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千葉県農業の振興を目指した農業教育の在り方

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千葉県農業の振興を目指した農業教育の在り方
『千葉県農業の振興を目指した農業教育の在り方』
-千葉県農業教育の改善・充実の指針(改定版)-
Ⅰ 農業の役割と今後の方向
Ⅱ 千葉県農業と農業政策の動向
Ⅲ 農業教育の意義
Ⅳ 農業関係高校の現状と課題
Ⅴ 今後を見据えた農業関係高校の役割と在り方
Ⅵ 農業関係高校の改善・活性化策
Ⅶ 学校づくりの将来展望
平成23年 3月
千葉県高等学校教育研究会農業部会
千葉県農業教育基本問題研究委員会
まえがき
平成9年4月に千葉県高等学校教育研究会農業部会では、農業関係高校をとりまく環境の変化や卒
業生の多様な進路選択への対応から、農業関係高校がかかえる課題を整理するとともに、21世紀を
展望した本県農業教育の在り方を検討するため、千葉県農業教育基本問題研究委員会を設置し研究し
ました。
研究成果は、平成10年3月「21世紀を展望した農業教育の在り方-千葉県農業教育の改善・充
実の指針-」という報告書にまとめ、今後の本県の魅力ある農業関係高校づくりと農業教育推進の基
本的な指針としてきました。
さて、農業の持つ役割については、単に食料の生産だけではなく、環境の保全など多面的機能を有
することが広く知られており、その重要性は近年特に重視されてきています。しかし、わが国の農業
に目を向ければ、急速に国際化した世界経済の中で、農産物の貿易自由化への対応や食料安全保障で
危惧されている食料自給率の向上対策、さらには意欲的で創造的な農業の担い手の育成など緊急かつ
具体的な取組が強く求められています。
農業教育に携わる者は、このような変化の激しい時代にこそ「農林水産業の将来ビジョン農業編」
(平成22年4月)を踏まえ、農業教育の果たす意義と役割をしっかりと見つめ直し、千葉県農業の
持続的な発展を担うことのできる優れた人材育成を目指し、真剣に農業教育に取り組む必要がありま
す。
本部会では、千葉県農業教育基本問題研究委員会を平成22年4月に設置し、千葉県農業の振興を
目指した農業教育の在り方について、平成21年3月に告示された「高等学校学習指導要領」及び千
葉県教育振興基本計画『みんなで取り組む「教育立県ちば」プラン』、千葉県総合計画「輝け!ちば
元気プラン」等を踏まえるとともに、平成10年度以降の農業教育の課題や成果等を精査し、今後を
見とおし鋭意議論を重ね検討しました。
農業の持続的発展には、若者にとって魅力があり力強い産業に育つ、国・県の農業政策が重要であ
ります。また、一方では、保護された農業から脱皮し、今後の農業・農村の6次産業化等も視野に入
れ、国際競争力を付け企業的な経営として成り立つ新しいタイプの農業を展開すべきという意見もあ
ります。
本委員会では、検討の基本的視点として、本県農業教育の課題を明確にし、その解決に向け、広い
視野に立った農業教育のビジョンを掲げ、関係機関・団体等と緊密な連携を図り、組織的活動に取り
組むことのできる農業教育の在り方としました。特に産業教育の一翼を担う農業教育は、食料の安定
確保、環境保全機能の向上等のために農業の担い手を育成することを大きな柱とするとともに、農業
の社会的意義・役割を理解した農業関連産業従事者を育成する必要があります。
この報告書を多くの方に御高覧、御批評いただき、若者に夢と希望を与えることのできる魅力ある
農業関係高校づくりと農業教育の推進に資するとともに、“農業県千葉”にふさわしい農業教育振興
の一助になることを心から願っております。
平成23年 3月
千葉県高等学校教育研究会農業部会
部会長 宗政 恒興
目
次
Ⅰ 農業の役割と今後の方向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1 農業の役割
2 我が国の農業の現状と今後の方向
Ⅱ 千葉県農業の現状と農業政策の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1 千葉県農業の現状
2 千葉県の施策と動向
Ⅲ 農業教育の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1 次代を担う人材を育成する農業教育
2 自然から生き方や心の豊かさ、たくましさを学び生きる力を育む農業教育
3 社会の変化に対応する力を育む農業教育
4 生涯にわたって必要とされる農業教育
Ⅳ 農業関係高校の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1 農業関係高校の現状
2 農業関係高校の課題
Ⅴ 今後を見据えた農業関係高校の役割と在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1 農業関係高校の役割
2 農業関係高校の在り方の基本的視点
Ⅵ 農業関係高校の改善・活性化策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Ⅶ 学校づくりの将来展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
使用資料・用語解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
千葉県農業教育基本問題研究委員会組織等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
Ⅰ 農業の役割と今後の方向
1
農業の役割
農業は今から1万年以上前に東南アジアの地域で始まったとされているが、それは人類が飢餓か
ら解放されることを可能にした。また、農業生産力の拡大は、人間の定住を可能にし、集落を形成
させた。同時に様々な農業技術の発展は、天文学や暦および文字に始まる文化・文明の発展の基と
なった。
しかし、21世紀を迎えた今日でも、未だ貧困や飢餓は地球上から根絶されていない。また、新
たに地球規模で人類の生存をも脅かすほど環境問題が深刻な事態になっている。人類が生き残るた
めには、農業・環境が重要な鍵になっている。
(1)食料供給
農業の役割は食料供給の観点から見ると、太陽エネルギーを固定し生命活動に必要なエネルギ
ーを得る、と同時に生命の源であるタンパク質を合成し、ビタミン・ミネラルなどの栄養を供給
することである。現在地球上の人口は急激な増加をたどっており、2050年には90億人を超
