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分配側GDP・家計所得支出勘定における四半期速報の検討状況について

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分配側GDP・家計所得支出勘定における四半期速報の検討状況について
分配側GDP・家計所得支出勘定における四半期速報の検討状況について1
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部企画調査課政策調査員 高田 悠矢
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部企画調査課政策調査員 竹内維斗文
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部企画調査課研究専門職 吉岡 徹哉
度についても若干の検証を行った。
1. はじめに
本稿の構成は以下のとおりである。まず、第 2 節で分
配側 GDP、家計部門・所得支出勘定の概要を述べた後、
現行の我が国国民経済計算(以下、JSNA という。)
第 3 節で海外における分配側の四半期速報値の開発・導
における四半期別 GDP 速報(以下、QE という。)にお
入状況を簡単に整理する。第 4 節では分配側 GDP の各
いては、支出側では GDP 及びその内訳各項目、分配側
構成項目に関する四半期速報値の推計方法を検討し、精
では雇用者報酬のみが公表されており、生産側や、雇用
度検証を行う。第 5 節では家計部門の所得支出勘定の各
者報酬以外の分配側各項目の四半期速報値については整
項目について四半期速報値の推計方法を検討し、可処分
備されていない。これに対し、政府の「公的統計の整備
所得(純)
、貯蓄(純)
、貯蓄率の試算を行うとともに、
に関する基本的な計画」の第 I 期計画(平成 21 年 3 月
精度検証を行う。またここでは、可処分所得(純)と貯
閣議決定)や第 II 期計画(平成 26 年 3 月閣議決定)に
蓄率の季節調整系列の試算を簡単に行う。第 6 節は結び
おいては、生産側、分配側の四半期推計について検討課
とする。
題として掲げられている。また、主要先進国の多くにお
2. 我が国国民経済計算の分配側 GDP、家計所
家計貯蓄率等も作成、公表されているという状況にある。
得支出勘定
いては、既に四半期速報として三面からの GDP に加え
こうした中で、我が国においても、生産側、分配側の
GDP や家計貯蓄率等の四半期速報の開発に向けた検討
(1) 分配側 GDP
が進められており、2016 年中を目途とする JSNA の次
JSNA の年次推計においては、生産、支出、分配の三
回基準改定に向けた重要課題を検討する「国民経済計算
面についてフローの統計を作成している。このうち分配
次回基準改定に関する研究会」の第 5 回会合(2013 年 9
側のフロー統計は我が国の生産の成果(付加価値)がど
月 12 日開催)、第 10 回会合(2014 年 7 月 4 日開催)に
のように配分・再分配されたかを示している。「分配側
おいては、生産側、分配側の四半期推計の開発の在り方
GDP」という用語については、現行平成 17 年基準の
について議論が行われた。この中で、内閣府から分配側
JSNA においては(例えば毎年の国民経済計算年報にお
四半期速報値については GDP 及びその内訳、家計貯蓄
いて)明確には記述されていないものの、SNA の国際
率等について、名目・季節調整済系列を中心に、次回基
マニュアル(2008SNA)等では、一般に、以下のように
準改定後できるだけ早期に参考系列として公表すること
定義される。
を目指すという方針が示された。
本稿では、内閣府における分配系列の四半期速報の開
発プロジェクトに係る中間報告という位置づけも兼ねて、
分配側 GDP 及び家計部門・所得支出勘定の四半期速報
分配側 GDP
=雇用者報酬+営業余剰・混合所得
(純)
+固定資本減耗
+生産・輸入品に課される税-補助金
値について、まずは季節調整を行う前の原系列の推計手
法について概観するとともに、暫定的な試算値の推計精
ここで、雇用者報酬、営業余剰・混合所得
(純)、生産・
1
本稿作成にあたっては、内閣府経済社会総合研究所の丸山雅章総括政策研究官(前国民経済計算部長)、多田洋介企画調査課長をはじ
めとする国民経済計算部の職員から有益なコメントをいただいた。なお、本稿の内容は、筆者らが属する組織の公式の見解を示すもの
ではなく、内容に関してのすべての責任は筆者にある。また、本稿は、高田が国民経済計算部在籍中に執筆し、その後竹内・吉岡が取
りまとめたものである。
- 117 -
輸入品に課される税、補助金は各制度部門が生産過程へ
される。
参加した結果発生する所得を計上する
「所得の発生勘定」
の構成項目であり、これに固定資本減耗を加えたものを
全経済活動分類の付加価値の暦年計数(輸入品に課され
分配側 GDP としていることになる。本稿では、現行の
る税・関税、消費税調整後)-(雇用者報酬+固定資本減
平成 17 年基準の JSNA ベースで分配側 GDP の四半期速
耗+生産・輸入品に課される税-補助金)=営業余剰・
報値の推計をこれら各項目の延長推計値を積み上げる
混合所得(純)
(補助金については控除)ことにより行うことを検討す
る。なお、JSNA の年次推計では、分配側 GDP の暦年
ここで、雇用者報酬、固定資本減耗、生産・輸入品に課
計数は生産側で付加価値法 等により推計される経済活
される税、補助金の暦年計数は各種の基礎統計から推計
動別の付加価値暦年計数 3 の合計値(厳密にはこれに輸
される。
2
入品に課される税・関税を加え、総資本形成に係る消費
因みに、年次推計ではこれらの計数を「統合勘定」の
税を控除したもの)と一致させている。このため営業余
「国内総生産勘定(生産側及び支出側)」に支出側項目と
剰・混合所得(純)は、生産側の経済活動別の付加価値
併せて記録している(図表1)ほか、
「制度部門別所得
暦年計数の合計値(輸入品に課される税・関税、総資本
支出勘定」の「所得の発生勘定」に雇用者報酬、営業余
形成に係る消費税の調整も行う)から、雇用者報酬、固
剰・混合所得(純)
、生産・輸入品に課される税、補助
定資本減耗、生産・輸入品に課される税-補助金を控除
金と、生産側で推計する全経済活動分類の付加価値(輸
した後の残差が記録されており、以下の式によって計算
入品に課される税・関税、総資本形成に係る消費税調整
図表1 統合勘定の「国内総生産勘定(生産側及び支出側)」(平成 24 年度国民経済計算年報より抜粋)
1.国内総生産勘定(生産側及び支出側)
(単位:10億円)
平成24暦年
項 目
1.1 雇用者報酬(2.4)
1.2 営業余剰・混合所得(2.6)
1.3 固定資本減耗(3.2)
1.4 生産・輸入品に課される税(2.8)
1.5 (控除)補助金(2.9)
1.6 統計上の不突合(3.7)
国内総生産(生産側)
1.7 民間最終消費支出(2.1)
1.8 政府最終消費支出(2.2)
(再掲)
家計現実最終消費
政府現実最終消費
1.9 総固定資本形成(3.1)
うち無形固定資産
1.10 在庫品増加(3.3)
1.11 財貨・サービスの輸出(5.1)
1.12 (控除)財貨・サービスの輸入(5.6)
国内総生産(支出側)
(参考)海外からの所得
(控除)海外に対する所得
国民総所得
2012
245,758.5
90,650.8
100,589.6
40,314.9
2,904.7
-631.9
473,777.1
287,696.8
96,940.4
345,049.0
39,588.1
100,067.7
11,698.4
-1,546.0
69,774.8
79,156.5
473,777.1
21,213.7
6,168.9
488,821.9
2
経済活動分類(産業、政府サービス生産者、対家計民間非営利サービス生産者に大別される)のうちの産業部分について、コモ法にお
ける品目別産出額を経済活動別産出額に組み替えたものから、これをもとに推計した経済活動別の中間投入額を控除して付加価値を求
める方法。
3
産業部分の暦年値は付加価値法により推計を行い、政府サービス生産者と対家計民間非営利サービス生産者の付加価値の暦年値を決算
書等の基礎統計を用いて別途推計して加える。
- 118 -
後)が記録されている(図表2)
。なお、
