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レーザーマイクロテクスチャ による摩擦低減技術
レーザー加工技術の金型分野への応用 特集 応用事例 8 レーザーマイクロテクスチャ による摩擦低減技術 ㈱リプス・ワークス 井ノ原 忠彦* プレス加工、絞り加工の現場では、粘性の高い短鎖 してピコ(10−12)秒は、表面組成分解加工である。 塩素化パラフィン鉱物加工油を大量に使用している。 ピコ秒レーザーを導入した時点では、パルス数を単調 これは作業環境を著しく悪化させるばかりでなく、加 に増加させた場合、所定のアスペクト比で制御不能と 工後の洗浄工程においても大量の洗浄水が必要となる。 なり不安定化するなど課題が多く、特徴を活かすべく 加工油の削減、洗浄水の削減は、環境影響側面からも 光学系(集光性能、耐光性能)とモーションコントロ 必須条件である。しかし、加工油の削減は金型のかじ ーラ(高速描線精度、レーザーパルス同調機能)のす りや短命化につながり、完成した加工品質も満足のい べてを自社開発せざるを得ない状況であった。図 1 くものではない。そのため、より複雑形状のプレス・ が高性能をデザインエンクロージャした当社オリジナ 絞り加工を行うためには、強い極圧力を回避するため ルレーザー加工機である。このレーザー加工機は、ピ に、より多くの加工油が必要とされてきた。 コ秒を表す Pico と熱影響を排除した意味の Cool を 一方、トライボロジーの世界では、長年にわたり表 面機能の向上が研究されてきたが、表面機能を向上さ 合わせて「PiCooLs」とした。 現在では、フェムト(10−13)秒レーザー加工機が せた金型の製造技術、その金型の特徴を活かすプレス、 加わり、4 台の極短パルスレーザーが稼働している。 絞り加工、成形技術が追随せず、理論と現場対応力の 以下にレーザー加工技術を紹介する。 間に乖離が生じていた。その隙間を埋めるために、金 1.微細孔加工 型表面の高硬度化と金型表面全面にまんべんなく加工 一部を除き孔加工は基本的にストレート形状が望ま 油を行きわたらせるための、微細構造をもつマイクロ れるが、この形状は光を収れんするレーザー加工原理 テクスチャ(いわゆるミクロプール、微細な油だまり) と背反する。この収れん角度を見かけ上打ち消すため を形成する技術がある。その構造の優位点を十分に理 に、真円性を向上させたビームローテーターを独自開 解したうえで設計された金型を用いて、ニーズに合っ 発した。詳細は省くが、ビーム角変位と軌道半径を高 た最適加工条件を確立し、表面摩擦係数の低減、表面 速円運動中に芯ブレなく回転させることにより、スト の高硬度化を実現する必要がある。表面摩擦係数の低 レートで高精度の孔加工技術を確立した。壁面の粗さ 減は、少なからず、極圧力、かす上がりなどの現象に 貢献するものと考えている。 極短パルスレーザーの特徴と当社の取組み ピコ秒、フェムト秒レーザーなどの極短パルスレー ザーでの加工プロセスは、従来の伝熱型昇華加工に対 * Tadahiko Inohara:代表取締役 COO 〒144−0033 東京都大田区東糀谷 6−4−17 TEL(03)3745−0330 図 1 開発した短パルスレーザー加工機 型技術 第 30 巻 第 6 号 2015 年 6 月号 065