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性の商品化に対する “社会” の眼差しと心理 一色相環を用いた明確化の

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性の商品化に対する “社会” の眼差しと心理 一色相環を用いた明確化の
性の商品化に対する‘‘社会”の眼差しと心理
一色相環を用いた明確化の試み一
学校教育学専攻
臨床心理学コース
M0 9 0 5 3 C
鎌田里瑛子
I.問題と目的
語られにくい話題である.そのため,色相環が心
本研究では,性の商品化を次のように定義する.
的距離を測定すると仮定し,投影法として調査に
性の商晶化とは,「生きた肉体(身)を,情愛を,
用いた.なお,尺度では売春の促進・阻害要因に
人間味のある心を,目の光を,それらしい素振り
着目するが,筆者は性の商品化について善悪を判
を,情事を品物としてみなし,それを代金と引き
断する立場はとらない.
換えに品物や権利などを相手に渡したり,かこっ
1I.方法
けたりし,相手は品物や金とひきかえに自分の望
大学生・大学院生(A大学,C大学),社会人
みの品物を得たり,価値を認めたりすること」で
(Bセンター:研修施設)に質問紙を配布した.
ある.これは,援助交際,売春,買春を指す.援
なお,質問紙の内容は以下の通りであった.
助交際は,r対償を受け,または受ける約東で性
・フェイスシート(年齢,性別,家族構成)
的行為は含まないもの」,売春は,売春防止法第
・性の商品化経験とそれにまつわる意識
二条に従い「対償を受け,または受ける約束で,
・性の商品化(売り手・買い手・購入対象)に関
不特定の相手と性的関係を持つこと」とそれぞれ
する質問(自由記述)
定義し,明確に区分する.
・援助交際肯定感項目・抵抗感項目(松浦ら,
先行研究によると,「援助交際」経験者は,賞
2002)11項目/20項目
賛欲求が強い傾向にあり(櫻庭ら,1998),自尊感
・自己受容測定尺度(沢崎,1993)35項目
情の低い者が多くみられる(遊間,2009).また,
・自尊感情尺度(Rosenberg,1965;山本ら,
女性としての性を受け入れがたいと思っている
1982)1O項目
場合がしばし見受けられる(遊間,2009).
・イィコ行動特性尺度(宗像,1990)10項目
河合(1993)は,性は“つなぐもの”として機
・孤独感の類型別判断尺度(落合,1993)16項
能し,「関係」を求めて性に関心を持つのは当然
目
だが,r割り切って」なされるためにr切断」を
・色相環Itten,J.(1961)のものを改変した.(17
体験することになり,孤独感がより一層増すと論
項目:人間,あなた,あなたの大切なひと,
じた.
平和,差別,孤独,お金,自信のあるひと,
性の商品化の研究では,臨床的観察に基づいた
自信のないひと,イイコ,援助交際,売春,
ものが多い.また,対象を女子高校生や女子大学
買春,売春者,買春者,好きな色,嫌いな色)
生に限定し,「援助交際」を扱ったものがほとん
それぞれに適すると思う色番号を選択
どである.
皿.主な結果・考察
本研究では,多角的に性の商品化を捉えるため,
1)男女別売春の肯定/抵抗要因
調査対象の性別・年代を限定せず,尺度,自由記
a.男女別売春の肯定要因
述法,投影法(色相環)を用いる.一般的に性は
独立変数を「援助交際」の肯定感得点とし,
一!08■
説明変数をr援助交際」肯定感項目以外の全
男女の売り手は,「金銭目的」で売春をしてい
下位尺度とした重回帰分析(強制投入法)を
るという回答が最も多かった.男性の売り手で
打つだ.
は,「自分に自信のある人が行うこと」,「性の
売春の肯定要因は,男女ともに,r好奇心」
商品化を労働とみなされにくいこと」が示され
を持つことであった.女性のみ,売春につ
た.女性の売り手はrさみしいひと」など感情
いてr相手を選択できたりその場だけなら
に焦点をあてた回答が多く得られた.
ば自分をさらけだせる」と解釈することが
男性の買い手は,回答が多い順に「欲求不満」,
肯定要因になること,そして,r自分は独り
rお金持ち」,rさみしい」とみなされており,
でなく理解してもらえていると思うこと」
一方女性の買い手は,「お金持ち」,「さみしい」,
も肯定要因になることが明らかとなった.
r欲求不満」とみなされていた.売り手の回答
b.男女別売春の抵抗要因
とは異なり,男性へもさみしいひとなど同情の
独立変数を「援助交際」の抵抗感得点とし,
ような感情が含まれたが,バカなどの非難も多
説明変数を「援助交際」抵抗感項目以外の全
く集まった.
下位尺度とした重回帰分析(強制投入法)を
性的対象としてどんな人を買うかとの間い
打つだ.
に,男女とも外見を重視した回答が多かった.
売春の抵抗要因は,男女ともに「道徳」と
r自分を理解してくれていると思うこと」で
対償を払ってでも,ともにいて落ち着くことを
求められる男性,明るいことを求められる女性
あった.男性に限れば,自分はいいところが
という構図が示された.
あり役に立つ人間で,主に見た目に自信を持
4)色相環
ち,第三者の目を気にすることなどが抵抗要
項目間の距離を多次元尺度法を用いて測定
因となる.また,売春について「相手を選択
した.「売春」などの性の諸概念,嵯別」と「あ
できたりその場だけならば自分をさらけだせ
なた」,rお金」が正反対の位置にあることが示
る」といった解釈も抵抗感に影響する.
された.
女性にとっての売春抵抗要因は,売春は「生
性の商品化は「お金」,「あなた」と正反対の
理的に不快」だと感じること,r過去と現在の
ものとして捉えられ,この正反対のものを対償
自分を受け入れていること」の他に,r自分は
とした行為であり,差別は性の商品化に親しく,
独りでなく理解してもらえていると思うこ
白身が性の商品化に近づけば自ずと差別も絡
と」が認められた.後者は,肯定要因にも含
まるということが明確化された.色相環で心的
まれる.これは,自己を抑制することと関連
距離を測定する試みは有用であった.
しており,抑制すればするほど周囲から理解
1V.結語
されていないと思うことに繋がる.自分を抑
売春の肯定・抵抗要因は,性別,年代によって
制した結果,自分は理解されていると考える
共通するものと異なるものがある.教育に用いる
か否かによって,売春の肯定要因にも抵抗要
ならば,各々に適切な策を被る必要が想定される.
因にも成りうる.また,年齢については加齢
肯定感の強さは,経験と直結しない.早急な判
に従い売春への肯定感が弱まる傾向が明らか
断・対応は差し控えるべきである.
となった.
色相環は心的距離の測定が可能であった.色相
2)性の商品化への“社会’’の眼差し(自由記
環を用いた明確化の研究が発展することを願う.
述)
主任指導教員 岩井圭司
回答の自由記述を,K J法を用いて分析した.
一109一
指導教員 岩井圭司
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