...

IoT、CPS を活用したスマート建設生産システム

by user

on
Category: Documents
45

views

Report

Comments

Transcript

IoT、CPS を活用したスマート建設生産システム
【産業競争力懇談会 2015年度 プロジェクト 中間報告】
【IoT、CPS を活用したスマート建設生産システム】
2015年11月12日
【エクゼクティブサマリ(中間)】
1.本研究会の基本的な考え方
建設(土木・建築)業界を取り巻く環境の中で、10 年後(2025 年)の建設業界の在り方を見据え
て、以下の課題の克服が重要であると考えている。
① 建設期間の短縮、省人化の推進等による生産性向上
建設就業者減少による技能者確保と省人化が今後 10 年で喫緊の課題になる
② 設計・建設・維持管理を通じたライフサイクルの情報基盤
フェーズ毎に個別のデータ管理となっており、建設情報の有効活用が十分ではない
③ 建設工程の進捗状況(出来形)のリアルタイム把握
状況把握や検査に手間と時間がかかり、問題発生時には対処の遅れと手戻りが発生
④ 建設資材のタイムリーな調達
工程管理や発注作業に手間と時間がかかっている
⑤ 労働安全環境の改善
災害発生率は製造業に対して 3 倍と高く、生産性にも影響している
⑥ 建設産業の付加価値と魅力の向上
長い労働時間、低い賃金水準、過酷な労働環境など、新規就業者の減少が進む
そこで、昨年 2014 年度の COCN 推進テーマ「飛躍的な生産性の向上を実現する構工法の構築研究
会」では、建築における接合作業の合理化について検討し、合理的な接合手法の導入で工数の大幅
な削減が期待できること、合理的な接合にはロボット・自動化技術の活用、それらを支える ICT 技
術が不可欠であることを提言した。
2015 年度は、前年度研究会の延長線上にありつつも、検討対象を建築の接合から土木を含めた建
設生産全体へ広げ、現場作業を軽減し、高品質で付加価値の高い構造物の生産を実現するために必
要な、工場生産技術や高度 ICT の活用を検討し、Industry4.0(第 4 次産業革命)に代表される世
界的な産業構造変革の潮流を踏まえた上で、建設業の将来ビジョンとして、
「スマート建設生産シ
ステム」を構想する。
具体的には、建設における情報基盤としての BIM/CIM や情報化施工の取り組みを踏まえつつ、近
年のロボット・自動化、3 次元計測/測位、ネットワーク、デバイス、ビッグデータ解析、人工知
能等の技術を取り込んだ将来の建設生産システムの構想とそこへ至るシナリオを想定する。そして
これらによって工事期間の短縮などの生産性向上に加え、建設構造物の高品質化による社会インフ
ラの信頼性向上、現場の労働安全環境の抜本的改善、調達先企業との円滑な連携、建設産業の付加
価値・魅力の向上、さらには新たな就労機会の創出、グローバル市場への展開などが見込まれる。
さらに、スマート建設生産システムの社会実装により新たな付加価値を生み出し、第 5 期科学技
術基本計画における「超スマート社会」の実現に寄与することを目指す。
2.検討の視点と範囲
建設構造物のライフサイクルの中でも、特に膨大な設計・施工情報がやりとりされる設計・建設
段階では BIM/CIM が共通の情報基盤として非常に重要と考えられる。BIM/CIM を中心にして、技術
i
進歩が著しい IoT、CPS 技術の将来トレンドを踏まえて、先に挙げた建設分野における課題①~⑥の
克服を目指して、2025 年の建設生産システムの将来像の構想と、社会実装に向けたロードマップの
検討を目指す。この中では、土木・建築における生産工法での ICT 技術の活用に加え、運用制度な
どを含めた基盤整備による将来構想も含める。
2.1 ICT 要素技術とその応用
調査、設計、生産/製造、物流、施工/建設、維持管理までのライフサイクル全般での活用を
考慮して、今後重要と思われる ICT 要素技術を、全体のアーキテキチャとともに技術マップと
して整理をした。現在、これら技術の現状把握と、今後の技術の進展や利活用に向けた課題な
どの抽出を行っている。今後の進展も睨んだ将来構想をそのロードマップとともに検討する予
定である。
① BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling/Management)
3 次元データを軸にした建設プロジェクトに関する情報マネジメントにより、企画から維持
管理までのプロセスの高度化を目指す概念。関係者間の早期合意形成、現場情報と融合した
状況把握や手戻り削減、維持管理への活用等、幅広い利活用を目指す。導入が黎明期であり、
関係者で広く扱えるよう標準化や操作性、セキュリティなど課題も多い。
② 建設機械・ドローン
検査、生産の効率化、危険領域での作業代替を可能とする技術として期待。土木分野では情
報化施工で実用化の段階も、運用面での危険性など安全確保の技術開発とルール作りが急務。
③ ウェアラブルデバイス
現場作業支援での効率化や安全確保などの用途で、今後さらなる小型軽量化・低電力化が進
み、作業に邪魔にならない扱いやすいデバイスの進化が期待される。
④ 3次元計測
準天頂衛星測位、全周囲画像とレーザ計測による高精度屋内測位などの測位技術の進歩によ
り図面と出来形の管理や建設機械の自動運転など、必須となる情報基盤として期待が高い。
⑤ センサー類
加速度、ジャイロ、音響、イメージなどの各センサーの小型・低価格化に加え、バッテリレ
ス化など、従来検出できなかった場所への適用が進む。高度な状態の検出も期待される。
⑥ 就労履歴管理システム
有資格情報、入退場履歴など、作業員の技能と経験を証明する情報が登録される。2015/5 に
官民コンソーシアムが設立され、BIM/CIM や現場システムとの連携・連動が期待される。
⑦ 業務分析技術
人工知能(AI)やビッグデータ分析を活用した解析技術で、従来顕在化しなかった現場作業
の無駄や改善点の抽出も期待され、労務管理、品質管理、事務管理の業務フローにも影響を及
ぼす。
2.2 建設分野における現状分析と課題
①
前記の ICT 活用から見た現場の IoT、CPS 化に加えて、施工方法から見た土木・建築の生産
現場における生産性・品質向上の構想や課題についても並行して検討を進めた。土木生産
土木工事における ICT を活用した合理化は、造成工事などの土工分野では進んでいるが、コ
ンクリート分野では比較的遅れている。今後は、海外展開も見据え、コンクリート構造物の
ii
プレキャスト化を普及させることで、作業の標準化や施工の機械化が進むと考えられる。
したがって、プレキャスト工法の普及に向けた要素技術の開発とスマート生産を実現させる
ための ICT 技術の開発基盤について、品質・安全・生産性向上の観点で整理する必要がある。
② 建築生産
建築部材のユニット化・モジュール化は、現場作業の省力化を大きく進展させる可能性を秘
めており、市場が拡大しているリニューアル工事や、解体に伴う建築材料の再利用(リユー
ス)においても有用。大型化したユニットの簡易で確実な接合技術としてロボット・自動化
技術と、ユニットの位置決めに必要な精緻な 3 次元計測技術が不可欠になる。普及に際して
は設計の標準化・規格化が必要となるが、設計自由度の低下に対する配慮が求められる。
3.産業競争力強化のための提言
グローバル展開も視野にした産業力強化に向けて、以下の提言案を検討している。今後最終報告
に向けて、さらなる検討を進める予定である。
【国への提言案】
・国として必要な各種要素技術の開発に向けた研究資金支援、システム実証のための産業横断的
なパイロットプロジェクト(実現に向けた関係府省との調整・協議)の推進、要素技術のデー
タ連携に関する規格・運用ルールの策定。
・関連する省庁(想定)
:内閣府(府省連携プロジェクトの実現と推進、情報セキュリティ等)
、
文部科学省(建設構造/建設材料/ロボット知能システムなどの分野に係る基礎/基盤研究と
分野をまたぐ融合研究、技能者教育と資格制度整備等)
、経済産業省(ICT 要素技術開発支援と
規格/標準化の推進、BIM/CIM 情報を基盤とした産業連携支援等)、国土交通省(スマート建
設生産システムを活用した公共施設実証プロジェクトの実現、BIM/CIM のさらなる普及と情報
化施工の推進等)
、総務省(無線技術利用等)他
・第 5 期科学技術基本計画の「超スマート社会」における社会実装に向けた取組み
【民間の役割案】
・関係する業界への BIM/CIM 普及展開の促進
・スマート建設生産システムにおける役割の明確化とパイロットプロジェクトの実施
・建設分野に関連する ICT 要素技術開発の推進
4.最終報告書に向けた検討上の課題と展開
2、3で述べた各要素技術の進展をふまえてスマート建設生産システムを構想するにあたり、
今後さらに関係者と議論を深めて最終報告への反映を目指す。具体的には、建設業界のニーズ
の検討、ICT シーズ技術の進展検討(標準化、技術開発、情報通信基盤、契約・法制度等の社
会基盤)
、及びそれらのすり合わせによるスマート建設生産システムのあるべき姿(図1)の
検討と課題の抽出を行う。さらに、2025 年の社会実装に向けたロードマップを検討する。
以上
iii
付録(図)
図1 IoT、CPS を活用したスマート建設生産システムのあるべき姿のイメージ
iv
【はじめに】
