炭素粉を加
良いから全国数カ所に作り,米国ミネアポリス市における
熱して人工弁に型成する大型冷蔵庫位の機械は喜ぶべき
ような大学研究室−企業研究室−製品化の流れを作るべ
か,悲しむべきか,日本製であった。
この中で学んだことは,ミネ ソタ大学やメーヨークリ
き」と主張してきた。
2007 年に私は,主に国立循環器病センター研究所の人達
ニックの医療機器研究部と企業との人材の交流が大変うま
とミネアポリス市,ミネソタ大学 Medical Engineering 部,
くいっていることである。大学での基盤研究に企業が資金
Medtronic 社,St. Jude Medical 社などを訪問した。ミネア
を提供し,その卒業生が企業研究室に参加する形で世界的
ポリス市は人口数十万の都市で,大阪府茨木市の姉妹都市
な大医療機器企業がいくつもミネソタ州に集積している。
でもあり,訪問に際しては,茨木市長から親書も頂いた。
勿論,ベンチャー投資会社があり,日本企業も出資してい
また,ミネアポリス市長(Mr. Ryback)は,わが国でも一時
た。わが国では,創薬部門ではある程度の進展が見られる
ブームとなった再生医療などの医療産業都市構想をもって
ベンチャー企業も,医療機器に関しては極めて低調である
国立循環器病センターを訪問したことがあったため,知り
と言わざるを得ない。
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人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
図 3 「日本学術会議報告:革新的国産
治療機器開発に向けた研究開発
機能拠点の形成」の要旨と目次
これらの見聞をもとに,日本学術会議臨床医学委員会循
環器分科会会長を務めた期間に,わが国の医療機器開発を
一層促進するために「日本学術会議報告:革新的国産治療
機器開発に向けた研究開発機能拠点の形成」を平成 20 年
(2008 年)9 月 18 日付けで報告した。図 3 に,要旨と目次を
転載する 13) 。この中で今後,わが国が参画可能な植え込
み型電子機器の部門は,neuromodulation であることを述
べた。心臓関連のペースメーカーや除細動器ではわが国の
参画の余地は残されていないが,脳神経刺激装置ではまだ
余地がある。最近,文部科学省や厚生労働省もこの方面の
研究費を出し始めてくれている。
最近の学会の特徴として,その活動は学術的局面のみな
らず,社会的事業とも言える分野に広がっている。人工臓
器関連のものとしては,
「人工心臓管理技術認定士」の育成
がある。これは,LVAS 装着の患者の危機管理に関する技
図 4 日本臨床補助人工心臓研究会のホームページ:人工心臓
管理技術認定士認定試験のお知らせ
能・知識を有する医療従事者を育て,LVAS 患者の在宅管
理を含めた支援体制を社会に根付かせる目的のものであ
る。これらの人材を看護師や臨床工学技士から実習と試験
療機器総合機構(PMDA)も審査人員を充実させ,ディバイ
を経て学会認定し,将来的には応分の保険収載を求めてい
スラグを短縮するよう努力されているところである
こうというものである。4 学会 1 研究会,即ち日本人工臓
が,LVAS の 市 販 後 調 査 を 充 実 さ せ る べ く,米 国 の
器学会,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本
Interagency Registry for Mechanically Assisted Circulatory
体外循環技術医学会,日本臨床補助人工臓器研究会の共催
Support(INTERMACS)に見習った Japanese Registr y for
で運営していくことになり,第 1 回の試験が 2009 年 7 月 19
Mechanically Assisted Circulatory Support(J-MACS)が組織
日に施行され,既に 21 名の人工心臓管理技術認定士が誕生
され,2010 年 4 月から業務が開始された(図 5,図 6)
。この
14) 。
今後は長期の入院を解消していく中で,
している(図 4)
背景には,わが国発の植え込み型 LVAS の登場や,それによ
LVAS の在宅管理料の保険収載を求め,技術認定士の雇用
る在宅での bridge to transplant,更に,LVAS で生き,社会復
を促進することが必要である。
帰を目指す,いわゆる destination therapy がわが国でも広が
新しい医療機器の治験,審査業務を行っている医薬品医
る可能性が高くなっているからである。長期に LVAS を管
人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
93
報告
関連学会
データ管理センター
参加施設
植込み施設
図 5 補助人工心臓の市販後レジストリ(J-MACS)の目的
理する上でも,またディバイスの改良にも,その登録事業
の成果は重要と期待されている。米国の INTERMACS は,
既に第 1 回報告を 2009 年に行ったところである 15) 。わが
国でも長期の高度生命維持装置のトラッキングシステムが
初めて稼働することは喜ばしい限りであり,期待したい。
5. おわりに
欧米に比較すると,わが国の高次機能医療機器の開発は