「所得の発生勘
値としている(暦年値の三面推計の概要は図表3を参照)
。
定」は基礎統計の制約から一国経済についてのみ作成さ
れている。図表1の支出側についてはコモディティ・フ
(2) 家計部門・所得支出勘定
家計部門の所得支出勘定は、家計に配分された所得が、
ロー法 等により暦年値を推計しており、これと生産側
4
の全経済活動分類の付加価値(輸入品に課される税・関
再分配を通じてどのような経過を辿るのかを把握するこ
税、消費税調整後)の暦年値の間に生じる差分を計上す
とができ、国民経済計算において分配側と支出側を繋ぐ
る「統計上の不突合」を生産側に設け、生産側について
重要な勘定である。この構成項目の中では、一般に、家
はこの統計上の不突合を含めたものを生産側 GDP 暦年
計可処分所得や家計貯蓄といった指標の注目度が高い。
図表2 制度部門別所得支出勘定の「所得の発生勘定」(平成 24 年度国民経済計算年報より抜粋)
1.一国経済
(1)所得の発生勘定
(単位:10億円)
平成24暦年
項 目
0.1 雇用者報酬(支払)
(1)賃金・俸給
(2)雇主の社会負担
a.雇主の現実社会負担
b.雇主の帰属社会負担
0.2 生産・輸入品に課される税(支払)(1.5)
(1)生産物に課される税
a.付加価値型税(VAT)
b.輸入関税
c.その他
(2)生産に課されるその他の税
0.3 (控除)補助金(受取)(1.6)
0.4 営業余剰・混合所得(純)(1.3)
(1)営業余剰(純)
(2)混合所得(純)
(再掲)営業余剰・混合所得(総)
(1)営業余剰(総)
(2)混合所得(総)
(控除)固定資本減耗
2012
245,758.5
205,843.7
39,914.8
30,316.0
9,598.8
40,314.9
22,576.9
12,754.2
880.8
8,941.8
17,738.0
2,904.7
90,650.8
78,893.5
11,757.3
191,240.3
175,166.0
16,074.3
100,589.6
支 払
373,819.5
0.5 付加価値(純)/国内純生産(0.1+0.2-0.3+0.4)
(再掲)付加価値(総)/国内総生産
(控除)固定資本減耗
373,819.5
474,409.1
100,589.6
受 取
373,819.5
図表3 生産、分配、支出側の GDP 暦年値推計の概要
中間消費
中間
投入
中間
投入
中間
投入
…
統計上の不突合
産業
1
産業
2
産業
i
付加
価値
付加
価値
付加
価値
産業
1
産業
2
民間最終消費支出
雇用者報酬
政府最終消費支出
生産・輸入品に課される税
…
産業
i
総固定資本形成
固定資本減耗
在庫品増加
輸出-輸入
支出側と生産側の差分として生
産側に設ける項目
支出側(コモ法等)
政府、対家計民間非営利サービ
ス生産者の産出額
輸入品に課される税+関税
-総資本形成に係る消費税
営業余剰・混合所得(純)
生産側(付加価値法等)
分配側(個別推計、一部生産側
暦年値をコントロール・トータルと
した残差)
生産側暦年値から分配側の
他の項目を差し引いて得られ
る
4
品目ごとに推計した産出額、輸入、運輸・商業マージンを求め、これらの合計である総供給額に産業連関表に基づく比率等により家計
最終消費支出、総固定資本形成、在庫品増加、輸出の需要項目を求める手法のこと。
- 119 -
家計部門の所得支出勘定は「第1次所得の配分勘定」、
「所得の第 2 次分配勘定」
、
「現物所得の再分配勘定」、
「可
貯蓄(純)を支払として計上している。貯蓄(純)がこ
の勘定のバランス項目である。
処分所得の使用勘定」
、
「調整可処分所得の使用勘定」か
以上が、家計の消費を「費用負担ベース」でとらえた
ら構成される体系である 。各勘定は支払と受取から構
勘定の流れである。国民経済計算では、これに加え、以
成されており、何れの勘定についてもバランス項目(残
下に述べるように、消費を「便益享受ベース」で捉える
差項目)を支払側に設け、支払側の合計と受取側の合計
勘定の記録方法がある(いわゆる「二元的」な消費)
。
が各勘定で等しくなっている。
まず、
「現物所得の再分配勘定」は、可処分所得(純)
5
まず、「第1次所得の配分勘定」では、生産過程への
をもとに、社会保障制度である医療や介護の保険給付分
参加の結果として得られる「雇用者報酬」
、
「営業余剰・
を含む現物社会移転の受払を記録する勘定である。家計
混合所得(純)」を起点に、財産所得の受払を記述し、
部門では可処分所得(純)
、現物社会移転を受取として
バランス項目として「第1次所得バランス」が導かれる。 計上し、バランス項目として調整可処分所得(純)を支
営業余剰・混合所得(純)
、雇用者報酬(海外からの雇
払側に計上している。
さらに、
「調整可処分所得の使用勘定」においては、
用者報酬を含む国民ベース)
、財産所得(受取)を受取
として計上し、
財産所得
(支払)
、
第1次所得バランス(純)
調整可処分所得(純)と年金基金年金準備金の変動を受
を支払として計上している。
取として計上し、現実最終消費、貯蓄(純)を支払とし
次に、
「所得の第 2 次分配勘定」は、第1次所得バラ
ンス(純)をもとに、現物社会移転を除く経常移転の受
て計上する。以上のような家計部門の所得支出勘定の全
体像を要約したものが図表4である。
払がどのように各制度部門の可処分所得に変換されるか
ここで、
「可処分所得の使用勘定」と「調整可処分所
を示す勘定である。家計部門では第1次所得バランス
得の使用勘定」では、それぞれ貯蓄率、調整貯蓄率が以
(純)
、現物社会移転以外の社会給付、その他の経常移転
下の定義により求められる。
(受取)を受取として計上し、所得・富等に課される経
常税、社会負担、その他の経常移転(支払)
、可処分所
貯蓄率 =貯蓄(純)÷(可処分所得(純)
得(純)を支払として計上する。可処分所得(純)がこ
+年金基金年金準備金の変動)
の勘定のバランス項目である。
調整貯蓄率=貯蓄
(純)÷(調整可処分所得(純)
「可処分所得の使用勘定」は可処分所得が消費支出と
+年金基金年金準備金の変動)
貯蓄にどのように配分されるかを示す勘定である。家計
部門では可処分所得(純)
、年金基金年金準備金の変動
このように、家計部門の所得支出勘定は、消費の二元化
を受取として計上し、最終消費支出(個別消費支出)、
を含むやや複雑な勘定であるが、分配側 GDP 四半期速
図表4 家計の所得支出勘定の概要(平成 24 年度国民経済計算年報より抜粋)
家計(個人企業を含む)の所得支出勘定(24暦年)
イ.第1次所得の配分勘定
(単位:兆円)
支 払
受 取
2 営業余剰・混合所得
37
財産所得
第1次所得バランス
306 雇用者報酬
246
財産所得
25
合計
308 合計
308
ロ.所得の第2次分配勘定
支 払
所得・富等に課される
経常税
社会負担
その他の経常移転
可処分所得
合計
受 取
第1次所得バランス
306
25 現金による社会保障給付
55
72 年金基金による社会給付
19 無基金雇用者社会給付
287 社会扶助給付
その他の経常移転
403 合計
7
10
10
15
403
ハ.現物所得の再分配勘定
支 払
調整可処分所得
合計
受 取
351 可処分所得
現物社会移転
351 合計
287
64
351
ニ.所得の使用勘定(ⅰ)可処分所得の使用勘定
支 払
受 取
最終消費支出
281 可処分所得
287
貯蓄
4 年金基金年金準備金の変動 △ 2
合計
284 合計
284
ニ.所得の使用勘定(ⅱ)調整可処分所得の使用勘定
支 払
受 取
現実最終消費
345 調整可処分所得
351
貯蓄
4 年金基金年金準備金の変動 △ 2
合計
349 合計
349
5
一般政府、対家計民間非営利団体も同様。一国経済についてはこれに「所得の発生勘定」が加わる。非金融法人企業と金融機関につい
、「可処分所得の使用勘定」のみ作成。
ては「第1次所得の配分勘定」、「所得の第 2 次分配勘定」
- 120 -
図表5 年次推計における分配側 GDP 構成項目確報暦年値の四半期分割の概要
報の開発プロジェクトにおいては、統計ユーザーのニー
報四半期計数の推計方法をみていく。構成項目のうち雇
ズとして「可処分所得(純)
」や「貯蓄(純)
」
、これら
用者報酬(海外からの純受取を含まない国内ベース)や
から求められる貯蓄率が重要であろうとの観点から、第
固定資本減耗、生産・輸入品に課される税、補助金につ
1次所得の配分勘定から可処分所得の使用勘定に至る部