我が国の建設業は 1992 年度の建設投資 84 兆円をピークに 2010 年度には 42 兆円とピーク時の半
分に市場が縮小しており、20 年にわたる建設市場の縮小により、企業体質の劣化や技能労働者の処
遇低下、若年労働者の減少、技能労働者の著しい高齢化に建設業界全体が直面している。2015 年 3
月に一般社団法人日本建設業連合会が発表した「建設業長期ビジョン」では、特に団塊の世代の大
量退職に対応するため、建設労働者の世代交代に向け、女性や若者の就業増加や更なる生産性向上
の早急な実現が強く求められている。また、女性や若者の就業増加については、労働環境の改善や
安全性の向上など、産業としての魅力向上も欠かせないものとなっている。
なお、建設業の特色としては労働集約型に加え、建設物毎に異なる場所での単品受注生産が挙げ
られる。建設現場では主に人間が操作する建設機械や電動工具等を用い、工事現場ごとの創意工夫
で生産性向上を図ってきたが、同一製品の大量生産を目的としたライン化や自動化等による工場で
の生産性向上を図ってきた製造業とは異なり、依然、大幅な生産性向上の実現には至っていない。
そこで、当プロジェクトでは、
現在世界中で大きな潮流となりつつある IoT(Internet of Things)
や CPS(Cyber Physical Systems)という概念のもと、日本が持つ各種 ICT 技術を組み込んだ「ス
マート建設生産システム」を構想し、上記の建設業が抱える課題について解決を図るものである。
具体的には、近年飛躍的に伸びている準天頂衛星システム、ロボット、自動制御、小型無線飛行
機、各種センサー、ビッグデータ解析、人工知能等の ICT 技術を、建設生産と有機的に結びつける
ことで、関連業界を繋いだこれまでにない建設生産システムが構想されることを期待する。
なお、当プロジェクトの構想は 2014 年度 COCN 研究会「飛躍的な生産性の向上を実現する構工法
の構築」における建築生産システムの将来ビジョンが原案となっており、昨年度の参加者の協力で
当プロジェクトのスタートを切ることが出来た。本年度検討中の「スマート建設生産システム」は、
第 5 期科学技術基本計画における「超スマート社会」の一角を構成するシステムとして建設業界の
みならず、建設物の企画調査段階から完成後の社会インフラの維持管理や建設物ユーザーの施設管
理など、建設物のライフサイクルを通じた多様な人々に利用される社会情報基盤の一部となりうる
ものであり、各方面の関係者から広く知見を提供されることが必要である。最終報告に向けて、他
業種参加のオープンイノベーションを活用し、我が国が直面する人口減少という根源的な課題を解
決できる社会システムのグランドデザインを描くべく、多くの関係者からのご支援を賜りたい。
産業競争力懇談会
理事長 小林 喜光
v
【研究会メンバー】
リーダー
児嶋 一雄
鹿島建設(株) 副社長
サブリーダー
奥山 敏
(株)富士通研究所 シニアディレクター
利穂 吉彦
鹿島建設(株) 執行役員
淺間 一
東京大学大学院 工学系研究科 教授
建山 和由
立命館大学理工学部 教授
森川 博之
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
野城 智也
東京大学 生産技術研究所 教授
浦嶋 将年
鹿島建設(株) 専務執行役員
富田 達夫
(株)富士通研究所 会長
COCN企画委員
金枝上 敦史
三菱電機(株) 担当部長
COCN事務局長
中塚 隆雄
アドバイザー
COCN実行委員
メンバー:
(株)IHI
山西 晃郎、山田 武俊
鹿島建設(株)
丹羽 直幹、古賀 達雄、横尾 敦、上迫田 和人、横関 康祐
古市 耕輔、三浦 悟、青野 隆、大浜 大、鈴木 紀雄、池上 隆三
堀井 千聡、安井 好広、狩野 茂、佐藤 康博、船迫 俊雄、上田 純広
(株)小松製作所
四家 千佳史、布谷 貞夫
産業技術総合研究所
小島 一浩、高橋 孝一
清水建設(株)
柴 慶治、佐藤 博一、石井 大吾、土屋 雅徳、鈴木 正憲、小林 顕
新日鐵住金(株)
菅野 良一、半谷 公司、巽 雄二郎、德田 英司、賀屋 恵二
新菱冷熱工業(株)
岸本 洋喜
ソニー(株)
島田 啓一郎、川名 規之
高砂熱学工業(株)
石田 明央、近藤 員宗、北澤 直哉
東芝エレベータ(株)
高草木 康史
日本電気(株)
山本 賢司、寺岡 謙二、矢嶋 勇、有海 篤司、武田 安司、服部 美里
名倉 賢
日立化成(株)
河合 宏政、松村 繁、松宮 久雄、松沼 宏佳、山浦 隆利
(株)日立製作所
三和 祐一、関口 知紀、江川 栄治
日立機材(株)
伊藤 倫夫、田中 秀宣
富士通(株)
寺田 透、竪山 明彦、長田 尚之
(株)富士通研究所
奥山 敏、佐藤 均、延原 裕之、小野寺 裕幸
富士電機(株)
小高 秀之
(株)三菱ケミカルホール 新村 多加也、金子 学、岩崎 和彦、景山 義隆
ディングス
vi
三菱重工業(株)
川添 司、井上 典亮、大西 献、武石 雅之
三菱電機(株)
津高 新一郎、関 真規人、高井 伸之
YKKAP(株)
小林 幸男、早川 貴雄、内藤 哲也、高橋 謙一、伊藤 卓、梅津 満
植村 彰
事務局:鹿島建設(株)
横塚 雅実、森本 直樹、稗圃 成人、古賀 達雄、鈴木 雄介
丹羽 直幹、中島 賢市、北垣 太郎
vii
【目 次】
1. スマート建設生産システムの意義と目標
1.1 建設業界の課題
・・・・・・・・・・・
1
1.2 スマート建設生産システムの意義
・・・・・・・・・・・
3
2. スマート建設生産システムへ向けた ICT 要素技術の検討
2.1 スマート建設生産システムを構成する要素技術のマッピング(総論)・・・・・・・・・・・
5
2.2 要素技術
2.2.1 BIM・CIM :アプリケーションレイヤー/データ収集レイヤー・・・・・・・ 9
2.2.2 建設機械(ロボット):デバイスレイヤー
・・・・・・・・・・・
13
2.2.3 ドローン :デバイスレイヤー
・・・・・・・・・・・
16
2.2.4 3次元計測 : センシングレイヤー
・・・・・・・・・・・
17
2.2.5 センサー類 : センシングレイヤー
・・・・・・・・・・・
19
2.2.6 ウェアラブルデバイス : センシングレイヤー
・・・・・・・・・・・
20
2.2.7 就労履歴管理システム : 支援技術・環境整備
・・・・・・・・・・・
21
2.2.8 業務分析技術 : 支援技術・環境整備
・・・・・・・・・・・
22
3.1.1 土木構造物、土木建設現場の特徴
・・・・・・・・・・・
23
3.1.2 土木工事における合理化の現状
・・・・・・・・・・・
23
3.1.3 プレキャスト工法による生産システムの合理化
・・・・・・・・・・・
24
3.2.1 建築工事合理化技術のポイント
・・・・・・・・・・・
26
3.2.2 生産性向上に対するユニット化・モジュール化の貢献
・・・・・・・・・・・
26
3.2.3 リニューアルにおける活用
・・・・・・・・・・・
28
3.2.4 標準化・規格化の必要性
・・・・・・・・・・・
28
3.2.5 ユニット化・モジュール化を進展させるための検討課題
・・・・・・・・・・・
28
3.2.6 今後の議論の方向性
・・・・・・・・・・・
29
・・・・・・・・・・・
30
4.1.1 建設分野における課題
・・・・・・・・・・・
31
4.1.2 ICT 要素技術の抽出とマッチング
・・・・・・・・・・・
31
4.1.3 オープンイノベーションによる潜在的な問題解決
・・・・・・・・・・・
31
4.2.1 国への提言案
・・・・・・・・・・・
31
4.2.2 民間の役割案
・・・・・・・・・・・
32
3.建設工事の合理化検討
3.1 土木工事の合理化検討
3.2 建築工事合理化検討
4.最終報告書に向けた検討上の課題と展開
4.1 建設分野の課題と ICT 要素技術のマッチング
4.2 国に対する提言及び民間における活動
1. スマート建設生産システムの意義と目標
1.1 建設業界の課題
(1)建設期間の短縮、省人化の推進等による生産性向上
建設業における労働生産性は、右肩上がりに上昇している全産業及び上昇が顕著な製造業に比べ、
右肩下がりに低下している。2015 年 3 月に日建連が発表した「建設業長期ビジョン」では、2025
年に必要とされる労働者が 328~350 万人と推計した上で、現在 343 万の技能労働者(全建設業就
業者数の約 7 割)のうち、今後 10 年間で高齢者を中心に 128 万人が離職する見通しであり、この
不足を補うために、34 歳以下の若者を中心に 90 万人(うち女性 20 万人)を確保するとともに、
それでも不足する 35 万人分については、生産性の向上による省人化で対応するとしている。
図 1-1-1 労働生産性の推移(建設業・製造業・全産業)
図 1-1-2 建設就業者数の推移
(引用元:日本建設業連合会
建設業ハンドブック 2014)
(2)設計・建設・維持管理を通じたライフサイクルの情報基盤
建設事業においては、設計・施工時における図面データファイルのやり取りや調達時の電
子入札等において ICT 活用が進む一方、建設物のライフサイクル全体を対象とした建設情報
インフラの整備には至っていない。
(3)建設工程の進捗状況(出来形)のリアルタイム把握
一部の土木工事では、モニタリング技術の活用等によりリアルタイムな出来高・出来形把
握が実現している。しかし、ほとんどの建設事業における出来高・出来形把握は、現地での