える(国連人口基金「世界人口白書」)と言われている。現在、世界で9億人以上の人々が慢性
的に栄養不良の状態にあり、限りある農地の保護と併せて農業生産力を飛躍的に高めていかなけ
ればこれからの人口増加に対応できないであろう。資源を持たない我が国は、貿易収支が黒字で
あれば外貨で食料を輸入できるが、それがなければ食料輸入は途絶える。更に今後は、世界的な
食料不足により外貨で食料輸入ができない時代もおとずれることが予測できる。
(2)多面的機能
農業は国土の保全、水源の確保、自然環境の保全や良好な景観の形成、農村における文化の伝
承など、私たちの生活に対して多面的な機能を発揮している。その価値は、金額に換算すると5
兆円とも10兆円とも言われている。このような公益的価値を正しく評価し、農業を守っていく
ことは国家・国民的課題である。
(3)経済的機能
現在、我が国の農業生産高は8兆円程度であり、第二次産業・第三次産業と比較すると国内総
生産に占める比重は年々低下している。しかし、そうした農業産出額・農業就業人口の減尐の一
方で様々な企業が農業に参入し、生産に関わる人々の裾野は広がっている。また、農業生産には
種苗生産や農業資材、肥料・農薬など多くの産業分野が関わるだけでなく、農業生産物の流通・
加工・販売などの関連分野に様々な職種・業種の人々が関わり、多彩な日本人の食生活を支えて
いる。
2
我が国の農業の現状と今後の方向
戦後60年の間に日本経済は、工業を中心に急速な発展を遂げた。しかし、国際社会のグローバ
ル化の中で、世界市場における自由貿易の基調はより一層強まり、食料輸出大国から安価な農産物
が大量に流入して我が国の農業は大きな打撃を受けた。また、平成7年には米のミニマムアクセス
を受け入れ、現在の輸入量は約70万トンに至っている。
こうした情勢を反映して我が国の農業は、米価をはじめとした国内農産物価格の低迷、後継者不
足による農業従事者の高齢化、耕地面積の減尐や耕作放棄地の増加、中山間地の過疎化など農村の
活力の低下が進み、食料自給率は40%を下回るまでに低下し、農業就業人口もこの5年間で70
万人も減尐した。
1
平成11年に「食料・農業・農村基本法」が制定され、平成22年にはこれをもとに新たな「食
料・農業・農村基本計画」が策定された。新基本法では「食料の安定供給」を確保するとともに、
農業の公益的価値を評価し「多面的機能の十分な発揮」
、
「農業の持続的な発展」と「農村の振興」
を図ることとした。
一方では平成8年の冷害を契機として、食料安全保障の観点から自国の食料は国内で供給すべき
であるという国民世論が高まりを見せた。また「安心・安全な食料」を確保することと同時に「国
土や環境の保全」などに果たす農業の役割が見直され、我が国の農業を守り発展させることは、我
が国の将来にとって不可欠な国民的課題であることが国民世論となりつつある。こうした背景から
平成22年度から水田作を対象とした戸別所得補償制度がモデル対策として示され、平成23年度
から畑作物も含め本格実施される。また、健康面においても日本型食生活が大きく見直されてきて
いる。これらを背景に我が国の農業は次のような新たな時代を迎えている。
(1)農業分野の拡大
これまでの農業として扱われる分野は、主として栽培・飼育が中心であったが、今日農業の多面
的な機能が評価され、生産販売から加工・流通、さらには環境保全、観光・保養、健康・福祉の分
野まで扱われるようになった。特に生活を文化的に豊かにするためのグリーンツーリズムやセラピ
ーなどの役割も高く評価されるようになってきた。
(2)農業経営の多様化
担い手不足や高齢化により農家戸数、農業就業人口とも減尐し、農業の経営形態も大きく変化を
してきている。特に集落営農や農業生産法人の増加、株式会社の農業参入など家族経営を基本とし
ながらも様々な形態の農業経営が行われている。
(3)農業の多面的機能
農業の多面的機能が評価されているが、環境保全に果たす農業の公益的価値は計り知れないもの
がある。温室効果ガス排出量の増大による温暖化の問題は人類の存亡に関わる緊急課題であると警
鐘が鳴らされている今日、農業こそが人類を救う手段であるとも言われている。
(4)食品の安全
禁止された農薬の検出や産地偽装などが相次いだことから「安全・安心な食料」の確保は国民的
課題として定着しつつある。今後トレーサビリティシステムと組み合わせて消費者の信頼を確保し
ていくことが、我が国の農業の発展に不可欠である。
(5)都市緑化の推進
都市計画に基づいて緑地面積を確保するだけでなく、ビルの屋上を庭園や農場にするなど、英知
を出し合って人間が住みやすい環境を確保する取り組みが行われている。
このように、農業の重要性が評価され、農業経営に新規参入する若者などが増えている一方で、
自由貿易協定(FTA)
、特に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟によっては我が国の
農業は壊滅的な打撃を受けるとの見方もあり、これらの問題をめぐっては世論を二分するほど論議
が沸騰している。
Ⅱ 千葉県農業の現状と農業政策の動向
1
千葉県農業の現状
平成21年の農業産出額は全国第3位であり、首都圏の重要な食料供給基地の役割を担って
2
いるが、近年の低価格な野菜や肉などの輸入農産物の増加や産地間競争の激化に加え、施設園
芸の燃油や家畜用穀物飼料の国際取引価格の不安定さなどから、県内農家の経営も厳しさを増
している。また、担い手の減尐や高齢化、都市化の進展などにより生産基盤の弱体化や農山漁
村の集落機能の低下が進んでいる。
農業産出額は4,216億円で、園芸を中心とした高生産農業が展開されている。また、生産農業
所得は1,319億円で全国第3位、農家1戸あたりの生産農業所得は1,609千円、耕地10a
あたりの生産農業所得は107千円と全国平均を大きく上回り、生産性の高い営農が行われている。
産業就業人口では、県内総就業者数(平成17年)は2,949千人で、そのうち第1次産業が
108千人(構成比3.7%)で農業は101千人となっている。
土地利用(平成20年)においては、千葉県の総面積51.6万haのうち農地用が13万ha
(25.2%)
、森林が16.1万ha(31.3%)、宅地・その他が22.4万ha(43.5%)
である。
平成21年の耕地面積は、129,400haで水田75,400ha、畑54,400ha
であり水田率は58.3%である。
農家戸数については、減尐傾向にある。また、専兼業別の構成は、専業22.6%、第一種兼業
16.4%、第二種兼業61.0%である。
主業農家の経営規模では、2.0~3.0haを持つ農家が22.9%と最も多い。