いてはまず、各種の基礎統計から確報暦年値が作成され
分について四半期速報化を検討している(なお、後述す
る。これらを適切な補助系列を用いたり、固定資本減耗
るように分配面の四半期速報推計を行っている諸外国で
のように場合によって四半期等分するなどして、確報四
も、現物所得の再分配勘定以下を作成・推計している例
半期計数を作成する。営業余剰・混合所得(純)は、上
はない)
。
述のように生産側 GDP(確報暦年値)と雇用者報酬等
その他の構成項目の確報暦年値の差分として確報暦年値
(3) 現行の年次推計での分配側四半期計数及び速報で
の分配側四半期計数の推計方法
が導出される。その四半期分割については、民間非金融
法人企業、民間金融機関など部門ごとに、法人企業統計
現行の JSNA における四半期計数は、四半期毎に公表
調査など各種基礎統計から別途積み上げた補助系列の動
される QE と、年次推計で確報、確々報として公表され
きを用いて行われる 6(図表5にはここまでの概念図を
る四半期計数がある。後者は、確報等として推計される
示している)7。
年次値を四半期分割したものである。
次に、現行 JSNA の四半期速報における雇用者報酬の
このうち、分配側の項目については、年次推計では、
四半期速報系列の推計方法をみていく。これについては、
確報値として、(1) 分配側 GDP の構成項目、(2) 家計部
年次推計の確報四半期系列として得られる直近の 1 ~ 3
門の所得支出勘定における全ての項目の四半期計数が作
月期値をベンチマークに、内訳構成項目である「賃金・
成されている一方、QE では前述のとおり海外からの純
俸給」
、
「雇主の現実社会負担」
、
「雇主の帰属社会負担」
受取を含んだ国民ベースの雇用者報酬のみを作成してい
ごとに、「労働力調査」や「毎月勤労統計」、各種保険制
る。以下では、こうした現行の年次推計における確報四
度及び共済組合に係る基礎資料、各種年金基金に係る基
半期計数や、四半期速報における雇用者報酬の推計方法
礎資料から得られる補助系列の対前期比伸び率で延長推
について概括的に述べる。
計を行っている。こうして得られる名目値に加え、QE
では参考系列として実質雇用者報酬を作成・公表してお
り、これは家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃及び
(分配側 GDP 構成項目の四半期計数の推計)
まず、年次推計における、分配側 GDP 構成項目の確
FISIM を除く)デフレーターで名目値を除すことで求め
6
公的非金融法人企業、民間・公的金融機関、家計部門の個人農林水産業と個人持ち家については、基礎統計から作成する四半期系列の
値をそのまま用いる。民間非金融法人と家計部門の個人企業については残差部分を分割して四半期計数を推計する。分割には基礎統計
から作成する両部門の四半期系列の値を使用する。
7
年次推計では、翌年の 1 ~ 3 月期値についても各種の基礎統計等から分配側 GDP 構成項目毎に推計しており、これと確報暦年値を四
半期分割して得られた四半期値を用いて再集計することで、確報年度値を作成している。
- 121 -
られる。
配、支出の GDP 速報の作成・公表状況とともに、分配
面については家計貯蓄率の作成・公表の有無を示してい
る。
(家計部門の所得支出勘定の四半期計数の推計)
最後に、年次推計における家計部門の所得支出勘定の
まず、分配側 GDP の四半期速報としては、ここで挙
確報四半期計数の推計方法についてみていく。これにつ
げた 6 か国全てにおいて、名目・季節調整済系列の作成・
いては、項目ごとに各種基礎統計から確報暦年値または
公表が行われている(対前期比伸び率ないし、実額、な
年度値を作成し、適切な補助系列や、四半期等分割によ
いしその両方)。このうち、名目・原系列を公表してい
り四半期分割しているほか、一部の項目では基礎統計よ
るのは少なくともこの 6 か国ではドイツのみである。一
り直接確報四半期値を得ている。例えば、所得・富等に
方で、分配側 GDP の実質系列については作成・公表し
課される経常税については、租税及び印紙収入、収入額
ている国は限られており、米国、英国、オーストラリア
調(財務省)や「地方税」
(地方財務協会)より月次ま
においては、いずれも分配側 GDP の名目値を、支出側
たは四半期の税収が支払いベースで得られるため、これ
でインプリシットに求められる GDP デフレーターによ
らの集計、分割等により直接確報四半期値が推計される。 り実質化したものを分配側実質 GDP として作成・公表
本稿では、こうした現行 JSNA の分配面の推計方法を
している。
踏まえつつ、第 4 節以降で、分配側 GDP や家計部門の
家計貯蓄率については、図表6における主要国全てで、
季節調整値が公表されている。
所得支出勘定の各項目の推計方法を検討する。
なお、分配側 GDP の「実質値」とは何かという点に
3. 海外における分配側 GDP および家計所得支
出勘定四半期速報値の公表状況
ついて付言する。営業余剰・混合所得(純)のように一
部構成項目を残差推計している場合には、この項目につ
いては完全に価格と数量の形に分解することができない
ここでは、分配面の四半期速報に関する諸外国の取組
ことから、分配側 GDP についても完全に価格と数量に
事例に目を転ずる。図表6は、主要国における生産、分
分解することができないという問題がある。この問題に
図表6 各国の四半期速報公表状況(第 10 回国民経済計算次回基準改定に関する研究会(2014 年 7 月 4 日開催)
資料 2 より抜粋)
生産
分配
支出
実質
名目
実質
名目
家計貯蓄率
実質
名目
英国
○
(*4)
△
(*2)
○
○
○
○
ドイツ
(*1)
△
○
-
○
○
△
○
フランス
○
○
-
○
○
○
○
米国
○
○
△
(*2)
○
○
○
○
カナダ
○
(*3)
-
-
○
○
○
○
豪州(*1)
○
-
○
○
○
○
○
(*2)
出典:各国のウェブサイトから得られる情報をもとに内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部が作成
(凡例) ○:実数の推計値を公表 △:増加率または指数の推計値を公表 -:推計値を公表していない
なお、特に断りのない限り、推計値は季節調整値のみの公表
(注)
1. 一部または全部で原系列を公表
2. 支出側デフレーターを使用した GDP(分配側)合計のみの実質値
3. 月次で公表
4. 2 次速報以降で一国全体での計数を公表
8
(15.177)When GDP is determined as the difference between output and intermediate consumption plus taxes less subsidies on production, gross value
added is derived as an accounting residual. This is so in both current values and volume terms. In order for there to be an identity between different
estimates of GDP in volume terms, it is not possible to give a price and volume dimension to gross value added. Rather the residual item is described
as being“in real terms”. If volume estimates of consumption of fixed capital and compensation of employees are available, net operating surplus and
net mixed income can be derived but only in real terms and without a volume and price dimension. Thus it is not possible to derive an independent
measure of GDP from the income approach since one item is always derived residually.
