...

短波海洋レーダ 6. 海洋レーダによる沖縄南方海域の海流観測

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短波海洋レーダ 6. 海洋レーダによる沖縄南方海域の海流観測
Vol.37 No.3
通信総合研究所季報
June 1
9
9
1
p
p
.3
9
3
4
0
4
研 究
短波海洋レーダ
6
. 海洋レーダによる沖縄南方海域の海流観測
大野裕一事
(
1
9
9
1
年 1月2
1日受理)
HFOCEANRADAR
6
. OBSERVATIONOFCURRENTONTHESOUTHCOAST
OFOKINAWABYHFOCEANRADAR
By
Y
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a
r
.
1 はじめに
短波海洋レーダは,海に向けて電波を発射し,海面で
反射されたエコーのドップラスベクトルを解析すること
非常によい感度でエコーの受信ができた.また,このと
き長崎海洋気象台の観測船「長風丸」との共同観測も実
施することができた.本論文ではこのときの観測データ
の解析結果から特に海流や潮流について述べる.
によって,海流や波高や海上の風などを測定するレーダ
2
. 短波海洋レーダによる海流測定法
9
8
8
年秋
である.通信総合研究所沖縄電波観測所では, 1
に日本初の短波海洋レーダシステムを完成させ,その性
短波海洋レーダの主要緒元を第 1表に示す.海洋レー
能の検証や海洋の調査研究を目的として実験観測を続け
ダ装置やデータ処理法については別稿を参照された
ている.このレーダシステムは簡単に運搬できるように
設計されており,アンテナを立てることができる敷地と
海からの受信エコーをフーリエ解析すると第 1図のよ
電源があれば,移動して各地で実験を行なうことができ
うなドップラスペクトルが得られる. ±0.5Hz付近に
る 1
9
8
9
年1
0月に,このレーダをそれまで常置していた
みられるピークは一次散乱とよばれ,このピークの位置
沖縄電波観測所構内から沖縄本島南部の知念岬に移動し
s(波自身の位相速度によるドップ
とプラッグ周波数 I
て 8日間にわたって沖縄南方海域の海洋観測を行なった.
ラ周波数)との周波数差からその地点の流速は求まる.
本実験ではレーダを海岸の近くに設置することができた
ただし,得られる流速はレーダビーム方向のベクトル成
ので,陸上における大きな伝搬減衰を受けることなく,
分のみであり,ビームに直交方向のベクトル成分は他の
情報から求めなければならない.観測される海流は深さ
’ 沖縄電波観測所
lm以内のごく表層の流れである. ドップラスベクト
3
9
3
通信総合研究所季報
3
9
4
短波海洋 レー ダの主要諸元
第 1表
送受信機
レーダ方式
観測周波数
周波数掃引幅
送信出カ
受信機雑音指数
受信機:
幣峨幅
FMCW
4
.5
6
5MHz
2
4.
4
6
5∼2
1
0
0kHz
送受切り換え型
(FMICW)
lOOW
2
5dB以下
500Hz
1
.5km
距離分解能
アンテナ
アン テナ形式
反射器付き 短縮ホイップ1
0
紫子フ
ェ イズド
アレイ
1
5度 (H面
) ,8
0
度 C
E函)
ビー ム幅
ビーム スキャ ン ±45
度,7
.5
度ス テ y プ
ー1
5dB以下
サイドロープ
遠ざかる 滋
3.
0
9
m
/
s
速度
0
.
O
m/
s
信号強度
/
に設置されたアン テナ
第 2図 知念州1
近づく波
。
3
.0
9
m
/
s
\ 九
ー
12
11
1
0
。
9
ピームN
o
.
-fB
f
.
0
.5
0
5H
z
0
.OH
z
0
.5
0
5
H
z
ドップラ周波数
7
8
2 3 4 5
第 3図 知
念
、
自
!l
f
実験でのレ ーダの位鐙およびビーム方向
から得られるド ップ ラスベクトノレ
第 l図 短波海洋レーダ観的l
の官l
j
およびレーダのビームの方向である アンテナの正面 ビ
ム方向は北から 1
5
9
。で,正面より士 4
5。の範囲を観
…
… 12と名
ルの周波数分解能は 1
/
1
2
8Hzで,これは流速 4.