自立経営可能な目安とされる700万円以上の販売を行っている農家は全体の15.6%であ
る。
2
千葉県の施策と動向
(1)農業王国千葉の確立
ア 千葉県では、平成22年3月に中長期的な視点に立った県政全般に関する最上位の基本的
かつ総合的な計画として、県民の「くらし満足度日本一」を基本理念とする「千葉県総合計
画『輝け!ちば元気プラン』
」を策定した。その中で農林水産業については、
「地域を支える
力強い農林水産業」を10年後の目指す姿とし、本年度から平成24年度まで3年間で3施
策に重点的に取り組むこととした。
(ア)販売施策「光り輝く千葉の魅力発信」
(イ)生産・担い手施策「農林水産業の生産力強化と担い手づくりの推進」
(ウ)地域づくり施策「緑豊かで活力ある農山漁村づくりの推進」
イ 平成22年度計画
(ア)
「食の宝庫ちば」の魅力を県内外に発信し、農林水産物の知名度向上に取り組む。
(イ) 既存ハウスの改修等の支援を創設することにより、既存施設園芸産地の再構成を進め、
ゆるぎない「
『園芸王国ちば』」の確立を目指す。
(ウ) 新たに国が実施する「米戸別所得補償モデル事業」を活用するとともに、飼料用米・
ホールクロップサイレージ稲・米粉用米の増産により食料自給力の強化を図る。
(エ)「美しいちばの森づくり」にあたっては、森林吸収源対策として間伐を推進すると共
に、
「法人の森制度」や「
『ちばの木』CO2固定量認定制度」等の認証を進め、企業や県
民参加による森林資源の循環利用に取り組む。
(2)活力ある農村づくり
ア 地域資源としての遊休農地の有効活用
3
耕作放棄地面積は販売農家で6,822ha、自給的農家は2,770ha土地持ち非農家
は7,466haである。特に自給的農家および土地持ち非農家が増加傾向にあり、平成17
年には耕作放棄地面積の6割が自給的農家および土地持ち非農家で占められている。今後、
昭和一桁世代の農業従事者のリタイヤが加速することが予想され、地域によっては耕作放棄
地のさらなる増加も懸念される。
これに対して、耕作放棄地応援団を募集したり、国の耕作放棄地再生利用緊急対策交付金
などを利用したりして、耕作放棄地の再生利用が推進されている。
イ 地域資源を活用した農村の活性化
農業、林業、水産業、食品産業、観光業などとの連携のもと、小規模農家や女性農業者な
ど多様な担い手が地域資源を積極的に活用し、農村の活性化が図られている。また、都市と
農村の活性化を促進するため、直売所のネットワーク化や都市住民の受け入れ体制の整備、
農林漁業体験を受け入れる人材養成などが行われている。
(3)美しいちばの森林づくり
ア 千葉県の森林の現状
本県の森林は、水源の涵養等の多面的機能の発揮を通じて県民生活に大きな役割を果たし
ている。平成17年度において面積は161,478haで、森林面積は年々減尐しており、
過去5年間では1,386ha(0.9%)減尐した。所有形態別の面積は、私有林が最も多
く142,965ha(88.7%)
、県有林8,526ha(5.3%)、市町村有林・財産
区有林1,902ha(1.2%)
、国有林7,754ha(4.8%)である。この構成割合
にほとんど変化はない。
イ 森林の公益的機能を目指した取り組み
ちばの美しい森林を蘇らせ次代に引き継ぐため、「林業振興を柱とする施策」から、「森林
の公益的機能の持続的な発揮を目指す施策」への転換が図られている。そこで、里山の保全・
整備・活用を進めるため、企業の里山活動や地域住民の主体的な活動が支援されている。ま
た、森林における資源の循環利用を推進するため、ちばの木の利用拡大が促進されている。
ウ 里山の保全を目指した取り組み
「千葉県里山の保全、整備及び活用の促進に関する条例(千葉県里山条例)」に基づく里山
活動を促進するための多様な取り組みを展開した結果、里山活動協定の認定件数は、平成
20年度末現在で102件、対象となる里山の面積は約105haとなった。
里山活動の推進母体である「ちば里山センター」では、里山活動団体のネットワークを構
築するとともに技術講習会や里山活動体験講座などのイベントの開催、里山活動団体への支
援と県民や企業等の里山活動への参加を促進した。また、土地所有者による管理が難しく森
林整備が希望される里山の情報を収集し、「里山情報バンク」をとおして里山活動団体など
に提供している。
(4)担い手育成
千葉県は、農業生産額全国第3位の農業県である。しかし、農業就業者は高齢化し、基幹的農業
従事者の平均年齢は62.8歳(平成20年度)であった。
農業就業者数も減尐を続けており、過去5年間の年平均では4,900人以上が減尐している。
その間の新規就農者は平成19年まで年間200人程度であった。新規就農者の統計数は、平成
20年は256人、平成21年は321人と急増している。
4
しかし、その要因は「農の雇用事業」による農業法人への就職者を統計に含めるようになったこ
とと、定年帰農者の増加等によるものなどであり、平成19年までの基準に照らせば現在も新規就
農者は200人程度で推移している。
千葉県は、担い手育成を喫緊の課題としてとらえ、平成20年度に農林水産部農業改良課を担い
手支援課に改編し、農業後継者の確保・育成に当たっている。具現化にあたって主な業務内容は下
記に示すところである。
ア 農業をめざす若者に対する支援、就農啓発
(ア)農業インターンシップの実施
(イ)高校卒業生を対象に「農業大学校農学科」を開設
(ウ)農業系短期大学卒業者等を対象に「研究科」を開設
(エ)県内で農業に取り組もうとする方を対象に「農業大学校研修科」を開設
(オ)「新規就農相談センター」「就農相談会」を開設
(カ)農業に関心があり将来千葉県で就農することを検討している方に「農業塾」を実施
(キ)地域農家に弟子入りしての「プロの技会得研修」実施
(ク)農業法人での研修または就農「農の雇用事業」の推進
イ 定年帰農者への支援
(ア)定年退職を機に「いきいき帰農者研修」を実施し、営農の担い手になれるよう支援
Ⅲ 農業教育の意義
農業教育は、農業自営者を養成することを大きな目標としており、これは今後も変わるものでは
ないが、現在、新たに農業教育に求められていることも多い。新学習指導要領においても、「持続的
かつ安定的な農業と社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育てる」としている。農業従事
者の高齢化や農家戸数の急激な減尐等により、次代を担う人材の育成が必要であるが、特に、生産・
流通・経営の多様化(6次産業化の進展)、技術の高度化・精密化、安全な食料の安定的供給への要
請や地球規模での環境保全の必要性等、農業のスペシャリストとして社会の変化に柔軟に対応できる