- 122 -
図表7 各国の四半期速報値の公表時期(当該四半期終了時点からの日数)
生産
分配
支出
英国
約25日後
約55日-60日後
約25日後
ドイツ
約45日後
約50日-55日後
約45日後
フランス
約45日後
約85日-90日後
約45日後
米国
約90日後
約55日-60日後
約30日後
カナダ
約60日後※
約60日後
約60日後
豪州
約65日後
約65日後
約65日後
※カナダの生産側は月次で作成、公表されており、ここでの公表時期は当該月終了時点からの日数を表す(詳細は増田・多田(2014))。
ついては、2008SNA マニュアル 15.177 でも述べられて
という点も共通の傾向として見受けられる(ただし、豪
いる 。こうした問題があることから、各国においても、
州については、三面の推計値を同時に公表している)
。
8
分配側 GDP の実質値は支出側でインプリシットに求め
られる GDP デフレーターにより実質化して求めている
4. 分配側 GDP 四半期速報値の推計方法の検討
と考えられる 。
9
また、各国の四半期速報値の公表時期について概略を
JSNA の分配側 GDP 及びその内訳項目の四半期速報
まとめたものが図表7である。分配側についてみると、
における表章については、現時点では図表8のような形
当該四半期終了の 2 か月程度後に公表しているケースが
態が想定される。ここでは、こうした分配側 GDP 各要
多い(ドイツはこれより若干早く、フランスはこれより
素の四半期速報値の開発に向け、現行の QE では推計さ
遅い)
。また、多くの国においてヘッドラインの GDP と
れていない雇用者報酬のうち海外からの雇用者報酬の純
して公表している計数(例えば英国は生産側、米国は支
受取 10、営業余剰・混合所得(純)、固定資本減耗、生産・
出側等)よりも分配側計数の公表時期は遅くなっている
輸入品に課される税、補助金の名目・原系列について現
図表8 分配側 GDP の四半期速報における表章イメージ
分配側 GDP(季節調整済)
(10 億円)
2012
Q1
Q2
Q3
Q4
雇用者報酬
営業余剰・混合所得
固定資本減耗
生産・輸入品に課される税(控除)補助金
国内総生産(分配側)
(注)国内総生産(分配側)は、統計上の不突合を含まない。
9
図表 6 の各国についてみると、営業余剰・混合所得を除く分配側の各項目についてはいずれの国でも基礎統計等から独自推計を行って
いる。営業余剰・混合所得については、米国、カナダ、豪州では独自推計を行っているが、英国、ドイツ、フランスでは生産側推計値
との残差として推計している。
10
現行の QE で公表されている雇用者報酬は国民概念(国内ベースの雇用者報酬と海外からの雇用者報酬の純受取の合計)であるため、
GDP を推計するために、海外からの純受取を除いて国内ベースの雇用者報酬のみを推計する必要がある。
- 123 -
行平成 17 年基準 JSNA をベースに推計方法を検討する。
(1) 推計方法の基本的考え方
ここで、
本稿では分配側 GDP(名目)構成項目の四半期速報
は、t 年第 n 四半期の四半期速報値を、
は、t 年第 n 四半期の補助系列の値を示している。
値の推計方法として、最新の確報値をベンチマークとし
て、項目ごとに関連する補助系列を用いて延長推計する
例えば JSNA で 2013 年第 4 四半期の速報値をこの方
方法を検討する。第 2 節で述べた通り、JSNA の年次推
法により推計する場合、2013 年第 3 四半期の速報推計
計時には、営業余剰・混合所得(純)の確報暦年値につ
値から、
いては、生産側 GDP(名目)の確報暦年値(統計上の
不突合を除くベース)をコントロールトータルとし、他
の項目の推計値を差し引くことで残差推計を行っている。 との延長推計を行うことになる。ここで第 3 四半期の速
しかし、速報時には生産側 GDP(名目)の四半期計数
報値は、事前に第 1 四半期の確報値が公表されているた
が存在しないため、営業余剰・混合所得(純)について
め、
は年次推計で得られる確報値をベースに延長推計する方
法を検討する 11, 12。
との推計が行われる。
(2) 延長推計手法
こうした前期比方式の特徴については、大守(2002)
現行の JSNA の四半期速報値の推計は支出側項目、分
配側の雇用者報酬(海外からの雇用者報酬を含む国民ベ
で以下の点が挙げられている。
ース)ともに原則前期比推計で行われている(内閣府
・ある期の水準が何らかの理由で過大(過小)に推計され
(2012)
)
。今回の検討でも、原則前期比推計により計数
ると、その後の系列は過大(過小)推計が続く。
を作成する。ただし、一部の系列については前年比推計
・補助系列の増加トレンドが年次推計値の増加トレンド
や、年次推計の前年値の横置きをしている。ここではこ
と大きく乖離する場合には、延長期間が長くなるにし
のうち前期比推計と前年比推計について大守(2002)
たがって推計精度が悪くなっていく(大守(2002)
では、
を参考に整理する。
補助系列の増加トレンドが年次推計の増加トレンドよ
13
り小さい場合を例に説明)。
①前期比方式
これは、作成したい系列の補助系列(基礎統計)の前
②前年比方式
これは、当該四半期の推計値が、補助系列の前年同期
期比を用いて延長する方法で、推計式は以下の通りとな
る。
比と前年同期値から決定されるというもので、かつて
11
現在内閣府において開発が進められている生産側 GDP の四半期速報値の推計は実質中間投入比率を直近値で固定し実質生産額の伸び
率で GDP を延長する方法(シングルインディケーター法)を採用する方針であり、名目値の推計は行わないことを想定している。
12
生産側 GDP 四半期速報値の推計について脚注 11 の方式が検討されている理由としては、①四半期の産出額については供給側 QE の推
計値を活用し支出側 QE とも整合的な推計が可能であること、②四半期の中間投入額については産業別に売上高に対する経費等の比率
(中間投入比率)を新たに推計する必要があるが、そのための基礎資料に制約がありダブルデフレーションが困難であること、③諸外
国(英国、豪州、カナダ、フランス)においてもシングルインディケーター法を採用していること、が挙げられている。
13
同論文では、ここで紹介する前期比方式、前年比方式の他に、関連四半期統計の前年の平均に対する比を用いて補外する方法である前
年平均比方式や、前年値との差を利用した方式等が紹介されている。
14
平成 14 年1~ 3 月期までの支出側QEの推計は、年次推計の四半期計数をベンチマークとし、主に需要側統計(「家計調査」、「法人企
業統計季報」など)の前年同期比で延長推計していた。具体的には以下の式からなる。
ここで、
は t-1 年第 n 四半期の年次推計値、
は t 年第 n 四半期の補助系列の値、
は t 年第 n 四半期の四半期速報値を
示している。因みに最新年の第 2 四半期については確報値が前年の第 1 四半期までしかないため、
という形で推計が行われることとなり、他の期に比べて推計精度が低下する懸念がある。
- 124 -
JSNA において標準的に用いられてきた方式である 14。
(3) 分配側 GDP の内訳項目毎の延長推計方法と使用す
る補助系列
前年比推計の特徴については、大守(2002)で以下の
本試論における各項目の延長推計方法と使用する補助
点が挙げられている。
・ある年の四半期分割に何らかの理由で歪みが生じると、 系列は図表9の通りである。なお、雇用者報酬について
次の年以降の推計がその上になされるので歪みが継続
は現在海外からの雇用者報酬の純受取額を含んだ計数が
する。
四半期速報値として公表されているが、分配側 GDP の
・推計には常に前年の四半期値が必要になるので、推計
の出発年の分割に応用することはできない。
作成ではこの海外分を除く必要があるため、この部分の
み検討を行う。
図表9 分配側 GDP 構成項目の延長推計方法の概要(案)
項目
延長推計の方法
雇用者報酬
QEで推計される雇用者報酬を活用。国内ベースにするため、国際収支統計から
別途得られる海外からの雇用者報酬の純受取分等を控除。
民間非金融法人