7
8cm/s
測した.図中左からビーム番号を 0' 1, 2
に対応する 視線方向流速は,一次散乱ピークの広がり
づ け る こ と に す る 設置場所は 1
8
0
度以上海に聞けてお
5点の重心の位置を用 いて決
り,海洋レーダの観測l
場所として最適であ った * 実 験
も考店、して,
ピ クの周り
めている.データ処理上,正負二つの一次散乱で・ピーク
では基本的にビ ーム NoO から I
J
僚に No.
12まで 1
5分 ご
Nが
値の大きい方を使って海流を決定しているが, SI
とに観測し,
よく,紛れることなく 2つのピークの位置が決定できる
うなスケジュールで行なった 実験最終日の 1
0月1
2日1
0
場合は,
2つの流速は数 cm/s程度の差で一致する
3
.観測の概 要
3時間 1
5分で元のビ ーム方向を観測するよ
時までに,延べ 5
4
2方向, 1
3
5.
5
時間のデータが得られた
4
. 距離感度特性について
今回の観測は 1
9
8
9
年1
0月5日より 1
0月1
2日まで,沖縄
短波帯では,陸上における地表波の伝搬減哀が海上に
本島南部の東端,知念仰にある知念村民体育館の敷地を
比べて非常に大きいため,短波海洋レーダはできる限り
借 り て 実 施 し た ( 第 2図
) .1
0月 5日にレ
ダの設置を
海岸の近くに設置することが望ましい . レーダを海に近
6日1
1時より 本格的 に観測
づければ,受信感度は上がり,傑知距離も伸びることに
を始めた.第 3図は今回の観測におけ るレーダ設置場所
なる ωー今回の実験では海まで 200m程度の岬の高台
終え,予備的観測を行ない,
V
o
l
.3
7 No.3 June 1
9
9
1
にレ
3
9
5
ダを設置できたので,この効果を沖縄中部中城村
では,ビーム幅が約 1
5。あるため海上を伝搬する部分
の沖縄電波観測所構内(第 4図)から観測した結果と比
もあり,ビ
べて評価してみる.
o.5∼1
2では 18km
り強度は低くなっている. ビーム N
ムN
o.1∼4の場合ほどではないが,やは
観測所構内および知念岬それぞれで観測したときのレ
付近で最大となってその後減少するという典型的な距離
ダ、エコーの強さをビーム方向ごとに描いたのが第 5図
感度特性が得られている.しかし,その強度はビ
および第 6図である.横軸にレ
ダからの距離,縦軸に
No.7からど
ム
ム番号が増すにしたがって全体的に小さ
エコー強度をデシベルでとっている.ここで,エコー強
くなっている.これは, レーダから海までの距離が長く
度の指標としてドップラスベクトル上に表われる正およ
なり陸上伝搬減衰が増えること,ビ
ム方向が正面から
び負の一次散乱ピーク値を用いた.図中,実線は正のドッ
プラシフトをもっ一次散乱ピーク値,点、線は負の一次散
十
よ
み
ぞ
乱ピーク値,綿子泉はノイズレベルを示す.なお,ばらつ
きをおさえるために各ビームで数回の観測データを平均
している.陸上における伝搬減衰の影響が無ければ,一
次散乱の強度は距離 lOkm ぐらいから大きくなって,
1
5∼20kmで最大となり,それより先はまた小さくな
るという距離特性を示す.距離 lOkm以下の地域でエ
コーが受からないのはアンテナの送受切り換えの際に生
じる空白時間のためであるω .
観測所構内から海までは最短でも 2km以上あり,
12
ピームN
o
.
0
特にビーム N
o.l∼6までは沖縄南部,知念半島にかか
2 3 4 5 6 7
り,陸上を伝搬する部分がかなり長くなっている.その
ためレ
ダのエコー強度も低く,特にビム N
o.1∼4
の S/Nは全距離で lOdBに満たない. ビーム N
o
.