農村のリーダーとなる指導者の育成が急務である。昨今の我が国における急激な社会情勢の変化を考
えると農業のみならず、あらゆる産業において、しっかりとした倫理観を持った人間性豊かな職業人
の育成が大切であると考えられる。このような人材を育成するには、自然を相手にし、自然から学ぶ
農業教育が大事であり、今、最も必要な教育機能である。以下に農業教育の意義についてまとめてみ
る。
1
次代を担う人材を育成する農業教育
農業関係高校を志願する中学生が都市部を中心に増える傾向にあり、農業に関心を寄せる若者が
増えていることも報道されている。経済活動が低迷し、かつ、食料自給率の低さが際立つ中、もう
かる農業を目指し、自国の農業を憂うことの表れであると思われる。このような若者に農業教育の
機会を与えることが必要である。また、大学の農学部へ進学を志望する受験生が増加傾向にある。
大学で農学を学ぶ学生にとって、研究の根底にはやはりきちんとした農業の基礎が必要であり、高
校時代に学習しているか、否かの差は非常に大きい。
農業高校では、将来のスペシャリストの育成に必要な基礎的・基本的な知識、技術及び技能の定
着を図るとともに、ものづくりなどの体験的学習を通して実践力を育成している。さらに、資格取
5
得や学校農業クラブ活動の各種競技会への挑戦等、目標をもった意欲的な学習を通して、課題を探
求し解決する力、自ら考え行動し、適応していく力、コミュニケーション能力、協調性、学ぶ意欲、
働く意欲、チャレンジ精神などの積極性・創造性等を身につけることができる。これらは、農業の
みならず、我が国の産業の次代を担う人材にとって必要不可欠な力である。
2
自然から生き方や心の豊かさ、たくましさを学び生きる力を育む農業教育
情報化社会で知りたい情報は瞬く間に入手することができるようになった反面、
実物に触れたり、
観察する機会はますます減ってきている。学習には、実体験することも必要である。野菜を育てる
ことで、害虫を知り、害虫に触ることで虫に興味を持ち、その虫が育っている環境を考えるように
なるのである。動植物を育てることで、心の優しさや、痛みを知り、命の尊さを学習する。風雨に
さらされ折れた植物から新しい芽が出ることを体験・感動し、生命のたくましさを知るのである。
人間性豊かな職業人の育成という観点から、人と接し、自然やものとかかわり、命を守り育てる
という農業教育の特徴を生かし、職業人として必要な人間性を養うとともに、生命・自然・ものを
大切にする心、規範意識、倫理観等を育成し、生きる力を育むのが農業教育である。
3
社会の変化に対応する力を育む農業教育
農業は自然相手の職業であり、何か不都合が生じれば、臨機応変に対応しなくてはならず、マニ
ュアルどおりにはいかない。だが、努力をすればするだけおいしい野菜が収穫できたり、美しい花
が咲いたり、必ずその苦労は報われる。たとえ、農業教育を受けた上で、他産業に就職した場合で
も、体を動かして働くことに変わりはない。仕事を進めていく上で予想しない何かが起きたときに
臨機応変に対応する力(危機回避能力や問題解決能力等)が、今、最も求められている。
現在、食料の安定供給に対する不安や、国内の農業・農村の疲弊が問題となっている一方で、国
産農産物や農業・農村への関心が高まっている。国も国家戦略として、新たな「食料・農業・農村
基本計画」を策定し、食料自給率の引き上げや農業の持続的発展を目指している。特に、農業・農
村の6次産業化は、農業・農村の持つ潜在力に着目し、新たな付加価値を創出し、若者や子供が農
村に定住できる地域社会を目指している。このような地域社会でその変化に柔軟に対応できる、リ
ーダー的存在となる農業者を育成することが農業教育の責務である。
4
生涯にわたって必要とされる農業教育
自然からの生き方や心の豊かさを学ぶ機会は幼い時に体験することが望ましい。しかしながら、
自然環境が失われつつある今日、地域で自然体験できる機会は尐なくなりつつある。土を避けるこ
とが多い現在、例えば、農業高校の圃場で野菜作りを体験することにより、土に触れ、自然の中で
の農業を体験することで、様々な生物がいることや、土の温かみ等新しい価値観が生まれてくる。
幼い頃のこのような体験は、記憶の中には残らないかもしれないが、大人になってからの考え方に
影響を与えることは間違いない。
自然から生き方や心の豊かさ、たくましさを学び、感動を与える農業教育の推進には、農業関係
高校が小中学校と緊密に連携し、今まで以上に農業体験学習の場の提供や指導者としての協力を担
う必要がある。特に中学校においては、教科「社会」で農業の現状や食料生産等の学習内容が位置
づけられ、教科「技術・家庭」では生物育成が必修となったことで、今後、中学校との連携を一層
強めていくことや、小学校から継続して体験するシステムの構築が必要である。
また、定年退職後に農業を志す方が増えていることや、家庭菜園の流行等、地域の方々からの農
業教育のニーズがますます増えることが考えられる。農業関係高校においては学校開放講座や、P
TA対象の研修会、農場等の施設の開放等、農業学習の機会を増やし、よりよい農業の理解者を育
6
てる必要がある。また、農業関係高校生が小中学生や地域の方々に自分たちの学習の成果を教える
ことでの活躍の場がこれから益々増えていくに違いない。
農業教育は、まさに、高校生だけではなく、世代を超えて生涯にわたって必要とされているもの
である。
Ⅳ 農業関係高校の現状と課題
1
農業関係高校の現状
県立高校は、平成14年11月に策定された「県立高等学校再編計画」に基づいた統合・再編が
進められた。この再編計画は、平成19年度までで完了し、平成21年度中には県立高等学校再編
計画評価委員会による評価が実施され終了した。
また、平成22年度から、新たに「県立学校改革推進プラン策定懇談会」が設置され、平成23
年度に示される予定の「新たな計画」策定に向け、動き始めている。
県においても、
「千葉県総合計画」では、
“農林水産業を志す人々に対し、実際に就業できるまで
を支援するとともに、農業水産業での雇用を促進する。
”
「千葉県教育振興基本計画」では、
“将来の
専門的職業人を育成する農業・工業・福祉等の拠点校、
(略)など、魅力ある高等学校づくりを目指
す。
”
「魅力ある高等学校づくり検討委員会報告」では、
“千葉県の産業構造と高校教育の整合性に配
慮し、不足する分野(農業、工業、福祉等)の人材育成など、社会や地域のニーズに対応する必要
があると考える。また、県として魅力ある農業とその担い手を育てる総合的な施策を工夫する必要
があると考える。
”等の新たな施策が示されてきている.