法人企業統計季報等から作成した計数の前年比伸び率による延長。
公的非金融法人
年次推計の前年同期値を横置き
金融機関
QE時に推計される「金融業の産出額」の前期比伸び率により延長。
家計
(持ち家)
支出側QEの持ち家の帰属家賃の前期比伸び率により延長。
農林水産
年次推計の前年同期値を横置き
個人その他
個人企業経済調査等から作成した計数の前期比伸び率により延長。
営業余剰
混合所得
直近の確報における実質固定資本減耗のウェイト及び速報時点でのデフレー
ターを用いて物価の変動による影響を反映
固定資本減耗
生産・輸入
品に課され
る税
(控除)
補助金
国税
発生主義化
(後述)を行う際の補助系列の前年同期比伸び率や租税及び印紙収
入、
収入額調(財務省)の計数により延長。
地方税
発生主義化
(後述)を行う際の補助系列の前年同期比伸び率や地方財政計画の
前年比伸び率等による延長。
年次推計の前年同期値を横置き
- 125 -
<年次推計四半期値の発生主義化>
雇用者報酬
雇用者報酬とは生産から発生した付加価値のうち雇用
生産・輸入品に課される税の発生主義変換については
者に分配されたもので、賃金・俸給、雇主の現実社会負
吉田・多田(2013)で議論されており、本稿ではここで
担、雇主の帰属社会負担からなる。賃金・俸給は現金給
の議論を参考にする。吉田・多田(2013)では、税目の
与、現物給与、役員給与、議員歳費等、給与住宅差額家
中でも税収の大きい消費税、関税、たばこ税、酒税、揮
賃の和である。雇主の現実社会負担はさらに雇主の強制
発油税、軽油引取税についてはこれらの納税を引き起こ
的現実社会負担と雇主の自発的現実社会負担に分けられ、 す経済活動を強く反映した基礎データを補助系列として
前者は公的年金、医療、介護等の社会保障基金に対する
比例デントン法により四半期系列の発生主義化(以下の
雇主の負担する保険料の合計額となる。後者は厚生年金
Box 参照)を行う方法が示されている。これ以外の方法
基金、勤労者退職金共済機構、適格退職年金制度等の年
としては、年度値の四等分割(固定資産税、自動車税等)
金基金に対する雇主の負担する掛金の合計額となる。雇
と現行のまま変更しない(自動車重量税等)という処理
主の帰属社会負担は退職一時金等からなる 。
が示されている。本稿ではここでの議論をもとに、図表
15
10 の方法により各税目の年次推計計数の発生主義化を
行い、作成した発生主義化後の年次推計系列を用いて、
<速報における延長推計の概要>
現在公表している速報値は 2.1 章で述べたとおり、基
延長推計の方法を検討する。
礎統計の対前期比により延長推計を行う。詳細は内閣府
(2012)を参照。海外からの雇用者報酬の純受取につい
<速報における延長推計の概要>
ては、本稿では国際収支統計の第一次所得収支(平成
発生主義化後の税目毎の延長方法についても吉田・多
25 年以前においては所得収支)における雇用者報酬(受
田(2013)で議論されており、本稿ではここでの議論を
取・支払)から得られる雇用者報酬の純受取額等を使用
参考に速報での延長推計方法を検討する。まず (1) 発生
する。
主義化に年度値の四等分割を行う税目については、租税
及び印紙収入、収入額調(財務省)から得られる税収実
績の伸びにより延長推計、または予算の年度税収の四等
生産・輸入品に課される税
生産・輸入品に課される税とは、財貨・サービスの生
分割により推計する。次に (2) 計数を変更しない税目の
産、販売、購入または使用に関して生産者に課せられる
うち、国税の自動車重量税は「租税及び印紙収入、収入
租税で、税法上損金算入を認められその負担が最終購入
額調」から実績値が得られるためこれを用いる 16。さら
者へ転嫁されるものである。生産・輸入品に課される税
に (3) 発生主義化を比例デントン法により行う税目のう
は現行 JSNA では納税等が行われた時点で記録する現金
ちたばこ税以外については、①税収実績(地方税は予算)
主義での計上が行われているが、分配側 GDP 四半期速
の前年比伸び率で延長する方法と、②発生主義化の際に
報の開発プロジェクトの中ではこれら納税等の義務を発
使用する補助系列の前年比伸び率により延長する方法の
生させる経済活動が生じる時点で記録する発生主義ベー
2 種類が考えられるため、税目毎に両方の方法により速
スで計数を記録し直すことを検討している。そこで、本
報値を作成し、事後的に判明する確報系列と比較を行っ
稿では、過去の検討をもとに発生主義化された四半期系
た。結果として、ここでは全ての税目で、②の方法によ
列を作成し、これに対して延長推計方法を検討する。以
る延長の方が改定が小さかったため、そちらを採用した。
下ではまず、本稿における年次推計の四半期値の発生主
たばこ税に関しては日本たばこ協会公表の販売本数実績
義化の方法について簡単に説明する。
に税率を乗じることで、四半期ごとに税収を推計する。
以上の詳細については、図表 10 を参照。
15
2016 年を目途とする JSNA の次回基準改定では、現在財産所得の配当として扱っている役員賞与や、雇用者ストックオプションを雇用
者報酬に含めるといった概念の変更が行われる見込みである。
16
地方税については、多くの項目で速報推計時に税収実績が揃わない実情を踏まえ、原則予算による延長推計を検討する。
- 126 -
比例デントン法について
比例デントン法とは、四半期に関する補助系列の情報を用いて暦年(もしくは年度)値を 4 分割する推計
手法の一つであり、IMF等が最良の手法として推奨しているものである。
補助系列を用いた四半期分割の手法としては、各暦年(もしくは年度)値を毎年の四半期補助系列の情報
でそれぞれ分割するプロ・ラータ法も有名であるが、この手法の場合、前年 10-12 月期から当年 1-3 月期(年
度値であれば当年 1-3 月期から当年 4-6 月期)へかけての伸び率に暦年値の動きが反映されることになるた
め、暦年値に大きな乖離がある場合にはこの期間に段差が生じてしまうという問題が発生する。
比例デントン法は下記の最適化問題(ここでの例は暦年値を分割する場合)を解くことによって、元の四
半期補助系列の情報(隣接する四半期値の動き)を最大限反映した四半期分割値を得る手法である。
内閣府「推計手法解説書(四半期 GDP 速報(QE)版)平成 17 年基準」より引用
消費税を例にあげると税の納付は事業者が行っており事業年度終了後 2 か月以内に納税することとされて
いる。このため、4 月~翌年 3 月を事業年度とする事業者が多ければ、消費の動きに関わらず翌年 4、5 月
の税収が大きくなるという特徴がある。これを発生主義で記録する場合、課税ベースの動きを示す四半期系
列(消費税は家計消費支出(除く帰属家賃)
)を用意し、税収をこれに連動させるため、比例デントン法を
用いる。
- 127 -
図表 10 生産・輸入品に課される税の発生主義化手法と補助系列(注1)
(注1)平成 17 年基準 JSNA において、事業税は生産・輸入品に課される税に含まれているが、次回基準改定にお
いては、所得・富等に課される経常税に含まれる予定であるため、今回の試算はそれを前提としている。
(注2)実際の税収の受払を発生ベースと整理する。
予見される火災、風水害、事故等に伴う滅失(資本偶発
補助金
国民経済計算上の補助金とは、①市場生産者に対して
損)を評価した額であり、固定資産を代替するための費
支払われるものであること、②市場生産者の経常費用を
用として総生産の一部を構成する。確報推計では、恒久
賄うために交付されるものであること、③財・サービス
棚卸法による期末資本ストック残高を推計し、これを資
の市場価格を低下させると考えられるものであること、
本財×制度部門(及び経済活動)のマトリックスとし
の三つの条件を満たす経常交付金である。一方、対家計
て分割し、再調達価格(時価)で表示する。償却率は『民
民間非営利団体や家計への経常的交付金は補助金ではな
間企業投資・除却調査』等のデータから推計し、償却方
く政府による他の種類の経常移転(他に分類されない経
法は社会資本も含めて全て定率法を採用している。また
常移転)として扱われる。また、投資、あるいは資本資
償却率は減価償却費のみならず、資本偶発損の概念も含