目視、写真撮影、出来形測量等で行っており、これらをパソコンなどに入力して管理してい
るのが現状である。施工に伴い誤差が生じることに加え、いわゆる現場合せが必要な場合も
あり、設計情報と施工結果には常に差異が生じる。この差異は、施工の後工程や維持管理段
階において重要となることから、リアルタイムかつ正確な把握が求められている。
(4)建設資材のタイムリーな調達
電子調達の普及に伴い、見積・発注等に要する業務時間の削減が進んでいるが、必要な建
設資材の洗い出しについては、図面データや工程管理システムから自動生成されることはな
く、現場の工程進捗に合わせて人為的に行われている。また、多くの建設現場においては資
材の保管場所が不足しており、必要な時に必要な分だけ資材を調達・搬入する必要がある。
1
(5)労働安全環境の改善
死亡災害者数について、徐々に右肩下がりになっているものの、依然として全産業の3割
を建設業が占めており、最大の比率となっている。また労働力人口に対する死亡災害発生率
は、全産業及び製造業に対して 3 倍以上(平成 25 年度)であり、早期改善が求められている。
図 1-1-3 死亡災害発生の推移
(6)建設産業の付加価値と魅力の向上
建設産業は年間労働時間が長く、年間労働賃金の水準も低いため、建設業で働く人は減少
を続けており、働く人にとっての魅力を失っていると言える。また、現場環境は年々改善さ
れているものの、他産業に比して厳しいため、就業者確保に向けた更なる改善が必要である。
図 1-1-5 年間労働時間の推移
図 1-1-4 年間労働賃金の推移
(引用元:日本建設業連合会
2
建設業ハンドブック 2014)
1.2 スマート建設生産システムの意義
(1)昨年度までの検討状況
前章で述べた課題のうち「生産性向上」に関しては、2014 年度 COCN 推進テーマ「飛躍的
な生産性の向上を実現する構工法の構築」において、建築における接合作業の合理化を検討
している。検討の結果、新たに考案した合理的な接合手法の導入により、接合作業に要する
工数を 1/5〜1/10 に削減できる可能性と、ロボット・自動化技術の活用、それらを支える BIM・
3 次元計測技術などの ICT が不可欠であることを提言として取り纏めた。
特に BIM については、施工の出来高・出来形情報をロボット・自動化技術とリアルタイム・
シームレスに連携(情物一致)するための ICT インフラとして着目し、現場の枠を超え、他
産業との連携に発展する構想を提案するに至った。
(2)スマート建設生産システムの概念
本テーマでは、検討の対象を建築の接合から建築生産全体、さらには土木も含めた建設シ
ステム全体に広げつつ、図 1-2-1 で示すような「スマート建設生産システム」の実現を目標
とする。
建設現場
【BIM機能拡張】
工場
出来高・出来形管理
建材の施工位置などの情報
【センシング技術】
【部材生産とBIM連携】
建材の寸法など製作に必要な3D情報
【三次元位置情報】
施工状況に合わせて
調整加工済の部材を
工程進捗に応じて出荷
施工情報をリアルタイムにフィードバック
【通信インフラ、インタフェース】
工場生産技術の活用
【部材のプレキャスト化等】
情報セキュリティ技術
【ロボット自動化施工】
建材に固有の情報を付加して出荷
ICタグなどの個体認識技術
【部材搬送とBIM連携】
物流
図 1-2-1 スマート建設生産システムの概念図
(引用元:2014 年度 COCN 研究会「飛躍的な生産性の向上を実現する構工法の構築」最終報告書より)
建設における情報基盤としての BIM や情報化施工の取り組みを踏まえつつ、近年のロボッ
ト・自動化、3 次元計測/測位、ネットワーク、デバイス、ビッグデータ解析、人工知能等
の技術を取り込む。上図に示すように、クラウドにてセキュリティで保護された BIM サーバ
ーを中心に、センサー、デバイス等により出来高・出来形情報を効率的に管理し、部材工場
と情報を共有することで、施工状況にあわせて調整加工済みの部材を工程進捗に応じて現場
に出荷する。その際、IC タグ等の個体認識技術を活用して物流との連携も図る。
3
(3)システム構築の意義
我が国が保有する工場生産技術及び高度 ICT を活用したスマート建設生産システムの実現
により、工事期間の短縮等の生産性向上に加え、関係者間の合意形成の早期化、建設構造物
の高品質化による社会インフラの信頼性向上、現場の労働安全環境の抜本的改善、調達先企
業との円滑な連携、建設産業の付加価値・魅力の向上、ロボット・自動化技術や先進的 ICT
産業の建設産業への参入機会創出、新たな就労機会の創出、グローバル市場への展開等が見
込まれる。国内の建設投資は 2015 年度で 46 兆円に及ぶと見込まれることから、国民経済全
体にも貢献すると考えられる。
さらに、本システムによる省力化、建設情報基盤の構築、労働安全環境の改善等を海外で
も適用することで、我が国の建設産業としての国際競争力向上が見込まれる。特に建設就労
者の技能レベルや建設資材の質が問題となる新興国における施工管理の差別化技術としても
有望である。
4
2. スマート建設生産システムへ向けた ICT 要素技術の検討
2.1 スマート建設生産システムを構成する要素技術のマッピング(総論)
IoT や CPS 等 ICT 技術の将来トレンドを踏まえ、これらを活用して 1 章で述べた、建設
生産システムの課題を解決しイノベーションを実現するために、今後のビジョンを含め
た検討をしている。特に、今後の土木・建築における建設生産システムのあるべき方向
性と並行して、建設生産システムを支える全体のアーキテクチャ(※参考文献 1)をベー
スに、関係技術マップを作成し(図 2-1-1)、この中で将来に重要となる技術についてそ
の進展と適用の可能性の調査・検討を進めている。
※参考文献1:
Aboola,A. Chimay,A John, M(2013) ”SCENARIOS FOR CYBER-PHYSICAL SYSTEMS
INTEGRATION INCONSTRUCTION”
Journal of Information Technology in Construction
- ITcon Vol. 18, pg. 240
図 2-1-1 IoT、CPS を活用したスマート建設生産システム 技術マップ
この技術マップでは、建設生産システム情報の根幹を成す BIM で得られる膨大な各種
情報を蓄積・管理しながら、調査、設計、生産/製造、物流、施工/建築、維持管理まで
のライフサイクルでの活用を中心に考えている。この上に各工程での IoT、CPS として取
得、制御する現場情報との整合、融合を図りながら、状況のリアルタイムな把握、指示
の迅速化・効率化、建設高品質化を図るとともに、人が関わる部分での生産性や安全性
の向上を同時に追求することを目指す。
なお、技術マップにおける技術領域の階層としては、以下の 5 分類と定義している。
5
① Application Layer/アプリケーションレイヤー
設計から施工、維持管理に至る建設プロジェクト全体で、建設プロジェクトに関す
る様々なデータを 3 次元建築モデルに集約、統合し、デジタルデータを効率的に活
用する概念が BIM である。BIM での設計、現場の工程管理や作業員の管理などを含
めた発注者、設計者、施工者、点検管理者などが利用するアプリケーションを提供
するレイヤー
② Data Collection& Control Layer/データ収集・蓄積・制御レイヤー
現場の様々な情報を収集・蓄積・管理し、蓄積や建設のモデルなどにマッピングす
る領域と、上位のアプリケーションからの指示に応じて、ユーザーインターフェー
ス(以下「UI」という)や建設ロボットなどのスマートマシンの制御を行うレイヤ
ー
尚、BIM のレイヤーは、関連する大量のデータ、モデルを蓄積・管理するデータ蓄
積レイヤーと、これを利用者が設定、反映するアプリケーションレイヤーの両方の
側面があり、現状では、アプリケーションレイヤーとまたがった形に位置付けてい
る。
③ Device Layer/デバイスレイヤー
現場にある建設ロボットや、建機、電動工具、さらには、スマートフォンやタブレ
ット、現場に設置するセンサを収容する機器など現場の情報収集や制御を実行する
レイヤー
④ Sensing Layer/センシングレイヤー
現場に設置する仮設工事用センサや、人に着けるウエアラブルデバイスなどのセン
シング・UI など、実世界を取り込むためのレイヤー
⑤ Communication/Layer/通信レイヤー
センシングレイヤーやデバイスレイヤーと、サーバやクラウドとの間の情報通信を
行うレイヤーであり、有線、近距離・広域無線通信技術などを含むレイヤー
これらの要素技術の活用においては、先の1.1における課題解決をはかるべく、以
下3点の活用観点から検討を進めた。
(図 2-1-2)
(a) BIM の現在の課題や、ライフサイクル全体での活用を目指した基盤としての将来
の在り方
(b) 施工現場での生産性の向上に向けた現場状況の容易な把握と、これを踏まえた建
設ロボットなどを活用した生産の省力化・効率化・高品質化
(c)協力会社含めた現場作業者の労働安全環境の提供、情報共有やコミュニケーション
促進、作業効率の向上
今後、さらに人工知能を活用した最適工程立案(b)、ビッグデータを活用した作業員の