新たな農業関係高校の将来展望は、このような教育情勢、社会情勢、県政等を考慮しつつ、検討
されていくものである。
(1)学科構成の変遷
平成9年度の農業関係高校は、農業単独校5校、併設校10校の計15校で、農業系学科数
16、学級数は52学級であったが、前述のとおり統合・再編が進み平成22年度は、単独校1校、
併設校11校、農業系列を持つ総合学科校2校の計14校となり、総合学科を含む農業系学科数
14、学級数は34学級となっている。
平成9年度との比較では、学級数で18学級減尐し、減尐率は34.6%である。
(2)農業の担い手育成
新学習指導要領に記されている教科「農業」の目標の大きな観点の第1は、「目標を持った意欲
的な学習をとおして、農業に関する知識、技術の定着を図り、将来のスペシャリストの育成に必要
な専門性の基礎・基本を身に付けさせること。」である。このことから、将来の担い手育成は農業関
係高校の大きな使命のひとつである。
高校卒業後すぐに就農する者は尐ないが、農業関係高校での多くの実験・実習等をとおして、確
実に基礎・基本を身に付け、4年制大学、短期大学、県農業大学校、農業関係の専門・専修学校等
へ進学し、卒業後家業の農業の後継者として地元に戻るケースが多くみられる。
(3)関係産業各分野のスペシャリスト育成
総合学科を含む農業系学科34学級のうち、農業自営者、担い手の育成に関するものは14学級
と全体の41.2%であり、他の20学級は生物生産、動物飼育等以外の農業関係各分野に関する
学科となっている。これらの学科では、学習指導要領改訂で重視した観点で「将来の地域を支える
7
人間性豊かな職業人の育成」
「農林業の多様化・高度化・精密化、安全な食料の生産と供給、地球規
模での環境保全及び地域資源の活用など、社会の変化や農業教育の広域化へ対応すること。」等と明
記されているように、広く地域社会に有為な人材を育成することが目標となっている。
この目標を達成するには、農業関連産業の就職先の確保等の実効性のある方策と並行して、農業
の社会生活や家庭生活における意義、地球環境における役割及び人間の社会活動全体への関わりな
どについて、
広い視野で判断することのできる人材の育成を目指す教育内容の整備等が重要である。
(4)生涯学習機関としての役割
現在全ての農業関係高校で、一般社会人対象の「学校開放講座」を開講し、学校農場を中心とし
た教育施設・設備を利用しての生涯学習を推進するとともに、学校農場の一角を通年で開放し、開
放講座受講者OBが自由に野菜等を作付けし、毎年生徒、職員と交流している学校もある。
また、高等学校時代に動植物の管理・育成の技術を習得することによって、生涯にわたってその
知識・技術を活用できることから、人間らしく豊かな一生を送るために必要な、ひとつの「生涯的
知識・技術」として重要であるという、命を扱う農業教育自体が生涯学習の要素を持つという側面
もある。
(5)地域社会発展への貢献
地元小中学校・特別支援学校等との連携交流学習、高大連携事業、産業祭・農林業祭等地域イベ
ントへの積極的な参加、デパートと連携したフラワーフェスティバルへの参加、ホテルと連携した
朝市の開催、総体・国体等での草花装飾、産業教育フェアの開催、地域の花いっぱい運動への取り
組み、地域と連携したプロジェクト学習と町おこし運動への参加等、地域と連携した社会参加への
取り組みを積極的に展開し、農業教育への理解等に大きな成果を上げている。
生徒は、これらの活動に取り組むことにより、自立性、社会性を身に付けるとともに、コミュニ
ケーション能力も育成され、地域社会と結びつきを強め、また郷土を愛するという自覚も芽生えて
いる。
(6)進路の現状
平成21年度末の農業関係高校の卒業生の進路は、進学29%、農業自営を含めた就職が
62%であった。近年、進学者が増加傾向にあったが、平成20年9月のリーマンショックに伴う
不景気等が家計に与える影響も大きく、進学者の増加に歯止めがかかった状態となった。
また、進路を分野別に分類した場合、農業関連への就職及び進学が全体の3割を切っていること
など、進路先が多岐にわたっていることが問題点として挙げられる。
2
農業関係高校の課題
(1)農業の担い手育成への対応
現在、多くの農業関係高校でインターンシップや千葉農業事務所(平成23年 4 月千葉農林振興
センターから名称変更)との連携、農家見学等の実施により学習の深化を図りながら、担い手の育
成に向け取り組んでいる。
農業関係高校の大きな柱の一つとして担い手の育成があるが、高校卒業後直ちに就農する生徒は
尐ない現状である。しかし、上級学校等へ進学後就農する者は増加の傾向にある。今後は、担い手
を確保するため、農業関係高校と農林水産部、出先機関、関係団体等と連携し、魅力ある農業とそ
の担い手を育てる取り組みが必要である。
(2)卒業後の進路保証
近年大学、短大や専修学校等へ進学する生徒が多くなってきている。将来農業及び関連産業の担
い手を目指す生徒は、さらに専門的な学習を深めることを希望している。これらを踏まえて、農業
8
関係高校の進学指導にさらに力を注ぐ必要がある。
また、就職については農業関係の求人が尐ないため就職先が多岐にわたっている。今後も一層、
高校で学んだことを生かせる就職先を開拓していかなければならない。
(3)指導者の確保と資質の向上
将来の農業、関連産業を含めたスペシャリストを育成するには、その指導者の確保が急務である。
そのためには、研修等により教職員としての資質の向上を図り魅力ある教育者を育成しなければな
らない。今後、退職者の増加に伴い教員数を確保すると同時に、教科「農業」のどの科目を担当し
ても対応できる指導力を身に付けることが必要である。
(4)施設・設備の改善・充実
現在、農業関係高校14校の施設・設備の多くは、昭和40年代に建設されたものであり、老朽
化して実験・実習に支障をきたしている。生徒の安全確保と教材の質的向上が求められることから、
早急な施設・設備の改修が必要である。生徒に興味、関心を持たせる教育を行うには、最先端の施
設・設備を積極的に導入する必要がある。
(5)意欲的な志願者の確保
現在、農業関係高校では体験入学や学校説明会等を実施し、農業に興味・関心を持ち入学する目
的意識を持った生徒を確保する取組を行っている。また、近隣の小中学校への出前授業や地域と連
携した事業をとおし、広く農業の持つ教育力や教育内容等をより深く理解してもらう取組をし、生
徒募集に生かしている。生徒減尐期に備え、意欲的な志願者の確保のため従来実施している体験入
学、学校説明会の他に地域と連携した農業教育に魅力を持たせる方策を検討しなければならない。
(6)校外における学習活動内容の精選
地域社会と連携し、その発展に寄与することは、農業関係高校にとって重要なことである。また、
生徒の校外活動をとおして、地域社会と触れあう機会を作ることは、コミュニュケーション能力を
高め、道徳教育等の面からもその効果は大きい。このようなことから、ひとつの行事が終了した後、