5
,6
B
e
a
m 1
B
e
a
m 2
第 4図 沖縄電波観測所構内から観測した場合のレーダの位置
およびビーム方向
B
e
a
m3
B
e
a
m4
信
号
強
必需円~~~可
度
B
e
a
mB
B
e
a
m7
信号強度
信号強度
1
0
d
B
m
距離
第 5図
距離
距離
距離
沖縄電波観測所構内からの海洋レーダ程1測から得られたビーム Nol
∼1
2の一次散乱ピー
ク値の距離による変化( 1
8
8
9
年 8月 1∼2l
=
i
)
. 実線は正のドップラの一次散乱ピーク値(d
B
)
,
点線は負のドップラのー次散乱ピーク値( dB),細線はノイズレベル
目
3
9
6
通信総合研究所季報
信号強度
信号強度
信号強度
距離
距離
距離
距離
第 6図 第 5図と同じただい知念岬から観測した場合 0989
年1
0月6∼7日
)
離れてアンテナ利得が下がることが原因と思われる.な
拙いたものを示す.第 8図はビーム N
o.4の例である
o
.
8
,9の 17km付近では久高島にかかる
お
, ビーム N
が,距離 12kmから 66kmまでの視線方向流速を 6km
ために若干の減衰が見られる。最大探知距離は正面ビ
ごとに描いている.やはり半日周期の変動が目につくが,
ム付近で 65km程度である.
54kmより遠方では半日周期はあまりはっきりせず,
一方,知念岬で得られたエコー強度はどの方向にも遮
一日以上の長い周期の変動が目立つ.半日周期の潮流は
るものが無かったので,全てのビーム方向で典型的な距
50kmあたりまでは支配的であるがそれ以遠では弱まっ
離感度特性が得られた.エコー強度最大の距離を過ぎた
ていると恩われる.これら潮流の成分については次章で
部分で減衰する割合は,ほぼ観測所構内からのものと同
詳しく解析する.
じであるが,最大で 3
0
∼40dBの SINを持つエコー
各ビ ム各距離の視線方向流速を全観測期間で平均し,
5
∼80kmとなっ
が得られているので,最大探知距離は 6
測した場合に比べ,エコー強度が lOdB以上増加し,
6日間の平均的な流れの分布を示したのが第 9図である.
3
方向の
流速ベクトルの始点を各観測点に一致させ,全 1
データを距離 3kmごとに描いている.流れの方向を
最大探知距離が 15km以上伸びたといえる.
みると,ほとんどの観測域でレーダに向かつており, レ
ている.このように知念岬での観測は,観測所構内で観
5
. 沖縄南方における海流観測結果
ーダから離れているのはビーム N
o
.
O
,1
, 2の近距離部
o.12の遠方のみである.流れの大きさ
およびビーム N
今回の実験で海洋レーダにより測定された視線方向流
は沿岸で・は小さく,中心ビーム付近の遠方で最も大きく
速の時間変化を示す.第 7図はレーダから距離 30km
なっているが,最大 3
0emfs程度である 流れの空間
の視線方向流速の例で,ビーム N
o.O∼1
2までビーム
的な変動は小さく,流速も小さくなっているが,これは
ごとに 30cm/sずーっずらして描いている. この図で半
流速の平均化によって潮流などの短周期の変動成分やラ
日程度で振動している変化が目につくが,これは潮流成
ンダムな測定誤差が取り除かれたことによる効果だと考
分と考えられる.一方,これ以外の時間変化成分は小さ
えられる.
く,各ビームの全期間の平均流もそれほど大きくない.
第 9図の視線方向流速分布は空間的ゆるやかに連続性
これは, レーダから 30km付近の海域では,半日周期
を持って変動しているため,局所的に流れはほぼ一様と
の潮流が支配的であることを示している.