安全管理(c)、などを含めて、検討を進めていく予定である。
6
(1)
(2)
(3)
(4)
(a)
○
○
○
○
(b)
○
○
○
(c)
○
○
(5)
(6)
○
○
○
○
○
図 2-1-2. 要素技術活用の観点((a)~(c))と建設業界の課題(1.1(1)~(6))の対応
建設業界の課題 (1)~(6)
(1) 建設期間・建設労働力の削減、品質向上等の生産性向上
(2) 設計・建設・維持管理を通じたライフサイクルの情報基盤
(3) 建設工程の進捗状況(出来高)のリアルタイム把握
(4) 建設資材のタイムリーな調達
(5) 労働安全環境の改善
(6) 建設産業の付加価値と魅力の向上
これまでの活動において、上述の検討を進めていく中で注力していくべき要素技術と
して、ICT 技術者より最新動向の紹介・共有を実施した。そこで、特に検討を深める技
術として、下記 6 点の注力要素技術と 2 点の関連項目を抽出した。
これらの動向をベースに、今後は建設関係者とのニーズ、シーズの議論を重ね、課題
の抽出と統合した将来構想を、時間軸上の目標も加味しながら検討していく。

アプリケーションレイヤー
1. BIM:まだ我が国では導入が徐々に進んでいる段階。広範囲にライフサイクルの
中での効率的な利用に向けて、様々な課題も明らかになってきた。この課題に
向けた取り組みや、技術進展、制度化を踏まえた展開を検討する。

デバイスレイヤー
2. 建設機械(ロボット)
:人工知能(以下「AI」という)なども活用した施工の自
動化により、危険個所での作業を含めて生産性の向上と安全性の向上を図る。
3. ドローン:人が立ち入りにくい場所の状態を監視する等により、生産性の向上
や安全性向上、維持管理の効率化を図る。

センシングレイヤー
4. 3 次元測位技術:建設現場の現在の状況と設計との差分などを、工数をかけず
に安全、簡易、短期に検出する技術として期待が高い。
5. センサー:環境や部材の状況などの遠隔からの監視や、点検・維持管理の省力
化、施工の進捗状況の自動見える化等により、生産性の向上やタイムリーな調
達、環境の安全管理を図る。
6. ウェアラブルデバイス:人の状態をセンシングし、簡易な UI での現場作業指示
による作業員の安全確認、作業の効率化等を図る。特に現場作業に負担および
7
邪魔にならない形でのあるべき姿などを検討する。

支援技術・環境整備
7. 就労履歴管理システム:作業員に技能と経験を証明する情報を登録することに
より、作業員が能力に見合う待遇を受けるための個人識別環境を整える。
8. 業務分析技術:集まった各種情報、ビッグデータを活用し、生産性、安全性、
品質の改善策等を導出する。
図 2-1-3 技術マップにおける注力要素技術
1
(a)
○
(b)
○
(c)
2
3
4
5
6
7
○
○
○
△間接
△間接
○
8
○
○
○
○
○
○
○
○
図 2-1-4. 活用の観点((a)~(c))と要素技術(1~6)、関連項目(7、8)の対応
(a) BIM の現在の課題や、ライフサイクル全体での活用を目指した基盤としての将
来の在り方
(b) 施工現場での生産性の向上に向けた現場状況の容易な把握と、これを踏まえ
た建設ロボットなどを活用した生産の省力化・効率化・高品質化
(c)協力会社含めた現場作業者の労働安全環境の提供、情報共有やコミュニケーシ
ョン促進、作業効率の向上
以下の2.2では、現在情報共有されているこれらの最新動向を示す。
8
2.2 要素技術
2.2.1 BIM・CIM :アプリケーションレイヤー/データ収集レイヤー
Building Information Modeling の略称である BIM とは、狭義には、建物の3次元建築モデル
に属性情報を併せ持つ建物設計データのことであり、個々の設計ソフトや 3 次元モデルそのもの
を指すものではない。また、建設プロジェクトに関する様々なデータを 3 次元建築モデルに集約、
統合することで、設計から施工、維持管理に至る建設プロジェクト全体でのデジタルデータの効
率 的 な 活 用 の 概 念と して 表 す 場 合 も あ る。( この 場 合 の BIM と は 、 Building Information
Management の略称である。
)なお、後者の概念はまさに建設業における IoT、CPS の概念とも表現
することができ、BIM でデジタルデータをやり取りする仕組みと、先端 ICT 技術、機械化技術が
組み合わされることで、建設現場における労働力の削減、高品質化による生産性の向上、ライフ
サイクルの情報基盤整備、労働安全環境の改善、建設産業の魅力向上などにつながるものと考え
られる。なお、このような BIM の概念はアメリカでは 2004 年頃から主流となっており、現在では
世界的な認識として広がりをみせている。日本では、2014 年に国土交通省にて BIM ガイドライン
が定められ、具体化への動きが進みつつあるが、後述するような課題も多く、今後、個別企業、
業界の枠を超えた推進が望まれるところである。また、日本での土木分野では CIM (Construction
Information Modeling あるいは Construction Information Management の略称)という言葉が BIM
と同義的意味合いで用いられており、国交省では 2012 年度から CIM の試行業務及び試行工事、産
学官連携などを通じて CIM の制度検討と技術検討を行い、2016 年度中に先導的導入事業(河川、
トンネル、橋梁、ダムを予定)において「CIM ガイドライン」を策定することになっている。な
お、日本以外では土木分野も含めて BIM と呼ばれているため、本章では便宜上 BIM という言葉に
統一して記述する。
図 2-2-1 Building Information Management としての BIM のイメージ
9
(1) アプリケーションレイヤーとしての BIM
BIM データを作成するツールのことを BIM オーサリングツールと呼ぶ。具体的には、各ソフ
トウェア会社が提供するデータ作成ソフトが該当し、設計会社や施工会社、専門工事会社が
それぞれの業務に合わせて適切なソフトウェアを利用している。なお、一般的な BIM オーサ
リングツールには、3次元モデルからの2次元図面化や数量積算、干渉チェック、レンダリ
ングといったアプリケーション機能を付属しており、図面や一覧表、パースなどの最終成果
物を作成することもできる。このような機能面からみた場合には、BIM をアプリケーション
としてとらえることができる。また、土木分野では、ダム、トンネル、シールド、橋梁、道
路、鉄道、造成、臨海等の様々な工種でアプリケーションの活用が試みられており、活用事
例としてダム工事の例を図-2-2-2 に示す。
図 2-2-2 BIM オーサリングツールによる作図の例(引用元:鹿島建設より提供)
図 2-2-3 ダム工事における活用事例(出典:日建連パンフレット「建設イノベーション」
)
10
(2) データ収集・蓄積・制御レイヤーとしての BIM
建設プロジェクトを進めるうえで必要となる各種データを収集、蓄積、制御することは、
Building Information Management としての BIM の概念そのものであり、設計情報を中心に
デジタルデータ化が行われている。なお、建設プロジェクトに関する情報とは、幾何寸法や
部品、材料といった設計データだけではなく、仕様書や打合せ議事録のような書類、さらに
は名前や住所、電話番号、担当者リストなど、おおよそ3次元のデジタルデータという概念
からはかけ離れたものまで様々であり、それらをすべて BIM データとして統合するには膨大
な作業量を必要とするため、現段階では現実的ではない。しかし、情報のデジタル化は、膨
大なデータをコンパクトに蓄積できることに加えて、それぞれの業務でデータを共有して活
用できるというメリットもあるため、今後、有用な情報のデジタル化が進んでいくものと考
えられる。
(3) 建設業における IoT、CPS としての BIM と課題
すでに、設計業務を中心とした一部の業務においては、BIM のデジタルデータとアプリケー
ションとの連携による解析シミュレーションや干渉チェックなど、BIM の活用が進められて
いるが、同時に様々な問題点や課題も明らかになりつつある。例えば、BIM によるデータマ
ネジメントには、建設生産を構成する企画、設計、製造、物流、施工、維持管理までの各業
務データが最適な形で統合することで、より大きな効果を生み出すという考え方が一般的で
ある。そのためには、発注者である民間企業や公共団体、資機材を製造するメーカー、物流
会社、そして建物や設備の維持管理会社まで、建設の設計、施工という枠を超えた関係者が、
概念を共有し推し進めなければならず、企業や業界の枠を超えたデータの標準化や規格化な
どの仕組みやルールの策定が必要である。
(標準化や規格化の例:属性情報における項目名の
統一、文字入力規則、3次元形状の詳細度など。
)さらに、建設業の特徴でもある現地を見な
がら詳細仕様を決めていくという生産プロセスでは、手待ち手戻りの発生や労務資機材計画
の非効率性を生み出している可能性もある。データ連携の加速に加えて、それら生産性低下
要因を削減するための事前合意形成ツールとして BIM を活用するためにも、設計と施工の業
務範囲の在り方や発注形態など、ビジネスモデルを含めた産業構造にも影響が及ぶ可能性が