産、運転資金の損失補填のために産業に対して行われる
んだものとして定義する。現行では固定資本減耗は暦年
移転は、補助金ではなく資本移転に分類される。
値が恒久棚卸法により推計され、四半期値については暦
年値を四等分している。
<速報における延長推計の概要>
<速報における延長推計の概要>
年次推計の前年同期値を横置き。
速報時点の実質固定資本減耗は直近確報時と等しいと
仮定し、直近の確報暦年値における資本財別実質固定資
固定資本減耗
固定資本減耗は建物、構築物、設備、機械等再生産可
本減耗のウェイトで統合したデフレーターを用いて物価
能な固定資産(有形固定資産、無形固定資産)について、 の変動を反映させることで当該四半期における名目固定
通常の使用に基づく摩損及び損傷(減価償却)に加え、
資本減耗を推計。
- 128 -
耗が比較的大きな改定率となっており、今後はこれらの
営業余剰・混合所得(純)
営業余剰・混合所得(純)は、産出額から中間投入、
生産・輸入品に課される税及び補助金(控除)を差し引
項目の延長推計の手法及び季節調整方法を中心に引き続
き検討していくことが重要である。
いた国内要素所得から雇用者報酬を差し引いた残余であ
り、非金融法人企業、金融機関及び家計(個人企業を含
5
む)部門において発生している(なお、家計に擬制され
家計所得支出勘定四半期速報値の推計方法の
検討
る持ち家産業の営業余剰を含む)
。営業余剰は企業会計
上の営業利益に近い概念である 17。
ここでは第 2 節で説明した家計の所得支出勘定のうち
第1次所得の配分勘定、所得の第 2 次分配勘定、所得の
使用勘定のうち可処分所得の使用勘定の四半期速報値を
<速報における延長推計の概要>
延長推計に用いる四半期確報値については、確報暦年
推計する方法を検討する。これにより、可処分所得(純)
、
推計における民間非金融法人企業と個人企業の営業余
貯蓄(純)、貯蓄率の推計が可能となる。四半期速報に
剰・混合所得(総)の暦年値を用いて、これを、
「四半
おける表章案については、現時点で図表 11 を念頭に置
期別法人企業統計」の営業利益等に FISIM の控除や減
いている。以下、それぞれの項目の延長推計方法につい
価償却費の加算等を施した四半期補助系列を用いて四半
て述べる。
期分割を行い、そこからこれら部門の四半期固定資本減
耗(四半期一定)を控除して、営業余剰・混合所得(純)
(1) 家計可処分所得の四半期速報値の推計方法
を求める。
雇用者報酬
延長推計については、民間金融、公的金融部門は金融
業の産出の前期比伸び率により延長、個人持ち家は国民
現在公表している国民ベースの四半期速報値(推計方
法は内閣府(2012)を参照)がそのまま活用できる。
経済計算の持ち家の帰属家賃の前期比伸び率により延長
する。公的非金融、農林水産部門は年次推計の前年同期
営業余剰・混合所得(純)
値を横置きする。個人企業(その他)については「個人
企業経済調査」の一人当たり営業利益と労働力調査の産
第 4 節で述べた四半期速報値の推計のうち個人企業
(農林水産業、持ち家、その他)を援用することとなる。
業別従業者数から算出した営業利益の前期比伸び率によ
り延長する。民間非金融については、
「四半期別法人企
財産所得の純受取
業統計」の営業利益と人件費等から作成した補助系列の
前年比伸び率により延長する。
財産所得はある経済主体が他の経済主体の所有する金
融資産、土地、著作権、特許権及びこれに類似の無形資
産を使用することの見返りとして支払う所得及び帰属計
(4) 推計結果の検討
算が行われる所得と定義される。家計部門については受
今回の検討では①平成 22 年年次推計、②平成 23 年年
取側は利子、配当、保険契約者に帰属する財産所得、賃
次推計から延長推計を行い、2011 年 7-9 月期から 2012
貸料から構成され、支払側は利子、賃貸料から構成され
年 1-3 月期については平成 23 年確報値と、2012 年 4-6
る。
月期から 2012 年 10-12 月期については平成 24 年確報値
と比較を行い、改定の度合いを検証した(以下、リビジ
<速報における延長推計の概要>
四半期速報値の推計は項目ごとに行う。これらのうち
ョン・スタディと呼ぶ) 。
18
受取側の利子については、資金循環統計における家計部
これによると、分配側 GDP については▲ 0.6 ~ 1.1%程
門の資産残高の四半期系列等を用いて FISIM 調整後の
度の改定率(改定率の絶対値平均は 0.6%)となった。
受取利子の確報四半期値から延長推計する。受取側の賃
構成別では、営業余剰・混合所得(純)及び固定資本減
貸料については、家計調査の総世帯における全国の1人
17
営業余剰・混合所得(純)の四半期分割に用いる補助系列のうち、民間非金融法人企業については四半期別法人企業統計等を用いてい
「四半期別法人企業統計」における減価償却
るが、企業会計における減価償却費と JSNA における固定資本減耗の概念調整を行うため、
費と四半期固定資本減耗を用いて、組替えを行った。
18
延長推計の基となる確報及び比較対象の確報については、いずれも生産・輸入品に課される税について発生主義化を行った。また、営業
余剰・混合所得(純)については、民間非金融法人企業に係る脚注 17 の概念調整を行った系列を用いてリビジョン・スタディを行った。
- 129 -
図表 11 可処分所得(純)
、貯蓄率の四半期速報における表章イメージ
家計可処分所得(季節調整済)
(10 億円)
2012
Q1
Q2
Q3
Q4
雇用者報酬
営業余剰・混合所得(純)
財産所得の純受取
(控除)所得・富等に課される経常税
(控除)社会負担
現物社会移転以外の社会給付
その他の経常移転の純受取
可処分所得
家計貯蓄(季節調整済)
(10 億円)
2012
Q1
Q2
Q3
Q4
可処分所得(A)
年金基金年金準備金の変動(B)
(控除)最終消費支出(C)
貯蓄(D=A+B-C)
(%)
貯蓄率(D/(A+B))
あたり家賃地代から作成した補助系列の前年同期比伸び
に課される税同様、年次推計値の発生主義化を検討する。
率により延長する。これ以外の項目については、現時点
この点については吉田・多田(2013)で詳細な議論が行
で利用可能で適切な補助系列が無いことから、年次推計
われており、本稿ではここでの議論を参考に発生主義化
の前年同期値を横置きしている。
の方法を考える 20。具体的には、現金による社会保障給
付のうち、厚生年金と国民年金については当期と翌期を
1/2 ずつ足し合わせた上で、年度計が変わらないよう各
現物社会移転以外の社会給付
社会給付は、病気、退職といった特定の事象の要に応
期に均等に調整を加える方法により発生主義化を行う。
じて、家計が受け取る経常的な移転である。社会給付は、 現金による社会保障給付の他の支出項目と社会扶助給付
SNA 上、
「現物社会給付」と「現物社会移転以外の社会
については年度値を 4 等分割する方法で発生主義化を行
給付」に分けられる。
「現物社会移転以外の社会給付」
う。年金基金による社会給付と無基金雇用者社会給付に
には国民年金、厚生年金、共済年金等の各種公的年金給
ついては、実際に記録されている家計受取が発生ベース
付や失業給付、社会扶助給付等が含まれ、全額が家計部
と整理し、特段の処理を行わない(以下の図表 12)。
門の受取となる。この項目は、更に現金による社会保障
給付、年金基金による社会給付、無基金雇用者社会給付、 <速報における延長推計の概要>
社会扶助給付に分割される 19。
現金による社会保障給付のうち国民年金および厚生年
金については厚生年金保険・国民年金事業状況(月次)
における年金裁定額の四半期平均の前年同期比伸び率に
<年次推計値四半期値の発生主義化>
現物社会移転以外の社会給付についても生産・輸入品
より延長する。労災等に関しては予算書を用いて前年比
19
社会保障基金と年金基金は、運営主体が一般政府か金融機関かで区分される。一般政府である社会保障基金に含まれる諸機関について
。
は、「国民経済計算年報」参考資料 V を参照。当資料に挙げられていないものは、年金基金(金融機関)
20
現金主義ベースの計数にみられる特徴として年金給付を例に挙げると、この四半期パターンは四半期おきに給付額が激しく増減している