乏しかった。しかし,こと人工心臓については唯一とも言
える例外であったと思っている。北海道から九州まで,多
くの大学で人工心臓の研究が行われ,故阿久津哲造先生,
渥美和彦先生,能勢之彦先生など,世界的リーダーが第一
世代として存在し,そのもとに井街宏,高野久輝,仁田新一,
高谷節雄,野尻知里氏など,第二世代が育ち,今,第三世代
と言える妙中義之,山家智之,巽英介,山崎健二氏ほか,多
くの研究者が育っている。わが国の外科系研究者は人工心
臓の研究が大好きであったし,その結果,わが国発の新し
い LVAS が,今,生まれようとしている。研究成果を形とし
て見るには,裾野の広い研究者の競争的環境と企業連携が
必要なことを示している。しかし,現状のわが国では,外
科医が研究を志す機会は極端に縮小してしまっている。研
究環境の整備と研究者のモチベーションの高揚策につい
て,行政課題として検討する場を充実させることが必要で
あると思っている。
文 献
1) Kay JH, Tsuji HK, Redington JV, et al: Surgical treatment of
mitral insufficiency. Calif Med 107: 311-4, 1967
2) Mori T, Kitamura S, Ver r uno E, et al: Tricuspid valve
94
植込み施設
植込み施設
図 6 トラッキング医療機器のデータ収集評価システム構築に
関する検討(案)
replacement. J Thorac Cardiovasc Surg 68: 30-6, 1974
3) Kitamura S, Johnson J, Redington J, et al: Surger y for
Ebstein’s anomaly. Ann Thorac Surg 11: 320-30, 1971
4) 北村惣一郎.心筋梗塞後左室瘤,広範瘢痕化心筋切除術
̶ 術後急性期及び遠隔期の血行動態と左室機能からみた
手術適応に関する研究̶.日胸外会誌 24: 1343-64, 1976
5) Kitamura S, Echevarria M, Kay JH, et al: Left ventricular
performance before and after removal of the noncontractile
area of the left ventricle and revascularization of the
myocardium. Circulation 45: 1005-17, 1972
6) Kitamura S, Kay JH, Krohn BG, et al: Geometric and
functional abnormalities of the left ventricle with a chronic
localized noncontractile area. Am J Cardiol 31: 701-7, 1973
7) 北村惣一郎:大動脈内バルーンパンピング法(IABP)の理
論と実際 . 新しい胸部外科の臨床,日本胸部外科学会,
堀内藤吾編,東京,1981, 474-96
8) 北村惣一郎,中埜 粛,賀来克彦,他:IABP の予防的使
用に関する臨床的研究.日胸外会誌 30: 1053-9, 1982
9) 北村惣一郎,水口一三,河内寛治,他:僧帽弁置換術後,
LVAD 使用にて救命し得た長期生存例.日胸外会誌 37:
1406-12, 1989
10) 高 義昭:新しい補助循環モデル(piggyback hear t)を用
いた左心補助循環法の研究.人工臓器 19: 1560-8, 1990
11) 北村惣一郎,関 寿夫,河内寛治,他:拡張型心筋症末
期患者に対する左心補助人工心臓(LVAS)の長期使用経
験.人工臓器 23: 1033-8, 1994
12) Seki T, Kitamura S, Kawachi K, et al: Efficacy and limitation
of a left ventricular assist system in a patient with dilated
cardiomyopathy accompanying multi-organ dysfunction.
J Cardiovasc Surg 36: 147-51, 1995
13) 日本学術会議:革新的国産治療機器開発に向けた研究開
発機能拠点の形成.2008. Available from: http://www.scj.
go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-h64-1.pdf
14) 日本臨床補助人工心臓研究会:人工心臓管理技術認定士
認定試験のお知らせ.Available from: http://jacvas.umin.
jp/examinfo01.html
15) Holman WL, Pae WE, Teutenberg JJ, et al: INTERMACS:
inter val analysis of registr y data. J Am Coll Surg 208:
755-61, 2009
人工臓器 39 巻 1 号 2010 年
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