仮定することができ,連続の方程式と組み合わせて海流
次に同一ビームでの視線方向流速の変化を距離ごとに
の全ベクトル推定ができるω.第1
0図は第 9図の視線方
V
o
l
.3
7 No.3 June 1
9
9
1
3
9
7
cm/a
cm/a
40
30
20
10
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
50
50
0
-10
-20
-30
6 . 7 . 8 . 9 . 10
October
第 7図
6
7
8 •
9 • 10 . 11 • 12
October
短波海洋レーダで得られた各ビームの距離 3
0kmの
第 8図短波海洋レーダで得られたピーム No.4方向におけ
視線方向流速の時間変化.左端の数字はビーム番号を
る各距離の視線方向流速の時間変化.左端の数字はレー
示す
)を示す
ダからの距離(km
。
↑50cm/s
1989/10/ 6 - 12
50k
60k
フOk
第 9図短波海洋レーダで得られた 1
9
8
9
年1
0月 6日∼ 1
2日の平均視線方向流速分布図
通信総合研究所季報
3
9
8
。
↑50crn/s
1989/10/ 6
60k
70k
第1
0
図 第 9図からビーム直交方向の流れを推定して得た 1
9
8
9
年1
0月6日∼1
2日の平均全海流ベク
トル分布図
向流速の分布からビームに直交する方向の流速を推定し
あるため,ここでは M2潮流成分のみに着目して解析
て,海流の全ベクトル成分を求めたものである.その結
をすすめる.
果
, レーダから 20km以内の沿岸には西向きの弱い流
各観測点で M2潮流成分の振幅及び位相を求めるた
れ,それより離れた所では東側で北あるいは北東向きの
めに,海流の視線方向速度の時系列より全期間の平均を
流れ,西側で北西向きの流れが推定された.空間的にも
引いて変動成分だけを取り出し,これに周期1
2
.
4
2時間
連続的でもっともらしい流れの分布をしていることから,
i
n(
2
1
C
t
/
T
+δ
)を使って,フィッ
のサインカーブ A s
この推定された全海流ベクトルはある程度信用できると
ティングを行なった.フィッティングには最小自乗法を
いえる.
用いて次式の Iが最小になるように振幅 Aおよび位相
第1
0図で得られた流れが黒潮のように長期的に安定し
た流れであるかどうかは今回の解析のみでははっきりし
ない.今後,もっと長期にわたり観測を続けることでこ
の点は明らかになるであろう.
6
. 潮流の解析
第 7図や第 8図でみられる短周期の変動は潮流,特に
M2潮流成分によって生じていると恩われる. M2潮は
月の起潮力によって生じる主太陰半日周潮のことで,周
潮の中で録も潮位の振幅が大きく, 1
2
.
4
2時間の周期を
δを求めた.
I=芸
[
x
n
(
t
n凡
争
+δ])
s
凶 π
2
・
(
1
)
I :偏差自乗和
t
n :時間(1
1月 6日 O時 O分を t=0とする)
xρJ:観測値
A :M2潮流成分の振幅
δ :M2潮流成分の位相
T :M2潮の周期(1
2
.
4
2時間)
このフィッティング法では他の周潮成分に引きずられ
0
時間), K
1潮(2
3
.
9
3
時間), o
,潮(2
5
.
8
2時間)は M2
影響は小さいと思われるので,ここでは全地点のデータ
潮の半分程度の潮位の振幅しかなく,これらにともなう
に対して一律にこのフィッティングを行なって振幅,位
潮流も小さいと考えられる.今回の観測ではデータ量が
相を求めた.
持つ周潮駒子である.他の周潮成分,例えば~潮(12.
少なく,振幅の小さな周潮成分まで取り出すのが困難で
て M2潮流の振幅,位相を誤る可能性もあるが,その
1図はフィッティングしたサインカーブの例である.
第1
3
9
9
9
9
1
V
o
l
.3
7 No.3 June 1
cm/s
50
40
Beam 6 Range 30.0km
剰混在
30
20
10
媛
hh
。
-10
曜
-20
-30
-40
-50
6
7
8
10
9
11
12
October
第1
1図
短波海洋レーダで得られた視線方向流速(実線)と最小自乗フィッテングした周期 1
2
.
4
2時
間のサインカーブ(点線). ビーム No.6,距離 30kmの地点のデータの例
,距離 30kmの地点のデータに
この図はビーム No.6
さい領域では誤差が大きく,不連続になっていたので,
ついて示したものであるが, 6日付近で位相が反対になっ
この位相分布図では振幅の小さい領域は点線で推定した
ているのを除いて,観測値とフィッティングしたサイン
等値線を描いている.ビーム No.O
∼6では速くへ行く
カーブがよく合っており,この時間変動のほとんどが
ほど位相が遅れていて,特にビーム No.Oの距離 20km
M2潮流成分で占められていることが分かる.