(4-6 月期、10-12 月期が多く、1-3 月期、7-9 月期が少ない傾向にある)が、これは偶数月に 2 ヶ月分の年金の支給がなされるという事情
のため(一年分の年金は年 6 回の偶数月に支払われ、それぞれに支払月には、その前月までの 2 ヶ月分の年金が支払われる)である。支
給月や年間の支給回数といった制度要因による増減は生活保護といった社会扶助給付にもみられる。
- 130 -
図表 12 現物社会移転以外の社会給付の発生主義化の方法
現物社会移転以外の社会給付
構成項目
発生主義化の手法
現金による社会保障給付
恩給は年度値の四分割、年金は当期と翌期を1/2ずつ足し
合わせた上で、年度計が変わらないよう各期に均等に調
整を加える。
年金基金による社会給付
変更なし
無基金雇用者社会給付
変更なし
社会扶助給付
年度値を四分割
伸び率により延長する。失業給付に関しては、雇用保険
いては年次推計の前年同期値を横置きする。
事業月報における給付額(一般求職給付、高年齢、短期
雇用、就職促進、教育訓練、雇用継続の和)および雇用
所得・富等に課される経常税
調整助成に関する休業等実施計画受理状況における支給
所得・富等に課される経常税とは、家計においては所
決定状況支給額(月次)を用いて前年同期比伸び率によ
得税など、経常的な所得・資産に対する税金である。家
り延長する。年金基金による社会給付は適当な基礎情報
計が支払う主要な税としては、所得税、自動車重量税、
がないため、年次推計の前年同期値を横置きする。無基
道府県民税、市町村民税などが含まれる。
金雇用者社会給付は雇用者報酬に含まれる帰属社会負担
を計上する。社会扶助給付は「被保護者調査」
、
「福祉行
<年次推計四半期値の発生主義化>
政報告例」(月次)における生活保護受給者数を用いて
前年同期比伸び率により延長する。
所得・富等に課される経常税についても、生産・輸入
品に課される税、現物社会移転以外の社会給付同様に、
年次推計値の発生主義化を検討する。これについては吉
田・多田(2013)の先行研究がある。本稿ではここでの
その他の経常移転
非生命保険取引と他に分類されない経常移転からなる。
議論を参考に、幾つかの税目について発生主義化を行う。
他に分類されない経常移転は、罰金とその他の経常移転
発生主義化の手法は①現金主義ベースの財政計数につい
(贈与金・仕送り金、非営利団体への寄付金、海外取引等)
て、その背景にある経済活動の生じた時点と現金取引が
生じた時点に制度的な違いが生じることを踏まえ一定期
にわけられる。
間シフトするもの、②納税義務を生ずる経済活動の動き
を反映した基礎データを補助系列として比例デントン法
<速報における延長推計の概要>
他に分類されない経常移転のうちその他の経常移転
により分割するもの、③年度計数を 4 等分割するもの、
④
(仕送り金、贈与金)はそれぞれ家計調査における「仕
実際の支払が発生ベースになっていると整理するもの 22
送り金」、「贈与金」の前年同期比伸び率により延長し、
の 4 通りである。税目毎の発生主義化の方法は図表 13
受取、支払双方に計上する 。非営利団体への寄付金に
に整理した。
21
ついては、家計調査の「寄付金」等により作成した補助
系列の前年同期比伸び率により延長する。海外への経常
<速報における延長推計の概要>
移転、海外からの経常移転については、国際収支統計の
延長推計には、国税は「租税及び印紙収入、収入額調」
、
第二次所得収支(平成 25 年以前においては経常移転収
各年度の予算等を使用し、地方税は地方財政計画を使用
支)より推計。非生命保険金、非生命保険料、罰金につ
する。税目毎の延長方法は図表 13 に整理した。①の方
21
22
受取側と支払側の仕送り金・贈与金は家計間の取引であるためネットでは相殺される。
一部、情報の制約等により発生主義化の方法について検討中のものを含む。
- 131 -
図表 13 所得・富等に課される経常税の発生主義化と延長推計の方法
(注1)本稿では、申告所得税額を給与所得者、事業所得者、その他(不動産所得者、雑所得者等)の年度税収の比で分割し、
作成した各々の系列について発生主義化を行う。
(注2)これらについては発生主義化に必要な基礎データの 1 部が揃わない等の理由により、「本稿では実際の税収を記録
しており、変更なし」とした。
(注3)実際の税収の受払を発生ベースと整理する。
(注4)平成 17 年基準 JSNA において、事業税は生産・輸入品に課される税に含まれているが、次回基準改定においては、
所得・富等に課される経常税に含まれる予定であるため、今回の試算はそれを前提としている。
法により発生主義化を行う国税の源泉所得税、復興所得
実社会負担はさらに強制的社会負担と自発的社会負担に
23
税は基礎統計の計数を 1 ヶ月シフトさせ、再集計する 。
分かれる。強制的社会負担は社会保障基金に対する家計
②の方法により発生主義化を行う国税の申告所得税の一
の負担分であり、自発的社会負担は年金基金に対する家
部、地方税の利子割と配当割については発生主義化に使
計の負担分である。雇主負担分については、いずれもま
用する補助系列の前年比伸び率により延長する。③の方
ず家計が雇用者報酬として受取り、次いで家計が社会保
法により発生主義化を行う税目のうち、国税の申告所得
障基金および年金基金に支払ったとみなす迂回処理が行
税の一部については申告所得税の実績値の前年比伸び率
われる。これらはいずれも家計部門の支払となる 24。帰
により延長し、地方税の各税目については予算計数を 4
属社会負担は、社会負担のうち雇主が社会保障基金、年
等分割する。④の処理を選択する税目のうち国税の申告
金基金などの外部機関を利用せずに雇用者に支払う福祉
所得税の一部及び国税の自動車重量税は実績値を使用す
的な給付であり、退職一時金等が該当する。
る。地方税の各税目については、いずれも予算の前年比
伸び率により延長する。
<速報における延長推計の概要>
雇主の現実社会負担及び帰属社会負担は QE 推計の際
社会負担
に雇用者報酬の内訳として推計されるため、それを用い
社会負担には現実社会負担と帰属社会負担があり、現
る。雇用者の社会負担は、雇主の現実社会負担を補助系
23
具体的には、基礎統計における、当該年度の 5 ~ 7 月の税収を 4 - 6 月期分、8 ~ 10 月分を 7 - 9 月期分、11 ~翌1月分を 10 - 12 月
期分、2 月~決算までを 1 - 3 月期分として計上。このため、税収の年度合計は決算と一致する。
24
受取側については、前者が一般政府、後者が金融機関の受取となる。
- 132 -
出に、居住者家計による海外での直接購入を加算し、非
列として前年同期比伸び率により延長する。
居住者家計による国内での直接購入を控除したベース)
以上の推計により得られた第二次分配勘定の受取側合
で記録されている。
計と支払側合計の差分が可処分所得(純)となる。
<速報における延長推計の概要>
QE の際に支出側で推計される計数を使用する。
(2) 可処分所得推計結果の検討
(1) の方法により推計した可処分所得(純)について、
以上の推計により得られた可処分所得の使用勘定の受
分配側 GDP と同様、2011 年 7-9 月期から 2013 年 1-3 月
期にかけてリビジョン・スタディ (家計貯蓄率も同様)
取側合計と支払側の差分が貯蓄(純)となる。家計貯蓄
を行った。家計可処分所得(純)の改定率は▲ 0.5% ~
率は以下の式により、推計される。
25
1.4%(改定率の絶対値平均は 0.7%)となり、
項目別では、
その他の経常移転の純受取の改定率が大きい。家計可処
貯蓄率=貯蓄(純)÷(可処分所得(純)
分所得
(純)
の改定率への寄与は、雇用者報酬、財産所得
+年金基金年金準備金の変動)
の純受取、営業余剰・混合所得
(純)
(特に個人企業の混
合所得分)が相対的に大きく、これらの項目の延長推計
方法を中心に引き続き検討していくことが重要である。
貯蓄率についてリビジョン・スタディを行ったところ、
改定幅は▲ 1.3 ~ 1.8%(改定幅の絶対値平均は 0.9%)
となっている。これは家計最終消費支出の改定要因と家