生徒にとっての教育効果を検証するとともに、多面的な角度から評価し継続の可否について取捨選
択することも必要である。
Ⅴ 今後を見据えた農業関係高校の役割と在り方
1
農業関係高校の役割
急速な科学技術の進展、高度情報化社会・尐子高齢化社会の到来は価値観の多様化や、地域・家
庭の教育力・規範意識の低下などをもたらした。これらの現象は生徒の学ぶ意欲の低下や問題行動
の発生などにもつながり、教育界の大きな課題となっている。農業は生命を育み、活用する産業で
あり、農業教育自体が「命を大切にする心の教育」という側面を持っている。また、実習や課題研
究、プロジェクト学習などの課題解決的学習はキャリア教育の一面を持ち、生徒の学ぶ意欲を引き
出している。このように、農業教育は現代の教育課題解決のための要素を元々備えており、その利
点を活かした役割を果たすことが求められている。このような中で農業関係高校の果たすべき役割
はますます大きくなっている。すなわち農業関係高校の役割は大きく二つに分けられる。一つは農
業産出額全国第3位の千葉県において、各地域の農業を中心とした学びの拠点となること、そして
もう一つは体験的学習を中心とした農業教育をとおしての「豊かな心」や「健やかな体」の育成、
すなわち人づくりである。以下にその具体的な内容を述べる。
9
(1)農業の担い手育成
農業の担い手育成は大きな役割の一つであるが、卒業後直ぐに就農する者がすべてではない。上
級学校に進学した後に就農する生徒、他産業に就職した後に就農する生徒など様々な形態が考えら
れる。したがって、以下に示すように農業関係高校は、引き続き生徒の将来を見越し農業に関する
知識・技術の習得を進めるともに、人間としての基礎づくり(人づくり)を推進していく必要があ
る。
ア 基礎的・基本的な知識、技術及び技能の定着を図る。
イ 課題解決的学習や体験学習をとおして実践力や人間力を養う。
ウ 先進農家の見学や農家での研修(インターンシップ)をとおして勤労観・職業観を養い、農
業を学ぶことや働くことへの意欲向上を図る。
エ 資格取得や有用な各種検定に挑戦し、学習意欲の向上を図る。
オ 学校農業クラブ活動をとおして科学性・社会性・指導性を高めるとともに、思考力・判断力・
表現力・コミュニケーション能力を養う。
また、幼・小・中学校と連携し、普通教育で不足している人間教育や生産的仕事の経験を児童
生徒に提供することによって農業のイメージの向上を図り、農業関係高校を志望する生徒を一人
でも多く育てていくとともに、自校の生徒については千葉県農業大学校や農業系の大学に進学す
るための意識付けや進学指導を行うことも重要である。
(2)農業関連産業を担う人材の育成
農業関連産業には多種多様なものがあるが、大切なことは人づくりであり、基本的には上記の農
業の担い手育成の場合と同じである。ただ、技術の進展は日進月歩であることから、地域産業や地
域社会との連携・交流を通じた実践的教育、外部人材を活用した授業等の充実が特に重要である。
そして、絶えず発展する技術に柔軟に対応できる能力と態度、創造性を養う必要がある。
(3)生涯学習機関としての役割
現在実施している学校開放講座や地域社会への学校農場の開放、さらに農業に関する専門科目へ
の社会人聴講生の受け入れ等を積極的に推進することが必要である。また、農業関係高校の生徒に
ついては、生涯をとおして学ぶ意欲を持たせる工夫、つまり詰め込み教育ではなく、農業教育の特
徴である課題解決的学習などをとおして「学ぶ能力の養成」を図ることが大切である。
(4)地域社会の発展への貢献
農業関係高校が地域の学びの拠点となり、地域社会の活性化や地域文化の伝承等の役割を担いつ
つ、地域社会の発展により一層貢献することが大切である。そのためには施設・設備の充実もさる
ことながら、教員が先進農家や農業関係機関で農業の先端技術に関する積極的な研修を行い、授業
に取り入れたり地域への普及活動を行ったりしていくことが求められる。
2
農業関係高校の在り方の基本的視点
農業関係高校が学びの拠点としての役割を果たすためには、ある程度の規模の学科・生徒数を有
し、教育内容や施設・設備の充実、地域や関係機関との連携、生涯学習機関としての内容の充実な
ど、ハード・ソフト両面で多くの機能が求められ、農業教育と地域農業の中核的存在としての拠点
校となることが必要である。一方、小規模併設校においても農業関係高校の在り方の基本的視点に
大きな違いはない。
地域産業等と密接に連携しながら専門学科としての教育内容を充実・発展させ、
地域を支える人づくりを推進することが大切である。すなわち農業教育をとおして、農業だけでな
く、将来どんな職業に就こうとも有効に働く能力の育成にその力を発揮していくことが県全体の農
10
業教育の底上げにつながるものと思われる。
(1)生徒が主体的に学ぶことができる学校
現場実習や資格取得、プロジェクト学習など、生徒が自ら目的意識を持って取り組むような学習
活動を積極的に推進していくことによって、一人一人が成就感や達成感、感動体験が得られるよう
な学校を目指していく。
(2)基礎・基本を確実に学ぶことのできる学校
基礎・基本を確実に習得させるため、教育内容を厳選するとともに、ティーム・ティーチング、
尐人数学習、個別学習、班別学習など、その指導方法や評価方法の改善を図り、個に応じた指導の
充実を図っていく。また、専門科目だけでなく義務教育段階の学習内容の確実な定着を図るための
学び直しの機会の提供、すべての教科において適切に表現し的確に理解する能力や伝え合う力の育
成、批評・論述・討論等の学習活動の充実などが不可欠である。
(3)自己教育力の育成ができる学校
農業教育にはすでに課題研究やプロジェクト学習など、生徒が自ら課題を見つけ計画を立て学習
し、評価・反省する課題解決的学習が取り入れられている。今後もこの学習法を積極的に取り入れ、
自己教育力の育成をより一層図っていくとともに、地域との連携・交流をとおして地域の教育力を
積極的に活用する。
(4)地域に根ざした学校
農業関係高校は、
地域産業に立脚した存在であり、地域の農業や農業関連産業の活性化のために、
学校の持つ教育機能や人材を積極的に地域に提供していく。
(5)社会の変化に対応する学校
社会の変化に対応するためには、これまで述べてきた人づくりに加え、生徒だけでなく教員も含
めて、グローバルな視点で新しい技術や課題に挑戦していく態度が必要である。
Ⅵ 農業関係高校の改善・活性化策
社会の変化や本県農業の動向、農業関係高校の役割、農業関係高校の現状や課題等を踏まえ農業
関係高校の改善・活性化策として次の点が挙げられる。
(1)農業の担い手育成
農業県千葉の将来を担う農業後継者を育成することは、農業教育の大きな柱であることから、担
い手育成に一層努力していく必要がある。
ア 農林水産部、企業・法人などとの連携協力により体験的な学習をとおして、望ましい職業観・
勤労観を養う。
イ 高校3年間に加え、農業大学校2年間の5年教育や大学進学後の就農など長期的視点で後継
者を育成する。