こうして求めた M2潮流の振幅分布を第 12図に示す.
振幅が大きいのは知念の南方海上,距離 2
0∼40kmの
領域でその振幅は 1
0cm/s以上になっている.一方,
0∼60km
振幅が小さい地域はビーム No.1∼9の距離 5
付近で娠幅はほとんど Ocm/s となっている.次に M2潮
流の位相分布を第 1
3図に示す.位相(δ)は,振幅の小
と 50kmとでは, 1
8
0
。も位相が違っている.一方, ビ
Mz
ム No.10
∼1
2では遠くへ行くほど位相が進んでいて,
0
。位相が進んでい
距離 55kmでは 20kmに比べて 9
る.またレ
ダから等距離線上でみれば,距離 30km
以下ではビーム番号の小さい方ほど,距離 45km以上
ではビーム香号の大きい方ほど位相が進んでいる
ここで示した振幅および位相の分布図は,各ビームの
Mi
PHASE
第1
2図
フィッテングによって得られた叫潮流の振幅分布
(emfs)
第1
3図
フ
ィ
(
度
)
y
テングによって得られた M2潮流の位相分布
通信総合研究所季報
4
0
0
視線方向流速について描いた図であることに注意が必要
流の全ベクトルがある程度正しく推定されていると仮定
である.海流の全ベクトルを考えたときには, ビームと
して,以降解析を進める.
直交方向の流れも加わるので振幅,位相の分布が違った
第1
6図は M2潮流の各位相における潮流ベクトルの
ものになることも考えられる.
終点を結んで描いた潮流楕円である. t=0 (時間)の
上記に示した M2潮流の位相分布と振幅分布から,
M2潮流の時間変化図を描いてみる. M2潮流の位相に
ついては, 1
1月 6日O時からの時間 tをもって表わすこ
とにする. M2潮が下げ最大にあたる, t
= 2(時間)の
位相の潮流ベクトルも一緒に示しである.潮流ベクトル
位相における視線方向流速分布を第1
4図に示す. レーダ
で
, 4
0∼50kmの西側ビームでは直線に近い形で振動
より距離 50km以下の海域では,ほとんどが遠ざかる
している.これら潮流楕円の形は,海岸や海底地形など
ダで得られた M2潮流成分が
流れとなっていて,レ
はこの楕円上を距離 50km以下のほとんどの領域で時
計四りに回転している(東側の一部および 50km以上
では反時計回り).
30km以下の領域では,ほぼ円形
によって影響されていると思われる.
潮位の変化とよく対応していることが分かる.ビーム
最後に,上記で求めた t
=
O
,3
,6
, 9(時間)の各位相
No.O,1では,位相が近距離と遠距離で反転しているの
における M2潮流ベクトルと第 1
0図で求めた平均流成
に伴って,
分とを合成して海流図を描いた(第1
7図). t
=
O
,3 (
時
20km以下の領域でレーダに近づく流れが
0
表われている.第1
4図の視線方向流速分布を基に,第 1
間)では西側領域の距離 3
0∼50kmに 4
0cm/sほど
図を計算したのと同じ方法で, M2潮流の全ベクトルを
の西向き流があるが, t
=
6
,9(時間)では沿岸まで押し
0
∼20kmで東向きに流れ,
推定した(第1
5図)。距離 1
ょせられ距離 20kmに強い西向きの流れがみられる.
南に向きを変えながら 50kmあたりで西に流れる渦状
こうした構造は潮汐フロント ω に関係した構造のよう
の流れが推定された
にも見えるが,海水温,塩分等の比較をしてみないと結
50km以上では流れが非一様で
乱れているが,このあたりは M2潮流の振幅も小さく,
誤差が多く含まれているためであろう この半周期後
論は出せない.