あり、制度面、慣習面を含めて乗り越えるべき課題は多い。
今後、建設業における IoT、CPS の基盤インフラとしての BIM は、さまざまな新たな価値を建
設生産全体にもたらし、建設業における多くの課題を解決するものと期待されているが、そ
のためには、個々のセンシング技術、デバイス技術、データベース、アプリケーションに着
目するだけではなく、上で述べたような、連携、活用するための関係者間の仕組みやルール
作りについても非常に重要になるものと考えられる。
11
図 2-2-4 建設生産システムにおける IoT、CPS としての BIM/CIM 概念図
12
2.2.2 建設機械(ロボット):デバイスレイヤー
(1) 土木における活用
建設業界全体では、情報化施工の普及は、思いのほか進んではいないが、土木現場における ICT
技術の活用の一つの例として,コマツが提案する ICT 建機を利用した建設自動化システムがある。
ICT 建機による自動制御によって、経験を問わず非熟練作業者でも熟練作業者のような精度での
作業が出来るようになっている。また、従来施工と比べて丁張(※)設置や検測などの作業工程
を大幅に削減することにもなった。 (※工事着手前の位置出し作業)
ICT 建機を現場に提供するだけではなく、ICT 建機の能力を最大限に活かすために、以下の特長を
持つソリューションとして提供され始めている。
① 無人ヘリ等を使って,現地形状況を 3 次元データ化する
② 施工完成図面を 3 次元データ化する
③ 地盤、地下などの変動データの取り込み
④ 精度の高い施工計画シミュレーション
⑤ 知能化された ICT 建機を使った施工
⑥ ICT を用いて得られた施工現場の情報を調書や出来形管理を含む納品図書に加工するサービ
スの提供
図 2-2-5
ICT 建機を利用した建設自動化システムの俯瞰図の例(コマツ)
これまでに、経験の浅いオペレーターでも熟練者同様に作業できることや、工事工程を3~4
割短縮できるなどの効果の事例が確認できている。
13
(2) 建築における活用
(a)ロボット開発の課題
建築におけるロボットの適用は古くから試みられているが、環境条件の難しさや作業の不定形
さからロボット化は進んでいない。これは、”3K 作業の撲滅”を目的にロボット開発が行われた
ためであり、世情の変化とともに目先の作業効率を重視した人手作業にとってかわられたためで
ある。一方、多目的建築ハンド(商品名 マイティハンド)等の重量物保持機能を有するロボットに
ついては、現在も建築現場で使用されている(図 2-2-6)。これらは、屋外環境での正確な位置決
めや、人では持てない重量物の組立を行うロボットであり、人手だけではできない作業をロボッ
ト化し、作業の無人化ではなく人と協調し支援するロボットであることが、使い続けられるポイ
ントであると考えられる。
図 2-2-6 使い続けられる建築用ロボットの例(左:外壁 PC 版取付装置、中央:プレキ
ャストコンクリート柱位置決め装置、右:重量鉄筋用配筋ロボット)
(b)ロボット技術の最近の要素技術動向
近年、ICT 技術の進歩によりロボット技術は飛躍的な進歩を遂げている。建築ロボットの性能
向上に特に大きな影響を与えると思われる新技術を例示する。
①ロボットを知能化するセンサ技術(レーザレンジファインダ等)
②ロボットをシステム化する技術(ビッグデータ処理、AI 技術等)
③ロボットを小型化、モジュール化する技術(モータ、コントローラ小型化技術)
④ロボットをケーブルレスにする技術(バッテリー、無線通信技術、ナビゲーション技術)
これらの最新技術を適用、組み合わせた新しい建築資材の搬送技術や位置決め技術がスマート
建設生産システムの実現に寄与することが期待される。
図 2-2-7 ロボット要素技術の例
14
(3) ロボット用無線
ICT 技術、ロボット技術には無線通信が必要不可欠であるが、これに関し日本の現状は全く十
分と言えない環境にあり、電波法を含めた制度の改革が必要とされている。
ロボットといっても建屋の中を動く小型機から、建設機械のような陸上ロボット、さらに無人
小型航空機(ドローン)のように、稼働する現場環境によって、無線に関する問題点や将来に向け
ての要望は異なる。
そこで、2014 年 COCN 災害対応ロボットの社会実装プロジェクトでは、こうしたロボット用の
無線システムについて、問題点と解決に向けた提言をまとめ、下記に報告している。
http://www.cocn.jp/common/pdf/thema71-L.pdf
現状の課題は、映像が送れる容量を確保すること、複数機の稼働において混信(輻輳)が無いこ
と、また遅延や遮断がなく、かつ十分な距離を飛ばせること 等であり、解決にはロボット用の
専用無線電波帯の確保が必要と考えられている。
こうした要望は、2014 年度
電波産業会(ARIB)において、ロボット用電波利用システム調査検
討会が設置され、その検討結果が情報通信審議会 陸上無線通信委員会 ロボット作業班に提言
され、電波法の改正に向けた検討作業が行われている状況である。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000377850.pdf
またロボット用無線では、放送局や携帯電話のような大口ユーザーが存在しないことから
利用メンバー間で,電波の運営に関し,免許人を含めた仕組みを検討していく必要がある。
図 2-2-8 屋外作業ロボットの無線通信イメージ
なお、本検討案件は 2015 年度COCN災害対応ロボット推進連絡会WG3にて、継続して実施
中である。
15
2.2.3 ドローン :デバイスレイヤー
ドローンとは小型無人航空機のことで、最近マルチコプターのタイプが、操縦が容易であるこ
とから普及が進み,種々の産業用への活用が期待されている。
ドローンおよびその利活用については、2014 年度 COCN 災害対応ロボットの社会実装プロジェク
トにて取り上げられ、報告書に詳細が記されている。
http://www.cocn.jp/common/pdf/thema71-L.pdf
土木や建設においてドローンを使った映像撮影や、3D 計測及びマッピング技術などは、新しい
施工の革新を生み出す可能性のある要素技術である。
一方ドローンは昨今、落下事故などが報道され安全面における懸念が高まりつつある状況で、
これに対し国土交通省では、必要な措置を講ずるため下記 航空法の一部を改正する法律案を作
成し、2015 年 7 月 14 日閣議決定に至っている。その主な内容を下記に表す。
http://www.mlit.go.jp/report/press/kouku02_hh_000083.html
①無人航空機の飛行に当たり国土交通大臣の許可を必要とする空域指定
[1]空港周辺など航空機の航行の安全に影響を及ぼす恐れのある空域
[2]人又は家屋の密集している地域の上空
②無人航空機の飛行の方法 (国土交通大臣の承認を受けた場合を除く)
[1]日中において飛行させること
[2]周囲の状況を目視により常時監視すること
[3]人又は物件との間に距離を保って飛行させること
③
その他
[1]事故や災害時の公共機関等による捜索/救助等の場合は①②を適用除外とする。
[2]①②に違反した場合は,罰金を科す。
図 2-2-9 無人航空機の飛行に関する措置(出展 国土交通省ホームページ)
なお、国土交通省のホームページでも示されているように,今後より一層の活用を期待さ
れる無人航空機に関し,国際的な状況も踏まえ,緊急的な措置として,基本的なルールを定
めるもので、今後関係者との十分な調整の上で,機体の機能や,操縦者の技量の確保、無人
航空機を使用する事業の健全な発展等を図るために必要な措置を講じる趣旨である。
安全を確保する技術の開発とルール作りが急がれている。
16
2.2.4 3次元計測 : センシングレイヤー
3次元計測では、屋外・屋内とも高精度な測定が可能となってきており、建設現場での現在の
状況と設計の差分などを、工数をかけずに、安全、簡易、短期に検出する技術として期待が高い。
(1) 準天頂衛星測位
GPS 衛星と同じ信号を配信。また、準天頂衛星独自の機能として、日本の電子基準点データ
をもとに補強信号を配信することにより、センチメータ単位の3次元位置(経度、緯度、高
さ)を検出できる。準天頂衛星は、準天頂軌道(高仰角)に常に位置するためマルチパス(多
重伝播)を軽減する。
図 2-2-10 準天頂衛星システムサービスのイメージ
(2)
モービルマッピングシステム(MMS)
車にレーザ、カメラを搭載し、走行しながら道路周辺のカメラ画像と3次元レーザ点群デ
ータを重ね合わせることで画像上の地面及び物体の3次元位置計測をおこなう。車載カメラ
とレーザにより点群データが取得可能である。MMS で計測した場合、各レーザ点群の緯度・経
度・高さの絶対精度は 10cm、相対精度は 1cm となる。 本データを用いることにより従来の
TS 測量による手法と比較して大幅に現場作業効率を向上させることが可能であり、点群デー
タにより周辺の構造物及び地形等の現況把握が容易である。
17
図 2-2-11 モービルマッピングシステム
(3)
航空写真測量、航空レーザ測量
航空機から撮影計測された写真画画像及びレーザプロファイラを用いて面的な3次元位置
情報を取得する。本技術を用いて絶対精度として、緯度・経度 25cm、高さ 15cm の測量が可能。