ウ 農業は、生産だけでなく加工・流通・販売の知識・技術も必要となる。このことから6次産
業化の進展に合わせて農業を学習させる必要がある。
(2)教育条件の整備・充実
農業関係高校の教育内容の向上や活性化を図るためには、以下のような整備、
充実が求められる。
ア 退職者が増えることに伴う職員の確保が急務である。
イ 生徒が安全に実験・実習が行えるよう老朽化した施設、設備の改修が必要である。
11
ウ 新しい教育内容に見合う施設設備の積極的な導入が望まれる。
エ 研修会等への積極的な参加を推進し、教員としての資質向上に努める。
(3)確かな学力を身に付けさせる教育内容の充実
日ごろの学習活動において、確かな学力を身に付けるとともに達成感・成就感を持たせる教育を
一層推進する必要がある。
ア 確かな学力を身に付けさせるための基礎・基本を重視した教育課程の編成を図る。
イ 課題研究やプロジェクト学習のさらなる工夫・充実を図る。
ウ 学校農業クラブ活動を活性化し、科学性、指導性、社会性のかん養に努める。
エ 資格取得指導の充実をとおし、学習意欲の喚起に努め産業人としての自覚を身に付けさせる。
(4)心豊かな人づくりの推進
農業関係高校は生命に対する畏敬の念を育むことを教育の核として、心豊かな人間性を養い、広
く社会に役立つ人材の育成に一層力を注ぐ必要がある。
ア 実験・実習の学習内容の見直し充実を図るなど体験的学習を重視する。
イ キャリア教育を推進し、社会と積極的に関わる学習の充実をとおし、産業人となる自覚を身
に付けさせる。
ウ 小中学校の児童生徒や地域住民の方々など、外部と交流する機会を積極的に設け、生徒が参
加することで自ら学んでいる専門教育の深化充実を図るとともに、コミュニケーション能力な
ど社会人として必要な能力を身に付けさせる。
(5)自己実現に向けた確かな進路の保証
就職や進学など、進路先を保証することは、目的意識の強い志願者を数多く確保することにつな
がるとともに、生徒の学習意欲を高める大切な視点である。
ア 計画的な進路学習指導を進め、自己実現の支援に努める。
イ キャリア教育を推進し、職業に対する意識の向上を図るとともに進路選択の一助にする。
ウ 日ごろの専門教育をとおし、生徒自身が進路について考えるきっかけをつくり、常に産業人
としての在り方を意識させた教育を行う。
(6)農業教育の戦略的な広報活動
現在、農業関係高校では様々な取り組みをとおし、農業教育を深化充実させている。しかし、そ
の活動はなかなか広く県民に理解されていない状況から、今後農業教育に関する情報発信が、農業
関係高校の理解を深めるだけでなく、生徒募集にも大変重要になってくる。
ア 学校農業クラブ活動のメディア発信。
イ 体験入学・学校説明会(単独・合同)の複数回実施と内容の改善充実。
ウ 農業部会のホームページの活用充実。
(7)農業教育の裾野の拡大
子供たちが安全で安心な食料の生産について正しい理解をすることは大切なことであり、義務教
育における農業関連教育の拡充が強く望まれる。また、地域の児童、生徒との連携は、将来的に地
域産業を活性化させる人材を育む事につながる。
ア 地域の幼稚園、小中学校と連携を密にし、出前授業や体験学習など積極的な支援に努める。
イ 地域の児童生徒や住民のための学校や農場活用の機会拡大に努める。
ウ 農業体験をとおし、広く児童生徒に農業の意義や魅力を理解させることにより、意欲的な志
願者の確保に努める。
12
Ⅶ 学校づくりの将来展望
これまでの検討内容等を踏まえ、新たに農業関係高校づくりの将来展望について、まとめると次の
ようである。
(1)全国屈指の農業県にふさわしい農業教育の基盤をつくるため、次の役割を担う農業教育の拠点
校づくりを推進する。
ア 地域の産業・社会の動向を踏まえ、農業各分野の将来のスペシャリストを育成する農業教育。
イ 農業を取り巻く情勢の変化や新しい技術革新に対応できる施設・設備の拡充・整備。
ウ
社会変化に伴う教育への新たなニーズに対応できる農業教員の育成と農業教育技術等の継
承。
エ 農業教育及び地域のキャリア教育を推進するセンター的役割。
オ 将来、起業に役立つ豊かな創造力を育むことのできる学校農場。
(2)拠点校以外の高校は、地域のニーズや地域産業の特色を生かし、学習内容の重点化・地域産業
の人材育成と地域貢献の視点で個性化を図った専門教育を推進し、特に以下の視点で地域に根ざ
した学校づくりを推進する。
ア 地域の農産物等を活用した学校独自のブランドづくり。
イ 地域性を生かし地域の資源を有効に活用した学校づくり。
ウ 地域産業、及び関係機関・団体等と積極的な連携・交流を図り、その教育機能の活用を図る。
エ 地域社会の発展、活性化に貢献する学校づくり。
(3)千葉県の農業が今後とも持続的に発展していくためには、多様で活力ある担い手の確保・育成
が極めて重要である。そこで、これまで以上に、千葉県農林水産部、千葉県農業大学校、農業関
係機関・団体及び地域の農業法人・農家等と緊密な連携の下に、農業の担い手教育を推進して
いく。特に千葉県農業大学校と連携を図り5年間の継続教育を積極的に推進していく。
(4)農業・農村の6次産業化に対応できる人材育成に応える観点から、地元市町村、地域の農業法
人や様々な企業等との連携を図り、加工や販売についても幅広い視点から学習に取り組める学校
づくりを推進する。
13
資料
1 「ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策の概要と進捗状況について」から
14
15
2 「平成20年度国民経済計算確報(フロー編)ポイント」より
16
3 2010/3/30 農林水産省 大臣官房 政策課「新たな食料・農業・農村基本計画のポイント」
17
18
19
使用資料・用語解説
1
使用資料
(1)みんなで取り組む「教育立県ちば」プラン 平成22年3月
(2)今後の学校におけるキャリア教育、職業教育の在り方について 平成22年5月
-第2次審議経過報告のポイント-
(3)千葉県産業教育審議会(報告)
今後の本県産業教育の在り方について 平成22年2月2日
(4)農業関係高校の学科変遷(過去10年間)
(5)「21世紀を展望した農業教育の在り方」平成10年3月
千葉県高等学校教育研究会農業部会 千葉県農業教育基本問題研究委員会
(6)農業関係高校の行動計画 平成18年5月
(7)地域産業の担い手育成プロジェクト(農業分野)成果報告書(第1・2年次)
(8)食料・農業・農村基本計画他 平成22年3月
(9)農林水産業の将来ビジョン 農業編 平成22年4月
(10)農林水産省農業の担い手育成の方向について
(11)平成17年度グラフで見る千葉県農業の担い手 関東農政局千葉農政事務所
(12)千葉県農林水産関係施策概要 平成22年4月
(13)千葉県農林水産業の動向 平成22年6月
2
用語解説
(1)農業産出額
都道府県を単位としてその年の農業生産活動によって、生み出された品目別生産量に品目別農
家庭先販売価格を乗じて算出されたもの。
(2)農家庭先販売