これまでに示した海流のビームに直交する成分は,連
t=8
.2(時間)では,潮流の位相が反転するので,第1
5
図のベクトルの向きを全く反転させた M2潮流分布が
得られる.第1
5図では M2潮流は直線的な往復流では
続の式や局所的な流れの一様性などを用いて求めた推定
なく,レーダの西側ビーム距離 3
0∼40kmを中心とし
では二台のレーダを使って潮流を求めているので,信頼
た渦状に反転する流れとして表われた. M2潮流の全ベ
性もかなり高い結果が得られている.今回の結果をより
クトル推定はその精度に疑問を残すが,ここでは M2潮
信頼性の高いものとするためには,他の潮流観測穏との
値なので信頼性に欠ける面が多く,解析にも限界があっ
た 諸外国の短波海洋レーダを用いた潮流の観測( 5(
ー
)8
)
Mz
t=2.0
70k
第1
4図 t
=
2 (時間)における叫潮流の視線方向流速
4
0
1
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9
9
1
。
Mi
t=2.0
↑10cm/s
アOk
第1
5図 第 1
4図から求めた t
=
2 (時間)での~潮流の会海流ベクトル図
。
Mz
第1
6図 短波海洋レーダで求めた M2潮流成分の潮流楕ド] 楕l
刊の中心からのベクトルは t
=
O(
時
間)での潮流ベクトルを示す
通信総合研究所季報
4
0
2
(a)
t20cm/s
t=O 0
(b)
t=3.0
70k
(c)
t=6.0
70k
第1
7図 M2潮流成分と全期間の平均流を合成して求めた海流ベクトル図.%潮流の位相はそれぞ
れ
( a)t=O (
時
間
)
, (b)t=3 (
時
間
)
, (c)t=6 (
時
間
)
, (d)t=9 (時間)に対応している
比較や 2台のレーダを用いた実験が必要である.また,
比較のため,一番浅い深さ 6mの海流を示した なお,
M2潮のフィッテイングをより精度よく行なうためにデー
表層海流言|で直接測っているのは船に対する相対速度で
タの時間間隔を短くした観測が今後望まれる
あり,海流はそれより船速を差しヨ|いて求めている.こ
7
. 長風丸の海流観測データとの比較
長崎海洋気象台の観測船「長風丸」(4
8
0トン)は年に
の船速の決定は GPS衛星などを則いた船位の時間変化
より求めているが,船位の決定精度がよくないと流速の
精度も落ちることになる.
数回,西南海域の基線観測のため沖縄近海を航行してい
0月7日と 8日の三.日間行なわ
長風丸との共同観測は 1
る.これまで数回,その観測日程の合間にレーダ観測海
れた.第 1
8図は 7日および 8日の 1
1時から 1
9時に長風丸
域の同時海洋観測をお願いしているが,今回も海洋レー
の表層海流計で得られた海流図である.長風丸は, レー
ダとの共同観測に協力してもらえることになった 長風
ダの観測海域内を,両日ともほぼ同じ時間スケジュール
丸はその船底に表層海流計(超音波ドップラー海流計)
で台形型に移動し,海流観測を行なった.図中に示され
を持ち,深さ 200m程度までの海流観測を行なうこと
た数字は観測時刻を示す.この台形の各頂点を図のよう
ができる.表層海流計の精度については第 2表に示す.
に ABCDと名付けることにする.
三つの深さのデータが得られているが, レーダ観測との
同じような海流図が得られていて, A D ラインでは北
第 2表表層海流計の精度
流
流
速 l士(船速の 2%+0.2ノット)
向|土 3
.
5
度
7日
, 8日ともほぼ
から北西, ABラインでは北西, BCラインでは北東,
CDラインでは東向きで流速 3
0∼4
0emfsの流れが観
測されている.ただし,この海流図は 9時聞かけて観測
されているので,海流の時間変化,特に潮流を含んでい
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9
1
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3
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’
(b)
(a)
D
40k
50k
50k
第1
8
図長風丸搭載の表層海流計で観測された深さ 6 mの海流ベクトル図. (
a
)
は1
9
8
9
年1
0
月 7日
,
(
b)
は1
8
8
8
年1
0月 8日の観測結果.図中,数字は観測時刻(JST)を示す
ることに注意しなければならない.
比較してみる.