都市計画・河川砂防・森林などの分野で活用されている。
図 2-2-12 航空写真測量、航空レーザ測量
(4) 全周囲画像とレーザ計測による高精度屋内測位
360°カメラの連続映像と高精度レーザの計測結果をハイブリッドに組み合わせた、高精度 3
次元データ作成技術を用いることで、従来の 2 次元施設管理を 3 次元で行うことが可能となる。
図 2-2-13 高精度 3 次元データ作成
データ提供:アイサンテクノロジー(株)
18
2.2.5 センサー類 : センシングレイヤー
IoT 時代の到来により、モノ、ヒト、場など、あらゆるところに多種多様のセンサー類が配備
され始めており、建設生産システム分野での利用も急激に進展していくと考えられる。
センサーには、距離、加速度、ジャイロ、角度、温度、振動、圧力、音響など数多くの種類が
あり、目的・用途に応じて単独で、あるいは複数を組み合わせて使用される。センサーにより取
得されたデータは、一般的には WiFi、Bluetooth Low Energy、等の小電力近距離無線でスマート
フォンや現場の機器を経由して自動的にサーバ/クラウドに送信・解析され、現場の見える化を行
い、制御に活用される。センサーはマイコン/無線部を含めてより小型で低電力なものが開発され
ている。設置環境によっては、電池の代わりに太陽光、振動、熱などを利用した環境発電により、
電池交換不要なバッテリーレスシステムも可能となる。
また、画像・映像をセンサーとして扱うイメージセンサーは、速度、感度、ダイナミックレン
ジ、視野、距離などの従来の限界を超える性能のものが開発されており、画像撮影とクラウドに
よる画像データの処理を組み合わせて、測量、調査、管理、点検など広範囲に利用可能である。
具体的な適用例としては、各種センサー、ビーコンを使用した工具・備品・資材の管理や、振
動・音響・温度センサーを使用した設備機械の稼働状態把握、日常点検等がある。また、振動セ
ンサーやイメージセンサー画像による建築構造物の点検保守への試みも行われている。
また、ウェアラブルデバイスの生体センサー(心拍、体表温等)による作業者の体調モニター
と、環境センサー(温度、湿度、気圧、音響等)による作業環境データの測定により、熱中症危
険度の把握等、作業者の健康管理を行うことができる。さらには、加速度、ジャイロ、GPS 等の
センサーやビーコンを組み合わせて、人/建築機械/ロボットの姿勢・転倒検知、位置把握、動線
把握、移動誘導、危険区域への立ち入り制限、行動ログ取得も可能となっている。
今後は、各センサーの小型・省電力化・低価格化により、様々な場所で手軽な利用が可能にな
ると予想される。また、より高度に現場の状態を検出するセンサーの登場も期待される。
環境
建築物
ロボット
人
各種状態
位置、状態、イメージ
位置、動き
位置、動き、状態
センサー類
イメージ(形・色・動き)
・CMOSセンサー
・CCD
・・・・・・
状態
・温度センサー
・湿度センサー
・圧力センサー
・・・・・・・
動き
・ジャイロセンサー
・加速度センサー
・振動センサー
・・・・・・・
位置
・GPS
・測距センサー
・ビーコン
・・・・・
図○ センサー類利用の具体例
図 2-2-14 センサー類 (引用元:鹿島建設、富士通より提供)
19
2.2.6.ウェアラブルデバイス : センシングレイヤー
ウェアラブルデバイスは、人の状態をセンシングしたり、ハンズフリーで多くの情報をやりと
りしながら作業したりできることから、作業員の安全確保や現場での作業効率向上の強力なアイ
テムとなりえる。身に着ける場所、形状により、メガネ型、リストバンド/時計型、衣服型、指輪
型、名札/バッジ型等があり、それぞれ使用目的・用途に応じて使い分けられている。
メガネ型では、ハンズフリーで実物を見ながら、同時に/少ない視線移動で画像情報を見
ることができ、現場での作業効率向上に有効なデバイスである。表示部のタイプとして、単
眼/両眼、シースルー/非シースルーがある。
具体的な適用例としては、現場でのマニュアル・手順書等を見ながらの作業があげられる。
また、経験値の少ない現場作業者に対して、遠隔地の熟練者による効率的な遠隔作業指示・
支援が実現できる。AR(Augmented Reality 拡張現実)技術を利用した応用技術も開発され
ており今後の発展が期待される。
リストバンド/時計型は、手首に装着することから生体センサーで作業者の体調をモニター
するのに適している。搭載するセンサーにより作業者の姿勢・転倒検知、位置把握も可能と
なる。衣服型も、生体センサーによる作業者の体調モニターに適している。洗濯して繰り返
し使用可能な機能素材が開発されている。名札/バッジ型は、手軽に装着・交換ができるのが
特徴である。作業環境モニターや、作業者の姿勢・転倒検知、位置把握等に適している。指
輪型は、主としてモーションセンサーを利用したリモート操作や指先ジェスチャーでの手書
きメモ等の用途で使われる。近距離無線タグリーダ機能を搭載したものも開発されている。
今後は、各デバイスとも、さらなる小型軽量化・低電力化が進み、現場作業のじゃまにな
らない、利用者にとって操作や扱いが容易なデバイスに進化していくことが期待される。
メガネ型
衣服型
現場作業者
両眼・シースルータイプ*1)
遠隔地の
管理者・熟練者
単眼・非シース
ルータイプ*3)
リストバンド/時計型
名札/バッジ型
安全見守り
・指示支援
*3)
*1)
*3)
*1)
図 2-2-15 ウェアラブル利用の具体例
*3)
単眼・シース
ルータイプ*2)
指輪型
*3)
出典; *1)ソニー(株)ホームページ
*2)新日鐵住金ソリューションズ(株)ホームページ
*3)富士通(株)ホームページ
20
2.2.7 就労履歴管理システム : 支援技術・環境整備
現場で働く作業員の識別環境としては、業界団体で現在構想中のシステム、及びすでに業界内
に存在するシステムがある。例えば、大手ゼネコン数社と協力会社団体とが共同で設立した一般
社団法人就労履歴登録機構では、
「就労履歴登録システム」の実用化にむけた検討が進められてい
る。これは、建設現場で働く作業員ひとりひとりに、業界共通の ID カードを発行し、現場への入
退場管理を行うという仕組みである。なお、現段階でのシステム構築の目的は、作業員が能力に
見合う待遇を受けるための個人識別環境を整えることであり、氏名、住所などの基本情報に加え、
有資格情報、入退場履歴など、作業員の技能と経験を証明する情報が登録される予定となってい
る。また、上記システムと類似の作業員管理システムは、一部の民間企業によるサービスとして
既に実用レベルでも提供されており、大手ゼネコンやハウスメーカーなどのユーザーを中心に利
用が広まっている。
このような状況下において、作業員識別環境を業界インフラとして整備し、業界全体への早急
な実用化を図るため、2015 年 5 月、国交省が事務局を務める「就労履歴管理システム(仮称)の
構築に向けた官民コンソーシアム」が構成された。今後は、当コンソーシアムを中心として、2017
年度からの本格運用開始にむけ、運用体制などの検討が進められる予定となっている。また、個
人ごとの歩掛り集計や施工品質結果のフォローによる、作業のボトルネック抽出や作業員のモチ
ベーション向上、作業員によるテロなどのセキュリティ対策としての利活用の可能性も今後検討
が期待される。
図 2-2-16 就労履歴登録システムの全体図(一般社団法人就労履歴登録機構HPより引用)
21
2.2.8 業務分析技術 : 支援技術・環境整備
ICT を活用した業務改善の手法としては、BPM(Business Process Management), BAM(Business
Activity Monitoring)とよばれるソフトウェアを活用した、ICT でワークフロー化された業務の
ボトルネックや進捗を可視化する手法がある。また、近年では、IT システムの動作状況のログを
収集してビッグデータ的に解析し、システム障害の予兆を検知するといった技術も実用化され始
めている。また、ICT 化されていない業務については、エスノグラフィーのように、人が業務の
現場を実際に観察して課題を抽出し、無駄や改善点を抽出する手法がとられている。
これに対し、近年のセンサやカメラの技術、無線通信技術の進展や、計算処理の飛躍的な性能
向上により、ICT 化が難しかった現場においても、ICT を活用した業務改善の適用の可能性が高ま
っている。これまで人手による観察と分析に依存してきた業務分析の一部が、センサ、カメラ、
ビッグデータ、人工知能といった技術により、ICT 化し始めている。
具体的には、小型化・高性能化したセンサやカメラにより、モノと人の位置や個体の認識、そ
れらの時系列での動きの把握が容易になりつつある。これにより、AR を用いた現場での作業のガ
イド、正しさや進捗の遠隔からの確認、数値データとして作業の記録が可能となっている。加え
て、ビッグデータや人工知能によるデータ分析、シミュレーション技術の進展で、これらの記録
したデータの分析から、生産性などの改善策を導出するような事例が出現し始めている。
建設生産現場においては、施工計画、BIM、現場の作業状況を示すセンサ・カメラデータを組み
合わせた分析により、生産性、安全性、品質の改善策が導出される可能性が高まっている。
© Hitachi, Ltd. 2015. All rights reserved.