生産農家が市町村の指定を受け、農産物を庭先又は生産畑で販売すること。
(3)生産農業所得
生産農業所得÷農家戸数=農家1戸あたりの生産農業所得。
(4)土地利用
土地の状態や用途などの利用状況のこと。又は土地を利用すること自体を表す概念である。
(5)第一種兼業農家
世帯員のなかに兼業従事者が一人以上おり,かつ農業所得の方が兼業所得よりも多い農家。
(6)第二種兼業農家
世帯員のなかに兼業従事者が一人以上おり,かつ兼業所得の方が農業所得よりも多い農家。
(7)主業農家
農業収入の方が農外収入より多く、 かつ 65 歳未満で農業従事する年間日数が60日以上の者
がいる農家。
(8)ミニマム・アクセス
最低輸入機会とも言われ、日本産の米のような高関税による事実上の輸入禁止の制限を撤廃す
ることを目的につくられた。1986年から95年にかけて行われたウルグアイ・ラウンドの通
商交渉の中で農産物への適用が義務づけられた。
20
現在日本へは70万トンの輸入枠が設定されているが、全量輸入を義務づけられているわけで
はない。
(9)TPP
環太平洋戦略的経済連携協定の略で、2006年ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブ
ルネイの4カ国が発効させた。米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアなどが参
加することになっており、日本も参加の方向で検討を進めている。この協定により参加国間の貿
易が自由化されるが、工業製品、農産品、金融の自由化ばかりでなく労働市場も自由化され、外
国から安価な労働力が流入してくる恐れがあり、農業が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、様々
な分野に影響が及ぶ。農林業団体や漁業関係者ばかりでなく、多くの自治体も反対若しくは慎重
な対応を求めている。その数は1000を越している。
(10)FTA
自由貿易協定は物品の関税や貿易上の障壁を取り除くための2国間以上の貿易協定であり、場
合によっては地域を指すこともある。
(11)トレーサビリティ
農産物や工業製品など、対象とする物品の生産・流通から消費あるいは廃棄までの履歴を確認
できることをいい、追跡可能性とも訳される。特に近年産地偽装や遺伝子組み換え、農薬の使用
やBSE問題など、食の安全への関心が高まっており、食品分野での取り組みが注目されている。
千葉県農業教育基本問題研究委員会組織等
1
調査研究方法
(1)検討案を作成する小委員会を組織する。
(2)会議は全体会及び小委員会とする。
(3)調査研究は、平成22年度内の完了を目指す。
(4)会議の開催は、部会長の了解のもと委員長が召集する。
(5)調査研究の進捗状況について、必要に応じ部会をはじめ各機関に報告するとともに、意見を
求める。
(6)調査研究の成果は、農業部会HP上に公開すると共に印刷物として、関係機関に配布する。
2
研究委員会委員 (敬称略)
委 員 長 校 長 小髙 雅彦(鶴舞桜が丘高校)
副委員長 校 長 鈴木 保一(茂原樟陽高校)
委
員 校 長 髙林 直樹(薬園台高校)大橋 幸男(流山高校)國馬 隆史(清水高校)
藤沼 文郎(成田西陵高校)吉田 圭介(下総高校)桑原 正男(多古高校)
菱木 勝平(旭農業高校)宗政 恒興(大網高校)岡崎 建一(岬高校)
伊藤
昭(安房拓心高校)井上
佐藤
潔(君津青葉高校)
曉(上総高校)
教 頭 渡邊 文男(茂原樟陽高校)齊藤 郁夫(大網高校)
小安 由男(旭農業高校)伊藤 弘行(多古高校)
委
員
農場長 堀口 和司(薬園台高校)小松 直木(流山高校)福井 正人(清水高校)
山本 昭博(成田西陵高校)菅澤 啓光(下総高校)萩原 義文(多古高校)
21
石毛 宏二(旭農業高校)菊屋 泰男(大網高校)渡邉 龍司(茂原樟陽高校)
近藤 芳裕(岬高校)平野 俊哉(安房拓心高校)西野 将司(上総高校)
竹生田 茂樹(君津青葉高校)木内 正浩(鶴舞桜が丘高校)
学校農業クラブ顧問委員会 岩下 祐輔(大網高校)
農業検定委員会 清水 敏夫(成田西陵高校)
農業部会事務局 鈴木 寿裕(大網高校)
助 言 者
根本
進(教育庁教育振興部指導課教育課程室主幹)
布留川 純(千葉県農業大学校長)
湯橋
勤(千葉県農林水産部担い手支援課長)
藤井 光夫(千葉県農業協同組合中央会参事)
研究委員会事務局
菊屋 泰男(大網高校)
小委員会委員
〔校 長〕
小髙 雅彦(鶴舞桜が丘高校)鈴木 保一(茂原樟陽高校)
藤沼 文郎(成田西陵高校)大橋 幸男(流山高校)
〔教 頭〕
渡邊 文男(茂原樟陽高校)齊藤 郁夫(大網高校)
〔農場長〕
小松 直木(流山高校)山本 昭博(成田西陵高校) 菊屋 泰男(大網高校)
渡邉 龍司(茂原樟陽高校)平野 俊哉(安房拓心高校)西野 将司(上総高校)
3
研究委員会開催の経過
【全体会】
第1回全体会
平成22年 6月25日
多古町コミュニティープラザ
協議内容 タイトル及び調査研究項目の検討
第2回全体会
平成22年12月10日
ホテルポートプラザちば
協議内容 調査研究内容「千葉県農業の振興を目指した農業教育の在り方」の検討
第3回全体会
平成23年 3月18日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究内容「千葉県農業の振興を目指した農業教育の在り方」の最終検討
(東日本大震災の影響により平成23年4月14日農業関係校長会及び4月19日農場長会
で最終検討を行う)
【小委員会】
第1回小委員会
平成22年 7月13日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究項目Ⅰ「農業の役割と今後の方向」についての原案協議
第2回小委員会
平成22年 8月25日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究項目Ⅱ「千葉県農業と農業政策の動向」についての原案協議
調査研究項目Ⅲ「農業教育の意義」についての原案協議
第3回小委員会
平成22年 9月28日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究項目Ⅳ「農業関係高校の現状と課題」についての原案協議
第4回小委員会
平成22年10月25日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究項目Ⅴ「今後を見据えた農業関係高校の役割と在り方」についての
原案協議
第5回小委員会
平成22年11月24日
千葉県教育会館
協議内容 調査研究項目Ⅵ「農業関係高校の改善・活性化策」についての原案協議
第6回小委員会
平成23年 1月21日
ホテルポートプラザちば
協議内容 調査研究項目Ⅶ「学校づくりの将来展望」についての原案協議
22
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