クトルの方向はほぼ長風丸の観測した海流の方向と合っ
ダで測定した海流と
=
3で第18図と逆向きに
ている. BCラインに関しては t
1回のビーム掃引から得られる海流全ベ
なっているが,これは t
=
Oから t
=
3の聞の潮流の変化
長風丸で測定した海流を海洋レ
クトル図との比較では,潮流による時間変化や局所的な
によるものである.流れの大きさをみると, レーダ観測
流れの影響を受けるので,あまりよい結果が得られなかっ
の方が全体的に小さいようである.表層海流計の流速の
た.そこで,第 1
7図で求めた M2潮流成分と平均流と
推定誤差を第 2表に従って見積ってみると,約±20emfs
を合成した海流図で比較してみた レーダから距離 50km
となる.また, レーダで求めた全海流ベクトルもビーム
の範囲内では M2潮流による流れが支配的であり,平
に直交方向の流速を推定することで得られているのでそ
均流と合わせればほぼこの領域の流れを表わせると思わ
れほどの精度は望めない.このような事情から,定量的
れ る 第1
9図は第1
7図の( a
)t
=
O(時間)と(b
)t
=
3(時間)
な比較は次の機会にゆずり,今回は定性的な比較にとど
の図を拡大したもので,図中破線で長風丸の航路も示し
める
である. t=
Oの M2潮の位相は 7日1
3時半, 8日1
4時
8
. ま と め
に
, t=3の M2潮の位相は 7 日1
6時半, 8日17時に対
応する.第 18図と比べると ADラインで北東から北
沖縄南部知念岬で行なった短波海洋レーダの移動観測
西
, ABラインでは北西, CDラインでは北東向きでベ
(a)
第1
9
図 第1
7図
の
(a
)
,(
b)の拡大図目長風丸の航路を点線で示しである
pM
50k
RM
t=3・0
n
v
↑50cm/s
s
,
mJ
50k
(
b
)
糸
il
t=O.O
実験より,下記のような解析結果を得た.
通信総合研究所季報
4
0
4
1
) 全ビーム方向において 65km以上の距離までエコー
を受けることができた.沖縄電波観測所構内からの観
謝
辞
測と比べると,エコー強度で lOdB以上,最大探知
今回の実験の場所を提供していただいた知念村民体育
距離で 15km以上の改善となった.これはレーダの
館の関係者の方々,またレーダと船の比較観測に御協力
設置場所が海に近づき,陸上伝搬の際の減衰が小さく
いただいた長風丸乗船員の方々および長崎海洋気象台関
なったためである.
係者の皆様に感謝致します。
2
) レーダから 50km以内の視線方向流速の時間変化
は,おもに潮流による半日周期変動で他の変動成分は
それほど大きくなかった.
3
) 沖縄南方におけるこの期間の平均流成分は,沿岸で
参考文献
(
1
) 野崎憲朗,“ 4
.短波海洋レーダ装置の構成”,通信
総研季, 3
7
,3
,p
p
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3
7
5・
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2
,1
9
9
1
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は1
0cm/s以下の弱い西向き, 20km以上沖では東
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側で北あるいは北東向き,西側で北西向きで流速
データ処理”,通信総研季, 3
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・3
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季
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8
.
4
0cm/s程度と推定された.
4
) Mz潮 流 成 分 は 知 念 岬 南 方 3
0
∼40km付 近 で
lOcm/s以上の大きな振幅を持ち,観測域の西側 3
0
∼
40kmを中心とした渦状の往復振動をしていると恩
われる.
5
) 長崎海洋気象台の観測船「長風丸」の表層海流計で
測定した海流とレーダ観測から得た Mz潮流と平均
流を合成した流れを比較したところ,流れの方向につ
いてはほぼ一致した.流速についてはレーダで測定し
た海流の方が船で測定した海流より全体的に小さかっ
た
.
今回の実験では,船で測定した海流とレーダで測定し
た海流を定量的に比較できるほどの精度が得られなかっ
たが,これからも比較実験を実施して,海洋レーダの測
定精度を明らかにする必要がある.また,一台のレーダ
のみの観測だったため,全海流ベクトルの解析は強引に
やらざる得なかったが,今後,二台の海洋レーダで同時
観測できれば,より信頼度の高い海流,潮流解析が可能
となり,海洋調査研究の有力な手段となることが期待さ
れる.
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