図 2-2-17 保守業務改善の具体例
22
3.建設工事の合理化検討
3.1
土木工事の合理化検討
3.1.1
土木構造物、土木建設現場の特徴
土木構造物、土木建設現場は建築と比べて以下の特徴を有する。
① 工事場所や工種が多様であり、施工範囲が平面的に広い。
② 官庁発注で、調査、設計、施工、維持管理が分業である場合が多い。
③ 建築構造物が膨大な種類の部品や集合体であることに比べて、土木構造物は比較
的単純な RC 構造で現場打ちコンクリートでの施工が主体。
④ 地下工事等では自然(土圧や水)を相手とする場合が多く、施工時にはモニタリ
ング等で安全性を確認しなければならない。また、施工中に設計時と異なる自然
条件が判明し、構造物の仕様が施工中に変更される場合もある。品質面では地下
水に対する止水・防水性能が要求される。
⑤ 作業員による屋外作業が多く、天気等の自然条件に起因する労働災害のリスクが
高い。
3.1.2
土木工事における合理化の現状
土木工事では重機の大型化・自動化、測量・計測技術の自動化、工事管理の ICT 化等
を中心に合理化が図られてきた。近年は、ICT を活用した社会インフラの合理的なモニ
タリングや評価が検討されている。また、BIM の土木版である CIM についても国交省主
導で試行が始まった。建設工事の合理化には ICT の活用が必要不可欠であり、ここでは、
合理化の現状や今後期待される技術について ICT の観点から記述する。
① 調査・計画段階では、現状地形や既設構造物の形状・寸法を調査する方法として、
カメラやレーザースキャナが活用されるようになってきている。今後は、調査の簡
易化と高精度化、調査データの迅速な3Dモデル化が期待される。
② 施工段階では、TS(Total Station)や GNSS(Global Navigation Satellite System)
等を用いた建設機械の MC(Machine Control)や MG(Machine Guidance)、災害地等
危険な場所での遠隔操作による無人化施工、シールドマシンの自動運転、ニューマ
チックケーソンの省人化等が進んでいる。建設機械については、より一層の品質確
保と生産性向上のために機械の詳細な動きの高精度な制御が求められる。また、ト
ンネル、盛土、土留め掘削等では施工中の地盤挙動を計測し施工に反映する「情報
化施工(観測施工)」が採用されており、各種センサの自動化、データの WEB での「見
える化」等が進んでいる。
③ 施工時の生産管理としての作業工程管理、人工管理は、日々の作業日報を手入力で
データ保存しているのが現状である。今後はセンサや画像処理等により作業内容や
作業員数を自動で把握・管理し生産性向上に繋げるシステムが期待される。また、
出来形検査等の検査においても ICT による省人化が進んでおり、ICT 技術の進展に
23
対応した検査・監理要領の確立も望まれる。
④ 施工時の作業員の安全管理としては、センサを用いて重機に人が近づいた際に警報
を発生させるシステム、IC タグを用いたトンネル入坑管理システム等が活用されて
いるが、最近は腕時計や着衣型のウェアラブルデバイスにより作業員の心拍数や血
圧等の情報を一元管理し安全管理につなげる試みがなされている。過去の労働災害
情報をビックデータ解析し、災害リスクの高い時期、場所を抽出する技術が開発さ
れれば安全性は一層向上するだろう。
⑤ 維持管理段階では、構造物のひび割れや変位を画像やレーザーで検知するシステム
が開発されており、今後は狭い空間や高い場所等、人が近寄ることができない場所
で供用に支障を与えることなく調査する方法や、調査結果の分析・評価方法・意思
決定システムの開発が進むだろう。
⑥ 建設工程全体の生産性の向上や品質の確保、合理的な維持管理の観点から、設計や
維持管理を通して CIM を利用した新しい建設管理システムの構築の試みがなされて
いる。今後は調査計画段階から三次元モデルを活用し、フロントローディングを含
む各段階での高度な業務の遂行が期待される。
⑦ 土木工事は場所が広域で大規模な構造物を構築することから、更なる合理化を実現
させるためには、三次元の測位技術、移動通信技術、機械制御技術、等でレベルの
高い技術が必要となる。そのためには、施工現場において屋内外シームレスに、高
速・大容量でセキュリティが確保できる汎用的な通信技術・システムの開発が期待
される。また、ICT 技術を部分的に導入することではなく、調査・設計から施工・
検査、さらには維持管理・更新までの全てのプロセスにおいて導入し、プロセス全
体を最適化することが重要であり、それを実現するための制度の確立も急がれる。
3.1.3
プレキャスト工法による生産システムの合理化
土木建設工事における ICT を活用した合理化は土工分野では進んでいるが、コンクリ
ート分野では比較的遅れている。これは現在でも鉄筋、型枠、現場打ちコンクリートを
主体とした、
「熟練作業員」と「現地合わせ」の施工が工事の大半を占めていることが大
きな要因であると考えられる。今後は、海外展開も見据え、コンクリート構造物のプレ
キャスト化を普及させることで、作業の標準化、施工の機械化が進み、ICT と連携させ
ることで、建設工事全体を合理化し、品質、安全、生産性を大きく向上させる「スマー
ト生産」が実現できると考えられる。
(1)土木建設工事におけるプレキャスト工法の現状と課題
土木建設工事では函渠や側溝、L 型擁壁等で小型の構造物でプレキャスト製品化が進
んでいる。臨海地域等広い場所が確保でき大型の揚重機が利用できる場合は、橋脚等の
大型構造物のプレキャスト化の事例がある。地下工事ではシールドトンネルのセグメン
トが挙げられる。今後一層プレキャスト工法を普及させるためには、都市部の地下工事
等、各種制約条件が厳しい工事でも適用可能なプレキャスト技術が求められる。また、
24
全ての構造物をプレキャスト化するのではなく、構造種別や規模に応じて、現場打ちコ
ンクリート、プレキャスト製品双方の特徴を活かした工法を選定する必要がある。併せ
て、プレキャスト工法を採用しやすい仕組み・制度作りも必要である。
(2)プレキャスト工法と ICT を活用したスマート生産システムの実現にむけて
プレキャスト工法と ICT を活用したスマート生産システムの実現には、プレキャスト
工法の普及に向けた要素技術の開発とスマート生産を実現させるための ICT 技術の開発
の双方が必要となる。これらについては、①設計技術、②構造・材料技術、③ロジステ
ィクス、④施工技術、⑤維持管理技術等のそれぞれの分野において、品質・安全・生産
性向上の観点で整理する必要がある。併せて、スマート生産システム実現を加速させる
ための仕組み、制度についても、①標準化、②契約、③法制度、④情報通信基盤、⑤技
術開発、等の観点で整理する必要がある。
25
3.2
建築工事合理化検討
3.2.1
建築工事合理化技術のポイント
建築工法の合理化技術に関して、ユニット化・モジュール化に重点を置いて検討する。
構造・仕上げ・設備を一体にした合理的なユニット化とユニット間の接合技術も視野に入
れる。検討に当たっては、高速施工等の内外事例を参考にする。
在来工法で建造した構造体に対して、設備・仕上げをユニット化・モジュール化して組
み込む際に必要な接合技術(接着剤・新材料等)についても検討する。検討に際しては、
昨年度議論が不足し、今後大きな需要が予測されるリニューアル工事を強く意識する。リ
ニューアル工事の中で多くは、既存の構造体を利用して、仕上げ・設備の速やかな更新が
要求される。
【ユニット、モジュールの定義】
「ユニット」と「モジュール」の定義は、多種想定されるが、本WGでは以下のように
整理する。
・「ユニット」:複数の部材やモジュールを組み合わせた単位のこと。現場もしくは工場で
組み立てられる。施工上の工夫や搬送上の制約から形状やサイズが決定する。
・「モジュール」:建築の寸法や規格に適合した部材単位のこと。ロボット施工で繰り返し
接合される部材の単位、リニューアル時の取り換え単位等、計画上の工夫により形状や
サイズが異なる。
3.2.2
生産性向上に対するユニット化・モジュール化の貢献
ユニット化は、建設現場での工数削減を達成することで高速施工の実現に貢献する。ユ
ニット化率を高めるためには、工場製作率をいかに上げるかが重要な課題となり、国内外
の事例では 90~94%まで達成しているものがある。特に、設備が集中する床(床下から直
下階の天井まで含む)のユニット化(図 3-2-1)は、工数削減に大きな効果を発揮するた
め、国内外の工事で実施されている。一方、ユニット化することで現場での工種を減らせ
ることも大きなメリットであり、これにより現場での施工管理や検査の簡易化が図れる(図
3-2-2)。さらには、工場でのプレ加工の促進は、建築物の高品質・高精度化につながる。
ロボット・自動化施工に対しては、例えば、通常別々に施工されるアルミサッシ枠とガ
ラス窓を一体としたモジュールを接着接合する工法が実現されれば、重量物を正確な位置
に移動・設置して一定時間保持するロボット施工の有効性が増す(図 3-2-3)。また、上記
の例のように、ロボットで操作しやすい単位をモジュール化して製品管理することで、一
定規模の部材群をICタグなどの情報技術により管理することが可能となる。さらに、ユ
ニットの大きさは運搬上の制約により決まることが多いが、図 3-2-4 に示すように、運搬
可能なサイズのモジュール複数を設置場所近傍で一体化(ユニット化)し、位置決め機能
を持った揚重ロボットにより所定の位置に移動・設置すれば生産性向上が図れる。
26
設備機器、ダクト類
床構造部材
図 3-2-1
床ユニット例(構造、設備の一体化)(引用元:鹿島建設より提供)
在来工法
図 3-2-2
図 3-2-3
ユニット化の一例
ユニット化による工種削減例(施工フロー) 1)