(3) 家計貯蓄(純)
、家計貯蓄率の推計方法及び推計結
果の検討
計可処分所得(純)の改定要因がともに影響しており、
まずは家計可処分所得(純)の精度向上の検討を続ける
家計部門の所得の使用勘定のうち、可処分所得(純)の
ことが重要である。
使用勘定の構成項目の推計について検討する。第 2 節で
述べたように、可処分所得の使用勘定は受取側に可処分
(4) 家計可処分所得(純)及び家計貯蓄率の季節調整
所得
(純)
、
年金基金年金準備金の変動があり、
支払側には
系列
最終消費支出(個別消費支出)
、貯蓄
(純)がある。この
第 1 節で述べた通り、分配側四半期速報値の公表は名
うち可処分所得(純)は (2) で推計した。ここではその他
目・季節調整系列を中心に行う予定である。そこで本節
の項目の推計法について受取側、支払側の順に検討する。 では、家計可処分所得(純)と家計貯蓄率について、季
節調整系列の試算を簡単に行う。安定した季節調整結果
を得るためには、ある程度長期の系列が必要となる。現
年金基金年金準備金の変動
年金基金準備金の変動は、
「雇主の自発的現実社会負
在 QE の季節調整は原則 1994 年 1Q から直近期につい
担」と「雇用者の自発的社会負担」を合計し、
「年金基
て行っている(雇用者報酬名目値については 1980 年 1Q
金による社会給付」を控除することで得られる。
から直近期)。分配側の系列については、昨年 10 月に長
期遡及が行われ、1994 年第1四半期から計数が公表さ
れている。本稿では、この公表計数をもとに現物社会移
<速報における延長推計の概要>
雇主の自発的現実社会負担は QE の際に雇用者報酬で
転以外の社会給付と所得・富等に課される経常税につい
推計されるため、これを使用する。雇用者の自発的社会
て発生主義化を行い再集計した名目・原系列の長期時系
負担及び年金基金による社会給付は (2) での推計値を使
列に対して季節調整を施す。季節調整は家計可処分所得
(純)についてはこの名目・原系列に対して直接行い、家
用する。
計貯蓄率については家計可処分所得(純)と年金基金年
金準備金の変動額の合計に対して季節調整をかけた計数
最終消費支出
家計の最終消費支出が国民概念(国内家計最終消費支
と、現在 QE で公表を行っている家計最終消費支出の季
25
今回の検討では、分配側 GDP 同様、①平成 22 年年次推計、②平成 23 年年次推計から延長推計を行い、2011 年 7-9 月期から 2012 年
1-3 月期については平成 23 年確報値と、2012 年 4-6 月期から 2012 年 10-12 月期については平成 24 年確報値と比較を行い、改定の度合
いを検証した。また、延長推計の基となる確報及び比較対象の確報については、いずれも生産・輸入品に課される税、現物社会移転以
外の社会給付、所得・富等に課される経常税について発生主義化を行ったほか、営業余剰・混合所得(純)についても、概念調整後の
系列を使用した。
- 133 -
節調整済計数から季節調整済ベースの計数を作成する 26。
このうち 1998 年第1四半期の増加については、所得税・
試算結果を家計可処分所得(純)は図表 14、家計貯蓄
個人住民税の特別減税によるもの、2001 年第 2 四半期
率は図表 15 に示す。家計可処分所得については、1998
の減少は金融緩和等を背景とした利子率の低下に伴う利
年第1~第 2 四半期、2001 年第 2 四半期、2009 年第1
子純受取の減少によるものと考えられる。また、2009
~第 2 四半期において前期比に大きな変動がみられる。
年第1四半期の減少はリーマンショック後の景気の低迷
図表 14 家計可処分所得(純)の推移(上:実数、下:前期比)
(注)家計可処分所得(純)の原系列そのものに対し季節調整をかけている。
26
季節調整は現在 QE で使用している米国商務省センサス局のセンサス局法 X-12-ARIMA により実施した。先行き予測の期間は 8 期とした。
後戻り予測については行っていない。異常値・レベルシフトについては、X-12-ARIMA におけるこれらの自動検出機能である outlier 機
能により検出されたもののなかから選択した。閏年調整については、回帰変数の有意性が認められなかったことから行っていない。
- 134 -
図表 15 家計貯蓄率の推移
(注)家計可処分所得(純)と年金基金年金準備金変動額の原系列の合計額に対し季節調整をかけ、これ
と現在 QE で公表を行っている家計最終消費支出の季節調整済値から季節調整済家計貯蓄率を作成。
に伴う雇用者報酬の減少、第 2 四半期の増加は家計への
ついての精度検証として、データの蓄積に伴い、リビジ
緊急支援として給付された定額給付金によるものと考え
ョン・スタディを継続的に進めるとともに、営業余剰・
られる。家計貯蓄率は、長期的に低下傾向にあるが、近
混合所得(純)
、固定資本減耗等の項目を中心として推
年は横ばいとなっている姿が見て取れる。今後、可処分
計方法の改善に取り組むとともに、季節調整方法につい
所得(純)及び貯蓄率の推計精度向上に向けた取組とと
てさらなる検討を行うことが重要である。
もに、異常値の処理の在り方や項目毎の季節調整の検討
といった季節調整の方法の精緻化に取り組んでいくこと
が重要である。
ここで、現時点では分配側 GDP について実際に参考
系列として導入を目指しているのは 2016 年中を目途と
する JSNA の次回基準改定よりも後の然るべきタイミン
グである。次回基準改定では雇用者報酬の定義範囲をは
6
まとめ
じめとして、2008SNA 対応等に起因する概念変更が行
われるため、今後はこれらに対応した速報推計のあり方
本稿では平成 17 年基準の現行 JSNA をベースに分配
についても合わせて検討していくことが肝要である。
側四半期速報の推計方法について現在の開発状況を記し
たほか、分配側 GDP、家計可処分所得(純)
、家計貯蓄
こうした取組を進め、2016 年中を目途とする JSNA
率の四半期速報値について現時点での暫定的な試算を踏
の次回基準改定後、できるだけ早期に、生産側 GDP と
まえて、推計精度の検証等を行った。
ともに、分配側 GDP、家計可処分所得(純)、家計貯蓄
率等の四半期速報値を参考系列として公表できるよう、
今後の課題としては、速報段階を想定した延長推計に
検討を進めてまいりたい。
- 135 -
参考文献
総務省(2009, 2014)公的統計の整備に関する基本的な計画(平
成 21 年 3 月 13 日閣議決定、平成 26 年 3 月 25 日閣議決定)
内閣府(2013, 2014)国民経済計算次回基準改定に関する研
究会第 5 回(平成 25 年 9 月 12 日)資料 5、第 10 回(平
成 26 年 7 月 4 日)資料 2「生産側及び分配側の四半期
速報値の開発・導入(QNA の整備)に向けて」
内閣府(2013)「推計手法解説書(年次推計編)平成 17 年基
準版」
内閣府(2014)平成 24 年度国民経済計算年報
内閣府(2012)
「推計手法解説書(四半期別 GDP 速報(QE)編)
平成 17 年版」
European Commission, International Monetary Fund, Organisation
for Economic Co-operation and Development, United Nations
and World Bank (2009) ”System of National Accounts 2008”
増田幹人、多田洋介(2014)「2013 年 10 月開催 OECD 国民
経済計算に関する作業部会に係る出張報告―供給・使用
表(SUT)に関する議論を中心に―」
『季刊国民経済計算』
No153
大守隆(2002)
「GDP 四半期速報の推計手法に関する統計的
一考察」ESRI Discussion Paper Series No.13
吉田有佑、多田洋介(2013)「我が国国民経済計算における
四半期税収等の発生主義による記録について」『季刊国
民経済計算』No152
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