外壁ユニットのロボット施工法案(2014 年度COCN最終報告書から引用)
27
モジュールで運搬
フロアで地組:ユニット化
図 3-2-4
フロアサイズユニットを位置決め
設備モジュールのユニット化施工の例
(2014 年度COCN最終報告書に加筆修正)
3.2.3
リニューアルにおける活用
リニューアル工事においては、建物の使用不能期間を極力短くするために短工期での施
工が求められる。そのため、部材単位での施工ではなく、一定の機能を担うモジュール単
位、又はユニット単位での施工が有効性を発揮する。新築時において、取り換えの単位を
モジュールとして規格化・標準化してICタグにより管理しておけば更新が容易となる。
リニューアルを効率的に行うためには、建物各部がどのように使われ、どのような状況に
あるかをモニタリングしておくことが有効である。このトレーサビリティを確実なものと
するために、BIMによる出来形の管理は有用であり、それは、部材(または部材群)を
リユースする場合にも効果を発揮する。これらのユニットやモジュールの現場施工では、
接着剤やワンアクション接合など、現場での作業を省力化できる技術によりさらなる効率
化、短工期が達成される。
3.2.4
標準化・規格化の必要性
以上、ユニット化、モジュール化を進めるためには、設計の標準化・規格化が不可欠で
ある。それは、リニューアル工事やリユースの促進においても大きな効果を発揮する。た
だし、標準化・規格化は、得てして設計自由度の低下に向かう傾向があるため注意が必要
であり、ユニット、モジュールとして扱う単位を慎重に検討する必要がある。また、設計
の標準化・規格化の効果として、フロントローディングが充実し、BIMの高度化が実現
される。
3.2.5
ユニット化・モジュール化を進展させるための検討課題
ユニット化、モジュール化は、現場作業の省力化を大きく進める可能性を秘めているが、
それらの効果を一層確かなものとするため、現場作業におけるロボット・自動化の活用は
不可欠である。
また、ユニット化では可能な限り大きなユニット単位を扱うことが効果的であるため、
ユニット単位が重くなる傾向にある。そのため、軽量化の促進は重要であるが、一方で、
床スラブの振動問題のように、軽量化により性能が低下する場合もあるため注意を要する。
それらの大型化したユニットを現場施工する場合、簡易で確実な接合技術が必要である
と同時に、大規模部材の座標や向きを計測(3 次元位置計測)し、所定の位置に保持する
技術も重要である。
28
さらに、資源の有効活用のためにリユースも重要であり、ユニット化・モジュール化と
リユースの促進は、相乗効果を発揮することが期待できるため、図 3-2-5 に示す柱梁の接
合部などの構造分野に限らず、設備・仕上げの分野でも検討すべき課題である。
柱 接 合部 に、 H型 鋼ブ ラ ケッ ト
を 工 場溶 接し たさ や管 状 のリ ン
グ パ ネル を設 置の 上、 空 隙部 を
グ ラ ウト 充填 する 接合 方 法。 解
体 用 プレ ート を引 き抜 く こと で
容易に解体・リユースが可能。
図 3-2-5
3.2.6
リユース構造体の例(リユース型接合部
1)
)
今後の議論の方向性
・ユニット化で現場での工数が削減され、短工期となるが、コスト増になる場合も想定さ
れるため、ユニット化とコストの増減との関係性を意識した議論が必要である。
・ユニットを効率的に施工するための多機能ロボットの開発や、接合原理を統一した簡易
な取り付け手法の必要性について議論する必要がある。
・鉄骨造建物での高所作業・危険作業を回避するためにも、ロボット・自動化施工の活用
が益々必要となることから、この観点の議論が必要である。
・ユニット化・モジュール化を活かした効率的なリニューアルのためには、部材または部
材群の健全度の計測・評価手法についても検討が必要である。
・地上に限らず地下工事でもユニット化、モジュール化を検討する課題がある。地中障害
の検知なども含めた検討が必要である。
・検討の対象は、第 1 回プロジェクト会議で紹介された以下の建物(オフィス)を想定する。
(記載イラスト:
一般社団法人
日本建設業連合会
関西委員会
‘ イ ラ ス ト 「 建 築 施 工 」’
から引用)
図 3-2-6
検討対象建物
参考文献
1)熊田、椚、兼光、瀧、坂本、
「 アダプタブルビルの開発-適用事例の環境影響評価と生産性評価-」、
日本建築学会・建築経済委員会・第 22 回建築生産シ ンポジウム 2006、pp.77-82
29
4.最終報告書に向けた検討上の課題と展開
建設分野の課題検討、ICT シーズ技術の進展をふまえ、2025 年のスマート建設生産システムの社
会実装に向けたロードマップを検討し、あわせて 2020 年頃を中間経過点とする時間軸上の目標も
設定する。更に、その目標を実現するにあたり、技術的課題や社会的諸制度との組み合わせを検
証し、実現可能性の検討と具体的な改善策の抽出を行う。
その際、建設産業全体の業務フローを見直すことにより、発注者、建設業者、資材メーカー、施
設利用者にとって利便性の高いライフサイクル全般に対応するシステムを検討する。
なお、スマート建設生産システムについては、建設生産に関する以下 3 点の特徴を念頭に置きつ
つ、標準化、技術開発、モデル実証、技術者育成・技能者養成等の課題解決をあわせて構想する。
①建設構造物が一品受注生産であり、反復継続する工場内生産と異なること。
②現場のローカルコンディションや工作物の特性に合わせ、システムがポータブルであること。シ
ステムの拡張やダウンサイジングが容易であること。
③作業労働者と機械が共存できること。
4.1 建設分野の課題と ICT 要素技術のマッチング
第 3 章で提起された建設分野における課題を解決するため、第 2 章で検討した ICT 要素技術の
組み合わせを検討し、スマート建設生産システムを構想する。システムの社会実装により、建
設フローの各段階において図 4-1 に整理したような効果が期待される。
図 4-1 建設フローの各段階において期待される効果
30
4.1.1 建設分野における課題
建設分野は先に述べた 3 点の特徴があるため、生産性向上には、品質の向上と均質化、工
期短縮、省力化、技能補助等の課題解決が求められる。
土木分野における合理化は、ICT を活用して造成工事などの土工分野では進んでいるが、コ
ンクリート分野では比較的遅れている。海外展開も見据え、コンクリート構造物のプレキャ
スト化を普及させることで、作業の標準化や施工の機械化が進むと考えられる。プレキャス
ト工法の普及に向けた要素技術の開発とスマート生産を実現させるための ICT 技術の開発基
盤について、品質・安全・生産性向上の観点で整理する必要がある。
建築分野における現場作業の大幅な省力化実現には、ユニット化・モジュール化に加えて
ロボット・自動化・簡易接合に関する技術の活用が不可欠であり、特にユニットを効率的に
施工するための多機能ロボット開発及び部材の測定・評価手法の具体化が望まれる。
4.1.2 ICT 要素技術の抽出とマッチング
幅広い分野の ICT 要素技術のなかから、上記の課題解決に必要とされるものを抽出し、要
求仕様を整理するとともに、2025 年頃の技術開発状況や情報通信基盤、契約・法制度等の社
会基盤の整備状況も想定し、3 次元計測/測位、各種センサー、画像処理技術、ウェアラブ
ルなど最適な要素技術のマッチングを行う。
4.1.3 オープンイノベーションによる潜在的な問題解決
本プロジェクトに参加している先端的な ICT 企業からの技術提案により、IoT、CPS を活用
した建設業界の潜在的な問題解決につなげる。
4.2 国に対する提言及び民間における活動
グローバル展開も視野にした産業力強化に向けて、以下の提言案を検討している。今後最終報
告に向けて、さらなる検討を進める予定である。
4.2.1 国への提言案
・国として必要な各種要素技術の開発に向けた研究資金支援、システム実証のための産業横断的
なパイロットプロジェクト(実現に向けた関係府省との調整・協議)の推進、要素技術のデ
ータ連携に関する規格・運用ルールの策定。
・関連する省庁(想定)
:
①内閣府
●府省連携プロジェクトの実現と推進
●情報セキュリティ
②文部科学省
●建設構造/建設材料/ロボット知能システムなどの分野に係る基礎/基盤研究と分野
をまたぐ融合研究
●スマート建設生産システム運用を担う技術者教育と資格制度整備
③経済産業省
31
●スマート建設生産システムを実現する各種要素技術開発支援と規格/標準化の推進
●BIM/CIM 情報を基盤とした産業連携支援
④国土交通省
●スマート建設生産システムを活用した公共施設実証プロジェクトの実現
●BIM/CIM のさらなる普及と情報化施工の推進
⑤総務省
●無線技術利用 等
・第 5 期科学技術基本計画の「超スマート社会」における社会実装に向けた取組み
4.2.2 民間の役割案
・ 工場生産技術及び高度 ICT を活用した建設生産プロセス全体の合理化による、高品質な建設
物の提供
・ 建設現場における労働生産性及び労働安全の実現
・ BIM/CIM 情報を基盤とした産業連携の実現、新たな市場の創出
・ スマート建設生産システムの実現に向けた着実な活動推進
●システムに適用可能な各種 ICT 要素技術の研究開発の推進
●パイロットプロジェクト※所掌組織の立ち上げと、関連企業間における役割の明確化、
関係府省との各種調整・協議
32
一般社団法人 産業競争力懇談会(COCN)
〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-2-1
日本プレスセンタービル 4階
Tel:03-5510-6931 Fax:03-5510-6932
E-mail:[email protected]
URL:http://www.cocn.jp/
事務局長 中塚隆雄
Fly UP